JP2002043111A - 磁石粉末および等方性ボンド磁石 - Google Patents

磁石粉末および等方性ボンド磁石

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JP2002043111A JP2000223936A JP2000223936A JP2002043111A JP 2002043111 A JP2002043111 A JP 2002043111A JP 2000223936 A JP2000223936 A JP 2000223936A JP 2000223936 A JP2000223936 A JP 2000223936A JP 2002043111 A JP2002043111 A JP 2002043111A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 磁気特性が優れ、信頼性の高い磁石、特に熱
的安定性に優れた磁石を提供すること。 【解決手段】 本発明の磁石粉末は、Bを含有し、かつ
TbCu7型相を主相とする磁石粉末であって、結合樹
脂と混合し成形して等方性ボンド磁石としたときに、室
温での磁気特性を表すJ−H図での減磁曲線において、
前記J−H図中の原点を通り、かつ傾き(J/H)が−
3.8×10-6ヘンリー/mである直線との交点を出発
点として測定した場合の不可逆帯磁率(χirr)が5.
0×10-7ヘンリー/m以下であり、さらに、室温での
固有保磁力HcJが400〜1000kA/mである。特
に、磁石粉末は、(R1-aR’ax(Fe1-bCob
100-x-y -zyz(ただし、Rは少なくとも1種の希土
類元素、R’はZr、Hf、Scのうち少なくとも1種
の元素、x:4〜20原子%、y:5〜20原子%、
z:0.05〜10原子%、a:0.05〜0.50、
b:0〜0.50)で表される合金組成からものである
のが好ましい。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、磁石粉末および等
方性ボンド磁石に関するものである。
【0002】
【従来の技術】モータ等の小型化を図るためには、その
モータに使用される際の(実質的なパーミアンスにおい
ての)磁石の磁束密度が高いことが望まれる。ボンド磁
石における磁束密度を決定する要因は、磁石粉末の磁化
の値と、ボンド磁石中における磁石粉末の含有量(含有
率)とがある。従って、磁石粉末自体の磁化がそれほど
高くない場合には、ボンド磁石中の磁石粉末の含有量を
極端に多くしないと十分な磁束密度が得られない。
【0003】ところで、現在、高性能な希土類ボンド磁
石として使用されているものとしては、希土類磁石粉末
として、MQI社製のMQP−B粉末を用いた等方性ボ
ンド磁石が大半を占めている。等方性ボンド磁石は、異
方性ボンド磁石に比べ次のような利点がある。すなわ
ち、ボンド磁石の製造に際し、磁場配向が不要であるた
め、製造プロセスが簡単で、その結果製造コストが安価
となることである。しかしこのMQP−B粉末に代表さ
れる従来の等方性ボンド磁石には、次のような問題点が
ある。
【0004】1) 従来の等方性ボンド磁石では、磁束
密度が不十分であった。すなわち用いられる磁石粉末の
磁化が低いため、ボンド磁石中の磁石粉末の含有量(含
有率)を高めなければならないが、磁石粉末の含有量を
高くすると、ボンド磁石の成形性が悪くなるため、限界
がある。また、成形条件の工夫等により磁石粉末の含有
量を多くしたとしても、やはり、得られる磁束密度には
限界があり、このためモータの小型化を図ることはでき
ない。
【0005】2) 比較的高い残留磁束密度を有する磁
石も報告されているが、その場合は逆に保磁力が小さす
ぎて、実用上モータとして得られる磁束密度(実際に使
用される際のパーミアンスでの)は非常に低いものであ
った。また、保磁力が小さいため、熱的安定性も劣る。
【0006】3) ボンド磁石の耐食性、耐熱性が低く
なる。すなわち、磁石粉末の磁気特性の低さを補うため
に、ボンド磁石中の磁石粉末の含有量を多くしなければ
ならず(すなわちボンド磁石の密度を極端に高密度化す
ることとなり)、その結果、ボンド磁石は、耐食性、耐
熱性が劣り信頼性が低いものとなる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、磁気
特性が優れ、信頼性、特に温度特性に優れた磁石を提供
することができる磁石粉末および等方性ボンド磁石を提
供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】このような目的は、下記
(1)〜(16)の本発明により達成される。
【0009】(1) Bを含有し、かつTbCu7型相
を主相とする磁石粉末であって、結合樹脂と混合し成形
して等方性ボンド磁石としたときに、室温での磁気特性
を表すJ−H図での減磁曲線において、前記J−H図中
の原点を通り、かつ傾き(J/H)が−3.8×10-6
ヘンリー/mである直線との交点を出発点として測定し
た場合の不可逆帯磁率(χirr)が5.0×10-7ヘン
リー/m以下であり、さらに、室温での固有保磁力HcJ
が400〜1000kA/mであることを特微とする磁
石粉末。
【0010】(2) 磁石粉末は、R−TM−N−B系
合金(ただし、Rは少なくとも1種の希土類元素、TM
はFeを主とする遷移金属)よりなるものである上記
(1)に記載の磁石粉末。
【0011】(3) 磁石粉末は、(R1-aR’a
x(Fe1-bCob100-x-y-zyz(ただし、R’はZ
r、Hf、Scのうち少なくとも1種の元素、x:4〜
20原子%、y:5〜20原子%、z:0.05〜10
原子%、a:0.05〜0.50、b:0〜0.50)
で表される合金組成からなるものである上記(1)また
は(2)に記載の磁石粉末。
【0012】(4) 磁石粉末は、溶湯合金を急冷後、
窒化することにより得られたものである上記(1)ない
し(3)のいずれかに記載の磁石粉末。
【0013】(5) 前記Rは、Smを主とする希土類
元素である上記(2)ないし(4)のいずれかに記載の
磁石粉末。
【0014】(6) 磁石粉末は、冷却ロールを用いて
製造された急冷薄帯を窒化および粉砕することにより得
