JP5656438B2 - 新規ベンゾ[b]クリセン化合物及びこれを有する有機発光素子 - Google Patents

新規ベンゾ[b]クリセン化合物及びこれを有する有機発光素子 Download PDF

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Description

本発明は、新規ベンゾ[b]クリセン化合物及びこれを有する有機発光素子に関する。
有機発光素子は低印加電圧で高輝度、発光波長の多様性、高速応答性、発光デバイスの薄型・軽量化が期待され広く研究されている。
現状では更なる改善の余地があり、有機発光素子が有する有機化合物、特に多環芳香族炭化水素(PAH)においては新規化合物の創出が行われている。
多環芳香族炭化水素の一つとしてベンゾ[b]クリセンがある。特許文献1では、分子会合によるエキサイマー発光を利用した有機発光素子において、その会合化合物の一例として無置換のベンゾ[b]クリセンである2,3−Benzochryseneが化合物444として記載されている。ベンゾ[b]クリセンの構造式を以下に示す。
また非特許文献1には、5位のみにアリール置換基を有するベンゾ[b]クリセン化合物、即ち5−(2−Naphthyl)benzo[b]chryseneの合成方法と物性値が記載されている。5位のみにアリール置換基を有するベンゾ[b]クリセン化合物の構造式を以下に示す。
米国特許第7183010号
J.Org.Chem.1980,45,1424.(p.1427右下)
本発明の目的は、発光輝度が十分に満足できる新規な化合物を提供することを目的とし、より具体的には新規なベンゾ[b]クリセン化合物を提供することである。また、本発明の他の目的は、発光効率が高く駆動電圧の低い有機発光素子を提供することである。
本発明のベンゾ[b]クリセン化合物は、下記一般式[1]で示されることを特徴とする。
〔式[1]において、Arは置換あるいは無置換の炭化水素芳香族基を表す。R乃至Rは水素原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換の炭化水素芳香族基からなる群よりそれぞれ独立に選ばれる。〕
本発明によれば、新規ベンゾ[b]クリセン化合物を提供することができる。そしてそれを有する発光効率が高く駆動電圧の低い有機発光素子を提供することができる。
有機発光素子と有機発光素子と接続しているスイッチング素子とを示す断面模式図である。
(本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物の主骨格と置換基について)
本発明のベンゾ[b]クリセン化合物は、下記一般式[1]で示される。

式[1]において、Arは置換あるいは無置換の炭化水素芳香族基を表す。
Arで表される炭化水素芳香族基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、フルオレニル基、アントラセニル基、クリセニル基、ピレニル基、ペリレニル基、インデニル基、アセナフチレニル基、アセナフテニル基、ビフェニレニル基、フルオランテニル基、ベンゾフルオランテニル基、トリフェニレニル基、ナフタセニル基である。
上記の炭化水素芳香族基がさらに有してもよい置換基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、tert−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、tert−ブチルフェニル基、キシリル基、メシチル基、ナフチル基、フェナントリル基、フルオレニル基、9,9−ジメチルフルオレニル基、9,9−ジエチルフルオレニル基、9,9−ジ−(n−ヘキシル)フルオレニル基等の炭化水素芳香族基、チエニル基、ベンゾチオフェニル基、ジベンゾチオフェニル基、ピロリル基、ピリジル基、トリアジル基、フェナントロリニル基等の複素芳香族基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジナフチルアミノ基等の置換アミノ基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基、ナフトキシ基等のアリールオキシ基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基である。
式[1]において、R乃至Rは水素原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換の炭化水素芳香族基からなる群よりそれぞれ独立に選ばれる。
乃至Rで表されるアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基である。
乃至Rで表される炭化水素芳香族基の具体例としては、式[1]中のArで表される上述の炭化水素芳香族基の具体例と同様である。
上記のアルキル基及び炭化水素芳香族基がさらに有してもよい置換基の具体例は、式[1]中のArで表される炭化水素芳香族基がさらに有してもよい上述の置換基と同様である。
また式[1]のベンゾ[b]クリセン化合物において、ベンゾ[b]クリセン化合物が有する水素原子の全部又は一部が重水素で置き換わっていてもよい。
式[1]のベンゾ[b]クリセン化合物は、好ましくは式[2]で示される化合物である。

なお式[2]において置換基Arは、式[1]中のArと同一の置換基である。
さらに式[2]で示されるベンゾ[b]クリセン化合物は、好ましくは式[3]で示される化合物である。
式[3]において、X乃至Xは水素原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換の炭化水素芳香族基からなる群よりそれぞれ独立に選ばれる。
乃至Xで表されるアルキル基の具体例は、式[1]中のR乃至Rで表されるアルキル基の具体例と同様である。このアルキル基がさらに有してもよい置換基は、式[1]中のR乃至Rがアルキル基である場合において、アルキル基がさらに有してもよい上記の置換基と同様である。
乃至Xで表される炭化水素芳香族基の具体例は、式[1]中のArで表される炭化水素芳香族基の具体例と同様である。この炭化水素芳香族基がさらに有してもよい置換基は、式[1]中のArで表される炭化水素芳香族基がさらに有してもよい上記の置換基と同様である。
