JP5415660B2 - 酵母チオレドキシンの製造方法 - Google Patents

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本発明は、TRX高含有酵母抽出液から酵母チオレドキシンの調製を迅速かつ簡便に行うことを特徴とする、新規な酵母チオレドキシンの製造方法に関する。より詳細には、負荷培養等により得られたチオレドキシン高含有酵母から調製した抽出物を、更に限外濾過膜を用いることにより、酵母チオレドキシンを高濃度に含有する画分を調製し、酵母チオレドキシンを迅速かつ簡便に調製することを可能にすることを特徴とする、新規な酵母チオレドキシンの製造方法に関する。
チオレドキシン(以下「TRX」)とは、高度に保存されたC-X-Y-Cの活性中心(特にX:Gly、Y:Pro)を持つ、約12kDaの電子伝達タンパク質であり、ほとんどの生物の細胞内に存在することが知られている(非特許文献1から4)。TRXは他のタンパク質に存在するジスルフィド結合の酸化還元活性を有し、その酸化還元活性によりタンパク質の活性や機能、性質を調節する機能を有する。
様々なストレス、特に酸化ストレスは脂質・遺伝子・タンパク質などの生体高分子に傷害を与え、細胞・組織に害を及ぼすが、それに伴いTRXの体内での濃度が変化することが知られている。すなわち体内でのTRX濃度の上昇により、各種ストレスにより生じたアレルギーの改善もしくは予防、粘膜の保護もしくは修復、皮膚の保護等がなされると考えられている。
TRXが有する酸化還元活性を応用した様々な技術が現在までに開示されている。例えばTRXによる各種アレルゲンの中和(特許文献1)、TRXによる転写因子AP-1の活性化(特許文献2)、TRXによるアレルギー予防、皮質改善、粘膜障害保護(特許文献3)、炎症疾患の予防ないし治療(特許文献4)等が開示されている。
特表平10−510244号公報 特開平10−191977号公報 特開2000−103743号公報 特開2002−179588号公報 Laurent, T. C., Moore, E. C., & Reichard, P. (1964) J. Biol. Chem. 239, 3436-3444 Holmgren, A. (1989) Ann. Rev. Biochem. 54, 237-271 Holmgren, A. (1989) J. Biol. Chem. 264, 13963-1366 Buchanan, B. B., Schurmann, P., Decottignies, P. & Lozano, R. M. (1994), Arch. Biochem. Biophys. 314, 257-60
上述のようなTRXの性質を利用し、TRXを機能性食品素材として応用することが可能であると考えられる。しかしながらTRXを産業的なスケールで製造する場合には、克服しなければならない課題が存在する。すなわち酵母抽出物からTRXを精製するには、通常は数種類のクロマトグラフィを組み合わせることにより行うが、クロマトグラフィを行うためには多大な設備、原料物質、労力もしくは時間を要するため、より簡便かつ効率的なTRXの精製方法が求められていた。すなわち本発明が解決しようとする問題点は、酵母抽出物からTRXを簡便かつ効率的に精製する方法を確立することである。
本発明者らは、鋭意研究の結果、TRX高含有酵母を培養し得られた菌体を破砕して調製した酵母抽出液を、限外濾過膜を用い濾過をすることより、酵母TRXを含有する画分と含有しない画分に分離することができ、その結果酵母TRXを迅速かつ簡便に調製することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。課題を解決するための手段は、以下の通りである。
(1) チオレドキシン高含有酵母の菌体を破砕して得た酵母細胞抽出液を遠心分離し、得られた上清画分を、限外濾過膜を用いて少なくとも一回以上濾過し、チオレドキシンを含有する画分と含有しない画分とに分離する工程を含むことを特徴とする、酵母チオレドキシンの製造方法。
