JP4188609B2 - 加工性に優れた高強度鋼板およびその製造方法 - Google Patents

加工性に優れた高強度鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は加工性に優れた高強度鋼板に関し、詳細には、500〜1400MPa級の高強度及び超高強度域において、優れた伸びフランジ性および全伸びを兼ね備えた高強度鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車や産業用機械等にプレス成形して使用される鋼板は、優れた強度と延性を兼ね備えていることが要求され、この様な要求特性は近年、益々、高まっている。
【0003】
従来より、強度と延性の両立を図った鋼板として、フェライト素地中に主としてマルテンサイトからなる低温変態組織を含むフェライト・マルテンサイトの複合組織鋼板[デュアルフェイズ(DP)鋼板]が知られている(特開昭55−122820等)。上記鋼板は、延性が良好なだけでなく、マルテンサイト生成域に導入された多量の自由転位のために降伏伸びが現れず、降伏応力が低くなる為、加工時の形状凍結特性が良好である。上記組織に制御することにより、引張強度(TS)が高く、伸び(El)特性にも優れた鋼板が得られるが、伸びフランジ性(局部的な延性)に劣るものであった。
【0004】
一方、伸びフランジ性に優れる鋼板としては、フェライト・ベイナイトの2相組織鋼板が知られている(特開昭57−145965等)。これによれば、上述したDP鋼板に比べ、伸びフランジ性に優れることは勿論のこと、抵抗溶接性(特に熱影響部の軟化がなく)、及び疲労特性にも優れる。しかしながら、伸び特性に劣るという問題がある。
【0005】
その他、組織中に残留オーステナイト(γR)を生成させ、加工変形中にγRが誘起変態(歪み誘起変態:TRIP)して延性を向上させる残留オーステナイト鋼板が知られている。例えば特開昭60−43425には、複合組織鋼板としての組織を、体積分率で10%以上のフェライトと10%以上のγRを有し、残部がベイナイトまたはマルテンサイトまたはそれらの混合組織に制御することにより、高強度で、且つ極めて延性に優れた鋼板が開示されている。上記組織とすることにより、γRの加工誘起変態効果に加えて、軟質のフェライトによる高延性が発揮される結果、延性はフェライト及びγRによって、強度はベイナイトまたはマルテンサイトによって確保される旨記載されている。しかしながら、上記鋼板においても、前記DP鋼と同様、伸びフランジ性に劣るという問題があった。
【0006】
そこで、γRによる優れた強度・延性バランスを維持しつつ、しかも、伸びフランジ性(穴広げ性)等の成形性にも優れた鋼板を提供すべく、種々の検討がなされている。例えば特開平9−104947には、ミクロ組織として、フェライト、ベイナイト、γRの3相で構成され、且つ、フェライト占有率とフェライト粒径の比、及びγRの占有率を所定範囲に制御した鋼板が開示されている。これは、「γRの増加は、強度−延性バランスの向上、全伸びの向上をもたらすが、その効果は、γRの微細化により高まること;更にγRが微細化すると、伸びフランジ性などの成形性も向上する」という知見に基づいてなされたものである。しかしながら、伸びフランジ性の向上効果は低く、更に一層優れた伸びフランジ性を有する高強度鋼板の提供が切望されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記事情に着目してなされたものであり、その目的は、優れた伸びフランジ性及び全伸びを兼ね備えた加工性に優れた高強度鋼板、及び、この様な鋼板を効率よく製造することのできる方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決し得た本発明の加工性に優れた高強度鋼板とは、質量%で、
C :0.06〜0.6%、
Si+Al:0.5〜3%、
Mn:0.5〜3%、
P :0.15%以下(0%を含まない)、
S :0.02%以下(0%を含まない)
を含有し、且つ、
母相組織は、焼戻ベイナイトを全組織に対して占積率で15%以上、及びフェライトを含有し、
第2相組織は、残留オーステナイトを全組織に対して占積率で3〜30%含有すると共に、該残留オーステナイト中のC濃度(CγR)は0.8%以上であり、更にベイナイト/マルテンサイトを含有しても良いものであるところに要旨を有するものである。
【0009】
更に、本発明において、質量%で、
▲1▼Mo:1%以下(0%を含まない),Ni:0.5%以下(0%を含まない),Cu:0.5%以下(0%を含まない),Cr:1%以下(0%を含まない)の少なくとも一種を含有するもの;
▲2▼Ti:0.1%以下(0%を含まない),Nb:0.1%以下(0%を含まない),V:0.1%以下(0%を含まない)の少なくとも一種を含有するもの;
▲3▼Ca:30ppm以下(0ppmを含まない)、及び/又はREM:30ppm以下(0ppmを含まない)を含有するものは、いずれも本発明の好ましい態様である。
【0010】
また、上記残留オーステナイトがラス状を呈しているものは、本発明の作用が一層高められるので好ましい態様である。特に残留オーステナイト中に占めるラス状残留オーステナイトの占積率が60%以上に制御されたものが推奨される。
【0011】
更に上記課題を解決し得た本発明鋼板の製造方法は、上記(1)または(2)を包含するところに要旨を有するものである。
【0012】
(1)熱延工程、及び連続焼鈍工程またはめっき工程を施すことにより上記鋼板を製造する方法であって、
該熱延工程は、(Ar3−50)℃以上の温度で仕上圧延を終了する工程;及び10℃/s以上の平均冷却速度で、Ms点以上Bs点以下まで冷却して巻取る工程を包含し、
該連続焼鈍工程またはめっき工程は、A1点以上A3点以下の温度で10〜600秒加熱保持する工程;3℃/s以上の平均冷却速度で、300℃以上480℃以下の温度まで冷却する工程;及び該温度域で1秒以上保持する工程を包含する方法;
(2)熱延工程、冷延工程、第一の連続焼鈍工程、及び第二の連続焼鈍工程またはめっき工程を施すことにより上記鋼板を製造する方法であって、
該第一の連続焼鈍工程は、A1点以上A3点以下の温度に加熱保持する工程;及び10℃/s以上の平均冷却速度で、Ms点以上Bs点以下の温度まで冷却する工程を包含し、
該第二の連続焼鈍工程またはめっき工程は、A1点以上A3点以下の温度で10〜600秒加熱保持する工程;3℃/s以上の平均冷却速度で、300℃以上480℃以下の温度まで冷却する工程;及び該温度域で1秒以上保持する工程を包含する方法。
【0013】
ここで、上記(1)の熱延工程において、
(Ar3−50)℃以上の温度で熱延を終了する工程;700±100℃の範囲の温度域まで、30℃/s以上の平均冷却速度で冷却する工程;該温度域で空冷を1〜30秒間行う工程;空冷後、Ms点以上Bs点以下の温度まで、30℃/s以上の平均冷却速度で冷却して巻取る工程を包含するものは、本発明の好ましい態様である。
【0014】
また、上記(1)の連続焼鈍工程、または上記(2)の第二の連続焼鈍工程において、
1点以上A3点以下の温度で10〜600秒加熱保持する工程;(A1点〜600℃)の温度まで、15℃/s以下の平均冷却速度で冷却する工程;300℃以上480℃以下の温度まで、20℃/s以上の平均冷却速度で冷却する工程;及び該温度域で1秒以上保持する工程を包含するものは本発明の好ましい態様である。
【0015】
更に上記(1)または(2)のめっき工程に入る前に、下記関係式(1)を満足する条件でFe系プレめっき処理する工程を包含するものも本発明の好ましい態様である。
【0016】
0.06W≦X … (1)
[式中、Wは溶融Znめっきの付着量 (g/m2)、
XはFe系プレめっきの付着量(g/m2
を夫々意味する]
尚、本発明における「加工性」とは、主に、伸びフランジ性及び全伸びを意味するものである。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、高い伸びフランジ性を維持したまま、しかも、大きな全伸びを有する低合金TRIP鋼板を提供すべく鋭意検討してきた。その結果、転位密度の低い軟質ラス組織からなる焼戻ベイナイトとフェライトの混合組織を母相とし、第2相として、残留オーステナイト(γR)相を有する組織に制御すれば、所期の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0018】
まず、本発明を最も特徴付ける組織について説明する。
【0019】
