JP3489033B2 - マイクロカプセルおよびその製造法 - Google Patents

マイクロカプセルおよびその製造法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、医薬,農薬,化粧品,
液晶などの分野で用いることのできるマイクロカプセル
およびその製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年マイクロカプセルは医薬、食品を始
めとして幅広い分野で利用されている。したがってマイ
クロカプセルの膜を形成する方法としては多くの手法
が実用化されている。例えば界面重合反応を利用する方
法やイオン交換反応を利用する方法が従来から良く知ら
れているがそれぞれ大きな欠点のあるのが実状である。
界面重合法は一般的には親水性のモノマーを含んだ水相
を油相に乳化後油相に疎水性のモノマーを添加し油水界
面で反応させ高分子の膜を水滴の周囲に析出させマイ
クロカプセルを得る方法である(近藤保,小石真純:
“マイクロカプセル”,三共出版(1987年))。こ
の方法は水溶液を微細なマイクロカプセルに効率よく封
入でき、しかもその膜は半透性という特異なバリアー
性を持っている。このように数多くの優れた特徴を有し
ている割には界面重合法のマイクロカプセルは実用化さ
れている範囲は狭い。これは形成される膜が薄く、強
度が弱いので、一般的な粉体として取り扱える程の強度
を持ったマイクロカプセルが得られないためである。ま
たイオン交換反応を用いたマイクロカプセルの製造法と
して水相液滴に溶解した水溶性の化合物をW/Oエマル
ジョン下でイオン交換することにより不溶化し、マイク
ロカプセル膜を形成する方法がある(日本化学会誌,
No. 5,第727−731頁,1976年)。この方
法では比較的強度のあるものが作れるものの水相中で
膜を形成するため水溶性の内容物が洩れ易く、緻密な
膜が出来にくい欠点があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】マイクロカプセルにお
ける半透性を有する膜は小さな分子のみを透過させる
ため、設計しだいで特異な機能を作ることも可能で非常
に有用な性質である。たとえば酵素をこのような膜の
マイクロカプセルに封入しておけば、膜外の環境から隔
離されたまま膜内へ基質を取込んで膜外へ有用な代謝産
物を放出することも可能である。界面重合反応によるマ
イクロカプセルの膜は、この半透性という優れた
特性をもつものの、強度が弱く、そのままでは一般的な
粉体として取扱うことは困難であり、この欠点のため界
面重合反応を利用したマイクロカプセルの用途は大巾に
制限を受けているのが現状である。また、微細であるこ
とは非常に大きな利点である。たとえば生体に埋めこま
れた場合は大きなものより機械的な刺激が軽減されるの
で発癌性、毒性などを抑えることができる点で非常に有
利である。また単位重量当りの表面積が大きくなるので
反応速度を速く出来ることなども有利である。しかし一
般的には微細になる程カプセル壁も薄くなるので、強度
的に弱いものしか得られないのが難点であった。
【0004】
【課題を解決するための手段】上記の事情に鑑み、本発
明者らは鋭意研究を重ねた結果、内容物を含有する水相
液滴を水不溶性塩内膜および界面重合体外膜の二重
層で内包するマイクロカプセルが、微細で、高い強度お
よび半透膜的物性などの優れた特性を有することを見出
し、これに基づいてさらに研究した結果、本発明を完成
した。 本発明は、(1)内容物を含有する水相液滴を水不溶性
塩内膜および界面重合体外膜の二重層で内包するマ
イクロカプセル, (2)ともに水溶性でイオン交換により水不溶性塩を形
成し得る二成分の一方を水相に含むW/Oエマルジョン
に、他方の成分を固体粉末状態で添加し反応させ一重層
マイクロカプセルを製造し、さらに油相中でその外側に
界面重合体被膜を形成させる反応に付すことを特徴とす
る上記(1)記載のマイクロカプセルの製造法,および (3)W/Oエマルジョンの油相が高粘性油相であり、
他方の成分を低粘性溶剤の存在下に反応させる上記
(2)記載のマイクロカプセルの製造法である。水相液
滴に含有される内容物としては、本発明の特長は上記の
ように二重膜構造を有することにあり、特に対象物が限
定されるものではないが、たとえば医薬品,化粧品、農
薬,化学薬品,色素,香料,液晶,酵素,微生物などが
挙げられる。該医薬品としては、たとえば、局所投与用
