JP3958959B2 - 粗h形材の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、その断面の形状が矩形やドッグボーン形などである材料(以下、それぞれ矩形材やドッグボーン形材と称する)を素材として、その断面の形状がH形またはHに類似する形状の材料(以下、H形材と称する)を製造する工程における途中段階での材料(以下、中間材と称する)の一つである、その断面の形状が粗雑なH形をした粗H形材をその材料の塑性変形を利用した加工により製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
粗H形材は、素材からH形材を製造する工程における途中の被加工材であり、図14に鋼製の矩形材m0を素材に、圧延によりH形材fを製造する工程を示す。
【0003】
加熱炉1で矩形材m0を圧延に必要な温度に加熱した後、ブレークダウン圧延機2の孔型ロールにより、前記矩形材m0の断面の長辺(以下、板幅と称する)方向に該矩形材m0を圧下してフランジm1−2を形成してドッグボーン形材m1とし、さらに該ドッグボーン形材m1を前記矩形材m0の断面の短辺(以下、板厚と称する)方向に圧下することにより仕上整形し粗H形材m2を得る。この後は、例えば粗ユニバーサル圧延機3および該粗ユニバーサル圧延機3に近接して配置したエッジャー圧延機4からなる圧延機群によりリバース圧延を行い、前記粗H形材m2からその断面がよりH形材fのそれに近い中間材m3とし、最後に仕上ユニバーサル圧延機5により前記中間材m3を整形してH形材fとする加工工程がつづく。
【0004】
素材が矩形材m0である場合、ドッグボーン形材m1または粗H形材m2の製造方法については、特許第1288543号、特許第2036476号などの公報により明らかにされている。これらの公報にもとづいて、ブレークダウン圧延機2の上下ロール対2−1、2−2に必要な孔型を配置した例を図15に示し、該孔型を用いることにより矩形材m0からドッグボーン形材m1を経由して粗H形材m2を製造する過程を図16(a)〜(d)に示す。なお、本発明においては、矩形材m0をその板幅方向に圧下することによりフランジを形成またはフランジを成長させてドッグボーン形材m1を製造する孔型G1、G2およびG3をフランジ形成孔型と呼び、つづいて前記ドッグボーン形材m1を前記矩形材m0の板厚方向に圧下して断面の形状を整え、粗H形材m2を製造する孔型G4を仕上整形孔型と呼ぶ。
【0005】
図16において、(a)は孔型G1により矩形材m0の断面の短辺にV字型誘導溝(以下、誘導溝と称する)g1を形成する圧延の様子を、(b)は孔型G2によりフランジm1−2を形成する圧延の様子を、(c)は表面疵を未然に防止するため孔型G3により誘導溝の形状をg2からg3のように浅くする様子を、そして(d)は孔型G4により仕上整形して粗H形材m2を得る様子を示す。この例では、フランジ形成孔型G1〜G3による、もとの矩形材m0の板幅方向への圧下によりドッグボーン形材m1が、さらに仕上整形孔型G4による、もとの矩形材m0の板厚方向への圧下により粗H形材m2が製造されている。
【0006】
以下、図15と図16(a)〜(d)を用いて従来技術の詳細を説明する。
【0007】
板幅A0、板厚B0の矩形材m0は、最初に孔型G1の楔形突起(以下、突起と称する)G1−2により板幅方向に1パスないし2パス程度の圧下を受け、短辺B0に誘導溝g1が形成される。孔型G1は幅がs1であり、孔底は中央部の突起G1−2と、該突起G1−2を対称軸とする両側の溝G1−3から成り立っている。矩形材m0の板厚中央部に誘導溝g1を形成するためには、板幅の両端部を孔型G1の側壁部G1−1によって挟持することが必要であり、したがって幅s1は矩形材m0の板厚B0にほぼ等しく設定してある。なお、孔型G1の役割は矩形材m0の短辺B0に誘導溝g1を形成することであり、矩形材m0の板幅を縮小することはしない。したがって、孔型G1出しの被加工材の幅(以下、ウェブ高さと称する)A1はほぼもとの矩形材m0の板幅A0に等しい。
【0008】
次に、孔型G1出しの被加工材に対し、孔型G2を用いてもとの矩形材m0の板幅方向へ数パスないし10数パスの圧下を行うことにより、突起G2−2の作用で被圧下面付近で圧下方向と直角な方向のメタルフローが生じフランジm1−2が形成される。この圧延過程で、突起G2−2は倒れや捻れなしに被加工材を孔型へ誘導する役割をも同時に果たしている。
