JP2022146666A - 熱延コイルの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】設備等に要するコスト増を招くことなく、熱間圧延工程におけるコイラー巻き取り後の熱延コイルの形状が潰れるのを抑制する。【解決手段】熱間圧延設備1で圧延した熱延鋼板Hを巻き取って形成する熱延コイルCの製造方法であって、熱延鋼板Hの恒温変態図における50%変態曲線よりも高い温度で1000sec以上保持できる温度域で巻き取る。高温で巻き終わった熱延コイルCが徐冷され、ゆっくりとフェライト変態が進行することにより、熱延コイルCの内外周部11、13と中央部12とで径方向の変態進行速度に差が生じ、形状を保ったままで、熱延コイルC全体の変態が終了する。【選択図】図3
Description
本発明は、熱間仕上圧延後の熱延鋼板を巻き取って形成する熱延コイルの製造方法に関し、巻き取り後のコイル形状が潰れるのを抑制するための製造方法に関するものである。
熱延工程の仕上圧延後の熱延鋼板は、搬送装置であるランアウトテーブルに設けられた冷却装置により冷却され、コイラーに巻き取られて、熱延コイルが形成される。この熱延コイルにおいては、コイラーから抜き出した後の熱延コイルが円形を保持できず、内径が潰れる現象が発生することがある。殊に、熱延鋼板がハイテン材と呼ばれる高張力鋼の場合には、巻き取り中もしくは巻き取り直後にフェライト変態し、張力を失って内径が潰れる現象が起こりやすい。
内径が潰れた熱延コイルは、次工程でアンコイルする際、巻き解き装置にコイルを装着することができず、巻き戻し処理やジャッキアップ作業などが必要となり、工程が増えることによるタイムロスやコスト増が発生する。また、従来、熱延コイルの内径潰れを防止するために、コイラー内のスプレー冷却やVスキッドによる形状の矯正を試みたが、いずれも所望する効果が得られなかった。
例えば特許文献1には、板厚2~3.5mmの高炭素鋼をコイラーに巻き取った後、マンドレルに巻き付けたまま保持冷却し、冷却後マンドレルから取外して搬送する熱延コイルの処理方法が開示されている。
また、特許文献2には、熱間圧延後急速冷却し、フェライトノーズ温度で巻き取ることで、コイル潰れの発生を防止するための冷却時間を短縮する方法が開示されている。
特許文献3には、熱間圧延機から送り出した直後の熱延鋼板の温度がその鋼板の長手方向に沿って一定となるように熱延中に冷却した後、熱間圧延機からホットランテーブル上に一定速度で送り出し、巻き取りまでの間の冷却速度と冷却時間とが長手方向に沿って一定となるように冷却することにより、コイルの潰れを抑制する方法が開示されている。
特許文献4には、熱延鋼板の長手方向の複数箇所がそれぞれ巻取機に到達した時点におけるそれらの箇所のフェライト変態の相変態率が、熱延鋼板の先端部から尾端部に向かうにつれて単調増加するように、中間温度の制御によりフェライト変態の相変態率を制御することにより、コイルの潰れを抑制する方法が開示されている。
しかしながら、上記特許文献1は、コイラー内で冷却を行うための冷却設備を設ける必要があるうえ、巻き取り後に全体が同時にフェライト変態し、張力を失って形状を保つことができなくなる。また、特許文献2もまた、コイラー内の冷却を行うため、特許文献1と同様に、張力を失って形状を保つことができなくなる。
また、特許文献3および特許文献4は、熱延鋼板の長手方向における複雑な温度制御を要する。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、設備等に要するコスト増を招くことなく、熱間圧延工程におけるコイラー巻き取り後の熱延コイルの形状が潰れるのを抑制することを目的とする。
上記問題を解決するため、本発明は、熱間圧延設備で圧延した熱延鋼板を巻き取って形成する熱延コイルの製造方法であって、前記熱延鋼板の恒温変態図における50%変態曲線よりも高い温度で1000sec以上保持できる温度域で巻き取ることを特徴とする、熱延コイルの製造方法を提供する。
