JP6570923B2 - リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池 - Google Patents

リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池 Download PDF

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Description

本発明は、リチウムイオン二次電池用正極活物質、これを用いたリチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池に関する。
近年、地球温暖化に対処するために、二酸化炭素の排出量を低減することが切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、燃料電池自動車(FCV)等の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵となる電動車両の電源装置に適用される二次電池の開発が盛んに行われている。このような二次電池としては、高い理論エネルギーを有するリチウムイオン二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。一般的に、リチウムイオン二次電池は、正極活物質を含む正極用スラリーを正極集電体の表面に塗布して形成した正極と、負極活物質を含む負極用スラリーを負極集電体の表面に塗布して形成した負極と、これらの間に位置する電解質とが、電池ケースに収納された構成を有する。電動車両の電源装置に適用されるリチウムイオン二次電池は、高出力、かつ、高容量であることが求められており、これらの向上のためには、正極活物質などの選定が極めて重要である。
電動車両用のリチウムイオン二次電池の正極に使用する正極活物質としては、リチウム及びマンガン等の遷移金属を含む固溶体正極活物質が知られている。特にマンガンは、資源として比較的豊富に存在することから、原料が安価で、かつ、入手し易く、環境に対する負荷も少ないため、正極活物質に好適に使用されている。このような固溶体正極活物質は、リチウムイオン二次電池の充放電を繰り返すうちに、遷移金属が電解質の液内に溶出するという問題があることが分かっている。遷移金属が溶出することにより、正極活物質の結晶構造が変化して、リチウムイオン二次電池の容量の低下が引き起こされるためである。
従来、遷移金属の溶出を防止するために用いる正極活物質として、組成式:xLiMO・(1−x)LiM’O(組成式中、MはV、Mn、Fe、Co又はNi、M’はMn、Ti、Zr、Ru、Re又はPtを示し、xは0<x<1の関係を満足する。)で表される正極活物質が知られている(特許文献1参照。)。
米国特許出願公開第2004/0081888号明細書
しかしながら、特許文献1に記載された正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池であっても、遷移金属の溶出を防止する効果が十分ではないという問題点があった。
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明は、高いエネルギー密度を有するとともに、高いサイクル耐久性を有するリチウムイオン二次電池を実現するために、高いエネルギー密度を維持しつつ、4.35Vのような高電圧下におけるサイクル耐久性の向上を実現し得るリチウムイオン二次電池用正極活物質、これを用いたリチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた。その結果、正極活物質を特定の組成式で表される構成とすることなどにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、下記の組成式(1)
Li 1−a−b−cCoMn・・・(1)
(組成式(1)中、Xは、Ti、Zr、Sn及びAlからなる群より選ばれた少なくとも1種、zは、原子価を満足する酸素数を示し、xが、1.02≦x1.1、1−a−b−cが、0.75≦1−a−b−c≦0.90、aが、0<a≦0.10、bが、0.05≦b≦0.20、cが、0.01≦c≦0.10、X/(Mn+X)が、0.1≦X/(Mn+X)≦0.8の関係を満足する。)で表されるものである。