【0009】
また、幅が前記孔型G2のそれs2とほぼ同じか少し大きい値s3に設計されている孔型G3を用いて、孔型G2出しの被加工材に対し2パス程度の圧下を施すことにより、フランジm1−2を孔型G3内に充満させる。同時に、突起G3−2の頂角θ3は孔型G2のそれθ2よりも大きく、高さh3は孔型G2のそれh2よりも小さく構成されており、これにより孔型G2で形成された誘導溝g2を消去して、以降の工程で当該部位にラップ疵が発生するのを防止する。以上述べた孔型G1から孔型G3にいたるフランジ形成圧延においては、矩形材m0の幅厚比A0/B0が大きいためロール圧下作用がその板幅方向中央部まで浸透しない。その結果、被加工材の孔型G1出し、孔型G2出しおよび孔型G3出しにおける被加工材のウェブm1−1の板厚b1、b2およびb3はいずれももとの矩形材m0の板厚B0にほぼ等しい。
【0010】
さらに、孔型G3出しのドッグボーン形材m1に対して、仕上整形孔型G4によりウェブm1−1の板厚を減じるとともにフランジm1−2の断面の形状を整えることにより、ウェブ高さA×フランジ幅B×ウェブ厚b4の粗H形材m2を製造する。
【0011】
孔型G4の形状は、ウェブ厚に対するフランジ厚の比がc4/b4=1.0〜2.4程度の粗H形材m2を仕上整形するための形状になっている。これは、図14に示すH形材fのウェブ厚に対するフランジ厚の比がcf/bf=1.0〜2.4程度であることに由来している。一方、孔型G3出しのドッグボーン形材m1は通常c3/b3=0.5〜0.6程度であり、該ドッグボーン形材m1からc4/b4=1.0〜2.4程度の粗H形材m2を整形するために、孔型G4の仕上整形圧延では被加工材のウェブはフランジよりも大きい圧下率で圧延される。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
上述した技術を適用することにより矩形材m0からの粗H形材m2の製造が可能になったが、この技術を適用するにあたっては、改善すべき問題点が残っている。すなわち、孔型G4による仕上整形圧延ではフランジよりもウェブの方が大きい圧下率で圧減されるので、ウェブの伸びがフランジの伸びよりも大きく、粗H形材m2の長さ方向の両端部には、図17に示すウェブが突出したタングが発生する。このままの状態でH形材fまで製造しようとすると、このタングは次第に成長していき、ロールやガイドと干渉してミスロールを誘発し、歩留や能率の低下の原因になる。そのため、上記タングは加工工程において切り捨てる必要がある。
【0013】
タングの発生メカニズムを以下に詳しく説明する。
【0014】
矩形材m0から粗H形材m2にいたる製造圧延過程において、それぞれ図3および図4に定義する被加工材のフランジ幅とクロップ長の推移を図5(a)、(b)に示す。図5において(a)はフランジ幅の推移、(b)はクロップ長の推移を示す。ただし、クロップ長は被加工材の長さ方向に沿う最先端部〜正常端部間の距離であり、クロップ形状に対応して正負の符号を付与することとする。すなわち、クロップ形状が、図4(a)のようにフランジがウェブに対して突出したフィッシュテールの場合には正、逆に図4(b)のようにウェブがフランジに対して突出したタングの場合には負とする。図5(a)、(b)において、圧延は曲線に沿って左から右へ進む。すなわち、もとの矩形材m0が点P0に対応し、孔型G1により前記矩形材m0の短辺部B0に誘導溝g1を形成した状態が点P1、孔型G2によりフランジm1−2が形成された状態が点P2、孔型G3によりドッグボーン形材m1が形成された状態が点P3、仕上整形孔型G4により粗H形材m2が整形された状態が点P4に対応する。点P0から点P3におけるフランジ形成過程においては、もとの矩形材m0の板幅方向、すなわち生成するドッグボーン形材m1のウェブ高さ方向への圧下が行われ、この間ウェブ厚は殆ど変化しないので、横軸にはウェブ高さを選択している。一方、点P3から点P4における仕上整形過程では、ドッグボーン形材m2のウェブ高さは殆ど一定のままウェブ厚方向の圧下が行われるので、横軸にはウェブ厚を選択している。
【0015】
