JP2001035713A - 磁石粉末および等方性ボンド磁石 - Google Patents

磁石粉末および等方性ボンド磁石

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JP2001035713A JP2000167564A JP2000167564A JP2001035713A JP 2001035713 A JP2001035713 A JP 2001035713A JP 2000167564 A JP2000167564 A JP 2000167564A JP 2000167564 A JP2000167564 A JP 2000167564A JP 2001035713 A JP2001035713 A JP 2001035713A
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聖 新井
Hiroshi Kato
洋 加藤
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 磁束密度が高く、着磁性に優れ、信頼性、特
に耐熱性(熱的安定性)の高い磁石を提供する。 【解決手段】 本発明の磁石粉末は、Alを含有するも
のであって、結合樹脂と混合し成形して等方性ボンド磁
石としたときに、室温での磁気特性を表すJ−H図での
減磁曲線において、前記J−H図中の原点を通り、かつ
傾き(J/H)が−3.8×10-6ヘンリー/mである直線
yとの交点Pを出発点として測定した場合の不可逆帯磁
率(χirr=χdif−χrev)が5.0×10-7ヘンリー/m
以下であり、さらに室温での固有保磁力(HcJ)が40
6〜717kA/mである。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、磁石粉末および等
方性ボンド磁石に関する。
【0002】
【従来の技術】モータ等の小型化を図るためには、その
モータに使用される際の(実質的なパーミアンスにおい
ての)磁石の磁束密度が高いことが望まれる。ボンド磁
石における磁束密度を決定する要因は、磁石粉末の磁化
の値と、ボンド磁石中における磁石粉末の含有量(含有
率)とがある。従って、磁石粉末自体の磁化がそれほど
高くない場合には、ボンド磁石中の磁石粉末の含有量を
極端に多くしないと十分な磁束密度が得られない。
【0003】ところで、現在、高性能な希土類ボンド磁
石として使用されているものとしては、希土類磁石粉末
として、MQI社製のMQP−B粉末を用いた等方性ボ
ンド磁石が大半を占めている。等方性ボンド磁石は、異
方性ボンド磁石に比べ次のような利点がある。すなわ
ち、ボンド磁石の製造に際し、磁場配向が不要であるた
め、製造プロセスが簡単で、その結果製造コストが安価
となることである。しかしこのMQP−B粉末に代表さ
れる従来の等方性ボンド磁石には、次のような問題点が
ある。
【0004】1) 従来の等方性ボンド磁石では、磁束
密度が不十分であった。すなわち用いられる磁石粉末の
磁化が低いため、ボンド磁石中の磁石粉末の含有量(含
有率)を高めなければならないが、磁石粉末の含有量を
高くすると、ボンド磁石の成形性が悪くなるため、限界
がある。また、成形条件の工夫等により磁石粉末の含有
量を多くしたとしても、やはり、得られる磁束密度には
限界があり、このためモータの小型化を図ることはでき
ない。
【0005】2) 保磁力が高いため、着磁性が悪く、
比較的高い着磁磁場が必要であった。
【0006】3) ナノコンポジット磁石で残留磁束密
度の高い磁石も報告されているが、その場合は逆に保磁
力が小さすぎて、実用上モータとして得られる磁束密度
(実際に使用される際のパーミアンスでの)は非常に低
いものであった。また、保磁力が小さいため、熱的安定
性も劣る。
【0007】4) ボンド磁石の耐食性、耐熱性が低く
なる。すなわち、磁石粉末の磁気特性の低さを補うため
に、ボンド磁石中の磁石粉末の含有量を多くしなければ
ならず(すなわちボンド磁石の密度を極端に高密度化す
ることとなり)、その結果、ボンド磁石は、耐食性、耐
熱性が劣り信頼性が低いものとなる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、磁束
密度が高く、着磁性に優れ、信頼性、特に温度特性に優
れた磁石を提供することができる磁石粉末および等方性
ボンド磁石を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】このような目的は、下記
(1)〜(12)の本発明により達成される。
【0010】(1) Alを含有する磁石粉末であっ
て、結合樹脂と混合し成形して等方性ボンド磁石とした
ときに、室温での磁気特性を表すJ−H図での減磁曲線
において、前記J−H図中の原点を通り、かつ傾き(J
/H)が−3.8×10-6ヘンリー/mである直線との交点
を出発点として測定した場合の不可逆帯磁率(χirr
が5.0×10-7ヘンリー/m以下であり、さらに、室温で
の固有保磁力(HcJ)が406〜717kA/mである
ことを特徴とする磁石粉末。
【0011】(2) 磁石粉末中のAlの含有量が、
0.02〜1.5原子%である上記(1)に記載の磁石
粉末。
【0012】(3) 磁石粉末は、R−TM−B−Al
系合金(ただし、Rは少なくとも1種の希土類元素、T
Mは鉄を主とする遷移金属)よりなるものである上記
(1)または(2)に記載の磁石粉末。
【0013】(4) 磁石粉末は、Rx(Fe1-y
y100-x-z-wzAlw(ただし、Rは少なくとも1種
の希土類元素、x:8.1〜9.4原子%、y:0〜
0.30、z:4.6〜6.8原子%、w:0.02〜
1.5原子%)で表される合金組成からなる上記(1)
ないし(3)のいずれかに記載の磁石粉末。
【0014】(5) 前記RはNdおよび/またはPr
を主とする希土類元素である上記(3)または(4)に
記載の磁石粉末。
【0015】(6) 前記Rは、Prを含み、その割合
が前記R全体に対し5〜75%である上記(3)ないし
(5)のいずれかに記載の磁石粉末。
【0016】(7) 前記Rは、Dyを含み、その割合
が前記R全体に対し14%以下である上記(3)ないし
(6)のいずれかに記載の磁石粉末。
【0017】(8) 磁石粉末は、溶融合金を急冷する
ことにより得られたものである上記(1)ないし(7)
のいずれかに記載の磁石粉末。
【0018】(9) 磁石粉末は、冷却ロールを用いて
製造された急冷薄帯を粉砕して得られたものである上記
(1)ないし(8)のいずれかに記載の磁石粉末。
【0019】(10) 磁石粉末は、その製造過程で、
または製造後少なくとも1回熱処理が施されたものであ
る上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の磁石粉
末。
【0020】(11) 平均粒径が0.5〜150μm