また、本発明のリチウムイオン二次電池用正極は、上記本発明の正極活物質を含むものである。
さらに、本発明のリチウムイオン二次電池は、上記本発明のリチウムイオン二次電池用正極と、リチウムイオンを吸蔵及び放出できる負極活物質を含むリチウムイオン二次電池用負極と、該リチウムイオン二次電池用正極と該リチウムイオン二次電池用負極との間に配設された非水電解質層とを備えたものである。
本発明によれば、組成式(1)
Li 1−a−b−cCoMn・・・(1)
(組成式(1)中、Xは、Ti、Zr、Sn及びAlからなる群より選ばれた少なくとも1種、zは、原子価を満足する酸素数を示し、xが、1.02≦x1.1、1−a−b−cが、0.75≦1−a−b−c≦0.90、aが、0<a≦0.10、bが、0.05≦b≦0.20、cが、0.01≦c≦0.10、X/(Mn+X)が、0.1≦X/(Mn+X)≦0.8の関係を満足する。)で表される構成とした。そのため、高いエネルギー密度を維持しつつ、4.35Vのような高電圧下におけるサイクル耐久性の向上を実現し得るリチウムイオン二次電池用正極活物質、これを用いたリチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池を提供することができる。つまり、高いエネルギー密度を有するとともに、高いサイクル耐久性を有するリチウムイオン二次電池を提供することができる。
図1は、若干の試験例で得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質のX線回折パターンを示すチャートである。 図2(A)〜(D)は、図1に示したX線回折パターンに表れる各回折ピークを含む領域を拡大して示すチャートである。 図3は、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池であって、扁平型(積層型)のリチウムイオン二次電池の外観を示す斜視図である。 図4は、図3に示した扁平型(積層型)のリチウムイオン二次電池の一実施形態である、双極型でないリチウムイオン二次電池のIII−III線に沿った模式的な断面図である。 図5は、若干の試験例で得られたリチウムイオン二次電池における平均電圧を示すグラフである。
以下、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池について詳細に説明する。
まず、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質について詳細に説明する。本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、下記の組成式(1)
Li 1−a−b−cCoMn・・・(1)
(組成式(1)中、Xは、Ti、Zr、Sn及びAlからなる群より選ばれた少なくとも1種、zは、原子価を満足する酸素数を示し、xが、0.9≦x≦1.1、1−a−b−cが、0.75≦1−a−b−c≦0.90、aが、0<a≦0.10、bが、0.05≦b≦0.20、cが、0.01≦c≦0.10、X/(Mn+X)が、0.1≦X/(Mn+X)≦0.8の関係を満足する。)で表されるものである。
このような正極活物質においては、マンガンの溶出抑制の効果が大きくなる。したがって、このような正極活物質をリチウムイオン二次電池に用いた場合に、高いエネルギー密度を維持しつつ、高いサイクル耐久性を実現することができる。
ここで、組成式(1)において、xが0.9以上1.1以下である場合には、構造の安定化が図れ、リチウムイオン二次電池に適用した場合に、高いエネルギー密度を維持しつつ、高いサイクル耐久性を実現することができる。一方、xが0.9以上1.1以下でない場合には、構造の安定化が図れないか又は構造の安定化が図れても、リチウムイオン二次電池に適用した場合に、高いエネルギー密度を維持しつつ、高いサイクル耐久性を実現することができない。
そして、組成式(1)において、1−a−b−cが0.75以上0.90以下である場合には、構造の安定化が図れ、リチウムイオン二次電池に適用した場合に、高いエネルギー密度を維持しつつ、高いサイクル耐久性を実現することができる。一方、1−a−b−cが0.75以上0.90以下でない場合には、構造の安定化が図れないか又は構造の安定化が図れても、リチウムイオン二次電池に適用した場合に、高いエネルギー密度を維持しつつ、高いサイクル耐久性を実現することができない。
