JP3209292B2 - 磁性材料とその製造方法 - Google Patents

磁性材料とその製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、特に、小型モーター、
アクチュエーターなどの用途に最適な、高磁気特性を有
するとともに耐酸化性にも優れた希土類系磁性材料に関
するものである。
【0002】
【従来の技術】磁性材料は、家庭電化製品、音響製品、
自動車部品やコンピューターの周辺端末機まで、幅広い
分野で使用されており、エレクトロニクス材料としての
重要性は年々増大しつつある。特に最近、各種電気・電
子機器の小型化、高効率化が要求されてきたため、より
高性能の磁性材料が求められている。
【0003】この時代の要請に応え、Sm−Co系、N
d−Fe−B系などの希土類系磁性材料の需要が急激に
増大している。しかし、Sm−Co系磁性材料は原料供
給が不安定で原料コストが高く、Nd−Fe−B系磁性
材料には、耐熱性や耐食性に劣るという問題点がある。
一方、新しい希土類系磁性材料として、希土類−Fe−
N磁性材料が提案されている(例えば、特開平2−57
663号公報参照)。この材料は、磁化、異方性磁界、
キュリー点が高く、前述のSm−Co系やNd−Fe−
B系磁性材料の欠点を補う磁性材料として期待されてい
る。
【0004】しかしながら、この希土類−Fe−N系材
料を細かく粉砕して使用する場合には、表面が酸化され
て保磁力が低下し、この材料が本来有している高磁気特
性を充分発揮することができないという問題があった。
この対策として、希土類−Fe−N系材料にCu、In
等の金属成分Mを含ませることにより、保磁力を向上さ
せる方法が考えられ、この希土類−Fe−M−N系材料
については、特開昭62−269303号公報、特開昭
62−136551号公報等に開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前述の
各公報に開示された希土類−Fe−M−N系磁性材料で
は、各成分元素の含有量を特定しているだけであって、
その結晶構造や微構造は特定されていない。また、前記
公報の開示によれば、これらの磁性材料は、各成分元素
とこれらの窒化物とを溶融,焼結することにより製造さ
れるため、実際には窒化鉄、α−鉄、窒化希土類、M、
及びMの窒化物を多く含有するものが得られる。従っ
て、保磁力を初めとする磁気特性は、期待されるほど改
善されずにむしろ劣化することが多かった。
【0006】本発明は、磁性材料を構成する各成分元素
の含有量を特定するだけでなく、結晶構造と微構造とを
特定することにより、高い磁気特性と優れた耐酸化性を
併せ持つ希土類−Fe−M−N系磁性材料とその製造方
法とを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため
に、請求項1の磁性材料は、一般式Rw Fex y z
で表される物質からなり、(但し、RはYを含む希土類
元素から選ばれた少なくとも一種の元素、MはCuおよ
びInから選ばれた少なくとも一種の元素であり、w、
x、y、zは各成分元素の原子百分率を示し、下記
(1)〜(4)式を同時に満たす。) 3≦w≦20 ……(1) 25≦x≦93.95……(2) 0.05≦y≦50 ……(3) 3≦z≦30 ……(4) 主相の結晶構造が、前記R、Fe、及びNを主成分とす
る菱面体晶又は六方晶であるとともに、この主相内に前
記M成分を主体とする介在物が分散している微構造をな
し、前記介在物間の平均距離が0.01〜0.5μmで
あることを特徴とするものである。
【0008】請求項2の磁性材料は、前記Fe成分の
0.01〜50原子%をCoで置換したことを有するこ
とを特徴とするものである。また、請求項3は、このよ
うな磁性材料の製造方法を提供するものであり、一般式
w/ (100-z)Fex/(100-z) y/(100-z) で表され、
(但し、RはYを含む希土類元素から選ばれた少なくと
も一種の元素、MはCuおよびInから選ばれた少なく
とも一種の元素であり、w、x、yは各成分元素の原子
百分率を示し、zは後から添加されるNの含有量〔原子
百分率〕を示し、w、x、y、zは下記(1)〜(4)