本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物は、ベンゾ[b]クリセン環を主骨格として有する化合物である。ここで主骨格とは、化合物の分子構造の中心に位置し、化合物の物性を最も特徴付ける骨格を指す。すなわち主骨格とは、本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物の場合、式[1]におけるArおよびR乃至Rがどのような置換基かを問わない骨格のことである。
(本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物の性質について)
本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物は、S1エネルギーが低く、HOMO準位が浅い(イオン化ポテンシャルが小さい)化合物である。
ベンゾ[b]クリセン環とアントラセン環について、それぞれの置換位置番号を下記に示す。
ベンゾ[b]クリセン環にはその骨格中に、クリセン環とアントラセン環が部分構造として含まれている。ベンゾ[b]クリセン環を主骨格として有するベンゾ[b]クリセン化合物は、クリセン環を主骨格として有するクリセン化合物、およびアントラセン環を主骨格として有するアントラセン化合物のどちらよりも、S1エネルギーが低くHOMO準位が浅い。これを各化合物の主骨格を比較することで説明する。
ベンゾ[b]クリセン、クリセン、およびアントラセンについて、それぞれのS1エネルギーとHOMO準位を分子軌道計算(B3LYP/6−31G)から求めた結果は以下の表1のようになる。
計算結果より、ベンゾ[b]クリセンはクリセンよりもS1エネルギーが低い。なぜならベンゾ[b]クリセン環はクリセン環にさらにベンゼン環が縮合しているので、π共役面がより広いからである。同様の理由で、ベンゾ[b]クリセン環はアントラセン環にさらにナフタレン環が縮合しているので、ベンゾ[b]クリセンはアントラセンよりもS1エネルギーが低い。
さらに、ベンゾ[b]クリセンのHOMO準位は、クリセンおよびアントラセンのHOMO準位よりも浅くなることが計算結果からわかる。ここでHOMO準位が浅いとは、HOMO準位の絶対値が小さく真空準位とHOMO準位の差が小さいことであり、化合物のイオン化ポテンシャルが小さいことを意味する。これは、ベンゾ[b]クリセン環にはそもそもHOMO準位の浅いアントラセン環が含まれているからである。そしてアントラセンよりもさらにHOMO準位が浅くなるのは、ベンゾ[b]クリセン環がアントラセン環の2位方向にナフタレン環が縮合した特異的な構造をもつことに由来すると考えられる。
上述のベンゾ[b]クリセンの特徴は、ベンゾ[b]クリセン環を主骨格として有するベンゾ[b]クリセン化合物に反映されるので、ベンゾ[b]クリセン化合物はHOMO準位が浅くS1エネルギーが低い(エネルギーギャップが小さい)化合物となる。この特徴に本発明者は注目し、本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物に至った。
ただし、ベンゾ[b]クリセン環自体は非常に平面性が高く、無置換のベンゾ[b]クリセンは分子間スタックが非常に顕著である。そのため、例えば有機発光素子での使用を考えた場合、特許文献1のようにその分子間スタックを積極的に利用する目的以外では、無置換のままベンゾ[b]クリセン化合物を用いることは後述のように不適と考えられる。
従って本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物は、ベンゾ[b]クリセンの7位および12位に炭化水素芳香族基が設けられている。これらの置換位置は、置換した炭化水素芳香環とベンゾ[b]クリセン環との二面角が特に大きくなり、ほぼ直交する位置である。そのため7位および12位に設けられた炭化水素芳香族基は、分子間でのベンゾ[b]クリセン環同士の重なり合いに対して立体障害基となり、ベンゾ[b]クリセン化合物の分子間スタックの軽減に大きな効果を有している。
さらに、ベンゾ[b]クリセンの7位および12位に設けられた炭化水素芳香族基によって、本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物は耐酸化性が強く、化学的安定性が高い。
ベンゾ[b]クリセンの7位および12位はアントラセン部分骨格の9位および10位に相当する位置なので、7位および12位の炭素原子は酸化に対して非常に弱い。そこで化学的安定性を得るためには7位および12位を置換基でキャップする必要がある。このときの置換基は、アルキル基や複素芳香族基ではなく炭化水素芳香族基であることが好ましい。なぜなら、ベンゾ[b]クリセン化合物のHOMOおよびLUMOの電荷分布は主骨格のベンゾ[b]クリセン環上に存在するので、そのような部位には炭化水素芳香族基のようにsp2炭素が直接結合している方がエネルギー的に有利だからである。
また、本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物はホールおよび電子の両キャリアの伝導性が大きいと考えられる。これは、ベンゾ[b]クリセン主骨格がアントラセンやクリセンよりも横に長いπ共役を持つので、良好なキャリア伝導性を期待できるからである。
本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物は、ベンゾ[b]クリセンの1位、2位、9位、および10位にそれぞれ置換基を有していてもよい。これらの位置に炭化水素芳香族基が置換されていると、ベンゾ[b]クリセンのπ共役がさらに伸びるので、そのようなベンゾ[b]クリセン化合物のS1エネルギーはより小さくなる。また、これらの位置にアルキル基が置換されると、アルキル基の電子供与性によって、さらにベンゾ[b]クリセン化合物のHOMO準位が浅くなる。すなわち、ベンゾ[b]クリセンの1位、2位、9位、および10位の置換基を適宜選択することによって、ベンゾ[b]クリセン化合物のS1エネルギーとHOMO準位の微調整を行うことができる。
(本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物の合成方法について)
次に、本実施形態に係るベンゾ[b]クリセン化合物の合成方法について説明する。
本実施形態に係るベンゾ[b]クリセン化合物は、下記式[4]に示される合成ルートで合成することができる。
〔式中、Arは炭化水素芳香族基を表す。〕
すなわち、2−クロロアントラキノンと所望のアリール基に応じたアリールリチウムを用いて2−クロロ−9,10−ジアリールアントラセンを合成し、ベンズアルデヒドを導入後、Wittig反応と酸環化を行うことで7,12−ジアリールベンゾ[b]クリセンを合成することができる。ベンゾ[b]クリセンの1位、2位、9位、および10位に置換基を導入する場合は、あらかじめ置換基、あるいは置換基導入用の活性基が導入されたクロロアントラキノンおよびホルミルフェニルボロン酸を用いればよい。
