JP7184522B2 - 多成分混合物の性状の推定方法 - Google Patents
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Description
しかしながら、昨今では、輸入原油種が多様化しており、類似する過去のデータを探すことは容易ではない。さらに運転効率の向上や環境保護という面からも、単純に過去の運転実績を踏襲すればよいというものではなくなっている。
そこで、比重や粘度、蒸留性状というような石油全体を一括りにした観点で捉えるのではなく、石油を構成している炭化水素分子というレベルでその化学構造や存在割合を把握し、それにより得られた推定物性値等の知見に基づいて運転条件を設定することができれば、より客観性に基づいた効率的な運転ができると考えられてきた。そのため、石油業界においては、石油を分子レベルで把握する技術の出現が待ち望まれてきた。
ところが、石油は、膨大数の炭化水素分子からなる混合物であり、特に重質油は分子量が大きく、かつ複雑な化学構造を有する分子が極めて多種類存在するため、そのような分子の一つ一つについて、化学構造を特定し、それらの存在割合をも特定するというのは、非常に困難なことであった。
特に、特許文献2には、石油を構成している分子をアルゴン等に衝突させることにより、分子における架橋部分を切断して構成しているコア部分に分解し、それらの化学構造を求め、そののちにそれらを組み合わせて元の分子を再構築するという分子構造の推定方法が記載されている。
(1)前記多成分混合物に対し質量分析を行い、得られたピークの各々について、そのピークに帰属する分子の分子式を特定し、さらにその分子の存在割合を特定するステップと、
(5)前記ステップ(1)において分子式が特定された各分子に対し、それらを構成するコアの構造を決定し、さらに側鎖及び架橋を決定して割り付けるステップと、
(6)前記ステップ(1)および(5)により特定された前記多成分混合物の各成分の分子構造から、各成分の融点及びハンセン溶解度指数値を取得するステップと、
(7)前記多成分混合物を構成する各成分のうち、所望の温度未満の融点を有する成分を液相成分として分類し、前記所望の温度以上の融点を有する成分を非液相成分として分類するステップと、
(8)前記液相成分として分類された各成分のハンセン溶解度指数値を各成分の当該液相における分率で重み付けした加重平均値として、液相全体の平均ハンセン溶解度指数値を算出するステップと、
(9)液相全体の前記平均ハンセン溶解度指数値と、非液相成分における各成分のハンセン溶解度指数値との差を算出するステップと、
(10)非液相成分における各成分を、前記差に基づいて、液相成分又は非液相成分として再分類し、液相成分として再分類された各成分を非液相成分から液相成分に編入して、液相成分及び非液相成分を更新するステップと、
(11)更新後の液相成分における各成分のハンセン溶解度指数値を各成分の当該液相における分率で重み付けした加重平均値として、更新後の液相全体の平均ハンセン溶解度指数値を算出するステップと、
(12)前記ステップ(9)~(11)を、前記ステップ(10)において液相成分として再分類される非液相成分がなくなる最終段階まで繰り返すステップとを含む、
ことを特徴とするものである。
本発明の実施形態を説明するにあたり、先ず、本明細書にて使用する用語ないし表現について説明する。
(1)「多成分混合物」
「多成分混合物」とは、二以上の成分からなるあらゆる混合物を包括する概念である。成分の含有割合は問わない。具体的には、好ましくは、「石油」であり、さらに好ましくは、「重質油」である。より詳しくは、「多くの芳香族化合物を主たる成分とする混合物」である。
「成分」とは、「混合物をある特定の物理的又は化学的性状を基準として括った塊」、即ち、「ある特定の物理的又は化学的性状を基準として分画された分画物(フラクション)」を意味する。特定の物理的又は化学的性状を基準として括る方法としては、例えば、蒸留試験における沸点範囲を特定して、その温度範囲にあるものを一つの成分として分画する方法等が挙げられる。この場合、混合物は「分画物(フラクション)の集合体」ということになる。或いは、「成分」を、多成分混合物を構成する一つ一つの構成員であって、「同一の分子種に属すると認められる分子の集合体」と捉えてもよい。ここで、「同一の」とは、「分子構造を完璧に特定し、その上で同一である」、或いは、「分子構造上の異性体(分子式は同じであるが構造が異なるもの)どうしは同一のものとする」という意味と捉えてもよく、例えば、後述する「JACDのような方式で特定された構造において同一である」という意味と捉えてもよい。さらには、広く「任意に定めた基準に基づいて一括りにした分子の集合体」という意味と捉えてもよい。
「多成分混合物を構成する」とは、多成分混合物中に存在する100%すべての成分を想定するものでなくてもよい。本発明により特定される各成分の分子構造をどのように利用するかにより、どの程度の詳細さを以て成分としての分子種特定が必要になるかに応じて、「構成する各成分」を適宜決定すればよい。例えば、多成分混合物中において一定の存在量(存在割合)以上を持つ分子種のみを対象として、「構成する成分」と捉えてもよい。石油のような膨大な種類の分子種すべてについて分子構造を同定する必要性は必ずしも高いとは限らず、微量しか存在しない分子種等については、必要に応じて、無視してもよい。例えば、「多成分混合物」として、多環芳香族レジン分(PA)を対象とする場合、PAを構成する成分として、パラフィン系化合物及びオレフィン系化合物の存在は無視してもよい。
「分率」とは、質量分率、容量分率又はモル分率等、存在割合を示すものであれば何でもよく、いずれをも含む概念である。液相全体の平均ハンセン溶解度指数値を算出する場合は、好ましくは容量分率が用いられ、各成分の当該液相における容量分率で重み付けした加重平均値として算出される。
「分子構造を特定する」とは、上記「成分」における「分子」に関し、分子が持つ構造に関する何等かの情報を特定するという行為であれば、あらゆる行為を包含するものである。目的及び必要性に応じて、その度合い、表示の方式を適宜選択すればよい。分子全体の構造を特定するという行為のみならず、分子の一部分についての構造に関する情報を組み込んでもよい。例えば、コア部分の構造のみを特定し、側鎖部分や架橋部分については構造は特定せず分子式のままにしておいてもよい。
本明細書において、好ましくは、後述する「JACD」で分子構造を特定する。「JACD」で構造が特定された分子というのは、後述するアトリビュートの結合位置の違いによる異性体をすべて含む概念である。本明細書において、「分子」は、異性体をすべて含む概念と捉えてもよい。
「各成分の存在割合を特定する」とは、混合物を構成する各成分について、それらが存在する比率を特定するという行為であれば、あらゆる行為を包含するものである。また、混合物を構成するすべての成分種について存在割合が特定されなければならないという意味ではなく、分析技術では検出が困難な程度の量しか存在しないような成分や特定する必要のない成分までを含めたすべての成分の存在割合を特定して初めて、「各成分の存在割合を特定した」とするものではない。かかる微量成分等については、「その他の成分」としてまとめて扱ってもよい。さらには、これらを「混合物を構成する各成分」という範囲から除外し、他の成分の存在割合を算出する上での分母に入れなくてもよい。
本明細書において、「すべての」とは、必ずしも「100%全部の」という意味でなくてもよい。例えば、質量スペクトルについて「すべてのピーク」という言い方をしている箇所については、文字どおり、「100%全部のピーク」という意味のみならず、例えば、その場面での検討の目的上必ずしも必要でない分子に関するピークや判別しにくいようなピーク等については、適宜、除外した上で、それ以外のピークを指すという意味と捉えてもよい。
質量分析において得られるピークの横軸は、多成分混合物を構成する各成分の分子イオン又は擬分子イオンについてのm/zである。このm/zが示す数値は、分子イオン又は擬分子イオンの質量に相当する数値であるため、概ね、そのピークに帰属させられる分子の分子量を表している。本明細書では、この「質量分析において得られた、分子イオン又は擬分子イオンについてのm/zのピーク」を、「質量分析において得られたピーク」、又は単に「ピーク」ということがある。また、当該ピークの高さは、そのピークに帰属する分子の相対的な存在割合を示している。
「分子式」とは、分子を構成する元素の種類と数のみを示す式のことであり、構造は特定されていないものを指している。分子を構成する元素の種類と数がわかっているため、分子量及び後述するDBE値等の情報は得ることができる。
