JP5465635B2 - ビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤 - Google Patents

ビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤 Download PDF

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Description

本発明は、ビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤に関する。さらに詳しくは、消泡効果に著しく優れた塩化ビニル等のビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤に関する。
工業的に塩化ビニル系樹脂等のビニル系重合体を製造する場合には、水性媒体中、分散安定剤の存在下で塩化ビニル等のビニル系化合物を分散させ、油溶性触媒を用いて重合を行う懸濁重合が広く採用されている。一般に、ビニル系重合体の品質を支配する因子としては、重合率、水−モノマー比、重合温度、触媒の種類および量、重合槽の型式、撹拌速度、分散安定剤の種類等が挙げられるが、これらの中でも分散安定剤の種類による影響が非常に大きい。
ビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤に要求される性能としては、(1)得られるビニル系重合体粒子の粒径分布をできるだけシャープにする働きのあること、(2)可塑剤の吸収速度を大きくして加工性を高め、重合体粒子中に残存する塩化ビニル等のモノマーの除去を容易にし、かつ成形品中のフィッシュアイ等の生成を防止するために、各重合体粒子を多孔性にする働きがあること、(3)充填比重の大きい重合体粒子を形成する働きがあること等が挙げられる。従来、ビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤としては、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体や、部分けん化ポリビニルアルコール等が単独または組み合わせて使用されている。しかしながら、従来の分散安定剤は上記(1)〜(3)の要求性能を満たしていないという問題があった。
塩化ビニル等のビニル系化合物の懸濁重合は、通常バッチ式で行われ、重合器中に水性媒体、分散安定剤、重合開始剤およびビニル系化合物等を仕込み、さらに必要とされる添加剤を加えた後、昇温して重合反応を行わせるという方法が一般的である。最近では、生産性を向上させるために重合1バッチに要する時間を短縮することが求められており、ビニル系化合物の懸濁重合においてリフラックスコンデンサー等を設置して重合熱の除熱効率を高めたり、あらかじめ加熱した水性媒体を仕込む方法(ホットチャージ法)により昇温時間を短縮する方法が用いられている。しかしながら、従来のビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤を用いた場合には、重合中における発泡が激しいことから重合器内の有効容積が減少して生産性が低下したり、リフラックスコンデンサー付重合器を用いると温度コントロールができなくなったり、ホットチャージ法を用いるとビニル系重合体粒子の多孔性が低下するという致命的欠点があった。一方、発泡を防止するために消泡剤等を添加すると、生成するビニル系重合体粒子の熱安定性が低下するという問題があった。
「ポバール」(発行所:高分子刊行会、1984)(非特許文献1)には、塩化ビニルの懸濁重合用分散安定剤として、重合度2000、けん化度80モル%のポリビニルアルコールおよび重合度700〜800、けん化度70モル%のポリビニルアルコールが記載されている。WO91/15518号公報(特許文献1)には、アミノ基、アンモニウム基、カルボキシル基またはスルホン酸基を末端に有する重合度100以上、けん化度50〜90モル%のポリビニルアルコールからなるビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤が記載されている。しかしながら、これらの文献に記載された分散安定剤は、重合中における発泡性が激しいという欠点があった。特開昭52−110797号公報(特許文献2)には、けん化度30〜60モル%のポリ酢酸ビニルからなる塩化ビニルの懸濁重合用分散助剤が記載されている。特開平6−145208号公報(特許文献3)には、末端にメルカプト基を有する水不溶性の重合体からなるビニル系化合物の懸濁重合用分散助剤が記載されており、該水不溶性の重合体として末端にメルカプト基を有するけん化度50モル%以下のポリビニルエステル系重合体が例示されている。これらの文献に記載された分散助剤を単独で使用した場合には、ビニル系化合物の懸濁重合の安定性が確保できない。また該分散助剤を従来の部分けん化ポリビニルアルコールと組み合わせて使用した場合には、重合器内における発泡性が激しいという問題があった。POLYVINYL ALCOHOL−DEVELOPMENT(C.A.Finch,WILEY,1992)(非特許文献2)には、重合度1500、けん化度88モル%の末端にメルカプト基を有するポリビニルアルコールを保護コロイドに用いて、メタクリル酸エステルまたはスチレンを乳化重合することが記載されている。しかしながらこの文献に記載された乳化重合においては、水溶性開始剤が用いられ、得られた重合体は粒子径が0.1〜2μm程度の水性エマルジョンの形態であることから、重合体を溶融成形に供するために該水性エマルジョンから粉体状の重合体を得るのは難しいという問題があった。特開平8−109206号公報(特許文献4)には、末端にメルカプト基を有するポリビニルアルコール系重合体からなるビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤が記載されており、重合安定性や消泡効果に優れてはいるが、ポリビニルアルコール系重合体自体の保存安定性が悪く、放置しておくと末端メルカプト基の含有量が減少して重合安定性が悪くなるという問題があった。
WO91/15518号公報 特開昭52−110797号公報 特開平6−145208号公報 特開平8−109206号公報
「ポバール」(長野 浩一 他、高分子刊行会、1984) POLYVINYL ALCOHOL−DEVELOPMENT(C.A.Finch,WILEY,1992)
本発明の目的は、従来の一般的なビニル系化合物の懸濁重合方法である常温の水性媒体を重合器内に仕込む方法(コールドチャージ法)および重合器内のジャケットまたはコイルにより重合温度のコントロールを行う方法はもとより、コンデンサー付重合器を使用する方法、ホットチャージ法およびコンデンサー付重合器を用いたホットチャージ法においても、重合器内の消泡効果が著しく優れており、かつ前記の要求特性を同時に満たす分散安定剤を提供することにある。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、けん化度が60モル%以上の、下記一般式(I)で表される基を末端に有するビニルアルコール系重合体(A)を含有するビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤、および、さらにけん化度が60モル%未満のビニルアルコール系重合体(B)を含有し、(A)と(B)との重量比(A)/(B)が40/60〜95/5であるビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤を見出し、本発明を完成させるに到った。
Figure 0005465635

