JP5468217B2 - 薄膜太陽電池 - Google Patents

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本発明は、シリコンを主成分とする薄膜半導体を有する光電変換層を具備する薄膜太陽電池に関し、特に、基板上に、透明導電膜からなる表面電極層、光電変換層、裏面金属電極層が積層されており、該光電変換層と裏面金属電極層との間に透明導電膜からなるバリア層が形成されている薄膜太陽電池に関する。
太陽電池の基本構造は、p型とn型の半導体を接合したpn接合型ダイオード(フォトダイオード)と同じであり、主に、接合部の材料によって、シリコン系、化合物系の太陽電池に分類される。動作原理は、発光ダイオードと逆の過程を通じて電子に光のエネルギーを吸収(光励起)させることにあり、半導体の性質を利用して、エネルギーを持った電子を直接的に電力として取り出すという光起電力効果を利用したデバイスである。
工業的には、透光性絶縁基板の上に、透明導電膜からなる表面電極層と、プラズマプロセスで形成されるアモルファスシリコン半導体、多結晶シリコン半導体、微結晶シリコン半導体等のシリコンを主成分とする薄膜半導体を有する光電変換層と、裏面金属電極層とを順に積層することにより製造される。このようにして得られる薄膜太陽電池は、大面積化が容易であるため、低コストで得られる。
太陽電池の効率向上のためには、光電変換層に入射する光の量が多いことが望ましく、裏面金属電極層には反射層として反射率が高いことが要求される。一般的に、裏面金属電極層としては金属酸化物層と銀層を積層したものが用いられている。このような裏面金属電極層は、通常の銀電極と比べると、屈折率の関係で高い反射率が得られるため、「光の閉じ込め効果」によって、太陽電池の発電効率を高めることができる。また、銀層と半導体層の合金化による反射率の低下等を抑止でき、裏面金属電極層と半導体層との付着強度も高められることから、太陽電池の信頼性を向上させることができる。
特開昭55−108780号公報(特許文献1)には、このような光反射特性の低下を防ぐことを目的として、光電変換層であるシリコン層と裏面金属電極層との間に、酸化インジウム−酸化錫の混合物(ITO)や、酸化亜鉛(ZnO)等からなる透明導電層を、バリア層として介在させることが記載されている。かかるバリア層は、光電変換層と裏面金属電極層とを、合金化が起らない程度に隔てるものである。バリア層として用いられる透明導電層は、裏面金属電極層によって反射した光を、光電変換層に入射させ、なおかつ、太陽電池の直列抵抗成分を大きくしないように介在させることを目的としていることから、必然的に高透明性かつ高導電性であることが要求される。
また、特開平9−69642号公報(特許文献2)には、基板、光反射性電極、光電変換層、および透明電極を少なくとも有して構成され、光反射性電極が、不純物元素として、シリコン、ニッケル、および銅のいずれか1種以上を、0.1〜6.0%含有するアルミニウム膜により構成され、かつ、光反射性電極と光電変換層との間に、バリア層として酸化亜鉛(ZnO)を厚さ800Å程度で、スパッタ法により成膜させることにより形成している太陽電池が記載されている。バリア層として、厚さ10〜500Åのステンレス、チタン(Ti)、クロム(Cr)等からなる金属層も採用できるが、酸化亜鉛(ZnO)をバリア層として採用することにより、長波長側の光をより吸収しやすくなることが記載されている。
その他、透明導電膜としては、AlをドーピングしたZnO(AZO)膜、GaをドーピングしたZnO(GZO)膜なども採用できる。
