JP2011032140A - イオン交換処理ガラス製造方法、化学強化ガラス製造方法およびイオン交換処理装置 - Google Patents

イオン交換処理ガラス製造方法、化学強化ガラス製造方法およびイオン交換処理装置 Download PDF

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Abstract

【課題】イオン交換処理によりガラス製品を製造する際に、イオン交換処理量に対する溶融塩の交換頻度を小さくしてもガラス製品の品質劣化を抑制すること。
【解決手段】Li、Naを含む未処理ガラスを、Liを含みかつ式1を満たす第一の溶融塩中に浸漬する第一のイオン交換処理工程と、この工程を経た後に、Na、Kを含みかつ式1を満たす第二の溶融塩中に浸漬する第二のイオン交換処理工程と、を少なくとも経ることにより、イオン交換処理されたガラスを製造することを特徴とするイオン交換処理ガラス製造方法、これを用いた化学強化ガラス製造方法、これらに用いるイオン交換処理装置。
・式1 C1(Li)>C2(Li)≧0
〔式1中、C1(Li)は第一の溶融塩中に含まれるLiイオン濃度(ppm)、第二の溶融塩中に含まれるLiイオン濃度(ppm)を表す。〕
【選択図】なし

Description

本発明は、イオン交換処理ガラス製造方法、化学強化ガラス製造方法およびイオン交換処理装置に関するものである。
アルカリ金属を含むガラスを溶融塩中に浸漬して、ガラス中のイオン交換を行うイオン交換処理は、携帯電話のディスプレイ部のカバーガラス用途などのように、表層に圧縮応力層を形成した化学強化ガラスの作製に主に用いられている。また、その他にも屈折率分布を形成したガラス光学部品の作製などにも用いられている。
化学強化ガラスの製造を目的としたイオン交換処理方法としては、ガラス中のアルカリ金属イオンを、このアルカリ金属イオンよりも大きいイオン半径を有するアルカリ金属イオンに交換することでガラスの表層に圧縮応力層を形成する方法が知られている。この方法では、化学強化処理の対象となるガラスを、溶融塩中に浸漬処理することでイオン交換処理を行う。溶融塩としては、化学強化処理の対象となるガラスがLiイオンやNaイオンを含む場合、硝酸ナトリウムと硝酸カリウムとを含む混合溶融塩が用いられることが多い。この混合溶融塩を用いてイオン交換処理を行った場合、ガラス中のLiイオンは溶融塩中のNaイオンにイオン交換され、ガラス中のNaイオンは溶融塩中のKイオンにイオン交換される。
このようなイオン交換処理を利用して各種ガラス製品を製造する方法としては、その目的に応じて、様々な技術が提案されている。たとえば、CCDカメラ用の化学強化カバーガラスをイオン交換処理で製造するために、所定の熱膨張係数を持つガラスをオーバーフローダウンドロー法によって作製した板状ガラスをイオン交換する方法が提案されている(特許文献1参照)。この方法では、たとえば、硝酸カリウム溶融塩中に、板状ガラスを浸漬して、ガラス中のNaイオンやLiイオンを、溶融塩中のKイオンと交換するイオン交換処理を行う。また、同様にガラス中のNaイオンやLiイオンを、溶融塩中のKイオンと交換するイオン交換処理によって、タッチパネルディスプレイ用のガラスや、携帯電話や太陽電池のカバーガラス等を製造する方法も提案されている(特許文献2)。
また、安定した切断が行える化学強化ガラスを製造するために、ガラスを溶融塩中に浸漬してイオン交換処理する際に、2段階の浸漬処理を行う技術が提案されている(特許文献3)。この技術では、1回目の浸漬処理を行う溶融塩の温度に対して、2回目の浸漬処理を行う溶融塩の温度を+20度〜+50度の範囲に制御し、かつ、2回目の浸漬処理時間を10分〜60分の範囲に制御してイオン交換処理を行う。このように2回目の溶融塩の温度や浸漬処理時間を制御することで、化学強化ガラスの切断性と強度とを両立させると共に、イオン交換液の劣化を防止できる。また、この技術では、2回のイオン交換処理は、いずれも同じ溶融塩を用いて実施されている。
特開2008−195602号公報(請求項1、段落番号0033等) 特開2009−13052号公報(請求候8〜11、段落番号0031等) 特開2004−1359504号公報(請求項1、段落番号0016〜0017、0023〜0027等)
上述したような溶融塩中にガラスを浸漬してイオン交換処理を行う場合、イオン交換処理量の増大に伴い、溶融塩中に交換されたイオン(元々ガラス中に含まれていたイオン)が増大して、溶融塩の組成が、調合時の組成と乖離(組成が劣化)してくる。このような組成の劣化した溶融塩を用いてイオン交換処理を行った場合、たとえば、化学強化目的のイオン交換処理であれば、フレッシュな溶融塩を用いた場合と比べて、組成の劣化した溶融塩を用いた場合、化学強化ガラスの強度の低下や寸法変化等、品質の悪化が生じる。
したがって、イオン交換処理を利用して化学強化ガラスや光学部品等の各種ガラス製品を製造する場合、ガラス製品の品質の悪化を招く前に、組成が劣化した溶融塩を、新しい溶融塩に交換する必要がある。しかしながら、イオン交換処理を利用して製造されるガラス製品の最大のコスト要因は、溶融塩の交換頻度にある。このため、コスト面からは、イオン交換処理量に対する溶融塩の交換頻度は小さいことが望ましい。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、イオン交換処理を利用してガラス製品を製造する場合に、イオン交換処理量に対する溶融塩の交換頻度を小さくしても、ガラス製品の品質劣化を抑制できるイオン交換処理ガラス製造方法、これを用いた化学強化ガラス製造方法、これら製造方法に用いるイオン交換処理装置を提供することを課題とする。
上記課題は以下の本発明により達成される。すなわち、本発明のイオン交換処理ガラス製造方法は、LiOおよびNaOを含む未処理ガラスを、Liイオンを含みかつ下式(1)を満たす第一の溶融塩中に浸漬してイオン交換処理を行う第一のイオン交換処理工程と、第一のイオン交換処理工程を経た後に、NaイオンおよびKイオンを含みかつ下式(1)を満たす第二の溶融塩中に浸漬してイオン交換処理を行う第二のイオン交換処理工程と、を少なくとも経ることにより、イオン交換処理されたガラスを製造することを特徴とする。
・式(1)C1(Li)>C2(Li)≧0
〔式(1)中、C1(Li)は、上記第一の溶融塩中に含まれるLiイオン濃度(ppm)を表し、C2(Li)は、上記第二の溶融塩中に含まれるLiイオン濃度(ppm)を表す。〕
本発明のイオン交換処理ガラス製造方法の一実施態様は、下式(2)および下式(3)を満たすことが好ましい。
・式(1) C1(Li)≧500
・式(2) 2000≧C2(Li)≧0
〔式(2)および式(3)中、C1(Li)、C2(Li)は、前記式(1)に示すC1(Li)、C2(Li)と同様である。〕
本発明のイオン交換処理ガラス製造方法の他の実施態様は、第一の溶融塩が、Liイオンに加えて、さらにNaイオンおよびKイオンを含むことが好ましい。
本発明のイオン交換処理ガラス製造方法の他の実施態様は、第一の溶融塩が、第二のイオン交換工程を繰り返し実施することにより組成が劣化した第二の溶融塩を再利用して調合された溶融塩であることが好ましい。
本発明の化学強化ガラス製造方法は、本発明のイオン交換処理ガラス製造方法を利用した化学強化ガラス製造方法において、未処理ガラスの形状が板状であり、イオン交換処理されたガラスが化学強化ガラスであることが好ましい。