前記熱延コイルの製造方法において、前記熱延鋼板の巻き取り時の組織のフェライト相が30%以下となる温度域で巻き取り、その後、その温度域に保持してもよい。
また、前記恒温変態図は、実際に熱延工程を行い、該熱延工程により前記熱延鋼板を所定の温度まで冷却してからコイラーに巻き取った熱延コイルの状態に基づいて、前記所定の温度における前記熱延鋼板の変態の完了時間を推定し、推定した前記所定の温度における前記熱延鋼板の変態の完了時間に基づいて、前記熱延鋼板の鋼種に該当する恒温変態図の時間軸を、前記熱延鋼板の前記圧延が完了してからの経過時間を示す時間軸に変換して求めてもよい。
前記熱延鋼板の成分は、質量%で、C:0.05~0.35%、Si:0.15~1.5%、Mn:1.0~2.7%、P:0.1%以下、S:0.02%以下、Al:0.01~1.5%、N:0.01%以下であり、残部がFe及び不可避的不純物からなることが好ましい。また、前記熱延鋼板は、引張強度が60kgf/mm2以上のハイテン材であり、[Si]をSiの含有率、[Mn]をMnの含有率として、[Si]/[Mn]<0.5であることが好ましい。
本発明によれば、コスト増を招くことなく、コイラー巻き取り後の熱延コイルの内径潰れの発生を抑制できる。
以下、本発明の実施の形態を、図を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
まず、本発明に係る熱間圧延設備の構成について説明する。図1は、例えば冷延めっき向け自動車用高張力材等のハイテン材を製造する熱間圧延設備の仕上圧延機以降の構成の概略を示す説明図である。
熱間圧延設備1には、加熱炉(図示せず)から排出された後粗圧延機(図示せず)で圧延された鋼板を所定の厚みに連続圧延する仕上圧延機2、仕上圧延後の熱延鋼板Hを所定温度まで冷却する冷却装置3、冷却された熱延鋼板Hを巻き取るマンドレル4aを備えたコイラー4が、熱延鋼板Hの搬送方向にこの順で設けられている。仕上圧延機2とコイラー4との間には、熱延鋼板Hを搬送するランアウトテーブル5が設けられている。仕上圧延機2で圧延された熱延鋼板Hは、ランアウトテーブル5上で搬送中に冷却装置3によって冷却された後、コイラー4に巻き取られて熱延コイルCが製造される。
従来、ハイテン材を熱間圧延する際には、変態域付近で巻き取りを開始するため、巻き取り中もしくは巻き取り直後に、図2(a)に示すように熱延コイルC全体がほぼ同時にフェライト変態する。そのため、巻き終わった熱延コイルCをコイラー4から抜き出すと、熱延コイルが張力を失い、自重により円形を保持することができなくなって、図2(b)に示すように内径の形状が潰れる現象が発生している。そこで、本発明では、コイラー4からの抜き出し後、空気に触れることにより比較的早く冷却される熱延コイルCの内周付近および外周付近と、冷却が遅れる中央部とで、変態進行時間をずらすことで、熱延コイルC全体が同時に変態することによる張力消失を防ぐこととした。
すなわち、熱延コイルCをコイラー4から抜き出した後、まず、図3(a)に示すように、内周部11および外周部13を変態させる。このとき、径方向における内周部11と外周部13との間の中央部12は未変態であり、張力を保っている。したがって、変態直後の内周部11および外周部13の張力が失われて自重により扁平に変形しようとしても、中央部12に支えられて元の形状が保たれる。その後、徐々に空冷されるとともに中央部12に変態が進行するが、そのときには、図3(b)に示すように、既に内周部11および外周部13は変態が完了しているうえ、熱収縮により張力が保たれている。したがって、中央部12の張力が失われても、内周部11および外周部13に支えられ、図3(c)に示すように円形状を保ったままで、熱延コイルC全体の変態が終了する。なお、本明細書では、変態とはフェライト変態を指す。
以下、図3に示すように変態を進行させるための熱延コイルCの製造方法を説明する。
