JP5080877B2 - 吸音体 - Google Patents

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Description

本発明は吸音体に関する。
騒音は振動とともに身近な問題であり、吸音体への要求は依然として高い。また用途や目的に応じて要求特性も多岐にわたり、最近では低周波領域での吸音性能が高い材料が望まれている。
従来の吸音材料として、例えば、グラスウール、ロックウールのように繊維を綿状またはボード状に成型した材料や、ポリウレタンフォームのように高分子材料を発泡させた材料などの多孔質材料が用いられる。これらの多孔質材料に音波が入射すると、音波が材料内の隙間の空気を振動させるため、空気自身の粘性および周囲との摩擦によって、振動エネルギーの一部が熱エネルギーに変換、散逸されて吸音効果が得られる。
低周波領域における吸音性能の向上を目的とした吸音体として、例えば下記特許文献1には、音響的に透明な2枚のシートの間の空間に粉体を充填してなる粉体含有シート状物を断熱材層に積層一体化した構成が開示されており、この構成においては、粉体粒子の縦振動により低周波領域での吸音が得られる旨が記載されている。
下記特許文献2には、可撓性を有するベースフィルム上にバインダー接着剤により微細な粒子を接着してなる吸音層と、弾性層とを面接着してなる吸音体が開示されている。この吸音体において、ベースフィルムの厚さ、粒子の重さや大きさ、およびバインダー接着剤の粘性によって、吸音効果が得られる音域を変えることができる旨が記載されている。
下記特許文献3には、通気性材料の一面に通気止めフィルムを積層するとともに、該通気性材料の一面に凹部を設けるなどして、通気性材料と通気止めフィルムとが接触していない部分を形成することにより、共振効果による膜振動を利用して、広い周波数領域で吸音効果が得られるようにした吸音体が記載されている。
特開平9−170276号公報 特開平7−140985号公報 特開2004−130731号公報
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載されている吸音体では、例えば500Hz以下の低周波数領域において、吸音率が0.5以上となるような高度な吸音効果を達成することは難しい。
図4は、発泡ウレタン(厚さ10、20、50mm)、フェルト(厚さ10、50mm)、エチレン−酢酸ビニル共重合体の発泡体(発泡EVA、厚さ10mm)について、吸音率の周波数特性を測定した結果を示すグラフである。横軸は周波数(単位:Hz)、縦軸は吸音率を示す。
従来の多孔質材料にあっては、例えば図4に示すように、厚さを増大させれば低周波領域での吸音率が向上し、例えば発泡ウレタンの厚さを50mmにすれば450〜500Hzの周波数領域において、0.5〜0.6程度の吸音率を達成することが可能である。
しかしながら、多孔質材料の厚さを増大させると、吸音体が大型化するため好ましくない。
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、吸音体の大型化を招くことなく、低周波領域において高度な吸音効果を達成することができる吸音体を提供することを目的とする。
前記課題を解決すべく本発明者等が鋭意研究を重ねた結果、良好な吸音効果が得られる周波数領域が所望の周波数領域よりも高周波数側にある膜振動型の吸音層に、該吸音層よりも貯蔵弾性率が低い膜振動型の吸音層を積層一体化することによって、良好な吸音効果が得られる周波数領域を低周波数側へシフトさせることができることを見出して本発明に至った。
すなわち本発明の吸音体は、貫通孔が形成された枠体と、該貫通孔の一方の開口を覆う膜振動型吸音材を有する吸音体であって、前記膜振動型吸音材が、複数の吸音層が一体化された積層体からなり、該複数の吸音層のうち最も貯蔵弾性率が高い吸音層を第1の吸音層、最も貯蔵弾性率が低い吸音層を第2の吸音層とし、前記第1の吸音層の貯蔵弾性率をE’1、前記第2の吸音層の貯蔵弾性率をE’2とするとき、(E’1/E’2)≧3であり、かつ前記積層体において第1の吸音層から外側に向かって、各吸音層の貯蔵弾性率が漸次減少していることを特徴とする。
