JP7329173B2 - 抗腫瘍ペプチドおよびその利用 - Google Patents
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Description
がん化した細胞(がん細胞、腫瘍細胞)は、生体内においては異物として認識され、免疫監視機構によって排除され得る。しかしながら、腫瘍細胞は、ある種の分子(例えば、タンパク質および脂質等)を発現し、免疫監視機構による攻撃を回避していることが、種々の研究により明らかにされている。具体的には、例えば、腫瘍細胞の表面には、「PD-L1(Programmed cell death-1 ligand -1:B7-H1ともいう。)」が発現することがある。PD-L1を発現する腫瘍細胞は、PD-L1の受容体であるPD-1を発現する免疫細胞(例えば、T細胞等)の機能を抑制し得ることが知られている。例えば、PD-1とPD-L1との相互作用を遮断すると、PD-L1による免疫細胞の抑制が解除されることとなる。これによって、免疫細胞は腫瘍細胞を攻撃できるようになる。そして、特許文献1では、抗PD-L1抗体の投与によって、一部の腫瘍の増殖が抑制されることが確認されている。また、抗PD-L1抗体の効果は臨床的にも認められている。
そこで本発明は、高価な抗体を使用する抗腫瘍剤とは異なる構成かつ抗腫瘍(抗がん)性能を有する合成ペプチドを提供することを課題(目的)として創出されたものである。
(1)膜タンパク質であるCMTM4(CLFK (chemokine-like factor)-like MARVEL transmembrane domain containing family member 4)のトランスメンブレン(TM)領域を構成するアミノ酸配列であって、以下のi)~iv)に示すいずれかのCMTM4-TM関連配列:
i)CMTM4の、N末端から1番目のTM領域を構成するアミノ酸配列;
または、該アミノ酸配列において1個、2個または3個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加された改変アミノ酸配列;
ii)CMTM4の、N末端から2番目のTM領域を構成するアミノ酸配列;
または、該アミノ酸配列において1個、2個または3個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加された改変アミノ酸配列;
iii)CMTM4の、N末端から3番目のTM領域を構成するアミノ酸配列;
または、該アミノ酸配列において1個、2個または3個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加された改変アミノ酸配列;
iv)CMTM4の、N末端から4番目のTM領域を構成するアミノ酸配列;
または、該アミノ酸配列において1個、2個または3個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加された改変アミノ酸配列;および、
(2)膜透過性ペプチド(CPP)として機能するアミノ酸配列(CPP関連配列);
をともに備えることを特徴とする。
好ましい一態様では、ここで開示される合成ペプチドは、総アミノ酸残基数が100以下である。製造コスト、合成のしやすさ、取り扱い性の観点からは、総アミノ酸残基数が80以下(例えば、70以下)であるものがさらに好ましい。
あるいは、上記(1)に示すアミノ酸配列と、(2)に示すアミノ酸配列とが全体の80個数%以上(より好ましくは90個数%以上、例えば100個数%)を占めるような合成ペプチドは、ここで開示される合成ペプチドの内の特に好適な一態様である。
さらに、ここで開示される合成ペプチドの好適な他の一態様では、上記CPP関連配列が、ポリアルギニン(特に限定しないが、典型的には、5個以上9個以下のアルギニン残基から構成される)、または、配列番号25~42のいずれかに示すアミノ酸配列、又は、該アミノ酸配列について1個、2個又は3個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加された改変アミノ酸配列であることを特徴とする。