本発明の化学強化ガラス製造方法の一実施態様は、板状の未処理ガラスが、フュージョンダウンドロー法により形成された板状ガラスであることが好ましい。
本発明の化学強化ガラス製造方法の他の実施態様は、化学強化ガラスが、携帯電話のディスプレイのカバーガラスとして利用されることが好ましい。
本発明のイオン交換処理装置は、溶融塩を保持する2以上の槽と、未処理ガラスのイオン交換処理に用いる塩を供給する塩供給手段とを備え、2以上の槽が、一方の端に配置された槽から他方の端に配置された槽へと溶融塩が移動できるように直列的に接続され、かつ、一方の端に配置された槽に塩が供給できるように塩供給手段が配置されていることを特徴とする。
本発明によれば、イオン交換処理を利用してガラス製品を製造する場合に、イオン交換処理量に対する溶融塩の交換頻度を小さくしても、ガラス製品の品質劣化を抑制できるイオン交換処理ガラス製造方法、これを用いた化学強化ガラス製造方法、これら製造方法に用いるイオン交換処理装置を提供することができる。
本実施形態のイオン交換処理ガラス製造方法に用いられるイオン交換処理装置の一例を示す概略模式図である。 本実施形態のイオン交換処理ガラス製造方法に用いられるイオン交換処理装置の他の例を示す概略模式図である。 本実施形態のイオン交換処理ガラス製造方法に用いられるイオン交換処理装置のさらに他の例を示す概略模式図である。
本実施形態のイオン交換処理ガラス製造方法は、LiOおよびNaOを含む未処理ガラスを、Liイオンを含みかつ下式(1)を満たす第一の溶融塩中に浸漬してイオン交換処理を行う第一のイオン交換処理工程と、第一のイオン交換処理工程を経た後に、NaイオンおよびKイオンを含みかつ下式(1)を満たす第二の溶融塩中に浸漬してイオン交換処理を行う第二のイオン交換処理工程と、を少なくとも経ることにより、イオン交換処理されたガラスを製造することを特徴とする。
・式(1)C1(Li)>C2(Li)≧0
ここで、式(1)中、C1(Li)は、上記第一の溶融塩中に含まれるLiイオン濃度(ppm)を表し、C2(Li)は、上記第二の溶融塩中に含まれるLiイオン濃度(ppm)を表す。
本実施形態のイオン交換処理ガラス製造方法によれば、イオン交換処理を利用してガラス製品を製造する場合に、イオン交換処理量に対する溶融塩の交換頻度を小さくしても、ガラス製品の品質劣化を抑制できる。このような効果が得られる理由については、本発明者らは、以下のように推定している。
まず、アルミノシリケートガラスなどのように、イオン交換処理の対象イオンとして、LiイオンやNaイオンを含むガラスを、イオン交換処理して、これらのイオンをよりイオン半径の大きいNaイオンやKイオンに交換する場合、一般的には、硝酸カリウムや、硝酸カリウムと硝酸ナトリウムとの混合塩からなる溶融塩中に浸漬処理する。この浸漬処理は、特許文献3に例示したような特殊なケースを除いて、通常は1段階処理である。
そして、この溶融塩を用いて、イオン交換処理を繰り返し行った場合、たとえば、ガラス中のNaイオンに着目すると、イオン交換処理を開始した初期においては、溶融塩の組成はフレッシュであるため、下記反応1(フレッシュ組成溶融塩)に示すイオン交換反応が優勢であるといえる。しかし、同じ溶融塩を用いてイオン交換処理を繰り返すと、ガラス中のLiイオンがイオン交換されることにより、溶融塩中のLiイオン濃度が徐々に増大する。そして、溶融塩の組成が劣化してきたイオン交換処理の後期においては、相対的に下記反応2(劣化組成溶融塩)に示すイオン交換反応が優勢になってくるものと推定される。なお、上述したような従来の典型的なイオン交換処理や、後述する本実施形態のイオン交換処理ガラス製造方法においては、実際問題として、反応1、2以外にも種々のイオン同士のイオン交換が起こっていると考えられる。しかしながら、以下の説明においては、説明を簡略化して理解を容易とする都合上、主に、イオン交換実施前のガラス中に含まれるNaイオン、イオン交換によりガラス中に導入されたLiイオン、および、溶融塩中のLiイオンやKイオンに着目して説明することとする。
・反応1(フレッシュ組成溶融塩)
Kイオン(溶融塩中)⇔Naイオン(ガラス中)
・反応2(劣化組成溶融塩)
Liイオン(溶融塩中)⇔Naイオン(ガラス中)
なお、イオン交換処理の後期において反応2が優勢になっている点については、本発明者らは、化学強化ガラスの製造に際して品質劣化の有無に捉われずに実施した原理確認実験からも確認している。すなわち、本発明者らは、LiイオンおよびNaイオンを含むガラスを、硝酸カリウムと硝酸ナトリウムとを含む溶融塩中にて、イオン交換処理を繰り返し行った場合、最終的には、ガラスを溶融塩に浸漬しただけで、ガラスが破断してしまうことを確認した。この結果は、ガラス中のNaイオンが、Naイオンよりもイオン半径の小さいLiイオンにイオン交換される反応が優勢となった結果、ガラス表層に、機械的強度を向上させる圧縮応力層ではなく、機械的強度を劣化させる引張応力層が形成されたことを示唆するものと考えられるからである。
しかし、本実施形態のイオン交換処理ガラス製造方法では、上述したように第一のイオン交換処理工程と、第二のイオン交換処理工程とをこの順に実施する。そして第一のイオン交換処理工程において、式(1)に示すLiイオン濃度が相対的に高い第一の溶融塩を使用する。このため、第一のイオン交換処理工程では、反応2が優勢である。すなわち、ガラス中のNaイオンは、主に第一の溶融塩中のLiイオンに交換される。続いて、第二のイオン交換処理工程において、式(1)に示すLiイオン濃度が相対的に低い第二の溶融塩を使用する。そして第二のイオン交換処理工程を実施する直前のガラスの表層は、第一のイオン交換処理工程の実施前よりも、Naイオンがより少なく、Liイオンがより多く含まれた状態となっている。このため、第二のイオン交換処理工程では、ガラス中に元々存在するNaイオンやLiイオンと第二の溶融塩中のKイオンとのイオン交換の他に、第一のイオン交換処理工程において、ガラス中に新たに導入されたLiイオンと第二の溶融塩中のKイオンとのイオン交換も促進される。
ここで、本実施形態のイオン交換処理ガラス製造方法では、2つのイオン交換処理工程を経て最終的に得られるイオン交換処理ガラスの表層にイオン交換により導入されたイオン(導入イオン)は、イオン交換処理前のガラスの表層に含まれるイオン(初期イオン)よりもイオン半径が大きいものである。この点のみを考慮すれば、本質的に必要なイオン交換処理工程は、従来の一段階でイオン交換処理を行う場合と同様に第二のイオン交換処理工程のみであり、敢えて、初期イオンよりもイオン半径の小さいイオンにイオン交換処理する第一のイオン交換処理工程は不要であると考えられる。しかしながら、第二のイオン交換処理工程の前に、第一のイオン交換処理工程を実施することで、以下に示すメリットが得られる。
まず、第二のイオン交換処理工程を繰り返し実施した場合、第二の溶融塩のLiイオン濃度が増大して、最終的には利用できなくなる。これに対して、第一のイオン交換処理工程で用いる第一の溶融塩は、式(1)に示すLiイオン濃度の関係からも明らかなように、第二のイオン交換処理工程で用いる第二の溶融塩よりもLiイオン濃度が相対的に高い。そして、第二のイオン交換処理工程で繰り返し利用することによって組成が劣化した第二の溶融塩のLiイオン濃度は、組成の劣化が進行するに従い第一のイオン交換処理工程で用いるのに好適な第一の溶融塩のLiイオン濃度に近づく。このため、第二のイオン交換処理工程で利用できなくなった組成の劣化した溶融塩については、Liイオンの濃度を微調整することで容易に第一のイオン交換処理工程用の第一の溶融塩として再利用できる。
