以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
なお、説明は以下の順序で行なう。
1.通信処理系統:基本(時分割多重・周波数分割多重・符号分割多重)
2.通信処理系統:変形例(空間分割多重)
3.変調および復調:比較例
4.変調および復調:基本(注入同期方式の適用)
5.多チャネル化と注入同期の関係
6.無線伝送システム:第1実施形態(同報通信時の注入同期回路数の低減)
7.無線伝送システム:第2実施形態(空間分割多重時の注入同期回路数の低減)
8.無線伝送システム:第3実施形態(周波数分割多重時の注入同期回路数の低減)
9.第1〜第3実施形態の変形例
10.振幅変調信号と他の変調信号との関係
11.無線伝送システム:第4実施形態(空間分割多重時の送信電力の低減)
12.無線伝送システム:第5実施形態(周波数分割多重時の送信電力の低減)
13.第4〜第5実施形態の変形例
14.位相補正部について
15.適用例:撮像装置、カード媒体、携帯機器
<通信処理系統:基本>
図1〜図1Aは、無線伝送システムの基本構成を説明する図である。ここで、図1は、基本構成の無線伝送システム1Xの信号インタフェースを機能構成面から説明する図である。図1Aは、無線伝送システム1Xにおける信号の多重化を説明する図である。
本実施形態の無線伝送システムで使用する搬送周波数としてはミリ波帯で説明するが、本実施形態の仕組みは、ミリ波帯に限らず、より波長の短い、たとえばサブミリ波帯の搬送周波数を使用する場合にも適用可能である。本実施形態の無線伝送システムは、たとえば、デジタル記録再生装置、地上波テレビ受像装置、携帯電話装置、ゲーム装置、コンピュータなどにおいて使用される。
[機能構成]
図1に示すように、無線伝送システム1Xは、第1の無線機器の一例である第1通信装置100Xと第2の無線機器の一例である第2通信装置200Xが無線信号伝送路の一例であるミリ波信号伝送路9を介して結合されミリ波帯で信号伝送を行なうように構成されている。ミリ波信号伝送路9は、無線信号伝送路の一例である。伝送対象の信号を広帯域伝送に適したミリ波帯域に周波数変換して伝送するようにする。
第1の通信部(第1のミリ波伝送装置)と第2の通信部(第2のミリ波伝送装置)で、無線伝送装置(システム)を構成する。そして、比較的近距離に配置された第1の通信部と第2の通信部の間では、伝送対象の信号をミリ波信号に変換してから、このミリ波信号をミリ波信号伝送路を介して伝送するようにする。本実施形態の「無線伝送」とは、伝送対象の信号を電気配線ではなく無線(この例ではミリ波)で伝送することを意味する。
「比較的近距離」とは、放送や一般的な無線通信で使用される野外(屋外)での通信装置間の距離に比べて距離が短いことを意味し、伝送範囲が閉じられた空間として実質的に特定できる程度のものであればよい。「閉じられた空間」とは、その空間内部から外部への電波の漏れが少なく、逆に、外部から空間内部への電波の到来(侵入)が少ない状態の空間を意味し、典型的にはその空間全体が電波に対して遮蔽効果を持つ筐体(ケース)で囲まれた状態である。
たとえば、1つの電子機器の筐体内での基板間通信や同一基板上でのチップ間通信や、一方の電子機器に他方の電子機器が装着された状態のように複数の電子機器が一体となった状態での機器間の通信が該当する。
なお、「一体」は、装着によって両電子機器が完全に接触した状態が典型例であるが、前述のように、両電子機器間の伝送範囲が閉じられた空間として実質的に特定できる程度のものであればよい。両電子機器が多少(比較的近距離:たとえば数センチ〜10数センチ以内)離れた状態で定められた位置に配置されていて「実質的に」一体と見なせる場合も含む。要は、両電子機器で構成される電波が伝搬し得る空間内部から外部への電波の漏れが少なく、逆に、外部からその空間内部への電波の到来(侵入)が少ない状態であればよい。
以下では、1つの電子機器の筐体内での信号伝送を筐体内信号伝送と称し、複数の電子機器が一体(以下、「実質的に一体」も含む)となった状態での信号伝送を機器間信号伝送と称する。筐体内信号伝送の場合は、送信側の通信装置(通信部:送信部)と受信側の通信装置(通信部:受信部)が同一筐体内に収容され、通信部(送信部と受信部)間に無線信号伝送路が形成された本実施形態の無線伝送システムが電子機器そのものとなる。これに対して、機器間信号伝送の場合、送信側の通信装置(通信部:送信部)と受信側の通信装置(通信部:受信部)がそれぞれ異なる電子機器の筐体内に収容され、両電子機器が定められた位置に配置され一体となったときに両電子機器内の通信部(送信部と受信部)間に無線信号伝送路が形成されて本実施形態の無線伝送システムが構築される。
ミリ波信号伝送路を挟んで設けられる各通信装置においては、送信部と受信部が対となって組み合わされて配置される。一方の通信装置と他方の通信装置との間の信号伝送は片方向(一方向)のものでもよいし双方向のものでもよい。たとえば、第1の通信部が送信側となり第2の通信部が受信側となる場合には、第1の通信部に送信部が配置され第2の通信部に受信部が配置される。第2の通信部が送信側となり第1の通信部が受信側となる場合には、第2の通信部に送信部が配置され第1の通信部に受信部が配置される。
送信部は、たとえば、伝送対象の信号を信号処理してミリ波の信号を生成する送信側の信号生成部(伝送対象の電気信号をミリ波の信号に変換する信号変換部)と、ミリ波の信号を伝送する伝送路(ミリ波信号伝送路)に送信側の信号生成部で生成されたミリ波の信号を結合させる送信側の信号結合部を備えるものとする。好ましくは、送信側の信号生成部は、伝送対象の信号を生成する機能部と一体であるのがよい。
たとえば、送信側の信号生成部は変調回路を有し、変調回路が伝送対象の信号を変調する。送信側の信号生成部は変調回路によって変調された後の信号を周波数変換してミリ波の信号を生成する。原理的には、伝送対象の信号をダイレクトにミリ波の信号に変換することも考えられる。送信側の信号結合部は、送信側の信号生成部によって生成されたミリ波の信号をミリ波信号伝送路に供給する。
一方、受信部は、たとえば、ミリ波信号伝送路を介して伝送されてきたミリ波の信号を受信する受信側の信号結合部と、受信側の信号結合部により受信されたミリ波の信号(入力信号)を信号処理して通常の電気信号(伝送対象の信号)を生成する受信側の信号生成部(ミリ波の信号を伝送対象の電気信号に変換する信号変換部)を備えるものとする。好ましくは、受信側の信号生成部は、伝送対象の信号を受け取る機能部と一体であるのがよい。たとえば、受信側の信号生成部は復調回路を有し、ミリ波の信号を周波数変換して出力信号を生成し、その後、復調回路が出力信号を復調することで伝送対象の信号を生成する。原理的には、ミリ波の信号からダイレクトに伝送対象の信号に変換することも考えられる。
つまり、信号インタフェースをとるに当たり、伝送対象の信号に関して、ミリ波信号により接点レスやケーブルレスで伝送する(電気配線での伝送でない)ようにする。好ましくは、少なくとも信号伝送(特に高速伝送や大容量伝送が要求される映像信号や高速のクロック信号など)に関しては、ミリ波信号により伝送するようにする。要するに、従前は電気配線によって行なわれていた信号伝送を本実施形態ではミリ波信号により行なうものである。ミリ波帯で信号伝送を行なうことで、Gbpsオーダーの高速信号伝送を実現することができるようになるし、ミリ波信号の及ぶ範囲を容易に制限でき、この性質に起因する効果も得られる。
ここで、各信号結合部は、第1の通信部と第2の通信部がミリ波信号伝送路を介してミリ波の信号が伝送可能となるようにするものであればよい。たとえばアンテナ構造(アンテナ結合部)を備えるものとしてもよいし、アンテナ構造を具備せずに結合をとるものであってもよい。
「ミリ波の信号を伝送するミリ波信号伝送路」は、空気(いわゆる自由空間)であってもよいが、好ましくは、ミリ波信号を伝送路中に閉じ込めつつミリ波信号を伝送させる構造を持つものがよい。その性質を積極的に利用することで、たとえば電気配線のようにミリ波信号伝送路の引回しを任意に確定することができる。
このようなミリ波閉込め構造(無線信号閉込め構造)のものとしては、たとえば、典型的にはいわゆる導波管が考えられるが、これに限らない。たとえば、ミリ波信号伝送可能な誘電体素材で構成されたもの(誘電体伝送路やミリ波誘電体内伝送路と称する)や、伝送路を構成し、かつ、ミリ波信号の外部放射を抑える遮蔽材が伝送路を囲むように設けられその遮蔽材の内部が中空の中空導波路がよい。誘電体素材や遮蔽材に柔軟性を持たせることでミリ波信号伝送路の引回しが可能となる。
因みに、空気(いわゆる自由空間)の場合、各信号結合部はアンテナ構造をとることになり、そのアンテナ構造によって近距離の空間中を信号伝送することになる。一方、誘電体素材で構成されたものとする場合は、アンテナ構造をとることもできるが、そのことは必須でない。
以下、本実施形態の無線伝送システム1Xの仕組みについて具体的に説明する。なお、最も好適な例として、各機能部が半導体集積回路(チップ)に形成されている例で説明するが、このことは必須でない。
第1通信装置100Xにはミリ波帯通信可能な半導体チップ103が設けられ、第2通信装置200Xにもミリ波帯通信可能な半導体チップ203が設けられている。
本実施形態では、ミリ波帯での通信の対象となる信号を、高速性や大容量性が求められる信号のみとし、その他の低速・小容量で十分なものや電源など直流と見なせる信号に関してはミリ波信号への変換対象としない。これらミリ波信号への変換対象としない信号(電源を含む)については、従前と同様の仕組みで基板間の信号の接続をとるようにする。ミリ波に変換する前の元の伝送対象の電気信号を纏めてベースバンド信号と称する。
[第1通信装置]
第1通信装置100Xは、基板102上に、ミリ波帯通信可能な半導体チップ103と伝送路結合部108が搭載されている。半導体チップ103は、LSI機能部104と信号生成部107(ミリ波信号生成部)を一体化したシステムLSI(Large Scale Integrated Circuit)である。図示しないが、LSI機能部104と信号生成部107を一体化しない構成にしてもよい。別体にした場合には、その間の信号伝送に関しては、電気配線により信号を伝送することに起因する問題が懸念されるので、一体的に作り込んだ方が好ましい。別体にする場合には、2つのチップ(LSI機能部104と信号生成部107との間)を近距離に配置して、ワイヤーボンディング長を極力短く配線することで悪影響を低減するようにすることが好ましい。
信号生成部107と伝送路結合部108はデータの双方向性を持つ構成にする。このため、信号生成部107には送信側の信号生成部と受信側の信号生成部を設ける。伝送路結合部108は、送信側と受信側に各別に設けてもよいが、ここでは送受信に兼用されるものとする。
なお、ここで示す「双方向通信」は、ミリ波の伝送チャネルであるミリ波信号伝送路9が1系統(一芯)の一芯双方向伝送となる。この実現には、時分割多重(TDD:Time Division Duplex)を適用する半二重方式と、周波数分割多重(FDD:Frequency Division Duplex :図1A)などが適用される。
時分割多重の場合、送信と受信の分離を時分割で行なうので、第1通信装置100Xから第2通信装置200Xへの信号伝送と第2通信装置200Xから第1通信装置100Xへの信号伝送を同時に行なう「双方向通信の同時性(一芯同時双方向伝送)」は実現されず、一芯同時双方向伝送は、周波数分割多重で実現される。しかし、周波数分割多重は、図1A(1)に示すように、送信と受信に異なった周波数を用いるので、ミリ波信号伝送路9の伝送帯域幅を広くする必要がある。
半導体チップ103を直接に基板102上に搭載するのではなく、インターポーザ基板上に半導体チップ103を搭載し、半導体チップ103を樹脂(たとえばエポキシ樹脂など)でモールドした半導体パッケージを基板102上に搭載するようにしてもよい。すなわち、インターポーザ基板はチップ実装用の基板をなし、インターポーザ基板上に半導体チップ103が設けられる。インターポーザ基板には、一定範囲(2〜10程度)の比誘電率を有したたとえば熱強化樹脂と銅箔を組み合わせたシート部材を使用すればよい。
半導体チップ103は伝送路結合部108と接続される。伝送路結合部108は、たとえば、アンテナ結合部やアンテナ端子やマイクロストリップ線路やアンテナなどを具備するアンテナ構造が適用される。なお、アンテナをチップに直接に形成する技術を適用することで、伝送路結合部108も半導体チップ103に組み込むようにすることもできる。
LSI機能部104は、第1通信装置100Xの主要なアプリケーション制御を司るもので、たとえば、相手方に送信したい各種の信号を処理する回路や相手方から受信した種々の信号を処理する回路が含まれる。
信号生成部107(電気信号変換部)は、LSI機能部104からの信号をミリ波信号に変換し、ミリ波信号伝送路9を介した信号伝送制御を行なう。
具体的には、信号生成部107は、送信側信号生成部110および受信側信号生成部120を有する。送信側信号生成部110と伝送路結合部108で送信部(送信側の通信部)が構成され、受信側信号生成部120と伝送路結合部108で受信部(受信側の通信部)が構成される。
送信側信号生成部110は、入力信号を信号処理してミリ波の信号を生成するために、多重化処理部113、パラレルシリアル変換部114、変調部115、周波数変換部116、増幅部117を有する。なお、変調部115と周波数変換部116は纏めていわゆるダイレクトコンバーション方式のものにしてもよい。
受信側信号生成部120は、伝送路結合部108によって受信したミリ波の電気信号を信号処理して出力信号を生成するために、増幅部124、周波数変換部125、復調部126、シリアルパラレル変換部127、単一化処理部128を有する。周波数変換部125と復調部126は纏めていわゆるダイレクトコンバーション方式のものにしてもよい。
パラレルシリアル変換部114とシリアルパラレル変換部127は、本実施形態を適用しない場合に、パラレル伝送用の複数の信号を使用するパラレルインタフェース仕様のものである場合に備えられ、シリアルインタフェース仕様のものである場合は不要である。
多重化処理部113は、LSI機能部104からの信号の内で、ミリ波帯での通信の対象となる信号が複数種(N1とする)ある場合に、時分割多重、周波数分割多重、符号分割多重などの多重化処理を行なうことで、複数種の信号を1系統の信号に纏める。たとえば、高速性や大容量性が求められる複数種の信号をミリ波での伝送の対象として、1系統の信号に纏める。
時分割多重や符号分割多重の場合には、多重化処理部113はパラレルシリアル変換部114の前段に設けられ、1系統の信号に纏めてパラレルシリアル変換部114に供給すればよい。時分割多重の場合、複数種の信号_@(@は1〜N1)について時間を細かく区切ってパラレルシリアル変換部114に供給する切替スイッチを設ければよい。この多重化処理部113に対応して、第2通信装置200X側には、1系統に纏められている信号をN1系統の信号に戻す単一化処理部228が設けられる。
一方、周波数分割多重の場合には、各別の搬送周波数で変調してそれぞれ異なる周波数帯域F_@の範囲の周波数に変換してミリ波の信号を生成し、それら各別の搬送周波数を用いたミリ波信号を同一方向または逆方向に伝送する必要がある。このため、たとえば、図1A(2)に示すように同一方向に伝送する場合は、パラレルシリアル変換部114、変調部115、周波数変換部116、増幅部117を複数種の信号_@の別に設け、各増幅部117の後段に多重化処理部113として加算処理部(信号混合部)を設けるとよい。そして、周波数多重処理後の周波数帯域F_1+…+F_N1 のミリ波の電気信号を伝送路結合部108に供給するようにすればよい。加算処理部としては、図1A(2)に示すように各別の搬送周波数を用いたミリ波信号を同一方向に伝送する場合はいわゆる結合器を使用すればよい。図示しないが、増幅部117を多重化処理部113の後段(伝送路結合部108側)に配置して1つに纏める構成にしてもよい。
図1A(2)から分かるように、複数系統の信号を周波数分割多重で1系統に纏める周波数分割多重では伝送帯域幅を広くする必要がある。図1A(3)に示すように、複数系統の信号を周波数分割多重で1系統に纏めることと、送信(図の例では送信側信号生成部110側から受信側信号生成部220への系統)と受信(図の例では送信側信号生成部210側から受信側信号生成部120への系統)に異なった周波数を用いる全2重方式と併用する場合は伝送帯域幅を一層広くする必要がある。
パラレルシリアル変換部114は、パラレルの信号をシリアルのデータ信号に変換して変調部115に供給する。変調部115は、伝送対象信号を変調して周波数変換部116に供給する。変調部115としては、振幅・周波数・位相の少なくとも1つを伝送対象信号で変調するものであればよく、これらの任意の組合せの方式も採用し得る。
たとえば、アナログ変調方式であれば、たとえば、振幅変調(AM:Amplitude Modulation )とベクトル変調がある。ベクトル変調として、周波数変調(FM:Frequency Modulation)と位相変調(PM:Phase Modulation)がある。デジタル変調方式であれば、たとえば、振幅遷移変調(ASK:Amplitude shift keying)、周波数遷移変調(FSK:Frequency Shift Keying)、位相遷移変調(PSK:Phase Shift Keying)、振幅と位相を変調する振幅位相変調(APSK:Amplitude Phase Shift Keying)がある。振幅位相変調としては直交振幅変調(QAM:Quadrature Amplitude Modulation )が代表的である。
周波数変換部116は、変調部115によって変調された後の伝送対象信号を周波数変換してミリ波の電気信号を生成して増幅部117に供給する。ミリ波の電気信号とは、概ね30GHz〜300GHzの範囲のある周波数の電気信号をいう。「概ね」と称したのはミリ波通信による効果が得られる程度の周波数であればよく、下限は30GHzに限定されず、上限は300GHzに限定されないことに基づく。
周波数変換部116としては様々な回路構成を採り得るが、たとえば、周波数混合回路(ミキサー回路)と局部発振回路とを備えた構成を採用すればよい。局部発振回路は、変調に用いる搬送波(キャリア信号、基準搬送波)を生成する。周波数混合回路は、パラレルシリアル変換部114からの信号で局部発振回路が発生するミリ波帯の搬送波と乗算(変調)してミリ波帯の変調信号を生成して増幅部117に供給する。
増幅部117は、周波数変換後のミリ波の電気信号を増幅して伝送路結合部108に供給する。増幅部117には図示しないアンテナ端子を介して双方向の伝送路結合部108に接続される。
伝送路結合部108は、送信側信号生成部110によって生成されたミリ波の信号をミリ波信号伝送路9に送信するとともに、ミリ波信号伝送路9からミリ波の信号を受信して受信側信号生成部120に出力する。
伝送路結合部108は、アンテナ結合部で構成される。アンテナ結合部は伝送路結合部108(信号結合部)の一例またはその一部を構成する。アンテナ結合部とは、狭義的には半導体チップ内の電子回路と、チップ内またはチップ外に配置されるアンテナを結合する部分をいい、広義的には、半導体チップとミリ波信号伝送路9を信号結合する部分をいう。たとえば、アンテナ結合部は、少なくともアンテナ構造を備える。また、時分割多重で送受信を行なう場合には、伝送路結合部108にアンテナ切替部(アンテナ共用器)を設ける。
アンテナ構造は、ミリ波信号伝送路9との結合部における構造をいい、ミリ波帯の電気信号をミリ波信号伝送路9に結合させるものであればよく、アンテナそのもののみを意味するものではない。たとえば、アンテナ構造には、アンテナ端子、マイクロストリップ線路、アンテナを含み構成される。アンテナ切替部を同一のチップ内に形成する場合は、アンテナ切替部を除いたアンテナ端子とマイクロストリップ線路が伝送路結合部108を構成するようになる。
送信側のアンテナはミリ波の信号に基づく電磁波をミリ波信号伝送路9に輻射する。また、受信側のアンテナはミリ波の信号に基づく電磁波をミリ波信号伝送路9から受信する。マイクロストリップ線路は、アンテナ端子とアンテナとの間を接続し、送信側のミリ波の信号をアンテナ端子からアンテナへ伝送し、また、受信側のミリ波の信号をアンテナからアンテナ端子へ伝送する。
