治療用組成物の使用は腸管透過性不良、pH又は温度に対する不安定による治療剤の分解、及びタンパク質分解酵素による分解等の多数の課題により制限される可能性があり、経口送達するにはこれらの課題に対処する必要がある。経口製剤の開発には治療剤のバイオアベイラビリティに影響を与える多数の要因を考慮する必要があり、このような要因としては、その溶解度、安定性、溶解速度及び消化(GI)管透過性が挙げられる。一般に、治療剤の経口製剤は消化管における治療剤の半減期と代謝を低下させてそのバイオアベイラビリティを最大にするために、溶解速度を速くし、吸収速度を高める必要がある。経口バイオアベイラビリティの高い治療剤はバイオアベイラビリティの低い治療剤に比較して患者コンプライアンスが高く、患者集団間の再現性が高く、用量が少なく、治療濃度域が広くなるため、疾患又は障害の総治療費の低減に繋がる。
治療剤の効果を妨げる一因は消化管壁の上皮層からの腸管吸収を制限するバリアにある。肝臓から分泌される胆汁酸は腸管上皮細胞を通って回腸末端から再吸収され、門脈を通って肝臓に戻るので、胆汁酸トランスポーターは治療剤送達の魅力的なターゲットである。即ち、胆汁酸リサイクル比が高いと、胆汁酸の腸肝循環が非常に効率的なプロセスとなり、肝臓と回腸末端で主に発現される胆汁酸トランスポーターに有益である。
タウロコール酸(TCA)は多量に存在する胆汁酸であり、ヒト腸液の約45%を占めると推定される。TCAは回腸末端に主に存在する頂端側ナトリウム依存性胆汁酸トランスポーター(ASBT)を介する腸管細胞を通る吸収を最大にすることにより治療剤の担体として使用することができる。即ち、回腸末端から門脈を経て全身循環に至る治療剤の輸送はTCA等の胆汁酸担体により助長することができる。
本願は、治療剤とカチオン性部分の複合体を含有しており、アニオン性部分と共有結合した胆汁酸と静電結合させた治療用組成物を開示する。前記組成物は消化管(GIT)、主に回腸から血液中に吸収される直径約20nm〜約5000nmの粒子を形成する。実施形態によっては、前記粒子の直径は約20nm〜5000nm、約50nm〜1000nmであり、少なくとも粒径約20nm、少なくとも約50nm、少なくとも約100nmであり、約5000nm以下又は約1000nm以下である。前記治療用組成物は少なくとも1種の胆汁酸と共有結合したアニオン性部分と、前記アニオン性部分と静電相互作用するカチオン性部分を含有しており、更に少なくとも1種の治療剤を含有する。所定の実施形態において、前記組成物は2種類以上の治療剤又は少なくとも2種類の治療剤を含有していてもよい。
理論に拘泥するものではないが、経口投与後に組成物がGITに吸収される主要なメカニズムは消化液である胆汁酸をGITから肝臓へとリサイクルさせる胆汁酸腸肝循環系を介すると考えられている。胆汁酸を結合させた組成物は胆汁酸リサイクル経路を利用し、治療剤を血流中に輸送することができる。アニオン性部分は生体適合性を提供し、粒子を凝集とGITからの非特異的な吸収から防止する。
本願に記載する治療用組成物は胆汁酸を結合せずに治療剤を提供した場合よりも高い経口バイオアベイラビリティで治療剤を対象に提供することができる。胆汁酸を結合すると、治療剤を患者に経口投与することが可能になる。前記組成物はドキソルビシンを含む抗癌剤等の現在経口投与されている治療剤のバイオアベイラビリティを改善するのみならず、経口投与されるとは一般に考えられていない治療剤の投与も可能にする。このような治療剤としては、DNA、RNA、遺伝子又はオリゴヌクレオチド治療薬に加え、タンパク質及びポリペプチド、ワクチン、ベクター又はウイルスが挙げられる。本発明の組成物は腸管透過性不良、pH又は温度に対する不安定による治療剤の分解、及び酵素分解に起因する経口送達の課題を解決できる基盤技術を提供する。
具体的に、治療剤から成り、外面にpH5で正味の正電荷をもつコア複合体を含有する治療用組成物について記載する。前記組成物は更にアニオン性ポリマーと共有結合した胆汁酸又は胆汁酸抱合体を含有する。前記アニオン性ポリマーは中性pHで正味の負電荷をもち、前記アニオン性ポリマーは更にコア複合体の外面と静電結合している。これらの治療用組成物のデザインの模式図を図1に示すが、治療剤(TA)を含み且つカチオン性表面をもつ複合体がアニオン性ポリマーと共有結合した胆汁酸又は胆汁酸抱合体(BA)から形成される部分と結合している。得られた組成物はコア複合体がBA−ポリアニオン部分で被覆されており、前記コア複合体のカチオン性表面はアニオン性ポリマーと静電結合し、安定した不連続粒状組成物を形成する。
前記治療剤は一般にどのような種類でもよく、核酸、遺伝子、タンパク質、ペプチド、ウイルス、ワクチン又は小分子薬が挙げられる。所定の実施形態において、前記治療剤は遺伝子、線状DNA、プラスミドDNA、RNA、RNAi又はmRNA(例えばGLP−1又はエキセンジン−4をコードする遺伝子)である。前記治療剤はインスリン、成長ホルモン又はエリスロポエチン等のタンパク質又はペプチドでもよいし、カルシトニンやLHRH等のペプチドでもよい。前記治療剤は抗癌剤等の小分子薬でもよく、ドキソルビシン、シスプラチン又はパクリタキセルが挙げられる。更に、インフルエンザウイルスや腫瘍溶解性アデノウイルス等のウイルスでもよい。
前記コア複合体は1種のみのカチオン性治療剤を含んでいてもよいし、複数のカチオン性治療剤を含んでいてもよく、外面にpH5で正味の正電荷をもつように会合する2部分以上を含んでいてもよい。所定の実施形態において、前記外面は約1〜約8の任意のpHで正味の正電荷をもち、又は中性pHで正味の正電荷をもつ。前記コア複合体はポリエチレンイミン、プロタミン又はポリ(リジン)等のカチオン性ポリマーを含むことができる。前記カチオン性ポリマーはpH5で正味の正電荷をもつ核酸又はDNA部分でもよい。実施形態によっては、前記コア複合体はカチオン性リポソーム、又はカチオン性脂質もしくは脂質混合物を含む。
前記ポリアニオン又はアニオン性ポリマーは中性pHで正味の負電荷をもつポリマーであり、例えば少なくとも1個のスルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基又はスルホンアミド基を含むポリマーが挙げられる。前記ポリアニオンのpKaは10未満の値とすることができ、又は8未満とすることができる。前記ポリアニオンは天然ポリマーとすることができ、例えばデキストラン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸もしくはアルギン酸を含む多糖;RNA、siRNA、mRNA及びODNを含む核酸もしくはDNA部分;又はアルブミン等のタンパク質が挙げられる。前記ポリアニオンは合成ポリマーでもよく、例えばポリビニルスルホン、ポリ(2−アシルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸)(ポリAMPS)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(エチルアクリル酸)、ポリ(プロピルアクリル酸)、ポリ(スチレンスルホン酸塩)、ポリ(スルホンアミド)、ポリ(リン酸)、ポリ(2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)、又は上記ポリマーのいずれかの任意混合物もしくはコポリマーが挙げられる。前記ポリマーはランダムポリマー、ブロックポリマー、グラフトポリマー又は交互ポリマーのいずれでもよい。前記ポリアニオンは天然又は合成ポリマーの混合物でもよいし、任意型の2種類以上のポリマーの混合物でもよい。
前記BA部分は胆汁酸もしくは胆汁酸抱合体、コール酸もしくはケノコール酸等の一次胆汁酸、デオキシコール酸、リトコール酸、ウルソデオキシコール酸もしくはケノデオキシコール酸等の二次胆汁酸、又は任意種の胆汁酸塩とすることができる。所定の実施形態において、前記胆汁酸又は胆汁酸抱合体はタウロコール酸、グリココール酸、タウロデオキシコール酸、グリコデオキシコール酸、タウロケノデオキシコール酸、グリコケノデオキシコール酸、又はASBT等の胆汁酸輸送に関与するタンパク質と結合する任意の修飾胆汁酸である。前記BA部分は上記に挙げた代表的な成分のいずれかの混合物でもよいし、単体でもよい。
図1Aの一般スキームの他の実施形態を図1B及び1Cに示す。図1Bは例えばプラスミドDNAであるA部分がカチオン性ポリマー等のB部分と会合してカチオン性外面をもつコア複合体を形成する様子を模式的に示す。前記コア複合体はBA部分と共有結合したアニオン性ポリマーと静電結合し、外面にBAをもつ治療用組成物を形成する。1実施形態において、前記B部分はbPEIであり、前記A部分はpEeGFP−N1、pGLP−1又はpエキセンジン−4等のプラスミドDNAであり、前記ポリアニオン−胆汁酸抱合体部分はヘパリン−TCAである。図1Cには製剤の種々の成分を詳細に記載しており、コア複合体はアニオン性ポリマーと共有結合した胆汁酸又は胆汁酸抱合体で包囲されている。
前記胆汁酸又は胆汁酸抱合体と前記アニオン性ポリマーの結合は共有結合を介する。この結合体を形成するために使用される胆汁酸とアニオン性ポリマーの1例はアニオン性ポリマーとしてコンドロイチン硫酸と、胆汁酸としてタウロコール酸である。これらの化合物を共有結合させ、本願に開示する組成物で使用されるアニオン性ポリマー−胆汁酸部分を形成するため使用することができる一般的な合成経路をCS−TCAの合成について下記スキーム1に示す。
本願で使用する「複合体」なる用語は少なくとも1個の部分を意味し、相互に会合する2部分以上を含むことができる。複合体が2部分以上からなる実施形態において、前記部分は静電相互作用、イオン相互作用、水素結合、π結合又はその任意組合わせを含めて共有結合又は非共有結合により相互に会合することができる。
本願で使用する「小分子」なる用語は生体分子とみなされない分子量約1000ダルトン以下の化合物を意味する。この用語は一般にこの種の治療剤をタンパク質又は核酸含有剤から区別するために使用する。
本願に開示する組成物を使用すると、複数の疾患を治療し、用量低減と治療濃度域拡大により薬物治療の安全性を潜在的に改善するために、そのバイオアベイラビリティを改善することにより広範な治療剤の経口送達が可能になる。これらの改善は治療レジメン及び効果を改善することにより患者に有益であり、従来では経口投与できないと考えられていた治療剤の送達に新しい道を開くことができる。
本発明の実施形態を詳細に説明する前に、本発明は以下の説明に記載又は図面に例示する構成の詳細及び構成要素の配置にその適用を制限されないことに留意されたい。本発明は他の実施形態も可能であり、種々の方法で実施又は実現することが可能である。また、本願で使用する術語及び用語は説明の目的であり、限定的とみなすべきでないことにも留意されたい。本願で使用する「包含する」、「含む」又は「有する」及びその変形は具体的に挙げる事項とその等価物に加え、他の事項も包含するものとする。
本願に明記する全ての数値範囲は下限値から上限値までの全数値を含むことにも留意されたい。例えば、濃度範囲が1%〜50%であると記載する場合には、2%〜40%、10%〜30%、又は1%〜3%等の値が本明細書中に明記されているものとみなす。これらは具体的に意味するものの例に過ぎず、記載する最低値以上最高値以下の数値の可能な全ての組合わせが本願に明記されているものとみなす。
本願で使用する「約」なる用語は「概数で」と同義であることに留意されたい。例えば、「約」なる用語の使用は記載値の若干外側の数値を含むことを示す。実験誤差、製造上の交差及び平衡条件の変動等の条件により変動が生じる場合がある。実施形態によっては、「約」なる用語は記載値±10%を含む。ある数値を表すために「約」なる用語を使用している全ての場合において、当然のことながら、本開示はその厳密な数値にも対応する。
本明細書の全文を通して「ある実施形態」、「1実施形態」、「1態様」等の文言を用いる場合には、この実施形態に関連して記載する特定の特徴、構造又は特性が本願に記載する発明の少なくとも1種の実施形態に含まれることを意味する。従って、本明細書の全文を通して「ある実施形態において」、「1実施形態において」、「1態様において」等の文言が出現する場合には必ずしもそうでなくてもよいが、これらの全てが同一の実施形態を意味する場合がある。