このようなLiイオン濃度が増大して組成が劣化した溶融塩は、従来のイオン交換処理であれば、目的とするガラス製品を製造する上で品質が確保できなくなるため、利用不能となって廃棄処分されるものである。しかし、本実施形態のイオン交換処理ガラス製造方法では、上述したように第二の溶融塩中のLiイオンの濃度が増大して組成が劣化した溶融塩を、第一のイオン交換処理工程用の第一の溶融塩として再利用できる。このため、イオン交換処理工程全体として見た場合に、一ロット分のガラスに相当する量などの単位イオン交換処理量当たりの第一の溶融塩の交換頻度を低減させることができる。
また、第一のイオン交換処理工程を経た後に第二のイオン交換処理工程することで、同じ第二の溶融塩を用いて第二のイオン交換処理工程を繰り返し実施しても、最終的に得られるイオン交換処理ガラスの品質劣化を抑制し易くなる。すなわち、第二の溶融塩の組成が劣化しても、これに伴うイオン交換処理ガラスの品質劣化が起こりにくい。
この理由は以下の通りであると推定される。まず、第一のイオン交換処理工程により、ガラスの表層中の大きなイオン(Naイオン)が小さなイオン(Liイオン)に交換されるため、ガラスの表層のガラス網目構造は、隙間が多くなる。このため、第一のイオン交換処理工程後のガラスの表層は、第二のイオン交換処理工程でガラス中に導入されるKイオンが拡散移動し易い状態になっているものと考えられる。
すなわち、フィックの法則からも明らかなように、物質の拡散は、濃度勾配と拡散定数とにより支配される。このため、従来の1回のイオン交換処理を行う場合と、本実施形態のイオン交換処理ガラス製造方法とを比較した場合、ガラス中のイオンと溶融塩中のイオンとの相互拡散現象であるイオン交換処理を行う場合に、イオン交換処理を繰り返すことで濃度勾配が段々と小さくなる点(すなわち、溶融塩の組成の劣化が進行する点)は共通する。しかし、拡散定数に着目すると、従来と比べて、本実施形態のイオン交換処理ガラス製造方法の方がより拡散定数は大きくなる(すなわち、ガラスの表層のガラス網目構造の隙間が多くなり、ガラス中をKイオンが拡散移動する際の抵抗が少なくなる)ものと考えられる。以上のことから、従来と比べて、本実施形態のイオン交換処理ガラス製造方法の方が、イオン交換プロセスが、第二の溶融塩の組成の劣化の影響をより受けにくくなるものと推定される。したがって、上述したように第二の溶融塩の組成が劣化しても、これに伴うイオン交換処理ガラスの品質劣化が起こりにくくなるものと言える。また、この点を言い換えれば、従来の1回処理と同様に、第二のイオン交換処理工程のみを単体で実施する場合よりも、第一のイオン交換処理工程と第二のイオン交換処理工程とを組み合わせて実施した方が、所定の品質のガラス製品を製造する上で、第二のイオン交換処理工程に用いる第二の溶融塩の交換頻度をより少なくすることができるとも言える。
さらに、上述したようなメカニズムから、同じ組成の第二の溶融塩を用いて同程度の品質のガラス製品を製造するために、第二のイオン交換処理工程のみを単体で実施する場合よりも、第一のイオン交換処理工程と第二のイオン交換処理工程とを組み合わせて実施した方が、第二のイオン交換処理工程におけるイオン交換処理に要する時間をより短時間とすることも期待できる。
−溶融塩−
次に、本実施形態のイオン交換処理ガラス製造方法に用いる2種類の溶融塩の詳細について説明する。まず、第一のイオン交換処理工程に用いる第一の溶融塩、および、第二のイオン交換処理に用いられる第二の溶融塩は、式(1)に示す関係を満たすものであれば、そのLiイオン濃度の絶対値は特に限定されるものではない。しかしながら、第一の溶融塩は下式(2)を満たし、第二の溶融塩は下式(3)を満たすことが特に好ましい。
・式(2) C1(Li)≧500
・式(3) 2000≧C2(Li)≧0
なお、式(2)および式(3)中、C1(Li)、C2(Li)は、式(1)に示すC1(Li)、C2(Li)と同様である。但し、式(2)および式(3)の重複範囲(500ppm〜2000ppm)においては、C1(Li)およびC2(Li)は、常に式(1)に示す関係を満たす。
Liイオン濃度C1(Li)は、式(1)を満たすことが必要であり、式(2)に示されるように500ppm以上であることが好ましく、1000ppm以上であることがより好ましく、2000ppm以上であることが特に好ましい。Liイオン濃度C1(Li)を500ppm以上とすることにより、ガラスの表層に含まれるNaイオンを、第一の溶融塩中に含まれるLiイオンにイオン交換する反応がより確実に優勢となるため、上述したように第二の溶融塩の組成が劣化してもこれに伴うイオン交換処理ガラスの品質劣化を防止すると共に、所定の品質のガラス製品を製造する上で、第二のイオン交換処理工程に用いる第二の溶融塩の交換頻度をより少なくすることができる。
なお、Liイオン濃度C1(Li)の上限は特に限定されないが、濃度が高すぎる場合は、ガラスの表層に形成される引張応力層の引張応力が大きくなり易く、結果として、ガラスの破断が発生し易くなる場合がある。また、このようなガラスの破断を回避するためには、イオン交換処理時間やイオン交換温度を制御する必要があるが、濃度が高すぎるために、安定した制御が困難となる場合がある。このような観点からは、Liイオン濃度C1(Li)の上限は、実用上20000ppm以下とすることが好ましく、15000ppm以下とすることが好ましい。
第一の溶融塩に含まれるアルカリ金属イオンとしてはLiイオンのみであってもよいが、Liイオン以外のアルカリ金属として、Naイオン、Kイオン等のその他のアルカリ金属が含まれていてもよいが、通常はNaイオンおよび/またはKイオンが含まれていることが好ましい。なお、アルカリ金属イオンのカウンターイオンとしては、通常、硝酸イオンが用いられる。
第一の溶融塩は、式(1)に加えより望ましくは式(2)も満たす所定の組成となるように、市販の塩を用いて調合してもよいが、通常は、コストダウンを図る観点から、第二のイオン交換処理工程を繰り返し実施することにより組成が劣化した第二の溶融塩を再利用することが好ましい。この場合、式(1)に加えより望ましくは式(2)も満たすように硝酸リチウムを添加するなどによりLiイオン濃度を微調整することで、組成が劣化した第二の溶融塩から第一の溶融塩を調合することができる。あるいは、第一のイオン交換処理工程を繰り返し実施することによりLiイオン濃度が低下して、組成が劣化した溶融塩を再利用してもよい。この場合も、Liイオン濃度を微調整することにより、組成が劣化した溶融塩を再生することができる。また、第一のイオン交換処理工程を繰り返し実施する場合において、第一の溶融塩のLiイオン濃度を逐次モニターすることで、Liイオン濃度C1(Li)が常に式(1)に加えより望ましくは式(2)も満たすように、必要に応じてLiイオン濃度を適宜調整してもよい。
