以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング装置(EPS)1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されている。そして、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。尚、本実施形態のステアリングシャフト3は、コラムシャフト3a、インターミディエイトシャフト3b、及びピニオンシャフト3cを連結してなる。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド6を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪7の舵角、即ち車両の進行方向が変更される。
また、EPS1は、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置としてのEPSアクチュエータ10と、該EPSアクチュエータ10の作動を制御する制御手段としてのECU11とを備えている。
本実施形態のEPSアクチュエータ10は、駆動源であるモータ12が減速機構13を介してコラムシャフト3aと駆動連結された所謂コラム型のEPSアクチュエータとして構成されている。尚、本実施形態では、モータ12には、三相(U,V,W)の駆動電力に基づき回転するブラシレスモータが採用されている。そして、EPSアクチュエータ10は、このモータ12の回転を減速してコラムシャフト3aに伝達することにより、そのモータトルクに基づくアシスト力を操舵系に付与する構成となっている。
一方、ECU11には、トルクセンサ14及び車速センサ15が接続されており、ECU11は、これらトルクセンサ14により検出される操舵トルクτ、及び車速センサ15により検出される車速Vに基づいて、操舵系に付与すべきアシスト力(目標アシスト力)を演算する。そして、その目標アシスト力に相当するモータトルクを発生させるべく、モータ12に対して駆動電力を供給することにより、同モータ12を駆動源とするEPSアクチュエータ10の作動、即ち操舵系に付与するアシスト力を制御する構成となっている(パワーアシスト制御)。
次に、本実施形態のEPSの電気的構成について説明する。
図2は、本実施形態のEPSの制御ブロック図である。同図に示すように、ECU11は、モータ制御信号を出力するマイコン17と、同マイコン17の出力するモータ制御信号に基づいてモータ12に三相の駆動電力を供給する駆動回路18とを備えている。
図3に示すように、本実施形態の駆動回路18は、スイッチング素子としての複数のFET18a〜18fを接続することにより形成される。具体的には、FET18a,18d、FET18b,18e、及びFET18c,18fの各組の直列回路が並列に接続されている。尚、本実施形態では、これらの各FET18a〜18fには、NチャネルMOSFETが用いられている。そして、その直列接続されたスイッチング素子対の各接続点、即ちFET18a,18d、FET18b,18e、FET18c,18fの各接続点19u,19v,19wは、それぞれ、動力線20u,20v,20wを介してモータ12の各相モータコイル12u,12v,12wに接続されている。
即ち、本実施形態の駆動回路18は、直列に接続された一対のスイッチング素子を基本単位(スイッチングアーム)として、各相に対応する3つのスイッチングアーム18u,18v,18wを並列に接続してなる周知のPWMインバータとして構成されている。そして、マイコン17の出力するモータ制御信号は、駆動回路18を構成する各FET18a〜18fのスイッチング状態を規定するゲートオン/オフ信号となっている。
つまり、モータ制御信号に応答して各FET18a〜18fがオン/オフすることにより、各相モータコイル12u,12v,12wに対する通電パターンが切り替わる。そして、これにより、車載電源(バッテリ)の直流電圧が三相(U,V,W)の駆動電力に変換されて、モータ12へと出力されるようになっている。
また、ECU11には、モータ12の各相電流値Iu,Iv,Iwを検出するための電流センサ21(21u,21v,21w)が設けられている。具体的には、これらの各電流センサ21u,21v,21wは、モータ12の各相に対応する上記各スイッチングアーム18u,18v,18wの低電位側(接地側、図2中下側)に、それぞれ、シャント抵抗を接続することにより形成されている。そして、本実施形態のマイコン17は、これら各電流センサ21u,21v,21wの出力信号(シャント抵抗の端子間電圧)に基づいて、各相モータコイル12u,12v,12wに流れる相電流値Iu,Iv,Iwを検出する構成となっている。