本発明によれば、吸音体の大型化を招くことなく、低周波領域において高度な吸音効果を達成することができる吸音体が得られる。
本発明における貯蔵弾性率(E’)の値は JIS K7244−3(曲げ振動)に準処する測定方法により、サンプルサイズを長さ20mm、幅5mm、厚さ2mmとし、測定条件を歪振幅6μm、25℃、20Hzとして得られる値(単位:Pa)である。また損失正接(tanδ)は貯蔵弾性率(E’)に対する損失弾性率(E”)の比(E”/E’)の絶対値で表される値である。該貯蔵弾性率(E’)および損失正接(tanδ)の測定周波数は、一般的に測定可能な範囲(0.2〜50Hz)の中で、実際の吸音周波数により近いという理由で20Hzを採用した(なお、50Hzではデータのばらつきが多い為、20Hzとした。)。貯蔵弾性率(E’)および損失正接(tanδ)は材質によって決まる値である。
尚、貯蔵弾性率(E’)および損失正接(tanδ)の測定は、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、粘弾性スペクトロメータEXSTAR6000 DMS、形式名DMS6100を使用した。
本明細書における吸音率は「垂直入射吸音率」の意味であり、JIS A 1405−2に準処する方法で、直径100mmのインピーダンス管内にサンプルをセットして測定される値である。サンプル直径は100mm弱とし、スペーサーを介して、インピーダンス管内に固定する。背後空気層厚(すなわち、枠体の厚さT)の変更は、サンプルの背後にある剛体(ピストン)の位置を調整することによって行うことができる。またサンプル径(すなわち、枠体の貫通孔の直径D)の変更は、スペーサーの内径を調整することによって行うことができる。
入射周波数を変化させながら吸音率を測定し、吸音率が最も高くなるときの周波数をピーク周波数(吸音周波数ということもある。)という。
また、本発明の吸音体による吸音は膜振動型吸音であるため、共振する周波数での吸音となる。そこで、良好な吸音が生じる周波数の範囲の広さの指標となる値として、ピーク周波数±50Hzの吸音率平均をとり、平均吸音率と定義した。
図1は本発明の吸音体の一実施形態を示したもので、図1(a)は平面図、(b)は(a)中のB−B線に沿う断面図である。図中符号1は吸音体、2は枠体、3は膜振動型吸音材、4は吸音体が取り付けられている施工面を示している。吸音体1は、貫通孔2aを有する枠体2の表面2b上に、膜振動型吸音材3が積層され、固定されている。
本実施形態の吸音体1は枠体2の裏面2cが施工面4に接着固定されており、膜振動型吸音材3と施工面4との間に背後空気層5が形成された状態で使用される。すなわち枠体2の表面2bおよび裏面2cそれぞれにおける貫通孔2aの開口のうち、表面における開口が膜振動型吸音材3で覆われており、裏面における開口が施工面4によって閉じられている。
本実施形態の枠体2は、外形形状が円形で、同心円状の貫通孔2aが設けられている。枠体2は貫通孔2aを有していればよく、外形形状は任意とすることができる。枠体2自身は、吸音性能を有していてもよく、有していなくてもよい。枠体2の材質は特に制限されないが、軽量化の点からは樹脂などの比重の低い材料が好ましい。
枠体2の厚さTによって膜振動型吸音材3の施工面4側に形成される背後空気層5の厚さが決まる。
枠体2の厚さTは、吸音性能の点からは3mm以上が好ましい。また全体のサイズを抑える点からは、50mm以下が好ましい。
貫通孔2aの形状(枠体2の表面2bにおける開口の形状)は円形に限らず、多角形など任意の形状とすることができる。特に、吸音率がピークとなるピーク周波数がより低くなる点、および該ピーク周波数における吸音率がより高くなる点からは、円形であることが好ましい。貫通孔2aの直径Dは吸音性能の点から20mm以上が好ましい。
枠体2の厚さTおよび貫通孔2aの直径Dは、これらによって得られる吸音体1の吸音特性(ピーク周波数および吸音率)が変化する。例えば500Hz以下の低周波数領域に吸音率が0.5以上となる周波数領域が存在するような、高度な吸音効果を良好に達成できるように、これらの寸法を設定することが好ましい。
