PCCSとは
◆PCCSは配色調和を主目的とした表色系
「PCCS(Practical Color Co-ordinate System:日本色研配色体系)」は1964年に(一財)日本色彩研究所によって開発されたカラーシステムです。その名からもわかるように「色彩調和」を考えるのに適しています。PCCSは、「色相」「明度」「彩度」の三属性で色を表す方法の他に、「明度」と「彩度」を融合した「トーン(色調)」という概念を持っており、「色相」と「トーン」の二属性で表すことができます。「色相」と「トーン」によって体系化されたカラーシステムであることはPCCSの大きな特徴となっており、このシステムは「ヒュートーンシステム」とも呼ばれています。
◆PCCSの「色相」「明度」「彩度」構成
色相はHue(ヒュー)といい、心理4原色を骨格とした色相環になっています。心理4原色とは、赤、黄、緑、青で、心理的に感じる原色という意味合いになります。例えば、黄緑であれば、黄色と緑を混ぜた色と感じるでしょうし、オレンジ色であれば、赤と黄色を混ぜてできる色と感じられると思います。そういう意味で混ぜてつくることができない印象の基本的な色を、心理4原色といいます。
PCCSの色相環は、まず、円周上に心理4原色の「赤(2:R)」「黄(8:Y)」「緑(12:G)」「青(18:B)」を時計回りに配置し、その4色の対向位置にそれぞれの心理補色を置いて8色相にし、その間が見た目に等間隔に感じるようにさらに4色を補間して12色に、さらにそれらを2分割にして合計24色相となっています。
心理補色とは、ある色をしばらく見つめた後に、白い紙などに視線を移した時に残像として見える色のことをいいます。また「見た目に等間隔に感じる、均等に感じる」ことを「知覚的等歩度」ともいいます。
24色相はそれぞれ、赤/レッド、黄みの赤/イエローイッシュ・レッド、赤みのだいだい/レディッシュ・オレンジといったように色相名が付けられて分類されていますが、青緑と青に関しては2つの色相名で重複して用いられている点に注意が必要です。24色相の名前は下記一覧をご覧ください。
色相記号 | 英語の色相名 | 日本語の色相名 | 色相記号 | 英語の色相名 | 日本語の色相名 |
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1:pR | パープリッシュ・レッド | 紫みの赤 | 13:bG | ブルーイッシュ・グリーン | 青みの緑 |
2:R | レッド | 赤 | 14:BG | ブルー・グリーン | 青緑 |
3:yR | イエローイッシュ・レッド | 黄みの赤 | 15:BG | ブルー・グリーン | 青緑 |
4:rO | レディッシュ・オレンジ | 赤みのだいだい | 16:gB | グリーニッシュ・ブルー | 緑みの青 |
5:O | オレンジ | だいだい | 17:B | ブルー | 青 |
6:yO | イエローイッシュ・オレンジ | 黄みのだいだい | 18:B | ブルー | 青 |
7:rY | レディッシュ・イエロー | 赤みの黄 | 19:pB | パープリッシュ・ブルー | 紫みの青 |
8:Y | イエロー | 黄 | 20:V | バイオレット | 青紫 |
9:gY | グリーニッシュ・イエロー | 緑みの黄 | 21:bP | ブルーイッシュ・パープル | 青みの紫 |
10:YG | イエロー・グリーン | 黄緑 | 22:P | パープル | 紫 |
11:yG | イエローイッシュ・グリーン | 黄みの緑 | 23:rP | レディッシュ・パープル | 赤みの紫 |
12:G | グリーン | 緑 | 24:RP | レッド・パープル | 赤紫 |
明度はLightness(ライトネス)といい、最も明るい白を明度9.5、最も暗い黒を明度1.5とし、その間を等間隔に感じるように15色の無彩色を挿入、0.5ステップの合計17段階になっています。
彩度はSaturation(サチュレーション)といい、無彩色を0s、各色相の理想的な純色を10sと定義しています。しかし、10sの色票は、実在する色料では再現できない色のため、色票においての純色は9sとなっています。彩度は知覚的に等間隔に感じるように低彩度(1s~3s)、中彩度(4s~6s)、高彩度(7s~9s)に分類されて9段階になっています。
