JP2007501847A - 自己/同種免疫状態の治療用抗FcRn抗体 - Google Patents

自己/同種免疫状態の治療用抗FcRn抗体 Download PDF

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Abstract

FcRnに対する抗体を提供する。これは、FcRnへのIgG結合の非競合的阻害剤である。抗体は、ポリクロナールあるいはモノクロナールまたはその抗原結合性フラグメントであってもよい。これらの抗体は、個体の病原性IgGの濃度を減じるのに有用であり、それ故、自己免疫性及び同種免疫性状態の治療ツールとして使用できる。
【選択図】なし

Description

本発明は、主に自己免疫性及び同種免疫性疾患の分野に関する。
体液性の自己免疫及び同種免疫疾患は、病原性抗体によって媒介される。自己免疫性疾患の例として、例えば免疫性好中球減少症、重症筋無力症、多発性硬化症、ループス及び免疫性血小板減少症(ITP)を挙げることができる。
ITPは主に末梢の血小板破壊が亢進した疾患であり、多くの患者で、特定の血小板膜糖タンパクに結合する抗体が発生する。抗血小板抗体は、血小板を効果的にオプソニン化し、細網内皮系の細胞(例えば、マクロファージ)による急速な血小板破壊をもたらす。研究では、たいていの患者において、血小板生成が正常かあるいは減少していると報告されているため、関連する骨髄損傷がこの状態に寄与している可能性がある。一般に、ITPを治療する試みには、免疫系を抑制し、それにより血小板濃度を上昇させることが含まれる。
ITPは男性より女性に頻発し、また、成人より小児に多く発生する。その発生率は1万人に一人である。米国の場合、成人のITPの発生率は、年間約66/100万 ケースである。小児における発生率の平均推定値は、年間50/100万 ケースである。国際的には、小児ITPは、年間約10〜40/100万 ケース発生する。
慢性的ITPは成人と小児の両方において、主要な血液疾患の一つであるため、これは大きな問題である。また、米国及び世界中において、血液専門部門における多額の入院及び治療コストの原因となっている。毎年、米国で約2万件の新しい症例が発生し、ITPのケア及び特別療法にかかるコストは莫大である。
ITPに罹患した小児の大部分は、非常に血小板数が少なく、そのため突然の出血(典型的な症状として、挫傷、皮膚の小さな赤い斑点、鼻血及び歯肉の出血などがある)が起こる。小児は時に治療をしなくても回復することがあるが、多くの医師は、出血の注意深い観察と緩和及びγグロブリンの点滴静注による治療を推奨している。
大量のヒト免疫グロブリン(IVIG)の静脈投与は、免疫性ITPに苦しむ小児の血小板数を増加させること、及びIVIGは複数の他の自己免疫性状態の治療に有益であることが証明された。
多くの研究で、IVIGが自己免疫性疾患の治療において効果を発揮するメカニズムが調査された。ITPに関して、初期の研究は、IVIGの効果は、主に抗体オプソニン化血小板の貪食に関与するFcレセプターを遮断することが原因であると結論付けた。その後の研究は、Fc-欠損IVIG標本はITPに罹患した数名の患者において血小板数の増加をもたらすことを示し、最近では、IVIGの効果は、血小板貪食の阻害につながるマクロファージ細胞上のFcγRIIb発現を刺激することに起因すると報告された。しかしながら、このようなIVIG治療は、大きな副作用を有し、開発及び投与に非常にコストがかかる。さらに、IVIG以外の自己免疫性/同種免疫性状態の治療に使用される他の治療法には、ポリクロナール抗D免疫グロブリン、副腎皮質ステロイド、免疫抑制剤(化学療法剤を含む)、サイトカイン、血漿分離交換法、体外抗体吸着(例えばProsorbaカラムを使用する)、脾臓摘出等の外科的処置などが含まれる。しかしながらIVIG同様、これらの治療法もまた、不十分な効力及び高コストのため、容易に行うことができない。
最近、FcRn遺伝子を欠く欠損マウスにおいて抗ヒトFcRn抗体を産生させることが提唱された(Roopenian, 2002, 米国公開公報第2002/128863号)。著者は、IgGと同じFcRnのエピトープに結合する親和性の高い抗体が、FcRnへの病原性IgGの結合を競合的に阻害し、それゆえクリアランスを増加するであろうと論じている。しかしながら、そのような抗体は一つも立証されておらず、従ってそのような抗体の有効性は未だ疑問である。さらに、FcRnへの内因性IgGの高親和性及び血中の内因性IgGの高濃度のせいで、FcRnの競合阻害には非常に多くの量が必要とされ、それ故現在のIVIG治療と同様の副作用を伴うことが予想される。
従来技術の状態に基づき、IVIGが有する低い効力及び高コストの問題を有さない、自己免疫及び同種免疫状態の新規治療法を開発する必要性が高い。それゆえ、自己免疫及び同種免疫状態を治療するために、IVIGに代替する、より安全且つ有効な方法を同定することが望まれる。
本発明は、自己免疫及び同種免疫状態を治療する組成物及び方法を提供する。本発明の組成物は、FcRnとの結合に関してIgGの非競合的阻害剤となる物質からなる。これらの非競合的阻害剤はFcRnレセプターに結合し、FcRnレセプターに対する病原性抗体の結合が阻害され、それによって個体の体内から病原性抗体の排除(クリアランス)が亢進される。ある実施形態では、FcRnレセプターに結合する物質は、FcRnレセプターに対するポリクロナールあるいはモノクロナール抗体である。好ましい実施形態では、本発明は、ヒトFcRnレセプターに対するポリクロナール及びモノクロナール抗体を提供する。
本発明はまた、FcRnと結合するIgGの非競合的阻害剤であり、且つFcRnレセプターに結合し、FcRnレセプターと病原性抗体の結合を阻害する物質を含む組成物を個体に投与することを含む、自己免疫性あるいは同種免疫性状態を寛解する方法も提供する。
明細書中で使用される「病原性抗体」という語は、罹患状態あるいは疾病を引き起こす抗体を意味する。このような抗体には、抗血小板抗体が含まれる。
本発明は、病原性抗体のクリアランスを増強するための組成物及び方法を提供する。これらの組成物及び方法は、自己免疫及び同種免疫状態の治療に有用である。本発明の組成物及び方法は、病原性抗体がFcRnと結合するのを妨げるのに十分な方法において、FcRn(別名:胎児Fc-レセプター、FcRP、FcRB、及びBrambellレセプター)と結合することを対象とする。