上述したとおり、本発明の鋼板は、母相組織として、焼戻ベイナイトを全組織に対して占積率で15%以上、及びフェライトを含有し;第2相組織として、γRを全組織に対して占積率で3〜30%含有すると共に、γR中のC濃度(CγR)は0.8%以上であり、更にベイナイト/マルテンサイトを含有しても良いものである。本発明組織の特徴について、従来の残留オーステナイト鋼板と対比して説明すると、従来の残留オーステナイト鋼板は、硬質相の周りの軟質相(母相)の変形が進むと、該軟質相との界面にボイドが発生し易くなる結果、伸びフランジ性が劣化するというデメリットがあった。これに対し、母相を従来のフェライトではなく、本発明の如く、焼戻ベイナイトとフェライトの混合組織とすることにより、伸びフランジ性が向上する。また、本発明では、γR中のC濃度(CγR量)が0.8%以上と高いため、TRIP(歪誘起変態加工)効果が、より効果的に発揮され、伸び特性が向上する、というメリットもある。更にγRの形態を所定の軸比となる様に制御されたラス状γRとすれば、従来のγRに比べ、伸びや、特に伸びフランジ性の向上が可能となる。
【0020】
以下、各組織について説明する。
【0021】
焼戻ベイナイト:15%以上
本発明における「焼戻ベイナイト」は、以下の特徴を有するものである。
【0022】
第一に、本発明における「焼戻ベイナイト」は、転位密度が少なく軟質であり、しかも、ラス状組織を有するものを意味する。これに対し、マルテンサイトは転位密度の多い硬質組織である点で、上記焼戻ベイナイトとは相違し、両者は、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)観察などによって区別することができる。また、従来のγR鋼板は、転位密度の少ない軟質のブロック状フェライト組織を有する点で、上記焼戻ベイナイトを母相とする本発明鋼板とはやはり相違するものである。
【0023】
第二に、上記焼戻ベイナイトは、同一成分系(基本成分であるC,Si,Mnを同じにした系)におけるポリゴナルフェライトに比べ、ビッカース硬さ(Hv)が概して高いという傾向を有する。図1は、同一成分の鋼種(C:0.1〜0.3%、Mn:1.0〜2.0%、Si:1.0〜2.0%の範囲)における焼戻ベイナイト及び焼戻マルテンサイトの硬度(縦軸)と、ポリゴナルフェライトの硬度(横軸)とを対比したグラフである。尚、ビッカース硬さは、レペラー腐食による光学顕微鏡観察を行い、母相(灰色)部のビッカース硬さ(Hv)を測定したものである(荷重1g)。参考までに、同図に、y=xの直線を点線で示したが、これにより、焼戻ベイナイトの硬度は、ポリゴナルフェライトに比べて高いこと;この様な傾向は硬度が高くなるにつれ、顕著に見られることが分かる。
【0024】
また、図2は、図1のデータを、C量:0.1%、0.2%、0.3%の各場合に分けて整理したものであり、焼戻ベイナイト、焼戻マルテンサイト、及びポリゴナルフェライトの硬度に及ぼすC量の影響を表したものである。図2より、C量が同一のとき、焼戻ベイナイトの硬度はポリゴナルフェライトに比べて高くなる傾向があること:この様な傾向は、C量が高くなるにつれ、顕著に見られることが分かる。
【0025】
これらの結果に基づき、焼戻ベイナイト及び焼戻マルテンサイト、並びにポリゴナルフェライトにおける硬度を、C,Mn,Siの基本成分との関係で表すと、概ね、下記の関係式が得られる。
【0026】
焼戻ベイナイトの硬度(Hv)≧500[C]+30[Si]+3[Mn]+50
ポリゴナルフェライの硬度(Hv)≒200[C]+30[Si]+3[Mn]+50
式中、[ ]は各元素の含有量(質量%)を意味する。
【0027】
ちなみに、上記関係式により得られる硬度(計算値)は、実測値をほぼ反映したものとなっていることを確認している。
また、上記関係式により得られる硬度は、C量が0.1〜0.3%の場合のみならず、0.3〜0.6%の場合、更には0.06〜0.1%の場合においても同様に実測値を反映したものであることを確認している。
尚、焼戻ベイナイト硬度の上限は、成分組成等によっても変化し得るが、概ね、500[C]+30[Si]+3[Mn]+200、好ましくは500[C]+30[Si]+3[Mn]+150とすることが推奨される。
【0028】
この様な特徴を有する焼戻ベイナイトは、後記する通り、A3点以上(γ域)よりMs点以上Bs点以下で焼入れされたベイナイトを、A1点以上(約700℃以上)、A3点以下の温度で焼鈍する等して得られるものである。
【0029】
そして、本発明では、上記焼戻ベイナイトとフェライトの混合組織が、伸びフランジ性及び全伸びの向上に極めて有効であることを見出したところに最大の特徴があり、後記するγRと相俟って、従来の残留オーステナイト鋼板における優れた強度・延性バランスを確保しつつ、伸びフランジ性も著しく改善し得るというメリットを奏するものである。特にC量を0.25〜0.6%に調整すると、伸び特性が更に向上することも分かった。
【0030】
この様な作用を有効に発揮させる為には、全組織に対して占積率で焼戻ベイナイトを15%以上有することが必要である。尚、焼戻ベイナイトの量は、後記するフェライト及びγRとのバランスによって定められるものであり、所望の特性を発揮し得る様、適切に制御することが推奨されるが、伸びフランジ性の向上という観点からすれば、焼戻ベイナイトを40%以上、より好ましくは50%以上、更により好ましくは60%以上に制御することが推奨される。
【0031】
フェライト
本発明における「フェライト」とは、ポリゴナルフェライト、即ち、転位密度の少ないフェライトを意味する。このフェライトについては、ポリゴナルフェライトを母相とするTRIP型複合組織鋼板(PF鋼)が知られており、伸び特性に優れる等のメリットはあるが、伸びフランジ性に劣るという欠点がある。これに対し、上記フェライトと焼戻ベイナイトの混合組織を有する本発明鋼板は、優れた伸び特性を維持しつつ、しかも伸びフランジ性も改善されている点で、従来の上記TRIP鋼板とは、構成組織も特性も異なるものである。
【0032】
本発明による作用を有効に発揮させる為には、フェライトは5%以上存在することが推奨される。好ましくは10%以上である。特に伸び特性の向上という観点からすれば、フェライトは多いことが好ましく、30%以上、より好ましくは40%以上、更により好ましくは50%以上とすることが推奨される。但し、60%を超えると、必要な強度を確保するのが困難となる他、従来の複合組織やTRIP鋼と同様、フェライトと第2相の界面より多くのボイドが発生し、伸びフランジ性が劣化するため、その上限を60%とすることが推奨される。尚、上限を30%未満に制御すると、フェライトと、焼戻ベイナイトや第2相(γR、マルテンサイト/ベイナイト)との界面が減少し、ボイドの発生源が抑えられるため、伸びフランジ性が向上するので、非常に好ましい。
【0033】
残留オーステナイト(γ R ):3〜30%
γRは全伸びの向上に有用であり、この様な作用を有効に発揮させる為には、全組織に対して占積率で3%以上(好ましくは5%以上)存在することが必要である。一方、多量に存在すると伸びフランジ性が劣化するので、上限を30%に定めた。より好ましくは25%である。
【0034】
ここで、従来のTRIP型鋼板におけるγRは、旧オーステナイト粒界内にランダムな方位のγRが存在しているのに対し、本発明におけるγRは、同一パケット内のブロック境界などに沿って同一方位を有するγRが存在し易いという特徴がある。図3に、本発明におけるγRの特徴を模式化して表す。図3中、1は旧オーステナイト粒界、2はパケット粒界、3はブロック境界、4はベイナイトラスを夫々、示す。
【0035】
このことを一層明らかにする目的で、図4及び図5に、本発明鋼板(後記する表2のNo.3)及び従来のγR鋼板(後記する表3のNo.2)における、板厚方向断面のEBSP写真(カラーマップ:倍率1000倍)の結果を、夫々示す。ここで、EBSPとは、Electron Back Scatter Diffraction Patternのことであり、EBSP解析装置としてはTexSEM Laboratories社製の装置を使用した。
【0036】
この写真によれば、結晶方位差の異なる板厚方向のγRを色調差によって識別することができる。即ち、通常の組織観察とは異なるEBSPによる結晶方位観察手法でγRを調べると、見掛け上はほぼ同一の組織を有しているにもかかわらず、従来鋼板(図5)では、旧オーステナイト粒界内にランダムな方位のγRが多数存在するのに対し、本発明鋼板(図4)では、或る一定の領域内に、同一方位を有するγRが多数存在していることが確認できる。本発明鋼板のγRは、ブロック境界等に沿って、同一方位を有するγRが生成するものと思われ、この点で、従来鋼板のγRとは、異なる形態を有している。
【0037】
