JP2020097531A - Glp−1分泌促進剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】 本発明は、GLP−1分泌促進剤に関する。【解決手段】 本発明のGLP−1分泌促進剤は、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、パントテン酸、コール酸、3−アミノイソ酪酸、γ−アミノ酪酸、2−アミノ酪酸、ピペコリン酸、オルニチン、シトルリン、チロシンメチルエステル、ピペリジン、タウリン、ピリドキサール、ピリドキサミン、ピリドキシン、サルコシン、N,N−ジメチルグリシン、シトシン、1,3−ジアミノプロパン、ニコチン酸、インドール−3−アセトアミド、D−アラニン、5−ヒドロキシリシン、1−メチルニコチナミド、チアミン、カルニチン、グルコン酸、プロスタグランジンE2、メチオニンスルホキシド、スペルミジン及びスペルミン、からなる群から選択される、1またはそれ以上の化合物を含む。【選択図】 なし

Description

GLP−1分泌促進剤、GLP−1分泌促進剤を含む組成物、及び、GLP−1分泌促進剤を含む飲食品、に関する。
GLP−1
腸管には、消化管ホルモンを分泌する内分泌細胞が存在し、他の臓器の機能を調節する。腸管内分泌細胞から分泌される消化管ホルモンの一部は、インクレチンとも呼ばれ、食事摂取に伴い血中に分泌され、膵臓のβ細胞(以下、「膵β細胞」)に作用し、インスリン分泌を促進する。このインクレチンは、インスリン分泌を促進するだけでなく、膵β細胞の再生を促し、また迷走神経を介して中枢神経系にも作用し、摂食行動を抑制するため、糖尿病や肥満症の新規治療薬開発のための標的として注目されている。
インクレチンには、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(glucose−dependent insulinotropic peptide;GIP)とグルカゴン様ペプチド−1(glucagon−like peptide−1;GLP−1)の2種類が存在する。
GLP−1は下部小腸に存在する小腸内分泌L細胞(以下、「L細胞」)から分泌される。L細胞は、小腸粘膜の基底膜側と小腸管腔側の両方に面しており、「開放型」内分泌細胞と呼ばれる。L細胞には、ナトリウム依存性グルコーストランスポーターが存在し、細胞外、つまり管腔内のグルコースとナトリウムを細胞内へ共輸送する。その結果、膜電位が脱分極し、電位依存性L型Ca2+チャネルが活性化する。この電位依存性L型Ca2+チャネルから細胞内へCa2+が流入することにより、GLP−1がグルコース依存的に開口放出される。さらにL細胞には、Gタンパク質共役受容体(G protein−coupled receptor; GPCR)の脂肪酸受容体、胆汁酸受容体、甘味受容体が発現しており、管腔内の脂質、胆汁酸、グルコースを感受することで、GLP−1を開口放出する、と考えられている。しかしながら、詳細については不明である。
糖尿病
糖尿病とは、血糖値やヘモグロビンA1c(HbA1c)値が一定の基準を超えている状態を指す疾患で、国が医療対策において特に重点をおいている疾病の一つである。1型糖尿病では膵臓のβ細胞が何らかの理由によって破壊されることで、血糖値を調節するホルモンの一つであるインスリンが枯渇してしまい、高血糖、糖尿病へと至る。2型糖尿病は、肥満などを原因として、膵臓のランゲルハンス島(膵島)にあるβ細胞からのインスリン分泌量が減少し、筋肉、脂肪組織へのグルコースの取り込み能が低下(インスリン抵抗性が増大)し、結果として血中のグルコースが肝臓や脂肪組織でグリコーゲンとして貯蔵されず、血中濃度が正常範囲を逸脱して高い血糖値となり、高血糖症、インスリン抵抗性、相対的インスリン不足が特徴の長期的代謝異常である。
糖尿病は、口渇や多飲等の高血糖自体による症状をおこすこともあるが、真に問題となるのは、様々な合併症である。合併症としては、糖尿病神経障害、糖尿病網膜症、および糖尿病腎症が知られており、糖尿病治療の主な目的は、それら合併症を防ぐことにあるともいえる。