(本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物の例示)
以下、本実施形態に係るベンゾ[b]クリセン化合物の具体的な構造式を例示する。
上記化合物A01乃至A13(以下、A群と記す)は一般式[3]で示される、ベンゾ[b]クリセンの7位および12位に置換あるいは無置換のフェニル基が置換された化合物である。従ってA群の化合物は、置換フェニル基によるπ共役の広がりが小さいので、本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物の中ではS1エネルギーが比較的大きい化合物である。
後述する実施例1等において化合物A01が開示される。A01と特性が共通しているのは、A群のうちA03、A04、A05、およびA07である。これらを一般化すると以下の一般式[5]で表すことができる。
〔前記式[5]において、Y乃至Yはそれぞれ独立に水素原子、または置換あるいは無置換のアルキル基である。〕
上記一般式[5]で示した化合物は、置換フェニル基のα位が無置換であるという点でA01と構造が共通している。そのためベンゾ[b]クリセン環と置換フェニル基との二面角の大きさがA01と同等なので、S1エネルギーの大きさもA01と同等であるという性質がある。
上記化合物B01乃至B12(以下、B群と記す)は一般式[2]で示される化合物のうち、Arがフェニル基以外の炭化水素芳香族縮環基である化合物の具体例である。従ってB群の化合物は、置換縮環基によるπ共役の広がりが大きいので、本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物の中ではS1エネルギーが比較的小さい化合物である。
後述する実施例2等において化合物B01が開示される。B01と特性が共通しているのは、B群のうちB02、B04、B07、およびB08である。これらを一般化すると以下の一般式[6]で表すことができる。
〔前記式[6]において、Zはナフチル基、9,9−ジメチルフルオレニル基、およびフェナントリル基の何れかを示す。〕
上記一般式[6]で示した化合物は、置換基がナフチル基と同程度のπ共役面を有しているという点でB01と構造が共通している。そのためベンゾ[b]クリセン環から置換基へのπ共役の広がりがB01と同等なので、S1エネルギーの大きさもB01と同等であるという性質がある。
上記化合物C01乃至C14(以下、C群と記す)は一般式[1]で示される化合物のうち、R乃至Rのうちの少なくとも一つが水素原子以外の置換基である具体例である。前述のように、A群およびB群で示されるベンゾ[b]クリセンの1位、2位、9位および10位の全てが水素原子である基本化合物に対して、それに対応するC群の化合物は基本化合物のS1エネルギーとHOMO準位の微調整されている。具体的には、基本化合物A01に比べてさらに一つ以上のフェニル置換基を有するC09乃至C12は、A01よりもS1エネルギーが小さい化合物である。また、基本化合物B01に比べてさらにアルキル置換基を有するC13およびC14は、B01よりもHOMO準位が浅い化合物である。
(本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物を有する有機発光素子について)
次に、本発明に係る有機発光素子について説明する。
本発明に係る有機発光素子は、一対の電極と、前記一対の電極間に配置された有機化合物層を有する。そしてこの有機化合物層が一般式[1]乃至[3]のいずれかで示されるベンゾ[b]クリセン化合物を有しており、有機発光素子が必須に有する有機化合物層である。それ以外に、一対の電極の間には本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物を有する有機化合物層とは別の層を一つまたは複数有していてもよい。なお該別の層は本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物を有していてもよい。一対の電極とはより具体的には陽極と陰極であり、一対の電極の間に電圧が印加されることで有機発光素子は発光する。
以下に本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物を有する有機発光素子の例を示す。
本発明に係る有機発光素子は、一対の電極である陽極と陰極との間に発光層を設けた構成の他に、陽極と発光層との間にホール輸送層やホール注入層を有してもよく、発光層と陰極との間に電子輸送層や電子注入層やホール・エキシトンブロッキング層等を有してもよい。
ただし、本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物を用いた有機発光素子の構成は、これらに限定されるものではない。例えば、電極と有機層界面に絶縁性層を設ける、接着層あるいは干渉層を設ける、電子輸送層もしくはホール輸送層がイオン化ポテンシャルの異なる二層から構成される、発光層が二層以上の積層構造から成るなど、多様な層構成をとることができる。
本発明に係る一般式[1]乃至[3]で示されるベンゾ[b]クリセン化合物は、上記の一対の電極間に配置される多層のうちのいずれかの層に少なくとも一種含有される。このとき、一つの層に含まれる本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物は、一種類であってもよく、二種類以上有してもよい。
本発明に係る有機発光素子においては、本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物を有する有機化合物層は発光層であることが好ましい。さらに本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物が発光層に用いられる場合、発光層のホスト材料として用いられることが好ましい。
また本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物は、発光層のゲスト材料として用いてもよい。
さらに本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物は、発光層以外の各層、即ちホール注入層、ホール輸送層、ホールブロッキング層、エキシトンブロッキング層、電子輸送層、電子注入層の何れに用いてもよい。