られたものである上記(1)ないし(5)のいずれかに
記載の磁石粉末。
【0015】(7) 磁石粉末は、その製造過程で、ま
たは製造後少なくとも1回熱処理が施されたものである
上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の磁石粉末。
【0016】(8) 平均粒径が0.5〜150μmで
ある上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の磁石粉
末。
【0017】(9) 前記TbCu7型相の平均結晶粒
径が5〜100nmである上記(1)ないし(8)のい
ずれかに記載の磁石粉末。
【0018】(10) 磁石粉末は、Cu、Si、G
a、Ti、V、Ta、Nb、Mo、Ag、Zn、P、G
e、Cr、Cよりなる群から選択される少なくとも1種
の元素を含有する上記(1)ないし(9)のいずれかに
記載の磁石粉末。
【0019】(11) 前記元素の含有量が3原子%以
下である上記(10)に記載の磁石粉末。
【0020】(12) 上記(1)ないし(11)のい
ずれかに記載の磁石粉末を結合樹脂で結合してなること
を特徴とする等方性ボンド磁石。
【0021】(13) 不可逆減磁率(初期減磁率)の
絶対値が6.2%以下である上記(12)に記載の等方
性ボンド磁石。
【0022】(14) 磁気エネルギー積(BH)max
が40kJ/m3以上である上記(12)または(1
3)に記載の希土類ボンド磁石。
【0023】(15) 多極着磁に供される、または多
極着磁された上記(12)ないし(14)のいずれかに
記載の等方性ボンド磁石。
【0024】(16) モータに用いられる上記(1
2)ないし(15)のいずれかに記載の等方性ボンド磁
石。
【0025】
【発明の実施の形態】以下、本発明の磁石粉末および等
方性ボンド磁石の実施の形態について、詳細に説明す
る。
【0026】[本発明の概要]モータなどの小型化を図
るために、磁束密度が高い磁石を得ることが課題となっ
ている。ボンド磁石における磁束密度を決定する要因
は、磁石粉末の磁化の値と、ボンド磁石中における磁石
粉末の含有量(含有率)とがあるが、磁石粉末自体の磁
化がそれほど高くない場合には、ボンド磁石中の磁石粉
末の含有量を極端に多くしないと十分な磁束密度が得ら
れない。
【0027】現在普及している前述のMQI社製のMQ
P−B粉末は、前述したように、用途によっては磁束密
度が不十分であり、よって、ボンド磁石の製造に際し、
ボンド磁石中の磁石粉末の含有量を高めること、すなわ
ち高密度化を余儀なくされ、耐食性、耐熱性や機械的強
度等の面で信頼性に欠けるという欠点を有している。
【0028】これに対し、本発明の磁石粉末および等方
性ボンド磁石は、十分な磁束密度と適度な保磁力が得ら
れ、これにより、ボンド磁石中の磁石粉末の含有量(含
有率)をそれほど高める必要がなく、その結果、高強度
で、成形性、耐食性、着磁性等に優れた信頼性の高いボ
ンド磁石を提供することができる。また、TbCu7
相を主相とする本発明の磁石粉末は、そのキュリー温度
がMQP−Bよりも高く熱的安定性に優れており、この
ことも信頼性の高い磁石粉末およびボンド磁石の提供に
寄与している。さらに、ボンド磁石の小型化、高性能化
により、モータ等の磁石搭載機器の小型化にも大きく貢
献することができる。
【0029】[磁石粉末の合金組成]まず、本発明の磁
石粉末の合金組成について説明する。
【0030】本発明の磁石粉末は、少なくともB(ボロ
ン)を含む合金組成からなるものである。その中でも特
に、R−TM−N−B系合金(ただし、Rは少なくとも
1種の希土類元素、TMはFeを主とする遷移金属)よ
りなるものであるのが好ましく、(R1-aR’ax(F
1-bCob100-x-y-zyz(ただし、R’はZr、
Hf、Scのうち少なくとも1種の元素、x:4〜20
原子%、y:5〜20原子%、z:0.05〜10原子
%、a:0.05〜0.50、b:0〜0.50)で表
される合金組成からなるものであるのがより好ましい。
【0031】R(希土類元素)は、保磁力の向上に有利
な元素である。R(希土類元素)としては、Y、La、
Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、D
y、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、ミッシュメタルが
挙げられ、これらを1種または2種以上含むことができ
る。
【0032】R’は、ZrHfScの少なくとも1種か
らなる元素であり、主相であるTbCu7型相のRのサ
イトを一部置換することによってこの相の安定化に寄与
する。
【0033】RとR’との含有量(含有率)の和(x)
は、4〜20原子%とされるのが好ましい。xが4原子
%未満では、十分な保磁力が得られない場合がある。一
方、xが20原子%を超えると、磁化のポテンシャルが
下がるため、十分な磁束密度が得られなくなる場合があ
る。
【0034】ここで、Rは、Smを主とする希土類元素
であるのが好ましい。その理由は、主相であるTbCu
7型相の本質的な磁気特性(飽和磁化、異方性磁界)の
値が、RがSmの場合に最も高くなるためである。
【0035】また、Rに対するR’の置換比率(a)
は、0.05〜0.50であるのが好ましい。Rに対す
るR’の置換比率が0.05未満であると、TbCu7
型相の安定化の効果が十分に得られない場合がある。一
方、Rに対するR’の置換比率が0.5を超えると、磁
化及び保磁力が低下し、十分な磁気特性が得られない場
合がある。
【0036】TMとしては、Fe、Co、Ni等が挙げ
られ、これらを1種または2種以上含むことができる。
【0037】Coは、Feと同様の特性を有する遷移金
属である。このCoを添加すること(Feの一部を置換
すること)により、キュリー温度が高くなり、温度特性
が向上するが、Feに対するCoの置換比率が0.50
を超えると、磁束密度が低下する傾向を示す。Feに対
するCoの置換比率が0.05〜0.20の範囲では、
温度特性の向上のみならず、良好な保磁力を保ちつつ、
高い磁束密度を得ることができるので、さらに好まし
い。
【0038】Nは、主相であるTbCu7型相中に侵入