明細書中で使用される「非競合的阻害剤」という語は、リガンド(すなわちIgG)の存在あるいは濃度にかかわらず同じ親和性を有し、FcRnと結合する阻害剤を意味する。一般に、そのような阻害剤は、リガンドと異なるサイトに結合すると考えられる。
本発明は、特定の抗FcRn療法を提供する。酵素あるいはレセプターの阻害剤の大多数は、基質あるいはリガンド結合の競合的阻害剤として行動し、阻害剤は、リガンドと同じレセプター上のサイトに結合する。それゆえ、阻害の度合いは阻害剤とリガンドの相対的な親和力及び濃度の一次関数となる。米国特許出願第2002/0138863号において、Roopenian(段落0031参照)は、抗体がFcRnに結合した場合、FcRnへのIgGの結合が阻害されるよう、FcRnに対する抗体は、IgGがFcに結合するのに重要な同じサイトでFcRnに結合すべきであることを強調している。先行技術における前記強調は競合的阻害剤に向けられているが、驚くべきことに、本発明において、FcRnレセプターと結合するIgGの非競合的阻害剤が治療的価値を有するであろうことが見出された。
好ましい実施形態では、抗体あるいはそのフラグメントは、ヒトFcRnに結合するIgGの非競合的阻害剤である。前記抗体あるいはフラグメントは、任意のアイソタイプであってもよく(例えば、IgA, IgD, IgE, IgG, IgM, 等)、及び前記抗体は任意の種(例えば、マウス、ラット等)で生成されるものでもよい。種の起源にもよるが(Int Immunol 13: 1551-9,2001,Ober等.参照)、IgGアイソタイプ抗体は、ヒトFcRnへのIgGの結合を競合的に阻害しうる。そのような抗体が、FcRnとIgG結合の非競合的阻害剤としても行動する場合は、それらを使用することができる。すなわち、FcRnへのIgG結合の非競合的阻害剤と競合的阻害剤のどちらにもなる抗体を使用することができる。
FcRnはそのリガンド(すなわち、IgG)とpH依存的親和性で結合する。それは生理学的pHでは、IgGに対し実質的に親和性を示さない。従って、生理学的pH(7.0〜7.4)でFcRnに結合する抗FcRn抗体は、非競合的阻害剤として行動する可能性があり、その場合、FcRnへの抗FcRn抗体の結合は、IgGの存在によって影響を受けない。pH非依存的且つ非競合的な様式でFcRnと結合する本発明の抗体の能力は、競合的阻害剤で必要とされるpHよりはるかに低い濃度で、IgGのFcRn介在輸送の機能阻害を可能にする。ある特定の理論に束縛されることを意図しないが、pH非依存性が、そのような阻害剤が細胞表面上のFcRnに結合することを可能にし(生理学的pH)、細胞内移動の過程においてFcRnとの結合を維持し、それによってエンドソーム(酸性pH)内でIgGとFcRnの結合を阻害する、という仮説を立てることができる。結合の非競合的機序は、治療目的にとって魅力的なことに、これらの阻害剤を、競合的阻害剤よりはるかに低い濃度で使用することを可能にする。特定の理論に拘束されることを意図しないが、細胞内異化作用からIgGのFcRn介在保護を阻害する結果、IgGのクリアランスが増加されると考えられる。
明細書中の実施例で実証されるように、IVIGは、ITP動物モデルにおいて病原性抗体の除去の用量依存的増加を仲介し、且つこの効果はIVIGとFcRnとの相互作用によって介在される。しかしながら、一つには、病原性抗体とのFcRn結合のIVIG阻害の仮想メカニズムに起因して(すなわち、競合的阻害)及び一つにはIgGが生理学的pH(すなわち、pH7.2〜7.4)でFcRnに対する親和性が非常に低いという事実に起因して、病原性抗体のクリアランスにおける実質的な増加をもたらすためには、非常に多量のIVIGが要求される(すなわち、IVIGの典型的な臨床用量は2g/kg)。
本発明は、生理学的pHにおいて、病原性抗体とFcRnとの結合の非競合的阻害を提供し、病原性抗体へのFcRn結合の非競合的阻害を可能にする、特別な抗FcRn治療に関する。従って、本発明は、自己免疫性及び同種免疫性疾患の治療として、病原性抗体がFcRnに結合するのを妨げる方法を提供する。当該方法はまた、病原性抗体がFcRnに結合するのを妨げるのに十分な様式で、特異的にFcRnを抑制するのに有用な組成物を提供する。本発明の組成物及び方法は、治療のレシピエントに対し、病原性抗体の除去率の増加及び病原性抗体によってもたらされる病的状態及び疾患の緩和の両方に、特に効果的である。
本発明の組成物及び方法は、従って、自己免疫性疾患(免疫性血球減少症、免疫性好中球減少症、重症筋無力症、多発性硬化症、ループス、ないし、抗体が病的状態及び疾病を引き起こす他の状態を含むがこれに限定されない)に使用するのに適する。本発明の抗体は、人間以外の他の種にも使用することができる。
本発明の組成物には、FcRnが抗血小板抗体等の病原性抗体に結合することを阻止できる物質が含まれる。このような組成物には、モノクロナール抗体、ポリクロナール抗体及びそのフラグメントが含まれるがこれに限定されない。前記抗体は、病原性抗体がFcRnレセプターに結合するのを妨げることができる、キメラあるいはヒト化の、抗体フラグメント、ペプチド、小分子あるいはその組み合わせであってもよい。前記抗体はキメラあるいはヒト化であってもよい。抗原結合部位を含む抗体フラグメントを使用することもできる。このようなフラグメントには、Fab、F(ab)'2、Fv、及び単鎖Fv(すなわち、ScFv)が含まれるが、これに限定されない。このようなフラグメントは抗原結合部位の全てあるいは一部を含み、また、このようなフラグメントは、親抗体の特異的な結合特性を保有する。
FcRnに対するポリクロナール抗体あるはそのフラグメント(軽鎖など)は、適当な対象をFcRnあるいは、軽鎖、重鎖、及び分子内に含まれるペプチド断片等、その一部で免疫することによって調製することができる。免役された対象における抗FcRnあるいはそのフラグメントの抗体力価は、固定化したFcRnあるいはそのフラグメントを使用したELISAなどの、標準的な技術によって、長期間モニターすることができる。必要であれば、FcRnあるいはそのフラグメントに対する抗体分子は、哺乳動物から単離してもよく(例えば、血液から)、さらに周知の技術によって精製してもよい(例えば、IgG分画を得るためのプロテインAクロマトグラフィーなど)。