図1及び図2に示すように、本実施形態のECU11は、更に、ステアリングセンサ(操舵角センサ)22により検出されるステアリング2の回転角、即ち操舵角θsを取得するとともに、モータレゾルバ23の出力信号に基づいて、モータ12の回転角(電気角)θmを検出する。尚、本実施形態では、モータレゾルバ23には、そのセンサ信号として、モータの実回転角(電気角)に応じて振幅が変化する二相の正弦波状信号(正弦信号S_sin及び余弦信号S_cos)を出力する巻線型のレゾルバが採用されている。そして、本実施形態のECU11では、上記の操舵トルクτ及び車速Vに加え、これらモータ12の各相電流値Iu,Iv,Iw及び回転角θm、並びに操舵角θsに基づいて、モータ制御信号出力手段としてのマイコン17が、その駆動回路18に対するモータ制御信号の出力を実行する構成となっている。
詳述すると、本実施形態のマイコン17において、そのモータ制御部24には、直交座標軸上における電流制御の実行によりモータ12の各相に印加すべき相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*(Vu**,Vv**,Vw**)を演算する第1制御部25及び第2制御部26、並びに、その相電圧指令値をモータ制御信号に変換するPWM変換部27が設けられている。そして、本実施形態のマイコン17は、このモータ制御部24において生成されたモータ制御信号を駆動回路18に出力する構成となっている。
さらに詳述すると、図4に示すように、第1制御部25は、操舵トルクτ及び車速Vに基づいて目標アシスト力に対応した電流指令値を演算する電流指令値演算部31を備えている。また、第1制御部25は、d/q変換部32を備えており、同d/q変換部32は、各相電流値Iu,Iv,Iwを、モータレゾルバ23により検出される上記回転角θm、即ちモータ12の実回転角に従う回転座標系(d/q座標系)の直交座標上に写像することにより、d軸電流値Id及びq軸電流値Iqを演算する。そして、第1制御部25は、そのd/q座標系において電流フィードバック制御を実行することにより、モータ12の各相に印加すべき電圧を示す相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を演算する構成となっている。
即ち、上記電流指令値演算部31は、電流指令値としてq軸電流指令値Iq*を演算する。具体的には、同電流指令値演算部31は、入力される操舵トルクτが大きいほど、また車速Vが小さいほど、より大きなアシスト力を発生させるようなq軸電流指令値Iq*を演算する。尚、d軸電流指令値Id*は「0」に固定される(Id*=0)。そして、これらd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*は、d/q変換部32の出力するd軸電流値Id及びq軸電流値Iqとともに、その対応する減算器33d,33qに入力される。
次に、これら各減算器33d,33qが演算する各軸の電流偏差ΔId,ΔIqは、それぞれ、対応するF/B制御部(フィードバック制御部)34d,34qに入力される。そして、各F/B制御部34d,34qは、その入力される電流偏差ΔId,ΔIq及び所定のフィードバックゲイン(比例:P、積分:I)に基づくフィードバック制御演算を実行することにより、d/q座標系の電圧指令値であるd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を演算する。
具体的には、各F/B制御部34d,34qは、それぞれ、その入力される電流偏差ΔId,ΔIqに比例ゲインを乗ずることにより得られる比例成分、及び当該電流偏差ΔId,ΔIqの積分値に積分ゲインを乗ずることにより得られる積分成分を演算する。そして、これらの比例成分及び積分成分を加算することにより、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を生成する。
次に、これらのd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*は、d/q逆変換部35において、三相(U,V,W)の交流座標上に写像される。そして、第1制御部25は、このd/q逆変換部35が実行する逆変換により得られる相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を、上記PWM変換部27に出力する構成となっている。
一方、図5に示すように、第2制御部26は、モータ12が発生すべき目標トルクと実トルクとの偏差に基づいて、演算周期毎のモータ回転角変化量に相当する加算角αを演算する加算角演算部41と、その加算角αを演算周期毎に積算することにより制御上の仮想的なモータ回転角としての制御角θcを演算する制御角演算部42とを備えている。そして、第2制御部26は、その制御角θcに従う回転座標系(γ/δ座標系)において電流フィードバック制御を実行することにより、相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を演算する構成となっている。
