JP5323829B2 - 細胞の識別およびソーティング方法およびその装置 - Google Patents

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Description

本発明は、細胞の識別およびソーティング方法、特に、主として細胞の大きさや形状等を含む細胞の形態上の特徴と細胞核や細胞質等を含む細胞の内部構造上の特徴の少なくとも一方を反映する透過光の情報だけ、または透過光情報と細胞の内部構造の特徴を反映する側方散乱光の情報を用いて行う細胞の識別およびソーティング方法および装置に関する。
細胞浮遊液を高速で流し、レーザー光を照射して測定することにより、細胞1個1個を解析するフローサイトメトリーという手法が用いられている。フローサイトメーターでは、細胞1個1個の相対的大きさや形状、内部構造の違い、さらに蛍光標識を行うことによって蛍光強度や蛍光の種類を測定し、細胞の同定や細胞群を構成する種々の細胞の存在比を短時間で解析することができることが知られている。
即ち、細胞浮遊液を高流速のシース液(鞘流)の中心に流し、円錐状の流路に通すことにより細く絞り込まれて、細胞1個1個が全て同一ライン上を流れるように設定する。このように同一ライン上を流れる細胞にレーザーを照射すると、通過した細胞から散乱光と蛍光が発せられる。なお、細胞がレーザー光に照射される時間は、数マイクロ秒でダメージは全く問題にならない。細胞からの散乱光は、レーザービームと同じ方向への前方散乱光(FSC;Forward Scatter)と、レーザービームと90度方向への側方散乱光(SSC;Side Scatter)を検出する。前方散乱光(FSC)は細胞の大きさを、側方散乱光(SSC)は、細胞の内部構造の複雑さを、それぞれ反映して光強度が変化する。蛍光(FL;Fluorescence)は、側方散乱光(SSC)と同じ90度方向に放射される光を光学フィルターによって分光して抽出することによって、それぞれの波長成分を検出する。
例えば、励起光としてレーザーを使用して、光を細胞に照射し、蛍光色素を検出する。蛍光色素は、ある波長を吸収し、その高エネルギー光(短い波長)を、より低いエネルギー光(長い波長)に変換する。各蛍光色素は、それぞれ特有の励起波長分布と発光波長分布を持っている。即ち、一定範囲の光波長を吸収し、一定範囲の波長の放射光(蛍光)を発する。得られた蛍光は、検出器によってその強度(蛍光強度;Fluorescent Intensity)が測定され、得られた値はデジタル変換され、他の細胞の蛍光強度と共にサイトグラムやヒストグラムとして表示される。例えば、サイトグラムは1個の細胞から得られた散乱光や蛍光の情報を二次元座標上に表示し、ヒストグラムは、例えば、横軸を光強度、縦軸を細胞数として表される。
上述したように、従来は、フローサイトメーター(FCM;Flow Cytometer)で、図8に示すように、散乱光計測値を取得し、解析して、細胞の大きさおよび内部構造の違いを認識する。散乱光は、前方および側方においてそれぞれ取得する。
細胞周期は、細胞分裂で生じた娘細胞が、再び母細胞となって細胞分裂を行い、新しい娘細胞になるまでの過程のことをいう。細胞周期は、G1期、S期、G2期及びM期に分けることができ、特にG2期及びM期では、染色体の数が増えるので、細胞核または細胞のサイズが大きくなる特徴がある。
また、幹細胞を含む一部の特殊な細胞では、細胞に占める細胞核の大きさの割合が、一般の細胞より高いこととして知られている。
特許第2973387号公報(特開平6−323987号公報) 株式会社秀潤社発行 中内啓光監修「細胞工学別冊 実験プロトコールシリーズ 新版フローサイトメトリー自由自在−マルチカラー解析からクローンソーティングまで−」 P113
従来の細胞解析装置、例えばフローサイトメーターは、細胞のサイズを前方散乱光情報によって解析しているが、その解析精度は低く細胞の大きさを明確に識別することができないという問題点がある。このため、セルサイクルの解析には、細胞核のDNAに対す染色が必要不可欠となっている。しかし、細胞核のDNAに対して染色すると、染色によって細胞を死滅してしまうという問題点がある。即ち、セルサイクルの各期毎に細胞を無染色で精度よくソーティングすることができず、セルサイクルの特定の期にある生細胞のソーティングができないという問題点がある。
一方では、再生医療や薬の開発に必要とされる幹細胞・癌幹細胞のソーティングは、蛍光化学物質をその細胞の外に排出するという、幹細胞・癌幹細胞が備えている特徴を利用して、その細胞をソーティングしている。しかし、蛍光化学物質による幹細胞・癌幹細胞へのダメージが生じるので、幹細胞・癌幹細胞の分化・誘導に悪影響を与えている。
更に、従来の細胞認識・解析は、細胞表面の抗原・抗体反応によって行われていた。しかし、細胞表面の抗原・抗体反応においても、抗原・抗体反応によって細胞にダメージを与える、更にそれに加え、抗体がなければ、細胞の認識ができないという問題があった。
したがって、本発明の目的は、細胞核への染色を行わずに、細胞を死滅させることなく、且つ細胞にダメージを与えることなく、生細胞の細胞周期や幹細胞を含む特殊な細胞を認識し、ソーティングすることができる細胞の識別およびソーティング方法およびその装置を提供することにある。
発明者は上述した従来の問題点を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、フローセル内にSM(シングルモード)光を照射し、照射光を含む細胞を通過した光を任意領域にて受光した信号、もしくは照射光を含む細胞を通過した光を任意領域にて受光した信号と側方散乱光の受光信号とを合わせて解析することによって、細胞の核染色を行うことなく、生細胞の細胞周期、または、異倍体核細胞・多倍体核細胞の認識およびソーティングができることが判明した。
この場合、流路を通過したSM光と、細胞を通過した光や、細胞により反射・散乱・そして回折した光を全て合わせて透過光と呼ぶ。透過光を受光する任意領域では、SM光を常に受光しているが、細胞測定時にSM光受光パワーに変動が起こる。その変動パターン(=信号)のピーク、幅、面積等を透過光情報と呼ぶ。