次に、点P0においては、ウェブ高さは矩形材m0の板幅A0に等しく、未だ加工を受けていない状態なのでクロップ長は0であり、フランジ幅は矩形材m0の板厚B0に等しい。点P1は、板幅がほぼA0のまま矩形材m0の短辺B0に孔型G1により誘導溝g1を付与した状態であり、ここでもクロップは殆ど生成しておらず、またフランジ幅は殆ど増加しないので、点P1は殆ど点P0と同じ点である。
【0016】
また、孔型G2およびG3の圧延では、ウェブ高さの減少に伴い、次第にフランジ幅が増加していき、点Qにおいてフランジ先端部が孔型G2の側壁G2−1に接触した後は、フランジ幅は一定値で推移し点P2で孔型G2の圧延が終了する。孔型G3により被加工材は点P2から点P3まで変化する。点P1から点P3において、フランジは主にフランジ幅方向に拡がるが、長さ方向にも僅かながら伸びる。ただし、ロールの圧下作用はウェブまでは浸透しないのでウェブは殆ど伸びず、被加工材の長さ方向の両端部にはフィッシュテールが形成され、かつこのフィッシュテールが次第に大きくなりクロップ長が増加する。
【0017】
点P3から点P4の範囲に対応する孔型G4による仕上整形圧延においては、ウェブ厚が直接圧下されフランジは圧下されないため、ウェブの伸びがフランジのそれよりも常に大きく、圧下とともにクロップ長が単調減少(フィッシュテールが次第に消失)していく。最終的には点Rを境に被加工材の長さ方向端部領域(以下、端部と称する)の形状はフィッシュテールからタングに変わり、その後タングは単調に伸びていき、点P4で粗H形材m2になったとき最大になる。
【0018】
粗H形材m2は、この後ユニバーサル圧延機3でフランジとウェブが同時に圧下されるため、フランジとウェブの伸びはほぼ同じであり、新たなクロップの発生は僅かである。したがって、点P4におけるクロップ重量が歩留落ちの大部分を占めており、また切断に要する時間だけ能率が落ちることになる。
【0019】
本発明は、上記の問題点を解決するものであって、粗H形材m2の両端部に発生するクロップの長さを制御し、切り捨てによる歩留落ちや切断に伴う時間ロスを軽減または解消することを目的とするものである。
【0020】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記の問題点を解決するにあたり、まず粗H形材m2のクロップ長の制御について鋭意検討した結果、もとの矩形材m0からフランジm1−2を形成するために孔型G1〜G3を用いて板幅方向に圧下にするに際し、該矩形材m0の板幅に応じて各孔型に割り当てる圧下量の配分を変えればそれが可能であることを見いだした。
【0021】
上述したように、粗H形材m2の両端部にタングが発生する原因は、仕上整形圧延において被加工材のウェブの圧下率がフランジのそれよりも大きいからである。これは、一般に粗H形材の仕上整形加工において避けられないものであり、ウェブ厚に対するフランジ厚の比がドッグボーン形材m1よりも粗H形材m2の方が大きいことに由来している。
【0022】
ところで、孔型G3出し段階でドッグボーン形材m1の両端部には、タングとは逆の形状であるフィッシュテールが発生する。本発明者らは、板幅の大きい矩形材m0を素材に選択することによりフランジ形成加工における総加工量(総圧下量)を増やしてフィッシュテールの長さを従来法よりも大きくした上で、これを適正値に制御すれば、粗H形材m2の端部にタングが生じないということを知見し、本発明を見いだすにいたった。フィッシュテールの長さを適正値に制御するためには、矩形材m0の板幅A0に対応してフランジ形成孔型(上記の例ではG1、G2およびG3)に割り当てる圧下量の配分を変えることが効果的である。ただし、このとき仕上整形孔型G4の圧延では、つねにフィッシュテールをもつ材料を圧延することになり、後述するように蹴出しの際に蹴出し端において局所的なウェブ高さの拡大が起こり、フランジ外側面が孔型のカラーですり下げられ、表面疵が発生する。これを防止するための手段としては閉式孔型ロールを使用した圧延法、ユニバーサル孔型ロールを使用した圧延法または蹴出しの際にロールギャップを開放して蹴出し端を圧延しないような圧延法がある。
【0023】
すなわち、本発明は上記知見にもとづくものであってその要旨は次のとおりである。
