JP4450935B2 - 皮革様シート基体およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、スエード調あるいはスムース調の皮革様シートの基体として用いられるシート及びその製造方法に関する。さらに詳しくは外観、風合いが良好で濃発色性、機械的物性に優れ、更に加工性に優れた皮革様シート基体およびその製造方法ならびにそれに用いられる顔料含有ポリアミド系海島型繊維に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、ポリアミドを極細繊維成分とする不織布と弾性ポリマーからなる皮革様シートは、ポリエステルを極細繊維成分とする不織布からなるものまたは通常繊度の繊維の不織布からなるものに比較して、より柔軟で折れシボ感に優れるなど天然皮革に類似した風合いをもつ素材として高く評価されてきた。この様なポリアミドを極細繊維成分とした皮革様シートを製造する方法としては、海島型または分割型のポリアミド極細繊維発生型繊維の不織布に弾性ポリマーを含浸する前または含浸した後に、溶剤または薬品などで処理して繊維成分の1成分を溶解または分解除去してポリアミド極細繊維と弾性ポリマーからなる繊維質シートとする方法が広く行われてきた。
【0003】
一般に、極細繊維は通常繊度の繊維に比較して染色性が劣るため、極細繊維からなるスエード素材などを染色し、濃色の色目を出そうとした場合には大量の染料を必要とし、耐光堅牢度、染色堅牢度等の品質面、およびコスト面などの問題がある。これらに対する対策として、極細繊維成分に顔料を添加する方法、いわゆる原料着色(原着と言う)と称される方法により、耐光堅牢度、染色堅牢度等の品質を向上しようとすることも多数提案されている。
【0004】
例えば島成分のポリエチレンテレフタレートにカーボンブラックを1%添加した海島型複合繊維が特公昭48−11925号公報に、また赤色顔料を5%添加した6−ナイロンを島成分とする混合紡糸繊維が特公昭55−504号公報に、カーボンブラックを5%添加した6−ナイロンを島成分とする混合紡糸繊維が特公昭59−12785号公報に、カーボンブラックを主成分とする顔料を5%添加して重合したポリエステルとポリアミドがサイドバイサイドに並んだ多層中空貼り合せ繊維が特公昭59−44416号公報にそれぞれ提案されている。
しかしながら、0.1デシテックス以下のポリアミド極細繊維の発色を充分にさせるためには、顔料を3〜10%添加しなければならず、顔料の添加による溶融粘度の上昇のため、紡糸時の糸切れ、孔詰まり、フィルター詰まりなどによる紡糸性の悪化、繊維物性の低下を余儀なくされ、濃色化と機械的物性の両立した皮革様シート基体とはならなかった。
【0005】
また、これらの紡糸性および繊維物性の改良として、特公昭54−37997号公報にポリアミドの重合時にカーボンブラックを添加しさらに分散剤を添加する方法が、また特開平4―50265号公報に液状ポリエステルを顔料の分散剤として用いたポリアミド原着用液状顔料を添加する方法が、また特開平4−352814号公報にはポリアミド樹脂の減粘効果をもつ化合物の添加が、また特開平8―157713号公報には、ポリアミド原着用マスターバッチにおいて、該ポリアミド樹脂に酸変性ポリオレフィン、酸変性ポリエステルの微粉末を分散させる方法がそれぞれ提案されている。