医薬品が好ましく、その例としては、例えば、抗腫瘍
剤、外皮用薬などが挙げられる。該化粧品としては、た
とえば、メイクアップ用化粧品が挙げられ、その例とし
ては、メイクアップ用着色料、顔料などが挙げられる。
該農薬としては、たとえば、畑に散布し毒むしを除去す
るものが好ましく適用できる。該化学薬品としては、た
とえば、接着剤などが挙げられる。該色素としては、た
とえば、顔料、染料、口紅などが挙げられる。該香料と
しては、たとえば、消臭剤、芳香剤などが挙げられる。
該液晶としては、たとえば、デイスプレイ用の材料が挙
げられる。該酵素としては、たとえば、局所投与用医薬
や、生体代謝産物を産生する酵素などが挙げられる。該
微生物としては、たとえば、ペプチドや抗生物質を産生
する微生物が挙げられる。
【0005】本発明の二重層マイクロカプセルは、例え
ば、次に示す方法により製造することができる。まず、
一重層のマイクロカプセルを製造する。この製造は、と
もに水溶性でイオン交換により水不溶性塩を形成し得る
二成分の一方を水相に含むW/Oエマルジョンに、他方
の成分を固体粉末状態で添加し反応させることにより行
なわれる。本発明でいう水相液滴には、気体,固体微粒
子を含有せしめてもよい。該気体としては、たとえば、
同位元素であるもの(検出用に用いることができるも
の)が挙げられ、具体的には、例えば、水素、炭酸ガス
などが挙げられる。該固体微粒子としては、たとえば、
磁性体(投与後、磁石で局所に集中させる。)が挙げら
れる。該イオン交換により水不溶性塩を形成する二成分
の一方としては、たとえば水溶性であり陽イオンと接触
することにより凝固する塩が挙げられる。さらに具体的
には、例えば、硅酸ナトリウム,炭酸ナトリウム,ピロ
リン酸ナトリウム,アルギン酸ナトリウム,硅酸カリウ
ム,炭酸カリウム,ピロリン酸カリウム,アルギン酸カ
リウムなどが挙げられる。これらの中でも、特に、硅酸
ナトリウムが好ましい。該他方の成分としては、たとえ
ば、陽イオンを放出する塩が挙げられ、さらに具体的に
は、例えば、塩化カルシウム,塩化マグネシウムなどが
例示される。特に塩化カルシウムが好ましく用いられ
る。該他方の成分を固体粉末状態で添加するが、該固体
粉末状態としては、出来るだけ微粒であることが望まし
いが、一次粒子(結晶の粒子の最小単位)の大きさとし
て概略1μm〜500μm程度、好ましくは約1μm〜
50μmのものであれば良い。上記一重層のマイクロカ
プセルを製造する際には、W/Oエマルジョンの油相が
高粘性油相であり、他方の成分を低粘性溶剤の存在下に
反応させるのが好ましい。該高粘性油相としては、たと
えば、20℃で20センチポイズ以上の粘度を有するも
のが好ましい、さらに具体的には、例えば、流動パラフ
ィン,ポリエチレングリコール,植物油(やし油,パー
ム油)などが挙げられる。なかでも、流動パラフィンが
好ましく用いられる。該低粘性溶剤としては、たとえ
ば、20℃で5センチポイズ以下の粘度を有するものが
好ましく、とりわけ、20℃で1センチポイズ以下のも
のが好ましい。その具体例としては、例えばヘプタン,
ヘキサン,ペンタン,トルエン,キシレン,酢酸エチ
ル,酢酸メチル,塩化メチル,塩化エチル,アセトン,
メタノール,エタノールなどが挙げられる。特に、ヘプ
タン,ヘキサン,ペンタンが好ましく用いられる。
【0006】上記工程の反応条件において、該水相に存
在させている水不溶性塩形成成分は、たとえば約2〜6
モル濃度、さらに好ましくは約3〜5モル濃度で用いら
れる。該水相中にあらかじめ含有せしめる内容物の量
は、たとえば、約50%(w/v)以下が好ましく、さら
に約1〜20%(w/v)であることが好ましい。上記高
粘性油相としては、該水相の量の約2〜20倍量(v/
v)を用いるのが好ましく、さらに約3〜10倍量(v/
v)であることが好ましい。該他方の成分の量として
は、たとえば硅酸ナトリウム等の成分のナトリウム等の
当量に対して約0.2〜10倍当量となるように、さら
に約0.5〜5倍当量となる量が好ましい。この反応の
際に、界面活性剤、たとえば非イオン系界面活性剤
(例、ソルビタンモノオレエート),陽イオン界面活性
剤,陰イオン界面活性剤,両性界面活性剤などを添加し
てもよい。上記低粘性溶剤の量としては、W/Oエマル
ジョンの液に対して約0.2〜10倍量(v/v)を用い
るのが好ましく、さらに約0.5〜5倍量(v/v)を用
いるのが好ましい。上記のW/Oエマルジョン化および