本発明において主として用いているフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴方式による質量分析(以下、「FT-ICR-質量分析」ともいい、FT-ICR-質量分析により得られたスペクトルを「FT-ICR-質量分析スペクトル」ともいう)においては、m/zの値を小数点第4位まで決定することができる。そのため、原子の同位体の存在をも考慮した精密な質量の数合わせを行うことにより、そのピークに帰属する分子の分子式を決定することができる。分子式というのは、分子を構成する元素の種類と数のみを表すものにすぎないため、上記決定された分子式に該当する分子としては、異性体が複数存在しうる。即ち、1本のピークには、分子式が同一である複数の異性体が帰属しうる。
ただし、FT-ICR-質量分析の特性上、分子式は同一であっても、例えば、その分子イオンに水素イオンが付加している等により、元の分子イオンと質量が異なることになり、そのため別のピークとして現れることがある。よって、測定上は別ピークとして現れたものであっても、分子式を構成する元素の種類と数が同一であるものは「同一の分子式」として捉えてもよい。「その分子式に該当する分子」という文言において、「その分子式」というのは、このような「同一の分子式」という意味で捉えてもよい。また、「あるピーク」という場合、上記の意味で「同一の分子式」を表しているとされた種々のm/zのピークをすべてまとめて捉えた概念と考えてもよい。
「コア」とは、後述の「JACD」の項で記載する「アトリビュート」の一種であって、具体的には、芳香環又はナフテン環そのもの、芳香環とナフテン環が架橋ではなく直接結合しているもの、芳香環又はナフテン環にヘテロ環が架橋ではなく直接結合しているものである。架橋又は側鎖は、コアとは別のアトリビュートであるため、「コア」とは、架橋又は側鎖を一切有しないものを意味している。
一方、「シングルコア」とは、上記コアを1個だけ有する分子を指す概念である。分子を指す概念であるため、コアに側鎖が結合しているものも包含している。上記コアの2個以上が架橋してなる分子を「マルチコア」という。「マルチコア」も分子を意味するため、コアに側鎖が結合しているものも包含している。2個のコアが架橋してなる分子を「ダブルコア」という。
例えば、以下に示すナフタレン分子は、1個の芳香環からなるものであるため「シングルコア」であり、ベンゼン環2個からなるダブルコアではない。
「DBE値」とは、分子式が、「CcHhNnOoSs」である場合、以下の式(1)にて算出される値である。
DBE = c- h/2+n/2 + 1 ・・・(1)
(式中、cは炭素原子の数、hは水素原子の数、nは窒素原子の数、oは酸素原子の数、sは硫黄原子の数を示す。)
この値は、概ね、分子における不飽和性、とりわけ、二重結合及び環の存在の程度を示すものである。
「JACD」とは、分子構造に関する新規な表示方式であって、分子の構造を、アトリビュートの種類及びアトリビュートの数により表示するものである。アトリビュートが他のアトリビュートのいずれの位置において結合しているかについては表示しない。
上記において、「アトリビュート」とは、分子を構成している化学構造上の部品(パーツ)を指す概念である。芳香族化合物においては、具体的には、前述の「コア」、「架橋」及び「側鎖」を指す。
この表示方式によると、石油を構成する膨大数の分子の各々に関し、それらの構造を、必要かつ十分な程度に特定することができる。
以下の化学式で表された分子を例にとって説明する。
「物性値」とは、上記の方法により特定された分子構造及びその存在割合に基づいて得られる値であって、物質の物理的又は化学的な性質や性状、特性を表現するものであれば、名称の如何に拘わらず、「物性値」に含まれる。本明細書において、「物性値」とは、これらに限定されるものではないが、例えば、融点、ハンセン溶解度指数値、生成ギブス自由エネルギー、イオン化ポテンシャル、分極率、誘電率、蒸気圧、液体密度、API度、気体粘度、液体粘度、表面張力、沸点、臨界温度、臨界圧力、臨界体積、生成熱、熱容量、双極子モーメント、エンタルピー、エントロピー等である。
本明細書において、「石油」とは、原油、並びに原油を蒸留して得られる諸留分及び諸留分に改質や分解等の二次装置による処理を加えて得られる留分等をも含む総称的な概念をいう。或いは、原油を蒸留して得られたある留分について、さらに飽和炭化水素や芳香族炭化水素等の成分に分画した分画物をさすこともある。
(15)「石油に関する装置」
本明細書において、「石油に関する装置」とは、蒸留装置や抽出装置をはじめ、改質装置、水素添加反応装置、脱硫装置等の化学反応を伴う装置等、石油の処理に関する装置をすべて含む。「石油に関する装置」を総じて、「石油精製装置」ともいう。
次に、図1のフローチャートを参照して、本実施形態における多成分混合物の各成分の分子構造を特定するための、各ステップを説明する。
(1)ステップ1(質量分析)(図1のS1)
ステップ1は、多成分混合物に対し質量分析を行い、得られたピークの各々について、そのピークに帰属する分子の分子式を特定し、さらにその分子の存在割合を特定するステップである。即ち、多成分混合物に対し質量分析を行い、それにより得られたすべてのピークについて、各ピークに帰属する分子の分子式を特定し、さらにその分子式に該当する分子の存在割合を特定するステップである。
ステップ2は、多成分混合物に対し衝突誘起解離を行うステップである。「衝突誘起解離(Collision Induced Dissociation、以下、「CID」ともいう。)」とは、分子をイオン化し、これをアルゴン等の不活性ガスに衝突させ、架橋及び側鎖を切断する操作をいう。通常、当該多成分混合物を構成する各成分における架橋及び側鎖が切断されるように、衝突エネルギーを与えることが好ましい。架橋及び側鎖を切断することにより、コアごとのフラグメントイオンが生成される。このコアは、衝突誘起解離では切断し得なかった炭素数0~4程度の脂肪族基を側鎖として有していることがある。
多成分混合物に対しFT-ICR-質量分析を行ったとき、得られるピークのm/zから、多成分混合物を構成する分子の分子式を決定することができるが、その分子の「コア」に関する情報は得られない。そこで、さらに、衝突誘起解離を行って、多成分混合物を構成する各分子中の架橋及び側鎖を切断すれば、多成分混合物全体の中に存在するコアの種類を知ることができる。
衝突誘起解離を行う条件としては、分子中の架橋及び側鎖を有効に切断できる衝突エネルギー、例えば、10~50kcal/モルが好ましく、20~40kcal/モルがより好ましい。なお、40kcal/モルは、分子量を700とすると32eVに相当する。
ステップ3は、ステップ2の衝突誘起解離により生成した各フラグメントイオンについて、質量分析、好ましくは、FT-ICR-質量分析を行い、各フラグメントイオンを構成するコアの構造及び存在割合を特定するステップである。
具体的には、前記ステップ2で得られたコアに関する情報と、予め用意しておいたコア構造リストに記載されているコアに関する情報とを照合し、各コアの構造を特定する方法である。
詳しくは、以下のとおりである。
i. 衝突誘起解離後におけるコアに関する情報の取得
衝突誘起解離後の各フラグメントイオンのFT-ICR-質量分析においては、コアの部分は同じであっても、側鎖として炭素数が0~4程度の脂肪族基を有するフラグメントイオンは、その側鎖の種類に応じて、各々質量が異なるため、別々のピークとして現れる。そこで、コアに側鎖として炭素数が0~4の脂肪族基を持つものについて、これら各種の質量を予め算出しておき、上記現れた別々のピークを種々比較照合すれば、コアそのものの質量を割り出すことが可能となる。
この方法を用いて、ステップ2において、衝突誘起解離後に得られたピークの各々について、そのピークに帰属されるコアは、質量がいくつで、O,N又はS原子等のヘテロ原子がいくつ存在し、またDBE値から芳香環がいくつ存在しているかという情報を得ることができる。
衝突誘起解離後におけるコアの構造を特定する方法として、予め、多成分混合物の各成分分子を構成すると想定できる各種のコアをモデルとしてリスト化した、「コア構造リスト」を作成しておき、当該リストに格納されているコアの分子量、ヘテロ原子の種類と数等の情報と上記にて得られたコアの情報を照合して、このリストの中から最も妥当と考えられるコアのモデルを選択し、そのコアを当該コアとして該当させるという方法がある。
この方法により、衝突誘起解離後のFT-ICR-質量分析にて得られたすべてのピークに対して、コアが割り付けられ、その構造を知ることが可能となる。
上記コア構造リストに格納するコアの種類については、特に限定されるものではなく、いかなるものであってもよいが、格納するコアの選定の妥当性が各コアの構造特定の妥当性に直結することになる。
試料である多成分混合物そのものの内容に応じて、予め「コア構造リスト」を作成しておくのが好ましい。例えば、多成分混合物が石油の場合、これまでの石油に関する知見をもとにして、予め、「石油の分子構造特定用のコア構造リスト」を作成しておき、それを用いればよい。