アンテナ切替部はアンテナを送受信で共用する場合に用いられる。たとえば、ミリ波の信号を相手方である第2通信装置200X側に送信するときは、アンテナ切替部がアンテナを送信側信号生成部110に接続する。また、相手方である第2通信装置200X側からのミリ波の信号を受信するときは、アンテナ切替部がアンテナを受信側信号生成部120に接続する。アンテナ切替部は半導体チップ103と別にして基板102上に設けているが、これに限られることはなく、半導体チップ103内に設けてもよい。送信用と受信用のアンテナを別々に設ける場合はアンテナ切替部を省略できる。
ミリ波の伝搬路であるミリ波信号伝送路9は、たとえば、自由空間伝送路として、たとえば筐体内の空間を伝搬する構成にすることが考えられる。また、好ましくは、導波管、伝送線路、誘電体線路、誘電体内などの導波構造で構成し、ミリ波帯域の電磁波を効率よく伝送させる特性を有するものとするのが望ましい。たとえば、一定範囲の比誘電率と一定範囲の誘電正接を持つ誘電体素材を含んで構成された誘電体伝送路9Aにするとよい。たとえば、筐体内の全体に誘電体素材を充填することで、伝送路結合部108と伝送路結合部208の間には、自由空間伝送路ではなく誘電体伝送路9Aが配されるようになるし、また、伝送路結合部108のアンテナと伝送路結合部208のアンテナの間を誘電体素材で構成されたある線径を持つ線状部材である誘電体線路で接続することで誘電体伝送路9Aを構成することも考えられる。
「一定範囲」は、誘電体素材の比誘電率や誘電正接が、本実施形態の効果を得られる程度の範囲であればよく、その限りにおいて予め決められた値のものとすればよい。つまり、誘電体素材は、本実施形態の効果が得られる程度の特性を持つミリ波を伝送可能なものであればよい。誘電体素材そのものだけで決められず伝送路長やミリ波の周波数とも関係するので必ずしも明確に定められるものではないが、一例としては、次のようにする。
誘電体伝送路9A内にミリ波の信号を高速に伝送させるためには、誘電体素材の比誘電率は2〜10(好ましくは3〜6)程度とし、その誘電正接は0.00001〜0.01(好ましくは0.00001〜0.001)程度とすることが望ましい。このような条件を満たす誘電体素材としては、たとえば、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、エポキシ樹脂系、シリコーン系、ポリイミド系、シアノアクリレート樹脂系からなるものが使用できる。誘電体素材の比誘電率とその誘電正接のこのような範囲は、特段の断りのない限り、本実施形態で同様である。なお、ミリ波信号を伝送路に閉じ込める構成のミリ波信号伝送路9としては、誘電体伝送路9Aの他に、伝送路の周囲が遮蔽材で囲まれその内部が中空の中空導波路としてもよい。
伝送路結合部108には受信側信号生成部120が接続される。受信側の増幅部124は、伝送路結合部108に接続され、アンテナによって受信された後のミリ波の電気信号を増幅して周波数変換部125に供給する。周波数変換部125は、増幅後のミリ波の電気信号を周波数変換して周波数変換後の信号を復調部126に供給する。復調部126は、周波数変換後の信号を復調してベースバンドの信号を取得しシリアルパラレル変換部127に供給する。
シリアルパラレル変換部127は、シリアルの受信データをパラレルの出力データに変換して単一化処理部128に供給する。
単一化処理部128は、送信側信号生成部210の多重化処理部213と対応するものである。たとえば、多重化処理部213は、多重化処理部113と同様に、LSI機能部204からの信号の内で、ミリ波帯での通信の対象となる信号が複数種(N2とする、N1との異同は不問)ある場合に、時分割多重、周波数分割多重、符号分割多重などの多重化処理を行なうことで、複数種の信号を1系統の信号に纏める。このような信号を第2通信装置200Xから受信したとき、単一化処理部128は、多重化処理部113に対応する単一化処理部228と同様に、1系統に纏められている信号を複数種の信号_@(@は1〜N2)に分離する。たとえば、1系統の信号に纏められているN2本のデータ信号を各別に分離してLSI機能部104に供給する。
なお、第2通信装置200Xにおいて、LSI機能部204からの信号の内で、ミリ波帯での通信の対象となる信号が複数種(N2)ある場合、送信側信号生成部210において、周波数分割多重により1系統に纏められている場合がある。この場合には、周波数多重処理後の周波数帯域F_1+…+F_N2 のミリ波の電気信号を受信して周波数帯域F_@別に処理する必要がある。このため、増幅部124、周波数変換部125、復調部126、シリアルパラレル変換部127を複数種の信号_@の別に設け、各増幅部124の前段に単一化処理部128として周波数分離部を設けるとよい(図1A(2)を参照)。そして、分離後の各周波数帯域F_@のミリ波の電気信号を対応する周波数帯域F_@の系統に供給するようにすればよい。周波数分離部としては、図1A(2)に示すように各別の搬送周波数のミリ波信号が多重化されたものを各別に分離する場合はいわゆる分配器を使用すればよい。図示しないが、増幅部124を単一化処理部128の前段(伝送路結合部208側)に配置して1つに纏める構成にしてもよい。
なお、図1A(2)で示した周波数分割多重方式の使用形態は、送信部と受信部の組を複数用いて、かつ、それぞれの組で各別の搬送周波数を用いて同一方向(第1通信装置100Xから第2通信装置200Xへ)に伝送する方式であるが、周波数分割多重方式の使用形態はこれに限らない。たとえば、図1において、第1通信装置100Xの送信側信号生成部110と第2通信装置200Xの受信側信号生成部220の組で第1の搬送周波数を使用し、第1通信装置100Xの受信側信号生成部120と第2通信装置200Xの送信側信号生成部210の組で第2の搬送周波数を使用し、それぞれの組が互いに逆方向に信号伝送を同時に行なう全二重の双方向通信にすることもできる。この場合、図1における伝送路結合部108,208のアンテナ切替部としては、双方への同時の信号伝送が可能ないわゆるサーキュレータを使用すればよい。
また、送信部と受信部の組をさらに多く用いて、各組ではそれぞれ異なる搬送周波数を用いて、同一方向と逆方向を組み合せる態様にしてもよい。この場合、図1A(2)において、伝送路結合部108,208にはサーキュレータを使用しつつ、多重化処理部113,213と単一化処理部128,228を使用する構成にすればよい。
また、一部の系統は時分割多重にし、他の一部の系統は周波数分割多重にするなど、各種の多重化方式を組み合わせたシステム構成にすることも考えられる。
このように半導体チップ103を構成すると、入力信号をパラレルシリアル変換して半導体チップ203側へ伝送し、また半導体チップ203側からの受信信号をシリアルパラレル変換することにより、ミリ波変換対象の信号数が削減される。
第1通信装置100Xと第2通信装置200Xの間の元々の信号伝送がシリアル形式の場合には、パラレルシリアル変換部114およびシリアルパラレル変換部127を設けなくてもよい。
[第2通信装置]
第2通信装置200Xは、たとえば多重化処理部113との関係で単一化処理部228について既に説明し、また、単一化処理部128との関係で多重化処理部213について既に説明したように、その他についても、概ね第1通信装置100Xと同様の機能構成を備える。各機能部には200番台の参照子を付し、第1通信装置100Xと同様・類似の機能部には第1通信装置100Xと同一の10番台および1番台の参照子を付す。送信側信号生成部210と伝送路結合部208で送信部が構成され、受信側信号生成部220と伝送路結合部208で受信部が構成される。
LSI機能部204は、第2通信装置200Xの主要なアプリケーション制御を司るもので、たとえば、相手方に送信したい各種の信号を処理する回路や相手方から受信した種々の信号を処理する回路が含まれる。
[接続と動作]
入力信号を周波数変換して信号伝送するという手法は、放送や無線通信で一般的に用いられている。これらの用途では、α)どこまで通信できるか(熱雑音に対してのS/Nの問題)、β)反射やマルチパスにどう対応するか、γ)妨害や他チャネルとの干渉をどう抑えるかなどの問題に対応できるような比較的複雑な送信器や受信器などが用いられている。これに対して、本実施形態で使用する信号生成部107,207は、放送や無線通信で一般的に用いられる複雑な送信器や受信器などの使用周波数に比べて、より高い周波数帯のミリ波帯で使用され、波長λが短いため、周波数の再利用がし易く、近傍で多くのデバイス間での通信をするのに適したものが使用される。
本実施形態では、従来の電気配線を利用した信号インタフェースとは異なり、前述のようにミリ波帯で信号伝送を行なうことで高速性と大容量に柔軟に対応できるようにしている。たとえば、高速性や大容量性が求められる信号のみをミリ波帯での通信の対象としており、システム構成によっては、通信装置100X,200Xは、低速・小容量の信号用や電源供給用に、従前の電気配線によるインタフェース(端子・コネクタによる接続)を一部に備えることになる。
信号生成部107は、LSI機能部104から入力された入力信号を信号処理してミリ波の信号を生成する。信号生成部107は、たとえば、マイクロストリップライン、ストリップライン、コプレーナライン、スロットラインなどの伝送線路で伝送路結合部108に接続され、生成されたミリ波の信号が伝送路結合部108を介してミリ波信号伝送路9に供給される。
伝送路結合部108は、アンテナ構造を有し、伝送されたミリ波の信号を電磁波に変換し、電磁波を送出する機能を有する。伝送路結合部108はミリ波信号伝送路9と結合されており、ミリ波信号伝送路9の一方の端部に伝送路結合部108で変換された電磁波が供給される。ミリ波信号伝送路9の他端には第2通信装置200X側の伝送路結合部208が結合されている。ミリ波信号伝送路9を第1通信装置100X側の伝送路結合部108と第2通信装置200X側の伝送路結合部208の間に設けることにより、ミリ波信号伝送路9にはミリ波帯の電磁波が伝搬するようになる。
ミリ波信号伝送路9には第2通信装置200X側の伝送路結合部208が結合されている。伝送路結合部208は、ミリ波信号伝送路9の他端に伝送された電磁波を受信し、ミリ波の信号に変換して信号生成部207(ベースバンド信号生成部)に供給する。信号生成部207は、変換されたミリ波の信号を信号処理して出力信号(ベースバンド信号)を生成しLSI機能部204へ供給する。
ここでは第1通信装置100Xから第2通信装置200Xへの信号伝送の場合で説明したが、第2通信装置200XのLSI機能部204からの信号を第1通信装置100Xへ伝送する場合も同様に考えればよく双方向にミリ波の信号を伝送できる。
ここで、電気配線を介して信号伝送を行なう信号伝送システムでは、次のような問題がある。
i)伝送データの大容量・高速化が求められるが、電気配線の伝送速度・伝送容量には限界がある。
ii)伝送データの高速化の問題に対応するため、配線数を増やして、信号の並列化により一信号線当たりの伝送速度を落とすことが考えられる。しかしながら、この対処では、入出力端子の増大に繋がってしまう。その結果、プリント基板やケーブル配線の複雑化、コネクタ部や電気的インタフェースの物理サイズの増大などが求められ、それらの形状が複雑化し、これらの信頼性が低下し、コストが増大するなどの問題が起こる。
iii)映画映像やコンピュータ画像等の情報量の膨大化に伴い、ベースバンド信号の帯域が広くなるに従って、EMC(電磁環境適合性)の問題がより顕在化してくる。たとえば、電気配線を用いた場合は、配線がアンテナとなって、アンテナの同調周波数に対応した信号が干渉される。また、配線のインピーダンスの不整合などによる反射や共振によるものも不要輻射の原因となる。このような問題を対策するために、電子機器の構成が複雑化する。
iv)EMCの他に、反射があると受信側でシンボル間での干渉による伝送エラーや妨害の飛び込みによる伝送エラーも問題となってくる。
これに対して、本実施形態の無線伝送システム1Xは、電気配線ではなくミリ波で信号伝送を行なうようにしている。LSI機能部104からLSI機能部204に対する信号は、ミリ波信号に変換され、ミリ波信号は伝送路結合部108,208間をミリ波信号伝送路9を介して伝送する。
無線伝送のため、配線形状やコネクタの位置を気にする必要がないため、レイアウトに対する制限があまり発生しない。ミリ波による信号伝送に置き換えた信号については配線や端子を割愛できるので、EMCの問題から解消される。一般に、通信装置100X,200X内部で他にミリ波帯の周波数を使用している機能部は存在しないため、EMCの対策が容易に実現できる。
第1通信装置100Xと第2通信装置200Xを近接した状態での無線伝送であり、固定位置間や既知の位置関係の信号伝送であるため、次のような利点が得られる。
1)送信側と受信側の間の伝搬チャネル(導波構造)を適正に設計することが容易である。
2)送信側と受信側を封止する伝送路結合部の誘電体構造と伝搬チャネル(ミリ波信号伝送路9の導波構造)を併せて設計することで、自由空間伝送より、信頼性の高い良好な伝送が可能になる。
3)無線伝送を管理するコントローラ(本例ではLSI機能部104)の制御も一般の無線通信のように動的にアダプティブに頻繁に行なう必要はないため、制御によるオーバーヘッドを一般の無線通信に比べて小さくすることができる。その結果、小型、低消費電力、高速化が可能になる。
4)製造時や設計時に無線伝送環境を校正し、個体のばらつきなどを把握すれば、そのデータを参照して伝送することでより高品位の通信が可能になる。
5)反射が存在していても、固定の反射であるので、小さい等化器で容易にその影響を受信側で除去できる。等化器の設定も、プリセットや静的な制御で可能であり、実現が容易である。
また、波長の短いミリ波帯での無線通信であることで、次のような利点が得られる。
a)ミリ波通信は通信帯域を広く取れるため、データレートを大きくとることが簡単にできる。
b)伝送に使う周波数が他のベースバンド信号処理の周波数から離すことができ、ミリ波とベースバンド信号の周波数の干渉が起こり難い。
c)ミリ波帯は波長が短いため、波長に応じてきまるアンテナや導波構造を小さくできる。加えて、距離減衰が大きく回折も少ないため電磁シールドが行ない易い。
d)通常の野外での無線通信では、搬送波の安定度については、干渉などを防ぐため、厳しい規制がある。そのような安定度の高い搬送波を実現するためには、高い安定度の外部周波数基準部品と逓倍回路やPLL(位相同期ループ回路)などが用いられ、回路規模が大きくなる。しかしながら、ミリ波では(特に固定位置間や既知の位置関係の信号伝送との併用時は)、ミリ波は容易に遮蔽でき、外部に漏れないようにでき、安定度の低い搬送波を伝送に使用することができ、回路規模の増大を抑えることができる。安定度を緩めた搬送波で伝送された信号を受信側で小さい回路で復調するのには、注入同期方式(詳細は後述する)を採用するのが好適である。
なお、本実施形態では、無線伝送システムの一例として、ミリ波帯で通信を行なうシステムを例示したが、その適用範囲はミリ波帯で通信を行なうものに限定されない。ミリ波帯を下回る周波数帯や、逆にミリ波帯を超える周波数帯での通信を適用してもよい。たとえばマイクロ波帯を適用してもよい。ただし、筐体内信号伝送や機器間信号伝送において、注入同期方式を採用し、また、タンク回路を含む発振回路の全体をCMOSチップ上に形成するという点においては、ミリ波帯を使用するのが最も効果的であると考えられる。
<通信処理系統:変形例>
図2〜図2Bは、無線伝送システムの変形構成を説明する図である。ここで、図2は、変形構成で採用する「空間分割多重」の概要を示した図(イメージ図)である。図2Aは、「空間分割多重」の適正条件(適用条件)を説明する図である。図2Bは、変形構成の無線伝送システム1Yの信号インタフェースを機能構成面から説明する図である。
変形構成の無線伝送システム1Yは、複数組の伝送路結合部108,208の対を用いることで、複数系統のミリ波信号伝送路9を備える点に特徴を有する。複数系統のミリ波信号伝送路9は、空間的に干渉しない(干渉の影響がない)ように設置され、複数系統の信号伝送において、同一周波数や同一時間に通信を行なうことができるものとする。
「空間的に干渉しない」ということは、複数系統の信号を独立して伝送できることを意味する。このような仕組みを空間分割多重と称する。伝送チャネルの多チャネル化を図る際に、空間分割多重を適用しない場合は周波数分割多重を適用して各チャネルでは異なる搬送周波数を使用することが必要になるが、空間分割多重を適用すれば、同一の搬送周波数でも干渉の影響を受けずに伝送できるようになる。
「空間分割多重」とは、ミリ波信号(電磁波)を伝送可能な3次元空間において、複数系統のミリ波信号伝送路9を形成するものであればよく、自由空間中に複数系統のミリ波信号伝送路9を構成することに限定されない。たとえば、ミリ波信号(電磁波)を伝送可能な3次元空間が誘電体素材(有体物)から構成されている場合に、その誘電体素材中に複数系統のミリ波信号伝送路9を形成するものでもよい。また、複数系統のミリ波信号伝送路9のそれぞれも、自由空間であることに限定されず、誘電体伝送路や中空導波路などの形態を採ってよい。
[空間分割多重用のミリ波信号伝送路の構造例]
図2には、空間分割多重用のミリ波信号伝送路の構造例が示されている。伝送チャネルの多チャネル化を図る際に、空間分割多重を適用しない場合は、たとえば周波数分割多重を適用して各チャネルでは異なる搬送周波数を使用することが考えられるが、空間分割多重を適用すれば、同一の搬送周波数でも干渉の影響を受けずに同時に信号伝送ができる。
つまり「空間分割多重」は、ミリ波信号(電磁波)を伝送可能な3次元空間において、複数系統の独立したミリ波信号伝送路9を形成するものであればよく、自由空間中に複数系統の自由空間伝送路9Bを、干渉しない距離を保って構成すること(図2(1)を参照)に限定されない。
たとえば、図2(2)に示すように、自由空間中に複数系統の自由空間伝送路9Bを設ける場合に、伝送チャネル間での干渉を抑えるために、電波伝搬を妨げる構造物(ミリ波遮蔽体MX)を伝送チャネル間に配置してもよい。ミリ波遮蔽体MXは導電体であるか否かは問わない。
複数系統のミリ波信号伝送路9のそれぞれも、自由空間であることに限定されず、ミリ波閉込め構造の形態を採ってもよい。ミリ波閉込め構造としては、たとえば、図2(3)に示すように、誘電体素材を含んで構成された誘電体伝送路9Aを採用し得る。誘電体伝送路9Aでミリ波閉込め構造にする場合、図2(4)に示すように、その外周にミリ波信号の外部放射を抑える金属部材などの導電体の遮蔽材(ミリ波遮蔽材MY)を設けて、ミリ波の外部放射を抑えるようにしてもよい。ミリ波遮蔽材MYは、好ましくは基板上の固定電位(たとえば接地電位)にする。
ミリ波閉込め構造の他の例としては、周囲が遮蔽材で囲まれ内部が中空の構造の中空導波路9Lとしてもよい。たとえば、図2(5)に示すように、周囲が遮蔽材の一例である導電体MZで囲まれ内部が中空の構造にする。導電体MZの囲いは、対向して配置された2枚の基板の何れに設けてもよい。導電体MZによる囲いと基板との間の距離L(導電体MZの端から相対する基板までの隙間の長さ)はミリ波の波長に比べて十分小さい値に設定する。
図2(2)と図2(5)の対比では、中空導波路9Lは、自由空間伝送路9Bにおいてミリ波遮蔽体MXを配置した構造に似通っているが、アンテナを取り囲むようにミリ波遮蔽材の一例である導電体MZが設けられる点が異なる。導電体MZの内部が中空であるので誘電体素材を使用する必要がなく低コストで簡易にミリ波信号伝送路9を構成できる。導電体MZは、好ましくは基板上の固定電位(たとえば接地電位)にする。
中空導波路9Lは、基板上の導電体MZで囲いを形成することに限らず、たとえば、図2(6)に示すように、比較的厚めの基板に穴(貫通でもよいし貫通させなくてもよい)を開けて、その穴の壁面を囲いに利用するように構成してもよい。穴の断面形状は、円形・三角・四角など任意である。この場合、基板が遮蔽材として機能する。穴は、対向して配置された2枚の基板の何れか一方であってもよいし双方であってもよい。穴の側壁は導電体で覆われていてもよいし、覆われてなくてもよい。穴を貫通させる場合には、半導体チップの裏面にアンテナを配置する(取り付ける)とよい。穴を貫通させずに途中で止める(非貫通穴とする)場合、穴の底にアンテナを設置すればよい。
誘電体伝送路9Aおよび中空導波路9Lは、囲いによってミリ波が誘電体伝送路9Aや中空導波路9Lの中に閉じ込められるため、ミリ波の伝送損失が少なく効率的に伝送できる、ミリ波の外部放射を抑える、EMC対策がより楽になるなどの利点が得られる。