本発明では、未変態のオーステナイト相の熱延鋼板Hを、低変態率の高温で全長を巻き取り、その温度域に保持する。巻き終わった熱延コイルCは、空冷、つまり徐冷され、ゆっくりと変態が進行する。これにより、熱延コイルCの内外周部11、13と中央部12とで径方向の変態進行速度に差が生じ、図3(c)に示すように、全体の形状を保持することができる。具体的には、恒温変態図(TTT線図)において50%変態曲線よりも高い温度で1000sec以上保持できるような温度域で巻き取り、これにより、巻き取り段階での組織率を、フェライト相が50%以下、好ましくは30%以下に制御する。このように高温で巻き取ることで、熱延コイルC全体の冷却に時間を要し、空気に触れる内外周付近と中央部との間に冷却速度の違いが生じ、これにより変態進行に時間差が生じる。
恒温変態図は、温度と時間による鋼組織の変化を示した図であり、具体的には、オーステナイト化した鋼材に対し、ランアウトテーブル冷却を模した冷却パターンで所定の試験温度まで急冷し等温保持したときの変態の様子を示す図である。恒温変態図の取得は、例えば熱間圧延工程により得られた鋼板から試験片を作製し、その試験片を用いたフォーマスター試験により、行うことができる。既知の鋼種であれば、既存の資料から取得することも可能である。本発明では、該当する鋼種について取得した既存の恒温変態図を用いてもよいが、より正確な制御を行うためには、実際に製造した熱延コイルに基づく変態完了時間によって、圧延が完了してから冷却する過程での熱延鋼板Hの変態状態予測を行い、これにより補正した恒温変態図を用いることが好ましい。
補正した恒温変態図の求め方の一例を、以下に説明する。
先ず、対象とする鋼種の通常の恒温変態図を示すデータを取得する。恒温変態図の取得は、上述の通り、例えばフォーマスター試験により実行してもよいし、既知の鋼種であれば既存の恒温変態図から取得すればよい。
図4は、恒温変態図の一例である。この、元になる恒温変態図M1は、横軸が等温保持時間、縦軸が保持温度であり、後述する冷却履歴および変態完了点についても併せて示している。恒温変態図M1上の各点は、600℃などの各保持温度で、変態率10%、50%、90%に至るまでの等温保持時間を示している。例えば、600℃で保持した場合、変態率90%へ到達するまでの保持時間は約20秒である。
また、恒温変態図M1上には、3つの状態曲線C1~C3が示されている。状態曲線C1は、変態率90%となる保持温度と等温保持時間との関係を示す曲線であり、例えば、恒温変態図M1上の変態率90%となる6つのデータに基づいて導出することができる。同様に、状態曲線C2、C3はそれぞれ、変態率50%、10%となる保持温度と等温保持時間との関係を示す曲線であり、例えば、恒温変態図M1上の変態率50%、10%となる6つのデータに基づいて導出することができる。
また、図4では、後述する熱延鋼板の代表点の圧延終了からの冷却履歴R1すなわち冷却開始からの鋼板温度の時間変化が、恒温変態図M1に重ねて示されている。冷却履歴R1を示す際に、恒温変態図M1の横軸は、代表点の圧延終了を0秒とした冷却経過時間と読み替えられ、縦軸は、代表点の鋼板温度と読み替えられている。
さらに、図4では、巻き取り温度550℃における後述の変態完了時間を示す変態完了点p1が、恒温変態図M1に重ねて示されている。点p1を示す際に、恒温変態図M1の縦軸は、巻き取り温度と読み替えられ、横軸は変態完了時間と読み替えられている。
熱延鋼板の代表点は、当該位置の変態特性が熱延コイルCの変態特性を表すものとして定義され、例えば、熱延コイルCの最内周部や最外周部、または、半径方向に最外周と最内周との間、つまりコイル厚の半分となる位置、等とすることができる。以下の説明では、幾何学的にコイル厚の半分となる位置を代表点にしたものとする。