FcRnあるいはそのフラグメントに対するモノクロナール抗体は、ケーラー及びミルスタインによって最初に説明されたハイブリドーマ技術(1975, Nature 256: 495-497)など、標準的な技術によって産生することもできる。手短に説明すると、不死の細胞系(通常、骨髄腫)を、FcRnあるいはそのフラグメントで免役された哺乳動物由来のリンパ球(通常、脾細胞)に融合させ、その結果得られたハイブリドーマ細胞の培養上清をスクリーンし、FcRnに結合するモノクロナール抗体を産出するハイブリドーマを同定する。通常、不死の細胞系(例えば、骨髄腫細胞株)は、前記リンパ球と同じ哺乳類種から抽出する。本発明のモノクロナール抗体を産出するハイブリドーマ細胞は、標準ElISA分析を用いて、ハイブリドーマ培養上清をスクリーニングしてFcRnと結合する抗体を見つけることによって検出することができる。ヒトのハイブリドーマは同様に調製できる。
モノクロナール抗体分泌ハイブリドーマを調製する別の方法としては、FcRnあるいはそのフラグメントを有する組換え型コンビナトリアル免疫グロブリンライブラリ(例えば、抗体ファージディスプレイライブラリ)をスクリーニングすることによって、モノクロナール抗体を同定し、単離する。
本発明の組成物の投与は、当業者に既知の方法で行うことができる。FcRnの特異的阻害剤が抗体を含む場合、例えば、静脈内、筋肉内あるいは皮下注射、カニューレあるいは当業者に既知の他の方法によって投与することができる。同様に、FcRnレセプターへの抗血小板抗体の結合を阻害するのに効果的な小分子の投与は、当業者に周知の方法によって実行することができる。
自己免疫及び同種免疫状体の治療における病原性抗体の除去のために、本発明の阻害剤を投与することができる。特定の個体における病原性抗体の除去に対する前記阻害剤の効果は、投与計画、阻害剤の薬物動態(すなわち、阻害剤の分布及び除去の速度及び程度)、FcRnに対する阻害剤の親和性、FcRnの輸送能力、及び、場合によっては、FcRnレセプターのターンオーバーに依存する可能性があることが、当業者に正しく理解されるであろう。明細書中に示す動物実験により、ラットにおいてモデル阻害剤が、IgG除去の用量依存的かつ一過性の増加をもたらすことが実証された。効果の一過性は、FcRn遮断の持続時間のコントロールを可能にし、FcRn遮断と関連する何らかのリスク(例えば、感染症のリスク)の最小化を可能にすると考えられる。
本発明のpH非依存性及び非競合性の阻害剤は、内因性の病原性及び非病原性のIgG抗体濃度のパラレルな減少をもたらすと考えられる。病原性抗体の濃度に対する、FcRnの高親和性・非競合的阻害剤の影響は、内因性IgGの総血清濃度に対する阻害剤の効果に基づくと推定される。FcRn阻害剤は、単回及び/又は反復投与で投与することができる。一般的に、1〜2000mg/kg、好ましくは1〜200mg/kg、より好ましくは1〜40mg/kgを、自己免疫性あるいは同種免疫性症状を有する患者に投与することができ、これらの投与計画は、好ましくは、血清内因性IgG濃度を治療前の値の75%未満に減じるように設計する。間欠的及び/又は慢性的(継続的)投薬方針を適用することができる。
本発明を以下の実施例によって説明するが、実施例は、本発明の特定の実施形態を例説することのみを意図し、本発明を限定することを意図しない。
本実施例は、使用する一般的な方法を記載するものである。200〜225gの雌のスプラーグ-ドーリーラットを生体内分析のために使用した。治療の2日前に、ラットに内頸静脈カテーテルを装着した。7E3,マウスの抗グリコプロテインIIb/IIIa(GPIIb/IIIa)モノクロナール抗体は、アメリカ培養細胞系統保存機関(バージニア州,マナッサス)から得たハイブリドーマ細胞から産生した。ハイブリドーマ細胞は無血清培地(ライフテクノロジーズ(登録商標), メリーランド州,ロックビル)で増殖し、抗体はプロテインGクロマトグラフィーを用いて培地から精製した。IVIG標本は、バクスターヘルスケア(登録商標);(ハイランド・デビジョン,カリフォルニア州,グレンデール)及びバイエル(登録商標)(医薬部門,インディアナ州,エルクハート)から入手した。両方のIVIG標本は、溶媒/界面活性剤処理し、ヒト血漿の低温エタノール分画法によって製造する。古いヒト血小板を米国赤十字社(ニューヨーク州,バッファロー及びユタ州,ソルトレークシティ)から入手した。マウス抗メトトレキサートIgG1モノクロナール抗体(AMI)は、我々の研究所内で製造し、精製した。ヤギ抗ヒトIgG(ヤギ及びマウスの血清プロテインに交差反応性無し)及びアルカリホスファターゼ結合ヤギ抗マウスIgG(ヤギ及びヒト血清プロテインに交差反応性無し)は両方、ロックランド(ペンシルバニア州,ギルバーツビル)から入手した。マウス抗ヒトIgG、フルオレッセイン イソチオシアネート(FITC)-標識抗マウスIgG及びp-ニトロフェニルホスフェートはピアス社(登録商標)(イリノイ州,ロックフォード)から入手した。ウシ血清アルブミン(BSA)及びバッファー試薬はシグマ社(登録商標)(ミズーリ州,セントルイス)から入手した。バッファーは、リン酸緩衝食塩水(PBS,pH7.4)、0.02M Na2HPO4(PB)、及びPBプラス0.05%Tween-20(PB-Tween)を用いた。
実施例2〜5は、抗血小板抗体に対するIVIGの効果を実証するものである。これらの実施例は、IVIGが、ITPのラットモデルにおける抗血小板抗体の効果を用量依存的に減弱できること、及びIVIGが、抗血小板抗体クリアランスに対し、劇的な、且つ明らかに非特異的な効果を有することを実証する。
本実施例は、IVIGの投与が、IPTラットモデルにおいて、抗血小板抗体を除去することを実証する。ラットには、内頸静脈カテーテル経由でIVIG(0.4,1,又は2g/kg)を投与した。IVIG投薬後、血小板数のベースライン測定のために血液サンプル(0.15mL)を採取した。ラットにその後、抗血小板抗体、7E3を8mg/kg投薬し、セル-ダイン1700 多重パラメータ血液分析計 (アボット・ラボラトリーズ(登録商標)、イリノイ州、アボットパーク)を使用して血小板数を24時間追跡した。コントロール動物には生理食塩水を投与し、その後7E3を投与した。各動物の血小板ナディアは血小板数の最も低い測定値である。初期の血小板数の動物間差異が大きいため、血小板数データを初期の血小板数で基準化した。データを基準化することによって、7E3及びIVIGの効果を、動物間でより正しく比較できる。7E3投与後、1,3,6,12,24,48,96及び168時間時の血液サンプル(0.15mL)を薬物動態の分析のために採取した。7E3血漿濃度は、後述のように酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)を用いて測定した。ヒトGPIIb/IIIaはPBで1:500に希釈し、ヌンクマキシソーププレートに添加した(0.25 ml/ウェル)。プレートを4℃で一晩インキュベートした。スタンダードとサンプルをその後プレートに添加し(0.25ml/ウェル)、室温で45分間インキュベートした。最後に、p-ニトロフェニルを添加し(4mg/m ; DEA中)、時間に対する吸光度の変化をスペクトラマックスマイクロプレートリーダーで記録した。分析の各ステップ間で、プレートをPB-Tweenで3回洗浄した。スタンダードを1%マウス血漿中0,1,2,2.5,5,10及び20ng/ml 7E3の最終濃度に調節した。アッセイ内の変動は、標準範囲曲線内で、品質管理サンプルに対し15%未満であった。