しかしこれらの分散剤、減粘剤を含有するマスターバッチを用いたのでは、ポリアミドの溶融紡糸時に分散剤の分解、増粘による凝集、相分離また減粘剤の発泡、相分離が生じ、紡糸口金からのベンディングや断糸が生じ、特に濃色化のため着色剤含有率を1%/原着糸重量以上にするとこの傾向が益々顕著になり、このことがポリアミド原着糸の生産性と繊維物性を阻害する大きな原因となり、濃色化と機械的物性を兼ね備えた皮革様シート基体とはならなかった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来技術の問題点を解消し、ポリアミド原着糸の製造に際し、高濃度で着色剤を含有しても、溶融紡糸時にベンディングや断糸が実質的に発生せず、製糸時の工程安定性と繊維物性に優れた着色ポリアミド系極細繊維発生型繊維を提供し、またそれを用いた濃色化と機械的物性を兼ね備えた皮革様シート基体を提供しようとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、島成分がポリアミド樹脂とカーボンブラックのみからなり、海成分がポリエチレンからなる単繊度1〜12デシテックスのポリアミド系海島型繊維において、島の繊度が0.1デシテックス以下であり、該ポリアミド中にカーボンブラックを4〜10重量%含有しており、かつ該カーボンブラックを含有した状態でのポリアミドのメルトフローレートが3〜7であり、ポリエチレンを抽出した後の極細ポリアミド繊維集束体の強度が3.6cN/dtex以上であることを特徴とするカーボンブラック含有ポリアミド系海島型繊維により上記目的が達成されることを見出した。
【0008】
またこのようなカーボンブラック含有ポリアミド系海島型繊維は、数平均分子量11000〜20000の無着色ポリアミド(Aa)および同範囲の数平均分子量を有しカーボンブラックを含有した原着用ポリアミドマスターバッチ(Ab)、ならびにポリエチレン(B)からなり、下記(1)、(2)式を同時に満足する混合物を溶融紡糸延伸することにより得られる。
(1)MFR・Aa=3〜35、 MFR・Ab=0.2〜3
(2)0.08≦WAb/WAa≦以下1ただし上記式中、MFR・AaとMFR・AbはそれぞれAaのメルトフローレートとAbのメルトフローレートを意味する。ただしメルトフローレートはいずれもオリフィス口径:2mmφ、荷重:325gで測定した紡糸温度における値である。またWAaおよびWAbはそれぞれ上記混合物中のAa、Abの重量を意味する。
【0009】
さらに、このようなカーボンブラック含有ポリアミド系海島型繊維からポリエチレンを除去して得られる顔料含有ポリアミド極細繊維からなる絡合不織布と該不織布に付与された弾性重合体からなる皮革様シート基体は上記したような優れた性能を有する。そして、このような皮革様シート基体は、下記(1)〜(3)の工程を順次行うことにより製造される。
(1)上記のカーボンブラック含有ポリアミド系海島型繊維を主体に構成された繊維絡合不織布を製造する工程
(2)該繊維絡合不織布に弾性重合体を付与する工程
(3)該繊維中のポリエチレン成分を除去する工程
そして、本発明において、上記顔料としてはカーボンブラックがもっとも適している。
【0010】
顔料を添加したポリアミドを島成分にして海島繊維を形成し、その後に海成分を除去して着色されたポリアミド系極細繊維を得る方法は公知である。このような紡糸方法においては、一般に顔料の添加量が低い条件に限定され、目的の濃発色性が得られなかったり、また顔料の添加により溶融粘度が上昇し顔料の分散性が悪くなり、それによるフイルター詰まり、ノズル孔詰まり等による紡糸性の悪化により工業的に安定的に紡糸できる時間が短く、また得られる繊維の性能が人工皮革体として不充分である等の欠点を有している。
本発明では、顔料を含有した状態でのポリアミドのMFRを本発明の特定の範囲において混練して用いることに大きな特徴がある。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明におけるMFRは、JIS−K7210に準じて、メルトインデクサーを用い2mmφの口径で325gの荷重をかけたときの紡糸温度における10分あたりの吐出重量である。