一重層マイクロカプセル化の反応は、たとえば約10〜
40℃、好ましくは約15〜30℃で行なうのが良い。
【0007】上記W/Oエマルジョン化および一重層の
マイクロカプセルの製造は、撹拌することにより行なわ
れる。該撹拌に用いられる機械は特に限定されないが、
たとえばプロペラ型撹拌機,超音波型撹拌機,マグネテ
ィックスターラー,噴流式スターラー撹拌機,ホモジナ
イザーなどが挙げられる。撹拌の条件としては、たとえ
ばマグネティックスターラーを用いて、約200〜10
00rpmで、さらに好ましくは約500〜1000r
pmでエマルジョン調整の目的を達成することができ
る。該W/Oエマルジョン化の際、撹拌時間は、たとえ
ば約2〜20分、さらに好ましくは3〜10分でよい。
該他方の成分を固体粉末状態で添加した後の撹拌の時間
は、たとえば約2〜20分、好ましくは約3〜10分で
ある。
【0008】次に一重層のマイクロカプセルのその外側
に界面重合体膜を形成させる反応に付し、二重層マイ
クロカプセルを製造する。該反応に付す原料の一重層の
マイクロカプセルとしては、上記した方法で製造された
もの、宮田ら,日本化学会誌,No. 5,第727−7
31頁,1976年に記載の方法で得られた硅酸塩マイ
クロカプセル、またはこれと同様の方法で得られた炭酸
塩マイクロカプセル,ピロリン酸塩マイクロカプセル,
アルギン酸塩マイクロカプセルが挙げられる。該反応
は、内容物を含有する水相液滴を水不溶性塩膜で内包
するマイクロカプセルを油相中でその外側に界面重合体
膜を形成させる反応に付すことにより行なわれる。該
油相中で膜を形成させる反応としては、たとえば (a)内容物を含有する水相液滴を水不溶性塩膜で内
包するマイクロカプセル懸濁液を原料として、その液に
親水性が高く油相とは溶け合わない溶剤に溶解した親水
性モノマーを添加し、撹拌により溶剤と共にそのモノマ
ーをマイクロカプセル表面に分配し、その後に前者モノ
マーと対になるもう一方の界面重合疎水性モノマーを油
相に添加することにより界面重合反応を進行させること
により行なう、あるいは (b)内容物を含有する水相液滴を水不溶性塩膜で内
包するマイクロカプセル懸濁液を原料として、その液に
界面重合反応親水性モノマーを溶解する能力は水よりも
劣るが油相と溶け合う溶剤に溶解した該親水性モノマー
を添加し、そのモノマーをマイクロカプセル表面の水分
層に溶解度の差を利用して分配した後、前者モノマーと
対になるもう一方の疎水性モノマーを油相に添加するこ
とにより行なわれる。
【0009】上記界面重合親水性モノマーとしては、た
とえば、ジアミン、多価アルコールが好ましく、その例
としては、直鎖アルキルジアミン、分枝アルキルジアミ
ン、芳香族ジアミン、多価アルコールが挙げられる。さ
らに具体的には、例えば、エチレンジアミン,プロピレ
ンジアミン,トリメチレンジアミン,テトラメチレンジ
アミン,ペンタメチレンジアミン,ヘキサメチレンジア
ミン,ヘプタメチレンジアミン,オクタメチレンジアミ
ン,ノナメチレンジアミン,デカメチレンジアミン,O
−フェニレンジアミン,m−フェニレンジアミン,p−
フェニレンジアミン,ε−カプロラクタム,キシリレン
ジアミン,エチレングリコール,1,2−プロピレング
リコール,ジエチレングリコールなどが挙げられる。な
かでも、ヘキサメチレンジアミンが好ましい。上記のも
う一方の疎水性モノマーとしては、たとえば、ジアミン
と反応させる場合は酸ハライドが、多価アルコールと反
応させる場合にはジイソシアネートが挙げられる。該疎
水性モノマーの具体例としては、シュウ酸クロリド,マ
ロン酸クロリド,コハク酸クロリド,グルタル酸クロリ
ド,1−メチルブタンジカルボン酸クロリド,アジピン
酸クロリド(アジポイルクロリド),ピメリン酸クロリ
ド,イソピメリン酸クロリド,コハク酸クロリド,アゼ
ライン酸クロリド,セバシン酸クロリド(セバコイルク
ロリド),ノナンジカルボン酸クロリド,フタル酸クロ
リド,テレフタル酸クロリド,マレイン酸クロリド,フ
マル酸クロリド,テレフタル酸,エチレンジイソシアネ
ート,メリメチレンジイソシアネート,テトラメチレン
ジイソシアネート,ペンタメチレンジイソシアネート,
ヘキサメチレンジイソシアネート,ペンタメチレンジイ
ソシアネート,オクタメチレンジイソシアネート,フェ
ニレンジイソシアネート,トルイジンイソシアネートな
どが挙げられる。なかでも、アジピン酸クロリド,セバ
シン酸クロリドが好ましい。上記反応(a)において用