この発光層は本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物のみから構成されていてもよいし、あるいは本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物を一部有していてもよい。発光層が本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物を一部有してもよい場合、本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物が発光層の主成分であってもよく、あるいは副成分であってもよい。
ここで主成分とは、発光層を構成する全化合物の中で重量的に多い化合物であり、副成分とは少ない化合物のことをいう。主成分である材料は、上記のようにホスト材料と呼ぶこともできる。副成分である材料は、上記のようにゲスト(ドーパント)材料、発光アシスト材料、電荷注入材料と呼ぶことができる。ここでゲスト材料とは、発光層内で主たる発光を担う化合物である。これに対してホスト材料とは、発光層内でゲスト材料の周囲にマトリックスとして存在する化合物であって、主にキャリアの輸送、及びゲスト材料への励起エネルギー供与を担う化合物である。
ここで、ホスト材料に対するゲスト材料の濃度は、発光層の構成材料の全体量を基準として、0.01wt%以上50wt%以下であり、好ましくは、0.1wt%以上20wt%以下である。さらに好ましくは、濃度消光を防ぐために、ゲスト材料の濃度は0.1wt%以上10wt%以下であることが望ましい。またゲスト材料は、ホスト材料からなる層全体に均一に含まれてもよいし、濃度勾配を有して含まれてもよいし、特定の領域に部分的に含ませてゲスト材料を含まないホスト材料層の領域を設けてもよい。
有機発光素子の発光効率を高めるためには、ゲスト材料である発光中心材料そのものの発光量子収率を大きくすべきである一方で、ホスト−ホスト間、又はホスト−ゲスト間の励起エネルギー移動の効率を高くすることが重要である。
ホスト−ゲスト間の励起エネルギー移動を効率よく行うためには、ホスト材料のS1エネルギーがゲスト材料のS1エネルギーより大きい必要がある。ここでいうS1エネルギーは、化合物のHOMO準位とLUMO準位のエネルギーギャップと換言できる。
とはいうものの、大き過ぎるとゲスト材料への励起エネルギー移動は起こるものの、発光層に隣接するホール輸送層または電子輸送層からの発光層へのキャリア注入が阻害される可能性が高い。これはホール輸送層と発光層ホストとのHOMO準位差で生じるホール注入障壁、および電子輸送層と発光層ホストとのLUMO準位差で生じる電子注入障壁が大きくなり、両キャリアが注入され難くなるからである。従って、両キャリアの注入にはより高いバイアス電圧が必要になるため有機発光素子の高電圧化に繋がり、さらには発光層内での両キャリアのバランスが大きく崩れるので素子の発光効率の低下にも繋がる。
ホスト−ゲスト間の高効率な励起エネルギー移動と良キャリア注入性の両者を考慮するならば、ホスト材料のS1エネルギーの大きさとしては、ゲスト材料のS1エネルギー、即ち発光色に応じて好ましい範囲が存在すると本発明者は考える。例えば、最大発光波長が490nm乃至520nmの緑色発光するゲスト材料を用いる緑色蛍光発光素子においては、ホスト材料のS1エネルギーは2.8eV程度、具体的には2.6eV以上3.0eV以下であることが好ましいと本発明者は考える。またより好ましくは2.7eV以上2.9eV以下である。
本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物は、これら数値範囲のS1エネルギーを満たすので緑色発光層のホスト材料として好ましく用いることができる。
なお緑色蛍光発光素子のホスト材料として、アントラセン環を主骨格とするアントラセン化合物やクリセン環を主骨格とするクリセン化合物が知られている。しかし、アントラセン化合物とクリセン化合物のS1エネルギーは上記の緑色蛍光発光層のホスト材料として好ましい数値範囲よりも大きい。一方、本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物は、前述のように、アントラセン化合物およびクリセン化合物よりもS1エネルギーが小さいので、上記の好ましい数値範囲内のS1エネルギーを有する。
このときベンゾ[b]クリセン化合物の分子間スタックが強すぎると、エキサイマー形成によって膜状態でのS1エネルギーが小さくなり、上記の好ましい数値範囲よりも小さくなる可能性も考えられる。例えば無置換のベンゾ[b]クリセンは、強い分子間スタックによって膜状態でのS1エネルギーが小さいので、もはや緑色蛍光発光層のホスト材料として使用するのは困難である。しかし本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物は、前述のように、7位と12位の炭化水素芳香族置換基によって分子間スタックが抑制されているので、そのようなS1エネルギーの低下が起こることはない。
さらに、前述のように、本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物は7位と12位の炭化水素芳香族置換基によって耐酸化性が強く化学的安定性が高いので、有機発光素子に用いても素子駆動によって分解など経時的な材料劣化が起こりにくい。そのため本発明に係る有機発光素子は、長時間駆動しても輝度劣化が小さく長寿命である。
また、本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物は、前述のように、アントラセン化合物およびクリセン化合物よりもHOMO準位が浅い。そのため本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物を発光層ホストに用いると、ホール輸送層からのホール注入障壁をより小さくすることができる。このとき有機発光素子の駆動電圧を低くすることができ、発光効率の高い素子を得ることができる。
またさらに、本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物はキャリアの伝導性が大きい化合物である。そのため発光層ホストに用いた場合、ホールと電子の良好なキャリア輸送が可能であり、発光素子の高効率化が期待できる。
本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物は、赤色発光素子の発光層におけるホスト材料や、青色発光素子の発光層におけるゲスト材料として用いてもよい。