また、細胞の流れる位置によって幅値のばらつき(=流速ばらつき)が考えられるが、ほぼ同じ流速データをもつ透過光情報を解析することで精度を向上させることができる。
特に、細胞周期における細胞の染色体が安定しているG1期と、染色体の数が増えて細胞核または細胞のサイズが大きくなるM期を認識し、ソーティングすることが可能であることが判明した。
この発明の細胞の識別およびソーティング方法の第1の態様は、細胞に光を照射して得られる細胞の大きさや形状等を含む細胞の形態上の特徴と細胞核や細胞質等を含む細胞の内部構造上の特徴の少なくとも一方を反映する透過光の情報を用いて、ある特定の細胞集団、またはその特定の細胞集団の一部の生細胞を識別およびソーティングすることを特徴とする細胞の識別およびソーティング方法である。
この発明の細胞の識別およびソーティング方法の第2の態様は、前記透過光の情報と、細胞の内部構造の特徴を反映する側方散乱光の情報を用いて、前記生細胞を識別およびソーティングすることを特徴とする、細胞の識別およびソーティング方法である。
この発明の細胞の識別およびソーティング方法の第3の態様は、前記特定の細胞集団の一部の生細胞は、セルサイクル(細胞周期)のG1期の細胞の一部であることを特徴とする、細胞識別およびのソーティング方法である。
この発明の細胞の識別およびソーティング方法の第4の態様は、前記セルサイクルのG1期の一部の生細胞が、横軸に表示される透過光情報によって形成される細胞のヒストグラム、または、横軸に表示される透過光情報および縦軸に表示される側方散乱光情報によって形成される細胞の解析散布図におけるS期の最も小さい細胞よりも小さい細胞、即ち、前記解析散布図における曲線のいわゆる左裾野部分の細胞であることを特徴とする、細胞の識別およびソーティング方法である。
この発明の細胞の識別およびソーティング方法の第5の態様は、前記特定の細胞集団の一部の生細胞は、セルサイクルのM期の細胞の一部であることを特徴とする、細胞の識別およびソーティング方法である。
この発明の細胞の識別およびソーティング方法の第6の態様は、前記セルサイクルのM期の一部の生細胞が、横軸に表示される透過光情報によって形成される細胞のヒストグラム、または、横軸に表示される透過光情報および縦軸に表示される側方散乱光情報によって形成される細胞の解析散布図におけるS期の最も大きい細胞よりも大きい細胞、即ち、前記解析散布図における曲線のいわゆる右裾野部分の細胞であることを特徴とする、細胞の識別およびソーティング方法である。
この発明の細胞の識別およびソーティング方法の第7の態様は、前記特定の細胞集団の一部の生細胞が、細胞表面抗体・抗原反応、細胞内の蛍光蛋白発現を含む蛍光処理の有無に関わらず、核染色の蛍光標識処理を行わずに、前記特定の細胞集団またはその細胞集団の一部の生細胞をソーティングすることを特徴とする、細胞の識別およびソーティング方法である。
この発明の細胞の識別およびソーティング方法の第8の態様は、少なくとも透過光の情報を用いて幹細胞を含む一部の特殊な細胞を識別し、横軸に表示される透過光情報によって形成される細胞のヒストグラム、または、横軸に表示される透過光情報および縦軸に表示される側方散乱光情報、もしくは透過光の幅情報や蛍光情報等によって形成される細胞の解析散布図におけるS期の最も大きい細胞よりも大きい幹細胞を含む特殊な細胞、即ち、前記解析散布図における曲線のいわゆる右裾野部分の細胞をソーティングする、細胞の識別およびソーティング方法である。
この発明の細胞の識別およびソーティング方法の第9の態様は、前記特定の細胞集団の一部の生細胞の内から、一つの細胞を一つのウエルにソーティングすることを特徴とする、細胞の識別およびソーティング方法である。
この発明の細胞の識別およびソーティング方法の第10の態様は、ある特定の細胞集団の透過光情報において、最大値から1%以内の領域の細胞を、異倍体核細胞または多倍体核細胞として識別しソーティングする、細胞の識別およびソーティング方法である。
この発明の細胞の識別およびソーティング方法の第11の態様は、前記1%の領域の平均値(mean)からその4σを引いた値が、前記ある特定の細胞集団の透過光情報の平均値(mean)よりも大きいときに、異倍体核細胞または多倍体核細胞として細胞を識別しソーティングする、細胞の識別およびソーティング方法である。
この発明の細胞の識別およびソーティング方法の第12の態様は、前記1%の領域の平均値(mean)からその4σを引いた値が、前記ある特定の細胞集団の透過光情報の平均値(mean)よりも大きく、且つ、前記1%の領域の細胞の標準偏差(σ)を平均値(mean)で除した値(CV)が8%以上のときに、異倍体核細胞または多倍体核細胞として細胞を識別およびソーティングする、細胞の識別およびソーティング方法である。
この発明の細胞の識別およびソーティング方法の第13の態様は、前記ある特定の細胞集団は、一部の生細胞が、細胞表面抗体・抗原反応、細胞内の蛍光蛋白発現を含む蛍光処理の有無に関わらず、核染色の蛍光標識処理を行わずにソーティングされた、血液細胞である、細胞の識別およびソーティング方法である。本来血液中に存在するはずのない多倍体核細胞、異倍体核細胞を識別することにより、癌診断に応用することができる。
例えば癌細胞は多くの細胞核を有する多倍体核、もしくは異倍体核のケースが多い。血液中の多倍体核、異倍体核細胞の数を測定することにより癌の予後や治療効果を予測する方法としても応用することができる。
この発明の細胞のソーティング装置の第1の態様は、細胞に光を照射する光照射部と、細胞の大きさや形状等を含む細胞の形態上の特徴と細胞核や細胞質等を含む細胞の内部構造上の特徴の少なくとも一方を反映する透過光の情報と、細胞の内部構造の特徴を反映する側方散乱光の情報を取得できる細胞の計測部と、計測した透過光および側方散乱光の情報を解析する解析部と、前記解析部によって得られた細胞のある特定の集団、またはその特定の細胞集団の一部の生細胞をソーティングする細胞のソーティング部とを備えた細胞のソーティング装置である。
この発明の細胞のソーティング装置の第2の態様は、前記細胞のソーティング部は、横軸に表示される透過光情報によって形成される細胞のヒストグラム、または、横軸に表示される透過光情報と縦軸に表示される側方散乱光情報によって形成された細胞の解析散布図における所定の領域の1または複数の生細胞を、所定のウエルにソーティングする機能を備えていることを特徴とする、細胞のソーティング装置である。