糖尿病の治療法としてはインスリン注射が知られているが、これは侵襲性が高く患者の負担が大きい。そのため、服用の負担が少ない様々な経口の糖尿病治療薬が開発されてきた。これまでに、GLP−1等のインスリン分泌促進剤、スルホニルウレア剤、グルコーストランスポーター(GLUT)阻害剤等の薬剤が開発されていた。しかし、副作用の問題や、常用による効果の低減等の問題があった。また、インスリン過剰分泌による低血糖等が問題となっており、そのような問題を解決する医薬の開発が望まれていた。
特開2016−138045は、式(I)の特定の構造を有する化合物を含むGLP−1分泌促進剤を記載している。
特開2016−138045
実験医学 Vol.35、No.2(増刊) 2017、p.106−110 Scientific Reports 2:233、2012
本発明は、種々のGLP−1分泌促進剤、並びに、GLP−1分泌促進剤を含む組成物、及び、GLP−1分泌促進剤を含む飲食品を提供することを目的とする。
小腸内分泌L細胞は、小腸を構成する細胞のうち数%ほどしか存在しないため、単離精製し初代培養することが難しい。本発明者らは、GLP−1分泌能を持つ、マウス由来小腸内分泌L細胞株のGLUTag細胞、及び、マウス小腸内分泌細胞癌由来のSTC−1細胞を解析に用い、多種多様な物質について、GLP−1分泌促進を調べ、種々のGLP−1分泌促進剤を見出して、本発明を想到した。
限定されるわけではないが、本発明は以下の態様を含む。
[態様1]
プロピオン酸、酪酸、吉草酸、パントテン酸、コール酸、3−アミノイソ酪酸、γ−アミノ酪酸、2−アミノ酪酸、ピペコリン酸、オルニチン、シトルリン、チロシンメチルエステル、ピペリジン、タウリン、ピリドキサール、ピリドキサミン、ピリドキシン、サルコシン、N,N−ジメチルグリシン、シトシン、1,3−ジアミノプロパン、ニコチン酸、インドール−3−アセトアミド、D−アラニン、5−ヒドロキシリシン、1−メチルニコチナミド、チアミン、カルニチン、グルコン酸、プロスタグランジンE2、メチオニンスルホキシド、スペルミジン及びスペルミン、からなる群から選択される、1またはそれ以上の化合物を含む、GLP−1分泌促進剤。
[態様2]
態様1に記載のGLP−1分泌促進剤を含む、インスリン分泌促進用組成物。
[態様3]
態様1に記載のGLP−1分泌促進剤を含む、血糖値低下用組成物。
[態様4]
態様1に記載のGLP−1分泌促進剤を含む、糖尿病の予防用組成物又は治療用組成物。
[態様5]
態様1に記載のGLP−1分泌促進剤を含む、肥満の予防用組成物又は改善用組成物。
[態様6]
態様1に記載のGLP−1分泌促進剤を含む、食欲を抑制するための組成物。
[態様7]
態様1に記載のGLP−1分泌促進剤を含む、飲食品。
本発明で見出された物質は、非限定的に、〜μMから〜mM程度で、GLP−1分泌作用を奏するものである。
1.GLP−1分泌促進剤
本発明は、一態様において、GLP−1分泌促進剤に関する。
前記GLP−1分泌促進剤は、非限定的に、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、パントテン酸、コール酸、3−アミノイソ酪酸、γ−アミノ酪酸、2−アミノ酪酸、ピペコリン酸、オルニチン、シトルリン、チロシンメチルエステル、ピペリジン、タウリン、ピリドキサール、ピリドキサミン、ピリドキシン、サルコシン、N,N−ジメチルグリシン、シトシン、1,3−ジアミノプロパン、ニコチン酸、インドール−3−アセトアミド、D−アラニン、5−ヒドロキシリシン、1−メチルニコチナミド、チアミン、カルニチン、グルコン酸、プロスタグランジンE2、メチオニンスルホキシド、スペルミジン及びスペルミン、からなる群から選択される、1またはそれ以上の化合物を含む。これらの物質を例えばカプセル等の担体を入れて生体に経口投与する態様、あるいは、これらの物質の前駆体を生体に経口投与し、腸内細菌にこれらの物質を産生させる態様、も、前記GLP−1分泌促進剤に含まれる。
前記GLP−1分泌促進剤は、上記化合物の1つからなってもよいし、あるいは2以上の混合物であってもよい。上記化合物はいずれも単独でも、GLP−1分泌促進能を有する。また、腸内細菌により産生されるものも含む。