である上記(1)ないし(10)のいずれかに記載の磁
石粉末。
【0021】(12) 上記(1)ないし(11)のい
ずれかに記載の磁石粉末を結合樹脂で結合してなること
を特徴とする等方性ボンド磁石。
【0022】
【発明の実施の形態】以下、本発明の磁石粉末およびこ
れを用いた等方性ボンド磁石の実施の形態について、詳
細に説明する。
【0023】[本発明の概要]モータなどの小型化を図
るために、磁束密度が高い磁石を得ることが課題となっ
ている。ボンド磁石における磁束密度を決定する要因
は、磁石粉末の磁化の値と、ボンド磁石中における磁石
粉末の含有量(含有率)とがあるが、磁石粉末自体の磁
化がそれほど高くない場合には、ボンド磁石中の磁石粉
末の含有量を極端に多くしないと十分な磁束密度が得ら
れない。
【0024】現在普及している前述のMQI社製のMQ
P−B粉末は、前述したように、用途によっては磁束密
度が不十分であり、よって、ボンド磁石の製造に際し、
ボンド磁石中の磁石粉末の含有量を高めること、すなわ
ち高密度化を余儀なくされ、耐食性、耐熱性や機械的強
度等の面で信頼性に欠けるとともに、保磁力が高いた
め、着磁性が悪いという欠点を有している。
【0025】これに対し、本発明の磁石粉末および等方
性ボンド磁石(等方性希土類ボンド磁石)は、十分な磁
束密度と適度な保磁力が得られ、これにより、ボンド磁
石中の磁石粉末の含有量(含有率)をそれほど高める必
要がなく、その結果、高強度で、成形性、耐食性、着磁
性等に優れた信頼性の高いボンド磁石を提供することが
でき、また、ボンド磁石の小型化、高性能化により、モ
ータ等の磁石搭載機器の小型化にも大きく貢献すること
ができる。
【0026】さらに、本発明の磁石粉末は、ハード磁性
相とソフト磁性相とを有する組織を構成するものとする
ことができる。
【0027】前述のMQI社製のMQP−B粉末は、ハ
ード磁性相の単相組織であるが、このようなナノコンポ
ジット組織では磁化の高いソフト磁性相が存在するた
め、トータルの磁化が高くなるという利点があり、さら
にリコイル透磁率が高くなるため、一旦逆磁場を加えて
もその後の減磁率が小さいという利点を有する。
【0028】[磁石粉末の合金組成]本発明の磁石粉末
は、Alを含有する合金組成からなるものである。Al
を含有することにより、保磁力を向上することができる
とともに、後述する不可逆帯磁率(χirr)を小さくす
ることができ、磁石の耐熱性を向上することができる。
特に、磁石粉末は、R−TM−B−Al系合金であるの
が好ましく、さらに、Rx(Fe1-yCoy100-x-z-w
zAlw(ただし、Rは少なくとも1種の希土類元素、
x:8.1〜9.4原子%、y:0〜0.30、z:
4.6〜6.8原子%、w:0.02〜1.5原子%)
で表される合金組成からなるものであるのが好ましい。
【0029】R(希土類元素)としては、Y、La、C
e、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、D
y、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、ミッシュメタルが
挙げられ、これらを1種または2種以上含むことができ
る。
【0030】Rの含有量(含有率)は、8.1〜9.4
原子%であるのが好ましい。Rが8.1原子%未満で
は、十分な保磁力が得られない場合があり、Alを添加
しても保磁力の向上が少ない。一方、Rが9.4原子%
を超えると、磁化のポテンシャルが下がるため、十分な
磁束密度が得られない場合がある。
【0031】ここで、RはNdおよび/またはPrを主
とする希土類元素であるのが好ましい。その理由は、こ
れらの希土類元素は、後述のナノコンポジット組織を構
成するハード磁性相の飽和磁化を高め、また磁石として
良好な保磁力を実現するために有効だからである。
【0032】また、Rは、Prを含み、その割合がR全
体に対し5〜75%であるのが好ましく、10〜60%
であるのがより好ましい。この範囲であると、残留磁束
密度の低下をほとんど生じることなく、保磁力および角
型性を向上させることができるためである。
【0033】また、Rは、Dyを含み、その割合がR全
体に対し14%以下であるのが好ましい。この範囲であ
ると、残留磁束密度の著しい低下を生じることなく、保
磁力を向上させることができると共に、耐熱性の大幅な
向上も可能となるからである。
【0034】Coは、Feと同様の特性を有する遷移金
属である。このCoを添加すること(Feの一部を置換
すること)により、キュリー温度が高くなり、温度特性
が向上するが、Feに対するCoの置換比率が0.30
を超えると、保磁力、磁束密度とともに低下する傾向を
示す。Feに対するCoの置換比率が0.05〜0.2
0の範囲では、温度特性の向上のみならず、磁束密度自
体も向上するので、さらに好ましい。また、さらに、F
eまたはCoの一部をNiに置換してもよい。
【0035】B(ボロン)は、高い磁気特性を得るのに
重要な元素であり、その含有量は、4.6〜6.8原子
%であるのが好ましい。Bが4.6%未満であると、角
型性が悪くなる場合がある。一方、Bが6.8%を超え
ると、非磁性相が多くなり、磁束密度が急減する。
【0036】Alは、前述したように、保磁力向上にと
って有利な元素である。特に、0.02〜1.5原子%
の範囲で含有されることにより、保磁力向上の効果が顕
著に現れる。そして、この範囲では、保磁力の向上に追
随して角型性および最大磁気エネルギー積も向上する。
さらに、耐食性についても良好となる。ただし、上述し
たように、Rが8.1原子%未満では、Al添加による
このような効果は非常に小さい。また、Alが1.5原
子%を超えると、磁化の低下が顕著となり、高い磁束密
度を得ることは困難となり、保磁力も低下する。
【0037】そして、Alを0.02〜1.5原子%含
むことによるもう一つの重要な効果は、後述する不可逆
帯磁率(χirr)を小さくすることができ、さらに、不
可逆減磁率を改善することができ、磁石の耐熱性(熱的
安定性)が向上することである。Alが0.02原子%
未満では、このような効果が少なく、また、前述した保
磁力向上の効果も少ない。
【0038】なお、Al自体は新規な物質ではないが、
本発明では、実験、研究を重ねた結果、Alを含有せし
めることにより、優れた角型性、最大磁気エネルギー
積を確保しつつ保磁力の向上が図れる、後述する不可
逆帯磁率(χirr)を小さくすることができる、不可
逆減磁率の改善(絶対値の低減)が図れる、良好な耐
食性を保持できる、という4つの効果が得られること、
特にこれらの効果が同時に得られることを見出したもの
であり、この点に本発明の意義がある。
【0039】このように、本発明では、Alを含有せし
めることにその特徴を見出したものである。
【0040】なお、Al含有量は、比較的少量であるの
が好ましく、その好ましい範囲は、前述したように0.