更に、本願に記載する方法及び組成物について記載する特徴、構造又は特性は1以上の実施形態において任意の適切な方法で組合わせることができる。以下の記載では、実施形態を十分に理解できるように多くの具体的な内容を提示する。しかし、当業者に自明の通り、これらの具体的な内容の1以上を用いずにこれらの実施形態を実施してもよいし、他の方法、成分又は材料を用いて実施してもよい。他の例では、実施形態の諸側面を曖昧にしないように周知構造、材料又は操作については詳細に図示又は記載しない。
以下の実施例では本開示の代表的な実施形態について記載する。以下の実施例は本願に開示する発明を例証し、通常の知識をもつ者がこの発明を実施及び使用し易くするために提示するものである。これらは例示に過ぎず、本願に開示する発明の範囲を如何なる点でも制限するものではない。
[実施例1].遺伝子送達。
治療用遺伝子又はプラスミドDNA、ミニサークルDNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、RNAi、siRNA、shRNA及びmiRNA等の特殊な核酸の送達は、異常遺伝子又は疾患原因遺伝子を永久的又は一時的に修復又は置換する可能性や、特定の細胞を標的としてダウンレギュレートされた遺伝子を供給する可能性により、既存の治療アプローチに勝る多くの利点がある。エイズ、肝炎、癌、線維症及び糖尿病等の疾患の治療はタンパク質発現を改変させるか又は異常な遺伝子をサイレンシングさせる治療用核酸を送達して疾患を予防又はその重症度を抑制することにより可能になると思われる。研究者らは疾患を治療するために細胞に核酸を輸送するように非ウイルスベクターの使用を最適化することが可能になっているが、数種類の非ウイルス送達ストラテジーで有効であることが証明されているものの、臨床試験は進展していない。
種々の異なる生理的及び生物学的条件下で安定であり、優れた経口吸収プロファイルをもつ非ウイルス担体を使用した経口遺伝子送達は難題である。このような遺伝子送達は非侵襲性の送達であることや患者に好都合である等の多くの利点がある。しかし、強酸性の胃液が遺伝子を分解する恐れや、粘液が遺伝子に結合し、消化管膜との直接相互作用を妨げる恐れや、遺伝子が吸収されずに消化管を通過する恐れがある。従って、消化管吸収による効果を得るためにはヒト生理的システムに適合可能な最適化されたデザインが必要である。また、遮蔽又は包囲ストラテジーにより遺伝子を保護すると共に小腸粘膜を通る吸収を強化し、更に頂端側ナトリウム依存性胆汁酸トランスポーター(ASBT)等の胆汁酸トランスポーターとOstα/β受容体を介する吸収を助長することが望ましい。
毒性を最小限にしながら効果を得るために、消化管に標的特異的に送達するように修飾された表面と、最適化されたベクター/担体システムを有するカチオン性複合体がデザインされている。即ち、電荷−電荷相互作用を使用してアニオン性遺伝子とカチオン性ポリマーの複合体を作製し、複合体を遮蔽する生体適合性且つ生分解性の多糖で複合体を包囲し、消化管から保護している。
本実施例に記載するのはポリエチレンイミン及びヘパリンと複合体化させた遺伝子を含有する治療用組成物である。前記組成物の外面をヘパリンと共有結合させたタウロコール酸で修飾し、小腸の回腸のASBTとOstα/βトランスポーターを含む胆汁酸トランスポーターを介して経口吸収を強化させた。
材料。小分子量ヘパリン(LMWH,平均MW5,000kDa)はMediplex Co.,Ltd(韓国,ソウル)から入手した。タウロコール酸ナトリウム塩(TCA)、分岐鎖ポリエチレンイミン(25kDa)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDAC)、クロロギ酸4−ニトロフェニル(4−NPC)、トリエチルアミン(TEA)、N−ヒドロキシスクシンイミド(HOSu)、4−メチルモルホリン(MMP)、1,4−ジオキサン、2%ニンヒドリン試薬及びトリプシン−EDTAはSigma Aldrich Co.(St.Louis,MO)から入手した。N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、エチレンジアミン、ホルムアミド、HEPES緩衝液及びアセトンはSigma Chemical Co.(St.Louis,MO)から購入した。
3種類の遺伝子、即ち主試験のプルーフ用としてeGFPのレポータープラスミド遺伝子と、市販の2型糖尿病治療用ペプチドであり、グルカゴン様ペプチド1(GLP−1)の作動薬であるエキセンジン−4をコードする遺伝子と、GLP−1をコードする遺伝子の2種類の治療用遺伝子の経口投与を試験した。エキセンジン−4遺伝子で追加試験を実施し、尾静脈及び経口投与後のその血漿中濃度を測定した。
pH5で正味の正電荷をもつ分岐鎖ポリエチレンイミン(bPEI)と上記遺伝子を複合体化させた。ある試験では、複合体を(対照サンプルとして)キトサン又はヘパリン−タウロコール酸(TCA)部分(H−TCAないしHTCA)で被覆した。ヘパリン−TCAで包囲された複合体(カチオン性ポリマーと遺伝子の複合体)の模式図である図1B及び1Cにこの一般スキームを示すが、TCAはその親水性により組成物の外面に局在する。図1B中、bPEIはB部分であり、遺伝子はA部分である。BはDNA縮合剤とすることができ、pH5で正電荷をもつことができる。AはpEeGFP−N1、pGLP−1又はpEx−4等のプラスミドDNAとすることができる。ポリアニオン−胆汁酸抱合体部分はヘパリン−TCAとすることができ、BA部分は例えばコール酸やデオキシコール酸等の胆汁酸とすることができ、タウロコール酸やグリココール酸等の胆汁酸抱合体でもよい。図1Cには製剤の種々の成分を詳細に記載しており、コア複合体はアニオン性ポリマーと共有結合した胆汁酸又は胆汁酸抱合体で包囲されている(この場合、アニオン性ポリマーはヘパリンであり、胆汁酸抱合体はタウロコール酸である)。
緑色蛍光タンパク質プラスミド(pAcGFP1−N1,4.7kb)ベクターはClontech(CA,米国)から入手した。エキセンジン−4遺伝子はClontech(CA,米国)から入手し、メーカーから提供されているプロトコールに従って増幅した。
グルカゴン様ペプチド−1(GLP−1cDNA)を化学的に合成し、pβベクターのKpnI−XbaI部位に挿入した。分泌型SPをコードするDNAフラグメントを化学的に合成し、pβ−GLP−1のKpnI部位に挿入し、pβ−SP−GLP−1を作製した。GLP−1をコードするプラスミドに使用したGLP−1遺伝子構造の地図を以下に示す。
活性化TCAを得るために、タウロコール酸(TCA)ナトリウム塩1molを0℃のDMF(4.6mL)に溶解させた後、TEA(6mol)と4−NPC(5mol)をフラスコに加えた。この溶液を同一条件下で1時間反応させた後、室温で6時間撹拌した。次に溶液を遠心し、分液漏斗にて無水エタノール(EtOH)(20mL)と脱イオン水(20mL)で抽出し、このプロセスを3回繰返した。分離した溶液をロータリーエバポレーターにセットして有機溶媒を蒸発させ、最後に48時間フリーズドライし、TCA−NPC粉末を得た。このTCA−NPC粉末(1mol)をDMF(5mL)に溶解させ、4−MMP(2mol)を加えた。この反応を50℃で1時間続けた。1時間後にEDA(100mol)を溶液に滴下し、室温で16時間撹拌を続けた。結晶化した部分を濾過し、真空乾燥機で乾燥させた。HTA抱合体を合成するために、緩和な加熱下にヘパリン1molを蒸留水に溶解させ、0.1M HClを加え、pHを5.5〜6の範囲に維持した。EDC(5mol)をヘパリン溶液に加え、5分間撹拌後、NHS(7mol)を加え、再び30分間撹拌した。
このように、TCAの末端ヒドロキシ基の修飾によりヘパリンとTCAを共有結合させてアミン基を導入し、アミド結合によりヘパリンのカルボキシル基と結合させた。供給モル比と反応条件を最適化・制御することにより、結合比をヘパリン1モルに対してTCA4モルに最適化した。ヘパリン−TCA部分を透析により精製し、H−NMRとFT−IRにより特性解析し、共有結合を確認した。NMR分析により7.2ppmに新たなプロトンピークが認められたことから、TCAとヘパリンの結合が確認された。
(bPEI/pDNA)複合体と胆汁酸コーティングを以下のように作製した。分岐鎖ポリエチレンイミン(bPEI,25K,10mM)をHEPES緩衝液100mLに溶解させ、溶液が清澄透明になるまでボルテックスした。別のバイアルで必要量のpDNAをHEPES緩衝液(10mM)と混合し、濃度を1mg/mLとした。遺伝子を含有する溶液を穏和なボルテックス下に1/1、2/1、5/1及び10/1のN/P比でbPEI溶液に滴下した(なお、Nはポリマー中のカチオン性のイオン性基を表し、Pは遺伝子中のリン酸基を表す)。混合物を室温に30分間維持し、電荷−電荷相互作用により複合体を形成させた。N/P比が5/1の場合に複合体のゼータ電位値を測定した処、約+10mVであった。別のファルコンチューブで負電荷をもつヘパリン−TCA部分をHEPES(1mg/mL)に溶解させた。先に作製したカチオン性(bPEI/pDNA)複合体を1:1(v/v)の比のヘパリン−TCA溶液に滴下した。最終製剤を室温に30分間維持し、ヘパリン−TCAで被覆された複合体を形成した。最終組成物を2日間かけてフリーズドライにより凍結乾燥した。
カチオン性(bPEI/pDNA)複合体とヘパリン−TCAで包囲した組成物の形態と寸法を夫々TEMとDLSにより調べた。ゼータ電位測定を実施して表面特性を観測し、カチオン性ポリマー、遺伝子及びヘパリン−TCAの比を最適化した。DLS及びゼータ電位測定装置による測定前に製剤をボルテックス下で蒸留水(1mg/mL)に溶解させた。
図2は2種類のサンプルの寸法と形態に関する情報を提供する透過型電子顕微鏡(TEM)画像である。カチオン性(bPEI/pDNA−N1)複合体のサンプルを図2の左画像に示し、ヘパリン−TCAで包囲したカチオン性(bPEI/pDNA−N1)複合体のサンプルを図2の右画像に示し、囲み枠はHTCAコーティング付きナノ粒子の拡大図を示す。図面から明らかなように、複合体の粒径は約100nmであり、包囲した組成物の粒径は約200nmである。
負電荷をもつeGFP遺伝子と正電荷をもつbPEIをHEPES緩衝液に溶解させると相互に接触し、カチオン性ポリマーとアニオン性遺伝子の静電吸引により電荷−電荷相互作用を介して複合体を形成する。複合体の寸法は遺伝子(N)とbPEI(P)のN/P比に依存する。遺伝子とポリマーの複合体の形成は粒径分布解析とゲル電気泳動により確認した。
カチオン性(bPEI/pDNA−N1)複合体の特性解析によると、N/P比が5/1と10/1の複合体はカチオン性表面をもち、DLSとTEMにより測定したゼータ値と粒径が同等であり、約+12mVと約100nmである。N/P比が5/1複合体をアニオン性ヘパリン−TCAによる被覆用に選択した。
中性電荷と最小寸法という点で最適な組成物を製剤化するためにカチオン性(bPEI/pDNA)複合体とヘパリン−TCAの5種類の異なる重量比を試験した。分岐鎖ポリエチレンイミン(bPEI,25K,10mM)をHEPES緩衝液100mLに溶解させ、透明な溶液が認められるまでボルテックスした。別のバイアルで適当な体積のpDNAを10mM HEPES緩衝液で希釈し、最終濃度が1mg/mLとなるようにした。希釈した遺伝子製剤を穏和なボルテックス下でbPEIに加えることによりN/P比が1:1、1:2、1:5及び1:10の遺伝子製剤を合成した。サンプルを室温で30分間弱く撹拌し、静電結合したbPEI−遺伝子複合体を安定化させた。先に形成した複合体に1:1の体積比のヘパリン−TCA抱合体(1mg/mL)を滴下し、室温に30分間維持し、ヘパリン−TCAで被覆された安定な組成物を得た。組成物を2日間凍結乾燥した。
図3は2種類のpH値の緩衝液中における経時的な粒径の安定性を示す。データは平均±SD,n=5である。pDNA−N1を用いて製剤を調製し、2日間凍結乾燥した。粉末をリン酸緩衝液に再分散させ、HCl(1N)を加えることによりpHを調整した(pH3)。室温で製剤調製と製剤の分析を行った。水溶液中で粒径値とゼータ電位値を6日間まで測定することによりカチオン性複合体とヘパリン−TCAで包囲した複合体の両者の安定性を観測した。ゼータ電位測定値は約−20〜約10mVの範囲であった。粒径変化は有意ではなく、ゼータ値は最適範囲に維持されたので、このデータは粒子が安定していることを裏付けている。
図4Aはカチオン性(bPEI/pDNA−N1)複合体と胆汁酸とヘパリンの結合体の量の比を変動させた場合の粒径とゼータ電位のグラフである。試験したHTCA/カチオン性複合体の比(いずれも重量比)は0.2、0.4、0.6、0.8及び1とした。データは平均±SD,n=5である。ヘパリン−TCAで包囲した複合体(0.2w/w比)の粒径とゼータの安定性をpH3で16時間観測し、結果を図4Bに示す。