(1)素材からフランジ形成圧延および仕上整形圧延により粗H形材を製造するに際し、前記素材の断面の幅に応じて、前記フランジ形成圧延に用いる各孔型に割り当てる圧下量の配分を変えることにより前記粗H形材の先後端に生じるクロップ長を制御することを特徴とする粗H形材の製造方法、
(2)前記仕上整形加工を、少なくとも被加工材の長さ方向における端部形状がフィッシュテールである間は、閉式孔型ロールを用いて圧延することを特徴とする(1)記載の粗H形材の製造方法、
(3)前記仕上整形加工を、少なくとも被加工材の長さ方向における端部形状がフィッシュテールである間は、ユニバーサル孔型ロールを用いて圧延することを特徴とする(1)記載の粗H形材の製造方法、
(4)前記仕上整形加工を、少なくとも被加工材の長さ方向における端部形状がフィッシュテールである間は、被加工材の蹴出し側のウェブ端部が孔型ロールに入る前にロールギャップを開放する圧延を行うことを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の粗H形材の製造方法。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を図により詳細に説明する。
【0025】
図1は本発明にもとづく粗H形材の基本製造プロセスを示す。(a)は孔型G1を用いて素材である矩形材m0を、その板幅両端部を側壁G1−1で拘束しつつウェブ高さがA1になるまで板幅方向に圧下し、孔型G1による幅圧下を終えた段階、(b)はさらに孔型G2によりウェブ高さがA2になるまで幅圧下して所定のフランジm1−2を形成した段階、さらに(c)は孔型G3によりウェブ高さがA3になるまで幅圧下し、誘導溝を消去した段階、(d)は仕上整形圧延を閉式仕上整形孔型G4により粗H形材m2を圧延する段階の例をそれぞれ示した。図1(d)に示したように、閉式の仕上整形孔型G4によりフランジ外側面m2−2−1を孔型の側壁G4−1で支持しながら、ウェブ厚を圧下することにより粗H形材m2を製造する。
【0026】
ここでは仕上整形圧延を閉式孔型G4で行う例を示したが、図11に示すユニバーサル孔型で行ってもよい。いずれの方法においても、蹴出し端を圧下する場合には後述する理由により、孔型ロールにフランジ外側面m2−2−1全体を支持するための部位を有しており、図1(a)〜(d)に例示した閉式孔型では上ロールの側壁G4−1がその役目を果たし、ユニバーサル孔型の場合には竪ロール3−2がその役割を受け持つように整形する。
【0027】
また、別の方策として図15のG4のような開式孔型を使用してもよいが、この場合には、孔型ロールにフランジ外側面m2−2−1全体を支持するための部位がないので蹴出し端を圧下してはならない。したがって、被加工材の蹴出し側のウェブの端部が孔型に導入される前に上下ロールのギャップを開放するような圧延法をとる必要がある。
【0028】
本発明にもとづく圧延法について、矩形材m0から粗H形材m2にいたる過程におけるフランジ幅とクロップ長の推移を示すと図2(a)、(b)のようになる。図2には本発明にもとづくプロセスを2とおり示しており、P0’−P1’−Q’−P2’−P3’−P4’、P0”−P1”−Q”−P2”−P3”−P4”がそれであり、従来技術との比較のため、図5に示した従来技術にもとづくプロセスP0−P1−Q−P2−P3−P4をあわせて示している。
【0029】
図2において、点P0’またはP0”は素材の矩形材m0であり、点P1’またはP1”は孔型G1による圧下を終えた段階で、図1(a)に対応する。同様に、点P2’またはP2”は孔型G2による圧下を終えた段階であり図1(b)に対応し、点P3’またはP3” は孔型G3による圧下を終えた段階であり図1(c)に対応し、また点P4’またはP4”は孔型G4による圧下を終えた段階であり図1(d)に対応する。点Q’またはQ”は、孔型G2による幅圧下の進行に伴い徐々に成長していくフランジm1−2が孔型G2の側壁G2−1に接触するタイミングに対応する点である。
【0030】
本発明を適用して得られる粗H形材m2の状態は、それぞれ点P4’またはP4”である。図2(a)から分かるように、得られる粗H形材m2のフランジ幅は従来法と同じである。しかし、図2(b)から分かるようにクロップ長は異なっており、従来はクロップ長が負の値(タング)であるが、本発明を適用した場合にはクロップ長をほぼ0にすることができている。