02〜1.5原子%であるが、この範囲の上限値は、
1.2原子%であるのがより好ましく、0.8原子%で
あるのがさらに好ましい。
【0041】また、磁気特性をさらに向上させる等の目
的で、磁石粉末を構成する合金中には、必要に応じ、C
u、Si、Ga、Ti、V、Ta、Zr、Nb、Mo、
Hf、Ag、Zn、P、Ge、Crよりなる群(以下こ
の群を「Q」で表す)から選択される少なくとも1種の
元素を含有することもできる。Qに属する元素を含有す
る場合、その含有量は、3原子%以下であるのが好まし
く、0.2〜3原子%であるのがより好ましく、0.5
〜2原子%であるのがさらに好ましい。
【0042】Qに属する元素の含有は、その種類に応じ
た固有の効果を発揮する。例えば、Cu、Si、Ga、
V、Ta、Zr、Cr、Nbは、耐食性を向上させる効
果がある。このうち特に、Siの含有は、耐食性向上効
果の他に、前記、、の効果をも奏する。
【0043】[ナノコンポジット組織]また、磁石材料
は、ソフト磁性相とハード磁性相とを有する組織(複合
組織)となっているのが好ましい。
【0044】この組織は、ソフト磁性相10とハード磁
性相11とが、例えば図1、図2または図3に示すよう
なパターン(モデル)で存在しており、各相の厚さや粒
径がナノメーターレベル(例えば1〜100nm)で存
在している。そして、ソフト磁性相10とハード磁性相
11とが相隣接し(粒界相を介して隣接する場合も含
む)、磁気的な交換相互作用を生じる。
【0045】なお、図1〜図3に示すパターンは、一例
であって、これらに限られるものではなく、例えば図2
に示すパターンにおいて、ソフト磁性相10とハード磁
性相11とが逆になっているものでもよい。
【0046】ソフト磁性相の磁化は、外部磁界の作用に
より容易にその向きを変えるので、通常はハード磁性相
に混在すると、系全体の磁化曲線はJ−H図の第二象現
で段のある「へび型曲線」となる。しかし、ソフト磁性
相のサイズが数10nm以下と十分小さい場合には、ソ
フト磁性体の磁化が周囲のハード磁性体の磁化との結合
によって十分強く拘束され、系全体がハード磁性体とし
て振舞うようになる。
【0047】このようなナノコンポジット組織(複合組
織)を持つ磁石は、主に、以下に挙げる特徴1)〜5)
を有している。
【0048】1)J−H図(縦軸に磁化(J)、横軸に
磁界(H)をとった図)の第二象現で、磁化が可逆的に
スプリングバックする(この意味で「スプリング磁石」
とも言う)。 2)着磁性が良く、比較的低い磁場で着磁できる。 3)磁気特性の温度依存性がハード磁性相単独の場合に
比べて小さい。 4)磁気特性の経時変化が小さい。 5)微粉砕しても磁気特性が劣化しない。
【0049】前述した合金組成において、ハード磁性相
およびソフト磁性相は、例えば次のようなものとなる。
【0050】ハード磁性相:R2TM14B系(ただし、
TMはFeまたはFeとCo)、またはR2TM14BA
l系(あるいは、R2TM14BQ系、R2TM14BAlQ
系)ソフト磁性相:TM(特にα−Fe,α−(Fe,
Co))、またはTMとAlとの合金相(あるいは、T
MとQとの合金相、TMとAlとQとの合金相)
【0051】[磁石粉末の製造]本発明の磁石粉末は、
溶融合金を急冷することにより製造されたものであるの
が好ましく、特に、合金の溶湯を急冷、固化して得られ
た急冷薄帯(リボン)を粉砕して製造されたものである
のが好ましい。以下、その方法の一例について説明す
る。
【0052】図4は、単ロールを用いた急冷法により磁
石材料を製造する装置(急冷薄帯製造装置)の構成例を
示す斜視図、図5は、図4に示す装置における溶湯の冷
却ロールへの衝突部位付近の状態を示す断面側面図であ
る。
【0053】図4に示すように、急冷薄帯製造装置1
は、磁石材料を収納し得る筒体2と、該筒体2に対し図
中矢印9A方向に回転する冷却ロール5とを備えてい
る。筒体2の下端には、磁石材料(合金)の溶湯を射出
するノズル(オリフィス)3が形成されている。
【0054】また、筒体2のノズル3近傍の外周には、
加熱用のコイル4が配置され、このコイル4に例えば高
周波を印加することにより、筒体2内を加熱(誘導加
熱)し、筒体2内の磁石材料を溶融状態にする。
【0055】冷却ロール5は、基部51と、冷却ロール
5の周面53を形成する表面層52とで構成されてい
る。
【0056】基部51の構成材料は、表面層52と同じ
材質で一体構成されていてもよく、また、表面層52と
は異なる材質で構成されていてもよい。
【0057】基部51の構成材料は、特に限定されない
が、表面層52の熱をより速く放散できるように、例え
ば銅または銅系合金のような熱伝導率の高い金属材料で
構成されているのが好ましい。
【0058】また、表面層52は、熱伝導率が基部51
と同等かまたは基部51より低い材料で構成されている
のが好ましい。
【0059】このような急冷薄帯製造装置1は、チャン
バー(図示せず)内に設置され、該チャンバー内に、好
ましくは不活性ガスやその他の雰囲気ガスが充填された
状態で作動する。特に、急冷薄帯8の酸化を防止するた
めに、雰囲気ガスは、例えばアルゴンガス、ヘリウムガ
ス、窒素ガス等の不活性ガスであるのが好ましい。
【0060】急冷薄帯製造装置1では、筒体2内に磁石
材料(合金)を入れ、コイル4により加熱して溶融し、
その溶湯6をノズル3から吐出すると、図5に示すよう
に、溶湯6は、冷却ロール5の周面53に衝突し、パド
ル(湯溜り)7を形成した後、回転する冷却ロール5の
周面53に引きずられつつ急速に冷却されて凝固し、急
冷薄帯8が連続的または断続的に形成される。このよう
にして形成された急冷薄帯8は、やがて、そのロール面
81が周面53から離れ、図4中の矢印9B方向に進行
する。なお、図5中、溶湯の凝固界面71を点線で示
す。
【0061】冷却ロール5の周速度は、合金溶湯の組
成、周面53の溶湯6に対する濡れ性等によりその好適
な範囲が異なるが、磁気特性向上のために、通常、1〜
60m/秒であるのが好ましく、5〜40m/秒である
のがより好ましい。冷却ロール5の周速度が遅すぎる
と、急冷薄帯8の体積流量(単位時間当たりに吐出され
る溶湯の体積)によっては、急冷薄帯8の厚さtが厚く
なり、結晶粒径が増大する傾向を示し、逆に冷却ロール
5の周速度が速すぎると、大部分が非晶質組織となり、
いずれの場合にも、その後に熱処理を加えたとしても磁
気特性の向上が望めなくなる。
【0062】なお、得られた急冷薄帯8に対しては、例
えば、非晶質組織の再結晶化の促進、組織の均質化のた
めに、熱処理を施すこともできる。この熱処理の条件と
しては、例えば、400〜900℃で、0.5〜300
分程度とすることができる。
【0063】また、この熱処理は、酸化を防止するため