また、本発明におけるγRの形態は、ラス状であることが好ましい。ここで、「形態がラス状である」とは、平均軸比(長軸/短軸)が2以上(好ましくは4以上、より好ましくは6以上である)のものを意味する。この様なラス状のγRは、従来のγRと同様のTRIP効果を奏するのみならず、更に顕著な伸びフランジ性向上効果を奏する点で極めて有用である。尚、上記平均軸比の上限は特に規定されないが、TRIPの効果を有効に発揮させる為には、γRの厚さが或る程度必要であること等を考慮すると、好ましい上限は30、より好ましくは20である。
【0038】
また、上記ラス状γRによる効果を有効に発揮させる為には、γR中に占めるラス状γRの占積率は多ければ多い程良い。具体的には、上述した焼戻ベイナイトやフェライトとのバランスによって定められるものであり、所望の特性を発揮し得る様、適切に制御することが推奨されるが、伸びフランジ性の向上という観点からすれば、ラス状γRの占積率を50%以上、より好ましくは60%以上、更により好ましくは70%以上、更に一層好ましくは80%以上、更により一層好ましくは85%以上とすることが推奨される。尚、γRのすべてがラス状γRで構成されていても良いが、加熱設備や冷却設備の制約等を考慮すると、実用レベルで、その上限を95%程度とすることが推奨される。
【0039】
更に上記γR中のC濃度(CγR)は0.8%以上であることが推奨される。このCγRは、TRIP(歪誘起変態加工)の特性に大きく影響し、0.8%以上に制御すると、特に、伸び等の向上に有効である。好ましくは1%以上、より好ましくは1.2%以上である。尚、上記CγRの含有量は多い程好ましいが、実操業上、調整可能な上限は、概ね1.6%と考えられる。
【0040】
その他:ベイナイト及び/又はマルテンサイト(0%を含む)
本発明の鋼板は、上記組織のみ(即ち、焼戻ベイナイトと、フェライトと、γRの混合組織)からなっていても良いが、本発明の作用を損なわない範囲で、他の異種組織として、ベイナイト及び/又はマルテンサイトを有していても良い。これらの組織は本発明の製造過程で必然的に残存し得るものであるが、少なければ少ない程、好ましい。
【0041】
次に、本発明鋼板を構成する基本成分について説明する。以下、化学成分の単位はすべて質量%である。
【0042】
C:0.06〜0.6%
Cは、高強度を確保し、且つ、γRを確保するために必須の元素である。詳細には、γ相中に充分なC量を含み、室温でも所望のγ相を残留させる為に重要な元素であり、強度−伸びフランジ性のバランスを高めるのに有用である。特にC量を0.25%以上添加すると、γR量が増加し、更にγRへのC濃縮が高くなるので、極めて高い強度−伸びバランスを得ることができる。
【0043】
但し、0.6%を超えて添加すると、その効果が飽和するのみならず、鋳造中への中心偏析などによる欠陥などが見られる。また、0.25%以上添加すると溶接性が劣化する。
【0044】
従って、溶接性を主に考慮すれば、C:0.06〜0.25%(より好ましくは0.2%以下、更により好ましくは0.15%以下)に制御することが好ましく、一方、点溶接を必要とせず高い伸び等が要求される場合には、C:0.25〜0.6%(より好ましくは0.3%以上)に制御することが推奨される。
【0045】
Si+Al:0.5〜3%
Si及びAlは、γRが分解して炭化物が生成するのを有効に抑える元素である。特にSiは、固溶強化元素としても有用である。この様な作用を有効に発揮させる為には、Si及びAlを合計で0.5%以上添加することが必要である。好ましくは0.7%以上、より好ましくは1%以上である。但し、上記元素を合計で、3%を超えて添加しても上記効果は飽和してしまい、経済的に無駄である他、多量に添加すると、熱間脆性を起こす為、その上限を3%とする。好ましくは2.5%以下、より好ましくは2%以下である。
【0046】
Mn:0.5〜3%
Mnは、γを安定化し、所望のγRを得る為に必要な元素である。この様な作用を有効に発揮させる為には、0.5%以上添加することが必要である。好ましくは0.7%以上、より好ましくは1%以上である。但し、3%を超えて添加すると、鋳片割れが生じる等の悪影響が見られる。好ましくは2.5%以下、より好ましくは2%以下である。
【0047】
P:0.15%以下(0%を含まない)
Pは、所望のγRを確保するのに有効な元素である。この様な作用を有効に発揮させる為には、0.03%以上(より好ましくは0.05%以上)添加することが推奨される。但し、0.1%を超えて添加すると二次加工性が劣化する。より好ましくは0.1%以下である。
【0048】
S:0.02%以下(0%を含む)
SはMnS等の硫化物系介在物を形成し、割れの起点となって加工性を劣化させる元素である。好ましくは0.02%以下、より好ましくは0.015%以下である。尚、Sの低減化による加工性劣化の抑制作用は、Sを0.003%以下まで低減すると飽和してしまい、逆にSを低減する為のコストが高くつくことを考慮すると、下限は0.003%超、より好ましくは0.005%以上にすることが推奨される。
【0049】
本発明の鋼は上記成分を基本的に含有し、残部:実質的に鉄及び不純物であるが、その他、本発明の作用を損なわない範囲で、以下の許容成分を添加することができる。
【0050】
Mo:1%以下(0%を含まない),Ni:0.5%以下(0%を含まない),Cu:0.5%以下(0%を含まない),Cr:1%以下(0%を含まない)の少なくとも一種
これらの元素は、鋼の強化元素として有用であると共に、γRの安定化や所定量の確保に有効な元素である。この様な作用を有効に発揮させる為には、Mo:0.05%以上(より好ましくは0.1%以上)、Ni:0.05%以上(より好ましくは0.1%以上)、Cu:0.05%以上(より好ましくは0.1%以上)、Cr:0.05%以上(より好ましくは0.1%以上)を、夫々添加することが推奨される。但し、Mo及びCrは1%、Ni及びCuは0.5%を超えて添加しても上記効果が飽和してしまい、経済的に無駄である。より好ましくはMo:0.8%以下、Ni:0.4%以下、Cu:0.4%以下、Cr:0.8%以下である。
【0051】
Ti:0.1%以下(0%を含まない),Nb:0.1%以下(0%を含まない),V:0.1%以下(0%を含まない)の少なくとも一種
これらの元素は、析出強化及び組織微細化効果があり、高強度化に有用な元素である。この様な作用を有効に発揮させる為には、Ti:0.01%以上(より好ましくは0.02%以上)、Nb:0.01%以上(より好ましくは0.02%以上)、V:0.01%以上(より好ましくは0.02%以上)を、夫々添加することが推奨される。但し、いずれの元素も0.1%を超えて添加すると上記効果が飽和してしまい、経済的に無駄である。より好ましくはTi:0.08%以下、Nb:0.08%以下、V:0.08%以下である。
【0052】
Ca:30ppm以下、及び/又はREM:30ppm以下
(0ppmを含まない)
Ca及びREM(希土類元素)は、鋼中硫化物の形態を制御し、加工性向上に有効な元素である。ここで、本発明に用いられる希土類元素としては、Sc、Y、ランタノイド等が挙げられる。上記作用を有効に発揮させる為には、夫々、3ppm以上(より好ましくは5ppm以上)添加することが推奨される。但し、30ppmを超えて添加しても上記効果が飽和してしまい、経済的に無駄である。より好ましくは25ppm以下である。
【0053】
次に、本発明鋼板を製造する方法について説明する。
【0054】
本発明の製造方法は、代表的に下記二つの方法を包含するものである。
【0055】
(1)[熱延工程]→[連続焼鈍工程またはめっき工程]
この方法は、▲1▼熱延工程、及び▲2▼連続焼鈍工程またはめっき工程を経由して所望の鋼板を製造する方法である。このうち▲1▼熱延工程の説明図を図6に、▲2▼連続焼鈍またはめっき工程の説明図を図7に、夫々示す。
【0056】
▲1▼熱延工程
上記熱延工程は、(Ar3−50)℃以上の温度で仕上圧延を終了する工程;及び10℃/s以上の平均冷却速度で、Ms点以上Bs点以下まで冷却して巻取る工程を包含するものである。この熱延条件は、所望の母相組織(焼入ベイナイトとフェライトの混合組織)を得る為に設定されたものである。
【0057】
まず、熱延仕上温度(FDT)は(Ar3−50)℃以上、好ましくはAr3点以上の温度とすることが推奨される。これは、引続き実施される「Ms点以上Bs点以下の冷却」と共に、所望の母相組織を得る為である。
【0058】