ミリ波閉込め構造のさらなる他の例としては、ミリ波信号(電磁波)を伝送可能な3次元空間が誘電体素材(有体物)から構成されている場合に、誘電体素材中に複数系統の独立したミリ波信号伝送路9(詳しくは誘電体伝送路9A:以下この段落において同様)を形成するものでもよい。たとえば、電子回路部品を搭載したプリント基板自体を誘電体素材で構成し、そのプリント基板を誘電体伝送路9Aとして利用することが考えられる。この際に、その基板内に独立した複数の誘電体伝送路9Aを形成することが考えられる。
[空間分割多重の適正条件]
図2Aには、空間分割多重を適用する場合の適正条件の設定の仕方が示されている。たとえば、図2A(1)に示すように、自由空間の伝播損失Lは、距離をd、波長をλとして“L[dB]=10log10((4πd/λ)2)…(A)”で表すことができる。
図2Aに示すように、空間分割多重の通信を2種類考える。図では送信器を「TX」、受信器を「RX」で示している。参照子「_100」は第1通信装置100Y側であり、参照子「_200」は第2通信装置200Y側である。図2A(2)は、第1通信装置100Yに、2系統の送信器TX_100_1,TX_100_2を備え、第2通信装置200Yに、2系統の受信器RX_200_1,RX_200_2を備える。つまり、第1通信装置100Y側から第2通信装置200Y側への信号伝送が送信器TX_100_1と受信器RX_200_1の間および送信器TX_100_2と受信器RX_200_2の間で行なわれる。つまり、第1通信装置100Y側から第2通信装置200Y側への信号伝送が2系統で行なわれる態様である。
一方、図2A(3)は、第1通信装置100Yに、送信器TX_100と受信器RX_100を備え、第2通信装置200Yに、送信器TX_200と受信器RX_200を備える。つまり、第1通信装置100Y側から第2通信装置200Y側への信号伝送が送信器TX_100と受信器RX_200の間で行なわれ、第2通信装置200Y側から第1通信装置100Y側への信号伝送が送信器TX_200と受信器RX_100の間で行なわれる。送信用と受信用に別の通信チャネルを使用する考え方で、同時に双方からデータの送信(TX)と受信(RX)が可能な全二重通信(Full Duplex )の態様である。
ここで、指向性のないアンテナを使用して、必要DU[dB](所望波と不要波の比)を得るために必要なアンテナ間距離d1と空間的なチャネル間隔(具体的には自由空間伝送路9Bの離隔距離)d2の関係は、式(A)より、“d2/d1=10(DU/20)…(B)”となる。
たとえば、DU=20dBの場合は、d2/d1=10となり、d2はd1の10倍必要となる。通常は、アンテナにある程度の指向性があるため、自由空間伝送路9Bの場合であっても、d2をもっと短く設定することができる。
たとえば、通信相手のアンテナとの距離が近ければ、各アンテナの送信電力は低く抑えることができる。送信電力が十分低く、アンテナ対同士が十分離れた位置に設置できれば、アンテナ対の間での干渉は十分低く抑えることができる。特に、ミリ波通信では、ミリ波の波長が短いため、距離減衰が大きく回折も少ないため、空間分割多重を実現し易い。たとえば、自由空間伝送路9Bであっても、空間的なチャネル間隔(自由空間伝送路9Bの離隔距離)d2を、アンテナ間距離d1の10倍よりも少なく設定することができる。
ミリ波閉込め構造を持つ誘電体伝送路や中空導波路の場合、内部にミリ波を閉じこめて伝送できるので、空間的なチャネル間隔(自由空間伝送路の離隔距離)d2を、アンテナ間距離d1の10倍よりも少なくでき、特に、自由空間伝送路9Bとの対比ではチャネル間隔をより近接させることができる。
[空間分割多重を適用するシステム構成]
図2Bには、空間分割多重を適用する変形構成の無線伝送システム1Yが示されている。前述の空間分割多重に関する説明から理解されるように、変形構成の無線伝送システム1Yは、第1通信装置100Yと第2通信装置200Yとの間に、複数系統のミリ波信号伝送路9を備えている。
空間分割多重では、同一周波数帯域を同一時間に使用することができるため、通信速度を増加できるし、また、第1通信装置100Yから第2通信装置200YへのN1チャネル分の信号伝送と、第2通信装置200Yから第1通信装置100YへのN2チャネル分の信号伝送を同時に行なう双方向通信の同時性を担保できる。特に、ミリ波は、波長が短く距離による減衰効果を期待でき、小さいオフセット(伝送チャネルの空間距離が小さい場合)でも干渉が起き難く、場所により異なった伝搬チャネルを実現し易い。
図2Bに示すように、この変形例の無線伝送システム1Yは、ミリ波伝送端子、ミリ波伝送線路、アンテナなどを具備する伝送路結合部108,208を「N1+N2」系統有するとともに、ミリ波信号伝送路9を「N1+N2」系統有する。それぞれには、参照子“_@”(@は1〜N1+N2)を付す。これにより、送受信に対するミリ波伝送を独立して行なう全二重の伝送方式が実現できる。
第1通信装置100Yは、多重化処理部113および単一化処理部128を取り外し、第2通信装置200Yは、多重化処理部213および単一化処理部228を取り外している。この例では、電源供給を除く全ての信号をミリ波で伝送する対象にしている。なお、図1A(2)に示した周波数分割多重と似通っているが、送信側信号生成部110および受信側信号生成部220はN1系統分が設けられ、送信側信号生成部210および受信側信号生成部120はN2系統分が設けられることになる。
なお、ここでは、基本的な構成について説明しているが、これは一例に過ぎず、送信側信号生成部110、受信側信号生成部120、送信側信号生成部210、受信側信号生成部220を半導体チップ103,203に収容する形態は図示したものに限定されない。たとえば、送信側信号生成部110と受信側信号生成部120をそれぞれ1系統収容した信号生成部107のみの半導体チップ103と、送信側信号生成部210と受信側信号生成部220をそれぞれ1系統収容した信号生成部207のみの半導体チップを使用してシステムを構成してもよい。また、送信側信号生成部110、受信側信号生成部120、送信側信号生成部210、受信側信号生成部220をそれぞれ各別の半導体チップ103,203に収容してシステムを構成してもよい。それらの変形によっては、N1=N2=Nとしてシステムを構成することもある。
また、半導体チップ103,203に収容する機能部を如何様にするかは、第1通信装置100Y側と第2通信装置200Y側を対にして行なう必要はなく、任意の組合せにしてもよい。たとえば、第1通信装置100Y側は送信側のN1系統分と受信側のN2系統分を1チップに収容した形態を採るが、第2通信装置200Y側は、送信側信号生成部210、受信側信号生成部220をそれぞれ各別の半導体チップ203に収容したものとしてもよい。
各系統の搬送周波数は同一でもよいし異なっていてもよい。たとえば、誘電体伝送路や中空導波路の場合はミリ波が内部に閉じこめられるのでミリ波干渉を防ぐことができ、同一周波数でも全く問題ない。自由空間伝送路の場合は、自由空間伝送路同士がある程度隔てられていれば同一でも問題ないが、近距離の場合には異なっていた方がよい。
たとえば、双方向通信を実現するには、空間分割多重の他に、基本構成で説明したように時分割多重を行なう方式や周波数分割多重などが考えられる。基本構成では、1系統のミリ波信号伝送路9を有し、データ送受信を実現する方式として、時分割多重により送受信を切り替える半二重方式、周波数分割多重により送受信を同時に行なう全二重方式の何れかが採用される。
ただし、時分割多重の場合は、送信と受信とを並行して行なうことができないという問題がある。また、図1Aに示したように、周波数分割多重の場合は、ミリ波信号伝送路9の帯域幅を広くしなければならないという問題がある。
これに対して、この変形例の無線伝送システム1Yでは、複数の信号伝送系統(複数チャネル)において、搬送周波数の設定を同一にでき、搬送周波数の再利用(複数チャネルで同一周波数を使用すること)が容易になる。ミリ波信号伝送路9の帯域幅を広くしなくても信号の送受信を同時に実現できる。また、同方向に複数の伝送チャネルを使用して、同一周波数帯域を同一時間に使用すると通信速度の増加が可能となる。
N種(N=N1=N2)のベースバンド信号に対してミリ波信号伝送路9がN系統の場合に、双方向の送受信を行なうには、送受信に関して時分割多重や周波数分割多重を適用すればよい。また、2N系統のミリ波信号伝送路9を使用すれば、双方向の送受信に関しても別系統のミリ波信号伝送路9を使用した(全て独立の伝送路を使用した)伝送を行なうことができる。つまり、ミリ波帯での通信の対象となる信号がN種ある場合に、時分割多重、周波数分割多重、符号分割多重などの多重化処理を行なわなくても、それらを2N系統の各別のミリ波信号伝送路9で伝送することもできる。
また、一部の系統は時分割多重にし、他の一部の系統は周波数分割多重にし、他の一部の系統は空間分割多重にするなど、各種の多重化方式を組み合わせたシステム構成にすることも考えられる。また、空間分割多重にする際には、一部は自由空間伝送路9Bで対処し、他の一部は誘電体伝送路9Aや中空導波路9Lなどのミリ波閉込め構造を持つもので対処するなど、ミリ波信号伝送路9も各種のものを組み合わせたシステム構成にすることも考えられる。
<変調および復調:比較例>
図3は、通信処理系統における変調機能部および復調機能部の比較例を説明する図である。
[変調機能部:比較例]
図3(1)には、送信側に設けられる比較例の変調機能部8300Xの構成が示されている。伝送対象の信号(たとえば12ビットの画像信号)はパラレルシリアル変換部114により、高速なシリアル・データ系列に変換され変調機能部8300Xに供給される。
変調機能部8300Xとしては、変調方式に応じて様々な回路構成を採り得るが、たとえば、振幅や位相を変調する方式であれば、周波数混合部8302と送信側局部発振部8304を備えた構成を採用すればよい。
送信側局部発振部8304(第1の搬送信号生成部)は、変調に用いる搬送信号(変調搬送信号)を生成する。周波数混合部8302(第1の周波数変換部)は、パラレルシリアル変換部8114(パラレルシリアル変換部114と対応)からの信号で送信側局部発振部8304が発生するミリ波帯の搬送波と乗算(変調)してミリ波帯の変調信号を生成して増幅部8117(増幅部117と対応)に供給する。変調信号は増幅部8117で増幅されアンテナ8136から放射される。
[復調機能部:比較例]
図3(2)には、受信側に設けられる比較例の復調機能部8400Xの構成が示されている。復調機能部8400Xは、送信側の変調方式に応じた範囲で様々な回路構成を採用し得るが、ここでは、変調機能部8300Xの前記の説明と対応するように、振幅や位相が変調されている方式の場合で説明する。
比較例の復調機能部8400Xは、2入力型の周波数混合部8402(ミキサー回路)を備え、受信したミリ波信号(の包絡線)振幅の二乗に比例した検波出力を得る自乗検波回路を用いる。なお、自乗検波回路に代えて自乗特性を有しない単純な包絡線検波回路を使用することも考えられる。図示した例では、周波数混合部8402の後段にフィルタ処理部8410とクロック再生部8420(CDR:クロック・データ・リカバリ /Clock Data Recovery)とシリアルパラレル変換部8127(S−P:シリアルパラレル変換部127と対応)が設けられている。フィルタ処理部8410には、たとえば低域通過フィルタ(LPF)が設けられる。
アンテナ8236で受信されたミリ波受信信号は可変ゲイン型の増幅部8224(増幅部224と対応)に入力され振幅調整が行なわれた後に復調機能部8400Xに供給される。振幅調整された受信信号は周波数混合部8402の2つの入力端子に同時に入力され自乗信号が生成され、フィルタ処理部8410に供給される。周波数混合部8402で生成された自乗信号は、フィルタ処理部8410の低域通過フィルタで高域成分が除去されることで送信側から送られてきた入力信号の波形(ベースバンド信号)が生成され、クロック再生部8420に供給される。
クロック再生部8420(CDR)は、このベースバンド信号を元にサンプリング・クロックを再生し、再生したサンプリング・クロックでベースバンド信号をサンプリングすることで受信データ系列を生成する。生成された受信データ系列はシリアルパラレル変換部8227(S−P)に供給され、パラレル信号(たとえば12ビットの画像信号)が再生される。クロック再生の方式としては様々な方式があるがたとえばシンボル同期方式を採用する。
[比較例の問題点]
ここで、比較例の変調機能部8300Xと復調機能部8400Xで無線伝送システムを構成する場合、次のような難点がある。
先ず、発振回路については、次のような難点がある。たとえば、野外(屋外)通信においては、多チャネル化を考慮する必要がある。この場合、搬送波の周波数変動成分の影響を受けるため、送信側の搬送波の安定度の要求仕様が厳しい。筐体内信号伝送や機器間信号伝送において、ミリ波でデータを伝送するに当たり、送信側と受信側に、屋外の無線通信で用いられているような通常の手法を用いようとすると、搬送波に安定度が要求され、周波数安定度数がppm(parts per million )オーダー程度の安定度の高いミリ波の発振回路が必要となる。
周波数安定度が高い搬送信号を実現するためには、たとえば、安定度の高いミリ波の発振回路をシリコン集積回路(CMOS:Complementary Metal-oxide Semiconductor )上に実現することが考えられる。しかしながら、通常のCMOSで使われるシリコン基板は絶縁性が低いため、容易にQ値(Quality Factor)の高いタンク回路が形成できず、実現が容易でない。たとえば、参考文献Aに示されているように、CMOSチップ上でインダクタンスを形成した場合、そのQ値は30〜40程度になってしまう。
参考文献A:A. Niknejad, “mm-Wave Silicon Technology 60GHz and Beyond”(特に3.1.2 Inductors pp70〜71), ISBN 978-0-387-76558-7
よって、安定度の高い発振回路を実現するには、たとえば、発振回路の本体部分が構成されているCMOS外部に水晶振動子などで高いQ値のタンク回路を設けて低い周波数で発振させ、その発振出力を逓倍してミリ波帯域へ上げるという手法を採ることが考えられる。しかし、LVDS(Low Voltage Differential Signaling)などの配線による信号伝送をミリ波による信号伝送に置き換える機能を実現するのに、このような外部タンクを全てのチップに設けることは好ましくない。
OOK(On-Off-Keying )のような振幅を変調する方式を用いれば、受信側では包絡線検波をすればよいので、発振回路が不要になりタンク回路の数を減らすことはできる。しかしながら、信号の伝送距離が長くなると受信振幅が小さくなり、包絡線検波の一例として自乗検波回路を用いる方式では、受信振幅が小さくなることの影響が顕著になり信号歪みが影響してくるので不利である。換言すると、自乗検波回路は、感度的に不利である。
周波数安定度数高い搬送信号を実現するための他の手法として、たとえば、高い安定度の周波数逓倍回路やPLL回路などを使用することが考えられるが、回路規模が増大してしまう。たとえば、参考文献Bには、プッシュ−プッシュ(Push-push )発振回路を使うことで60GHz発振回路をなくし、小さくはしているが、これでもまだ30GHzの発振回路や分周器、位相周波数検出回路(Phase Frequency Detector:PFD)、外部のレファレンス(この例では117MHz)などが必要で、明らかに回路規模が大きい。
参考文献B:“A 90nm CMOS Low-Power 60GHz Tranceiver with Intergrated Baseband Circuitry”,ISSCC 2009/SESSION 18/RANGING AND Gb/s COMMUNICATION /18.5,2009 IEEE International Solid-State Circuits Conference,pp314〜316
自乗検波回路は受信信号から振幅成分しか取り出せないので、用いることのできる変調方式は振幅を変調する方式(たとえばOOKなどのASK)に限られ、位相や周波数を変調する方式の採用が困難となる。位相変調方式の採用が困難になると言うことは、変調信号を直交化してデータ伝送レートを上げることができないということに繋がる。
また、周波数分割多重方式により多チャネル化を実現する場合に、自乗検波回路を用いる方式では、次のような難点がある。受信側の周波数選択のためのバンドパスフィルタを自乗検波回路の前段に配置する必要があるが、急峻なバンドパスフィルタを小型に実現するのは容易ではない。また、急峻なバンドパスフィルタを用いた場合は送信側の搬送周波数の安定度についても要求仕様が厳しくなる。
<変調および復調:基本>
図4〜図5Aは、通信処理系統における変調機能および復調機能の基本構成を説明する図である。ここで、図4は、送信側に設けられる本実施形態の変調機能部8300(変調部115,215と周波数変換部116,216)とその周辺回路で構成される送信側信号生成部8110(送信側の通信部)の基本構成例を説明する図である。図5は、受信側に設けられる本実施形態の復調機能部8400(周波数変換部125,225と復調部126,226)とその周辺回路で構成される受信側信号生成部8220(受信側の通信部)の基本構成例を説明する図である。図5Aは注入同期の位相関係を説明する図である。
前述の比較例における問題に対する対処として、本実施形態の復調機能部8400は、注入同期(インジェクションロック)方式を採用する。
注入同期方式にする場合には、好ましくは、受信側での注入同期がし易くなるように変調対象信号に対して予め適正な補正処理を施しておく。典型的には、変調対象信号に対して直流近傍成分を抑圧してから変調する、つまり、DC(直流)付近の低域成分を抑圧(カット)してから変調することで、搬送周波数fc近傍の変調信号成分ができるだけ少なくなるようにし、受信側での注入同期がし易くなるようにしておく。DCだけでなくその周りも抑圧した方がよいと言うことである。デジタル方式の場合、たとえば同符号の連続によってDC成分が発生してしまうことを解消するべくDCフリー符号化を行なう。
また、ミリ波帯に変調された信号(変調信号)と合わせて、変調に使用した搬送信号と対応する受信側での注入同期の基準として使用される基準搬送信号も送出するのが望ましい。基準搬送信号は、送信側局部発振部8304から出力される変調に使用した搬送信号と対応する周波数と位相(さらに好ましくは振幅も)が常に一定(不変)の信号であり、典型的には変調に使用した搬送信号そのものであるが、少なくとも搬送信号に同期していればよく、これに限定されない。たとえば、変調に使用した搬送信号と同期した別周波数の信号(たとえば高調波信号)や同一周波数ではあるが別位相の信号(たとえば変調に使用した搬送信号と直交する直交搬送信号)でもよい。
変調方式や変調回路によっては、変調回路の出力信号そのものに搬送信号が含まれる場合(たとえば標準的な振幅変調やASKなど)と、搬送波を抑圧する場合(搬送波抑圧方式の振幅変調やASKやPSKなど)がある。よって、送信側からミリ波帯に変調された信号と合わせて基準搬送信号も送出するための回路構成は、基準搬送信号の種類(変調に使用した搬送信号そのものを基準搬送信号として使用するか否か)や変調方式や変調回路に応じた回路構成を採ることになる。
[変調機能部]
図4には、変調機能部8300とその周辺回路の基本構成が示されている。変調機能部8300(周波数混合部8302)の前段に変調対象信号処理部8301が設けられている。図4に示す各例は、デジタル方式の場合に対応した構成例を示しており、変調対象信号処理部8301は、パラレルシリアル変換部8114から供給されたデータに対して、同符号の連続によってDC成分が発生してしまうことを解消するべく、8−9変換符号化(8B/9B符号化)や8−10変換符号化(8B/10B符号化)やスクランブル処理などのDCフリー符号化を行なう。図示しないが、アナログ変調方式では変調対象信号に対してハイパスフィルタ処理(またはバンドパスフィルタ処理)をしておくのがよい。
8−10変換符号化では、8ビットデータを10ビット符号に変換する。たとえば、10ビット符号として1024通りの中から“1”と“0”の個数のなるべく等しいものをデータ符号に採用することでDCフリー特性を有するようにする。データ符号に採用しない一部の10ビット符号は、たとえば、アイドルやパケット区切りなどを示す特殊な符号として用いる。スクランブル処理は、たとえば、無線LAN(IEEE802.11a)などで使われている。