詳述すると、本実施形態の加算角演算部41は、上記操舵角θs及び車速Vに基づいて、モータ12が発生すべきモータトルクに対応するパラメータ、即ち操舵トルクτの目標値に対応した目標トルクτ*を演算する目標トルク演算部43を備えている。また、この目標トルク演算部43において演算された目標トルクτ*は、モータ12の実トルクに対応するパラメータ、即ちトルクセンサ14により検出される操舵トルクτとともに減算器44に入力される。更に、この減算器44が演算するトルク偏差Δτに基づいて、F/B制御部45がフィードバック制御演算(比例積分制御:PI制御)を実行する。そして、加算角演算部41は、そのF/B制御部45の制御出力を加算角αとして制御角演算部42に出力する構成となっている。
一方、制御角演算部42は、前回の演算周期において演算した制御角θcの前回値を記憶領域(図示略)に保持するとともに、当該前回値に上記加算角αを加算することにより新たな制御角θcを演算する。そして、その当該新たな制御角θcにて、上記記憶領域に保持する前回値を更新することにより、その演算周期毎に、加算角αの積算による制御角θcの演算を実行する構成となっている。
次に、このようにして演算された制御上の仮想的なモータ回転角である制御角θcは、各相電流値Iu,Iv,Iwとともに、γ/δ変換部50に入力される。そして、γ/δ変換部50は、各相電流値Iu,Iv,Iwを、その制御角θcに従う回転座標系、即ちγ/δ座標系の直交座標上に写像することにより、当該γ/δ座標系の実電流値として、γ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδを演算する。
また、第2制御部26の電流指令値演算部51は、その電流指令値として、γ軸電流指令値Iγ*及びδ軸電流指令値Iδ*を演算する。そして、γ軸電流指令値Iγ*は上記γ軸電流値Iγとともに減算器53aに入力され、δ軸電流指令値Iδ*は、δ軸電流値Iδとともに減算器53bに入力される。
次に、これら減算器53a,53bにおいて演算される電流偏差ΔIγ,ΔIδは、それぞれ、その対応する各F/B制御部54a,54bに入力される。そして、各F/B制御部54a,54bは、その電流偏差ΔIγ,ΔIδ及び所定のフィードバックゲイン(比例:P、積分:I)に基づくフィードバック制御演算を実行することにより、γ/δ座標系の電圧指令値であるγ軸電圧指令値Vγ*及びδ軸電圧指令値Vδ*を演算する。
尚、これら各F/B制御部54a,54bの実行するフィードバック制御演算の態様については、上記第1制御部25側の各F/B制御部34d,34qと同様であるため、その詳細な説明は省略する。
次に、これらのγ軸電圧指令値Vγ*及びδ軸電圧指令値Vδ*は、γ/δ逆変換部55において、三相(U,V,W)の交流座標上に写像される。そして、第2制御部26は、このγ/δ逆変換部55が実行する逆変換により得られる相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を、上記PWM変換部27に出力する構成となっている。
ここで、図2に示すように、本実施形態のマイコン17は、そのモータレゾルバ23により検出される上記回転角θmの異常を検出する回転角異常検出部60を備えている。具体的には、本実施形態の回転角異常検出部60は、そのモータレゾルバ23が出力する正弦信号S_sin及び余弦信号S_cosの二乗和が適正範囲内にあるか否かを判定する。そして、その判定結果に基づいて、モータ12の実回転角として回転角θmの異常を検出する。尚、このような回転角異常検出の詳細については、例えば、特開2006−177750号公報等の記載を参照されたい。
また、本実施形態では、この回転角異常検出部60による異常検出の結果は、回転角異常検出信号S_rsfとして上記モータ制御部24に入力されるようになっている。そして、本実施形態のモータ制御部24は、回転角θmに異常のない場合には、上記第1制御部25が演算する相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に基づいてモータ制御信号を出力し、回転角θmに異常が生じた場合には、上記第2制御部26が演算する相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**に基づいて、そのモータ制御信号の出力を実行する。
即ち、上記のように、第2制御部26は、モータ12の実回転角であるモータレゾルバ23により検出される回転角θmを用いることなく、制御上の仮想的なモータ回転角である制御角θcを用いて、その相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を演算する。尚、この第2制御部26が実行するレゾルバレス制御の原理については、例えば、上記特許文献3等の記載の参照されたい。そして、本実施形態では、その第2制御部26が演算する相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**に基づいてモータ制御信号を生成することにより、回転角θmに異常が検出された後においても、安定的に、そのモータ制御を継続することが可能となっている。