試験したうちでヘパリン−TCA比が最大(1/1)のものは広い粒径分布プロファイルと大きい負のゼータ電位値(−35mV超)を示す。図4Aに示すデータから明らかなように、ヘパリン−TCAで包囲した複合体粒子は粒径約250〜600nmであるが、複合体は約100nmであるので、複合体/胆汁酸粒子の寸法は粒径が約150〜500nm増加している。同一時間の間にゼータ電位は負の値となったことから、カチオン性複合体の表面はアニオン性ヘパリン−TCAで包囲されたと判断される。ヘパリン−TCAで包囲した複合体粒子のゼータ電位を分析した処、顕著な負の値であった(−20〜25mV)。
インビトロ毒性試験、発現試験。カチオン性(bPEI/pDNA−N1)複合体とヘパリン−TCAで包囲した組成物の細胞毒性を調べるために、これらをEaHy926細胞及びHepG2細胞と24時間共培養した。ヘパリン−TCAコーティングの存在下と不在下で種々のN/P比(2/1、5/1、10/1、20/1及び30/1)のカチオン性(bPEI/pDNA−N1)複合体をEaHy926細胞株及びHepG2細胞株と共に24時間インキュベートし、インビトロ細胞毒性を観測した。細胞生存率をMTTアッセイにより評価した。図5AのグラフはEaHy926細胞における細胞毒性結果を示し、図5BのグラフはHepG2細胞における結果を示す。データは平均±SD,n=5である。
図5A及び5Bに示す結果によると、EaHy926細胞株とHepG2細胞株では細胞生存率プロファイルに相違がある。一般に、製剤はHepG2細胞よりもEaHy926細胞に対して若干毒性が強い。一方、どちらの細胞株でもカチオン性(bPEI/pDNA)複合体のほうがヘパリン−TCAで包囲した組成物よりも一般に低い細胞生存率(即ち強い毒性)が認められた。これは外側のヘパリン−TCAによる包囲が所定期間にわたってbPEIの放出を防ぐことにより細胞をbPEIの毒性から保護するためであると思われる。N/P比が5/1の製剤はヘパリン−TCAコーティングの有無に拘わらずどちらの細胞株でもさほど毒性を示さない。一方、N/P比が10/1、20/1及び30/1の製剤はHepG2に比較してEaHy926細胞株で強い毒性を示すが、生体適合性胆汁酸で包囲した後には、全製剤の細胞生存率が増加した。
生理食塩水、遊離eGFP遺伝子、カチオン性複合体及びヘパリン−TCAで包囲した組成物のサンプルと共にEaHy926細胞株及びHepG2細胞株の各々をインキュベートし、eGFPの比較発現プロファイルを調べた。細胞を2μg/ウェルの濃度のeGFPと共に24時間インキュベートし、核をDAPIで染色し、細胞内レベルで発現量を判定した。HepG2細胞株をeGFP2μg/ウェルと共に24時間インキュベートした結果を図6Aに示し、EaHy926細胞株の結果を図6Bに示す。EGFPは遊離遺伝子を表し、PPはカチオン性複合体を表し、HTCA/PPはヘパリン−TCAで包囲したカチオン性組成物を表す。ヘパリン−TCAで包囲したカチオン性組成物は細胞毒性が低く、IV又は経口投与後に動物に急性問題を生じなかった。
24時間インキュベーション後にGFP発現を共焦点顕微鏡により直接観測した。細胞の共焦点顕微鏡画像から明らかなように、ヘパリン−TCAで包囲した組成物は最大の発現を示し、カチオン性複合体はヘパリン−TCAで包囲した組成物よりも発現が少なく且つ遊離eGFPよりも発現が多い。直接イメージングで明示される通り、遊離eGFPの発現は細胞に蓄積している少量の遊離遺伝子に起因すると考えられる。
胆汁酸経口吸収及び生体内分布のリアルタイム観測。遺伝子製剤の経口送達を試験する前に、光造影剤として量子ドット(QD)をタウロコール酸(TCA)と結合させて実験を行い、マウスにおける経口吸収プロファイルをリアルタイムで調べた。カップリング剤としてEDCとNHSの存在下でカルボキシル化QDをTCA−NH2と結合させた。プロトンNMRスペクトルに確認ピークが出現したので、QDとTCAがアミド結合により結合していることが特性解析により確認された。化合物を水で透析(MWCO1000)して未結合のTCAを除去し、凍結乾燥のためにフリーズドライした。得られた粉末を緩衝液に分散させ、経口強制飼養により動物に投与した。投与前に12時間マウスを絶食させ、各群5匹ずつ2.5mg/kgの用量で経口投与を行った。TCAと結合したQDを投与したマウスについて、光学イメージング計測システムを使用して数時間撮像した。
図7AはTCAと結合したQDの構造の模式図である。図7BはQD−TCAを投与したマウスの5種類の臓器のエクスビボ光学イメージングプロファイルを示す。図7Bに示すように、QD−TCAは主に肝臓と空腸に局在する。生体内分布と臓器局在に関するこの定量的リアルタイム観測には、QD技術を使用した。QD−TCA製剤の経口投与から24時間後にマウスを屠殺し、解剖した。選択した臓器を厚さ15μmに切断し、定量的及び定性的な比較分析におけるQDの観測と局在用にTEMグリッド上にマウントした。
図8は胃、十二指腸及び空腸(上段画像)と、回腸、肝臓及び脾臓(下段画像)のTEM画像であり、QD−TCAの経口投与後のマウスの回腸と肝臓に有意数のQDが存在することが分かる。
経口送達、生体内分布及び光学イメージング。カチオン性複合体(bPEI/pDNA−N1,5/1)とヘパリン−TCAで包囲した組成物(複合体/HTCA1/0.2)の経口吸収実現可能性試験をマウス(C57BL6)で実施した。各々平均体重17gの約6週齢のマウス5匹をSimonson Bio(UT,米国)から購入した。製剤の経口投与の前に動物を一晩絶食させた。2.5mg/kg及び5mg/kg(200μL)の用量で製剤を投与した。経口投与から24時間後と48時間後に動物を解剖し、臓器を摘出した。
特定の臓器、即ち小腸(空腸、十二指腸及び回腸)、肺、肝臓、心臓、腎臓及び脾臓を採取し、これらの臓器を凍結切断に備えて準備した。摘出後、マウスからの臓器をバラフィン包埋前にパラホルムアルデヒド溶液(4%)で固定した。(観測を行う前に真空オーブンで乾燥した)スライドガラスにパラフィンブロックからの厚さ15μmの組織を載せ、分析した。共焦点顕微鏡で画像を撮影し、488nm励起フィルターによる走査下にeGFPの発現を観測した。
光学イメージング試験用に、各々平均体重25gの約6週齢のヌードマウス5匹をDae Han Bio−link(韓国)から購入した。カチオン性複合体とヘパリン−TCAで包囲した組成物の経口投与の前にマウスを24時間絶食させた。光の定量的分析として、蛍光(FL)分析装置(Varioskan Flash,Thermo Scientific,CA,米国)により光子も測定した。摘出した臓器を緩衝液で洗浄し、すぐに液体窒素で凍結させた。翌日、臓器を解凍し、氷上保存した。計量後、組織ホモジナイザーを使用して全臓器を氷上にてレポーター溶解用緩衝液0.5mL中で20秒間ホモジナイズした。次に、得られた組織ホモジネートを氷上に1時間放置した。組織溶液を20秒間ボルテックスした後、13,000gで10分間遠心した。投与から24時間後に、マウスを解剖し、臓器を摘出した。臓器をパラフィンブロッキングにより薄切し、共焦点顕微鏡で画像を撮影し、eGFPの発現を観測した。スキャン用レーザーの励起フィルターと発光フィルターは夫々488nm及び510nmとした。
4種類の製剤を調製及び試験し、マウスに投与してから24時間後にeGFP pDNAの比較生体内分布プロファイルを観測した。製剤を5群に分け、(1)胆汁酸又は胆汁酸抱合体を加えないカチオン性(bPEI/eGFP)複合体(経口投与);(2)胆汁酸又は胆汁酸抱合体を加えずにキトサンで包囲したアニオン性eGFP製剤(経口投与);(3)胆汁酸又は胆汁酸抱合体を加えずにヘパリンで包囲したカチオン性(bPEI/eGFP)複合体(経口投与);及び(4)ヘパリン−TCAで包囲した(bPEI/eGFP)複合体(IV及び経口投与)とし、複合体/キトサン、ヘパリン及びHTCAの比はいずれも1/0.2(w/w)とした。
図9はヘパリン−TCAで遮蔽したeGFP−プラスミドDNA(製剤4)を経口及び静脈内投与した場合の相対生体内分布分析の棒グラフを示す。データは平均±SD,n=4を表す。マウスにIV(白棒)及び経口(黒棒)投与後に所定の臓器に存在するeGFPから発生する蛍光の相対量を分析した。
図10はヘパリン−TCAで遮蔽したeGFP−プラスミドDNA(製剤4)のIV(上段)及び経口(下段)投与後にGFP発現を直接観測した場合のマウスの種々の臓器の光学イメージングを示す。
図11は指定した4種類の製剤の投与後の8種類の臓器の共焦点画像を示す。1列目の画像は胆汁酸又は胆汁酸抱合体を加えないカチオン性(bPEI/eGFP)複合体の経口投与後(製剤1,「ポリプレックス」)であり、2列目の画像は胆汁酸又は胆汁酸抱合体を加えないキトサンeGFP製剤の経口投与後(製剤2,「キトサン−pp」)であり、3列目の画像は胆汁酸又は胆汁酸抱合体を加えずにヘパリンで包囲したカチオン性(bPEI/eGFP)複合体の経口投与後(製剤3,「ヘパリン−pp」)であり、4列目の画像はヘパリン−TCAで包囲した(bPEI/eGFP)複合体の経口投与後(製剤4,「htca−pp(経口)」)であり、5列目の画像はヘパリン−TCAで包囲した(bPEI/eGFP)複合体の静脈内(IV)投与後(製剤4,「htca−pp(iv)」)である。1段目の画像は胃における蛍光を示し、2段目は十二指腸であり、3段目は空腸であり、4段目は回腸であり、5段目は肝臓であり、6段目は肺であり、7段目は脾臓であり、8段目は腎臓である。
図12は図11の肝臓の5個の画像(5段目)の拡大図である。赤い線は100nmに対応する。図13は9種類の臓器における各製剤の相対蛍光のグラフであり、図11及び12に示す画像の定量値を示す。
画像から明らかなように、胆汁酸又は胆汁酸抱合体を加えずにヘパリンで包囲したカチオン性(bPEI/eGFP)複合体(製剤3)は直接イメージング又はFL分析によりeGFP発現の形跡が殆ど認められなかった(図11の3列目)ことから、動物に有意に吸収されなかった。即ち、この製剤ではどの臓器にもeGFP発現が確認されなかった。図11から明らかなように、製剤1(胆汁酸又は胆汁酸抱合体を加えないカチオン性(bPEI/eGFP)複合体)の一部と、製剤2(胆汁酸又は胆汁酸抱合体を加えないキトサンeGFP製剤)の相当量は胃と小腸、特に十二指腸を通って非特異的に吸収された。
ヘパリン−TCAで包囲した(bPEI/eGFP)複合体(製剤4)は直接イメージングとFL分析の両方で回腸にeGFPの発現が強く観測されたことから、回腸を通って特異的に吸収された。回腸は消化管の他の部分よりも有意に多量の胆汁酸とOstα/βトランスポーターを含んでおり、他の製剤に比較して胆汁酸を結合させた製剤の吸収が多いと考えられる。
ヘパリン−TCAで包囲した(bPEI/eGFP)組成物(製剤4)のIV投与は肝臓で最高のバイオアベイラビリティと蓄積を示す。ヘパリン−TCA担体は胆汁酸トランスポーターを介する特異的吸収により種々の臓器で有意な発現を示す。
以上の定量的及び定性的な比較発現データから明らかなように、eGFPの発現は担体と投与経路により異なり、発現度は臓器毎に異なる。特に、ヘパリン−TCAで包囲した(bPEI/eGFP)組成物(製剤4)の経口送達の結果、肝臓組織で高レベルの緑色強度により示されるように肝臓にeGFPの最大の蓄積が認められたことから、この結果は回腸と肝臓で胆汁酸トランスポーターとOstα/βトランスポーターを介して行われる吸収に一致する。
マウス(C57BL6)におけるエキセンジン−4のインビボ放出。上記手順に従い、マウスを12時間絶食させた後にヘパリン−TCAで包囲したエキセンジン4−pDNAを種々の用量(2.5mg/kg、5mg/kg及び10mg/kg)で経口投与した。製剤の調製に当たっては、エキセンジン−4をbPEIに5/1の比で加え、30分間インキュベートして複合体を形成させた。次に複合体を1/0.2の比でヘパリン−TCAで包囲した。製剤をゼータとDLSにより特性解析し、夫々ゼータ電位値と流体力学的粒径分布を測定した。室温で30分間インキュベーション後、製剤を2日間凍結乾燥した。計算量の粉末を10mM HEPES緩衝液(200μL)に溶解させ、室温で30分間インキュベートして均質な分散液とした。IV投与したマウスは注射前に絶食させなかった。経口及びIV投与から12時間後、24時間後及び36時間後に尾静脈から採血した。エキセンジン−4アッセイキット(エキセンジン−4(Heloderma suspectum)−EIAキット,Phoenix pharmaceuticals,INC.CA,米国)により血液中のエキセンジン−4の発現/放出を分析/測定した。