ここで、図4(1)に示す基本構成1は、基準搬送信号処理部8306と信号合成部8308を設けて、変調回路(第1の周波数変換部)の出力信号(変調信号)と基準搬送信号を合成(混合)するという操作を行なう。基準搬送信号の種類や変調方式や変調回路に左右されない万能な方式と言える。ただし、基準搬送信号の位相によっては、合成された基準搬送信号が受信側での復調時に直流オフセット成分として検出されベースバンド信号の再現性に影響を与えることもある。その場合は、受信側で、その直流成分を抑制する対処をとるようにする。換言すると、復調時に直流オフセット成分を除去しなくても良い位相関係の基準搬送信号にするのがよい。
基準搬送信号処理部8306では、必要に応じて送信側局部発振部8304から供給された変調搬送信号に対して位相や振幅を調整し、その出力信号を基準搬送信号として信号合成部8308に供給する。たとえば、本質的には周波数混合部8302の出力信号そのものには周波数や位相が常に一定の搬送信号を含まない方式(周波数や位相を変調する方式)の場合や、変調に使用した搬送信号の高調波信号や直交搬送信号を基準搬送信号として使用する場合に、この基本構成1が採用される。
この場合、変調に使用した搬送信号の高調波信号や直交搬送信号を基準搬送信号に使用することができるし、変調信号と基準搬送信号の振幅や位相を各別に調整できる。すなわち、増幅部8117では変調信号の振幅に着目した利得調整を行ない、このときに同時に基準搬送信号の振幅も調整されるが、注入同期との関係で好ましい振幅となるように基準搬送信号処理部8306で基準搬送信号の振幅のみを調整できる。
なお、基本構成1では、信号合成部8308を設けて変調信号と基準搬送信号を合成しているが、このことは必須ではなく、図4(2)に示す基本構成2のように、変調信号と基準搬送信号を各別のアンテナ8136_1,8136_2で、好ましくは干渉を起さないように各別のミリ波信号伝送路9で受信側に送ってもよい。基本構成2では、振幅も常に一定の基準搬送信号を受信側に送出でき、注入同期の取り易さの観点では最適の方式と言える。
基本構成1,2の場合、変調に使用した搬送信号(換言すると送出される変調信号)と基準搬送信号の振幅や位相を各別に調整できる利点がある。したがって、伝送対象情報を載せる変調軸と注入同期に使用される基準搬送信号の軸(基準搬送軸)を、同相ではなく、異なる位相にして復調出力に直流オフセットが発生しないようにするのに好適な構成と言える。
周波数混合部8302の出力信号そのものに周波数や位相が常に一定の搬送信号が含まれ得る場合には、基準搬送信号処理部8306や信号合成部8308を具備しない図4(3)に示す基本構成3を採用し得る。周波数混合部8302によりミリ波帯に変調された変調信号のみを受信側に送出し、変調信号に含まれる搬送信号を基準搬送信号として扱えばよく、周波数混合部8302の出力信号にさらに別の基準搬送信号を加えて受信側に送る必要はない。たとえば、振幅を変調する方式(たとえばASK方式)の場合に、この基本構成3が採用され得る。このとき、好ましくは、DCフリー処理を行なっておくのが望ましい。
ただし、振幅変調やASKにおいても、周波数混合部8302を積極的に搬送波抑圧方式の回路(たとえば平衡変調回路や二重平衡変調回路)にして、基本構成1,2のように、その出力信号(変調信号)と合わせて基準搬送信号も送るようにしてもよい。
なお、位相や周波数を変調する方式の場合にも、図4(4)に示す基本構成4のように、変調機能部8300(たとえば直交変調を使用する)でミリ波帯に変調(周波数変換)した変調信号のみを送出することも考えられる。しかしながら、受信側で注入同期がとれるか否かは、注入レベル(注入同期方式の発振回路に入力される基準搬送信号の振幅レベル)や変調方式やデータレートや搬送周波数なども関係し、適用範囲に制限がある。
基本構成1〜4の何れも、図中に点線で示すように、受信側での注入同期検出結果に基づく情報を受信側から受け取り、変調搬送信号の周波数やミリ波(特に受信側で注入信号に使用されるもの:たとえば基準搬送信号や変調信号)や基準搬送信号の位相を調整する仕組みを採ることができる。受信側から送信側への情報の伝送はミリ波で行なうことは必須ではなく、有線・無線を問わず任意の方式でよい。
基本構成1〜4の何れも、送信側局部発振部8304を制御することで変調搬送信号(や基準搬送信号)の周波数が調整される。
基本構成1,2では、基準搬送信号処理部8306や増幅部8117を制御することで基準搬送信号の振幅や位相が調整される。なお、基本構成1では、送信電力を調整する増幅部8117により基準搬送信号の振幅を調整することも考えられるが、その場合は変調信号の振幅も一緒に調整されてしまう難点がある。
振幅を変調する方式(アナログの振幅変調やデジタルのASK)に好適な基本構成3では、変調対象信号に対する直流成分を調整するか、変調度(変調率)を制御することで、変調信号中の搬送周波数成分(基準搬送信号の振幅に相当)が調整される。たとえば、伝送対象信号に直流成分を加えた信を変調する場合を考える。この場合において、変調度を一定にする場合、直流成分を制御することで基準搬送信号の振幅が調整される。また、直流成分を一定にする場合、変調度を制御することで基準搬送信号の振幅が調整される。
ただしこの場合、信号合成部8308を使用するまでもなく、周波数混合部8302から出力される変調信号のみを受信側に送出するだけで、自動的に、搬送信号を伝送対象信号で変調した変調信号と変調に使用した搬送信号とが混合された信号となって送出される。必然的に、変調信号の伝送対象信号を載せる変調軸と同じ軸(つまり変調軸と同相で)に基準搬送信号が載ることになる。受信側では、変調信号中の搬送周波数成分が基準搬送信号として注入同期に使用されることになる。ここで、詳細は後述するが、位相平面で考えたとき、伝送対象情報を載せる変調軸と注入同期に使用される搬送周波数成分(基準搬送信号)の軸が同相となり、復調出力には搬送周波数成分(基準搬送信号)に起因する直流オフセットが発生する。
[復調機能部]
図5には、復調機能部8400とその周辺回路の基本構成が示されている。本実施形態の復調機能部8400は、受信側局部発振部8404を備え、注入信号を受信側局部発振部8404に供給することで、送信側で変調に使用した搬送信号に対応した出力信号を取得する。典型的には送信側で使用した搬送信号に同期した発振出力信号を取得する。そして、受信したミリ波変調信号と受信側局部発振部8404の出力信号に基づく復調用の搬送信号(復調搬送信号:再生搬送信号と称する)を周波数混合部8402で乗算する(同期検波する)ことで同期検波信号を取得する。この同期検波信号はフィルタ処理部8410で高域成分の除去が行なわれることで送信側から送られてきた入力信号の波形(ベースバンド信号)が得られる。以下、比較例と同様である。
周波数混合部8402は、同期検波により周波数変換(ダウンコンバート・復調)を行なうことで、たとえばビット誤り率特性が優れる、直交検波に発展させることで位相変調や周波数変調を適用できるなどの利点が得られる。
受信側局部発振部8404の出力信号に基づく再生搬送信号を周波数混合部8402に供給して復調するに当たっては、位相ズレを考慮する必要があり、同期検波系において位相調整回路を設けることが肝要となる。たとえば、参考文献Cに示されているように、受信した変調信号と受信側局部発振部8404で注入同期により出力される発振出力信号には、位相差があるからである。
参考文献C:L. J. Paciorek, “Injection Lock of Oscillators”, Proceeding of the IEEE, Vol. 55 NO. 11, November 1965 ,pp1723〜1728
この例では、その位相調整回路の機能だけでなく注入振幅を調整する機能も持つ位相振幅調整部8406を復調機能部8400に設けている。位相調整回路は、受信側局部発振部8404への注入信号、受信側局部発振部8404の出力信号の何れに対して設けても良く、その両方に適用してもよい。受信側局部発振部8404と位相振幅調整部8406で、変調搬送信号と同期した復調搬送信号を生成して周波数混合部8402に供給する復調側(第2)の搬送信号生成部が構成される。
図中に点線で示すように、周波数混合部8402の後段には、変調信号に合成された基準搬送信号の位相に応じて(具体的には変調信号と基準搬送信号が同相時)、同期検波信号に含まれ得る直流オフセット成分を除去する直流成分抑制部8407を設ける。
ここで、参考文献Cに基づけば、受信側局部発振部8404の自走発振周波数をfo(ωo)、注入信号の中心周波数(基準搬送信号の場合はその周波数)をfi(ωi)、受信側局部発振部8404への注入電圧をVi、受信側局部発振部8404の自走発振電圧をVo、Q値(Quality Factor)をQとすると、ロックレンジを最大引込み周波数範囲Δfomax で示す場合、式(A)で規定される。式(A)より、Q値がロックレンジに影響を与え、Q値が低い方がロックレンジが広くなることが分かる。
Δfomax =fo/(2*Q)*(Vi/Vo)*1/sqrt(1−(Vi/Vo)^2)…(A)
式(A)より、注入同期により発振出力信号を取得する受信側局部発振部8404は、注入信号の内のΔfomax 内の成分にはロック(同期)し得るが、Δfomax 外の成分にはロックし得ず、バンドパス効果を持つと言うことが理解される。たとえば、周波数帯域を持った変調信号を受信側局部発振部8404に供給して注入同期により発振出力信号を得る場合、変調信号の平均周波数(搬送信号の周波数)に同期した発振出力信号が得られ、Δfomax 外の成分は取り除かれるようになる。
ここで、受信側局部発振部8404に注入信号を供給するに当たっては、図5(1)に示す基本構成1のように、受信したミリ波信号を注入信号として受信側局部発振部8404に供給することが考えられる。この場合、Δfomax 内に変調信号の周波数成分が多く存在することは好ましくなく、少ない方が望ましい。「少ない方が望ましい」と記載したのは、ある程度は存在していても適切に信号入力レベルや周波数を調整すれば注入同期が可能であることに基づく。つまり、注入同期に不要な周波数成分も受信側局部発振部8404に供給され得るので注入同期が取り難いことが懸念される。しかしながら、送信側で予め、変調対象信号に対して低域成分を抑圧(DCフリー符号化などを)してから変調することで、搬送周波数近傍に変調信号成分が存在しないようにしておけば、基本構成1でも差し支えない。
また、図5(2)に示す基本構成2のように、周波数分離部8401を設け、受信したミリ波信号から変調信号と基準搬送信号を周波数分離し、分離した基準搬送信号成分を注入信号として受信側局部発振部8404に供給することが考えられる。注入同期に不要な周波数成分を予め抑制してから供給するので、注入同期が取り易くなる。
図5(3)に示す基本構成3は、送信側が図4(2)に示す基本構成2を採っている場合に対応するものである。変調信号と基準搬送信号を各別のアンテナ8236_1,8236_2で、好ましくは干渉を起さないように各別のミリ波信号伝送路9で受信する方式である。受信側の基本構成3では、振幅も常に一定の基準搬送信号を受信側局部発振部8404に供給でき、注入同期の取り易さの観点では最適の方式と言える。
図5(4)に示す基本構成4は、送信側が位相や周波数を変調する方式の場合に図4(4)に示す基本構成4を採っている場合に対応するものである。構成としては基本構成1と同様になっているが、復調機能部8400の構成は、実際には、直交検波回路など位相変調や周波数変調に対応した復調回路とされる。
アンテナ8236で受信されたミリ波信号は図示を割愛した分配器(分波器)で周波数混合部8402と受信側局部発振部8404に供給される。受信側局部発振部8404は、注入同期が機能することで、送信側で変調に使用した搬送信号に同期した再生搬送信号を出力する。
ここで、受信側で注入同期がとれる(送信側で変調に使用した搬送信号に同期した再生搬送信号を取得できる)か否かは、注入レベル(注入同期方式の発振回路に入力される基準搬送信号の振幅レベル)や変調方式やデータレートや搬送周波数なども関係する。また、変調信号は注入同期可能な帯域内の成分を減らしておくことが肝要であり、そのためには送信側でDCフリー符号化をしておくことで、変調信号の中心(平均的な)周波数が搬送周波数に概ね等しく、また、中心(平均的な)位相が概ねゼロ(位相平面上の原点)に等しくなるようにするのが望ましい。
たとえば、参考文献Dには、BPSK(Binary Phase Shift Keying )方式で変調された変調信号そのものを注入信号に使用する例が開示されている。BPSK方式では、入力信号のシンボル時間Tに応じて受信側局部発振部8404への注入信号は180度の位相変化が起こる。その場合でも受信側局部発振部8404が注入同期できるためには受信側局部発振部8404の最大引込み周波数範囲幅をΔfomax とすると、たとえばシンボル時間TはT<1/(2Δfomax )を満たしていることが必要とされる。このことは、シンボル時間Tは余裕をもって短く設定されていなければならないことを意味するが、このように短いシンボル時間Tの方がよいと言うことは、データレートを高くするとよいことを意味し、高速なデータ転送を目指す用途においては都合がよい。
参考文献D: P. Edmonson, et al., ”Injection Locking Techniques for a 1-GHz Digital Receiver Using Acoustic-Wave Devices”, IEEE Transactions on Ultrasonics,Ferroelectrics, and Frequency Control, Vol. 39, No. 5, September, 1992,pp631〜637
また、参考文献Eには、8PSK(8-Phase Shift Keying)方式で変調された変調信号そのものを注入信号に使用する例が開示されている。この参考文献Eにおいても、注入電圧や搬送周波数が同じ条件であればデータレートが高い方が注入同期し易いことが示されており、やはり、高速なデータ転送を目指す用途においては都合がよい。
参考文献E:Tarar, M.A.; Zhizhang Chen、“A Direct Down-Conversion Receiver for Coherent Extraction of Digital Baseband Signals Using the Injection Locked Oscillators”、Radio and Wireless Symposium, 2008 IEEE、Volume , Issue , 22-24 Jan. 2008 、pp57〜60
基本構成1〜4の何れにおいても、式(A)に基づき、注入電圧Viや自走発振周波数foを制御することでロックレンジを制御するようにする。換言すると、注入同期がとれるように、注入電圧Viや自走発振周波数foを調整することが肝要となる。たとえば、周波数混合部8402の後段(図の例では直流成分抑制部8407の後段)に注入同期制御部8440を設け、周波数混合部8402で取得された同期検波信号(ベースバンド信号)に基づき注入同期の状態を判定し、その判定結果に基づいて、注入同期がとれるように、調整対象の各部を制御する。
その際には、受信側で対処する手法と、図中に点線で示すように、送信側に制御に資する情報(制御情報のみに限らず制御情報の元となる検知信号など)を供給して送信側で対処する手法の何れか一方またはその併用を採り得る。受信側で対処する手法は、ミリ波信号(特に基準搬送信号成分)をある程度の強度で伝送しておかないと受信側で注入同期がとれないという事態に陥るので、消費電力や干渉耐性の面で難点があるが、受信側だけで対処できる利点がある。
これに対して、送信側で対処する手法は、受信側から送信側への情報の伝送が必要になるものの、受信側で注入同期がとれる最低限の電力でミリ波信号を伝送でき消費電力を低減できる、干渉耐性が向上するなどの利点がある。
筐体内信号伝送や機器間信号伝送において注入同期方式を適用することにより、次のような利点が得られる。送信側の送信側局部発振部8304は、変調に使用する搬送信号の周波数の安定度の要求仕様を緩めることができる。注入同期する側の受信側局部発振部8404は式(A)より明らかなように、送信側の周波数変動に追従できるような低いQ値であることが必要である。
このことは、タンク回路(インダクタンス成分とキャパシタンス成分)を含む受信側局部発振部8404の全体をCMOS上に形成する場合に都合がよい。受信側では、受信側局部発振部8404はQ値の低いものでもよいが、この点は送信側の送信側局部発振部8304についても同様であり、送信側局部発振部8304は周波数安定度が低くてもよく、Q値の低いものでもよい。
CMOSは微細化が今後さらに進み、その動作周波数はさらに上昇する。より高帯域で小型の伝送システムを実現するには、高い搬送周波を使うことが望まれる。本例の注入同期方式は、発振周波数安定度についての要求仕様を緩めることができるため、より高い周波数の搬送信号を容易に用いることができる。
高い周波数ではあるが周波数安定度が低くてもよい(換言するとQ値の低いものでもよい)ということは、高い周波数で安定度も高い搬送信号を実現するために、高い安定度の周波数逓倍回路やキャリア同期のためのPLL回路などを使用することが不要で、より高い搬送周波数でも、小さな回路規模で簡潔に通信機能を実現し得るようになる。
受信側局部発振部8404により送信側で使用した搬送信号に同期した再生搬送信号を取得して周波数混合部8402に供給し同期検波を行なうので、周波数混合部8402の前段に波長選択用のバンドパスフィルタを設けなくてもよい。受信周波数の選択動作は、事実上、送受信の局部発振回路を完全に同期させる(つまり、注入同期がとれるようにする)制御を行なえばよく、受信周波数の選択が容易である。ミリ波帯であれば注入同期に要する時間も低い周波数比べて短くて済み、受信周波数の選択動作を短時間で済ませることができる。
送受信の局部発振回路が完全に同期するため、送信側の搬送周波数の変動成分が打ち消されるので、位相変調など様々な変調方式が容易に適用できる。たとえば、デジタル変調では、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying )変調や16QAM(Quadrature Amplitude Modulation )変調などの位相変調が広く知られている。これらの位相変調方式は、ベースバンド信号と搬送波との間で直交変調を行なうものである。直交変調では、入力データをI相とQ相のベースバンド信号にし直交変調を施す、つまりI相信号とQ相信号によりI軸とQ軸の各搬送信号に対して各別に変調を施す。参考文献Eに記載のような8PSK変調での適用に限らず、QPSKや16QAMのような直交変調方式でも注入同期を適用可能であり、変調信号を直交化してデータ伝送レートを上げることができる。
注入同期を適用すれば、同期検波との併用により、波長選択用のバンドパスフィルタを受信側で使用しなくても、多チャネル化や全二重の双方向化を行なう場合などのように複数の送受信ペアが同時に独立な伝送をする場合でも干渉の問題の影響を受け難くなる。
[注入信号と発振出力信号との関係]
図5Aには、注入同期における各信号の位相関係が示されている。ここでは、基本的なものとして、注入信号(ここでは基準搬送信号)の位相が変調に使用した搬送信号の位相と同相である場合で示す。
受信側局部発振部8404の動作としては、注入同期モードと増幅器モードの2つを採り得る。注入同期方式を採用する上では、基本的な動作としては、注入同期モードで使用し、特殊なケースで増幅器モードを使用する。特殊なケースは、基準搬送信号を注入信号に使用する場合に、変調に使用した搬送信号と基準搬送信号の位相が異なる(典型的には直交関係にある)場合である。
受信側局部発振部8404が自走で発振出力信号Voを出力しているときに注入同期モードで動作する場合、図示のように、受信した基準搬送信号Sinj と注入同期により受信側局部発振部8404から出力される発振出力信号Vout には位相差がある。周波数混合部8402にて直交検波をするにはこの位相差を補正する必要がある。図から分かるように、受信側局部発振部8404の出力信号に対して変調信号SIの位相とほぼ一致するように位相振幅調整部8406で位相調整を行なう位相シフト分は図中の「θ−φ」である。
換言すると、位相振幅調整部8406は、受信側局部発振部8404が注入同期モードで動作しているときの出力信号Vout の位相を、受信側局部発振部8404への注入信号Sinj と注入同期したときの出力信号Vout との位相差「θ−φ」の分を相殺するように位相シフトすればよい。因みに、受信側局部発振部8404への注入信号Sinj と受信側局部発振部8404の自走出力Voとの位相差がθであり、注入同期したときの受信側局部発振部8404の出力信号Vout と受信側局部発振部8404の自走出力Voとの位相差がφである。