いられる親水性が高く油相とは溶け合わない溶剤として
は、たとえば、メタノール,エタノール,エチレングリ
コール,ジエチレングリコール,トリエチレングリコー
ル,グリセリンなどが挙げられる。特にエチレングリコ
ールが好ましい。上記反応(b)において用いられる
「界面重合反応親水性モノマーを溶解する能力は水より
も劣るが油相と溶け合う溶剤」の例としては、たとえ
ば、ヘプタン,ジクロルメタン,流動パラフィンなどが
挙げられる。特にヘプタンが好ましい。
【0010】上記反応の条件の例を次に挙げる。上記親
水性モノマーの液の濃度としては、たとえば、親水性溶
剤を用いる場合(反応(a))には、親水性溶剤に対し
て約1〜30%(w/v)であることが好ましく、とりわ
け約3〜15%(w/v)が好適である。疎水性溶剤を用
いる場合(反応(b))には、その量は疎水性溶剤に対
して約1〜100%(w/v)であることが好ましく、と
りわけ約3〜15%(w/v)であることが好ましい。該
親水性モノマー液量としては、マイクロカプセル懸濁液
量に対して約0.01〜0.5倍量(v/v)、さらに好ま
しくは約0.05〜0.2倍量(v/v)の範囲が良い。親
水性モノマーを添加した後の反応は、撹拌することによ
り好ましく行なわれるが、使用される撹拌機としては、
前記と同様のものが挙げられる。撹拌の条件としては、
たとえばマグネティックスターラーを用いて、約200
〜1000rpm、さらに好ましくは約500〜100
0rpmとなるように設定すればよい。 反応温度は、
約10〜40℃、さらに好ましくは、約15〜30℃の
範囲である。反応時間は、約2〜20分、さらに好まし
くは約3〜10分の範囲である。次いで、得られた水不
溶性塩内膜の外側に親水性モノマーの膜を形成した
マイクロカプセルに、疎水性モノマーを添加して反応さ
せる。この際、疎水性モノマー液は、たとえば溶剤に対
して約1〜100%(w/v)、さらに好ましくは約3〜
15%(w/v)の濃度で用いられる。該疎水性モノマー
液量としては、原料液量に対して約0.5〜5倍量(v
/v)、さらに好ましくは約1〜2倍量(v/v)であ
る。この反応も撹拌により好ましく行なわれるが、その
条件、すなわち、撹拌機,回転数,反応時間,反応温度
は、上記親水性モノマーを反応させるときのそれらと同
様である。
【0011】ともに水溶性でイオン交換により水不溶性
塩を形成する二成分の一方を水相に含むW/Oエマルジ
ョンに他方の成分を固体粉末状態で添加し反応させる方
法により得られた一重層マイクロカプセルは、表面が緻
密で単分散性のよい微細なマイクロカプセルが油相中に
分散した状態でできあがっており、そのマイクロカプセ
ル表面は薄い水分層を有した湿潤状態である。単分散性
が良いとうことはこのマイクロカプセルに対して引続
きさらに表面処理(表面を改質する。)を継続する上で
非常に重要な特性である。たとえば医薬品の分野など
は、マイクロカプセルは非常にデリケートに設計された
ものであることが必要であり、二次的にマイクロカプセ
ルの表面処理を行うに当たっても単一粒毎に完全な処理
を要求される。したがって処理前の段階で凝集があれば
使えないことになる。
【0012】上記方法では、イオン交換剤を水溶液とし
て供給するのではなく固体状態のまま供給することに特
長がある。この方法によってW/Oエマルジョンのまま
イオン交換反応を十分に進めることができるので、水溶
性のカプセル内容物は外に洩れることが防止できる。ま
たこの方法では内容物と同様に交換反応で生じたイオン
の溶出も防止されるため従来の方法によって得られたマ
イクロカプセルとは異なった特徴を有する膜となる。
すなわち、従来の方法ではイオンの溶出の影響や水溶液
同士での界面形成の影響で緻密でスムーズなマイクロカ
プセル膜は得られにくい。一方固体状態でイオン交換
剤が供給されればマイクロカプセル膜表面は水相液滴
と油相の明確な界面に沿って形成されるうえ交換された
イオンの溶出もないため緻密でスムーズなものが出来
る。しかも溶解度以上のイオンは塩としてカプセル内で
析出し膜補強剤として寄与しうる。すなわち固体状態
でイオン交換剤を供給することによって水溶液で供給す
る場合には得られない優れた膜物性を有するマイクロ
カプセルを得ることが出来る。
【0013】さらに、本発明の二重層マイクロカプセ
ル、すなわち、内容物を含有する水相液滴を水不溶性塩
膜および界面重合体外膜の二重層で内包するマイ
クロカプセルは、微細で強度が強く、しかも界面重合体
