JP4196236B2 - 核酸増幅用試薬および配列特異的な核酸増幅法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、生物学的研究や臨床診断などに有用な核酸増幅用試薬ならびに配列特異的な核酸増幅方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、DNAやRNA等の核酸を人為的に増幅する技術、例えばPCR、NASBA、TMA、3SRなどの核酸増幅法が広く知られるようになり、医学、生物学等の研究に広く使われるようになり、現在では遺伝子の検出、クローニング、改変などにはなくてはならない技術となっている。さらには、これらの増幅技術を応用した臨床診断方法も開発されている。例えば、結核菌などの病原体が有する特徴的な核酸を増幅し、増幅後の核酸を検出することにとって、極めて短時間かつ高感度に該病原体を検出する方法が開発され、既に実用化されている。また、ヒトや他の動物の遺伝子の異常検出などへの応用も実用化されつつある。
【0003】
このような核酸増幅技術の1つに、NASBA法(Nucleic acid sequense-based amplification )法(Nature;第350巻、第91頁、1991年)がある。このNASBA法は、標的RNAと同じ配列を有するフォワードプライマーと、標的RNAと相補的な配列を有し、T7プロモーターなどのRNAポリメラーゼのプロモーターを5’末端に付加したリバースプライマーを組合せ、DNAポリメラーゼ活性を有する逆転写酵素、RNAaseHおよびT7RNAポリメラーゼを作用させて、その間の配列を有するRNAを増幅する技術である。増幅されるのは、標的RNAと相補的な配列を有するRNAである。
【0004】
このNASBA法の特徴は、RNAからの増幅が、下記工程を一段階で行えることである。DNAを2倍ずつ増幅することが特徴であるPCR法をRNAからの増幅に応用する場合、PCR反応の前段階として、RNAからDNAを作る逆転写反応(RT反応)を行う必要がある(RT−PCR法)。
【0005】
上記RT−PCR法は操作が煩雑になり、時間もかかる(場合にもよるが、5〜6時間程度)。しかしながら、NASBA法を用いれば、1回の反応で済み、時間も2時間以内に終了する。
【0006】
また、同一配列を有するDNAの混在下でも、RNAからの増幅反応が優先的に起こることである。これは、正常遺伝子の発現量を測定したい場合などに有用である。RT−PCR法では、PCR工程でどうしてもDNAからの増幅が発生する。
【0007】
さらに、NASBA法は増幅反応が一定温度で行われることが特徴である。サーマルサイクラーではなく、通常の恒温漕で実行できる。
【0008】
また、NASBA法は極めて高い増幅効率を有することが特徴である。理想的な反応においては、検出限界以上のターゲットRNAが存在すれば、増幅反応が急激に進行し、極めて高い陽性シグナルが得られるのに対し、検出限界以下では全くシグナルが検出されない。つまり、陽性/陰性の判定が極めて明瞭になるのである。
【0009】
一方、NASBA法に限らず、PCR等の他の核酸増幅反応で、常に問題になることの一つに、非特異的な増幅反応の発生が挙げられる。これは主にプライマーが標的配列以外の核酸に結合することによって発生すると考えられている。非特異反応は感度、シグナルの低下を招く。一般的に行われているPCR法とその後の電気泳動による検出では、非特異反応は感度の低下、目的バンドのシグナル低下・電気泳動像の不明瞭化となって現れる。NASBAも同様である。現実的には、非特異反応を完全に防ぐことは不可能であるが、感度などを向上させるためには、出来るだけ低減させた方がよい。
【0010】
まず、非特異反応の発生は、プライマーの性能や増幅領域の選定によるところが大きいので、Tm値や配列の特異性、立体構造などを勘案し、出来るだけ非特異反応を起こしにくいプライマーを選択することが最も肝要である。しかし、大抵の場合は増幅したい領域が先に決まっているので、プライマーの選定には制約がかかることが多い。
【0011】
このような非特異的反応の発生を抑制する方法として、PCR法の場合、サイクル中のアニール温度や時間など、物理的な調節によってある程度非特異反応を低減し、限界はあるものの、増幅サイクルを増やすことによってある程度シグナルの向上を図ることも可能である。さらには、増幅領域の内側に第二のプライマーペアを設定し、2段階PCR法(nestedPCR)を行うことによって、感度の向上を図る方法もある。
