JP5281019B2 - ポルフィラジン色素及びこれを含有するインク組成物 - Google Patents

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Description

本発明は水溶性のポルフィラジン色素又はその塩、これを含有するインク組成物及びこれにより着色された着色体に関する。
各種カラー記録方法の中で、その代表的方法の一つであるインクジェットプリンタによる記録方法においては、各種のインクの吐出方式が開発されている。該吐出方式は、いずれもインクの小滴を発生させ、これを種々の被記録材料(紙、フィルム、布帛等)に付着させ記録を行うものである。この方式は、記録ヘッドと被記録材料とが直接接触しない為、音の発生がなく静かであり、また小型化、高速化、カラー化が容易という特長の為、近年急速に普及しつつあり、今後とも大きな伸長が期待されている。従来、万年筆、フェルトペン等のインク及びインクジェット記録用インクとしては、水溶性の染料を水性媒体に溶解したインクが使用されている。これらの水性インクにおいてはペン先やインク吐出ノズルでのインクの目詰まりを防止すべく、一般に水溶性の有機溶剤が添加されている。これらのインクにおいては、十分な濃度の記録画像を与えること、ペン先やノズルの目詰まりを生じないこと、被記録材上での乾燥性がよいこと、滲みが少ないこと、保存安定性に優れること等が要求される。また該インクにより形成される記録画像には、耐水性、耐湿性、耐光性、および耐ガス性等の堅牢度が求められている。
インクジェットのノズル詰まりは、ノズル付近でインク中の水分が、他の溶剤や添加剤よりも先に蒸発し、水分が少なく溶剤や添加剤が多いという組成状態になったときに色素が固化し析出することに由来するものが多い。よって、インク中の水分の蒸発により、インクが濃縮された場合においても固体が析出しにくいということが非常に重要な要求性能の一つである。そのため、溶剤や添加剤に対する高い溶解性も色素に求められる性質のひとつである。
ところで、コンピューターのカラーディスプレー上の画像又は文字情報をインクジェットプリンタによりカラ−で記録するには、一般にイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色のインクによる減法混色が用いられ、これにより記録画像がカラーで表現される。CRT(ブラウン管)ディスプレー等におけるレッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)による加法混色画像を減法混色画像で出来るだけ忠実に再現するには、インクに使用される各色素、中でもY、M、Cのそれぞれが、標準に近い色相を有し且つ鮮明であることが望まれる。又、インクは長期の保存に対して安定であり、また前記のようにプリントした画像の濃度が高く、しかも印刷画像の堅牢度に優れている事が求められる。
近年のインクジェット技術の発達により、インクジェット印刷における印刷スピードの向上がめざましい。このため、オフィス環境での主用途である普通紙へのドキュメントの印刷に、電子トナーを用いたレーザープリンターと同じ様に、インクジェットプリンターを用いる動きがある。インクジェットプリンターは記録紙の種類を選ばない、機械の価格が比較的安いという利点があり、特にSOHO等の小〜中規模オフィス環境での普及が進んでいる。このように普通紙への印刷にインクジェットプリンターを使用する場合、印刷物に求められる品質の中でも色相や耐水性がより重視される傾向がある。これらの性能を満たす為に顔料インクを用いるという方法が提案されている。しかしながら、顔料インクは溶液ではなく固体の顔料を分散させた分散液であるために、顔料インクを用いるとそのインクの保存安定性が不良であるという問題や、プリンターヘッドのノズルが詰まるという問題などが染料インクと比較して起こりやすい。また、顔料インクを使用した場合、印刷画像の耐擦性が低いことも問題とされることが多い。染料インクの場合、色素成分である染料はインク中に溶解しているため、このような顔料インクで生じる問題は比較的起こりにくいとされる。しかし、染料インクは特に耐水性において顔料インクと比較して一般に著しく劣るため、その改良が強く望まれている。
インクジェット記録に適したインクに用いられる水溶性シアン色素としてはフタロシアニン系色素やトリフェニルメタン系色素が代表的である。最も広範囲に報告され、利用されている代表的なフタロシアニン系色素としては、以下のA〜Hで分類されるフタロシアニン誘導体等がある。
A:Direct Blue 86、Direct Blue 87、Direct Blue 199、Acid Blue 249又はReactive Blue 71等のC.I.番号で知られる公知のフタロシアニン系色素。
B:特許文献1〜3等に記載のフタロシアニン系色素、
〔例えば、Cu-Pc-(SONa)m(SONH)n : m+n=1〜4の混合物〕。
C:特許文献4等に記載のフタロシアニン系色素、
〔例えば、Cu-Pc-(COH)m(CONR)n : m+n=0〜4の数〕。
D:特許文献5等に記載のフタロシアニン系色素、
〔例えば、Cu-Pc-(SOH)m(SONR)n : m+n=0〜4の数、且つ、m≠0〕。
E:特許文献6等に記載のフタロシアニン系色素、
〔例えば、Cu-Pc-(SOH)l(SONH)m(SONR)n : l+m+n=0〜4の数〕。
F:特許文献7等に記載のフタロシアニン系色素、
〔例えば、Cu-Pc-(SONR)n : n=1〜5の数〕。
G:特許文献8、9、及び12等に記載のフタロシアニン系色素、
〔置換基の置換位置を制御したフタロシアニン化合物、β−位に置換基が導入されたフタロシアニン系色素〕。
H:特許文献10、13、14、及び15等に記載のピリジン環等の含窒素複素環とベンゼン環を有するベンゾピリドポルフィラジン系色素。
また、普通紙上での耐水性向上という問題に対しては古くから多くの提案がなされている。耐水性に優れ、色相や耐光性などの改良を行ったインクジェット用の青色色素としては、例えば特許文献16に記載のC.I.Direct Blue 86やC.I.Direct Blue 199が提案されている。
特許文献1に記載の染料は、特定の普通紙上での耐水性については優れているが、市場に出回る各種の普通紙の多くに対して耐水性が優れているとは言えず、その適用範囲は狭い。よって、より多くの種類の普通紙上で一様に優れた耐水性をもち、耐光性や色相、色濃度にも優れたシアン色素が求められていた。
特許文献10、13、14及び15等に開示された含窒素複素環とベンゼン環を有するベンゾピリドポルフィラジン系色素は、活性ガス耐性、耐光性、耐湿性、及び色相等を付与したものであるが、普通紙での耐水性の向上に触れているものはない。
特開昭62−190273号公報 特開平7−138511号公報 特開2002−105349号公報 特開平5−171085号公報 特開平10−140063号公報 特表平11−515048号公報 特開昭59−22967号公報 特開2000−303009号公報 特開2002−249677号公報 特開2003−34758号公報 特開2002−80762号公報 WO2004/087815号公報 WO2002/034844号公報 特開2004−75986号公報 WO2007/116933号公報 特開2001−294786号公報
本発明は水または水溶性有機溶剤に対する溶解性が高く、インクジェット記録に適する色相と鮮明性を有し、色濃度が高く、且つ記録物の耐光性、耐ガス性、耐湿性、および耐水性などの堅牢性、特に各種の普通紙での耐水性に優れた水溶性のシアン色素及びそれを含有する保存安定性の良いインク組成物を提供する事を目的とする。
本発明者等は前記課題を解決すべく、鋭意検討の結果、特定の式で示される水溶性ポルフィラジン色素又はその塩、及びそれを含有するインク組成物が前記課題を解決するものであることを見出し、本発明を完成させたものである。
即ち、本発明は、
(1)下記式(1)で表されるポルフィラジン色素又はその塩
Figure 0005281019
[式中、破線で表される環A、B、C及びDは、それぞれ独立に芳香性を有する6員環を表し、該環A乃至Dの4つのうち、平均値で、少なくとも1.0個はベンゼン環であり、且つ、残りのうち、少なくとも0.5個は含窒素複素芳香環であり、
Eはアルキレン基を表し、
X及びYはそれぞれ独立して、カルボキシ基を1乃至3個有するアニリノ基であり、
いずれも平均値でbは0から3.4、cは0.1から3.5であり、且つbおよびcの和は1.0から3.5である。]、
(2)含窒素複素芳香環が、ピリジン環またはピラジン環である上記(1)に記載のポルフィラジン色素又はその塩、
(3)下記式(3)で表される化合物と、下記式(4)で表される有機アミンとをアンモニア存在下で反応させて得られる上記(1)または(2)に記載のポルフィラジン色素又はその塩、
Figure 0005281019
[式中、破線で表される環A、B、C及びDは、上記(1)に記載のものと同じ意味を表し、nは平均値で1.0から3.5である。]
Figure 0005281019
[式中、E、XおよびYは上記(1)に記載のものと同じ意味を表す。]、
(4)破線で表される環A、B、C及びDの4つの環のうち、平均値で、0.5乃至3.0個がピリジン環またはピラジン環であり、且つ、残りのうち、1.0乃至3.5個がベンゼン環であり、
EがC2−C4アルキレン基であり、
X及びYはそれぞれ独立して、カルボキシ基を1乃至3有するアニリノ基であり、
いずれも平均値でbは0から3.4であり、cは0.1から3.5であり、且つbおよびcの和は1.0から3.5である上記(1)又は(2)に記載のポルフィラジン色素又はその塩、
(5)
Eがエチレン基またはプロピレン基である上記(4)に記載のポルフィラジン色素又はその塩、
(6)破線で表される環A、B、C及びDの4つの環のうち、平均値で0.5乃至3.0個が、2位及び3位または、3位及び4位で縮環したピリジン環であり、且つ、残りのうち、1.0乃至3.5個がベンゼン環であり、
EがC2−C4アルキレンであり、
X及びYはそれぞれ独立して、カルボキシ基を1乃至3有するアニリノ基であり、
いずれも平均値でbが0から3.4であり、cが0.1から3.5であり、且つbおよびcの和は1.0から3.5である上記(1)に記載のポルフィラジン色素又はその塩、
(7)下記式(2)で表される上記(1)または(2)に記載のポルフィラジン色素又はその塩
Figure 0005281019
[式中、Z1からZ8はそれぞれ独立して窒素原子または炭素原子を表し、且つ、Z1とZ2、Z3とZ4、Z5とZ6及びZ7とZ8の4つの組み合わせのうち、平均値で少なくとも1.0個は炭素原子同士の組合せであり、残りのうち、少なくとも0.5個は窒素原子と炭素原子の組合せ又は窒素原子同士の組合わせであり、
E、X、Y、bおよびcは上記(1)に記載のものと同じ意味を表す。]、
(8)下記式(5)で表される化合物と、下記式(4)で表される有機アミンとをアンモニア存在下で反応させて得られる上記(7)に記載のポルフィラジン色素またはその塩
Figure 0005281019
[式中、Z1からZ8は上記(7)に記載のものと同じ意味を表し、nは平均値で1.0から3.5である。]
Figure 0005281019
[式中、E、XおよびYは上記(1)に記載のものと同じ意味を表す。]、
(9)色素成分として上記(1)から(8)のいずれか一項に記載のポルフィラジン色素を含有することを特徴とするインク組成物、
(10)水溶性有機溶剤をさらに含有する上記(9)に記載のインク組成物、