また本実施形態に係る有機発光素子の、より具体的には緑色発光素子のゲスト材料として用いられる化合物の具体例を以下に示す。
本発明に係る有機発光素子は、本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物以外にも、必要に応じて従来公知の低分子系及び高分子系のホール輸送性化合物、発光性化合物あるいは電子輸送性化合物等を一緒に使用することができる。
以下にこれらの化合物例を挙げる。
ホール注入輸送性材料としては、ホール移動度が高い材料が好ましい。例を挙げればトリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられる。
主に発光機能に関わる発光材料として、前述の緑色発光ゲスト材料、もしくはその誘導体以外に例を挙げれば、縮環化合物(例えばフルオレン誘導体、ナフタレン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、テトラセン誘導体、アントラセン誘導体、ルブレン等)、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、スチルベン誘導体、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、有機ベリリウム錯体、及びポリ(フェニレンビニレン)誘導体、ポリ(フルオレン)誘導体、ポリ(フェニレン)誘導体等の高分子誘導体が挙げられる。
電子注入輸送性材料としては、ホール注入輸送性材料のホール移動度とのバランス等を考慮して選択される。電子注入輸送性材料の例を挙げれば、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機アルミニウム錯体等が挙げられる。
陽極材料としては、仕事関数がなるべく大きなものがよい。例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン等の金属単体あるいはこれらを組み合わせた合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物が使用できる。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性ポリマーも使用できる。これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を併用して使用してもよい。また、陽極は一層で構成されていてもよく、複数の層で構成されていてもよい。
一方、陰極材料としては、仕事関数の小さなものがよい。例えば、リチウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム、チタニウム、マンガン、銀、鉛、クロム等の金属単体が挙げられる。あるいはこれら金属単体を組み合わせた合金も使用することができる。例えば、マグネシウム−銀、アルミニウム−リチウム、アルミニウム−マグネシウム等が使用できる。酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を併用して使用してもよい。また、陰極は一層で構成されていてもよく、複数の層で構成されていてもよい。
これら陽極と陰極のうち少なくともいずれか一方が透明あるいは半透明である。
本実施形態に係る有機発光素子で使用される基板としては、特に限定するものではないが、金属製基板、セラミックス製基板等の不透明性基板、ガラス、石英、プラスチックシート等の透明性基板が用いられる。また、基板にカラーフィルター膜、蛍光色変換フィルター膜、誘電体反射膜等を用いて発色光をコントロールすることも可能である。
なお、作製した素子に対して、酸素や水分等との接触を防止する目的で保護層あるいは封止層を設けることもできる。保護層としては、ダイヤモンド薄膜、金属酸化物、金属窒化物等の無機材料膜、フッ素樹脂、ポリエチレン、シリコン樹脂、ポリスチレン樹脂等の高分子膜、さらには、光硬化性樹脂等が挙げられる。また、ガラス、気体不透過性フィルム、金属等で被覆し、適当な封止樹脂により素子自体をパッケージングすることもできる。
また、素子の光取り出し方向に関しては、ボトムエミッション構成(基板側から光を取り出す構成)及び、トップエミッション(基板の反対側から光を取り出す構成)のいずれも可能である。
本発明に係る有機発光素子において、本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物が含まれる層及びその他の有機化合物からなる層は、以下に示す方法により形成される。一般には真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング、プラズマあるいは、適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により薄膜を形成する。ここで真空蒸着法や溶液塗布法等によって層を形成すると、結晶化等が起こりにくく経時安定性に優れる。また塗布法で成膜する場合は、適当なバインダー樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
上記バインダー樹脂としては、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらバインダー樹脂は、ホモポリマー又は共重合体として、一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を混合して使用してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
本発明に係る有機発光素子は、表示装置、電子写真方式のプリンターの潜像書き込み用光源、照明装置、液晶表示装置のバックライト、デジタルカメラ等の撮像装置等が挙げられる。
本発明に係る有機発光素子を使用した表示装置を図1を用いて説明する。この表示装置は、本発明に係る有機発光素子と、有機発光素子の発光をスイッチングするスイッチング素子とを有する。
はじめに符号の説明をする。3は表示装置、31は基板、32は防湿層、33はゲート電極である。また34はゲート絶縁膜、35は半導体膜、36はドレイン電極、37はソース電極、38はスイッチング素子であるTFT素子、39は絶縁膜である。また310はコンタクトホール(スルーホール)、311は陽極、312は有機層、313は陰極、314は第一の保護層、315は第二の保護層である。
