JP4256981B2 - ジヒドロジャスモン酸エステルの製造方法 - Google Patents

ジヒドロジャスモン酸エステルの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はジヒドロジャスモン酸エステルに関し、さらに詳しくは、不純物の含有量を低減せしめたジヒドロジャスモン酸エステルおよびその改良された製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ジヒドロジャスモン酸エステルの植物に対する多様な生理作用が報告されている(ケミカルアブストラクツ誌103巻33499t、107巻91910p)。また最近では、n−プロピルジヒドロジャスモネートの植物生長促進剤としての用途が注目され、その研究開発が進められている(USP5776860、USP5814581)。
【0003】
ところで、近年、殺虫剤や除草剤のような農薬ならびに農薬中の不純物による環境汚染が世界的に問題視されている。それ故、農薬原体を製造する際には、原体化合物の安全性、均一性などの点において、すぐれた品質や純度規格が要求される。また、農薬原体自体の安全性が各種の毒性試験において実証されたとしても、該原体中に一定量以上の不純物が含まれるときは、その不純物についても毒性試験が要求される場合がある。このように農薬原体を工業的に高純度で製造する方法は必要不可欠な状況にある。
【0004】
従来、ジヒドロジャスモン酸エステルは、2−n−ペンチルシクロペンテノンとマロン酸ジメチルとをマイケル付加させた後、脱炭酸させることにより得られるメチルジヒドロジャスモネートを主原料として、対応するアルコールとエステル交換することにより製造されていた。このエステル交換は、ナトリウムメトキシドのメタノール溶液などの塩基性触媒を用いて、副生するメタノールを系外に抜出しながら、110〜130℃で数時間加熱する反応条件が採用されていた。また反応終了後は、粗生成物中に含まれる塩基性触媒を希塩酸で中和処理し、次いで重曹水による逆中和処理を兼ねた洗浄を行い、そして精留することによりジヒドロジャスモン酸エステルが製造されていた。
【0005】
このような従来の方法をn−プロピルジヒドロジャスモネートの製造に適用して得られる生成物を、ガスクロマトグラフィー(以下、GCという。)で分析すると、主原料であるメチルジヒドロジャスモネート中には検出されず、エステル交換反応、中和洗浄工程または精留の段階で副生すると推定される2種類の不純物A(構造未知)と不純物B(構造未知)が、それぞれ0.3重量%以上、0.4重量%以上かならず含まれていた。
また、GC分析によると不純物Aと不純物Bの保持時間(ピーク位置)は、目的物であるn−プロピルジヒドロジャスモネートのトランス体とシス体の中間の値(中間のピーク位置)であった。さらに、GC−質量分析法による推定分子量は、不純物A、Bともに254であり、n−プロピルジヒドロジャスモネートの分子量254と同一であった。
【0006】
このように従来の製造方法においては、前記不純物Aと不純物Bに代表されるような不純物の副生は不可避であった。また、それらは通常の精製手段で除去できず、高純度なジヒドロジャスモン酸エステルを得るのは極めて困難であった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従来技術の上記のような問題点に鑑み、本発明の目的は、不純物の含有量を低減せしめた高純度なジヒドロジャスモン酸エステルとその製造方法を提供するにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、先に述べた社会的な要請を背景として、従来技術がもつ前記課題を解決すべく鋭意検討を加えたところ、特定なプロセスに基づいてエステル交換反応と後処理および蒸留精製を行なうことによって、極めて高純度なジヒドロジャスモン酸エステルが得られることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
かくして、本発明によれば、純度が99.5重量%以上の下記一般式(1)で表わされるジヒドロジャスモン酸エステルであって、含有される不純物のいずれもが0.1重量%未満であるジヒドロジャスモン酸エステルが提供される。
【0010】
【化2】
Figure 0004256981
(一般式(1)のRは、炭素数2〜5の炭化水素基を示す。)
【0011】