「GLP−1」は、「グルカゴン様ペプチド−1」の略語である。GLP−1は、主に、小腸内分泌L細胞により生成される、消化管ペプチドホルモンである。産生細胞において、プレプログルカゴンからGLP−1(1−37)として切り出される。N−末端側のアミノ酸が切断され、GLP−1(7−37)およびGLP−1(7−36)アミドとなり、これが強い生理活性有する。本明細書において、「GLP−1」と記載した場合、GLP−1(1−37)、生理活性を有するGLP−1(7−37)およびGLP−1(7−36)の全て、あるいは、いずれか1つを意味する。GLP−1は、膵β細胞に作用し、インスリン分泌を増大し、グルカゴン分泌を減少させる。インスリンの分泌増大により、胃における酸分泌および胃内容排出が阻害され、満腹度を増加することにより食物摂取を減少させる。
「GLP−1分泌促進」とは、前記GLP−1分泌促進剤を存在しない場合よりも、存在する場合の方が、GLP−1分泌細胞からのGLP−1の分泌が促進されることを意味する。GLP−1分泌促進剤を存在しない場合は、GLP−1分泌細胞からのGLP−1の分泌が検出されなかったが、GLP−1分泌促進剤の存在により検出できるようになる場合も含む。好ましくは、非限定的に、GLP−1分泌促進剤を存在しない場合と比較して、GLP−1の分泌が1.05倍以上、1.1倍以上、1.2倍以上、1.5倍以上、1.8倍以上、2倍以上、2.5倍以上、3倍以上、3.5倍以上、4倍以上、5倍以上となる。
2.GLP−1分泌促進剤を含む組成物
本発明は、一態様において、本発明のGLP−1分泌促進剤を含む組成物に関する。本発明の組成物は、非限定的に、「インスリン分泌促進」、「血糖値低下」、「糖尿病の予防又は治療」、「肥満の予防用又は改善」、「食欲の抑制」の1つまたは複数の用途を有しうる。「GLP−1分泌促進剤」の意義は、「1.GLP−1分泌促進剤」の項目に記載した通りである。本発明の組成物は、医薬組成物であっても、食品組成物であってもよい。食品組成物には、通常の飲食品の他に、調味料、サプリメント等の態様も含む。
一態様において、本発明は、本発明のGLP−1分泌促進剤を含む、インスリン分泌促進用組成物、に関する。
「インスリン」という用語は、グルコース代謝を調節するポリペプチドホルモンである。インスリンは、インスリン感受性細胞のインスリン受容体に結合し、グルコース摂取を媒介する。インスリンは、1型糖尿病を治療するために使用され、2型糖尿病を治療するためにも使用される場合がある。
「インスリン分泌促進」とは、前記GLP−1分泌促進剤を存在しない場合よりも、存在する場合の方が、膵臓のランゲルハンス島(膵島)にあるβ細胞からのインスリンの分泌が促進されることを意味する。GLP−1分泌促進剤を存在しない場合は、β細胞からのインスリンの分泌が検出されなかったが、GLP−1分泌促進剤の存在により検出できるようになる場合も含む。好ましくは、非限定的に、GLP−1分泌促進剤を存在しない場合と比較して、インスリンの分泌が1.05倍以上、1.1倍以上、1.2倍以上、1.5倍以上、1.8倍以上、2倍以上、2.5倍以上、3倍以上、3.5倍以上、4倍以上、5倍以上となる。
GLP−1はグルコース依存性のインスリン分泌を促進し血糖値を低減させることが知られており、前記GLP−1分泌促進剤は、インスリン分泌不足、GLP−1分泌不足または高血糖と関連する種々の疾患に対する医薬として用いることができる。当該疾患としては、たとえば、糖尿病、肥満、高血圧、高脂血症等が挙げられる。
一態様において、本発明は、本発明のGLP−1分泌促進剤を含む、血糖値低下用組成物、に関する。
「血糖値低下用組成物」とは、当該組成物を投与した場合、投与しない場合と比べて、血糖値が低下する(あるいは上昇を抑制する)作用を有する組成物をいう。血糖値とは血液内のグルコース(ブドウ糖)の濃度である。ヒトの場合、空腹時血糖値はおおよそ80−120mg/dLであるが、食品の摂取により若干増加し、約20分−40分後には、健常者で最高で120−200mg/dLくらいまで上昇する。そして、健常者の場合、食品摂取後120分以内に空腹時血糖値レベルまで低下する。本発明において、「血糖値が低下する(あるいは上昇を抑制する)」とは、食品の摂取による血糖値上昇の最高値が減少する、摂取後の最高血糖値と空腹時血糖値との差(食品の摂取による血糖値上昇の最高値−空腹時血糖値)が減少する、血糖値上昇が緩やかになる、血糖値上昇後、空腹時の血糖値レベルに下がるまでの時間が短くなる、などを意味する。
