JP2018167298A - Fe−Si−B系ナノ結晶合金の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 高Bs特性が得られる高Fe含有濃度域にて量産性に優れたFe-Si-B系ナノ結晶合金の製造方法の提供を目的とする。【解決手段】 鉄(Fe)、硼素(B)およびケイ素(Si)を必須とするFe-Si-B系の合金溶湯を用意し、ロール表面速度13m/sec以上100m/sec以下にて回転する金属製の冷却ロール表面上において前記合金溶湯を急冷し、アモルファス組織を90体積%以上含む急冷凝固合金を作製した後、前記急冷凝固合金を1℃/秒以上、200℃/秒以下の昇温速度にて結晶化温度以上750℃以下の一定温度域に到達させて、0.1秒以上10分以下の時間放置した後に急冷する熱処理方法を施すことによって、平均結晶粒径50nm以下のα-Fe相とその粒界に存在するアモルファス相からなる保磁力Hcが150A/m以下のFe-Si-B系ナノ結晶合金を製造する。【選択図】 図1
Description
本発明は、Fe-Si-B系ナノ結晶合金薄帯の製造方法に関する。
近年、電子部品として使用されるインダクタやリアクトルといった各種受動素子やトランス向けに鉄損が低く飽和磁束密度Bsが高い材料が市場から求められており、透磁率が高く、鉄損が低い軟磁性材料として鉄基アモルファス材料や、同じく鉄基のナノ結晶材料といった鉄(Fe)、硼素(B)、ケイ素(Si)を主原料とする溶湯急冷凝固により作製される厚み17μmから22μm程度のFe-Si-B系急冷凝固合金薄帯が従来のケイ素鋼板に代わる高性能高効率軟磁性材料として大型トランス等に巻鉄心として使用され需要が年々拡大している。
非特許文献1ではケイ素鋼並みの飽和磁束密度Bsを得るため、高Fe濃度の合金組成にした場合、溶湯急冷凝固後に得られるアモルファス相中に粗大なα-Feが生成されるため軟磁気特性の低下を招来するため、通常Nb、Zrと言ったアモルファスフォーマとなる元素を添加するがNb、Zr等の添加によりBsが低下するという問題が発生する。そこで、Nb、Zrと言ったアモルファスフォーマ―を廃し、Feが 85原子%と高い組成でもリン(P)を4原子%、銅(Cu)を1原子%添加することにより、粗大なα-Feがアモルファス中に生成することを抑制し、α-Feの結晶サイズを約 50nm から 3nm 以下まで劇的に微細化することが出来ることが開示されているが、P添加自体もBsの低下を招来するだけでなく、P添加系合金は合金溶解時にP成分が揮発し炉内汚染が著しいことから未だ産業分野での応用例は少ない。
特許文献1では、一般式:(Fe1-aMa)100-x-y-z-b-c-dAxM'yM''zXbSicBd(原子%)(式中MはCo,Niから選ばれた少なくとも1種の元素を、AはCu,Auから選ばれた少なくとも1種の元素、M'はTi,V,Zr,Nb,Mo,Hf,TaおよびWから選ばれた少なくとも1種の元素、M''はCr,Mn,Sn,Zn,Ag,In,白金属元素,Mg,Ca,Sr,Y,希土類元素,N,OおよびSから選ばれた少なくとも1種の元素、XはC,Ge,Ga,AlおよびPから選ばれた少なくとも1種の元素を示し、a,x,y,z,b,cおよびdはそれぞれ0≦a≦0.1、0.1≦x≦3、1≦y≦10、0≦z≦10、0≦b≦10、11≦c≦17、3≦d≦10を満たす数である。)で表される合金溶湯を用意し、本合金溶湯を溶湯急冷凝固法によりアモルファス合金にした後、アモルファス合金の結晶化温度以上で0分間〜30分間一定温度で保持する間に30秒〜20分間磁場中熱処理を施した後、平均冷却速度10℃/min以上で400℃まで冷却することで、平均結晶粒径が30nm以下である結晶粒が組織の少なくとも一部を占め、比初透磁率が70000以上、角形比が30%以下であるナノ結晶合金が得られることを開示している。本発明の実施例では、アモルファスフォーマであるNbを2〜5原子%添加されており、Nb、Cuを必須とする合金組成による対策にてα-Fe相のナノ結晶化を実現しており高Bsを得ることが難しい。
特許文献2では、Cu元素を含み平均粒径が50nm以下の結晶粒が少なくとも一部に存在するナノ結晶軟磁性合金において、前記合金の表面から2nmよりも深い位置にCu元素が偏析するCu偏析部が存在し、前記Cu偏析部のCu濃度の最大値が6原子%以下であることを特徴とし、熱による影響を受けにくく良好な磁気特性が安定して得られるナノ結晶軟磁性合金が開示されているが、実施例におけるアモルファスフォーマとなる添加元素M(MはTi、V、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選ばれた少なくとも1種の元素)を1.5原子%以上添加されており、特許文献2と同様、高Bsが得られる高Fe合金組成にすることが難しいと判断される。
特許文献3では、組成式FeaBbSicPxCyCuzの合金組成物であり、組成式の各パラメータは次の条件を満たす。79≦a≦86原子%;5≦b≦13原子%;0<c≦8原子%;1≦x≦8原子%;0≦y≦5原子%;0.4≦z≦1.4原子%及び0.08≦z/x≦0.8。又は、パラメータが次の条件を満たす。81≦a≦86原子%;6≦b≦10原子%;2≦c≦8原子%;2≦x≦5原子%;0≦y≦4原子%;0.4≦z≦1.4原子%及び0.08≦z/x≦0.8を満たす合金組成において鉄基のナノ結晶材料が得られることが開示されているが、非特許文献1と同様にP添加を特徴としており、産業分野での応用例は少ない。
特許文献4では、流下する溶融金属流に、溶融金属流分断用噴射水を噴射し、該溶融金属流を分断して多数の溶融金属の液滴とし、冷却して水アトマイズ金属粉末とする水アトマイズ金属粉末の製造方法において、分断された前記溶融金属の液滴に、その落下途中で、前記溶融金属流分断用噴射水の温度より低い温度に調整された二次冷却噴射水を噴射する二次冷却を施すことを特徴とする水アトマイズ金属粉末に400〜500℃の範囲内の温度に加熱する熱処理を施してナノ結晶構造を有する水アトマイズFe基軟磁性合金粉末を得る方法が開示されているが、本発明も組成的にアモルファス化し易いP並びにNb添加をベースに単ロール溶湯急冷凝固法に対して溶湯急冷速度が遅い水アトマイズ法でもアモルファス合金粉末が得られていることから、特許文献1及び特許文献3と同様、高Bsを得ることは難しく、更に本発明は湿式法であるため得られた粉末を乾燥した上でする必要があり、粉末の歩留り低下、並びに酸化が問題となる。