(通電不良検出)
次に、本実施形態における通電不良検出の態様について説明する。
図2に示すように、本実施形態のマイコン17には、モータ12に駆動電力を供給する電力供給経路に生じた通電不良、即ちその何れかの相に電流が流れない状態を検出する通電不良検出部61が設けられている。尚、通電不良の態様としては、上記駆動回路18(を構成する各相のスイッチングアーム18u,18v,18w)と各相モータコイル12u,12v,12wとの間を接続する動力線20u,20v,20wの断線故障、或いは駆動回路18を構成する各FET18a〜18fのオープン故障(開固定故障)等が挙げられる。また、上記モータ制御部24には、この通電不良検出部61による判定結果が通電不良検出信号S_pdeとして入力されるようになっている。そして、本実施形態のモータ制御部24は、その通電不良検出信号S_pdeにより上記のような通電不良が検出された場合には、同モータ制御部24がモータ12を停止させるべき旨のモータ制御信号を出力することにより、速やかに、そのフェールセーフを図る構成となっている。
詳述すると、本実施形態のマイコン17は、交流座標上における各相(U,V,W)の目標電流に対応した相電流指令値Iu*,Iv*,Iw*を演算する三相電流指令値演算部62を備えている。
本実施形態では、この三相電流指令値演算部62には、上記第1制御部25が演算するd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*、並びにモータレゾルバ23により検出される回転角θmが入力される。また、三相電流指令値演算部62には、上記回転角異常検出部60の出力する回転角異常検出信号S_rsfが入力される。そして、三相電流指令値演算部62は、その入力されるモータ12の実回転角としての回転角θmに異常のない場合には、当該回転角θmに基づいて、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を三相の交流座標上に写像することにより、各相電流指令値Iu*,Iv*,Iw*を演算する。
更に、三相電流指令値演算部62には、上記第2制御部26が演算するγ軸電流指令値Iγ*及びδ軸電流指令値Iδ*、並びにその制御上の仮想的なモータ回転角である制御角θcが入力される。そして、三相電流指令値演算部62は、上記回転角θmが異常である場合には、その入力される制御角θcに基づいて、γ軸電流指令値Iγ*及びδ軸電流指令値Iδ*を三相の交流座標上に写像することにより、相電流指令値Iu*,Iv*,Iw*を演算する。
本実施形態の通電不良検出部61には、上記電流センサ21(21u,21v,21w)により検出される各相電流値Iu,Iv,Iwとともに、この三相電流指令値演算部62の演算する各相電流指令値Iu*,Iv*,Iw*が入力されるようになっている。そして、異常検出手段としての通電不良検出部61は、これら各相電流値Iu,Iv,Iw、及び上記各相電流指令値Iu*,Iv*,Iw*の相互関係に基づいて、各相毎に、その通電不良の発生を検出する。
具体的には、通電不良検出部61は、「U,V,W」の各相のうちの一相を特定相として、その特定相に異常があるか否かを判定する。そして、当該相に異常のない場合には、その判定対象とする特定相を遷移することにより、各相毎に、順次、その通電不良の発生を検出する構成となっている。
即ち、図6のフローチャートに示すように、通電不良検出部61は、先ず、U相を特定相として当該U相に異常があるか否かを判定し(ステップ101)、その異常が確定した場合(ステップ101:YES)には、当該U相に通電不良が発生したものと判定する(ステップ102)。一方、U相に異常がない場合(ステップ101:NO)、次にV相を特定相として当該V相に異常があるか否かを判定し(ステップ103)、その異常が確定した場合(ステップ103:YES)には、当該V相に通電不良が発生したものと判定する(ステップ104)。更に、V相に異常がない場合(ステップ103:NO)、次にW相を特定相として当該W相に異常があるか否かを判定し(ステップ105)、その異常が確定した場合(ステップ105:YES)には、当該W相に通電不良が発生したものと判定する(ステップ106)。そして、上記ステップ105において、W相に異常がないと判定した場合(ステップ105:NO)には、各相に異常なしと判定する(ステップ107)。
そして、本実施形態の通電不良検出部61は、このステップ101〜ステップ107の処理を所定の演算周期で実行することにより、各相毎に、順次、その通電不良の発生を検出する構成になっている。