「食品の摂取による血糖値上昇の最高値が減少する」とは、非限定的に、当該組成物を投与した場合、投与しない場合と比べて、上昇した血糖値の最高値が低下すること、好ましくは1mg/dL以上、5mg/dL以上、10mg/dL以上、20mg/dL以上、30mg/dL、40mg/dL以上低下することを意味する。
「摂取後の最高血糖値と空腹時血糖値との差(食品の摂取による血糖値上昇の最高値−空腹時血糖値)が減少する」とは、非限定的に、当該組成物を投与した場合、投与しない場合と比べて、「食品の摂取による血糖値上昇の最高値−空腹時血糖値」が減少すること、好ましくは1mg/dL以上、5mg/dL以上、10mg/dL以上、20mg/dL以上、30mg/dL、40mg/dL以上減少することを意味する。
「血糖値上昇後、空腹時の血糖値レベルに下がるまでの時間が短くなる」とは、非限定的に、当該組成物を投与した場合、投与しない場合と比べて短くなること、好ましくは1分以上、5分以上、10分以上、20分以上、30分以上短くなる、60分以上短くなる、ことを意味する。
一態様において、本発明は、本発明のGLP−1分泌促進剤を含む、糖尿病の予防用組成物又は治療用組成物、に関する。糖尿病は、1型糖尿病、2型糖尿病のいずれも対象となりうる。糖尿病は、例えば、国立国際医療研究センター病院発行の糖尿病標準診療マニュアルにおいて定義される糖尿病診断基準等により診断することができる。前記GLP−1分泌促進剤は、糖尿病と診断された患者だけでなく、血糖値が高めで糖尿病が疑われる患者にも、予防の意味で投与することが可能である。
一態様において、本発明は、本発明のGLP−1分泌促進剤を含む、肥満の予防用組成物又は改善用組成物、に関する。肥満とは、一般的に、正常な状態に比べて体重が多い状況、あるいは、体脂肪が過剰に蓄積した状態を意味する。体重や体脂肪の増加に伴った症状の有無は問わない。
一態様において、本発明は、本発明のGLP−1分泌促進剤を含む、食欲を抑制するための組成物、に関する。
前記GLP−1分泌促進剤を含む組成物の剤形は特に限定されず、治療目的に応じて適宜選択できる。具体的には、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、坐剤、注射剤、貼付剤等が挙げられる。
前記GLP−1分泌促進剤を含む組成物は、上記特定した物質以外の有効成分を含有していてもよい。たとえば、SU剤等のインスリン分泌促進剤、DPP−4阻害剤、糖吸収遅延剤、またはインスリン抵抗性改善剤等を、上記特定した物質と共に1つの剤に含めてもよいし、両者を別々の剤に配合したものを1つのキットとしてもよい。

また、前記GLP−1分泌促進剤を含む組成物の製剤化の際、非限定的に、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、保存剤、矯味矯臭剤、希釈剤等の製剤化に必要な添加剤を加えてもよい。
前記GLP−1分泌促進剤を含む組成物、例えば、医薬品の分野の標準的技法に従って、処方することが可能である。例えば、Alphonso Gennaro,ed.,Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Ed.,(1990)Mack Publishing Co.,Easton,Paを参照。
前記GLP−1分泌促進剤を含む組成物の投与方法は、特に限定されず、経口的投与、非経口投与の何れであってもよい。また、本発明の剤の投与量は、患者の症状、体重、年齢、性別等に応じて決定されるが、一般的には、有効成分量として成人一日あたり1μg/kgから1000mg/kg程度の範囲であり、好ましくは、10μg/kgから100mg/kg程度の範囲、さらに好ましくは100μg/kgから100mg/kg程度の範囲である。 3.飲食品
本発明は、一態様において、本発明のGLP−1分泌促進剤を含む、飲食品、に関する。
前記GLP−1分泌促進剤は、任意の食品又は飲料に添加することが可能であり、食品又は飲料の種類は特に限定されない。
「食品」は、和食、洋食、中華、アジア料理等、あらゆる食品に使用可能である。例えば、和え物、炒め物、煮物、ご飯物、汁物、パスタソース、鍋物、スープ、シチュー等々である。