超低損失磁心と超高硬度を有する低環境負荷型 Fe 基ナノ結晶材料の開発(東北大学・金属ガラス総合研究センター)牧野彰宏
回転する金属製の冷却ロールにて合金溶湯を急冷する溶湯急冷凝固法にて作製される鉄基硼素系ナノ結晶合金においては、溶湯急冷凝固時のアモルファス生成能並びに結晶化熱処理時のα-Fe相の結晶粒成長を抑制するため、Nb、Zr、Mo、Hf、Vと言ったアモルファスフォーマの添加もしくはP添加等の組成的対策が講じられてきたが、本対策では飽和磁束密度Bsを担うFeの比率が低下するため高Bsが難しく、加えてP添加では溶解時のP揮発による汚染等の問題もあることから、Nb、Zr、Mo、Hf、V及びP等の添加元素に因らない、高Fe含有濃度を維持した高Bsナノ結晶合金の市場展開が各種受動素子、モータ、センサ等々の電子部品市場より強く望まれている。
硼素リッチ組成並びにリン(P)を始めとするNb、Zr、V等々の合金組成上の対策によりアモルファス形成能を上げたFe-Si-B系合金組成では、Feの体積比率が低下することで飽和磁束密度Bsの低下を招来し高性能化を阻害する。しかし、前記添加元素等の組成的な対策なしにアモルファス合金の結晶化熱処理時おけるα-Fe相の微細化を実現する方法はこれまでなく、Bsを上げるためにNb、P等の添加量を低減しようとすると透磁率、コアロス等の軟磁気特性の低下につながる粗大なα-Feが急冷凝固合金組織中に析出し、良好な軟磁気特性を有するFe-Si-B系ナノ結晶合金を得ることは出来ない。
そこで、本発明は、高Bs特性が得られる高Fe含有濃度域にて量産性に優れたFe-Si-B系ナノ結晶合金の製造方法の提供を目的とする。
本発明のFe-Si-B系ナノ結晶合金の製造方法は、鉄(Fe)、硼素(B)およびケイ素(Si)を必須とするFe-Si-B系の合金溶湯を用意し、ロール表面速度13m/sec以上100m/sec以下にて回転する金属製の冷却ロール表面上において前記合金溶湯を急冷し、アモルファス組織を90体積%以上含む急冷凝固合金を作製した後、前記急冷凝固合金を1℃/秒以上、200℃/秒以下の昇温速度にて結晶化温度以上750℃以下の一定温度域に到達後、0.1秒以上10分以下の時間経過後、直ちに急冷する熱処理方法(以下、フラッシュアニール法と記す)を施すことによって平均結晶粒径50nm以下のα-Fe相とその粒界に存在するアモルファス相からなる保磁力Hcが150A/m以下の均一微細なFe-Si-B系ナノ結晶合金組織が得られることを特徴とする。
本発明のFe-Si-B系ナノ結晶合金の製造方法は、前記合金溶湯の組成が、組成式T loo-x-y-z-n QxSiyCuZMn (TはFe、CoおよびNiからなる群から選択された少なくとも1種の元素であって、Feを必ず含む遷移金属元素、QはB、Cからなる群から選択されBを必ず含む1種以上の元素、MはP、Al、Ti、V、Cr、Mn、Nb、Zn、Ga、Mo、Ag、Hf、Zr、Ta、W、Pt、Au及びPbからなる群から選択された1種以上の元素)で表現され、組成比率x、y、zおよびnが、それぞれ5≦x≦20原子%、2≦y≦15原子%、0≦z≦5原子%、0≦n≦6原子%を満足することが好ましい。
本発明のFe-Si-B系ナノ結晶合金の製造方法は、前記急冷凝固合金作製の際、前記出湯ノズル及び前記冷却ロール間距離が0.16mm以上20mm以下であることが好ましい。
本発明のFe-Si-B系ナノ合金の製造方法は、前記溶湯急冷凝固合金作製の際、前記出湯ノズルから噴出される前記合金溶湯の出湯圧力が2kPa以上60kPa未満であることが好ましい。
本発明のFe-Si-B系ナノ結晶合金の製造方法は、前記溶湯急冷凝固合金作製の際、前記冷却ロールの素材に銅または銅を主成分とする合金、MoまたはMoを主成分とする合金、あるいは、WまたはWを主成分とする合金のいずれかを用い、さらにロール表面の算術平均粗さRaを1nm以上10μm未満とすることが好ましい。
本発明のFe-Si-B系ナノ結晶合金の製造方法は、Fe、B並びにSiを必須元素とする合金溶湯を用意し、ロール表面速度13m/sec以上100m/sec以下にて回転する金属製の冷却ロール表面上において前記合金溶湯を急冷する急冷凝固合金作製の際、オリフィス径Φ0.6mm以上Φ2.0mm未満の2孔以上4孔未満の複数のオリフィスが前記冷却ロールの回転方向に沿って一直線上に1列以上並んだ縦列マルチオリフィスを底部に配した出湯ノズルを用いて、前記出湯ノズルおよび前記冷却ロール間距離を0.16mm以上20mm未満に設定した上で、前記縦列マルチオリフィス1列からの単位時間当たりの平均出湯レートを0.6g/min以上6kg/minとして前記出湯ノズルから前記冷却ロール表面に前記合金溶湯を噴出することで、平均厚みが40μm以上160μm未満であるアモルファス組織を90体積%以上含む急冷凝固合金にフラッシュアニール法を施し、平均結晶粒径30nm以下のα-Fe相とその粒界に存在するアモルファス相からなる平均厚みが40μm以上160μm未満の保磁力Hcが150A/m以下である均一微細なFe-Si-B系ナノ結晶合金の製造方法を含む。
本発明のFe-Si-B系ナノ結晶合金の製造方法は、前記溶湯急凝固合金作製の際、縦列マルチオリフィスにおける各オリフィスの整列方向の間隔Dが0.2mm以上10mm未満であることが好ましい。
本発明のFe-Si-B系ナノ結晶合金の製造方法は、前記溶湯急凝固合金作製の際、縦列マルチオリフィスが、複数列のオリフィスを有しており、隣り合う列同士の間隔Eが3mm以上であることが好ましい。