目的量の顔料を混練された状態でのポリアミドの紡糸温度におけるMFRは3〜7の範囲になければならない。さらに好ましくは4〜6の範囲である。MFRが3未満の場合(溶融粘度が高い)には、顔料の分散が充分行われず、分散性が悪くなり、それによるフイルター詰まり、ノズル孔詰まり等による紡糸性の悪化、また得られる繊維の性能が人工皮革として不充分なものとなる。またMFRが7を超える場合(溶融粘度が低い)には、ポリアミドの紡糸時の流動性が大きく、押し出し機で混練中は顔料の分散性は良いが、配管移送中、ノズルパック内等の混練部のない箇所で均一な分散を維持することができなく、顔料粒子の再凝集がおこり、それによるフイルター詰まり、ノズル孔詰まり等による紡糸性の悪化、また得られる繊維の性能が人工皮革として不充分なものとなる
【0012】
染料による極細繊維の濃色化の染色法の問題点を解決する一手段として顔料を用いてポリアミドを着色する方法が知られている。この方法の具体的方法としてポリアミドの重合時に顔料を添加する方法があるが、ポリアミドの生成原料には塩ないしはアミノ酸のようなイオン性物質が存在し、またラクタム化合物でもその重合過程でアミノ酸を生成し、これらのイオン物質が顔料の凝集を促進し、顔料粒子を均一に分散しての重合過程において凝集しやすく均一な分散状態ととなり難い。この方法は、ポリアミド重合と同時に原着ペレットが出来上がりプロセス的には簡単な方法であるが、重合設備ラインの洗浄に多大の労力を伴うデメリットを有する。
そこで本発明では、ポリアミドの未着色ペレットと顔料をエクストルーダーなどのコンパクトな設備を用いてポリアミドの溶融状態で混練した後ペレット化したマスターバッチを使用することが好ましい。
【0013】
マスターバッチに使用する着色剤としては、アゾ系、フタロシアニン系、ペリレン系、アンスラキノン系などの有機顔料系、カーボンブラック、ベンガラ、酸化チタン、群青などの無機顔料を挙げることができる。しかし極細繊維を工業的に得る最も有力な方法として、本発明のごとく可細化繊維を用いて、その一成分を除去もしくは剥離させる手段が知られているが、一般的にそのような可細化処理工程では有機溶剤を使用するため有機顔料系は顔料の一部が溶剤中に溶け出す欠点があるので、無機顔料系が適しているが、本発明の0.1デシテックス以下の極細繊維では無機顔料系のなかで粒子径の小さいカーボンブラックが紡糸の糸切れ、繊維物性の安定性の点で最適である。
カーボンブラックには、チャンネルブラック、フアーネスブラック、サマールブラックなどがあるが、本発明で使用するカーボンブラックはそれ自体の種類を何ら限定するものではないが、その粒子径が15〜35nmが好ましい。粒子径が小さすぎるとかえって粒子が凝集し粗大粒子となり、また大きすぎると分散性が悪く、紡糸時のフイルター詰まりをおこしノズル交換の周期が短くなったり、糸切れやケバの発性、繊維物性の低下の原因となる。より好ましくは、20〜25nmである。
【0014】
本発明で用いられるポリアミドは、ナイロン−6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン−10、またはこれらの共重合ポリアミド類から選ぶことができる。本発明のポリアミドとしては、特にナイロン−6またはナイロン−66がポリエチレンとの取り扱い性、溶融特性などの点で好ましい。
またマスターバッチのポリアミドとしては、着色されるポリアミドと融点がほぼ同一で同類のポリアミドが顔料の分散安定性の点で好ましい。
また使用するポリアミドの数平均分子量は、11000〜20000の範囲が好ましい。数平均分子量が11000より小さい場合、繊維物性が不足し人工皮革として使用不可能なものとなる。また20000より大きい場合、紡糸、延伸時の延糸性が悪くなり糸切れ、毛羽立ちが生じ易くなる。また目的とする極細の繊度が得られにくいものとなる。