(11)インクジェット記録用である上記(9)または(10)に記載のインク組成物、
(12)上記(9)から(11)のいずれか一項に記載のインクのインク滴を記録信号に応じて吐出させて被記録材に記録を行うことを特徴とするインクジェット記録方法、
(13)被記録材が情報伝達用シートである上記(12)に記載のインクジェット記録方法、
(14)情報伝達用シートが表面処理されたシートであって、支持体上に白色無機顔料粒子を含有するインク受像層を有するシートである上記(13)に記載のインクジェット記録方法、
(15)上記(9)から(11)のいずれか一項に記載のインク組成物を含有する容器、
(16)上記(15)に記載の容器を装着したインクジェットプリンター、
(17)上記(1)〜(8)に記載のポルフィラジン色素、又は上記(9)から(11)のいずれか一項に記載のインク組成物で着色された着色体、
に関する。
本発明の上記式(1)で表される水溶性ポルフィラジン色素又はその塩は、水や水溶性有機溶剤に対する溶解性に優れる。またインク組成物を製造する過程での、例えばメンブランフィルターに対するろ過性が良好という特徴を有し、インクジェット記録紙上で非常に鮮明なシアン色の色相を与える。又、この化合物を含有する本発明のインク組成物は長期間保存後の固体析出、物性変化、色相変化等もなく、貯蔵安定性が極めて良好である。そして本発明のインク組成物をインクジェット記録用のインクとして使用した印刷物は被記録材(例えば紙、フィルム等)を選択することなくシアン色の色相として理想的な色相であり、写真調のカラー画像を紙の上に忠実に再現させることも可能である。
更に本発明のインク組成物は、従来の染料インクと比較して普通紙上での耐水性が極めて向上している。また、該インク組成物で、写真画質用インクジェット専用紙やフィルムのような多孔性白色無機物を表面に塗工した被記録材に記録しても各種堅牢性、すなわち耐水性、耐湿性、耐ガス性、および耐光性が良好である。従って、写真調の記録画像の長期保存安定性にも優れている。これらの特徴から該インク組成物は、記録メディアを選ばないことが特徴の一つであるインクジェット印刷に非常に適している。このように、上記式(1)で表される水溶性ポルフィラジン色素はインク用、特にインクジェット記録用インクのシアン色素として極めて有用である。
本発明を詳細に説明する。本発明のポルフィラジン色素又はその塩は、前記式(1)又は式(2)で表され、実質的に該ポルフィラジン色素又はその塩の混合物である。本明細書においては、本発明の「ポルフィラジン色素又はその塩」を、便宜上、単に「ポルフィラジン色素」と簡略して以後記載する。
また、本明細書において上付き文字の「RTM」は登録商標を示す。
前記式(1)又は式(3)において、破線で表される環A、B、C及びDは、それぞれ独立に芳香性を有する6員環(以下芳香6員環とも言う)を表し、該環A乃至Dは、いずれも平均値で少なくとも1.0個はベンゼン環であり、少なくとも0.5個は含窒素複素芳香環である。
環A乃至Dにおけるベンゼン環又は含窒素複素芳香環の個数は、前記式(1)で表される色素におけるベンゼン環又は含窒素複素芳香環の個数の平均値で表される。即ち、単純化して説明すると例えば、3.5個がベンゼン環で、0.5個が含窒素複素芳香環である式(1)で表される色素という場合、平均で、全色素分子の2分の1がA〜Dの全てがベンゼン環の化合物であり、残りの2分の1がA〜Dのうち一つが含窒素複素芳香環の化合物ということであり、また、例えば、2.5個がベンゼン環で、1.5個が含窒素複素芳香環である式(1)で表される色素という場合、平均で、全色素分子の2分の1がA〜Dの中、2つがベンゼン環の化合物であり、残りの2分の1がA〜Dのうち一つが含窒素複素芳香環の化合物であるということである。従って、含窒素複素芳香環の数が、1以下の場合には、前記式(1)で表される色素は、環A乃至Dの少なくとも1つが該含窒素複素芳香環である色素と、環A乃至Dがいずれもベンゼン環である色素の両者を含むものである。なお本発明のポルフィラジン色素は、通常、上記のような2成分の単純な混合物ではないが、上記の値はそれらの混合物の平均値ということである。
該含窒素複素芳香環としては、窒素原子を1〜2個含む含窒素複素芳香6員環が好ましく、例えば、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環があげられる。これらの中でもピリジン環又はピラジン環が好ましく、ピリジン環がより好ましい。
該環A、B、C及びDの4つの環のうち、好ましい具体的な含窒素複素芳香環の数としては、平均値で通常0.5乃至3.0個、好ましくは0.5乃至2.5個、より好ましくは0.5乃至2.0個であり、残りがベンゼン環である。すなわち、この場合のベンゼン環の具体的な数は、平均値で通常1.0乃至3.5個であり、好ましくは1.5乃至3.5個、より好ましくは2.0乃至3.5個である。
該含窒素複素芳香環の縮合位置は、2つの連続した炭素原子が複数存在する場合、そのいずれの位置でもよい。例えば、ピリジン環の場合には、2位及び3位または、3位及び4位が挙げられ、2位及び3位で縮環するのが好ましい。ピラジン環の場合には2位及び3位である。
該含窒素複素芳香環の個数が増えるにしたがって、水及び有機溶剤等への溶解性は低下する傾向にある。このため、含窒素複素芳香環の個数は耐水性と溶解性を考慮しながら、適宜調節し、バランスの良い比率を選択すれば良い。
本発明化合物の場合、含窒素複素芳香環の数が、平均値で、該環A、B、C及びDの4つの環のうち、上記範囲の時好ましいが、更に好ましい場合として、含窒素複素芳香環の数が、平均値で、0.50〜2.0個、又は、0.50〜1.5個、場合によって、0.70〜1.5個である場合を挙げることができ、この場合残りがベンゼン環である。
上記式(1)において、Eはアルキレン基を表す。該アルキレン基は、直鎖、分岐鎖及び環状のいずれでもよいが、直鎖又は環状が好ましく、直鎖がより好ましい。その炭素数は、通常2から12、好ましくは2から6、より好ましくは2から4である。具体例としてはエチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基等の直鎖のもの;シクロプロピレンジイル、1,2−または1,3−シクロペンチレンジイル、1,2−、1,3−または1,4−シクロへキシレンジイル等の環状のもの;等が挙げられる。Eとして好ましい基はC2−C4アルキレン基であり、より好ましくはエチレン基、プロピレン基及びブチレン基であり、さらに好ましくはエチレン基又はプロピレン基である。
上記式(1)において、X及びYはそれぞれ独立してカルボキシ基を1乃至3個有するアニリノ基である。該アニリノ基上のカルボキシ基の数は、通常1乃至3、好ましくは1乃至2である。具体的なX及びYとしては、それぞれ独立に、例えば、2−カルボキシアニリノ、3−カルボキシアニリノ、4−カルボキシアニリノ等のカルボキシ基を1個有するアニリノ基;2,5−ジカルボキシアニリノ、3,5−ジカルボキシアニリノ等のカルボキシ基を2個有するアニリノ基;2,4,6−トリカルボキシアニリノ等のカルボキシ基を3個有するアニリノ基;等があげられる。上記式(1)におけるX及びYとしては、それぞれ独立に、3−カルボキシアニリノ、4−カルボキシアニリノ又は3,5−ジカルボキシアニリノが好ましく、両者が同じで、且つそれらのいずれかである場合より好ましい。両者が3−カルボキシアニリノの場合さらに好ましい。
上記式(1)において、bは0から3.4であり、cは0.1から3.5であり、且つb及びcの総和は1.0から3.5である。好ましくは、bは0.5から3.0、より好ましくは0.7〜2.7、更に好ましくは1〜2.5であり、cは0.5から2.5、より好ましくは0.8〜2.5、更に好ましくは0.8〜2であり、最も好ましくは0.8〜1.7で、且つb及びcの総和は1.0から3.5、好ましくは1.5から3.5、更に好ましくは2.0から3.5である。より好ましいbとcの割合は、bが0.7〜2.7、cが0.8〜1.7で、b及びcの総和が1.5から3.5、より好ましくは2.0〜3.5である。後記する通り、本発明のポルフィラジン色素は混合物として生成されるため、該b及びcの数は、いずれも平均値である。bが大きくなるにつれて、耐オゾン性は向上する傾向にあるが、ブロンジング性は生じやすくなる傾向にある。耐オゾン性とブロンジング性を考慮しながら、b及びcの数を適宜調節し、バランスの良い比率を選択すれば良い。
上記式(1)又は(2)で表される本発明のポルフィラジン色素は、上記式(3)又は式(5)で表される化合物と上記式(4)で表される有機アミンとを、アンモニア存在下で反応させることにより得ることができる。反応条件等については後記する。
上記式(2)で表されるポルフィラジン色素は、上記式(1)で表される色素のうち好ましいものであり、上記式(1)における破線で表される環A乃至Dが含窒素複素芳香環である場合の、該窒素原子の位置を特定したものである。すなわち、Z1からZ8を環構成原子として含む4つの環は、上記式(1)中の破線で表される環A乃至Dの4つの環に相当する。
式(2)において、Z1からZ8はそれぞれ独立して窒素原子または炭素原子を表し(炭素原子の場合、該炭素原子は水素原子1つを有する)、且つ、Z1とZ2、Z3とZ4、Z5とZ6及びZ7とZ8の4つ組み合わせのうち、平均値で、少なくとも1.0個は炭素原子同士の組合せ(即ち、環がベンゼン環となる組合せ)、残りの組合せの少なくとも0.5個は環が含窒素芳香環となる組合せ、即ち、窒素原子と炭素原子の組合せ又は窒素原子同士の組合わせである。
従って、ここでの4つの組合せについての平均値は、前記の式(1)の環A乃至Dにおける含窒素複素芳香環及びベンゼン環の個数の平均値と同様な意味であり、好ましい範囲等も全く同じである。
より具体的には、含窒素複素芳香環となる組合せの好ましい数としては、平均値で通常0.5乃至3.0個、好ましくは0.5乃至2.5個、より好ましくは0.5乃至2.0個であり、残りがベンゼン環となる組合せである。また、更に好ましい場合として、含窒素複素芳香環となる組合せの数が、平均値で、0.50〜2.0個、又は、0.50〜1.5個、場合によって、0.70〜1.5個である場合を挙げることができ、この場合残りがベンゼン環である。
また、式(2)におけるE、X、Y、bおよびcは、それぞれ上記式(1)の場合と、好ましいものも含めて同じである。なお、Z1からZ8のいずれかが炭素原子の場合には、該炭素原子は水素原子を一つ有する。
前記式(1)又は式(2)の遊離酸で表される化合物は分子内に有するカルボキシ基を利用して塩を形成することも可能である。本発明においては、遊離酸の形で表したときに前記式(1)又は式(2)で表される化合物は全て本発明に含まれるものであり、上記のように塩を形成した化合物も本発明に含まれる。式(1)又は式(2)で表される化合物の塩は、無機又は有機陽イオンの塩が好ましい。塩の例としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩およびアンモニウム塩が挙げられる。好ましいアルカリ金属塩は、リチウム、ナトリウム、カリウムの塩である。
アルカリ土類金属塩のアルカリ土類金属としては、例えばカルシウム、マグネシウム等があげられる。
有機陽イオンの塩としては、有機アミンのカチオン、すなわち有機アミンのオニウム塩が挙げられる。該有機アミンとしては、例えばメチルアミン、エチルアミン等の炭素数1から3の低級アルキルアミン類、及び、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等のモノ、ジまたはトリ(炭素数1から4の低級アルカノール)アミン類があげられる。