膜振動型吸音材3は、複数の吸音層が一体化された積層体からなる。該積層体における吸音層は該層自身が膜振動により吸音作用を生じうる膜振動型の吸音層である。具体的に、該積層体を構成している吸音層が膜振動により吸音作用を生じるためには、それぞれの吸音層における流れ抵抗が1×10N・s/m以上であることが好ましい。本明細書における流れ抵抗の値は、材料表面に垂直方向に一定の空気流を通した時の材料両面間の圧力差を空気流の速度を割った値である。音は流速が非常に小さい状態に相当するので、流速が0に近づいた場合の極限値として定義される。測定法は、ISO 9053のDC法に準拠する。
膜振動型吸音材3は吸音層以外に、膜振動型吸音材3の吸音特性に影響を及ぼさない他の層を有していてもよい。例えば接着層は、厚さが0.5mm以下であれば膜振動型吸音材3の吸音特性に影響しない。したがって、膜振動型吸音材3は、複数の吸音層の他に、厚さが0.5mm以下の接着剤層を有していてもよい。
本発明において、膜振動型吸音材3を構成している吸音層のうち、最も貯蔵弾性率(E’)が高い吸音層を第1の吸音層といい、最も貯蔵弾性率(E’)が低い吸音層を第2の吸音層とし、第1の吸音層の貯蔵弾性率をE’1、前記第2の吸音層の貯蔵弾性率をE’2とすると、E’1/E’2で表される比は3以上である。該E’1/E’2の値は好ましくは4以上であり、より好ましくは17以上である。E’1とE’2の比が上記範囲であると吸音層を積層することによる周波数領域を低周波数側へシフトさせる効果が得られやすい。
該E’1/E’2の上限値は特に限定されないが1600以下が好ましい。これより大きいと膜振動型吸音材3の耐熱性や強度が不足するおそれがある。
膜振動型吸音材3を構成している第1の吸音層の貯蔵弾性率E’1の範囲は特に制限されないが、例えば1×10〜1×1010Paが好ましく、5×10〜5×10Paがより好ましい。
膜振動型吸音材3を構成する吸音層が2層である場合、第2の吸音層は第1の吸音層に対して表側および裏側(枠体2側)のどちら側に積層してもよい。温度変化に対する耐久性の点からは、枠体2に最も近い吸音層の貯蔵弾性率が、より大きい方が好ましい。
膜振動型吸音材3を構成する吸音層が3層以上である場合の積層順序は、第1の吸音層の表側、裏側(枠体2側)のいずれにおいても、第1の吸音層から外側に向かって、各吸音層の貯蔵弾性率が漸次減少するように構成される。例えば貯蔵弾性率の大小の関係が「第1の吸音層A>第3の吸音層C>第2の吸音層B」である3種の層を用いる場合、積層順序の例としては、BAB(第2の吸音層B上に第1の吸音層Aおよび第2の吸音層Bがこの順に積層されていることを示す、表側と裏側は区別しない、以下同様。)、BAC、CAC、CAB、BCA、BCAB、BCAC、BCACBが挙げられる。
得ようとする吸音体1において、枠体2の貫通孔2aの表面2bにおける開口を第1の吸音層のみで覆った状態で測定した、吸音率のピーク周波数(以下、積層前ピーク周波数ということもある)が700Hz以下であり、かつ該積層前ピーク周波数における吸音率(以下、積層前吸音率ということもある。)が0.5以上であることが好ましい。該積層前ピーク周波数および積層前吸音率の値は、枠体2の厚さ(T)および枠体2の貫通孔の直径(D)が一定であれば、第1の吸音層の貯蔵弾性率(E’1)、第1の吸音層の層厚、第1の吸音層の比重によって変わる。積層前ピーク周波数及び積層前吸音率の値が上記の範囲であると、500Hz以下の低周波数領域に吸音率が0.5以上となる周波数領域が存在するような高度な吸音効果を達成しやすい。積層前ピーク周波数の下限値は特に制限されないが、300Hz以上が好ましい。積層前吸音率の上限は特に制限されず1でもよい。