式を同時に満たす。) 3≦w≦20 ……(1) 25≦x≦93.95……(2) 0.05≦y≦50 ……(3) 3≦z≦30 ……(4) 主相の結晶構造がRおよびFeを主成分とする菱面体晶
又は六方晶であり、この主原料相にM成分が分散された
微構造をなすR−Fe−M系合金を、窒素ガス、アンモ
ニアガスのうち少なくとも一種を含む雰囲気下で、20
0〜650℃の温度条件により窒化処理することを特徴
とする。
【0009】請求項1および2における磁性材料の成分
元素である希土類元素(R)としては、Y、La、C
e、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、D
y、Ho、Er、Tm、Yb、およびLuが挙げられ
る。この磁性材料には、これらのうち少なくとも一種の
元素が含まれている必要がある。したがって、ミッシュ
メタルやジジム等のように、二種以上の希土類元素を含
有する物を用いても良い。好ましい希土類元素は、Y、
Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Dy、およびErであ
る。さらに好ましいものとしては、Y、Ce、Pr、N
d、およびSmが挙げられる。
【0010】ここで用いる希土類元素(R)は、工業的
生産により入手可能な純度のものであればよく、製造上
混入が避けられない不純物、例えば、O、H、C、A
l、Si、F、Na、Mg、Ca、Liなどが存在して
いるものであっても差し支えない。前記磁性材料の成分
元素である鉄(Fe)は、この磁性材料において強磁性
を担う基本成分であり、25原子%以上含有する必要が
ある。また、鉄成分のうちの0.01〜50原子%をC
oで置換することができ、このCoの導入により、キュ
リー点と磁化とが上昇するとともに、耐酸化性も向上で
きる。以下においては、鉄成分と表記した場合、Feの
0.01〜50原子%をCoで置換したものを含むもの
とする。
【0011】前記磁性材料の成分元素である金属(M)
は、CuおよびInから選ばれた少なくとも一種の元素
であるが、M’成分として、Ga、Al、Zn、Sn、
Mn、Cr、Ni、Li、Na、K、Mg、Ca、S
r、Ba、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、
W、Pd、Ag、B、C、Si、Ge、Pb、およびB
iの元素のうち一種または二種以上の元素を、Cuおよ
び/またはInとともに含有させても良い。この場合、
これらの含有量はCu、Inの合計量を超えない量であ
って、しかもCuおよび/またはInとの合計量が0.
05〜50原子%の範囲となるようにしなければならな
い。
【0012】前記磁性材料における希土類元素、鉄成
分、M、および窒素の各組成は、希土類元素成分が3〜
20原子%、鉄成分が25〜93.95原子%、M成分
が0.05〜50原子%、窒素成分が3〜30原子%と
し、これらを同時に満たすものである。希土類元素成分
が3原子%未満のとき、鉄成分を多く含む軟磁性相が分
離し、窒化物の保磁力が低下して実用的な永久磁石とな
らない。また希土類元素成分が20原子%を超えると、
残留磁束密度が低下して好ましくない。
【0013】R−Fe−N系磁性材料に対するM成分の
添加効果は、主に耐酸化性の向上である。M成分が0.
05原子%未満の場合は、前述のようなMの添加効果が
発揮されないため好ましくない。50原子%を超える
と、飽和磁化が低下するため好ましくなく、M成分量の
好ましい範囲は、0.1〜30原子%である。なお、M
成分の添加により、母合金の調製方法や条件によって
は、粒表面、粒界近傍、あるいはRFe3 相等のRリッ
チの窒化物相などの軟磁性を示す副相にM成分が凝縮さ
れて、前記副相が非磁性相化されることにより、窒化物
の角形比や保磁力を向上させることもある。
【0014】後述のように、R−Fe−M合金へ窒素を
導入することにより、R−Fe−M合金の結晶格子に膨
張が生じて、耐酸化性や磁気特性を向上できる。窒素成
分が3原子%未満では、このような作用を十分に発揮さ
せることができないため好ましくない。30原子%を超
えると磁化が低くなり、磁石材料用途としては実用性が
小さいものとなるため好ましくない。窒素成分の含有量
としてより好ましい範囲は、5〜25原子%であり、特
に好ましい範囲は10〜23原子%である。