恒温変態図を示すデータを取得した後、次に、実際に熱間圧延設備1を用いて熱間圧延工程を行い、製造した熱延コイルCに基づいて変態の完了時間を推定する。より詳細には、熱間圧延工程を行い、該熱間圧延工程により熱延鋼板を所定の巻き取り温度まで冷却してから図1のコイラー4に巻き取った熱延コイルCの状態に基づいて、上記所定の巻き取り温度における、巻き取り後の熱延鋼板の変態の完了時間を推定する。推定方法の具体例は後述する。所定の巻き取り温度までの冷却は、図1のランアウトテーブル5に対して設けられた冷却装置3により行われる。
図5は、変態完了時間の推定に用いるデータを示す図の一例である。変態完了時間の推定に用いる上記コイルの状態とは、例えば、実際に熱間圧延工程を行ってコイラー4から抜き出した直後の熱延コイルCの内径の縦横比である。この場合、先ず、実際の熱間圧延工程により熱延鋼板を所定の巻き取り温度まで冷却してからコイラー4に巻き取った熱延コイルCを、コイラー4からの抜出時間を変えて複数サンプル製造し、各サンプルについて、コイラー4から抜き出した直後の水平方向及び鉛直方向の内径を測定する。抜出時間とは、熱延鋼板の代表点の圧延が終了してから、コイラー4から抜き出すまでの経過時間であり、例えば、巻き取り温度を550℃とし、代表点の圧延が終了してから熱延コイルCの抜き出しまでの抜出時間を60秒、120秒、180秒としたサンプルを製造し、各サンプルについて上述の内径を測定する。内径の測定後、各サンプルについて、コイラー4から抜き出した直後の各サンプルの内径の縦横比を計算する。コイルの内径の縦横比とは、水平方向のコイルの内径の大きさに対する鉛直方向のコイルの内径の大きさのことをいう。このようにして、所定の巻き取り温度における抜出時間と内径の縦横比との関係を示すデータを取得することができる。
取得したデータの散布図の一例が図5に示されている。図5の散布図P1は、横軸が抜出時間、縦軸が上記内径の縦横比である。データの取得後、取得したデータについて回帰分析を行い、上記データの近似曲線を取得する。散布図P1には、回帰分析により得られた近似曲線C11が示されている。本例では対数関数を用いて回帰分析を行っているが、一次関数や二次関数などの他の関数を用いて回帰分析を行ってもよい。そして、回帰分析により得られた近似曲線に基づき、所定条件を満たす抜出時間すなわちコイルの内径の縦横比が1となる抜出時間tpを算出し、その抜出時間tpを、複数のサンプルを製造した所定の巻き取り温度(例えば550℃)における変態完了時間と推定する。
その後、上記所定の巻き取り温度における変態完了時間に基づいて、最初に取得した恒温変態図の変換を行う。図6は、恒温変態図を変換することにより得られる改良型恒温変態図の一例を示す図である。図6に示す改良型恒温変態図M2は、巻き取り温度と、熱延鋼板の代表点の圧延が終了してからの経過時間と、上記代表点の予測される変態率との関係を表す状態曲線C1´~C3´を示す。新たな恒温変態図M2は、縦軸が巻き取り温度であり、時間軸が熱延鋼板の代表点の圧延が終了してからの経過時間となっている。また、図6では、図4と同様に、熱延鋼板の代表点の冷却履歴R1と変態完了点p1とが、新たな恒温変態図M2に重ねて示されている。冷却履歴R1と変態完了点p1とを示す際に、図4と同様の読み替えが行われている。
恒温変態図の変換では、恒温変態図の時間軸の変換を行う。例えば、推定した上記所定の巻き取り温度での変態完了時間と、元の恒温変態図における上記所定の巻き取り温度と温度が等しい保持温度での変態完了までの等温保持時間と、が一致するような変換を行う。時間軸の変換には、変換前の時間をxとしたときに変換後の時間f(x)=ax+bとなる一次関数を用いることができる。なお、温度軸の実質的な変換は伴わない。