型原子として固溶することにより、TbCu7型相のキ
ュリー温度を高くするとともに、保磁力の向上、飽和磁
化の向上に寄与する。また、その好ましい含有量は、5
〜20原子%とされる。Nが5%未満であると、そのよ
うな効果が小さい。一方、Nが20%を超えると、磁化
の低下が顕著となるとともに、角型性が低下して最大磁
気エネルギー積も低くなる。
【0039】Bは、結晶粒の微細化に有利な元素であ
り、その結果、高い磁束密度が得られる。その好ましい
含有量は、0.05〜10原子%とされる。Bが0.0
5原子%未満であると、そのような効果が小さい。一
方、Bが10原子%を超えると、非磁性相が多くなり、
磁束密度が減少する。
【0040】そして、Bを前述の範囲内で含有すること
によるもう一つの重要な効果は、後述する不可逆帯磁率
(χirr)を小さくすることができ、さらに、不可逆減
磁率を改善することができ、磁石の耐熱性(熱的安定
性)が向上することである。
【0041】なお、B自体は新規な物質ではないが、本
発明では、実験、研究を重ねた結果、TbCu7型相を
主相とする磁石粉末において、Bを含有せしめることに
より、優れた角型性、最大磁気エネルギー積を確保し
つつ保磁力の向上が図れる、後述する不可逆帯磁率
(χirr)を小さくすることができる、不可逆減磁率
の改善(絶対値の低減)が図れる、という3つの効果が
得られること、特にこれらの効果が同時に得られること
を見出したものであり、この点に本発明の意義がある。
【0042】なお、B含有量の好ましい範囲は、前述し
たように0.05〜10原子%であるが、0.1〜5原
子%であるのがより好ましく、0.2〜3原子%である
のがさらに好ましい。
【0043】また、磁気特性をさらに向上させる等の目
的で、磁石粉末を構成する合金中には、必要に応じ、C
u、Ga、Si、Ti、V、Ta、Nb、Mo、Ag、
Zn、P、Ge、Cr、Cよりなる群(以下この群を
「Q」で表す)から選択される少なくとも1種の元素を
含有することもできる。Qに属する元素を含有する場
合、その含有量は、3原子%以下であるのが好ましく、
0.05〜3原子%であるのがより好ましく、0.1〜
2原子%であるのがさらに好ましい。
【0044】Qに属する元素の含有は、その種類に応じ
た固有の効果を発揮する。例えば、C、P、Siは、結
晶粒を微細化する効果を有し、結果として、保磁力を向
上させる効果を有する。また、Ta、Cu、Ga、S
i、Alは、耐食性を向上させる効果がある。
【0045】[構成組織]また、磁石材料は、TbCu
7型相を主相とする組織で構成されている。ここで主相
とは、合金中の全構成相(非晶質相を含む)中、体積比
が最大の構成相を指す。高い磁化を有するTbCu7
相が主相であることは、本発明の磁石粉末が優れた磁気
特性を発揮することに大きく寄与する。
【0046】このTbCu7型相の平均結晶粒径は、5
〜100nmであるのが好ましく、10〜50nmであ
るのがより好ましい。平均結晶粒径が下限値未満である
と、結晶粒間の交換相互作用の影響が強くなり過ぎて、
磁化反転が容易となり、保磁力が劣化する場合がある。
一方、平均結晶粒径が上限値を超えると、結晶粒径の粗
大化と、結晶粒間の交換相互作用の影響が弱くなること
から、磁束密度、保磁力、角型性、最大エネルギー積が
劣化する場合がある。
【0047】なお、磁石粉末は、例えば、R2TM14
型相、Th2Zn17型相、Th2Ni1 7型相、ThMn12
型相、α−Fe型相等の結晶組織からなる相や非晶質相
等を構成相として含むものであってもよい。
【0048】[磁石粉末の製造]本発明の磁石粉末は、
溶湯合金を急冷することにより製造されたものであるの
が好ましく、特に、合金の溶湯を急冷、固化して得られ
た急冷薄帯(リボン)を粉砕して製造されたものである
のが好ましい。以下、その方法の一例について説明す
る。
【0049】図1は、単ロールを用いた急冷法により磁
石材料を製造する装置(急冷薄帯製造装置)の構成例を
示す斜視図、図2は、図1に示す装置における溶湯の冷
却ロールへの衝突部位付近の状態を示す断面側面図であ
る。
【0050】図1に示すように、急冷薄帯製造装置1
は、磁石材料を収納し得る筒体2と、該筒体2に対し図
中矢印9A方向に回転する冷却ロール5とを備えてい
る。筒体2の下端には、磁石材料(合金)の溶湯を射出
するノズル(オリフィス)3が形成されている。
【0051】また、筒体2のノズル3近傍の外周には、
加熱用のコイル4が配置され、このコイル4に例えば高
周波を印加することにより、筒体2内を加熱(誘導加
熱)し、筒体2内の磁石材料を溶融状態にする。
【0052】冷却ロール5は、基部51と、冷却ロール
5の周面53を形成する表面層52とで構成されてい
る。
【0053】表面層52は、基部51と同じ材質で一体
構成されていてもよいが、基部51の構成材料より熱伝
導率の小さい材料で構成されているのが好ましい。
【0054】基部51の構成材料は、特に限定されない
が、表面層52の熱をより速く放散できるように、例え
ば銅または銅系合金のような熱伝導率の高い金属材料で
構成されているのが好ましい。
【0055】また、表面層52の構成材料としては、例
えば、Cr、Ni、Pd、W等、またはこれらを含む合
金等の金属薄層や金属酸化物層、セラミックス等が挙げ
られる。その中でも、特に、急冷薄帯(薄帯状磁石材
料)8のロール面81とフリー面82との冷却速度の差
をより小さくできるという点で、セラミックスであるの
が好ましい。
【0056】セラミックスとしては、例えば、Al
23、SiO2、TiO2、Ti23、ZrO2、Y
23、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム等の
酸化物系セラミックス、AlN、Si34、TiN、B
N等の窒化物系セラミックス、グラファイト、SiC、
ZrC、Al43、CaC2、WC等の炭化物系のセラ
ミックス、あるいは、これらのうちの2以上を任意に組
合せた複合セラミックスが挙げられる。
【0057】また、表面層52は、図示のような単層の
みならず、例えば組成の異なる複数の層の積層体であっ
てもよい。この場合、隣接する層同士は、密着性の高い
ものが好ましく、その例としては、隣接する層同士に同
一の元素が含まれているものが挙げられる。