に、真空または減圧状態下(例えば1×10-1〜1×1
-6 Torr )、あるいは窒素ガス、アルゴンガス、ヘリ
ウムガス等の不活性ガス中のような、非酸化性雰囲気中
で行うのが好ましい。
【0064】以上のような製造方法により得られた急冷
薄帯(薄帯状の磁石材料)8は、微細結晶組織、もしく
は微細結晶がアモルファス組織中に含まれるような組織
となり、優れた磁気特性が得られる。そして、この急冷
薄帯8を粉砕することにより、本発明の磁石粉末が得ら
れる。
【0065】粉砕の方法は、特に限定されず、例えばボ
ールミル、振動ミル、ジェットミル、ピンミル等の各種
粉砕装置、破砕装置を用いて行うことができる。この場
合、粉砕は、酸化を防止するために、真空または減圧状
態下(例えば1×10-1〜1×10-6 Torr )、あるい
は窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガ
ス中のような、非酸化性雰囲気中で行うこともできる。
【0066】磁石粉末の平均粒径は、特に限定されない
が、後述する等方性ボンド磁石を製造するためのものの
場合、磁石粉末の酸化防止と、粉砕による磁気特性劣化
の防止とを考慮して、0.5〜150μm程度が好まし
く、1〜65μm程度がより好ましく、5〜55μm程
度がさらに好ましい。
【0067】また、ボンド磁石の成形時のより良好な成
形性を得るために、磁石粉末の粒径分布は、ある程度分
散されている(バラツキがある)のが好ましい。これに
より、得られたボンド磁石の空孔率を低減することがで
き、その結果、ボンド磁石中の磁石粉末の含有量を同じ
としたときに、ボンド磁石の密度や機械的強度をより高
めることができ、磁気特性をさらに向上することができ
る。
【0068】なお、得られた磁石粉末に対しては、例え
ば、粉砕により導入されたひずみの影響の除去、結晶粒
径の制御を目的として、熱処理を施すこともできる。こ
の熱処理の条件としては、例えば、350〜850℃
で、0.5〜300分程度とすることができる。
【0069】また、この熱処理は、酸化を防止するため
に、真空または減圧状態下(例えば1×10-1〜1×1
-6 Torr )、あるいは窒素ガス、アルゴンガス、ヘリ
ウムガス等の不活性ガス中のような、非酸化性雰囲気中
で行うのが好ましい。
【0070】以上のような磁石粉末を用いてボンド磁石
を製造した場合、そのような磁石粉末は、結合樹脂との
結合性(結合樹脂の濡れ性)が良く、そのため、このボ
ンド磁石は、機械的強度が高く、熱安定性(耐熱性)、
耐食性が優れたものとなる。従って、当該磁石粉末は、
ボンド磁石の製造に適している。
【0071】なお、以上では、急冷法として、単ロール
法を例に説明したが、双ロール法を採用してもよい。ま
た、その他、例えばガスアトマイズのようなアトマイズ
法、回転ディスク法、メカニカル・アロイング(MA)
法等により製造してもよい。このような急冷法は、金属
組織(結晶粒)を微細化することができるので、ボンド
磁石の磁石特性、特に保磁力等を向上させるのに有効で
ある。
【0072】[ボンド磁石およびその製造]次に、本発
明の等方性希土類ボンド磁石(以下単に「ボンド磁石」
とも言う)について説明する。
【0073】本発明のボンド磁石は、前述の磁石粉末を
結合樹脂で結合してなるものである。
【0074】結合樹脂(バインダー)としては、熱可塑
性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれでもよい。
【0075】熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミ
ド(例:ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナ
イロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロ
ン12、ナイロン6−12、ナイロン6−66、ナイロ
ン6T、ナイロン9T)、熱可塑性ポリイミド、芳香族
ポリエステル等の液晶ポリマー、ポリフェニレンオキシ
ド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレン、ポリ
プロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオ
レフィン、変性ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポ
リメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレー
ト、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポ
リエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテ
ルイミド、ポリアセタール等、またはこれらを主とする
共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等が挙げられ、
これらのうちの1種または2種以上を混合して用いるこ
とができる。
【0076】これらのうちでも、成形性が特に優れてお
り、機械的強度が高いことから、ポリアミド、耐熱性向
上の点から、液晶ポリマー、ポリフェニレンサルファイ
ドを主とするものが好ましい。また、これらの熱可塑性
樹脂は、磁石粉末との混練性にも優れている。
【0077】このような熱可塑性樹脂は、その種類、共
重合化等により、例えば成形性を重視したものや、耐熱
性、機械的強度を重視したものというように、広範囲の
選択が可能となるという利点がある。
【0078】一方、熱硬化性樹脂としては、例えば、ビ
スフェノール型、ノボラック型、ナフタレン系等の各種
エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン
樹脂、ポリエステル(不飽和ポリエステル)樹脂、ポリ
イミド樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙
げられ、これらのうちの1種または2種以上を混合して
用いることができる。
【0079】これらのうちでも、成形性が特に優れてお
り、機械的強度が高く、耐熱性に優れるという点から、
エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、シリ
コーン樹脂が好ましく、エポキシ樹脂が特に好ましい。
また、これらの熱硬化性樹脂は、磁石粉末との混練性、
混練の均一性にも優れている。
【0080】なお、使用される熱硬化性樹脂(未硬化)
は、室温で液状のものでも、固形(粉末状)のものでも
よい。
【0081】このような本発明のボンド磁石は、例えば