膜特有の半透性という膜特性をもそこなわないという
特長を有する。本発明のマイクロカプセルは、十分粉体
として取扱える強度があり、サブミクロンオーダーに近
い微細さで、膜特性としては半透性を有したマイクロ
カプセルを作ることにより、界面重合反応によるマイク
ロカプセルの用途を広げるとともに、微細さであること
の利点を生かしマイクロカプセルの価値を高めることが
できる。本発明のマイクロカプセルは、油相中で膜を
形成するので水溶性の内容物を洩らさずマイクロカプセ
ルの中に閉じ込めることができる。特に微細なカプセル
を得ようとする場合この効果は大きく水溶液中でカプセ
ル化する場合とは内容物の封入率に大きな差を生じる。
またイオン交換反応により生じる塩がマイクロカプセル
内に析出し膜を強化すると共に、マイクロカプセル内
の浸透圧を高めるので水溶液中で塩が溶かし出されたマ
イクロカプセルとはまた異なった優れた効果を本発明の
マイクロカプセルに付与できるようになった。
【0014】本発明のマイクロカプセルは、十分粉体と
して取扱える強度があり、サブミクロンオーダーに近い
微細さで、膜特性としては半透性を有している。本法
によって得られる複合膜のマイクロカプセルは微細な
サイズ、強い強度、半透膜的物性などの優れた特性を利
用して様々な産業上の用途に展開することが出来る。例
えば電子工学の分野では、ネマティック液晶を本マイク
ロカプセルに封入したものはそのサイズ、形状、強度な
どにおいて理想的なカプセル化液晶として液晶表示素子
の機能を飛躍的に高めることが期待される。医薬品の分
野では、徐放性マイクロカプセルとすることができ、ま
た、歯周囲炎用薬剤を本マイクロカプセルに封入して歯
磨きペーストの中に添加すればサイズが微細なため歯磨
き時に容易に歯周ポケット中に分配され、持続的に薬剤
を放出するため、ただ単に薬剤をペースト中に添加した
場合よりはるかに優れた効果が期待される。また、生体
に対する毒性は極て低い。発酵の分野では、酵素を本
マイクロカプセルの中に封入しておけば有機溶剤相中で
も失活することなく利用できる上、マイクロカプセルが
小さいため酵素単位当りのマイクロカプセル表面積が大
きく反応速度が速い、容易に反応基質中に分散してなか
なか沈降しないため発酵槽内全体で均一に反応が進行す
る、など大きな利点を期待できる。繊維関係の分野で
は、本マイクロカプセルに水に溶解した染料をそのまま
閉じ込めれば従来の顔料では出し得ない冴えた色調の顔
料とすることが出来る上、サイズが小さく強度も強いの
でそのまま繊維に練り込んで使用し得る。
【0015】本マイクロカプセルに水溶性農薬を封入し
ておけば降雨のたびに少しずつ農薬を放出するような降
雨持続放出型農薬が出来る。雨後に特に活動性の高まる
虫などには特に大きな効果を発揮する。本マイクロカプ
セルに色素を封入してメイクアップ化粧品を作れば鮮や
かな色素そのままの色を出すことができる。また非常に
微細で球形度が高いため従来よりはるかに延びが良く滑
らかなパウダー,クリームを形成することが可能で価値
の高い化粧品を作ることが出来る。上記のように本マイ
クロカプセルを様々に使用することができる。使用量
は、それぞれの場合に適宜定められる。
【0016】以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体
的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものでは
ない。参考例1 処方例1 タートラジン 50mg 水ガラス液(1) 1ml 流動パラフィン液(2) 3ml 塩化カルシウム液(3) 1ml ヘプタン液(4) 12ml (1)水ガラス液の組成 水ガラス1号 21.7g 水 20ml (2)流動パラフィン液の組成 流動パラフィン 100ml スパン80 2g (3)塩化カルシウム液の組成 塩化カルシウム(粉砕品) 10g 流動パラフィン液 100ml (4)ヘプタン液の組成 ヘプタン 100ml スパン80 2g 処方例1の原料を用意した。タートラジンを水ガラス液
に溶解し、これを流動パラフィン液に加えマグネティッ
クスターラーで回転速度500rpmで5分間の撹拌乳
化を行った。次に塩化カルシウム液を加え同様に5分間
撹拌を継続した。次にヘプタン液を加えさらに5分間撹
拌を継続し反応を終了した。膜形成剤として硅酸ナト
リウムを含んだ水ガラス液の中にタートラジンを溶解し
これを水相とした。タートラジン(食用色素黄色4号)