【0015】
本発明のポリアミド原着用マスターバッチにおけるカーボンブラック含有量は、ポリアミド樹脂に対して10〜40重量%が好ましく、より好ましくは15〜25重量%である。カーボンブラックの含有量が低い場合、高濃度の原着繊維を得るために多量のマスターバッチを使用しなければならずコスト面で不利である。また40重量%より高い場合には、溶融押出し機中のカーボンブラックの分散性が不均一となり易く、紡糸断糸の増加を招き紡糸工程性の劣るものとなり、また得られた極細繊維も物性の劣ったものとなる。
【0016】
本発明で使用するポリアミド系極細繊維の繊度は0.1デシテックス以下である。通常濃色品を得ようとする場合、繊度を太くして発色性を向上させるといった手法が取られるが、その場合得られる皮革様シートは風合が硬く、スエードに仕上げた場合表面のタッチの劣ったものとなる。繊度が0.1デシテックスより大きくなるとこの傾向が顕著となる。
【0017】
一般に0.1デシテックス以下の極細繊維に含有されるカーボンブラックの量は、紡糸性、得られる糸の物性の点から3重量%未満である。しかし含有量が3重量%未満の場合には、使用染料低減効果は小さく、濃色へ染色する際、多量の染料を要し、耐光堅牢度、染色堅牢度およびコストの面で実用に供することは出来ない。また、含有量が10重量%を越える場合には、紡糸中にカーボンブラックの分散不良あるいは再凝集が生じ、紡糸断糸回数の増加が顕著になる。また得られた繊維は物性の劣ったものとなり、人工皮革用基体に供することの出来ないものとなる。
本発明においては、ポリアミドおよび顔料を含有した原着用ポリアミドマスターバッチをMFR、組成比を前記範囲で使用し、カーボンブラックを含有した状態でのポリアミド極細繊維のMFRを3〜7にすることで、良好な紡糸性を保ったまま顔料を3〜10重量%の高濃度含有した人工皮革用基体に使用できる物性を有する0.1デシテックス以下の極細繊維を得ることを特徴とする。
【0018】
本発明においては、顔料を含有した状態でのポリアミド極細繊維のMFRを3〜7にするためには、MFRが3〜35の無着色ポリアミドとMFRが0.2〜3であり顔料を含有した原着用ポリアミドマスターバッチを組み合わせることによって得られる。無着色ポリアミドのMFRが3未満の場合には、ポリアミド全体の溶融粘度が高過ぎ、紡糸時、顔料の分散、移行が充分に行なわれない。逆に35を越える場合には、ポリアミド全体の溶融粘度が低く配管移送中等混練の無い箇所で均一な分散を維持できなくなり、顔料の再凝集が発生し、いずれにしても、それによるフィルター詰まり、ノズル孔詰まり等による紡糸性の悪化を招く。また得られる繊維の性能も人工皮革として不充分なものとなる。顔料を含有した原着用ポリアミドマスターバッチについては、MFRが0.2未満の場合も、紡糸時の溶融混連中の際、顔料が未着色ポリアミド全体に分散しずらいものとなり、紡糸性の悪化を招く。また、マスターバッチ中の顔料の濃度を低くしたり、低分子量のポリアミドを使用してマスターバッチのMFRを3を越えるようににし、顔料の分散性を向上させることが試みられているが、前述のごとく、マスターバッチ中の顔料濃度を低くするとマスターバッチの必要量が必然的に増え、生産性の低下、コストの増加に加え紡糸時の分散性の悪化から紡糸性不良を招く。また11000未満の数平均分子量のポリアミドをマスターバッチに使用することは、物性の劣った繊維が得られ、人工皮革基体として使用出来ない。なお本発明で言う無着色ポリアミドとは、着色剤を全く含まないポリアミドはもちろんのこと、本発明を損なわない範囲内で少量の着色剤を含んでいる場合も包含している。
【0019】
本発明における繊維中の無着色ポリアミドと原着用ポリアミドマスターバッチの重量比(WAb/WAa)は0.08≦WAb/WAa≦1の範囲が好ましい。