<多チャネル化と注入同期の関係>
図6は、多チャネル化と注入同期の関係を説明する図である。多チャネル化を図る一手法としては、図2〜図2Bで説明したように空間分割多重を適用することも考えられるが、図6(1)に示すように、異なる搬送周波数を異なる通信送受対が用いることが考えられる。つまり周波数分割多重で多チャネル化は実現される。
全二重双方向化も異なる搬送周波数を用いれば容易に実現でき、電子機器の筐体内で複数の半導体チップ(送信側信号生成部110と受信側信号生成部220の組や送信側信号生成部210と受信側信号生成部120の組)が独立して通信するような状況も実現できる。
[基本構成と問題点]
たとえば、図6(2)〜(4)に示すように、2つの送受信ペアが同時に独立な伝送をしているときを考える。図中において、Δ1,Δ2,Δ3,Δ4は時間的に変動する周波数成分である。
ここで、図6(2)に示すように、自乗検波方式を適用した場合は、先にも説明したが、周波数多重方式での多チャネル化には受信側の周波数選択のためのRF帯のバンドパスフィルタ(BPF)が必要となる。急峻なRF帯のバンドパスフィルタを小型に実現するのは容易ではないし、選択周波数を変更するためには可変バンドパスフィルタが必要となる。自乗検波方式は振幅情報しか取り出せないので変調方式はASKやOOKなどに限られ、変調信号を直交化してデータ伝送レートを上げると言うことも困難である。
小型化のため受信側にキャリア同期のPLLを持たない場合、たとえば図6(3)に示すように、IF(Intermediate Frequency:中間周波数)にダウンコンバートして自乗検波することが考えられる。この場合、十分に高いIFに周波数変換するブロックを加えることにより、RF帯のバンドパスフィルタなしに受信する信号を選択できるが、IF帯への周波数変換を行なう回路やIF帯のバンドパスフィルタなどが必要で、その分回路が複雑になる。送信側における周波数変動成分Δだけでなく、受信側のダウンコンバートにおける時間的に変動する周波数成分(周波数変動成分Δ)の影響も受ける。このため、変調方式は、周波数変動成分Δの影響を無視できるように、振幅情報を取り出すもの(たとえばASKやOOKなど)に限られる。
これに対して、図6(4)に示すように、注入同期方式を適用すれば、送信側局部発振回路304と受信側局部発振部8404が完全に同期するため、様々な変調方式が容易に実現できる。キャリア同期のためのPLLも不要で回路規模も小さくて済み、受信周波数の選択も容易になる。加えて、ミリ波帯域の発振回路は低い周波数より時定数の小さいタンク回路を使って実現できるので、注入同期に要する時間も低い周波数比べて短くて済み、高速の伝送に向いている。このように、注入同期方式を適用することで、通常のベースバンド信号によるチップ間の信号に比べて、伝送速度を容易に高速化でき、入出力の端子数を削減することができる。ミリ波の小型アンテナをチップ上に構成することもでき、チップからの信号の取出し方に著しく大きな自由度を与えることもできる。さらに、注入同期によって送信側の周波数変動成分Δが打ち消されるので、位相変調(たとえば直交変調)など様々な変調が可能となる。
周波数分割多重による多チャネル化を実現する場合でも、受信側では、送信側で変調に使用した搬送信号と同期した信号を再生して同期検波により周波数変換を行なうことで、搬送信号の周波数変動Δがあってもその影響(いわゆる干渉の影響)を受けずに伝送信号を復元できる。図6(4)に示すように、周波数変換回路(ダウンコンバータ)の前段に周波数選択フィルタとしてのバンドパスフィルタを入れなくても済む。
ただし、注入同期方式を採用してこのような多チャネル化を採るとき、このままでは、受信側では各チャネル別に注入同期回路を用意しなければならないという難点がある。
なお、受信側が複数系統ある場合に、系統別に注入同期回路を用意しなければならないという事態は、多チャネル化の場合に限らず、送信側が1系統で受信側が複数系統で同時通信を行なう同報通信などの場合にも生じることである。
そこで、本実施形態の無線伝送システム1においては、先ず、注入同期方式を採用する場合において受信側が複数系統ある場合に、系統別に注入同期回路を用意しなくても不都合のないシステムにすることを提案する。
基本的な考え方は、受信側での注入同期回路数の低減を図るために、全系統を注入同期方式を採るのではなく、少なくとも1系統は注入同期方式を採らないようにする。注入同期方式を採らない系統では、各局部発振部8304,8404で生成された搬送信号に同期した搬送信号を使って変調・復調を行なうようにする。空間分割多重では全系統で同一周波数の搬送信号を使用できるが、周波数分割多重ではそれぞれ異なる周波数の搬送信号を使用しなければならないので、局部発振部8304,8404で生成された搬送信号に同期した別の周波数の搬送信号を生成し、この生成した搬送信号を使って同期検波することになる。もちろん、空間分割多重でも、周波数分割多重のように異なる周波数の搬送信号を使用することを排除するものではない。以下、具体的に説明する。
<無線伝送システム:第1実施形態>
図7は、第1実施形態の無線伝送システムを説明する図である。
第1実施形態の無線伝送システム1Bは、受信側が複数系統ある場合に、注入同期は1系統でとり、残りの系統はそれと同期した搬送信号(空間分割多重では極端な場合には同じ周波数でもよい)を使って同期検波で復調を行なう点に特徴がある。特に、後述の第2実施形態との相違点として、送信側が1系統で受信側が複数系統の同報通信への適用事例である。第2実施形態と同様に、変調方式は何でもよい。以下では、ASK方式を採用する場合で説明する。
システム構成的には、第1実施形態の無線伝送システム1Bは、1つの電子機器の筐体内または複数の電気機器間において、CMOSプロセスで形成されている3つの半導体チップ103B,203B_1,203B_2間で、前述の注入同期方式を適用してミリ波帯で信号伝送を行なう例である。端的には、組内に送信側の通信部が1つで受信側の通信部が2つの特殊な2つの通信対が形成されており、1対2で信号伝送を行なうものである。
典型的には、送信側の半導体チップ103Bと受信側の半導体チップ203B_1で1つ目の通信対が形成され、同じ送信側の半導体チップ103Bと別の受信側の半導体チップ203B_2で2つ目の通信対が形成され、1つの送信側の半導体チップ103Bから2つの受信側の半導体チップ203B_1,203B_2に同報(一斉)通信を行なうものである。図では、受信側を2つにしているが、3以上にしてもよい。なお、使用する搬送周波数f2は30GHz〜300GHzのミリ波帯である。
1つの筐体内での信号伝送の場合は、たとえば、同一基板上に半導体チップ103Bと半導体チップ203B_1,203_2が搭載されているものと考えればよい。あるいは、第1通信装置100B側の筐体190Bと第2通信装置200B_1,200B_2側の筐体290B_1,290B_2が兼用されているものと考えればよい。第1通信装置100Bを具備する電子機器に対して2つの第2通信装置200B_1,200B_2を具備する電子機器が載置された機器間での信号伝送の場合は、第1通信装置100B側の筐体190Bと第2通信装置200B_1,200B_2側の筐体290B_1,290B_2が図中の点線部分を搭載(載置)箇所とすると考えればよい。以下では、受信側の各部を纏めて言うときには参照子_1,_2を割愛して記載することがある。
筐体190B,290Bは、たとえば、デジタル記録再生装置、地上波テレビ受像機、カメラ、ハードディスク装置、ゲーム機、コンピュータ、無線通信装置などの外装(外観)のケースに対応するものである。
たとえば、無線伝送システム1Bにおいては、映画映像やコンピュータ画像などの高速性と大容量性が求められる信号を伝送するべく、搬送周波数f2が30GHz〜300GHzのミリ波帯の送信信号Sout_2 にしてミリ波信号伝送路9_2を伝送させる。
ミリ波信号伝送路9_2は、筐体190B,290Bの内部の自由空間、その内部に構築された誘電体伝送路や、導波管および/または導波路から構成され、導波路には、スロットラインおよび/またはマイクロストリップラインが含まれる。ミリ波信号伝送路9_2は、ミリ波の送信信号Sout_2 が伝送できれば何でもよい。筐体190B,290Bの内部に充填された樹脂部材などの誘電体物質自体もミリ波信号伝送路9_2を構成する。
ミリ波は容易に遮蔽でき、外部に漏れ難いため、安定度の低い搬送周波数f2の搬送信号を使用することができる。このことは、半導体チップ103B,203B_1間や半導体チップ103B,203B_2間の伝搬チャネルの設計の自由度を増すことにも繋がる。たとえば、半導体チップ103B,203Bを封止する封止部材(パッケージ)構造と伝搬チャネルを併せて誘電体素材を使用して設計することで、自由空間でのミリ波信号伝送に比べて、より信頼性の高い良好な信号伝送を行なえる。
たとえば、筐体190B,290Bの内部は自由空間とすることで、アンテナ136B,236B間に自由空間伝送路が構成されるようにしてもよいし、その内部全体を樹脂部材などの誘電体素材で充填してもよい。これらの場合、筐体190B,290Bは、ミリ波帯の送信信号Sout_2 が外部に漏れ出ないように、たとえば、外部六面が金属板で囲まれたシールドケースの他に、その内部に樹脂部材でコーティングされたケースのようなものにするのが望ましい。筐体190B,290Bは、また、外部六面が樹脂部材で囲まれたケースの他に、その内部に金属部材でシールドされたケースのようなものとしてもよい。何れも、注入同期方式を適用しない場合よりも注入同期方式を適用する場合の方が送信振幅を大きくする傾向があるので、その点を勘案したシールド対策をしておくのがよい。
好ましくは、筐体190B,290B_の内部を自由空間としつつアンテナ136B,236B_1間やアンテナ136B,236B_2間を、誘電体伝送路、中空導波路、導波管構造などにして、ミリ波信号を伝送路中に閉じ込めつつミリ波信号を伝送させる構造を持つミリ波閉じ込め構造(導波路構造)にする。ミリ波閉じ込め構造にすれば、筐体190B,290Bでの反射の影響を受けることがなく、アンテナ136B,236B_1間やアンテナ136B,236B_2間でミリ波帯の信号を確実に伝送できる。加えて、アンテナ136Bから放出したミリ波信号(送信信号Sout_2 )をミリ波信号伝送路9_2に閉じ込めてアンテナ236B側に伝送できるので、無駄を少なくできる(無くすことができる)ため送信電力を抑えることができる。注入同期方式を適用する場合でも、送信電力を極めて小さくできるため、外部に電磁誘導障害(EMI)を与えないので、筐体190B,290Bは、金属のシールド構造を省略してもよくなる。
ミリ波用のアンテナ136B,236Bは、波長が短いので、超小型のアンテナ素子を半導体チップ103B,203B上に構成することが可能となる。アンテナ136B,236Bが小型化できるので、アンテナ136Bからの送信信号Sout_2 の放射のし方やアンテナ236Bからの受信信号Sin_2の取り出し方にも、著しく大きな自由度を与えることができる。
送信側の半導体チップ103Bと受信側の半導体チップ203B(の内の1つ)の何れも、従来方式のような外部のタンク回路を用いることなく、前述のようにタンク回路を含む送信側局部発振部8304や受信側局部発振部8404の全体が同一チップ上に形成されているものとする。
たとえば、半導体チップ103Bは、変調機能部8300(周波数混合部8302、送信側局部発振部8304)と増幅部8117を備え、増幅部8117は伝送路結合部108の一部をなすアンテナ136Bと接続されている。送信側の半導体チップ103Bは、たとえば、送信側局部発振部8304で生成された搬送周波数f2の搬送信号を伝送対象信号SIN_2に基づきASK方式で変調することでミリ波の送信信号Sout_2 に周波数変換する。送信信号Sout_2 はアンテナ136Bを介してミリ波信号伝送路9_2に供給され、受信側の2つのアンテナ236B_1,236B_2に到達する。
複数ある受信側の半導体チップ203Bは、その中の1つのみ(図では半導体チップ203B_1)が注入同期に対応した構成を持っているが、残りの全て(図では半導体チップ203B_2)は、注入同期に対応していない。この残りの全て(図では半導体チップ203B_2)は、注入同期に対応した1つの半導体チップ203B_1から再生搬送信号を受け取り、この再生搬送信号を元に同期検波する。
すなわち、半導体チップ203B_1は、増幅部8224と復調機能部8400(周波数混合部8402、受信側局部発振部8404)と低域通過フィルタ8412を備え、増幅部8224は伝送路結合部208の一部をなすアンテナ236B_1と接続されている。半導体チップ203B_1は、送信側の半導体チップ103Bから送られてきたミリ波信号(送信信号Sout_2 =受信信号Sin_2)を受信側局部発振部8404への注入信号として使用し、それに基づく再生搬送信号を受信側局部発振部8404が取得する。周波数混合部8402は、その再生搬送信号を使って受信信号Sin_2を復調する。復調された信号を低域通過フィルタ8412に通すことで、伝送対象信号SIN_2と対応する伝送対象信号SOUT_2 が復元される。つまり、半導体チップ103B,203B_1は、アンテナ136B,236B_1間のミリ波信号伝送路9_2を介してミリ波帯で信号伝送を行なう。
一方、半導体チップ203B_2は、半導体チップ203B_1において注入同期方式で再生された再生搬送信号を受け取り、周波数混合部8402は、その再生搬送信号を使って受信信号Sin_2を復調する。復調された信号を低域通過フィルタ8412に通すことで、伝送対象信号SIN_2と対応する伝送対象信号SOUT_2 が復元される。
筐体190B内の半導体チップ103Bと筐体290B内の半導体チップ203Bは、配設位置が特定(典型的には固定)されたものとなるので、両者の位置関係や両者間の伝送チャネルの環境条件(たとえば反射条件など)を予め特定できる。よって、送信側と受信側の間の伝搬チャネルの設計が容易である。また、送信側と受信側を封止する封止構造と伝搬チャネルを併せて誘電体素材を使って設計すれば、自由空間伝送よりも信頼性の高い良好な伝送が可能になる。
伝搬チャネルの環境が頻繁に変化するというようなことはなく、注入同期制御部8440による注入同期がとれるようにするための制御も一般の無線通信のように動的にアダプティブに頻繁に行なう必要がなくなる。そのため、制御によるオーバーヘッドを一般の無線通信に比べて小さくすることができる。このことは、高速・大容量の信号伝送を行なう伝送無線伝送システム1Bを、小型、低消費電力で実現することに寄与する。
また、製造時や設計時に無線伝送環境を校正し、個体のばらつきなどを把握すれば、そのデータを参照して注入同期がとれるように注入同期制御部8440が各種の設定を行なえる。注入同期状態の判定とそれを受けての各種の設定値の変更を繰り返すと言うことが不要になり、注入同期がとれるようにするための各種の設定が簡単になる。
第1実施形態では、送信側が1系統で受信側が複数系統のシステム構成の例として、送信側の半導体チップ103Bと受信側の半導体チップ203B_1,203B_2間で、1対2の伝送チャネルを構成するミリ波信号伝送路9_2により同報通信が実現される。この際、1系統で同期が取れれば全系統で同期がとれるので、注入同期で取得された再生搬送信号を元にして各系統で同期検波を行なうことで、受信信号を復調できる。受信側において、注入同期に対応するのは1系統で済み、注入同期回路を各別に用意しなくて済み、システム構成をコンパクトにできる利点がある。
なお、他のチップ(図の例では半導体チップ203B_2側)へ再生搬送信号を渡すことになるので、その配線L2の長さによっては位相遅延の影響が心配される。よって、配線L2の線長はできるだけ短くするか、注入同期用の受信側局部発振部8404と各チップの周波数混合部8402間の各配線L1,L2の線長を等しくすることで対処することが好ましい。また、位相遅延が問題となる場合に、位相調整を行なう仕組みを追加することが考えられる。これらの点は、後述する他の実施形態でも同様である。
<無線伝送システム:第2実施形態>
図8は、第2実施形態の無線伝送システムを示す図である。第2実施形態の無線伝送システム1Cは、送信側および受信側がともに複数系統ある場合に、注入同期は1系統でとり、送信側・受信側ともに、残りの系統は各局部発振部8304,8404で生成された搬送信号と同期した搬送信号を使って変調・復調を行なう点に特徴がある。特に、第1実施形態との相違点として、送信側も複数系統である多チャネル化への適用事例であり、後述の第3実施形態との相違点として、周波数分割多重ではなく、空間分割多重を適用して多チャネル化を図るものである。第1実施形態と同様に、変調方式は何でもよい。以下では、ASK方式を採用する場合で説明する。
送信側にはN組(Nは2以上の正の整数)の送信部を配置し、受信側にはM組(Mは2以上の正の整数)の受信部を配置し、送信部と受信部の組で同一の搬送周波数を用いて伝送する構成である。同一周波数を使って多重伝送を行なうため図2B〜図2Aにて説明した空間分割多重を適用する。図では、半導体チップ103Aと半導体チップ203Aの間で1対1の信号伝送を行なう組と、半導体チップ103Bと半導体チップ203B_1,203B_2の間で1対2の信号伝送を行なう組(第2実施形態の構成)が存在している。
1つの筐体内での信号伝送の場合は、たとえば、同一基板上に半導体チップ103A,103Bと半導体チップ203A,203B_1,203B_2が搭載されているものと考えればよい。機器間での信号伝送の場合は、たとえば、第1通信装置100C側の筐体190Cと第2通信装置200C側の筐体290Cが図中の点線部分を搭載(載置)箇所として、半導体チップ103A,103Bが収容された第1通信装置100Cを具備する電子機器に対して半導体チップ203A,203B_1,203_2が収容された第2通信装置200Cを具備する電子機器が載置されると考えればよい。
送受信間のアンテナは、1対1の信号伝送を行なう組の部分がミリ波信号伝送路9_1で第1の通信チャネルが形成され、1対2の信号伝送を行なう組の部分である第1実施形態の構成を採用する部分がミリ波信号伝送路9_2で第2の通信チャネルが形成される。空間分割多重を適用するので、図2Aにて説明したように、ミリ波信号伝送路9_1,9_2間での信号干渉レベルが許容範囲となる程度に他の組とのアンテナ間距離が確保されているものとする。
半導体チップ103A,203A間では、搬送周波数f2を用いて、ミリ波信号伝送路9_1を介してミリ波帯で信号伝送が行なわれる。第1実施形態の構成が採用される部分では、搬送周波数f2を用いて、半導体チップ103Bと半導体チップ203B_1,203B_2間でミリ波信号伝送路9_2を介してミリ波帯で同報通信が行なわれる。つまり、第2実施形態では、1対1および1対2の伝送システムが混在する。このとき、各通信チャネルでは同じ搬送周波数f2を設定するとともに空間分割多重を適用することで干渉の影響を受けることなくそれぞれの信号伝送が実現される。
ここで、両方の組で同一周波数f2の搬送信号を使用するため、複数ある送信側の半導体チップ103は、その中の1つのみ(図では半導体チップ103B)が搬送信号生成に対応した構成を持っているが、残りの全て(図では半導体チップ103A)は、搬送信号生成に対応していない。この残りの全て(図では半導体チップ103A)は、搬送信号生成に対応した半導体チップ103Bから搬送信号を受け取り、この搬送信号を元に周波数変換(アップコンバート)を行なう。
また、複数ある受信側の半導体チップ203は、その中の1つのみ(図では半導体チップ203B_1)が注入同期に対応した構成を持っているが、残りの全て(図では半導体チップ203A,203B_2)は、注入同期に対応していない。この残りの全て(図では半導体チップ203A,203B_2)は、注入同期に対応した1つの半導体チップ203B_1から再生搬送信号を受け取り、この再生搬送信号を元に同期検波する。
第2実施形態では、送信側と受信側がともに複数系統のシステム構成の場合に、第1実施形態と同様に、受信側において注入同期に対応するのは1系統で済み、注入同期回路を各別に用意しなくて済み、システム構成をコンパクトにできる利点がある。各組で同一周波数を使うので、送信側も搬送信号生成に対応するのは1系統で済み、送信側局部発振部8304を各別に用意しなくて済み、システム構成をコンパクトにできる利点がある。
<無線伝送システム:第3実施形態>