【0012】
しかし、NASBA法の場合、一定温度で反応が進むので、温度やサイクルなどの調節は出来ない。2段階NASBA法は可能であるが、PCR同様、操作が非常に煩雑になり、NASBAの簡便性が大きく損なわれる。NASBA法は操作、工程の簡便性の故、物理的な調節が難しい側面がある。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、生物学的研究や臨床診断に有用となる、高感度な配列特異的核酸増幅方法、特にNASBA法ならびにそのための試薬を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、配列特異的核酸増幅技術、例えばNASBA法において、種々検討を重ねた結果、核酸増幅反応液中にエチレンジアミン四酢酸またはその塩を添加することによって、非特異的な反応を抑制し、感度およびシグナルの向上を達成することが出来ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、「エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ウラミル二酢酸(UDA)、トランス−1,2−シクロヘキサンジアミン四酢酸(CyDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、エチレングリコールビス(2−アミノエチル)エーテルジアミン四酢酸[ビス(2−アミノエチル)エーテル四酢酸](GEDTA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)よりなる群から選択された少なくとも1種の物質もしくはその塩」(以下、この群を増幅反応改良剤と言う)を含有することを特徴とする核酸増幅用試薬である。
【0016】
更に、本発明は、核酸増幅反応液中に1種以上の上記増幅反応改良剤を添加することを特徴とする配列特異的な核酸増幅方法である。上記増幅反応改良剤のいずれを選択してもよいが、なかでも、EDTAもしくはその塩、あるいはNTAもしくはその塩が特に好ましい。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明において、核酸増幅とは、試料中の核酸から、増幅したい核酸(標的核酸)をその固有の配列の相補性を利用して増幅することをいう。本発明における核酸増幅用試薬および核酸増幅法が適用可能な、該核酸増幅の方法としては、特に限定されるものではないが、具体的には、PCR法、NASBA法、SDA法、TMA法、3SR法などが挙げられ、いずれにおいても適用することが可能である。なかでも、NASBA法、TMA法、3SR法において特に有用である。
【0018】
本発明の核酸増幅法とは、例えばNASBA法であり、標的RNAと同じ配列を有するフォワードプライマーと、標的RNAと相補的な配列を有し、T7プロモーターなどのRNAポリメラーゼのプロモーターを5’末端に付加したリバースプライマーを組合せ、逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、RNAaseHおよびT7RNAポリメラーゼを作用させて、その2種のプライマー間の配列を有するRNAを増幅する技術である。DNAポリメラーゼとしては、DNAポリメラーゼ活性を有する逆転写酵素を使用してもよい。
【0019】
該方法は、具体的には、下記工程からなる。
(A)標的RNAに、逆転写酵素の存在下、標的RNAと相補的な配列を有し、T7プロモーターなどのRNAポリメラーゼのプロモーターを5’末端に付加したリバースプライマーを作用させて、RNA/DNAハイブリッドを得る。
(B)得られたRNA/DNAハイブリッドに、RNaseHを作用させて、RNAを分解して、1本鎖DNAを得る。
(C)DNAポリメラーゼあるいはDNAポリメラーゼ活性を有する逆転写酵素の存在下、得られた1本鎖DNAに標的RNAと同じ配列を有するフォワードプライマーを反応させて、2本鎖DNAを得る。
(D)得られた2本鎖DNAに、RNAポリメラーゼを作用させて、複数のRNAを得る。
【0020】
(E)次いで、得られたRNAに逆転写酵素の存在下、標的RNAと同じ配列を有するフォワードプライマーを反応させて、RNA/DNAハイブリッドを得る。
(F)得られたRNA/DNAハイブリッドに、RNaseHを作用させて、RNAを分解して、1本鎖DNAを得る。