リストの作成においては、基本となる芳香環における環数、芳香環に直接結合するナフテン環の種類と数(カタ型かペリ型かという違いも含む)及び直接結合の態様(即ち、基本芳香環のどの位置にどういう形でナフテン環が結合しているのかという態様)等、諸条件を勘案して、適当数のコアを格納するのがよい。
例えば、芳香環の大きさは6環までとすることや、ヘテロ原子はN、O、Sを想定し、ヘテロ環の種類としては10個程度とすること等、計算上の便宜を考慮してリストを作成すればよい。
コア構造リストには、「分子量、DBE値及びヘテロ原子の種類と数がすべて同じであるが、構造式が異なる」というものが複数存在している場合がある。この場合、それらの複数のうちどれを第一優先として選定するかについては、適宜、ルールを決めておけばよい。例えば、優先性として、次の1~3が挙げられる。
1.芳香環のみから成るものを優先する。
2.不飽和結合の多いものを優先する。
3.環数の少ないものを優先する。
前述のとおり、ステップ2において衝突誘起解離後に得られた各々のピークの高さから、そのm/z、即ち、その質量を持つコアの存在割合を求めることができる。
本ステップ3で得られた衝突誘起解離後の各コアの構造は、後にステップ5にて用いられることになり、また、衝突誘起解離後の各コアの存在割合は、後にステップ4にて用いられることになる。
ステップ1におけるピークの各々に帰属する分子を、「ヘテロ原子の種類と数(ゼロを含む。)及びDBE値」に基づいて「クラス」に分け、当該各々の「クラス」に属するすべての分子について、その存在態様及び存在割合を推定するステップである。
言い換えれば、ステップ1におけるすべてのピークに帰属する分子について、ステップ1にて特定された各々の分子式における「ヘテロ原子の種類と数(ゼロを含む。)及びDBE値」に基づいて「クラス」に分け、当該各々の「クラス」に属するすべての分子について、その存在態様及び存在割合を推定するステップである。
(ア)ステップ1において、すべてのピークについて分子式が特定されているため、その分子式におけるヘテロ原子の種類とその数及びDBE値が判明する。したがって、本ステップでは、この「ヘテロ原子の種類とその数及びDBE値」に基づいて、すべてのピークに帰属させた分子それぞれを、「ヘテロ原子の種類とその数及びDBE値」ごとに括られたそれぞれの「クラス」の中に編入する。
「ヘテロ原子の種類と数」とは、詳しくは、「ヘテロ原子の種類ごとのそのヘテロ原子の数」である。ヘテロ原子とは、好ましくは、窒素原子、硫黄原子及び酸素原子であるため、「ヘテロ原子の種類と数」とは、好ましくは、「窒素原子、硫黄原子及び酸素原子のそれぞれの数」ということもできる。よって、ヘテロ原子に関して言えば、「窒素原子の数、硫黄原子の数及び酸素原子の数のすべてが一致するもの」が同一の「クラス」に入ることになる。
これらの推定を行うにあたっては、実際の計算上の便宜から、いくつかの仮定を設けて行うのが好ましい。
ここで、「マルチコア」は、どういうコアどうしが架橋して結合しているのかにより、いろいろな組み合わせがありうる。ただし、マルチコアを形成する複数個のコアのDBE値の和及びヘテロ原子の種類に応じた数の和は、そのクラスに属しているものは、皆、同じ値である。
好ましくは、最初に、マルチコアの存在割合は、そのマルチコアを構成している複数のコアそれぞれの存在割合の積であると仮定し、これを推定値とする。
ステップ5は、ステップ4において存在態様が推定された各分子に対し、それらを構成するコアの構造を決定し、さらに側鎖及び架橋を決定して割り付けるステップである。
i.ステップ4で存在態様がマルチコアと推定された場合は、それを構成しているコアごとに分けて(解除して)とらえる。
i.上記により、シングルコア又はマルチコアのコアの部分の構造は特定することができたが、コアの部分のみの存在を想定しただけでは、対象とする試料についてFT-ICR-質量分析にて得られたピークのm/zが示す質量に合致しない。即ち、コアの部分に関与している炭素、水素及びヘテロ原子に基づく質量を合計しても、FT-ICR-質量分析にて得られたピークのm/zで示される質量と差が生じる。
そこで、その質量の差分は、コアに結合している側鎖及びコアどうしを結合させている架橋の存在に由来するものと考え、差分が解消するように炭素の数及び水素の数を割り出し、それを側鎖及び架橋としてコアに割り付ける。
例えば、あるm/z=nのピークに対して、上記の手順により、コア1とコア2が架橋してなるあるダブルコアが割り付けられたとする。このとき、
その質量の差分(d)=n-(コア1の質量+コア2の質量)
が、側鎖及び架橋の存在に由来するものとなる。
iii.上記iにおいて、その質量の差分に相当する側鎖又は架橋が存在しない場合は、コア1とコア2が単に結合しているという構造を当てはめてもよい。
(ウ)上記にて決定した側鎖及び架橋を「コアに割り付ける」とは、どのコアのどの位置に側鎖や架橋が結合しているかを決定することまでを包含する意味ではない。
多成分混合物に対し高精度なタイプ別分離前処理を施し、複数の成分に分画するという方法である。特に重質油の場合、かかる分画を行うことが好ましい。「タイプ別分離前処理」の方法としては、特に限定はされず、任意の基準に従っていくつかの成分に分離させればよいのであるが、カラムクロマト分画方法、ソックスレー抽出法や高速溶媒抽出法等の溶媒抽出法等の公知の方法を用いればよい。重質油の場合は、例えば、特開2011-133363号公報に記載の方法のように、カラムクロマト分画方法を用いるのが好ましい。いくつの成分に分画するかは、目的に応じて、適宜選択すればよい。
(第1工程)
重質油をn-パラフィンに可溶なマルテン分とそれ以外の不溶分に分離する。
(第2工程)
上記(第1工程)で分離したマルテン分をカラムクロマトグラフィーを用いて飽和分(Sa)、1環芳香族分(1A)、2環芳香族分(2A)、3環以上の芳香族分(3A+)、極性レジン分(Po)及び多環芳香族レジン(PA)の各フラクションに分離する。
(第3工程)
さらに好ましくは、前記第2工程で得られた3環以上の芳香族分フラクション(3A+)を、分取液体クロマトグラフィーを用いて、さらにPeri型4環芳香族分とCata型4環芳香族分のフラクション及び場合によっては5環以上の芳香族分(5A+)に分離してもよい。
次に、コンピュータを用いて、多成分混合物の組成モデルを決定する方法を説明する。
これは、多成分混合物を2以上の任意の部分に分画するステップAと、ステップAで分画された各分画物について、前記の方法により、各分画物を構成する各成分の分子構造及び存在割合を特定するステップBと、ステップAで分画された各分画物の混合比に従って、すべての分画物について得られた全成分の分子構造及び存在割合を統合するステップCとを含むことを特徴とする方法である。
前記のとおり、「多成分混合物A」を、それを分画することにより得られた分画物I、分画物II・・など、分画の数だけの分画物の混合物と捉え、各分画物については、前記の方法にて、その分画物を構成する各成分の分子構造及びその存在割合を特定する。しかる後に、「多成分混合物A」における分画物I、分画物II・・それぞれの混合比、即ち、分画収率に従って、全分画物の全成分を統合すれば、「多成分混合物A」の組成モデル全体について、どういう成分により、どういう割合で構成されているのかを特定することができる。
次に、本実施形態における多成分混合物の融点およびハンセン溶解度指数値の取得ステップを説明する。
(6)ステップ6(融点およびハンセン溶解度指数値の取得)(図1のS6)
ステップ(1)~(5)により、JACDを用いて特定された多成分混合物の各成分の分子構造から、各成分の融点およびハンセン溶解度指数値(以下、「HSP値」ともいう)を取得する。
これらの物性値は、上記のようにして特定された多成分混合物の各成分の分子構造について、全石油分子データベース(Comcat)を用いて特定することが好ましい。
本発明においては、上述のように、多成分混合物を構成する各成分について、存在する各種の原子団が特定されるため、各種の原子団が持つ公知の固有のパラメータ値を用いて、その成分の物性値を算出することができる。さらに、各成分の存在割合も特定されているため、この存在割合を考慮すれば、適宜、各成分の持つ物性値から全体の多成分混合物の物性値を推算することが可能となる。
次に、上記で得られた各成分の融点およびハンセン溶解度指数値を用いた、多成分凝集モデルによる多成分混合物の性状推定ステップを説明する。
上記のステップ(1)~(6)において、各成分の分率、融点及びハンセン溶解度指数値を取得し、所望の温度Tを設定する。
多成分混合物を構成する各成分のうち、所望の温度T未満の融点を有する成分を液相成分として分類し、該所望の温度T以上の融点を有する成分を非液相成分として分類する。ここで所望の温度Tとは、上記で定義したとおりである。
ステップ(7)において液相成分として分類された各成分のHSP値について、各成分の当該液相における容積分率で重み付けした加重平均値を、液相全体の平均HSP値として算出する。各成分について、密度、分子量等の物性に関する諸情報を予め取得しておくことにより、容積分率を算出することができる。