(2) 限外濾過膜を用いて濾過する工程が、分画分子量5〜6kDaの限外濾過膜により濾過する工程により構成されることを特徴とする、前記(1)に記載の方法。
(3) 限外濾過膜を用いてチオレドキシンを含有する画分を調製する工程が、分画分子量5〜6kDaの限外濾過膜により濾過する工程及び分画分子量100kDaの限外濾過膜により濾過する工程により構成されることを特徴とする、前記(1)に記載の方法。
(4) 限外濾過膜を用いてチオレドキシンを含有する画分を調製する工程が、分画分子量1000kDaの限外濾過膜により濾過する工程、分画分子量100kDaの限外濾過膜により濾過する工程及び分画分子量5〜6kDaの限外濾過膜により濾過する工程により構成されることを特徴とする、前記(1)に記載の方法。
(5) チオレドキシンを含有する画分を調製する工程後、左記画分に含まれる総タンパク質に占めるチオレドキシン含有量が、0.1〜25質量%であることを特徴とする、前記(1)から(4)のいずれかに記載の方法。
本発明は、TRX高含有酵母を培養し得られた菌体を破砕して調製した酵母抽出物を、更に限外濾過膜を用い分離を行うことを特徴とする、酵母TRXの製造方法である。本発明により、酵母チオレドキシンを高濃度に含有する画分が調製され、その結果酵母TRXを迅速かつ簡便に調製することが可能となる。
TRXとは、一般には高度に保存されたC-X-Y-Cの活性中心(特にX:Gly、Y:Pro)を有し、生体内の種々の酸化還元反応に関わる、ほとんどの生物の細胞中に存在する電子伝達タンパク質の総称(TRXファミリー)を指す。
本発明のTRXタンパク質は、本明細書に記載した特徴を有する限り、その製法や給源などは特に限定されない。すなわち本発明のTRXタンパク質は、天然由来のもの、遺伝子工学的手法に生産される組換えタンパク質、あるいは化学合成タンパク質のいずれでも本発明の課題を解決することは可能である。ただし、安全性確認が容易な天然供給源から得られるTRX、望ましくは酵母由来のTRX、より望ましくはパン酵母、ビール酵母、ワイン酵母、清酒酵母及び味噌醤油酵母などの食用酵母、更に望ましくはパン酵母(Saccharomyces cerevisiae)由来のTRXである。
また、上記酵母としては食用酵母が望ましく、例えばサッカロミセス(Saccharomyces)属、トルロプシス(Torulopsis)属、ミコトルラ(Mycotorula)属、トルラスポラ(Torulaspora)属、キャンディダ(Candida)属、ロードトルラ(Rhodotorula)属、ピキア(Pichia)属などが挙げられる。これらの酵母に、緑茶抽出物や過酸化水素・t-ブチルハイドロパーオキサイドなどの過酸化物によって酵母にストレスを強制的に負荷し、酵母中のTRX含量を高めた酵母を使用する。
酵母TRXタンパク質は、典型的には、酵母Saccharomyces cerevisiaeのTRX2タンパク質のアミノ酸配列(Genbank登録番号AAA85584(U40843),thioredox…[gi:1165214],Jae Mahn Songら、24-Jan-1996)に記載のように、104アミノ酸により構成された配列を有する。しかしながら天然のタンパク質の中にはそれを生産する生物種の品種の違いや、生態系の違いによる遺伝子の変異、あるいはよく似たアイソザイムの存在などに起因して1から複数個のアミノ酸変異を有する変異タンパク質が存在することは周知であり、例えばSaccharomyces属の他の種に属する酵母、あるいは他の属、例えば、ピキア属等に属する種の酵母由来のTRXも本発明において使用しうる。なお、本明細書で使用する用語「アミノ酸変異」とは、1以上のアミノ酸の置換、欠失、挿入及び/又は付加などを意味する。本発明の酵母TRXタンパク質は典型的には上記Genbank登録番号AAA85584(U40843)に記載のアミノ酸配列を有するが、その配列を有するタンパク質のみに限定されるわけではなく、本明細書中に記載した特性を有する限り全ての相同タンパク質を含むことが意図される。相同性は少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。