例えば、
(i)配列番号1~4のいずれかに示すアミノ酸配列、または、該アミノ酸配列について1個または複数個(例えば2個または3個)のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加された改変アミノ酸配列;および
(ii)ポリアルギニン、または、配列番号25~42のうちのいずれかに示すアミノ酸配列、または、該アミノ酸配列について1個、2個または3個のアミノ酸残基が欠失、置換または付加された改変アミノ酸配列;
をともに備える合成ペプチドが好適例として挙げられる。
かかる組成物は、ここで開示される合成ペプチドを含むことにより、抗腫瘍剤(抗がん剤を包含する。以下同じ。)としての利用、あるいは新たな抗腫瘍剤の開発のための材料として利用することができる。
かかる構成の方法では、ここで開示される合成ペプチドを腫瘍細胞に供給することによって、該腫瘍細胞の増殖(好ましくはさらに腫瘍、癌組織の増大)を阻止若しくは抑制することができる。
本明細書中で引用されている全ての文献の全ての内容は本明細書中に参照として組み入れられている。
また、本明細書において「アミノ酸残基」とは、特に言及する場合を除いて、ペプチド鎖のN末端アミノ酸及びC末端アミノ酸を包含する用語である。
なお、本明細書中に記載されるアミノ酸配列は、常に左側がN末端側であり右側がC末端側である。
(1)CMTM4-TM関連配列、および、
(2)CPP関連配列、
をともに備えることで特徴付けられるペプチドである。
ここで、CMTM4-TM関連配列とは、CMTM4(CLFK (chemokine-like factor)-like MARVEL transmembrane domain containing family member 4)を構成するタンパク質のTM領域を構成するアミノ酸配列またはその改変アミノ酸配列であって、抗腫瘍活性を有するアミノ酸配列のことをいう。
CMTM4は、典型的には234程度のアミノ酸残基からなる膜タンパク質であり、4つのTM領域を有する(UniProtKB-Q8IZR5)。上掲の非特許文献1および非特許文献2には、CMTM4は、腫瘍細胞においてPD-L1の発現を促進する機能を有することが示されている。
しかしながら、CMTM4のTM領域それ自体が、抗腫瘍活性を有することは見出されておらず、かかるペプチド領域のアミノ酸配列を合成し、該配列にCPPを付加することにより、人為的に合成された抗腫瘍ペプチドが得られることは、本願出願当時、全く予想されていないことであった。
具体的には、配列番号1のアミノ酸配列は、ヒト由来のCMTM4のN末端から1番目のTM領域を構成する合計21アミノ酸残基からなるアミノ酸配列である。
また、配列番号2のアミノ酸配列は、ヒト由来のCMTM4のN末端から2番目のTM領域を構成する合計21アミノ酸残基からなるアミノ酸配列である。
また、配列番号3のアミノ酸配列は、ヒト由来のCMTM4のN末端から3番目のTM領域を構成する合計21アミノ酸残基からなるアミノ酸配列である。
また、配列番号4のアミノ酸配列は、ヒト由来のCMTM4のN末端から4番目のTM領域を構成する合計21アミノ酸残基からなるアミノ酸配列である。
なお、上記配列番号1~4には、ヒト由来のCMTM4のTM配列を示したが、当該配列はあくまでも例示であり、利用可能なアミノ酸配列はこれに限定されない。
また、配列番号6のアミノ酸配列は、マウス由来のCMTM4のN末端から2番目のTM領域を構成する合計21アミノ酸残基からなるアミノ酸配列である。
また、配列番号7のアミノ酸配列は、マウス由来のCMTM4のN末端から3番目のTM領域を構成する合計21アミノ酸残基からなるアミノ酸配列である。
また、配列番号8のアミノ酸配列は、マウス由来のCMTM4のN末端から4番目のTM領域を構成する合計21アミノ酸残基からなるアミノ酸配列である。
また、配列番号10のアミノ酸配列は、ラット由来のCMTM4のN末端から2番目のTM領域を構成する合計24アミノ酸残基からなるアミノ酸配列である。