一方、第二のイオン交換処理工程に用いる第二の溶融塩は、NaイオンおよびKイオンを含む。これに加えて、Liイオン濃度C2(Li)は、式(1)を満たすことが必要であり、式(3)に示すように2000ppm以下であることが好ましく、1000ppm以下であることがより好ましく、500ppm以下であることが特に好ましい。Liイオン濃度C2(Li)を2000ppm以下とすることにより、第一のイオン交換処理工程を終えたガラスの表層に含まれるNaイオンやLiイオンを、第二の溶融塩中に含まれるより大きなイオン半径を有するイオン(NaイオンやKにイオン)により効率的にイオン交換することができる。このため、ガラスの表層に、2段階のイオン交換処理を実施する前よりもより大きなイオン半径を有するイオンを導入したイオン交換処理ガラスを得ることができる。したがって、たとえば、化学強化ガラスの製造を目的とする場合は、ガラスの表層にイオン交換された層(イオン交換層)として所望の圧縮応力層がより効率的に形成でき、屈折率分布を有する光学部品の製造を目的とする場合は、ガラスの表面にイオン交換層として所望の屈折率分布層がより効率的に形成できる。なお、Liイオン濃度C2(Li)の下限は0ppmである。
第二の溶融塩にはアルカリ金属イオンとしてNaイオンおよびKイオンが含まれ、さらに必要に応じて式(1)に加えてより望ましくは式(3)も満たす範囲内でLiイオンが含まれていてもよい。また、これら以外のアルカリ金属イオンが含まれていてもよい。なお、アルカリ金属イオンのカウンターイオンとしては、通常、硝酸イオンが用いられる。また、NaイオンやKイオンの濃度は、イオン交換処理により作製するガラス製品の仕様や、イオン交換処理条件などに応じて適宜選択できる。しかしながら、硝酸塩を用いたとした場合、全溶融塩中に占める硝酸ナトリウム(すなわちNaイオン源)の含有量は、10質量%〜60質量%程度の範囲内が好ましく、全溶融塩中に占める硝酸カリウム(すなわちKイオン源)の含有量は、40質量%〜90質量%程度の範囲内が好ましい。
−イオン交換処理ガラス製造方法およびイオン交換処理ガラスの用途−
本実施形態のイオン交換処理ガラス製造方法の用途としては、イオン交換処理を利用した各種のガラス製品を製造する用途であれば特に限定されない。たとえば、化学強化ガラス製造方法や、ガラス光学部品の製造方法として利用できる。また、イオン交換処理に用いる未処理ガラスの形状や組成は、目的とするガラス製品に応じて適宜選択できる。たとえば、化学強化ガラスを作製する場合、未処理ガラスの形状としては、通常、板状とすることが好ましい。また、ガラス光学部品を作製する場合、たとえば、屈折率分布型光ファイバーやロッドを作製する場合は、未処理ガラスの形状はファイバー状やロッドとすることが好ましく、屈折率分布型の光導波路やマイクロレンズを作製する場合は板状とすることが好ましい。なお、未処理ガラスの組成の詳細については後述する。
本実施形態のイオン交換処理ガラス製造方法を利用して作製された化学強化ガラスの用途としては特に限定されないが、ガラス基板として表面の耐傷性や耐衝撃性などの機械的強度が主に求められる用途に用いることが好適である。このような用途としては、たとえば、携帯電話等の電子機器に用いられる各種ディスプレイ用カバーガラス、太陽電池用のカバーガラス、タッチパネルディスプレイ用ガラスなどが挙げられる。本実施形態のイオン交換処理ガラス製造方法を利用して作製された化学強化ガラスは、従来の化学強化ガラスと同様に、上述した用途に用いるのに適した機械的強度を容易に得ることができる。たとえば、本実施形態のイオン交換処理ガラス製造方法を利用すれば、上記用途に適した曲げ強度(たとえば、3点曲げ強度で500MPa〜2000MPa程度)を有する化学強化ガラスを容易に得ることができる。
−未処理ガラス−
本実施形態のイオン交換処理ガラス製造方法に用いられる未処理ガラスとしては、LiOおよびNaOを含むものが用いられる。ここで、本明細書において、「未処理ガラス」とは、一般的には、ガラスを溶融成形した後から本実施形態のイオン交換処理ガラス製造方法の実施までの間に何らのイオン交換処理が行われていないガラスを意味する。しかしながら、本質的には、「未処理ガラス」は、第一のイオン交換処理工程を実施した場合に、ガラス中のNaイオンが、第一の溶融塩中のLiイオンとイオン交換される反応が優勢となるものであれば、本実施形態のイオン交換処理ガラス製造方法の実施前に、予めその他のイオン交換処理が施されたものであってもよい。そして、未処理ガラスの製造・入手の容易性や、本実施形態のイオン交換処理ガラス製造方法によりガラス製品を作製した場合に技術面・品質面で実用的なイオン交換処理が可能であるなどの実用上の観点から、未処理ガラスとしては、質量%でLiOを3%〜15%、NaOを3%〜20%の範囲内で含むものを用いることが好ましい。なお、より好適な含有量は、LiOが4%〜10%、NaOが4%〜12%の範囲内である。このような未処理ガラスとしては、石英や無アルカリガラスなどのアルカリ金属を実質的に含まないガラスを除く公知組成のガラスが利用でき、代表的には、アルミノシリケート系ガラス、アルミノホウ酸系ガラス、主にフロート法で作製されるソーダライム系ガラスなどが挙げられる。
未処理ガラスの製造方法としては特に限定されず、公知のガラス製造方法が利用でき、たとえば、フロート法、フュージョンダウンドロー法、ダイレクトプレス法等が利用できる。なお、いずれの方法を選択するかは、未処理ガラスの溶融温度などの物性、未処理ガラスの形状、コスト等に応じて適宜選択できる。
なお、通常、フロート法以外で作製されるアルミノシリケートガラスなどの、非ソーダライム系組成のガラスを未処理ガラスとして用いて化学強化ガラスを製造する場合、未処理ガラスの製造に適した方法としては、量産性等の実用上の観点からフュージョンダウンドロー法またはダイレクトプレス法が挙げられる。しかしながら、イオン交換処理する際の処理時間をより短縮できるという観点からは、これらのガラス製造方法の中でもフュージョンダウンドロー法を選択することがより好適である。
この理由は、表1に示すように、同じアルミノシリケート系組成のガラス基板を用いてエッチング処理を行った場合、そのエッチングレートは、ダイレクトプレス法で作製したガラス基板よりも、フュージョンダウンドロー法で作製したガラス基板の方が、約1.4倍も大きいことが挙げられる。すなわち、この結果は、ダイレクトプレス法よりもフュージョンダウンドロー法の方が、ガラス作製時にガラス基板が急冷され易く、その結果、ガラス基板の密度がより低くなっていることを示唆しているものと考えられる。そして、表2に示すように、両方法で製造されたガラス基板を用いてイオン交換処理を行った場合、厚みが100μmの圧縮応力層の形成に必要な時間は、ダイレクトプレス法では7.3時間であるのに対して、フュージョンダウンドロー法では2.5時間である。なお、参考までに述べれば、ソーダライムガラス基板では、同様の圧縮応力層の形成に必要な時間は、16〜24時間程度である。これらの点を考慮すると、フュージョンダウンドロー法ではガラス基板の密度が低下する結果、イオン交換処理時間を短縮できるものと思われる。以上の点を考慮すると、フュージョンダウンドロー法で作製したガラス基板を用いて化学強化ガラスを作製する場合、イオン交換処理に要する時間を大幅に短縮でき、結果として、大幅に生産性を向上させることができる。
Figure 2011032140
Figure 2011032140
なお、上記表1に示すエッチング条件は以下の通りである。
1)エッチャント組成
硫酸:フッ酸:水=25:15:60(質量比)
2)エッチャント温度
36℃
3)エッチング方式