(G)得られた1本鎖DNAにDNAポリメラーゼあるいはDNAポリメラーゼ活性を有する逆転写酵素の存在下、標的RNAと相補的な配列を有し、RNAポリメラーゼのプロモーターを5’末端に付加したリバースプライマーを反応させて、2本鎖DNAを得る。
(H)得られた2本鎖DNAに、RNAポリメラーゼを作用させて、複数のRNAを得る。
(I)上記工程(E)〜(H)を繰り返すことにより、標的RNAと相補的な配列を有するRNAを多量に得る。
【0021】
上記工程は、1段階にて37〜45℃の温度で行う。
【0022】
本発明の核酸増用幅試薬とは、(1)標的RNAと同じ配列を有するフォワードプライマー、(2)標的RNAと相補的な配列を有し、RNAポリメラーゼのロモーターを5’末端に付加したリバースプライマー、(3)リボヌクレオチド、(4)デオキシリボヌクレオチド、(5)逆転写酵素、(6)RNaseH、(7)DNAポリメラーゼあるいはDNAポリメラーゼ活性を有する逆転写酵素および(8)RNAポリメラーゼ、(9)緩衝液および(10)増幅反応改良剤を含む。これらの各成分は1つの反応液とする。
【0023】
本発明において標的RNAは、ヒト体液、例えば全血から常法により単離精製する。例えば、培養菌サンプルを用意し、集菌洗浄後、カオトロピックイオンの存在下に、シリカ粒子にRNAを吸着させる方法(R.Boomらの方法、Journal of Clinical Microbiology 第28巻、第3号、第495頁、1990年)に従って、RNAを抽出する。
【0024】
(1)標的RNAと同じ配列を有するフォワードプライマー、(2)標的RNAと相補的な配列を有し、RNAポリメラーゼのプロモーターを5’末端に付加したリバースプライマーは、増幅しようとする標的核酸に応じて、その塩基配列を選択したオリゴヌクレオチド(オリゴデオキシリボヌクレオチド)である。そのオリゴヌクレオチド数は、一般に15〜25bpである。RNAポリメラーゼのプロモーターは、使用するRNAポリメラーゼによって種々異なる塩基配列を有する。核酸増幅反応液中の最終濃度は、それぞれ約0.00025単位である。
【0025】
(3)リボヌクレオチド(rNTP)とは、アデノシン5’−三リン酸、グアノシン5’−三リン酸、ウリジン5’−三リン酸、シチジン5’−三リン酸を指す。核酸増幅反応液中の最終濃度は、それぞれ約1.6〜2.4mMである。
【0026】
(4)デオキシリボヌクレオチド(dNTP)とは、デオキシアデノシン5’−三リン酸、デオキシグアノシン5’−三リン酸、デオキシウリジン5’−三リン酸、デオキシシチジン5’−三リン酸を指す。核酸増幅反応液中の最終濃度は、それぞれ約0.8〜1.2mMである。
【0027】
(5)逆転写酵素としては、上記プライマー(1)または(2)(オリゴデオキシリボヌクレオチドプライマー)およびRNA鋳型からDNAを合成し得るいかなる酵素でもよい。この酵素は、さらにDNAポリメラーゼ活性またはRNaseH活性を含んでいてもよい。このような酵素としては、例えばトリ筋芽細胞腫ウイルス由来ポリメラーゼ(AMV逆転写酵素)、モロニー・マウス白血病ウイルス由来ポリメラーゼ(MMLV逆転写酵素)、別の真核細胞由来のポリメラーゼ、TthDNAポリメラーゼなどがある。核酸増幅反応液中の最終濃度は、約0.3〜0.5単位である。
【0028】
(6)RNaseHとしては、相補的DNAにアニールされたRNAを加水分解し得るいかなる酵素でもよい。例えば、大腸菌RNaseH、仔牛胸腺RNaseH、AMV逆転写酵素などが挙げられる。増幅反応液中の最終濃度は、約0.00025単位である。
【0029】
(7)DNAポリメラーゼとしては、上記プライマー(1)または(2)(オリゴデオキシリボヌクレオチドプライマー)とDNA鋳型からDNAを合成し得るいかなる酵素でもよい。このような酵素としては、例えば、AMV逆転写酵素、DNAポリメラーゼαまたはβなどの真核細胞DNAポリメラーゼ、仔牛胸腺などの哺乳動物組織由来のDNAポリメラーゼ、大腸菌ポリメラーゼIのクレノウフラグメント、バクテリオファージT7DNAポリメラーゼ、TaqDNAポリメラーゼ、TthDNAポリメラーゼ、PfuDNAポリメラーゼ、VentDNAポリメラーゼ、KOD DNAポリメラーゼなどが挙げられる。核酸増幅反応液中の最終濃度は、約0.3〜0.5単位である。
【0030】