図1は、有機発光素子とそれに接続するスイッチング素子であるTFTとを示した表示装置の断面模式図である。本図において表示装置は2つの有機発光素子を有している。それぞれの有機発光素子がスイッチング素子と接続している。
基板31はガラスである、基板の上には上部に作られる部材(TFT又は有機層)を保護するための防湿膜32設けられている。
防湿膜32を構成する材料として、例えば酸化ケイ素又は酸化ケイ素と窒化ケイ素との複合体を挙げることができる。次に、ゲート電極33は防湿膜32に設けられている。これはスパッタリングによりCr等の金属を製膜することで、所定の回路形状にパターニングして得られたものである。
それぞれのゲート電極33にはゲート絶縁膜34が設けられている。それぞれのゲート絶縁膜34は酸化シリコン等をプラズマCVD法又は触媒化学気相成長法(cat−CVD法)等により製膜し、パターニングして得られるものである。
半導体層35はそれぞれのゲート電極に対応して設けられている。半導体層35はゲート絶縁層ごとにそれを覆うように設けられている。
さらに、この半導体膜35にはドレイン電極36とソース電極37とが設けられている。TFT素子38はこれらゲート電極、ゲート絶縁層、半導体層、ソース電極、ドレイン電極とを有している、このTFT素子38の上部に絶縁膜39が設けられている。コンタクトホール(スルーホール)310は、金属からなる有機発光素子用の陽極311とソース電極37とが接続するようにこの絶縁膜39に設けられているコンタクトホール310には陽極311とソース電極37とを接続する導電部材が設けられている。
この陽極311の上に、多層あるいは単層の有機層312と、陰極313とが順次積層して設けられている。本図では有機発光素子の劣化を防ぐための第一の保護層314や第二の保護層315が設けられている。
尚本実施形態に係る表示装置はスイッチング素子に特に限定はなく、単結晶シリコン基板やMIM素子、a−Si型等でも容易に応用することができる。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
<実施例1>(例示化合物A01の合成)
(1)中間体ANCl−1の合成
窒素置換した100mL三口フラスコに脱水THFを34mL投入して冷却し、−78℃にてフェニルリチウムの1.08Mシクロヘキサン/ジエチルエーテル溶液を28.6mL(30.9mmol)加えてから、2−クロロアントラキノン3.00g(12.4mmol)を少量ずつ添加した。添加終了後、室温にて7時間攪拌し、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を停止した。続いて反応溶液から生成物をジクロロメタンで抽出した後、水で2回洗浄し、さらに硫酸ナトリウム上で乾燥させた後に濃縮して粗生成物を得た。続いてヘプタン/クロロホルム混合溶媒で粗生成物を洗浄し、中間体Diol−1を4.27g得た(収率86%)。
続いて、以下の原料、試薬、および溶媒を300mLナスフラスコに投入した。
中間体Diol−1:4.26g(10.7mmol)
ヨウ化カリウム:16.5g(99.4mmol)
NaHPO・HO:18.7g(176mmol)
酢酸:160mL
この反応溶液を攪拌しながら3時間加熱還流させた。反応終了後、室温まで冷却してから反応溶液に水を加え、析出物をろ取して粗生成物の黄白色粉を得た。続いてこの粗生成物をメタノール/エタノール混合溶媒で洗浄して、中間体ANCl−1を3.80g得た(収率97%)。
(2)中間体CHO−1の合成
以下に示す試薬、溶媒を50mLナスフラスコに投入した。
中間体ANCl−1:400mg(1.10mmol)
2−ホルミルフェニルボロン酸:197mg(1.32mmol)
酢酸パラジウム(II):25mg(0.11mmol)
ジシクロヘキシル(2’,6’−ジメトキシビフェニル−2−イル)ホスフィン:113mg(0.27mmol)
りん酸カリウム:700mg(3.29mmol)
トルエン:20mL
この反応溶液を、窒素下において100℃に加熱し、攪拌しながら15時間反応させた。反応終了後、反応溶液を水で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させた後に濃縮し粗生成物を得た。次にこの粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘプタン/クロロホルム=2/1)で精製し、中間体CHO−1を394mg得た(収率83%)。
(3)例示化合物A01の合成
窒素置換した50mLナスフラスコに、室温にて(メトキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド777mg(2.27mmol)と脱水ジエチルエーテル3.9mLを投入して攪拌し、続いてtert−ブトキシカリウムの1MTHF溶液を2.27mL(2.27mmol)加えて1時間攪拌した。続いて9.5mLのTHF溶媒に中間体CHO−1を394mg(0.91mmol)溶解させた溶液を反応液に加え、室温にてさらに4時間攪拌した後、水を加えて反応を停止した。続いて、分液操作にて水相を酢酸エチルで3回抽出後、有機相を水で洗浄した後、硫酸ナトリウム上で乾燥させた後に濃縮し粗生成物を得た。次にこの粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘプタン/トルエン=3/1)で精製し、中間体MeO−1を304mg得た(収率73%)。
続いて、窒素置換した10mLナスフラスコに、室温にて中間体MeO−1を304mg(0.66mmol)、脱水ジクロロメタン3.7mLを加えて攪拌し、メタンスルホン酸をパスツールピペットで1滴加え、室温にて3時間攪拌した後、メタノールを加えて反応を停止した。析出した黄色沈殿をろ取し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘプタン/トルエン=4/1)で精製した後、オクタン/トルエン混合溶媒で再結晶を行い、得られた黄色結晶を120℃で真空乾燥後、10−4Pa、280℃の条件下で昇華精製を行って、高純度の例示化合物A01を96mg得た(収率34%)。
得られた化合物の同定を行った結果を以下に示す。
[MALDI−TOF−MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)]
実測値:m/z=430.22 計算値:C3422=430.17
H−NMR(400MHz、CDCl)]
δ 8.65(d,1H),8.46(d,1H),7.94−7.68(m,5H),7.68−7.47(m,12H),7.47−7.36(m,3H).