は水溶性のモデル内容物として用いた。流動パラフィン
液は高粘性で乳化安定効果の高い油相として用いた。な
おスパン80は非イオン型の界面活性剤で乳化を促進・
安定化した。撹拌により微細で安定性の良好なW/O型
エマルジョンが得られた。次に加える塩化カルシウム液
はイオン交換剤であり、粉砕した塩化カルシウムを流動
パラフィン液の中に懸濁したものである。水相中の
形成剤である硅酸ナトリウムは塩化カルシウムのカルシ
ウムイオンの働きでナトリウムが置換され油水界面に硅
酸カルシウムが析出しマイクロカプセルの膜を形成し
た。塩化カルシウムの粒度はできるだけ細かい方が好ま
しいが流動パラフィン液中で容易に沈降せずに懸濁分散
する程度であれば良い。塩化カルシウム液を添加し撹拌
を継続すれば水相液滴の近傍に塩化カルシウムの微粒子
が懸濁分配された。油相の粘度が高いためこの操作によ
るイオン交換は抑制されており凝集を防ぐのに有効であ
る。粉末をそのまま添加するのではなく予め懸濁した状
態で添加するのもできるだけすばやく均一に塩化カルシ
ウムを分配し不要な凝集を起こさせないための配慮であ
る。次にヘプタンを撹拌下で添加すれば粘度は急激に低
下し水相水滴近傍の塩化カルシウムが動き易くなり水相
に取り込まれる機会が大幅に増えイオン交換反応が一気
に進行し短時間で完了した。膜形成過程での粘着力の
強い期間はごく短時間となるのでマイクロカプセルの凝
集は抑制されていた。塩化カルシウムは一旦水相液滴に
溶解し反応することになるのでイオン交換反応にともな
って硅酸カルシウム膜が形成されるとナトリウムイオ
ン及び塩素イオンの蓄積が生じ、カプセル内の浸透圧も
高まる。これがさらに進めば塩化ナトリウムがマイクロ
カプセル内に析出し膜の強化が計られる。この膜形
成の過程はW/Oのエマルジョン系の中で進行するため
内水相中のモデル内容物として添加されたタートラジン
は油相中に洩れることはなく理論的には100%マイク
ロカプセル中封入できることになる。
【0017】実施例 処方例2 マイクロカプセル懸濁液(5) 17ml ヘキサメチレンジアミン液(6) 1ml セバコイルクロリド液(7) 1ml (5)マイクロカプセル懸濁液参考例1 で得られたマイクロカプセル懸濁液(全液) (6)ヘキサメチレンジアミン液の組成 ヘキサメチレンジアミン 5g エチレングリコール 100ml (7)セバコイルクロリド液の組成 セバコイルクロリド 10g クロロホルム 100ml参考例1 で得られたマイクロカプセル懸濁液に処方例2
のヘキサメチレンジアミン液を加えマグネティックスタ
ーラーで回転速度500rpmで5分間撹拌後セバコイ
ルクロリド液を加え引続き30分間撹拌し操作を終了す
る。本発明の大きな特徴の一つとしてW/Oエマルジョ
ン下でイオン交換反応を利用して得たマイクロカプセル
懸濁液をそのまま用いてさらに第二次の膜を形成でき
るようにしたことがある。油相中に湿潤した表面を持つ
粒子が懸濁している場合はその表面物性を利用して様々
膜形成が可能で複合した構造の膜を持つマイクロ
カプセルの製造が可能となる。本例では参考例1で得ら
れた硅酸カルシウムを膜とするマイクロカプセルの表
面にさらに界面重合反応によるナイロン膜を形成する
例を示した。膜としてはヘキサメチレンジアミンとセ
バコイルクロリドの界面重合反応によりポリアミドのナ
イロン610を形成した。ナイロンを膜とするマイク
ロカプセルは現在すでに実用化されておりその製造法は
基本的には次の通りである。まずジアミンを含んだ水溶
液を油相中に乳化しW/Oエマルジョンを得、次に油相
に酸ジクロリドを添加し油水界面で界面重合させナイロ
膜を水相液滴の周囲に形成するものである。この方
法は単純かつ簡単で優れたマイクロカプセル製造法であ
る。しかし界面重合反応の欠点として厚みの厚い膜が
形成されにくいため反応液から取り出して一般の粉体と
して取り扱えるほど強度のあるマイクロカプセルを得る
ことは難しい。またジアミンは水相中に均一に溶解して
いるためマイクロカプセル内容物に悪影響する場合があ
るなどの欠点もある。これらの欠点を克服すればナイロ
膜のマイクロカプセルの利用価値は大きく広がるも
のと考えられる。このためまず強度を保たせるための核
または殻を形成し後からその表面をナイロンの膜で覆
うことを考えた。そうすれば内容物に対するジアミンの
影響がなくしかもナイロン膜の優れた特性を活かしつ
つ強度の高い理想的なマイクロカプセルができあがるこ
とになる。
【0018】本例ではこのような考えのもとに製造法を