次のようにして製造される。磁石粉末と、結合樹脂と、
必要に応じ添加剤(酸化防止剤、潤滑剤等)とを含むボ
ンド磁石用組成物(コンパウンド)を製造し、このボン
ド磁石用組成物を用いて、圧縮成形(プレス成形)、押
出成形、射出成形等の成形方法により、無磁場中で所望
の磁石形状に成形する。結合樹脂が熱硬化性樹脂の場合
には、成形後、加熱等によりそれを硬化する。
【0082】ここで、前記3種の成形方法のうち、押出
成形および射出成形(特に、射出成形)は、形状選択の
自由度が広く、生産性が高い等の利点があるが、これら
の成形方法では、良好な成形性を得るために、成形機内
におけるコンパウンドの十分な流動性を確保しなければ
ならないため、圧縮成形に比べて、磁石粉末の含有量を
多くすること、すなわちボンド磁石を高密度化すること
ができない。しかしながら、本発明では、後述するよう
に、高い磁束密度が得られ、そのため、ボンド磁石を高
密度化しなくても優れた磁気特性が得られるので、押出
成形、射出成形により製造されるボンド磁石にもその利
点を享受することができる。
【0083】ボンド磁石中の磁石粉末の含有量(含有
率)は、特に限定されず、通常は、成形方法や、成形性
と高磁気特性との両立を考慮して決定される。具体的に
は、75〜99wt%程度であるのが好ましく、85〜
97.5wt%程度であるのがより好ましい。
【0084】特に、ボンド磁石が圧縮成形により製造さ
れたものの場合には、磁石粉末の含有量は、90〜99
wt%程度であるのが好ましく、93〜98.5wt%
程度であるのがより好ましい。
【0085】また、ボンド磁石が押出成形または射出成
形により製造されたものの場合には、磁石粉末の含有量
は、75〜98wt%程度であるのが好ましく、85〜
97wt%程度であるのがより好ましい。
【0086】ボンド磁石の密度ρは、それに含まれる磁
石粉末の比重、磁石粉末の含有量、空孔率等の要因によ
り決定される。本発明のボンド磁石において、その密度
ρは特に限定されないが、5.3〜6.6Mg/m3
度であるのが好ましく、5.5〜6.4Mg/m3程度
であるのがより好ましい。
【0087】本発明では、磁石粉末の磁束密度が高く、
また保磁力もある程度大きいので、ボンド磁石に成形し
た場合に、磁石粉末の含有量が多い場合はもちろんのこ
と、含有量が比較的少ない場合でも、優れた磁気特性
(特に、高い最大磁気エネルギー積)が得られる。
【0088】本発明のボンド磁石の形状、寸法等は特に
限定されず、例えば、形状に関しては、例えば、円柱
状、角柱状、円筒状(リング状)、円弧状、平板状、湾
曲板状等のあらゆる形状のものが可能であり、その大き
さも、大型のものから超小型のものまであらゆる大きさ
のものが可能である。特に、小型化、超小型化された磁
石に有利であることは、本明細書中で度々述べている通
りである。
【0089】以上のような本発明のボンド磁石は、室温
での磁気特性を表すJ−H図(縦軸に磁化(J)、横軸
に磁界(H)をとった図)での減磁曲線において、J−
H図中の原点を通り、かつ傾き(J/H)が−3.8×
10-6ヘンリー/mである直線との交点を出発点として測定
した場合の不可逆帯磁率(χirr)が5.0×10-7ヘンリ
ー/m以下であり、さらに、室温での固有保磁力
(HcJ)が406〜717kA/mであるという磁気特
性(磁気性能)を有している。以下、不可逆帯磁率(χ
irr)および固有保磁力(HcJ)について順次説明す
る。
【0090】[不可逆帯磁率について]不可逆帯磁率
(χirr)とは、図6に示すように、J−H図での減磁
曲線において、ある点Pにおける当該減磁曲線の接線の
傾きを微分帯磁率(χdif)とし、前記点Pから一旦減
磁界の大きさを減らしてリコイル曲線を描かせたときの
当該リコイル曲線の傾き(リコイル曲線の両端を結ぶ直
線の傾き)を可逆帯磁率(χrev)としたとき、次式で
表されるもの(単位:ヘンリー/m)を言う。
【0091】不可逆帯磁率(χirr)=微分帯磁率(χ
dif)−可逆帯磁率(χrev)なお、本発明では、J−H
図での減磁曲線において、J−H図中の原点を通りかつ
傾き(J/H)が−3.8×10-6ヘンリー/mである直線
yとの交点を前記点Pとした。
【0092】本発明において、室温での不可逆帯磁率
(χirr)の上限値を5.0×10-7ヘンリー/mと定めた
理由は、次の通りである。
【0093】前述したように、不可逆帯磁率(χirr
は、一旦減磁界をかけた後、その絶対値を減少させても
戻らない磁化の磁界に対する変化率を示すものであるた
め、この不可逆帯磁率(χirr)をある程度小さい値に
抑えることにより、ボンド磁石の熱的安定性の向上、特
に不可逆減磁率の絶対値の低減が図れる。実際に、本発
明における不可逆帯磁率(χirr)の範囲では、ボンド
磁石を例えば100℃×1時間の環境下に放置後、室温
まで戻したときの不可逆減磁率はその絶対値が約5%以
下となり、実用上(特にモータ等の使用において)十分
な耐熱性すなわち熱的安定性が得られる。
【0094】これに対し、不可逆帯磁率(χirr)が
5.0×10-7ヘンリー/mを超えると、不可逆減磁率の絶
対値が増大し、十分な熱的安定性が得られない。また、
固有保磁力が低くなるとともに角型性が悪くなるので、
ボンド磁石の実際の使用において、パーミアンス係数
(Pc)が大きくなる(例えばPc≧5)ような用途で
の使用に制限されてしまう。また、保磁力の低下は、熱
的安定性の低下をもたらすことにもなる。
【0095】室温での不可逆帯磁率(χirr)を5.0
×10-7ヘンリー/m以下と定めた理由は以上のとおりであ
るが、不可逆帯磁率(χirr)はできるだけ小さい値が
好ましく、従って、本発明では、不可逆帯磁率
(χirr)が4.5×10-7ヘンリー/m以下であるのがよ
り好ましく、4.0×10-7ヘンリー/m以下であるのがさ
らに好ましい。
【0096】[固有保磁力について]ボンド磁石の室温
での固有保磁力(HcJ)は、406〜717kA/mで
ある。特に、435〜677kA/mがより好ましい。
【0097】固有保磁力(HcJ)が前記上限値を超える
と、着磁性が劣り、前記下限値未満であると、モータの
用途によっては逆磁場がかかったときの減磁が顕著にな
り、また、高温における耐熱性が劣る。従って、固有保
磁力(HcJ)を上記範囲とすることにより、ボンド磁石
(特に、円筒状磁石)に多極着磁等をするような場合
に、十分な着磁磁場が得られないときでも、良好な着磁
が可能となり、十分な磁束密度が得られ、高性能なボン
ド磁石、特にモータ用ボンド磁石を提供することができ
る。
【0098】本発明のボンド磁石の最大磁気エネルギー
積(BH)maxは、特に限定されないが、87〜125
kJ/m3程度が好ましく、100〜125kJ/m3