このように、光電変換層と裏面金属電極層との間に、バリア層として透明導電膜を挿入した構造の薄膜太陽電池の光電変換効率は、バリア層の透過率、導電性、および組織に大きく依存している。しかしながら、ITO膜、ZnO膜、AZO膜、GZO膜は、高い透明性と導電性を有するが、本来的には光の消衰係数が大きいため、基板温度をある程度高くして成膜しなければ、高い光透過性が得られない。一方、太陽電池のシリコンを主成分とする薄膜半導体は、高温にすると熱劣化するため、かかる劣化を防止するためには、透明導電層を200℃以下という比較的低い温度で形成することが必要となる。
したがって、薄膜半導体の劣化を防止するために比較的低い基板温度で成膜した場合には、従来の透明導電膜では、高い光透過性を得ることには限界がある。
特開昭55−108780号公報 特開平9−69642号公報
本発明は、従来技術の問題点を解消し、シリコンを主成分とする薄膜半導体を有する光電変換層を具備する薄膜太陽電池において、光電変換層と裏面金属電極層との間に、バリア層として、比較的低い基板温度で成膜可能であり、この場合でも従来と比べて消衰係数が小さく、光透過性に優れた新規な透明導電膜を備える高効率の薄膜太陽電池を提供することを目的とする。
本発明者等は、上記の課題を解決すべく、透光性絶縁基板の上に、透明導電膜からなる表面電極層と、シリコン薄膜を含む光電変換層と、裏面金属電極層とが積層されており、該光電変換層と裏面金属電極層との間に透明導電膜からなるバリア層が形成されている薄膜太陽電池において、該バリア層として、従来の透明導電膜と比べて低温で成膜した場合でも、消衰係数が小さく、光透過性に優れた透明導電膜を採用すべく、種々の透明導電膜を調査したところ、ガリウム含有酸化インジウム(以下、IGOと記す場合がある)膜であり、ガリウムの含有量がGa/In原子数比で0.123〜0.220である透明導電膜が、かかる特性を備え、バリア層として採用することで、高効率の薄膜太陽電池が得られるとの知見を得て、本発明を完成するに至った。
本発明に係る薄膜太陽電池の一態様は、透光性絶縁基板の上に、透明導電膜からなる表面電極層と、シリコン薄膜を含む光電変換層と、透明導電膜からなるバリア層と、裏面金属電極層とが、順に積層されており、該バリア層を形成する透明導電膜が、ガリウムの含有量がGa/In原子数比で0.123〜0.220であるガリウム含有酸化インジウム(IGO)膜であることを特徴とする。
本発明に係る薄膜太陽電池の別の態様は、透光性絶縁基板の上に、裏面金属電極層と、透明導電膜からなるバリア層と、シリコン薄膜を含む光電変換層と、表面電極である透明導電膜とが、順に積層されており、該バリア層を形成する透明導電膜が、ガリウムの含有量がGa/In原子数比で0.123〜0.220であるガリウム含有酸化インジウム(IGO)膜であることを特徴とする。
前記ガリウム含有酸化インジウム膜は、スズ、チタン、タングステン、モリブデン、および、ジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことができる。
また、いずれの態様においても、前記裏面金属電極層を光透過性を有するものとして、前記光電変換層が、両面より受光することができるようにしてもよい。この場合、絶縁基板上に最初に裏面金属電極層が形成される態様では、基板も透光性である必要がある。
前記ガリウム含有酸化インジウム(IGO)膜の比抵抗が、5×10-3Ωcm未満であることが好ましい。また、前記ガリウム含有酸化インジウム膜の、波長400nmにおける消衰係数が1.5×10 -2 以下、波長600nmにおける消衰係数が1.0×10 -4 以下、波長1000nmにおける消衰係数が6.0×10 -6 以下であることが好ましい。さらに、前記バリア層の膜厚が、50〜70nmであることが好ましい。