発明した。これを実現するためには次のような大きな二
つの課題があった。すなわち核となる強度の高いマイク
ロカプセルを効率的にかつ凝集していない形で得ること
と、そのまま引続きその表面にナイロン重合モノマーを
効率よく強制的に分配できることであった。第一番目の
核となるマイクロカプセルについては参考例1により得
ることが出来た。第二番目のナイロン合成試薬のマイク
ロカプセル表面への分配については解決の糸口につなが
る次の現象を見いだしこれを本実施例に応用した。す
なわち親水性が高く油相とは溶け合わない溶剤を添加し
撹拌すれば油相中に懸濁したマイクロカプセルの湿潤し
親水性の高い表面にその溶剤が容易に配置することを見
いだした。したがってこのような溶剤にナイロン重合モ
ノマーを溶解しておけば容易に効率よくマイクロカプセ
ル表面にこのモノマーを分配することが出来る。本例の
場合ヘキサメチレンジアミンをマイクロカプセル表面に
分配する溶剤としてエチレングリコールを条件に合う溶
剤として選択した。すなわちヘキサメチレンジアミンを
溶解したエチレングリコールを参考例1で得られたマイ
クロカプセル懸濁液に添加し撹拌することによりマイク
ロカプセル表面をヘキサメチレンジアミン液で覆った。
これにより必要な濃度のヘキサメチレンジアミンが必要
な部位に効率よく分配されることになった。次にクロロ
ホルムに溶解したセバコイルクロリドを油相に加えマイ
クロカプセル表面のヘキサメチレンジアミンと界面重合
反応させた。クロロホルムをセバコイルクロリドの溶剤
として用いたのはナイロン膜形成時のマイクロカプセ
ル凝集傾向を防止する効果が高いことを見いだしたから
である。なおヘキサメチレンジアミンとセバコイルクロ
リドはそれぞれ代表的なナイロン重合モノマーとして選
択した。実施例の結果、次のように非常に優れた特徴
を持ったマイクロカプセルが得られた。一般的な粉体と
して取り扱うに十分な強度を有する。非常に細かく約2
μの平均粒子径である。その粒子径分布範囲は0.1μ
から10μと非常に狭い。凝集が少ない。粒子形状は異
形粒子が少なく非常に球形度合が高い。膜が透明で内
容物の色調を損なわない。膜は半透膜的物性を持つ。
マイクロカプセル内に塩化ナトリウムあるいはその構成
イオン濃度が高いため浸透圧が高い。このため水中で吸
水しマイクロカプセルはモデル内容物の色素を徐々に放
出する。参考例1および実施例1を通じて製造上の特徴
は次のようである。高価な設備機器は一切不要でマグネ
ティックスターラーさえあれば製造できる。工程及び操
作は非常に単純で撹拌しながら試薬を加えて行くだけで
しかも短時間に製造できる。水溶性の内容物を理論的に
は100%封入できる。高価なナイロン重合モノマーを
効率よく必要部位に分配できるため経済的に有利であ
る。
【0019】実施例 処方例3 マイクロカプセル懸濁液(5) 17ml ヘキサメチレンジアミン液(8) 1ml セバコイルクロリド液(7) 1ml (5)マイクロカプセル懸濁液参考例1 で得られたマイクロカプセル懸濁液(全液) (8)ヘキサメチレンジアミン液の組成 ヘキサメチレンジアミン 5g ヘプタン 100ml (7)セバコイルクロリド液の組成 セバコイルクロリド 10g クロロホルム 100ml参考例1 で得られたマイクロカプセル懸濁液に処方例3
のヘキサメチレンジアミン液(40℃でヘキサメチレン
ジアミンを溶解したもの)を加えマグネティックスター
ラーで回転速度500rpmで5分間撹拌後セバコイル
クロリド液を加え引続き30分間撹拌し操作を終了し
た。実施例と異なるのはヘキサメチレンジアミン液の
溶剤のみである。但し考え方は全く異なっている。すな
わち本例のヘキサメチレンジアミン液を構成するヘプタ
ンはマイクロカプセル懸濁液の油相成分の一つであり完
全に油相と溶け合う。従ってその中に溶解したヘキサメ
チレンジアミンも一旦油相全体に分配されるものの油相
成分にする溶解度は水にする溶解度より低いため自
然にマイクロカプセル表面の湿潤水相に優先的に再分配
される。したがってヘキサメチレンジアミンの油相と水
に対する溶解度の差をできるだけ大きく保っておくこと
が望ましい。ちなみにヘキサメチレンジアミン液は40
℃ではヘキサメチレンジアミンが完全に溶解している
が、20℃に置くと徐々に析出する。したがってヘキサ
メチレンジアミン液を加えるときは40℃に暖め完全に
溶解した状態で加えた。この状態で撹拌しつつしばらく
置くとヘキサメチレンジアミンが自然にマイクロカプセ