さらに詳述すると、本実施形態の通電不良検出部61は、上記特定相(X相:X=U,V,W)についての異常判定(図6参照、ステップ101,103,105)において、先ず、特定相の相電流値Ixが非通電状態に対応する値(|Ix|<I1)であるか否かを判定する(第1条件)。また、通電不良検出部61は、その特定相の相電流指令値Ix*に基づいて、当該X相が通電状態にあるべき相(|Ix*|>I2)であるか否かを判定する(第2条件)。そして、通電不良検出部61は、他相(Y相、特定相以外の残る二相のうちの一相)の相電流値Iyが通電状態に対応する値(|Iy|>I3)であるか否かを判定する(第3条件)。
ここで、上記各判定に用いる閾値I1,I2,I3は、検出誤差を考慮した上で「0」近傍の値に設定される。尚、本実施形態では、上記第3条件の判定は、U相が特定相である場合にはV相(X=U,Y=V)、V相が特定相である場合にはW相(X=V,Y=W)、W相が特定相である場合にはU相(X=W,Y=U)を、それぞれ「他相」として行われる。そして、本実施形態の通電不良検出部61は、上記第1〜第3条件の全てを満たす場合に、その特定相とするX相に通電不良の発生を示す異常があると判定する。
即ち、図7に示すように、通電不良の発生により三相のうちの一相(同図に示す例ではU相)が非通電状態となった場合、キルヒホッフの法則(Iu+Iv+Iw=0)により、残る二相(V,W相)については、互いの位相が180°(電気角)ずれた状態で、その通電が継続される。これに対し、逆起電圧の影響を要因とした高速回転時における各相電流値Iu,Iv,Iwの低下は、全ての相について検出される現象であり、正常であれば、特定の相電流波形のみが小さくなるようなことはない。
この点に着目し、本実施形態では、通電状態にあるべき特定相(X=U,V,W、|Ix*|>I2)の相電流値が非通電状態を示す値(|Ix|<I1)であり、且つ他相の相電流値が通電状態を示す値(|Iy|>I3)である場合には、その特定相に通電不良の発生を示す異常があると判定する。そして、これにより、モータ12の実回転角(回転角θm)が検出不能となり回転角速度条件判定ができないような状況においても、精度よく、その通電不良検出を行うことが可能となっている。
次に、これら第1〜第3条件に基づく通電不良検出の処理手順について説明する。
図8のフローチャートに示すように、通電不良検出部61は、先ず、上記第1〜第3条件の全てを満たすか否かを判定する(ステップ201〜ステップ203)。
具体的には、特定相であるX相(図6参照、X=U,V,W)の相電流値Ix(の絶対値)が閾値I1よりも小さいか否かを判定し(ステップ201)、その閾値I1よりも小さいと判定した場合(|Ix|<I1、ステップ201:YES)には、続いて、当該相の相電流指令値Ix*(の絶対値)が閾値I2を超えるか否かを判定する(ステップ202)。次に、このステップ202において、相電流指令値Ix*が閾値I2を超えると判定した場合(|Ix*|>I2、ステップ202:YES)には、続いて、他相の相電流値Iy(の絶対値)が閾値I3を超えるか否かを判定する(ステップ203)。そして、このステップ203において、他相の相電流値Iy(の絶対値)が閾値I3を超えると判定した場合(|Iy|>I3、ステップ203:YES)、つまり上記第1〜第3条件の全てを満たす場合には、その特定相であるX相に通電不良の発生を示す異常があると判定する(ステップ204)。
また、通電不良検出部61は、上記ステップ204において、X相に通電不良の発生を示す異常があると判定すると、次に、既にX相が異常状態にあったことを示す異常フラグがセットされているか否かを判定する(ステップ205)。そして、異常フラグがセットされていない場合(ステップ205:NO)には、当該異常フラグをセットする(ステップ206)。尚、異常フラグが既にセットされている場合(ステップ205:YES)には、このステップ206の処理は実行されない。
次に、通電不良検出部61は、継続時間計測用のカウンタをインクリメントし(n=n+1、ステップ207)、続いて、そのカウンタ値nが所定の閾値n0を超えるか否かを判定する(ステップ208)。そして、カウンタ値nが閾値n0を超える場合(n>n0、ステップ208:YES)、即ち通電不良を示す異常状態が所定時間(n0)を超えて継続した場合には、当該X相の異常を確定する(ステップ209)。
尚、上記ステップステップ208において、カウンタ値nが閾値n0以下である場合(n≦n0、ステップ208:NO)、通電不良検出部61は、このステップ209の処理を実行しない。
一方、上記ステップ201〜203において、これら各ステップに示される第1〜第3条件の何れかを満たさない場合(ステップ201:NO、ステップ202:NO、又はステップ203:NO)、通電不良検出部61は、特定相であるX相に異常はないと判定する(ステップ210)。そして、異常フラグがセットされているか否かを判定し(ステップ211)、異常フラグがセットされている場合(ステップ211:YES)には、当該異常フラグをリセットし(ステップ212)、継続時間計測用のカウンタをクリアする(n=0、ステップ213)。尚、上記ステップ211において、異常フラグがセットされていない場合(ステップ211:NO)には、これらステップ212及びステップ213の処理は実行されない。