また他の塩としてアンモニウム塩があげられる。
上記のうち、好ましい塩としてはナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等のアルカリ金属塩;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等のモノ、ジまたはトリ(炭素数1から4の低級アルカノール)アミンのオニウム塩;及びアンモニウム塩があげられる。
本発明の前記式(1)で表されるポルフィラジン色素における、環A乃至D、E、X及びYの具体例を下記表1に示すが、本発明のポルフィラジン色素は、下記の例に限定されるものではない。また、環A乃至Dに対応する含窒素複素芳香環がピリジン環の場合には後記するように窒素原子の位置異性体などが存在する。従って、下記表1ではこれらの異性体の一部のものも含めて記載した。また、例示してない多くの異性体が存在するが本発明はいずれの異性体をも含む。
なお、本発明の式(1)で表される色素を合成する際には後記するように主成分以外に位置異性体及びその他の副生物が混入するが、そのまま使用しても、本発明において特に問題は生じない。
Figure 0005281019
本発明の式(1)で表される化合物の製造方法を説明する。
まず、下記式(6)で表される化合物を合成する。下記式(6)で表される化合物は、例えば触媒及び銅化合物の存在下、芳香族性を有する6員含窒素複素芳香環ジカルボン酸誘導体(ジカルボン酸又はその誘導体を意味する)とフタル酸誘導体(フタル酸又はその誘導体を意味する)とを反応させる事により得られる。該各誘導体の反応時におけるモル比を変えることにより、環A乃至Dにおける含窒素複素芳香環の数とベンゼン環の数とを調整することが可能である。例えば環A乃至Dの4つの芳香6員環のうち、0.5〜3.0個が含窒素複素芳香環であり残りがベンゼン環である化合物を合成する場合には、その含有割合に応じて、含窒素複素芳香環ジカルボン酸誘導体の使用割合が0.125〜0.75モル、フタル酸誘導体の使用割合が0.25〜0.875モルの範囲であって、両者の合計が1モルとなるような割合に調整することにより、目的とする化合物を得ることができる。例えば、含窒素複素芳香環が1個でベンゼン環が3個である場合、含窒素複素芳香環ジカルボン酸誘導体を0.25モル、フタル酸誘導体を0.75モルの割合で使用すればよい。
含窒素複素芳香環ジカルボン酸誘導体としては、隣接する2つの位置にそれぞれカルボキシル基又はカルボキシル基から誘導される反応性の基(酸アミド基、イミド基、酸無水物基、カルボニトリル基など)を有する6員環の含窒素複素芳香環ジカルボン酸誘導体が挙げられ、具体的には6員含窒素複素芳香環ジカルボン酸及びそれから誘導される酸アミド、酸イミド、酸無水物又はカルボニトリル等が挙げられる。より具体的には、キノリン酸、3,4−ピリジンジカルボン酸、2,3−ピラジンジカルボン酸等のジカルボン酸化合物;無水キノリン酸、3,4−ピリジンジカルボン酸無水物、2,3−ピラジンジカルボン酸無水物等の酸無水物化合物;ピリジン−2,3−ジカルボキシアミド等のジカルボキシアミド化合物、ピラジン−2,3−ジカルボン酸モノアミド等のジカルボン酸モノアミド化合物;キノリン酸イミド等の酸イミド化合物;及び、ピリジン−2,3−ジカルボニトリル、ピラジン−2,3−ジカルボニトリル等のジカルボニトリル化合物があげられる。またフタル酸誘導体の具体例としては、フタル酸、無水フタル酸、フタルアミド、フタラミックアシッド、フタルイミド、フタロニトリル、1,3−ジイミノイソインドリン、及び2−シアノベンズアミド等があげられる。
下記式(6)で表される化合物の合成方法には、一般的にニトリル法とワイラー法と呼ばれるものがあり、反応条件等が異なる。
ニトリル法とはピリジン−2,3−ジカルボニトリル、ピラジン−2,3−ジカルボニトリル、フタロニトリル等のジカルボニトリル化合物を原料とする方法である。
一方、ワイラー法はフタル酸、キノリン酸、3,4−ピリジンジカルボン酸、2,3−ピラジンジカルボン酸等のジカルボン酸化合物;無水フタル酸、無水キノリン酸、3,4−ピリジンジカルボン酸無水物、2,3−ピラジンジカルボン酸無水物等の酸無水物化合物;フタル酸アミド、ピリジン−2,3−ジカルボキシアミド等のジカルボキシアミド化合物;フタラミック酸、ピラジン−2,3−ジカルボン酸モノアミド等のジカルボン酸モノアミド化合物;及び、フタル酸イミド、キノリン酸イミド等の酸イミド化合物;等を原料として用いる。またワイラー法では尿素の添加が必須であり、尿素の使用量は含窒素複素芳香環ジカルボン酸誘導体とフタル酸誘導体の総計1モルに対し5〜100倍モル量である。
Figure 0005281019
[式中、環A、B、C及びDは前記と同じ意味を表す。]
通常、反応は溶媒の存在下に行われる。ニトリル法における溶媒としては沸点100℃以上、より好ましくは130℃以上の有機溶媒が用いられる。ニトリル法における溶媒の具体例としては、n−アミルアルコール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、2−エチルヘキサノール、N,N−ジメチルアミノエタノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリクロロベンゼン、クロロナフタレン、ニトロベンゼン、キノリン、スルホラン及び尿素等が挙げられる。
また、ワイラー法における溶媒としては沸点150℃以上、より好ましくは180℃以上の非プロトン性有機溶媒が用いられる。ワイラー法における溶媒の具体例としては、トリクロロベンゼン、クロロナフタレン、ニトロベンゼン、キノリン、スルホラン及び尿素等が挙げられる。溶媒の使用量は含窒素複素芳香環ジカルボン酸誘導体とフタル酸誘導体の総計の1〜100質量倍である。なお、尿素は有機溶媒ではなく、室温では固体であるが、その融点は132℃であるため、これ以上の温度で反応させる場合には、上記の各反応における溶媒として好ましく使用することができる。
触媒としては、ニトリル法においてはキノリン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン等の環状塩基;トリブチルアミン、アンモニア、N,N−ジメチルアミノエタノール等のアミン類;及び、ナトリウムエトキシド、ナトリウムメトキシド等のアルカリ金属アルコラート類;等があげられる。またワイラー法における触媒としては、モリブデン酸アンモニウム及びホウ酸等があげられる。触媒の添加量は含窒素複素芳香環ジカルボン酸誘導体とフタル酸誘導体の総計1モルに対し、0.001〜1倍モル量である。
銅化合物としては、金属銅、又は、銅のハロゲン化物、カルボン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、アセチルアセトナート若しくは錯体等の銅化合物が挙げられる。これら銅化合物の具体例としては、塩化銅、臭化銅、酢酸銅、銅アセチルアセトナート等が挙げられる。銅化合物の使用量は含窒素複素芳香環ジカルボン酸誘導体とフタル酸誘導体の総計1モルに対し、0.15〜0.35倍モルである。
ニトリル法では反応温度は通常100〜200℃であり、好ましくは130〜170℃である。それに対しワイラー法では反応温度は150〜300℃であり、好ましくは170〜220℃である。また反応時間は反応条件により変わるが通常1〜40時間である。反応終了後、濾過、洗浄及び乾燥する事により前記式(6)で表される化合物が得られる。
前記式(6)における、環A乃至Dのうち2つがピリジン環で残り2つがベンゼン環で表される化合物(銅ジベンゾビス(2,3−ピリド)ポルフィラジン)を例にあげて、合成方法を更に詳細に説明する。
スルホラン溶媒中、キノリン酸(0.5モル)、無水フタル酸(0.5モル)、塩化銅(II)(0.25モル)、リンモリブデン酸アンモニウム(0.004モル)、尿素(6モル)を200℃で、5時間反応させることにより前記式(6)における環A乃至Dのうち、2つがピリジン環で残り2つがベンゼン環で表される銅ジベンゾビス(2,3−ピリド)ポルフィラジンが得られる。
また、上記合成法で合成した場合、生成物の主成分は銅ジベンゾビス(2,3−ピリド)ポルフィラジンであり、ピリジン環の位置とピリジン環の窒素原子の位置が異なる5種類の異性体[後記式(7−A)〜(7−E)]が生成する。それと同時に、前記式(6)における環A乃至Dのうち1つがピリジン環で、残り3つがベンゼン環で表される銅トリベンゾ(2,3−ピリド)ポルフィラジン[後記式(8)]、並びに、前記式(6)における環A乃至Dのうち3つがピリジン環で、残り1つがベンゼン環で表される銅ベンゾトリス(2,3−ピリド)ポルフィラジンが副生する。該銅ベンゾトリス(2,3−ピリド)ポルフィラジンにも更にピリジン環の窒素原子の位置異性体[後記式(9−A)〜(9−D)]が存在するため、生成物は複雑な混合物となる。また、少量ではあるが銅テトラキス(2,3−ピリド)ポルフィラジン及び銅フタロシアニン(銅テトラベンゾポルフィラジン)も生成するため、上記合成法により得られる前記式(6)の化合物は、実質的にこれら複数の化合物の混合物である。通常、これらの混合物から目的物のみを単離することは難しいため、上記混合物の平均値として環A乃至Dのうちの2つがピリジン環で、残り2つがベンゼン環であれば、該混合物を銅ジベンゾビス(2,3−ピリド)ポルフィラジンとして使用する。なお、式(6)の化合物が含有する含窒素複素芳香環とベンゼン環との比率は、例えば、元素分析等の分析を行うことにより決定することができる。
環A乃至Dのうち2つがピリジン環以外の含窒素複素芳香環、例えばピラジン環等の場合にも、上記キノリン酸の代わりに、2,3−ピラジンジカルボン酸等の対応する該含窒素複素芳香環のジカルボン酸誘導体を用いて、上記に準じて合成することにより、環A乃至Dのうち2つがピラジン環等のピリジン環以外の含窒素複素芳香環であり、残り2つがベンゼン環である化合物を得ることができる。また、環A乃至Dのうち含窒素複素芳香環が平均値で0.5個乃至3.0個であり残りがベンゼン環である前記式(6)の化合物等のその比率の異なる化合物についても、目的化合物の含窒素複素芳香環とベンゼン環の比率に応じて、含窒素複素芳香環ジカルボン酸誘導体とフタル酸誘導体の使用割合を適宜変えることにより、上記と同様の合成法で該化合物を得ることができる。
Figure 0005281019
Figure 0005281019
Figure 0005281019
前記式(3)又は式(5)で表される化合物は、前記式(6)で表される化合物を、クロロスルホン酸中でクロロスルホ化させる事によって得ることができる。または、前記式(6)で表される化合物を、硫酸または発煙硫酸中でスルホ化した後、クロロ化剤でスルホ基をクロロスルホ基へ変換することにより得ることもできる。このようにして得られるクロロスルホ基またはスルホ基は、式(6)で表される化合物中の環A乃至Dにおけるベンゼン環上に導入され、環A乃至Dにおける複素芳香環基上には導入されない。通常、該ベンゼン環上に1つのクロロスルホ基又はスルホ基が導入されるので、これらの基が導入される数は該ベンゼン環の数以内である。
従って、式(3)の化合物におけるSOClの数(n)は、式(3)の化合物の環A乃至Dにおけるベンゼン環の数に応じて、平均値で1.0〜3.5である。式(3)におけるnは、好ましくは1.5〜3.5であり、より好ましくは2.0〜3.5である。式(5)におけるnも、式(3)の場合と同様で、そのnの数は平均値で1.0〜3.5、好ましくは1.5〜3.5、より好ましくは2.0〜3.5である。