また、組成式(1)において、aが0より大きく0.10以下である場合には、構造の安定化が図れ、リチウムイオン二次電池に適用した場合に、高いエネルギー密度を維持しつつ、高いサイクル耐久性を実現することができる。一方、aが0より大きく0.10以下でない場合には、構造の安定化が図れないか又は構造の安定化が図れても、リチウムイオン二次電池に適用した場合に、高いエネルギー密度を維持しつつ、高いサイクル耐久性を実現することができない。
さらに、組成式(1)において、bが0.05以上0.20以下である場合には、構造の安定化が図れ、リチウムイオン二次電池に適用した場合に、高いエネルギー密度を維持しつつ、高いサイクル耐久性を実現することができる。一方、bが0.05以上0.20以下でない場合には、構造の安定化が図れないか又は構造の安定化が図れても、リチウムイオン二次電池に適用した場合に、高いエネルギー密度を維持しつつ、高いサイクル耐久性を実現することができない。
また、組成式(1)において、cが0.01以上0.10以下である場合には、Ti、Zr、Sn及びAlからなる群より選ばれた少なくとも1種が、マンガン溶出が抑制される程度に十分に置換でき、構造の安定化が図れ、リチウムイオン二次電池に適用した場合に、高いエネルギー密度を維持しつつ、高いサイクル耐久性を実現することができる。一方、cが0.01以上0.10以下でない場合には、Ti、Zr、Sn及びAlからなる群より選ばれた少なくとも1種が、正極活物質中に均一に含まれにくく、構造の安定化が図れないか又は構造の安定化が図れても、リチウムイオン二次電池に適用した場合に、高いエネルギー密度を維持しつつ、高いサイクル耐久性を実現することができない。
さらに、組成式(1)において、X/(Mn+X)が0.1以上0.8以下である場合には、構造の安定化が図れ、リチウムイオン二次電池に適用した場合に、高いエネルギー密度を維持しつつ、高いサイクル耐久性を実現することができる。一方、X/(Mn+X)が0.1以上0.8以下でない場合には、構造の安定化が図れないか又は構造の安定化が図れても、リチウムイオン二次電池に適用した場合に、高いエネルギー密度を維持しつつ、高いサイクル耐久性を実現することができない。
また、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質においては、特に限定されるものではないが、組成式(1)において、(Mn+X)/Coが1より大きいことが好ましく、3以上であることがより好ましく、4以上であることがさらに好ましい。(Mn+X)/Coを1より大きくすることにより、コバルトと比較して相対的に安価なマンガンやチタン等の含有割合を大きくすることができ、低コスト化を図ることができる。また、マンガンの含有割合を大きくすることはエネルギー密度向上の観点から有利である。また、特に限定されるものではないが、(Mn+X)/Coが20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。(Mn+X)/Coを20以下とすることにより、コバルトの含有割合が極端に小さくなることがないので、正極活物質中に均一に含まれやすく、生産性を向上させることができる。また、マンガンの含有割合が大きくなると不安定化する可能性がある。さらに、特に限定されるものではないが、例えば、組成式(1)において、(Mn+X)/Coが1より大きく20以下であることが好ましく、3以上20以下であることがより好ましく、4以上10以下であることがさらに好ましい。
さらに、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質においては、特に限定されるものではないが、組成式(1)において、X/Mnが0.05以上2.0以下であることが好ましく、0.10以上1.0以下であることがより好ましい。X/Mnを0.05以上とすることにより、チタン等の含有割合が極端に小さくなることがないので、正極活物質中に均一に含まれやすく、生産性を向上させることができる。また、X/Mnを2.0以下とすることにより、マンガンの含有割合が極端に小さくなることがないので、正極活物質中に均一に含まれやすく、生産性を向上させることができる。また、マンガンの含有割合が大きくなると不安定化する可能性がある。