この発明によると、フローセル内にSM(シングルモード)光を照射し、照射光を含む細胞を通過した光を任意領域にて受光した信号もしくはフローセル内にSM(シングルモード)光を照射し、照射光を含む細胞を通過した光を任意領域にて受光した信号と、側方散乱光の受光信号とを合わせて解析することによって、細胞の核染色を行うことなく、生細胞の細胞周期の認識およびソーティングができる。
細胞への染色をせずに、生きた状態のままでセルサイクルのG1期またはM期のみの細胞、または、多倍体核細胞または異倍体核細胞を他から分離してソーティングできることにより、細胞の研究、特に細胞の分化・誘導の研究に寄与することができる。また、ソーティングされた生細胞の経過に応じた再度のソーティングも可能となり、細胞のリアルタイムの研究に寄与することができる。更に、蛍光化学物質を使用せずに、幹細胞・癌幹細胞を取り出せるので、細胞への余分のダメージを回避することができ、細胞の分化・誘導に寄与することができる。
図1は、この発明の透過光情報を検出し、横軸に透過光情報におけるピークを表示して作成したヒストグラムである。 図2は、HeLa細胞のセルサイクルの全ての期を含む透過光情報を検出し、横軸に透過光情報におけるピークを表示したヒストグラムを示す。 図3は、透過光情報および側方散乱光情報をドットプロットした状態を示すイメージ図である。 図4は、この発明の細胞のソーティング装置の計測原理図である。 図5は、ソーティング部の構成を示す図である。 図6は、従来の前方散乱光情報のヒストグラムを示す。横軸に前方散乱光情報におけるピークを表示している。 図7は、細胞の核染色(PI)による細胞周期の解析結果を示す図である。 図8は、従来のフローサイトメーターによる散乱光の計測・解析を示す図である。 図9は、透過光情報のパラメータとしての、ピーク値、幅値及び面積値を示す概念図である。 図10は、透過光情報のピーク値と、一定の流速範囲にある透過光情報の幅値によって、特定された幹細胞を含む特殊細胞の特定方法の概念図である。 図11は、ほぼ同じ流速データを抽出した後に解析した結果を示す。 図12は、横軸に透過光情報における透過光ピーク、縦軸に側方散乱光情報における透過光ピークを示したドットプロットのグラフを示す。 図13は、図12に示す領域R1において、横軸に細胞核の蛍光強度を示したヒストグラムを示す。 図14は、図12に示す領域R1内のデータにおいて、横軸に透過光情報における透過光ピークを示したヒストグラムを示す。 図15は、領域R3でゲーティングした領域において、横軸に細胞核の蛍光強度を示したヒストグラムを示す。 図16は、複数種の細胞が混在する母集団を測定したヒストグラムを示す。横軸に透過光情報におけるピークを表示している。
1 フローセル
2 サンプル流
3 シース流
4 光コネクタ
5 レーザー
6 細胞
7 透過光受光デバイス
8 光ファイバ
9 側方散乱光受光デバイス
10 蛍光デバイス
この発明の細胞のソーティング方法およびその装置について、図面を参照しながら説明する。
この発明の細胞の識別およびソーティング方法の1つの態様は、細胞に光を照射して得られる細胞の大きさや形状等を含む細胞の形態上の特徴を反映する透過光の情報、もしくは細胞に光を照射して得られる細胞の大きさや形状等を含む細胞の形態上の特徴を反映する透過光の情報と、細胞の内部構造の特徴を反映する側方散乱光の情報を合わせて用いて、ある特定の細胞集団、またはその特定の細胞集団の一部の生細胞を識別およびソーティングすることを特徴とする細胞のソーティング方法である。上述した特定の細胞集団の一部の生細胞は、例えば、セルサイクル(細胞周期)のG1期、もしくはM期の細胞の一部である。
有糸分裂の時期をM期と呼び、ほとんどの細胞において約1時間程度で終了し、全周期のほんの一部に過ぎない。M期と次のM期の間を間期(interphase)と呼び、細胞は間期の間に必要な物質を合成し、成長しており、ほとんどのタンパク質やほかの物質は間期の間ずっと合成され続けている。間期はさらに、G1期、S期、G2期に分けられる。S期には核のDNAの複製が起こる時期である。M期の終了からS期の開始までの期間をG1期、つまり最初のギャップ期である。活発に分裂している細胞はG1期の間にDNA合成に必要な酵素が活性化される。この活性化によって細胞はふつうS期に入っていく事ができる。分裂を続けない細胞はS期に入らず、周期の外に出てG0と呼ばれるG1期と似たような状態にとどまる。S期を完了すると、細胞は、二番目のギャップ期であるG2期に入る。この時期に、分裂の準備の最終段階が始まり、タンパク質の合成が増加する。
M期はさらに、前期、中期、後期および終期に分けられる。前期では、染色体の凝縮が起こり、この時期に染色体が顕微鏡下で観察されるようになる。中期に入ると核膜が消失し、染色体が赤道面上に並ぶ。紡錘体もこの時期に完成を見る。後期では、セントロメア(動原体;Centromere)付近で結合していた姉妹染色体が、紡錘体に引っ張られるような形で分離し、極方向に移動を開始する。終期では凝集した染色体がほどかれ、核膜が再形成される。また、この時期から細胞質分裂が始まり、細胞分裂が終了する。
この発明の細胞の識別およびソーティング方法においては、上述したように、S期は遺伝子の増幅・修復期であり、不安定であるので、染色体が安定しているG1期、M期の認識・ソーティングを行う。
透過光は、その情報として、細胞の大きさや形状等を含む細胞の形態上の特徴を反映する。側方散乱光は、その情報として、細胞の内部構造の特徴を反映する。透過光、もしくはこのような2つの情報を組み合わせて、細胞周期(セルサイクル)の特定の期を認識する。従来は、図7に示すように、細胞の核染色(PI)によって、細胞周期の解析を行っていた。その結果、図7に示すように、G1期、S期、M期が明確に認識されていた。しかし、細胞の核染色によって細胞がダメージを受け(ある種の核染色は、細胞が死滅せずにダメージを受けることがある)、死滅し、生細胞には適用することができなかった。