尚、第2相組織であるγRの形態をラス状にする為には、熱延時の加熱温度(SRT)を高めに制御することが推奨される。特に、γR中に占めるγRの占積率を本発明の好ましい範囲に制御するには、熱延工程における加熱温度(SRT)を1150℃以上(より好ましくは1200℃以上、更により好ましくは1250℃以上)とすることが有効である。ラス状γRは、熱延時に形成される焼入母相組織のラス間隔が細かく、且つ、該母相組織のラス界面の歪エネルギーが大きい程、生成され易いことから、上記の如く熱延時の加熱温度(SRT)を高温に設定すれば所望の形態に制御し易くなる。上記SRTの制御に加え、熱延後の平均冷却速度を速くする(焼入性を高める)ことも有効な形態制御方法である(後記する)。これにより、熱延中または熱延仕上後のオーステナイト粒径が大きくなり、焼入性が高まる結果、その後の焼戻焼鈍工程及びオーステンパ処理によって生成するγRの形態がラス状となる比率が一層高まるからである。更に、熱延仕上温度(FDT)をAr3点以上の温度に制御すれば、熱延全般にわたって高温となり、焼入性が一層高められる為、ラス状γRの生成が一層促進される。
【0059】
尚、上記加熱温度の上限は特に限定されないが、設備上の制約等を考慮すると、1350℃以下(より好ましくは1300℃以下)に制御することが推奨される。
【0060】
上記熱延仕上げの後、冷却する。本発明では、冷却速度(CR)を制御することにより、冷却中にフェライトを一部生成させて(α+γ)の2相域とし、更にMs点以上Bs点以下の温度まで冷却することにより、所望の混合組織を得ることができる。
【0061】
ここで、上記冷却条件としては、下記(a)、好ましくは(b)の方法が挙げられる。
【0062】
(a)一段冷却:即ち、10℃/s以上(好ましくは20℃/s以上)の平均冷却速度で、パーライト変態を避けてMs点以上Bs点以下の温度まで冷却する。このとき、平均冷却速度を適切に制御することにより、所望の混合組織(焼入ベイナイト+フェライト)を得ることができる。尚、本発明では、フェライトを5%以上30%未満に制御することが推奨されるが、この場合には、平均冷却速度を30℃/s以上に制御することが好ましい。
【0063】
また、上述した通り、熱延後の平均冷却速度は、フェライトの生成のみならず、最後のγRの形態にも影響を与え、平均冷却速度が速ければ(好ましくは30℃/s以上、より好ましくは50℃/s以上)、ラス状を呈することになる。尚、平均冷却速度の上限は特に限定されず、大きければ大きい程良いが、実操業レベルとの関係で、適切に制御することが推奨される。
【0064】
更に、冷却中に所望の混合組織を一層効率よく生成させる為には、(b)二段冷却:即ち、▲1▼700±100℃の範囲の温度域(好ましくは700±50℃)まで、30℃/s以上の平均冷却速度(CR1)で冷却する工程;▲2▼該温度域で空冷を1〜30秒間行う工程;▲3▼空冷後、Ms点以上Bs点以下の温度まで、30℃/s以上の平均冷却速度(CR2)で冷却して巻取る工程を包含することが推奨される。この様に段階的に冷却することにより、転位密度の低いポリゴナル・フェライトを一層確実に生成させることができる。
【0065】
ここで、▲1▼の温度域及び▲3▼の温度域では、共に、30℃/s以上、好ましくは40℃/s以上の平均冷却速度で冷却することが推奨される。これにより、ラス状γRの生成も促進されるからである。尚、当該平均冷却速度の上限は特に限定されず、大きければ大きい程良いが、実操業レベルとの関係で、適切に制御することが推奨される。
【0066】
また、▲2▼の温度域では、空冷を1秒以上、好ましくは3秒以上行うことが好ましく、これにより所定のフェライト量が効率よく得られる。但し、空冷時間が30秒を超えると、フェライト量が好ましい範囲を超えて生成され、所望の強度が得られない他、伸びフランジ性も劣化する。好ましくは20秒以下である。
【0067】
また、巻取温度(CT)は、Ms点以上Bs点以下[計算式:Ms=561−474×[C]−33×[Mn]−17×[Ni]−17×[Cr]−21×[Mo];Bs=830−270×[C]−90×[Mn]−37×[Ni]−70×[Cr]−80×[Mo];式中、[ ]は各元素の質量%である]にすることが必要である。Bs点を超えると所望の焼入ベイナイトが得られず、一方、Ms点を下回ると焼戻マルテンサイトが生成するからである。
【0068】
尚、熱延工程では、所望の母相組織を得る為に、上記の各工程を適切に制御することが推奨されるが、その他の工程、例えば加熱温度等は、通常実施される条件(例えば約1000〜1300℃)を適宜選択すれば良い。
【0069】
▲2▼続焼鈍工程またはめっき工程
上記▲1▼の熱延に引続き、連続焼鈍またはめっきを行う。但し、熱延後の形状が悪いときには形状修正の目的で、上記▲1▼の熱延を行った後、当該▲2▼の連続焼鈍またはめっきを行う前に、冷延処理しても良い。ここで、冷延率は1〜30%とすることが推奨される。30%を超えて冷間圧延すると、圧延荷重が増大し、冷間圧延が困難となるからである。
【0070】
上記連続焼鈍またはめっきは、A1点以上A3点以下の温度で10〜600秒加熱保持する工程;3℃/s以上の平均冷却速度で、300℃以上480℃以下の温度まで冷却する工程;及び該温度域で1秒以上保持する工程を包含する。これらの条件は、熱延工程で生成した母相組織を焼戻して所望の混合組織(焼戻ベイナイトとフェライトの混合組織)を得ると共に、第2相(γR)を得る為に設定されたものである。
【0071】
まず、A1点以上A3点以下の温度(図7中、T3)で10〜600秒(図7中、t3)均熱することにより、所望の混合組織及びγRを生成させる(2相域焼鈍)。上記温度を超えると、すべてγとなってしまい、一方、上記温度を下回ると、所望のγ量が得られないからである。更に、上記加熱保持時間(t3)の制御は、所望の組織を得る為に、特に重要である。10秒未満では、焼戻が不足し、所望の母相組織及びγ量が得られないからである。好ましくは20秒以上、より好ましくは30秒以上である。尚、600秒を超えると、焼戻ベイナイトの特徴であるラス状組織が維持できなくなり、機械的特性が劣化する。好ましくは500秒以下、より好ましくは400秒以下である。
【0072】
次いで、平均冷却速度(CR)を、3℃/s以上(好ましくは5℃/s以上)に制御し、パーライト変態を避けながら、300℃以上(好ましくは350℃以上)480℃以下(好ましくは450℃以下)の温度(ベイナイト変態:図7中、T4)まで冷却し、更に、この温度域で1秒以上(好ましくは5秒以上:図7中、t4)保持する(オーステンパ処理)。これにより、γRへのC濃縮を、多量に且つ極めて短時間に得ることができる。
【0073】
ここで、平均冷却速度が上記範囲を下回ると、所望の組織が得られず、パーライト等が生成する。尚、その上限は特に規定されず、大きければ大きい程良いが、実操業レベルとの関係で、適切に制御することが推奨される。
【0074】
尚、冷却中に所望のCγR量を一層効率よく生成させる為には、上記冷却工程を、▲1▼(A1点〜600℃)の温度(Tq)まで、15℃/s以下の平均冷却速度で冷却する工程;及び▲2▼300℃以上480℃以下の温度まで、20℃/s以上の平均冷却速度で冷却する工程を包含する二段冷却法を採用することが推奨される。
【0075】
このうち、上記▲1▼の温度域まで、15℃/s以下(好ましくは10℃/s以下)の平均冷却速度で冷却すると、まず、フェライトが生成し、フェライト中のCがγに濃縮される。次に、上記▲2▼の温度域まで、20℃/s以上(好ましくは30℃/s以上、より好ましくは40℃/s以上)の平均冷却速度で冷却すると、γがパーライトに変態することが抑制され、γが低温でも残留する結果、所望のγR組織が得られる。尚、当該平均冷却速度の上限は特に限定されず、大きければ大きい程好ましいが、実操業レベルとの関係で、適切に制御することが推奨される。
【0076】
上記の如く冷却し、オーステンパ処理するが、特にオーステンパ処理温度(T4)は、所望の組織を確保して本発明の作用を発揮させるのに重要である。上記温度範囲に制御すれば、安定且つ多量のγRが得られ、これにより、γRによるTRIP効果が発揮される。これに対し、300℃未満では、マルテンサイト相が存在し、一方、480℃を超えるとベイナイト相が多量に増加する。
【0077】
尚、上記保持時間(t4)の上限は特に限定されないが、オーステナイトがベイナイトに変態する時間を考慮すると、3000秒以下、好ましくは2000秒以下に制御することが推奨される。
【0078】
また、上記工程では、所望の混合組織及びγRの他、本発明の作用を損なわない範囲で、更にベイナイト及び/又はマルテンサイト組織が生成していても構わない。また、所望の組織を著しく分解させることなく、本発明の作用を損なわない範囲で、めっき、更には合金化処理しても良い。
【0079】