投与量8mg/kgで、7E3はラットに急速かつ重篤な血小板減少症をもたらした。図1に示すように、IVIGによるラットの前処置は、7E3投薬後の血小板数の時間経過を有意に変えた(P=.031)。コントロールとの統計的有意差(P<.01)は、2g/kg IVIG群で1及び3時間後に、1g/kg IVIG群で3時間後に、血小板数において観察された。初期の血小板絶対数の違いに大きな差があることを考慮して、このモデルに関する7E3の効果は血小板数の割合を用いて評価した。しかしながら、各群は、コントロール、0.4、1、及び2g/kg IVIG群がそれぞれ絶対初期値326±62、323±137、272±111、及び301±69×109血小板/Lと、比較できる平均初期血小板数を有した。血小板の絶対数は、出血の危険性を評価する際に重要となりうるので、このモデルでのIVIG効果を決定するための測定基準として、血小板数の最小値も観察した。7E3処理単独後、動物の絶対血小板数の最小値は、初期計測数の平均14%±8%に相当する、48±28×109血小板/Lになった。IVIG前処置により、血小板数の割合(コントロールに対する割合)の最小値において、121%〜279%の増加が観察され(P=.044)、0.4、1及び2g/kg IVIG投与量に対し、それぞれ31%±26%、44%±24%及び53%±27% の値となった。IVIG-治療群はそれぞれ、コントロールとは有意に異なった(P<.05)。しかしながら、最も高用量であっても、血小板減少症のブロックに対するIVIGの有効性は完全ではなかった。IVIGで前処置した動物では、血小板減少症の閾値(初期計測数の30%未満)に達するラットの割合は、投与量に伴い減少し、0.4、1及び2g/kgのIVIG群において、初期値の30%未満の最小血小板数を有するラットは、75%、50%及び25%であった。
これらの結果により、IVIGで前処置されたラットでは、7E3-誘発血小板減少症が減少することが分かった。IVIG前処置は、7E3処置後の血小板減少症の平均程度を軽減させ(最小値における血小板数の平均率によって測定)、重篤な血小板減少症を示す動物の割合が減少した。
本実施例は、7E3に対するIVIGの効果の薬物動態を説明する。これを決定するために、IVIGで前処置した後のラットの7E3血漿濃度を測定した。図2及び表1から分かるように、IVIGは7E3のクリアランスを増強することが観察された。分散分析(ANOVA)は、4つの治療群で計算されたクリアランス値間の極めて大きな差を明らかにした(P<.001)。7E3クリアランスにおける差は、0.4g/kg IVIG投与動物対1g/kg IVIG投与動物のデータの比較を除いて、治療群の全ての対で統計的に有意であることが示された(チューキー多重比較法)。コントロールとの有意差は、2g/kg IVIG群で12時間以上、0.4及び1g/kg IVIG群で少なくとも48時間以上の各時点の7E3濃度において観察された。
Figure 2007501847
本実施例で実証されたように、IVIGは7E3の薬物動態を変化させた。我々のデータは、1g/kg IVIGを投与された動物において見られる半減期と、コントロール動物における半減期との比較において統計的有意性を達成し(P<.05)、IVIG投与による7E3の最終半減期の減少傾向を実証した(P=.06)。より重要なことに、IVIGが、抗血小板抗体のクリアランスの劇的な増加を誘導することが見出された(P<.001)。クリアランスは、7E3除去の時間及び濃度平均化基準として役立ち、7E3除去に対するIVIG効果の評価にとってよりよい測定基準である。なぜなら、除去率(および半減期)に対するIVIG効果は、IVIG投与後、経時的に減少することが予想されるからである。
本実施例は、IVIGが抗FcRn抗体と結合しないことを実証するものである。ヤギ抗ヒトIgG(PBで1:500に希釈、0.25mL/ウェル)をヌンク(登録商標)のMaxisorp(登録商標)96ウェルマイクロプレート(ヌンク(登録商標)型番4-42404、デンマーク、ロスキレ)のウェルに添加し、プレートを4℃で一晩インキュベートした。IVIG(25mg/mL)及び7E3(0、0.01、0.05及び0.10g/mL)を試験管内で結合させ、37℃で2時間インキュベートした。ポジティブコントロールサンプルは、7E3のために記載した濃度と同じ濃度で、マウス抗ヒトIgG(ピアス社(登録商標))でインキュベートしたIVIGからなる。サンプルとコントロールは、1%BSA溶液(PBS中)で1000倍に希釈し、その後マイクロプレート(0.25mL/ウェル)に添加し、室温で2時間インキュベートした。アルカリホスファターゼ-標識抗マウスIgG(PBで1:500に希釈、0.25ml/ウェル)をその後プレートに添加し、室温で45分間インキュベートした。最終的に、p-ニトロフェニルリン酸塩(ジエタノールアミン緩衝液中4mg/mL、pH9.8)を添加し(0.2mL/ウェル)、プレートをプレートリーダーで405nmで解読した(スペクトラマックス(Spectra Max[登録商標])340PC、モレキュラーデバイス(登録商標)、カリフォルニア州、サニーベール)。プレートを10分間解読し、時間対吸光度曲線のスロ−プを、分析応答(アッセイレスポンス)を評価するために使用した(dA/dt)。各サンプルを三回分析し、応答を平均±SDで示す。分析の各ステップ間で、マイクロプレートのウェルをPB-Tweenで3回洗浄した。
インビトロでは、IVIGと7E3の結合は検出できなかった。図3は、7E3-IVIG結合を検出するために設計された実験で観察された結果を示す。インビトロで、37℃で2時間、IVIGと7E3をインキュベートした。このインキュベーション後に、サンプルを希釈して抗ヒトIgGで被覆されたマイクロプレートに添加した。それゆえ、7E3がIVIGに結合すれば、第二の抗マウスIgGが7E3の存在を検出するであろう。7E3含有サンプル対ネガティブコントロール(IVIG単独)に対する分析応答間に統計的に有意な差はなく、P=.164であった。しかしながら、ポジティブコントロール抗体に対する分析応答では有意差があり(各濃度で)、P<.001であった。この実験における7E3/IVIGの濃度比は、インビボ実験において予期されうるのと同様になるようデザインした。