また、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質においては、X線回折(XRD)測定において、層状岩塩型(α−NaFeO)構造を示す、18−20°(003)、36−37°(101)、37−38°(006)、38−39°(012)、44−45°(104)及び64−65(108)/65−66(110)の位置に表れる回折ピークが、Ti、Zr、Sn及びAlからなる群より選ばれた少なくとも1種が含まれることにより、低角度側へシフトした位置に表れることが好ましい。
なお、64−65(108)/65−66(110)の表記は、64−65と65−66に近接する2つのピークがあり、組成によっては明確に分離されずにブロードに1つのピークとなる場合も含むことを意味する。
このような正極活物質においては、回折ピークの低角度側へのシフトが、Ti、Zr、Sn、Alのうちの1種が又は任意の組み合わせに係る2種以上がマンガンと置換されていることを示すため、これにより、Mnの溶出抑制の効果をより大きくすることが可能となる。従って、このような正極活物質をリチウムイオン二次電池に適用した場合に、高いエネルギー密度を維持しつつ、より高いサイクル耐久性を実現することができる。
ここで、X線回折(XRD)測定における回折ピークについて図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、若干の試験例で得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質のX線回折パターンを示すチャートである。また、図2(A)〜(D)は、図1に示したX線回折パターンに表れる各回折ピークを含む領域を拡大して示すチャートである。さらに、図1及び図2中の符号a〜eを付して示したX線回折パターンは、それぞれ試験例1(LiNi0.75Co0.1Mn0.15)、試験例2(LiNi0.75Co0.1Mn0.12Ti0.03)、試験例3(LiNi0.75Co0.1Mn0.07Ti0.08)、試験例4(LiNi0.75Co0.1Mn0.05Ti0.10)及び試験例5(LiNi0.75Co0.1Ti0.15)のものである。なお、試験例2〜試験例4は、本発明の範囲に含まれる。また、各試験例におけるリチウムイオン二次電池用正極活物質は、後述する実施例におけるリチウムイオン二次電池用正極活物質の調製と同様の操作により調製したものである。さらに、各試験例におけるリチウムイオン二次電池用正極活物質のX線回折(XRD)測定も、後述する実施例における測定と同様の操作により測定したものである。
図1及び図2に示すように、符号b〜dを付して示したX線回折パターンにおける回折ピークは、X線回折(XRD)測定において、層状岩塩型(α−NaFeO)構造を示す、18−20°(003)、36−37°(101)、37−38°(006)、38−39°(012)、44−45°(104)及び64−65(108)/65−66(110)の位置に表れる回折ピーク(ここでは、符号aを付して示したX線回折パターンにおける回折ピークを適用する。)が、チタンが含まれることにより、低角度側へシフトした位置に表れている。また、図1及び図2に示すように、符号b〜dを付して示したX線回折パターンにおいては、bからc、cからdへと、チタンの含有割合が大きくなるにしたがって、符号eを付して示したX線回折パターンに近づいていくことから、マンガンがチタンにより置換されていることが分かる。
また、図1及び図2に示すように、マンガンをチタンで置換する場合には、層状岩塩型(α−NaFeO)構造を示す回折ピークは、18−20°(003)、36−37°(101)、37−38°(006)、38−39°(012)、44−45°(104)、64−65°(108)及び64−65°(110)の位置に表れることが分かる。
さらに、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質においては、X線回折(XRD)測定において、固溶体に特徴的な、換言すれば、固溶体型構造を示す、超格子ピークが20−23°の位置に表れないことが好ましい。