本発明のFe-Si-B系ナノ結晶合金の製造方法は、平均結晶粒径50nm以下のα-Fe相とその粒界に存在するアモルファス相からなる保磁力Hcが150A/m以下の均一微細な前記Fe-Si-B系ナノ結晶合金を平均粉末粒径が20μm以上200μm未満に粉砕して、Fe-Si-B系ナノ結晶合金粉末を得ることができる。
本発明によれば、アモルファス化を促進し、かつ結晶化熱処理時においてはα-Feの結晶粒成長を抑えることにより微細組織を得ることが出来るものの、軟磁性材料として最も重要な性能である飽和磁束密度Bsの低下を招来するP及びNb、Zr等の元素の添加を必須とせず、アモルファス組織を90体積%以上含む急冷凝固合金を作製した後、前記フラッシュアニール法を施すことにより、平均結晶粒径50nm以下のα-Fe相とその粒界に存在するアモルファス相からなる均一微細なナノ結晶合金組織を実現可能とする保磁力Hcが150A/m以下のFe-Si-B系ナノ結晶合金の製造方法を提供することができる。
加えて溶湯急冷凝固工程において前記縦列マルチオリフィスを採用した出湯ノズルを用いることで、厚み40μm以上160μm未満であることを特徴とするアモルファス組織を90体積%以上含む急冷凝固合金が得られ、本急冷凝固合金に前記フラッシュアニール法を施すことにより、平均結晶粒径50nm以下のα-Fe相とその粒界に存在するアモルファス相からなるHcが150A/m以下の均一微細なFe-Si-B系ナノ結晶合金を得た上、平均粉末粒径20μm以上200μm未満に粉砕することでタップ密度4.0g/cm3以上の優れた成形性を有するFe-Si-B系ナノ結晶合金粉末を製造できる。
従来のFe-Si-B系ナノ結晶合金の製造方法は、Nb、Zrといったアモルファスフォーマとなる添加元素を必須としており、Nb、Zr等のアモルファスフォーマを添加しない場合でも合金溶解時の揮発による炉内汚染が問題となるP添加が必要であり、何れも組成的に対策であるため飽和磁束密度Bsの低下を招来していたが、発明者はアモルファス組織を90体積%以上含む急冷凝固合金に1℃/秒以上、200℃/秒以下の昇温速度にて結晶化温度以上750℃以下の一定温度域に到達後、0.1秒以上10分以下の時間経過後、直ちに急冷する熱処理方法(フラッシュアニール法)を施すことによって平均結晶粒径50nm以下のα-Fe相とその粒界に存在するアモルファス相からなる保磁力Hcが150A/m以下の均一微細なFe-Si-B系ナノ結晶合金組織の実現を添加元素等の組成的な対策に因ることなく、アモルファス合金の結晶化熱処理により達成可能であることを見出した。
本発明による製造方法にて得られるFe-Si-B系ナノ結晶合金は、組成式T loo-x-y-z-n QxSiyCuZMn (TはFe、CoおよびNiからなる群から選択された少なくとも1種の元素であって、Feを必ず含む遷移金属元素、QはB、Cからなる群から選択されBを必ず含む1種以上の元素、MはP、Al、Ti、V、Cr、Mn、Nb、Ga、Mo、Ag、Hf、Zr、Ta、W、Pt、Au及びPbからなる群から選択された1種以上の元素)で表現され、組成比率x、y、zおよびnが、それぞれ5≦x≦20原子%、2≦y≦15原子%、0≦z≦5原子%、0≦n≦6原子%を満足する。
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。
[合金組成]
Feを必須元素として含む遷移金属Tは、上述の元素の含有残余を占める。Feの一部をFeと同じく強磁性元素であるCo及びNiの一種または二種で置換しても、所望の硬磁気特性を得ることができる。ただし、Feに対する置換量が30%を超えると、磁束密度の大幅な低下を招来するため、置換量は0%〜30%の範囲に限定される。
Feを必須元素として含む遷移金属Tは、上述の元素の含有残余を占める。Feの一部をFeと同じく強磁性元素であるCo及びNiの一種または二種で置換しても、所望の硬磁気特性を得ることができる。ただし、Feに対する置換量が30%を超えると、磁束密度の大幅な低下を招来するため、置換量は0%〜30%の範囲に限定される。
Q(=B+C)の組成比率xが5原子%未満になると、アモルファス生成能が大きく低下するため、溶湯急冷凝固の際にα-Feが析出するため軟磁性組成の場合、透磁率が低下し高性能の軟磁性材料が得られない。また、希土類元素含む硬磁性組成の場合、残留磁束密度Brが低下し高性能の硬磁性材料が得られない。
軟磁性組成の場合、組成比率xが20原子%を超えるとFeの成分比率が低下することから磁束密度の低下を招来するため高性能な軟磁性材料を得ることが困難になることから、組成比率xは5原子%以上20原子%以下の範囲とし、組成比率xは7原子%以上19原子%以下であることが好ましく、8原子%以上19原子%以下であることがさらに好ましい。
軟磁性組成の場合、組成比率xが20原子%を超えるとFeの成分比率が低下することから磁束密度の低下を招来するため高性能な軟磁性材料を得ることが困難になることから、組成比率xは5原子%以上20原子%以下の範囲とし、組成比率xは7原子%以上19原子%以下であることが好ましく、8原子%以上19原子%以下であることがさらに好ましい。
QにおけるBに対するCの置換率が増すと合金溶湯の融点が低くなり急冷凝固の際に用いる耐火物の損耗量が減るため急冷凝固に係る工程費用が低下出来るが、Bに対するCの置換率が50%を超えるとアモルファス生成能が大きく低下するため好ましくなく、置換率は0%〜50%に限定する。好ましくは0%〜30%が良く、さらに好ましくは0%〜20%が良い。
本発明においてSiは、FeおよびBと同時添加することでアモルファス生成能を向上すると共に鉄基硼素系急冷凝固合金の透磁率を高める元素として有効であるが、Siの添加量yが15原子%を超えると飽和磁束密度Bsが大幅に低下するためyは15原子%未満とする。また、yは透磁率の向上の観点から2原子%以上15原子%以下が好ましい。さらに好ましくは2.5原子%以上12原子%以下が良い。