また、配列番号11のアミノ酸配列は、ラット由来のCMTM4のN末端から3番目のTM領域を構成する合計23アミノ酸残基からなるアミノ酸配列である。
また、配列番号12のアミノ酸配列は、ラット由来のCMTM4のN末端から4番目のTM領域を構成する合計22アミノ酸残基からなるアミノ酸配列である。
また、配列番号14のアミノ酸配列は、チンパンジー由来のCMTM4のN末端から2番目のTM領域を構成する合計29アミノ酸残基からなるアミノ酸配列である。
また、配列番号15のアミノ酸配列は、チンパンジー由来のCMTM4のN末端から3番目のTM領域を構成する合計23アミノ酸残基からなるアミノ酸配列である。
また、配列番号16のアミノ酸配列は、チンパンジー由来のCMTM4のN末端から4番目のTM領域を構成する合計22アミノ酸残基からなるアミノ酸配列である。
また、配列番号18のアミノ酸配列は、ハムスター由来のCMTM4のN末端から2番目のTM領域を構成する合計24アミノ酸残基からなるアミノ酸配列である。
また、配列番号19のアミノ酸配列は、ハムスター由来のCMTM4のN末端から3番目のTM領域を構成する合計23アミノ酸残基からなるアミノ酸配列である。
また、配列番号20のアミノ酸配列は、ハムスター由来のCMTM4のN末端から4番目のTM領域を構成する合計22アミノ酸残基からなるアミノ酸配列である。
また、配列番号22のアミノ酸配列は、ミドリザル由来のCMTM4のN末端から2番目のTM領域を構成する合計29アミノ酸残基からなるアミノ酸配列である。
また、配列番号23のアミノ酸配列は、ミドリザル由来のCMTM4のN末端から3番目のTM領域を構成する合計23アミノ酸残基からなるアミノ酸配列である。
また、配列番号24のアミノ酸配列は、ミドリザル由来のCMTM4のN末端から4番目のTM領域を構成する合計22アミノ酸残基からなるアミノ酸配列である。
上記配列番号1~24に示されるアミノ酸配列は、いずれも抗腫瘍ペプチドとして採用され得る。
配列番号25のアミノ酸配列は、FGF2(塩基性線維芽細胞増殖因子)由来の合計14アミノ酸残基から成るNoLS(核小体局在シグナル:Nucleolar localization signal)に対応する。
配列番号26のアミノ酸配列は、核小体タンパク質の1種(ApLLP)由来の合計19アミノ酸残基から成るNoLSに対応する。
配列番号27のアミノ酸配列は、HSV-1(単純ヘルペスウイルス タイプ1)のタンパク質(γ(1)34.5)由来の合計16アミノ酸残基から成るNoLSに対応する。
配列番号28のアミノ酸配列は、HIC(human I-mfa domain-containing protein)のp40タンパク質由来の合計19アミノ酸残基から成るNoLSに対応する。
配列番号29のアミノ酸配列は、MDV(Marek病ウイルス)のMEQタンパク質由来の合計16アミノ酸残基から成るNoLSに対応する。
配列番号30のアミノ酸配列は、アポトーシスを抑制するタンパク質であるSurvivin- deltaEx3由来の合計17アミノ酸残基から成るNoLSに対応する。
配列番号31のアミノ酸配列は、血管増殖因子であるAngiogenin由来の合計7アミノ酸残基から成るNoLSに対応する。
配列番号32のアミノ酸配列は、核リンタンパク質であってp53腫瘍抑制タンパク質と複合体を形成するMDM2由来の合計8アミノ酸残基から成るNoLSに対応する。
配列番号33のアミノ酸配列は、ベータノダウイルスのタンパク質であるGGNNVα由来の合計9アミノ酸残基から成るNoLSに対応する。
配列番号34のアミノ酸配列は、NF-κB誘導性キナーゼ(NIK)由来の合計7アミノ酸残基から成るNoLSに対応する。
配列番号35のアミノ酸配列は、Nuclear VCP-like protein由来の合計15アミノ酸残基から成るNoLSに対応する。
配列番号36のアミノ酸配列は、核小体タンパク質であるp120由来の合計18アミノ酸残基から成るNoLSに対応する。