【0058】また、表面層52が単層で構成されている
場合でも、その組成は、厚さ方向に均一なものに限ら
ず、例えば、含有成分が厚さ方向に順次変化するもの
(傾斜材料)であってもよい。
【0059】このような急冷薄帯製造装置1は、チャン
バー(図示せず)内に設置され、該チャンバー内に、好
ましくは不活性ガスやその他の雰囲気ガスが充填された
状態で作動する。特に、急冷薄帯8の酸化を防止するた
めに、雰囲気ガスは、例えばアルゴンガス、ヘリウムガ
ス、窒素ガス等の不活性ガスであるのが好ましい。
【0060】急冷薄帯製造装置1では、筒体2内に磁石
材料(合金)を入れ、コイル4により加熱して溶融し、
その溶湯6をノズル3から吐出すると、図2に示すよう
に、溶湯6は、冷却ロール5の周面53に衝突し、パド
ル(湯溜り)7を形成した後、回転する冷却ロール5の
周面53に引きずられつつ急速に冷却されて凝固し、急
冷薄帯8が連続的または断続的に形成される。このよう
にして形成された急冷薄帯8は、やがて、そのロール面
81が周面53から離れ、図1中の矢印9B方向に進行
する。なお、図2中、溶湯の凝固界面71を点線で示
す。
【0061】冷却ロール5の周速度は、合金溶湯の組
成、周面53の溶湯6に対する濡れ性等によりその好適
な範囲が異なるが、磁気特性向上のために、通常、10
〜100m/秒であるのが好ましく、30〜85m/秒
であるのがより好ましい。冷却ロール5の周速度が遅す
ぎると、急冷薄帯8の体積流量(単位時間当たりに吐出
される溶湯の体積)によっては、急冷薄帯8の厚さtが
厚くなり、結晶粒径が増大する傾向を示すため、その後
に熱処理、窒化処理を行ったとしても磁気特性の向上が
望めなくなる。逆に冷却ロール5の周速度が速すぎる
と、急冷薄帯8の厚さが薄くなり過ぎて、表面酸化によ
る特性劣化が無視できなくなり、またボンド磁石として
成形した際に高密度が得られにくくなる等の課題が生じ
る。
【0062】なお、得られた急冷薄帯8に対しては、例
えば、非晶質組織の結晶化の促進、組織の均質化のため
に、少なくとも1回熱処理を施すこともできる。この熱
処理の条件としては、例えば、400〜900℃で、
0.5〜600分程度とすることができる。
【0063】また、この熱処理は、酸化を防止するため
に、真空または減圧状態下(例えば1×10-1〜1×1
-6Torr)、あるいはアルゴンガス、ヘリウムガス
等の不活性ガス中のような、非酸化性雰囲気中で行うの
が好ましい。
【0064】以上のような製造方法により得られた急冷
薄帯(薄帯状の磁石材料)8は、微細結晶組織、もしく
は微細結晶が非晶質組織中に含まれるような組織とな
り、優れた磁気特性が得られる。そして、この急冷薄帯
8を粉砕することにより、本発明の磁石粉末が得られ
る。
【0065】粉砕の方法は、特に限定されず、例えばボ
ールミル、振動ミル、ジェットミル、ピンミル等の各種
粉砕装置、破砕装置を用いて行うことができる。この場
合、粉砕は、酸化を防止するために、真空または減圧状
態下(例えば1×10-1〜1×10-6Torr )、あ
るいは窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活
性ガス中のような、非酸化性雰囲気中で行うこともでき
る。
【0066】磁石粉末の平均粒径は、特に限定されない
が、後述する等方性ボンド磁石を製造するためのものの
場合、磁石粉末の酸化防止と、粉砕による磁気特性劣化
の防止とを考慮して、0.5〜300μm程度が好まし
く、10〜250μm程度がより好ましく、30〜20
0μm程度がさらに好ましい。
【0067】また、ボンド磁石の成形時のより良好な成
形性を得るために、磁石粉末の粒径分布は、ある程度分
散されている(バラツキがある)のが好ましい。これに
より、得られたボンド磁石の空孔率を低減することがで
き、その結果、ボンド磁石中の磁石粉末の含有量を同じ
としたときに、ボンド磁石の密度や機械的強度をより高
めることができ、磁気特性をさらに向上することができ
る。
【0068】なお、得られた磁石粉末に対しては、例え
ば、粉砕により導入されたひずみの影響の除去、結晶粒
径の制御を目的として、熱処理を施すこともできる。こ
の熱処理の条件としては、例えば、350〜800℃
で、0.5〜300分程度とすることができる。
【0069】また、この熱処理は、酸化を防止するため
に、真空または減圧状態下(例えば1×10-1〜1×1
-6Torr)、あるいはアルゴンガス、ヘリウムガス
等の不活性ガス中のような、非酸化性雰囲気中で行うの
が好ましい。
【0070】特に、合金組成中にNが含まれる場合、N
の導入は、例えば、窒化処理によって行われる。この窒
化処理は、例えば、窒素ガス雰囲気中、350〜650
℃、0.1〜200時間程度の条件で熱処理を施すこと
により行うことができる。また、この熱処理(窒化処
理)は、前述の結晶粒径の制御等の目的を兼ねて行われ
るものであってもよい。
【0071】なお、この窒化処理は、急冷薄帯の粉砕後
に行われるものであっても、粉砕前に行われるものであ
ってもよい。
【0072】また、Nの導入は、このような熱処理(窒
化処理)によるものに限定されない。例えば、RN等の
窒素化合物を原料として用い、固相反応によりNの導入
を行ってもよい。
【0073】以上のような磁石粉末を用いてボンド磁石
を製造した場合、そのような磁石粉末は、結合樹脂との
結合性(結合樹脂の濡れ性)が良く、そのため、このボ
ンド磁石は、機械的強度が高く、熱安定性(耐熱性)、
耐食性が優れたものとなる。従って、当該磁石粉末は、
ボンド磁石の製造に適している。
【0074】なお、以上では、急冷法として、単ロール
法を例に説明したが、双ロール法を採用してもよい。ま
た、その他、例えばガスアトマイズのようなアトマイズ
法、回転ディスク法、メルト・エクストラクション法、
メカニカル・アロイング(MA)法等により製造しても
よい。このような急冷法は、金属組織(結晶粒)を微細
化することができるので、ボンド磁石の磁石特性、特に
保磁力等を向上させるのに有効である。
【0075】[ボンド磁石およびその製造]次に、本発
明の等方性ボンド磁石(以下単に、「ボンド磁石」とも
言う)について説明する。
【0076】本発明のボンド磁石は、好ましくは、前述