以下、恒温変態図の時間軸の変換方法をより具体的に説明する。ここで、上記した変態の完了時間推定において、550℃の巻き取り温度についての変態完了時間を推定したものとし、また、推定した変態完了時間が270秒であったものとする。 図4の恒温変態図M1において、変態完了時間が推定された巻き取り温度と等しい保持温度(550℃)で、変態率が90%となる等温保持時間は約27秒である。本例では、この等温保持時間を変態完了までの等温保持時間とする。推定した巻き取り温度550℃での変態完了時間(270秒)と、恒温変態図M1における550℃の等温保持温度での変態完了までの等温保持時間(27秒)と、が一致するように、一次関数f(x)=ax+b(x:変換前の時間、f(x):変換後の時間)を用いて時間軸の変換を行う。本例ではa=10、b=0で両者が一致するため、f(x)=10xとなる時間軸の変換を行った結果が、図6に示す補正した恒温変態図(変態図)M2である。
図6に示す恒温変態図M2では、前述のように、横軸が熱延鋼板の代表点の圧延が終了してからの経過時間、縦軸が巻き取り温度となっている。そのため、図6の恒温変態図M2に基づいて、熱延鋼板の代表点の圧延が終了してからの熱延鋼板の変態の進行状態を正確に把握できる。
なお、補正した恒温変態図を求める際の変換方法は、上記の例に限ることはない。上記の例では、1つの巻き取り温度における変態完了時間を推定したが、2つの巻き取り温度における変態完了時間を推定してもよい。その場合には、2つの巻き取り温度の各温度で推定した変態完了時間に基づいて、恒温変態図の時間軸だけでなく、温度軸についても変換を行う。すなわち、例えば、変換することにより得られる新たな恒温変態図に、上記2つの巻き取り温度での推定した変態完了時間を示す点p1、p2を重ねて示した際に、該点p1、p2が、新たな恒温変態図における変態完了までの等温保持時間を示す曲線と略重なるように、時間軸及び温度軸の変換を行う。例えば、変換前の時間,温度をそれぞれx,yとしたときに、変換後の時間f(x)=ax+b、変換後の温度f(y)=cy+dとなる一次関数を用いて、前述のように恒温変態図M3に点p1、p2を重ねて示した際に以下の距離の絶対値の和が最少となるようにする。あるいは、さらに、3つ以上の変態完了時間に基づいて恒温変態図を変換するようにしてもよい。
また、所定の巻き取り温度における熱延鋼板の変態の完了時間を推定する方法も、上記の例には限らない。例えば、所定の巻き取り温度で巻き取った熱延コイルCの表面の変態率の経時変化に基づいて、上記巻き取り温度における変態の完了時間を推定してもよい。この場合、巻き取り中または巻き取り後のコイルの最外周の表層の変態率と、変態率の測定点が圧延を完了してからの経過時間との関係を示すデータを取得し、取得したデータについての回帰分析を行う。そして、回帰分析により得られた近似曲線に基づき、変態率が100%となる経過時間を算出し、該算出した経過時間を、該コイルを製造した所定の巻き取り温度における変態完了時間と推定する。
また、上記の例では、恒温変態図の変換における時間軸及び温度軸の変換に一次関数を用いていたが、一次関数に代えて、二次関数や対数関数を用いてもよい。
次に、本発明の実施形態に係る熱延鋼板の好ましい組成と、それらの成分限定理由について、以下に説明する。
本発明の実施形態に係る熱延鋼板は、質量%で、C:0.05~0.35%、Si:0.15~1.5%、Mn:1.0~2.7%、P:0.1%以下、S:0.02%以下、Al:0.01~1.5%、N:0.01%以下であり、残部がFe及び不可避的不純物からなることが好ましい。なお、以下では、組成における質量%を単に%と記す。
Cは鋼の強度を増加させ、延性を向上させる残留オーステナイトを安定化させる元素として添加されるものである。0.05%未満では980MPa以上の引張強度の確保が困難であり、0.35%を超える過剰の添加は延性、溶接性、靭性などを著しく劣化させる。従って、C有量は0.05%以上、0.35%以下であることが好ましい。
Siは固溶強化により鋼板の強度を増大させるのに有用な元素である。また、Siはセメンタイトの生成を抑制するため、ベイナイト変態時にオーステナイト中へのCの濃化を促進させる効果をもち、焼鈍後に残留オーステナイトを生成させるのに必須の元素である。0.15%未満ではそれらの効果が発現されず、1.5%を超える過剰の添加は熱間圧延で生じるスケールの剥離性を著しく劣化させ、めっきの濡れ性を著しく損なうため、Si含有量は0.15%以上、1.5%以下であることが好ましい。