配列番号37のアミノ酸配列は、HVS(ヘルペスウイルスsaimiri)のORF57タンパク質由来の合計14アミノ酸残基から成るNoLSに対応する。
配列番号38のアミノ酸配列は、細胞内情報伝達に関与するプロテインキナーゼの1種であるヒト内皮細胞に存在するLIMキナーゼ2(LIM Kinase 2)の第491番目のアミノ酸残基から第503番目のアミノ酸残基までの合計13アミノ酸残基から成るNoLSに対応する。
配列番号39のアミノ酸配列は、IBV(トリ伝染性気管支炎ウイルス:avian infectious bronchitis virus)のNタンパク質(nucleocapsid protein)に含まれる合計8アミノ酸残基から成るNoLSに対応する。
配列番号40のアミノ酸配列は、HIV(ヒト免疫不全ウイルス:Human Immunodeficiency Virus)のTATに含まれるタンパク質導入ドメイン由来の合計9アミノ酸配列から成る膜透過性モチーフに対応する。
配列番号41のアミノ酸配列は、上記TATを改変したタンパク質導入ドメイン(PTD4)の合計11アミノ酸配列から成る膜透過性モチーフに対応する。
配列番号42のアミノ酸配列は、ショウジョウバエ(Drosophila)の変異体であるAntennapediaのANT由来の合計18アミノ酸配列から成る膜透過性モチーフに対応する。
これらのうち、特にNoLSやTATに関連するアミノ酸配列(又はその改変アミノ酸配列)が好ましい。例えば、配列番号38や配列番号39に示すようなNoLS関連のCPP配列、或いは配列番号40~42のTATやANT関連のCPP配列は、ここで開示される合成ペプチドを構築するために好適に用いることができる。
そして、配列番号25~42の配列について1個、2個または3個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加されたCPPとして機能する改変アミノ酸配列もまた、ここで開示される合成ペプチドを構築するために好適に用いることができる。
(1)CMTM4-TM関連配列、および、
(2)CPP関連配列
を備えておればよく、例えば、CPP関連配列は、CMTM4-TM関連配列の、相対的にN末端側あるいはC末端側に配置されていればよい。
また、CMTM4-TM関連配列とCPP関連配列とは隣接して配置されていることが好ましい。
具体的には、CMTM4-TM関連配列とCPP関連配列との間に、両配列部分に包含されないアミノ酸残基が存在しないことが好ましい。或いは、リンカーが存在していても、上の2つの配列をつなぐリンカーとしては、10個以下(より好ましくは5個以下、例えば1個または2個のアミノ酸残基)であることが好ましい。
ここで開示される合成ペプチドは、ペプチド鎖を構成する全アミノ酸残基数が100以下であることが適当であり、80以下が好ましく、70以下(例えば25から45程度のペプチド鎖)が好ましい。このような鎖長の短いペプチドは、化学合成が容易であり、容易に合成ペプチドを提供することができる。特に限定されるものではないが、免疫原(抗原)になり難いという観点から直鎖状又はヘリックス状のものが好ましい。このような形状のペプチドはエピトープを構成し難い。
ここで開示される合成ペプチドは、市販のペプチド合成機を用いた固相合成法により、所望するアミノ酸配列、修飾(C末端アミド化等)部分を有するペプチド鎖を合成することができる。
一般的な技法によって、この組換えベクターを所定の宿主細胞(例えばイースト、昆虫細胞、植物細胞)に導入し、所定の条件で当該宿主細胞又は該細胞を含む組織や個体を培養する。このことにより、目的とするペプチドを細胞内で発現、生産させることができる。そして、宿主細胞(分泌された場合は培地中)からペプチドを単離し、必要に応じてリフォールディング、精製等を行うことによって、目的の合成ペプチドを得ることができる。
なお、組換えベクターの構築方法及び構築した組換えベクターの宿主細胞への導入方法等は、当該分野で従来から行われている方法をそのまま採用すればよく、かかる方法自体は特に本発明を特徴付けるものではないため、詳細な説明は省略する。