この重量比が0.08未満の場合には、繊維中の顔料濃度を3〜10重量%にしようとすると、マスターバッチ中の顔料の濃度は40重量%を越えるものとなり、前述のように顔料の分散、移行性を悪くし、また、1よりも大きい場合は、未着色ポリアミドが少ないため、かえって顔料の移行性を悪化させる。いずれも前述したように、紡糸時の顔料の分散性の不良から紡糸性不良および糸物性の低下を招く。
【0020】
また本発明で用いられるポリエチレンとしては、通常工業的に利用されているポリエチレンがいずれも使用でき、密度0.910〜0.925g/cm3の低密度ポリエチレン、同じく密度0.926〜0.940g/cm3の中密度ポリエチレン、同じく密度0.941〜0.965g/cm3の高密度ポリエチレンのいずれであってもよい。中でも炭素数が4〜8の α−オレフインとエチレンを共重合させることによって得られる直鎖状低密度ポリエチレンとして市販されているものは、その取り扱い性、溶融特性、紡糸性、温水用中延伸性、溶解除去性の観点からとくに好ましい。またかかるポリエチレンの紡糸時のMFRは20〜100の範囲にあるのが好ましい。
【0021】
本発明における紡糸形態はポリアミド成分が島、ポリエチレン成分が海の海島型繊維を形成するものなら溶融混合紡糸、複合紡糸いずれでも良い。紡糸温度は240〜290℃、未延伸糸の捲取速度は200〜800m/分が好ましい。得られた未延伸糸はその後に延伸され、太さが1〜12デシテックスの海島型繊維とする。延伸温度は、50〜95℃、延伸倍率は2〜5倍が好ましい。さらに得られた延伸糸は捲縮の後、一般的に15〜80mmにカットされる。
【0022】
上記のごとくしてポリアミド成分が島、ポリエチレン成分が海の海島型繊維のカットファイバーを得て、さらに人工皮革基体とするために以下の工程を順次実施する。
(1)カットファイバーを用いて絡合不織布を製造する工程、
(2)不織布に弾性重合体を付与する工程、
(3)繊維からポリエチレンを溶解除去する工程、
【0023】
まず該海島型繊維をカードで開繊し、ウェッバーを通してランダムウェッブまたはクロスラップウェッブを形成し、得られた繊維ウェッブを所望の重さおよび厚さに積層する。かかるポリアミド系海島型繊維は単独で、又はそれ以外の繊維、例えば通常の太さを有する非海島型繊維(単繊維繊度が0.5〜2.0デシテックス)と目的にあわせて混合してもよい。
次いで、ウェッブを公知の方法でニードルパンチ処理し不織布とする。ニードルパンチした繊維絡合不織布を加熱、プレスして所望の厚さに調整する。次いで該不織布に弾性重合体組成液を含浸する。含浸する弾性重合体としては従来から人工皮革基体の製造に用いられている樹脂が好適に用いられる。例えばポリウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニール樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、ポリアミノ酸系樹脂、シリコン系樹脂およびこれらの共重合、これらの混合物が使用出来るが、凝固により均一なスポンジ構造が得られる点、機械的物性が優れているなどの点からポリウレタン系樹脂が好適に使用される。弾性重合体は弾性重合体を主体として、重合体に着色剤、凝固調節剤、安定剤、酸化防止剤等を配合し、有機溶剤溶液または水系エマルジョン液として使用する。
【0024】
該弾性重合体組成液を含浸した繊維絡合不織布を次いで該重合体の非溶剤で処理して弾性重合体を凝固させ、必要に応じて洗浄し、乾燥して繊維質基体とする。繊維質基体に占める弾性重合体の量は固形分として10〜60重量%が好適である。この弾性重合体の量はそれぞれの用途に応じて使い分ければよく、例えばスエード調に仕上げる場合には10から40重量%が好適な範囲であり、銀付きの人工皮革に仕上げる場合には30から60重量%が好適な範囲である。