【0015】窒素成分の最適な含有量は、目的とするR
−Fe−M−N系磁性材料のR−Fe−M組成比や、主
相の存在比、および結晶構造などによって異なり、例え
ば菱面体構造を有するPr12.2Fe79.0In8.8 を原料
合金として選ぶ場合には、窒素成分の最適な含有量は1
4〜15原子%付近となる。ここでいう最適な窒素量と
は、目的に応じて異なるが、得られる磁性材料における
耐酸化性や多数の磁気特性の内いくつかが最適となる窒
素量であり、磁気特性が最適というのは、保磁力の温度
変化率、熱減磁率の絶対値、および磁気異方性比につい
ては極小となり、その他の磁気特性については、極大と
なることである。
【0016】一方、請求項1および2の磁性材料におい
ては、主相の結晶構造を、前記R、Fe、及びNを主成
分とする菱面体晶又は六方晶に特定している。このよう
な結晶構造の主相は、菱面体晶又は六方晶とほぼ同じ対
称性を有する結晶構造のR−Fe−M合金(母合金)に
窒素を導入することにより、すなわち窒素を前記結晶の
格子間に侵入させるか、いずれかの成分元素(主にM)
と置換させることにより得られる。
【0017】このような母合金への窒素の導入により、
結晶格子が多くの場合膨張する。そして、この結晶格子
の膨張によって、耐酸化性や以下に示す各磁気特性のう
ち少なくとも一つが向上する。磁気特性としては、材料
の飽和磁化(4πIs)、残留磁束密度(Br)、磁気
異方性磁界(Ha)、磁気異方性エネルギー(Ea)、
磁気異方性比、キュリー点(Tc)、固有保磁力(iH
c)、角形比(Br/4πIs)、最大エネルギー積
[(BH)max]、熱減磁率(α)、保磁力の温度変
化率(β)が挙げられる。ここで、磁気異方性比とは、
外部磁場を15kOe印加した時の困難磁化方向の磁化
(a)と容易磁化方向の磁化(b)との比(a/b)で
あり、磁気異方性比が小さいもの程、磁気異方性エネル
ギーが高いと評価される。
【0018】例えば、母合金として、菱面体構造を有す
るSm17.1Fe74.6Cu8.3 を選んだ場合、窒素を導入
することによって、結晶磁気異方性が、面内異方性から
硬磁性材料として好適な一軸異方性に変化し、磁気異方
性エネルギーを初めとする磁気特性と耐酸化性とが向上
する。請求項1および2の磁性材料には、前述のような
結晶構造の主相を50体積%以上含有する必要があり、
これ以外に副相として、別の結晶構造を有するR、F
e、及びNを主成分とした相、または別の組成からなる
相を含有してもよい。
【0019】例えば、RFe12-yM’y z 相のよう
な、正方晶を取る磁性の高い窒化物相を含んでいても良
いが、前記主相による作用を充分に発揮させるために
は、その含有量を主相の含有量より低く抑える必要があ
り、主相の含有量が75体積%を超えることが、実用上
極めて好ましい。また、母合金の製造条件を選ぶことに
よって、この主相内にM成分を含む介在物を分散させる
ことができる。特定の製造条件により前記主相内にM成
分を主体とする介在物が分散された母合金を製造し、こ
の母合金に窒素を導入して得られた合金は、ピンニング
型のR−鉄−M−窒素系磁性材料となる。ピンニング型
の磁性材料は、若干の酸化によって粒表面に軟磁性成分
が生じても、保磁力の低下を小さくすることができるも
のであるため耐酸化性が極めて高い材料となる。
【0020】そして、請求項1および2の磁性材料にお
いては、前記介在物間の平均距離を0.01〜0.5μ
mとする。この平均距離が0.5μmを超えると、ピン
ニング型となることによる保磁力低下を防ぐ効果がほと
んど見られず、また0.01μm未満であると、保磁力
および磁化の絶対値が小さくなるため好ましくない。さ
らに好ましい介在物間平均距離は0.03〜0.1μm
である。
【0021】なお、介在物間の平均距離は、一つの介在
物とそれに最も近い介在物との中央同士を結んだ距離を
n個の介在物について計測し、算術平均を求めた値であ
る。nの値は、材料の均質性の度合によって適宜定めら
れるが、同一のM成分分散度を有すると予測される領域
をいくつかにグループ分けし、それぞれからその領域を
代表する部分を選び出して、各n>5で介在物間平均距
離を算出する。
【0022】この介在物による前記作用を十分に発揮さ
せるためには、主相のうち、介在物間の平均距離が0.