こうして得られるポリヌクレオチドは、上述のように、種々の宿主細胞中で又は無細胞タンパク質合成システムにて、合成ペプチド生産のための組換え遺伝子(発現カセット)を構築するための材料として使用することができる。
ここで開示される抗腫瘍組成物の用途や形態に応じて適宜異なり得るが、典型的には、水、生理学的緩衝液、種々の有機溶媒が挙げられる。適当な濃度のアルコール(エタノール等)水溶液、グリセロール、オリーブ油のような不乾性油であり得る。あるいはリポソームであってもよい。また、抗腫瘍組成物に含有させ得る副次的成分としては、種々の充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、表面活性剤、色素、香料等が挙げられる。
抗腫瘍組成物(抗腫瘍剤)の典型的な形態として、液剤、懸濁剤、乳剤、エアロゾル、泡沫剤、顆粒剤、粉末剤、錠剤、カプセル、軟膏、水性ジェル剤等が挙げられる。また、注射等に用いるため、使用直前に生理食塩水または適当な緩衝液(例えばPBS)等に溶解して薬液を調製するための凍結乾燥物、造粒物とすることもできる。
なお、合成ペプチド(主成分)および種々の担体(副成分)を材料にして種々の形態の組成物(薬剤)を調製するプロセス自体は従来公知の方法に準じればよく、かかる製法自体は本発明を特徴付けるものでもないため詳細な説明は省略する。処方に関する詳細な情報源として、例えばComprehensive Medicinal Chemistry, Corwin Hansch監修,Pergamon Press刊(1990)が挙げられる。この書籍の全内容は本明細書中に参照として援用されている。
がん治療において、例えばがん転移が認められると、患者は手術療法を選択できなくなる場合がある。具体的には、例えば、メラノーマは、初期であれば手術による切除が可能である。しかし、メラノーマは転移性が強いため、発見時には切除不能となっている場合がある。また、腎臓がんは、腹部エコー等によって早期発見される症例が増えてきたが、切除不能となってから発見される症例も少なくはない。ここで開示される抗腫瘍組成物(合成ペプチド)は、メラノーマおよび腎臓がん等を構成する腫瘍細胞に対して好ましく適用することができる。これによって、メラノーマや腎臓がんの治療の選択肢を増やすことができる。
あるいは、生体外(インビトロ)において培養している腫瘍細胞(培養細胞株、又は生体から摘出された細胞塊又は組織又は器官である場合を包含する。)に対し、ここで開示される抗腫瘍組成物の適当量(即ち合成ペプチドの適当量)を、少なくとも1回、対象とする培養細胞(組織等)の培地に供給するとよい。1回当たりの供給量および供給回数は、培養する腫瘍細胞の種類、細胞密度(培養開始時の細胞密度)、継代数、培養条件、培地の種類、等の条件によって異なり得るため特に限定されないが、培地中の合成ペプチド濃度が概ね3μM以上100μM以下の範囲内、好ましくは5μM以上50μM以下(例えば6.25μM以上25μM以下)の範囲内となるように、1回、2回またはそれ以上の複数回添加することが好ましい。
具体的には、例えば、テトラゾリウム塩を用いた従来公知の細胞増殖測定用試薬を用いた試験を行うことによって、上記抗腫瘍指標を算出することができる。好ましい一態様では、まず、腫瘍細胞の培養液中に、ここで開示される抗腫瘍組成物を添加して所定期間(例えば24時間以上72時間以下)培養し、腫瘍細胞の生存率A(%)を算出する。また、同じ条件で培養した正常細胞の生存率B(%)を算出する。そして、このように算出した腫瘍細胞および正常細胞の生存率に基づく抗腫瘍指標を、例えば、以下の式(1);
腫瘍細胞および正常細胞の生存率に基づく抗腫瘍指標=A/B (1)
によって評価することができる。
即ち、式(1)で得られた値(即ち、腫瘍細胞および正常細胞の生存率に基づく抗腫瘍指標)が例えば0に近いほど、腫瘍細胞に選択的に、優れた抗腫瘍活性を有する抗腫瘍組成物であると評価することができる。そして、当該値は0.8以下であることが好ましく、より好ましくは0.6以下、さらに好ましくは0.3以下である。