尚、合金化溶融Znめっき鋼板を製造する場合には、前記▲2▼のめっきを行う前に、所定のFe系プレめっきを行うことが推奨される。これにより、鋼板表面に、Siの表面濃化による悪影響を受けないFe系めっき層が形成され、合金化溶融Znめっき層表面に存在する粗大なZn−Fe合金結晶粒の数が著しく低減する結果、低温でも鋼板とZnめっき層との拡散による合金化処理が迅速に行われ、安定して高い伸び特性を得るのに有効なγRが効率よく得られるのみならず、Siの多量添加による弊害[Si系酸化物による耐パウダリング性劣化、不めっき、めっき表面の摺動性(滑り特性)低下等]等も防止できるからである。
【0080】
ここで、合金化溶融Znめっき層表面に存在する粗大なZn−Fe合金結晶粒とは、具体的には、Zn−Fe合金結晶粒の長片の長さが短片の長さの2倍以下であり、且つ、平均粒径4μm以上の結晶粒を意味する。Fe系プレめっきにより、この様な粗大な結晶粒の個数を5個以下(好ましくは3個以下)/70μm×50μmに抑制することができる。尚、上記Zn−Fe合金結晶粒の平均粒径は、合金めっき層表面をSEM(走査型電子顕微鏡)観察(1500倍)し、70μm×50μmの視野中に存在する該結晶粒の最大長さ方向に測定される長さと、該長さ方向と直交する方向の長さとの平均長さを算出して定められるものである。
【0081】
具体的には、上記(イ)Fe系プレめっきは、連続めっきライン[CGL:焼鈍→(ロ)溶融Znめっき(前記▲2▼と同じ)→(ハ)合金化という一連のライン]通板の前に行われる。
【0082】
以下、上記(イ)〜(ハ)の各工程について説明する。
【0083】
(イ)Fe系プレめっき工程
上記(イ)のFe系プレめっきは、下記関係式(1)を満足する条件で処理するものである。
【0084】
0.06W≦X … (1)
[式中、Wは溶融Znめっきの付着量 (g/m2)、
XはFe系プレめっきの付着量(g/m2
を夫々意味する]
まず、Fe系プレめっきの付着量(X)は、溶融Znめっきの付着量(W)との関係で、Xを0.06W以上に制御する。これは、Xが0.06W未満になると、合金化の進行に伴い、Siが鋼板表面に濃化する為、めっき表面の摺動性に悪影響を及ぼす粗大なZn−Fe合金結晶粒の生成を招くからである。好ましくは0.08W以上、より好ましくは0.10W以上である。その上限は、めっき表面の摺動性向上という観点からすれば特に限定されないが、Xが多過ぎるとコストが上昇し、生産性も低下することから、上限を0.30W、好ましくは0.28W以下、より好ましくは0.25W以下に制御することが推奨される。
【0085】
上記関係式(1)を満足する条件でFe系プレめっきする為には、特に電解時間に留意しながら、通常のめっき処理を行うことが推奨される。具体的には、めっき浴の組成(FeSO4・7H2O:300〜450g/L)、めっき浴pH(1.7〜2.6)、めっき液温:40〜70℃、電流密度:10〜250A/dm2とし、所望のめっき付着量に応じて、電解時間を適切に制御することが推奨される。
【0086】
上記のFe系プレめっきを行った後、溶融Znめっきをし、更に合金化処理しているので、めっき表層部分には、該Fe系プレめっきは消失するが、鋼板と合金化溶融Znめっき層の界面には、本発明の作用を損なわない範囲で該Fe系プレめっき層が残存していても良い。
【0087】
(ロ)溶融Znめっき工程
上記Fe系めっきを行った後、焼鈍してから、上記▲2▼の溶融Znめっきを行うが、その詳細は、前述の▲2▼に記載した通りである。
【0088】
尚、上記溶融Znめっき工程では、めっき浴中有効Al濃度を0.08〜0.12質量%に、めっき浴温度を445〜500℃の範囲に夫々、制御することが推奨される。これにより、合金化が促進され、耐パウダリング性も著しく向上するからである。
【0089】
まず、めっき浴中有効Al濃度は0.08〜0.12%とすることが好ましい。ここで、「めっき浴中有効Al濃度」とは、めっき浴中に含まれるフリーのAlを意味し、詳細には下記式で表されるものである。
【0090】
[有効Al濃度]=[Total Al濃度]−[めっき浴中Fe濃度(%)]
一般に溶融Znめっき工程では、めっき浴有効Al濃度を約0.08〜0.14%の範囲に制御している。しかしながら、上記(イ)〜(ハ)の一連の方法では、所望のγRを得る目的で合金化温度を低く設定している(後記する)為、Al濃度が高くなると合金化しなくなる。従って、本発明ではAl濃度の上限を、好ましくは0.12%(より好ましくは0.11%)に制御する。但し、Al濃度が0.08%未満になると耐パウダリング性が低下する。より好ましくは0.09%以上である。
【0091】
更に、めっき浴温度は445〜500℃の範囲に制御することが好ましい。一般的なめっき浴温度は430〜500℃であるが、本発明では、合金化を抑制するSiを多量に添加している為、合金化を促進し、且つ、耐パウダリング性を高める目的で、上記範囲に設定した次第である。445℃未満では表面にη層(純亜鉛)が残存してしまう。より好ましくは450℃以上である。一方、500℃を超えると耐パウダリング性が低下する。より好ましくは490℃以下である。
【0092】
(ハ)合金化処理工程
合金化処理は、400〜470℃で5〜100秒間行うことが推奨される。合金化温度が低くなると合金化速度が遅く、生産性が低下する。一方、合金化温度が高くなると、生成したγRが消失してしまう。また、合金化処理時間が短いと合金化せず、表面にη層(純亜鉛)が残存してしまう。逆に合金化時間が長くなると生産性が低下する。
【0093】
以上、合金化溶融Znめっき鋼板の製造に当たり、Fe系プレめっきを経由する好ましい態様について説明したが、このFe系プレめっきは、合金化溶融Znめっき鋼板を製造する場合のみならず、溶融Znめっき鋼板を製造する場合においても適用することができる。即ち、溶融Znめっき鋼板を製造する場合において、前述した(イ)Fe系プレめっき、及び(ロ)溶融Znめっきを行えば、鋼板表面に、Siの表面濃化による悪影響を受けないFe系めっき層が形成される結果、安定して高い伸び特性を得るのに有効なγRが効率よく得られるのみならず、Siの多量添加による弊害等を防止できる点で、極めて有用である。
【0094】
(2)[熱延工程]→[冷延工程]→[第一の連続焼鈍工程]→[第二の連続焼鈍工程またはめっき工程]
上記(2)の方法は、熱延工程、冷延工程、第一の連続焼鈍工程、および第二の連続焼鈍工程またはめっき工程を経て、所望の鋼板を製造する方法である。このうち上記方法を特徴付ける第一の連続焼鈍工程の説明図を図8に示す。
【0095】
まず、熱延工程、および冷延工程を実施するが、これらの工程は特に限定されず、通常、実施される条件を適宜選択して採用することができる。上記(2)の方法では、これら熱延工程や冷延工程により、所望の組織を確保するものではなく、その後に実施する第一の連続焼鈍工程、および第二の連続焼鈍工程またはめっき工程を制御して所望の組織を得るところに特徴があるからである。
【0096】
具体的には、上記熱延工程としては、Ar3点以上で熱延終了後、平均冷却速度約30℃/sで冷却し、約500〜600℃の温度で巻取る等の条件を採用することができる。また、冷延工程では、約30〜70%の冷延率の冷間圧延を施すことが推奨される。勿論、これに限定する趣旨では決してない。
【0097】
次に、上記(2)の方法を特徴付ける▲3▼第一の連続焼鈍工程、および▲4▼第二の連続焼鈍工程またはめっき工程について説明する。
【0098】
▲3▼第一の連続焼鈍工程(最初の連続焼鈍工程)
上記工程は、A1点以上A3点以下の温度に加熱保持する工程;及び10℃/s以上の平均冷却速度で、Ms点以上Bs点以下の温度まで冷却する工程を包含する。これらの条件は、所望の母相組織を得る為に設定されたものである。
【0099】
まず、A1点以上A3点以下の温度(図8中、T1)に均熱した後、平均冷却速度(CR)を10℃/s以上(好ましくは20℃/s以上)に制御し、Ms点以上Bs点以下の温度(図8中、T2)まで冷却することにより、パーライト変態を避けながら、所望の混合組織(焼入ベイナイト+フェライト)を得る。尚、本発明では、フェライトを5%以上30%未満に制御することが推奨されるが、この場合には、平均冷却速度を30℃/s以上に制御することが好ましい。
【0100】
また、上記平均冷却速度は、フェライトの生成のみならず、最後のγRの形態にも影響を与え、平均冷却速度が速ければ(好ましくは30℃/s以上、より好ましくは50℃/s以上)、ラス状を呈することになる。尚、平均冷却速度の上限は特に限定されず、大きければ大きい程良いが、実操業レベルとの関係で、適切に制御することが推奨される。
【0101】
▲4▼第二の連続焼鈍工程(後の連続焼鈍工程)またはめっき工程