酵母の培養の方法としては、公知の方法、例えばバッチ培養、流加連続培養、流加バッチ培養などが挙げられる。培養は、ジャーファーメンターを用いて好適に行うことができ、このときのジャーファーメンターにおける条件としては、特に制限はなく適宜決定することができるが、例えば、培養温度としては28〜33℃程度であり、培養時間としては1〜120時間程度であり、pHとしては4〜7程度であり、通気量としては0〜5vvm程度であり、攪拌速度としては100〜700rpm程度である。そして、上記酵母の培養において、培地中に各種ストレス性物質を添加して、酵母菌体内のTRX含量を通常の2倍程度(300μg/g)以上に高めておくことが必要である。
酵母の培養に用いる培地及び流加培養の際に用いる流加液としては、特に制限はなく、目的に応じて公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、廃糖蜜などが好適に挙げられる。なお、それらは炭素源、窒素源等を適宜含んでいてもよい。培養中に行うストレス負荷方法としては、通常、緑茶抽出物またはその成分を添加する方法があり、そうすることで酵母菌体中のTRX含量を2倍以上に上げる事ができる。
酵母細胞の破砕の方法としては、顕微鏡観察下で未破砕菌体がなくなればよく、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、凍結−解凍の繰り返し、音波処理、機械的崩壊、又は細胞溶解剤の使用を含む適当な慣用的方法であってもよく、具体的には、0.5mm径のビーズをシリンダーに50容量%充填したダイノミルを用いる方法などが好適に挙げられる。
前記ダイノミルとしては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、WAB社製のDynomill Model Type KDLなどが挙げられ、前記シリンダーの容量としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、例えば実験的には0.6リットル程度である。前記銅高含有酵母の懸濁液(30%(w/v))の前記ダイノミルにおける前記シリンダー内への流速としては、例えば2.16リットル/時間程度が好ましい。また、酵母の前記ダイノミルにおける前記シリンダー内での滞在時間としては、10分間程度が好ましい。なお、前記破砕の前に、イオン交換水で前記ダイノミルにおける前記シリンダー内を予め洗浄しておくのが好ましい。また、前記顕微鏡観察下での未破砕菌体の有無は、適宜サンプリングをして顕微鏡観察を行うことにより確認することができる。更に必要に応じてデスラッジャー等を用いて不純物を除去しても良い。
次に、上記のように得られた酵母細胞破砕液を、限外濾過膜を用いて濾過することにより、TRXを高濃度で含有する抽出物を調製する。使用する限外濾過膜は、平膜式、管状膜式、中空糸膜式などが使用可能であるが、TRX回収の迅速性の意味から、平膜式の限外濾過膜を使用するのが望ましい。
なお、限外濾過膜を使用してTRX高含有抽出物を調製する際、異なる分画分子量の限外濾過膜を複数組み合わせて濾過を行うのが望ましい。組み合わせる限外濾過膜は、分画分子量が1000kDa、100kDa及び5〜6kDaのものを、その順番で組み合わせるのが望ましい。なお、組み合わせる限外濾過膜の種類が1種類または2種類の場合は十分な濃縮効果が得られず、また4種類以上組み合わせてもそれに見合うだけの効果が得られない。この方法により、総タンパク質に占めるチオレドキシン含有量を0.1〜25質量%にすることが可能となる。
限外濾過膜による濃縮を行った後、更に必要であれば、酵母TRXの精製は、塩析、イオン交換、アフィニティ精製又はゲル濾過精製の慣用される方法を適当に組み合わせることにより実施される。あるいは最終精製工程としてRP−HPLCを用いてもよい。
酵母の培養