Mnは焼入れ性を高めるために有効な元素である。1.0%未満では焼入れ性を高める効果が十分には発現されず、2.7%を超える過剰の添加は靭性を劣化させる。従って、Mn含有量は1.0%以上、2.7%以下であることが好ましい。
Pは、粒界に偏析して粒界強度を低下させ、靱性を劣化させる不純物元素であり、低減させることが望ましいため、Pの含有量は0.1%以下であることが好ましい。
Sは、熱間加工性及び靭性を劣化させる不純物元素であり、低減させることが望ましい。したがって、Sの含有量は0.02%以下であることが好ましい。
Alは脱酸剤のはたらきをする元素である。また、Siと同様にフェライト安定化元素であり、Siの代替として使用することもできる。0.01%未満ではそれらの効果が発現されず、1.5%を超えて過剰添加すると靭性が劣化するため、Alの含有量は0.01%以上、1.5%以下であることが好ましい。
Nは粗大な窒化物を形成し、曲げ性や穴拡げ性を劣化させることから、添加量を抑える必要がある。これは、Nが0.01%を超えると、この傾向が顕著となること、加えて、溶接時のブローホール発生の原因になることから少ない方が良い。これより、N含有量の範囲は0.01%以下であることが好ましい。
さらに、本発明に係る熱延鋼板は、引張強度TSが60kgf/mm2以上のハイテン材であり、[Si]をSiの含有率、[Mn]をMnの含有率として、
[Si]/[Mn]<0.5
を満たすことが好ましい。[Si]/[Mn]が0.5以上の場合には内部酸化が起こりやすいため、高温での巻き取りにより内部酸化する場合がある。[Si]/[Mn]を0.5未満とすることにより、巻き取り時の温度が高く、高温状態が長く続いても、内部酸化が起こりにくい。
[Si]/[Mn]<0.5
を満たすことが好ましい。[Si]/[Mn]が0.5以上の場合には内部酸化が起こりやすいため、高温での巻き取りにより内部酸化する場合がある。[Si]/[Mn]を0.5未満とすることにより、巻き取り時の温度が高く、高温状態が長く続いても、内部酸化が起こりにくい。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
(実施例1)
C:0.15%、Si:0.50%、Mn:2.38%を含む自動車向け超高張力鋼「CR980DP」の製造において、コイラーへの巻き取り温度を600℃と670℃の2通りとして、それぞれ熱延コイルを製造した。図7は、この鋼材の恒温変態図に代表点の冷却履歴を重ねて示したものである。図7より、この鋼材は、巻き取り温度が600℃の場合には、巻き取り開始から間もなく50%変態点に達するが、670℃の場合には、50%変態曲線よりも高い温度で1000sec以上保持できることがわかる。実際に、巻き取り温度が600℃の場合には、熱延コイルの内径潰れの発生率が100%となり、全ての熱延コイルについて巻き直し工程が必要となった。これに対して、巻き取り温度が670℃の場合には、熱延コイルの内径潰れの発生率が5%になり、熱延コイルの内径潰れの発生を大幅に抑制できた。
C:0.15%、Si:0.50%、Mn:2.38%を含む自動車向け超高張力鋼「CR980DP」の製造において、コイラーへの巻き取り温度を600℃と670℃の2通りとして、それぞれ熱延コイルを製造した。図7は、この鋼材の恒温変態図に代表点の冷却履歴を重ねて示したものである。図7より、この鋼材は、巻き取り温度が600℃の場合には、巻き取り開始から間もなく50%変態点に達するが、670℃の場合には、50%変態曲線よりも高い温度で1000sec以上保持できることがわかる。実際に、巻き取り温度が600℃の場合には、熱延コイルの内径潰れの発生率が100%となり、全ての熱延コイルについて巻き直し工程が必要となった。これに対して、巻き取り温度が670℃の場合には、熱延コイルの内径潰れの発生率が5%になり、熱延コイルの内径潰れの発生を大幅に抑制できた。