また例示化合物A01について、以下の方法でS1エネルギーの測定を行った。例示化合物A01をガラス基板上に加熱蒸着し、膜厚20nmの蒸着薄膜を得た。この蒸着薄膜について、紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製V−560)を用いて吸光スペクトルを測定した。得られた吸光スペクトルの吸収端を求めると437nmであり、例示化合物A01のS1エネルギーは2.84eVであった。
さらに例示化合物A01について、以下の方法でイオン化ポテンシャルの測定を行った。
上述のS1エネルギーの測定に用いた蒸着薄膜を用いて、光電子分光装置AC−2(理研計器株式会社製)によりイオン化ポテンシャルを測定した。測定の結果、例示化合物A01のイオン化ポテンシャルは5.70eVであった。
<実施例2>(例示化合物B01の合成)
(1)中間体ANCl−2の合成
窒素置換した200mL三口フラスコに、2−ブロモナフタレン8.53g(41.2mmol)および脱水THF57mLを加えて−78℃まで冷却し、ここにn−ブチルリチウムの1.6Mヘキサン溶液を25.8mL(41.2mmol)滴下して加えた。滴下終了後、反応溶液をゆっくりと−20℃まで昇温してから、2−クロロアントラキノン4.00g(16.5mmol)を少量ずつ添加した。添加終了後、室温にて一晩攪拌し、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を停止した。続いて反応溶液から生成物をジクロロメタンで抽出した後、水で2回洗浄し、さらに硫酸ナトリウム上で乾燥させた後に濃縮して粗生成物を得た。続いてヘプタン/クロロホルム混合溶媒で粗生成物を洗浄し、中間体Diol−2を6.75g得た(収率82%)。
続いて、以下の原料、試薬、および溶媒を500mLナスフラスコに投入した。
中間体Diol−2:6.68g(13.4mmol)
ヨウ化カリウム:20.7g(124mmol)
NaHPO・HO:23.4g(221mmol)
酢酸:250mL
この反応溶液を攪拌しながら3時間半加熱還流させた。反応終了後、室温まで冷却してから反応溶液に水を加え、析出物をろ取して粗生成物の黄色粉を得た。続いてこの粗生成物をメタノール溶媒で洗浄して、中間体ANCl−2を5.68g得た(収率91%)。
(2)中間体CHO−2の合成
以下に示す試薬、溶媒を100mLナスフラスコに投入した。
中間体ANCl−2:1.00g(2.15mmol)
2−ホルミルフェニルボロン酸:387mg(2.58mmol)
酢酸パラジウム(II):48mg(0.11mmol)
ジシクロヘキシル(2’,6’−ジメトキシビフェニル−2−イル)ホスフィン:221mg(0.54mmol)
りん酸カリウム:1.37mg(6.45mmol)
トルエン:40mL
この反応溶液を、窒素下において100℃に加熱し、攪拌しながら10時間反応させた。反応終了後、反応溶液を水で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させた後に濃縮し粗生成物を得た。次にこの粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘプタン/トルエン=1/1)で精製し、中間体CHO−2を1.12g得た(収率98%)。
(3)例示化合物B01の合成
窒素置換した200mLナスフラスコに、室温にて(メトキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド1.80g(5.25mmol)と脱水ジエチルエーテル9mLを投入して攪拌し、続いてtert−ブトキシカリウムの1MTHF溶液を5.25mL(5.25mmol)加えて1時間攪拌した。続いて25mLのTHF溶媒に中間体CHO−2を1.12g(2.09mmol)溶解させた溶液を反応液に加え、室温にてさらに3時間半攪拌した後、水を加えて反応を停止した。続いて、分液操作にて水相を酢酸エチルで3回抽出後、有機相を水で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させた後に濃縮し粗生成物を得た。次にこの粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘプタン/トルエン=3/1)で精製し、中間体MeO−2を1.10g(収率93%)得た。
続いて、窒素置換した100mLナスフラスコに、室温にて中間体MeO−2を1.03g(1.83mmol)、脱水ジクロロメタン30mLを加えて攪拌し、メタンスルホン酸をパスツールピペットで3滴加え、室温にて2時間攪拌した後、メタノールを加えて反応を停止した。析出した黄色沈殿をろ取し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘプタン/トルエン=4/1)で精製した後、オクタン/トルエン混合溶媒で再結晶を行い、得られた黄色結晶を150℃で真空乾燥後、10−4Pa、300℃の条件下で昇華精製を行って、高純度の例示化合物B01を293mg得た(収率30%)。
得られた化合物の同定を行った結果を以下に示す。
[MALDI−TOF−MS]
実測値:m/z=530.27 計算値:C4226=530.20
H−NMR(400MHz、CDCl)]
δ 8.64(d,1H),8.45(d,1H),8.20−8.00(m,5H),8.00−7.90(m,2H),7.90−7.50(m,15H),7.45−7.33(m,2H).