前記式(3)で表される化合物の他の合成例としては、予めスルホ基を有するスルホフタル酸とキノリン酸とを用いて縮合閉環させる事により、下記式(10)で表されるスルホ基を有する化合物を合成し、その後スルホ基をクロロスルホ基へ変換することにより目的の式(3)で表される化合物を得る事もできる。式(5)の化合物についても、対応する原料化合物を使用することにより全く同様にして合成することができる。
Figure 0005281019

[式中、環A乃至Dおよびnは前記式(3)と同じ意味を表す。]
前記式(6)の化合物のクロロスルホ化は、通常該化合物の3〜20重量倍、好ましくは5〜10重量倍のクロロスルホン酸を溶媒として用いて行うのが好ましい。反応温度は、通常100〜150℃であり、好ましくは120〜150℃である。反応時間は反応温度等の反応条件により異なるが、通常1〜10時間である。この場合、得られる反応生成物の置換基においては、通常、全てがクロロスルホ化されておらず、未反応のスルホ基が残存する。本発明においては、置換基が全てクロロスルホ化されるように、クロロスルホン酸の溶媒での反応後、該溶液中に更に塩化チオニル等のクロロ化剤を添加して反応を行うのが好ましい。該クロロ化剤としては塩化チオニル、塩化スルフリル、三塩化リン、五塩化リン、オキシ塩化リン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。クロロ化剤の添加量は、目的化合物のクロロスルホ基に対して、0.5〜10当量、好ましくは0.5〜5当量程度である。
前記式(10)で表されるスルホ置換銅ポルフィラジン色素におけるスルホ基からクロロスルホ基への変換は、上記と同様に該化合物に上記のクロロ化剤を反応させることにより、行うことができる。該クロロ化反応に用いられる反応溶媒としては、硫酸、発煙硫酸、クロロスルホン酸、ベンゼン、トルエン、ニトロベンゼン、クロロベンゼン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
次に、前記式(3)で表される化合物と、前記式(4)で表される有機アミンとを、アンモニア又はアンモニア発生化合物(両者を併せてアミノ化剤とも言う。)の存在下、水溶媒中で、通常pH8〜10、5〜70℃、1〜20時間反応させる事により、前記式(1)で表される本発明のポルフィラジン色素が得られる。反応に用いるアミノ化剤としては、アンモニア又は上記反応に際してアンモニアを発生する化合物(アンモニア発生化合物)を使用することができ、例えば、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム等のアンモニウム塩化合物;尿素、アンモニア水、アンモニアガス等が挙げられる。しかし、これらに限定されるものではない。また、該反応は通常、上記のように水溶媒中で行なわれる。
なお、前記式(4)で表される有機アミンの使用量は通常、前記式(3)で表される化合物1モルに対して、通常、cの値に応じた理論値の1倍モル以上であるが、有機アミンの反応性、反応条件により異なり、これらに限定されるものではない。
本発明のポルフィラジン色素におけるb及びcの値は、上記の通り、合成反応時における式(4)で表される有機アミンの使用量によって調整することができる。例えば、式(1)においてbが1.0であり、cが1.5であり、b及びcの総和が2.5である化合物を得るためには、式(3)においてnが2.5である化合物1モルに対し、式(4)で表される有機アミンを1.5モル又はその小過剰を使用して上記合成反応を行えばよい。式(3)で表される化合物と式(4)で表される有機アミンとの合成反応によって得られる生成物は、実質的には、様々なb及びcの値を有する化合物の混合物である。従って、式(1)及び式(2)におけるb及びcの値はこれら混合物におけるb及びcの平均値である。
前記式(4)で表される有機アミンの製造方法を説明する。例えばXに対応するカルボキシ置換アニリン0.95〜1.1モルと2,4,6−トリクロロ−S−トリアジン(シアヌルクロライド)1モルとを水中で、通常、pH3〜7、5〜40℃、2〜12時間の条件下で反応させて、1次縮合物を得る。次いで、反応液中にYに対応するカルボキシ置換アニリンを通常0.95〜1.5モル加え、pH4〜10、5〜80℃、0.5〜12時間の条件下で反応させることにより、2次縮合物を得る。次いで、下記式(11)で表されるアルキレンジアミン類1〜50モルを反応液中に加えて、通常pH9〜12、5〜90℃、0.5〜8時間の条件下で反応させることにより、前記式(4)で表される化合物が得られる。各縮合反応における反応液のpHの調整は、通常、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、又は、炭酸ナトリウムや炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩などを用いて行う。なお、縮合の順序は各種化合物の反応性に応じ適宜定められ、上記に限定されない。
Figure 0005281019
[式中、Eは前記式(1)と同じ意味を有する。]
また前記式(1)及び(2)で表される本発明のポルフィラジン色素は前記式(3)又は式(5)で表される化合物と、前記式(4)で表される有機アミンとの反応によってアンモニアの存在下に合成される。この合成反応は無水条件を必要としないため、式(3)又は式(5)で表されるクロロスルホニル体の一部が反応系内に混在した水により加水分解されてスルホン酸基へと変換されることによる化合物が副生し、該副生物が目的とする式(1)及び(2)で表される色素に混入することが、理論上考えられる。
しかしながら、通常、反応生成物の分析に使用する質量分析法においては、無置換スルファモイル基とスルホン酸基とを識別することは困難である。従って本発明においては、式(4)で表される有機アミンと反応したもの以外の式(3)又は式(5)におけるクロロスルホニル基については、全て無置換スルファモイル基へと変換されたものとして表記する。
なお、前記式(1)及び(2)で表される銅ポルフィラジン色素につき、2価の連結基(L)を介して、銅ポルフィラジン環(Pz)が2量体(例えばPz−L−Pz)または3量体を形成した不純物が副生し、該副生物が反応生成物中に混入することもある。
上記Lで表される2価の連結基としては−SO−、−SO−NH−SO−などがあり、3量体の場合にはこれら2つのLが組み合わされた副生成物が形成される場合も有る。
こうして得られた本発明のポルフィラジン色素は、必要に応じて酸析又は塩析後、濾過等により分離することが出来る。塩析を行う場合には例えば酸性〜アルカリ性、好ましくはpH1〜11の範囲で行うことが好ましい。塩析の際の温度は特に限定されないが、通常40〜80℃、好ましくは50〜70℃である。より具体的には、本発明のポルフィラジン色素を含む反応液を上記温度に加熱後、塩化ナトリウム又は塩化アンモニウム等を加えてpHを上記範囲に調整して、塩析するのが好ましい。
上記の方法で合成される、本発明のポルフィラジン色素は、遊離酸の形あるいはその塩の形で得られる。遊離酸とするには、例えば酸析すればよい。また、塩にするには、塩析すればよい。塩析によって所望の塩が得られないときには、例えば遊離酸にしたものに所望の有機又は無機の塩基を添加する方法等の、通常の塩交換法を利用すればよい。
本発明の式(1)又は(2)で表されるポルフィラジン色素の好ましいものとしては、
環A乃至Dのうち0.5個乃至3.0個、より好ましくは0.5個乃至2.5個、さらに好ましくは0.5個乃至2.0個がピリジン環又はピラジン環(より好ましくはピリジン環)であって、残りの1.0個乃至3.5個、より好ましくは1.5個乃至3.5個、更に好ましくは2.0個乃至3.5個がベンゼン環であり;
EがC2〜C4アルキレン基、より好ましくはエチレン基又はプロピレン基であり;
X及びYが独立してカルボキシ基を1乃至3個有するアニリノ基、より好ましくはカルボキシ基を1又は2個有するアニリノ基、さらに好ましくは3−カルボキシアニリノ、4−カルボキシアニリノ又は3,5−ジカルボキシアニリノ、特に好ましくは3−カルボキシアニリノであり;
いずれも平均値でbが0〜3.4、且つ、cが0.1〜3.5、好ましくは、bが0.5〜3.0、且つ、cは0.5〜2.5であり;
b及びcの和が1.5〜3.5、より好ましくは2.0〜3.5、さらに好ましくは2.5〜3.5;である場合である。
これらの中のより好ましいものと他のものとの組み合わせはより好ましく、より好ましいもの同士の2種又は3種の組み合わせはさらに好ましい。
好ましいポルフィラジン色素をより具体的に挙げれば下記の通りである。
例えば、(i)式(1)における破線で表される環A、B、C及びDの4つの環、又は式(2)のZ1とZ2、Z3とZ4、Z5とZ6及びZ7とZ8を含む4つの環のうち、平均値で、0.5乃至3.0個がピリジン環またはピラジン環であり、且つ、残りのうち、1.0乃至3.5個がベンゼン環であり、
EがC2−C4アルキレン基であり、
X及びYはそれぞれ独立して、カルボキシ基を1乃至3有するアニリノ基であり、
いずれも平均値で、bは0から3.4、場合によって0から3.2であり、cは0.1から3.5、場合によって0.1から3.3であり、且つbおよびcの和は1.0から3.5、場合によって2.5から3.3であるポルフィラジン色素、
(ii)上記(i)において、4つの環のうち、平均値で、0.50〜2.0個、又は、0.50〜1.5個、場合によって、0.70〜1.5個がピリジン環またはピラジン環であり、残りがベンゼン環であるポルフィラジン色素、
(iii)上記の(i)又は(ii)において、X及びYがそれぞれ独立に、3−又は4−カルボキシアニリノ、又は3,5−ジカルボキシアニリノであるポルフィラジン色素、
を挙げることができる。
次に本発明のインク組成物について説明する。本発明のインク組成物は、本発明のポルフィラジン色素を含有することを特徴とする。上記の方法にて製造できる本発明のポルフィラジン色素は鮮明なシアン色を呈する。よって、これらを含むインク組成物も主にシアンインクとして用いられる。該インク組成物は、画像の階調部分を滑らかに再現する為、又は淡色領域の粒状感を軽減する為に用いられる低い色素濃度のシアンインク(ライトシアンインクやフォトシアンインク等と呼ばれる)として用いても良い。
本発明のインク組成物は、水を媒体として調製される。このインク組成物をインクジェット記録用インクとして使用する場合、本発明のポルフィラジン色素に不純物として含まれるCl及びSO 2−等の陰イオンの含有量は少ないものが好ましい。その含有量の目安は、該色素の総質量中におけるCl及びSO 2−の総含有量として5質量%以下、好ましくは3質量%以下、更に好ましくは1質量%以下であり、インク組成物の総質量中においては1質量%以下、好ましくは0.5%以下、更に好ましくは0.1%以下である。下限は分析機器の検出限界以下、即ち、0%で良い。Cl及びSO 2−の少ない本発明のポルフィラジン色素を製造するには、例えば逆浸透膜による通常の方法;又は該色素の乾燥品あるいはウェットケーキをアルコール及び水の混合溶媒中等で撹拌し、濾過、乾燥する等の方法で脱塩処理すればよい。このとき用いるアルコールは、炭素数1〜4の低級アルコール、好ましくは炭素数1〜3のアルコール、更に好ましくはメタノール、エタノール又は2−プロパノールである。また、アルコールでの脱塩処理の際に、使用するアルコールの沸点近くまで加熱後、冷却して脱塩する方法も採用できる。Cl及びSO 2−の含有量は、例えばイオンクロマトグラフィーにより測定できる。