図9〜図9Cは、第3実施形態の無線伝送システムを示す図である。第3実施形態の無線伝送システム1Dは、送信側および受信側がともに複数系統ある場合に、注入同期は1系統でとり、送信側・受信側ともに、残りの系統は各局部発振部8304,8404で生成された搬送信号と同期した搬送信号を使って変調・復調を行なう点に特徴がある。特に、第2実施形態との相違点として、空間分割多重ではなく、周波数分割多重を適用して多チャネル化を図るものである。第1実施形態と同様に、変調方式は何でもよい。以下では、ASK方式を採用する場合で説明する。
因みに、図9に示す第1例は、送信側および受信側の何れもが各別のアンテナ(や増幅部)を使用する場合であって、搬送周波数f2に対する搬送周波数f1の関係が整数倍の場合である。図9Aに示す第2例は、送信側および受信側の何れもが各別のアンテナ(や増幅部)を使用する場合であって、搬送周波数f2に対する搬送周波数f1の関係が整数倍以外の場合である。図9Bに示す第3例は、送信側および受信側の何れもが共通のアンテナ(や増幅部)を使用する場合である。図9Cに示す第4例は、送信側および受信側の何れもが1チップで、その中に複数の送信側信号生成部110や受信側信号生成部220があり、それぞれアンテナが別の場合である。
基本的なシステム構成は第2実施形態と同じであるが、周波数分割多重を適用するための変更が加わっている。すなわち、送信側にはN組(Nは2以上の正の整数)の送信部を配置し、受信側にはM組(Mは2以上の正の整数)の受信部を配置し、送信部と受信部の組で各別の搬送周波数f1,f2を用いて伝送する構成である。周波数が異なる搬送信号を使って多重伝送を行なうため図1Aにて説明した周波数分割多重を適用する。図では、半導体チップ103Aと半導体チップ203Aの間で1対1の信号伝送を行なう組と、半導体チップ103Bと半導体チップ203B_1,203B_2の間で1対2の信号伝送を行なう組(第1実施形態の構成)が存在している。
第3実施形態において、1対1の信号伝送を行なう組(103A,203A)で使用する搬送周波数f1は30GHz〜300GHzのミリ波帯であり、1対2の信号伝送を行なう第1実施形態の構成を採用する組(103B,203B_1,203B_2)で使用する搬送周波数f2も30GHz〜300GHzのミリ波帯である。ただし、各搬送周波数f1,f2は、各変調信号が干渉しない程度に離れているものとする。以下、第1・第2実施形態との相違点について説明する。
各組でそれぞれ異なる周波数f1,f2ではあるが同期した搬送信号を使用するため、複数ある送信側の半導体チップ103は、その中の1つのみ(図では半導体チップ103B)が搬送信号生成に対応した構成を持っているが、残りの全て(図では半導体チップ103A)は、搬送信号生成に対応していない。この残りの全て(図では半導体チップ103A)は、副搬送信号生成部8602を備えており、搬送信号生成に対応した半導体チップ103Bから搬送信号を受け取り、この搬送信号を元に副搬送信号生成部8602にて同期した別の周波数(この例ではf1)の搬送信号を生成してから周波数変換(アップコンバート)を行なう。
搬送周波数f2に対する搬送周波数f1の関係は、第1例のようにm倍(mは2以上の正の整数)でもよいし、第2例のように、1/n倍(nは2以上の正の整数)、m/n倍(m,nは2以上の正の整数でm≠n)でもよい。
m倍(つまり整数倍)やm/n倍(任意倍数)の場合には、副搬送信号生成部8602はPLL回路などを利用した周波数逓倍回路を使用すればよい。1/m倍(つまり整数分の1倍)の場合には、副搬送信号生成部8602は分周回路を使用すればよい。
また、複数ある受信側の半導体チップ203は、その中の1つのみ(図では半導体チップ203B_1)が注入同期に対応した構成を持っているが、残りの全て(図では半導体チップ203A,203B_2)は、注入同期に対応していない。この残りの全て(図では半導体チップ203A,203B_2)は、注入同期に対応した1つの半導体チップ203B_1から再生搬送信号を受け取り、この再生搬送信号を元に同期検波する。
ここで、周波数f2を使用する側の半導体チップ203B_2は第2実施形態と同様であるが、周波数f1を使用する側の半導体チップ203Aは、副搬送信号生成部8612を備えており、注入同期に対応した半導体チップ203B_1から再生搬送信号を受け取り、この再生搬送信号を元に副搬送信号生成部8612にて同期した別の周波数(この例ではf1)の再生搬送信号を生成してから周波数変換(ダウンコンバート)を行なう。
搬送周波数f2に対する搬送周波数f1の関係がm倍やm/n倍の場合には、副搬送信号生成部8612はPLL回路などを利用した周波数逓倍回路を使用すればよい。1/m倍の場合には、副搬送信号生成部8612は分周回路を使用すればよい。
送信側・受信側の何れにおいても、周波数逓倍回路と分周回路を比べた場合、一般的には分周回路の方が回路構成がコンパクトになる。したがって、他の組の全てが分周回路で対応できるようにするのが最もシステム構成がコンパクトになると考えられる。この場合、注入同期に対応する組では、各組で使用する搬送周波数の中の最大周波数を使用することになる。
因みに、搬送周波数f2に対する搬送周波数f1の関係がm倍(整数倍)でないときは、受信側局部発振部8404で生成される再生搬送信号の位相が一意にならない問題(位相不確定性と称する)が現れる。この位相不確定性に対する対策のために、搬送周波数f2に対する搬送周波数f1の関係がm倍(整数倍)でないときは、図9Aに示す第2例のように、受信側には位相補正部8630を設ける。この位相補正部8630の詳細については、後の実施形態で説明する。
第1例や第2例では、送受信間のアンテナは、単一のミリ波信号伝送路9_3で結合される。機能的には、1対1の信号伝送を行なう部分がミリ波信号伝送路9_1で第1の通信チャネルが形成され、第1実施形態の構成を採用する部分がミリ波信号伝送路9_2で第2の通信チャネルが形成される。単一のミリ波信号伝送路9_3であるから、たとえばミリ波信号伝送路9_1の搬送周波数f1の電波がミリ波信号伝送路9_2側へ伝達され得るし、ミリ波信号伝送路9_2の搬送周波数f2の電波がミリ波信号伝送路9_1側へ伝達され得る。
1対1の信号伝送を行なう部分では、搬送周波数f1を用いて、半導体チップ103A,203A間でミリ波信号伝送路9_1を介してミリ波帯で信号伝送が行なわれる。第1実施形態の構成が採用される部分では、搬送周波数f2(≠f1)を用いて、半導体チップ103Bと半導体チップ203B_1,203B_2間でミリ波信号伝送路9_2を介してミリ波帯で同報通信が行なわれる。つまり、1対1および1対2の伝送システムが混在する。このとき、通信チャネルごとに異なった搬送周波数f1,f2を設定することで干渉の影響を受けることなくそれぞれの信号伝送が実現される。
たとえば、図9,図9A中に点線で示すように、半導体チップ203B_1が搬送周波数f2の送信信号Sout_2 (=受信信号Sin_2)を受信して注入同期しているときに、搬送周波数f1の送信信号Sout_1 も到来したとする。この場合、半導体チップ203B_1は搬送周波数f1に注入同期することはなく、再生搬送信号を使って同期検波し低域通過フィルタ8412を通すことで、搬送周波数f1の送信信号Sout_1 を半導体チップ203B_1で復調処理したとしても、伝送対象信号SIN_1の成分が復元されることはない。つまり、半導体チップ203B_1が搬送周波数f2に注入同期しているときに搬送周波数f1の変調信号を受信しても、搬送周波数f1の成分の干渉の影響を受けることはない。
また、図9,図9A中に点線で示すように、半導体チップ203Aが搬送周波数f1の送信信号Sout_1 (=受信信号Sin_1)を受信して同期検波しているときに、搬送周波数f2の送信信号Sout_2 も到来したとする。この場合、半導体チップ203Aは搬送周波数f2についても同期検波し得るが低域通過フィルタ8412を通すことでその成分がカットされ伝送対象信号SIN_2の成分が復元されることはない。つまり、半導体チップ203Aが搬送周波数f2の変調信号を受信しても、搬送周波数f2の成分の干渉の影響を受けることはない。
図9Bに示す第3例においては、一方(送信側)の半導体チップ103にはN組の送信側信号生成部110が収容され、他方(受信側)の半導体チップ203にはM組の受信側信号生成部220が収容され、各送信側信号生成部110から各受信側信号生成部220に同一方向に、周波数分割多重を適用して同時の信号伝送を可能にする形態である。送信部と受信部は前述のように、1系統のみ(図の例では送信側信号生成部110_2と受信側信号生成部220_2)が注入同期方式を適用するものとする。
なお、送信側の各送信側信号生成部110は同一チップに収容された1チップ構成であることが好ましいが、このことは必須でない。同様に、受信側の各受信側信号生成部220は同一チップに収容された1チップ構成であることが好ましいが、このことは必須でない。ただし、搬送周波数f2の搬送信号用の配線長を考えた場合、送信側、受信側の何れも、1チップ構成であることが好ましい。
送信側信号生成部110_1は、図示しないが副搬送信号生成部8602を備え、送信側信号生成部110_2からの周波数f2の搬送信号を元に副搬送信号生成部8602にて周波数f1の搬送信号を生成する。
各送信側信号生成部110_1,110_2で生成された搬送周波数f1,f2のミリ波信号は多重化処理部113の一例である結合器で1系統に纏められ、伝送路結合部108のアンテナ136を介してミリ波信号伝送路9を伝送する。受信側のアンテナ236は、ミリ波信号伝送路9を伝送してきたミリ波信号を受信し単一化処理部228の一例である分配器で3系統に分離し、各受信側信号生成部220_1,220_2,220_3に供給する。
受信側信号生成部220_2は送信側信号生成部110_2が変調に使用した搬送周波数f2の搬送信号に注入同期した再生搬送信号を生成し受信した搬送周波数f2のミリ波信号を復調する。受信側信号生成部220_1は、図示しないが副搬送信号生成部8612を備え、受信側信号生成部220_2からの周波数f2の再生搬送信号を元に副搬送信号生成部8612にて周波数f1の搬送信号を生成して同期検波を行なう。受信側信号生成部220_3は、受信側信号生成部220_2からの周波数f2の再生搬送信号に基づき同期検波を行なう。
第3例では、このような仕組みにより、第1例や第2例と同様に、2組の搬送周波数f1,f2を用いて、同一方向にそれぞれ異なる信号を伝送する周波数分割多重伝送を干渉問題を起すことなく実現できる。
図9Cに示す第4例においては、一方(送信側)の半導体チップ103にはN組の送信側信号生成部110が収容され、他方(受信側)の半導体チップ203にはM組の受信側信号生成部220が収容され、各送信側信号生成部110から各受信側信号生成部220に同一方向に、周波数分割多重を適用して同時の信号伝送を可能にする形態である。この点においては、第3例と共通する。
第3例との相違点は、各送受信回路が各別のアンテナを使用する点である。具体的には、半導体チップ103は多重化処理部113を備えておらず、各送信側信号生成部110_1,110_2には各別にアンテナ136_1,136_2が接続されている。また、半導体チップ203は単一化処理部228を備えておらず、各受信側信号生成部220_1,220_2,220_3には各別にアンテナ236_1,236_2,236_3が接続されている。
第3例と第4例は、各送受信回路が各別のアンテナを使用するか否かでの相違があるが、周波数分割多重伝送を適用していることについての動作には相違がない。ただし、第3例では、損失の少ない性能のよいミリ波帯の多重化処理部113や単一化処理部228が要求されるので、その必要のない第4例の方がより現実的と言える。
第3実施形態では、送信側と受信側がともに複数系統のシステム構成の場合に、第1・第2実施形態と同様に、受信側において注入同期に対応するのは1系統で済み、注入同期回路を各別に用意しなくて済み、システム構成をコンパクトにできる利点がある。ただし、各組で異なる周波数を使うので、送信側および受信側の何れもが、注入同期に使用する搬送周波数とは異なる周波数の搬送信号を生成するための構成(副搬送信号生成部8602,8612)が必要になる。
[周波数関係がm/nについて]
図10は、第3実施形態(第2例)の無線伝送システム1Dにおいて、周波数関係をm/nにすることの効果を説明する図である。
周波数多重で多重伝送をする際に、各チャネルの周波数関係をm倍(整数倍)や1/n倍(整数分の1倍)にすると、図1Aにて示した周波数多重の説明から理解されるように、ミリ波信号伝送路9の全体の使用帯域をかなり広くする必要がある。自由空間伝送路9Bであればこの要求に応え得るが、誘電体伝送路9Aのような帯域幅が限られた伝送路では問題となる。
これに対して、1チャネル当たり伝送レートを下げた上に、周波数関係をm/nにして搬送周波数を近付けることで、全体の使用帯域を狭めることができる。これによって、誘電体伝送路9Aのような帯域幅が限られた伝送路でも複数チャネルを伝送することができるようになる。
<第1〜第3実施形態の変形例>
図11は、第1〜第3実施形態に対する変形例を説明する図である。この変形例は、多重伝送時に、「受信側の系統別には注入同期回路を用意しないが、注入同期回路は1系統ではなく複数系統ある」点に特徴がある。
第2・第3実施形態では、多チャネル化(多重伝送)の適用例として同一方向への複数系統の信号伝送の例を示したが、多チャネル化(多重伝送)は、同一方向への信号伝送に限らず、逆方向への信号伝送のものでもよい。そして、その場合に、通信機器に、送信部や受信部が複数配置される場合には、前述の第2・第3実施形態の仕組みを同様に適用してよい。
たとえば、図示しないが、1対の双方向通信用の半導体チップ内にそれぞれ同数の送信部と受信部を配置し、送信部と受信部の組で各別の搬送周波数を用いて、全二重の双方向通信を行なう構成とすることが考えられる。そして、全二重の双方向通信を行なう半導体チップが複数組存在する場合には、受信側において注入同期に対応するのは1系統のみとする前述の第2・第3実施形態の仕組みを同様に適用してよい。1系統で同期が取れれば全系統で同期がとれるので、注入同期で取得された再生搬送信号を元にして各系統で同期検波を行なうことで、受信信号を復調できる。
また、第1〜第3実施形態では、受信側が複数系統ある場合に、1系統のみが注入同期に対応し、残りの全ては、1系統の注入同期で取得された再生搬送信号を元にして各系統で同期検波を行なうようにしていたが、このことは必須でない。要するに、受信側の系統数よりも注入同期回路を用意する系統数の方が少なければよく、注入同期回路が用意されていない系統に関しては、注入同期で取得された再生搬送信号を元にして同期検波を行なうように構成すればよい。つまり、受信側の系統数P、注入同期回路を用意する系統数Qとしたとき、P>Qの関係を満たすシステム構成にし、「P−Q」の系統分に関しては注入同期で取得された再生搬送信号を元にして同期検波を行なえばよい。この場合でも、「注入同期方式を採用する場合において受信側が複数系統ある場合に、系統別には注入同期回路を用意しない」というシステムになっている。
たとえば、図11に示した構成では、6チャネルについて、3チャネルずつに分けて、第1〜第3のチャネル(参照子_1〜_3の系統)では1系統のみ(参照子_1の系統)が注入同期に対応し、第4〜第6のチャネル(参照子_4〜_6の系統)では1系統のみ(参照子_4の系統)が注入同期に対応するようにしている。
この例では、好ましくは、送信側の第1〜第3のチャネルの送信側信号生成部110は同一チップに収容された1チップ構成であるとともに、第4〜第6のチャネルの送信側信号生成部110は同一チップに収容された1チップ構成であることが好ましい。対応する受信側についても、第1〜第3のチャネルの受信側信号生成部220は同一チップに収容された1チップ構成であるとともに、第4〜第6のチャネルの受信側信号生成部220は同一チップに収容された1チップ構成であることが好ましい。もちろん、これらのことは必須でない。
注入同期回路を持つ系統数を総チャネル数(系統数)よりも少なくすることでシステム構成をコンパクトにすると言う点では、注入同期回路を持つのは1系統のみとする構成が最適である。しかしながら、他の系統で注入同期で取得された再生搬送信号を元にして同期検波を行なうための再生搬送信号用の配線長を加味したときには、レイアウト的に、注入同期回路を持つのは1系統のみとする構成が必ずしも適正とは言えないこともある。このようなケースでは、図11に示した構成が効果的である。
<振幅変調信号と他の変調信号との関係>
図12〜図12Cは、振幅変調信号と他の変調信号との関係を説明する図である。ここで、図12は、ASK方式において、搬送信号と基準搬送信号が同一周波数で同一位相の場合の振幅変調信号を説明する図である。図12A〜図12Bは、ASK方式とPSK方式の送信電力の関係を説明する図である。図12Cは、多重伝送を行なう場合における送信電力低減を図る本実施形態の基本的な仕組みを示す図である。
[振幅変調信号ついて]
ASK方式では、伝送対象信号で搬送信号の振幅を変調する。I軸とQ軸で表わされる位相平面上で、I相信号とQ相信号の内の何れか一方を使用し、変調信号の信号振幅を0〜+Fの範囲で与えるものと考えればよい。0,+Fの2値で変調する場合が最も単純で、変調度が100%の場合はOOKとなる。「F」は正規化することで「1」と考えられ、2値のASKが実現される。
ここで、変調に使用した搬送信号と同じ周波数で同じ位相の信号を基準搬送信号として使用する場合を考える。たとえば、図12(1)に示すように、I軸に情報を載せて伝送しようとするとき、基準搬送信号も同相(I軸)にする。
ところで、変調に使用した搬送信号と基準搬送信号の位相を同相とする場合、たとえば次のような手法を採り得る。
図12(2)に示す第1例は、図4(1)に示す基本構成1を適用する手法の一例である。周波数混合部8302には伝送対象信号a(t)と搬送信号c(t)=cosωが供給される。周波数混合部8302としては平衡変調回路や二重平衡変調回路を使用して搬送波抑圧の振幅変調を行なうことで、d(t)=a(t)cosωtを生成し信号合成部8308に供給する。伝送対象信号a(t)は0,+1の2値とする。基準搬送信号処理部8306は送信側局部発振部8304から出力された搬送信号c(t)=cosωtの振幅をCo(0〜1の範囲内)にして基準搬送信号e(t)=Cocosωtとして信号合成部8308に供給する。信号合成部8308はd(t)+e(t)なる信号合成を行なうことで送信信号f(t)を生成する。Co=0のときが100%変調時と等価である。
図12(3)に示す第2例と図12(4)に示す第3例は、図4(3)に示す基本構成3を適用する手法の一例である。周波数混合部8302としては搬送波抑圧が適用されない回路構成を使用し、伝送対象信号b(t)に直流成分b0を加えた信号g(t)で振幅変調を行なうことでh(t)=g(t)cosωtを生成する。伝送対象信号b(t)は−1,+1の2値とする。
変調度(変調率)に関しては、搬送信号の振幅Vc、伝送対象信号の振幅Vsとしたときの値Ma=Vs/Vcで扱う考え方と、振幅変調した結果(振幅変調波)における最大振幅x、最小振幅yとしたときの値M=(x−y)/(x+y)で扱う考え方がある。本明細書では前者を採用し、伝送対象信号b(t)の振幅Bが変調度(変調率)に対応するものとする。
ここで、図12(3)に示す第2例は、直流成分b0を一定(=1)にして、変調度Bを0〜1の範囲内で制御することで基準搬送信号の振幅(b(t)=−1の期間の振幅)を調整する。増幅部8117による増幅率は1倍であるとする。
図12(4)に示す第3例は、図12(3)に示す第2例における50%変調時の状態に対して、増幅部8117により増幅率を調整することで、100%変調時と同じ信号品質にする場合を示している。第2例において、b(t)=−1の期間の振幅とb(t)=+1の期間の振幅との差が変調情報であり、100%変調時では2.0であるのに対して、50%変調時では1.0であり、このままでは50%変調時の信号品質が100%変調時よりも低下する。50%変調時の信号品質を100%変調時と同等にするには、増幅部8117により増幅率を2倍にすればよい。この場合、b(t)=−1の期間の振幅は1.0、b(t)=+1の期間の振幅は3.0となる。
なお、図12(4)に示す第3例の波形状態は、第2例(あるいは第3例)において、増幅部8117での増幅率を1倍とする場合でも、変調度Bを「1」にし、直流成分b0を1〜2の範囲内で制御する(この場合は「2」にする)ことで基準搬送信号の振幅(b(t)=−1の期間の振幅)を調整するようにしても生成できる。この態様は、前記の変調度の扱い方に従うと、変調度が100%であると見ることもできる。