「飲料」には、例えば、乳飲料、缶入りなどの飲料用スープ、ヨーグルト、豆乳、スポーツ飲料、果汁飲料、酒類、紅茶、コーヒー、緑茶、ココア等が含まれる。
非限定的に、前記GLP−1分泌促進剤を、醤油、ソース、つゆ、みりん、料理酒等の、調味料に含ませてもよい。
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
特に記載しない限り、実施例は、以下の材料及び手法によって行った。
細胞培養
マウス由来小腸内分泌L細胞株であるGLUTag細胞は、カナダトロント大学のDaniel J. Drucker教授から譲り受けた。GLUTag細胞は100mmディッシュで培養し、1000mg/Lグルコース、584mg/LL−グルタミン、3.7g/L炭酸水素ナトリウム、110mg/Lピルビン酸ナトリウム入りのダルベッコ改変イーグル培地(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社、東京、日本)に、非働化した10%ウシ胎児血清(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社、東京、日本)、100U/mLペニシリン・0.1mg/mLストレプトマイシン(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社、東京、日本)を添加したものを培養液として用いた。37℃、5% CO下で培養し、100mmディッシュの80%〜90%まで細胞が増殖した際にトリプシン処理をして、継代を行った。
マウス由来GLP−1産生内分泌細胞株であるSTC−1細胞は米国カリフォルニア大学(現スイス癌研究所)のDouglas Hanahan博士から寄贈して頂いた。STC−1細胞は100mmディッシュで培養し、4500mg/Lグルコース、584mg/L L−グルタミン、3.7g/L 炭酸水素ナトリウム、110mg/L ピルビン酸ナトリウム入りのダルベッコ改変イーグル培地(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社、東京、日本)に、非働化した10%ウシ胎児血清(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社、東京、日本)、100U/mL ペニシリン、0.1mg/m Lストレプトマイシン(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社、東京、日本)を添加したものを培養液として用いた。37℃、5% CO下で培養し、100 mmディッシュの80%〜90%まで細胞が増殖した際にトリプシン処理をして、継代を行った。
試薬
GLUTag細胞で実験を行う際は、試験に供する各種物質を、後述のグルコース入りのイメージング記録用溶液に溶解した。
STC−1細胞で実験を行う際は、試験に供する各種物質を、後述のグルコース入りのイメージング記録用溶液に溶解した。
試験に供した各種物質は、いずれも腸内細菌に生成されていることが確認されている物質である(Matsumoto et al.,Scientific Reports 2:233、2012)。
実施例1 カルシウム 2+ イメージングによるGLP−1分泌の測定
本実施例では、GLUTag細胞またはSTC−1細胞を、各種物質を含む刺激溶液を添加した培養液中で培養し、カルシウム2+イメージングによりGLP−1分泌を観察した。
(1)カルシウム指示薬の導入
ガラスボトムディッシュのカバーガラス上に、細胞を定着させるため、カバーガラスをポリL−リジン(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社、東京、日本)でコートした。15分間UV投射した35mmガラスボトムディッシュのカバーガラス上に、1mg/mL PポリL−リジン(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社、東京、日本)を200μL滴下し、30分間静置し、リン酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffered Saline:PBS)で3回洗浄した。