図4は、この発明の細胞の識別およびソーティング装置の計測原理図である。フローセル1の中でサンプル(細胞)浮遊流2とシース(鞘)液の流れ3の層流が形成される。シース液もサンプル液もコンプレッサなどの圧力によって押し出される。その際、サンプル液側の圧力をシース液側の圧力よりわずかに低い状態にすると、サンプル液は、シース液との層流を形成する段階で流体力学的絞り込みが生じて、シース流に包まれたサンプル流の流径は非常に細くなり、細胞は1列に並ぶ。このように圧力差を調整することによって、1個1個の細胞が1列になり、1個ずつ順番にフローセル中を流れていく状態が形成される。
フローセル1を両側から挟むように1対の所定の光コネクタ(例えば多芯コネクタ)4が設けられて、レーザー5からの光がフローセル1内を通過する細胞6に照射され、細胞6を透過した透過光が透過光受光デバイス7によって受光されるように、レーザー5および光ファイバ8が配置され固定される。即ち、レーザー5からSM(シングルモード)光ファイバ8中を伝わったSM光がフローセル1に照射される。このSM光を横切るようにして細胞6が上述したように1個づつ順番に流れる。光ファイバ8の一端はレーザー5と接続され、他端側には透過光受光デバイス7が配置されている。透過光情報のパラメータとしては、透過光情報のピーク値、透過光情報の幅値及び透過光情報の面積値が取られる。
更に、細胞6がフローセル1内でレーザー光を通過するとき、細胞6はレーザー光を散乱させる(蛍光標識した場合には、蛍光色素から蛍光を発する)。細胞6からの散乱光のなかで、レーザービームと90度方向へ散乱する側方散乱光(SSC)を検出する側方散乱光受光デバイス9が設けられている。さらに、側方散乱光(SSC)と同じ90度方向に光学フィルターを用いて分光しそれぞれの波長成分を検出する蛍光デバイス10が設けられている。
フローセルを通過したサンプル浮遊液とシース液は、液滴を形成して、所定のウエルにソーティングされる。なお、図ではシース液およびサンプル液は下から上に向かって流れているが、上から下に向かって流れてもよい。通常ソートの場合は、上から下に向かって流れる。複数の励起波長を必要とする場合や、特殊な波長を必要とする場合は、複数のレーザーを搭載し、目的に応じて切り替えることができる。更に、サンプル液の流れる速度を測定する測定部が備えられている。
受光デバイスは光を受けると電流を生じ、この電流はパルス処理のために電圧パルスに変換される。電圧パルスは、A/D変換され(電圧パルスはアナログ値で、これを通常、1024分割のスケール(物差し)で計り、0から1023までのいずれかの整数値に置き換えることを、アナログ/デジタル変換(A/D変換)と呼ぶ)、各パラメータの数値データを用いて、コンピュータ(解析ソフトウエア)によって、各種ヒストグラムが作成される。図1は、この発明の透過光情報を検出し、作成したヒストグラムである。
上述した透過光情報について、図9にその概念図を示す。図9は、透過光情報のパラメータとしての、ピーク値、幅値及び面積値を示している。透過光受光領域では常にSM(シングルモード)光を受光しており、ある一定の受光レベル(パワー)がある。細胞が通過すると、その受光レベル(パワー)が図示の二次曲線のように変動する。同じ幅値であれば、ピーク値の大きい細胞は、透過光の透過率が小さく、例えば細胞核が大きいことを意味する(細胞質より細胞核の透過率が小さい)。
図1において横軸に透過光情報におけるピーク、縦軸が頻度を示している。横軸の右に行くほどサンプル(細胞)のサイズが大きくなっている。横軸の左に行くほどサンプル(細胞)のサイズが小さくなっている。
先ず、このように、細胞にレーザー光を照射して、その透過光を検出して解析すると、細胞分裂の各周期における細胞の大きさが明示される。実際には、細胞分裂の周期の比較的安定な状態にあるG1期から過渡期のS期を経て染色体の数が増えて細胞核または細胞のサイズが大きくなるM期へと大きさが変化している。図1には、上述した細胞のサイズの変化が明らかに示されている。即ち、各期の大小関係は次の通りであり、実体と合致している。
G1<S<G2/M
次に、図1の中央に示す細胞分裂の周期のS期の曲線を基準にして、比較的安定な状態にあるG1期の曲線を観察すると、G1期においては、S期の左端部から更に左側に広がる曲線の左裾野部分が存在しているのを確認することができる。従って、G1期における左側にはみ出した曲線の左裾野部分(全体の約3%)をソーティングすると、確実にG1期の生細胞のみを、他と分離してソーティングすることができる。
同様に、細胞分裂の周期のS期の曲線を基準にして、染色体の数が増えて細胞核または細胞のサイズが大きくなるM期の曲線を観察すると、M期の右端部から更に右側に広がる曲線の右裾野部分が存在しているのを確認することができる。従って、M期における右側にはみ出した右裾野部分(全体の約24%)をソーティングすると、確実にM期の生細胞のみを、他と分離してソーティングすることができる。
なお、この発明においては、生細胞をソーティングするので、ソーティングされた細胞は引き続き細胞分裂を繰り返して、時間の経過につれて、図1に示すような特徴を有したG1、S、Mの各期を示す。更に、認識できた各期の全ての領域においてソーティングは可能である(例えば、G1期の左裾野部分だけでなく、全ての領域においてソーティングできる)。
図6は、従来の前方散乱光情報のヒストグラムを示す。横軸に前方散乱光情報における前方散乱光ピークを表示している。図6に示すように、従来の前方散乱情報によると、G1、S、Mの各期の大きさの相関関係が不明である。従って、生細胞による各期のソーティングは不可能である。
図2は、HeLa細胞のセルサイクルの全ての期を含む透過光情報のヒストグラムを示す。横軸に透過光情報におけるピークを表示している。図2に示す点線で示す境界線は、図1に示す境界線と同じである。このように細胞のセルサイクルの全ての期を含む透過光情報においても、曲線の左裾野部分はG1期、曲線の右裾野部分はM期を示している。従って、G1期における左側にはみ出した左裾野部分(全体の約1%)をソーティングすると、確実にG1期の生細胞のみを他と分離してソーティングすることができ、M期における右側にはみ出した右裾野部分(全体の約7%)をソーティングすると、確実にM期の生細胞のみを、他と分離してソーティングすることができる。