IVIGのこの効果が、抗血小板抗体,7E3に特異的かどうかを決定するために、我々は、第二のモノクロナール抗体,AMIの薬物動態を、IVIGの存在下及び不存在下で明らかにした。ラット(n=3/グループ)に頸静脈カニューレを通じて、2g/kg IVIG(コントロールには生理食塩水)を、続いてAMI(8mg/kg)を投与した。血液サンプルを一週間に渡って採取し、血漿をELISAで分析してAMI濃度を求めた。薬物動態の分析は7E3で上述したのと同様にして行った。図4は、IVIGがAMIのクリアランスも増加させることを実証し、AMIクリアランスは、コントロールの0.44±0.05に対し、IVIG治療群で1.17±0.05mL/hour・kgに増加した(P<.001)。さらに、IVIG治療によって増加したクリアランスの相対次数はグループ間で類似し、2g/kg IVIG処理後、7E3については2.37倍のクリアランス増加を観察し、AMIについては2.66倍のクリアランス増加を観察した。
本実施例は、IVIGが7E3とヒト血小板との結合を阻害できるかどうか決定するための定性的及び定量的な実験を記載するものである。定性的な実験において、10μg/mLの7E3をヒト血小板とともに(1×107血小板/mL)、IVIGの存在下(2.5mg/mL)または不存在下で、1.5時間インキュベートした。コントロールのマウスIgGはネガティブコントロールである。サンプルを、4000rpmで6分間遠心分離し、PBSで洗浄し(2回)、その後、FITC-標識抗マウスIgG溶液の1:10希釈液(PBS中)100μLで45分間インキュベートした。サンプルを再度洗浄し、PBS中に再懸濁し、そしてフロー・サイトメトリー(フロー・サイトメトリー・コア・ファシリティー、ハンツマン癌協会、ユタ州、ソルトレイクシティー)による分析に提出した。定量的阻害の実験において、7E3-血小板結合のIVIG阻害の可能性をより詳細に調べた。ヒト血小板(8.2×108/mL)をIVIGの存在下(25mg/mL)または不存在下で2時間、7E3(4.8〜72.5μg/mL)とともにインキュベートした。その後サンプルを約3000gで6分間遠心分離し、血小板ペレットを得た。各上清の一部を採取し、非結合7E3濃度を分析した。7E3の存在及び不存在下、7E3と血小板の結合を、下記の結合曲線にデータを当てはめることによって分析した。
Figure 2007501847
上記式において、Ffは7E3の遊離分画、KAは見かけ上の7E3-血小板結合、[7E3]fは非結合7E3のモル濃度、及びRtは総レセプター濃度である。Micromath Scientist(登録商標)はデータの非線形最小二乗分析を得るために使用し、パラメータ値と報告SDsはソフトウェアアウトプットに由来する。
定性的フローサイトメトリー分析の結果を図5に示す。IVIG存在下で、蛍光ヒストグラムのシフトは観察されなかった。定量的実験で得られた結果を図6に示す。IVIGの存在下及び不存在下において結合曲線はほぼ同じである。結合パラメータKA,及びRtにおいて有意差は見られなかった。IVIGが存在しない場合、KAは4.9±0.7×108M-1であり、Rtは7.5±0.4×10-8M(55000±3000 GP/血小板)であった。IVIGが存在する場合、KAは5.5±1.2×108M-1であり、Rtは7.6±0.7×10-8M(56000±5000 GP/血小板)であった。
本実施例では、抗血小板抗体のクリアランスに対するIVIGの効果をFcRn欠損マウスで研究した。β-2-ミクログロブリン欠損マウス(FcRn発現なし)及びC57B1/6コントロールマウス21〜28gをジャクソン研究所(メイン州、バー・ハーバー)から得た。マウス(3〜5/グループ)に、IVIG(1g/kg)または生理食塩水のいずれかを、その次に8 mg/kg 7E3を頸静脈カニューレにより投与した。血液サンプル(20μl/時点)を、遺伝子欠損マウスで4日間に渡り、コントロールマウスで30〜60日間に渡り、マウスの伏在静脈から採取した。血漿7E3濃度は実施例2と同様、ELISAによって測定した。
様々な治療群(11)に対する7E3のクリアランスと終末半減期を決定するために、WINNONLINソフトウェア(Pharsight社、カリフォルニア、パロアルト)を用いて、標準非コンパートメント薬物動態解析を実行した。対応のないt-検定はGraphPad Instat(グラフパドソフトウェア社、カリフォルニア州、サンディエゴ)を用いて実行した。
β-2-ミクログロブリン欠損及びコントロールC57BL/6マウスにおいて、7E3の薬物動態に対するIVIGの効果を図7に示す。図7において、IVIGがコントロールマウスで7E3のクリアランスを増加させ(P<0.0001)、IVIG治療がFcRn発現欠損マウスで7E3のクリアランスを増加しない(表2参照)ことが分かり、これにより、抗血小板抗体のクリアランスに対するIVIGの効果が、FcRnレセプターによって媒介されることが確立された。
Figure 2007501847
FcRnレセプターと抗血小板抗体との結合を特異的に阻害するのに適した物質の一例として、モノクロナール抗FcRn抗体がある。モノクロナール抗FcRn抗体を分泌するハイブリドーマは、アメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC#:CRL-2437、記号表示:4C9)から入手した。ハイブリドーマ細胞は、1%ウシ胎児血清を追加した標準培養液による培地で増殖した。培養上清を収集し、遠心分離し、IgGを精製するためにプロテイン-Gクロマトグラフィーにかけた。図8に示すように、特異的抗FcRn抗体標本の60mg未満の投与は、実施例1の血小板減少症動物モデルにおいて抗血小板抗体のクリアランスの速度を400%未満増加させた。これに対し、同じモデルにおける2g/kgのIVIGは、抗血小板抗体クリアランスにおいて100%未満の増加のみを示した。このことは、本実施例において7E3のクリアランスに影響を与えるために使用された物質、即ちFcRnの特異的阻害剤が、FcRnの非-特異的阻害剤と考えられるIVIGより強力で効果的であることを実証する。
