JP2014098184A - 多層dlc皮膜を有する摺動部材 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】金属基材の表面に、Crからなる下地層と、Crと炭素を含む傾斜層と、Crとダイヤモンドライクカーボン(DLC)を含むCr−DLC単層又はCr−DLC積層とからなる多層DLC皮膜を形成してなり、そして前記傾斜層は、前記金属基材の表面から遠ざかるに従い、Cr含有率が漸減するとともに、炭素含有率が漸増する傾斜組成を有してなる、摺動部材。
【選択図】図1
Description
但しDLCは基材となる金属との界面で剥離が発生しやすいという問題があり、基材との密着性を高める技術が種々提案されている。
たとえば特許文献1には、基材との密着性を改善する技術として、鉄系基材の上に、Crおよび/またはAlの金属からなる第1層とCrおよび/またはAlの金属と炭素を含む非晶質層からなる第2層からなる2層構造の中間層を設け、その上に最表面層としてDLC膜を形成する硬質多層膜形成体が提案されている。
Crからなる下地層と、Crと炭素を含む傾斜層と、Crとダイヤモンドライクカーボン(DLC)を含み且つCr含有率が層の厚さに亘って実質的に変化しないCr−DLC単層とからなる多層DLC皮膜、或いは、
Crからなる下地層と、Crと炭素を含む傾斜層と、CrからなるCr層とDLCからなるDLC層とが交互に重なるCr−DLC積層とからなる多層DLC皮膜
を形成してなり、
そして前記傾斜層は、前記金属基材の表面から遠ざかるに従い、Cr含有率が漸減すると
ともに、炭素含有率が漸増する傾斜組成を有してなる、摺動部材に関する。
さらに前記Cr−DLC積層が、Cr層−DLC層 1周期あたり、6nm以上8nm以下の厚さを有することが好ましい。
そして前記Cr−DLC単層又は前記Cr−DLC積層が、ナノインデンター測定法に従う測定にて20GPa以上の表面硬さを有することがより好ましい。
こうした摺動部材は、例えば炭素鋼、軸受鋼、ステンレス鋼などの鉄系材料、銅合金、アルミニウム合金、チタン合金など機械部品に通常使われる金属材料から構成されるが、これら金属材料からなる摺動部材の摺動面に高い硬度のDLC層を形成した場合、具体的にはナノインデンター測定法(ISO 14577)による硬度が20GPa以上の硬度を有するDLC層を形成した場合、金属材料とDLC層との密着性が劣るという問題が生ずる。一方、硬度が20GPa未満の低い硬度のDLC層を形成すると、密着性は改善されるものの、摩耗量が増加するという問題が生ずる。
本発明者らはこうした問題を考慮し、良好な摩耗特性と良好な密着性を両立させた多層DLC皮膜を有する摺動部材の構成を以下の通り考案した。
以下、本発明を更に詳しく説明する。
そして前記傾斜層は、前記金属基材の表面から遠ざかるに従い、Cr含有率が漸減するとともに、炭素含有率が漸増する傾斜組成を有する。
図1(a)に示すように、上記多層DLC皮膜の構造は、金属基材の上に順にCr100%で構成される下地層、傾斜層、Cr−DLC単層が形成される。また図1(b)に示すように、下地層、傾斜層、そしてDLC層とCr層が交互に積層されてなるCr−DLC積層として形成されてもよい。
前記傾斜層とCr−DLC単層又はCr−DLC積層の間には、低硬度DLC層を形成することができる(図2(c)、(d))。
こうした傾斜組成の構成を採用することによって、多層DLC皮膜の機械的特性を金属基材側から最上層部(Cr−DLC単層又はCr−DLC積層)側に段階的または連続的に変化させることができ、これによってサーマルショック等による局所的な応力集中による剥離を防止することができる
傾斜層の厚さは特に限定されないが、例えば100nm乃至300nmから選択することができる。
最上層部におけるCrの含有率は、Cr−DLC単層/Cr−DLC積層の形態を問わず、2乃至12原子%とすることが望ましく、より望ましくは10乃至12原子%である。
また最上層部の厚さは特に限定されないが、例えば500nm乃至800nmから選択することができる。
具体的には、Cr層−DLC層の1周期当たりの厚さが6nm未満に設定して層形成すると、Cr層とDLC層が交互に形成されてなるいわゆる積層構造は形成されずに、CrとDLCが混合して層を形成することとなり、Cr含有率が実質的に変化しないCr−DLC単層の形態となる。
一方、1周期当たりの厚さを6nm以上に設定して層形成すると、Cr層とDLC層が交互に形成される積層構造を形成する。
但し本発明においては、Cr層−DLC層の1周期当たりの厚さを8nmより厚くすると、耐摩耗性が低下するため望ましくない。