・ガラス基板を揺動しながらガラス基板上面からシャワーによりエッチング液を付与
・シャワー圧力:0.25MPa
・エッチング液の付与面
ダイレクトプレス成形品:研磨面
フュージョンダウンドロー成形品:成形表面
4)ガラス基板の組成
63.5SiO−8.2Al−8.0LiO−10.4Na
−11.9ZrO(質量%)
5)ガラス基板の形状
縦40mm×横40mm×厚み0.5mm
また、上記表2に示すイオン交換処理条件は以下の通りである。
1)溶融塩組成
硝酸カリウム:硝酸ナトリウム=60:40(質量%比)
2)溶融塩温度
360℃
3)ガラス基板の組成・形状
表1に示す実験に用いたガラス基板と同様
−イオン交換処理工程−
次に、第一および第二のイオン交換処理工程の具体的な実施条件について、既述した溶融塩組成以外の詳細を説明する。第一および第二のイオン交換処理工程における溶融塩の温度、未処理ガラスの浸漬時間については、使用する未処理ガラスのガラス組成や、目的とするガラス製品に要求されるイオン交換層の厚み、使用する溶融塩の組成などに応じて適宜選択できる。しかしながら、一般的には、第一のイオン交換処理工程における溶融塩温度は、300度〜450度程度の範囲とすることができ、第二のイオン交換処理工程における溶融塩温度は300度〜450度程度の範囲とすることができる。また、通常、第一のイオン交換処理工程は、第一の溶融塩に1回だけガラスを浸漬処理することにより実施することが好ましいが、必要であれば2回以上に分けてガラスを浸漬処理することにより実施してもよい。また、この場合、各々の浸漬処理に利用する第一の溶融塩の組成は式(1)を満たす限り、同一であってもよく、異なっていてもよい。なお、この点は第二のイオン交換処理工程を実施する場合でも同様である。
なお、フロート法などで製造されたソーダライムガラス基板や、フュージョンダウンドロー法やダイレクトプレス法などで製造されたアルミノシリケートガラス基板などを用いて、圧縮応力層深さが20μm〜150μm程度の化学強化ガラスを製造する場合、溶融塩温度は、第一のイオン交換処理工程では、300度〜450度の範囲とすることが好ましく、320度〜420度の範囲とすることがより好ましく、第二のイオン交換処理工程では、300度〜450度の範囲とすることが好ましく、320度〜420度の範囲とすることがより好ましい。また、浸漬時間は第一のイオン交換処理工程では、30分〜1500分の範囲とすることが好ましく、120分〜1200分の範囲とすることがより好ましく、第二のイオン交換処理工程では、10分〜1500分の範囲とすることが好ましく、20分〜1000分の範囲とすることがより好ましい。溶融塩温度や浸漬時間を上記範囲内とすることにより、イオン交換処理時におけるガラス基板の破損を防いで歩留まりを確保しつつ、イオン交換処理に要するトータルの時間を短縮できる。また、必要に応じて、溶融塩に未処理ガラスや、第一のイオン交換処理工程を終えたガラスを浸漬する前後での、急加熱や急冷による熱衝撃によってガラスが破損するのを防ぐため、浸漬前にガラスを予熱したり、ガラスを溶融塩から引き上げた後に一定の冷却速度でガラスを徐冷してもよい。
−イオン交換処理装置−
第一および第二のイオン交換処理工程を実施する場合、各々の工程に対応したイオン交換処理槽(以下、「処理槽」と略す場合がある。)が少なくとも各々1つずつ用いられる。これら2つの処理槽に用いられる溶融塩は、イオン交換処理を繰り返すことにより組成が劣化してきたら、1)処理槽中の溶融塩を交換したり、2)処理槽中の溶融塩の組成を、初期の組成に戻すために、不足している成分を追加したり、することができる。第一の溶融塩を満たした第一の処理槽(第一イオン交換処理槽)と、第二の溶融塩を満たした第二の処理槽(第二イオン交換処理槽)とを用いて、本実施形態のイオン交換処理ガラス製造方法を実施する場合、たとえば、以下のように溶融塩を利用することができる。すなわち、所定量の未処理ガラスをイオン交換処理し終えて、溶融塩の組成が劣化した段階で、第一イオン交換処理槽中の溶融塩を廃棄する。そして、空になった第一イオン交換処理槽中に、第二イオン交換処理槽中の溶融塩を移して、必要に応じて、式(1)に加えてより望ましくは式(2)も満たすようにLiイオンの濃度を調整する(全交換方式)。また、空になった第二イオン交換処理槽中には、新たに調合した第二の溶融塩で満たす。あるいは、第一イオン交換処理槽中の溶融塩の一部を廃棄した後、水位が低下した第一イオン交換処理槽中に、第二イオン交換処理槽中の溶融塩の一部を移して、必要に応じて、式(1)に加えてより望ましくは式(2)も満たすようにLiイオンの濃度を調整する。また、水位が低下した第二イオン交換処理槽中には、処理槽中の溶融塩の組成を、初期の組成に戻すために、不足している成分を追加することもできる(部分交換方式)。
このような溶融塩のバッチ交換方式は、イオン交換処理量に対する溶融塩の組成の劣化具合の関係を把握すれば、溶融塩の交換のタイミングを容易に特定できる。この意味では製造プロセスの管理は容易である。しかしながら、バッチ交換方式では、溶融塩の組成が、初期組成に対してある程度劣化してから溶融塩を交換することになる。このため、複数個のガラス毎、すなわちロット単位でイオン交換処理した場合、ロット単位での品質ばらつきが生じることは本質的に避け難い。しかし、ロット単位で品質ばらつきが生じたとしても、本実施形態のイオン交換処理ガラス製造方法では、既述したように、第二のイオン交換処理工程を実施する場合に、イオン交換処理されたガラスの品質が、第二の溶融塩の組成劣化の影響を受けにくい。このため、溶融塩の交換のタイミングさえ間違わなければ、従来と比べて、ロット間の品質ばらつきを抑制できるものと考えられる。
図1は、本実施形態のイオン交換処理ガラス製造方法に用いられるイオン交換処理装置の一例を示す概略模式図であり、具体的には溶融塩をバッチ交換する方式のイオン交換処理装置について示したものである。図1に示すイオン交換処理装置1は、第一イオン交換処理槽10と、第二イオン交換処理槽12とを有している。そして、イオン交換処理を行う際には、第一イオン交換処理槽10には第一の溶融塩20が満たされ、第二イオン交換処理槽12には第二の溶融塩22が満たされる。そして、これらの溶融塩20、22は、不図示のヒーターによって所定の温度に維持される。イオン交換処理に際しては、未処理ガラスが第一の溶融塩20に所定の時間、浸漬処理された後に、続いて第二の溶融塩22に所定の時間、浸漬処理される。そしてイオン交換処理を終えた後は、表面に付着した塩を酸洗浄、水洗浄し、さらに必要に応じて切断や研磨などの後加工を行う。