本実施例は、他の抗体(AMI)に対する4C9の効果を説明する。雌のスプラーグ-ドーリーラット、175〜275gに、ケタミン/キシラジン麻酔(75/15mg/kg)の下、頸静脈カニューレを装着した。手術後2日間、動物に、頸静脈カニューレによる注入で、0、3、15及び60mg/kgの4C9を投与した(3〜4ラット/グループ)。4C9投与の4時間後、AMI(8mg/kg)をカニューレを通じて投与し、血液サンプル(150μl)を1,3,6,12,24,48,72及び96時間後に採取した。約200μlのヘパリン添加生理食塩水を流して、カニューレの開存性を維持した。血液は13,000gで3〜4分間遠心分離し、血漿を単離し、分析まで4℃で保存した。血漿AMI濃度はELISAにより測定した。
図9に示すように、AMIのクリアランスは、4C9の投与後、コントロール動物では0.99±0.14ml/h/kgであったが、60mg/kg 4C9 で前処理された動物においては1.97±0.49ml/h/kgになり、99%まで増加した(P<0.05)。従って、これらのデータにより、抗FcRn抗体が、インビボでIgG抗体のクリアランスを増加するために使用し得ることが実証される。
本実施例は、ヒトFcRnに対するモノクロナール抗体の製造を説明するものである。ヒトFcRnの軽鎖(すなわち、ヒトβ-2-ミクログロブリン、シグマケミカル、ミズーリ州、セントルイス)をフロイントの不完全アジュバント(シグマケミカル)中に乳化し、6匹のBalb/cマウス(ハーラン、インディアナ州、インディアナポリス)を反復して免疫するために使用した。免疫化後7〜10日、動物を伏在静脈から出血させ、ヒトFcRn軽鎖に対する抗体を抗原検出酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)で検出した。最も高いELISA応答を示すマウスを脾細胞ドナーとして使用するために選択し、融合はマウスのSP20骨髄腫細胞(ATCC、バージニア州,マナッサス)を用いて行った。簡単に説明すると、マウスをケタミン(150 mg/kg)とキシラジン(30 mg/kg)を用いて屠殺し、脾臓を迅速に無菌法で除去した。無菌の22-ゲージニードルを使用して脾臓組織から脾細胞を少量ずつ剥がし、RPMI1640中に懸濁し、標準技術(例えば、Harlow E及びLane Dによる、1988. Antibodies : A laboratory manual. New York: Cold Spring Harbor Laboratoryに記述されている)を用いて、ポリエチレングリコールによる遠心分離でSP20細胞と融合させた。HAT選択培地(シグマケミカル)を適用して融合細胞を選択し、限界希釈法でクローン化した。組織培養上清は、ヒトβ-2-ミクログロブリンに対するELISA応答を評価することによって抗FcRn活性を分析した。
91の生存ハイブリドーマクローンを同定し、抗ヒトFcRn軽鎖抗体の存在をスクリーニングするために、組織培養上清を各クローンの培地から得た。簡単に説明すると、ヒトFcRn軽鎖は4℃で一晩、96-ウェルマイクロプレート上に被覆させた。プレートをその後洗浄し、次のいずれかでインキュベートした:リン酸緩衝生理食塩水(PBS、ネガティブコントロールとして)、ハイブリドーマから得られた培養上清、あるいは、4C9ハイブリドーマ細胞(ラットFcRnの軽鎖に対する抗体を分泌する)の培地から得られた培養上清(Raghavan等、Immunity 1(4): 303-315,1994)。室温で2時間インキュベート後、プレートを洗浄し、アルカリ性リン酸塩で抱合したヤギ抗マウスFab特異的抗体を添加し、1時間インキュベートした。最後にプレートを洗浄し、p-ニトロフェニルリン酸塩を添加した。経時的な(10分間)吸光度の変化を、405nmでマイクロプレートリーダーでモニターした。91の生存能のある抗ヒトFcRnクローンから、8つのポジティブクローンを同定した。これらのクローンは、1H5、4B10、6D10、7C7、7C10、10E7、11E4および11F12であった。ヒトFcRnの軽鎖に対するそれらの反応を図10にまとめる(プロットされているのは正味の分析応答である;例えば、生の応答値−PBSコントロールの分析応答値)。一方向性分散分析は、分析応答における有意差を明らかにし(P<0.0001)、8つのポジティブクローンの分析応答は、コントロールのものと有意に異なることが見い出された(各クローンに対しP<0.01、ダネット多重比較検定)。さらに、この分析は、ラットFcRn軽鎖に対する4C9抗体が、ヒトFcRn軽鎖に有意に結合しないことを明らかにした。
本実施例は、ヒトFcRnを発現している293細胞へのヒトIgGの結合に対する抗FcRn抗体の影響を記載するものである。このことを実証するために、ヒトFcRnを発現している293細胞を、ブランダイス大学のNeil Simister博士から入手した。ヒトIgGを標準的な方法によってFITCで標識した。組織培養上清を、ヒトFcRnの軽鎖に対する抗体を分泌することが確認された4つのハイブリドーマ(11E4、11F12、1H5、10E7)の培地から得た(実施例9)。
293細胞をトリプシン:EDTAで処理し、培養液中に懸濁した。細胞懸濁液を300gで5分間遠心分離し、緩衝生理食塩水中に再懸濁し、細胞を血球計数器によってカウントした。約3.6×106細胞/mlの293細胞をpH6あるいは8の緩衝生理食塩水内の各遠心管に添加した。細胞を緩衝生理食塩水単独で、あるいはハイブリドーマ細胞から得られた細胞培養上清の存在下あるいは不存在下において1μg/mlの濃度のFITC-IgGとともに培養した。反応混合物を室温で1.5時間インキュベートし、その後細胞を洗浄し、緩衝生理食塩水中に再懸濁した。励起および発光波長を494および520 nmにそれぞれ設定し、細胞内蛍光を蛍光光度計で解析した。
pH6.0および8.0で、1μg/ml FITC-ヒトIgGとインキュベートした293細胞について、細胞内蛍光はそれぞれ253000および10800であることが確認され、ヒトFcRnへのヒトIgGの既知のpH依存性結合と一致した。これに対し、FITC-IgGの不存在下にインキュベートした細胞では、細胞内蛍光はpH6.0および8.0でそれぞれ5220および5330であることが確認された。pH6.0でFITC-IgGおよび抗FcRn抗体分泌細胞から得られた培養上清とともにインキュベートした細胞では、細胞内蛍光は80〜84%まで減衰した(下記の表3参照)。
Figure 2007501847