(実施例2)
表1に示す成分の2種類の鋼について、それぞれ50%変態曲線よりも高い温度で保持できる時間を変えて、熱延後の巻き取りを行い、内径潰れの有無および内部酸化の有無を調べた。内径潰れは、通常内径が762mmに対して740mm未満となる場合を「有」と判定した。内部酸化は、酸洗後にテープテストを行い、剥がしたテープが黒色になった場合を「有」と判定した。結果を表2に示す。
表1に示す成分の2種類の鋼について、それぞれ50%変態曲線よりも高い温度で保持できる時間を変えて、熱延後の巻き取りを行い、内径潰れの有無および内部酸化の有無を調べた。内径潰れは、通常内径が762mmに対して740mm未満となる場合を「有」と判定した。内部酸化は、酸洗後にテープテストを行い、剥がしたテープが黒色になった場合を「有」と判定した。結果を表2に示す。
50%変態曲線よりも高い温度で保持できる時間が1000sec以上の場合には、いずれも、内径潰れは見られなかった。鋼種780TRIPは参考例で、[Si]/[Mn]が0.5以上の場合であり、50%変態曲線よりも高い温度で保持できる時間が1000sec以上の場合、内径潰れを抑制する効果はあるが、内部酸化が起こっていた。また、鋼種780TRIPの場合、内部酸化が起こらないように、50%変態曲線よりも高い温度で保持できる時間を短時間(10sec)にすると、内径が潰れる結果となった。
本発明は、熱延コイルの内径潰れを抑制する熱延コイルの製造に適用でき、殊に高張力鋼材の場合に有用である。
1 熱間圧延設備
2 仕上圧延機
3 冷却装置
4 コイラー
4a マンドレル
5 ランアウトテーブル
11 内周部
12 中央部
13 外周部
C 熱延コイル
H 熱延鋼板
M1、M2 恒温変態図
2 仕上圧延機
3 冷却装置
4 コイラー
4a マンドレル
5 ランアウトテーブル
11 内周部
12 中央部
13 外周部
C 熱延コイル
H 熱延鋼板
M1、M2 恒温変態図
Claims (5)
- 熱間圧延設備で圧延した熱延鋼板を巻き取って形成する熱延コイルの製造方法であって、
前記熱延鋼板の恒温変態図における50%変態曲線よりも高い温度で1000sec以上保持できる温度域で巻き取ることを特徴とする、熱延コイルの製造方法。 - 前記熱延鋼板の巻き取り時の組織のフェライト相が30%以下となる温度域で巻き取り、その後、その温度域に保持することを特徴とする、請求項1に記載の熱延コイルの製造方法。
- 前記恒温変態図は、
実際に熱延工程を行い、該熱延工程により前記熱延鋼板を所定の温度まで冷却してからコイラーに巻き取った熱延コイルの状態に基づいて、前記所定の温度における前記熱延鋼板の変態の完了時間を推定し、
推定した前記所定の温度における前記熱延鋼板の変態の完了時間に基づいて、前記熱延鋼板の鋼種に該当する恒温変態図の時間軸を、前記熱延鋼板の前記圧延が完了してからの経過時間を示す時間軸に変換して求めることを特徴とする、請求項1または2のいずれか一項に記載の熱延コイルの製造方法。 - 前記熱延鋼板の成分は、質量%で、
C:0.05~0.35%、
Si:0.15~1.5%、
Mn:1.0~2.7%、
P:0.1%以下、
S:0.02%以下、
Al:0.01~1.5%、
N:0.01%以下
であり、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱延コイルの製造方法。 - 前記熱延鋼板は、引張強度が60kgf/mm2以上のハイテン材であり、[Si]をSiの含有率、[Mn]をMnの含有率として、
[Si]/[Mn]<0.5
であることを特徴とする、請求項4に記載の熱延コイルの製造方法。
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