01〜0.5μmである相が50体積%以上を占めるこ
とが好ましい。より好ましくは、前記割合を75体積%
以上とする。このようなR−Fe−M−N系磁性材料
に、水素(H)を0.01〜15原子%の範囲で含むこ
とが好ましく、さらには、酸素(O)も0.01〜15
原子%の範囲で含むことが好ましい。より好ましい水素
含有量及び酸素含有量は、共に0.1〜10原子%の範
囲である。
【0023】したがって、請求項1および2におけるR
−Fe−M−N系磁性材料の特に好ましい組成は、Rw
Fex y z u v で表わしたとき、各成分元素の
原子百分率を示すw、x、y、z、u、vが下記(5)
〜(10)を同時に満たすものである。 3≦w≦20 ……(5) 25≦x≦92 ……(6) 0.1≦y≦30 ……(7) 10≦z≦23 ……(8) 0.1≦u≦10 ……(9) 0.1≦v≦10 ……(10) 請求項3の製造方法では、主原料相の結晶構造がRおよ
びFeを主成分とする菱面体晶又は六方晶であり、この
主原料相にM成分が分散された微構造をなすR−Fe−
M系合金を、窒素ガス、アンモニアガスのうち少なくと
も一種を含む雰囲気下で、200〜650℃の温度条件
により窒化処理するが、より具体的な方法を、項目毎に
分けながら以下に述べる。 <母合金の調製>R−Fe−M合金の製造法としては、
イ)全成分金属を高周波により溶解し、鋳型などに鋳込
む高周波溶解法、ロ)銅などからなるボートに全成分金
属を仕込み、アーク放電により溶かし込むアーク溶解
法、ハ)高周波溶解した溶湯を回転させた銅ロール上に
落とすことにより、リボン状の合金を得る超急冷法、
ニ)高周波溶解した溶湯をガスで噴霧して合金粉体を得
るガスアトマイズ法、ホ)Fe成分および/またはM成
分の粉体、もしくはFe−M合金粉体と、Rおよび/ま
たはMの酸化物粉体と、還元剤とを高温下で反応させ、
RもしくはR及びMを還元しながら、RもしくはR及び
Mを、Feおよび/またはFe−M合金粉末中に拡散さ
せるR/D法、ヘ)各成分金属の単体および/または合
金を、ボールミルなどで微粉砕しながら反応させるメカ
ニカルアロイング法、ト)上記何れかの方法で得た合金
を水素雰囲気下で加熱し、一旦Rおよび/またはMの水
素化物と、Feおよび/またはMもしくはFe−M合金
とに分解し、この後高温下で低圧にして水素を追い出し
ながら再結合させ合金化するHDDR法のいずれを用い
てもよい。
【0024】高周波溶解法やアーク溶解法を用いた場合
には、溶融状態から合金が凝固する際に、Fe主体の軟
磁性成分が析出しやすい。この軟磁性成分は、特に窒化
工程を経た後も保磁力の低下を引き起こすものである。
したがって、溶融条件や、鋳型の材質とその空隙部の厚
みなどを適宜調節して、冷却速度が充分速くなる方法を
講じることが望ましい。
【0025】さらに、アルゴン、ヘリウムなどの不活性
ガス中もしくは真空中、600℃〜1300℃の温度範
囲で焼鈍を行えば、この軟磁性成分を消失させたり、得
られる合金の微構造を制御することができる。この方法
で作製した合金は、超急冷法などで作製した場合と比べ
て結晶性が良好であり、高い残留磁束密度を有してい
る。
【0026】超急冷法を用いた場合には、微細な結晶粒
が得られ、条件によってはサブミクロンの粒子も調製で
きる。但し、冷却速度が大きい場合には、合金の非晶質
化が起こり、窒化後においても磁化などの磁気特性が低
下する。この場合にも、前述のような合金調製後の焼鈍
が有効である。ガスアトマイズ法により得られた合金
は、結晶粒が球状の形態を取ることが多いため、ガスの
流量や溶湯の温度条件等によりその粒径を微粉体から粗
粉体まで広範囲に調製することが可能である。この場合
も、条件によっては前述のような焼鈍を行い、結晶性を
良好にすることが必要となる。
【0027】R/D法、メカニカルアロイング法、およ
びHDDR法により調製した合金は、結晶粒を0.01
〜3μmの微細な大きさに調整したり、M成分主体相の
組成や分布状態を任意に調節したりすることが可能であ
るため、主相にM成分を主体とする介在物を分散させや
すい。母合金を焼鈍する条件は、母合金の組成や目的と
する磁性材料の特性に応じ、前述の範囲内において選定
される。例えば、Sm2 Fe17X 主相中に、大きさが
0.5μm以下である細かいM成分主体相を分散させ