上記工程は、A1点以上A3点以下の温度で10〜600秒加熱保持する工程;3℃/s以上の平均冷却速度で、300℃以上480℃以下の温度まで冷却する工程;及び該温度域で1秒以上保持する工程を包含する。
【0102】
上記工程は、前述した(1)の方法における▲2▼連続焼鈍工程またはめっき工程と同じであり、前記▲3▼第一の連続焼鈍工程で生成した混合母相組織を焼戻して所望の(焼戻ベイナイト+フェライト)組織を得ると共に、第2相(γR)を生成させる為に設定されたものである。
【0103】
尚、合金化溶融Znめっき鋼板を製造する場合には、前述した(イ)〜(ハ)の一連の方法を採用することが推奨される。これにより、合金化溶融Znめっき層の表面に存在する「粗大な結晶粒」の個数が抑制される結果、γRによる延性向上作用を維持しつつ、めっき表面の摺動性にも優れた鋼板が得られるからである。その詳細は前述した方法を参照すれば良い。
【0104】
以下実施例に基づいて本発明を詳述する。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することは全て本発明の技術範囲に包含される。
【0105】
【実施例】
実施例1:成分組成の検討(その1)
本実施例では、C量が0.25%以下の低C成分系鋼種[強度(TS)×伸びフランジ性(λ)が高く、且つ、溶接性も考慮した系]を中心に、成分組成を変化させた場合における機械的特性の影響について調べた。具体的には、表1に記載の成分組成からなる供試鋼(表中の単位は質量%)を真空溶製し、実験用スラブとした後に、前述した(1)の方法(熱延→連続焼鈍)に従って、板厚2.0mmの熱延鋼板を得た。
【0106】
具体的には、各スラブを1150℃で30分間加熱した後、熱延時の加熱温度(SRT)を1150℃、熱延時の仕上温度(FDT)を850℃とし、50℃/sの平均冷却速度で室温まで冷却した(熱延工程)後、2相域にて120秒焼鈍し、次いで、平均冷却速度30℃/sで、400℃まで冷却して30秒保持(オーステンパ処理)する条件を基本条件として実施した。
【0107】
この様にして得られた鋼板について、引張強度(TS)、伸び[全伸びのこと(EI)]、降伏強度(YP)、及び伸びフランジ性(穴広げ性:λ)を、下記要領で夫々測定した。
【0108】
まず、引張試験はJIS5号試験片を用い、引張強度(TS)、伸び(EI)、及び降伏強度(YP)を測定した。尚、引張試験の歪速度は1mm/secとした。
【0109】
また、伸びフランジ性試験は、直径100mm、板厚2.0mmの円盤状試験片を用いた。具体的には、φ10mmの穴をパンチ打抜き後、60°円錐パンチでばり上にて穴広げ加工することにより、亀裂貫通時点での穴広げ率(λ)を測定した(鉄鋼連盟規格JFST 1001)。
【0110】
更に、上記鋼板中組織の面積率は、鋼板をレペラー腐食し、透過型電子顕微鏡(TEM;倍率15000倍)観察により組織を同定した後、光学顕微鏡観察(倍率1000倍)により組織の占積率を測定した。尚、γRの占積率及びγR中のC濃度は、鋼板の1/4の厚さまで研削した後、化学研磨してからX線回折法により測定した(ISIJ Int.Vol.33.(1933),No.7,P.776)。
【0111】
これらの結果を表2に示す。
【0112】
【表1】
Figure 0004188609
【0113】
【表2】
Figure 0004188609
【0114】
これらの結果より、以下の様に考察することができる(以下のNo.はすべて、表2中の実験No.を意味する)。
【0115】
まず、No.3〜6、8〜18、及び20〜26はいずれも、本発明で特定する要件を満足しているので、良好な特性の鋼板が得られた。
【0116】
尚、本実施例は主に、成分組成と機械的特性との関係を明らかにすべく実験を行ったものであるが、特に第2相組織であるγRの形態等が機械的特性にどの様な影響を及ぼすか調べる目的で、同一鋼種を用い、製造条件を変化させた実験も行い、これらの結果も表2に併記している。
【0117】
例えば表2のNo.2、3及び16はいずれも同一鋼種(表1のNo.2)を使用し、製造条件を変えた例[No.2はオーステンパ温度が低い為、γR中のC濃縮が充分行われなかった例;No.3は、熱延で仕上圧延後、700℃において空冷を10秒間行った為、最終組織のフェライト(F)分量が47%と高くなった例;No.16は熱延で仕上圧延後、巻取まで急冷(平均冷却速度40℃/s)した為、No.3に比べ、最終組織のフェライト(F)量が少ない例]であるが、No.3及び16の如く、γR中のCγRが本発明の好ましい範囲(0.8%以上)に制御されたものは、好ましい範囲を外れるNo.2に比べ、伸びが向上している。
【0118】
また、表2のNo.5、18及び20はいずれも同一鋼種(表1のNo.4)を使用し、製造条件を変えた例[No.5は、前記No.3と同じ条件で製造した例;No.18は、前記No.16と同じ条件で製造した例;No.20は、前記No.5と同様の熱延を行った後、焼鈍する際、オーステンパ処理温度(T4)で保持した後、30℃/sの平均冷却速度で室温まで冷却した例]であるが、No.5及び20に比べて焼戻ベイナイトの占積率が多いNo.18は、伸びフランジ性に優れている。
【0119】
更にNo.21〜23は、いずれも同一鋼種(表1のNo.3)を用い、熱延時の加熱温度(SRT)を低くした例(No.21は1100℃、No.22は1050℃、No.23は1000℃)であり、熱延時の加熱温度を高温に制御したNo.17に比べ、γR中に占めるラス状γRの面積率は減少し、伸びフランジ性が低下した。
【0120】
またNo.24〜26は、いずれも同一鋼種(表1のNo.3)を用い、SRT及び熱延時の平均冷却速度を変えた例(No.24はSRT:1200℃、平均冷却速度:60℃/s、No.25はSRT:1200℃、平均冷却速度:20℃/s、No.26はSRT:1000℃、平均冷却速度:20℃/s)である。このうちNo.25はSRTを高めに設定しているので、γR中に占めるラス状γRの面積率は76%と、好ましい範囲を満足している。また、No.24はSRTも高く、冷却速度も著しく速い為、ラス状γRの面積率は96%にまで上昇し、伸びフランジ性も極めて良好であった。これに対し、No.26は、SRTも低く、冷却速度も遅い為、ラス状γRの面積率は30%と低下した。
【0121】
参考までに、図9に、本発明鋼板(No.3)のTEM写真(倍率:15000倍)を示す。この写真より、本発明鋼板は、明確なラス状組織を呈する焼戻ベイナイト及びフェライトを有していることが分かる。
【0122】
これに対し、本発明で特定する要件のいずれかを満足しない下記例は夫々、以下の不具合を有している。
【0123】
まず、No.1はC量が少ない例であり、所望のElを確保することができなかった。
【0124】
No.2はCγR量が0.8%未満の例であり、所望のElを確保することができなかった。
【0125】
No.7は、Mn量、及び(Si+Al)の合計量が少ない例であり、所望のγRが得られない為、Elが低かった。
【0126】
また、No.19は、T3均熱以降の平均冷却速度を3℃/sと遅くして製造した為、パーライト組織が多く、所定の焼戻ベイナイトが得られなかった例であり、所定の焼戻ベイナイトが得られたNo.4及び17[No.4は熱延で仕上圧延後、700℃において空冷を10秒間行った例;No.17は熱延で仕上圧延後、巻取まで急冷(平均冷却速度40℃/s)した例]に比べ、El及びλが低下した。
【0127】
尚、参考までに、従来のTRIP鋼板における各特性評価の結果を表3に示す。このうち.No.21は、表1のNo.2の供試鋼を用いたフェライト・マルテンサイトのDP鋼板;No.22は、表1のNo.3の供試鋼を用いたポリゴナルフェライトを母相とする従来のTRIP鋼板;及びNo.23は、表1のNo.2の供試鋼を用いた、従来のフェライト・ベイナイトの2相組織鋼板である。
【0128】
【表3】
Figure 0004188609
【0129】
表3より、No.21は、伸び、及び伸びフランジ性が劣化し、No.22は伸びフランジ性が劣化し、No.23は伸びが劣化する、といった不具合を夫々有している。
【0130】
実施例2:成分組成の検討(その2)
本実施例では、C量が0.25〜0.6%以の高C成分系鋼種[強度(TS)×伸びフランジ性(λ)が高く、且つ、TS×伸び(El)も高い系]を中心に、成分組成を変化させた場合における機械的特性の影響について調べた。具体的には、表4に記載の成分組成からなる供試鋼(表中の単位は質量%)を真空溶製し、実施例1と同様にして熱延鋼板を製造し、実施例に記載の方法で、各特性等を評価した。
【0131】
これらの結果を表5に示す。