本発明においてCuは、添加することにより、溶湯急冷凝固の際、合金溶湯中のFeとCuが二層分離メカニズムによりFeが溶湯中に均一分散する効果が得られることから、Cu添加により組成的に偏析の少ないアモルファス合金となり、次工程の結晶化熱処理の際、不均一核生成により析出するα-Fe前駆体(クラスター)が均一に生成することから、均一微細な金属組織を得るためにはCu添加が好ましいが、Cuは非磁性元素であると共に良電導体であるため、過剰添加はBsの低下並びに透磁率の低下を引き起こすことから、zは5原子%以下とする。好ましくは0.3原子%以上4原子%以下が良く、さらに好ましくは0.7原子%以上3原子%以下が良い。
本発明においてはP、Al、Ti、V、Cr、Mn、Nb、Zn、Ga、Mo、Ag、Hf、Zr、Ta、W、Pt、Au及びPbからなる群から選択された1種以上の添加元素Mを加えてもよい。本添加元素により、アモルファス生成能の向上、急冷凝固金属組織の微細化等々の効果により、急冷凝固時の生産性の向上が得られる。ただし、これらの元素Mの組成比率nは6原子%を超えると、飽和磁束密度Bsの低下を招くため、nは0原子%以上6原子%以下に限定され、0原子%以上4原子%以下であることが好ましく、0原子%以上3原子%以下であることがさらに好ましい。
[合金溶湯の急冷凝固装置]
本発明の好ましい実施形態によれば、合金溶湯を高速で回転する金属製の冷却ロールの表面に接触させることにより、合金溶湯から熱を奪い急冷凝固させる。適切な量の合金溶湯を冷却ロールの表面に接触させるためには、図1の(c)に示される出湯ノズル底部に配したオリフィスより合金溶湯を噴出し、金属ロール上で急冷凝固させアモルファス合金組織とするが、オリフィス径がΦ0.6mm以下ではオリフィス1孔当たりの溶湯供給レートが、0.1kg/min以下となり急冷凝固工程の生産性が極めて悪いだけでなくノズル閉塞の原因となる、また、Φ2.0mm以上ではオリフィス1孔当たりの溶湯供給レートが1500g/min以上となるため冷却ロール上に湯だまりが形成されず溶滴(スプラッシュ)となり急冷凝固合金薄帯が生成されないことから、アモルファス組織の生成が可能な急冷凝固を達成できないため、オリフィス径はΦ0.6mm以上Φ2.0mm以下に限定する。オリフィス径はΦ0.7mm以上Φ1.8mm以下が好ましく、Φ0.7mm以上Φ1.5mm以下がさらに好ましい。
本発明の好ましい実施形態によれば、合金溶湯を高速で回転する金属製の冷却ロールの表面に接触させることにより、合金溶湯から熱を奪い急冷凝固させる。適切な量の合金溶湯を冷却ロールの表面に接触させるためには、図1の(c)に示される出湯ノズル底部に配したオリフィスより合金溶湯を噴出し、金属ロール上で急冷凝固させアモルファス合金組織とするが、オリフィス径がΦ0.6mm以下ではオリフィス1孔当たりの溶湯供給レートが、0.1kg/min以下となり急冷凝固工程の生産性が極めて悪いだけでなくノズル閉塞の原因となる、また、Φ2.0mm以上ではオリフィス1孔当たりの溶湯供給レートが1500g/min以上となるため冷却ロール上に湯だまりが形成されず溶滴(スプラッシュ)となり急冷凝固合金薄帯が生成されないことから、アモルファス組織の生成が可能な急冷凝固を達成できないため、オリフィス径はΦ0.6mm以上Φ2.0mm以下に限定する。オリフィス径はΦ0.7mm以上Φ1.8mm以下が好ましく、Φ0.7mm以上Φ1.5mm以下がさらに好ましい。
本発明の好ましい実施形態によれば、溶湯急冷凝固工程において、オリフィス径Φ0.6mm以上Φ2.0mm未満の2孔以上4孔未満の複数のオリフィスが冷却ロールの回転方向に沿って一直線上に1列以上並んだ縦列マルチオリフィスを底部に配した出湯ノズルを用いることで、同一ロール表面速度において急冷凝固速度を落とすことなく急冷凝固合金の厚みを増すことが出来るが、前記縦列マルチオリフィスの孔数は、急冷凝固合金の厚みに係り、1孔では平均厚み40μm以上の急冷凝固合金の厚みが得られないため2孔以上が必要となるが、4孔以上では急冷凝固合金の厚みが160μm以上になり、アモルファス組織の生成が可能な急冷凝固速度を達成できないため2孔以上4孔未満に限定する。
前記縦列マルチオリフィスを底部に配した出湯ノズルを介して合金溶湯を冷却ロール表面上へ噴出する際、出湯ノズルと冷却ロール間距離は、生成される急冷凝固合金薄帯の最大厚み160μm(0.16mm)以上に設定しないと出湯ノズル底面と急冷凝固合金薄帯が干渉するため0.16mm以上に限定する。また、出湯ノズルと冷却ロール間距離が20mmを超えると縦列に配した各オリフィスから噴出する溶湯が回転する冷却ロールの巻込み風により揺らぐと共に冷却を受けるため、冷却ロール上に生成する各湯だまりの位置がずれ、平均厚み40μm以上160μm未満の急冷凝固合金薄帯が得られないことから、20mm未満に限定する。好ましくは0.2mm以上10mm未満が良く、さらに好ましくは0.3mm以上5mm未満が良い。
出湯ノズルの低部に縦列で配置されるオリフィスは噴出する合金溶湯の直進性に影響することから、ロール表面に垂直に溶湯が噴射されることで合金溶湯をロール表面の密着性が上がり安定した溶湯急冷凝固状態が維持出来るため、オリフィス長は0.5mm以上30mm未満が良い。オリフィス長は0.5mm未満では、溶湯噴射の直進性が得られず、ロール表面上での急冷凝固が不安定になる。また、オリフィス長が30mm以上では合金溶湯がオリフィスを通過中に凝固しノズル閉塞を引き起こす。オリフィス長は0.7mm以上20mm未満が好ましい。
図2の(b)に示す前記縦列マルチオリフィスにおける各オリフィスの間隔Dが0.2mm以下の場合、各オリフィスから噴出される溶湯が冷却ロールに到達する前に接触するため平均厚みが40μm以上160μm未満の急冷凝固合金薄帯が得られない。また、Dを10mm以上にした場合、各オリフィスから溶湯が噴出され冷却ロール表面に形成される湯だまりが重なりあうことが出来ないため平均厚みが40μm以上160μm未満の急冷凝固合金薄帯が得られない。Dは0.5mm以上8mm以下が好ましく、1mm以上6mm未満がさらに好ましい。