【0025】
弾性重合体を含浸凝固させた繊維質基体を、繊維中のポリアミド及び弾性重合体の非溶剤であり且つポリエチレンの溶剤である処理液、例えばトルエン、キシレンなどの炭化水素系溶剤、または分解剤で処理することによりポリエチレンを繊維から除去し、ポリアミド極細繊維と弾性重合体とからなる人工皮革基体とする。
該人工皮革基体に、起毛処理、染色、整毛等の仕上処理を施し、スエード調の人工皮革製品とする。また、該人工皮革基体に、グラビア塗布により表面被覆樹脂層を形成し、そしてその表面をエンボス処理することにより、あるいは該人工皮革基体にフィルムを積層する等の処理を施し、エンボス処理することにより、更に、該人工皮革基体の表面を熱エンボスして、樹脂層を形成し、必要によりエンボス処理することにより銀面付きの人工皮革製品とすることもできる。
【0026】
【実施例 】
以下本発明の実施態様を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部、%はすべて重量に関するものである。実施例および比較例において抽出糸物性等の評価は以下の方法によった。
【0027】
[抽出糸物性]
実施例1に記述の紡糸、延伸後の繊維を繊維束のまま枠に固定して繊維からポリエチレンをトルエンで80℃で抽出し、乾燥した後、引張試験機でチャック間距離10cm、引張速度100mm/minでの破断強度、伸度を測定した。
【0028】
実施例1
数平均分子量13000、MFR=17のナイロン−6を80部に一次粒子径20nmのカーボンブラックを20部加え溶融押出し機にて溶融混合し、得られたストランドを水冷後カッティングし原着用ポリアミドマスターバッチを得た。この原着用ポリアミドマスターバッチのMFRを測定したところ0.5であった。
該原着用ポリアミドマスターバッチ20部と、数平均分子量13000でMFR=17のナイロン−6チップ30部と、MFR=40の直鎖状低密度ポリエチレンチップ50部をチップブレンダーで混合し、全ポリアミド:カーボンブラック=92:8の割合であるナイロン−6、原着用ポリアミドマスターバッチおよび直鎖状低密度ポリエチレンチップからなる混合物を得た。
この混合物を、紡糸孔数24個の通常の溶融紡糸装置に導入し、紡糸温度290℃で紡糸し、ナイロン−6が島でポリエチレンが海となっている単繊維デニールが11デシテックスの未延伸糸を得た。断糸回数は24時間紡糸し0回であり紡糸性は良好であった。この未延伸糸を、延伸温度80℃.延伸速度50m/分で3.0倍に延伸して、単繊維デシテックスが3.7デシテックスの混合紡糸繊維の延伸糸を得た。
【0029】
この混合紡糸繊維の延伸糸を80℃のトルエン中に30分間浸漬し、ポリエチレンを実質的に全部抽出したところ、カーボンブラックを8%含有している平均繊度0.006デシテックスの極細ポリアミド繊維の集束体からなる糸条が得られた。得られた極細ポリアミド繊維のMFRは4.2であった。また極細ポリアミド繊維の物性は、破断強度が3.6cN/dTex、伸度が56%であり、十分人工皮革として使用できる強度を有していた。
【0030】
次いで、この混合紡糸繊維の延伸糸を捲縮、カットし、カット長さ51mmのステープルを得た。このステープルをカージングし、重ね合わせてニードルパンチして目付500g/m2の不織布を作製した。この不織布にポリエーテル系ポリウレタンの15%ジメチルホルムアミド溶液を含浸し、ジメチルホルムアミド水溶液により湿式凝固し、水洗した後85℃トルエンにより海成分のポリエチレンを抽出除去し、目付450g/m2、厚み0.9mmの人工皮革基体を得た。
得られた人工皮革基体の片面をサンドペーパーでバフィングし立毛処理した後、含金属錯塩染料Irgalan Black 2RL(Chiba Geigy)6owf%にて染色し、揉みおよびブラシがけ処理をしスエード調人工皮革に仕上げた。
