漢字(かんじ)とは、漢民族の間で発生した表語文字の1つであり、中国語や日本語等を表記するのに使用される文字のこと。
漢字の歴史
漢字が生まれたのは古代の中国であり、最古の漢字と言われるのが亀甲等に刻まれた甲骨文である。殷王朝の頃には青銅器にも書かれるようになり、それらは金文と呼ばれる。
東周時代の頃には地方によって異なる字体が書かれたが、天下を統一した秦が漢字の字体も統一する政策を打ち出し、現在では印鑑の書体として知られる篆書が成立した。しかし篆書は書写に時間がかかるため、これを書きやすくした隷書や、速く書ける様にした草書が作られた。
後漢の時代には楷書が、また草書と楷書の中間的な書体である行書も後から生み出された。楷書・行書・草書の成立により字体はほぼ固定化され、王羲之を始めとする多くの能筆家が楷行草の名筆を残している。
宋の時代以降は印刷術が発達し、宋朝体、そして現在本文用書体の主流となっている明朝体と呼ばれる字体が成立した。
「竜」の甲骨文 | 「歩」の金文 | 「心」の篆書 | 「望」の隷書 | 「欲」の草書 | 「性」の行書 | 「感」の楷書 | 「帯」の明朝体 |
日本における漢字
日本語において、漢字は平仮名・片仮名と並ぶ主要な文字である。漢字の読みには中国での読み方に由来する音読みと、対応する意味の日本語を当てはめ漢字の読みとした訓読みの2種類が存在する。
日本に漢字が伝来したのは4世紀で、7世紀頃には漢字は日本でも使いこなせる物になっていたと言われる。
日本語を漢字の音を借りて記す方法は、8世紀後半に編集が完了した『万葉集』で大量に使われたため、万葉仮名と呼ばれる。この手法は5世紀ごろに既に行われており、稲荷山古墳金錯銘鉄剣の「獲加多支鹵」(ワカタケル=雄略天皇)などの使用例が見られる。現存最古の書籍である『古事記』(712年)『日本書紀』(720年)の頃には一般化していたらしく、原則漢文で書かれた『日本書紀』の注には「尊や命は美舉等(ミコト)と訓む」などと付けられているほか、歌謡はほぼ全て万葉仮名で記載されている。万葉仮名は後に草体化され、後の平仮名に発展した。一方、9世紀頃から漢文を訓読みする際に漢字を省略した文字が使われ、これが後の片仮名に発展した。
明治維新の直前に、鉛活字による活版印刷が本格的に使用され始め、この頃には現在の印刷書体に近いデザインの物が製作されている。
1946年、日本の公文書等での漢字の使用範囲を定めた当用漢字が制定され、一部の漢字については筆記体に近い字体や略字が採用された(これを新字体と言い、それ以前の漢字は旧字体と呼ばれている)。1981年にはさらに字数を増やした常用漢字が制定され、2010年には常用漢字が改定されてさらに字数が増えた(逆に、使用頻度の低い文字のいくつかが常用漢字から削除された)。
漢字を使用するその他の国
現在、正字として漢字は、中華圏では繁体字と簡体字に分かれ、更に日本の新字体を含めると3つに分かれる、以下は各字体の採用国である。
漢字発祥の地である中国では、中国大陸においては1960年代から筆画を省略した字体 (簡体字) を採用している。ただし台湾、香港では現在でも筆画を省略しない字体 (繁体字) を使用している。また、台湾に至っては繁体字ではなく「正体字」と呼ばれているので少し注意が必要。
韓国でも漢字とハングルを混ぜて表記する場合があるが、使用頻度は少ない。北朝鮮に至っては漢字を全廃している(ただし人名など、漢字を使用している中国や日本向けに表記を発表している場合はある。金正雲→金正恩など、北朝鮮の漢字での人名表記が変わることがあるのはこのため)。
