うそとほんと

 先に亡くなった谷川俊太郎さんは、親しみやすい言葉で物事の本質などを切り取った。「うそとほんと」という詩もそうだ。〈うそはほんとによく似てる/ほんとはうそによく似てる/うそとほんとは/双生児〉▼約60年前の作品だが、本当らしいうそがインターネットを通して広まる現代によく当てはまる。〈うその中にうそを探すな/ほんとの中にうそを探せ〉。そうした戒めのような一節もある▼ネット上の偽情報が脅威を増している。米大統領選ではロシアによる世論工作とみられる、うその投稿や動画が拡散した。日本でも兵庫県知事選は交流サイト(SNS)が選挙情報を発信・取得する有力な手段となり、やはり真偽不明の内容も広がった▼実業家らをかたった投資詐欺広告などの被害も相次ぐ。総務省はSNS事業者に対し、広告の審査を厳しくするなど規制強化に向けて検討している▼一人一人が情報を見極める力を高めるのも重要だと専門家は言う。だが、双生児のような本当とうその全てを見極める自信はない▼谷川さんには「わかんない」という詩もある。〈わかんなくても/みかんがあるさ/ひとつおたべよ/めがさめる〉〈わかんなくても/じかんがあるさ/いそがばまわれ/またあした〉。目を凝らし、時には、急がば回れ。そんな心がけは、せめて忘れずにいたい。

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