即ち、本実施形態の通電不良検出部61は、所定の演算周期毎に、上記ステップ201〜ステップ213の処理を実行することにより、特定相が通電不良の発生を示す異常状態にあると判定した場合には、更に、当該異常状態が継続的なものであるか否かを監視する。そして、その異常状態が予め設定された所定時間(n0)を超えて継続した場合に、当該特定相の異常を確定、つまり通電不良が生じたものと判定することより、その通電不良検出の更なる高精度化を図る構成となっている。
また、図2に示すように、本実施形態のモータ制御部24は、通電不良検出部61に対し、駆動回路18を構成する各FET18a〜18fのうち(図3参照)、その接地側(下段側)のFET18d,18e,18fをオフ作動させるべきモータ制御信号が出力されていることを示す下段オフ信号S_offを出力する。そして、通電不良検出部61は、その特定相に対応する接地側のFET(下段FET)をオフ作動させるモータ制御信号が出力されているにもかかわらず、当該特定相の相電流値Ixが通電状態に対応する値(|Ix|>I4)である場合(第4条件)にも、その特定相に通電不良の発生を示す異常があると判定する。
即ち、図3に示すように、各相の電流センサ21u,21v,21wが、その対応する各スイッチングアーム18u,18v,18wの接地側に設けられた構成では、その駆動回路18を構成する接地側の下段FET(18d,18e,18f)がオフである場合、その下段FETにより遮断されることで、当該相の電流は検出されなくなる。ところが、その電源側に配置された上段FET(FET18a,18b,18c)にオープン故障が生じた場合には、下段FETがオフであっても、モータインダクタンスの影響によって、その寄生ダイオードDを介した電流が流れることになる。そして、本実施形態の通電不良検出部61は、上記第4条件の判定により、このような現象を監視することで、各相における通電不良、詳しくは、駆動回路18を構成する上段FETに生じたオープン故障を検出する構成となっている。
次に、上記第4条件に基づく通電不良検出の処理手順について説明する。
図9のフローチャートに示すように、通電不良検出部61は、先ず、その特定相(X相)に対応する接地側の下段FETがオフ作動するタイミングであるか否かを判定する(ステップ301)。そして、下段FETのオフ作動時である場合(ステップ301:YES)には、当該特定相の相電流値Ix(の絶対値)が閾値I4を超えるか否かを判定し(ステップ302)、その相電流値Ixが閾値I4を超えると判定した場合(ステップ302:YES)には、当該X相に通電不良の発生を示す異常があると判定する(ステップ303)。
尚、上記ステップ302における第4条件に関する閾値I4は、上記第1〜第3条件に関する各閾値I1,I2,I3と同様、検出誤差を考慮した上で、「0」近傍の値に設定される。そして、上記ステップ301において、接地側の下段FETがオフ作動するタイミングではないと判定した場合(ステップ301:NO)、通電不良検出部61は、ステップ302以降の処理を実行しない。
また、通電不良検出部61は、上記ステップ303において、X相に通電不良の発生を示す異常があると判定すると、次に、既にX相が異常状態にあったことを示す異常フラグがセットされているか否かを判定する(ステップ304)。そして、異常フラグがセットされていない場合(ステップ304:NO)には、当該異常フラグをセットして(ステップ305)、継続時間計測用のカウンタをインクリメントする(N=N+1、ステップ306)。
尚、本実施形態では、この第4条件に基づく異常状態の継続を示す異常フラグ及び継続時間計測用のカウンタは、上記第1〜第3条件に基づく通電不良検出における異常状態の継続に関するもの(図8参照)とは独立に設けられている。そして、上記ステップ304において、異常フラグが既にセットされている場合(ステップ304:YES)、通電不良検出部61は、ステップ304の処理を実行することなく、ステップ306において継続時間計測用のカウンタをインクリメントする。
次に、通電不良検出部61は、その計測用カウンタのカウンタ値Nが所定の閾値N0を超えるか否かを判定する(ステップ307)。そして、カウンタ値Nが閾値N0を超える場合(N>N0、ステップ307:YES)、即ち通電不良を示す異常状態が所定時間(N0)を超えて継続した場合には、当該X相の異常を確定する(ステップ308)。
尚、上記ステップステップ307において、カウンタ値Nが閾値N0以下である場合(N≦N0、ステップ307:NO)、通電不良検出部61は、このステップ308の処理を実行しない。