図2の(b)に示すように縦列マルチオリフィスを複数列並べることで出湯レートをさらに増すことが可能となるが、縦列マルチオリフィス同士の列間隔Eを3mm以内の場合、隣接する縦列マルチオリフィスから噴出する溶湯で形成される湯だまりが接触するため3mm以上に限定する。Eは冷却ロールの抜熱性を考慮し5mm以上にすることが好ましく、7mm以上がさらに好ましい。但し、Eが大き過ぎるとより多くの縦列マルチオリフィスを並べることが出来ないため20mm以下であることが好ましく、15mm以下がさらに好ましい。
冷却ロールの表面に供給される合金溶湯は、冷却ロールによって冷却された後、冷却口−ルの表面から離れ、薄帯状の急冷凝固合金が形成される。
本発明において急冷凝固合金の酸素濃度低減のためには合金溶解時、並びに合金溶湯の急冷凝固の際、合金溶湯の酸化を防ぐことが重要であるため、例えば、図1に示す急冷装置を用いて急冷凝固合金を製造する。
合金溶湯の酸化を防ぐためには、図1に示す急冷装置内を20Pa以下、好ましくは10Pa以下、さらに好ましくは1Pa以下まで真空排気した後、不活性ガスを絶対圧10kPa〜101.3kPaまで導入し、急冷装置内の酸素濃度を500ppm以下、好ましくは200ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下にした上、急冷凝固合金の作製工程を実施する必要がある。不活性ガスとしては、ヘリウムまたはアルゴン等の希ガスや窒素を用いることができるが、窒素は希土類元素並びに鉄と比較的に反応しやすいため、ヘリウムまたはアルゴンなどの希ガスを用いることが好ましい。
図1の装置は、真空または不活性ガス雰囲気を保持し、その圧力を調整することが可能な原料合金の溶解室1および急冷室2を備えている。図1(a)は全体構成図であり、図1(b)は急冷凝固が行われる部分の拡大図である。
図1(a)に示されるように、溶解室1は所望の合金組成になるように配合した原料20を高温にて溶解する溶解炉3と、底部に出湯ノズル5を配する貯湯容器4と、大気の進入を抑制しつつ配合原料を溶解炉3内に供給するための配合原料供給装置8を備えている。貯湯容器4は原料合金の溶湯21を貯えている。急冷室2は、出湯ノズル5から出た溶湯21を急冷凝固するための回転冷却ロール7を備えている。
この装置においては、溶解室1および急冷室2内の雰囲気およびその圧力が所定の範囲に制御される。そのために、雰囲気ガス供給口lb、2b、および8bとガス排気口la、2a.および8aとが装置の適切な箇所に設けられている。
溶解炉3は傾動可能であり、ロート6を介して溶湯21を貯湯容器4内に適宜、注ぎ込む。溶湯21は貯湯容器4内において不図示の加熱装置によって加熱される。貯湯容器4の出湯ノズル5は、溶解室1と急冷室2との隔壁に配置され、貯湯容器4内の溶湯21を下方に位置する冷却ロール7の表面に噴出させる。
冷却ロール7は、好ましい実施形態において前記鉄基硼素系合金を作製するにあたり前記冷却ロールの素材には熱伝導性や耐久性に優れる銅および銅を主成分とする合金、MoあるいはMoを主成分とする合金製、及びWあるいはWを主成分とする合金を用いる。さらにロール表面の算術平均粗さRaを1nm以上10μm以下とすることで前記湯だまりとロール表面の密着性が向上し、冷却ロールによる溶湯急冷能力が増すことから好ましい。Raは1nm以上1μm以下とすることが好ましく、1nm以上700nm以下とすることがさらに好ましい。
冷却ロール7の直径は例えばΦ200mm〜Φ1000mmであり、冷却ロール7を水冷する場合、冷却ロール内に設けた水冷装置の水冷能力を単位時間あたりの凝固潜熱と出湯量とに応じて算出され適宜調節される。
[急冷工程]
先ず、前述の組成式で表現される原料合金の溶湯21を作製し、図1の溶解室1の貯湯容器4に貯える。次に、この溶湯21は出湯ノズル5から不活性ガス雰囲気中にて回転する冷却ロール7上に底部にオリフィスを配した出湯ノズルより噴出された後、前期合金溶湯は冷却ロールとの接触によって急冷され凝固する。
先ず、前述の組成式で表現される原料合金の溶湯21を作製し、図1の溶解室1の貯湯容器4に貯える。次に、この溶湯21は出湯ノズル5から不活性ガス雰囲気中にて回転する冷却ロール7上に底部にオリフィスを配した出湯ノズルより噴出された後、前期合金溶湯は冷却ロールとの接触によって急冷され凝固する。
図1に示すような溶湯急冷凝固法として単ロール急冷法を採用する場合、合金溶湯の冷却速度は、冷却ロールのロール表面速度や、ロール表面へ供給される単位時間当たりの出湯レートによって制御することが可能である。また、冷却ロールの温度が水冷によって調整され得る構造を有している場合、合金溶湯の冷却速度は、冷却ロール中を流れる冷却水の流量によっても制御可能である。このため、必要に応じてロール表面速度、出湯量および冷却水流量の何れか少なくとも1つを調節することにより、合金溶湯の急冷凝固速度を制御することが可能である。
本発明にて採用している単ロール溶湯急冷凝固法では、溶湯急冷凝固速度の可変がロール表面速度により容易に変更可能であり、例えばロール表面速度13m/secでは5×104℃/sec以上の急冷凝固速度が得られ、50m/secでは105℃/sec後半から106℃/sec以上の急冷凝固速度に到達可能である。前期の銅を主成分とする合金、MoあるいはMoを主成分とする合金製、及びWあるいはWを主成分とする合金を主原料とする冷却ロールのロール表面速度は13m/sec以上100m/sec未満が良い。13m/sec以下では溶湯急冷凝固速度が遅く粗大な結晶粒からなる急冷合金組織となり90体積%以上のアモルファス相が得られない。
また、100m/sec以上では高速回転による巻込み風によりノズルオリフィスから噴出した合金溶湯が凝固する等の理由によりロール表面に形成される湯だまりがロール表面に密着せず溶湯急冷状態が得られない。好ましいロール表面速度は15m/sec以上70m/sec以下、さらに好ましいロール表面速度は、17m/sec以上60m/sec以下である。
また、100m/sec以上では高速回転による巻込み風によりノズルオリフィスから噴出した合金溶湯が凝固する等の理由によりロール表面に形成される湯だまりがロール表面に密着せず溶湯急冷状態が得られない。好ましいロール表面速度は15m/sec以上70m/sec以下、さらに好ましいロール表面速度は、17m/sec以上60m/sec以下である。