例えば、腫瘍細胞の生存率A(%)は、抗腫瘍組成物を含まない培地(即ち、合成ペプチドを含まない培地)を用いて培養した腫瘍細胞の生存率を100%として算出する。また、正常細胞の生存率B(%)は、抗腫瘍組成物を含まない培地(即ち、合成ペプチドを含まない培地)を用いて培養した正常細胞の生存率を100%として算出する。あるいは、抗腫瘍活性を有しない合成ペプチド(以下、「コントロールペプチド」という。)を含む組成物を用いて同様の試験を行った場合に算出される生存率を100%として、A(%)およびB(%)を算出してもよい。
表1に示す計5種のペプチドを市販のペプチド合成機を用いて製造した。具体的には次のとおりである。
サンプル1は、一実施例として設計されたものであり、ヒトCMTM4のN末端から1番目のTM領域のアミノ酸配列(配列番号1)のC末端側に、CPP関連配列として配列番号38のアミノ酸配列(LIMキナーゼ2)を含む合成ペプチドである(配列番号43)。
サンプル2は、一実施例として設計されたものであり、ヒトCMTM4のN末端から2番目のTM領域のアミノ酸配列(配列番号2)のC末端側に、CPP関連配列として配列番号38のアミノ酸配列(LIMキナーゼ2)を含む合成ペプチドである(配列番号44)。
サンプル3は、一実施例として設計されたものであり、ヒトCMTM4のN末端から3番目のTM領域のアミノ酸配列(配列番号2)のC末端側に、CPP関連配列として配列番号38のアミノ酸配列(LIMキナーゼ2)を含む合成ペプチドである(配列番号45)。
サンプル4は、一実施例として設計されたものであり、ヒトCMTM4のN末端から4番目のTM領域のアミノ酸配列(配列番号2)のC末端側に、CPP関連配列として配列番号38のアミノ酸配列(LIMキナーゼ2)を含む合成ペプチドである(配列番号46)。
サンプル5は、比較例として設計されたものであり、ヒトcomplement factor BのシグナルペプチドのC末端側に、CPP関連配列として配列番号38のアミノ酸配列(LIMキナーゼ2)を含む合成ペプチドである(配列番号47)。
合成した各サンプルのペプチドは、DMSO(ジメチルスルホキシド)に溶かし、各サンプルペプチドのストック液(濃度2.5mM)を調製した。
上記試験例1で合成したサンプル1~4のペプチドについて、ヒト由来培養腫瘍細胞を対象として抗腫瘍活性を評価した。
具体的には、供試腫瘍細胞として現在市場において入手可能な、ヒトメラノーマ(A2058)細胞株を使用した。また、比較対象としては、正常ヒト乳腺上皮細胞の培養株(MCF-12F)を使用した。なお、各細胞の培養液を以下に示す。
(1)A2058細胞:
2mMのL-グルタミン、0.1mMの非必須アミノ酸(non-essential amino acids)、50ユニット/mLのペニシリン、50μg/mLのストレプトマイシン、及び10%の胎児ウシ血清(FBS;fetal bovine serum)を含むDMEM培地(和光純薬(株)製品)
(2)MCF-12F細胞:
20ng/mLのリコンビナントEGF、10μg/mLのインスリン、0.5μg/mLのヒドロコルチゾン、及び10%のFBSを含むDMEM/F12培地(和光純薬(株)製品)。
試験の詳細は以下のとおりである。
次いで、当該96穴(ウェル)プレートを、CO2インキュベータ内に配置し、37℃、5%CO2条件下で約1日間(21時間~24時間)のプレインキュベーションを実施した。
その後、評価対象とするいずれかのサンプルペプチドの濃度が6.25μM、12.5μM、および25μMのいずれかとなるように、濃度別にペプチド含有試験培地をそれぞれ調製し、1ウェルあたり90μLとなるように評価対象とする細胞が培養されているウェル(即ち、上記プレインキュベーション後のウェル)に供給した。そして、当該96穴(ウェル)プレートを、CO2インキュベータ内に戻し、37℃、5%CO2条件下で48時間のインキュベーションを実施した。
なお、各ペプチド添加試験区の各ペプチド濃度における試験ウェル数(n)は、いずれも6に設定した。従って、以下の表に示す結果の値は、試験ウェル数6のそれぞれで得た結果の平均値である。