の磁石粉末を結合樹脂で結合してなるものである。
【0077】結合樹脂(バインダー)としては、熱可塑
性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれでもよい。
【0078】熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミ
ド(例:ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナ
イロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロ
ン12、ナイロン6−12、ナイロン6−66)、熱可
塑性ポリイミド、芳香族ポリエステル等の液晶ポリマ
ー、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンサルファ
イド、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸
ビニル共重合体等のポリオレフィン、変性ポリオレフィ
ン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポ
リエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレー
ト等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルエー
テルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアセタール等、
またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマ
ーアロイ等が挙げられ、これらのうちの1種または2種
以上を混合して用いることができる。
【0079】これらのうちでも、成形性が特に優れてお
り、機械的強度が高いことから、ポリアミド、耐熱性向
上の点から、液晶ポリマー、ポリフェニレンサルファイ
ドを主とするものが好ましい。また、これらの熱可塑性
樹脂は、磁石粉末との混練性にも優れている。
【0080】このような熱可塑性樹脂は、その種類、共
重合化等により、例えば成形性を重視したものや、耐熱
性、機械的強度を重視したものというように、広範囲の
選択が可能となるという利点がある。
【0081】一方、熱硬化性樹脂としては、例えば、ビ
スフェノール型、ノボラック型、ナフタレン系等の各種
エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン
樹脂、ポリエステル(不飽和ポリエステル)樹脂、ポリ
イミド樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙
げられ、これらのうちの1種または2種以上を混合して
用いることができる。
【0082】これらのうちでも、成形性が特に優れてお
り、機械的強度が高く、耐熱性に優れるという点から、
エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、シリ
コーン樹脂が好ましく、エポキシ樹脂が特に好ましい。
また、これらの熱硬化性樹脂は、磁石粉末との混練性、
混練の均一性にも優れている。
【0083】なお、使用される熱硬化性樹脂(未硬化)
は、室温で液状のものでも、固形(粉末状)のものでも
よい。
【0084】このような本発明のボンド磁石は、例えば
次のようにして製造される。磁石粉末と、結合樹脂と、
必要に応じ添加剤(酸化防止剤、潤滑剤等)とを混合、
混練(例えば、温間混練)してボンド磁石用組成物(コ
ンパウンド)を製造し、このボンド磁石用組成物を用い
て、圧縮成形(プレス成形)、押出成形、射出成形等の
成形方法により、無磁場中で所望の磁石形状に成形す
る。結合樹脂が熱硬化性樹脂の場合には、成形後、加熱
等によりそれを硬化する。
【0085】ここで、前記3種の成形方法のうち、押出
成形および射出成形(特に、射出成形)は、形状選択の
自由度が広く、生産性が高い等の利点があるが、これら
の成形方法では、良好な成形性を得るために、成形機内
におけるコンパウンドの十分な流動性を確保しなければ
ならないため、圧縮成形に比べて、磁石粉末の含有量を
多くすること、すなわちボンド磁石を高密度化すること
ができない。しかしながら、本発明では、後述するよう
に、高い磁束密度が得られ、そのため、ボンド磁石を高
密度化しなくても優れた磁気特性が得られるので、押出
成形、射出成形により製造されるボンド磁石にもその利
点を享受することができる。
【0086】ボンド磁石中の磁石粉末の含有量(含有
率)は、特に限定されず、通常は、成形方法や、成形性
と高磁気特性との両立を考慮して決定される。具体的に
は、75〜99.5wt%程度であるのが好ましく、8
5〜97.5wt%程度であるのがより好ましい。
【0087】特に、ボンド磁石が圧縮成形により製造さ
れたものの場合には、磁石粉末の含有量は、90〜9
9.5wt%程度であるのが好ましく、93〜98.5
wt%程度であるのがより好ましい。
【0088】また、ボンド磁石が押出成形または射出成
形により製造されたものの場合には、磁石粉末の含有量
は、75〜98wt%程度であるのが好ましく、85〜
97wt%程度であるのがより好ましい。
【0089】ボンド磁石の密度ρは、それに含まれる磁
石粉末の比重、磁石粉末の含有量、空孔率等の要因によ
り決定される。本発明のボンド磁石において、その密度
ρは特に限定されないが、4.5〜6.6Mg/m3
度であるのが好ましく、5.5〜6.4Mg/m3程度
であるのがより好ましい。
【0090】本発明では、磁石粉末の磁束密度、保磁力
が大きいので、ボンド磁石に成形した場合に、磁石粉末
の含有量が多い場合はもちろんのこと、含有量が比較的
少ない場合でも、優れた磁気特性(特に、高い最大磁気
エネルギー積(BH)max)が得られる。
【0091】本発明のボンド磁石の形状、寸法等は特に
限定されず、例えば、形状に関しては、例えば、円柱
状、角柱状、円筒状(リング状)、円弧状、平板状、湾
曲板状等のあらゆる形状のものが可能であり、その大き
さも、大型のものから超小型のものまであらゆる大きさ
のものが可能である。特に、小型化、超小型化された磁