そしてまた、本発明によると、メチルジヒドロジャスモネートと炭素数2〜5のアルコールを塩基性触媒の存在下にエステル交換させてジヒドロジャスモン酸エステルを製造する方法において、エステル交換反応を100℃以下で行い、かつ、得られる粗生成物を中和することなく200℃以下で蒸留することを特徴とする前記ジヒドロジャスモン酸エステルの製造方法が提供される。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の前記一般式(1)で表わされるジヒドロジャスモン酸エステルのR基は、炭素数2〜5の炭化水素基である。好ましくは炭素数3〜4であり、より好ましくは炭素数3の炭化水素基である。前記炭化水素基は、飽和体でも不飽和体でもよく、鎖状であっても環状であってもよいが、鎖状の飽和体が好ましい。
【0013】
ジヒドロジャスモン酸エステルの具体例としては、エチルジヒドロジャスモネート、n−プロピルジヒドロジャスモネート、イソプロピルジヒドロジャスモネート、アリルジヒドロジャスモネート、プロパギルジヒドロジャスモネート、n−ブチルジヒドロジャスモネート、イソブチルジヒドロジャスモネート、sec−ブチルジヒドロジャスモネート、t−ブチルジヒドロジャスモネート、シス−2−ブテニルジヒドロジャスモネート、トランス−2−ブテニルジヒドロジャスモネート、2−ブチニルジヒドロジャスモネート、n−ペンチルジヒドロジャスモネート、イソペンチルジヒドロジャスモネート、sec−ペンチルジヒドロジャスモネート、t−ペンチルジヒドロジャスモネート、シクロペンチルジヒドロジャスモネート、シス−2−ペンテニルジヒドロジャスモネート、トランス−2−ペンテニルジヒドロジャスモネート、2−ペンチニルジヒドロジャスモネートなどが挙げられる。
【0014】
好ましくは、n−プロピルジヒドロジャスモネート、イソプロピルジヒドロジャスモネート、n−ブチルジヒドロジャスモネート、イソブチルジヒドロジャスモネート、sec−ブチルジヒドロジャスモネート、t−ブチルジヒドロジャスモネートである。より好ましくは、n−プロピルジヒドロジャスモネート、イソプロピルジヒドロジャスモネートであり、n−プロピルジヒドロジャスモネートが最も好ましい。
なお、これらのジヒドロジャスモン酸エステルは、シクロペンタノン環上に2つの置換基があるため幾何異性体(トランス体とシス体(エピ体))が存在する。
【0015】
本発明のジヒドロジャスモン酸エステルの純度は99.5重量%以上であり、好ましくは99.7重量%以上、さらに好ましくは99.8重量%以上である。この重量基準の純度とは、通常のGC分析(内部標準物質法)により求めた前記トランス体とシス体の合計量を指すが、化学的に信頼性があるその他の分析手段で求めた数値であってもよい。GC分析における内部標準物質としては、n−デカン、n−ドデカンなどの炭化水素が推奨される。
【0016】
本発明のジヒドロジャスモン酸エステルは不純物を含有していてもよいが、含有される不純物のいずれもが0.1重量%未満であることが必須であり、好ましくは0.08重量%未満である。含有される不純物の化学構造は特に限定さず、化学構造が未知のものであってもよい。ジヒドロジャスモン酸エステルがn−プロピルジヒドロジャスモネートである場合の不純物の具体例としては、前記した不純物A、不純物Bのような分子量が同一の異性体と推定される化合物、反応原料であるメチルジヒドロジャスモネート、その原料中に含まれるプロピル−3−ペンチル−4−オキソシクロペンチル−1−アセテート、n−プロピル−3−(2−オキソシクロペンチル)ヘプタノエート、原料または目的物のエステル部が加水分解して副生するジヒドロジャスモネートなどが挙げられる。
【0017】
本発明のジヒドロジャスモン酸エステルの製造方法において用いられる原料のメチルジヒドロジャスモネートは、公知の方法で合成できる。例えば、シクロペンタノンを出発原料として、数工程を経て2位にn−ペンチル基を導入した2−n−ペンチル−2−シクロペンテノンに変換する。次いで、これにマロン酸ジメチルを反応させて得られるマイケル付加体を、水と加熱して脱炭酸することによりメチルジヒドロジャスモネートを得ることができる。
【0018】
原料であるメチルジヒドロジャスモネートの純度は、特に限定されない。しかし、本発明の製造方法を有利に実施するには、メチルジヒドロジャスモネートの純度は、通常99.5重量%以上で含有される不純物のいずれもが0.1重量%未満である。好ましくは99.7重量%以上で含有される不純物のいずれもが0.1重量%未満、より好ましくは99.9重量%以上で、含有される不純物のいずれもが0.05重量%未満である。