第1例〜第3例の何れの場合も、I軸だけに情報を載せて伝送しようとするときに基準搬送信号も同相(I軸)にしている例であり、この場合、図12(5)から分かるように、受信側で直流オフセット成分が発生してしまう。
たとえば、I軸を実数成分、Q軸を虚数成分として、第1例において伝送対象信号a(t)の振幅を0,+1とすると、受信信号点はI軸上の0,+1にくる。基準搬送波もI軸上に載せると、信号点は「0+Co」と「+1+Co」になり、+Co分の直流成分が載る結果となる。
第2例や第3例において伝送対象信号b(t)を−1,+1とすると、受信信号点はI軸上の−1,+1にくる。基準搬送波もI軸上に載せると、信号点は「−1+Co」と「+1+Co」になり、+Co分の直流成分が載る結果となる。BPSKを適用する場合に、基準搬送波もI軸上に載るように予め信号処理で変調対象信号を加工してから変調することでASKと等価にするという考え方である。
この問題を解決するには、図5に示したように、受信側に直流オフセット成分を抑制する直流成分抑制部8407を設けることが考えられる。しかしながら、機器ごとにばらつきが異なり直流オフセットの大きさに応じた個別調整が必要となるし、温度ドリフトの影響を受けるなどの難点がある。
この問題を受信側に直流成分抑制部8407を設けずに解決する方法として、伝送情報が載せられる位相軸(変調信号の位相軸)とは異なる位相軸(好ましくは最も離れた位相軸)に基準搬送信号を載せて送ることが考えられる。
たとえば、伝送情報をI軸とQ軸の何れか一方にだけに載せるASKモードの場合には、送信側では、基準搬送信号と変調情報を直交させておくことが考えられる。つまり、I相信号とQ相信号の2軸変調を行なう代りに、I軸とQ軸の何れか一方だけを信号伝送に使用し、他方については無変調にし、その無変調信号を基準搬送信号として使用する。
伝送情報(変調情報)および基準搬送信号と、I軸およびQ軸の関係を逆にしてもよい。たとえば、送信側では、伝送情報をI軸側にし基準搬送信号をQ軸側にしておいてもよいし、逆に、伝送情報をQ軸側にし基準搬送信号をI軸側にしておいてもよい。
[送信電力について]
前述の図3〜図12における注入同期に関しての説明から理解されるように、機器内や機器間の無線信号伝送では注入同期が有効である。また、注入同期方式を採用する場合、受信側での同期のとり易さの点では、変調方式としてはASK方式などのように振幅を変調する方式が適している。たとえば、注入同期にASK方式を用いると、フィルタが不要など受信回路の構成が簡単になるし、受信特性が劣化が少ないと言った利点がある。
しかしながら、振幅を変調する方式(ASK方式もその一例)では、送信電力が他の変調方式よりも大きいという難点がある。多チャネル化を図る(多重伝送を行なう)場合には、必要送信電力の増加が顕著に現われることとなり、その問題の解決が求められる所である。
たとえば、図12Aには、ASK方式(100%変調・50%変調)とBPSK方式の各変調信号の例と、必要送信電力の関係が示されている。
図12A(1)に示すように、BPSKの振幅をaとして、同じ信号点間距離(同じber)を得るのに必要な送信電力は、式(B−1)で表わされる。これに対して、このBPSKと同じ信号品質を得るためには、ASK方式(100%変調)では、図12A(2)に示すように、最大振幅が2aとなり、必要な送信電力は式(B−2)で表わされる。したがって、ASK方式(100%変調)ではBPSK方式に対して2倍の送信電力が必要になる。
同様に、ASK方式(50%変調)では、図12A(3)に示すように、最大振幅が3aで搬送波分がaとなり、必要な送信電力は式(B−3)で表わされる。したがって、ASK方式(50%変調)ではBPSK方式に対して5倍の送信電力が必要になる。
このことから分かるように、同じ信号品質を得るためには、ASKは変調度を問わず、BPSKよりも必要送信電力が大きくなる。このことは、多重伝送してチャネル数を増やして行くとより大きな問題となる。
たとえば、図12Bには、多重伝送を行なう場合のチャネル数と、BPSK方式、ASK方式(100%変調)、ASK方式(50%変調)の必要送信電力の関係が示されている。
図12Aでの式や図12Bから理解されるように、全てをASKで多重伝送してチャネル数を増やして行くと、全てをBPSKで多重伝送してチャネル数を増やして行く場合と比べて、必要送信電力の差は大きくなって行く。特に、変調率が低いと、その電力差が顕著に現われる。
ここでは、ASK(100%・50%)とBPSKを対比したが、BPSKに限らず、QPSKや8PSKなど他のPSKとの関係やQAMなどの振幅位相変調方式との関係においても、同一品質とするためには、ASKなどの振幅変調は送信電力が大きい。位相を変調する方式に限らず周波数を変調する方式との対比においても、振幅のみを変調する方式の方が送信電力が大きい。
そこで、本実施形態では、多重伝送時の必要送信電力の低減を図ることを考える。前記説明からの単純な推測では、同じ信号品質を得るためには、振幅のみを変調する方式は振幅のみを変調する方式以外よりも大きな送信電力を必要とするのであるから、全系統を振幅のみを変調する方式以外にすることが先ず考えられる。しかしながら、注入同期のとり易さという点では振幅のみを変調する方式の方が利点があり、全系統を振幅のみを変調する方式以外にするのは好ましくない。
このため、本実施形態では、全系統を振幅のみを変調する方式以外とするのではなく、振幅のみを変調する方式とそれ以外とを混在させるとともに、振幅のみを変調する方式以外は、「同じ信号品質を得る」という点において、振幅のみを変調する方式よりも送信電力が少なくて済む方式を採るようにする。信号品質の判定指標は、エラーレートなど公知のものを採用すればよい。
振幅のみを変調する方式以外としては、位相のみを変調する方式、振幅と位相を変調する方式、周波数のみを変調する方式などがあるが、回路構成の簡易さの面からは、位相のみを変調する方式、振幅と位相を変調する方式、周波数のみを変調する方式の順で採用の優先度を高めるのがよい。たとえば、デジタル変調を考えたときには、PSKやQAMなどを採用するのが好ましい。
たとえば、本実施形態では、図12C(1)に示すように、注入同期方式を採用する場合に、多重伝送する場合には、1つのチャネルは注入同期がとり易い振幅のみを変調する方式(ASKが代表例)を採用し、残りの系統はそれ以外(振幅のみを変調する方式以外)の変調方式を採用する。
典型例としては、図12C(2)に示すように、1つのチャネルはASKで送信し、他のチャネルは必要送信電力の小さいBPSKで送信する。これにより、空間分割多重や周波数分割多重などにより多重伝送を行なう場合に、注入同期方式を利用したまま、必要送信電力の増加を抑えることができる。
また、好ましくは、第2・第3実施形態(あるいは変形例)と同様に、注入同期は1系統(あるいは受信側の系統数より少ない系統)でとり、残りの系統はそれと同期した搬送信号(空間分割多重では極端な場合には同じ周波数でもよい)を使って変調・復調を行なうようにする。もちろん、第2・第3実施形態(あるいは変形例)と組み合わせることは必須でなく、受信側の全てが個別に注入同期方式を採るものであってもよい。
なお、送信側の各送信側信号生成部110は同一チップに収容された1チップ構成であることが好ましいが、このことは必須でない。同様に、受信側の各受信側信号生成部220は同一チップに収容された1チップ構成であることが好ましいが、このことは必須でない。ただし、搬送周波数foの搬送信号用の配線長を考えた場合、送信側、受信側の何れも、1チップ構成であることが好ましい。
因みに、必要送信電力を低減することだけを考えたときには、全系統を振幅のみを変調する方式以外にすると言うことも考えられる。しかし、注入同期方式との併用を考えるときには、少なくとも1系統は注入同期がとり易い方式として振幅のみを変調する方式を採用するのがよい。この場合、第2・第3実施形態(あるいは変形例)と組み合わせることで、注入同期回路に関する規模低減を図るようにするのがよい。
<無線伝送システム:第4実施形態>
図13〜図13Aは、第4実施形態の無線伝送システムを示す図である。ここで、図13に示す第1例は、第2実施形態に対する変形例で示している。図13Aに示す第2例は、送受信が1対1の組が3組存在するシステム構成である。
第4実施形態の無線伝送システム1Eは、送信側および受信側がともに複数系統ある場合に、1系統はASK変調を採用し、他の系統はASK以外の変調方式を採用し、さらに、注入同期はASKの1系統でとり、送信側・受信側ともに、残りの系統は各局部発振部8304,8404で生成された搬送信号と同期した搬送信号を使って変調・復調を行なう点に特徴がある。また、第2実施形態と同様に、周波数分割多重ではなく、空間分割多重を適用して多チャネル化を図るものである。
全体的なシステム構成は第2実施形態と同じであるが、両者の対比から分かるように、各系統の変調方式は何でもよいと言うのではなく、注入同期用のみにASK方式を採用し、残りはASK方式以外(ここではBPSK方式)を採用する点で異なる。その他の点を除いては、第2実施形態と同様であるので、説明を割愛する。
<無線伝送システム:第5実施形態>
図14〜図14Cは、第5実施形態の無線伝送システムを示す図である。ここで、図14に示す第1例は、第3実施形態(第1例)に対する変形例で示している。図14Aに示す第2例は、第3実施形態(第2例)に対する変形例で示している。図14Bに示す第3例は、搬送周波数が注入同期用に対してm倍(整数倍)関係にある図14に示す第1例に対する変形例であり、送受信が1対1の組が3組存在するシステム構成である。図14Cに示す第4例は、搬送周波数が注入同期用に対してm倍(整数倍)関係にない図14Aに示す第2例に対する変形例であり、送受信が1対1の組が3組存在するシステム構成である。図示しないが、第3実施形態(第3例)のように、アンテナ(や増幅部)を1つに纏める構成を採ることもできる。
第5実施形態の無線伝送システム1Fは、送信側および受信側がともに複数系統ある場合に、1系統はASK変調を採用し、他の系統はASK以外の変調方式を採用し、さらに、注入同期はASKの1系統でとり、送信側・受信側ともに、残りの系統は各局部発振部8304,8404で生成された搬送信号と同期した搬送信号を使って変調・復調を行なう点に特徴がある。また、第3実施形態と同様に、空間分割多重ではなく、周波数分割多重を適用して多チャネル化を図るものである。
全体的なシステム構成は第3実施形態と同じであるが、両者の対比から分かるように、各系統の変調方式は何でもよいと言うのではなく、注入同期用のみにASK方式を採用し、残りはASK方式以外(ここではBPSK方式)を採用する点で異なる。その他の点を除いては、第3実施形態と同様であるので、説明を割愛する。
[電力低減効果]
図15は、第4・第5実施形態の無線伝送システム1E,1Fによる電力低減効果を説明する図である。ここでは、図15(1)(図12C(2)と同じ図である)に示すように、1つのチャネルはASKで送信し、他のチャネルは必要送信電力の小さいBPSKで送信する場合で示している。
第4・第5実施形態では、多チャネル化したときの1チャネル当たりの送信電力の増分は、BPSKの場合と同等の増分となり、必要送信電力の差は増えない。これにより、空間分割多重や周波数分割多重などにより多重伝送を行なう場合に、注入同期方式の利点を活かしつつ、必要送信電力の増加を抑えることができる。
<第4〜第5実施形態の変形例>
図16は、第4〜第5実施形態に対する変形例を説明する図である。この変形例は、多重伝送時に、「全系統を振幅変調のするのではないが、振幅変調を採るのは1系統ではなく複数系統ある」点に特徴がある。
第4〜第5実施形態では、多重伝送時に、1系統のみを振幅変調方式にし、残りの全ては、振幅変調方式以外をとっていたが、このことは必須でない。要するに、多重伝送時の総チャネル数(系統数)よりも振幅変調方式を採るチャネル数の方が少なければよく、振幅変調方式を採らない通信チャネル(系統)に関しては、振幅変調方式よりも送信電力が少なくて済む振幅変調方式以外の位相変調方式(たとえばPSK)や振幅位相変調方式(たとえばQAM)を採用するように構成すればよい。つまり、総チャネル数S、振幅変調方式を採るチャネル数Tとしたとき、S>Tの関係を満たすシステム構成にし、「S−T」の通信チャネル分に関しては、振幅変調方式よりも送信電力が少なくて済む振幅変調方式以外の変調方式を採ればよい。この場合でも、「多重伝送時に、全系統を振幅変調にするのでなく、一部の系統は振幅変調方式よりも必要送信電力が少ない変調方式(位相変調や振幅位相変調など)を用いる」というシステムになっている。
たとえば、図16に示した構成では、6チャネルについて、3チャネルずつに分けて、第1〜第3のチャネル(参照子_1〜_3の系統)では1系統のみ(参照子_1の系統)が振幅変調方式(デジタルの場合はASK方式)でかつ注入同期に対応し、第4〜第6のチャネル(参照子_4〜_6の系統)では1系統のみ(参照子_4の系統)が振幅変調方式(デジタルの場合はASK方式)でかつ注入同期に対応するようにしている。振幅変調方式を採らない残りの系統については、振幅変調方式よりも必要送信電力が少なく済む振幅変調以外の方式(たとえばデジタルの場合はBPSK方式)を採っている。
この例では、好ましくは、受信側の第1〜第3のチャネルの送信側信号生成部110は同一チップに収容された1チップ構成であるとともに、第4〜第6のチャネルの送信側信号生成部110は同一チップに収容された1チップ構成であることが好ましい。対応する受信側についても、第1〜第3のチャネルの受信側信号生成部220は同一チップに収容された1チップ構成であるとともに、第4〜第6のチャネルの受信側信号生成部220は同一チップに収容された1チップ構成であることが好ましい。もちろん、これらのことは必須でない。
注入同期方式を適用しながら、必要送信電力が大きな振幅変調方式(たとえばASK)を採る系統数を総チャネル数よりも少なくすることで多重伝送時の総必要送信電力を低減すると言う点では、振幅変調方式を採るのは1系統のみとする構成が最適である。しかしながら、たとえば、注入同期方式との併用を考えた場合、他の系統で注入同期で取得された再生搬送信号を元にして同期検波を行なうための再生搬送信号用の配線長を加味したときには、レイアウト的に、ASK方式かつ注入同期回路を持つのは1系統のみとする構成が必ずしも適正とは言えないこともある。このようなケースでは、図16に示した構成が効果的である。
<位相補正部について>
図17〜図18は、周波数分割多重を適用する第3実施形態や第5実施形態において、各チャネルの搬送周波数の関係がm倍(整数倍)でないときに発生する位相不確定性と、その対策として設けられる位相補正部8630について説明する図である。
[位相不確定性]
図17〜図17Aには、周波数分割多重を適用する第3実施形態や第5実施形態における各チャネルの搬送周波数の関係と、位相不確定性の発生の有無の関係が示されている。
各チャネルの搬送周波数の関係をm倍(整数倍)にするときには、注入同期用には全チャネルの内の最低周波数を使用する。したがって、残りはその整数倍の周波数を使用する。つまり、この場合は、受信側局部発振部8404にて低い周波数で注入同期をとって、残りは、副搬送信号生成部8612により、同期がとれた低い周波数から高い周波数を作ることになる。
たとえば、図17(1)は、各チャネルの搬送周波数の関係がm倍の一例として2倍であるときを示している。図17(1)の場合であれば、副搬送信号生成部8612により2倍の周波数の搬送信号を生成する。この場合、位相が一意のため位相不確定性の問題は起きない。
一方、各チャネルの搬送周波数の関係を1/n倍(整数分の1倍)にするときには、注入同期用には全チャネルの内の最高周波数を使用する。したがって、残りはその整数分の1倍の周波数を使用する。つまり、この場合は、受信側局部発振部8404にて高い周波数で注入同期をとって、残りは、副搬送信号生成部8612により、同期がとれた高い周波数から低い周波数を作ることになる。この場合、位相のとり方がn種類あり、しかも、その内の何れを選択するべきかの情報がなく、受信側では不確定性の問題が発生する。
たとえば、図17(2)は、各チャネルの搬送周波数の関係が1/n倍の一例として1/2倍であるときを示している。図17(2)の場合であれば、副搬送信号生成部8612により1/2倍の周波数の搬送信号を生成するので、位相のとり方が2種類あり、しかも、その2つの内の何れを選択するべきかの情報がなく、受信側では不確定性の問題が発生する。
また、各チャネルの搬送周波数の関係をm/n倍にするときにも、1/n倍(整数分の1倍)にするときと同様に、位相のとり方が複数種類あり、しかも、その内の何れを選択するべきかの情報がなく、受信側では不確定性の問題が発生する。
たとえば、図17A(1)は、各チャネルの搬送周波数の関係がm/n(m>n)の一例として3/2倍であるときを示している。図17A(1)の場合であれば、副搬送信号生成部8612により3/2倍の周波数の搬送信号を生成するので、図のように位相のとり方が2種類あり、しかも、その2つの内の何れを選択するべきかの情報がなく、受信側では不確定性の問題が発生する。
また、図17A(2)は、各チャネルの搬送周波数の関係がm/n(m<n)の一例として2/3倍であるときを示している。図17A(2)の場合であれば、副搬送信号生成部8612により2/3倍の周波数の搬送信号を生成するので、図のように位相のとり方が3種類あり、しかも、その3つの内の何れを選択するべきかの情報がなく、受信側では不確定性の問題が発生する。
[位相不確定性に対する対策回路]
図18には、位相不確定性の対策として設けられる位相補正部8630の構成例が示されている。ここでは、前記の第4・第5実施形態で具体的な例として示したBPSKのような1つの変調軸を使用する場合で説明する。
図18(1)に示す第1例は、低域通過フィルタ8412の後段に第1例の位相補正部8630_1を設けたものである。第1例の位相補正部8630_1は、低域通過フィルタ8412の出力信号の振幅レベルを検出するレベル検出部8632を有している。位相補正部8630_1は、レベル検出部8632で検出された振幅レベルが最大になるように副搬送信号生成部8612(たとえばPLLで構成)を制御して、その出力信号(周波数混合部8402への搬送信号)の位相を変化させる。
図18(2)に示す第2例は、復調機能部8400を直交検波方式に変更するとともに、直交検波回路の後段に第2例の位相補正部8630_2を設けたものである。復調機能部8400は、直交検波回路を構成するように、I軸成分を復調する周波数混合部8402_I、Q軸成分を復調する周波数混合部8402_Q、副搬送信号生成部8612で生成された再生搬送信号の位相を90度(π/2)シフトする移相器8462を有する。周波数混合部8402_Iには副搬送信号生成部8612で生成された再生搬送信号が供給される。周波数混合部8402_Qには副搬送信号生成部8612で生成された再生搬送信号が移相器8462でπ/2シフトされた後に供給される。
周波数混合部8402_Iの後段にはI軸成分用の低域通過フィルタ8412_Iが設けられ、周波数混合部8402_Qの後段にはQ軸成分用の低域通過フィルタ8412_Qが設けられる。
第2例の位相補正部8630_2は、直交検波の低域通過フィルタ8412_I,8412_Qの出力(I,Q)を使って位相回転処理を行なう位相回転部8634と、位相回転部8634の出力信号の振幅レベルを検出するレベル検出部8638を有している。
位相回転部8634は、I軸成分の信号Iに対するゲイン調整によりI軸成分に対して位相回転量αを調整する第1位相シフト部8642(cosα)と、Q軸成分の信号Qに対するゲイン調整によりQ軸成分に対して位相回転量αを調整する第2位相シフト部8644(−sinα)と、各位相シフト部8642,8644の出力信号を合成する信号合成部8646を有する。位相回転部8634(信号合成部8646)の出力信号I’が最終的な復調信号となる。
位相補正部8630_2は、直交検波の出力(I、Q)を使って位相回転部8634で出力信号の位相を回転させ、その出力(I’成分)をレベル検出部8638で検出する。レベル検出部8638は、検出した入力信号の振幅レベルが最大になるように、位相回転部8634を制御して回転量を変化させる。
ここで、位相補正部8630について、第1例と第2例を比較した場合、第1例の方が回路構成が簡易である。一方、第1例では高周波回路で複数位相を切り替えるのに対して、第2例はベースバンド回路で複数位相を切り替えるので、難易度の点では第2例の方が有利と言える。
<適用例>
以下に、前述の第1〜5実施形態の無線伝送システム1を適用する製品形態を示す。