石に有利であることは、本明細書中で度々述べている通
りである。
【0092】このようなことから、本発明のボンド磁石
は、多極着磁に供される、または多極着磁されたもので
あるのが好ましい。
【0093】以上のような本発明のボンド磁石は、室温
での磁気特性を表すJ−H図(縦軸に磁化(J)、横軸
に磁界(H)をとった図)での減磁曲線において、J−
H図中の原点を通り、かつ傾き(J/H)が−3.8×
10-6ヘンリー/mである直線との交点を出発点として
測定した場合の不可逆帯磁率(χirr)が5.0×10
-7ヘンリー/m以下であり、さらに、室温での固有保磁
力(HcJ)が400〜1000kA/mであるという磁
気特性(磁気性能)を有している。以下、不可逆帯磁率
(χirr)および固有保磁力(HcJ)について順次説明
する。
【0094】[不可逆帯磁率について]不可逆帯磁率
(χirr)とは、図3に示すように、J−H図での減磁
曲線において、ある点Pにおける当該減磁曲線の接線の
傾きを微分帯磁率(χdif)とし、前記点Pから一旦減
磁界の大きさを減らしてリコイル曲線を描かせたときの
当該リコイル曲線の傾き(リコイル曲線の両端を結ぶ直
線の傾き)を可逆帯磁率(χrev)としたとき、次式で
表されるもの(単位:ヘンリー/m)を言う。
【0095】不可逆帯磁率(χirr)=微分帯磁率(χ
dif)−可逆帯磁率(χrev) なお、本発明では、J−H図での減磁曲線において、J
−H図中の原点を通りかつ傾き(J/H)が−3.8×
10-6ヘンリー/mである直線yとの交点を前記点Pと
した。
【0096】本発明において、室温での不可逆帯磁率
(χirr)の上限値を5.0×10-7ヘンリー/mと定
めた理由は、次の通りである。
【0097】前述したように、不可逆帯磁率(χirr
は、一旦減磁界をかけた後、その絶対値を減少させても
戻らない磁化の磁界に対する変化率を示すものであるた
め、この不可逆帯磁率(χirr)をある程度小さい値に
抑えることにより、ボンド磁石の熱的安定性の向上、特
に不可逆減磁率の絶対値の低減が図れる。実際に、本発
明における不可逆帯磁率(χirr)の範囲では、ボンド
磁石を例えば100℃×1時間の環境下に放置後、室温
まで戻したときの不可逆減磁率はその絶対値が約5%以
下となり、実用上(特にモータ等の使用において)十分
な耐熱性すなわち熱的安定性が得られる。
【0098】これに対し、不可逆帯磁率(χirr)が
5.0×10-7ヘンリー/mを超えると、不可逆減磁率
の絶対値が増大し、十分な熱的安定性が得られない。ま
た、固有保磁力が低くなるとともに角型性が悪くなるの
で、ボンド磁石の実際の使用において、パーミアンス係
数(Pc)が大きくなる(例えばPc≧5)ような用途
での使用に制限されてしまう。また、保磁力の低下は、
熱的安定性の低下をもたらすことにもなる。
【0099】室温での不可逆帯磁率(χirr)を5.0
×10-7ヘンリー/m以下と定めた理由は以上のとおり
であるが、不可逆帯磁率(χirr)はできるだけ小さい
値が好ましく、従って、本発明では、不可逆帯磁率(χ
irr)が4.5×10-7ヘンリー/m以下であるのがよ
り好ましく、4.0×10-7ヘンリー/m以下であるの
がさらに好ましい。
【0100】[固有保磁力について]ボンド磁石の室温
での固有保磁力(HcJ)は、400〜1000kA/m
である。特に、480〜750kA/mがより好まし
い。
【0101】固有保磁力(HcJ)が前記上限値を超える
と、着磁性が劣り、十分な磁束密度が得られない。
【0102】一方、固有保磁力(HcJ)が前記下限値未
満であると、モータの用途によっては逆磁場がかかった
ときの減磁が顕著になり、また、高温における耐熱性が
劣る。従って、固有保磁力(HcJ)を上記範囲とするこ
とにより、ボンド磁石(特に、円筒状磁石)に多極着磁
等をするような場合に、十分な着磁磁場が得られないと
きでも、良好な着磁が可能となり、十分な磁束密度が得
られ、高性能なボンド磁石、特にモータ用ボンド磁石を
提供することができる。
【0103】さらに本発明のボンド磁石は、最大磁気エ
ネルギー積、不可逆減磁率について、以下に述べる条件
を満足するのが好ましい。
【0104】[最大磁気エネルギー積(BH)maxにつ
いて]最大磁気エネルギー積(BH)maxは、40kJ
/m3以上であるのが好ましく、60kJ/m3以上であ
るのがより好ましく、75〜130kJ/m3であるの
がさらに好ましい。最大磁気エネルギー積(BH)max
が40kJ/m3未満であると、モータ用に用いた場
合、その種類、構造によっては、十分なトルクが得られ
ない。
【0105】[不可逆減磁率について]不可逆減磁率
(初期減磁率)の絶対値は、6.2%以下であるのが好
ましく、5%以下であるのがより好ましく、4%以下で
あるのがさらに好ましい。これにより、熱的安定性(耐
熱性)に優れたボンド磁石が得られる。
【0106】
【実施例】以下、本発明の具体的実施例について説明す
る。
【0107】(実施例1)以下に述べるような方法で合
金組成が(Sm0.7Zr0.310FebalCo8.5 12z
で表される磁石粉末(B含有量zを表1に示すように種
々変化させた7種の磁石粉末)を得た。
【0108】まず、Sm、Zr、Fe、Co、Bの各原
料を秤量して母合金インゴットを鋳造し、このインゴッ
トからサンプルを切り出した。
【0109】図1および図2に示す構成の急冷薄帯製造
装置1を用意し、底部にノズル(円孔オリフィス)3を
設けた石英管内に前記サンプルを入れた。急冷薄帯製造
装置1が収納されているチャンバー内を脱気した後、不
活性ガス(アルゴンガス、ヘリウムガス)を導入し、所
望の温度および圧力の雰囲気とした。
【0110】その後、石英管内のインゴットサンプルを
高周波誘導加熱により溶解し、さらに、溶湯の噴射圧
(石英管の内圧と筒体2内における液面の高さに比例し
てかかる圧力の和と、雰囲気圧との差圧)、冷却ロール
の周速度を調整して、急冷薄帯を作製した。
【0111】得られた急冷薄帯を粗粉砕した後、アルゴ
ンガス雰囲気中で720℃×15分間の熱処理を施し
た。さらに、粒度調整のために、粉砕機(ライカイ機)
を用いてアルゴンガス中で粉砕し、平均粒径50μmの
粉末を得た。
【0112】このようにして得られた粉末に対して、窒