【0019】
本発明の製造方法の別の原料である炭素数2〜5のアルコールは、工業的に生産されるものを適宜使用すればよい。アルコールの具体例としては、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、アリルアルコール、プロパギルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、シス−2−ブテノール、トランス−2−ブテノール、2−ブチノール、n−ペンタノール、イソペンタノール、sec−ペンチルアルコール、t−ペンチルアルコール、シクロペンタノール、シス−2−ペンテノール、トランス−2−ペンテノール、2−ペンチノールなどが挙げられる。
【0020】
好ましくは、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコールである。より好ましくは、n−プロパノール、イソプロパノールであり、n−プロパノールが最も好ましい。
【0021】
メチルジヒドロジャスモネートと前記アルコールとのエステル交換反応においては、メチルジヒドロジャスモネート1モルに対して、アルコールを通常1〜6モル、好ましくは2〜5モル、さらに好ましくは3〜4モル使用する。
【0022】
エステル交換反応の触媒としては、通常エステル交換反応の触媒として使用される塩基性触媒であれば特に制限はないが、例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素酸塩;アルカリ金属のアルコラート;塩基性イオン交換樹脂などが使用される。
【0023】
アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどが挙げられる。アルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどが挙げられる。アルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸水素酸塩としては、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウムなどが挙げられる。
【0024】
アルカリ金属のアルコラートの具体例としては、ナトリウムメトキサイド、ナトリウムエトキサイド、ナトリウム−n−プロポキサイド、ナトリウム−n−イソプロポキサイド、ナトリウム−t−ブトキサイド、カリウムメトキサイド、カリウムエトキサイド、カリウム−t−ブトキサイドなどが挙げられるが、エステル交換の副生物の生成を防止する観点からは、ナトリウムメトキサイド、ナトリウム−n−プロポキサイド、カリウムメトキサイドが好ましい。最も好ましいのはナトリウムメトキサイドである。アルカリ金属のアルコラートは粉末で用いても、アルコール溶液として使用してもよい。アルコール溶液で用いる具体例としては、ナトリウムメトキサイドのメタノール溶液、ナトリウム−n−プロポキサイドのn−プロパノール溶液などを挙げることができる。
【0025】
塩基性のイオン交換樹脂としては、ダイヤイオンPAシリーズ(三菱化学製)、アンバーライトIRAシリーズ(オルガノ製)、チバレットMPシリーズ(バイエル社製)などが例示される。
【0026】
これらの塩基性触媒は単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。触媒の使用量は、メチルジヒドロジャスモネートに対し、通常0.01〜10モル%の割合で使用される。好ましくは0.02〜5モル%であり、より好ましくは0.05〜2モル%である。
【0027】
エステル交換反応においては、特に反応溶媒を使用する必要はない。溶媒を使用する場合には、反応を阻害しないものであれば特に制限はないが、炭化水素系溶媒が好ましい。その具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;n−ヘキサン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素が挙げられる。これらの溶媒は、単独で使用しても2種類以上を併用してもよい。また、これらの溶媒の使用量は、メチルジヒドロジャスモネートとn−プロパノールの総重量に対して、通常0〜1000重量%、好ましくは0〜500重量%、さらに好ましくは0〜300重量%である。