(式中、Rは水素原子またはOM基を表し、Mは、水素原子、アルカリ金属原子、1/2アルカリ土類金属原子またはアンモニウム基を表す。)
本発明は、上記懸濁重合用分散安定剤の存在下に、ビニル系化合物、好ましくは塩化ビニルを含むビニル系化合物を懸濁重合するビニル系重合体の製造方法をも包含する。
本発明の懸濁重合用分散安定剤は、消泡効果に優れると共に、(1)得られるビニル系重合体粒子の粒径分布がシャープであり、(2)重合体粒子が多孔性であり、かつ、(3)重合体粒子の充填比重が大きい、という効果を奏する。
本発明において用いられるビニルアルコール系重合体(A)(以下、ビニルアルコール系重合体をPVAと略記することがある)は、けん化度が60モル%以上の、上記一般式(I)で表される基を末端に有する。
Mで示されるアルカリ金属原子としては、ナトリウム原子、カリウム原子等が挙げられる。Mで示される1/2アルカリ土類金属原子としては、1/2マグネシウム原子、1/2カルシウム原子等が挙げられる。Mが1/2アルカリ土類金属原子である場合は、残りの1/2アルカリ土類金属原子(すなわち2価のアルカリ土類金属原子の残りの結合手)は、一般式(I)における酸素原子、下記一般式(II)における酸素原子、P(H22)等と結合してよい。
Figure 0005465635


(ただし、Mは水素原子、アルカリ金属、1/2アルカリ土類金属原子またはアンモニウム基を表す。)
PVA(A)は下記一般式(II)で表される基を主鎖中に含んでもいてもよい。
PVA(A)のけん化度は60モル%以上であり、65〜95モル%が好ましく、68〜80モル%がさらに好ましい。PVA(A)はイオン基等を導入することにより水溶性を高めてもよく、この場合のけん化度はビニルエステル基とビニルアルコール基の含有量から求められ、導入されたイオン基のけん化度は含まれない。本発明においてPVA(A)は、単独で用いた場合においてもビニル系化合物の懸濁重合を安定に行うことが可能なものであり、5〜100℃、好ましくは10〜90℃の水に対して水溶性であることが好ましい。なお、PVAのけん化度は、JIS−K6726に準じて測定し得られる値である。
PVA(A)の粘度平均重合度(P)については特に制限はないが、200〜3000が好ましく、600〜1500がより好ましく、680〜1000がさらに好ましい。PVA(A)の粘度平均重合度(P)は、JIS−K6726に準じて測定される。すなわち、該PVAを再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η]から次式により求められる。