本実施例においては、酵母の培養の際にストレス負荷を与えることにより、酵母細胞中のTRX含量が増加するか否かを、実験室レベルにおいて検討した。市販のパン酵母であるO−102(受託番号:FERM P−18569)(オリエンタル酵母工業製)をSD培地(16φ試験管5ml)に1白金耳植菌し、30℃、2日間培養後、H培地(1%グルコース、0.2%酵母エキス、0.5%ペプトン、0.03% K2HPO4、0.03% KH2PO4、0.01% MgCl2)坂口フラスコ100mLにOD610≒0.05となるように植菌した。30℃で14時間培養(OD610≒4.5)後、市販の緑茶抽出物「サンフェノンBG」(太陽化学株式会社製)を終濃度2.0%となるように添加し、次いで5N NaOHを用いてpH7.6となるように調整した。その後、30℃で90分問振とう培養を行った。得られた菌体0.3gを蒸留水0.3mlおよびほぼ等料のガラスビーズ(φ0.5mm)と混合し、Fast Prep(Qbiogen社製)で30秒激しく振とうして細胞を破砕し、更に遠心分離を行い、上清を得た。左記の上清を用い、後述の実施例3の方法によりTRX濃度を測定したところ、ストレス負荷を行わずに培養を行った場合と比較し2倍程度増加していた。
酵母の破砕
実施例1と同様の培養条件で、30Lジャーファーメンターにスケールアップした培養を行い、得られた酵母菌体1kgを蒸留水4Lに懸濁した酵母懸濁液(湿菌体20%)5Lを調製した。左記酵母懸濁液をガラスビーズ(φ0.5mm)をチェンバー容量の50重量%相当分詰めた細胞破砕装置(Dynomill Model KDL社製、チェンバー容量0.6L)で細胞を破砕した。なお、チェンバー内での酵母懸濁液の滞留時間は10分間とし、冷却条件は循環冷却方式(2℃)とした。また上記破砕後の酵母破砕液を遠心分離し、その上清画分5Lを調製した。
平膜による濃縮
実施例2において得られた上清画分を、1000kDa、100kDa及び5kDaの分画分子量の限外濾過膜を用いて濾過を行った。限外濾過装置は「ポールTFF限外濾過カセットシステム」(日本ポール株式会社製)を用いた。作業工程の大まかな流れ、及びその作業工程の各段階における抽出液中のTRX含量及び純度等を図1に示す。
なお、試料中のTRX濃度の測定は、以下の手順により行った。
1) R1(300μL)と試料(20μL)を混合
2) 25℃で5分間予備加熱
3) R2(6μL)を添加し、混合
4) 25℃で1分間インキュベートし、その間におけるAbs340の減少を測定
(R1とは、0.1M Tris-HCl(pH7.0)、2mM EDTA、0.8mg/mLインシュリン、0.16mM NADPH溶液のことを指す。またR2とは、0.3U/mL NTR(NADP依存チオレドキシンレダクターゼ)、0.1M Tris-HCl(pH7.0)溶液のことを指す。)
最終的に乾燥残物中の含有率が0.72質量%、タンパク質成分中の純度が1.13質量%のTRX高含有抽出物を得た。TRXを高濃度で含有するため、それ以降の精製工程が簡便になり、TRX精製品の調製が迅速かつ簡便になった。
本発明の酵母TRXの製造方法は、酵母TRXを高濃度で含有する酵母抽出物を容易に得る工程を含むため、酵母TRXの製造を迅速かつ簡便に行うことが可能となった。これにより酵母TRXの製造コストの削減、製造期間の短縮などの経済効果が期待できる。
TRX高含有抽出物の調製工程の大まかな流れ、及びその工程の各段階における抽出液中のTRX含量及び純度等を示した図及び表。

Claims (1)

  1. チオレドキシン高含有酵母の菌体を破砕して得た酵母細胞抽出液を遠心分離し、得られた上清画分を、(1)分画分子量1000kDaの限外濾過膜;(2)分画分子量100kDaの限外濾過膜;及び(3)分画分子量5〜6kDaの限外濾過膜により、この順番で濾過することから構成される、チオレドキシンを含有する画分と含有しない画分とに分離する工程を含み、そして、
    チオレドキシンを含有する画分を調製する工程後、左記画分に含まれる総タンパク質に占めるチオレドキシン含有量が、0.1〜25質量%である
    ことを特徴とする、
    酵母チオレドキシンの製造方法。
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