その後、GLUTag細胞の懸濁液をカバーガラス上に滴下し、2mL培養液中で2日間培養した。STC−1細胞の懸濁液も同様にカバーガラス上に滴下した後、2mL培養液中で2日間培養し、イメージングを行う前日に4500 mg/Lグルコース入りの培養液2mLに交換した。
GLUTag細胞は培養後、5mMグルコース入りのイメージング記録用溶液(140mM NaCl、3.6mM KCl、0.5mM NaHPO、0.5mM MgSO、1.5mM CaCl、10mM HEPES、2mM NaHCO)で細胞培養ディッシュを2回洗浄した。そして、5mM グルコース入りのイメージング記録用溶液1mLに、細胞内カルシウム 2+ 濃度変化を蛍光強度変化として可視化解析するための蛍光指示薬Fluo4−AM(同仁堂、熊本、日本)を250 nMとなるように加え、37℃、5% CO下で20分間インキュベートした。STC−1細胞は培養後、2.2mMグルコース入りのイメージング記録用溶液で細胞培養ディッシュを2回洗浄した。そして、2.2mM グルコース入りのイメージング記録用溶液750μLに、Fluo4−AMを2.5μMとなるように加え、37℃、5% CO下で20分間インキュベートした。
(2)倒立顕微鏡によるイメージング
Fluo4−AMを導入したGLUTag細胞の培養ディッシュを、0.1mMグルコース入りのイメージング記録用溶液で2回洗浄した。その後、0.1mMグルコース入りのイメージング記録用溶液1.9mLに置換して、観察を行った。Fluo4−AMを導入したSTC−1細胞の培養ディッシュは、2.2mMグルコース入りの記録用溶液で2回洗浄し、2.2mM グルコース入りの記録用溶液2mLに置換して、観察を行った。
プトレシン、スペルミジン、スペルミンで刺激を行う際の撮影は5秒ごと20分間行い、撮影開始3分後から刺激溶液を還流した。その他の物質で刺激を行う際の撮影は5秒ごと10分間行い、撮影開始3分後に刺激溶液100μLを直接滴下し、倒立顕微鏡でFluo4−AM由来の蛍光を測定した。滴下後に条件の濃度になるように、刺激溶液は条件の20倍の濃度に調整した。
観察の際には、倒立顕微鏡(Axio Observer D1,Carl Zeiss,Oberkochen,Germany)、またはIX71倒立顕微鏡(オリンパス株式会社、東京、日本)を用いた。前者の顕微鏡では、励起光に水銀ランプ(HBO100, Carl Zeiss)を用い、青励起にBP470/40の励起フィルターとFT495のダイクロイックミラーのセット(B38−HE,Carl Zeiss)を用い、カメラ(ORCA−Flash4.0V2,C11440,浜松ホトニクス株式会社、静岡、日本)を用いて撮影した。対物レンズは開口数1.00の油浸40倍レンズ(UPlanApo,オリンパス)を用いた。IX71倒立顕微鏡では、キセノンランプ(オリンパス)を用いて励起し、蛍光フィルターを通して、Evolve EM−CCDカメラ(Photometrics, Tuscon, Arizona, USA)で撮影し、対物レンズは開口数1.35の油浸40倍(オリンパス)を用いた。
(結果)
倒立顕微鏡によるイメージングの結果、刺激溶液投与後の各細胞の細胞内カルシウム 2+ 濃度変化率の最大値と記録溶液投与後の各細胞の細胞内カルシウム 2+ 濃度変化率の最大値を統計解析により比較し、有意な差がみられた物質については、GLP−1の分泌を誘導した(+)、有意な差がみられなかった物質については、GLP−1の分泌を誘導しない(−)、と判断した。結果を表1に示す。
表1に示した通り、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、パントテン酸、コール酸、3−アミノイソ酪酸、γ−アミノ酪酸、2−アミノ酪酸、ピペコリン酸、オルニチン、シトルリン、チロシンメチルエステル、ピペリジン、タウリン、ピリドキサール、ピリドキサミン、ピリドキシン、サルコシン、N,N−ジメチルグリシン、シトシン、1,3−ジアミノプロパン、ニコチン酸、インドール−3−アセトアミド、D−アラニン、5−ヒドロキシリシン、1−メチルニコチナミド、チアミン、カルニチン、グルコン酸、プロスタグランジンE2、メチオニンスルホキシド、スペルミジン及びスペルミンの各種物質が、μM〜mM程度の濃度で、GLP−1の分泌誘導効果を示す細胞内Ca2+濃度上昇が見出された。