て、保磁力が酸化により劣化することを抑えたい場合に
は、不活性ガス雰囲気下600〜1000℃の温度範囲
で熱処理することが望ましい。 <粗粉砕及び分級>上記の方法で作製した合金インゴッ
トを直接窒化,熱処理することも可能であるが、結晶粒
径が500μmより大きいと窒化処理時間が長くなるた
め、粗粉砕を行ってから窒化する方が効率的である。
【0028】粗粉砕は、ジョ−クラッシャー、ハンマ
ー、スタンプミル、ローターミル、ピンミル、コーヒー
ミルなどを用いて行う。また、ボールミルやジェットミ
ルなどのような粉砕機を用いても、条件次第では、窒化
処理に適当な大きさの合金粉末を調製することができ
る。また、粗粉砕を行った後に、ふるいや、振動式ある
いは音波式の分級機、サイクロンなどにより粒度調整を
行うと、窒化処理がより均質に行われる。
【0029】なお、粗粉砕,分級して得られた磁性粉に
対して、不活性ガスや水素中で焼鈍を行うと、構造の欠
陥を除去することができる場合がある。 <窒化・焼鈍>上記の方法により得られたR−Fe−M
合金の粉体またはインゴットに、アンモニアガス、窒素
ガスなどの窒素源を含むガスを接触させて、結晶構造内
に窒素を導入する。
【0030】このとき、窒化雰囲気ガス中に水素を共存
させると、窒化効率が高いうえに、結晶構造が安定なま
まで窒化できるため好ましい。また、窒化反応を制御す
るために、アルゴン、ヘリウム、ネオンなどの不活性ガ
スを共存させてもよい。窒化反応は、ガス組成、加熱温
度、加熱処理時間、および加圧力などの条件を変えるこ
とにより制御することができる。
【0031】加熱温度は、母合金組成や窒化雰囲気によ
って異なるが、200〜650℃の範囲とする。好まし
い温度範囲は250〜600℃である。また、窒化を行
った後、不活性ガスおよび/または水素ガス中で焼鈍す
ると、磁気特性をさらに向上できる。窒化・焼鈍装置と
しては、横型または縦型の管状炉、回転式反応炉、密閉
式反応炉などが挙げられる。特に、窒素組成分布の揃っ
た粉体を得るためには回転式反応炉を用いるのが好まし
い。
【0032】反応に用いるガスの供給方法としては、ガ
ス組成を一定に保ちながら1気圧以上の気流を反応炉の
送り込む気流方式、容器内に0.01〜70気圧でガス
を封入する封入方式、或いはそれらを組合せた方法があ
る。このような窒化処理における最適な処理条件は、母
合金がインゴットであるか粉体であるかにより、粉体で
ある場合には、表面状態、結晶粒径、粉砕粒径、および
微構造等により、インゴットである場合には表面状態や
微構造等により異なる。
【0033】特に、実用的な硬磁性材料とするために
は、上記の処理の後に、以下に示すような微粉砕、磁場
成形、および着磁を行う場合がある。 <微粉砕>微粉砕方法は、磁性材料に含有される水素や
酸素の量、及び目標とする粉砕粒径に応じて選定され
る。使用される粉砕装置としては、回転ボールミル、振
動ボールミル、遊星ボールミル、ウエットミル、ジェッ
トミル、カッターミル、ピンミル、および自動乳鉢が挙
げられる。これらを組合せて二段階以上に分けて粉砕し
てもよい。
【0034】なお、この工程でM成分をさらに添加し、
次の<磁場成形>工程の前あるいは後に熱処理を行って
各種磁石材料とすれば、角形比や保磁力の絶対値が向上
できる。 <磁場成形>このようにして得られた磁性粉体を異方性
ボンド磁石に応用する場合には、熱硬化性樹脂や金属バ
インダーと混合した後、磁場中で圧縮成形したり、熱可
塑性樹脂と共に混練してから磁場中で射出成形を行った
りすることにより磁場成形を行う。このような磁場成形
は、充分な磁場配向を得るために、好ましくは10kO
e以上、さらに好ましくは15kOe以上の磁場中で行
う。
【0035】また、異方性ボンド磁石を作製する場合に
は、M成分を金属バインダーや表面処理剤としても使用
する。 <着磁>焼結磁石材料や、上記のようにして得られた異
方性ボンド磁石材料は、通常、着磁を行って、その磁石
性能を高める。
【0036】この着磁は、例えば、静磁場を発生する電
磁石、パルス磁場を発生するコンデンサー着磁器などを
用いて行う。充分な着磁を行うためには、磁場強度を、
好ましくは15kOe以上、さらに好ましくは30kO
e以上とする。
【0037】
【作用】請求項1によれば、R−Fe−M−N系磁性材
料における各成分元素の組成を、(1)〜(4)の式に