(8)RNAポリメラーゼとしては、プロモーターと指称される特定のオリゴヌクレオチド配列に結合でき、かつ、プロモーターに極めて近接した所定の開始部位で、RNAのin vitro合成を特異的に開始し得るいかなる酵素でもよい。さらに、RNAポリメラーゼは適当な時間内に鋳型の機能性コピー当たり数個のRNAを合成し得ることが必要である。このような酵素としては、例えば、バクテリオファージT7RNAポリメラーゼ、ファージT3RNAポリメラーゼ、ファージφIIRNAポリメラーゼ、Salmonellaファージsp6 RNAポリメラーゼ、Pseudomonas ファージgh-1RNAポリメラーゼ、原核細胞または真核細胞由来のRNAポリメラーゼなどが挙げられる。核酸増幅反応液中の最終濃度は、約0.8〜1.2単位である。
【0031】
(9)緩衝液としては、Tris−HClなどの汎用の緩衝液を使用する。
【0032】
本発明の核酸増幅用試薬には、上記成分の他に、必要によりマグネシウムイオン、カリウムイオンなどを含んでいてもよい。マグネシウムイオンの量は、約10〜14mM、カリウムイオンの量は、約56〜84mMである。
【0033】
(10)増幅反応改良剤は、核酸増幅反応液中の最終濃度(至適濃度)で、約0.5〜60mM、好ましくは0.5〜6mMである。NASBA法における増幅反応改良剤の至適濃度は、標的核酸(すなわち、増幅配列やプライマー配列)によって異なる。概ね、0.5〜6mMの範囲内に至適濃度が確認されているが、標的核酸によっては、更に高い濃度や、低い濃度がも考えられる。本発明の核酸増幅法は、6mM以上の高濃度に至適条件をもつ標的核酸にも適用でき、60mMの増幅反応改良剤を添加した場合でも問題なく増幅反応が進むことが確認された。
【0034】
塩の形で存在する増幅反応改良剤としては、ナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられる。また直接的な効果としては、ナトリウム塩も、カリウム塩も同等であると考えられる。しかし、カリウムイオン濃度は増幅に関与する各種酵素の反応に影響を及ぼすことが多いので、ナトリウム塩の形がより望ましい。
【0035】
上記増幅反応改良剤がどのようなメカニズムで、特異的シグナルを向上させるのかは、必ずしも完全に明らかになっているわけではない。NASBA反応液には通常約12mMの塩化マグネシウムが含まれており、キレート剤としてのEDTAまたはその塩がマグネシウムイオンを捕捉し、マグネシウムイオンを調節しているとも考えられる。
【0036】
それならば、塩化マグネシウムの濃度そのものを調節すれば、同じ効果が得られるはずである。しかしながら、実際に検討してみたところ、塩化マグネシウムの濃度を12mM以下に低下させると、むしろシグナルは低下する。したがって、マグネシウムイオン濃度の調節ではない別のメカニズムが存在すると考えられる。
【0037】
本発明では、増幅反応改良剤がNASBA法における非特異増幅反応を抑制し、特異的増幅の効率を向上させている。このことから、上記増幅反応改良剤はプライマーのターゲット以外への非特異的な結合を抑制し、ミスプライミングを抑制していることが推察される。したがって、本発明の核酸増幅法は、PCR、TMA、3SRなど他の核酸増幅技術にも応用が可能である。
【0038】
本発明において使用する検出用プローブとは、検出しようとする標的核酸に応じて選択された塩基配列を有するオリゴヌクレオチドである。該プローブには、アルカリ性ホスファターゼなどの酵素、ビオチン、アビジン、蛍光色素などの標識物質を結合してもよい。
【0039】
核酸検出法としては、マイクロタイターなどの固相に捕捉プローブを結合し、上記増幅法により増幅したく試料中の標的核酸を捕捉した後、検出プローブにて、試料中の核酸をサンドイッチして、検出プローブの標識を常法により測定する方法が一般的である。
【0040】
【実施例】
以下に、本発明の実施例を例示することによって、本発明の効果をより一層明確なものとする。
【0041】
実施例1 NASBA法を用いたヒト型結核菌(Mycobacterium tuberculosis)16S rRNAの高感度検出
(1)ヒト型結核菌16S rRNA増幅用プライマーの合成
パーキンエルマー社DNAシンセサイザー392型を用いて、ホスホアミダイト法にて、配列番号1に示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(ヒト型結核菌16S rRNA増幅用リバースプライマー、以下、プライマー1と呼ぶ)および配列番号2に示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(ヒト型結核菌16S rRNA増幅用フォワードプライマー、以下、プライマー2と呼ぶ)を合成した。