これらの結果から、ヒトFcRn発現293細胞へのヒトIgGの結合がpH依存性であり、pH8.0で観察されるのと比較してpH6.0での結合がはるかに著しいことがわかる。ヒトFcRn軽鎖に対する抗体を分泌するハイブリドーマの培養上清は、FcRnとヒトIgGの結合を阻害することができる。
本実施例はさらに、本発明の抗体が、FcRnへのIgG結合の非競合的阻害剤であることを実証するものである。hFcRn発現293細胞とマウスIgGとの結合を抗hFcRn抗体の存在下あるいは不存在下で、以下のように測定した。293細胞は、PBS、抗ヒトFcRn軽鎖抗体を分泌することが確認された2つのハイブリドーマの細胞培養上清、およびモノクロナール抗メトトレキサートmIgGl(AMI、ネガティブコントロールとして)を分泌する細胞から得られた細胞培養上清とともにインキュベートした。このインキュベーションは、ヒトIgG(1mg/ml)との共インキュベーション有り/無しの二通り行った。このインキュベーション後、細胞をFITCで標識した抗マウスIgG抗体とともにインキュベートした(293細胞の表面上のヒトFcRnに結合するマウス抗FcRn抗体の存在を検出するため )。細胞を洗浄し、細胞内蛍光を蛍光光度計で解析した。インキュベーションは全て、pH7.4で行った。
結果(図11)は、ハイブリドーマ細胞(実施例9の11E4および1H5)由来の培養上清ともに細胞をインキュベーションした後では、hFcRn発現293細胞へのマウスIgGの結合が有意に増加することを示す。これらの結合データは、ヒトIgGとの共-インキュベーションが、「非競合的」結合と一致する分析応答において、有意な変化をもたらさないことを示す(すなわち、hFcRnに対する抗FcRn抗体の明白な親和性は、天然リガンド-ヒトIgGの存在によって変化しない)。
メトトレキサートに対するマウスモノクロナールIgG1抗体を分泌する細胞由来の上清とともに293細胞をインキュベーションした結果も示す(ネガティブコントロール)。293細胞と抗メトトレキサート抗体のインキュベーションは、有意な分析応答をもたらさなかった。これは、11E4及び1H5上清と細胞とをインキュベーションした後で観察された著しい結合に、特異的抗hFcRn抗体が関与するという仮説と(再度)一致する。
特定の実施形態に関する上記記述は、説明を目的とするものであり、限定と解釈されない。本発明の教示から、当業者は、様々な修正及び変更が、本発明の精神から逸脱することなくなされ得ることを認識するであろう。
図1は、7E3-誘導血小板減少症の時間経過に対するIVIGの効果を示すグラフである。ラットにIVIG(あるいは生理食塩水)を投与し、その後8mg/kg7E3を投与した。Aは、動物の個々の血小板数対時間を示すデータであり、(1)は生理食塩水、(2)は0.4g/kg IVIG、(3)は1g/kg IVIG、(4)は2g/kg IVIGのデータである。Bは初期血小板数に対する平均率を示すデータである。記号はIVIG治療グループ(n=4ラット/グループ)を表す:生理食塩水(●)、0.4g/kg(■)、1g/kg(▲)、2g/kg(◆) IVIG及び7E3は静脈内投与し、血小板数は、Cell-Dyne 1700 多重パラメータ血液分析計を使用して求めた。エラーバーは平均値の標準偏差を示す。IVIGは血小板減少症の時間経過を用量依存的に減弱した。治療の差は統計的に有意であった(p=0.031)。 図2は、IVIG処置後の血漿7E3の薬物動態である。ラット(3〜4匹/グループ)に、まずIVIG(0〜2 g/kg)を、続いて7E3(8 mg/kg)を静脈内投与した。Aは、各動物の血漿7E3の薬物動態を示すデータであり、(1)は生理食塩水、(2)は0.4g/kg IVIG、(3)は1g/kg IVIG、(4)は2g/kg IVIGである。Bは、7E3及びIVIGを投与された動物の平均血漿薬物動態データである。治療グループは以下のように表す:生理食塩水(●)、0.4g/kg(■)、1g/kg(▲)、2g/kg(◆) 7E3の濃度はELISAで測定した。エラーバーは、各時点における平均濃度の標準偏差を表す。IVIG治療は、7E3のクリアランス(図に示す濃度と時間のプロファイルから算出した)を有意に増加した(P<0.001)。 図3は、IVIGが直接7E3と結合しないことを示す。7E3(あるいはコントロールIgG)とIVIGを、一定のIVIG濃度(25mg/ml)に対し7E3濃度を変化させて(0〜0.1mg/ml)、インビトロで混合した。ポジティブコントロールには、マウス抗ヒトIgGを使用した。次にサンプルを抗ヒトIgGで被覆されたマイクロプレートに添加した。マウスIgG結合は、第二の抗マウスIgG-アルカリホスファターゼ抱合体を使用して可視化した。 p-ニトロフェニルホスフェートを添加し、プレートを405nmで解読した(動態検査、10分以上)。7E3に対する分析応答はコントロールと変わらなかった(p=0.164)、これに対し、ポジティブコントロールはコントロールと有意に異なった(P<0.001)。 図4は、IVIG治療後の血漿AMIの薬物動態を示す図である。ラット(3匹/グループ)の静脈内に、生理食塩水(●)あるいは2g/kg IVIG(◆)を投与し、その後AMI(8mg/kg)を投与した。AMI濃度はELISAで決定した。エラーバーは、各時点における平均濃度の標準偏差を表す。IVIG治療は、AMIのクリアランス(図に示す濃度と時間のプロファイルから算出した)を有意に増加した(P<0.001)。抗体の薬物動態に対するIVIGの効果は、7E3に特異的ではない。 図5は、フロー・サイトメトリーで測定した7E3-血小板結合に対するIVIGの効果を示す図である。7E3をIVIGの存在下あるいは不存在下で、ヒト血小板とともに培養した。ヒストグラムは血小板数と相対蛍光強度をプロットする。一番下の図は血小板とともに培養されたコントロールマウスIgGで得られた蛍光ヒストグラムを示す(平均蛍光強度(MFI)は1.3であった)。真ん中の図は、血小板とともに培養した7E3を示し(MFI=246)、一番上の図はIVIGの存在下で血小板とともに培養した7E3を示す(MFI=284)。IVIGの存在下における血小板への7E3結合に対し、MFIの減少は観察されなかった。 図6は、7E3-血小板の結合曲線に対するIVIG効果を示す図である。総血小板濃度は、IVIGの存在下(○)あるいは不存在下(▽)において、7E3濃度が増加するにつれて一定に保たれた。遊離(すなわち、非結合)7E3濃度はELISAによって測定した。データはテキストに記載のとおり一致した。線は、2つのデータが完全に一致していることを示し(実線=IVIG、破線=IVIGなし)、本質的に重なっている。