【0031】
このような本発明が可能となったポイントは2つある。第一は孔型G1、G2およびG3に割り当てる圧下量の配分を変えることによりクロップの形成速度を制御することであり、第二はフランジ外側面m2−2−1をロールで直接支持することによりフィッシュテールを持つ被加工材のフランジ外側面m2−2−1の噛み出し疵を防止することである。このことについて、以下で詳しく説明する。
【0032】
まず、第一点目について説明する。
【0033】
図2(b)において、従来法ではP3−P4のように孔型G4による仕上整形圧延の際にクロップ長が減少し(すなわちフィッシュテールが後退してタングに向かい)、最終的に孔型G4出し段階P4でタングになる。そこであらかじめこれを見込んで、孔型G3出し段階でP3’およびP3”のようにクロップ長を大きくしておき(すなわち、長いフィッシュテールを生成しておき)、G4孔型出し段階P4’およびP4”のようにクロップ長をほぼ0にする。図2(a)および(b)において、点P4’とP4”の段階で、被加工材のフランジ幅およびクロップ長は等しいが、もとの矩形材m0の幅は異なっており、それぞれA0’とA0”である。このように、板幅の異なる矩形材m0から、フランジ幅とクロップ長が同じ粗H形材m2を製造できる。
【0034】
まず、フランジ幅について説明する。孔型G3出し段階で点P3’、P3”はいずれも従来法の点P3と同じ位置にあり、断面の製造についてはまったく問題ない。これは、点Q’、Q”において孔型G2の側壁G2−1にフランジ先端部が接触した後は、フランジ幅拡がりが拘束され、フランジ幅のそれ以上の増加が抑制されるからである。
【0035】
次にクロップ長について説明する。フランジ形成孔型G1〜G3の幅は互いに異なっているので、幅圧下量が同じでもクロップの増加量が互いに異なる。この性質を利用し、各フランジ形成孔型に割り当てる圧下量の配分を変えることにより、矩形材m0の板幅が異なっても、クロップ長の等しい粗H形材m2を製造することができる。図2(b)においては、孔型G1とG2に割り当てる圧下量の配分を変えている。図2(b)に示すように、孔型G1における単位幅圧下量あたりのクロップ長の増加量は直線P0’−P1’(または直線P0”−P1”)の勾配α1、孔型G2におけるそれは直線P1’−P2’(または直線P1”−P2”、直線P1−P2)の勾配α2、孔型G3におけるそれは直線P2’−P3’(または直線P2”−P3”、直線P2−P3)の勾配α3で表され、α1>α2≒α3である。したがって、図2(b)のように孔型G1とG2間に割り当てる圧下量の配分を適切に設定することにより、もとの矩形材m0の板幅が異なっても、孔型G3出し段階で点P3’とP3”のようにクロップ長を同じ値にすることができ、したがって孔型G4出し段階でも点P4’とP4”のようにクロップ長を同じ値かつほぼ0にできる。
【0036】
このようにフランジ形成孔型の幅によりクロップ形成速度が異なる理由を説明する。図6(a)に示す孔型G2(またはG3)のように幅s2(またはs3)が大きいフランジ形成孔型で幅圧下されるときに排除されるメタルは、フランジm1−2の先端部が側壁G2−1(またはG3−1)に接触していないときはもとの矩形材m0の板厚方向に容易に流れフランジ幅を拡大する。フランジm1−2の先端部が側壁G2−1(またはG3−1)に接触した後は太い矢印で示すようにフランジm1−2の厚みを増す方向に流れる。したがって、被加工材の長さ方向へのフランジ延伸は比較的小さい。このメタルフローは孔型の幅s2(またはs3)ともとの矩形材m0の板厚B0の差s2−B0(またはs3−B0)が大きいほど起こりやすく、孔型G2やG3についていえば、この差は板厚B0の60〜100%程度もある。このような理由で、孔型G2またはG3による幅圧下のときには、フランジの長さ方向の伸びは小さく、クロップ形成速度は小さい。
【0037】