本発明の薄膜太陽電池では、バリア層として所定の組成のIGO膜を採用している。IGO膜は、例えば、光電変換層の上に、200℃以下という低温で形成した場合でも、消衰係数が小さく、優れた光透過性を発揮する。また、光電変換層のシリコンと裏面金属電極層の金属との反応を、効果的に抑制して、裏面金属電極層の光沢を残存させることができる。したがって、裏面金属電極層で反射した光を、光電変換層に効果的に再入射させることができ、かつ、太陽電池の曲線因子の減少を防ぐ効果が大きいため、光電変換効率が極めて高く、信頼性の高い太陽電池を実現することができる。
また、裏面金属電極層の厚さを薄くして、裏面金属電極層に光透過性を持たせ、シリコン薄膜を含む光電変換層の両面より受光することができる薄膜太陽電池の場合にも、同様に、効果的に適用できる。
本発明の薄膜太陽電池は、シリコン薄膜を含む光電変換層と裏面金属電極層との間に挿入して形成されるバリア層を、ガリウムの含有量がGa/In原子数比で0.123〜0.220であるIGO膜(ガリウム含有酸化インジウム膜、In−Ga−O膜)とすることに特徴がある。
酸化インジウムにガリウムを含有させることによって、従来のITO膜やAZO膜、G
ZO膜と比較して、基板温度を200℃、特に室温ないしは100℃という低温として成
膜した場合でも、消衰係数が低く、光透過率を向上させることができる。ガリウムの含有
量がGa/In原子数比で0.123未満であると、波長800〜1000nm付近の長
波長領域における透過率の改善において効果がみられず、0.220を超えると、導電性が悪化して高効率の太陽電池を実現することができない。
上記組成、製造条件で得られるバリア層を形成するIGO膜は、5.0×10-3Ωcm以下の低い比抵抗と、波長400nmにおける消衰係数が1.5×10-2以下で波長600nmにおける消衰係数が5.5×10-4以下の低光損失性という特性を、同時に兼ね備えることができるため、高い変換効率の太陽電池を実現するためのバリア層として有用である。
一般に、成膜温度が高いほど低抵抗性や低光損失性に優れた膜が得られるが、本発明のIGO膜をバリア層として用いると、室温成膜あるいは100℃の低温成膜でも、上記のような低抵抗と低光損失を実現することができる。
バリア層の膜厚は、光電変換層を通過した光の閉じ込め効果を狙うには、50〜70nmが有効である。本発明のIGO膜の比抵抗が5×10-3Ωcm以下であれば、1kΩ/□以下を実現でき、接触している裏面金属電極層の高い導電性を伝えることができ、裏面電極として機能することができる。また、さらに好ましい比抵抗は6×10-4Ωcm以下であり、その場合は、200Ω/□以下の表面抵抗を有するバリア層を実現できるため、さらに好ましい。
本発明のIGO膜の消衰係数は、波長400nmにおける消衰係数が1.5×10-2以下、該IGO膜をバリア層として用いることで波長600nmにおける消衰係数が5.5×10-4以下の低光損失性を実現できるため、太陽電池の変換効率の向上に貢献できる。また、さらに好ましくは、波長400nmにおける消衰係数が1.0×10-2以下、波長600nmにおける消衰係数が1.0×10-4以下の低光損失性を実現することもでき、極めて有用といえる。
また、タンデム型の光電変換層を有する太陽電池の場合は、波長800〜1000nm付近の長波長の光が、電気エネルギーに有効に変換される。そのため、長波長側の光損失が小さいほうが好ましいが、本発明のIGO膜は、波長1000nmにおける光損失も少なく、波長1000nmにおける消衰係数で6.0×10-6以下、より好ましくは1.0×10-7以下の低損失性を実現することができる。よって、タンデム型太陽電池のような長波長側のエネルギーを有効利用する場合には、変換効率の改善に寄与できる。
以上のことから、本発明のIGO膜は、低温成膜で高い導電性と低損失性を同時に兼ね備えているため、該IGO膜をバリア層として用いることで、高い変換効率の太陽電池を実現することができる。