合金の溶湯21が冷却ロール7によって冷却される時間は、回転する冷却ロール7の外周表面に合金が接触してから離れるまでの時間に相当し、その間に合金の温度は低下し、過冷却液体状態になる。その後、過冷却状態の合金は冷却ロール7から離れ、不活性ガス雰囲気中を飛行する。合金は薄帯状で飛行している間に雰囲気ガスに熱を奪われる結果、その温度は更に低下する。雰囲気ガスの絶対圧力は、10kPa〜101.3kPa(常圧)の範囲内に設定することが好ましい。なお、Fe-Si-B系急冷凝固合金の場合、合金溶湯の酸化による酸素濃度の増加は1000ppm以下であるため、必ずしも不活性ガス雰囲気である必要はなく、大気中で溶湯凝固急冷を実施しても良い。
[結晶化熱処理(フラッシュアニール法)]
好ましい実施形態では、90体積%以上のアモルファス相からなる急冷合金を結晶化する前記結晶化熱処理工程において、1℃/秒以上200℃/秒以下の昇温速度で結晶化温度以上750℃以下の一定温度域に到達後、0.1秒以上10分以下の時間経過後、直ちに急冷する「フラッシュアニール法」を施す。
好ましい実施形態では、90体積%以上のアモルファス相からなる急冷合金を結晶化する前記結晶化熱処理工程において、1℃/秒以上200℃/秒以下の昇温速度で結晶化温度以上750℃以下の一定温度域に到達後、0.1秒以上10分以下の時間経過後、直ちに急冷する「フラッシュアニール法」を施す。
前記の結晶化熱処理によって、90体積%以上のアモルファス相にて構成される急冷凝固合金中から析出するα-Feの粒成長が抑制され、平均結晶粒径が50nm以下の保磁力Hcが150A/m以下である均一微細なα-Fe相の粒界にアモルファス相が残存するナノ結晶組織が得られる。
前記の結晶化熱処理温度がアモルファス合金の結晶化温度未満の場合には、急冷凝固合金中のアモルファス相を結晶化できず、良好な軟磁気特性が得られない。また、熱処理温度が750℃を超えると、α-Feの粒成長が進み、軟磁性材料として使用可能な保磁力レベルが150A/m以上に増加する。そこで、結晶化熱処理温度は結晶化温度以上750℃以下の範囲とし、結晶化温度以上720℃以下であることが好ましく、さらには、結晶化温度以上690℃以下であることがより好ましい。
結晶化熱処理時の昇温速度が1℃/秒以下の場合、α-Feが粒成長し、均一な微細金属組織が得られず、軟磁性材料として使用可能な保磁力レベルが150A/m以下とならない。また、昇温速度が200℃/秒を超える場合は、結晶粒成長が間に合わず、α-Fe相が十分析出できない。昇温速度は10℃/秒以上200℃/秒以下が好ましく、20℃/秒以上150℃/秒以下がさらに好ましい。
本発明に係るFe-Si-B系ナノ結晶合金の製造方法において、良好な軟磁気特性が発現可能な金属組織を得るためには、前記結晶化熱処理温度に到達後、直ちに急冷することが好ましい。詳述すれば、上記熱処理温度に到達後、急冷に至るまでの保持時間は実質0.1秒以上あれば十分であり、10分を超えて保持すると均一微細な金属組織が損なわれ軟磁気特性の低下を招来するため好ましくない。そこで、保持時間は0.1秒以上7分以下が好ましく、0.1秒以上30秒以下がさらに好ましい。
上記結晶化熱処理の雰囲気は、急冷凝固合金の酸化を防止するため、1kPa以下の真空中で熱処理の他、アルゴンガスや窒素ガスなどの不活性ガス流気中、または90kPa以下のアルゴンガスや窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気中が好ましいが、大気中での熱処理も許容される。
[粉砕]
本発明のFe-Si-B系ナノ結晶合金を平均粉末粒径20μm以上200μm未満に粉砕することで、タップ密度4.0g/cm3以上である成形性に優れたFe-Si-B系ナノ結晶合金粉末が得られるが、射出成形用途に適用する場合は、平均粒度が75μm以下になるように粉砕することが好ましく、より好ましい粉末の平均粉末粒径は10μm以上50μm以下である。また、圧縮成形用途に適用する場合は、平均結晶粒径が120μm以下になるように粉砕することが好ましく、より好ましい粉末の平均結晶粒径は10μm以上100μm以下である。さらに好ましくは粒径分布に2つのピークを持ち、平均結晶粒径が20μm以上90μm以下である。
本発明のFe-Si-B系ナノ結晶合金を平均粉末粒径20μm以上200μm未満に粉砕することで、タップ密度4.0g/cm3以上である成形性に優れたFe-Si-B系ナノ結晶合金粉末が得られるが、射出成形用途に適用する場合は、平均粒度が75μm以下になるように粉砕することが好ましく、より好ましい粉末の平均粉末粒径は10μm以上50μm以下である。また、圧縮成形用途に適用する場合は、平均結晶粒径が120μm以下になるように粉砕することが好ましく、より好ましい粉末の平均結晶粒径は10μm以上100μm以下である。さらに好ましくは粒径分布に2つのピークを持ち、平均結晶粒径が20μm以上90μm以下である。
なお、粉砕したFe-Si-B系ナノ結晶合金粉末の表面にカップリング処理やリン酸処理等の化成処理及びガラス被膜処理などの表面処理を施すことにより、成形方法を問わず成形品における成形性の改善や耐食性、耐熱性の向上、並びに電気絶縁性を高めることが可能である。
以下、本発明の実施例を説明する。
(実施例)
以下の表1に示す各合金組成となるよう、純度99.5%以上のB、C、Si、Al、Cu、Nb、ZrおよびFeの各元素を配合した素原料100kgをアルミナ製坩堝へ挿入した後、高周波誘導加熱により溶解、合金溶湯を形成した後、低部に直径1.0mmのオリフィス1孔(オリフィス長7mm)を配したBN製出湯ノズルが接続されている内径200mm×高さ400mmのアルミナ製貯湯容器へ前記合金溶湯50kgを注いだ。なお、出湯ノズル直下にはΦ600mm×幅200mmの表1に記載の金属にて作製された冷却ロールが配置されている。