本発明のインク組成物をインクジェット記録用インクとして使用する場合、該インク組成物中に色素として含有する本発明のポルフィラジン色素は、その中心金属原子として含有する銅(イオン)を除き、該色素の総質量中に不純物として含む亜鉛、鉄等の重金属(イオン)、カルシウム、シリカ等の金属(イオン)等の含有量も、少ないものを用いるのが好ましい。その含有量の目安は例えば、本発明のポルフィラジン色素の精製乾燥品中に、亜鉛、鉄等の重金属(イオン)、カルシウム、シリカ等の金属(イオン)について各々500ppm以下程度である。重金属(イオン)及び金属(イオン)の含有量はイオンクロマトグラフィー、原子吸光法又はICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析法にて測定される。
本発明のインク組成物は、総質量中、本発明のポルフィラジン色素を、0.1〜8質量%、好ましくは0.3〜6質量%含有し、残部は水であり、任意成分として、水溶性有機溶剤及びその他のインク用添加剤(インク調製剤)を含んでも良い。本発明のインク組成物は、水以外に、さらに必要に応じて、水溶性有機溶剤を本発明の効果を害しない範囲内において含有するのが好ましい。水溶性有機溶剤は、染料溶解、乾燥防止(湿潤剤)、粘度調整、浸透促進、表面張力調整、消泡等の作用を目的として使用される。その他のインク調製剤として更に、例えば、防腐防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、紫外線吸収剤、粘度調整剤、染料溶解剤、褪色防止剤、乳化安定剤、表面張力調整剤、消泡剤、分散剤、分散安定剤等の添加剤を含有していても良い。該インク組成物は、インク組成物の総量に対して、水溶性有機溶剤を0〜60質量%、好ましくは5〜50%、より好ましくは10〜50質量%、インク調製剤を0〜20質量%、好ましくは0〜15質量%含有しているのが好ましい。残部は水である。
本発明で使用しうる水溶性有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール等のC1−C4アルカノール;N,N−ジメチルホルムアミドまたはN,N−ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−オンまたは1,3−ジメチルヘキサヒドロピリミド−2−オン等の複素環式ケトン;アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オン等のケトンまたはケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル;エチレングリコール、1,2−または1,3−プロピレングリコール、1,2−または1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、チオジグリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のC2−C6アルキレン単位を有するモノ、オリゴまたはポリアルキレングリコールまたはチオグリコール;グリセリン、ヘキサン−1,2,6−トリオール等のポリオール(好ましくはC3−C6トリオール);エチレングリコールモノメチルエーテルまたはエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールのC1−C4モノアルキルエーテル;他のものとしてγ−ブチロラクトンまたはジメチルスルホキシド等があげられる。
本発明のインク組成物において、水溶性有機溶剤として好ましいものは、イソプロパノール、グリセリン、モノ、ジまたはトリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン及びブチルカルビトールであり、より好ましくはイソプロパノール、グリセリン、ジエチレングリコール、N−メチル−2−ピロリドン及びブチルカルビトールである。これらの水溶性有機溶剤は、単独もしくは混合して用いられる。
防腐防黴剤としては、例えば、有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリルスルホン系、ヨードプロパギル系、N−ハロアルキルチオ系、ベンゾチアゾール系、ニトリル系、ピリジン系、8−オキシキノリン系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオキシド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系、無機塩系等の化合物が挙げられる。
有機ハロゲン系化合物としては、例えばペンタクロロフェノールナトリウムが挙げられる。
ピリジンオキシド系化合物としては、例えば2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウムが挙げられる。
イソチアゾリン系化合物としては、例えば1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンマグネシウムクロライド、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド等が挙げられる。
その他の防腐防黴剤として酢酸ソーダ、ソルビン酸ソーダ、安息香酸ナトリウム等(例えば、アベシア社製 商品名プロクセルRTMGXL(S)、プロクセルRTMXL−2(S)等)があげられる。
pH調整剤は、インクの保存安定性を向上させる目的で、インクのpHを6.0〜11.0の範囲に制御できるものであれば任意の物質を使用することができる。例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;水酸化アンモニウム;あるいは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;などが挙げられる。
キレート試薬としては、例えばエチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラシル二酢酸ナトリウムなどがあげられる。
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライトなどがあげられる。
紫外線吸収剤としては、例えばベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、桂皮酸系化合物、トリアジン系化合物又はスチルベン系化合物などがあげられる。また、ベンズオキサゾール系化合物に代表される紫外線を吸収して蛍光を発する化合物、いわゆる蛍光増白剤も用いることができる。
粘度調整剤としては、水溶性有機溶剤の他に、水溶性高分子化合物があげられ、例えばポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアミン、ポリイミン等があげられる。
染料溶解剤としては、例えば尿素、ε−カプロラクタム、エチレンカーボネート等があげられる。
褪色防止剤は、画像の保存性を向上させる目的で使用される。褪色防止剤としては、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。有機の褪色防止剤としてはハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、ヘテロ環化合物類などがあり、金属錯体としてはニッケル錯体、亜鉛錯体などがある。
表面張力調整剤としては、界面活性剤があげられ、例えばアニオン界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤などがあげられる。
アニオン界面活性剤としてはアルキルスルホカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N−アシルアミノ酸又はその塩、N−アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリールスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキルシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩などが挙げられる。
カチオン界面活性剤としては2−ビニルピリジン誘導体、ポリ4−ビニルピリジン誘導体などがある。
両性界面活性剤としてはラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、イミダゾリン誘導体などがある。
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のエーテル系;ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレートなどのエステル系;2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オールなどのアセチレングリコール(アルコール)系のもの等が挙げられる。他の具体例として、例えば、サーフィノールRTM104、82、465、オルフィンSTG(以上、日信化学工業株式会社製)等が挙げられる。
消泡剤としては、高酸化油系、グリセリン脂肪酸エステル系、フッ素系、シリコーン系化合物が必要に応じて用いられる。
これらのインク調製剤は、単独もしくは混合して用いられる。なお、本発明のインク組成物の表面張力は通常25〜70mN/m、より好ましくは25〜60mN/mである。また本発明のインクの粘度は30mPa・s以下が好ましく、20mPa・s以下に調整することがより好ましい。
本発明のインク組成物を調製するにあたり、各薬剤を溶解させる順序には特に制限はない。インク組成物を調製するにあたり用いる水はイオン交換水または蒸留水など、不純物が少ない物が好ましい。さらに、必要に応じメンブランフィルターなどを用いて精密濾過を行って夾雑物を除いてもよく、インクジェットプリンタ用のインクとして使用する場合は精密濾過を行うことが好ましい。精密濾過を行うフィルターの孔径は通常1μm〜0.1μm、好ましくは、0.8μm〜0.1μmである。
本発明のインク組成物は、単色の画像形成のみならず、フルカラーの画像形成に用いることができる。フルカラー画像を形成するために、マゼンタインク、イエローインクとの3原色のインクセット、更にはこれにブラックインクを加えた4色のインクセットとしても使用される。更にはより高精細な画像を形成する為に、ライトマゼンタインク、ブルーインク、グリーンインク、オレンジインク、ダークイエローインク、グレーインク等と併用したインクセットとしても使用される。
本発明のインク組成物を上記インクセットとして使用する場合、イエローインクの色素としては、種々のものを使用することが出来る。例えばカップリング成分(以降カプラー成分と呼ぶ)としてフェノール類、ナフトール類、アニリン類、ピラゾロンやピリドン等のようなヘテロ環類などを有するアリールもしくはヘテロアリールアゾ染料;アゾメチン染料;ベンジリデン染料やモノメチンオキソノール染料等のようなメチン染料;ナフトキノン染料、アントラキノン染料等のようなキノン系染料;などがあり、これ以外の染料種としてはキノフタロン染料;ニトロ・ニトロソ染料;アクリジン染料;アクリジノン染料;等を挙げることができる。