また、酸化インジウムにガリウムを含有させることによって、耐プラズマ性を向上させることができる。図2の構造のような薄膜太陽電池を作製する場合には、バリア層(4)の上にa−Si:H薄膜の光電変換層(3)をプラズマCVD法により形成する工程がある。その際、バリア層(4)に従来のITO膜のような酸化インジウム系膜を用いると、プラズマによってバリア層が還元されて透過率が低下してしまう。バリア層の透過率が低下すると、裏面金属電極層で反射した光を、光電変換層に効果的に再入射させようとしても、光損失が大きいため光電変換効率の高い太陽電池は得られない。ところが、酸化インジウムにガリウムを含有させると、耐プラズマ性が向上し、透過率の低下が生じにくくなる。これは、ガリウムは酸素との結合がインジウムよりも強いため、プラズマによって還元しにくくなるためであると推定される。
本発明の薄膜太陽電池において、バリア層に用いるIGO膜の形成方法は、特に限定されず、スパッタリング法のほか、真空蒸着法等の物理蒸着法や、CVD法等の化学蒸着法が用いられるが、透光性絶縁基板をより低温にしても、良好な導電膜特性が得られる物理蒸着法が好ましく、その中でもスパッタリング法は、大面積に均一に形成する方法として優れており、より好ましい。スパッタリング法は、直流法または高周波法など、いずれでも好適であるが、直流法の方が、経時的に安定した特性を有するIGO膜を製造できるので好ましい。
本発明のバリア層に用いるIGO膜は、室温〜200℃という低温での成膜において、従来のITO膜、AZO膜、またはGZO膜と比較して、消衰係数が低く、すなわち透過率の改善が見られる。特に、室温〜100℃という低温での成膜において、透過率の改善は顕著である。
薄膜太陽電池では、表面電極から入射した太陽光が、光電変換層に入り、一部は通過する。通過光は、バリア層を透過して裏面金属電極層で反射し、再び、バリア層を通過して光電変換層に入射して、電気エネルギーに変換される。バリア層に、従来の透明導電膜を、基板温度を200℃以下という低温で成膜した場合、得られた透明導電膜は、消衰係数が大きく、バリア層を通過する際に、光の損失が大きいため、透過光を効率的に利用することができないという問題があった。これに対して、本発明の薄膜太陽電池では、バリア層に、低温で成膜した場合でも、消衰係数が小さく、光透過性が極めて高いIGO膜を使っているため、光電変換効率を大幅に改善できる。
バリア層に用いるIGO膜の導電性は、背面に導電性の高い裏面金属電極層が形成されているため、表面電極ほど高い導電性は要求されない。しかし、バリア層の導電性が低すぎると、影響が無視できず、光電変換効率に影響を及ぼす。光電変換効率に影響を及ぼさないためには、比抵抗が5×10-3Ωcm未満という高い導電性が好ましい。
本発明の薄膜太陽電池のバリア層には、スズ、チタン、タングステン、モリブデン、またはジルコニウムなど、インジウムおよびガリウム以外の元素が、本発明の特徴を損なわない範囲で含有されていてもかまわない。特に、スズ、チタン、またはタングステンが含まれていると、導電性が向上するので好ましい。スズを含む場合は、Sn/In原子数比で0.005以下であることが導電性向上にとって好ましく、チタン、タングステン、モリブデン、およびジルコニウムのいずれか1種以上を含む場合は、チタン、タングステン、モリブデン、およびジルコニウムのいずれか1種以上として表す元素(Me)がMe/In原子数比で0.03以下であることが導電性向上にとって好ましい。しかし、亜鉛が僅かでも含有されると、透過率が低下してしまい、IGO膜の高光透過性の特長を損なうため、亜鉛は含まれない方が好ましい。また、シリコンが含まれていると、裏面金属電極層に銀を用いた場合、銀にシリコンが拡散して反射率が低下するため、含まれない方が好ましい。