以下の表1に示す各合金組成となるよう、純度99.5%以上のB、C、Si、Al、Cu、Nb、ZrおよびFeの各元素を配合した素原料100kgをアルミナ製坩堝へ挿入した後、高周波誘導加熱により溶解、合金溶湯を形成した後、低部に直径1.0mmのオリフィス1孔(オリフィス長7mm)を配したBN製出湯ノズルが接続されている内径200mm×高さ400mmのアルミナ製貯湯容器へ前記合金溶湯50kgを注いだ。なお、出湯ノズル直下にはΦ600mm×幅200mmの表1に記載の金属にて作製された冷却ロールが配置されている。
その後、貯湯容器の周囲に設置された高周波加熱用コイルへ通電することで、前記合金溶湯50kgをさらに加熱し、溶湯温度が配合組成合金の融点より50℃以上高温に到達した後、出湯ノズル上部に配したアルミナ製溶湯ストッパーを引き抜き、出湯ノズル底部に配したBN製出湯ノズルから合金溶湯を出湯ノズル/ロール間距離0.4mmにて、表1に記載の急冷凝固雰囲気圧、ロール表面速度で冷却ロールの表面上へ噴出した。なお、冷却ロールの表面粗度Raは表1に示される値に調節した。前記冷却ロールの表面に接触した前記合金溶湯は冷却ロール表面上にて湯だまりを形成、湯だまりと冷却ロールの界面にて溶湯急冷凝固し、表1に示す平均厚みの薄帯状の急冷凝固合金を得た。
以下の表2に示す各合金組成となるよう、純度99.5%以上のB、C、Si、Al、Cu、Nb、ZrおよびFeの各元素を配合した素原料100kgをアルミナ製坩堝へ挿入した後、高周波誘導加熱により溶解、合金溶湯を形成した後、低部に直径1.0mmのオリフィス(オリフィス長7mm)を表2に示す縦列マルチオリフィスの配置にて配したBN製出湯ノズルが接続されている内径200mm×高さ400mmのアルミナ製貯湯容器へ前記合金溶湯50kgを注いだ。なお、出湯ノズル直下にはΦ600mm×幅200mmのMoにて作製された冷却ロールが配置されている。
その後、貯湯容器の周囲に設置された高周波加熱用コイルへ通電することで、前記合金溶湯50kgをさらに加熱し、溶湯温度が配合組成合金の融点より50℃以上高温に到達した後、出湯ノズル上部に配したアルミナ製溶湯ストッパーを引き抜き、出湯ノズル底部に配した縦列マルチオリフィスから合金溶湯を出湯ノズル/ロール間距離0.4mmにて、大気圧(101.3kPa)中、表2に記載のロール表面速度で冷却ロールの表面上へ噴出した。なお、冷却ロールの表面粗度Raは表2に示される値に調節した。前記冷却ロールの表面に接触した前記合金溶湯は冷却ロール表面上にて湯だまりを形成、湯だまりと冷却ロールの界面にて溶湯急冷凝固し、表2に示す平均厚みの薄帯状の急冷凝固合金を得た。
粉末X線回折による調査の結果、得られた急冷凝固合金は、アモルファス単相組織であることを確認した。図4に代表例として実施例1の粉末X線回折プロファイルを示す。
得られた急冷凝固合金を長さ20nm程度に切断した後、数gをニオブ箔に包んだ後、1Pa以下の真空雰囲気中で結晶化熱処理を行なった。各試料に対する熱処理条件は、表3に示す昇温速度で加熱し、表3の熱処理温度並びに保持時間にて結晶化熱処理を施した後、急冷した。
結晶化熱処理を行なった後、急冷凝固合金薄帯の結晶相を粉末X線回折にて確認したところ、α-Feと推定される結晶相で構成されていた。
また、結晶化熱処理後の急冷凝固合金薄帯の微細金属組織を透過型電子顕微鏡にて観察したところ、平均結晶粒径50nm以下のα-Feと判断される結晶相の存在を確認した。表3に各実施例おけるα-Fe相の平均結晶粒径を示す。
次いで振動式試料磁力計(VSM)を用いて結晶化熱処理後の急冷凝固合金薄帯に1.2MA/mの静磁場を印加した状態にて飽和磁束密度Bsを測定した結果を表3に示す。加えてHcメータにて測定した保磁力Hcの結果も合わせて表3に示す。
(比較例)
以下の表1に示す各合金組成となるよう、純度99.5%以上のB、C、Si、Al、Cu、Nb、ZrおよびFeの各元素を配合した素原料100kgをアルミナ製坩堝へ挿入した後、高周波誘導加熱により溶解、合金溶湯を形成した後、低部に直径1.0mmのオリフィス1孔(オリフィス長7mm)を配したBN製出湯ノズルが接続されている内径200mm×高さ400mmのアルミナ製貯湯容器へ前記合金溶湯50kgを注いだ。なお、出湯ノズル直下にはΦ600mm×幅200mmの表1に記載の金属にて作製された冷却ロールが配置されている。
以下の表1に示す各合金組成となるよう、純度99.5%以上のB、C、Si、Al、Cu、Nb、ZrおよびFeの各元素を配合した素原料100kgをアルミナ製坩堝へ挿入した後、高周波誘導加熱により溶解、合金溶湯を形成した後、低部に直径1.0mmのオリフィス1孔(オリフィス長7mm)を配したBN製出湯ノズルが接続されている内径200mm×高さ400mmのアルミナ製貯湯容器へ前記合金溶湯50kgを注いだ。なお、出湯ノズル直下にはΦ600mm×幅200mmの表1に記載の金属にて作製された冷却ロールが配置されている。
その後、貯湯容器の周囲に設置された高周波加熱用コイルへ通電することで、前記合金溶湯50kgをさらに加熱し、溶湯温度が配合組成合金の融点より50℃以上高温に到達した後、出湯ノズル上部に配したアルミナ製溶湯ストッパーを引き抜き、出湯ノズル底部に配したBN製出湯ノズルから合金溶湯を出湯ノズル/ロール間距離0.4mmにて、表1に記載の急冷凝固雰囲気圧、ロール表面速度で冷却ロールの表面上へ噴出した。なお、冷却ロールの表面粗度Raは表1に示される値に調節した。前記冷却ロールの表面に接触した前記合金溶湯は冷却ロール表面上にて湯だまりを形成、湯だまりと冷却ロールの界面にて溶湯急冷凝固し、表1に示す平均厚みの薄帯状の急冷凝固合金を得た。
粉末X線回折による調査の結果、得られた急冷凝固合金は、アモルファス単相組織であることを確認した。
得られた急冷凝固合金を長さ20nm程度に切断した後、数gをニオブ箔に包んだ後、1Pa以下の真空雰囲気中で結晶化熱処理を行なった。各試料に対する熱処理条件は、表3に示す昇温速度で加熱し、表3の熱処理温度並びに保持時間にて結晶化熱処理を施した後、急冷した。
結晶化熱処理を行なった後、急冷凝固合金薄帯の結晶相を粉末X線回折にて確認したところ、α-Feと推定される結晶相で構成されていた。