ステップ(8)において算出した液相全体の平均HSP値と、非液相成分における各成分のHSP値との差(Δδ)を算出する。
非液相成分における各成分を、ステップ(9)において算出した差(Δδ)に基づいて、液相成分又は非液相成分として再分類し、液相成分として再分類された各成分を非液相成分から液相成分へ編入して、液相成分及び非液相成分を更新する。
この再分類における更新は、非液相成分における各成分について、一つずつ順番に行ってもよいし、複数の成分ごとに行ってもよい。
ステップ(10)において更新した後の液相成分における各成分のHSP値について、各成分の当該更新後の液相における容積分率で重み付けした加重平均値を、更新後の液相全体の平均HSP値として算出する。
ステップ(9)~(11)を、ステップ(10)において液相成分として再分類される非液相成分がなくなる最終段階まで繰り返す。
所望の温度における最終段階での更新後の非液相成分の凝集度Dを算出する。
最終段階での更新後の非液相成分における各成分を、凝集度Dに基づいて、凝集相成分と固相成分とに分類する。
ステップ14で分類した凝集相成分の平均凝縮度Dを算出する。
上記ステップから得られた情報により、多成分混合物の性状を出力する。
本発明の、コンピュータによる多成分混合物の性状の推定方法について、図1のフローチャートに示した各ステップを想定モデルに適用して説明する。「多成分混合物」としては、多環芳香族レジン分(PA)をモデルとして用いる。
(1)ステップ1(質量分析)(図1のS1)
ステップ1において、多成分混合物を構成する各成分の分子式及びその分子式に該当する分子の存在割合を特定する。例えば、図4のFT-ICR-質量分析により得られたスペクトルのチャートを見ると、質量(m/z)が303.2付近には多くのピークが現れている。そのピークの各々について、帰属する分子の分子式を正確に特定する。
また、全ピークの高さの総和に対するあるピークの高さの比率は、そのピークに帰属する分子の存在割合を表すことから、その高さから各成分の分子式に該当する分子の存在割合を特定する。
ステップ2においては、多成分混合物に対し衝突誘起解離を行う。
図2に示したように、炭素数40、DBE=17の親イオンを衝突誘起解離により、側鎖、架橋を切断し、二つのフラグメントイオンに解離させる。CID前の分子(親イオン)のDBE値「17」とCID後の2つの分子(フラグメントイオン)のDBE値「10」と「7」の和は等しくなる。
CIDにより、図2に示したように、架橋を持つ分子のほとんどは架橋及び側鎖を切断され、適切な条件下では、コアと炭素数がせいぜい4以下の側鎖からなることになる。
ステップ3では、ステップ2のCIDにより生成した各フラグメントイオンについて、FT-ICR-質量分析を行い、各フラグメントイオンを構成するコアの構造及び存在割合を特定する。即ち、CID後の各フラグメントイオンについてのFT-ICR-質量分析にて得られたピークに対して、それに帰属するコアの構造及び存在割合を特定する。
図5の模式図を参照して、各コアの構造及び存在割合の特定方法を説明する。ここでは、CID後のFT-ICR-質量スペクトルのm/zの値とコア構造リストに格納されているコアの精密質量とを比較、照合することで、各々のピークにコアを帰属させる。その際、ピークのm/zから得られる分子量、分子式、DBE値が一致するように、「コア構造リスト」に収納されているコアを照合し、選択して帰属させる。
ここにおいて、CID後のFT-ICR-質量スペクトルのすべてのピークに対し、帰属させられたコアの構造、分子量、ヘテロ原子の種類と数及びDBE値が特定されることになる。
ピークにそれぞれ帰属させたコアは、その帰属ピークの相対的高さから存在割合も知ることができる。
ステップ4では、ステップ1におけるピークの各々に帰属する分子を、「ヘテロ原子の種類と数(ゼロを含む。)及びDBE値」に基づいて「クラス」に分け、当該各々の「クラス」に属するすべての分子について、その存在態様及び存在割合を推定する。
(ア)まず、以下のようにして、対象とする多成分混合物のFT-ICR-質量分析にて得られたピークについて、「ヘテロ原子の種類と数及びDBE値」の「クラス」ごとにまとめてピークで表す。
図6を参照して説明する。図6の上段には、「FT-ICR-質量分析にて得られたピークそのもの」を示す。FT-ICR-質量分析にて得られたピークにおいては、そのピークに帰属する分子の分子式、ヘテロ原子の種類と数及びDBE値が判明している。そこで、まず、図6の中段に示すように、すべてのピークに割り付けられたすべての分子のうち、分子式中にヘテロ原子が存在しない分子については、まず「ヘテロ原子ゼロの群」として束ね、次に、その「ヘテロ原子ゼロの群」に存在することになった全分子について、「DBE値」ごとに分けピーク化する。次に、下段に示すように、分子式中に窒素原子が1つ存在する分子については、「N原子=1の群」として束ね、次に、その「N原子=1の群」に存在することになった全分子について、「DBE値」ごとに分けピーク化する。このように、順次、すべての「ヘテロ原子の種類及び数の群」について、該当する分子を束ね、その群に存在する全分子について、「DBE値」ごとに分けピーク化する。
以上により、「クラス」という単位で括られた分子の集まりは、ピークとして表すことが可能となる。
この場合、実際の計算上の便宜から、いくつかの仮定を設けて行うのが好ましい。以下に、「DBE値=22」を例にとって説明する。
DBE値が22の場合、挙げられるコアとしては、DBE値が22のシングルコア、DBE値の和が22となる複数のコアからなるマルチコアである。
ここで、次のように仮定(1)を設定する。
仮定(1):「すべてのマルチコアは2つのコアから構成されるものとする。即ち、ダブルコアのみとする。」
よって、DBE=22の場合、シングルコアは、 DBE=22のコア1個から成るものとなり、ダブルコアは、上記仮定(1)に基づき、想定される2つのコア(ここでは「コアAとコアB」とする)の組合せは以下の表2ようになる。
即ち、「DBE値=22」のピークは、以下の表3のようなコアから構成されていることになる。
この推定にあたっては、i.ダブルコア(マルチコア)の場合と、ii.シングルコアの場合とに分けて、以下の仮定(2)及び仮定(3)を設定して決定する。
仮定(2):DBE値の和が22となる2つのコアの組合せからなるダブルコアのうち、例えば、「DBE値12のコアとDBE値10のコアからなるダブルコアの存在割合は、CID後のDBE値12のコアの存在割合とDBE値10のコアの存在割合の積である」と仮定し、この値を推定値とする。図7に、仮定(2)に基づくダブルコアの存在割合を模式的に示す。
ここで、CID後におけるDBE値12のコアの存在割合というのは、全DBE値のピークの高さの総和に対するDBE値12のピークの高さの比率のことである。
即ち、DBE値12のピークの存在割合は、(CID後のDBE値12を有する分子についてのピークの高さの総和)/(CID後の全ピークの高さの総和)となる。
DBE値10のものの存在割合も同様である。
DBE値の和が22となる2つのコアの他の組合せからなるダブルコア、例えば、DBE値14のコアとDBE値8のコアについても、同様にして、そのダブルコアの存在割合を推定することができる。
仮定(3): DBE値が22となるシングルコアの存在割合は、「CID後のDBE値22のピ-クの存在割合をDBE値22で除した値」と仮定する。そして、この除した値を推定値とする。図8に、仮定(3)に基づくシングルコアの存在割合を模式的に示す。
以上のようにして、DBE値が22となるシングルコア及び種々のダブルコアの存在割合を推定することができる。
さらに、N=1の場合、N=2の場合、・・・と存在するすべての「ヘテロ原子の種類と数」の群ごとに、以上の作業を行う。このような場合、マルチコアにおいては、ヘテロ原子がどこに存在するかにより、とりうる可能性のあるコアの種類数は膨大となる。そこで、例えば、「ヘテロ原子は側鎖及び架橋部には存在せず、コアのみに存在する。」という仮定を設けてもよい。またヘテロ原子が多数存在する、例えば、「窒素原子1個と硫黄原子1個が存在する群(N1S1群)」の場合は、「架橋により結合している2個のコアのうち、片方に窒素原子が1個存在し、もう片方に硫黄原子が1個存在する。」というような仮定を設けてもよい。
以上のようにして、各分子がどのようなシングルコア又はマルチコアからなるものであるかを推定することができる。
このようにして、ヘテロ原子の種類と数及びDBE値が同じ分子からなる「クラス」ごとに括り直したものであっても、そのクラスに属している種々のマルチコアの存在割合を推定することができる。
以上のように仮定して、DBE値が22となるシングルコア及び種々のマルチコアの存在割合を推定することができる。
ステップ5では、ステップ4において存在態様が推定された各分子に対し、それらを構成するコアの構造を決定し、さらに側鎖及び架橋を決定して割り付ける。