本発明の薄膜太陽電池において、シリコン薄膜を含む光電変換層は、アモルファスシリコン系薄膜で構成されたもの、微結晶シリコン系薄膜で構成されたもの、アモルファスシリコン系薄膜と微結晶シリコン系薄膜で構成されたタンデム型などのような薄膜系光電変換層が含まれるが、その他、単結晶シリコン板あるいは多結晶シリコン板の光電変換層と、前述の薄膜系光電変換層が積層されたハイブリッド型の光電変換層も含まれる。また、アモルファスシリコン系薄膜としては、a−SiC:H、a−SiGe:H、a−SiN:H、またはa−SiSn:H等などが含まれるが、これらの組成の異なる2種類以上のアモルファスシリコン系薄膜が積層されたタンデム型の薄膜系光電変換層も含まれる。
本発明は、主として、透光性絶縁基板の上に、透明導電膜からなる表面電極層と、シリコン薄膜を含む光電変換層と、透明導電膜からなるバリア層と、裏面金属電極層とが、順に積層されている薄膜太陽電池に好適に適用できる。ただし、(透光性)絶縁基板の上に、裏面金属電極層、バリア層、光電変換層、表面電極層とが、順に積層されている薄膜太陽電池においても、光透過性に優れ、高い導電性を有するバリア層を提供することができる。
また、本発明の薄膜太陽電池には、裏面金属電極層が光透過性を有し、シリコン薄膜を含む光電変換層の両面より受光することができる薄膜太陽電池も含まれる。裏面金属電極層に光透過性を持たせるためには、例えば、裏面金属電極層の膜厚を3〜15nm程度に薄くして、裏面からの光入射を可能にすればよい。
また、他の太陽電池と重ね合わせたスタック型(あるいは積層型)の太陽電池の上部セルもしくは下部セルとして、利用してもよい。その場合、他の太陽電池は、シリコン系の太陽電池に限定されず、化合物半導体系の太陽電池や色素増感太陽電池に対しても本発明を適用することができる。
「バリア層として用いる透明導電膜の作製と評価」
参考例1)
本発明の薄膜太陽電池のバリア層に用いる透明導電膜を、スパッタリング法で作製した。
ガリウムを含有した15.24cmφ(6inchφ)のIGOターゲット(住友金属鉱山株式会社製)を用いて、直流マグネトロンスパッタリング法により、厚さ1.0mmの合成石英の透光性絶縁基板の上に、50nmの透明導電膜を成膜した。スパッタリング条件は、真空装置(トッキ株式会社製、SPF503K型)を、あらかじめ2×10-4Pa以下に排気した後、酸素ガスを1〜3vol%含有したArガスを、0.3Pa導入し、ターゲットに対して200Wのスパッタリングパワーを投入した。成膜時の透光性絶縁基板の温度は、室温とした。
得られた透明導電膜について、ICP発光分析法により、ICP質量分析装置(横河アナリティカルシステムズ株式会社製、Agilent 7500cs)を用いて、膜の組成分析を実施した。その結果、膜組成は、ターゲット組成と同じであった。また、分光エリプソメトリーにより、分光エリプソメーター装置(J.A.Woolam社製、VASE)を用いて、膜の消衰係数を測定し、四端針法により、抵抗率計装置(株式会社ダイアインスツルメンツ製、Loresta−EP MCP−T360)を用いて、表面抵抗値を測定した。本参考例の製造条件と特性評価結果を、表1に示す。
(実施例2、3、5〜10、比較例1、2)
ターゲット組成を、表1に示したように変えた以外は、参考例1と同様に透明導電膜を得て、同様の評価を行った。本実施例および比較例の製造条件と特性評価結果を、表1に示す。
参考例4)
ターゲット組成を、表1に示したように変え、成膜時の透光性絶縁基板の温度を100℃としたこと以外は、参考例1と同様に透明導電膜を得て、同様の評価を行った。本参考例の製造条件と特性評価結果を、表1に示す。
(比較例3〜7)