膜振動型吸音材3を構成する吸音層(第1の吸音層、第2の吸音層、第3の吸音層…)の材質としては、例えば、熱可塑性樹脂を用いることができ、具体的には、EEA(エチレンエチルアクリレート)、EVA(酢酸ビニル共重合体)、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)、HDPE(高密度ポリエチレン)、CPE(塩素化ポリエチレン)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PP(ポリプロピレン)、SEBS(スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体)、SIS(スチレンイソプレンスチレンブロック共重合体),SEPS(スチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PET−G(ポリエチレンテレフタレートグリコール)、アクリル樹脂、ポリメチルペンテン、ポリブテン、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、環状オレフィン、ポリ乳酸、EBM(エチレンブテン共重合体)、エチレン−αオレフィン共重合体、TPU(熱可塑性ポリウレタン)等から選ばれる1種または2種以上の混合樹脂、またはこれらの樹脂をベース樹脂とし、これに無機フィラー及び又は有機フィラーを適宜添加した混合物等が挙げられる。
上記に挙げた樹脂の中でも、以下の組合せが好ましい。(HDPE/LLDPE/EBM)、(HDPE/LLDPE/エチレン−オクテン共重合体)、(PET−G/TPU)、(軟質PVC(可塑剤量40部以上)/半硬質PVC(可塑剤量30部以下))、(PP/EBM)、(PP/エチレン−オクテン共重合体)、(CPE/EEA)、(PP/SEBS)、(HDPE/SEBS)、(HDPE/LLDPE/SIS)、(HDPE+LLDPEブレンド物/SIS)、(ABS/SIS)、(PP/SIS)、(ABS/軟質PVC(可塑剤量40部以上))。
無機フィラーの例としては、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、等が挙げられる。
無機フィラーを配合する場合、その配合量は特に限定されないが機械強度の点からは、吸音層の構成材料中80質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。
有機フィラーの例としては、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール(例えば、製品名:アデカスタブ AO−330、ADEKA社製)、トリス(2,4ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイト(例えば、製品名:Irg168、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)が好ましい。
有機フィラーを配合する場合、その配合量は特に限定されないが、機械強度の点からは、吸音層の構成材料中80質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。
膜振動型吸音材3を構成する吸音層のうち、貯蔵弾性率(E’)が最も高い第1の吸音層が、最も厚いことが好ましい。
第1の吸音層の厚さは、前記積層前ピーク周波数及び積層前吸音率が好ましい値となるように、材料に応じて設定することが好ましい。例えば 0.1〜3.0mmの範囲が好ましく、0.2〜2.0mmがより好ましく、0.3〜1.6mmがさらに好ましい。
第2の吸音層および必要に応じて設けられる第3の吸音層…の厚さは、第1の吸音層の厚さよりも小さいことが好ましく、互いに同じであってもよく異なっていてもよい。例えば0.1〜1.5mmの範囲が好ましく、0.1〜1.0mmがより好ましく、0.1〜0.5mmがさらに好ましい。
膜振動型吸音材3を構成する吸音層の各層の厚さの合計は、0.2〜4.5mmの範囲が好ましく、0.3〜3.0mmがより好ましく、0.4〜2.1mmがさらに好ましい。該厚さの合計が上記範囲より大きいと、製品重量が増加して好ましくない。
膜振動型吸音材3は、これを構成する複数の吸音層を一体化することにより形成できる。一体化の方法は、接着剤層を介して接着一体化してもよく、熱融着でもよい。具体的には多層押出成形により複数の吸音層を備えた積層体を成形してもよく、各層をそれぞれ成形した後に接着剤を用いたドライラミネート法で積層一体化してもよい。接着剤層の厚さは0.1mm以下であればよく、充分な接着強度が得られる厚さとする。