図3は、透過光情報および側方散乱光情報をドットプロットした状態を示すイメージ図である。縦軸に側方散乱光情報、横軸に透過光情報を示す。横軸の右に行くほど形状が大きくなっている。図3(a)にG1期、図3(b)にS期、図3(c)にM期の情報が示されている。図に示すように、G1、S、Mの各期が次第に大きくなっている状態が示されている。図3(d)にG1期、S期、M期を重ね合わせた情報を示している。図3(d)に示す点線の境界線は、S期の大きさに対応している。図に示すように、透過光情報および側方散乱光情報をドットプロットした状態においても、左裾野部分はG1期、右裾野部分はM期を示している。
更に、細胞の抗原と抗体反応を含む細胞に対する蛍光色素の染色処理を行わずに、透過光情報で幹細胞を含む一部の特殊な細胞を識別する。幹細胞を含む一部の特殊な細胞の内部の大部分が核であるため、通常の細胞よりも透過率が低いため、透過光の信号が強く(大きく)でる(減衰信号のため)。上述したと同様にして、透過光情報によってヒストグラムを作成すると、幹細胞を含む一部の特殊な細胞の領域は、曲線の右裾野部分の領域に相当する。幹細胞を含む一部の特殊な細胞に関しても、同様に、透過光と散乱光等の他の光情報の組合せによって解析散布図を作成してもよい。上述した右裾野部分の領域で特定した幹細胞をソーティングする。この場合、特殊な細胞とは、自己複製能または多分化能を持つ幹細胞や癌幹細胞等の細胞であることと、多倍体核となる癌の細胞であること。癌細胞は、多くの細胞核を有する多倍体核のケースが多く、結果的には細胞に占める核の割合が大きく、光の透過率が低くなる性質があるのが、前記の幹細胞と同じである。
更に、この発明は、多倍体核細胞、異倍体核細胞の識別およびソーティングに適用することができる。即ち、透過光情報によって、多倍体核細胞、異倍体核細胞の識別およびソーティングを行う。染色体の分裂に引き続いて行われる細胞質分裂において、細胞質分裂に失敗した細胞は、通常の2倍の数の核(または染色体数が2倍の1つの核)を持つことになる。その中には、細胞死を免れたものの染色体の数の異常の結果、様々な異常を持つような細胞が現われる。これらを多倍体核細胞、異倍体核細胞という。核を染色したHeLa細胞を測定した結果を分析したところ、G2/M領域の中心から3σ(σは標準偏差)以上離れた領域が多倍体核細胞・異倍体核細胞領域であることが判明した。この結果に基づき、多倍体核細胞・異倍体核細胞領域は、横軸を透過光情報におけるピークを表示した図14に示すヒストグラムに示す上位1%の細胞の領域、即ち細胞のサイズが大きい方から1%分の領域(図14の右端部分、R3の領域)であることが明らかになった。この発明においては、透過光情報を使用して、透過光情報におけるピークのヒストグラムに示す上位1%の領域の細胞をソーティングすると、高い精度で多倍体核細胞、異倍体核細胞を、他と分離してソーティングすることができる。
更に、透過光情報におけるピークのヒストグラムに示す、上述した1%の領域の平均値(mean)からその4σを引いた値が、前記HeLa細胞の透過光情報におけるピークの平均値(mean)よりも大きいときに、上述した1%の細胞が多倍体核細胞または異倍体核細胞である。これは、上述したヒストグラムにおける全体の平均値(mean)が、上位1%の領域の平均値(mean)からその4σ離れていることによる。更に、透過光情報におけるピークのヒストグラムに示す、上述した1%の領域の平均値(mean)からその4σを引いた値が、上述したヒストグラムにおける全体の平均値(mean)よりも大きく、1%の細胞の標準偏差(σ)を平均値(mean)で除した値(CV)が8%以上のときに、上述した1%の細胞が多倍体核細胞または異倍体核細胞である。即ち、更に、1%の細胞の標準偏差(σ)を平均値(mean)で除した値(CV)を所定の値以上にすることによって精度を高めている。
上述したように、透過光情報によって、細胞への染色をせずに、生きた状態のままで多倍体核細胞または異倍体核細胞を他から分離してソーティングできることにより、細胞の研究、特に細胞の分化・誘導の研究に寄与することができる。これによって、本来血液中に存在するはずのない多倍体核細胞、異倍体核細胞を識別することにより、癌診断に応用することができる。
例えば癌細胞は多くの細胞核を有する多倍体核、もしくは異倍体核のケースが多い。血液中の多倍体核、異倍体核細胞の数を測定することにより癌の予後や治療効果を予測する方法としても応用することができる。
図5は、ソーティング部の構成を示す図である。ソーティング部において、識別・廃棄、および、ソーティングが行われる。それぞれの状態を説明する。即ち、目的細胞が検出されるまでの状態と、目的細胞が検出された状態において、操作が異なる。
(1)識別・廃棄の状態
図5に示すように、サンプル液が矢印の方向に連続して流れ、フローセル中を流れる細胞に、識別部においてレーザー光を照射し、透過光の情報、または、透過光の情報および側方散乱光の情報に基づいて、目的細胞であるか否かの識別を行う。目的細胞が検出されるまでは、分注ノズルは廃液槽に挿入されており、非目的細胞は廃液槽に廃棄される。
(2)ソーティング状態
透過光の情報、または、透過光の情報および側方散乱光の情報に基づいて、目的細胞が検出されると、目的細胞が分注ノズル先端に到達するまでの時間が算出される。算出された到達時間に細胞がノズル先端に到達するタイミングで廃液槽が退避し、その次にステージ(培養プレート)が上昇する。このようにして、分注ノズルの先端が各ウエル(well)に挿入されて、目的細胞が分注される。
なお、細胞がノズル先端に到達するまでの時間の計算方法は次の通りである。
光信号の検出部(光ファイバ)はサブミクロンの精度でサンプル進行方向に複数設置されている(測定部の間隔は既知)。各検出部の間隔と各測定部を通過する時間差より流速が算出される。検出部からノズル先端までの距離は既知であるため、目的細胞のノズル先端までの到達時間が計算される。
この発明の細胞のソーティング方法を実施例によって説明する。
実施例1