(ア)まず、ステップ4において存在態様が推定された各分子について、それらを構成するコアの構造を決定して割り付ける。具体的には、以下のとおりである。
以下の手順i~vにより、すべてのコアについて、同じ「ヘテロ原子の種類と数及びDBE値」ごとにそれぞれの「クラス」にまとめる。
i.ステップ4において存在態様がダブルコアと推定された場合は、これを一旦解除し、構成しているコアごとに分けて捉えることにする。即ち、もともとのシングルコアは言うまでもなく、ダブルコアを解除して生成したコアのすべてを含めて、すべてのコアをそれぞれ独立したものとして捉える。
例えば、前出の例で言えば、図9に示すように、DBE値=22の場合、DBE値が6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、22のコアに分けられることになる。(前出の例では、CID後のFT-ICR-質量分析の結果を見ると、DBE値が1~5のコアは存在していなかったため、DBE値=1~5のコアは考慮する必要はなく、除外できる。)
他のDBE値のものについても、ダブルコアを解除し、構成しているコアごとに分ける。
図10に示すように、例えば、DBE値=20の場合、22の場合と同様に、DBE値が6、7、8、9、10、11、12、13、14、20のコアに分けられることになる。
このとき、図11に示すように、「DBE値=10」として集められた各々は、その由来により各々の存在量は異なっている。由来する親(即ち、親がDBE値=22のものに由来するDBE値=10のものか、親がDBE値=20のものに由来するDBE値=10のものかということ)の存在量に比例している。
そして、これらの多くのコアを、図12に示すように、由来する親の質量に基づいて、親の質量が小のものから大のものへ順に並べる。
以上により、すべてのコアについて、同じ「ヘテロ原子の種類と数及びDBE値」のものごとにそれぞれの「クラス」にまとめ、クラスに属している各コアが由来する親の質量の順に従って並べたものが作成できた。
上記により作成された「ヘテロ原子の種類と数及びDBE値」のすべての「クラス」に関し、その組に存在しているすべてのコアに構造を割り付けていく。
以下、「ヘテロ原子なし。DBE値=10」のクラスで説明する。
i. 「ヘテロ原子なし。DBE値=10」の「クラス」に存在するすべてのコアの各々に構造を割り付けるのであるが、「割り付けられる構造」の出所は、ステップ3で特定されたコア構造である。
即ち、ステップ3において、CID後のすべてのピークに対し、帰属させたコアの構造、分子量、ヘテロ原子の種類と数及びDBE値が特定されているため、ある「ヘテロ原子の種類と数及びDBE値」の「クラス」には、CID後のすべてのピークのうち「ヘテロ原子の種類と数及びDBE値」が一致するピークのコアが割り付けられる。したがって、これらの値が一致することのみが条件であるため、該当するピークは複数存在する場合がある。その場合には、分子量の異なる複数の構造が一つの「クラス」に割り付けられることになる。
前記「準備」において、由来する親の質量に基づいて、質量小から大に順に並べたものを用意したが、この並べたものにおいて、図13に示すように、コアXとコアYの比、30:70のところで線引きし、質量小の側にはコアXを割り付け、質量大の側にはコアYを割り付ける。
以上により、「ヘテロ原子なし。DBE値=10」の組に存在しているすべてのコアに対し、その構造が割り付けられる。
上記により、構造及び存在割合が割り付けられたすべてのコアについて、ステップ4で存在態様が推定された本来の解除される前のダブルコアに戻す。
このとき、例えば、DBE値=12のコア1とDBE値=10のコア2からなるダブルコアの場合、上記(ア-2)にて、DBE値=12のコア1にはある構造αが特定され、またDBE値=10のコア2にはある構造βが特定されているため、このダブルコアのコア部分の構造は特定される。また、構造αのコア及び構造βのコアの存在割合もステップ3においてそれぞれ特定されているため、前記ステップ4の仮定(2)より、DBE値=22のダブルコアの存在割合は、構造αのコアと構造βのコアの存在割合の積で表され、特定される。
続いて、以下のi及びiiの手順にて、側鎖及び架橋を決定してコアに割り付ける。
ここで、「コアに割り付ける」とは、どのコアのどの位置に側鎖や架橋が結構しているかを決定することまでを包含する意味ではない。
i.上記において、シングルコア又はダブルコアのコアの部分の構造及びその存在割合は特定することができたが、コアに結合している側鎖やコアどうしを結合させている架橋については、まだ、決定できていない。
ところで、コアの部分のみを想定したのみでは、その分子量は、FT-ICR-質量分析にて得られたピークにおけるm/zの値に合致しない。即ち、コアの形成に関与している炭素、水素及びヘテロ原子に基づく質量を合計しても、FT-ICR-質量分析にて得られたピークにおけるm/zの値と差が生じる。
そこで、その差分は、コアに結合している側鎖とコアどうしを結合させている架橋の存在に由来するものと考え、差分が解消するように炭素及び水素の数を割出し、それを側鎖及び架橋としてコアに割り付ける。
例えば、あるm/z=nのピークに対して、上記の手順により、「コア1-コア2」からなるコア部分の構造が割り付けられたとする。このとき、
その差分(d)=n-(コア1の質量+コア2の質量)
が、側鎖及び架橋の存在に由来するものとなる。
そこで、どういう構造の側鎖及び架橋が相当するのかを推定するにあたっては、想定される側鎖及び架橋の組合せの存在確率を考慮して、例えば、以下のようなルールを決めておき、それに従って推定すればよい。
ルール1:質量の差分(d)がある値Xまでについては、側鎖はなく、架橋のみに由来するものとする。
ルール2:質量の差分(d)がある値Xを超える分については、ルール1にて架橋を割り付けた後に側鎖に割り付ける。側鎖1本当たりとりうる最大の炭素数についてもルールを定めておき、それに従って割り付ける。
I.タイプ別分画
試料として、常圧残油を減圧蒸留することにより得られた減圧残油(VR)を用いた。減圧残油(VR)は、重質油に相当するものである。減圧残油(VR)に対し、前処理方法(第1~2工程)を行うことによって得られた飽和分(Sa)、1環芳香族分(1A)、2環芳香族分(2A)、3環以上の芳香族分(3A+)、極性レジン分(Po)及び多環芳香族レジン(PA)の各フラクション、並びに、第1工程でマルテン分と分離したアスファルテン分(As)の各フラクションについて、それぞれの得率を求めた。
<第1工程:マルテン分の分離>
容量500ミリリットルの三角フラスコに試料を7gはかりとり、n-ヘプタンを220ミリリットル加え、空気冷却管をつけてn-ヘプタン不溶解分試験器で混合物を1時間還流煮沸した。
還流煮沸後、放置冷却し、ろ紙を用いてアスファルテン分を分離し、マルテン分を含むフラクションを得た。
第1工程で得たマルテン分を以下の条件にて、カラムクロマトグラフィーで分離した。
(1)カラムクロマトグラフィーのカラム条件
カラム:15mm×600mm(ゲル充填部分、ガラス製)
ゲル:シリカゲル40g+アルミナゲル50g(活性化後)
シリカゲル:Fuji Silysia製、Chromato Gel Grade 923AR
アルミナゲル:MP BiomebicaLs製、MP Alumina,Activated,Neutral,Super I
活性化条件:シリカゲル250℃×20h、アルミナゲル400℃×20h、0.2kg/cm2(N2ガス)加圧
試料量:1.5g(マルテン)
以下の溶媒を順次カラムに投入し、溶出溶液を分取した。
(i)n-ヘプタン200ミリリットルを投入し、溶出した試料溶液250ミリリットルまでを飽和分(Fr.Sa)としてカットする。
(ii)n-ヘプタン95%、トルエン5%混合溶媒250ミリリットルを投入し、溶出した試料溶液200ミリリットルまでを1環芳香族分(Fr.1A)としてカットする。
(iii)n-ヘプタン90%、トルエン10%混合溶媒250ミリリットルを投入し、 溶出した試料溶液200ミリリットルまでをカットし、2環芳香族分(Fr.2A)とする。
(iv)トルエン250ミリリットルを投入し、 溶出した試料溶液300ミリリットルをカットし、3環以上芳香族分(Fr.3A+)とする。
(v)エタノール250ミリリットルを投入し、溶出した試料溶液230ミリリットルをカットし、極性レジン(Fr.Po)とする。
(vi)クロロホルム100ミリリットルを投入する。続いて
(vii)エタノール100ミリリットルを投入し、再度(vi)、(vii)を繰り返す。
(vi)、(vii)はすべて1つのフラクションとして分取し、多環芳香族レジン(Fr.PA)とする。
飽和分(Sa)10%、1環芳香族分(1A)11%、2環芳香族分(2A)8%、3環以上の芳香族分(3A+)35%、極性レジン分(Po)9%、多環芳香族レジン分(PA)16%、及びアスファルテン分(As)11%。
(1)ステップ1
