JP3777408B2 - カルボン酸誘導体の製造法 - Google Patents

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Description

技術分野
本発明は式(I):
Figure 0003777408
で示される3−(2−チエニルチオ)酪酸の製造法に関する。
本化合物は、式(V):
Figure 0003777408
で示される緑内障治療薬MK−507(フォルトシュリッテ・デア・オフタモロギー(Fortschritte der Ophthalmologie)88巻、513頁、1991年参照)の製造上、重要な鍵中間体となる化合物である。
背景技術
3−(2−チエニルチオ)酪酸の製造法としては、約6モル/リットルの塩酸水溶液(水素イオン濃度約6モル/リットル)を用い、還流条件で3−(2−チエニルチオ)酪酸メチルエステルを加水分解する方法が知られている(ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー(Journal of Organic Chemistry)58巻、7号、1672頁、1993年、米国特許第4,968,814号明細書、特開平4−224576号公報参照)。
しかしながら、前記の製造法においては、式(II):
Figure 0003777408
で示される3−(3−チエニルチオ)酪酸の副生が避けられない。またこの副生物は以後の式(V)で示される緑内障治療薬の合成過程において3−(2−チエニルチオ)酪酸と同様に化学変換を受けるため極めて除去しにくい。そこで、医薬中間体として用いるために、3−(3−チエニルチオ)酪酸の含有を0.1モル%以下に抑えた3−(2−チエニルチオ)酪酸の製造法の開発が望まれていた。
発明の開示
本発明者らは、3−(3−チエニルチオ)酪酸の副生を抑えるべく鋭意検討した結果、用いる酸水溶液の濃度と好ましくはさらに酸の種類とを制御することにより、3−(3−チエニルチオ)酪酸の副生を0.1モル%以下と劇的に抑制することのできる、3−(2−チエニルチオ)酪酸の製造法を見出し本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、一般式(III):
Figure 0003777408
(式中、Rは炭素数1〜4の直鎖または分岐したアルキル基を表す)で示される化合物を、反応液の還流温度以下にて、3.9モル/リットル以下の水素イオン濃度の酸水溶液と反応させ、式(II):
Figure 0003777408
を有する化合物の副生を0.1モル%以下に抑えることを特徴とする、式(I):
Figure 0003777408
を有する化合物の製造法に関する。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例1〜7および参考例1〜5の反応時間24時間目における3−(3−チエニルチオ)酪酸生成量と酸水溶液の水素イオン濃度(モル/リットル)との関係を示すグラフである。
発明を実施するための最良の形態
出発化合物である、一般式(III)で示される化合物は米国特許第4,968,814号明細書に記載の方法により製造が可能である。
具体的には、2−チオフェンチオールアルカリ金属塩を3−トシルオキシ酪酸エステルと反応させることにより製造しうる。
一般式(III)においてRで示される基としては、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、iso−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル基などがあげられる。このうち、メチル基が反応中に生成するアルコール成分を留去しやすい点から好ましい。
用いる酸水溶液の酸の種類としては、塩酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、フッ化水素酸などの無機酸、トリフルオロ酢酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸などの有機酸があげられるが、塩酸または硫酸を用いるのが廃棄物処理などにおいて工業的に取扱いやすいことから望ましい。
用いる酸水溶液の濃度は、その水素イオン濃度が3.9モル/リットル以下の任意の濃度で設定できる。水素イオン濃度は解離定数Kaより計算できる解離度と酸濃度(酸水溶液の濃度に同じ)の積で簡便に求めることができる。
反応中の温度は、25℃から反応液の還流温度以下の任意の温度で設定できるが、許容できる反応時間を勘案して決定すればよい。
反応はそのままでは、一般式(III)で示される化合物の仕込み量、用いた酸水溶液の酸の種類と濃度に対応する変換率で、平衡に達するが、生成するアルコール成分を留去することにより、変換率を目的とする任意の変換率まで上昇させることができる。またこのときアルコール成分とともに水分も留去されたばあい、所定の水素イオン濃度が維持されるように水分を反応系に添加すればよい。
えられた3−(2−チエニルチオ)酪酸は、通常用いられる溶剤抽出、濃縮、蒸留などの処理方法により単離精製してもよく、そのまま使用してもよい。
以下に実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、もとより本発明はこれらに限定されるものではない。
参考例1
濃塩酸180g(35%濃度)と水146gを混合し塩酸水溶液を調製した(5.8モル/リットル塩酸水溶液、水素イオン濃度5.8モル/リットル、液量326g)。
3−(2−チエニルチオ)酪酸メチルエステル56g(純分54g)に、室温撹拌下、塩酸水溶液を混合した。
内容物が還流を始めるまで加温し、還流条件にて24時間反応させた。反応の進行は高圧液体クロマトグラフィにてモニターした。変換率99モル%、3−(3−チエニルチオ)酪酸生成量0.82モル%(対3−(2−チエニルチオ)酪酸モル%)。
高圧液体クロマトグラフィーは以下の条件で行なった。
カラム:ファインパック SIL C18-5(4.6mm×25cm、日本分光製)
溶 媒:アセトニトリル:水:リン酸=4:6:0.006(容量比)
流 速:1.0ml/min
温 度:40℃
検出条件:U.V.ディテクター、波長230nm
3−(2−チエニルチオ)酪酸
1H NMR(CDCl3) 7.41(M、1H)、7.17(M、1H)、7.02(M、1H)、3.37(M、1H)、2.71(dd、1H、J=16.0、J=6.4Hz)、2.47(dd、1H、J=16.0、J=8.0Hz)、1.34(d、3H、J=6.8Hz)
13C NMR(CDCl3) 177.5(s)、136.4(s)、130.9(s)、130.5(s)、127.7(s)、41.4(s)、41.3(s)、20.7(s)
3−(3−チエニルチオ)酪酸
1H NMR(CDCl3) 7.35(M、2H)、7.08(M、1H)、3.45(M、1H)、2.65(dd、1H、J=15.6、J=6.4Hz)、2.47(dd、1H、J=15.6、J=8.4Hz)、1.33(d、3H、J=7.6Hz)
13C NMR(CDCl3) 177.6(s)、132.2(s)、129.1(s)、128.3(s)、126.2(s)、41.6(s)、39.6(s)、20.9(s)
実施例1
濃塩酸26g(35%濃度)と水308gを混合し塩酸水溶液を調製した(0.8モル/リットル塩酸水溶液、水素イオン濃度0.8モル/リットル、液量334g)。
3−(2−チエニルチオ)酪酸メチルエステル56g(純分54g)に、室温撹拌下、塩酸水溶液を混合した。還流条件にて24時間反応させた。反応の進行は高圧液体クロマトグラフィーにてモニターした。変換率65モル%、3−(3−チエニルチオ)酪酸生成量0.007モル%(対3−(2−チエニルチオ)酪酸モル%)。
高圧液体クロマトグラフィーは以下の条件で行なった。
カラム:ファインパック SIL C18-5(4.6mm×25cm、日本分光製)
溶 媒:アセトニトリル:水:リン酸=4:6:0.006(容量比)
流 速:1.0ml/min
温 度:40℃
検出条件:U.V.ディテクター、波長230nm
さらに反応を進行させるため、24時間目、48時間目、55時間目にメタノール−水混合液をそれぞれ42g、83g、111g留去した。なお55時間目の留去まえに103gの水を加えた。計71時間反応させたところ、変換率96モル%、3−(3−チエニルチオ)酪酸生成量0.009モル%(対3−(2−チエニルチオ)酪酸モル%)となった。
えられた3−(2−チエニルチオ)酪酸および3−(3−チエニルチオ)酪酸のNMRのデータは参考例1と同じであった。
実施例2〜7および参考例2〜5
3−(2−チエニルチオ)酪酸メチルエステルの仕込み量、酸水溶液の酸種、酸濃度、仕込み液量、反応時間を変え、水素イオン濃度3.9モル/リットル以下のものを実施例2〜7とし、水素イオン濃度3.9モル/リットル以上のものを参考例2〜5として、実施例1と同様の操作手順にて、3−(2−チエニルチオ)酪酸を製造した。それらの結果を表1に示す。
Figure 0003777408
水素イオン濃度=酸濃度×解離度
塩 酸:
解離定数Ka=108(25℃)
解離度=1.00
硫 酸:
解離定数Ka1=無限大(25℃)
解離定度Ka2=0.01(25℃)
解離度=1.10
トリフルオロ酢酸:
解離定数Ka=0.59(25℃)
解離度=0.53
リン酸:
解離定数Ka1=7.4×10-3(25℃)
解離度=0.08
図1に実施例1〜7および参考例1〜5の反応時間24時間目における3−(3−チエニルチオ)酪酸生成量と酸水溶液の水素イオン濃度(モル/リットル)の関係を示す。このグラフより酸水溶液の水素イオン濃度を3.9モル/リットル以下とすることにより異性体3−(3−チエニルチオ)酪酸の生成量を0.1モル%以下に抑えることができることが明らかである。
産業上の利用可能性
本発明によれば、緑内障治療薬MK−507の重要な中間体である3−(2−チエニルチオ)酪酸を、その位置異性体である3−(3−チエニルチオ)酪酸の混入量を0.1モル%以下に抑え製造することができる。