【0042】
プライマー1は、増幅対象となるRNAに相補的な配列(20ヌクレオチド)の5’側に、T7プロモーター配列(27ヌクレオチド)を連結している。合成はマニュアルに従い、各種オリゴヌクレオチドの脱保護はアンモニア水で55℃、一夜実施した。オリゴヌクレオチドの精製はファルマシア社製FPLCで陰イオン交換カラムにて実施した。
【0043】
(2)リンカーアームを有するオリゴヌクレオチドの合成
パーキンエルマー社DNAシンセサイザー392型を用いて、ホスホアミダイト法にて、配列番号3に示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(ヒト型結核菌16S rRNA NASBA産物検出用捕捉プローブ(以下、捕捉プローブと呼ぶ)用オリゴヌクレオチド)および配列番号4に示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(ヒト型結核菌16S rRNA NASBA産物検出用検出プローブ(以下、検出プローブと呼ぶ)用オリゴヌクレオチド)を合成した。
【0044】
この際、特表昭60−500717号公報に開示された合成法により、デオキシウリジンから化学合成により調製した、5位にリンカーアームを有するウリジンを、上記オリゴヌクレオチドに導入した。このウリジンはオリゴヌクレオチド内の任意のTを置換しうるが、今回は5’末端のTを置換した。
合成されたリンカーオリゴヌクレオチドはアンモニア水で50℃、一夜脱保護処理を施した後、ファルマシア社製FPLCで陰イオン交換カラムを用いて精製した。
【0045】
(3)捕捉プローブ用オリゴヌクレオチドのマイクロタイタープレートへの結合上記(2)で合成した捕捉プローブ用オリゴヌクレオチドについて、そのリンカーアームを介して、マイクロタイタープレート内面へ結合した。リンカーオリゴヌクレオチドを50mM硼酸バッファー(pH10)、100mM MgCl2 の溶液に0.05pmol/μlになるように希釈し、マイクロタイタープレート(MicroFLUOR B、ダイナテック社)に各100μlずつ分注し、15時間程度、室温に放置することで、リンカーオリゴヌクレオチドをマイクロタイタープレート内面に結合させた。その後、0.1pmol dNTP、0.5%PVP、5×SSCに置換して、非特異反応を抑えるためのブロッキングを室温で2時間程度行った。最後に1×SSCで洗浄して乾燥させた。
【0046】
(4)検出プローブ用オリゴヌクレオチドの標識化
上記(2)で合成した検出プローブ用オリゴヌクレオチドについて、そのリンカーアームを介してアルカリ性ホスファターゼとの結合を、Nucleic Acids Res.;第14巻、第6115頁(1986年)に従って、下記のように行なった。
【0047】
リンカーオリゴヌクレオチド1.5A260を0.2M NaHCO3 12.5μlに溶解し、ここへ10mg/mlスベリン酸ジスクシニミジル(DSS) 25μlを加えて室温、2分間反応させた。反応液を1mM CH3COONa(pH5.0)で平衡化したセファデックスG−25(ファルマシア社)カラム(1cmφ×30cm)でゲル濾過して、過剰のDSSを除去した。末端のアミノ基が活性化されたリンカーオリゴヌクレオチドを、更にモル比で2倍量のアルカリ性ホスファターゼ(ベーリンガーマンハイム社、(100mM NaHCO3、3M NaCl)に溶解したもの)と室温で、16時間反応させることにより、アルカリ性ホスファターゼ標識核酸プローブを得た。得られた標識プローブは、ファルマシア社製FPLCで陰イオン交換カラムを用いて精製した。標識プローブを含む画分を集め、セントリコン30K(アミコン社)を用いて、限外濾過法により濃縮した。これを検出プローブとして用いた。
【0048】
(5)ヒト型結核菌16S rRNA NASBA検討用試料の調製
従来の同定法でヒト型結核菌と同定されている培養菌サンプルを用意し、集菌洗浄後、R.Boomらの方法(Journal of Clinical Microbiology 第28巻、第3号、第495頁、1990年)に従ってRNAを抽出し、0.1pg/μl、1pg/μl、10pg/μlの3段階の希釈系列を作成した。この際、各希釈系列には、ネガティブRNAとして、市販の酵母RNA(和光純薬社製を用いて、上記抽出操作をしたもの)を10ng/μlの濃度で添加しておいた。
【0049】
(6)NASBA法によるヒト型結核菌16S rRNAの増幅
(5)のRNA溶液をサンプルとして使用して、下記試薬を添加して、下記条件によりヒト型結核菌16S rRNAからRNAを増幅した。