より特定することと、前記合金の主相をなす結晶構造を
R、Fe、及びNを主成分とする菱面体晶又は六方晶に
特定することとにより、R−Fe−M−N系磁性材料に
高い磁気特性を付与することができる。
【0038】また、この磁性材料の微構造を、前記主相
内にM成分を含む介在物が分散しているものとし、前記
介在物間の平均距離を0.01〜0.5μmに特定する
ことにより、この磁性材料をピンニング型とすることが
できるため、細かく粉砕して使用する場合に若干の酸化
によって粒子表面に軟磁性成分が生じても、保磁力の低
下を小さくすることができる。
【0039】請求項2によれば、Coの導入により、キ
ュリー点と磁化とが上昇するとともに、耐酸化性も向上
できる。請求項3によれば、主相の結晶構造が、Rおよ
びFeを主成分とする菱面体晶又は六方晶であり、この
主相にM成分が分散された微構造をなすR−Fe−M系
合金を、窒素ガス、アンモニアガスのうち少なくとも一
種を含む雰囲気下、200〜650℃の温度条件で窒化
処理することにより、窒素がR−Feからなる主相の結
晶格子間に侵入するか、M成分をなす元素と置換して、
主相の結晶構造が、前記R、Fe、及びNを主成分とす
る菱面体晶又は六方晶であるとともに、この主相内に前
記M成分を主体とする介在物が分散している微構造のR
−Fe−M−N系磁性材料を得ることができる。
【0040】
【実施例】以下に、本発明の実施例を示す。各特性の測
定方法および評価方法は、以下のとおりである。 《磁気特性》固有保磁力により評価した。
【0041】すなわち、平均粒径約7μmのR−Fe−
M−N系磁性粉体を、外部磁場15kOe中、12to
n/cm2 で5mm×10mm×2mm程度に成形し、
この成形体を室温の下、60kOeの磁場でパルス着磁
した後、振動試料型磁力計(VSM)により固有保磁力
(iHc/kOe)を測定した。 《窒素量、酸素量、及び水素量》窒素量及び酸素量は、
Si3 4 (SiO2 を定量含む)を標準試料として、
不活性ガス融解法により定量した。水素量は、高純度水
素ガス(99.999%)を標準ガスとして、不活性ガ
ス融解法により定量した。 《平均粒径》リー・ナース比表面積計を用いて測定し
た。 《耐酸化性能−1》110℃で200時間保持した前後
における固有保磁力の保持率(%)により評価した。
【0042】すなわち、前述のようにして固有保磁力
(A)を評価した成形品を、110℃の恒温槽に入れて
200時間保持した後に、前記と同様にして固有保磁力
(B)を測定し、B/Aを算出した。保持率の高いもの
ほど、耐酸化性能が高い。特に、本試験では各種バイン
ダーを添加せずに評価しているため、保持率70%を越
えるものは、例えばボンド磁石とした時の実用物性とし
て充分使用可能な材料と判定できる。 《耐酸化性能−2》平均粒径15μmに調整した粗粉体
試料10mgを熱天秤に入れ、50ml/minの空気
気流中、10℃/minの速度で50℃から250℃ま
で昇温させた時の重量変化率(重量%)を測定した。重
量変化率の小さいものほど酸化されにくい。 <実施例1>純度99.9%のSm、純度99.9%の
Fe、及び純度99.9%のCuを用いてアルゴンガス
雰囲気下、高周波溶解炉で溶解混合し、さらにアルゴン
雰囲気中で、920℃で50時間、続いて800℃で7
5時間焼鈍することにより、Sm13.2Fe78.1Cu8.7
組成の合金を調製した。
【0043】この合金をジョークラッシャーにより粉砕
し、次いで窒素雰囲気中ローターミルでさらに粉砕した
後、ふるいで粒度を調整して、平均粒径約50μmの粉
体を得た。このSm−Fe−Cu合金粉体を横型管状炉
に仕込み、450℃において、アンモニア分圧0.32
atm、水素ガス0.68atmの混合気流中で加熱処
理し、続いてアルゴン気流中で焼鈍したのち、平均粒径
約15μmに調整した。次いで、この粗粉体をジェット
ミルにより平均粒径約7μmに粉砕した。
【0044】このとき、粉砕ガスとしては、窒素を主体
とし、一部酸素及び水蒸気を混入させたガスを用いた。
得られたSm−Fe−Cu−N系粉体の組成と、耐酸化
性能の評価結果とを表1に併せて示す。また、7μmに
粉砕したSm−Fe−Cu−N系粉体の成形体の固有保
磁力は9.8kOe、残留磁束密度は7.6kGであっ
た。なお、X線回折法により解析した結果、この材料の