マウス(C57BL6)におけるエキセンジン−4放出。図14はヘパリン−TCAで包囲したエキセンジン−4−pDNA組成物を2種類の投与量(エキセンジン−4−プラスミドDNA 5mg/kg及び10mg/kg)でマウスにIV及び経口投与後の血漿中エキセンジン−4濃度の経時変化を示すグラフである。データは平均±SD,n=5を表す。
図14から明らかなように、エキセンジン4の放出は組成物の経口及びIV投与のどちらでも投与量と正比例する。IV投与後のエキセンジン4の発現と放出は当初では同一用量で経口投与後よりも多い。しかし、投与から36時間後にIV群は血漿中濃度の低下を示し、経口群の血漿中濃度は上昇した。グラフによると、経口投与群でTmax及びCmax値を得るためには長い観測時間が必要である。一方、10mg/kgのIVでは24時間で最高濃度が観測された(Tmax=約24時間及びCmax=約6500ng/mL)。
pGLP−1製剤の投与後のII型糖尿病モデルにおけるグルコース値計測。6週齢の雌性Zucker Diabetic Fatty(ZDF)ラットを金属ケージに収容し、飼料と水を自由に摂取させた。ZDFラットは若年で肥満症とインスリン抵抗性を発症し、加齢と共に徐々に高血糖症を発症する。ZDFラットの高血糖症は膵β細胞機能障害、膵β細胞質量低下並びにインスリンとグルコースの作用に対する肝及び肝外組織の反応性の低下を伴う。携帯用血糖値測定器(Accu−chek,Roche Diagnostics,Basel,スイス)により測定した場合にZDFラットの血糖値は>300mg/dLであった。ラットを2群に分け、一方の群には遺伝子のみを含有するpGLP−1遺伝子製剤、即ち遊離pGLP−1を投与し(3匹)、他方の群にはヘパリン−TCAで包囲したpGLP−1組成物製剤を投与した(5匹)。製剤の調製に当たっては、GLP−1遺伝子を(5/1のN/P比で)bPEIと混合し、30分間インキュベートし、静電相互作用により複合体を形成させた。化合物をHEPES緩衝液に溶解させて室温で30分間インキュベートすることにより複合体をアニオン性ヘパリン−TCAで包囲した。次に製剤を2日間かけてフリーズドライにより凍結乾燥し、経口及びIV送達用にHEPES緩衝液に再分散させた。
遊離pGLP−1遺伝子製剤群とヘパリン−TCAで包囲したpGLP−1組成物製剤群の両方のラットを一晩(12時間)絶食させた後、遊離pGLP−1遺伝子100μg又はpGLP−1遺伝子100μgを提供する量のヘパリン−TCAで包囲したpGLP−1組成物製剤を夫々経口強制飼養により送達した。(GLP−1遺伝子100μgに等価の)計算量の乾燥製剤をHEPES緩衝液100μLに溶解させ、経口/IV投与前にセルインキュベーター(37℃)で30分間インキュベートした。
別の試験で、BALB/cマウスにストレプトキナーゼを投与し、その膵臓のβ細胞を損傷させ、膵臓に炎症を起こした。マウスを金属ケージに収容し、飼料と水を自由に摂取させ、連続的に計測した。その血糖値はストレプトキナーゼ投与後2週間で約300μg/dLまで上昇した。マウスを経口群(7匹)とIV群(7匹)の2群に分け、(pGLP−1遺伝子100μgを提供する量の)ヘパリン−TCAで包囲したpGLP−1製剤を経口及び静脈内投与した。
動物の体重を定期的に計測した。(GLP−1遺伝子100μgに等価の)計算量の乾燥製剤をHEPES緩衝液100μLに溶解させ、経口/IV投与前にセルインキュベーター(37℃)で30分間インキュベートした。
組織化学試験。21日間観測後に、ラットの特定の臓器(十二指腸、空腸、回腸、腎臓及び肝臓)を摘出し、免疫組織化学染色によりGLP−1発現を観測した。その血糖値の観測後にラットを解剖し、選択した臓器を摘出した。組織を10%ホルマリンで固定し、パラフィン包埋し、組織を厚さ15μmの切片に薄切した。切片を間接免疫組織化学法で免疫染色した。マウスモノクローナル(8G9)一次抗体(Abcam ab26278)をGLP−1の解析に使用し、メーカーから提供されている組織化学アッセイキットの説明書に従って処理を行った。
共焦点顕微鏡によりGLP−1発現を直接観測し(図15Gの緑色部分)、細胞核をDAPIで染色した(図15Gの青色部分)。組織を分離し、ステンレス鋼製の包埋皿で小部分をパラフィン包埋した。組織を厚さ15μmの切片として切断し、スライドガラスにマウントし、夫々核と細胞におけるGLP−1の発現を目視観測するためにDAPIとAbcam ab26278の両方で染色した。
(GLP−1遺伝子100μgに等価量の)ヘパリン−TCAで包囲した凍結乾燥pGLP−1製剤をHEPES緩衝液100μLに溶解させ、一晩絶食させたII型糖尿病モデルZDFラットに経口投与した。対照試験として別の動物群に遊離GLP−1遺伝子製剤も送達した。血糖値を計測した処、約60mg/dLと低値であった。製剤と飼料の相互作用は消化管への吸収を妨げる恐れがあるので、これを避けるために製剤の経口投与から6時間後に動物に飼料を与えた。
図15A〜15Cはヘパリン−TCAで包囲したpGLP−1製剤を投与した動物の血糖値のグラフである。図15Aから明らかなように、遊離GLP−1遺伝子製剤を投与したZDFラット(白四角)の血糖値は経口投与当日には短時間低値であったが、試験した21日間にわたって約300〜350mg/dLであった。他方、ヘパリン−TCAで包囲したpGLP−1組成物製剤を投与したZDFラット(黒丸)は経口投与後の血糖値が約100〜150mg/dLであり、試験した21日間維持された。
図15Bはヘパリン−TCAで包囲したpGLP−1組成物製剤を投与後2週間の経口投与群の各BALB/cマウスの非空腹時血糖値を示す。一般に、血糖値は約100〜約150mg/dLであった。図15Cはヘパリン−TCAで包囲したpGLP−1組成物製剤を投与後2週間のIV投与群の各BALB/cマウスの非空腹時血糖値を示す。一般に、血糖値は約100〜約150mg/dLであった。
図15D〜15Eはヘパリン−TCAで包囲したpGLP−1組成物製剤を投与した各BALB/cマウスの体重のグラフを示す。図15Dは経口投与群のデータを示し、図15EはIV投与群のデータを示す。
図15Fはヘパリン−TCAで包囲したpGLP−1組成物製剤の投与後2週間の経口投与群(黒丸)とIV群(白丸)の飼料消費量のグラフを示す。経口投与群は約1週間後に一般にIV群よりもマウス1匹当たり多量の飼料を消費し、IV群の飼料消費量は約3日後に約4g/匹で比較的安定していたが、経口投与群の飼料消費量は約7日後に約6g/匹となるまで安定しなかった。
図15Gはヘパリン−TCAで包囲したpGLP−1組成物を投与後の種々のラット臓器に存在するGLP−1の量を示す一連の画像である。画像から明らかなように、GLP−1発現は腎臓で最高であったが、DAPIで染色した組織の共焦点画像に示すように十二指腸、空腸、回腸及び肝臓でもGLP−1発現が観測された。
データ(図15A)から明らかなように、製剤の経口投与から6時間後にラットに飼料を摂取させると、その血糖値は上昇し始めた。遊離GLP−1製剤を投与した動物では、投与後1日以内に血糖値は約60mg/dLから約300〜350mg/dLに戻った。一方、ヘパリン−TCAで包囲したpGLP−1製剤を投与したラットの血糖値はヘパリン−TCAで包囲したpGLP−1製剤100μgを単回経口投与後21日間まで約100〜150mg/dLに維持された。
これらの結果はヘパリン−TCAで包囲したGLP−1製剤を投与したラットにおける有意な血糖値低下効果を実証するものであり、この効果は単回経口投与後長期間維持される。I型糖尿病モデルにおいて、ヘパリン−TCAで包囲したGLP−1遺伝子製剤を同一の遺伝子用量でマウスに経口及び静脈内投与した。14日間の血糖値計測期間中、ストレプトキナーゼにより膵臓細胞を損傷させたマウスで調査した処、経口送達とIV送達は同等の血糖値のプロファイルを示した。血糖値計測の総合結果から判断すると、ヘパリン−TCAで包囲したpGLP−1組成物の製剤は血糖値を低下させて正常なグルコース範囲内に維持するために十分に経口吸収された。驚くべきことに、単回経口投与しただけで血糖値は正常な範囲に2週間維持された。
結論。インビトロ細胞毒性及び細胞トランスフェクション試験において、HepG2(肝細胞)細胞株とEaHy926(上皮)細胞株を種々の時間間隔で計測した処、eGFPは細胞質と細胞核の周囲に局在することがデータから明らかである。ヘパリン−TCAで包囲したeGFP組成物をマウスに投与して経口吸収試験と薬物動態試験を実施した処、肝臓での発現が目視及び定量により観測された。遺伝子とカチオン性部分の複合体(胆汁酸コーティングなし)は胃、十二指腸、空腸及び他の内臓で腸細胞に非特異的に導入されたが、胆汁酸で被覆した複合体は胆汁酸を高度に取込む遠位小腸及び回腸に導入され、肝臓、肺及び腎臓で顕著なeGFP発現が認められた。
ヘパリン−TCAで包囲したエキセンジン−4組成物を投与したマウスの血漿中エキセンジン−4濃度は、遺伝子5〜10mg/kgを投与後に数百ng/mLのオーダーである治療用エキセンジン−4の濃度の約10,000倍であった。ヘパリン−TCAで包囲したGLP−1組成物ではI型及びII型糖尿病モデルでも夫々2週間及び3週間にわたって治療効果が認められ、どちらも正常範囲内までの血糖値の低下を示す。
つまり、3種類の異なる遺伝子による実験結果はそれらの経口吸収強化の概念を裏付けている。特筆すべき点として、試験した遺伝子のうちの2種類は糖尿病の潜在的な治療薬(エキセンジン−4及びGLP−1)であり、ヒト疾患のマウスモデルとラットモデルの両方で検証されている。本実施例ではこれらの遺伝子の経口吸収メカニズム、臓器発現及び治療効果に関するインビトロ及びインビボの両面の定量的及び定性的データを提示するが、これらのデータは胆汁酸を結合させたアニオン性ポリマーが遺伝子複合体の安定性を強化できると共に、胆汁酸及びOstα−Ostβトランスポーターを介する小腸への経口吸収を模倣できるという概念を裏付けている。また、これらの遺伝子の肝臓での蓄積及び発現レベルが高いことからも、これらの組成物は肝細胞で過剰発現されるこれらの受容体と強く結合すると判断される。
[実施例2].タンパク質送達。
それ自体カチオン性の治療用タンパク質からカチオン性粒子を形成することもできるし、タンパク質をプロタミン等のカチオン性ポリマーと複合体化することもできる。代表的な治療用タンパク質はインスリンである。そして、アニオン性ポリマーと共有結合した胆汁酸又は胆汁酸抱合体から構成される部分でカチオン性複合体を被覆することができる。このような部分の1例はヘパリン−TCAである。得られた治療用組成物は約10nm〜約10μmの寸法であると予想される。得られた組成物はアニオン性であり、血糖値を下げるために動物又はヒト対象に経口投与できると考えられる。
[実施例3].小分子送達用胆汁酸及び胆汁酸抱合体。
ドキソルビシン(DOX)を含む多くの薬物は腸管透過性不良により経口バイオアベイラビリティが低いため、その経口投与が課題となっている。薬物の経口製剤はいずれもその経口バイオアベイラビリティに影響を与える要因である薬物の溶解度、安定性、溶解速度及び消化(GI)管透過性を考慮する必要がある。これらの薬物の経口製剤は消化管における半減期と代謝を低下させて経口バイオアベイラビリティを最大にするために、溶解速度を速くし、吸収速度を高める必要がある。薬物、特に抗癌剤の効果を改善するために、経口製剤は消化管壁の上皮層からの吸収を妨げるバリアを解消する必要がある。
DOXはリンパ腫、肉腫、乳癌、卵巣癌及び肺癌を治療するために広く使用されている抗癌剤である。DOXはDNAの塩基間にインターカレートすることによりDNAを損傷させ、トポイソメラーゼII酵素活性を阻害し、DNA転写を妨害する。DOXはBCS分類IIIの薬物であり、溶解度は良好であるが、透過性が不良であり、経口バイオアベイラビリティが低い(約5%)。一方、DOXには酸化ストレス発生に起因するその心臓毒性と、腎毒性、骨髄抑制及び多剤耐性の発生を含む他の副作用があり、いずれも治療指数の狭さに繋がり、その使用を阻む重大な臨床上の制約要因となっている。従って、その腸管透過性及び経口バイオアベイラビリティの不良を改善するために新規な製剤ストラテジーが必要である。