度がより好ましい。
【0099】
【実施例】(実施例1)以下に述べるような方法で合金
組成がNd8.7Fe77.2-wCo8.55.6Alwの磁石粉末
(Al含有量wを種々変化させた複数種の磁石粉末)を
得た。
【0100】まず、Nd,Fe,Co,B,Alの各原
料を秤量して母合金インゴットを鋳造し、このインゴッ
トから約15gのサンプルを切り出した。
【0101】図4および図5に示す構成の急冷薄帯製造
装置を用意し、底部にノズル(円孔オリフィス)を設け
た石英管内に前記サンプルを入れた。急冷薄帯製造装置
1が収納されているチャンバー内を脱気した後、不活性
ガス(アルゴンガスおよびヘリウムガス)を導入し、所
望の温度および圧力の雰囲気とした。
【0102】その後、石英管内のインゴットサンプルを
高周波誘導加熱により溶解し、さらに、冷却ロールの周
速度および噴射圧(石英管の内圧と雰囲気圧との差圧)
をそれぞれに20m/秒、40kPaに調整して、溶湯
を冷却ロールの周面に向けて噴射し、急冷薄帯(平均厚
さ:約30μm、平均幅:約1.6mm)を得た。
【0103】この急冷薄帯を粗粉砕した後、アルゴンガ
ス雰囲気中で680℃×300秒間の熱処理を施して、
Al含有量wが異なる複数種の磁石粉末を得た。
【0104】得られた各磁石粉末について、その相構成
を分析するため、Cu−Kαを用い回折角20°〜60
°にてX線回折を行った。回折パターンからハード磁性
相であるNd2(Fe・Co)141相と、ソフト磁性相
であるα−(Fe,Co)相の回折ピークが確認でき、
透過型電子顕微鏡(TEM)による観察結果から、ナノ
コンポジット組織を形成していることが確認された。
【0105】次に、粒度調整のために、各磁石粉末をさ
らに粉砕機(ライカイ機)を用いてアルゴンガス中で粉
砕し、平均粒径60μmの磁石粉末とした。
【0106】この磁石粉末と、エポキシ樹脂(結合樹
脂)と、少量のヒドラジン系酸化防止剤とを混合し、混
練してボンド磁石用組成物(コンパウンド)を作製し
た。
【0107】次いで、このコンパウンドを粉砕して粒状
とし、この粒状物を秤量してプレス装置の金型内に充填
し、圧力7ton/cm2で圧縮成形(無磁場中)し
て、成形体を得た。
【0108】離型後、150℃の加熱によりエポキシ樹
脂を硬化させて(キュア処理)、直径10mmφ×高さ
7mmの円柱状の等方性ボンド磁石を得た。各ボンド磁
石中の磁石粉末の含有量は、約97wt%であった。ま
た、各ボンド磁石の密度は、約6.21Mg/m3であ
った。
【0109】<磁気特性、不可逆帯磁率の評価>各ボン
ド磁石について、磁場強度3.2MA/mでパルス着磁
を施した後、直流自記磁束計にて最大印加磁場2.0M
A/mで磁気特性(残留磁束密度Br、固有保磁力
cJ、最大磁気エネルギー積(BH)max)を測定し
た。測定時の温度は、23℃(室温)であった。
【0110】図7に示すように、得られたJ−H図の減
磁曲線において、原点を通り傾き(J/H)が−3.8
×10-6ヘンリー/mの直線との交点Pを出発点とし、ここ
から磁界を一旦0まで変化させてから再び元に戻してリ
コイル曲線を描き、このリコイル曲線の傾き(リコイル
曲線の両端を結ぶ直線の傾き)を可逆帯磁率(χrev
として求めた。また、前記交点Pにおける減磁曲線の接
線の傾きを微分帯磁率(χdif)として求めた。室温で
の不可逆帯磁率(χirr)は、χirr=χdif−χ revとし
て求めた。これらの結果を下記表1に示す。
【0111】<耐熱性の評価>次に、前記各ボンド磁石
(直径10mmφ×高さ7mmの円柱状)の耐熱性(熱
的安定性)を調べた。この耐熱性は、ボンド磁石を10
0℃×1時間の環境下に保持した後、室温まで戻した際
の不可逆減磁率(初期減磁率)を測定し、評価した。そ
の結果を下記表1に示す。不可逆減磁率(初期減磁率)
の絶対値が小さいほど、耐熱性(熱的安定性)に優れ
る。
【0112】<着磁性の評価>次に、ボンド磁石の着磁
性を評価するために、前記各ボンド磁石(直径10mm
φ×高さ7mmの円柱状)について、着磁磁界(着磁磁
場)を種々変更したときの着磁率を調べた。着磁率は、
着磁磁界を4.8MA/mとしたときの残留磁束密度の
値を100%とし、これに対する比率で示した。着磁率
が90%となるときの着磁磁界の大きさを下記表1に示
す。この値が小さいほど、着磁性に優れる。
【0113】
【表1】
【0114】<総合評価>表1からわかるように、磁石
粉末中に所定量のAlを含有し、かつ不可逆帯磁率(χ
irr)が5.0×10-7ヘンリー/m以下の等方性ボンド磁
石は、いずれも優れた磁気特性(残留磁束密度、固有保
磁力、最大磁気エネルギー積)を有し、不可逆減磁率の
絶対値も小さいことから耐熱性(熱的安定性)が高く、
さらに、着磁性も良好である。
【0115】以上のようなことから、本発明によれば、
高性能で信頼性(特に、耐熱性)の高いボンド磁石を提
供することができる。特に、ボンド磁石をモータとして
使用した場合に、高い性能が発揮される。
【0116】(実施例2)実施例1と同様の方法によ
り、合金組成が(Nd1-yPry8.8FebalCo7. 5
5.8Al0.7の急冷薄帯(Pr置換量yを種々変化させた
複数種の急冷薄帯)を製造し、アルゴンガス雰囲気中
で、680℃×10分間の熱処理を行った。前記と同様
の分析方法から、この急冷薄帯の組織は、ナノコンポジ
ット組織を形成していることが確認された。
【0117】次に、実施例1と同様にして、前記急冷薄
帯から磁石粉末を得、この磁石粉末から外径20mm
φ、内径18mmφ×高さ7mmの円筒状(リング状)
の等方性ボンド磁石を製造した。各ボンド磁石中の磁石
粉末の含有量は、約96.8wt%であった。また、各
ボンド磁石の密度は、約6.18Mg/m3であった。
【0118】これらについて、実施例1と同様の方法
で、磁気特性(残留磁束密度Br、固有保磁力HcJ、最
大磁気エネルギー積(BH)max)および不可逆帯磁率
(χirr)を測定、評価した。その結果を下記表2に示
す。
【0119】また、これらのボンド磁石をそれぞれ12
極に多極着磁し、これをロータ磁石として用いてDCブ
ラシレスモータを組み立てた。このDCブラシレスモー
タにおいて、ロータを4000rpmで回転させたとき
の巻線コイルに発生した逆起電圧を測定したところ、い
ずれのものも十分に高い電圧が得られ、高性能のモータ
であることが確認された。
【0120】次に、前述したPr置換量yの異なる複数
種の磁石粉末を用い、ボンド磁石のサイズをそれぞれ直
径10mmφ×高さ7mmの円柱状とした以外は実施例
1と同様にしてボンド磁石を製造した。
【0121】これらについて、実施例1と同様の方法
で、耐熱性(熱的安定性)および着磁性を測定、評価し
た。その結果を下記表2に示す。