比較例3は、ITOターゲット(住友金属鉱山株式会社製)を用いて、比較例4、6は、GZOターゲット(住友金属鉱山株式会社製)を用いて、比較例5、7は、AZOターゲット(住友金属鉱山株式会社製)を用いたことと、比較例4〜7においては、Arガス100%を導入したこと以外は、参考例1と同様に透明導電膜を得て、同様の評価を行った。従って、比較例3〜7では、従来の透明導電膜であるITO膜、GZO膜、AZO膜を成膜した。本比較例の製造条件と特性評価結果を、表1に示す。
Figure 0005468217
「評価」
参考例1、実施例2、3、5〜10で得られ、Ga/In原子数比が0.005〜0.55の範囲内のIn−Ga−O膜、In−Ga−Sn−O膜、In−Ga−W−O膜、In−Ga−Ti−O膜、In−Ga−Mo−O膜、およびIn−Ga−Zr−O膜は、表面抵抗が70〜125Ω/□で、波長400nmにおける消衰係数が9.5×10-3〜5.6×10-2であり、波長600nmにおける消衰係数が1.1×10-6〜5.5×10-4であり、波長1000nmにおける消衰係数が2.5×10-8〜7.5×10-6であり、低抵抗と低光損失を同時に有している。比較例1および比較例3〜7で得られ、Ga/In原子数比が0.005〜0.55の範囲内にないIn−Ga−O膜、In−Sn−O膜、Zn−Ga−O膜、およびZn−Ga−O膜と比べて、特に、各波長における消衰係数が小さい。
特に実施例7で得られたIn−Ga−W−O膜は、低抵抗でありながら、各波長における消衰係数も低くて、低抵抗と低光損失性をバランスよく兼ね備えているといえる。
参考例4は、100℃で成膜されたバリア膜であるが、Gaが多く含まれたバリア膜であるため表面抵抗が568Ω/□と高めだが、1kΩ/□以下の表面抵抗であるためバリア層として利用でき、波長400nmにおける消衰係数が8.9×10-3、波長600nmにおける消衰係数が6.9×10-7という非常に低光損失の特性を、同時に兼ね備えることができるため、裏面金属電極層と光電変換層の間に挿入するバリア層として非常に有用である。
比較例1、比較例3〜7は、表面抵抗が1kΩ/□以下であり裏面金属電極層の導電性を伝達することができるが、波長400nmにおける消衰係数が2.8×10-2以上であり、波長600nmにおける消衰係数が1.2×10-3以上であり、波長1000nmにおける消衰係数が8.8×10-4以上であり、いずれの波長においても、参考例1および4、実施例2、3および5〜10の膜の消衰係数と比べて大幅に高い。よって、このような膜を裏面金属電極層と光電変換層の間のバリア層に用いても、光損失が大きくて、変換効率の改善に貢献することができない。
また、比較例2はGa含有量が多くなり、消衰係数は小さいが、表面抵抗が極めて高く、導電性に劣る。表面抵抗が1kΩ/□を大幅に超えているため、裏面金属電極層の良好な導電性を伝達できず、裏面金属電極層を裏面電極として利用することができない。
(参考例11および14、実施例12、13および15〜20、比較例8〜14)
参考例1および4、実施例2、3および5〜10、比較例1〜7で得られる透明導電膜をバリア層に用いて、図1に要部を断面図で示した構造の薄膜太陽電池を、次の手順で作製した。
まず、厚さ3.0mmのソーダライムガラス(日本板硝子株式会社製)からなる透光性絶縁基板(1)の上に、透明導電膜(2)としてSnO2を常圧CVD法で成膜し、その上にa−Si:H薄膜をプラズマCVD法により成膜することにより、p−i−n接合を有する光電変換層(3)を積層した。
次いで、光電変換層(3)の上部に、参考例1および4、実施例2、3および5〜10、比較例1〜7で透明導電膜を得たように、バリア層(4)を形成した。バリア層(4)の膜厚は、50nmとした。最後に、バリア層(4)の上に、Agをスパッタリング法により約200nm形成することにより、裏面金属電極層(5)を得た。
その後、公知技術により、5mm×5mmの大きさの薄膜太陽電池を作製した。
(比較例15)