低硬度DLC層は後述するスパッタ装置を用いた成膜プロセスにおいて、金属基材に付加するバイアス電圧をゼロ、すなわちバイアス無しでDLCを成膜することによって得ることができる。バイアス無しで成膜することにより、得られるDLCはナノインデンター測定法による硬さが20GPa未満となり、この層は、硬さが例えば20GPa以上である高硬度DLCとなる最上層部よりも、下地層に対する密着性に優れるので層の剥離がより効果的に防止される。
低硬度DLC層の厚さは例えば50nm乃至300nmから選択することができる。
具体的な成膜プロセスは以下のとおりである。
まず洗浄によって表面を清浄にした金属基材をドラムにセットし、準備室である真空チャンバCH1内にドラムを移動させる。真空チャンバCH1内を、実質的な真空状態になるまで排気した後、Arガスを導入してArガス雰囲気とする。ここで金属基材は、成膜前に真空チャンバCH1内で高周波電源RFによってバイアス電圧が印加され、Arプラズマでイオンボンバード処理される。本処理により基材表面がエッチングされてクリーニングされる。こうした成膜前の高周波バイアスによるクリーニング処理を行うことで、基
材表面の不純物が除去されるとともに、基材表面が活性化し、基材表面への薄膜の密着力が向上する効果が得られる。
Arガス圧力をスパッタに適した圧力に設定し、ドラムを回転させ、DCパルス電源によって金属基材に負のバイアス電圧を印加しながら、AC電源(図示せず)によってCターゲット或いはCrターゲット側にスパッタ電力を供給すると、グロー放電が発生して成膜が開始する。
ここで皮膜を構成する層の種類、膜厚や硬さの制御は、Arガス圧力、バイアス電圧、スパッタ電力、ドラムの回転速度、成膜時間などを調節して行われる。また最上層部におけるCr層とDLC層の厚さの比率や積層周期の制御も同様にして行われる。
成膜時の標準的な条件は、Arガス圧力1〜5Pa程度、バイアス電圧0〜−200V、スパッタ電力0.4〜10kW、ドラム回転速度1〜100rpmである。
各層を順に形成し、所定の膜厚に達したら、スパッタ電力供給を止めて成膜プロセスを終了し、真空チャンバCH2から真空チャンバCH1そして外部へとドラムを移動させ、基材を取り出し、多層DLC皮膜の構造を有してなる基材(摺動部材)を得る。
図1及び図2に示す多層DLC皮膜の構造を有してなる摺動部材を下記手順にて作製した。なお実施例1乃至実施例3は図1(a)に、実施例4及び比較例1は図1(b)に、実施例6乃至実施例7は図2(c)に、実施例8及び比較例2は図2(d)に、それぞれ示す多層DLC皮膜の構造を有してなる摺動部材である。
1)下地層:Cr含有率100%および膜厚約250nmにて形成。
2)傾斜層:Cr含有率を100%から0%(すなわち炭素含有率を0%から100%)まで段階的に変化させながら、膜厚70nm〜90nmにて形成。なお、所望のCr/炭素混合比率になるように、C及びCrターゲットの印加電力を決定し、順次各ターゲットの電力を変化させて混合比率を調整するとともに、積層構造とならないようにドラムの回転速度を適宜調整した。
3)低硬度DLC層:実施例5乃至実施例8並びに比較例2においては、傾斜層に連続して、膜厚70nm〜125nmにて形成。金属基材に印加するバイアス電圧をゼロとすることにより、ISO 01577に基づくナノインデンター測定法に従う測定にて硬度を15GPaに設定。
4)最上層部:実施例1乃至実施例3及び実施例5乃至実施例6においては、Cr層とDLC層の積層周期を0.06nm、0.6nm、2nm、実施例4及び実施例8は同6nm、比較例1及び比較例2は同12nmとし、膜厚約600nm〜700nmにて形成。なお、所定の積層周期(Cr層、DLC層の膜厚)となるように、C及びCrターゲットの印加電力を調整するとともに、ドラムの回転速度適宜調整した。
低硬度DLC層の膜厚、最上層部の積層周期(積層の有無)、膜厚、硬さ、Cr含有率及び成膜時の金属基材に印加したバイアス電圧について表1に示す。なお、表1のCr含有率はX線光電子分光法(XPS:X−ray Photoelectron Spectroscopy)による測定値である。
最上層部(Cr−DLC単層又はCr−DLC積層)の代わりに、低硬度DLC層(硬度15GPa)又は高硬度DLC層(硬度38GPa)を単層にて層形成した以外は、前述の手順に従い、比較例3乃至比較例6の摺動部材を形成した。
なお、比較例3及び比較例4は傾斜層の上にDLC単層を形成し、比較例5及び比較例6は傾斜層の上に低硬度DLC層を形成した後、DLC単層を形成した。