P=([η]×10/8.29)(1/0.62)

なお、粘度平均重合度は、単に重合度と呼ぶことがある。
PVA(A)の製造方法は、得られるPVAが一般式(I)で表される基を末端に有する限り特に制限はないが、例えば、ビニルエステル系単量体を、リンを含む化合物の存在下でラジカル重合する工程、および得られた重合体をけん化する工程を含む方法によって製造することができる。
ビニルエステル系単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニル等が挙げられるが、中でも酢酸ビニルが最も好ましい。
リンを含む化合物としては、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸カルシウム、次亜リン酸マグネシウム、次亜リン酸アンモニウムおよびその水和物などの次亜リン酸化合物等が挙げられるが、工業的には最も安価な次亜リン酸ナトリウムまたはその水和物が好適に用いられる。
リンを含む化合物の使用量は、特に制限はなく、PVA(A)に導入したい一般式(I)で表される基の量に応じて適宜設定すればよい。リンを含む化合物の使用量は、ビニルエステル系単量体100重量部に対して0.001〜30重量部が好ましい。
ビニルエステル系単量体の重合は、アルコール系溶媒等の溶媒中で、または無溶媒で行うことができる。
ビニルエステル系単量体の重合を行うのに用いられる重合方式としては、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合のいずれでもよい。重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等公知の任意の方法を用いることができる。その中でも、無溶媒またはアルコール系溶媒中で重合を行う塊状重合法や溶液重合法が好適に採用され、高重合度の共重合物の製造を目的とする場合は乳化重合法が採用される。アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。またこれらの溶媒は2種類またはそれ以上の種類を混合して用いることができる。共重合に使用される開始剤としては、重合方法に応じて従来公知のアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤等が適宜選ばれる。アゾ系開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられ、過酸化物系開始剤としては、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物;t−ブチルパーオキシネオデカネート、α−クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシデカネート等のパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド;2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテート等が挙げられる。さらには、上記開始剤に過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等を組み合わせて開始剤とすることもできる。また、レドックス系開始剤としては、上記の過酸化物と亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L−アスコルビン酸、ロンガリット等の還元剤とを組み合わせたものが挙げられる。また、ビニルエステル系単量体の重合を高い温度で行った場合、ビニルエステル系単量体の分解に起因するPVAの着色等が見られることがあるため、その場合には着色防止の目的で重合系に酒石酸のような酸化防止剤を1〜100ppm(ビニルエステル系単量体に対して)程度添加することはなんら差し支えない。
ビニルエステル系単量体の重合を行う際に採用される温度は0〜200℃が好ましく、30〜140℃がより好ましい。重合を行う温度が0℃より低い場合は、十分な重合速度が得られないため好ましくない。また、重合を行う温度が200℃より高い場合、目的とするPVAを得ることが困難になるため好ましくない。重合を行う際に採用される温度を0〜200℃に制御する方法としては、例えば、重合速度を制御することで、重合により生成する発熱と反応器の表面からの放熱とのバランスをとる方法や、適当な熱媒を用いた外部ジャケットにより制御する方法等が挙げられるが、安全性の面からは後者の方法が好ましい。
ビニルエステル系単量体の重合に際して、本発明の主旨を損なわない範囲で他の単量体と共重合しても差し支えない。ビニルエステル系単量体と共重合可能な単量体として、例えば、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブチレン等のα−オレフィン;アクリル酸およびその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸およびその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル類;アクリルアミド;N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩またはその4級塩、N−メチロールアクリルアミドおよびその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド;N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩またはその4級塩、N−メチロールメタクリルアミドおよびその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸およびその塩またはそのエステル;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリル酸アミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリル酸アミド、ポリオキシエチレン(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル等のオキシアルキレン基含有単量体;酢酸イソプロペニル等が挙げられる。