一方、ロット間での品質ばらつきをより一層抑制するためには、溶融塩の交換をバッチ交換方式で行うのでなく、連続交換方式で行うことが好ましい。このような連続交換方式のイオン交換処理装置としては、溶融塩を保持する2以上の槽と、未処理ガラスのイオン交換処理に用いる塩を供給する塩供給手段とを備え、2以上の槽が、一方の端に配置された槽から他方の端に配置された槽へと溶融塩が移動できるように直列的に接続され、かつ、一方の端に配置された槽に塩が供給できるように塩供給手段が配置されたものが挙げられる。この場合、溶融塩の流れ方向において、上流側に位置する少なくとも1槽を第二のイオン交換処理工程のために利用し、下流側に位置する少なくとも1槽を第一のイオン交換処理工程のために利用し、塩供給手段から供給される塩としては、式(1)に加えてより望ましくは式(3)も満たす塩が用いられる。また、イオン交換処理時には、溶融塩を上流側から下流側へと連続的あるいは逐次的に流れるようにすることが好ましい。この場合、上流側にてLi濃度の低い式(1)を満たす第二の溶融塩は、まず、未処理ガラスとのイオン交換によってLiイオン濃度が増加する。続いて、このLiイオン濃度が増加した溶融塩は、下流にて第一の溶融塩として第一のイオン交換処理工程の実施に利用されることになる。ただし、通常、第一の溶融塩と第二の溶融塩とでは、Liイオン濃度に大きな差がある。このため、第二の溶融塩をイオン交換に利用した結果、Liイオン濃度が増加した溶融塩を、そのまま下流に流して、第一の溶融塩として利用することは困難な場合が多い。この点を考慮すれば、第二のイオン交換処理工程で利用する上流側の槽(第二イオン交換処理槽)と、第一のイオン交換処理工程で利用する下流側の槽(第一イオン交換処理槽)との間に、Liイオン濃度を第一のイオン交換処理工程で利用するのに適した濃度に調整することを主目的とした槽(調整槽)を1槽以上設けることが好ましい。この場合、イオン交換処理装置を構成する槽数は3以上であれば特に限定されないが、通常は、装置の構成を簡略化するなどの観点から、槽数は3つとすることが特に好ましい。
ここで、調整槽では、上流側の第二のイオン交換処理槽から流れ込んだ溶融塩のLiイオンの濃度を式(1)に加えてより望ましくは式(3)を満たすように調整した後、この濃度調整された溶融塩を、下流側の第一イオン交換処理槽へと流す。Liイオンの濃度の調整方法としては、硝酸リチウム等のLiを含む塩の追添加が挙げられる。また、Liを含むガラスを利用してイオン交換によりLiイオンの濃度を調整してもよい。この場合は、たとえば、未処理ガラスを、調整槽、第一イオン交換処理槽、第二イオン交換処理槽の順に浸漬処理するプロセス(プロセスA)、あるいは、第一イオン交換処理槽、調整槽、第二イオン交換処理槽の順に浸漬処理するプロセス(プロセスB)を実施できる。
しかしながら、プロセスAおよびプロセスBのうち、プロセスAを実行することがより好ましい。これは、下記に示すように、各槽におけるガラス表層および溶融塩のLiイオン濃度として、本実施形態のイオン交換処理ガラス製造方法を実施する上で要求される定性的変化を考慮した場合、プロセスAでは、調整槽および第一のイオン交換処理槽のいずれにおいても、ガラス側と溶融塩側との間で十分な濃度勾配が確保し易いのに対して、プロセスBでは、調整槽において、ガラス側と溶融塩側との間で十分な濃度勾配の確保が困難となる可能性が高くなるからである。すなわち、この場合、ガラス側と溶融塩側との間の濃度勾配が不十分なため、ガラス中のLiイオンを溶融塩中に移動させることが困難となり、調整槽中の溶融塩を、そのLiイオン濃度を式(1)を満たすように調整して下流側の第一イオン交換処理槽に供給することが困難となるためである。
<プロセスAにおけるガラス表層および溶融塩のLiイオン濃度の定性的変化>
・1回目のイオン交換処理(調整槽)
ガラス側(小(初期濃度)→中)、溶融塩側(中→大)
・2回目のイオン交換処理(第一イオン交換処理槽)
ガラス側(中→大)、溶融塩側(大→中)
・3回目のイオン交換処理(第二イオン交換処理槽)
ガラス側(大→小)、溶融塩側(小(初期濃度)→中)
<プロセスBにおけるガラス表層および溶融塩のLiイオン濃度の定性的変化>
・1回目のイオン交換処理(第一イオン交換処理槽)
ガラス側(小(初期濃度)→中)、溶融塩側(大→中)
・2回目のイオン交換処理(調整槽)
ガラス側(中→大)、溶融塩側(中→大)
・3回目のイオン交換処理(第二イオン交換処理槽)
ガラス側(大→小)、溶融塩側(小(初期濃度)→中)
なお、調整槽におけるイオン交換処理において、調整槽に満たされた溶融塩(以下、「調整溶融塩」と称す場合がある。)は、式(1)や式(2)を満たしていても満たしていなくてもよい。ただし、溶融塩中のLiイオンが、ガラス中に含まれるよりイオン半径の大きなイオン(Naイオン等)とイオン交換される反応が優勢となるように、溶融塩中のLiイオン濃度が設定される必要がある。
図2は、本実施形態のイオン交換処理ガラス製造方法に用いられるイオン交換処理装置の一例を示す概略模式図であり、具体的には溶融塩を連続交換する方式のイオン交換処理装置について示したものである。図2に示すイオン交換処理装置2は、塩供給手段30と、第一イオン交換処理槽32と、調整槽34と、第二イオン交換処理槽36とを有している。そして、3つの槽32、34、36は、図中、右から左側へと第一イオン交換処理槽32、調整槽34、および、第二イオン交換処理槽36の順に配置され、第二イオン交換処理槽36の調整槽34が配置された側と反対側には、第二イオン交換処理槽36にフレッシュな塩を供給する塩供給手段30が配置される。また、第一イオン交換処理槽32の調整槽34が配置された側と反対側には、排出管40が接続され、第一イオン交換処理槽32と、調整槽34とは、接続管42により接続され、調整槽34と、第二イオン交換処理槽36とは、接続管44により接続される。そして、イオン交換処理を行う際には、第一イオン交換処理槽32には第一の溶融塩50Aが入れられ、調整槽34には調整溶融塩50Bが満たされ、第二イオン交換処理槽36には第二の溶融塩50Cが入れられる。ここで、溶融塩50(50A、50B、50C)は、不図示のヒーターによって所定の温度に維持される。なお、塩供給手段30から供給されるフレッシュな塩は、式(1)を満たすように(より望ましくは式(2)を満たすように)Liイオン濃度が調整された塩である。また、フレッシュな塩は、供給に際して固化した状態であってもよく、溶融した状態であってもよい。なお、第二イオン交換処理槽36中に満たされた第一の溶融塩50Cの温度の大幅な変動を防ぎたい場合は、フレッシュな塩は溶融した状態で供給されることが好ましい。
イオン交換処理に際しては、調整溶融塩50Bも用いてイオン交換処理する場合は、未処理ガラスが調整溶融塩50Bに所定の時間、浸漬処理された後に、第一の溶融塩50Aに所定の時間、浸漬処理され、その後、第二の溶融塩50Cに所定の時間、浸漬処理されるか(プロセスA)、あるいは、未処理ガラスが第一の溶融塩50Aに所定の時間、浸漬処理された後に、調整溶融塩50Bに所定の時間、浸漬処理され、その後、第二の溶融塩50Cに所定の時間、浸漬処理される(プロセスB)。また、調整溶融塩50Bを用いずにイオン交換処理する場合は、未処理ガラスが第一の溶融塩50Aに所定の時間、浸漬処理された後に、第二の溶融塩50Cに所定の時間、浸漬処理される(プロセスC)。
また、溶融塩50は、基本的に、第二イオン交換処理槽36へと塩供給手段30からフレッシュな塩が供給された分だけ、第二イオン交換処理槽36から、接続管44、調整槽34、接続管42、第一イオン交換処理槽32、および、排出管40を経て、不図示の廃棄タンクへと順次移動する。なお、第一の溶融塩50A、調整溶融塩50B、第二の溶融塩50CのLiイオン濃度等の組成は、塩供給手段30から供給されるフレッシュな塩の組成や単位時間当たりの供給量、単位時間当たりのイオン交換処理量等を適宜調整することで、それぞれ略一定に維持される。また、必要に応じて、調整溶融塩50Bや第二の溶融塩50Cの組成のズレを微調整するために、調整槽34や第一イオン交換処理槽32に所定の組成の塩を供給する塩供給手段を設けてもよい。