この他、東南アジアではベトナムでもかつて漢字を応用したチュノム (𡨸喃) と呼ばれる文字を使用していたが、現在では「クォック・グー(漢字表記では国語)」と呼ばれるラテン文字表記に移行している。又、華僑が多いシンガポールとマレーシアは現在は中国大陸と基本同じの簡体字を使用し、シンガポールでは正字として正式に採用されてるが、マレーシアでは学校教育等で教えている程度であるため、新聞や書物では簡体字版と繁体字版の物が両方発行されている。
各国における漢字の字体の違いの一例
漢字の構造
漢字には物・動物・人体の絵から作られた物 (象形文字) や、点や線を組み合わせた物および象形文字にしるし等を加えて作られた物 (指事文字) が存在する。
一方、これらの象形・指事文字を組み合わせて作られた漢字もあり、ある意味を表すため関連する要素を組み合わせて作られた物 (会意文字) や、意味を表す要素と読みを表す要素を組み合わせて作られた物 (形声文字) が存在する。既成の会意・形声文字にさらに別の要素を加えて作られた漢字もある。漢字の多くは会意・形声文字に属している。
日本ではこれらの要素に対し、漢字の中で使われる位置および形に応じて、以下のような名前で呼ばれている。
- 偏 (へん)……漢字の左側に位置する要素。にんべん (亻)、さんずい (氵)、きへん (木) 等。
- 旁 (つくり)……右側に位置する要素。りっとう (刂)、おおざと (阝)、おおがい (頁) 等。
- 冠 (かんむり)……上側に位置する要素。うかんむり (宀)、くさかんむり (艹)、たけかんむり (𥫗) 等。
- 脚 (あし)……下側に位置する要素。ひとあし (儿)、れんが (灬)、したごころ (㣺) 等。
- 垂 (たれ)……上・左側を占める要素。がんだれ (厂)、まだれ (广)、やまいだれ (疒) 等。
- 繞 (にょう)……下・左側を占める要素。しんにょう (辶)、えんにょう (廴)、そうにょう (走) 等。
- 構 (かまえ)……内側の要素を覆っている要素。もんがまえ (門)、ぎょうがまえ (行)、くにがまえ (囗) 等。
漢字に含まれるこれらの要素によって漢字を分類する事が辞書等で行われており、これを部首と言う。部首による漢字の分類を採用した中国の初期の字書として「説文解字」、「康煕字典」等があり、特に「康煕字典」での部首分類は日本の漢和辞典でも採用されている。
日本や韓国でも、上述の構造を手本にして新たな漢字が作られている。日本で作られた物としては畑、辻、働等がこれに相当し、国字と呼ばれる。
その他
- 「大漢和辞典」(諸橋轍次著、大修館書店、1955~1960初版発行) に掲載されている漢字のうち最も多い画数は64画で、𠔻 (興を4つ重ねた形。読みはセイで、意味は不明) と𪚥 (龍を4つ重ねた形。読みはテツ・テチで、意味は「言葉が多い」) の2字である。
- 漢字から派生した文字としては上述の平仮名・片仮名やチュノムの他、契丹文字、女真文字、西夏文字、注音符号等がある。
- 現在使われている漢字の主な書体には篆書、隷書、草書、行書、楷書の5つがあり、5体と呼ばれている。
- 難読漢字に挑戦したい方はこちら→ 難読の検索結果 - ニコニコ大百科 (nicovideo.jp)
- 漢字知識を示す資格として漢検がある。
参考文献
関連動画
難読漢字のクイズ動画や、難読漢字を集めて歌に仕上げたVOCALOID作品「なんだかとっても!いいかんじ」が存在する。
関連項目
- なんだかとっても!いいかんじ
- ニコニコ大百科:素材集/外字・特殊フォント…「なんだかとっても!いいかんじ」の歌詞に登場する漢字の素材がある。
- 問題字達
- 漢字:部首別…漢字一文字記事の索引
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