枠体2に膜振動型吸音材3を固定する手段としては、接着剤、両面テープ等の接着または粘着手段を用いてもよく、圧着、溶融圧着により固定してもよい。枠体2と膜振動型吸音材3との間に接着剤層または粘着剤層を設ける場合、該接着剤層または粘着剤層の厚さは0.08mm以下であればよく、充分な固定強度が得られる厚さとする。
さらに膜振動型吸音材3の表面上(枠体2側とは反対側)に、他の吸音層(図示せず)を積層してもよい。該他の吸音層は、膜振動以外の吸音作用により吸音効果を生じる層である。具体的に該他の吸音層は、流れ抵抗が1×10N・s/mより小さい層からなる。
かかる他の吸音層の材質は、従来の吸音材として公知の材料から、上記流れ抵抗の範囲を満たすものを適宜使用できる。具体例としては、発泡樹脂、フェルト、繊維材料、グラスウール、ロックウール、木粉セメント等が挙げられる。特に発泡樹脂、フェルト、繊維材料、グラスウールが好ましい。
このように他の吸音層を積層することにより、吸音体1全体として、吸音効果が得られる周波数領域をより広くすることができる。例えば、膜振動型吸音材3により吸音効果が得られる周波数領域よりも、高周波数領域において吸音効果を奏する他の吸音層を膜振動型吸音材3上に積層して設けると、両方の周波数領域において吸音効果が得られる。
本発明によれば、後述の実施例に示されるように、積層前ピーク周波数が所望のピーク周波数よりも高周波数側にある吸音層に、該吸音層よりも貯蔵弾性率が低い吸音層を積層一体化することによって、ピーク周波数を低周波数側へシフトさせることができる。また、そのシフト量は、積層する各層の材料を混合して1層の吸音層とした場合よりも大きい。このように特定の条件を満たす吸音層を積層することにより、ピーク周波数を低周波数側へ充分にシフトできることは知られておらず、驚くべき知見である。
また特に、膜振動型吸音材3を構成している吸音層のうち、最も貯蔵弾性率(E’)が低い第2の吸音層の損失正接(tanδ2)の値が小さいと、積層構造とすることによるピーク周波数の低周波数側へのシフト量が大きくなりやすく、ピーク周波数における吸音率の低下が小さいのに対して、該tanδ2の値が大きいと、積層構造とすることによるピーク周波数の低周波数側へのシフト量が小さくなりやすく、周波数を横軸、吸音率を縦軸とするグラフにおいてピーク形状がブロード化しやすい傾向があることも見出した。ピーク形状がブロード化すると、ピーク周波数における吸音率が低下する場合があるが、平均吸音率が増大し、良好な吸音が生じる周波数の範囲が広くなる。
具体的には、tanδ2の値が0.3未満であると、本発明にかかる積層構造とすることにより、ピーク周波数における吸音率の低下を抑えつつ、ピーク周波数が低周波数側へ充分にシフトした吸音特性が得られやすい。一方、該tanδ2の値が0.3以上であると、積層構造とすることによりピーク周波数が低周波数側へシフトするとともに、平均吸音率が増大した吸音特性が得られやすい。
したがって、本発明によれば、従来は達成することが難しかった、薄い膜振動型吸音材3で低周波領域における高度な吸音効果を得ることができる。例えば、図1の例において、膜振動型吸音材3の厚さと枠体2の厚さ(T)との合計が55mm以下、好ましくは25mm以下でありながら、500Hz以下、好ましくは460Hz以下、より好ましくは440Hz以下の低周波領域において、吸音率が0.5以上となる高度な吸音効果を達成できる吸音体が得られる。また、単一の吸音層からなる吸音体に比べて、比較的安価な材料からなる吸音層を組み合わせることができるため、低周波領域における吸音効果が高い吸音体を低コストで提供することができる。
なお、図1の実施形態においては枠体2の厚さが均一であるが、これが均一でなくてもよい。すなわち図1の例では膜振動型吸音材3と施工面4は平行であるが、施工面4に対して膜振動型吸音材3が傾斜していてもよい。