このような正極活物質は、Ti、Zr、Sn、Alのうちの1種が又は任意の組み合わせにかかる2種以上がマンガンと確実に置換され、固溶体型構造でないことを示すため、結晶構造の安定性に優れる。従って、このような正極活物質をリチウムイオン二次電池に用いた場合に、高いエネルギー密度を維持しつつ、より高いサイクル耐久性を実現することができる。
また、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質においては、X線回折(XRD)測定において、層状岩塩型(α−NaFeO)構造を示す、18−20°(003)、36−37°(101)、37−38°(006)、38−39°(012)、44−45°(104)及び64−65(108)/65−66(110)の位置に表れる回折ピークが、Ti、Zr、Sn及びAlからなる群より選ばれた少なくとも1種が含まれることにより、低角度側へシフトした位置に表れる回折ピーク以外の、例えば不純物等に由来する他の回折ピークが実質的に表れないことが好ましい。このような他の回折ピークが存在する場合には、層状岩塩型構造以外の構造を有するものが、正極活物質に含まれることを意味している。層状岩塩型構造以外の構造を有するものが含まれない方が、サイクル耐久性向上の効果を確実に得られる。
さらに、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質においては、BET比表面積が0.1m/g以上0.8m/g以下であることが好ましく、0.25m/g以上0.5m/g以下であることがより好ましく、0.25m/g以上0.4m/g以下であることがさらに好ましい。BET比表面積が0.1m/g以上であると、このような正極活物質をリチウムイオン二次電池に用いた場合、高い出力を実現し得る。一方、BET比表面積が0.8m/g以下であると、マンガンの溶出がより抑制され、このような正極活物質をリチウムイオン二次電池に用いた場合、エネルギー密度を維持しつつ、より高いサイクル耐久性を実現することができる。
上述した本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、例えば、以下のような製造方法で調製することが好ましい。しかしながら、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、以下のような製造方法で調製されたものに限定されるものではない。
上述した本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、原料を水系溶媒に溶解させた原料混合溶液を、噴霧乾燥させて、乾燥物を得る第1工程と、第1工程で得られた乾燥物中に含まれる塩の少なくとも一部を、熱分解させて、前駆体を得る第2工程と、第2工程で得られた前駆体を、400〜1000℃で焼成する第3工程と、を含む製造方法により調製することができる。
このような製造方法においては、まず、有機酸塩(錯体)等の原料混合溶液を噴霧乾燥させて、乾燥物(粉末)を得るため、乾燥時に個々の成分が別々に凝集するのを防ぐことができ、各元素が原子レベルで均一に混合された乾燥物を得ることができる。また、噴霧乾燥後に、熱分解及び焼成を行うため、非常に均一な組成を有する正極活物質を比較的低温で製造することが可能となる。さらに、このような製造方法によれば、原料混合溶液を噴霧乾燥させるため、溶融塩法や共沈法と比較して、得られる正極活物質の比表面積を大きくすることができる。
以下、各工程について、さらに詳細に説明する。
[第1工程(噴霧乾燥工程)]
第1工程では、原料を水系溶媒に溶解させた原料混合溶液を、噴霧乾燥(スプレードライ)させて、乾燥物を得る。そして、原料として、(1)Ti、Zr、Sn及びAlからなる群より選ばれた少なくとも1種の硝酸塩及び/又は分解温度が100℃〜350℃である有機酸塩、(2)Ni、Co及びMnからなる群より選ばれた少なくとも1種の硝酸塩及び/又は分解温度が100℃〜350℃である、Ni、Co及びMnからなる群より選ばれた少なくとも1種の有機酸塩、並びに、(3)硝酸リチウム及び/又は分解温度が100℃〜350℃であるリチウムの有機酸塩を用いる。
(1)Ti、Zr、Sn及びAlからなる群より選ばれた少なくとも1種の硝酸塩及び/又は分解温度が100℃〜350℃である有機酸塩