肝臓から分泌される胆汁酸は腸管上皮細胞を通って回腸末端から再吸収され、門脈を通って肝臓に戻るので、胆汁酸トランスポーターは薬物送達の魅力的なターゲットである。胆汁酸リサイクル比が高いと、胆汁酸の腸肝循環が非常に効率的なプロセスとなり、肝臓と回腸末端で主に発現される胆汁酸トランスポーターに有益である。タウロコール酸(TCA)は多量に存在する胆汁酸であり、ヒト腸液の約45%を占める。
TCAはアニオン性ポリマーと共有結合させることにより薬物担体として使用することができ、経口投与により送達することができる。ポリマーの表面に存在するTCAは小腸内で胆汁酸トランスポーターと相互作用し、薬物の腸管透過性とそのバイオアベイラビリティを改善することができる。DOXの場合には、親水性でカチオン性であるため、主に傍細胞経路を介して腸管上皮細胞を通過することができる。一方、DOX表面のTCAコーティングは回腸末端に主に存在するNa+依存性の頂端側胆汁酸トランスポーター(ASBT)を介する腸管細胞を通る吸収を最大にし、回腸末端から門脈へのDOX輸送を助長し、DOXを全身循環に導入すると思われる。
本実施例ではTCAと共有結合させるための代表的なアニオン性ポリマー主鎖として、生体適合性、水溶解度及び生分解性が高いことからヘパリン(H)とコンドロイチン硫酸(CS)を選択した。これらの多糖は天然ポリマーであり、生体適合性が高い。H−TCAとCS−TCAはDOXの表面を被覆し、消化(GI)管内におけるその安定性を強化し、DOXをGI環境から保護することができる。更に、H−TCAとCS−TCAはDOXと複合体化し、ミクロンサイズの粒子よりも効率的に吸収させることが可能な微小粒子を形成することができる。本願に開示する粒子は約10nm〜約10μmの範囲である。この製剤ストラテジーは非特異的吸着量を減らし、特異的な腸管吸収を改善し、DOXのバイオアベイラビリティを改善することができる。更に、腸肝循環による効率的なTCAリサイクルは肝臓癌を標的とする抗癌化学療法に有益であると思われる。
材料。ドキソルビシン塩酸塩、断片化サケ精子DNA(Trevigen,MD)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジン(HEPES)、3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)、D−グルコース、重炭酸ナトリウム、組換えヒトインスリン、Hoechst 33342,RPMI 1640培地、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、カルボジイミド(EDC)、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)は特に指定しない限り、販売業者から購入し、購入したままの状態で使用した。
DOX充填粒子の作製と特性解析。DOX等のバイオアベイラビリティの低い薬物の透過性を強化する可能性を評価するために、胆汁酸又は胆汁酸抱合体(本実施例ではタウロコール酸、即ちTCA)をアニオン性ポリマー(本実施例では多糖であるヘパリンとコンドロイチン硫酸を試験する)と結合させ、経口送達に適した組成物とする。
TCAナトリウム塩1molを0℃のDMFに溶解させた後にトリエチルアミン6molとクロロギ酸4−ニトロフェニル(NPC)5molを加えることにより、ヘパリンと結合したタウロコール酸(H−TCA)を調製した。次に溶液をエタノールと脱イオン水で3回抽出した。ロータリーエバポレーターを使用して有機溶媒を除去し、サンプルをフリーズドライし、TCA−NPCを得た。4−メチルモルホリン2molを添加したDMFにTCA−NPC1モルを溶解させ、エチレンジアミン100molを滴下し、生成物を乾燥してTCA−NH2を得た。
TCAをヘパリン(H)又はコンドロイチン硫酸(CS)と結合させるために、多糖1molを脱イオン水に溶解させ、EDC(5mol)とNHS(5mol)を溶液に加え、室温で12時間撹拌した。同一モル比のTCA−NH2をヘパリン及びコンドロイチン硫酸の各々に加え、1:4(多糖1モル対TCA4mol)の同一結合量のTCAを得た。1日後に溶液をMWCO1000透析膜に加え、水で透析した。最終生成物を凍結乾燥し、D2O中でその1H−NMRスペクトルにより確認した。
図16AはTCA−NH2との反応前のコンドロイチン硫酸のプロトンNMRスペクトルを示す。図16Bはコンドロイチン硫酸をTCA−NH2と結合させた生成物の透析後のプロトンスペクトルを示し、共有結合が確認される。
DOX充填粒子の形成と再構成。カチオン性DOXとアニオン性TCA複合体CS−TCA及びH−TCAとの静電結合によりDOX充填粒子を形成した。経口投与に備え、DOXを静電相互作用によりCS−TCA又はH−TCAで被覆した。
CS−TCAをDOXと1:2(w/w)の比で直接混合した。ボルテックスを使用して溶液を混合し、20の振幅で10秒間超音波処理した後、室温で30分間インキュベートした。
H−TCA複合体の場合には、DOXを先ず断片化サケ精子DNAと混合し、DNA/DOX複合体に負の表面電荷を付与した。次にDOX/DNA複合体をε−ポリ−L−リジン(ε−PLL)と混合し、正に帯電した表面をもつ複合体を得た。即ち、断片化DNAを使用してDOXと結合させ、アニオン性DNA/薬物(「DD」)複合体を形成した後、ε−PLLを使用してDNA/薬物複合体に被覆し、カチオン性表面をもつDNA/薬物/ポリマー複合体(「DDP」)を得た。最後に、H−TCAを使用してカチオン性DDP複合体に被覆し、最終的な治療用組成物を得た。
所定の実施形態では、前記小分子治療剤をそれ自体カチオン性とすることができ、従って、コア複合体を形成するために(DNA及び/又はポリリジン等の)他の成分を加えなくてもよい。従って、実施形態によっては、前記コア複合体はカチオン性小分子治療剤を含む。
製剤毎にボルテックスを使用して溶液を混合し、20の振幅で10秒間超音波処理した後、室温で30分間インキュベートした。DDP対H−TCAの比が2.8:2.4となるようにDDPをH−TCAで被覆した最終的な製剤を調製した。DDP/H−TCA組成物では、DOX:DNAの比を1:1とし、(DOX/DNA)部分:ε−PLLの比を2:0.8とし、DDP:H−TCAの比を2.8:2.4とし、全ての比は重量に基づいて計算した(w/w)。
薬物対胆汁酸−ポリマーの比を変え、1:2w/w比のDOX/CS−TCAと、2.8:2.4w/w比のDDP/H−TCAの2種類のDOX製剤を調製した。
最終的な組成物により形成された粒子を更に評価した。具体的には、HEPES緩衝液(20mM,pH7.4)で希釈することによりDOX粒子の粒径と表面電荷を評価した後、室温(25℃)にて波長677nm及び90°の一定角度でゼータサイザー3000(Malvern Instruments,英国)を使用して動的光散乱法(DLS)により粒子の流体力学的粒子径とゼータ電位を計測した。
サンプルをフリーズドライ後、粒子を脱イオン水で再構成し、サンプルをDLS測定の直前に20の振幅で約10秒間超音波処理した。凍結乾燥粉末を使用時まで−20℃で保存した。
カチオン性DOXとアニオン性TCA複合体の静電相互作用の分析によると、DOX−TCA粒子が形成された。図17は調製時のDOX−TCA粒子と再構成後のDOX−TCA粒子のサンプルの粒径とゼータ電位のグラフである。データは平均±SD,n=10として表す。
室温でインキュベーション前に、粒子を20の振幅で約10秒間超音波処理すると、粒径減少と狭い多分散指数(PDI)が認められた。超音波処理は音響キャビテーションを誘導し、溶液中に強い力で衝撃波を生じる。その結果、粒子は相互に衝突し、凝集物が分解し、その結果、粒径とPDIが全体的に減少する。
図17に示すように、調製時のDOX/CS−TCA粒子とDDP/H−TCA粒子の流体力学的粒子径は夫々約200nmと約230nmであった。DDP/H−TCAの場合には、胆汁酸で包囲した複合体における多層成分により粒径が増加した。調製時のDOX/CS−TCA粒子のゼータ電位は−42.7mVであり、調製時のDDP/H−TCA粒子では−30.2mVであった。いずれも多糖主鎖にカルボン酸基が存在するために負に帯電していた。
DOX充填粒子の粒径はフリーズドライ前のサンプルの粒径に比較して再構成後に僅かに増加した。再構成後のDOX充填粒子はDOX/CS−TCAで約201nm、DDP/H−TCAで約312nmの粒径を示したが、それらのゼータ電位に有意な変化はなかった。
DDP複合体をH−TCAで被覆すると、粒径が比較的大きくなり、多分散指数(PDI)が広くなることが判明した。他方、CS−TCAで単層被覆すると、1:2(w/w)比で調製した場合に粒径が小さく、PDIが狭くなった。DOX/CS−TCA粒子とDDP/H−TCA粒子はフリーズドライ後に脱イオン水で再構成することができ、一般にその粒径とゼータ電位を維持した。
DOX封入のスペクトル測定。紫外可視(UV−Vis)分光法(SpectraMax,米国)を使用し、遊離DOXと比較してDOX充填粒子の吸光度の変化を計測した。DOXのサンプル(1サンプル当たりDOX25μgを含有する0.1mLサンプル)を調製し、脱イオン水0.9mLで希釈して総体積1.0mLとし、石英キュベットに加えた。遊離DOXのUV−vis吸収スペクトルは232nmと490nmにピークを示すが、DOX充填胆汁酸粒子のスペクトルを遊離DOX対照サンプルのスペクトルと比較した。
図18A及び18BはこれらのサンプルのUV−Visスペクトルを示す。図18Aは遊離DOX(実線)、DOX/DNA(点線)、DOX/DNA/ε−PLL(一点鎖線)及びDDP/HTCA組成物(破線)のスペクトルを示す。図18Bは遊離DOX(実線)とDOX/CS−TCA組成物(破線)のスペクトルを示す。
図18Aから明らかなように、担体なしのDOXは232nmと490nmに2つの主要なピークを示した。多糖であるヘパリン及びコンドロイチン硫酸とTCAの結合体にDOXを結合させると、UV−Visスペクトルのこれらの2つのピークは有意に低下した。DDP/H−TCAサンプルとDOX/CS−TCAサンプルはいずれもCS−TCA粒子の単層被覆又はH−TCA粒子の多層被覆後にこれらの2つのDOXピークが完全に消滅し、DOXとTCA−多糖−結合体の間で相互作用が生じたと判断される。スペクトルの変化は両製剤がDOXの充填に成功したことも示す。粒子の内側にDOXを高い充填効率で封入することができる。
これらのDOX含有製剤の長期保存の可能性を評価し、このような保存後にその特性を維持できるか否かを判定した。図19Aに示すように、DOX/CS−TCA組成物とDDP/H−TCA組成物の粒径を7日間測定した。
図面に示すように、7日間保存後に、DOX/CS−TCA製剤は寸法が僅かに変化しただけでほぼ安定しており、約190nmの粒径を維持した。DDP/H−TCAの場合には、粒径は時間の経過と共に約270nmから約340nmまで若干増加した。粒径の漸増は単層被覆よりも多層被覆のほうが不安定であることを示唆しており、従って、CS−TCA粒子の単層被覆は多層DDP/H−TCA粒子よりも粒径の点で良好な安定性を提供すると思われる。
インビトロ安定性試験。0.1M Tris HCl緩衝液中で3種類の異なるpH値(pH1.5、5及び7)にてDOX充填粒子の安定性を試験した。図19B(平均±SD,n=3)に示すように、7日間まで毎日動的光散乱法により粒子の平均粒径を計測した。
1.5の酸性pHでは、高pH値での粒子の粒径に比較してどちらの多糖組成物も粒径が減少し、減少度はDDP/H−TCA粒子のほうがDOX−CS−TCA粒子よりも大きかった。DOXはpKaが約7.2〜8.0であるため、pH7.4でアミノ基のプロトン化により部分的にイオン化される。即ち、DOXはpHが低いほどプロトン化され易く、その結果、DOXとアニオン性CS−TCA及び短い断片DNAとの間により強い静電相互作用を生じることができ、粒径減少に寄与すると思われる。pHが低いほど粒径が小さくなることはDOX充填粒子が胃の中のpH値で安定であり、DOXを分解から保護できることも示唆している。DOX/CS−TCA粒子の粒径はpH1.5の約200nmからpH7の約220nmまでであり、pH値の変動による差が小さく、単層被覆粒子のほうがDDP/H−TCA粒子に比較して一般に安定しており、試験した広い範囲のpH値で同等の粒径を維持すると判断された。DDP/H−TCA粒子の粒径はpHの上昇に伴ってpH1.5の約260nmからpH7の約300nmまで若干増加した。
DOX充填及び封入試験。490nmのUV−Vis吸収スペクトルを使用して各製剤の薬物充填量と充填効率を測定し、標準化曲線から計算した。pH7.4とpH5のリン酸緩衝液(PBS)中で透析法を使用して粒子からのDOX放出を試験した。