Claims (12)

  1. 一般式(III):
    Figure 0003777408
    (式中、Rは炭素数1〜4の直鎖または分岐したアルキル基を表す)で示される化合物を、反応液の還流温度以下にて、3.9モル/リットル以下の水素イオン濃度の酸水溶液と反応させ、式(II):
    Figure 0003777408
    を有する化合物の副生を0.1モル%以下に抑えることを特徴とする、式(I):
    Figure 0003777408
    を有する化合物の製造法。
  2. 一般式(III)においてRがメチル基である請求の範囲第1項記載の方法。
  3. 反応中に生成する一般式(IV):
    R−OH (IV)
    (式中、Rは炭素数1〜4の直鎖または分岐したアルキル基を表す)で示されるアルコール成分を留去することを特徴とする請求の範囲第1項記載の方法。
  4. 反応中に生成する一般式(IV):
    R−OH (IV)
    (式中、Rは炭素数1〜4の直鎖または分岐したアルキル基を表す)で示されるアルコール成分を留去することを特徴とする請求の範囲第2項記載の方法。
  5. 酸が塩酸である請求の範囲第1項記載の方法。
  6. 酸が塩酸である請求の範囲第2項記載の方法。
  7. 酸が塩酸である請求の範囲第3項記載の方法。
  8. 酸が塩酸である請求の範囲第4項記載の方法。
  9. 酸が硫酸である請求の範囲第1項記載の方法。
  10. 酸が硫酸である請求の範囲第2項記載の方法。
  11. 酸が硫酸である請求の範囲第3項記載の方法。
  12. 酸が硫酸である請求の範囲第4項記載の方法。
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