比較のため、バリア層(4)を形成しなかったこと以外は、参考例11および14、実施例12、13および15〜20と同様にして、薄膜太陽電池を作製した。
「評価」
太陽電池特性の評価は、得られた太陽電池に、ソーラーシミュレーターでAM−1の光を照射したときの電圧−電流特性を測定し、短絡電流(Isc)、開放端電圧(Voc)、曲線因子(FF)、および光電変換効率(η)を測定し、相対比較することにより行なった。
太陽電池では、動作状態において、両電極を開放すると、PN接合で生成したキャリアの移動に伴うフェルミ準位の差が生じる。このフェルミ準位の差に対応する電位が、開放電圧(Voc)である。動作状態において、両電極を短絡した回路に流れ、入射光量に比例した光起電流を、短絡電流(Isc)という。開放電圧(Voc)と短絡電流(Isc)の積は、太陽電池の理想電力値であり、その値に対し、実際に取り出し得る電力の比を表わすのが、曲線因子(FF)である。よって、開放端電圧(Voc)、短絡電流(Isc)、および曲線因子(FF)と、変換効率(η)の値は、大きい方が、太陽電池の特性において優れていることになる。
それぞれの結果は、比較例15で得られた値を1.00として相対値に換算し、表2に示す。
Figure 0005468217
光電変換層(3)と裏面金属電極層(5)の間に、バリア層(4)を挿入した参考例11および14、実施例12、13および15〜20では、バリア層(4)を挿入しなかった比較例15に比べて、短絡電流(Isc)が増加し、かつ、曲線因子(FF)も増加し、変換効率(η)が大幅に改善した。短絡電流(Isc)の増加は、高透明、低抵抗な透明導電膜の介在によりAgの合金化が防がれ、Ag電極本来の光沢が保持された結果であると考えられる。
参考例11および14、実施例12、13および15〜20と比較例8〜9を比較すると、バリア層(4)の組成が、Ga/In原子数比で0.005〜0.55のときに、このような効果が生じると考えられる。比較例9では、曲線因子(FF)の減少が見られたが、これは、バリア層(4)の高抵抗化によるものと考えられる。
バリア層(4)がIGO膜である参考例11および14、実施例12、13および15〜20を、バリア層(4)がITO膜、GZO膜、またはAZO膜である比較例10〜14と比較すると、短絡電流(Isc)の改善量が顕著である。これは、IGO膜が、ITO膜、GZO膜、およびAZO膜と比べて、広い波長領域において消衰係数が小さく、透明度が高いことに起因している。この結果は、前述のように、IGO膜を用いることで、従来のITO膜、GZO膜、またはAZO膜を用いた場合に比べ、裏面金属電極層による光の反射を、有効活用できることを示している。
(参考例21および24、実施例22、23および25〜30、比較例16〜22)
参考例1および4、実施例2、3および5〜10、比較例1〜7で得られる透明導電膜をバリア層に用いて、図2に要部を断面図で示した構造の薄膜太陽電池を、次の手順で作製した。
まず、厚さ3.0mmのソーダライムガラス(日本板硝子株式会社製)からなる透光性絶縁基板(1)の上に、Agをスパッタリング法により約200nm形成することにより、裏面金属電極層(5)を形成した。次いで、裏面金属電極層(5)の上に、参考例1および4、実施例2、3および5〜10で透明導電膜を得たように、バリア層(4)を形成した。バリア層(4)の膜厚は、50nmとした。その上にa−Si:H薄膜をプラズマCVD法により成膜することにより、p−i−n接合を有する光電変換層(3)を積層し、最後に、透明導電膜(2)としてスパッタリング法によるITO膜を室温にて成膜した。
その後、公知技術により、5mm×5mmの大きさの薄膜太陽電池を作製した。
(比較例23)
比較のため、バリア層(4)を形成しなかったこと以外は、参考例21および24、実施例22、23および25〜30と同様にして、薄膜太陽電池を作製した。