試料に対しFT-ICR-質量分析計による質量分析を行い、それにより得られたすべてのピークについて、各ピークに帰属する分子の分子式を特定し、さらにそのピークに該当するすべての分子の存在割合を特定した。
(ア)12T(テスラ)の超伝導マグネットを備えたフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴方式のsolaliX FT-ICR-質量分析計 (Bruker Daltoniks社製)を使用した。
測定条件は以下のとおりである。
・用いた試料: 上記タイプ別分画で得られた多環芳香族レジン(PA)である。
・サンプル調製法: 試料数十ミリグラムをクロロホルムに溶解させ、MALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化)プレートへ1μリットル程度を滴下し、溶媒蒸発後に測定試料とする。
・イオン化法: レーザー脱離イオン化法(LDI法)(ショット数:2000、発振周波数:1000Hz、パワー:23%)にて行った。
測定の結果、図14に示す質量スペクトルが得られた。
ピークの数は3030本である。以下にその一部のみ(ピーク番号11~3022は割愛)を示す。表では、m/z値の小さいピークから順に、ピーク番号を付けている。
試料に対し衝突誘起解離(CID)を行うことにより、当該試料を構成する各成分について、架橋及び側鎖を切断した。
詳細は、以下のとおりである。
上記ステップ1と同じ方法で、サンプルを調製し、イオン化を行った。
衝突誘起条件として、衝突エネルギーは、30eVとした。
得られたCID後の質量スペクトルを図15に示す。
ステップ2のCIDにより生成した各フラグメントイオンについて、FT-ICR-質量分析を行い、各フラグメントイオンを構成するコアの構造及び存在割合を特定した。
上記CID後の質量スペクトルの各ピークに対し、予め作成したコア構造リストに収納されているコアの分子量、分子式、DBE値を照合することにより、各々のコア構造及び存在割合を特定した。
用いたコア構造リストの一部分を以下に示す。
ステップ1においてすべてのピークに帰属させた分子について、各々特定された分子式における「ヘテロ原子の種類と数及びDBE値」に基づいて「クラス」分けし、当該各々の「クラス」に属するすべての分子について、その存在態様及び存在割合を推定した。
ステップ4は、コンピュータによって処理される過程であるため、途中で結果を取り出すことはできない。
ステップ4において存在態様が推定された各分子に対し、それらを構成するコアの構造を決定し、さらに側鎖及び架橋を決定して割り付けた。
ステップ5は、コンピュータによって処理される過程であるため、途中で結果を取り出すことはできない。
<試料の質量スペクトルに対する分子構造の特定>
上記ステップ1で得られたピークの数は3030本であるが、1本のピーク、即ち、ある分子式を示すピークに対しては、同じ分子式を有する複数の分子が帰属することになる。本実施例では、上記3030種の分子式に対し、構造の異なる38,964個のJACDによって表示された分子を特定した。
結果の一部(ピーク番号4~3028は割愛)を以下の表6に示す。表の見方は次のとおりである。
(ア)ステップ1で示した表4におけるピーク番号に呼応するように、ピーク番号を付けている。
ピーク番号1は、分子式として「C21H19N」であり、この分子式には、4種類のJACDによって表示された構造の異なる分子が帰属させられたことを示している。
(イ)分子式「C21H19N」の4種類の分子のうち、例えば、「分子種番号1」について説明すると、この分子の構造は、英数字を用いたJACDにより表示されている。
i.コア1は「002007」であるため、以下の構造である。
v. このようにして、分子式「C21H19N」の「分子種番号1」の分子について、JACDにより構造を表示し、特定することができた。
(カ)同様にして、すべての分子について、JACDにより構造を表示し、特定することができた。
(1) 飽和分(Sa)、1環芳香族分(1A)、2環芳香族分(2A)、3環以上の芳香族分(3A+)、極性レジン分(Po)及びアスファルテン分(As)についても、以下を変えた以外は、上記、多環芳香族レジン分で行ったのと同様の方法で分子構造を特定した。
(ア)飽和分、1環芳香族分、2環芳香族分、3環以上芳香族分、極性レジン分のイオン化法については、大気圧光イオン化法(APPI法)(サンプル流速200μL/h、イオン集積時間 0.2sec.、 積算回数 100回)にて行った。
(イ)アスファルテン分のイオン化法については、レーザー脱離イオン化法(LDI法)(ショット数:5000、発振周波数:1000Hz、パワー:17%)にて行った。
モデル重質油の性状推定にあたり、先ず、上記により特定した各成分のJACDに基づいて、Comcatから、モデル重質油を構成する各成分の分率、融点及びHSP値(δt)を取得する。
以下に、HSP値(δt)及び融点を原子団寄与法により算出する一例を説明する。
(1)「O-01」分子の場合
Krevelen & Hoftyzerの文献において、分子を形成している基について示されているFd値、Fp値、Eh値及びVc値の数値を用いて、Krevelen & Hoftyzerの方法により算出できる。
さらには、これらの諸方法で得た値を参考にして、適宜修正を加えて得た値を用いることもできる。
D.W.van Krevelen,K.te Nijenhuis著「Properties of Polymers(4ed.2009)」の文献によれば、多くの基について、Fd値, Fp値, Eh値, Vc値が示されているため、当該文献にて値が記載されている基については、その値を用いればよい。(D.W.van Krevelen , K.te Nijenhuis著「Properties of Polymers(4ed.2009)」195~197ページ及び215ページ)。値が記載されていない基については、構造的に近似する他の基の情報を用いて推定した値を用いるなどを行えばよい。
上記のようにして、Krevelen & Hoftyzer法によりHSP値(δt)を算出することができる。
融点の推算は、原子団寄与法の一つであり、「Joback, K. G., Reid, R. C., Chem. Eng. Comm., 57, 233 (1987).」に記載されているJoback法を用いればよい。即ち、分子種について、その分子構造を形成している「基」に分解し、各々の基が持つ固有のパラメータ値からその分子種の融点を算出する。「平均分子構造」を用いる場合も、当該構造を基に原子団寄与法を用いて、当該「ある特定の物理的又は化学的性状を基準として分画された分画物(フラクション)」の融点を算出する。
次に、多成分混合物を構成する各成分のうちの所望の温度未満の融点を有する成分を液相成分として分類し、前記所望の温度以上の融点を有する成分を非液相成分として分類する。
例えば、当該モデル重質油の場合、その液温が250℃である場合、この温度よりも低い融点を有する「O-01」~「O-03」、「O-09」及び「O-10」分子が液相成分として分類され、一方、この温度よりも高い融点を有する「O-04」~「O-08」及び「O-11」分子が非液相成分として分類される。
次に、液相成分として分類された各成分のHSP値について、各成分の当該液相における容量分率で重み付けした加重平均値を、液相全体の平均HSP値として算出する。
次に、液相全体の前記平均HSP値と、非液相成分における各成分のHSP値との差を算出する。
次に、非液相成分における各成分を、差(Δδ)に基づいて、液相成分又は非液相成分として再分類し、液相成分として再分類された各成分を非液相成分から液相成分に編入して、液相成分及び非液相成分を更新する。
例えば、当該モデル重質油の場合、RED=Δδ/R0で表されるREDが、RED<0.3のとき、液相成分と判断した。ここで、R0は、非液相成分における各成分ごとの定数であり、当該モデル重質油ではR0=5としてREDを算出した。
なお、この再分類における更新は、非液相成分における各成分について、1つずつ順番に行ってもよし、複数の成分ごとに行ってもよい。
次に、更新後の液相成分における各成分のHSP値について、各成分の当該更新後の液相における容量分率で重み付けした加重平均値を、更新後の液相全体の平均HSP値として算出する。
そして、ステップ9~11を、ステップ10において液相成分として再分類される非液相成分がなくなる最終段階まで繰り返す。
このようにして、最終段階での更新後の液相成分をモデル重質油のその温度における液相の成分とし、また、最終段階での更新後の平均HSP値をモデル重質油のその温度での液相全体の平均HSP値として決定する。また、最終段階での更新後の液相成分における分類された各成分の分率の合計を液相分率として算出する。
続いて、所望の温度における最終段階での更新後の非液相成分の凝集度Dを算出する。
次に、最終段階での更新後の非液相成分における各成分を、凝集度Dに基づいて、凝集相成分と固相成分とに分類する。