また、ビニルエステル系単量体の重合に際し、得られるPVAの重合度を調節すること等を目的として、本発明の主旨を損なわない範囲で連鎖移動剤の存在下で重合を行っても差し支えない。連鎖移動剤としては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、等のアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;2−ヒドロキシエタンチオール、n−ドデカンチオール、3−メルカプトプロピオン酸等のメルカプタン類;テトラクロロメタン、ブロモトリクロロメタン、トリクロロエチレン、パークロロエチレン等のハライド類が挙げられる。
リンを含む化合物存在下でのビニルエステル系単量体の重合により、リンを含む化合物を末端に組み込んだビニルエステル(共)重合体が得られる。
ビニルエステル系重合体のけん化反応には、従来公知の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド等の塩基性触媒またはp−トルエンスルホン酸等の酸性触媒を用いた加アルコール分解反応ないし加水分解反応を適用することができる。この反応に使用しうる溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類:ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素等が挙げられ、これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でもメタノールまたはメタノール/酢酸メチル混合溶液を溶媒とし、水酸化ナトリウムを触媒に用いてけん化反応を行うのが簡便であり好ましい。
以上の方法によれば、一般式(I)で表される基を末端に有するPVA、および一般式(I)で表される基を末端に有し、かつ一般式(II)で表される基を主鎖中に有するPVAを、混合物として得ることができる。
PVA(A)において、一般式(I)で表される基の変性量が0.01〜0.9モル%であることが好ましい。0.01モル%未満では、分散助剤の水分散液の放置安定性が悪くなるおそれがあり、0.9モル%を超える場合は親水性が強く、懸濁重合時の分散安定剤の保護コロイド性を低下させるおそれがある。なお、PVA(A)は、アンモニウム基、カルボキシル基、スルホン基等のイオン基、ノニオン基または(長鎖)アルキル基等を10モル%以下含んでいてもよい。
本発明の懸濁重合用分散安定剤は、PVA(A)を含有するものであるが、けん化度が60モル%未満のビニルアルコール系重合体(B)をさらに含有してもよい。
PVA(B)のけん化度は、水溶性、水分散性の観点から60モル%未満であり、好ましくは58モル%以下、より好ましくは55モル%以下、さらに好ましくは52モル%以下である。けん化度の下限については特に制限はないが、部分けん化PVA系重合体の製造上の観点から、けん化度は10モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましい。なお、PVA(B)のけん化度は、JIS−K6726に準じて測定し得られる値である。
PVA(B)の重合度については特に制限はないが、1000以下が好ましく、200〜550がより好ましく、230〜400がさらに好ましい。なお、PVA(B)の重合度は、上記で説明したPVA(A)の重合度の測定方法と同様の方法で測定される。
本発明の懸濁重合用分散安定剤におけるPVA(A)とPVA(B)との重量比(A)/(B)は、40/60〜95/5が好ましく、50/50〜90/10がより好ましく、60/40〜80/20がさらに好ましい。重量比(A)/(B)が95/5より大きい場合には、ポロシティー改善効果が見られない場合があり、40/60未満の場合には重合の安定性が失われる場合がある。
本発明において用いられるPVA(B)は、水不溶性または水分散性であり、イオン基等を導入することにより、自己乳化性が付与されたものでもよい。本発明においては、分散安定剤にPVA(B)が分散助剤として併用された形態も、分散安定剤という。本発明のPVA(B)の製造方法には特に制限はなく、従来公知の方法が好適に用いられる。PVA(B)として、例えば、特開平1−95103号に記載された側鎖にイオン基を有するPVA、WO91/15518に記載された末端にイオン性基を有するPVA、公知のノニオン基または(長鎖)アルキル基を10モル%以下有するPVAが好適に用いられる。
次に、本発明の分散安定剤を用いたビニル系化合物の懸濁重合によるビニル系重合体の製造方法について説明する。ビニル系重合体の製造方法において用いる水性媒体の温度は特に制限はなく、20℃程度の冷水はもとより、90℃以上の温水も好適に用いられる。この加熱水性媒体を構成する媒体は、純粋な水のほかに、各種の添加成分を含有する水溶液、他の有機溶剤を含む水性媒体等を挙げることができる。また、加熱水性媒体を重合反応系に仕込む際の供給量は、重合反応系を充分に加温できる量であればよい。また除熱効率を高めるためにリフラックスコンデンサー付重合器も好適に用いられる。ビニル系重合体の製造方法において、分散安定剤の使用量は特に制限はないが、通常ビニル系化合物100重量部に対して5重量部以下であり、0.01〜1重量部が好ましく、0.02〜0.2重量部がより好ましい。本発明の分散安定剤は単独で使用してもよいが、塩化ビニル等のビニル系化合物を水性媒体中で懸濁重合する際に通常使用されるメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の水溶性セルロースエーテル;ゼラチン等の水溶性ポリマー;ソルビタンモノラウレート、ソルビタントリオレート、グリセリントリステアレート、エチレンオキシドプロピレンオキシドブロックコポリマー等の油溶性乳化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレングリセリンオレート、ラウリン酸ナトリウム等の水溶性乳化剤等を併用してもよい。その添加量については特に制限はないが、塩化ビニル等のビニル系化合物100重量部当たり0.01〜1.0重量部が好ましい。