図4に示した計測原理に従って細胞のソーティングを行うことができる細胞のソーティング装置を使用して、フローセルを通過するHeLa細胞にレーザー光を照射して、細胞を透過した光、細胞を透過した光および細胞によって側方に散乱した光を検出し、透過光情報におけるピークによるヒストグラムを作成した。図1に透過光情報によるヒストグラムを示す。図1に示すように、HeLa細胞のG1期は図1aに、S期は図1bに、M期は、図1cにそれぞれ計測され、解析されている。
図1の横軸に表示される透過光情報におけるピークは、細胞の形態上の情報を反映している。横軸は右に行くほどサイズが大きくなり、左に行くほどサイズが小さくなっている。縦に点線で示された境界線は概ねS期の細胞の大きさに対応している。図1に示すように、図1aのG1期は、図1bのS期から左側に裾野部分が広がっている。従って、図1aのG1期は、図1bのS期から分かるように、図1aの左裾野部分(全体の3%)は、確実にHeLa細胞のG1期であり、セルサイクルのG1期が特定される。
図2は、HeLa細胞(セルサイクルの全ての期を含む)の透過光情報におけるピークによるヒストグラムを示している。図1および図2によって示される横軸の左裾野部分(全体の3%、1%)をゲーティングし、所定のウエルに一つないし複数の細胞をソーティングした。その結果、細胞の比較的安定的な状態にあるG1期のみのソーティングをすることができた。これによって、生細胞におけるG1期細胞のみのソーティングが可能になり、細胞の分化と培養の研究に大きく寄与することができる。
実施例2
同様に、図4に示した計測原理に従って細胞のソーティングを行うことができる細胞のソーティング装置を使用して、フローセルを通過するHeLa細胞にレーザー光を照射して、細胞を透過した光および細胞によって側方に散乱した光を検出し、透過光および側方散乱光情報による解析散布図を作成した。図3にそのイメージ図を示す。図3に示すように、HeLa細胞のG1期は図3aに、S期は図3bに、M期は、図3cにそれぞれ計測され、解析されている。
図3の横軸に表示される透過光情報は、細胞の形態上の情報を反映し、縦軸に表示される側方散乱光情報は、細胞の内部構造上の情報を反映している。横軸は右に行くほど形態が大きくなり、左に行くほど形態が小さくなっている。図3(d)に縦に点線で示された境界線は概ねS期の細胞の大きさに対応している。図3(d)に示すように、M期は、S期の右端部から右側にはみ出している(ヒストグラムの右裾野部分に対応)。従って、M期は、S期からはみ出している右はみ出し部分は、確実にHeLa細胞のM期であり、セルサイクルのM期が特定される。
図3によって示される横軸の右はみ出し部分をゲーティングし、所定のウエルに一つないし複数の細胞をソーティングした。その結果、細胞の分裂期にある比較的不安定的な状態にあるM期のみのソーティングをすることができた。これによって、生細胞におけるM期細胞のみのソーティングが可能になり、細胞の分化と培養の研究に大きく寄与することができる。
実施例3
図4に、透過光情報と側方散乱光情報を計測できる計測部の構成を示す。この計測部を備えた細胞のソーティング装置を使用することによって、細胞の流れ方向に設けた測定点によって、細胞の蛍光情報、透過光情報及び側方散乱光情報が計測できることに加え、複数間の計測点の透過光情報によって、細胞の流速情報を計算することができた。
図5に、所定の細胞集団から一つないし複数の細胞を所定のウエルにソーティングできるソーティング部の構成を示す。このソーティング部を備えたこの発明の細胞のソーティング装置を使用することによって、ソーティング対象とした細胞は、その流速情報から分注ノズルまでの時間がわかるので、その時間に合わせて、分注ノズルを廃液槽から所定のウエルに移すことによって、全期ターゲート細胞をソーティングすることができた。
実施例4
実施例1と実施例2においてソーティングされたG1期とM期の細胞が、所定の条件下の培養後に、再度、実施例1と実施例2のような解析をして、細胞のソーティングを行った。その結果、実施例1および実施例2と概ね同様な結果が得られた。
実施例5
図10は、透過光情報のピーク値と、一定の流速範囲にある透過光情報の幅値によって、特定された幹細胞を含む特殊細胞の特定方法の概念図である。一定の流速範囲以内の透過光情報の幅値であれば、細胞のサイズがほぼ同じ大きさを意味し、その中の透過光情報のピーク値の大きい領域の細胞では、細胞質より透過率の小さい細胞核を反映している。つまり同じ細胞の大きさでは、細胞核が大きければ大きいほど透過光情報のピーク値が大きく、幹細胞を含む特殊細胞の可能性が高い。流速については、図9に示すように細胞が流れる受光面断面の位置によって異なる為、同じ程度の流速では、ほぼ同じ受光面断面の位置を通過することを意味する。
幹細胞または癌幹細胞は、核のサイズが普通の細胞の2倍程、大きい特徴があることから、従来の蛍光化学物質(Hoechst33342)を細胞の外へ排出する特性を利用したが、蛍光化学物質による細胞への影響や確実性を考えると問題がある。本実施例では、幹細胞・癌幹細胞の核が大きい細胞自身の特徴を利用して、特に横軸に表示される透過光情報のヒストグラムの右側(大きな値)、もしくは横軸に表示される透過光情報のピーク値の右側(大きな値)と、縦軸に表示される透過光情報の幅値もしくは側方散乱光情報の細胞の形態上と内部構造上の情報を反映する解析散布図を利用して、透過光情報の大きい集団を特定としたソーティングを実施し、幹細胞または癌幹細胞の候補を取り出した。
この場合、細胞の流れる位置によって幅値のばらつき(=流速ばらつき)が考えられるが、図11のようにほぼ同じ流速データを抽出した後に解析することで精度を向上させることができる。
実施例6
透過光情報(透過光波形のピーク)の最大値(即ち、図2に示す透過光情報におけるピークのヒストグラムに示す右端)から1%の領域における細胞のおよそ半数が異倍体・多倍体核細胞であったことを、核を染色したHeLa細胞を測定することにより次の通り確認した。即ち、核を染色したHeLa細胞を測定した結果と、透過光情報に基づく識別との間の相関関係に基づき、透過情報に基づいて、高い精度で識別ソーティングが可能であることを次の通り確認した。
先ず、図5のフローサイトメータで核染色されたHeLa細胞の測定を行った。まず、横軸に透過光のピーク、縦軸に側方散乱光のピークを示したドットプロットのグラフを図12に示す。透過光は細胞の大きさを反映し、細胞サイズが大きいほど大きな値が得られる。側方散乱光は細胞の内部構造を反映し、内部構造が複雑なほどに(核が大きい、複数ある等)大きな値が得られる。図12において、左下の部分をノイズ情報(細胞片等)として取り除いた。このノイズ情報を取り除いた残りの領域をR1とする。