ル表面の湿潤水相に優先的に分配した。次にセバコイル
クロリドを油相に加えると湿潤水相に溶けたヘキサメチ
レンジアミンと核になるマイクロカプセルの表面で界面
重合反応しナイロン膜が形成された。この方法によっ
ても実施例で得られたマイクロカプセルとほぼ同様の
特性を有する複合膜構造を持ったマイクロカプセルが
得られた。
【0020】実施例 処方例4 マイクロカプセル懸濁液(5) 17ml シアノアクリレート液(9) 1ml (5)マイクロカプセル懸濁液参考例1 で得られたマイクロカプセル懸濁液(全液) (9)シアノアクリレート液の組成 シアノアクリレート 2g クロロホルム 100ml参考例1 で得られたマイクロカプセル懸濁液に処方例4
のシアノアクリレート液を加えマグネティックスターラ
ーで回転速度500rpmで10分間撹拌し操作を終了
した。参考例1で得られたマイクロカプセルの表面が湿
潤状態であることを直接利用してシアノアクリレートと
マイクロカプセル表面の水分を反応させ膜を形成す
る。操作としてはシアノアクリレート液を油相に添加し
て撹拌を継続するのみでナイロン膜を形成する場合よ
りもさらに単純である。
【0021】参考例2 処方例5 タートラジン 50mg アルギン酸ナトリウム液(10) 1ml 流動パラフィン液(2) 3ml 塩化カルシウム液(3) 1ml ヘプタン液(4) 12ml (10)アルギン酸ナトリウム液の組成 アルギン酸ナトリウム 1.5g 水 100ml (2)流動パラフィン液の組成 流動パラフィン 100ml スパン80 2g (3)塩化カルシウム液の組成 塩化カルシウム(粉砕品) 10g 流動パラフィン液 100g (4)ヘプタン液の組成 ヘプタン 100ml スパン80 2g 処方例5の原料を用意する。タートラジンをアルギン酸
ナトリウム液に溶解し、これを流動パラフィン液に加え
マグネティックスターラーで回転速度500rpmで5
分間の撹拌乳化を行った。次に塩化カルシウム液を加え
同様に5分間撹拌を継続した。次にヘプタン液を加えさ
らに5分間撹拌を継続し反応を終了した。参考例1とは
水ガラス液がアルギン酸ナトリウム液に変わっただけで
ある。膜形成剤はアルギン酸ナトリウムで、参考例1
とはこの点だけが異なる。以降についても形成される
膜がアルギン酸カルシウムとなるだけで他は参考例1
全く同じである。できあがったマイクロカプセルは参考
例1の硅酸カルシウムマイクロカプセルに較べるとやや
かたさが不足しており形も異形のものが増えてくるがさ
らに二次的な膜形成用の原料として用いることが出来
る。
【0022】
【発明の効果】本発明の二重層マイクロカプセルは、微
細で、高い強度および半透膜的物性を有するので、液
晶,医薬品等に有利に使用できる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 宮田謙一、中原佳子,アルカリ土類金 属ケイ酸塩球形粒子の表面特性,日本化 学会誌,日本,社団法人 日本化学会, 1976年 5月10日,5号,p.727−731 (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) B01J 13/02 - 13/22

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】内容物を含有する水相液滴を水不溶性塩内
    膜および界面重合体外膜の二重層で内包するマイク
    ロカプセル。
  2. 【請求項2】ともに水溶性でイオン交換により水不溶性
    塩を形成し得る二成分の一方を水相に含むW/Oエマル
    ジョンに、他方の成分を固体粉末状態で添加し反応させ
    一重層マイクロカプセルを製造し、さらに油相中でその
    外側に界面重合体被膜を形成させる反応に付すことを特
    徴とする請求項1記載のマイクロカプセルの製造法。
  3. 【請求項3】W/Oエマルジョンの油相が高粘性油相で
    あり、他方の成分を低粘性溶剤の存在下に反応させる請
    求項2記載のマイクロカプセルの製造法。
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宮田謙一、中原佳子,アルカリ土類金属ケイ酸塩球形粒子の表面特性,日本化学会誌,日本,社団法人 日本化学会,1976年 5月10日,5号,p.727−731

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