【0132】
【表4】
Figure 0004188609
【0133】
【表5】
Figure 0004188609
【0134】
これらの結果より、以下の様に考察することができる(以下のNo.はすべて、表5中の実験No.を意味する)。
【0135】
まず、No.3〜6、8〜18、及び20〜26はいずれも、本発明で特定する要件を満足しているので、良好な特性の鋼板が得られた。
【0136】
尚、本実施例は主に、成分組成と機械的特性との関係を明らかにすべく実験を行ったものであるが、特に第2相組織であるγRが機械的特性にどの様な影響を及ぼすか調べる目的で、同一鋼種を用い、製造条件を変化させた実験も行い、これらの結果も表5に併記している。
【0137】
例えば表5のNo.3、及び16はいずれも同一鋼種(表4のNo.3)を使用し、製造条件を変えた例[No.3は熱延で仕上圧延後、700℃において空冷を10秒間行った例;No.16は熱延で仕上圧延後、巻取まで急冷(平均冷却速度40℃/s)した為、No.3に比べ、最終組織のフェライト(F)量が少ない例]であるが、No.3に比べ、焼戻ベイナイトの占積率が多いNo.16は伸びフランジ性に優れている。
【0138】
また、表5のNo.6及び18はいずれも同一鋼種(表4のNo.6)を使用し、製造条件を変えた例(No.6は前記No.4と同じ条件で製造した例;No.18は前記No.17と同じ条件で製造した例)であるが、No.6に比べて焼戻ベイナイトの占積率が多いNo.18は、伸びフランジ性に優れている。
【0139】
更にNo.21〜23は、いずれも同一鋼種(表4のNo.4)を用い、熱延時の加熱温度を低くした例(No.21は1100℃、No.22は1050℃、No.23は1000℃)であり、熱延時の加熱温度を高温に制御したNo.17に比べ、γR中に占めるラス状γRの面積率は減少し、伸びフランジ性が低下した。
【0140】
またNo.24〜26は、いずれも同一鋼種(表4のNo.4)を用い、SRT及び熱延時の平均冷却速度を変えた例(No.24はSRT:1200℃、平均冷却速度:60℃/s、No.25はSRT:1200℃、平均冷却速度:20℃/s、No.26はSRT:1000℃、平均冷却速度:20℃/s)である。このうちNo.25はSRTを高めに設定しているので、γR中に占めるラス状γRの面積率は78%と、好ましい範囲を満足している。また、No.24はSRTも高く、冷却速度も著しく速い為、ラス状γRの面積率は87%に上昇し、伸びフランジ性も極めて良好であった。これに対し、No.26は、SRTも低く、冷却速度も遅い為、ラス状γRの面積率は35%と低下した。
【0141】
これに対し、本発明で特定する要件のいずれかを満足しない下記例は夫々、以下の不具合を有している。
【0142】
まず、No.1はC量が0.15%と、他の例(C量が0.4%以上)に比べて少ないため、Elが低い。
【0143】
No.2もC量が0.20%と少なく、且つ、オーステンパ温度が低い為、γR中のC濃縮が充分行われなかった為、CγR量が0.8%未満の例であり、Elが低い。
【0144】
No.7は、Mn量、及び(Si+Al)の合計量が少ない例であり、所望のγRが得られない為、Elが低かった。
【0145】
また、No.19は、T3均熱以降の平均冷却速度を3℃/sと遅くして製造した為、パーライト組織が多く、所定の焼戻ベイナイトが得られなかった例であり、所定の焼戻ベイナイトが得られたNo.4及び17[No.4は熱延で仕上圧延後、700℃において空冷を10秒間行った例;No.17は熱延で仕上圧延後、巻取まで急冷(平均冷却速度40℃/s)した例]に比べ、El及びλが低下した。
【0146】
実施例3:製造条件の検討
本実施例では、表1のNo.4、及び表4のNo.4の実験用スラブを用い、表6及び表7に示す種々の製造条件を行った。熱延板の板厚は2.0mmとし、これをベースとして実施例を行った。
【0147】
次に、実施例1と同様の方法で、該鋼板の組織を調べた。これらの結果を表6及び7に併記する。尚、本実施例に用いた上記鋼種は、C量が相違するのみ(表1のNo.4はC:0.2 0%;及び表4のNo.4はC:0.48%)で他の成分含有量は概ね同じである為、得られた組織構成(第2相の種類)はすべて同じであった。
【0148】
【表6】
Figure 0004188609
【0149】
【表7】
Figure 0004188609
【0150】
まず、表6のNo.1〜25は、前述した(1)の方法に従って製造したものである。詳細には、No.1〜23は熱延→連続焼鈍を施した例であり、このうちNo.5〜7及びNo.25は熱延工程で一段冷却を行った例、その他は二段冷却を行った例である。また、No.24〜25は熱延→めっき(更に合金化処理)を施した例であり、このうちNo.24は熱延工程で二段冷却を行った例であり、No.25は一段冷却を行った例である。
【0151】
これらのうちNo.1〜3、7、9〜11、13、14、16、18、19、及び22〜25は、本発明で特定する条件で製造した例であり、所望の組織が得られた。
【0152】
尚、Fe系プレめっき処理によるめっき特性の改善効果を確認すべく、表6のNo.24を用い、プレめっき処理を施したこと以外は表6に示す条件で熱処理し、合金化溶融Znめっき鋼板を得た。詳細には、表6に示す条件で熱延した後、以下の条件でFe系プレめっきを行い(Fe系プレめっき付着量4.0g/m2,溶融Znめっき付着量52g/m2)、次いでめっきし[めっき浴:Zn−0.10%Al(有効Al濃度),浴温:460℃]、引続き、合金化処理した(合金化温度450℃、合金化時間45秒)。
【0153】
[Fe系プレめっきの条件]
めっき浴:FeSo4・7H2O(400g/L)
液pH :2.0
液温 :60℃
電流密度:50A/dm2
この様にFe系プレめっき処理した合金化溶融Znめっき鋼板は、プレめっき処理をしない場合と同じ、良好な組織が得られると共に、不めっきも見られず、めっき表面の摺動性及び耐パウダリング性にも優れる等、めっき特性も極めて良好であった(表には示さず)。
【0154】
これに対し、本発明で特定するいずれかの条件を満足せずに製造した下記例は、夫々、以下の不具合を有している。
【0155】
No.4は、熱延時の巻取温度(CT)が低い例であり、フェライト及び焼戻ベイナイトが生成した。
【0156】
No.5は、上記CTが高い例であり、従来のTRIP鋼(ポリゴナルフェライトを母相とするTRIP鋼)と同じ組織となり、所望の組織が得られなかった。
【0157】
No.6は、熱延時の平均冷却速度(CR)が低い例であり、熱延ままの組織中に焼入ベイナイトがないため、所望の組織が得られず、従来のTRIP鋼組織が生成した。
【0158】
No.8は、連続焼鈍時の2相域温度(T3)が高い例であり、所望の組織が得られず、従来のTRIP鋼組織が生成した。
【0159】
No.12は、上記T3が低い例であり、γR組織が得られなかった。
【0160】
No.15は、連続焼鈍時の2相域温度での保持時間(t3)が短い例であり、焼戻不足となって所望の焼戻ベイナイトが得られなかった。
【0161】
No.17は、連続焼鈍時における平均冷却速度(CR)が小さい例であり、パーライトが生成した。
【0162】
No.20及び21は、オーステンパ処理温度(T4)が低い(即ち、オーステンパ処理を施さない)例であり、所望の組織が得られず、マルテンサイトが生成した。
【0163】
次に、表6のNo.26〜30は、前述した(1)の方法において、冷延処理を施した例である。詳細には、No.26〜28は熱延→冷延→連続焼鈍を、No.29〜30は熱延→冷延→めっき(更に合金化処理)を施した例であり、このうちNo.28及び30は、熱延工程で一段冷却を行った例、その他は二段冷却を行った例である。
【0164】
これらのうちNo.26、28〜30は、本発明で特定する条件で製造した例であり、所望の組織が得られた。
【0165】
これに対し、No.27は冷延率が高い例であり、所望の焼戻ベイナイトが得られなかった。
【0166】
最後に、表7のNo.31〜57は、前述した(2)の方法に従って製造したものである。詳細には、No.31〜56は熱延→冷延→第一の連続焼鈍→第二の連続焼鈍を、No.57は熱延→冷延→第一の連続焼鈍→めっき(更に合金化処理)を施した例である。
【0167】
このうちNo.32〜34、36、37、39、41〜43、46〜47、49、51〜52、及び55〜57は、本発明で特定する条件で製造した例であり、所望の組織が得られた。
【0168】