素雰囲気中で450℃×20時間の熱処理(窒化処理)
を施すことにより、各合金組成の磁石粉末を得た。
【0113】得られた各磁石粉末について、その相構成
を分析するため、Cu−Kαを用い回折角(2θ)が2
0°〜80°の範囲にてX線回折を行った。回折パター
ンからTbCu7型相が主相として存在することが確認
された。また、各磁石粉末について、TbCu7型相の
平均結晶粒径の測定を行った。これらの値を表1に示
す。
【0114】これらの各磁石粉末をエポキシ樹脂と混合
し、これらを225℃×15分間、混練してボンド磁石
用組成物(コンパウンド)を作製した。このとき、磁石
粉末とエポキシ樹脂との配合比率(重量比)は、各ボン
ド磁石についてほぼ等しい値とした。すなわち、各ボン
ド磁石中の磁石粉末の含有量(含有率)は、約97wt
%であった。
【0115】次いで、このコンパウンドを粉砕して粒状
とし、この粒状物を秤量してプレス装置の金型内に充填
し、圧力800MPaで圧縮成形(無磁場中)して、成
形体を得た。離型後、エポキシ樹脂を150℃で硬化さ
せて、直径10mm×高さ7mmの円柱状の等方性ボン
ド磁石を得た。また、各ボンド磁石の密度ρは、いずれ
も約6.3Mg/m3であった。
【0116】<磁気特性、不可逆帯磁率の評価>各ボン
ド磁石について、磁場強度3.2MA/mでパルス着磁
を施した後、直流自記磁束計(東英工業(株)製、TR
F−5BH)にて最大印加磁場2.0MA/mで磁気特
性(残留磁束密度Br、固有保磁力HcJ、最大磁気エネ
ルギー積(BH)max)を測定した。測定時の温度は、
23℃(室温)であった。
【0117】図4に示すように、得られたJ−H図の減
磁曲線において、原点を通り傾き(J/H)が−3.8
×10-6ヘンリー/mの直線との交点Pを出発点とし、
ここから磁界を一旦0まで変化させてから再び元に戻し
てリコイル曲線を描き、このリコイル曲線の傾き(リコ
イル曲線の両端を結ぶ直線の傾き)を可逆帯磁率(χ
rev)として求めた。また、前記交点Pにおける減磁曲
線の接線の傾きを微分帯磁率(χdif)として求めた。
室温での不可逆帯磁率(χirr)は、χirr=χdif−χ
revとして求めた。これらの結果を下記表1に示す。
【0118】<耐熱性の評価>次に、前記各ボンド磁石
(直径10mm×高さ7mmの円柱状)の耐熱性(熱的
安定性)を調べた。この耐熱性は、ボンド磁石を100
℃×1時間の環境下に保持した後、室温まで戻した際の
不可逆減磁率(初期減磁率)を測定し、評価した。これ
らの結果を下記表1に示す。不可逆減磁率(初期減磁
率)の絶対値が小さいほど、耐熱性(熱的安定性)に優
れる。
【0119】
【表1】
【0120】<総合評価>表1からわかるように、Bを
含有し、TbCu7型相を主相とする磁石粉末を用いて
製造した等方性ボンド磁石であって、かつ不可逆帯磁率
(χirr)が5.0×10-7ヘンリー/m以下の等方性
ボンド磁石(サンプルNo.2〜No.7)は、いずれ
も優れた磁気特性(残留磁束密度、固有保磁力、最大磁
気エネルギー積)を有し、不可逆減磁率の絶対値も小さ
いことから耐熱性(熱的安定性)が高く、さらに、着磁
性も良好である。その中でも、Bの含有量を最適な値と
したサンプルNo.2〜No.6による等方性ボンド磁
石は、特に優れた磁気特性(特に、残留磁束密度)を有
している。
【0121】以上のようなことから、本発明によれば、
高性能で信頼性(特に、耐熱性)の高いボンド磁石を提
供することができる。特に、ボンド磁石をモータとして
使用した場合に、高い性能が発揮される。
【0122】(実施例2)母合金インゴットの原料とし
て、Sm、Fe、Co、B、R’およびQ(ただし、
R’はZr、Hf、Scのうち少なくとも1種の元素、
QはCu、Si、Ga、Ti、V、Ta、Nb、Mo、
Ag、Zn、P、Ge、Cr、Cよりなる群から選択さ
れる少なくとも1種の元素)を用いた以外は、実施例1
と同様にして、表2に示す合金組成で表される磁石粉末
(サンプルNo.8〜No.14)を製造した。
【0123】
【表2】
【0124】このようにして得られた各磁石粉末を用い
て、実施例1と同様にしてボンド磁石を製造した。これ
らについて、TbCu7型相の平均結晶粒径の測定、磁
気特性、不可逆帯磁率、および耐熱性の評価を実施例1
と同様にして行った。これらの結果を表3に示す。
【0125】
【表3】
【0126】<総合評価>表3から明らかなように、サ
ンプルNo.8〜14によるボンド磁石は、いずれも特
に優れた磁気特性および熱的安定性(耐熱性)を有して
いる。
【0127】このように、本発明のボンド磁石は、所定
量のQを添加することにより、さらに優れた磁気特性お
よび熱的安定性(耐熱性)を有するものとなる。これ
は、BとともにQを含有することにより、相乗的な効果
が得られるためであると考えられる。
【0128】(実施例3)サンプルNo.1〜No.1
4の各磁石粉末を用いて、実施例1、2と同様にして、
外径22mm×内径20mm×高さ4mmの円筒状(リ
ング状)の等方性ボンド磁石を製造し、得られた各ボン
ド磁石を8極に多極着磁した。着磁の際に着磁コイルに
流す電流値は16kAとした。
【0129】なお、このとき、着磁率90%を達成する
のに要した着磁磁界の大きさは、比較的小さく、よっ
て、着磁性は良好であった。
【0130】このようにして着磁された各ボンド磁石を
ロータ磁石として用いて、CD−ROM用スピンドルモ
ータを組み立てた。
【0131】各CD−ROM用スピンドルモータにおい
て、ロータを1000rpmで回転させたときの巻線コ
イルに発生した逆起電圧を測定した。その結果、サンプ
ルNo.7(比較例)によるボンド磁石を用いたモータ
は、電圧が0.80Vであったのに対し、サンプルN
o.1〜No.6、No.8〜No.14(いずれも本
発明)によるボンド磁石を用いたモータは、いずれも
0.96V以上と20%以上高い値が得られた。
【0132】その結果、本発明のボンド磁石を用いる
と、高性能のモータが製造できることが確認された。
【0133】ボンド磁石を押出成形により製造した(ボ
ンド磁石中の磁石粉末の含有率:92〜95wt%)以
外は、上記実施例1、2と同様にして本発明のボンド磁
石およびモータを製造し、性能評価を行ったところ、前