また、結晶化熱処理後の急冷凝固合金薄帯の微細金属組織を透過型電子顕微鏡にて観察したところ、α-Feと判断される結晶相の存在を確認した。表3に各比較例おけるα-Fe相の平均結晶粒径を示す。
次いで振動式試料磁力計(VSM)を用いて結晶化熱処理後の急冷凝固合金薄帯に1.2MA/mの静磁場を印加した状態にて飽和磁束密度Bsを測定した結果を表3に示す。加えてHcメータにて測定した保磁力Hcの結果も合わせて表3に示す。
本発明のFe-Si-B系ナノ結晶合金の製造方法は、ケイ素鋼板以上の磁束を備え、かつ良好な軟磁気特性と優れた成形性を有する高性能軟磁性粉として、例えば、各種受動素子、パワーコンディショナー、モータ用コア向けの圧粉磁心等に適用される。
本発明のFe-Si-B系ナノ結晶合金の製造方法は、鉄基硼素系合金の製造方法は、磁気性能の低下を招来する合金組成での対策に因ることなく、回転する金属製の冷却ロールにて合金溶湯を急冷する溶湯急冷凝固法にて作製されるアモルファス合金にフラッシュアニール法を施すことで、平均結晶粒径50nm以下のα-Fe相とその粒界に存在するアモルファス相からなる保磁力Hcが150A/m以下の均一微細な組織を有するFe-Si-B系ナノ結晶合金が得られることから、高性能でかつ成形性に優れた軟磁性粉を安価に市場へ提供することが可能であり、各種受動素子、モータ、センサ等々の電子部品市場での利用可能性が極めて高い。
lb、2b、8b、および9b雰囲気ガス供給口
la、2a、8a、および9aガス排気口
1 溶解室
2 急冷室
3 溶解炉
4 貯湯容器
5 出湯ノズル
6 ロート
7 回転冷却ロール
21 溶湯
22 合金薄帯
23 オリフィス
24 オリフィス列
25 冷却ロール回転方向
la、2a、8a、および9aガス排気口
1 溶解室
2 急冷室
3 溶解炉
4 貯湯容器
5 出湯ノズル
6 ロート
7 回転冷却ロール
21 溶湯
22 合金薄帯
23 オリフィス
24 オリフィス列
25 冷却ロール回転方向
Claims (9)
- 鉄(Fe)、硼素(B)およびケイ素(Si)を必須とするFe-Si-B系の合金溶湯を用意し、ロール表面速度13m/sec以上100m/sec以下にて回転する金属製の冷却ロール表面上において前記合金溶湯を急冷し、アモルファス組織を90体積%以上含む急冷凝固合金を作製した後、前記急冷凝固合金を1℃/秒以上、200℃/秒以下の昇温速度にて結晶化温度以上750℃以下の一定温度域に到達させて、0.1秒以上10分以下の時間放置した後に急冷する熱処理方法を施すことによって、平均結晶粒径50nm以下のα-Fe相とその粒界に存在するアモルファス相からなる保磁力Hcが150A/m以下のFe-Si-B系ナノ結晶合金を製造するFe-Si-B系ナノ結晶合金の製造方法。
- 前記合金溶湯の組成が、組成式T loo-x-y-z-n QxSiyCuZMn (TはFe、CoおよびNiからなる群から選択された少なくとも1種の元素であって、Feを必ず含む遷移金属元素、QはB、Cからなる群から選択されBを必ず含む1種以上の元素、MはP、Al、Ti、V、Cr、Mn、Nb、Zn、Ga、Mo、Ag、Hf、Zr、Ta、W、Pt、Au及びPbからなる群から選択された1種以上の元素)で表現され、組成比率x、y、zおよびnが、それぞれ5≦x≦20原子%、2≦y≦15原子%、0≦z≦5原子%、0≦n≦6原子%を満足する請求項1に記載のFe-Si-B系ナノ結晶合金の製造方法。
- 前記急冷凝固合金作製の際、出湯ノズルおよび前記冷却ロール間距離が0.16mm以上20mm以下である請求項1または2に記載のFe-Si-B系ナノ結晶合金の製造方法。
- 前記急冷凝固合金作製の際、出湯ノズルから噴出される前記合金溶湯の出湯圧力が2kPa以上60kPa未満である請求項1から3のいずれかに記載のFe-Si-B系ナノ合金の製造方法。
- 前記急冷凝固合金作製の際、冷却ロールの素材に銅または銅を主成分とする合金、MoまたはMoを主成分とする合金、あるいは、WまたはWを主成分とする合金のいずれかを用い、さらにロール表面の算術平均粗さRaを1nm以上10μm未満とする請求項1から4のいずれかに記載のFe-Si-B系ナノ結晶合金の製造方法。
- Fe、B並びにSiを必須元素とする合金溶湯を用意し、ロール表面速度13m/sec以上100m/sec以下にて回転する金属製の冷却ロール表面上において前記合金溶湯を急冷する急冷凝固合金作製の際、オリフィス径Φ0.6mm以上Φ2.0mm未満の2孔以上4孔未満の複数のオリフィスが前記冷却ロールの回転方向に沿って一直線上に1列以上並んだ縦列マルチオリフィスを底部に配した出湯ノズルを用いて、前記出湯ノズルおよび前記冷却ロール間距離を0.16mm以上20mm未満に設定した上で、前記縦列マルチオリフィス1列からの単位時間当たりの平均出湯レートを0.6g/min以上6kg/minとして前記出湯ノズルから前記冷却ロール表面に前記合金溶湯を噴出することで、平均厚みが40μm以上160μm未満であるアモルファス組織を90体積%以上含む急冷凝固合金にフラッシュアニールを施し、平均結晶粒径30nm以下のα-Fe相とその粒界に存在するアモルファス相からなる平均厚みが40μm以上160μm未満の保磁力Hcが150A/m以下のFe-Si-B系ナノ結晶合金を製造するFe-Si-B系ナノ結晶合金の製造方法。
- 前記急冷凝固合金作製の際、縦列マルチオリフィスにおける各オリフィスの整列方向の間隔Dが0.2mm以上10mm未満である請求項6に記載のFe-Si-B系ナノ結晶合金の製造方法。
- 前記急冷凝固合金作製の際、縦列マルチオリフィスが、複数列のオリフィスを有しており、隣り合う列同士の間隔Eが3mm以上である請求項6または7に記載のFe-Si-B系ナノ結晶合金の製造方法。
- 請求項1から8のいずれかに記載のFe-Si-B系ナノ結晶合金の製造方法により製造されたFe-Si-B系ナノ結晶合金を、平均粉末粒径が20μm以上200μm未満に粉砕したFe-Si-B系ナノ結晶合金粉末。
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