同様に、マゼンタインクの色素としても、種々のものを使用することが出来る。例えばカプラー成分としてフェノール類、ナフトール類、アニリン類などを有するアリールもしくはヘテロアリールアゾ染料;例えばカプラー成分としてピラゾロン類、ピラゾロトリアゾール類などを有するアゾメチン染料;例えばアリーリデン染料、スチリル染料、メロシアニン染料、シアニン染料、オキソノール染料などのようなメチン染料;ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料などのようなカルボニウム染料;ナフトキノン、アントラキノン、アントラピリドンなどのようなキノン染料;ジオキサジン染料;等のような縮合多環染料等を挙げることができる。
同様に、ブラック色素としては、ジスアゾ、トリスアゾ、テトラアゾ等のアゾ系染料のほか、カーボンブラックの分散体を挙げることができる。
本発明のインク組成物は、印捺、複写、マーキング、筆記、製図、スタンピング等の記録方法に使用でき、特にインクジェット記録方法における使用に適する。
本発明のインクジェット記録方法は、前記で調整されたインク組成物をインク容器等に入れ、該インク組成物にエネルギーを供与することにより、該インク組成物をインク滴として吐出させ、公知の被記録材、例えば普通紙、樹脂コート紙、インクジェット専用紙、光沢紙、光沢フィルム、電子写真共用紙、繊維や布(セルロース、ナイロン、羊毛等)、ガラス、金属、陶磁器、皮革等に画像を形成する方法である。
本発明のインクジェット記録方法で、被記録材に記録するには、例えば上記のインクを含有する容器(インクタンク等とも呼称される)をインクジェットプリンタの所定位置にセットし、通常の方法で、被記録材に記録すればよい。インクジェットプリンタとしては、例えば機械的振動を利用したピエゾ方式のプリンタや加熱により生ずる泡を利用したバブルジェットRTM方式のプリンタ等があげられる。
画像を形成する際に、光沢性や耐水性を与えたり、耐候性を改善する目的からポリマー微粒子分散物(ポリマーラテックスともいう)を併用してもよい。ポリマーラテックスを被記録材に付与する時期については、着色剤を付与する前であっても、後であっても、また同時であってもよい。したがって本発明の記録方法によれば、ポリマーラテックスを被記録材中に添加しても、インク中に添加してもよく、また、ポリマーラテックスを単独の液状物として被記録材に適用しても良い。
本発明の着色体は、インクジェットプリンタ等を用いて、本発明のポルフィラジン色素又はこれを含有する本発明のインク組成物等で被着色材を着色したものである。被着色材は、前記被記録材及びその他のインクジェットプリンタで着色しうる物品であれば特に制限はない。被着色材としては、例えば紙、フィルム等の情報伝達用シート、繊維や布(セルロース、ナイロン、羊毛等)、皮革、カラーフィルター用基材等が挙げられる。情報伝達用シートとしては、表面処理されたもの、具体的には、紙、合成紙、フィルム等の基材にインク受容層を設けたものが好ましい。該インク受容層は、例えば上記基材にカチオン系ポリマーを含浸あるいは塗工することにより、また多孔質シリカ、アルミナゾルや特殊セラミックスなどのインク中の色素を吸収し得る無機微粒子を、ポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン等の親水性ポリマーと共に上記基材表面に塗工することにより、設けられる。このようなインク受容層を設けた情報伝達用シートは、通常インクジェット専用紙(フィルム)、光沢紙(フィルム)等と呼ばれる。
普通紙は、特にインク受容層を設けていない紙のことを指し、用途によってさまざまなものが数多く市販されている。市販されている普通紙の一例を挙げると、インクジェット用としては、セイコーエプソン株式会社製 両面上質普通紙;キヤノン株式会社製 カラー普通紙;Hewlett Packard社製 Multipurpose Paper、All−in−one Printing Paper;などがある。この他、特に用途をインクジェット印刷に限定しないPPC用紙なども普通紙である。
本発明のインク組成物は、上記のような普通紙上での耐水性が特に優れており、この理由から特に普通紙に好適に用いられる。加えて、光、オゾン、湿度や摩擦などに対する耐性にも優れる。インクジェット印刷用にインク受容層を設けているインクジェット専用紙、専用フィルム、光沢紙または光沢フィルムなどでの耐水性にも優れ、またそれらの情報伝達用シート上での耐光性、耐オゾン性、耐湿性及び耐擦性などにも優れる。
本発明によるインクは貯蔵中に沈澱、分離することがない。また、本発明によるインクをインクジェット記録において使用した場合、噴射器(インクヘッド)を閉塞することもない。本発明によるインクは、連続式インクジェットプリンタによる比較的長い時間かつ一定の再循環下での使用、または、オンデマンド式インクジェットプリンタによる断続的な使用においても、物理的性質の変化を起こさない。
本発明のインクは鮮明なシアン色であり、特に耐水性に優れ、かつ耐光性、耐オゾン性においても優れた記録物を得ることができる。濃淡のシアンインクのセットとして用いることによって、更に、耐水性、耐光性及び耐オゾン性に優れた他のイエロー、マゼンタ、その他必要に応じてグリーン、レッド、オレンジ、ブルー等のインクと共に用いることで、広い可視領域の色調を表現することができ、なおかつ、耐水性に特に優れ、かつ、耐光性及び耐オゾン性においても優れた記録物を得ることができる。
以下に本発明を更に実施例により具体的に説明する。合成反応及び懸濁精製等の各操作については、特に断りのない限り、いずれも攪拌下に行った。また、実施例にて合成した本発明のポルフィラジン色素は、上記の通り全て混合物である。また、実施例中の構造式において、環A乃至Dがピリジン環の場合、該ピリジン環は2位及び3位で縮環したものである。また、実施例中「部」及び「%」とあるのは、特別の記載のない限り質量基準である。なお、最大吸収波長(λmax)を測定した化合物については、その測定値を、測定溶媒と共に記載した。
なお合成した本発明のポルフィラジン色素は、いずれも水に対して100g/L以上の溶解度を示した。
実施例1
(1)前記式(6)において、環A乃至Dのうち、平均値で1.5個がピリジン環、2.5個がベンゼン環である化合物の合成。
四つ口フラスコに、スルホラン250部、フタルイミド18.4部、キノリン酸12.5部、尿素72.0部、塩化銅(II)・2水和物(純度97.0%)8.8部、モリブデン酸アンモニウム1.0部を加え、液温を200℃まで上げ、同温度で5時間保持し、反応を行った。反応終了後、反応液を65℃まで冷却し、そこにメタノール200部を加え、析出した固体を濾過分離した。得られた固体をメタノール150部、続いて温水200部で洗浄することにより、ウェットケーキ72.2部を得た。得られたウェットケーキの全量を5%塩酸500部中に加えた後、液温を60℃に上げ、同温度で1時間保持した。析出固体を室温下において濾過分離し、水200部で洗浄することにより、ウェットケーキを得た。得られたウェットケーキの全量を10%アンモニア水500部中に加え、該液を60℃で1時間保持した。析出した固体を濾過分離し、得られた固体を水300部、メタノール100部で順次洗浄し、ウェットケーキ33.6部を得た。得られたウェットケーキを80℃で乾燥することにより、目的とする化合物19.8部を青色固体として得た。
λmax:663.5nm(ピリジン中)
(2)前記式(3)における環A乃至Dのうち、平均値で1.5個がピリジン環、2.5個がベンゼン環であり、nが2.5である化合物の合成。
クロロスルホン酸46.2部中に、60℃以下の温度を保ちながら実施例1(1)で得られた化合物5.8部を徐々に加えた後、液温を140℃まで上げ、この温度で4時間反応を行った。反応液を70℃まで冷却し、塩化チオニル17.9部を反応液に30分間かけて滴下し、同温度で3時間反応を行った。反応液を30℃以下に冷却し、氷水800部中にゆっくりと注いだ。析出した固体を濾過分離し、冷水200部で洗浄することにより、目的化合物のウェットケーキ40.0部を得た。
(3)下記式(12)[式(4)におけるX及びYが3-カルボキシアニリノ、Eがエチレン]で表される化合物の合成。
Figure 0005281019
氷水150部中に塩化シアヌール18.4部及びレオコールRTMTD−90(界面活性剤、ライオン株式会社製)0.2部を添加し、その混合物を10℃以下で30分間攪拌した。次にそこに3−カルボキシアニリン(純度99%)28.0部を添加し、10%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを6.0〜7.0に維持しながら、0〜10℃で1時間30分、20〜25℃で1時間30分、40〜45℃で1時間30分反応を行った。反応液にエチレンジアミン60部を滴下し、室温で一晩反応させた後、濃塩酸を用いて、反応液をpH5.0に調整した。このとき反応液の総量は1000部であった。この反応液に塩化ナトリウム100部を添加し、30分撹拌し、析出した固体を濾過分離して、ウエットケーキ207.5部を得た。得られたウエットケーキに水600部を加えた後、10%水酸化ナトリウム水溶液を用いて、pHを9.0に調整した。このとき溶液の総量は850部であった。この溶液を濃塩酸を用いてpH5.0に調整し、30分撹拌して固体を析出させた。析出した固体を濾過分離し、水200部で洗浄して、ウエットケーキ221部を得た。得られたウエットケーキを乾燥させることにより、目的とする上記式(12)の化合物の白色粉末40.1部を得た。
(4)下記式(13)[前記式(1)における環A乃至Dのうち、平均値で1.5個がピリジン環、2.5個がベンゼン環であり、Eがエチレン、X及びYが3−カルボキシアニリノ]で表される本発明のポルフィラジン色素の合成。
Figure 0005281019
氷水100部中に本実施例の前記(2)で得られた化合物のウェットケーキ40.0部を加え、この懸濁液を5℃以下で撹拌した。10分後、液温を10℃以下に保持しながら、28%アンモニア水2.5部、及び水60部中に前記式(12)の化合物6.2部を溶解させた溶液の両者を、この懸濁液に加えた後、更に、そこに28%アンモニア水を添加し、pHを9.0に調整した。適宜同アンモニア水を追加して、同pHを保持しながら、1時間かけて液温を20℃まで上げ、同温度を8時間保持し、反応を行った。この時の反応液の総量は230部であった。反応液を50℃に上げ、濃塩酸で20分かけてpH3.0に調整した。得られた析出物を濾過分離し、水200部で洗浄することにより、ウエットケーキ56.0部を得た。得られたウェットケーキを乾燥することにより、目的とする上記式(13)で表される本発明のポルフィラジン色素(bが1.24、cが1.26の色素)の遊離酸を青色粉末として11.8部得た。
λmax:610.5nm(水溶液中)
実施例2
(1)下記式(14)[式(4)におけるX及びYが4-カルボキシアニリノ、Eがエチレン]で表される化合物の合成。
Figure 0005281019