なお、溶融塩50の移動は、排出管40、接続管42、44のそれぞれに一方向弁を設けることにより一定方向に流れるようにしている。また、溶融塩50の移動は、ポンプなどを用いて実施することもできる。しかし、イオン交換処理装置2の構成をより簡素化できる等の観点からは、第一イオン交換処理槽32、調整槽34および第二イオン交換処理槽36内に満たされた溶融塩50の液面に高低差を設けることで、溶融塩50を移動させてもよい。
図3は、本実施形態のイオン交換処理ガラス製造方法に用いられるイオン交換処理装置の一例を示す概略模式図であり、原理的には図2に示すイオン交換処理装置2と同様の構成を有するイオン交換処理装置について示した図である。ここで、図3中、図2に示すものと実質的に同様の機能および構造を有する部材には同じ符号が付してある。図3に示すイオン交換処理装置3は、塩供給手段30、第一イオン交換処理槽32、調整槽34、および、第二イオン交換処理槽36が一体的に構成され、互いに隣合う槽同士は、槽を構成する壁面の一部を共有している。また、各槽32、34、36および塩供給手段30の高さは、第一イオン交換処理槽32、調整槽34、第二イオン交換処理槽36および塩供給手段30の順に高くなるように設定されている。
そして、第一イオン交換処理槽32の調整槽34が設けられた側と反対側の壁面の上部には、第一イオン交換処理槽32内で余剰となった第一の溶融塩50Aを排出するための開口部60が設けられ、調整槽34の第一イオン交換処理槽32が設けられた側の壁面の上部には、調整槽34内で余剰となった調整溶融塩50Bを調整槽34側から第一イオン交換処理槽32へと排出する開口部62が設けられ、第二イオン交換処理槽36の調整槽34が設けられた側の壁面の上部には、第二イオン交換処理槽36内で余剰となった第二の溶融塩50Cを第二イオン交換処理槽36側から調整槽34側へと排出する開口部64が設けられている。さらに、塩供給手段30の第二イオン交換処理槽36が設けられた側の壁面の上部には、第二イオン交換処理槽36にフレッシュな塩を供給するための開口部66が設けられている。このため、このイオン交換処理装置3においては、塩供給手段30から供給されたフレッシュな塩の供給量に対応して、各槽32、34、36に満たされたそれぞれの溶融塩50がオーバーフローして、上流側の槽36から下流側の槽32へと、溶融塩50が自動的に流れることができる。したがって、上流側の槽36から下流側の槽32へと、溶融塩50を移動させるために、ポンプや接続管などが不要となり、イオン交換処理装置の構成をより簡略化できる。
以上に説明したように本実施形態のイオン交換処理ガラス製造方法は、LiOおよびNaOを含む未処理ガラスを用いて、式(1)を満たす2種類の溶融塩によりイオン交換処理して、未処理ガラス中のアルカリ金属イオン(Liイオン、Naイオン)を、一旦、よりイオン半径の小さなアルカリ金属イオンにイオン交換した後、次に未処理ガラス中に当初含まれていたアルカリ金属イオンよりもよりイオン半径の大きなアルカリ金属イオン(Naイオン、Kイオン)にイオン交換するものである。しかしながら、本実施形態のイオン交換処理ガラス製造方法の技術的思想は、ガラス中のアルカリ金属イオンが、最終的によりイオン半径の大きなアルカリ金属イオンに交換されたガラス製品を製造する目的であれば、如何なるアルカリ金属イオン種同士のイオン交換処理にも応用可能である。
たとえば、少なくともYOを含む未処理ガラスを、Xイオンを含み、かつ、下式(4)を満たす第一の溶融塩中に浸漬してイオン交換処理する第一のイオン交換処理工程と、この第一のイオン交換処理工程を経た後にZイオンを含み、かつ、下式(4)を満たす第二の溶融塩中に浸漬してイオン交換処理する第二のイオン交換処理工程と、を少なくとも経ることにより、イオン交換処理されたガラスを製造することができる。
・式(4) C1(X)>C2(X)≧0
ここで、式(4)中、C1(X)は、第一の溶融塩中に含まれるXイオン濃度(ppm)を表し、C2(X)は、第二の溶融塩中に含まれるXイオン濃度(ppm)を表す。また、X、Y、Zは互いに異なる種類のアルカリ金属を表し、そのイオン半径は、X<Y、および、X<Zなる関係を満たす。ここで、(X、Y、Z)の組み合わせとしては、たとえば、(Li、Na、Tl)、(Li、K、Tl)、(Na、K、Tl)、(Li、Na、Ag)、(Li、K、Ag)などが挙げられる。
以下に本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものでは無い。
(未処理ガラス)
イオン交換処理に用いた未処理ガラスとしては、縦80mm×横45mm×厚み0.5mmの以下の板状ガラスを準備した。
<ガラスA>
・アルミノシリケートガラス基板(HOYA株式会社製、N5)
・LiO含有量(質量%):8.0
・NaO含有量(質量%):10.4
<ガラスB>
・SiO−Al−CaO−MgO−LiO−NaO系ガラス基板
・LiO含有量(質量%):3.0
・NaO含有量(質量%):15.0
<ガラスC>
・SiO−Al−ZnO−MgO−LiO−NaO−KO系ガラス基板
・LiO含有量(質量%):11.5
・NaO含有量(質量%):7.0
(実施例1)
イオン交換処理には、図1に示すイオン交換処理装置1を用いた。このイオン交換処理に際しては、第一イオン交換処理槽10に、100kgの第一の溶融塩20が満たされ、
第二イオン交換処理槽12に、100kgの第二の溶融塩22が満たされている。各々の溶融塩の調合時の組成は表3に示す通りである。
イオン交換処理に際しては、まず、ステンレス製の基板ホルダーにガラスAを500枚セットし、これを1ロットとした。次に、1ロット分のガラスAを表3に示す温度・浸漬時間にて第一の溶融塩20、第二の溶融塩22の順に浸漬処理した。そして、このイオン交換処理を、第一の溶融塩20および第二の溶融塩22を交換することなく、100ロット目まで、連続して実施した。イオン交換処理を終えたガラスについては、酸洗浄、水洗を行った後、1ロット目、20ロット目、40ロット目、60ロット目、80ロット目および100ロット目について、各々3枚ずつサンプルを取り出して3点曲げ強度を測定し、その平均値を求めた。結果を表3に示す。
−3点曲げ強度−
3点曲げ強度の測定には、測定器として精密荷重測定器(アイコーエンジニアリング製、モデル1311VRW)を用いた。測定に際しては、2本のステンレス棒(直径10mm)を、50mmの間隔で平行に配置した後に、この2本のステンレス棒上にガラスサンプルを配置した。次に、このガラスサンプルの2本のステンレス棒の中央部に位置する箇所に荷重を加えて測定した。この際、ヘッドスピードは10mm/minに設定し、また、曲げ強度の初期荷重値は、未処理ガラスが、ガラスA(N5基板)の場合は800〜1000MPa程度に設定し、ガラスBおよびガラスCの場合は500〜700MPa程度に設定した。そして、測定に際しては、同じ種類のサンプルについて3回実施し、その平均値を3点曲げ強度とした。なお、表3に示す3点曲げ強度の評価基準は以下の通りである。
◎:イオン交換処理されたガラスの3点曲げ強度S1が、未処理ガラスの3点曲げ強度S0の4倍以上
○:S1が、S2の3倍以上4倍未満
△:S1が、S2の1.5倍以上3倍未満
×:S1が、S2の1.5倍未満
(比較例1)