その他各種添加剤も必要に応じて加えることができる。各種添加剤としては、例えばアセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、メルカプタン類等の重合度調節剤、フェノール化合物、イオウ化合物、N−オキシド化合物等の重合禁止剤等が挙げられる。また、pH調整剤、スケール防止剤、架橋剤等を加えることも任意であり、上記の添加剤を複数併用しても差し支えない。一方、重合開始剤も、従来塩化ビニル等のビニル系化合物の重合に使用されているものでよく、これには例えばジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物;t−ブチルパーオキシネオデカネート、α−クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシネオデカネート等のパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド、2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテート等の過酸化物;2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物等が挙げられ、さらにはこれらに過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等を組み合わせて使用することもできる。
本発明の分散安定剤を用いて懸濁重合することのできるビニル系化合物としては、具体的には塩化ビニル単独のほか、塩化ビニルを主体とする単量体混合物(塩化ビニル50重量%以上)が包含され、この塩化ビニルと共重合されるコモノマーとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸エステル;エチレン、プロピレン等のオレフィン;無水マレイン酸、アクリロニトリル、イタコン酸、スチレン、塩化ビニリデン、ビニルエーテル、その他塩化ビニルと共重合可能な単量体が例示される。さらには、塩化ビニルを含まない上記ビニル系化合物の単独重合や共重合に当たっても、本発明の分散安定剤を用いることができる。本発明の分散安定剤を用いて懸濁重合する際には、各成分の仕込み割合、重合温度等は、従来塩化ビニル等のビニル系化合物の懸濁重合で採用されている条件に準じて定めればよい。また、ビニル系化合物、重合開始剤、分散安定剤、加熱水性媒体およびその他添加物の仕込み順序や比率については、なんら制限されない。また、温水を用いると同時に、ビニル系化合物を重合器に仕込む前にビニル系化合物を加熱しておく方法も好適に用いられる。
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。以下の実施例および比較例において、特に断りがない場合、部および%はそれぞれ重量部および重量%を示す。
製造例1
(PVA(A−1)の製造)
メタノール400gおよびホスフィン酸ナトリウム・一水和物1.2gを反応器に仕込み、ホスフィン酸ナトリウム・一水和物のメタノール溶液を調整した。次いで、酢酸ビニル1200gを反応器に仕込み、窒素ガスのバブリングにより反応器内を窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.3gを反応器に添加して重合を開始した。重合中は重合温度を60℃に維持した。4時間後に重合率が50%に達したところで冷却して重合を停止した。次いで、減圧下にて未反応の酢酸ビニルを除去し、ポリ酢酸ビニル(PVAc)のメタノール溶液を得た。40%に調整したPVAc溶液にアルカリモル比(NaOHのモル数/PVAc中の酢酸ビニル単位のモル数)が0.0046となるようにNaOHメタノール溶液(10%濃度)を添加してけん化した。アルカリ溶液を添加後、約45分でゲル状物が生成したので、これを粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル1000gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別して白色固体を得、これにメタノール4000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記の洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた白色固体を乾燥機中65℃で2日間放置してPVA(A−1)を得た。この重合体の粘度平均重合度は850、けん化度は74モル%であった。
得られたPVA(A−1)の一般式(I)で表される基の変性量は、1H−NMRにより以下のようにして求めた。得られたPVA(A−1)をメタノールで48時間ソックスレー抽出による精製を行った後、d6−DMSOに溶解し、500MHzの1H−NMR(JEOL GX−500)を用いて分析を行い、PVAの主鎖メチレンに由来するピーク(1.1〜1.9ppm)の面積αと一般式(I)で表される基のリンに付いたプロトンに由来するピーク(7.5〜7.7ppmと6.3〜6.6ppm)の面積βから、下記式を用いて一般式(I)で表される基の変性量を算出した。PVA(A−1)において、一般式(I)で表される基の変性量は0.15モル%であった。結果を表1に示す。