一方、図6(b)に示す孔型G1のように幅s1が小さいフランジ形成孔型による幅圧下においては、幅圧下を始めるとすぐに板幅の両端部が側壁G1−1によって拘束される。この後の幅圧下においては、フランジ幅はそれ以上増加することができず、また孔型の幅s1と矩形材m0の板厚B0が殆ど等しいので、断面内では排除されたメタルの行き場がなくフランジ厚みを増す方向のメタルフローは起こらない。その結果、孔型G1の幅圧下により排除されたメタルは被加工材の長さ方向に移動するので、この方向のフランジ伸びが優勢になり、孔型G2およびG3による幅圧下よりもクロップ形成速度が大きい。
【0038】
次に第二点目について説明する。
【0039】
孔型G3出し段階のドッグボーン形材m1については、ウェブ厚b3はもとの矩形材m0の板厚B0にほぼ等しく、フランジ厚c3はB0の約50〜60%であり、ウェブ厚>フランジ厚である。一方、一般にH形材fについてはウェブ厚<フランジ厚であり、同様に粗H形材m2についてもウェブ厚<フランジ厚でなくてはならない。もしそうでなければ、粗H形材m2からH形材fを加工する過程で、ウェブの圧下率をフランジの圧下率よりも大きくして、ウェブ厚とフランジ厚の大小関係を逆転させる必要がある。しかし、粗H形材m2からH形材fを製造する過程では板厚が小さいので、ウェブ−フランジ間に圧下率の差に起因する内部応力によりいわゆる座屈などの不良を発生する。したがって、ウェブ−フランジ間の圧下率に差をもたせて圧延するのは、板厚の大きいドッグボーン形材m1の段階で行わなくてはならない。具体的には、ドッグボーン形材m1から粗H形材m2を製造する仕上整形圧延において、ドッグボーン形材m1のウェブをフランジより大きい圧下率で圧下する必要がある。ウェブの圧下率がフランジのそれにくらべて大きい圧延においては、長さ方向の両端部を除く、いわゆる定常部のウェブはロールの圧下作用によるメタルの排除により被加工材の長さ方向に延伸し、フランジはウェブに引っ張られて延伸する。一方、長さ方向の両端部のいわゆる非定常部においては、その端部の形状に応じて異なる挙動を示す。
【0040】
まず、端部がタングである場合の変形の状況を図7(a)、(b)に示す。噛み込みの場合を(a)に、蹴出しの場合を(b)に示す。被加工材の端部の形状について、圧延前のそれを破線で、圧延後のそれを実線で示しており、2−1および2−2はブレークダウン圧延機2の上下ロール対である。被加工材の端部ではウェブがフランジに対して突出しているので、この部分の圧延はいわゆる板圧延と同じ現象が起こり、噛み込みおよび蹴出しのいずれについても圧延によりウェブが長さ方向に伸ばされ、斜線で示した分だけタングが拡大する。
【0041】
次に、端部がフィッシュテールである場合の変形の状況を図8(a)、(b)に示す。噛み込みの場合を(a)に、蹴出しの場合を(b)に示す。同様に圧延前の端部の形状を破線で、圧延後のそれを実線で示す。噛み込みの場合、まず最初にウェブのないフランジが上下ロール2−1および2−2の間隙に導入され、その後ウェブの圧下が始まる。ウェブのないフランジは長さ方向に殆ど延伸しない。一方ウェブは長さ方向に延伸するので、結果としてウェブが斜線で示した分だけ拡大し、ウェブを外側に、フランジを内側にした曲がりがウェブ高さ方向の両側で発生しようとする。この曲がりは、ウェブ高さ方向の両側で互いに逆方向の曲がりであるから、局所的にウェブ高さを増加させようとする。しかし、ウェブのないフランジの外側面m2−2−1が孔型G4の側壁G4−1によって拘束されるので、実際にはこのウェブ高さの増加は殆ど起こらない。
【0042】
一方、蹴出しの場合にも同様のメカニズムで局所的にウェブ高さが増加しようとする。ただし、噛み込み端とは異なり、噛み込み端から蓄積し蹴出し端で開放されるメタルが加算されるため、噛み込みの場合よりもウェブの延伸が大きく、そのぶん局所的なウェブ高さ増加の傾向も大きい。蹴出しの場合には、ウェブ高さが局所的に増加しようとするときに、ウェブのないフランジの外側面m2−2−1を拘束する手段がない。すなわち、孔型に導入される前にウェブ高さが局所的に増加し、これが孔型幅s4よりも大きくなるので、フランジ外側面m2−2−1は孔型の側壁G4−1で擦り下げられ表面疵(以下、擦り下げ疵と称する)となる。また、この擦り下げ作用が顕著になると、孔型のカラー部Cでフランジ外側面m2−2−1が圧下され、図9のような噛み出し疵が発生する。なお、従来法においても同様に擦り下げ現象が見られるが、図5(b)から分かるように、仕上整形圧延の初期段階で端部の形状がフィッシュテールからタングに変わり、仕上整形圧延の殆どがタングの状態で圧延されるため、殆ど疵にはいたらない。