本技術は単一細胞集団の測定を前提としているが、測定時に細胞の凝集や、測定する細胞より微小な細胞片等の混入が懸念される場合、透過光・散乱光信号の信号幅を確認する工程を入れても良い。これらの信号幅の値が平均値に対して2σの範囲から外れる場合には、複数の細胞の凝集、または細胞片であることが考えられ、単一細胞からの信号を解析していない恐れがある。従って、透過光・散乱光信号の信号幅の値が平均値に対して2σの範囲から外れるデータを除くことで、より解析精度が向上する。
次に、上述した領域R1において、横軸に細胞核の蛍光強度を示したヒストグラムを図13に示す。大きいピークがG1期の細胞核の蛍光強度を示しており、小さいピークがG2/M期の細胞核の蛍光強度を示している。G2/M期のピークよりも大きい領域が異倍体・多倍体核細胞の領域と考えられる。ここで、G2/M期のピークよりも大きい領域をG2/M領域の中心より3σ以上離れていると定義した。この領域をR2とし、R2領域内のデータ数を調べた結果、205データであった(即ち、全体の1.34%)。
次に、上述した領域R1内のデータにおいて、横軸に透過光情報における透過光ピークを示したヒストグラムを図14に示す。値の大きい方(図の右端)から1%の領域をR3とすると、R3領域内のデータ数は154データであった。このR3領域の平均値(mean)は673.9、標準偏差(σ)は69.9であった。このときの標準偏差(σ)の平均値(mean)に対する割合(CV)は10.4%であった。一方、図14の全体の平均値(mean)は371.5であり、全体の平均値(mean)は、R3領域の平均値(mean)から4σ離れて位置している。
次に、領域R3でゲーティングした領域において、横軸に細胞核の蛍光強度を示したヒストグラムを図15に示す。図15に図13で決定した領域R2と同じ領域を表示し、この領域をR4とする。このとき、領域R4内のデータ数は74であり、領域R3でゲーティングしたデータの48.1%であった。以上から明らかなように、透過光情報(透過光波形のピーク)の大きい領域より1%の領域のおよそ半数が異倍体・多倍体核細胞であったことを確認することができた。従って、透過光情報に基づいて、異倍体・多倍体核細胞の識別、ソーティングを高い精度で行うことができる。
なお、以上は単一細胞種の母集団を測定した例であるが、複数種の細胞が混在する場合が考えられる。図16に複数種の細胞が混在する母集団を測定したヒストグラムを示す。横軸に透過光情報におけるピーク、縦軸に頻度を示している。図16のピークのヒストグラムにおいて、各細胞の母集団を分離することが可能であれば、その中からある領域を任意に決定し、その領域内の細胞母集団集団に対して、上述した解析を適用しても良い。即ち、複数種の細胞が混在する母集団の中から、任意にRを決定し、その領域R内に存在する集団2について、本実施例において行った解析を適用しても良い。
なお、実施例1〜6において、透過光情報および散乱光情報におけるピークを使用しているが、透過光情報におけるピーク、幅そして面積、散乱光情報におけるピーク、幅そして面積を使用しても良い。
このように、本発明によれば、細胞表面抗体・抗原反応、細胞内の蛍光蛋白発現、そして核染色を含む蛍光処理の有無に関わらず、特定の生細胞集団の解析を行うことができる。さらに、実施形態1〜6に示したように、上記蛍光処理の有無に関わらず、核染色の蛍光標識処理を行わずに、前記特定の細胞集団またはその細胞集団の一部の生細胞を識別およびソーティングすることができる。
上述したように、この発明の細胞の識別およびソーティング方法においては、通常、検出器に入る前にビームマスク等によってブロックされる、散乱せずにフローセルを通り直進してきたレーザー光を透過光情報として利用して、生細胞のセルサイクルの特定期の生細胞、および、異倍体・多倍体核細胞を識別およびソーティングすることができる。

Claims (15)

  1. 細胞に光を照射して得られる細胞の大きさや形状等を含む細胞の形態上の特徴と細胞核や細胞質等を含む細胞の内部構造上の特徴の少なくとも一方を反映する透過光の情報を用いて、ある特定の細胞集団、またはその特定の細胞集団の一部の生細胞を識別およびソーティングする細胞の識別およびソーティング方法であって、
    前記特定の細胞集団の一部の生細胞は、セルサイクル(細胞周期)のG1期の細胞の一部であることを特徴とする細胞の識別およびソーティング方法
  2. 前記セルサイクルのG1期の一部の生細胞が、横軸に表示される透過光情報によって形成される細胞のヒストグラム、または、横軸に表示される透過光情報および縦軸に表示される側方散乱光情報によって形成される細胞の解析散布図におけるS期の最も小さい細胞よりも小さい細胞であることを特徴とする請求項に記載の細胞の識別およびソーティング方法。
  3. 細胞に光を照射して得られる細胞の大きさや形状等を含む細胞の形態上の特徴と細胞核や細胞質等を含む細胞の内部構造上の特徴の少なくとも一方を反映する透過光の情報を用いて、ある特定の細胞集団、またはその特定の細胞集団の一部の生細胞を識別およびソーティングする細胞の識別およびソーティング方法であって、
    前記特定の細胞集団の一部の生細胞は、セルサイクルのM期の細胞の一部であることを特徴とする細胞の識別およびソーティング方法
  4. 前記セルサイクルのM期の一部の生細胞が、横軸に表示される透過光情報によって形成される細胞のヒストグラム、または、横軸に表示される透過光情報および縦軸に表示される側方散乱光情報によって形成される細胞の解析散布図におけるS期の最も大きい細胞よりも大きい細胞であることを特徴とする請求項に記載の細胞の識別およびソーティング方法。
  5. 細胞に光を照射して得られる細胞の大きさや形状等を含む細胞の形態上の特徴と細胞核や細胞質等を含む細胞の内部構造上の特徴の少なくとも一方を反映する透過光の情報を用いて、ある特定の細胞集団、またはその特定の細胞集団の一部の生細胞を、細胞表面抗体・抗原反応、細胞内の蛍光蛋白発現を含む蛍光処理の有無に関わらず、識別およびソーティングする細胞の識別およびソーティング方法であって、