記と同様の結果が得られた。
【0134】ボンド磁石を射出成形により製造した(ボ
ンド磁石中の磁石粉末の含有率:90〜93wt%)以
外は、上記実施例1、2と同様にして本発明のボンド磁
石およびモータを製造し、性能評価を行ったところ、前
記と同様の結果が得られた。
【0135】
【発明の効果】以上述べたように、本発明によれば、次
のような効果が得られる。
【0136】・磁石粉末がBを含有し、かつTbCu7
型相を主相とする構成組織を有することにより、磁化が
高く、優れた磁気特性を発揮し、特に固有保磁力と角型
性が改善される。
【0137】・不可逆減磁率の絶対値が小さく、優れた
耐熱性(熱的安定性)が得られる。・所定量のQ(ただ
し、QはC、Cu、Si、Ga、Ti、V、Ta、N
b、Mo、Ag、Zn、P、Ge、Crよりなる群から
選択される少なくとも1種の元素)をBとともに含有す
ることにより、相乗的な効果が得られ、さらに優れた磁
気特性が得られる。また、耐熱性および耐食性もより優
れたものとなる。
【0138】・高い磁束密度が得られるので、等方性で
あっても、高磁気特性を持つボンド磁石が得られる。特
に、従来の等方性ボンド磁石に比べ、より小さい体積の
ボンド磁石で同等以上の磁気性能を発揮することができ
るので、より小型で高性能のモータを得ることが可能と
なる。
【0139】・また、高い磁束密度が得られることか
ら、ボンド磁石の製造に際し、高密度化を追求しなくて
も十分に高い磁気特性を得ることができ、その結果、成
形性の向上と共に、寸法精度、機械的強度、耐食性、耐
熱性(熱的安定性)等のさらなる向上が図れ、信頼性の
高いボンド磁石を容易に製造することが可能となる。
【0140】・着磁性が良好なので、より低い着磁磁場
で着磁することができ、特に多極着磁等を容易かつ確実
に行うことができ、かつ高い磁束密度を得ることができ
る。
【図面の簡単な説明】
【図1】磁石材料を製造する装置(急冷薄帯製造装置)
の構成例を示す斜視図である。
【図2】図1に示す装置における溶湯の冷却ロールへの
衝突部位付近の状態を示す断面側面図である。
【図3】不可逆帯磁率を説明するための図(J−H図)
である。
【図4】減磁曲線およびリコイル曲線を示すJ−H図で
ある。
【符号の説明】
1 急冷薄帯製造装置 2 筒体 3 ノズル 4 コイル 5 冷却ロール 51 基部 52 表面層 53 周面 6 溶湯 7 パドル 71 凝固界面 8 急冷薄帯 81 ロール面 9A 矢印 9B 矢印

Claims (16)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 Bを含有し、かつTbCu7型相を主相
    とする磁石粉末であって、 結合樹脂と混合し成形して等方性ボンド磁石としたとき
    に、室温での磁気特性を表すJ−H図での減磁曲線にお
    いて、前記J−H図中の原点を通り、かつ傾き(J/
    H)が−3.8×10-6ヘンリー/mである直線との交
    点を出発点として測定した場合の不可逆帯磁率
    (χirr)が5.0×10-7ヘンリー/m以下であり、
    さらに、室温での固有保磁力HcJが400〜1000k
    A/mであることを特微とする磁石粉末。
  2. 【請求項2】 磁石粉末は、R−TM−N−B系合金
    (ただし、Rは少なくとも1種の希土類元素、TMはF
    eを主とする遷移金属)よりなるものである請求項1に
    記載の磁石粉末。
  3. 【請求項3】 磁石粉末は、(R1-aR’ax(Fe1-b
    Cob100-x-y-z yz(ただし、R’はZr、Hf、
    Scのうち少なくとも1種の元素、x:4〜20原子
    %、y:5〜20原子%、z:0.05〜10原子%、
    a:0.05〜0.50、b:0〜0.50)で表され
    る合金組成からなるものである請求項1または2に記載
    の磁石粉末。
  4. 【請求項4】 磁石粉末は、溶湯合金を急冷後、窒化す
    ることにより得られたものである請求項1ないし3のい
    ずれかに記載の磁石粉末。
  5. 【請求項5】 前記Rは、Smを主とする希土類元素で
    ある請求項2ないし4のいずれかに記載の磁石粉末。
  6. 【請求項6】 磁石粉末は、冷却ロールを用いて製造さ
    れた急冷薄帯を窒化および粉砕することにより得られた
    ものである請求項1ないし5のいずれかに記載の磁石粉
    末。
  7. 【請求項7】 磁石粉末は、その製造過程で、または製
    造後少なくとも1回熱処理が施されたものである請求項
    1ないし6のいずれかに記載の磁石粉末。
  8. 【請求項8】 平均粒径が0.5〜150μmである請
    求項1ないし7のいずれかに記載の磁石粉末。
  9. 【請求項9】 前記TbCu7型相の平均結晶粒径が5
    〜100nmである請求項1ないし8のいずれかに記載
    の磁石粉末。
  10. 【請求項10】 磁石粉末は、Cu、Si、Ga、T
    i、V、Ta、Nb、Mo、Ag、Zn、P、Ge、C
    r、Cよりなる群から選択される少なくとも1種の元素
    を含有する請求項1ないし9のいずれかに記載の磁石粉
    末。
  11. 【請求項11】 前記元素の含有量が3原子%以下であ
    る請求項10に記載の磁石粉末。
  12. 【請求項12】 請求項1ないし11のいずれかに記載
    の磁石粉末を結合樹脂で結合してなることを特徴とする
    等方性ボンド磁石。
  13. 【請求項13】 不可逆減磁率(初期減磁率)の絶対値
    が6.2%以下である請求項12に記載の等方性ボンド
    磁石。
  14. 【請求項14】 磁気エネルギー積(BH)maxが40
    kJ/m3以上である請求項12または13に記載の希
    土類ボンド磁石。
  15. 【請求項15】 多極着磁に供される、または多極着磁
    された請求項12ないし14のいずれかに記載の等方性
    ボンド磁石。
  16. 【請求項16】 モータに用いられる請求項12ないし
    15のいずれかに記載の等方性ボンド磁石。
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