PCCSの色立体は、横から見ると、たすきがけのような斜めの形をしています。これは、色相によって、縦軸で表す明度の高さが異なるためで、「黄(8:Y)」の明度が最も高明度で、その心理補色である、「青紫(20:V)」が最も低明度になっています(下右写真参照)。真上から見ると綺麗な正円の形をしています。これは、どの色相も最高彩度の色票は9sと決まっているためです。等色相面を見ても中心の無彩色軸(グレイスケール)から最高彩度の色までの距離が同じである様子が分かります。
一方、三属性による表色系の代表であるマンセル表色系は、色相によって最高彩度の値が異なります。そのため、真上から見ると正円にならずデコボコのかたちになります。色相の考え方の違いは色立体形状の違いにも表れます。
◆「トーン」はPCCS最大の特徴
PCCSは、「トーン」という概念を持ち合わせているため、「色相」「明度」「彩度」の尺度による三次元表だけではなく、「色相(ヒュー)」「トーン」という二次元表記でカラーシステムの全体像を表すことが可能です。こうしたヒュートーンシステムを応用した表示方法は、色彩調和を考える上で、大きなメリットとなっています。
この特性を活かし、多くの教材が用意されていることもPCCSの特徴です。 トーンは、「さえた」「明るい」といった形容語が設定されているとともに、英語の対応語が決められており、その略記号(トーン記号)でそのトーンを表します。「トーン」の概念を使いこなすことは、色彩調和を考える上で大いに役立ちます。
PCCSの色の表示方法は、「トーン記号」を使って二属性で表す場合と三属性をベースとした「PCCS記号」で表す場合の2種類がありますが、ほとんどの場合、トーン記号で表す方法が使われています。
★ トーン記号(二属性)で表す方法
①有彩色:「トーン記号-色相番号」の順に表記
例)v2(ビビッドのに)
②無彩色:Gy-(グレイの略+ハイフン)を頭につける
例)Gy-5.5(じーわい、ごーてんご)
★ PCCS記号(三属性)で表す方法
①有彩色:「色相-明度-彩度」の順に表記
例)2:R-4.5-9s(にあーる、よんてんご、の、きゅーえす)
②無彩色:n-(ニュートラルの略+ハイフン)を頭につける
例)n-5.5(えぬ、ごーてんご)
◆ PCCSと「色相の自然連鎖」
PCCSは「色相の自然連鎖/natural sequence of hues」の法則に沿った明度設計になっています。「色相の自然連鎖」とは、アメリカの科学者ルード/O.N.Roodが1879年に『現代色彩学/Modern Chromatics』に記したという法則で、自然界では、明るい色は色相が黄みに、暗い色は明るい色に対して色相が青紫方向に傾いて見えるという配色調和理論です。
下記の図を見ると、いずれのトーンも、「8:Y」色相を最大明度として、その補色となる「20:青紫」色相に向けて明度が低くなっていることがわかります。
PCCSはこうした明度設計によって、配色調和に適したカラーシステムになっています。
◆ 「トーン」概念の優位性
PCCSは、「トーン記号」で表すことが多いというのは前述の通りですが、トーンには形容詞が設定されているため、「v2(ビビッドのに)」は、「さえた赤」と読み替えることができます。「p8(ペールのはち)」は「うすい黄(色)」、「dk17(ダークのじゅうなな)」は「暗い青」となります。このようにトーン記号表示を形容詞と色相名に読み替えることによって、PCCSを知らない人に対しても、平易な言葉によって色のイメージを伝えることが可能になります。
こうした用法は、トーン概念を用いているPCCSの優位性といえます。例えば「lt」トーンの形容詞は「浅い」、「b」トーンが「明るい」となっていますが、一般用語として「明るい青」と伝えれば、それがPCCS規定のトーンの色とは異なっても、ある程度の色合いを伝えることができます。
こうした汎用性はマンセル表色系やNCS(ナチュラルカラーシステム)にはありません。マンセル表色系を知らない人に、5R4/14(ごあーる、よん、の、じゅうよん)と伝えてもどんな色なのか見当がつきません。NCSの2050-Y20R(にじゅうごじゅう、ワイきゅうじゅうアール)も同様です。
もっともこうした違いは、表色系として、PCCSがマンセル表色系やNCSよりも優れているというわけではありません。用途が違うことが本質です。冒頭で説明したようにPCCSは、Practical Color Co-ordinate Systemという命名からもわかるように実用的なカラーコーディネートのために(一財)日本色彩研究所が開発したシステムで、色や配色を学ぶ際に適している表色系といえます。(公社)色彩検定協会の色彩検定®や東京商工会議所のカラーコーディネーター検定試験®などの教材になっていることもこの特徴があってこそといえます。用途によってそれに適した表色系を用いることが大切です。