【0028】
本発明の製造方法において、エステル交換の反応温度は100℃以下であることが必須である。好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下である。反応は常圧または減圧下で実施できるが、副生するメタノールを系外に抜出しながら反応させるのがエステル交換の促進に有利であることから、減圧下での反応が推奨される。減圧度は、反応温度を100℃以下に保ち、メタノールを効率よく系外に抜出せる減圧度であれば、特に制限はない。また常圧下で反応を開始して、反応途中で減圧してもよい。反応は不活性雰囲気下で行うのが好ましいが、それに限定されない。
エステル交換反応は、上述のような条件下で、通常、30分〜20時間で終了させることができる。
【0029】
本発明の製造方法では、前記エステル交換で得られる粗生成物を中和処理することなく、そのまま蒸留することが必須である。ここで「中和処理」とは、反応粗生成物中に含まれる塩基性触媒を任意の酸で中和することをいう。従って、例えば、塩基性触媒としてイオン交換樹脂を用いた場合に、そのイオン交換樹脂をろ別等で除去する操作は「中和処理」には含まれない。また、粗生成物を水で洗浄する操作なども「中和処理」には含まれない。
【0030】
反応粗生成物の蒸留は、工業的に通常用いられる蒸留装置で実施される。本発明の製造方法では、蒸留中に蒸留釜内の溶液を200℃以下に制御することが必須であり、好ましくは180℃以下である。
この蒸留の温度条件をさらに詳しく述べると、反応粗生成物を単蒸留して過剰量用いたアルコールおよび目的生成物を留出させ、塩基性触媒を蒸留釜内に残す蒸留においては、単蒸留中は蒸留釜内の溶液を必ず200℃以下に制御しなければならない。しかし、こうした単蒸留で得られる塩基性触媒を含まない留出物を再度精留する場合は、必ずしも蒸留釜内の溶液を200℃以下に制御する必要はない。
また、前記のような単蒸留をすることなく、塩基性触媒を含んだ状態で反応粗生成物をそのまま精留する場合は、蒸留釜内の溶液を200℃以下に制御することが必須である。
【0031】
粗生成物を蒸留するときの減圧度は、蒸留釜内の被蒸留物の温度を200℃以下に制御でき、かつ蒸留塔の塔頂から留出物を効率よく抜出せる減圧度であれば特に制限はない。通常、約1.5mmHg以下であり、好ましくは1.0mmHg以下、より好ましくは0.5mmHg以下である。蒸留は窒素ガスなどの不活性雰囲気下で実施することが好ましい。また蒸留釜内の溶液を前記の所定温度に制御し、温度むらを生じさせないために攪拌機を装備した蒸留装置を使用することが推奨される。
【0032】
以上に述べたような製造方法により、純度が99.5重量%以上であり、含有される不純物のいずれもが0.1重量%未満であるジヒドロジャスモン酸エステルが製造される。
【0033】
メチルジヒドロジャスモネートとn−プロパノールとから本発明の方法で製造されるn−プロピルジヒドロジャスモネートは、農作物や種子に処理すると優れた生長促進効果を示すとともに、動物に対しては安全性が高い植物生長促進剤用の原体であり、本発明が特に好ましく適用される。
【0034】
以上説明したこの発明について、以下にその好ましい実施の態様を要約する。
1.ジヒドロジャスモン酸エステルの純度は99.5重量%以上であり、好ましくは99.7%以上、さらに好ましくは99.8重量%以上である。
2.ジヒドロジャスモン酸エステルに含有される不純物のいずれもが、0.1重量%未満であり、好ましくは0.08重量%未満である。
3.エステル部の炭化水素基の炭素数は2〜5であり、好ましくは3〜4である。
4.エステル部の炭化水素基は鎖状の飽和体である。
5.ジヒドロジャスモン酸エステルは、n−プロピルジヒドロジャスモネートである。
【0035】
6.エステル交換反応の原料であるメチルジヒドロジャスモネートの純度は99.5重量%以上であり、好ましくは99.7%以上、さらに好ましくは99.9重量%以上である。
7.エステル交換反応の原料であるメチルジヒドロジャスモネートに含有される不純物のいずれもが、0.1重量%未満であり、好ましくは0.05重量%未満である。
8.エステル交換反応において原料のモル比は、メチルジヒドロジャスモネート1モルに対して、アルコールが通常1〜6モル、好ましくは2〜5モル、さらに好ましくは3〜4モルである。