【0050】
方法:まず、サンプル5μlをプライマー1およびプライマー2およびEDTA−Naを含む溶液10μlと混合し、65℃で5分間インキュベートし、RNAを変性させた。その後、酵素混合液5μlを加えて、41℃で90分間反応させた。
【0051】
(7)マイクロタイタープレート中でのサンドイッチハイブリダイゼーション
(6)の増幅反応液を10倍に希釈し、0.3N NaOH中で増幅反応液中の増幅されたRNAを変性させ、各サンプルごとに増幅反応液20μlを200mMクエン酸リン酸バッファー(pH6.0)、2%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、750mM NaCl、0.1%NaN3 の溶液100μlに加えて、上記(3)の捕捉プローブが結合したマイクロタイタープレートに投入した。
蒸発を防ぐため流動パラフィンを重層し、50℃で30分間振盪させた。これによって、ヒト型結核菌16S rRNAから増幅されたRNAが、固定化された捕捉プローブによって特異的にマイクロタイタープレートに捕捉される。
【0052】
次に、上記(4)のアルカリ性ホスファターゼ標識した検出プローブを2fmol/μlの濃度で含む5×SSC(pH7.0)、0.1%SDS、0.5%PVP、10mM MgCl2、1mM ZnCl2 、0.1%NaN3の溶液100μlと置換し、同様に蒸発を防ぐため、流動パラフィンを重層し、50℃で3030分間振盪させた。これによって、捕捉されたRNAにアルカリ性ホスファターゼ標識した検出プローブが特異的に結合した。その後、2×SSC(pH7.0)、0.1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)に置換し、50℃で10分間保温、さらに1×SSCに置換し洗浄した。洗浄液排出後、アルカリ性ホスファターゼの発光基質であるジオキセタン化合物(商品名、Lumiphos 480、Lumigen 社)100μlを注入し、37℃で15分間保温後に暗室中でホトンカウンター(浜松ホトニクス社)で発光量を測定した。
【0053】
これらの工程はすべて、DNAプローブ自動測定システム(日本臨床検査自動化学会会誌; 第20巻、第728頁、1995年参照)により自動で行われ、所要時間は、約2時間であった。
【0054】
(8)ヒト型結核菌16S rRNA NASBAの検討結果(酵母RNA10ng/μl存在下でのEDTA添加の効果)
上記(6)にて増幅し、(7)にて検出されたヒト型結核菌16S rRNAの検出結果を表1に示す。数値は発光量(cps;count/second)で表示され、同一条件で4回の繰り返し実験を行った。
【0055】
【表1】
【0056】
「EDTA−Naなし」に比較して、「EDTA−Naを添加したもの」は陽性シグナルが著しく上昇(1.5mM添加の場合、添加なしに比べ、10pg/μlで6〜12倍、1pg/μlで8〜20倍以上)している。0.5mMで既に効果がみられたが、1.5mMあたりが最適条件と考えられる。通常、該検出系での検出限界は、1pg/μlあたりであるが、EDTA−Na添加により陽性シグナルが向上、陽性/陰性の判定が容易になったため、1000cps を暫定的なカットオフ値とした場合、EDTA−Na添加により感度が向上したともいえる。
結論として、ネガティブRNA(酵母RNA)10ng/μl存在下でのヒト型結核菌16S rRNAの増幅においては、EDTA−Na添加は、シグナル向上に絶大な効果を発揮すると考えられる。
【0057】
実施例2
実施例1と同様にして、EDTA−Naを表2に記載される濃度にて使用した。その結果を表2に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
表2から明らかなように、60mMのEDTA−Naを添加した場合でも問題なく増幅反応が進むことが確認され、また、EDTA−Naを加えてもブランクの上昇は見られない。
【0060】
実施例3 ニトリロ酢酸(NTA)を添加したNASBA法を用いたヒト型結核菌(Mycobacterium tuberculosis)16S rRNAの高感度検出
(1)NASBA法によるヒト型結核菌16S rRNAの増幅