得られたスエード調人工皮革は均一な表面を有し十分な黒色に着色されていた。また引裂強力が高く、風合いが柔らかいものであった。
【0031】
実施例2
実施例1と同様の方法で、数平均分子量15000、MFR=10のナイロン−6チップ40部と実施例1で得られた原着用ポリアミドマスターバッチ10部およびMFR=40の直鎖状低密度ポリエチレンチップ50部をチップブレンダーで混合し、全ポリアミド:カーボンブラック=95:4の割合である、ナイロン−6、原着用ポリアミドマスターバッチおよび直鎖状低密度ポリエチレンチップからなる混合物を得た。
この混合物を実施例1と同様の方法で処理し、カーボンブラックを4%含有している平均繊度0.006デシテックスの極細ポリアミド繊維の集束体からなる糸条が得られた。紡糸時の断糸回数は0回/24時間であり、紡糸性は良好であった。得られた極細ポリアミド繊維のMFRは5.4であり、極細ポリアミド繊維の物性は破断強度が3.9cN/dTex、伸度が58%であり十分人工皮革として使用できる強度を有していた。
次いで含金錯塩染料Vitanyl Green KG(松浦株式会社)5.5owf%を使用して染色する以外は実施例1と同様の方法でスエード調人工皮革を得た。
得られたスエード調人工皮革は均一な表面および鮮明に緑色に着色されており、引裂強力が高く、風合いが柔らかいものであった。
【0032】
比較例1
実施例1において数平均分子量13000、MFR=17のナイロン−6チップのかわりに数平均分子量20000、MFR=2のナイロン−6チップを使用する以外は実質的に実施例1と同様の方法で、カーボンブラックを8%含有している極細ポリアミド繊維の集体からなる糸条およびスエード調人工皮革を得た。紡糸性は断糸回数が10回以上/24時間で実質的に操業性の無いものであり、極細ポリアミド繊維の繊度も不均一なものであった。得られた極細ポリアミド繊維のMFRは1.5であり、極細ポリアミド繊維の物性は、破断強度が2.4cN/dTex、伸度が36%で人工皮革に使用するには不十分な強度であった。
得られたスエード調人工皮革は実施例1と同じ程度に黒色に着色されていたが、表面がざらついた感触を有しており紡糸欠点に由来する染色斑のあるものであった。また引裂強力が低く、ボキボキとした風合であった。
【0033】
実施例3
数平均分子量15000、MFR=10のナイロン−6チップ75部と実施例1で作製した原着用ポリアミドマスターバッチ25部をチップブレンダーで混合し、ナイロン−6、原着用ポリアミドマスターバッチからなる混合物を得た。
得られた混合物および直鎖状低密度ポリエチレンチップをそれぞれ別々のエクストルーダーを介し紡糸孔数24個の直鎖状低密度ポリエチレンの海に上記のポリアミドとカーボンブラックの混合物が200個の島となるような複合紡糸装置に該ポリアミド−カーボンブラック混合物/直鎖状低密度ポリエチレン=60/40の吐出量の割合になるよう供給し、ナイロン−6が島でポリエチレンが海となっている繊維デニールが11デシテックスの未延伸糸を得た。断糸回数は24時間紡糸し0回であり紡糸性は良好であった。得られた未延伸糸を実施例1と同様の方法で処理し、カーボンブラックを5%含有している平均繊度0.01デシテックスの極細ポリアミド繊維の集体からなる糸条が得られた。得られた極細ポリアミド繊維のMFRは4.8であった。また極細ポリアミド繊維の物性は、破断強度が4.2cN/dTex、伸度が63%であり十分人工皮革として使用できる強度を有していた。
次いでこのポリアミドと直鎖状低密度ポリエチレンの複合繊維の未延伸糸を実施例3と同様の方法で処理し、スエード調の人工皮革を得た。