各pHについて、DOX/CS−TCA粒子又はDDP/H−TCA粒子1mL(1サンプル当たりDOX250μg)を調製し、透析膜(MWCO3500g/mol)に加えた。透析バッグを緩衝液20mLに投入し、緩衝液を37℃にて130rpmで撹拌した。所定時点で外相緩衝液1mLを排出し、同一体積の新鮮な緩衝液を加えた。
外相緩衝液サンプルに存在するDOXの量はDOX放出量に相当するので、490nmにおけるサンプルの吸光度を測定し、数値を標準較正曲線と比較することによりこの量を計算した。次に下式を使用して薬物充填百分率と効率を計算した。
DOX/CS−TCAとDDP/H−TCAの充填効率を計算した処、夫々約61.6%と約77.8%であった。DOX/CS−TCAとDDP/H−TCAの充填率を求めた処、夫々約30.8%と約18.5%であった。DDP/H−TCA製剤に存在する多層はDOX/CS−TCA製剤と比較して高い薬物充填能と高い充填効率を提供するようである。しかし、どちらの製剤でも、薬物の高い充填レベルと高い充填効率が達成された。
これらの2種類の粒状製剤からの薬物放出データを図20A及び20Bに示す。データは平均±SD、n=3として表す。図20AはDOX/CS−TCA製剤(四角いマーカーを付けた上側の線)と、DDP/H−TCA製剤(丸いマーカーを付けた下側の線)のpH7.4におけるDOX放出の経時変化を示すデータである。図20BはDOX/CS−TCA製剤(四角いマーカーを付けた上側の線)とDDP/H−TCA製剤(丸いマーカーを付けた下側の線)のpH5におけるDOX放出の経時変化を示すデータである。
これらのデータによると、pH7.4のDOX/CS−TCA製剤では24時間以内に比較的迅速なDOXの放出が認められ、この時間内に薬物の約75%が放出された。DDP/H−TCA製剤からのDOXの放出のほうが遅く、48時間でDOXの約50%が放出された。このことから、単層被覆は粒子からより迅速な薬物放出を誘導できると判断される。多層DDP/H−TCA粒子はDOX/CS−TCA単層被覆粒子に比較して遅い放出速度を示したことから、DOX放出を遅らせることができる拡散バリアを含んでいるように挙動すると思われる。DOX/CS−TCAの放出プロファイルによると、DDP/H−TCA組成物よりも迅速にDOXを放出することが分かった。
pH5では、製剤からのDOX放出速度はpH7での放出速度に比較して遅くなった。pH5では、DOX/CS−TCA製剤は48時間で約65%のDOX放出率を示し、DDP/H−TCAは48時間でDOXの約40%を放出した。この結果は酸性環境ではDOXのダウノサミン基のプロトン化度が高いためであると思われる。従って、DOX充填製剤は(リソソーム内のpHに対応する)pH5ではDOXのプロトン化度が高く、放出が遅いが、pH7.4ではDOX放出速度が加速したと思われる。DOXの標的部位である核ではpHが7.4であるため、DOXは迅速に放出され、核内のDNAとインターカレートするのに利用できると考えられる。これらの結果によると、DOX充填製剤からのDOX放出は部分的にpHにより制御されると判断される。
DOX充填粒子のインビトロ細胞毒性。ポリマーとDOX充填粒子の細胞毒性を評価するために、HepG2細胞を使用してサンプルを用量依存的にトランスフェクトし、MTTによる細胞生存率アッセイにより評価した。細胞培養:10% FBSとD−グルコース(4.5g/L)を添加したDMEMでHepG2細胞(ヒト肝癌由来細胞株)を培養した。37℃で5%CO2の加湿空気下にて細胞を増殖させ、維持した。細胞生存率:MTTアッセイを使用し、胆汁酸を結合させたポリマーとDOX充填粒子の細胞生存率を評価した。培地100μL中、5×103個/ウェルの細胞密度でHepG2細胞を96ウェルプレートに播種した。24時間後に、種々の濃度範囲(0.01〜100μg/mL)のDOX及びDOX充填製剤を加え、更に24時間細胞に暴露した。次にMTT(10μL;5mg/mL)溶液をウェルに加え、4時間インキュベートした。残留する培地を完全に吸引し、DMSO(100μL)を加え、37℃で10分間インキュベーション後に生細胞から生成されたホルマザン結晶を溶解させた。細胞の吸光度を570nmで測定し、その細胞生存率を計算した。
図21はH−TCA複合体(四角いマーカーを付けた上側の線)とCS−TCA複合体(丸いマーカーを付けた下側の線)に暴露後のHepG2細胞生存率を示す。データは平均±SD,n=6として表す。これらのサンプルにはDOXを加えていない。胆汁酸を結合させたポリマーのMTTアッセイによると、前記細胞をCS−TCA又はH−TCAと共にインキュベーション後に、0.01μg/mL及び100μg/mLの濃度で夫々元の細胞生存率の約90%及び60%が維持されることが判明した。従って、これらのポリマーは細胞毒性が極低いと判断された。
24時間、48時間及び72時間インキュベーション後にHepG2細胞で遊離DOX、DOX/CS−TCA粒子及びDDP/H−TCA粒子の細胞生存率も調べた。結果を図22A〜22Cに示す。データは平均±SD,n=6として表す。図22Aは24時間後、48時間後及び72時間後の5種類の濃度(0.01μg/mL、0.1μg/mL、1μg/mL、10μg/mL及び100μg/mL)の遊離DOXの細胞生存率を示す。図22Bは同じく24時間後、48時間後及び72時間後の上記と同一の5種類の濃度のDOX/CS−TCA製剤の細胞生存率を示す。図22Cは同じく24時間後、48時間後及び72時間後の上記と同一の5種類の濃度のDDP/H−TCA多層製剤の細胞生存率を示す。
データによると、遊離DOXが最大の用量依存的細胞毒性を示したが、これはDOXがカチオン性であり、細胞に対する毒性が強いためであると思われる。DOX/CS−TCA製剤とDDP/H−TCA製剤については、DOX充填粒子のほうが遊離DOXに比較して毒性が弱く、DOX/CS−TCA製剤はDDP/H−TCA製剤よりもやや弱い毒性を示した。CS−TCA又はH−TCAアニオン性ポリマーコーティングはDOXによる細胞毒性を改善し(即ち細胞生存率を上げ)、従って、DOX充填製剤で観測される細胞毒性は低くなった。一方、多層被覆DDP/H−TCA複合体は単層被覆DOX/CS−TCA製剤よりも若干高い毒性を示した。これらの結果はDOXを被覆する3種類までの異なるポリマーの存在に起因すると思われる。
腫瘍をもつ動物モデルにおけるインビボ効果。遊離DOXとDDP/H−TCA組成物のインビボ抗癌効果をHepG2異種移植マウスモデルで評価した。経口及びIV投与により遊離DOXを投与した動物を対照群として使用し、DDP/H−TCA組成物をDOX4mg/kgの用量で3日毎に18日間まで経口投与した。
HepG2細胞(5×106個/mL)をPBS100μLに加えて各マウスの背中に皮下注射した。腫瘍サイズが約100〜150mm3に達したら、PBS、DOX4mg/kg、又はDDP/H−TCA組成物としてDOX4mg/kgを各マウスに3日毎に1回経口投与した。更に、等量のドキソルビシンを対照群に静脈内(IV)投与した。3日毎に腫瘍をデジタルキャリパーで測定し、下式を使用して腫瘍体積を計算した。
比較的高濃度にするために、インビボ投与の直前にDDP/H−TCA粒子の凍結乾燥粉末を脱イオン水で再構成した。先ず、胆汁酸で被覆したDOX充填粒子の腫瘍増殖抑制効果をマウス異種移植モデルで調べた。用量4mg/kgのドキソルビシン(DOX)又はDDP/H−TCA粒子として製剤化した等価量のDOXを調製し、18日間まで3日毎にIV又は経口投与により送達し、腫瘍進行をモニターした。胆汁酸なし(即ちTCAなし)のDOX充填粒子も非標的対照製剤として試験し、TCAの腫瘍抑制効果を評価した。PBS対照群の腫瘍は非常に活発であり、18日付近で動物の体重の10%超に達したので、全投与を停止し、18日目に全マウスを屠殺した。
統計解析。2群の比較にはスチューデントのt検定を使用し、3群以上の比較には一元配置ANOVAとボンフェローニの事後解析を使用し、p<0.05を統計的に有意とみなした。
図23A〜23Cは製剤の抗腫瘍効果を示す。全投与群は経時的に腫瘍体積の増加を示した。しかし、投与に使用した製剤に応じて腫瘍増殖速度と総腫瘍体積変化に有意な差があった。データは平均±SEM,n=3として表す。
図23Aは試験に使用した7種類の製剤、即ちPBS対照、遊離DOXのIV投与、遊離DOXの経口投与、DDP/ヘパリン複合体(胆汁酸なし)、DOX/コンドロイチン硫酸複合体(胆汁酸なし)、及び胆汁酸で包囲した2種類のDOX組成物(DDP/H−TCA及びDOX/CS−TCA)についてマウスにおける腫瘍体積の経時変化百分率を示す。
図23Aに示すように、遊離DOX IV群(逆三角形のマーカーを付けた破線)の腫瘍体積は腫瘍増殖の最大の抑制を示した。一方、胆汁酸で包囲したDOX粒子を投与したマウス(四角いマーカーを付けた点線及び白抜き菱形のマーカーを付けた長破線)では他の経口対照群に比較して大きな腫瘍増殖抑制量が認められた。胆汁酸で包囲したDOX群の腫瘍体積は遊離DOXを経口投与したマウス(黒い菱形のマーカーを付けた長破線)の腫瘍体積よりも有意に小さかった(p<0.05)。遊離DOX経口群の腫瘍は体積がほぼ1400%増加したが、DDP/H−TCA群とDOX/CS−TCA群の腫瘍は夫々400%と600%の体積増加を示すに止まった。DOX/CS−TCA群の腫瘍はDDP/H−TCA群の腫瘍よりも若干大きな腫瘍体積増加を示したが、この結果はDDP/H−TCA複合体と比較してDOX/CS−TCA複合体からのDOXの放出のほうが速いことに起因すると思われる。他方、胆汁酸なしのDOX−多糖複合体を投与した腫瘍(三角形のマーカーを付けた短破線及び丸いマーカーを付けた一点破線)は腫瘍増殖が有意に抑制されず、一般に遊離DOX経口群と比較して腫瘍増殖率に顕著な変化を示さなかった。遊離DOX経口群と非TCA群の腫瘍体積に有意な差はなかった。
図23Bは投与した動物における腫瘍量の変化百分率を示す。星印を付けた値(右端の棒のaとb)により示す差は遊離DOX経口群と比較してp<0.05である。胆汁酸で包囲した2種類のDOX組成物(即ち項目名DDP/H−TCA及びDOX/CS−TCAの棒)はTCAなしのDOX複合体を投与したマウス(即ち項目名DDP/H及びDOX/CSの棒)と比較して腫瘍増殖抑制効果が高かった。胆汁酸で包囲した2種類のDOX群で認められた腫瘍退縮は、胆汁酸で包囲した2種類のDOX製剤がHepG2異種移植癌モデルで強い抗腫瘍効果をもつことを示唆している。図23Bに示すように、18日目に測定した腫瘍量によると、DOX−TCA粒子を投与した動物群における腫瘍量は遊離DOX経口群の腫瘍量に比較して著しく減少していた。
投与期間を通してマウスの体重も測定し、投与による毒性を評価した。投与群の相対体重百分率の経時変化を示すグラフである図23Cにこのデータを示す。
図23Cから明らかなように、PBS群と2種類のDOX対照群と非TCA投与群(即ちDDP/H群とDOX/CS群)は投与開始時に有意な体重減少を示さず、時間の経過と共にマウスの若干の体重増加が認められたので、投与による重大な毒性はないと判断された。一方、DDP/H−TCA群の動物には多少の体重減少が認められたが、試験の終了に向かってゆっくりとした体重増加が認められた。
生体内分布。HepG2腫瘍をもつNOD/SCIDマウスで生体内分布試験を行った。製剤の投与から4時間後に各マウスの主要臓器と腸管を採取した。各マウスの肝臓、腎臓、心臓、胃、小腸(十二指腸、空腸、回腸を含む)及び腫瘍を採取し、0.3N HClを添加した70%エタノールに懸濁した。次にサンプルをホモジナイズしてドキソルビシンを抽出した後、サンプルを24時間冷蔵し、遠心して上清を採取した。分析に備え、上清200μLを黒色不透明プレートに添加し、励起波長及び発光波長を夫々470nm及び590nmとしてプレートリーダーを使用してDOX蛍光を測定した。
生体内分布試験の結果を図24に示す。データは平均±SEM,n=3として表す。DOX蛍光強度を測定することにより各マウスの主要臓器と腸におけるDOXの濃度を測定し、組織1g当たりのDOXμgとして結果を報告する。特筆すべき点として、遊離DOXのIV注射後にどの経口投与群よりも高濃度のDOXが心臓及び肝臓組織に認められた。