【0122】
【表2】
【0123】表2からわかるように、各等方性ボンド磁
石は、いずれも優れた磁気特性(残留磁束密度、固有保
磁力、最大磁気エネルギー積)を有し、また、不可逆減
磁率の絶対値が小さいことから耐熱性(熱的安定性)が
高く、着磁性も良好である。特に、Ndの一部を所定量
(R全体に対し75%以下)Prに置換したことによ
り、優れた耐熱性および着磁性を維持しつつ、固有保磁
力と最大磁気エネルギー積(角型性)の向上が図れるこ
とがわかる。
【0124】以上のようなことから、本発明によれば、
高性能で信頼性(特に、耐熱性)の高いボンド磁石を提
供することができる。特に、ボンド磁石をモータとして
使用した場合に、高い性能が発揮される。
【0125】(実施例3)実施例1と同様の方法によ
り、合金組成が((Nd0.5Pr0.5zDy1-z9. 0
balCo7.75.6Al0.5の急冷薄帯(Dy置換量(1
−z)を種々変化させた複数種の急冷薄帯)を製造し、
アルゴンガス雰囲気中で、680℃×12分間の熱処理
を行った。前記と同様の分析方法から、この急冷薄帯の
組織は、ナノコンポジット組織を形成していることが確
認された。
【0126】次に、実施例1と同様にして、前記急冷薄
帯から磁石粉末を得、この磁石粉末から外径20mm
φ、内径18mmφ×高さ7mmの円筒状(リング状)
の等方性ボンド磁石を製造した。各ボンド磁石中の磁石
粉末の含有量は、約96.8wt%であった。また、各
ボンド磁石の密度は、約6.20Mg/m3であった。
【0127】これらについて、実施例1と同様の方法
で、磁気特性(残留磁束密度Br、固有保磁力HcJ、最
大磁気エネルギー積(BH)max)および不可逆帯磁率
(χirr)を測定、評価した。その結果を下記表3に示
す。
【0128】また、これらのボンド磁石をそれぞれ12
極に多極着磁し、これをロータ磁石として用いてDCブ
ラシレスモータを組み立てた。このDCブラシレスモー
タにおいて、ロータを4000rpmで回転させたとき
の巻線コイルに発生した逆起電圧を測定したところ、い
ずれのものも十分に高い電圧が得られ、高性能のモータ
であることが確認された。
【0129】次に、前述したDy置換量1−zの異なる
複数種の磁石粉末を用い、ボンド磁石のサイズをそれぞ
れ直径10mmφ×高さ7mmの円柱状とした以外は実
施例1と同様にしてボンド磁石を製造した。
【0130】これらについて、実施例1と同様の方法
で、耐熱性(熱的安定性)および着磁性を測定、評価し
た。その結果を下記表3に示す。
【0131】
【表3】
【0132】表3からわかるように、各等方性ボンド磁
石は、いずれも優れた磁気特性(残留磁束密度、固有保
磁力、最大磁気エネルギー積)を有し、また、不可逆減
磁率の絶対値が小さいことから耐熱性(熱的安定性)が
高く、着磁性も良好である。特に、Dyを所定量(R全
体に対し14%以下)添加したことにより、優れた耐熱
性および着磁性を維持しつつ、固有保磁力と最大磁気エ
ネルギー積(角型性)の向上が図れることがわかる。
【0133】以上のようなことから、本発明によれば、
高性能で信頼性(特に、耐熱性)の高いボンド磁石を提
供することができる。特に、ボンド磁石をモータとして
使用した場合に、高い性能が発揮される。
【0134】(実施例4)実施例1と同様の方法によ
り、合金組成がNd5.3Pr2.8Dy0.6Fe76.8-vCo
8.55.6Al0.4Sivの急冷薄帯(Si含有量vを種々
変化させた複数種の急冷薄帯)を製造し、アルゴンガス
雰囲気中で、670℃×8分間の熱処理を行った。前記
と同様の分析方法から、この急冷薄帯の組織は、ナノコ
ンポジット組織を形成していることが確認された。
【0135】次に、実施例1と同様にして、前記急冷薄
帯から磁石粉末を得、この磁石粉末から外径20mm
φ、内径18mmφ×高さ7mmの円筒状(リング状)
の等方性ボンド磁石を製造した。各ボンド磁石中の磁石
粉末の含有量は、約96.9wt%であった。また、各
ボンド磁石の密度は、約6.19Mg/m3であった。
【0136】これらについて、実施例1と同様の方法
で、磁気特性(残留磁束密度Br、固有保磁力HcJ、最
大磁気エネルギー積(BH)max)および不可逆帯磁率
(χirr)を測定、評価した。その結果を下記表4に示
す。
【0137】また、これらのボンド磁石をそれぞれ12
極に多極着磁し、これをロータ磁石として用いてDCブ
ラシレスモータを組み立てた。このDCブラシレスモー
タにおいて、ロータを4000rpmで回転させたとき
の巻線コイルに発生した逆起電圧を測定したところ、い
ずれのものも十分に高い電圧が得られ、高性能のモータ
であることが確認された。
【0138】次に、前述したSi含有量vの異なる複数
種の磁石粉末を用い、ボンド磁石のサイズをそれぞれ直
径10mmφ×高さ7mmの円柱状とした以外は実施例
1と同様にしてボンド磁石を製造した。
【0139】これらについて、実施例1と同様の方法
で、耐熱性(熱的安定性)および着磁性を測定、評価す
るとともに、以下の方法で磁石粉末の耐食性およびボン
ド磁石の耐食性を測定、評価した。その結果を下記表4
に示す。
【0140】<磁石粉末の耐食性>磁石粉末の耐食性
は、発露試験により評価した。この発露試験は、磁石粉
末を30℃×50%RH×15分の環境下と、80℃×
95%RH×15分の環境下に交互におき、これを24
回繰り返した後、磁石粉末の表面を顕微鏡観察して、錆
の発生状況を次の4段階で評価した。
【0141】 A:錆の発生全く無し B:錆の発生わずかに有り C:錆の発生有り D:錆の発生顕著
【0142】<ボンド磁石の耐食性>ボンド磁石(各1
0個)を60℃×95%RHの恒温恒湿槽に入れ、表面
に発錆するまでの平均時間を調べた。発錆するまでの時
間の長さにより、次の4段階で評価した。
【0143】 A:500時間経過後も発錆無し B:400時間以上、500時間未満で発錆 C:300時間以上、400時間未満で発錆 D:300時間未満で発錆
【0144】
【表4】
【0145】<総合評価>表4からわかるように、各等
方性ボンド磁石は、いずれも優れた磁気特性(残留磁束
密度、固有保磁力、最大磁気エネルギー積)および耐熱
性(熱的安定性)を有し、着磁性も良好である。
【0146】特に、磁石粉末中にSiを所定量(0.1
〜3原子%)含有するものは、Siを含有しないものに
比べ、磁石粉末自体の耐食性およびボンド磁石の耐食性
が向上している。そのため、実際の使用に際し、ボンド
磁石の表面に防食用コーティングを施す等の防食処理を
省略または緩和することができる。
【0147】以上のようなことから、本発明によれば、
高性能で信頼性(特に、耐熱性、耐食性)の高いボンド
磁石を提供することができる。特に、ボンド磁石をモー