表9に、各温度において、各分子がいかなる相に存在するかを示す。これはまた、各相の分子組成を示しているものである。
次に、本発明の多成分混合物の処理方法の実施形態を説明する。
処理にあっては、上記のように、原多成分混合物としてモデル重質油の性状を推定し、さらに、モデル重質油に、溶媒を混合したり、温度を変更したりしたときに新モデル重質油の性状を、上記の方法により予測する。そして、予測と同じ条件で、溶媒をその分率でモデル重質油に混合したり、モデル重質油の温度の予測時の温度に変更することによって、溶液の処理を行う。
まず、処理例として、溶液における凝集相及び固相の溶解、又は成分の凝集若しくは析出抑制のための処理を説明する。溶液中における液相、凝集相及び固相の各々の量及び組成並びに凝集相における各成分の凝集度及び凝集相の平均凝集度が判ったならば、凝集相及び固相の全部又は一部を溶解し、又は成分の凝集若しくは析出を抑制するためには、いかなる措置をとればよいのかという指針を得ることが可能となる。
とりうる措置は様々であるが、具体的には、例えば、現状と同じ溶媒を添加する、或いは、新たに別種の溶媒(溶剤)を添加する、溶液の温度を上げる等が考えられる。特に、溶媒(溶剤)の添加については、現状の溶液、追加する溶媒(溶剤)、凝集相及び固相の各々のHSP値に基づいて溶媒(溶剤)追加後の性状を予測することにより、いかなるHSP値を有する溶媒(溶剤)を、いかなる量を添加すればよいのかを決めることができる。
次に、処理例として、溶液における析出促進のための処理を説明する。
溶液中における液相、凝集相及び固相の各々の量及び組成並びに凝集相における各成分の凝集度及び凝集相の平均凝集度が判ったならば、推定された溶液中における液相、凝集相及び固相の各々の量及び組成並びに凝集相における各成分の凝集度及び凝集相の平均凝集度に基づいて、一種以上の成分を析出させるためには、いかなる措置をとればよいのかという指針を得ることが可能となる。
次に、図20を参照して、本発明の多成分混合物の性状推定装置の実施形態を説明する。図20は、実施形態の多成分混合物の性状推定装置の機能ブロック図である。コンピュータに本発明のプログラムを実行させることにより、コンピュータが多成分混合物の性状推定装置として機能する。
なお、図20では、情報の入力及び出力を行うインタフェースの図示を省略している。
成分情報取得部10は、対象とする多成分混合物を構成する各成分について、その分率、融点、及びHSP値を取得する。これらの成分の情報は、多成分混合物についての情報がデータベースとして格納された記憶部2から取得するとよい。
即ち、「ある特定の物理的又は化学的性状を基準として分画された分画物(フラクション)」の各々について、NMR、元素分析、質量スペクトル等を測定することにより、公知の方法を用いて、その分画物(フラクション)の「平均分子構造」を得ることができる。こうして得られた「平均分子構造」を用いれば、この方法を適用することができる。
初期分類部20は、多成分混合物を構成する各成分のうちの所望の温度未満の融点を有する成分を液相成分として分類し、所望の温度以上の融点を有する成分を非液相成分として分類する。すなわち、溶媒の融点以上のある任意の温度以上において、その温度における「液相」の量及び組成を求める。融点がその温度より低い成分は、液相に存在する成分となる。このときの「液相」の量及び成分が求まる。
液相演算部30は、液相の性状を推定するために、平均HSP算出部31と、Δδ(HSP値差)算出部32と、再分類部33と、液相成分情報算出部34とを備えている。
再分類部33は、溶解する成分があればそれを液相に加えて液相全体のHSP値を再計算する。
非液相演算部40は、非液相の性状を推定するために、凝集度算出部41、凝集相、固相分類部42、凝集相情報算出部43、及び固相情報算出部44を有する。非液相演算部40は、非液相の性状として、例えば、凝集相の量、成分、凝集している成分それぞれの凝集度及び凝集相の平均凝集度並びに固相の量及び組成を決定する。
前記所望の温度Tが、T≦150℃のときに、
p=(L0(T-25)+L1)REDg、
前記所望の温度Tが、150℃<T≦200℃のときに、
p=(L0(150-25)+L1)REDg、
前記所望の温度Tが、200℃<Tのときに、
p=(L0(T-25)+L2)REDg
で表される。
L0 =-0.0031262、
L1 = 1.07815、
L2 = 1.15631
K0=-1.26929、
K1= 9.42231、
K2= 0.363439、
K3=-11.1925、
K4= 0.093622、
K5=-0.15436、
K6= 5.337433、
K7=-0.20868、
K8= 0.077223、
K9= 0.019492
である。
なお、上記において数値で示したL0、L1、L2、MAS及びK0~K9等の値は、対象により種々の数値を採り得るものであり、上記の数値に限定されるものではない。
本発明において、JACDを用いた分子構造の推定、推定された分子構造情報と物性値との紐付け、及び凝集モデルを用いた多成分混合物の性状の推定の一連の処理は、ハードウェア又はソフトウェア、又はこれらを複合した構成によって実行することができる。ソフトウェアによる処理を実行する場合には、処理シーケンスを記録したプログラムを、専用のハードウェアに組み込まれたコンピュータ内のメモリにインストールして実行させるか、各種処理が実行可能な汎用コンピュータにプログラムをインストールして実行させることができる。
Claims (28)
- コンピュータによる多成分混合物の性状の推定方法であって、
(1)前記多成分混合物に対し質量分析を行い、得られたピークの各々について、そのピークに帰属する分子の分子式を特定し、さらにその分子の存在割合を特定するステップと、
(5)前記ステップ(1)において分子式が特定された各分子に対し、それらを構成するコアの構造を決定し、さらに側鎖及び架橋を決定して割り付けるステップと、
(6)前記ステップ(1)および(5)により特定された前記多成分混合物の各成分の分子構造から、各成分の融点及びハンセン溶解度指数値を取得するステップと、
(7)前記多成分混合物を構成する各成分のうち、所望の温度未満の融点を有する成分を液相成分として分類し、前記所望の温度以上の融点を有する成分を非液相成分として分類するステップと、
(8)前記液相成分として分類された各成分のハンセン溶解度指数値を各成分の液相における容量分率で重み付けした加重平均値として、液相全体の平均ハンセン溶解度指数値を算出するステップと、
(9)液相全体の前記平均ハンセン溶解度指数値と、非液相成分における各成分のハンセン溶解度指数値との差を算出するステップと、
(10)非液相成分における各成分を、前記差に基づいて、液相成分又は非液相成分として再分類し、液相成分として再分類された各成分を非液相成分から液相成分に編入して、液相成分及び非液相成分を更新するステップと、
(11)更新後の液相成分における各成分のハンセン溶解度指数値を各成分の液相における容量分率で重み付けした加重平均値として、更新後の液相全体の平均ハンセン溶解度指数値を算出するステップと、
(12)前記ステップ(9)~(11)を、前記ステップ(10)において液相成分として再分類される非液相成分がなくなる最終段階まで繰り返すステップとを含む、
ことを特徴とする、多成分混合物の性状の推定方法。 - 前記ステップ(1)の後に、前記多成分混合物に対し衝突誘起解離を行うステップ(2)を更に含む、請求項1に記載の方法。
- 前記ステップ(2)の後に、前記ステップ(2)の衝突誘起解離により生成した各フラグメントイオンについて、質量分析を行い、前記各フラグメントイオンを構成するコアの構造及び存在割合を特定するステップ(3)を更に含む、請求項2に記載の方法。
- 前記ステップ(3)の後に、前記ステップ(1)におけるピークの各々に帰属する分子を、「ヘテロ原子の種類と数及びDBE値」に基づいて「クラス」に分け、前記各々の「クラス」に属するすべての分子について、その存在態様及び存在割合を推定するステップ(4)を更に含む、請求項3に記載の方法。
- 前記ステップ(3)において各コアの構造を特定するにあたり、前記ステップ(2)で得られた衝突誘起解離後のコアに関する情報と、予め用意したコア構造リストに記載されているコアに関する情報とを照合し、各コアの構造を特定することを特徴とする請求項3又は4に記載の方法。
- 前記コア構造リストは、前記多成分混合物を構成する各成分を構成すると想定しうる各種のコアをリスト化したものであることを特徴とする請求項5に記載の方法。
- 前記多成分混合物を構成する各成分の分子構造は、コア、側鎖及び架橋を含むアトリビュートの種類、及びアトリビュートの数により表されることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
