2024-12-01

ろくでなしメンヘラの間

君は、いつから病んでいた?

思い起こす限り死にたいと思ったのは、明確には小学四年生だった。でもそれは、ほんのちょっとした好奇心だったような気がする。

高校で、環境が変化すると今、どのような立ち位置にいて、どんな人間なのかが分かってくる。そうして文学作品に触れるようになった。暗い人間ではなかったものの、物語ではやたらと人が自殺する。まさか、そんな幼稚で一種悪趣味のような理由で死にたがってるとは思えん。

君は、このさき何回も自殺企図して失敗する。

高校から少しは知っていたが、キモチヨクなれる薬がドラッグストアに売っているらしい。メンヘラというのがいるらしい。

セックスに明け暮れながら、大学生活の片手間に薬をバカ飲み。皮膚もキモチヨク擦れて、内側からも「泉が溢れるように」キモチイイ。

そうしてあんたは、キモチヨクなった。キモチヨクなりたいだけ一心

いろいろ気にしなきゃいけないセックスと、待つだけの快楽なら、あんたはより楽なものを選ぶ。

「薬目的かと思った」

精神科に通い出したころ、当時の彼女に言われた。「眠れないんだよ」と言った。嘘だった。

ドラッグストアで買える系はあらかた試して、個人輸入もあらかた試したから、いざケミカルの海へと向かった。

違法はさ、捕まっちゃうから

おまえは、いつから病んだ? 分からない、分からないが、このときは病んでいなかった。キモチヨクなりたいだけだった、のかもしれない。

おまえは、詩や小説を書くのに力をいれるようになった。誰かに読んでほしいとか、応募するつもりもなく、この内側から「泉が溢れるように」来る、なにかについて記したかった。

一瞬、これがいわば真理てきなモノかと、思ったはいいけど、しかし腹がへる。一日一食。体重がへる、へる。

書く。とりあえずネットに上げる。書く。

私は、それを読むのが、大好きだった。まるで「自分のものとは思えない」が「自分のものしか思えない」ものが出来ていることについて、興奮していた。

死とか、自殺とか、そういうものがよく書かれていたが、そこに絶望はなかった。

微塵も

幸福な「ここではないどこか」について書いているわけでもないのに。SFでも、シュールレアリスムでもないのに。

内側から溢れる、生ぬるい懐かしさ。

あんたはそれから五年間、前進せずにひたすら、懐かしさと死に惹かれる生活を送る。

うーん、すこしは前進はしたかも?

投稿するようにも、なっていた。

あらいつの間にか大学やめちゃった。

あら、あんたはニートか?

毎日が懐かしかった。みんなのことが大好きになった。

眠れない自分を除いて。

ほとんど惰性で通っていた精神科。薬について「飽き」ても、チョコボールのくちばしにエンゼルいるかもしれない、軽い感覚で成分や効果を調べる。

いろんな薬を飲んだ。じつに、いろんな薬を。

バカ、なのか正直者、なのか、症状が出るにつれ治療には熱心になっていった。ADHDではないし、双極っぽいと。

さっきの彼女あんたには黙ってたけど精神科ハシゴして薬もらってたみたいね

腕、イカ焼きだったな。

炭酸リチウムフルニトラゼパム。これで死ぬ

死ねないんですがね。

トー横界隈、というのが騒がれるようになった。それより前にはストゼロ地雷系とかあったけど、薬と密接な象徴ではなかった。それは意外なことにDXM。へえ〜、コンタックかブロン液Lかな〜。

いやいや、メジコン

え? メジコン

メジコン

みんな個人輸入してるの?

いや、ドラッグストアで売ってる。

え?

発売した。

絶句

おまえはメジコンが合わなかった。いや、個人輸入の品がハズレだったのかもしれない。と、いうかDXMなんて何がキモチイイの……

あっ。

みんなで盛り上がれるからか。

酒、セックスドラッグ

おまえは、ずっと独りで薬のんでるもんな。わからんわな。

メジコントリップ。そんなこと出来ない。

でもわかる。

酒やセックスのような、スッキリ感がある。

バツグンに爽快な到達点が、ある。

みんな、それを共有したいのか。

あんたと違って。

文芸創作が疎かになっても、他の創作を続けた。

なぜなら薬がやめられないから!

私は、ながらく人間の内側にはどうしようもないパッションがあると考えていた。実際ある。あるのだが、私たちはその「あるということ」しかからない。が、考えをウムムムムムムムーーーーーと巡らせると、それに近づいたり色が付いているように感じたりする。「あるということ」よりも明確な姿をとらえられるようになる。これは半分比喩で、半分比喩じゃない。ましてや真理でもない。イデア論でも物自体でもないし、現象学でも自我論でもドゥルーズでもガタリでもない。

あんたが分かると思った時に生まれる「その分かるもの以外」。この対立が、思考が止められない。

あるいは真理が、あると思っていたのかもしれない。それが分かったとたん、世界段ボールとしてバタリと倒れて、みんな手をつないでお辞儀して終了なのかもしれない。

みんなって、誰?

おまえは独りでキモチヨクなってたくせに。

あーあ、これだからこの脳みそは。

大好きなアーティストDJライブ。ごりごりの踊れるフロアで、チープなリズムマシンの音で、えげつなくダンスデヴィッド・バーンではない、ジェームス・ブラウンのような踊り。

ダンス

怪しげな人間複数名。

ああ、違法薬物やってるな。

いまにも吐いて倒れそうにピクついてる。

私は思った。

好奇心から薬に手を出して、その姿だけを確かめることのできた「あなた」は、この目の前にいる中毒者に並ぶほど尊いものだったか

さて、まだわからない。そんなのわかりたくないからな。

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