タとして使用した場合に、高い性能が発揮される。
【0148】(実施例5)ボンド磁石を押出成形により
製造した以外は、上記実施例1〜4と同様にして本発明
の等方性ボンド磁石を製造した。なお、結合樹脂には、
ポリアミド(ナイロン610)を用いた。また、各ボン
ド磁石中の磁石粉末の含有量は、約95.5wt%、各
ボンド磁石の密度は、約5.85Mg/m3であった。
【0149】各ボンド磁石に対し、前記と同様測定、評
価(実施例4での耐食性評価も含む)を行ったところ、
前記と同様の結果が得られた。特に、ボンド磁石の耐食
性については、さらに良好な結果が得られた。
【0150】(実施例6)ボンド磁石を射出成形により
製造した以外は、上記実施例1〜4と同様にして本発明
の等方性ボンド磁石を製造した。なお、結合樹脂には、
ポリフェニレンサルファイドを用いた。また、各ボンド
磁石中の磁石粉末の含有量は、約94.1wt%、各ボ
ンド磁石の密度は、約5.63Mg/m3であった。
【0151】各ボンド磁石に対し、前記と同様の測定、
評価(実施例4での耐食性評価も含む)を行ったとこ
ろ、前記と同様の結果が得られた。特に、ボンド磁石の
耐食性については、さらに良好な結果が得られた。
【0152】
【発明の効果】以上述べたように、本発明によれば、次
のような効果が得られる。 ・磁石粉末がAlを所定量含有するため、磁化が高く、
優れた磁気特性を発揮し、特に固有保磁力と角型性が改
善される。 ・不可逆減磁率の絶対値が小さく、優れた耐熱性(熱的
安定性)が得られる。 ・高い磁束密度が得られるので、等方性であっても、高
磁気特性を持つボンド磁石が得られる。特に、従来の等
方性ボンド磁石に比べ、より小さい体積のボンド磁石で
同等以上の磁気性能を発揮することができるので、より
小型で高性能のモータを得ることが可能となる。 ・また、高い磁束密度が得られることから、ボンド磁石
の製造に際し、高密度化を追求しなくても十分に高い磁
気特性を得ることができ、その結果、成形性の向上と共
に、寸法精度、機械的強度、耐食性、耐熱性(熱的安定
性)等のさらなる向上が図れ、信頼性の高いボンド磁石
を容易に製造することが可能となる。特に、Siを含有
する場合には、より優れた耐食性が得られる。 ・着磁性が良好なので、より低い着磁磁場で着磁するこ
とができ、特に多極着磁等を容易かつ確実に行うことが
でき、かつ高い磁束密度を得ることができる。 ・高密度化を要求されないことから、圧縮成形法に比べ
て高密度の成形がしにくい押出成形法や射出成形法によ
るボンド磁石の製造にも適し、このような成形方法で成
形されたボンド磁石でも、前述したような効果が得られ
る。よって、ボンド磁石の成形方法の選択の幅、さらに
は、それによる形状選択の自由度が広がる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の磁石粉末における複合組織(ナノコン
ポジット組織)の一例を模式的に示す図である。
【図2】本発明の磁石粉末における複合組織(ナノコン
ポジット組織)の一例を模式的に示す図である。
【図3】本発明の磁石粉末における複合組織(ナノコン
ポジット組織)の一例を模式的に示す図である。
【図4】磁石材料を製造する装置(急冷薄帯製造装置)
の構成例を示す斜視図である。
【図5】図4に示す装置における溶湯の冷却ロールへの
衝突部位付近の状態を示す断面側面図である。
【図6】不可逆帯磁率を説明するための図(J−H図)
である。
【図7】減磁曲線およびリコイル曲線を示すJ−H図で
ある。
【符号の説明】
1 急冷薄帯製造装置 2 筒体 3 ノズル 4 コイル 5 冷却ロール 51 基部 52 表面層 53 周面 6 溶湯 7 パドル 71 凝固界面 8 急冷薄帯 81 ロール面 9A 矢印 9B 矢印 10 ソフト磁性相 11 ハード磁性相

Claims (12)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 Alを含有する磁石粉末であって、 結合樹脂と混合し成形して等方性ボンド磁石としたとき
    に、室温での磁気特性を表すJ−H図での減磁曲線にお
    いて、前記J−H図中の原点を通り、かつ傾き(J/
    H)が−3.8×10-6ヘンリー/mである直線との交点を
    出発点として測定した場合の不可逆帯磁率(χirr)が
    5.0×10-7ヘンリー/m以下であり、さらに、室温での
    固有保磁力(HcJ)が406〜717kA/mであるこ
    とを特徴とする磁石粉末。
  2. 【請求項2】 磁石粉末中のAlの含有量が、0.02
    〜1.5原子%である請求項1に記載の磁石粉末。
  3. 【請求項3】 磁石粉末は、R−TM−B−Al系合金
    (ただし、Rは少なくとも1種の希土類元素、TMは鉄
    を主とする遷移金属)よりなるものである請求項1また
    は2に記載の磁石粉末。
  4. 【請求項4】 磁石粉末は、Rx(Fe1-yCoy
    100-x-z-wzAlw(ただし、Rは少なくとも1種の希
    土類元素、x:8.1〜9.4原子%、y:0〜0.3
    0、z:4.6〜6.8原子%、w:0.02〜1.5
    原子%)で表される合金組成からなる請求項1ないし3
    のいずれかに記載の磁石粉末。
  5. 【請求項5】 前記RはNdおよび/またはPrを主と
    する希土類元素である請求項3または4に記載の磁石粉
    末。
  6. 【請求項6】 前記Rは、Prを含み、その割合が前記
    R全体に対し5〜75%である請求項3ないし5のいず
    れかに記載の磁石粉末。
  7. 【請求項7】 前記Rは、Dyを含み、その割合が前記
    R全体に対し14%以下である請求項3ないし6のいず
    れかに記載の磁石粉末。
  8. 【請求項8】 磁石粉末は、溶融合金を急冷することに
    より得られたものである請求項1ないし7のいずれかに
    記載の磁石粉末。
  9. 【請求項9】 磁石粉末は、冷却ロールを用いて製造さ
    れた急冷薄帯を粉砕して得られたものである請求項1な
    いし8のいずれかに記載の磁石粉末。
  10. 【請求項10】 磁石粉末は、その製造過程で、または
    製造後少なくとも1回熱処理が施されたものである請求
    項1ないし9のいずれかに記載の磁石粉末。
  11. 【請求項11】 平均粒径が0.5〜150μmである
    請求項1ないし10のいずれかに記載の磁石粉末。
  12. 【請求項12】 請求項1ないし11のいずれかに記載
    の磁石粉末を結合樹脂で結合してなることを特徴とする
    等方性ボンド磁石。
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