得られたスエード調人工皮革は、均一な表面および鮮明に緑色に着色されており、引裂強力が高く、風合いが柔らかいものであった。
【0034】
比較例2
実施例3において数平均分子量15000、MFR=10のナイロン−6チップの代りに数平均分子量10000、MFR=37のナイロン6チップを使用する以外は全て同様の手順でカーボンブラックを5%含有している平均繊度0.01デシテックスの極細ポリアミド繊維の集体からなる糸条が得た。紡糸時の断糸回数は10回以上/24時間で実質的に操業性の無いものであった。得られた極細ポリアミド繊維のMFRは12であった。また極細ポリアミド繊維の物性は、破断強度が2.0cN/dTex、伸度が33%であり、人工皮革に使用するには不十分な強度であった。
次いでこのポリアミドと直鎖状低密度ポリエチレンの複合繊維の未延伸糸を実施例3と同様の方法で処理し、スエード調の人工皮革を得た。
得られたスエード調人工皮革は実施例4と同じ程度に緑色に着色されていたが、表面がざらついた感触を有しており紡糸欠点に由来する染色斑のあるものであった。また引裂強力が低く、ボキボキとした風合であった。
【0035】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、ポリアミド原着糸の製造に際し、高濃度で着色剤を含有しても、溶融紡糸時にベンディングや断糸が発生せず、製糸時の工程安定性と繊維物性に優れた着色ポリアミド系極細繊維発生型繊維を得ることができる。またそれを用いた人工皮革は容易に濃色化が可能であり、均一に着色され、機械的物性に優れ、かつ非常に風合いの柔軟なものである。
Claims (4)
- 島成分がポリアミド樹脂とカーボンブラックのみからなり、海成分がポリエチレンからなる単繊度1〜12デシテックスのポリアミド系海島型繊維において、島の繊度が0.1デシテックス以下であり、該ポリアミド中にカーボンブラックを4〜10重量%含有しており、かつ該カーボンブラックを含有した状態でのポリアミドのメルトフローレートが3〜7であり、ポリエチレンを抽出した後の極細ポリアミド繊維集束体の強度が3.6cN/dtex以上であることを特徴とするカーボンブラック含有ポリアミド系海島型繊維。
- 数平均分子量11000〜20000の無着色ポリアミド(Aa)および同範囲の数平均分子量を有しカーボンブラックを含有した原着用ポリアミドマスターバッチ(Ab)、ならびにポリエチレン(B)からなり、下記(1)、(2)式を同時に満足する混合物を溶融紡糸延伸して得ることを特徴とする請求項1記載のカーボンブラック含有ポリアミド系海島型繊維の製造方法。
(1)MFR・Aa=3〜35、 MFR・Ab=0.2〜3
(2)0.08≦WAb/WAa≦1
ただし上記式中、MFR・AaとMFR・AbはそれぞれAaのメルトフローレートとAbのメルトフローレートを意味する。ただしメルトフローレートはいずれもオリフィス口径:2mmφ、荷重:325gで測定した紡糸温度における値である。またWAaおよびWAbはそれぞれ上記混合物中のAa、Abの重量を意味する。 - 請求項1記載のカーボンブラック含有ポリアミド系海島型繊維からポリエチレンを除去して得られるカーボンブラック含有ポリアミド極細繊維からなる絡合不織布と該不織布に付与された弾性重合体からなる皮革様シート基体。
- カーボンブラック含有ポリアミド極細繊維と弾性重合体からなる皮革様シート基体を製造するに際し、下記(1)〜(3)の工程を順次行うことを特徴とする皮革様シート基体の製造方法。
(1)請求項1記載のカーボンブラック含有ポリアミド系海島型繊維を主体に構成された繊維絡合不織布を製造する工程
(2)該繊維絡合不織布に弾性重合体を付与する工程
(3)該繊維中のポリエチレン成分を除去する工程
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