    少なくとも透過光の情報を用いて幹細胞を含む一部の特殊な細胞を識別し、横軸に表示される透過光情報によって形成される細胞のヒストグラム、または、横軸に表示される透過光情報および縦軸に表示される側方散乱光情報、もしくは透過光の幅情報や蛍光情報等によって形成される細胞の解析散布図におけるS期の最も大きい細胞よりも大きい、幹細胞を含む特殊な細胞をソーティングすることを特徴とする細胞の識別およびソーティング方法
  6. 前記特定の細胞集団の一部の生細胞の内から、一つの細胞を一つのウエルにソーティングすることを特徴とする請求項1からの何れか1項に記載の細胞の識別およびソーティング方法。
  7. 細胞に光を照射して得られる細胞の大きさや形状等を含む細胞の形態上の特徴と細胞核や細胞質等を含む細胞の内部構造上の特徴の少なくとも一方を反映する透過光の情報を用いて、ある特定の細胞集団、またはその特定の細胞集団の一部の生細胞を識別およびソーティングする細胞の識別およびソーティング方法であって、
    前記ある特定の細胞集団の透過光情報において、最大値から1%の領域の細胞を、異倍体核細胞または多倍体核細胞として識別およびソーティングすることを特徴とする細胞の識別およびソーティング方法
  8. 前記1%の領域の平均値(mean)からその4σを引いた値が、前記ある特定の細胞集団の透過光情報の平均値(mean)よりも大きいときに、異倍体核細胞または多倍体核細胞として細胞を識別しおよびソーティングする、請求項に記載の細胞の識別およびソーティング方法。
  9. 前記1%の領域の平均値(mean)からその4σを引いた値が、前記ある特定の細胞集団の透過光情報の平均値(mean)よりも大きく、且つ、前記1%の細胞の標準偏差(σ)を平均値(mean)で除した値(CV)が8%以上のときに、異倍体核細胞または多倍体核細胞として細胞を識別およびソーティングする、請求項に記載の細胞の識別およびソーティング方法。
  10. 前記透過光の情報と、細胞の内部構造の特徴を反映する側方散乱光の情報とを用いて、前記生細胞を識別およびソーティングすることを特徴とする請求項1からの何れか1項に記載の細胞の識別およびソーティング方法。
  11. 細胞に光を照射する光照射部と、細胞の大きさや形状等を含む細胞の形態上の特徴と細胞核や細胞質等を含む細胞の内部構造上の特徴の少なくとも一方を反映する透過光の情報と、細胞の内部構造の特徴を反映する側方散乱光の情報を取得できる細胞の計測部と、計測した透過光および側方散乱光の情報を解析する解析部と、前記解析部によって得られた細胞のある特定の集団、またはその特定の細胞集団の一部の生細胞を識別およびソーティングする細胞のソーティング部とを備えた細胞の識別およびソーティング装置であって、
    前記特定の細胞集団の一部の生細胞は、セルサイクル(細胞周期)のG1期の細胞の一部であることを特徴とする細胞の識別およびソーティング装置
  12. 細胞に光を照射する光照射部と、細胞の大きさや形状等を含む細胞の形態上の特徴と細胞核や細胞質等を含む細胞の内部構造上の特徴の少なくとも一方を反映する透過光の情報と、細胞の内部構造の特徴を反映する側方散乱光の情報を取得できる細胞の計測部と、計測した透過光および側方散乱光の情報を解析する解析部と、前記解析部によって得られた細胞のある特定の集団、またはその特定の細胞集団の一部の生細胞を識別およびソーティングする細胞のソーティング部とを備えた細胞の識別およびソーティング装置であって、
    前記特定の細胞集団の一部の生細胞は、セルサイクルのM期の細胞の一部であることを特徴とする細胞の識別およびソーティング装置
  13. 細胞に光を照射する光照射部と、細胞の大きさや形状等を含む細胞の形態上の特徴と細胞核や細胞質等を含む細胞の内部構造上の特徴の少なくとも一方を反映する透過光の情報と、細胞の内部構造の特徴を反映する側方散乱光の情報を取得できる細胞の計測部と、計測した透過光および側方散乱光の情報を解析する解析部と、前記解析部によって得られた細胞のある特定の集団、またはその特定の細胞集団の一部の生細胞を、細胞表面抗体・抗原反応、細胞内の蛍光蛋白発現を含む蛍光処理の有無に関わらず、識別およびソーティングする細胞のソーティング部とを備えた細胞の識別およびソーティング装置であって、
    前記ソーティング部は、少なくとも透過光の情報を用いて幹細胞を含む一部の特殊な細胞を識別し、横軸に表示される透過光情報によって形成される細胞のヒストグラム、または、横軸に表示される透過光情報および縦軸に表示される側方散乱光情報、もしくは透過光の幅情報や蛍光情報等によって形成される細胞の解析散布図におけるS期の最も大きい細胞よりも大きい、幹細胞を含む特殊な細胞をソーティングすることを特徴とする細胞の識別およびソーティング装置
  14. 細胞に光を照射する光照射部と、細胞の大きさや形状等を含む細胞の形態上の特徴と細胞核や細胞質等を含む細胞の内部構造上の特徴の少なくとも一方を反映する透過光の情報と、細胞の内部構造の特徴を反映する側方散乱光の情報を取得できる細胞の計測部と、計測した透過光および側方散乱光の情報を解析する解析部と、前記解析部によって得られた細胞のある特定の集団、またはその特定の細胞集団の一部の生細胞を識別およびソーティングする細胞のソーティング部とを備えた細胞の識別およびソーティング装置であって、
    前記ソーティング部は、前記ある特定の細胞集団の透過光情報において、最大値から1%の領域の細胞を、異倍体核細胞または多倍体核細胞として識別およびソーティングすることを特徴とする細胞の識別およびソーティング装置
  15. 前記細胞のソーティング部は、横軸に表示される透過光情報によって形成される細胞のヒストグラム、または、横軸に表示される透過光情報と縦軸に表示される側方散乱光情報によって形成された細胞の解析散布図における所定の領域の1または複数の生細胞を、所定のウエルにソーティングする機能を備えていることを特徴とする請求項11から14の何れか1項に記載の細胞の識別およびソーティング装置。
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