データによると、胆汁酸で包囲した2種類のDOX組成物を投与したサンプル(即ち凡例名DDP−HTCA及びDOX/CS−TCAの棒)の回腸において経口製剤で最大量のDOXが認められた。これらの2種類の組成物を投与したマウスの回腸におけるDOX含有量は遊離DOX経口群又は非TCA群の約3〜4倍であった。回腸におけるDOX蓄積量は胆汁酸で包囲したDOX組成物の標的吸収の指標であり、胆汁酸で包囲したDOX組成物が回腸に存在する胆汁酸トランスポーターにより有効に取込まれたことを示唆している。更に、腫瘍部位における蓄積の改善も認められた。これらの結果は胆汁酸を介するDOXの経口吸収が遊離DOXの経口投与後の濃度に比較して血流中のDOX濃度を増加させることを示唆している。その結果、血流中の蓄積量が比較的多くなり、遊離DOX経口投与に比較して腫瘍進行の遅延(優れたDOX効果)に寄与すると思われる。
結論として、胆汁酸で包囲したドキソルビシン組成物を投与した動物では体重が著しく減少することなしに腫瘍増殖の統計的に有意な抑制が認められた。更に、生体内分布分析の結果、胆汁酸で包囲したドキソルビシン組成物を経口投与した動物は遊離ドキソルビシンを経口投与した動物よりも回腸からのドキソルビシン吸収が増加することが示唆された。動物データによると、胆汁酸コーティングはドキソルビシンの毒性を低下させるだけでなく、腸、特に回腸におけるその吸収を増加させることが判明した。これらの結果から、胆汁酸で包囲したドキソルビシン組成物の腸肝循環は全身DOX濃度を上昇させ、血漿中DOX濃度を上昇させるようであり、経口バイオアベイラビリティ増加と腫瘍増殖抑制に繋がると考えられる。
胆汁酸で包囲したドキソルビシン粒子はフリーズドライ後に安定性が変化せず、長期保存の可能性を示した。更に胆汁酸コーティングは遊離DOXに比較して毒性が極低く、高い薬物充填効率とpH依存的薬物放出が得られた。重要な点として、インビボ結果によると、胆汁酸で包囲したドキソルビシン組成物は腫瘍増殖を有意に遅らせることが判明した。胆汁酸で包囲したドキソルビシン粒子によりドキソルビシンの回腸吸収が改善されることは生体内分布試験でも実証された。全体として、胆汁酸を含有する製剤を経口投与すると、遊離DOX及び胆汁酸を含有しない製剤よりも固形腫瘍に対して高い治療効果を示した。従って、胆汁酸を介する標的送達は胆汁酸トランスポーターを利用することによりドキソルビシンの治療性能を強化し、その経口吸収の増加に繋がると考えられる。即ち、胆汁酸はドキソルビシンの経口送達に有効な担体であることが証明された。更に、これらの新規製剤は所定の抗癌剤又は化学療法剤の静脈内から経口への投与経路の転換を実現可能にすると思われる。
[実施例4].胆汁酸及び/又は胆汁酸抱合体、リポソーム並びに治療剤を含有する治療用組成物。
本願に開示する治療用組成物はその表面に胆汁酸又は胆汁酸抱合体を有するコア複合体を含有するものであるが、更に脂質又はリポソーム等の脂質層を含有していてもよい。前記リポソームはコア複合体の外面を形成することができ、カチオン性とすることができる。従って、本発明の組成物の所定のものはカチオン性表面を有するリポソームの内側に治療剤を完全又は部分的に内包してコア複合体を形成することができる。このようなリポソームコア複合体は胆汁酸又は胆汁酸抱合体と共有結合したアニオン性ポリマーと静電相互作用することができる。このようなリポソーム組成物の1実施形態を図25に示し、図中、Aはカチオン性リポソーム組成物(リン脂質二重層として示す)であり、単一のカチオン性脂質を含有するものでもよいし、中性脂質とカチオン性脂質の混合物を含有するものでもよいが、pH5で正味の正電荷を表面にもち;Bはタンパク質、ペプチド、DNA、遺伝子又は小分子薬を含む治療剤であり;Cはヘパリン、コンドロイチン硫酸及びヒアルロン酸等の生分解性及び/又は注射可能であり得るアニオン性ポリマーであり、中性pHで正味の負電荷をもち;Dはアニオン性ポリマーCと共有結合した胆汁酸又は胆汁酸抱合体(BA)である。
図25に示す組成物は球形として示し、各層が内側のコアを完全に包囲している。所定の実施形態において、各層はコア及び/又は内側層を完全に包囲せず、組成物は球形ではない。
DNAベース、タンパク質及び従来の小分子薬を含む種々多様な治療剤に使用することができる送達アプローチのデザインの成功例としては、機能化リポソームの使用が挙げられる。このようなアプローチは所望の特性を達成するためにマイクロメーターサイズの構造の集合体を精巧に制御する必要がある。本実施例では、胆汁酸又は胆汁酸抱合体と共有結合したアニオン性ポリマーで包囲した薬物充填リポソームの使用について検討した。
治療剤をリポソームに充填するためには、多数のスキームを想定することができる。あるスキームでは治療剤の存在下でリポソーム二重層を作製することにより治療剤を完全又は部分的に内包させた二重層を形成することができる。別のスキームによると、治療剤はリポソームの内側に完全に内包され、リン脂質二重層とさほど相互作用しない。このスキームで治療剤をリポソームに充填するためには、治療剤の存在下でリポソームを作製し、リポソーム二重層を治療剤の周囲に自己集合させることが考えられる。あるいは、治療剤とは別にリポソームを形成し、リポソームに開けた一過性の小孔を通して治療剤を添加し、リン脂質の側方拡散によりリポソームを自然に閉鎖させることもできる。本実施例に記載する実験ではこのアプローチを使用し、その模式図を図26に示す。
即ち、高密度超常磁性Fe3O4ナノ粒子をリポソームに分散させ、リポソーム膜に特定の方向で高い荷重を加え、脂質二重層に小孔を開ける。計画的な実験条件により、リポソーム膜に1又は複数の開口小孔部位を形成することができた。リポソーム膜に開けた脂質二重層の小孔を入口として使用し、脂質二重層の小孔が自然回復(即ち閉鎖)する前に(遺伝子、タンパク質又は小分子薬を含む)治療剤をリポソームに挿入した。
適切な親水性/親油性をもつ脂質は水溶液中で自己集合し、小胞状の脂質二重層を形成することができる。親水性又は親油性の生物活性物質を夫々親水性の内側コア又は脂質二重層シェルに収容することができる。化学的又は生物学的分子候補のリポソーム送達システムは生物医療及び他の分野で種々の可能性を提供する。
融合、分裂及び形状変形を含む脂質二重層の動的特性は種々の実験条件により変えることができる。従来の脂質二重層構造から進化させた構造改変型リポソームの作製は非常に効率的なリポソーム薬物担体をデザインするための手段である。本願では、高密度の超常磁性Fe3O4ナノ粒子と特注磁石を組込んだマグネチックスターラーを使用して脂質二重層に小孔を開けたリポソーム(以下、部分的に開口したリポソームないし「UCL」と言う)を形成する方法を開示する。磁気剪断応力下で、リポソーム内に分散されたFe3O4ナノ粒子は強磁場を介して脂質膜の特定位置に応力を加え、その結果、磁気剪断応力によりリポソーム表面を圧迫して引き裂き、脂質二重層に小孔を開ける。これを図27に模式的に示す。
この方法を使用し、アニオン性ポリマー(コンドロイチン硫酸)と共有結合させた胆汁酸又は胆汁酸抱合体で被覆し、インスリンとドキソルビシンを充填したリポソームを作製した。
材料及び方法。化学薬品と溶媒は特に指定しない限り、Sigma−Aldrich(米国)から入手した。(アセチルアセトン酸鉄(III)、1,2−ヘキサデカンジオール、オレイン酸及びオレイルアミンをベンジルエーテル中にて200℃で2時間及び300℃で1時間反化学応後に生成される平均粒径7nmの)Fe3O4ナノ粒子はLee et al,Int.J.Pharm.471,(2014),166−172に記載されているように合成した。
(I)リポソームインスリン。
3群のリポソームを作製し、標識インスリンを挿入した。1群はコンドロイチン硫酸(CS)で被覆し、別の1群は実施例1で記載したように調製したタウロコール酸と共有結合させたコンドロイチン硫酸(CS−TCA)で被覆した。結合に使用したCS:TCAのモル比は1:4であり、その製法はスキーム1に示す通りである。
タンパク質治療剤試験用リポソーム作製。リポソームは一般にKwag et al,Colloids and Surfaces B:Biointerfaces,135(2015),143−149に記載されているように作製した。ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(「DD」)(20mg)、デオキシコール酸(「DOCA」)(5mg)及びFe3O4ナノ粒子(0.5mg)をクロロホルム(5mL)に溶解させ、丸底フラスコに加えた。丸底フラスコ内の溶媒をロータリーエバポレーターで除去し、フラスコの表面に薄膜を形成した。超音波発生器(60Hzで5分間)を使用して薄膜を25℃にて150M PBS(pH7.4,20mL)で再水和させた。図27に示すような2個の四分円(半径30mm及び厚さ2mm)から形成される特注磁石を組込んだマグネチックスターラーを使用し、得られたリポソームをゆっくりと混合した。磁石に付着したリポソームを再び特注磁石を組込んだマグネチックスターラーで25℃にて1500rpmで1分間撹拌した。リポソーム溶液を磁気撹拌後、すぐにリング型ネオジム希土類磁石(半径10mm及び厚さ10mm)をフラスコの底に固定し、リポソームから漏出した遊離Fe3O4ナノ粒子を除去した。
上記と同一比のジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミドとデオキシコール酸を使用して従来の膜再水和法に従い、Fe3O4ナノ粒子を加えずに対照ないし「ブランク」群のリポソームを作製した。
デオキシコール酸(「DOCA」)を溶液に加えずに、上記と同様に別の群のリポソームを作製した。即ち、これらのリポソームはリポソーム二重層にジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(「DD」)のみを含むものとした。
Ce6−インスリン調製及び充填。NIR蛍光分光法で検出できるようにインスリンをCe6で標識した。Ce6のカルボン酸基を使用してインスリンに結合した。脱イオン水10mL中でEDC(5mM)とNHS(5mM)の存在下にCe6(0.1mM)を過剰のインスリン(10mM)と室温で3日間反応させ、Ce6を結合したインスリンを得た。次にSpectra/Por MWCO 3.5K膜を使用し、得られた溶液を新鮮な脱イオン水で透析(2日間)により精製し、未結合の試薬を除去した。次に溶液を2日間フリーズドライした。
ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(「DD」)のみから作製したリポソームと、DDとDOCAから作製したリポソームに標識インスリンを充填し、「ブランク」リポソームにも同様に充填した。適量のリポソーム(20mg)を150mM PBS(pH7.4,20mL)に分散させ、インスリン(10mg)を加えて25℃で2時間ゆっくりと撹拌(30rpm)すると、UCLに開いた小孔からタンパク質を容易に封入することができた。
DDとDOCAを併用して作製したインスリン充填リポソームの一部をコンドロイチン硫酸(20mg/mL)と14,000rpmで30秒間混合し、コンドロイチン硫酸で被覆したインスリン充填リポソームを得た。
DDとDOCAを併用して作製したインスリン充填リポソームの一部を実施例1に記載したようにタウロコール酸と共有結合させておいたコンドロイチン硫酸(CS−TCA,20mg/mL)と14,000rpmで30秒間混合し、CS−TCAで被覆したインスリン充填リポソームを得た。
3群のリポソームサンプルの概要を下表1に示す。
リポソーム溶液を20,000rpmで10分間遠心して得られた上清中でBCAタンパク質アッセイキットを使用して遊離インスリン濃度を測定した後に、タンパク質充填リポソームのタンパク質充填効率を求めた。インスリン充填効率は初期インスリン供給量に対してリポソーム内に封入されたインスリンの重量百分率と定義した。
CS又はCS−TCAで被覆したリポソームのインスリン充填効率は2時間処理後に40%超であり、ブランクリポソームのインスリン充填効率は4時間処理後に5%未満であった。リポソームのインスリン充填量をリポソーム内のインスリンの重量百分率比により計算した処、各リポソームで約8重量%であることが分かった。
粒径分布及びゼータ電位分析。He−Neレーザーを搭載したゼータサイザー3000機器(Malvern Instruments,米国)を使用し、波長633nmで散乱角を90°に固定してリポソーム(1mg/mL,PBS)の粒径分布を測定した。ゼータサイザー3000機器(Malvern Instruments,米国)を使用してリポソーム溶液(1mg/mL,PBS)のゼータ電位電荷を測定した。分析前に、リポソーム溶液を室温で2時間安定化させた。
タンパク質を充填したリポソームの粒径とゼータ電位を図28に示し、下表2にまとめる。