【0036】
9.塩基性触媒はアルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、または炭酸水素塩である。
10.塩基性触媒はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、または炭酸水素塩である。
11.塩基性触媒はアルカリ金属のアルコラートであり、好ましくはナトリウムメトキサイドである。
12.塩基性触媒はメチルジヒドロジャスモネートに対して、0.01〜10モル%、好ましくは0.02〜5モル%、より好ましくは0.05〜2モル%の範囲で使用する。
【0037】
13.エステル交換反応は無溶媒で行う。
14.エステル交換反応は芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素の存在下で行う。
15.エステル交換の反応温度は必ず100℃以下であり、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下である。
16.エステル交換反応終了後、反応粗生成物を中和反応することなく、蒸留釜内の溶液の温度が200℃以下、好ましくは180℃以下で減圧蒸留する。
【0038】
【実施例】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってその範囲を限定されるものではない。
なお、実施例中の%は、特にことわりのない限りGC分析(内部標準法)で求めた重量基準の百分率である。GC分析は、ヒューレットパッカード社製HP6890、カラム:HP−1(メチルシロキサン担持、長さ30m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)、カラム温度:180℃、インジェクション温度:230℃、キャリアーガス:ヘリウム(流量1ml/分)、検出器:FID、サンプル量:0.1μl、内部標準物質:n−デカンで行った。また、実施例中の℃は、特にことわりのない限り反応液または被蒸留物自体の温度である。
【0039】
実施例1
攪拌機、クライゼン分留管、冷却管、留出留分受器、温度計保護管、減圧ラインを装備した200mlのガラス製の4つ口フラスコに、純度99.7%のメチルジヒドロジャスモネート67.8g(0.3モル)、n−プロパノール72.0g(0.83モル)およびナトリウムメトキサイドの28%メタノール溶液1.1g(メチルジヒドロジャスモネートに対し2モル%)を仕込んだ。反応系内の減圧度を350mmHgに設定して、油浴中で85℃に加熱攪拌した。しばらくすると、反応の進行により副生するメタノールが分留管から徐々に留出した。7時間経過後、サンプリング口から反応液の一部を注射器で分取した。これをGC分析してメチルジヒドロジャスモネートのピークがほぼ完全に消失したのをもって、エステル交換反応が完了したことを確認した。
【0040】
次に過剰量加えたn−プロパノールを減圧度350mmHgから徐々に減圧度を変化させて最終的には25mmHg、蒸留釜内温度95℃で分流管から留出させた。n−プロパノールを回収後、減圧度1mmHg、蒸留釜内温度180℃で目的とするn−プロピルジヒドロジャスモネートの留分を単蒸留で留出させた。この単蒸留で得られた粗生成物を精留装置に仕込み、減圧度1mmHg、蒸留釜内の液温180℃で精留した。沸点136℃/1mmHgの目的とするn−プロピルジヒドロジャスモネートの留分52.3gを得た。
【0041】
この精留留分を前記の条件でGC分析した結果、保持時間約8.05分のトランス−n−プロピルジヒドロジャスモネートが88.03%、保持時間約8.62分のシス−n−プロピルジヒドロジャスモネートが11.85%であり、トランス体とシス体を合計したn−プロピルジヒドロジャスモネートの純度は、99.88%であった。
GCチャート上には不純物の小さなピークが6個認められたが、そのすべてが0.1%未満であった。これらの不純物の中でもっとも大きなピークである保持時間約8.33分の不純物A(構造未知、GC−MSの推定分子量:254)は0.07%であった。また、2番目に大きなピークである保持時間約8.12分の不純物B(構造未知、GC−MSの推定分子量:254)は0.02%であった。
【0042】
実施例2