また本発明の吸音体は、貫通孔を有する枠体と、該貫通孔の一方の開口を覆う吸音材を備えた構成であればよく、図1に示す形態に限らず、各種の構成とすることができる。例えば図2に示すように、板状の枠体22に複数の貫通孔22aが設けられており、該枠体22の一面上に、該複数の貫通孔22aを一括的に覆うように膜振動型吸音材23が積層、固定された構成を有する吸音体21であってもよい。図2は吸音体21を枠体22側から見た斜視図である。このように、枠体22に複数の貫通孔22aが設けられている場合、該複数の貫通孔22aの形状および大きさは均一でもよく、異なっていてもよい。
また該複数の貫通孔22aの配置は任意であるが、隣り合う貫通孔22aどうしの距離dが小さいほど吸音体21における吸音の効率が高くなる。
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
以下の例において、吸音層の材料として表1に示すものを用いた。各材料の貯蔵弾性率E’(単位:Pa)および損失正接(tanδ)の値を表1に示す。
また各吸音層の厚さの値は、サンプルをミクロトームにて冷凍破断して、断面を観察して測定した。
なお、以下の例で用いた各吸音層の流れ抵抗はいずれも1×10N・s/m以上であることを確認した。
Figure 0005080877
(実施例1)
表2に示す積層順序で吸音層を積層一体化して膜振動型吸音材3を作製した。すなわちEBMからなる厚さ0.2mmの吸音層上に、HDPEからなる厚さ0.5mmの吸音層を積層し、その上にLLDPEからなる厚さ0.1mmの吸音層を積層して一体化した。吸音層どうしの一体化は接着剤を使用せず、140℃熱プレスにて積層品を作製した。表中の「EBM:0.2」はEBMからなる層の厚さが0.2mmであることを示す(以下、同様。)
得られた膜振動型吸音材3を用いて図1に示す構成の吸音体1を作製した。膜振動型吸音材3の向きは、LLDPEからなる吸音層が枠体側となるように配した。枠体2の材質はアクリル樹脂であり、貫通孔2aは円形とした。枠体の厚さTは9mm、貫通孔2aの直径Dは90mmとした。
作製した吸音体1について吸音率を測定し、ピーク周波数(表中、吸音周波数と記載する。)、該ピーク周波数における吸音率の値(表中、吸音率と記載する。)、およびピーク周波数±50Hzの周波数領域における吸音率の平均値(表中、平均吸音率と記載する。)を求めた。その結果を表2に示す。
これとは別に、実施例1で用いた枠体2に、膜振動型吸音材3の代わりに、HDPEからなる厚さ0.5mmの吸音層のみを固定した状態で吸音率を測定し、積層前ピーク周波数(吸音周波数)と該積層前ピーク周波数における積層前吸音率および平均吸音率を求めた。その結果を表2に示す。
(実施例2、比較例1)
実施例1において、吸音層の積層順序を表2に示すとおりに変更したほかは、実施例1と同様にして吸音体1を作製し、吸音率を測定した。その結果を表2に示す。
(参考例1)
実施例1において、積層体(膜振動型吸音材3)を構成する3層の吸音層の材料を混合した混合樹脂からなる、厚さ0.8mmの層を膜振動型吸音材3とした。該3層の吸音層の材料の混合割合は、該混合樹脂中における各材料の含有割合(質量基準)が、該3層の積層体(膜振動型吸音材3)における各材料の存在割合(質量基準)と一致するように設定した。
その他は実施例1と同様にして吸音体1を作製し、吸音率を測定した。その結果を表2に示す。
Figure 0005080877
図3は実施例1、2、比較例1、参考例1で得られた吸音体について、吸音率を測定して得られた周波数と吸音率の関係を示すグラフである。
表2およびグラフに示されるように、実施例1,2は、積層前に比べてピーク周波数が低周波数側にシフトしており、該ピーク周波数における吸音率の低下は少ない。
3層の材料を混合して1層の吸音層とした参考例1では、剛性の低い材料をブレンドすることにより、ピーク周波数は低周波数側にシフトしているが、そのシフト量は充分ではない。
更に、貯蔵弾性率E’が3層のうちで最も低いEBM層をHDPE層とLLDPE層の間に配置した比較例1では、積層前に比べてピーク周波数は低周波数側にシフトしているものの、そのシフト量は参考例1よりも小さい。