重なった線から得られたパラメータ(KA及びRt)は、有意に異ならなかった。IVIGが存在しない場合、KAは4.9±0.7×108M-1、及びRtは7.5±0.4×10-8M(55000±3000GP/血小板)。IVIGが存在する場合、KAは5.5±1.2×108M-1、及びRtは7.6±0.7×10-8M(56000±5000GP/血小板)。IVIGは7E3が血小板に結合するのを妨げない。 図7は、コントロール及びFcRn-欠損マウスにおけるIVIG治療後の7E3の薬物動態を示すグラフである。マウス(3〜5匹/グループ)にIVIG(1g/kg)、次に7E3(8mg/kg)を静脈内投与した。治療グループは以下のように表す:コントロールマウスにおける7E3+生理食塩水(●)、コントロールマウスにおける7E3+IVIG(■)、遺伝子欠損マウスにおける7E3+生理食塩水(○)、及び遺伝子欠損マウスにおける7E3+IVIG(□)7E3濃度は、ELISAで決定した。エラーバーは、各時点における平均濃度の標準偏差を表す。IVIG治療は、コントロールマウスでは7E3のクリアランスを有意に増加したが(P<0.001)、FcRn欠損マウスでは増加しなかった。 図8は、抗FcRnモノクロナール抗体投与後の抗血小板抗体の薬物動態の変化を示すグラフである。ラットに対し、モノクロナール抗FcRn抗体(4C9,60mg/kg)で前処置を施して、あるいは施さないで、モノクロナール抗血小板抗体(7E3,8mg/kg)を静脈内に投与した。黒丸は7E3単独投与の動物(n=4)で観察された7E3血漿濃度を示し、三角はモノクロナール抗FcRn抗体で前処置されたラット(7E3投与の4.5時間前に静脈内投与)で観察された7E3血漿濃度を示す。図に示すように、モノクロナール抗FcRn抗体による前処置は、抗血小板抗体の除去を劇的に増加した(すなわち、7E3クリアランスは400%まで増加した)。7E3濃度はELISAで決定した。エラーバーは、各時点における平均濃度の標準偏差を表す。 図9は、異なる量の4C9を投与した後の血漿AMIの薬物動態を示すグラフである。ラット(3〜4匹/1グループ)に対し、AMI(8mg/kg 静注)の投与前4時間の時点で4C9(0〜60mg/kg)を静脈内に投与した。血液サンプルを採取し、血漿サンプルをELISAで分析してAMI濃度を求めた。治療グループは以下のように表す:生理食塩水(●)、3mg/kg(■)、15mg/kg(▲)、60mg/kg(◆)。エラーバーは、各時点における平均AMI濃度の標準偏差を表す。15及び60mg/kgはコントロールと比較してAMIのクリアランスを有意に増加させた(P<0.01)。 図10は、ヒトFcRnに対するハイブリドーマ上清の反応性を示す図である。hFcRnの軽鎖に対する抗体を分泌するハイブリドーマを製造した。プレートをヒトFcRnの軽鎖で被覆し、表示のハイブリドーマの上清とともにインキュベートした。アルカリホスファターゼと接合させたヤギ抗マウスFabフラグメントを用いてポジティブクローンを同定した。ヒトFcRnの軽鎖に対して特異的な抗体を産生する8つのハイブリドーマが同定された。 図11は、FcRnに対する抗hFcRnの反応性に対するIgGの存在の影響を示すグラフである。hFcRnを発現している293細胞をヒトIgGの存在下あるいは不存在下で抗FcRn抗体とインキュベートした。結合はFITCと接合させた第二抗体によって検出した。細胞の蛍光は蛍光光度計によって評価した。

Claims (22)

  1. ヒトFcRnと結合し、ヒトFcRnへのIgG結合の非競合的阻害剤となる抗体あるいはそのフラグメント。
  2. 前記抗体がマウス抗体である、請求項1に記載の抗体。
  3. 前記抗体が、ポリクロナール及びモノクロナールからなる群から選択される、請求項1に記載の抗体。
  4. 前記抗体が、キメラ抗体あるいはヒト化抗体である、請求項1に記載の抗体。
  5. 前記フラグメントが、Fab、F(ab)'2、FvおよびScFvからなる群から選択される、請求項1に記載のフラグメント。
  6. ヒトFcRnの軽鎖に対して産生された抗体あるいはそのフラグメント。
  7. pH7.0〜7.4で非競合的阻害剤である、請求項3に記載の抗体。
  8. 前記抗体がモノクロナール抗体である、請求項3に記載の抗体。
  9. 前記抗体が、1H5、4B10、6D10、7C7、7C10、10E7、11E4及び11F12からなる群から選択されるハイブリドーマによって産生されたモノクロナール抗体である、請求項8に記載の抗体。
  10. 個体に治療的有効量の抗体あるいはそのフラグメントを投与するステップを含む、個体の病原性抗体の濃度を減じる方法であって、前記抗体あるいは前記フラグメントがFcRnと結合し、かつFcRnへのIgG結合の非競合的阻害剤となることを特徴とする方法。
  11. 前記抗体が、ポリクロナールまたはモノクロナール抗体である、請求項10に記載の方法。
  12. 前記抗体の前記フラグメントが、Fab、F(ab)'2、FvおよびScFvからなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
  13. 前記抗体あるいはそのフラグメントが、薬学的に許容されるキャリアーにおいて投与される、請求項10に記載の方法。
  14. 前記個体がヒトである、請求項10に記載の方法。
  15. 前記抗体がアジュバントとともに投与される、請求項10に記載の方法。
  16. 個体においてFcRnとIgGの結合を減じる方法であって、
    FcRnとIgGの結合を非競合的に阻害するドメインを有する抗体あるいはそのフラグメントを供給するステップ、及び
    個体に、前記抗体を、その個体においてFcRnとIgGの結合を阻害するのに十分な量で投与するステップ
    を含むことを特徴とする方法。
  17. 前記個体が自己免疫性あるいは同種免疫性疾患に罹患している、請求項16に記載の方法。
  18. 前記自己免疫性疾患が免疫性血小板減少症である、請求項17に記載の方法。
  19. 前記個体がヒトである、請求項16に記載の方法。
  20. 前記抗体が投与量1mg/kg〜2g/kgで投与される、請求項16に記載の方法。
  21. 前記抗体が投与量1mg/kg〜200mg/kgで投与される、請求項20に記載の方法。
  22. 前記抗体が投与量1mg/kg〜40mg/kgで投与される、請求項21に記載の方法。
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