【0043】
蹴出し端におけるウェブ高さの局所的増加を防止できれば、このような不良を防止できる。そのためには、上述したような不良発生メカニズムを考慮して、ウェブ高さが増加しないようにフランジ外側面m2−2−1をロールで拘束すること、または被加工材の蹴出し側のウェブの端部Tが孔型ロールに入る前にロールギャップを開放し、蹴出し端を圧下しないこと、の2つがある。後者の場合には、当該パスの蹴出し端は後続パスでは噛み込み端となり、この部位の後続パスでの圧下量は、当該パスで圧下を受けなかった分だけ大きくなる。
【0044】
すでに述べたように、粗H形材m2の端部のクロップ長を0に制御するためには、端部の形状がフィッシュテールである被加工材を仕上整形圧延する必要があり、蹴出し端の擦り下げ疵の防止が不可欠である。擦り下げ疵防止のためフランジ外側面m2−2−1を拘束するロールとしては、閉式孔型ロールとユニバーサル孔型ロールがある。閉式孔型ロールによる擦り下げ疵の防止については請求項3に、ユニバーサル孔型ロールによるそれについては請求項4に規定した。閉式孔型ロールの場合は、図10に示すように、上下ロールのうちの一方の孔型側壁G4−1がフランジ外側面m2−2−1全体を拘束する幾何学的形状になっており、ユニバーサル孔型ロールの場合は、図11に示すように、竪ロール3−2で当該部分を拘束する。
【0045】
また、蹴出し端を圧下しない圧延法を採用すれば、図12のような開式孔型による仕上整形圧延でも噛み出し疵を防止でき、これについては請求項5に規定した。もちろん、この圧延法を閉式孔型やユニバーサル孔型による成型圧延に採用しても効果的であり、いずれの場合についても本発明の範囲内で圧延することができる。
【0046】
以上の説明では圧延を例にあげたが、圧延以外の鍛造など一般に材料の塑性変形を利用して行う加工法において、同様のことを行うのことも本発明に含まれる。また、一部の工程、例えばフランジ形成加工を鍛造で行い、仕上整形加工を圧延で行う場合については請求項2に含まれる。
【0047】
さらに、上の例では素材として矩形材をとりあげたが、素材は矩形材の断面の4頂点を丸くした断面形状でもよいし、正方形材、ドッグボーン形材などでもよい。このような素材に対して断面寸法を一定の方向に縮小してフランジを成長させるようなフランジ形成加工と、それに引き続いてウェブ厚を圧下する仕上整形加工により粗H形材を製造する加工法についても、本発明の範疇にある。
【0048】
また、上の例では粗H形材m2のタングを減らしてクロップ長を短縮する場合を示したが、フィッシュテールを減らす場合もある。この場合には、上記と逆のことを実施する。さらにいえば、本発明においては、クロップ長を0にすることに限定している訳ではなく、クロップ長の絶対値を従来法よりも減らすことができれば、本発明の目的を達したことになる。
【0049】
【実施例】
本発明を鋼製の矩形材からの粗H形材の製造に適用した。表1に、従来法とあわせて本発明の適用した条件を2つ(本発明例1と本発明例2)示す。孔型の形状寸法は図13(a)から(d)に示すとおりであり、孔型G1、G2およびG3はフランジ形成孔型、孔型G4は仕上整形孔型である。この孔型を用いて、従来は板幅1100mm、板厚250mmの矩形材から、H450×300のH形材用の、ウェブ高さ680mm、ウェブ厚90mmの粗H形材を製造していた。この場合、孔型G1は矩形材の短辺に誘導溝を形成するだけで板幅方向の圧下量は0であり、孔型G2で310mmの幅圧下を行うことによりフランジを生成させ、孔型G3で110mm圧下することにより被加工材のフランジ外側面の誘導溝を消去、つづいて孔型G4で仕上整形圧延することによりウェブ厚90mmの粗H形材を製造する。この時点でクロップ長は−230mm(長さ230mmのタング)であった。
【0050】