タンパク質放出。リポソームをPBS(1mg/mL,pH7.4,0.01%アジ化ナトリウム添加)に分散させ、透析膜バッグ(Spectra/Par(R)MWCO 3.5KDa)に加えた。透析膜バッグを密閉後、新鮮なPBS(10mL,150mM)を入れたバイアルに浸漬させた。37℃で機械的振盪(100rpm)によりリポソームからインスリン放出を誘導した。所定の時間間隔(0〜24時間)で透析膜バッグの外相を抽出し、新鮮な緩衝液に交換した。BCAタンパク質アッセイキットを使用して抽出溶液中のインスリン濃度を計算した。更に、4時間インキュベーション後にJ−815 CD分光光度計(Jasco International,英国)を使用して抽出溶液中のインスリンの円二色性(CD)分析を行い、インスリン安定性を評価した(n=3)。
タンパク質を充填した3種類のリポソームのpH7.4におけるインスリン放出量の経時変化を図29に示す。pH1.2の単一データ点(2時間後)も示す。図29のグラフから明らかなように、pH7.4でリポソームから放出される合計(累積)インスリン量は異なり、24時間後に無被覆のリポソームで放出される合計量は約75%であり、CSで被覆したリポソーム(胆汁酸なし)で同一時間内に放出される量は約70%であり、CS−TCAで被覆したリポソームで放出される量は約55%まで低下した。全リポソームは8時間以内にインスリンの大半を放出した。pH1.2のデータによると、全リポソームはインスリン充填量のうちの少量(約5〜15%)しか放出していないことから、胃の中のような低pH環境に暴露された場合にリポソームが一般に安定しており、保持しているタンパク質治療剤の有意量を失わないと判断される。
インビトロ細胞取込み。5%CO2雰囲気下で37℃の加湿標準インキュベーターにて1%ペニシリン−ストレプトマイシンと10%FBSを添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)でヒト上皮大腸腺癌細胞(caco−2細胞)を培養した。試験前に、単層として増殖させた細胞(1×105個/mL)を0.25%(wt/vol)トリプシン/0.03%(wt/vol)EDTA溶液でトリプシン処理により回収した。DMEMに懸濁したCaco−2細胞を各ウェルプレートに播種し、インビトロ細胞試験前に24時間培養した。(10μg/mLのインスリン−Ce6濃度に等価の量で提供し、4時間処理した)リポソームの細胞取込みをFACSCaliburフローサイトメーター(Becton Dickinson,米国)により計測した。更に、共焦点レーザー走査型顕微鏡を使用してインスリン−Ce6充填リポソームの蛍光によりリポソームの局在を試験した。
リポソームに暴露後の染色細胞の一連の顕微鏡写真である図30にこの試験の結果を示し、1段目は染色されたリポソームを示し、2段目はCe6標識インスリンからの蛍光シグナルを示し、最下段は1段目と2段目のオーバーレイを示す。最下段から明らかなように、対照サンプル(インスリンをリポソームに充填せずに投与した細胞)とDD0リポソームを投与した細胞には標識インスリンが殆ど存在しない。他方、コンドロイチン硫酸とCS−TCAで被覆したリポソームを投与した細胞には標識インスリンが存在している。リポソームを取込んだ細胞の解析を図31に示す。
インビボ臓器蓄積。6〜8週齢雌性BALB/cマウスでインビボ試験を実施した。Ce6で標識したインスリンを充填した3種類のリポソームをインスリン50IU/kgに等価の用量でマウスに経口投与した。別の群のマウスに遊離インスリン(リポソームなし)を同一用量で投与した。Cマウントレンズと長波発光フィルター(600〜700nm)を搭載した12ビットCCDカメラ(Image Station 4000MM;Kodak,New Haven,CT,米国)を使用し、投与時点(t=0)から24時間までのマウスのライブフォトルミネッセンス画像を得た。
生きたマウスに遊離インスリン(1列目)又は上記3種類のリポソームインスリン製剤(2〜4列目に指定)を投与してから1時間後、2時間後、4時間後、8時間後及び24時間後の顕微鏡写真を図32に示す。これらの写真から明らかなように、CS−TCAで被覆したリポソームを投与したマウスは最も強い蛍光シグナルを示し、この動物群に最大量の標識インスリンが存在すると判断され、CSで被覆したリポソームではシグナルが弱く、他の2群では著しく弱かった。
エクスビボ蛍光試験。注射から4時間後に一部のマウス(n=5)を屠殺し、摘出した臓器を調べた(心臓、肺、肝臓、腎臓、脾臓、十二指腸、空腸及び回腸)。これらの臓器の顕微鏡写真を図33に示す。臓器を回収し、0.3N HClを添加した70%エタノールに懸濁後、ホモジナイズし、標識インスリンを抽出した。遠心後、蛍光プレートリーダーを使用して上清中のCe6蛍光(410nm励起、670nm発光)を測定した。蛍光の強度を図34に示す。
図33に示すように、標識インスリンはCS及びCS−TCAで被覆したリポソームを投与したマウスの十二指腸と空腸に主に存在する。図34は分布をまとめたものであり、CS−TCAで被覆したリポソーム(各セットの一番右の棒)を投与したマウスにはCSで被覆したリポソーム(各セットの左から3番目の棒)よりも有意に多量の標識インスリンが存在することが明らかである。
血漿中濃度。心臓穿刺によりEDTA入り微量採血管に採血し、遠心して血漿を得た。血漿サンプルをフリーズドライ後、0.3N HClを添加した70%エタノールに溶解させ、Ce6標識を抽出した。上清中のCe6蛍光の強度を上記のように測定した(n=5)。Ce6蛍光は無傷のインスリン又はCe6標識を含む(消化後の)インスリン断片に由来すると思われる。
血漿データを図35に示す。CS−TCAで被覆したリポソーム(四角いマーカーを付けた一番上の線)を投与したマウスに由来する血漿は最高のインスリン濃度を示し、投与から約8時間後にピークが現れる。データによると、CSで被覆したリポソーム(逆三角形のマーカーを付けた上から2番目の線)を投与したマウスには無被覆のリポソーム(丸いマーカーのDD0と白いマーカーの遊離インスリン)のどちらを投与したマウスよりも多量の標識インスリンが存在する。
未修飾リポソームインスリンの薬理活性も試験した。ストレプトゾトシン(STZ,pH4.5の10mMクエン酸緩衝液に溶解)を75mg/kg体重の用量で3日間毎日腹腔内注射することにより雌性BALB/cマウス(各々約20〜30g)を糖尿病にした。STZ投与から約1週間後に空腹時血糖値が350mg/dLよりも高くなった時点でマウスが糖尿病になったとみなした。インスリンの投与前と投与後の種々の時間間隔でマウスの尾静脈から血液サンプルを採取した。すぐに血糖値測定器(ACCU−CHEK active,Roche Diagnostics)を使用して血糖値を測定した(n=5)。
マウスに体重1kg当たり50IU即ち20g当たり1IUの正規インスリンを経口投与した。マウスの血清中グルコース濃度の経時変化を図36に示す。CS−TCAで被覆したリポソーム(四角いマーカーを付けた一番下の線)を投与したマウスで最低且つ最も安定した濃度が認められ、投与後1時間以内に約100mg/dLまで低下し、一般に24時間維持された。CSで被覆したリポソーム(逆三角形のマーカーを付けた真ん中の線)を投与したマウスは血清中グルコース濃度が最初の1時間で先ず約150mg/dLまで低下したが、次の3時間で300mg/dL付近まで上昇した後、再び約150mg/dLまで低下し、24時間までに約200mg/dLまで漸増した。DD0(丸いマーカーを付けた一番上の線)を投与したマウスは血清中グルコース濃度が約250mg/dLまで若干低下し、CSで被覆したリポソームと同様に変動し、約250〜300mg/dLに維持された。
(II)リポソームドキソルビシン。
小分子治療剤試験用リポソーム製剤。ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(「DD」)をクロロホルムに溶解させ、溶媒をロータリーエバポレーターで除去し、フラスコの表面に薄膜を形成した。膜を120mM硫酸アンモニウムで再水和させ、30分間超音波処理した。遊離硫酸アンモニウムを純水で透析(MWCO1000)することにより除去した。
DDリポソームにドキソルビシン(DOX)を充填するために、以下に模式的に示すように硫化アンモニウム勾配を形成した。
勾配の形成後、リポソーム溶液とドキソルビシン(DOX)溶液を混合し、60℃でインキュベートした。過剰の遊離DOXを水で透析(MWCO1000)することにより除去した。最終的なDOX充填リポソームを凍結乾燥した。490nmでUV−Visによる測定に基づいてDOX濃度を計算し、下式:
経口製剤用として、ポロキサマー(40mg/mL)を添加したPBSに60℃にてDOX充填リポソームを溶解させた。100nm膜からリポソームを押出す前に押出機を60℃に自動温度調節した。サンプルを膜から10回押出した。押出後、経口投与用にリポソームをCS−TCA(1:1.5w/w%)で被覆した。
コンドロイチン硫酸と胆汁酸の共有結合体で被覆する前後に、リポソームインスリン製剤について記載したように粒径及びゼータ電位分析によりリポソームDOX粒子を特性解析した。データを表3に示す。
腫瘍をもつ動物モデルにおけるインビボ治療効果。遊離DOX、胆汁酸コーティングなしのカチオン性DOX充填リポソーム(「DOXリポソーム」)、及びCS−TCAコーティング付きアニオン性DOX充填リポソーム(「DL/CS−TCA」)のインビボ抗癌効果を異種移植マウスモデルで評価した。HT−29細胞(マウス1匹当たり1×10
7個)をNOD/SCIDマウス(n=3)の背中に皮下注射した。腫瘍サイズが約100〜150mm
3に達したら、PBS、遊離DOX10mg/kg、DOXリポソーム組成物としてのDOX10mg/kg、又はDL/CS−TCA組成物としてのDOX10mg/kgを2日毎に1回各マウスに経口投与した。2日毎に腫瘍サイズと体重を測定した。腫瘍体積をデジタルキャリパーで測定し、下式を使用して腫瘍体積を計算した。
腫瘍体積=(長さ×幅2)/2。各投与群の腫瘍体積の変化を図37に示す。12日目の一番上の線(黒丸)はPBS対照である。12日目の上から2番目の線(四角いマーカー)は遊離DOXである。これらの結果によると、遊離経口DOXは腫瘍体積減少に関して緩衝液よりも統計的に良好ではない。一番下の線(グレー丸)はCS−TCAコーティング付きアニオン性DOX充填リポソーム(「DL/CS−TCA」)を投与した動物の腫瘍体積の変化百分率であり、単回経口投与後12日間にわたってほぼ腫瘍体積の変化を示さない。下から2番目の線(菱形)は胆汁酸コーティングなしのカチオン性DOX充填リポソーム(「DOXリポソーム」)を投与した動物の腫瘍体積の変化百分率であり、これらの腫瘍は12日間で約200%増加する。
図38は投与群の動物の相対体重の変化を示す。遊離DOX群の体重は12日間で若干減少するようであるが、その他の投与群はこの期間にわたって自己の体重を維持するか又は若干増加する。
本願に開示する実験は高感度緑色蛍光タンパク質(eGFP)、エキセンジン−4及びGLP−1をコードするプラスミドDNAの経口投与によるマウスへの送達を含む。先ずプラスミドDNAをカチオン性分岐鎖ポリエチレンイミン(bPEI)と複合体化させ、カチオン性複合体とした。次にヘパリンと共有結合させたタウロコール酸(TCA)で前記複合体を被覆し、粒径約100〜約200nmの粒子とした。DNAを内包させた粒子を経口投与すると、動物で前記DNAの産物が発現することが分かった。
DNA以外に、インスリン等のタンパク質をプロタミン等のカチオン性ポリマーと結合してカチオン性粒子を形成することもできる。前記カチオン性粒子をヘパリン−TCAで被覆し、数ミクロンのオーダーの寸法の粒子とすることができる。このような粒子はアニオン性となり、血糖値を下げるために使用することができる。
経口投与後のバイオアベイラビリティが不良な小分子薬であるドキソルビシンを胆汁酸で包囲した粒子として製剤化して送達することに成功した。ドキソルビシンをコンドロイチン硫酸と複合体化することにより形成されたアニオン性粒子をε−ポリ(L−リジン)で被覆し、カチオン性複合体とした。次に前記粒子をヘパリン−TCAで被覆した。これらの粒子を経口投与すると、正常なマウスで有意な血漿中ドキソルビシン濃度を示した。2種類の代表的な治療剤である小分子薬(ドキソルビシン)とタンパク質(インスリン)により、胆汁酸を含有する製剤におけるリポソームの使用も実証された。
参考文献
本発明の種々の特徴と利点を以下の特許請求の範囲に記載する。