氷水150部中に、塩化シアヌール18.4部、レオコールRTMTD−90(界面活性剤)0.2部を添加し、10℃以下で30分間攪拌した。次にこれに4−カルボキシアニリン(純度99%)28.0部を添加した後、10%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを6.0〜7.0に調整しながら、0〜10℃で1時間30分、20〜25℃で1時間30分、40〜45℃で1時間30分反応を行った。反応液にエチレンジアミン60部を滴下し、室温で一晩攪拌した後、濃塩酸を用いてpHを5.0に調整した。このとき反応液の総量は1000部であった。この反応液に塩化ナトリウム100部を添加し、30分撹拌して析出した固体を濾過分離することにより、ウエットケーキ405.5部を得た。得られたウエットケーキに水600部を加えた後、10%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを9.0に調整し、溶液とした。このとき溶液の総量は900部であった。この溶液を濃塩酸を用いてpH5.0に調整し、30分撹拌して析出した固体を濾過分離した。得られた固体を水200部で洗浄することにより、ウエットケーキ189.7部を得た。得られたウエットケーキを乾燥させ、目的とする上記式(14)で表される化合物の白色粉末39.2部を得た。
(2)下記式(15)[前記式(1)における環A乃至Dのうち、平均値で1.5個がピリジン環、2.5個がベンゼン環であり、Eがエチレン、X及びYが4−カルボキシアニリノ]で表される本発明のポルフィラジン色素の合成。
Figure 0005281019
氷水100部中に、実施例1(2)と同様にして得たウェットケーキ(前記式(3)における環A乃至Dのうち、平均値で1.5個がピリジン環、2.5個がベンゼン環であり、nが2.5である化合物のウェットケーキ)40.0部を加え、この懸濁液を5℃以下で撹拌した。10分後、液温を10℃以下に保持しながら、28%アンモニア水2.5部、及び水60部中に前記式(15)で表される化合物6.2部を溶解させた溶液の両者をこの懸濁液に加えた。更に、そこに28%アンモニア水を添加し、pHを9.0に調整した。適宜同アンモニア水を追加して、同pHを保持しながら、1時間かけて液温を20℃まで上げ、同温度で8時間保持し、反応を行った。この時の反応液の総量は230部であった。反応液の液温を50℃に上げ、濃塩酸で20分かけてpH3.0に調整した。析出した固体を濾過分離し、水200部で洗浄して、ウエットケーキ62.0部を得た。得られたウェットケーキを乾燥することにより、目的とする上記式(15)で表される本発明のポルフィラジン色素(bが1.06、cが1.49の色素)の遊離酸を青色粉末として13.0部得た。
λmax:610.5nm(水溶液中)
実施例3
(1)下記式(16)[式(4)におけるX及びYが3,5−ジカルボキシアニリノ、Eがエチレン]で表される化合物の合成。
Figure 0005281019
氷水330部中に、塩化シアヌール18.4部、レオコールRTMTD−90(界面活性剤)0.2部を添加し、10℃以下で30分間攪拌した。次にこれに3,5−ジカルボキシアニリン(純度99.3%)36.3部を添加し、10%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを7.0〜7.5に調整しながら0〜5℃で1時間、続いて25〜30℃で3時間反応を行い、さらにpH8.0〜8.5に調整しながら40〜45℃で1時間反応を行った。反応液にエチレンジアミン60部を滴下し、その反応液を室温で一晩攪拌した後、濃塩酸を用いてpH4.0に調整し、該反応液を30分撹拌した。析出した固体を濾過分離することにより、ウエットケーキ400.1部を得た。得られたウエットケーキに水280部を加え、10%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを9.0に調整し、溶液とした。このとき溶液の総量は800部であった。この溶液を濃塩酸を用いてpH5.0に調整し、30分撹拌した。析出した固体を濾過分離し、水200部で洗浄して、ウエットケーキ189.7部を得た。得られたウエットケーキを乾燥することにより、目的とする上記式(16)で表される化合物の白色粉末50.2部を得た。
(2)下記式(17)[前記式(1)における環A乃至Dのうち1.5個がピリジン環、2.5個がベンゼン環であり、Eがエチレン、X及びYが3,5−ジカルボキシアニリノ]で表される本発明のポルフィラジン色素の合成。
Figure 0005281019
氷水100部中に、実施例1(2)と同様にして得たウェットケーキ40.0部を加え、この懸濁液を5℃以下で撹拌した。10分後、液温を10℃以下を保持しながら、28%アンモニア水2.5部、及び水60部中に式(21)で表される化合物7.6部を溶解させた溶液の両者をこの懸濁液に加えた後、更に、そこに28%アンモニア水を添加し、pHを9.0に調整した。適宜同アンモニア水を追加して、同pHを保持しながら、1時間かけて液温を20℃まで上げ、同温度で反応液を8時間保持した。この時の反応液の総量は230部であった。反応液の液温を50℃に上げ、濃塩酸で20分かけてpH4.0に調整した。析出した固体を濾過分離し、水200部で洗浄して、ウエットケーキ124.1部を得た。得られたウェットケーキを乾燥することにより、目的とする上記式(17)で表される本発明のポルフィラジン色素の遊離酸を、青色粉末として26.6部得た。
λmax:603.5nm(水溶液中)
実施例4
(1)前記式(6)における環A乃至Dのうち、平均値で1.0個がピリジン環、3.0個がベンゼン環で表される化合物の合成。
四つ口フラスコに、スルホラン250部、フタルイミド22.1部、キノリン酸8.36部、尿素72.0部、塩化銅(II)・2水和物(純度97.0%)8.8部、モリブデン酸アンモニウム1.0部を加えた後、液温を200℃まで上げ、反応液を同温度で5時間保持した。反応終了後、反応液を65℃まで冷却し、そこにメタノール200部を加え、析出した固体を濾過分離した。得られた固体をメタノール150部、温水200部で順次洗浄することにより、ウェットケーキ74.2部を得た。得られたウェットケーキの全量を5%塩酸500部中に加えた後、液温を60℃に上げ、該反応液を同温度で1時間保持した。析出した固体を濾過分離し、水200部で洗浄することにより、ウェットケーキを得た。得られたウェットケーキの全量を10%アンモニア水500部中に加えた後、該反応液を60℃で1時間保持した。析出した固体を濾過分離し、水300部、メタノール100部で順次洗浄することにより、ウェットケーキ36.6部を得た。得られたウェットケーキを80℃で乾燥することにより、目的とする化合物21.8部を青色固体として得た。
λmax:655.0nm(ピリジン中)
(2)前記式(3)における環A乃至Dのうち、平均値で1.0個がピリジン環、3.0個がベンゼン環であり、nが3.0である化合物の合成。
クロロスルホン酸46.2部中に、液温を60℃以下に保持しながら、本実施例の(1)で得られた化合物5.8部を徐々に加えた後、液温を140℃まで上げて4時間反応を行った。反応液を70℃まで冷却し、塩化チオニル17.9部を反応液に30分間かけて滴下し、同温度で3時間反応を行った。反応液を30℃以下に冷却し、氷水800部中にゆっくりと注いだ。析出した固体を濾過分離し、冷水200部で洗浄することにより、目的化合物のウェットケーキ41.0部を得た。
(3)前記式(13)[前記式(1)における環A乃至Dのうち、平均値で1.0個がピリジン環、3.0個がベンゼン環であり、Eがエチレン、X及びYが3−カルボキシアニリノ]で表される本発明のポルフィラジン色素の合成。
氷水100部中に、本実施例の(2)で得られたウェットケーキ41.0部を加え、この懸濁液を5℃以下で撹拌した。10分後、液温を10℃以下を保持しながら、28%アンモニア水2.5部及び水60部中に実施例1(3)と同様にして得られた前記式(12)で表される化合物5.2部を溶解させた液を加えた後、更に、そこに28%アンモニア水を添加し、pHを9.0に調整した。適宜同アンモニア水を追加して、同pHを保持しながら、1時間かけて液温を20℃まで上げ、同温度で反応液を8時間保持した。この時の反応液の総量は230部であった。反応液の液温を50℃に上げ、濃塩酸で20分かけてpH2.0に調整した後、析出した固体を濾過分離し、水200部で洗浄して、ウエットケーキ55.0部を得た。得られたウェットケーキを乾燥することにより、目的とする前記式(13)で表される本発明のポルフィラジン色素(bが2.08、cが0.92の色素)の遊離酸を青色粉末として10.8部得た。
λmax:611.0nm(水溶液中)
実施例5
(1)前記式(6)における環A乃至Dのうち、平均値で0.75個がピリジン環、3.25個がベンゼン環で表される化合物の合成。
四つ口フラスコに、スルホラン250部、フタルイミド23.9部、キノリン酸6.27部、尿素72.0部、塩化銅(II)・2水和物(純度97.0%)8.8部、モリブデン酸アンモニウム1.0部を加えた後、液温を200℃まで上げ、反応液を同温度で5時間反応した。反応終了後、液温を65℃まで冷却し、反応液にメタノール200部を加え、析出した固体を濾過分離した。得られた固体をメタノール150部、温水200部で順次洗浄することにより、ウェットケーキ78.3部を得た。得られたウェットケーキの全量を5%塩酸500部中に加えた後、液温を60℃に上げ、同温度で反応液を1時間保持した。析出した固体を濾過分離し、水200部で洗浄して、ウェットケーキを得た。得られたウェットケーキの全量を10%アンモニア水500部中に加えた後、液温を60℃に上げ、同温度で反応液を1時間保持した。析出した固体を濾過分離した後、水300部、メタノール100部で順次洗浄することにより、ウェットケーキ39.4部を得た。得られたウェットケーキを80℃で乾燥することにより、目的化合物24.3部を青色固体として得た。
(2)前記式(3)における環A乃至Dのうち、平均値で0.75個がピリジン環、3.25個がベンゼン環であり、nが3.25である化合物の合成。
クロロスルホン酸46.2部中に、液温を60℃以下に保持しながら、本実施例の(1)で得られた化合物5.8部を徐々に加えた。その後、液温を140℃まで上げて4時間反応を行った。反応液を70℃まで冷却し、塩化チオニル17.9部を反応液に30分間かけて滴下し、同温度で3時間反応を行った。反応液を30℃以下に冷却し、氷水800部中にゆっくりと注いだ。析出した固体を濾過分離し、冷水200部で洗浄することにより、目的化合物43.3部を得た。
(3)前記式(13)[前記式(1)における環A乃至Dのうち、平均値で0.75個がピリジン環、3.25個がベンゼン環であり、Eがエチレン、X及びYが3−カルボキシアニリノ]で表される本発明のポルフィラジン色素の合成。
氷水100部中に本実施例の(2)で得られた化合物のウェットケーキ43.3部を加え、この懸濁液を5℃以下で撹拌した。10分後、液温を10℃以下に保持しながら、28%アンモニア水2.5部及び水60部中に実施例1(3)と同様にして得られた前記式(12)で表される化合物4.1部を溶解させた液を加えた後、更に、そこに28%アンモニア水を添加し、pHを9.0に調整した。適宜同アンモニア水を追加して、同pHを保持しながら、1時間かけて液温を20℃まで上げ、同温度で8時間保持し、反応を行った。この時の反応液の総量は240部であった。反応液の液温を50℃に上げ、濃塩酸で、20分かけてpH2.0に調整した。析出した固体を濾過分離した後、水200部で洗浄して、ウエットケーキ92.0部を得た。得られたウェットケーキを乾燥することにより、目的とする前記式(13)で表される本発明のポルフィラジン色素(bが2.29、cが0.96の色素)の遊離酸を青色粉末として11.9部得た。
λmax:611.5nm(水溶液中)
評価試験
(A)インクの調製
実施例6〜10