低硬度DLC層の膜厚、DLC単層の硬さ、膜厚、DLC単層成膜時の金属基材に印加したバイアス電圧及びDLC単層成膜時のArガス圧力について表2に示す。
図4に、比較例1における最上層部(DLC−Cr積層)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を、図5に、実施例3における最上層部(DLC−Cr単層)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真をそれぞれ示す。
また図6に、実施例4における最上層部(DLC−Cr積層)の最表面から内部(基材側)に向かって皮膜を徐々にエッチングして除去し、異なるエッチング深さで炭素及びCrの含有率をXPSによって測定した結果を、図7には同じく実施例2(DLC−Cr単層)における結果を、それぞれ示す。
一方、積層周期を6nm未満、例えば2nmに設定した実施例3では、図5に示すように多層構造は見られなかった。これは積層周期を6nm未満に設定すると周期が小さすぎるため、Cr層とDLC層を個別の層として形成するまでに至らず、CrとDLCが混合して層を形成し、Cr含有率が実質的に変化しないCr−DLC単層となったと考えられる。
一方、図6に示すように、設定した積層周期が6nmの実施例4においては、エッチン
グ深さによって炭素含有率が88〜98原子%の間で、Cr含有率が2〜12原子%の間で、いずれも周期的に変化するという結果を得た。また、炭素の含有率が極大値を取るとき、Crの含有率が極小値を取り、炭素の含有率が極小値を取るときにはCrの含有率が極大値を取るという結果を得た。すなわちこの結果においても、積層周期を6nm以上に設定することにより、最上層部がCr層とDLC層が交互に形成される積層構造を有していることが確認された。
試験条件は高負荷荷重を想定して面圧1.3GPaとし、ボールはφ6mmの窒化珪素ボール、無潤滑下、回転速度480rpmとした。なお摺動部材の金属基材としてマルテンサイト系ステンレス鋼を採用した。
得られた結果を表3に示す。また表3の結果をグラフ化した図を図9及び図10(図9の縦軸の縮尺を変えたもの)に示す。
一方、実施例1乃至実施例8においては、いずれも比較例よりも一桁以上小さい比摩耗量を示し、例えば実施例4及び実施例8(積層周期:6nm)は、比較例1及び比較例2
(積層周期:12nm)に対して、約3,000倍の比摩耗量を示した。
この結果は、摩耗特性を考慮すると、最上層部のDLC層−Cr層の積層周期を0.06nm〜8nmの範囲に設定することが好ましく、特に積層周期を0.6〜6nmとすることが特に好適であるとする結果となった。
さらに、低硬度DLC層の有無で摩耗特性を比較すると、傾斜層に連続して低硬度DLC層が形成されている実施例6〜実施例8の方が、低硬度DLC層を有しない実施例1〜実施例4と比べていずれも少ない比摩耗量を示し、低硬度DLC層を傾斜層と最上層部の間に設けることの優位性が確認された。
Claims (5)
- 金属基材の表面に、
Crからなる下地層と、Crと炭素を含む傾斜層と、Crとダイヤモンドライクカーボン(DLC)を含み且つCr含有率が層の厚さに亘って実質的に変化しないCr−DLC単層とからなる多層DLC皮膜、或いは、
Crからなる下地層と、Crと炭素を含む傾斜層と、CrからなるCr層とDLCからなるDLC層とが交互に重なるCr−DLC積層とからなる多層DLC皮膜
を形成してなり、
そして前記傾斜層は、前記金属基材の表面から遠ざかるに従い、Cr含有率が漸減するとともに、炭素含有率が漸増する傾斜組成を有してなる、摺動部材。 - 前記傾斜層と、前記Cr−DLC単層又は前記Cr−DLC積層との間に、ナノインデンター測定法に従う測定にて20GPa未満の硬さを有する低硬度DLC層をさらに形成してなることを特徴とする、請求項1に記載の摺動部材。
- 前記Cr−DLC単層又は前記Cr−DLC積層が、2〜12原子%のCr含有率を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の摺動部材。
- 前記Cr−DLC積層が、Cr層−DLC層 1周期あたり、6nm以上8nm以下の厚さを有することを特徴とする、請求項1乃至3のうち何れか一項に記載の摺動部材。
- 前記Cr−DLC単層又は前記Cr−DLC積層が、ナノインデンター測定法に従う測定にて20GPa以上の表面硬さを有することを特徴とする、請求項1乃至4のうち何れか一項に記載の摺動部材。
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