「評価」
参考例11および14、実施例12、13および15〜20と比較例8〜15とを比較したのと同様にして、比較例23で得られた値を基準にして、参考例21および24、実施例22、23および25〜30と比較例16〜22とを比較したところ、変換効率の改善が確認された。
また、透光性絶縁基板の上に、裏面金属電極層、ガリウムの含有量がGa/In原子数比で0.005〜0.55であるIGO膜であるバリア層、シリコン薄膜を含む光電変換層、および、表面電極である透明導電膜が、順に積層されて得た薄膜太陽電池においても、参考例1、4、11、14、21および24、実施例2、3、5〜10、12、13、15〜20、22、23および25〜30と同様の効果が得られた。
薄膜太陽電池の要部を示す断面図である、 異なる薄膜太陽電池の要部を示す断面図である、
符号の説明
1 透光性絶縁基板
2 表面電極層
3 光電変換層
4 バリア層
5 裏面金属電極層

Claims (8)

  1. 透光性絶縁基板の上に、透明導電膜からなる表面電極層と、シリコン薄膜を含む光電変換層と、透明導電膜からなるバリア層と、裏面金属電極層とが、順に積層されており、
    該バリア層を形成する透明導電膜が、ガリウムの含有量がGa/In原子数比で0.123〜0.220であるガリウム含有酸化インジウム膜であって、
    該ガリウム含有酸化インジウム膜は、基板温度を室温〜100℃の範囲として、スパッタリング法により成膜されたものであり、波長400nmにおける消衰係数が5.6×10-2以下、波長600nmにおける消衰係数が1.0×10-4以下、波長1000nmにおける消衰係数が6.0×10-6以下で、かつ、比抵抗が5×10-3Ωcm未満であることを特徴とする薄膜太陽電池。
  2. 前記裏面金属電極層は、光透過性を有し、前記光電変換層が、両面より受光することができる請求項1に記載の薄膜太陽電池。
  3. 絶縁基板の上に、裏面金属電極層と、透明導電膜からなるバリア層と、シリコン薄膜を含む光電変換層と、表面電極である透明導電膜とが、順に積層されており、該バリア層を形成する透明導電膜が、ガリウムの含有量がGa/In原子数比で0.123〜0.220であるガリウム含有酸化インジウム膜であって、
    該ガリウム含有酸化インジウム膜は、基板温度を室温〜100℃の範囲として、スパッタリング法により成膜されたものであり、波長400nmにおける消衰係数が5.6×10-2以下、波長600nmにおける消衰係数が1.0×10-4以下、波長1000nmにおける消衰係数が6.0×10-6以下で、かつ、比抵抗が5×10-3Ωcm未満であることを特徴とする薄膜太陽電池。
  4. 前記裏面金属電極層および前記絶縁基板は、光透過性を有し、前記光電変換層が、両面より受光することができる請求項3に記載の薄膜太陽電池。
  5. 前記ガリウム含有酸化インジウム膜は、スズ、チタン、タングステン、モリブデン、および、ジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1〜4のいずれか一項に記載の薄膜太陽電池。
  6. 前記ガリウム含有酸化インジウム膜の比抵抗が、6×10-4Ωcm以下である請求項1〜5のいずれか一項に記載の薄膜太陽電池。
  7. 前記ガリウム含有酸化インジウム膜の、波長400nmにおける消衰係数が1.5×10-2以下、波長600nmにおける消衰係数が1.0×10-4以下、波長1000nmにおける消衰係数が6.0×10-6以下である請求項1〜6のいずれか一項に記載の薄膜太陽電池。
  8. 前記バリア層の膜厚が、50〜70nmである請求項1〜7のいずれか一項に記載の薄膜太陽電池。
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