インキュベーション終了後、上記試薬を添加した細胞培養液を回収するとともにテトラゾリウム塩の還元に基づく波長450nmの吸光度(波長620nmの吸光度で補正した値:A450-A620)を測定する比色法により、細胞生存率(%)を算出した。具体的には、いずれのサンプルペプチドも含有しない培地で上記48時間のインキュベーションを行った比較試験区の測定値(測定吸光度)を細胞生存率100%とした。そして、A2058細胞の生存率A(%)およびMCF-12F細胞の生存率B(%)を算出した。また、上記式(1)を用いてA2058細胞およびMCF-12F細胞の生存率に基づく抗腫瘍指標を算出することによって、A2058細胞に対する各サンプルペプチドの抗腫瘍活性を評価した。結果を表2に示す。
A2058細胞はヒトメラノーマ細胞株の中でも悪性度が極めて強く、多くの抗腫瘍組成物に対して耐性を示すことが知られている。しかしながら、上記サンプルペプチドのいずれもが、このようなメラノーマ細胞株に対して優れた抗腫瘍活性(腫瘍細胞増殖阻害活性)を示した。
上記試験例1のサンプル3について、A2058細胞とは異なるヒトメラノーマ細胞株を対象として抗腫瘍活性を評価した。
具体的には、供試腫瘍細胞として現在市場において入手可能な、ヒトメラノーマ細胞株(SK-MEL5)を使用した。また、比較対象として、上記MCF-12F細胞を使用した。
SK-MEL5細胞の培養には、以下の培地を使用した。
即ち、
1mMのピルビン酸ナトリウム、100ユニット/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシン、及び10%のFBSを含むE-MEM培地(和光純薬(株)製品)。
試験の詳細は試験例2で述べたとおりである。上記式(1)を用いて算出した、SK-MEL5細胞およびMCF-12F細胞の生存率に基づく抗腫瘍指標を上掲の表2に示す。
上記試験例1のサンプル3およびサンプル4について、異なる腫瘍細胞を対象として抗腫瘍活性を評価した。
具体的には、供試腫瘍細胞として現在市場において入手可能な、ヒト腎臓がん細胞株(CAKI2)を使用した。また、比較対象として、上記MCF-12F細胞を使用した。
CAKI2細胞の培養には、以下の培地を使用した。
即ち、
2mMのL-グルタミン、3,000 mg/Lのグルコース、100ユニット/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシン、及び10%のウシ胎児血清(FBS)を含むMcCoy’s 5A培地(Gibco(株)製品)。
試験の詳細は試験例2で述べたとおりである。上記式(1)を用いて算出した、CAKI2細胞およびMCF-12F細胞の生存率に基づく抗腫瘍指標を表3に示す。
腫瘍細胞を対象として、サンプル1~4とは全く異なる配列の合成ペプチドを用いて抗腫瘍活性を評価した。
具体的には、サンプル5を処理した場合におけるA2058細胞(腫瘍細胞)の生存率(%)を評価した。
試験の詳細は試験例2で述べたとおりである。なお、サンプル5を含まない培地で同じ時間培養したA2058細胞の生存率を100%として、サンプル5処理下で培養したA2058細胞の生存率(%)を算出した。結果を表4に示す。
Claims (4)
- 少なくとも一種の腫瘍細胞の増殖を抑制する合成ペプチドであって、
配列番号43~46のいずれかに示すアミノ酸配列を含み、
総アミノ酸残基数が100以下である、合成ペプチド。 - 配列番号43~46のいずれかに示すアミノ酸配列からなる、請求項1に記載の合成ペプチド。
- 少なくとも一種の腫瘍細胞の増殖を抑制する抗腫瘍組成物であって、
請求項1または2に記載の合成ペプチドと、
薬学上許容され得る少なくとも一種の担体と、
を備える、抗腫瘍組成物。 - 少なくとも一種の腫瘍細胞の増殖を抑制する方法であって、
インビトロにおいて対象とする腫瘍細胞に対して請求項1または2に記載の合成ペプチドを少なくとも1回供給することを包含する、腫瘍細胞の増殖抑制方法。
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