一方、上記ステップ302において、上記第4条件を満たさないと判定した場合(ステップ302:NO)、通電不良検出部61は、特定相であるX相に異常はないと判定する(ステップ309)。そして、異常フラグがセットされているか否かを判定し(ステップ310)、異常フラグがセットされている場合(ステップ310:YES)には、当該異常フラグをリセットして(ステップ311)、継続時間計測用のカウンタをクリアする(N=0、ステップ312)。尚、上記ステップ310において、異常フラグがセットされていない場合(ステップ310:NO)には、これらステップ311及びステップ312の処理は実行されない。
即ち、本実施形態の通電不良検出部61は、所定の演算周期毎に、上記ステップ301〜ステップ312の処理を実行することにより、上記第4条件に基づいて特定相が通電不良の発生を示す異常状態にあると判定した場合にも、上記第1〜2条件に基づいて異常を判定した場合と同様、更に、当該異常状態が継続的なものであるか否かを監視する。そして、その異常状態が予め設定された所定時間(N0)を超えて継続した場合に、当該特定相の異常を確定、つまり通電不良が発生したものとすることより、その通電不良検出の更なる高精度化を図る構成となっている。
以上、本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
(1)通電不良検出部61は、通電状態にあるべき特定相(X=U,V,W、|Ix*|>I2)の相電流値が非通電状態を示す値(|Ix|<I1)であり、且つ他相の相電流値が通電状態を示す値(|Iy|>I3)である場合には、その特定相に通電不良の発生を示す異常があると判定する。
即ち、通電不良の発生により三相のうちの一相が非通電状態となった場合、キルヒホッフの法則(Iu+Iv+Iw=0)により、残る二相については、互いの位相が180°(電気角)ずれた状態で、その通電が継続される。これに対し、逆起電圧の影響を要因とした高速回転時における各相電流値Iu,Iv,Iwの低下は、全ての相について検出される現象であり、正常であれば、特定の相電流波形のみが小さくなるようなことはない。従って、上記構成によれば、モータ12の実回転角(回転角θm)が検出不能となり回転角速度条件判定ができないような状況においても、逆起電圧の影響によりモータコイルに電流を流し込めなくなるような高速回転時を排除して、精度よく、その通電不良検出を行うことができる。
(2)駆動回路18は、直列に接続された一対のスイッチング素子を基本単位(スイッチングアーム)として、各相に対応する3つのスイッチングアーム18u,18v,18wを並列に接続することにより形成される。また、当該駆動回路18を構成するスイッチング素子(FET18a〜18f)には、NチャネルMOSFETが用いられる。更に、各相電流値Iu,Iv,Iwは、駆動回路18を構成する各スイッチングアーム18u,18v,18wの接地側において直列に接続された電流センサ21u,21v,21wにより検出される。そして、通電不良検出部61は、特定相(X相)に対応する接地側のFET(下段FET)をオフ作動させるモータ制御信号が出力されているにもかかわらず、当該特定相の相電流値Ixが通電状態に対応する値(|Ix|>I4)である場合にも、その特定相に通電不良の発生を示す異常があると判定する。
即ち、各相の電流センサ21u,21v,21wが、その対応する各スイッチングアーム18u,18v,18wの接地側に設けられた構成では、その駆動回路18を構成する接地側の下段FET(18d,18e,18f)がオフである場合、その下段FETにより遮断されることで、当該相の電流は検出されなくなる。ところが、その電源側に配置された上段FET(FET18a,18b,18c)にオープン故障が生じた場合には、下段FETがオフであっても、モータインダクタンスの影響によって、その寄生ダイオードDを介した電流が流れることになる。従って、上記構成によれば、モータ12の実回転角(回転角θm)を用いることなく、より精度よく、その通電不良検出を行うことができる。
(3)第2制御部26は、モータ12が発生すべき目標トルクと実トルクとの偏差に基づき演算周期毎のモータ回転角変化量に相当する加算角αを演算する。更に、第2制御部26は、その加算角αを演算周期毎に積算することにより制御上の仮想的なモータ回転角としての制御角θcを演算するとともに、同制御角θcに従う回転座標系(γ/δ座標系)における電流フィードバック制御の実行により相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を演算する。そして、モータ制御部24は、モータ12の実回転角である回転角θmに異常が生じた場合には、この第2制御部26が演算する相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**に基づいて、そのモータ制御信号の出力を実行する。