このような製造方法では、正極活物質中に含まれる置換元素の原料として、Ti、Zr、Sn及びAlからなる群より選ばれた少なくとも1種の硝酸塩及び/又は分解温度が100℃〜350℃である有機酸塩を用いる。有機酸塩の代表例としては、例えば、クエン酸塩(クエン酸錯体又はクエン酸錯塩とも称される。)を挙げることができる。Ti、Zr、Sn及びAlからなる群より選ばれた少なくとも1種のクエン酸塩は、分解温度が約130℃であるため、後述の第2工程で容易に熱分解される。
Ti、Zr、Sn及びAlからなる群より選ばれた少なくとも1種のクエン酸塩は、例えば、下記方法で調製することができる。ただし、Ti、Zr、Sn及びAlからなる群より選ばれた少なくとも1種のクエン酸塩の入手方法は特に限定されるものではなく、購入したものであってもよいし、下記以外の方法により調製したものであってもよい。
Ti源、Zr源、Sn源、Al源としては、特に限定されるものではないが、例えば、Ti源としては、チタンテトライソプロポキシドを使用することができる。
例えば、Ti源として、チタンテトライソプロポキシドを使用して以下の方法を用いることによりTiのクエン酸塩を容易に調製することができる。まず、クエン酸1水和物を純水に加温溶解し、この溶液に、チタンテトライソプロポキシドを加える。この際、Tiとクエン酸とのモル比は、Ti/クエン酸=1/1〜1/3であることが好ましい。
次いで、得られた溶液に、塩基性水溶液(例えば、1〜10体積%程度のアンモニア水)をゆっくり加え、pHを4〜8に調整することにより、Tiのクエン酸塩水溶液(クエン酸錯体溶液)が得られる。
(2)Ni、Co及びMnからなる群より選ばれた少なくとも1種の硝酸塩及び/又は分解温度が100℃〜350℃である、Ni、Co及びMnからなる群より選ばれた少なくとも1種の有機酸塩
また、このような製造方法では、正極活物質中に含まれる遷移金属(Ni、Co又はMn)の原料として、これらの元素の硝酸塩及び/又は分解温度が100℃〜350℃である有機酸塩を用いることが好ましい。
硝酸塩としては、特に限定されるものではないが、例えば、硝酸ニッケル・6水和物、硝酸マンガン・6水和物、硝酸コバルト・6水和物等の硝酸塩の水和物を用いることが好ましい。これらの硝酸塩は、分解温度が比較的低いため(例えば、硝酸ニッケル・6水和物:137℃、硝酸マンガン・6水和物:129℃、硝酸コバルト・6水和物:100〜105℃)、後述の第2工程(熱分解工程)で容易に熱分解される。
分解温度が100℃〜350℃である有機酸塩としては、特に限定されるものではないが、例えば、クエン酸ニッケル、クエン酸マンガン、クエン酸コバルト等のクエン酸塩、酢酸ニッケル・4水和物、酢酸マンガン・4水和物、酢酸コバルト・4水和物等の酢酸塩等の水和物を用いることが好ましい。中でも、後述の第2工程で容易に熱分解させることができるという観点から、分解温度が100℃〜300℃である有機酸塩を用いると好ましく、分解温度が100℃〜280℃である有機酸塩を用いるとより好ましい。特に、上記酢酸塩は、分解温度が比較的低いため(例えば、酢酸ニッケル・4水和物:250℃、酢酸マンガン・4水和物:210℃、酢酸コバルト・4水和物:140℃)、後述の第2工程で容易に熱分解される。
(3)硝酸リチウム及び/又は分解温度が100℃〜350℃であるリチウムの有機酸塩
また、このような製造方法では、正極活物質中に含まれるリチウムの原料として、硝酸リチウム及び/又は分解温度が100℃〜350℃であるリチウムの有機酸塩が用いることが好ましい。
分解温度が100℃〜350℃であるリチウムの有機酸塩としては、特に限定されるものではないが、例えば、酢酸リチウム、クエン酸リチウム、シュウ酸リチウム等が挙げられる。
上記リチウムの原料は、正極活物質の組成を均一にし、より安定な結晶構造を得る観点から、分解温度が100℃〜350℃であるリチウムの有機酸塩を少なくとも1種含むことが好ましい。さらに上記リチウムの原料は、分解温度が100℃〜300℃であるリチウムの有機酸塩を少なくとも1種含むことがより好ましく、酢酸リチウム及び/又はクエン酸リチウムを含むことが特に好ましい。