色素として上記実施例1で得られた本発明のポルフィラジン色素を用い、下記表2に示した組成比で各成分を混合して本発明のインク組成物とした後、0.45μmのメンブランフィルターで濾過する事により夾雑物を除き、評価試験用のインクジェット記録用インクを調製した。このインクの調製を実施例6とする。尚、水はイオン交換水を使用し、インク組成物のpHがおよそ9.5、総量が100部になるようにアンモニア水溶液及び水を加えた。
また実施例1で得られた本発明のポルフィラジン色素の代わりに、実施例2乃至5で得られた色素を用いる以外は実施例6と同様にしてインクを調製した。このインクの調製を、それぞれ実施例7乃至10とする。
[表2](インク組成物の組成比)
実施例1で得られたポルフィラジン色素 5.0部
グリセリン 5.0部
尿素 5.0部
N−メチル−2−ピロリドン 4.0部
イソプロピルアルコール 3.0部
ブチルカルビトール 2.0部
商品名サーフィノールRTM104PG50(注) 0.1部
アンモニア水+水 75.9部
計 100.0部
(注)アセチレングリコ−ル系ノニオン界面活性剤、日信化学工業株式会社製
比較例1
色素として実施例1で得られた本発明のポルフィラジン色素のかわりに、下記式(18)で表される色素(C.I.Direct Blue 86)を用いる以外は実施例1と同様にして、比較例1のインクを調製した。
なお、該色素中のスルホン酸基はフタロシアニンの3位に置換しているものの混合物であり、下記式(18)は考えられる構造式のうちの一つを示した。なお、この色素はナトリウム塩であることが知られている。
Figure 0005281019
比較例2
比較例1で用いた色素のナトリウム塩を、常法に従いアンモニウム塩へと交換した。色素として実施例1で得られた本発明のポルフィラジン色素の代わりに、上記塩の交換により得られた比較例1の色素のアンモニウム塩を用いる以外は実施例1と同様にして、比較例2のインクを調製した。
比較例3
色素として実施例1で得られた本発明のポルフィラジン色素のかわりに、下記式(19)で表される特許文献15の実施例3(2)に記載の色素を用いる以外は実施例1と同様にして、比較例3のインクを調製した。
なお、下記式(19)中、A〜Dの4個の6員芳香環のうち、1.5個が2位及び3位で縮環したピリジン環で、残り2.5個がベンゼン環である。
Figure 0005281019
比較例4
色素として実施例1で得られた本発明のポルフィラジン色素のかわりに、下記式(20)で表される特許文献15の実施例5に記載の色素を用いる以外は実施例1と同様にして比較例4のインクを調製した。
なお、下記式(20)中、A〜Dの4個の6員芳香環のうち、1.5個が2位及び3位で縮環したピリジン環で、残り2.5個がベンゼン環である。
Figure 0005281019
(B)インクジェットプリント
インクジェットプリンタ(キヤノン株式会社製、商品名:PIXUSRTMip4100)を用いて、実施例6乃至10及び比較例1乃至4で調製したインクを使用し、表3に示す3種類の普通紙にインクジェット記録を行った。インクジェット記録の際、チェック柄のパターン(濃度100%と0%の1.5mm角を有する正方形を交互に組み合わせたパターン)を作成し、コントラストの高いシアン−ホワイトのチェック柄の印字物を得た。また、反射濃度が数段階の階調が得られるように画像パターンも作成し、シアン色の濃度階調のあるグラデーションの印字物を得た。
[表3]
普通紙1
キヤノン株式会社製:
LBP PAPER LS−500
普通紙2
Hewlett Packard社製:
Multipurpose Paper
普通紙3
Hewlett Packard社製:
All−in−One Printing Paper
記録画像の各種試験方法および試験結果の評価方法を以下に記載する。
耐水性試験1の目視判断を行う際には、上記インクジェットプリントのチェック柄の印字物を用いた。
耐水性試験2の色素残存率測定は、上記インクジェットプリントのグラデーションの印字物を用い、試験前の印字物の反射濃度D値が1に最も近い部分について反射濃度の測定を行った。また、反射濃度は測色システム(SpectroEyeRTM、GretagMacbeth社製)を用いて測定した。
(C)耐水性試験1
印刷後24時間乾燥を行ったチェック柄の印字物を、イオン交換水中に1時間浸漬した。印字物を水から取出した後、乾燥し、パターンの着色部分の色落ち具合とホワイト部分の着色具合とを目視で評価し、下記の基準で3段階に評価した。結果を表4に示した。
評価基準
色落ちがやや見られる ・・・・・・○
色落ちは見られるが着色の残存がある・・・・・・△
全て色落ちする ・・・・・・×
(D)耐水性試験2
印刷後24時間乾燥を行ったグラデーションの印字物に対して、イオン交換水中に1時間浸漬した。印字物を水から取出した後、乾燥し、反射濃度を前記の測色システムを用いて測色した。測定後、色素残存率を下記式で計算して求め、以下の基準で3段階で評価した。結果を表5に示す。
色素残存率=(試験後の反射濃度/試験前の反射濃度)×100(%)
評価基準
色素残存率が80%以上・・・・・・・・○
色素残存率が50%以上80%未満・・・△
色素残存率が50%未満・・・・・・・・×
[表4] 耐水性試験1の結果
(普通紙1)(普通紙2)(普通紙3)
実施例6 △ ○ ○
実施例7 △ ○ ○
実施例8 △ ○ ○
実施例9 △ ○ ○
実施例10 △ ○ ○
比較例1 × × ×
比較例2 × × ×
比較例3 × × ×
比較例4 × × ×
[表5] 耐水性試験2の結果
(普通紙1)(普通紙2)(普通紙3)
実施例6 △ ○ ○
実施例7 △ ○ ○
実施例8 △ ○ ○
実施例9 △ ○ ○
実施例10 △ ○ ○
比較例1 × × ×
比較例2 × × ×
比較例3 × × ×
比較例4 × × ×
表4及び5の結果より明らかなように、各比較例は、全ての耐水性試験においては、にじみ(耐水性試験1)及び色素残存率が50%未満(耐水性試験2)と、いずれも非常に悪い結果であった。
これに対して各実施例のインクは、耐水性試験1及び2のいずれの場合においても、良好な結果が得られ、普通紙での耐水性が各比較例と比べて極めて高いことがわかる。
以上の結果から、本発明のポルフィラジン色素は水溶解性が高く、インクの調製用、特にインクジェット記録用のインクの調製用に適しており、該色素を含有する本発明のインク組成物は、被記録剤に記録(印字又は着色)した場合、特に、インクジェットで記録した場合の記録物(印字物又は着色体)は、各種の堅牢性に優れ、特に普通紙に記録(印字又は着色)した場合の記録物(印字物又は着色体)の耐水性に極めて優れているので、インクジェット記録用のインクに適している。これらの特徴から、本発明のポルフィラジン色素は各種の記録用インク色素、特にインクジェットインク用のシアン色の色素として非常に有用であり、本発明のインク組成物はインクジェット記録用のインクとして有用である。

Claims (17)

  1. 下記式(1)で表されるポルフィラジン色素又はその塩
    Figure 0005281019

    [式中、破線で表される環A、B、C及びDは、それぞれ独立に芳香性を有する6員環を表し、該環A乃至Dの4つのうち、平均値で、少なくとも1.0個はベンゼン環であり、且つ、残りの中、少なくとも0.5個は含窒素複素芳香環であり、
    Eはアルキレン基を表し、
    X及びYはそれぞれ独立して、カルボキシ基を1乃至3個有するアニリノ基であり、
    いずれも平均値でbは0から3.4、cは0.1から3.5であり、且つbおよびcの和は1.0から3.5である。]。
  2. 含窒素複素芳香環が、ピリジン環またはピラジン環である請求項1に記載のポルフィラジン色素又はその塩。
  3. 下記式(3)で表される化合物と、下記式(4)で表される有機アミンとをアンモニア存在下で反応させて得られる請求項1に記載のポルフィラジン色素又はその塩
    Figure 0005281019

    [式中、破線で表される環A、B、C及びDは、請求項1に記載のものと同じ意味を表し、nは平均値で1.0から3.5である。]
    Figure 0005281019

    [式中、E、XおよびYは請求項1に記載のものと同じ意味を表す。]。
  4. 破線で表される環A、B、C及びDの4つの環のうち、平均値で、0.5乃至3.0個がピリジン環またはピラジン環であり、且つ、残りのうち、1.0乃至3.5個がベンゼン環であり、
    EがC2−C4アルキレン基であり、
    X及びYはそれぞれ独立して、カルボキシ基を1乃至3有するアニリノ基であり、
    いずれも平均値で、bは0から3.4であり、cは0.1から3.5であり、且つbおよびcの和は1.0から3.5である請求項1に記載のポルフィラジン色素又はその塩。
  5. Eがエチレン基またはプロピレン基である請求項4に記載のポルフィラジン色素又はその塩。
  6. 破線で表される環A、B、C及びDの4つの環のうち、平均値で、0.5乃至3.0個が、2位及び3位または、3位及び4位で縮環したピリジン環であり、且つ、残りのうち、1.0乃至3.5個がベンゼン環であり、
    EがC2−C4アルキレンであり、
    X及びYはそれぞれ独立して、カルボキシ基を1乃至3有するアニリノ基であり、
    いずれも平均値でbが0から3.4であり、cが0.1から3.5であり、且つbおよびcの和は1.0から3.5である請求項1に記載のポルフィラジン色素又はその塩。
  7. 下記式(2)で表される請求項1に記載のポルフィラジン色素又はその塩
    Figure 0005281019

    [式中、Z1からZ8はそれぞれ独立して窒素原子または炭素原子を表し、且つ、Z1とZ2、Z3とZ4、Z5とZ6及びZ7とZ8の4つの組み合わせのうち、平均値で少なくとも1.0個は炭素原子同士の組合せであり、且つ、残りのうち、少なくとも0.5個は窒素原子と炭素原子又は窒素原子同士の組合わせであり、
    E、X、Y、bおよびcは請求項1に記載のものと同じ意味を表す。]。
  8. 下記式(5)で表される化合物と、下記式(4)で表される有機アミンとをアンモニア存在下で反応させて得られる請求項7に記載のポルフィラジン色素またはその塩
    Figure 0005281019

    [式中、Z1からZ8は請求項7に記載のものと同じ意味を表し、nは平均値で1.0から3.5である。]
    Figure 0005281019

    [式中、E、XおよびYは請求項1に記載のものと同じ意味を表す。]。
  9. 色素成分として請求項1、3及び6のいずれか一項に記載のポルフィラジン色素を含有することを特徴とするインク組成物。
  10. 水溶性有機溶剤をさらに含有する請求項9に記載のインク組成物。
  11. インクジェット記録用である請求項10に記載のインク組成物。
  12. 請求項1に記載のポルフィラジン色素を含有するインク組成物のインク滴を記録信号に応じて吐出させて被記録材に記録を行うことを特徴とするインクジェット記録方法。
  13. 被記録材が情報伝達用シートである請求項12に記載のインクジェット記録方法。
  14. 情報伝達用シートが表面処理されたシートであって、支持体上に白色無機顔料粒子を含有するインク受像層を有するシートである請求項13に記載のインクジェット記録方法。
  15. 請求項9に記載のインク組成物を含有する容器。
  16. 請求項15に記載の容器を装着したインクジェットプリンター。
  17. 請求項1に記載のポルフィラジン色素、又は請求項9に記載のインク組成物で着色された着色体。
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