実施例2 酵素免疫定量によるGLP−1分泌量の測定
本実施例では、GLUTag細胞またはSTC−1細胞を、各種物質を含む刺激溶液を添加した培養液中で培養し、酵素免疫定量法(ELISA)によりGLP−1濃度を測定し、GLP−1分泌の促進を定量した。
(実施例2−1) GLUTag細胞におけるGLP−1分泌の測定
GLUTag細胞を用いる際は24ウェルプレートに1ウェル1.0×10個となるように細胞を撒き、培養液中で37℃、5% CO下で2日間インキュベートした。2日後、各ウェルを0.1mMグルコース入りのイメージング記録用溶液で2回洗浄し、実施例1で用いた物質のうち、GLP−1の分泌誘導効果を示す細胞内Ca2+濃度上昇が見られた物質、すなわち表1で(+)の物質の含まれた刺激溶液を500μL加え、培養液中で37℃、5% CO下で30分間インキュベートした。
その後、細胞培養液を全量1.5mLチューブに移し、1000×g、4℃で10分間遠心後、上清を0.1mMグルコース入りのイメージング記録用溶液で2倍希釈した。希釈溶液のGLP−1濃度をGLP−1(7−36) Active ELISA Kit (Merck Millipore, Darmstadt, Germany)およびVarioskan LUX(ThermoFisher SCIENTIFIC, Massachusetts, America)を用いて測定した。
(実施例2−1) STC−1細胞におけるGLP−1分泌の測定
STC−1細胞を用いる際は6ウェルプレートに1ウェル1.0×10個となるように細胞を撒き、培養液中で37℃、5% CO下で2日間インキュベートした。前日に 1000 mg/Lグルコース入りの培養液に交換した。各ウェルを2.2mM グルコース入りのイメージング記録用溶液で2回洗浄し、各条件に対応する刺激溶液を1mL加え、培養液中で37℃、5% CO下で120分間インキュベートした。その後、細胞培養液を全量1.5mLチューブに回収し、1000×g、4℃で10分間遠心後、そのGLP−1濃度をGLP−1 ELISAキットワコー、高感度品(富士フィルム和光純薬株式会社、大阪、日本)およびVarioskan LUXを用いて測定した。
結果
GLUTag細胞またはSTC−1細胞を、各種物質を含む刺激溶液を添加した培養液中で培養し、酵素免疫定量法(ELISA)によりGLP−1濃度を測定した結果、非限定的に、少なくとも、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、パントテン酸、コール酸、タウリン、ピリドキサミン、スペルミジン、スペルミンの各種物質が、μM〜mM程度の濃度で、GLP−1分泌を誘導または促進した。

Claims (7)

  1. プロピオン酸、酪酸、吉草酸、パントテン酸、コール酸、3−アミノイソ酪酸、γ−アミノ酪酸、2−アミノ酪酸、ピペコリン酸、オルニチン、シトルリン、チロシンメチルエステル、ピペリジン、タウリン、ピリドキサール、ピリドキサミン、ピリドキシン、サルコシン、N,N−ジメチルグリシン、シトシン、1,3−ジアミノプロパン、ニコチン酸、インドール−3−アセトアミド、D−アラニン、5−ヒドロキシリシン、1−メチルニコチナミド、チアミン、カルニチン、グルコン酸、プロスタグランジンE2、メチオニンスルホキシド、スペルミジン及びスペルミン、からなる群から選択される、1またはそれ以上の化合物を含む、GLP−1分泌促進剤。
  2. 請求項1に記載のGLP−1分泌促進剤を含む、インスリン分泌促進用組成物。
  3. 請求項1に記載のGLP−1分泌促進剤を含む、血糖値低下用組成物。
  4. 請求項1に記載のGLP−1分泌促進剤を含む、糖尿病の予防用組成物又は治療用組成物。
  5. 請求項1に記載のGLP−1分泌促進剤を含む、肥満の予防用組成物又は改善用組成物。
  6. 請求項1に記載のGLP−1分泌促進剤を含む、食欲を抑制するための組成物。
  7. 請求項1に記載のGLP−1分泌促進剤を含む、飲食品。
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