(実施例3〜14)
表3〜10に示す積層順序で、実施例1と同様にして吸音層を積層一体化して膜振動型吸音材3を作製し、これを用いて吸音体1を作製した。表の積層順序の欄において「‐」は間に層が無いことを表している。例えば実施例3、5等において積層体(膜振動型吸音材3)は2層の積層体からなっている。
作製した吸音体1について、実施例1と同様にして吸音率を測定した結果を表3〜10に示す。
また実施例1と同様にして積層前ピーク周波数(吸音周波数)と該積層前ピーク周波数における積層前吸音率および平均吸音率を求めた。その結果を表3〜10に示す。
(参考例2〜5)
参考例2は、実施例7において、積層体(膜振動型吸音材3)を構成する2層の吸音層の材料を混合した混合樹脂からなる、厚さ0.8mmの層を膜振動型吸音材3とした。
参考例3は、実施例11において、積層体(膜振動型吸音材3)を構成する3層の吸音層の材料を混合した混合樹脂からなる、厚さ0.8mmの層を膜振動型吸音材3とした。
参考例4は、実施例13において、積層体(膜振動型吸音材3)を構成する2層の吸音層の材料を混合した混合樹脂からなる、厚さ0.6mmの層を膜振動型吸音材3とした。
参考例5は、実施例16において、積層体(膜振動型吸音材3)を構成する2層の吸音層の材料を混合した混合樹脂からなる、厚さ0.7mmの層を膜振動型吸音材3とした。
該2層または3層の吸音層の材料の混合割合は、該混合樹脂中における各材料の含有割合(質量基準)が、該2層または3層の積層体(膜振動型吸音材3)における各材料の存在割合(質量基準)と一致するように設定した。
その他は実施例1と同様にして吸音体1を作製し、吸音率を測定した。その結果を表に示す。
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表3〜10に示されるように、いずれの実施例においても積層前に比べて吸音周波数(ピーク周波数)が低周波数側にシフトした。また、参考例2〜5とそれぞれに対応する実施例とを比較すると、実施例の方が吸音周波数が低い。
また、特にtanδ2が1以上と非常に高い実施例15では、積層前に比べて吸音周波数は低周波数側へシフトしたものの、そのシフト量は他の実施例と比べると少なく、他の実施例と比べて積層による吸音率の低下が見られるが、ピークがブロード化して平均吸音率が大きく向上した。
実施例15以外の実施例では、ピーク周波数における吸音率は積層前とほぼ同等であった。
なお上記各実施例および比較例において、膜振動型吸音材3の向きを逆向き、すなわち表面側と枠体側とを入れ替えても吸音率の測定結果は同じであった。
本発明の吸音体は、例えば、壁、床などの建材、自動車用の吸音材、電気製品の吸音材など、広い範囲に適用できる。
本発明の吸音体の一実施形態を示すもので(a)は平面図、(b)は(a)中のB−B線に沿う断面図である。 本発明の吸音体の他の実施形態を示す斜視図である。 実施例にかかる吸音率測定結果の例を示すグラフである。 従来の吸音材料における吸音特性を示すグラフである。
符号の説明
1、21…吸音体、
2、22…枠体、
2a、22a…貫通孔、
3、23…吸音材、
5…背後空気層。

Claims (2)

  1. 貫通孔が形成された枠体と、該貫通孔の一方の開口を覆う膜振動型吸音材を有する吸音体であって、
    前記膜振動型吸音材が、複数の吸音層が一体化された積層体からなり、該複数の吸音層のうち最も貯蔵弾性率が高い吸音層を第1の吸音層、最も貯蔵弾性率が低い吸音層を第2の吸音層とし、前記第1の吸音層の貯蔵弾性率をE’1、前記第2の吸音層の貯蔵弾性率をE’2とするとき、(E’1/E’2)≧3であり、かつ前記積層体において第1の吸音層から外側に向かって、各吸音層の貯蔵弾性率が漸次減少していることを特徴とする吸音体。
  2. 前記枠体の貫通孔の一方の開口を前記第1の吸音層のみで覆った場合の、吸音率のピーク周波数が700Hz以下であり、かつ該ピーク周波数における吸音率が0.5以上であることを特徴とする請求項1記載の吸音体。
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