- 前記ステップ(4)における「その存在態様」は、そのクラスに属する分子がマルチコアである場合は、当該マルチコアを構成している複数のコア中に存在する同じ種類のヘテロ原子ごとの数の和及びこれら複数のコアのDBE値の和が、当該クラスのヘテロ原子の種類と数及びDBE値と一致するように、コアを組み合わせてなるものであることを特徴とする請求項4に記載の方法。
- 前記ステップ(4)における「その存在割合」は、そのクラスに属する分子がマルチコアである場合、当該マルチコアを構成している複数のコアそれぞれの存在割合の積をそのマルチコアの存在割合とするものであることを特徴とする請求項4に記載の方法。
- 前記多成分混合物が、ある多成分混合物を2以上の任意の部分に分画することにより得られた一つの分画物であることを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
- コンピュータを用いて、多成分混合物の組成モデルを決定する方法であって、
多成分混合物を2以上の任意の部分に分画するステップAと、
前記ステップAで分画された各分画物について、請求項1~10のいずれかに記載の方法により、各分画物を構成する各成分の分子構造及び存在割合を特定するステップBと
前記ステップAで分画された各分画物の混合比に従って、すべての分画物について得られた全成分の分子構造及び存在割合を統合するステップCと
を含むことを特徴とする方法。 - 請求項1~10のいずれかに記載の方法により特定された、多成分混合物を構成する各成分の分子構造及びその存在割合に基づいて、多成分混合物の物性値を推定する方法。
- 前記ステップ(12)の後に、液相成分における各成分の分率の合計を液相分率として算出するステップを更に含むことを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
- 前記ステップ(12)の実施後の非液相成分における前記所望の温度での各成分の凝集度を、前記ステップ(12)の実施後の液相全体の前記平均ハンセン溶解度指数値と前記ステップ(12)の実施後の非液相成分における各成分のハンセン溶解度指数値との差及び前記ステップ(12)の実施後の非液相成分における各成分の濃度に基づいて算出するステップを更に有することを特徴とする、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
- 前記非液相成分における各成分の凝集度(D)を下記の式(A)により算出することを特徴とする、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
D(p,q) = MAS (K0 +K1 p +K2 q +K3 p2 +K4 pq +K5 q2+K6p3 +K7p2q +K8pq2 +K9 q3) ・・・(A)
(式中、
pは、前記所望の温度(T)が、T≦150℃のときに、p = (L0(T - 25) + L1)REDg、前記所望の温度(T)が、150℃<T≦200℃のときに、p = (L0(150 - 25) + L1)REDg、前記所望の温度(T)が、200℃<Tのときに、p = (L0(T - 25) + L2)REDgで表され、
L0、L1及びL2は、係数であり、
REDgは、RED≧0.3のときに、REDg=RED、RED<0.3のときに、REDg=0.3と表され、
REDは、RED=Δδ/R0で表され、
Δδは、液相全体の前記平均ハンセン溶解度指数値と前記非液相成分における各成分のハンセン溶解度指数値との差であり、
R0は、非液相成分における各成分の定数であり、
qは、q=logCで表され、
Cは、非液相成分における各成分の濃度であり、
MAS、及びK0~K9は、係数である。) - 前記ステップ(12)の実施後の非液相成分における各成分のうち、前記凝集度が所定の閾値未満の成分を凝集相成分として分類し、前記凝集度が前記所定の閾値以上の成分を固相成分として分類するステップを更に有することを特徴とする、請求項14または15に記載の方法。
- 前記凝集相成分として分類された各成分の分率の合計を凝集相分率として算出するステップと、
前記固相成分として分類された各成分の分率の合計を固相分率として算出するステップとを更に有することを特徴とする、請求項16に記載の方法。 - 前記凝集相成分として分類された各成分の凝集度の和を当該成分の数で除した値として、凝集相全体の平均凝集度を算出するステップを更に有することを特徴とする、請求項16又は17に記載の方法。
- 前記多成分混合物が石油であることを特徴とする請求項1~18のいずれかに記載の方法。
- 前記多成分混合物には、所望の種類の溶媒が所望の分率で混合されていることを特徴とする、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
- 前記多成分混合物は、重質油、又は重質油と溶媒との混合物であることを特徴とする、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
- 請求項1~21のいずれか一項に記載の方法により、原多成分混合物の性状を推定し、さらに当該性状の推定結果に基づいて、
前記原多成分混合物に所望の種類の溶媒を所望の分率で混合した場合、
前記原多成分混合物の温度を所望の温度に変更した場合、又は
前記原多成分混合物に所望の種類の溶媒を所望の分率で混合しかつ前記原多成分混合物の温度を所望の温度に変更した場合
における新多成分混合物の性状を予測し、
その予測を基に、前記所望の種類の溶媒を前記所望の分率で前記原多成分混合物に混合する、若しくは前記原多成分混合物の温度を前記所望の温度に変更する、又は、前記所望の種類の溶媒を前記所望の分率で前記原多成分混合物に混合しかつ前記原多成分混合物の温度を前記所望の温度に変更する、
ことを特徴とする、多成分混合物の処理方法。 - 前記所望の種類の溶媒及び前記所望の分率、及び/又は前記所望の温度は、予測された前記新多成分混合物の性状が、推定された前記原多成分混合物における凝集相成分及び固相成分の全部又は一部が溶解し、又は、凝集相成分及び固相成分の凝集又は析出が抑制された性状となる溶媒及び分率、及び/又は温度であることを特徴とする、請求項22に記載の多成分混合物の処理方法。
- 前記所望の種類の溶媒及び前記所望の分率、及び/又は前記所望の温度は、予測された前記新多成分混合物の性状が、推定された前記原多成分混合物における非固相成分のうちの一種類以上の成分が析出した性状となる溶媒及び分率、及び/又は温度であることを特徴とする、請求項22又は23に記載の多成分混合物の処理方法。
- 多成分混合物の性状推定装置であって、
前記多成分混合物を構成する各成分の分率、融点及びハンセン溶解度指数値を取得する成分情報取得部と、
前記多成分混合物を構成する各成分のうちの所望の温度未満の融点を有する成分を液相成分として分類し、前記所望の温度以上の融点を有する成分を非液相成分として分類する初期分類部と、
液相の性状を推定する液相演算部と
を備え、
前記成分情報取得部は、
前記多成分混合物の質量分析により得られた前記多成分混合物の各成分の構造及びその分率を含む組成情報と、前記組成情報に紐付けられた各成分の融点及びハンセン溶解度指数値を含む物性情報とを取得し、
前記液相演算部は、
前記液相成分として分類された各成分のハンセン溶解度指数値を各成分の液相における容量分率で重み付けした加重平均値として、液相全体の平均ハンセン溶解度指数値を算出し、
液相全体の前記平均ハンセン溶解度指数値と、前記非液相成分における各成分のハンセン溶解度指数値との差を算出し、
非液相成分における各成分を、前記差に基づいて、液相成分又は非液相成分として再分類し、液相成分として再分類された各成分を非液相成分から液相成分に編入して、液相成分及び非液相成分を更新し、
更新後の液相成分における各成分のハンセン溶解度指数値を各成分の液相における容量分率で重み付けした加重平均値として、更新後の液相全体の平均ハンセン溶解度指数値を算出し、
液相成分として再分類される非液相成分がなくなる最終段階まで、平均ハンセン溶解度指数値、液相成分、及び非液相成分の更新を繰り返す、
ことを特徴とする多成分混合物の性状推定装置。 - 非液相の性状を推定する非液相演算部を更に備え、
前記非液相演算部は、前記所望の温度における前記最終段階での更新後の非液相成分における各成分の凝集度を、液相全体の前記平均ハンセン溶解度指数値と前記非液相成分における各成分のハンセン溶解度指数値との差と、前記最終段階での更新後の非液相成分における各成分の濃度とに基づいて算出することを特徴とする請求項25記載の多成分混合物の性状推定装置。 - 請求項25または26に記載の装置の運転方法であって、
請求項12に記載の方法により推定された多成分混合物の物性値に基づいて、運転条件を設定することを特徴とする多成分混合物に関する装置の運転方法。 - 請求項1~21のいずれか一項に記載の方法を前記コンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
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