結晶構造は主として菱面体晶であった。また、SEM及
びTEM写真による解析の結果、菱面体晶相内にCuを
主体とする介在物の分散が認められ、介在物間平均距離
は0.10μmであることが判った。 <実施例2>純度99.9%のSm、純度99.9%の
Fe、および純度99.9%のInを用いてアルゴンガ
ス雰囲気下、高周波溶解炉で溶解混合し、さらにアルゴ
ン雰囲気中で、880℃で10時間、続いて850℃で
20時間、さらに630℃で120時間焼鈍することに
より、Sm12.7Fe81.2In6.1 組成の合金を調製し
た。
【0045】以下、実施例1と同様にして平均粒径15
μmの粗粒子を得、表1に示す組成の平均粒径7μmの
Sm−Fe−In−N系粉体を得た。7μmの粉体から
なる成形体の固有保磁力は6.9kOe、残留磁束密度
は7.1kGであった。なお、X線回折法により解析し
た結果、この材料の結晶構造は主として菱面体晶であっ
た。また、SEM及びTEM写真による解析の結果、菱
面体晶相内にInを主体とする介在物の分散が認めら
れ、介在物間平均距離は0.30μmであることが判っ
た。 <実施例3>純度99.9%のSm、純度99.9%の
Fe、純度99.9%のCo、及び純度99.9%のI
nを用いてアルゴンガス雰囲気下、高周波溶解炉で溶解
混合し、さらにアルゴン雰囲気中で、900℃で70時
間、続いて850℃で100時間焼鈍することにより、
Sm12.8Fe60.8Co20.3In6.1 組成の合金を調製し
た。
【0046】以下、実施例1と同様にして平均粒径15
μmの粗粒子を得、表1に示す組成の平均粒径7μmの
Sm−Fe−Co−In−N系粉体を得た。7μmの粉
体からなる成形体の固有保磁力は9.4kOe、残留磁
束密度は8.8kGであった。なお、X線回折法により
解析した結果、この材料の結晶構造は主として菱面体晶
であった。また、SEM及びTEM写真による解析の結
果、菱面体晶相内にInを主体とする介在物の分散が認
められ、介在物間平均距離は0.08μmであることが
判った。 <実施例4>純度99.9%のSm、純度99.9%の
Fe、及び純度99.9%のCuを実施例1と同様な方
法で溶解混合して、Sm−Fe−Cu合金を得た。
【0047】この合金を石英ノズルに仕込み、アルゴン
ガス雰囲気下で高周波溶解した後、その溶湯を、回転速
度1000rpmで回転させてある直径25cm、幅2
cmの銅製ロール上に落とすことにより、薄片状の試料
を調整した。さらに、この試料を、アルゴン雰囲気中8
70℃で15分間、続いて700℃で4時間焼鈍するこ
とにより、Sm13.3Fe78.7Cu8.0 組成の合金を調製
した。
【0048】この薄片状の試料を、実施例1と同様の方
法で窒化,焼鈍,粉砕することにより、平均粒径約15
μmの粗粉体と平均粒径約7μmの粉体とを得た。得ら
れた7μmSm−Fe−Cu−N系粉体の組成と、耐酸
化性能の評価結果とを表1に併せて示す。また、7μm
に粉砕したSm−Fe−Cu−N系粉体の成形体の固有
保磁力は10.7kOe、残留磁束密度は7.5kGで
あった。なお、X線回折法により解析した結果、この材
料の結晶構造は主として菱面体晶であった。また、SE
M及びTEM写真による解析の結果、菱面体晶相内にC
uを主体とする介在物の分散が認められ、介在物間平均
距離は0.05μmであることが判った。 <比較例1>Cuを加えない以外は実施例1と同様にす
ることにより、表1に示した組成のSm−Fe−N系粉
体を得た。得られた粉体の耐酸化性能の評価結果も、表
1に併せて示す。
【0049】また、7μmに粉砕したSm−Fe−N系
粉体の成形体の固有保磁力は2.7kOe、残留磁束密
度は8.2kGであった。以上の結果を、以下の表1に
併せて示す。
【0050】
【表1】
【0051】表1の結果より、実施例1〜4では固有保
磁力の保持率が90%以上と高く、重量変化率は0.0
4〜0.07重量%と小さかった。これに比べて比較例
1では、固有保磁力の保持率が64%と低く、重量変化
率は0.26重量%と大きかった。 <比較例2>比較例1で得た平均粒径7μmのSm−F
e−N系粉体をさらに2μmまで粉砕した。得られた微
粉体についての固有保磁力の保持率(耐酸化性能−1)
は53%であり、成形体とした時の固有保磁力は9.5
kOe、残留磁束密度は7.6kGであった。 <比較例3>実施例2で得られた、粒径約7μmのSm
