クラフトビール造りを通じて
乙部町の豊かな水源や自然環境を守る
乙部町の名水を生かすクラフトビール
「乙部追分ブリューイング」は乙部町の豊かな自然が生み出す「天然シリカ水」を仕込み水に、契約農家が生産する二条大麦、町産はちみつ、町内に自生するホップの一部を原材料に使用する小規模生産のクラフトビール醸造所。個性豊かな旨味とコク、芳醇な香りが、地元はもちろん、口コミやSNSを通じて全国から注目を集めている。経営母体は無農薬有機栽培の田七人参を使った健康食品・化粧品を販売する「アドバンス」(本社・長野県)。乙部町前町長・寺島光一郎さんと交流があった白井博隆社長が乙部町を訪町し湧水を飲んだ際、味の良さに驚き、その魅力を伝えようと、2015年「命水乙部ボトラーズ」を開業し、乙部岳を源流とする姫川水域の井戸水をろ過殺菌し充填した天然水「Gaivota」の製造・販売をスタート。「ガイヴォータ」の活用法の1つとして、2018年、乙部町と函館市湯川町にクラフトビールの醸造所を開設。現在、乙部町は寺島裕亮さん、函館市は下田泰崇さんがそれぞれ醸造責任者を務め、情報交換しながら、伝統的な製造方法で地域の風土に根差したビールを生み出している。
販路拡大を目指し飲料水以外の活用を模索
クラフトビール製造に着手したのは2018年の酒税法改正が行われる1年前のこと。珪藻と呼ばれる植物プランクトンが堆積し化石化した土の層で自然ろ過された姫川水系の地下水は、シリカが多く含まれる軟水で、名水として町内や近隣町の人たちに愛されてきた。そこで生まれた「ガイヴォータ」も高品質であるにも関わらず、水の販売事業はすでに定着した大手企業の市場に食い込めず、販路拡大に苦戦。有効な活用法として、水質の良さが反映されるクラフトビール製造を考えていたが、酒税法の改正内容によっては酒類製造免許の取得条件が厳しくなり、新規参入へのハードルが上がることを懸念し、法改正前の醸造所設立に向け大きく舵を切った。これまでに醸造したビールは醸造所2カ所を合わせて50種類ほどで、そのノウハウと小ロット醸造の強みを生かしてOEM(他社ブランドの製品製造)も手掛ける。今後は、世界文化遺産登録された「北海道・北東北の縄文遺跡群」を通じて地域を盛り上げようと、地元有志団体「縄文DOHNANプロジェクト」とコラボし、縄文時代から食べられてきたクリを原料とした商品の開発を進めていく予定だ。
手動で1本ずつ充填 丁寧に出荷される瓶ビール
クラフトビールに使用する麦芽は小麦、カラメル麦芽、大麦の3種類。醸造するビールの種類によって使い分け、麦汁造り、香りと苦味を引き出すホップ投入、冷却、酵母発酵の工程を経て、3週間から1カ月ほど熟成させ味を調える。作業工程はシンプルだがそれゆえ繊細で、味や香りはホップを入れるタイミング、自然環境に左右されると言う。乙部町の寺島さんは状況に合わせ温度管理を徹底。丁寧な仕事を積み重ね、舌の肥えた通を魅了するビールを生み出す。瓶ビール「OTOBBEAN ALE」シリーズの販売は2019年11月から。「ペールエール」「アイ・ピー・エー」「ホワイト」の3種類で内容量は330㎖。生きた酵母の旨味を楽しめるよう風味の要・エール酵母をろ過せず、手作業で瓶に充填し併設のビアレストランで販売する。アドバンスの取締役北海道統括の金子岳夫さんは「ビール造りに大切な仕込み水の水源保全のため、水質のモニタリングを続けるとともに、昨年から有機農法での大麦栽培にも取り組み始めました。これらを通じ良質な原料確保のためだけではなく、乙部町の美しい自然を末長く守る営みとして事業を継続していければ」と話している。
乙部追分ブリューイング
乙部町館浦686‐2
☎0139‐56‐1300
併設レストラン:Guild Endeavour(ギルドエンデバー)
11:30~14:30
17:30~20:00(金・土曜は21:00まで)
火曜定休
https://www.otobe-oiwake-brewing.jp/
ハコラク2022年10月号掲載