尚、Fe系プレめっき処理によるめっき特性の改善効果を確認すべく、表7のNo.57を用い、前述した表6のNo.24と同じ条件でFe系プレめっき及び合金化処理を行った。その結果、Fe系プレめっき処理した合金化溶融Znめっき鋼板は、プレめっき処理をしない場合と同じ、良好な組織が得られると共に、不めっきも見られず、めっき表面の摺動性及び耐パウダリング性にも優れる等、めっき特性も極めて良好であった(表には示さず)。
【0169】
これに対し、本発明で特定する条件のいずれかを満足せずに製造した下記例は、夫々、以下の不具合を有している。
【0170】
No.31は、第一の連続焼鈍時におけるγ域の温度(T1)が高い例であり、焼戻ベイナイトではなく、フェライト+焼戻マルテンサイトとなった。
【0171】
No.35は、上記T1が低い例であり、所望のγRが得られなかった。
【0172】
No.38は、第一の連続焼鈍時における平均冷却速度(CR)が小さい例であり、ポリゴナルフェライト及びパーライトが生成した。
【0173】
No.40は、第二の連続焼鈍時における2相温度域温度(T3)が高い例であり、従来のTRIP鋼組織となった。
【0174】
No.44は、上記T3が低い例であり、所望のγRが得られなかった。
【0175】
No.45は、第二の連続焼鈍時における2相温度域での保持時間(t3)が長い例であり、母相がフェライト組織となり、焼戻ベイナイトは消失した。
【0176】
No.48は、上記t3が短い例であり、焼戻不足となり、所望の焼戻ベイナイトが得られなかった。
【0177】
No.50は、第二の連続焼鈍時における平均冷却速度(CR)が小さい例であり、パーライトが生成した。
【0178】
No.53及び54は、オーステンパ処理温度(T4)が低い(即ち、オーステンパ処理を施さない)例であり、マルテンサイトが生成し、所望の組織が得られなかった。
【0179】
【発明の効果】
本発明は上記の様に構成されているので、約500〜1400MPa級の高強度及び超高強度域において、優れた伸びフランジ性および全伸びの両特性を兼ね備えた高強度鋼板、及び、この様な鋼板を効率よく製造することができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】同一成分系における焼戻ベイナイトの硬度と、ポリゴナルフェライトの硬度を対比したグラフである。
【図2】焼戻ベイナイト及びポリゴナルフェライトの硬度に及ぼすC量の影響を示すグラフである。
【図3】本発明における残留オーステナイト(γR)の特徴を模式化した図である。
【図4】本発明鋼板のEBSP写真(×1000)である。
【図5】従来の残留オーステナイト鋼板のEBSP写真(×1000)である。
【図6】(1)の方法における熱延工程を説明した図である。
【図7】(1)の方法における連続焼鈍またはめっき工程を説明した図である。
【図8】(2)の方法における第一の連続焼鈍工程を説明した図である。
【図9】実施例1におけるNo.3のTEM写真である。
【符号の簡単な説明】
1 旧オーステナイト粒界
2 パケット粒界
3 ブロック境界
4 ベイナイトラス

Claims (14)

  1. 質量%で、
    C :0.06〜0.6%、
    Si+Al:0.5〜3%、
    Mn:0.5〜3%、
    P :0.15%以下(0%を含まない)、
    S :0.02%以下(0%を含まない)
    を含有し、
    残部:鉄及び不純物であり、且つ、
    組織は、母相組織と第2相組織と残部組織からなり、
    前記母相組織は、焼戻ベイナイトを全組織に対して占積率で15%以上、及びフェライトを全組織に対して占積率で5〜60%含有し、
    前記第2相組織は、残留オーステナイトを全組織に対して占積率で3〜30%含有すると共に、該残留オーステナイト中のC濃度(CγR)は0.8%以上であり、
    前記残部組織は、ベイナイト及び/又はマルテンサイトを全組織に対して占積率で9%以下含有しても良いものであることを特徴とする加工性に優れた高強度鋼板。
  2. 前記残留オーステナイトはラス状を呈しているものである請求項1に記載の高強度鋼板。
  3. 残留オーステナイト中に占める前記ラス状の残留オーステナイトは、占積率で60%以上である請求項2に記載の高強度鋼板。
  4. 前記フェライトを全組織に対して占積率で5%以上30%未満含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の高強度鋼板。
  5. 更に、質量%で、
    Mo:1%以下 (0%を含まない),
    Ni:0.5%以下(0%を含まない),
    Cu:0.5%以下(0%を含まない),
    Cr:1%以下(0%を含まない)
    の少なくとも一種を含有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の高強度鋼板。
  6. 更に、質量%で、
    Ti:0.1%以下(0%を含まない),
    Nb:0.1%以下(0%を含まない),
    V:0.1%以下(0%を含まない)
    の少なくとも一種を含有するものである請求項5に記載の高強度鋼板。
  7. 更に、質量ppmで、
    Ca:30ppm以下(0ppmを含まない)、及び/又は
    REM:30ppm以下(0ppmを含まない)
    を含有するものである請求項5または6に記載の高強度鋼板。
  8. 熱延工程、及び連続焼鈍工程またはめっき工程を施すことにより、請求項1〜7のいずれかに記載の高強度鋼板を製造する方法であって、該熱延工程は、(Ar3−50)℃以上の温度で仕上圧延を終了する工程;及び10℃/s以上の平均冷却速度で、Ms点以上Bs点以下まで冷却して巻取る工程を包含し、
    該連続焼鈍工程またはめっき工程は、A1点以上A3点以下の温度で10〜600秒加熱保持する工程;3℃/s以上の平均冷却速度で、300℃以上480℃以下の温度まで冷却する工程;及び該温度域で1秒以上保持する工程を包含することを特徴とする高強度鋼板の製造方法。
  9. 前記熱延工程は、
    (Ar3−50)℃以上の温度で熱延を終了する工程;700±100℃の範囲の温度域まで、30℃/s以上の平均冷却速度で冷却する工程;該温度域で空冷を1〜30秒間行う工程;空冷後、Ms点以上Bs点以下の温度まで、30℃/s以上の平均冷却速度で冷却して巻取る工程を包含するものである請求項8に記載の製造方法。
  10. 前記連続焼鈍工程は、
    1点以上A3点以下の温度で10〜600秒加熱保持する工程;(A1点〜600℃)
    の温度まで、15℃/s以下の平均冷却速度で冷却する工程;300℃以上480℃以下の温度まで、20℃/s以上の平均冷却速度で冷却する工程;及び該温度域で1秒以上保持する工程を包含するものである請求項8または9に記載の製造方法。
  11. 前記めっき工程の前に、下記関係式(1)を満足する条件でFe系プレめっき処理する工程を包含するものである請求項8〜10のいずれかに記載の製造方法。
    0.06W≦X … (1)
    [式中、Wは溶融Znめっきの付着量(g/m2)、
    XはFe系プレめっきの付着量(g/m2
    を夫々意味する]
  12. 熱延工程、冷延工程、第一の連続焼鈍工程、及び第二の連続焼鈍工程またはめっき工程を施すことにより、請求項1〜7のいずれかに記載の高強度鋼板を製造する方法であって、
    該第一の連続焼鈍工程は、A1点以上A3点以下の温度で加熱保持する工程;及び10℃/s以上の平均冷却速度で、Ms点以上Bs点以下の温度まで冷却する工程を包含し、
    該第二の連続焼鈍工程またはめっき工程は、A1点以上A3点以下の温度で10〜600秒加熱保持する工程;3℃/s以上の平均冷却速度で、300℃以上480℃以下の温度まで冷却する工程;及び該温度域で1秒以上保持する工程を包含することを特徴とする高強度鋼板の製造方法。
  13. 前記第二の連続焼鈍工程は、
    1点以上A3点以下の温度で10〜600秒加熱保持する工程;(A1点〜600℃)
    の温度まで、15℃/s以下の平均冷却速度で冷却する工程;300℃以上480℃以下の温度まで、20℃/s以上の平均冷却速度で冷却する工程;及び該温度域で1秒以上保持する工程を包含するものである請求項12に記載の製造方法。
  14. 前記めっき工程の前に、下記関係式(1)を満足する条件でFe系プレめっき処理する工程を包含するものである請求項12または13に記載の製造方法。
    0.06W≦X … (1)
    [式中、Wは溶融Znめっきの付着量 (g/m2)、
    XはFe系プレめっきの付着量(g/m2
    を夫々意味する]
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