[第1例]
図19は、本実施形態の無線伝送システム1が適用される第1例の製品形態を説明する図である。第1例の製品形態は、1つの電子機器の筐体内でミリ波により信号伝送を行なう場合での適用例である。電子機器としては固体撮像装置を搭載した撮像装置への適用例である。
固体撮像装置505を搭載した撮像基板502との間で信号伝送を行なうメイン基板602に第1通信装置100(半導体チップ103)を搭載し、撮像基板502に第2通信装置200(半導体チップ203)を搭載する。半導体チップ103,203には、信号生成部107,207、伝送路結合部108,208が設けられる。
固体撮像装置505や撮像駆動部は、無線伝送システム1におけるLSI機能部204のアプリケーション機能部に該当する。画像処理エンジンは無線伝送システム1におけるLSI機能部104のアプリケーション機能部に該当し、固体撮像装置505で得られた撮像信号を処理する画像処理部が収容される。
撮像基板502には、無線伝送システム1を実現するべく、固体撮像装置505の他に、信号生成部207、伝送路結合部208が搭載される。同様に、メイン基板602には、無線伝送システム1を実現するべく、信号生成部107、伝送路結合部108が搭載される。撮像基板502側の伝送路結合部208とメイン基板602側の伝送路結合部108の間はミリ波信号伝送路9によって結合される。これによって、撮像基板502側の伝送路結合部208とメイン基板602側の伝送路結合部108の間で、ミリ波帯での信号伝送が双方向に行なわれる。
ミリ波信号伝送路9のそれぞれは、図19(1)に示すように自由空間伝送路9Bでもよいが、図19各(2),(3)に示すような誘電体伝送路9Aや図19(4),(5)に示すような中空導波路9Lにすることが望ましい。
ここで、前述の第1〜第5実施形態を適用することで、たとえばアンテナ136_1,236_1間の第1通信系統では、ASK方式で、かつ、その受信側では注入同期方式を採用する。一方、アンテナ136_2,236_2間の第2通信系統では、BPSK方式で、かつ、注入同期を採らないで、第1通信系統の受信側にて注入同期方式で得られた搬送信号を元にして同期検波で復調を行なう。つまり、第1通信系統では注入同期を採り易いASKを適用し、第2通信系統では送信電力低減を図れるBPSKを適用するとともに注入同期を採らない。これにより、機器内でのミリ波多重伝送において、両系統をASKにする場合と比べて必要送信電力を低減できるし、注入同期回路を全系統に持つ場合と比べて回路規模を低減できる。
[第2例]
図19Aは、本実施形態の無線伝送システム1が適用される第2例の製品形態を説明する図である。第2例の製品形態は、複数の電子機器が一体となった状態での電子機器間でミリ波により信号伝送を行なう場合での適用例である。たとえば、一方の電子機器が他方の(たとえば本体側の)電子機器に装着されたときの両電子機器間の信号伝送への適用である。
たとえば、中央演算処理装置(CPU)や不揮発性の記憶装置(たとえばフラッシュメモリ)などが内蔵されたいわゆるICカードやメモリカードを代表例とするカード型の情報処理装置を本体側の電子機器に装着可能(着脱自在)にしたものがある。一方(第1)の電子機器の一例であるカード型の情報処理装置を以下では「カード型装置」とも称する。本体側となる他方(第2)の電子機器を以下では単に電子機器とも称する。
電子機器101Eとメモリカード201Eの間のスロット構造4Eは、電子機器101Eに対して、メモリカード201Eの着脱を行なう構造であり、電子機器101Eとメモリカード201Eの固定手段の機能を持つ。
ここで、この例では、複数組の伝送路結合部108,208の対を用いることで、複数系統のミリ波信号伝送路9を備えるようにしているので、ミリ波伝送構造も、複数系統のミリ波信号伝送路9に対応する対処がなされている。スロット構造4E_1およびメモリカード201E_1において、ミリ波信号伝送路9(誘電体伝送路9A)、ミリ波送受信端子232、ミリ波伝送路234、アンテナ136,236を複数系統有する。スロット構造4E_1およびメモリカード201E_1において、アンテナ136,236は同一の基板面に配置され、水平に並べられる。これにより、送受信に対するミリ波伝送を独立して行なう全二重の伝送方式を実現する。
たとえば、電子機器101E_1の構造例(平面透視および断面透視)が図19A(2)に示されている。半導体チップ103には、ミリ波信号伝送路9_1,9_2(誘電体伝送路9A_1,9A_2)と結合するためのミリ波送受信端子132_1,132_2が離れた位置に設けられている。基板102の一方の面上には、ミリ波送受信端子132_1,132_2と接続されたミリ波伝送路134_1,134_2とアンテナ136_1,136_2が形成されている。ミリ波送受信端子132_1、ミリ波伝送路134_1、およびアンテナ136_1で、伝送路結合部108_1が構成され、ミリ波送受信端子132_2、ミリ波伝送路134_2、およびアンテナ136_2で、伝送路結合部108_2が構成されている。
また、筺体190には、凸形状構成198E_1として、アンテナ136_1,136_2の配置に対応して、2系統の円筒状の誘電体導波管142_1,142_2が平行して配置される。2系統の誘電体導波管142_1,142_2は、一体の導体144内に円筒状に形成され、誘電体伝送路9A_1,9A_2を構成する。導体144により、2系統の誘電体伝送路9A_1,9A_2間のミリ波干渉を防ぐ。
メモリカード201E_1の構造例(平面透視および断面透視)が図19A(1)に示されている。基板202上の半導体チップ203には、複数(図では2)系統のミリ波信号伝送路9_1,9_2(誘電体伝送路9A_1,9A_2)と結合するためのミリ波送受信子232_1,232_2が離れた位置に設けられている。基板202の一方の面上には、ミリ波送受信端子232_1,232_2と接続されたミリ波伝送路234_1,234_2とアンテナ236_1,236_2が形成されている。ミリ波送受信端子232_1、ミリ波伝送路234_1、およびアンテナ236_1で、伝送路結合部208_1が構成され、ミリ波送受信端子232_2、ミリ波伝送路234_2、およびアンテナ236_2で、伝送路結合部208_2が構成されている。
メモリカード201E_1では、電子機器101E_1側の凸形状構成198E_1(導体144)の断面形状に対応した凹形状構成298E_1が筐体290に構成される。凹形状構成298E_1は、第1例のミリ波伝送構造と同様に、スロット構造4E_1に対するメモリカード201E_1の固定を行なうとともに、スロット構造4E_1が具備する誘電体伝送路9A_1,9A_2とのミリ波伝送の結合に対する位置合せを行なう。
ここでは、ミリ波信号伝送路9_1,9_2の双方を誘電体伝送路9Aにしているが、たとえば、ミリ波信号伝送路9_1,9_2の何れか一方を自由空間伝送路や中空導波路にしてもよいし、双方を自由空間伝送路や中空導波路にしてもよい。
この例では、空間分割多重によって、同一周波数帯域を同一時間に使用することができるため、通信速度を増加できるし、信号伝送を同時に行なう双方向通信の同時性を担保できる。複数系統のミリ波信号伝送路9_1,9_2(誘電体伝送路9A_1,9A_2)を構成することにより、全二重の伝送が可能となり、データ送受信の効率化を図ることができる。
特に、本構成例では嵌合構造(スロット構造4A)を利用してミリ波閉じ込め構造(導波路構造)のミリ波信号伝送路9(この例では誘電体伝送路9A)を構築しているので、筐体やその他の部材による反射の影響を受けないし、一方のアンテナ136から放出したミリ波信号を誘電体伝送路9Aに閉じ込めて他方のアンテナ236側に伝送できる。そのため、放出電波の無駄が少なくなるので注入同期方式を適用する場合でも送信電力を小さくできる。
この第2例においても、前述の第1〜第5実施形態を適用するが、ここでは、空間分割多重を適用して多重伝送を行なうようにする。たとえば、アンテナ136_1,236_1間の第1通信系統では、ASK方式で、かつ、その受信側では注入同期方式を採用する。一方、アンテナ136_2,236_2間の第2通信系統では、BPSK方式で、かつ、注入同期を採らないで、第1通信系統の受信側にて注入同期方式で得られた搬送信号を元にして同期検波で復調を行なう。つまり、第1通信系統では注入同期を採り易いASKを適用し、第2通信系統では送信電力低減を図れるBPSKを適用するとともに注入同期を採らない。これにより、装着機構を持つ機器間でのミリ波多重伝送において、両系統をASKにする場合と比べて必要送信電力を低減できるし、注入同期回路を全系統に持つ場合と比べて回路規模を低減できる。
[第3例]
図19Bは、本実施形態の無線伝送システム1が適用される第3例の製品形態を説明する図であり、特に、電子機器の変形例を説明するものである。無線伝送システム1は、第1の電子機器の一例として携帯型の画像再生装置201Kを備えるとともに、画像再生装置201Kが搭載される第2(本体側)の電子機器の一例として画像取得装置101Kを備えている。画像取得装置101Kには、画像再生装置201Kが搭載される載置台5Kが筐体190の一部に設けられている。なお、載置台5Kに代えて、第2例のようにスロット構造4にしてもよい。一方の電子機器が他方の電子機器に装着されたときの両電子機器間において、ミリ波帯の無線で信号伝送を行なうという点では第2例の製品形態の場合と同じである。以下では、第2例との相違点に着目して説明する。
画像取得装置101Kは概ね直方体(箱形)の形状をなしており、もはやカード型とは言えない。画像取得装置101Kとしては、たとえば動画データを取得するものであればよく、たとえばデジタル記録再生装置や地上波テレビ受像機が該当する。画像再生装置201Kには、アプリケーション機能部205として、画像取得装置101K側から伝送されてくる動画データを記憶する記憶装置や、記憶装置から動画データを読み出して表示部(たとえば液晶表示装置や有機EL表示装置)にて動画を再生する機能部が設けられる。構造的には、メモリカード201Aを画像再生装置201Kに置き換え、電子機器101Aを画像取得装置101Kに置き換えたと考えればよい。
載置台5Kの下部の筺体190内には、たとえばミリ波製品形態の第2例(図19A)と同様に、半導体チップ103が収容されており、ある位置にはアンテナ136が設けられている。アンテナ136と対向する筺体190の部分には、内部の伝送路が誘電体素材で構成された誘電体伝送路9Aとし、その外部が導体144で囲まれた誘電体導波管142が設けられている。なお、誘電体導波管142(誘電体伝送路9A)を設けることは必須ではなく、筺体190の誘電体素材のままでミリ波信号伝送路9が構成されるようにしておいてもよい。これらの点は前述の他の構造例と同様である。なお、第8例で説明したように、複数のアンテナ136を平面状に併設し、本番の信号伝送に先立ち、画像再生装置201Kのアンテナ236から検査用のミリ波信号を送出し、最も受信感度の高いアンテナ136を選択するようにしてもよい。
載置台5Kに搭載される画像再生装置201Kの筺体290内には、たとえばミリ波製品形態の第2例(図19A)と同様に、半導体チップ203が収容されており、ある位置にはアンテナ236が設けられている。アンテナ236と対向する筺体290の部分は、誘電体素材によりミリ波信号伝送路9(誘電体伝送路9A)が構成されるようにしてある。これらの点は前述の第2例のミリ波製品形態と同様である。
このような構成により、載置台5Kに対する画像再生装置201Kの搭載(装着)時に、画像再生装置201Kのミリ波信号伝送に対する位置合せ行なうことが可能となる。アンテナ136,236の間に筐体190,290を挟むが、誘電体素材であるのでミリ波の伝送に大きな影響を与えるものではない。
第3例のミリ波製品形態は、嵌合構造という考え方ではなく壁面突当て方式を採り、載置台5Kの角101aに突き当てられるように置かれたときにアンテナ136とアンテナ236が対向するようにしているので、位置ズレによる影響を確実に排除できる。
画像再生装置201Kが載置台5Kの規定位置に装着されたときに、伝送路結合部108,208(特にアンテナ136,236)間に誘電体伝送路9Aを介在させる構成を採用している。ミリ波信号を誘電体伝送路9Aに閉じ込めることで高速信号伝送の効率向上を図ることができる。筐体やその他の部材による反射の影響を受けないし、一方のアンテナ136から放出したミリ波信号を誘電体伝送路9Aに閉じ込めて他方のアンテナ236側に伝送できる。そのため、放出電波の無駄が少なくなるので注入同期方式を適用する場合でも送信電力を小さくできる。
この第3例においても、前述の第1〜第5実施形態を適用するが、ここでは、周波数分割多重を適用して多重伝送を行なうようにするとともに、第1通信系統のみ、ASK方式で、かつ、その受信側では注入同期方式を採用する。残りの全ての通信系統では、BPSK方式で、かつ、注入同期を採らないで、第1通信系統の受信側にて注入同期方式で得られた搬送信号を元にして同期検波で復調を行なう。つまり、第1通信系統では注入同期を採り易いASKを適用し、残りの全通信系統では送信電力低減を図れるBPSKを適用するとともに注入同期を採らない。これにより、載置構造を持つ機器間でのミリ波多重伝送において、両系統をASKにする場合と比べて必要送信電力を低減できるし、注入同期回路を全系統に持つ場合と比べて回路規模を低減できる。
以上、本発明について実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は前記実施形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で前記実施形態に多様な変更または改良を加えることができ、そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
また、前記の実施形態は、クレーム(請求項)に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組合せの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。前述した実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜の組合せにより種々の発明を抽出できる。実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、効果が得られる限りにおいて、この幾つかの構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
たとえば、前記実施形態では、振幅を変調する方式の一例としてASK方式を代表例で使用し、また、振幅を変調する方式以外の方式の一例としてBPSK方式を代表例で使用して説明したが、この組合せは一例に過ぎない。たとえば、先にも説明したが、振幅を変調する方式以外の方式の一例としては、複数の変調軸を使用するQPSK方式や8PSK方式などでもよい。
このような変形例において、周波数分割多重時における各チャネルの搬送周波数の関係が1/nやm/nにある場合には、位相不確定性の対策として位相補正部8630を適用することになるが、複数の変調軸を使用するQPSK方式や8PSK方式などを採用する場合でも位相不確定性に対する対処が可能である。
たとえば、図18(1)に示した第1例との対比では、図20(1)に示す第3例のようにすればよい。先ず、復調機能部8400は、直交検波回路を構成するように、図18(2)で示した構成と同様になっている。ここでは、その復調機能部8400の構成説明は割愛する。
I軸成分用の低域通過フィルタ8412_IとQ軸成分用の低域通過フィルタ8412_Qの後段に位相回転部8634が設けられている。クロック再生部8420は位相回転部8634から出力されるI軸成分の出力信号I’とQ軸成分の出力信号Q’別に受信データ系列を生成してシリアルパラレル変換部8227へ渡す。
第3例の位相補正部8630_3のレベル検出部8632への入力は、I軸成分用の低域通過フィルタ8412_Iの出力信号のみとする第1構成例、Q軸成分用の低域通過フィルタ8412_Qの出力信号のみとする第2構成例、I軸成分用の低域通過フィルタ8412_Iの出力信号とQ軸成分用の低域通過フィルタ8412_Qの出力信号の双方とする第3構成例の何れでもよい。図は両方を使用する第3構成例で示している。I,Qの両方を使う場合は、片方だけの場合よりも回路規模が大きくなるが、調整精度がよくなる。
何れの場合も、調整のために既知パターンを送信した方がよい。既知パターンは、たとえば、片方のみの場合(第1構成例や第2構成例)は対応する成分だけの信号にし、両方の場合(第3構成例)は、何れか一方の成分だけの信号(I成分だけの信号またはQ成分だけの信号)にするのがよい。
片方のみの場合、位相補正部8630_3は、調整のために既知パターンを送信した方について、レベル検出部8632で検出された振幅レベルが最大になるように副搬送信号生成部8612(たとえばPLLで構成)を制御して、その出力信号(周波数混合部8402への搬送信号)の位相を変化させる。
両方の場合、位相補正部8630_3は、既知パターンとして送信した一方の成分(たとえばI成分)についてのレベル検出部8632で検出された振幅レベルができるだけ大きくなり、既知パターンとして送信していない他方の成分(たとえばQ成分)についてのレベル検出部8632で検出された振幅レベルができるだけ小さくなるようにしつつ、両者のバランスをとるようにするのがよい。あるいは、既知パターンとして送信した一方の成分(たとえばI成分)にのみ着目して、レベル検出部8632で検出された振幅レベルが最大となるように調整してもよいし、既知パターンとして送信していない他方の成分(たとえばQ成分)にのみ着目して、レベル検出部8632で検出された振幅レベルが最小となるように調整してもよい。
また、図18(2)に示した第2例との対比では、図20(2)に示す第4例のようにする。基本的な回路構成としては、図18(2)に示した第2例と同様であるが、位相回転部8634を位相回転部8636に変更している。
位相回転部8636は、I軸成分の系統については第2例と同様に、第1位相シフト部8642、第2位相シフト部8644、および信号合成部8646を有する。また、第4例に特有の構成として、Q軸成分の系統について、Q軸成分の信号Qに対するゲイン調整によりQ軸成分に対して位相回転量βを調整する第3位相シフト部8652(sinβ)と、I軸成分の信号Iに対するゲイン調整によりI軸成分に対して位相回転量βを調整する第4位相シフト部8654(−cosα)と、各位相シフト部8652,8654の出力信号を合成する信号合成部8656を有する。位相回転部8636(信号合成部8656)の出力信号Q’がQ軸成分についての最終的な復調信号となる。
位相補正部8630_4は、直交検波の出力(I,Q)を使って位相回転部8636で出力信号の位相を回転させ、その出力をレベル検出部8638で検出する。レベル検出部8638は、検出した入力信号の振幅レベルに基づいて位相回転部8636を制御して回転量を変化させる。
ここで、第4例の位相補正部8630_4のレベル検出部8638への入力は、I軸成分用の出力信号I’のみとする第1構成例、Q軸成分用の出力信号Q’のみとする第2構成例、I軸成分用の出力信号I’とQ軸成分用の出力信号Q’の双方とする第3構成例の何れでもよい。図は両方を使用する第3構成例で示している。I’,Q’の両方を使う場合は、片方だけの場合よりも回路規模が大きくなるが、調整精度がよくなる。これらの基本的な考え方は第3例と同様である。
また、前記実施形態の記載を踏まえれば、特許請求の範囲に記載した請求項に係る発明の他に、たとえば、以下の発明が抽出される。
<付記1>
送信用の通信部と受信用の通信部でなる複数の通信対と、
前記送信用の通信部と前記受信用の通信部の間で無線による情報伝送を可能にする無線信号伝送路と、
を備え、
それぞれの前記送信用の通信部と前記受信用の通信部の間での通信に使用される変調方式としては、振幅のみを変調する方式以外の方式を採用している
無線伝送システムまたは無線伝送方法。
図21は、この付記1に記載の構成を示す図である。付記1に記載の構成によれば、多重伝送時に、振幅のみを変調する方式以外(たとえばBPSK方式)を、全てのチャネルに適用することで、少なくとも1系統は振幅のみを変調する方式を採用している前記第4〜第5実施形態よりも必要送信電力を低減することができる。
ただし、この場合、注入同期方式との併用を考えると、受信側では注入同期がとり難くなる難点がある。この点では、全体的なシステム構成としては、第4〜第5実施形態が最適であると言うことが理解される。