実施例1に記載した反応装置と単蒸留装置を兼ねた実験装置を、精密蒸留塔を備えた反応装置に変え、エステル交換反応と精留を連続的に実施した以外は、実施例1と同様にn−プロピルジヒドロジャスモネートの合成を行った。
精留して得た目的物のGC分析を実施例1と同様に行った結果、トランス−n−プロピルジヒドロジャスモネートが89.01%、シス−n−プロピルジヒドロジャスモネートが10.81%であり、トランス体とシス体を合計したn−プロピルジヒドロジャスモネートの純度は99.82%であった。GCチャート上には不純物の小さなピークが6個認められたが、そのすべてが0.1%未満であった。これらの不純物の中でもっとも大きなピークである不純物A(構造未知、GC−MSの推定分子量:254)は0.07%であった。また、2番目に大きなピークである不純物B(構造未知、GC−MSの推定分子量:254)は0.06%であった。
【0043】
比較例1
実施例1で用いた反応装置と単蒸留装置を兼ねた実験装置を用いた。200ml4つ口フラスコに純度99.7%のメチルジヒドロジャスモネート67.8g、n−プロパノール72.0gおよびナトリウムメトキサイドの28%メタノール溶液1.1g(メチルジヒドロジャスモネートに対し2モル%)を仕込んだ。反応系内の減圧度を常圧に設定して、油浴中で110℃に加熱攪拌した。しばらくすると、反応の進行により副生するメタノールが分留管から徐々に流出した。7時間経過後、サンプリング口から反応液の一部を注射器で分取した。これをGC分析してメチルジヒドロジャスモネートのピークがほぼ完全に消失したのをもって、エステル交換反応が完了したこと確認した。
【0044】
次に過剰量加えたn−プロパノールを常圧下、蒸留釜内温度110℃で分流管から留出させた。n−プロパノールを回収後、反応器中の残液を取り出し、分液ロートを用いて2規定の希塩酸で中和洗浄した。有機相を分取して、8%の重曹水でよく洗浄し、再度有機相を分取した。得られた粗生成物を精密蒸留装置に仕込み、減圧度2mmHg、蒸留釜内の液温220℃で精留した。沸点157℃/2mmHgの目的とするn−プロピルジヒドロジャスモネートの留分50.4gを得た。
【0045】
精留後、目的物のGC分析を実施例1と同様に行った結果、トランス−n−プロピルジヒドロジャスモネートが87.21%、シス−n−プロピルジヒドロジャスモネートが11.22%であり、トランス体とシス体を合計したn−プロピルジヒドロジャスモネートの純度は98.43%であった。GCチャート上には、不純物の小さなピークが12個認められた。これらの不純物の中でもっとも大きなピークである不純物B(構造未知、GC−MSの推定分子量:254)は0.48%であった。また、2番目に大きなピークである不純物A(構造未知、GC−MSの推定分子量:254)は0.39%であった。
【0046】
比較例2
比較例1で得た精留後の生成物を、比較例1と同様の精密蒸留装置で減圧度2mmHg、蒸留釜内温度230℃で再度精留した。得られた留分をGC分析した結果、不純物Aの含有量は0.35%、不純物Bの含有量は0.43%であった。
【0047】
【発明の効果】
本発明によれば、不純物の含有量が極めて少ない高純度のジヒドロジャスモン酸エステルが得られ、植物生長促進剤用の原体として使用する際に不純物に起因する毒性を考慮する必要がないという効果を奏する。また、本発明の製造工程においては、廃水が全く発生しないという効果もある。

Claims (3)

  1. 純度が99.5重量%以上であって、含有される不純物のいずれもが0.1重量%未満である、下記一般式(1)
    Figure 0004256981
    (式中、Rは、炭素数2〜5の炭化水素基を示す。)
    で表されるジヒドロジャスモン酸エステルを製造する方法であって、炭素数2〜5のアルコール及び塩基性触媒の存在下に、メチルジヒドロジャスモネートのエステル交換反応を100℃以下で行い、かつ、得られる粗生成物を中和することなく200℃以下で蒸留することを特徴とするジヒドロジャスモン酸エステルの製造方法。
  2. ジヒドロジャスモン酸n−プロピルを製造するものである請求項1に記載のジヒドロジャスモン酸エステルの製造方法。
  3. 減圧下でエステル交換反応を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のジヒドロジャスモン酸エステルの製造方法。
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