実施例1において、第二の溶融塩22が満たされた第二のイオン交換処理槽12のみを用いて、表3に示す条件で繰り返しイオン交換処理を行った以外は、実施例1と同様にしてイオン交換処理サンプルを得た。これらサンプルについては実施例1と同様に3点曲げ強度を測定した。なお、イオン交換処理は、3点曲げ強度の低下が著しくなったため、80ロット目で中止した。
(実施例2〜3)
未処理ガラスの種類や、イオン交換処理条件を表3に示すように変更した以外は、第一の溶融塩20および第二の溶融塩22を交換することなく、実施例1と同様にして100ロット目までイオン交換処理を実施した。得られたサンプルの3点曲げ強度を表3に示す。
(実施例4)
イオン交換処理には、図3に示すイオン交換処理装置3を用いた。このイオン交換処理に際しては、第一イオン交換処理槽60に、100Kgの第一の溶融塩50Aが満たされ、第二イオン交換処理槽36に、100Kgの第二の溶融塩50Cが満たされている。各々の溶融塩の調合時の組成は表3に示す通りである。
そして、100ロット連続でイオン交換処理を実施した。この際、第二の溶融塩50CのLiイオン濃度が、表3に示される値の±10%以内に収まるように、適宜、塩供給手段30からフレッシュな塩を供給した。また、第一の溶融塩50AのLiイオン濃度が表3に示される値の±10%以内に収まるように、適宜、調整槽34中の調整溶塩50Bに、硝酸リチウムを追添加してLiイオン濃度を制御した。
(実施例5〜7)
実施例1において、イオン交換処理条件を表3に示す条件に変更してイオン交換処理を行った以外は、実施例1と同様にしてイオン交換処理サンプルを得た。そして、このサンプルについて、3点曲げ強度を評価した。結果を表3に示す。
Figure 2011032140
実施例1および比較例1の結果から明らかなように、イオン交換処理に要するトータルの浸漬時間は、実施例1および比較例1共に同じであるにも関わらず、実施例1に比べて、比較例1では、イオン交換処理の繰り返しによる3点曲げ強度の低下が著しかった。なお、実施例1の100ロット目と比較例1の60ロット目とは、ほぼ同程度の3点曲げ強度を示しているが、この値が、最低の品質基準ラインと仮定した場合は、実施例1では、100ロット目前後で、比較例1では60ロット目前後で、溶融塩の交換が必要となることがわかる。ただし、実施例1では、溶融塩を交換する場合は、第二の溶融塩のみ全交換すればよく、第一の溶融塩については、100ロットのイオン交換処理を終えた第二の溶融塩のLiイオン濃度を調整することで再利用できる。以上のことから、比較例1と比べて実施例1では、長期に亘って所望の品質が維持でき、溶融塩の交換頻度も少なくて済むことが分った。
また、実施例2〜3に示す結果から明らかなように、未処理ガラスの種類を変えても、実施例1と同様に100ロット目まで、ガラスの機械的強度を十分に向上させる効果が得られることがわかった。
また、実施例4に示す結果から明らかなように、Liイオン濃度の変動を所定の範囲内となるように適宜制御しながらイオン交換する場合は、実施例1と比べて1ロット目〜10ロット目まで、安定して高い機械的強度を得ることができた。また、100ロット目終了時において、開口部60から排出された溶融塩(廃棄塩)の総量は、約55Kgであり、1ロット当たりの消費量に換算すると0.55Kgである。これに対して、実施例1において3点曲げ強度が低下してきた100ロット目で、第一の溶融塩100kgを全量廃棄して、第二の溶融塩100kgについては破棄せずに硝酸リチウムの追添加によってLiイオン濃度を調整することで新たに第一の溶融塩として再利用する場合、1ロット当たりの消費量は1.0Kgである。また、比較例1において3点曲げ強度が低下してきた60ロット目で溶融塩を全交換する場合は1ロット当たりの消費量は1.67Kgである。以上の点からは、実施例4が、溶融塩の1ロット当たりの消費量が少ないことがわかった。
1、2、3 イオン交換処理装置
10 第一イオン交換処理槽
12 第二イオン交換処理槽
20 第一の溶融塩
22 第二の溶融塩
30 塩供給手段
32 第一イオン交換処理槽
34 調整槽
36 第二イオン交換処理槽
40 排出管
42、44 接続管
50 溶融塩
50A 第一の溶融塩
50B 調整溶融塩
50C 第二の溶融塩
60、62、64、66 開口部

Claims (8)

  1. LiOおよびNaOを含む未処理ガラスを、Liイオンを含みかつ下式(1)を満たす第一の溶融塩中に浸漬してイオン交換処理を行う第一のイオン交換処理工程と、
    該第一のイオン交換処理工程を経た後に、NaイオンおよびKイオンを含みかつ下式(1)を満たす第二の溶融塩中に浸漬してイオン交換処理を行う第二のイオン交換処理工程と、を少なくとも経ることにより、イオン交換処理されたガラスを製造することを特徴とするイオン交換処理ガラス製造方法。
    ・式(1)C1(Li)>C2(Li)≧0
    〔式(1)中、C1(Li)は、上記第一の溶融塩中に含まれるLiイオン濃度(ppm)を表し、C2(Li)は、上記第二の溶融塩中に含まれるLiイオン濃度(ppm)を表す。〕
  2. 請求項1に記載のイオン交換処理ガラス製造方法において、
    下式(2)および下式(3)を満たすことを特徴とするイオン交換処理ガラス製造方法。
    ・式(2) C1(Li)≧500
    ・式(3) 2000≧C2(Li)≧0
    〔式(2)および式(3)中、C1(Li)、C2(Li)は、前記式(1)に示すC1(Li)、C2(Li)と同様である。〕
  3. 請求項1または請求項2に記載のイオン交換処理ガラス製造方法において、
    前記第一の溶融塩が、Liイオンに加えて、さらにNaイオンおよびKイオンを含むことを特徴とするイオン交換処理ガラス製造方法。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載のイオン交換処理ガラス製造方法において、
    前記第一の溶融塩が、前記第二のイオン交換工程を繰り返し実施することにより組成が劣化した第二の溶融塩を再利用して調合された溶融塩であることを特徴とするイオン交換処理ガラス製造方法。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載のイオン交換処理ガラス製造方法を利用した化学強化ガラス製造方法であて、
    前記未処理ガラスの形状が板状であり、前記イオン交換処理されたガラスが化学強化ガラスであることを特徴とする化学強化ガラス製造方法。
  6. 請求項5に記載の化学強化ガラス製造方法において、
    前記板状の未処理ガラスが、フュージョンダウンドロー法により形成された板状ガラスであることを特徴とする化学強化ガラス製造方法。
  7. 請求項5または請求項6に記載の化学強化ガラス製造方法において、
    前記化学強化ガラスが、携帯電話のディスプレイのカバーガラスとして利用されることを特徴とする化学強化ガラス製造方法。
  8. 溶融塩を保持する2以上の槽と、
    未処理ガラスのイオン交換処理に用いる塩を供給する塩供給手段とを備え、
    上記2以上の槽が、一方の端に配置された槽から他方の端に配置された槽へと溶融塩が移動できるように直列的に接続され、かつ、
    上記一方の端に配置された槽に塩が供給できるように上記塩供給手段が配置されていることを特徴とするイオン交換処理装置。
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