また例示化合物B01について、実施例1−(3)と同様の方法でS1エネルギーの測定を行ったところ、吸光スペクトルの吸収端は446nmであり、例示化合物B01のS1エネルギーは2.78eVであった。
さらに例示化合物B01について、実施例1−(3)と同様の方法でイオン化ポテンシャルの測定を行ったところ、例示化合物B01のイオン化ポテンシャルは5.79eVであった。
<比較例1>(S1エネルギーおよびイオン化ポテンシャルの比較)
下記に示す、比較化合物GH01乃至GH03について、実施例1−(3)と同様の方法でS1エネルギーおよびイオン化ポテンシャルの測定を行った。実施例1および2の結果と合わせて、結果を表2に示す。
本実施例のベンゾ[b]クリセン化合物と比較して、比較化合物GH01乃至GH03のアントラセン化合物およびクリセン化合物は、S1エネルギーが2.9eV以上で大きくイオン化ポテンシャルが5.9eV程度と大きくHOMO準位が深い。
<実施例3>
本実施例では、基板上に順次陽極/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極が設けられた構成の有機発光素子において、電子輸送層がイオン化ポテンシャルの異なる二層で構成される素子を、以下に示す方法で作製した。
ガラス基板上に、陽極としてITOをスパッタ法にて膜厚120nmで製膜したものを透明導電性支持基板(ITO基板)として使用した。このITO基板上に、以下に示す有機化合物層及び電極層を、10−5Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着によって連続的に製膜した。このとき対向する電極面積は3mmになるように作製した。
ホール輸送層(40nm) HTL−1
発光層(30nm) ホスト材料:例示化合物A01、ゲスト材料:GD−7(重量比2%)
電子輸送層1(10nm) ETL−1
電子輸送層2(30nm) ETL−2
金属電極層1(0.5nm) LiF
金属電極層2(100nm) Al
次に、有機発光素子が、水分の吸着によって素子劣化が起こらないように、乾燥空気雰囲気中で保護用ガラス板をかぶせ、アクリル樹脂系接着材で封止した。以上のようにして有機発光素子を得た。
得られた有機発光素子について、ITO電極を正極、Al電極を負極にして、5.0Vの印加電圧をかけたところ、発光効率が13.8cd/Aで、輝度2000cd/mの緑色発光が観測された。またこの素子において、CIE色度座標は、(x,y)=(0.29,0.64)であった。さらに、この素子を100mA/cmの定電流密度を保ちながら100時間耐久駆動させると、初期輝度からの輝度減少率は12%であった。
<実施例4>
実施例3において、発光層のホスト材料を、例示化合物A01に代えて、例示化合物B01を使用した他は、実施例3と同様の方法で素子を作製した。また得られた素子について実施例3と同様に評価を行った。結果を表3に示す。
<比較例2>
実施例3において、発光層のホスト材料を、例示化合物A01に代えて、比較化合物GH01を使用した他は、実施例3と同様の方法で素子を作製した。また得られた素子について実施例3と同様に評価を行った。結果を表3に示す。
<比較例3>
実施例3において、発光層のホスト材料を、例示化合物A01に代えて、比較化合物GH02を使用した他は、実施例3と同様の方法で素子を作製した。また得られた素子について実施例3と同様に評価を行った。結果を表3に示す。
<比較例4>
実施例3において、発光層のホスト材料を、例示化合物A01に代えて、比較化合物GH03を使用した他は、実施例3と同様の方法で素子を作製した。また得られた素子について実施例3と同様に評価を行った。結果を表3に示す。
以上のように本発明に係るベンゾ[b]クリセン化合物を発光層のホスト材料に用いた有機発光素子では、輝度2000cd/mの発光を、6V未満の低印加電圧で12cd/A以上の高い発光効率で得ることができる。
3 表示装置
38 スイッチング素子
311 陽極
312 有機層
313 陰極

Claims (5)

  1. 一対の電極と、前記一対の電極の間に配置される有機化合物層とを有し、前記有機化合物層は下記一般式[1]で示されることを特徴とするベンゾ[b]クリセン化合物を有することを特徴とする有機発光素子

    〔式[1]において、Arは置換あるいは無置換の炭化水素芳香族基を表す。R乃至Rは水素原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換の炭化水素芳香族基からなる群よりそれぞれ独立に選ばれる。〕
  2. 前記ベンゾ[b]クリセン化合物が下記一般式[2]で示されることを特徴とする請求項1に記載の有機発光素子

    〔式[2]において、Arは前記置換あるいは無置換の炭化水素芳香族基を表す。〕
  3. 前記ベンゾ[b]クリセン化合物が下記一般式[3]で示されることを特徴とする請求項2に記載の有機発光素子

    〔式[3]において、X乃至Xは水素原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換の炭化水素芳香族基からなる群よりそれぞれ独立に選ばれる。〕
  4. 前記有機化合物層は発光層であり、前記発光層はホスト材料とゲスト材料を有し、前記ホスト材料は前記ベンゾ[b]クリセン化合物であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の有機発光素子。
  5. 請求項1乃至4の何れか一項に記載の有機発光素子と前記有機発光素子と接続されているスイッチング素子とを有する表示装置。
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