10.6Fe67.6In5.1 14.60.51.6 組成の粉体
を、2ton/cm2 、15kOeの条件で磁場成形し
た後、アルゴン雰囲気下、1100℃、1時間の条件で
熱処理を行った。これを急冷した後の成形体の固有保磁
力は0.1kOe以下であった。この成形体を再び約7
μmに粉砕した粉体の固有保磁力は0.1kOe以下で
あった。
【0052】なお、この材料の結晶構造をX線回折によ
り解析した結果、α−鉄、窒化鉄に対応する回折線が主
に検出された。
【0053】
【発明の効果】以上説明したように、請求項1によれば
R−Fe−M−N系磁性材料における各成分元素の組成
を特定することと、前記合金の主相をなす結晶構造を
R、Fe、及びNを主成分とする菱面体晶又は六方晶に
特定することとにより、R−Fe−M−N系合金に高い
磁気特性を付与することができる。
【0054】また、この磁性材料の微構造を、前記主相
内にM成分を含む介在物が分散しているものとし、前記
介在物間の平均距離を0.01〜0.5μmに特定する
ことにより、この磁性材料をピンニング型とすることが
できるため、細かく粉砕して使用する場合に若干の酸化
によって粒子表面に軟磁性成分が生じても、保磁力の低
下を小さくすることができる。
【0055】その結果、高い磁気特性と優れた耐酸化性
を併せ持つ希土類−Fe−M−N系磁性材料を提供する
ことができる。請求項2によれば、キュリー点と磁化と
が上昇され、耐酸化性もより改善された磁性材料が得ら
れる。請求項3によれば、主相の結晶構造がRおよびF
eを主成分とする菱面体晶又は六方晶であり、この主相
にM成分が分散された微構造をなすR−Fe−M系合金
を、窒素ガス、アンモニアガスのうち少なくとも一種を
含む雰囲気下、200〜650℃の温度条件で窒化処理
することにより、高い磁気特性と優れた耐酸化性を併せ
持つ希土類−Fe−M−N系磁性材料が得られる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) H01F 1/032 - 1/08 C22C 38/00 303

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 一般式Rw Fex y z で表される物
    質からなり、(但し、RはYを含む希土類元素から選ば
    れた少なくとも一種の元素、MはCuおよびInから選
    ばれた少なくとも一種の元素であり、w、x、y、zは
    各成分元素の原子百分率を示し、下記(1)〜(4)式
    を同時に満たす。) 3≦w≦20 ……(1) 25≦x≦93.95……(2) 0.05≦y≦50 ……(3) 3≦z≦30 ……(4) 主相の結晶構造が、前記R、Fe、及びNを主成分とす
    る菱面体晶又は六方晶であるとともに、この主相内に前
    記M成分を主体とする介在物が分散している微構造をな
    し、前記介在物間の平均距離が0.01〜0.5μmで
    あることを特徴とする磁性材料。
  2. 【請求項2】前記Fe成分の0.01〜50原子%をC
    oで置換したことを有することを特徴とする請求項1記
    載の磁性材料。
  3. 【請求項3】一般式Rw/ (100-z)Fex/(100-z)
    y/(100-z) で表され、(但し、RはYを含む希土類元素
    から選ばれた少なくとも一種の元素、MはCuおよびI
    nから選ばれた少なくとも一種の元素であり、w、x、
    yは各成分元素の原子百分率を示し、zは後から添加さ
    れるNの含有量〔原子百分率〕を示し、w、x、y、z
    は下記(1)〜(4)式を同時に満たす。) 3≦w≦20 ……(1) 25≦x≦93.95……(2) 0.05≦y≦50 ……(3) 3≦z≦30 ……(4) 主相の結晶構造がRおよびFeを主成分とする菱面体晶
    又は六方晶であり、この主相にM成分が分散された微構
    造をなすR−Fe−M系合金を、窒素ガス、アンモニア
    ガスのうち少なくとも一種を含む雰囲気下で、200〜
    650℃の温度条件により窒化処理することを特徴とす
    る磁性材料の製造方法。
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