即ち、三相の何れかに通電不良が生じた状態で正常時と同様の通電を継続することにより大きなトルク変動が生ずる。そして、目標トルクと実トルクとの偏差を基礎とする仮想的なモータ回転角に基づくレゾルバレス制御では、そのトルク偏差の変動が更なるトルク変動の発生要因となってしまう。しかしながら、このような構成についても、上記(1)(2)の通電不良検出を適用することにより、いち早く、その異常を検出して速やかにモータ駆動を停止することができる。その結果、上記のようなトルク変動を伴う通電が継続される事態を回避して、その操舵フィーリングの低下を最小限に抑えることができる。
(4)通電不良検出部61は、特定相が通電不良の発生を示す異常状態にあると判定した場合には、更に、当該異常状態が継続的なものであるか否かを監視する。そして、その異常状態が予め設定された所定時間(n0,N0)を超えて継続した場合に、当該特定相の異常を確定、つまり通電不良が発生したものとする。
上記構成によれば、誤検出を低減して、その通電不良検出の更なる高精度化を図ることができる。
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、本発明をEPSアクチュエータ10の駆動源であるモータ12の作動を制御するモータ制御装置としてのECU11に具体化した。しかし、これに限らず、EPS以外の用途に適用してもよい。
・また、EPSに適用する場合であっても、上記各実施形態のような所謂コラム型に限らず、例えば所謂ピニオン型やラックアシスト型等のEPSに適用してもよい。
・上記実施形態では、特定相の相電流指令値Ix*に基づいて、当該特定相が通電状態にあるべき相(|Ix*|>I2)であるか否かを判定することとした。しかし、これに限らず、通電状態にあるべき相であるか否かの判定については、その他の状態量に基づいて行う構成としてもよい。例えば、相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*(Vu**,Vv**,Vw**)や当該相電圧指令値を規定する内部指令値としてのDuty等を用いるとよい。このような構成としても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
・上記実施形態では、回転角θmに異常のない場合には、上記第1制御部25が演算する相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に基づいてモータ制御信号を出力し、回転角θmに異常が生じた場合には、上記第2制御部26が演算する相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**に基づいて、そのモータ制御信号の出力を実行することとした。しかし、これに限らず、当初から、モータの実回転角を検出することなくレゾルバレス制御を実行するものに適用してもよい。
・また、レゾルバレス制御の態様についてもまた、必ずしも上記実施形態のような目標トルクと実トルクとの偏差を基礎とする仮想的なモータ回転角に基づくものに限るものではなく、その他の制御手法を採用するものであってもよい。
・更に、上記第1〜第3条件に加え、特定相以外の二相の和が略「0」であることをも充足することを要件としてもよい。これにより、その通電不良検出の精度を向上させることができる。
・上記実施形態では、特定相が通電不良の発生を示す異常状態にあると判定した後、更に、当該異常状態が継続的なものであるか否かを監視する。そして、その異常状態が予め設定された所定時間(n0,N0)を超えて継続した場合に、当該特定相の異常を確定、つまり通電不良が発生したものとすることした。しかし、これに限らず、最初に異常があると判定した時点において、その通電不良の発生を検出する構成としてもよい。
次に、以上の実施形態から把握することのできる技術的思想を効果とともに記載する。
(イ)請求項3に記載のモータ制御装置において、前記モータの実回転角を検出する実回転角検出手段と、検出される実回転角の異常を検出する回転角異常検出手段とを備え、前記モータ制御信号出力手段は、前記実回転角が正常である場合には、該実回転角に従う回転座標系において前記電流フィードバック制御を実行し、前記実回転角が正常である場合には、前記制御上のモータ回転角に従う回転座標系において、前記電流フィードバック制御を実行すること、を特徴とするモータ制御装置。これにより、実回転角を検出することができない状態での継続制御の実行時においても、精度よく、その通電不良検出を実行することができる。
(ロ)請求項1〜請求項3、及び上記(イ)の何れか一項に記載のモータ制御装置において、前記異常検出手段は、前記通電不良の発生を示す異常状態が継続する場合に、その異常を確定すること、を特徴とするモータ制御装置。このような構成とすることで、より精度よく、その通電不良検出を実行することができるようになる。