実施例1と全く同じ条件で、NASBA法によるヒト型結核菌16S rRNAの増幅の際にEDTA−Naに替えてNTA−Naを添加することで、NTAによるシグナル増強効果を検証した。NASABAに添加するEDTA−Na以外の試薬やサンプルとその調製方法は、実施例1と全く同一である。実施例1(5)のRNA溶液をサンプルとして使用して、NASBA法によりヒト型結核菌16S rRNAからRNAを複製・増幅した。リバースプライマーとしてプライマー1を、フォワードプライマーとしてプライマー2を使用した。方法・条件は基本的にNature 第350巻、第91頁(1991年)に従ったが、反応液中に表2に記載する各濃度のNTA−Naを添加している。まず、サンプル5μlを酵素以外の組成(プライマーも含む)を含む溶液10μlと混合し、65℃で5分間インキュベートし、RNAを変性させる。その後、酵素混合液5μlを加えて、41℃で90分間反応させる。以上でNASABA工程は終了する。
【0061】
(2)ヒト型結核菌16S rRNA NASABAの検討結果(酵母RNA10μg/μl存在下でのNTA添加の効果)
上記(1)において増幅し、実施例1(7)の方法に従って、マイクロタイタープレート中でのサンドイッチハイブリダイゼーションを実施して検出された結果を表3に示す。数値は発光量(cps;count/sec)で表示され、同一条件で4回の繰り返し実験を行った。
【0062】
【表3】
【0063】
「添加なし」に比較して、NTAを添加したものは陽性シグナルが著しく上昇(1.5mM添加の場合、添加なしに比べて、10pg/μlで4〜9倍、1pg/μlで5〜20倍以上)している。0.5mMで既に効果がみられるが、EDTAと同様に1.5mM辺りが最適条件と考えられる。通常、本検出系における検出限界は1pg/μl辺りであるが、NTAの添加により陽性シグナルが向上、陽性/陰性の判定が容易になったため、1000cpsを暫定的なカットオフ値とした場合、NTAの添加により感度が向上したといえる。結論として、ネガティブRNA(酵母RNA)10ng/μl存在下でのヒト型結核菌16S rRNA NASABAにおいては、NTAの添加はEDTA添加と同様にシグナル向上に大きな効果を発揮する。
【0064】
実施例4
実施例3と同様にして、NTA−Naを表4に記載される濃度にて使用した。その結果を表4に示す。
【0065】
【表4】
【0066】
表4から明らかなように、60mMのNTA−Naを添加した場合でも問題なく増幅反応が進行することが確認され、またブランクの上昇もみられない。
【0067】
【発明の効果】
上述したように、本発明により、配列特異的な核酸増幅反応において、温度などの物理的な条件を変えることなく、極めて簡単に非特異的な反応を抑制し、感度及びシグナルの向上を著しく向上させることが可能となる。
【0068】
また、従来ネガティブRNAを一定量、共存させた場合、項目によっては感度付近のシグナルが低下する場合があったが、本発明では、エチレンジアミン四酢酸またはその塩を添加することにより、非特異増幅反応によるプライマーや基質(rNTPやdNTP)の消費を抑制し、相対的に特異的増幅の効率を向上させる。また、本発明はNASBA法をはじめとする他の核酸増幅反応の改良として、極めて有用である。
【0069】
【配列表】
【0070】
【0071】
【0072】
Claims (4)
- 標的RNAと同じ配列を有するフォワードプライマー、標的RNAと相補的な配列を有し、RNAポリメラーゼのプロモーターを5’末端に付加したリバースプライマー、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、逆転写酵素、RNaseH、DNAポリメラーゼおよびRNAポリメラーゼ、緩衝液を含有し、かつ、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸よりなる群から選択された少なくとも1種の物質もしくはその塩を、核酸増幅反応液中の最終濃度で1.5〜60mMの濃度で含有することを特徴とする核酸増幅用試薬。
- 請求項1に記載の核酸増幅用試薬および検出用プローブを含む核酸検出用試薬。
- NASBA法による核酸増幅反応であって、核酸増幅反応液中に、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸よりなる群から選択された少なくとも1種の物質もしくはその塩を、核酸増幅反応液中の最終濃度で1.5〜60mMの濃度で添加することを特徴とする配列特異的な核酸増幅方法。
- 増幅しようとする核酸がRNAである請求項3に記載の核酸増幅方法。
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