一般式(I)で表される基の変性量(モル%)={(ピーク面積β)/((ピーク面積α)/2+(ピーク面積β))}×100
製造例2〜15
酢酸ビニル、メタノールおよびホスフィン酸ナトリウム・一水和物の仕込み量、けん化時における酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比等のけん化条件を変更した以外は、製造例1と同様にしてPVA(A−2)〜PVA(A−15)を得た。結果を表1に示す。これらの分散安定剤は全て、水または温水に可溶であった。
実施例1〜20、比較例1〜7
(塩化ビニルの懸濁重合)
リフラックスコンデンサー付のグラスライニング製オートクレーブに、表1に示した分散安定剤を塩化ビニルモノマーに対して0.1%となるように、脱イオン水に溶解させて仕込み、ジイソプロピルパーオキシジカーボネートの70%トルエン溶液0.04部を仕込み、オートクレーブ内を50mmHgとなるまで脱気して酸素を除いたのち、撹拌下で80℃の温水39部および塩化ビニルモノマー30部を同時に仕込んだ。仕込みが終了した時点での液面は重合器の底面から60%の高さであり、内温は50℃であった。その後内温を50℃保ち重合を継続した。重合開始時、オートクレーブ内の圧力は7.0kg/cmであったが、重合開始6時間後に4.0kg/cmとなった時点で重合を停止し、未反応の塩化ビニルモノマーを除去した後、内容物を取り出し脱水乾燥した。得られた塩化ビニル樹脂の性能を下記の方法により評価した。結果を表1に示す。なお、比較例5においては、塩化ビニルがブロック化したため重合を行うことができず、塩化ビニル重合体粒子を得ることはできなかった。
(塩化ビニル重合体粒子の評価)
塩化ビニル重合体粒子について、重合安定性、可塑剤吸収性、残留モノマー量および発泡状態を以下の方法にしたがって評価した。
(1)重合安定性
塩化ビニルが重合終了時までブロック化することなく、安定に重合できるかどうかを目視で判断した。
良好 : ブロック化しない
ブロック化 : ブロック化した
(2)可塑剤吸収量
ASTM−D3367−75に記載された方法にしたがって、23℃におけるジオクチルフタレートの吸収量(%)を測定した。
(3)残留塩化ビニルモノマー量
塩化ビニル重合体粒子1gをテトラヒドロフラン25gに溶解して、ガスクロマトグラフにより塩化ビニル樹脂中に残留した塩化ビニルモノマー含有量を定量した。
A : 5ppm未満
B : 5ppm以上10ppm未満
C : 10ppm以上
(4)発泡性評価
重合終了時に重合器内の発泡状態を目視により観察し、以下の記号で示した。
◎ : 発泡なし
○ : 重合器の底面から62〜65%の高さにまで泡が認められた。
△ : 重合器の底面から66〜70%の高さにまで泡が認められた。
▲ : 重合器の底面から90〜100%の高さにまで泡が認められた。
× : 重合器の底面から100%の高さにまで泡が認められ、さらにリフラックスコンデンサーに泡が詰まっていた。
Figure 0005465635

Claims (4)

  1. けん化度が60モル%以上の、下記一般式(I)で表される基を末端に有するビニルアルコール系重合体(A)を含有するビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤。
    Figure 0005465635

    (式中、Rは水素原子またはOM基を表し、Mは、水素原子、アルカリ金属原子、1/2アルカリ土類金属原子またはアンモニウム基を表す。)
  2. さらにけん化度が60モル%未満のビニルアルコール系重合体(B)を含有し、(A)と(B)との重量比(A)/(B)が40/60〜95/5である、請求項1に記載のビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤。
  3. 請求項1または2に記載の懸濁重合用分散安定剤の存在下に、ビニル系化合物を懸濁重合するビニル系重合体の製造方法。
  4. ビニル系化合物が塩化ビニルを含む、請求項3に記載のビニル系重合体の製造方法。
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