一方、本発明法を適用した実施例では、矩形材の板厚は従来と同じ250mmで、板幅を1600mmと1700mmの2種類とした。いずれについても、孔型G3以降の圧下条件は従来と同じであるが、孔型G1と孔型G2に割り当てる板幅方向圧下量の配分を変えることにより、粗H形材のクロップ長をほぼ0にできていることが分かる。なお、この場合には図13(d)に示すように仕上整形孔型G4は開式孔型であるので、請求項5を適用し、仕上整形圧延において蹴出し端が孔型を通過する直前にロールギャップを解放し、蹴出し端を圧延しないような圧延法を採用した。仕上整形孔型G4が閉式孔型やユニバーサル孔型の場合には、このような圧延法をあえてとる必要はなく、蹴出し端を圧延しても擦り下げ疵が発生することはない。この場合にも、粗H形材に発生するクロップ長はこの例と同じであり、ほぼ0であることはいうまでもない。
【0051】
【表1】
Figure 0003958959
【0052】
【発明の効果】
本発明を用いることにより粗H形材の長さ方向両端部のクロップ長を短縮することができるので歩留や能率が向上する。さらに、素材の断面が変化してもそれに合わせてクロップ長を短縮できることから、不特定の断面材を素材として用いることが可能であり、これにより素材在庫量を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)、(b)、(c)、(d)は本発明にもとづく基本プロセスの説明図。
【図2】(a)、(b)は本発明を適用した場合の、矩形材から粗H形材にいたる被加工材のフランジ幅とクロップ長の推移を示す説明図。
【図3】断面寸法諸元を定義する説明図。
【図4】(a)、(b)はクロップ長を定義する説明図。
【図5】(a)、(b)は従来技術を適用した場合の、矩形材から粗H形材にいたる被加工材のフランジ幅とクロップ長の推移を示す説明図。
【図6】(a)、(b)はフランジ形成孔型の幅がメタルフローに及ぼす影響を示すための説明図。
【図7】(a)、(b)はタングをもつ端部が仕上整形孔型で圧延される場合の端部の形状変化を示す説明図。
【図8】(a)、(b)はフィッシュテールをもつ端部が仕上整形孔型で圧延される場合の端部の形状変化を示す説明図。
【図9】仕上整形孔型の側壁によるフランジ外側面の擦り下げが顕著になったときにフランジ外側に発生する噛み出し疵を示す説明図。
【図10】仕上整形孔型が閉式孔型ロールの例を示す説明図。
【図11】仕上整形孔型がユニバーサル孔型ロールの例を示す説明図。
【図12】仕上整形孔型が開式孔型ロールの例を示す説明図。
【図13】(a)、(b)、(c)、(d)は本発明の実施例における孔型を示す説明図。
【図14】素材を矩形材とし圧延でH形材を製造する工程の一例を示す説明図。
【図15】素材を矩形材とし圧延でH形材を製造する工程において、粗H形材を形成するブレークダウン圧延機の上下ロール対に刻設された孔型の形状と配置の例を示す説明図。
【図16】(a)、(b)、(c)、(d)は矩形材からドッグボーン形材を経由して粗H形材を製造する過程を示す説明図。
【図17】粗H形材に発生したタングを示す説明図。
【符号の説明】
1…加熱炉
2…ブレークダウン圧延機
3…粗ユニバーサル圧延機
4…エッジャー圧延機
5…仕上ユニバーサル圧延機
2−1、2−2…ブレークダウン圧延機の上下ロール対
m0…矩形材m0
m1…ドッグボーン形材
m2…粗H形材
m3…中間材
f…H形材

Claims (4)

  1. 素材からフランジ形成圧延および仕上整形圧延により粗H形材を製造するに際し、前記素材の断面の幅に応じて、前記フランジ形成圧延に用いる各孔型に割り当てる圧下量の配分を変えることにより前記粗H形材の先後端に生じるクロップ長を制御することを特徴とする粗H形材の製造方法。
  2. 前記仕上整形加工を、少なくとも被加工材の長さ方向における端部形状がフィッシュテールである間は、閉式孔型ロールを用いて圧延することを特徴とする請求項1記載の粗H形材の製造方法。
  3. 前記仕上整形加工を、少なくとも被加工材の長さ方向における端部形状がフィッシュテールである間は、ユニバーサル孔型ロールを用いて圧延することを特徴とする請求項1記載の粗H形材の製造方法。
  4. 前記仕上整形加工を、少なくとも被加工材の長さ方向における端部形状がフィッシュテールである間は、被加工材の蹴出し側のウェブ端部が孔型ロールに入る前にロールギャップを開放する圧延を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の粗H形材の製造方法。
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