このような製造方法では、原料として硫酸塩やハロゲン化物を用いず、上記(1)〜(3)の特定の硝酸塩や有機酸塩を用いることにより、生産性を向上させることができる。すなわち、原料として硫酸塩やハロゲン化物を用いると、硫酸やハロゲンを除去する工程が必須となるが、上述のように、硝酸塩や有機酸塩を用いると、硫酸やハロゲンの除去工程を行う必要がない。後述するように、硝酸塩や有機酸塩は、加熱(熱分解)することで、硝酸や有機酸を十分に除去することができるため、硝酸や有機酸の特別な除去工程は不要である。また、硝酸塩や有機酸塩を用いることにより、硫酸やハロゲンのように、電池特性を低下させる不純物の混入もまた抑制することができる。
第1工程において、上記原料を水系溶媒に溶解させた原料混合溶液の調製方法は、特に限定されるものではない。なお、本明細書において、「水系溶媒」とは、水又は水を主成分とした溶媒をいう。より具体的には、水、又は水と水溶性有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン等との混合溶媒を挙げることができ、好ましくは水である。
上記原料の配合割合は、所望の正極活物質の組成により、当業者が適宜設定することができる。また、上記原料の混合順も特に限定されるものではにない。一例を挙げると、後述の実施例のように、純水に、Ti、Zr、Sn及びAlからなる群より選ばれた少なくとも1種のクエン酸錯体水溶液に、遷移金属(Ni、Co又はMn)の硝酸塩及び/又は分解温度が100℃〜350℃である有機酸塩、硝酸リチウム及び/又は分解温度が100℃〜350℃であるリチウムの有機酸塩を順次溶解させる方法が挙げられる。
このような製造方法では、上記原料の他に、別途無水クエン酸を添加して原料混合溶液を調製してもよい。無水クエン酸を添加することにより、原料混合溶液中におけるTi、Zr、Sn及びAlからなる群より選ばれた少なくとも1種のクエン酸錯体の安定化を図ることができ、当該クエン酸錯体を均一な状態で分散させることに寄与できる。
また、このような製造方法では、必要に応じて、アンモニア水等の塩基性水溶液を用いて原料混合溶液のpH調整することが好ましい。具体的には、原料混合溶液のpHを8以下とすることが好ましく、pH4〜8とすることがより好ましく、pHを5〜7とすることがさらに好ましい。原料混合溶液のpHを上記範囲とすることにより、噴霧乾燥後に得られる乾燥物の粉体密度や嵩高さを好適な値とすることができる。さらに、原料混合溶液のpHを調整することにより、原料混合溶液中に沈殿を生じにくくすることができる。
第1工程では、上記原料混合溶液を噴霧乾燥させて、乾燥物を得る。具体的には、噴霧乾燥装置を用いて、原料混合溶液を噴霧し、熱風乾燥させる。これにより、原料混合溶液中の溶媒が除去され、金属元素がほぼ均一に混合された粉末状の乾燥物が得られる。
本工程において、原料混合溶液の噴霧に用いる噴霧ガスや、熱風乾燥の際の雰囲気として、不活性ガス(N等)や低酸素濃度ガス(酸素濃度5体積%以下)を用いることが好ましい。原料中の有機酸塩(クエン酸塩、酢酸塩等)が熱分解して有機物(クエン酸、酢酸)が発生し、発火するのを防ぐためである。
本工程において、乾燥の際の熱風温度は特に限定されるものではないが、200〜350℃であることが好ましく、200〜300℃であることがより好ましい。熱風温度を当該範囲とすると、被乾燥物の実温度は、概ね150〜300℃となり、短時間での溶媒除去が可能となる。特に、原料混合溶液の溶媒が水である場合、被乾燥物の温度を上記範囲とすることで、十分に水を除去することができる。その結果、原料混合溶液に含まれる有機酸塩の吸湿を防止し、以下に続く第2工程を効率よく行うことが可能となる。また、有機酸塩の吸湿を防止することにより、噴霧乾燥後の乾燥物(粉末)の凝集を抑制することができる。なお、上記温度範囲においては、原料中の硝酸塩、有機酸塩(クエン酸、酢酸等)の一部が熱分解する場合がある。
[第2工程(熱分解工程)]
第2工程では、上記第1工程で得られた乾燥物中に含まれる塩の少なくとも一部を、熱分解させ、正極活物質の前駆体を得る。熱分解させる際の温度(熱処理温度)は、原料となる塩の熱分解温度により異なるが、150〜400℃であることが好ましく、200〜400℃であることがより好ましく、200〜350℃であることがさらに好ましい。また、熱処理時間も、原料となる塩の種類により異なるが、1〜48時間が好ましく、4〜12時間であることがより好ましい。なお、本工程では、乾燥物中に含まれる塩の全てを熱分解させる必要はなく、原料として、硝酸リチウム(分解温度:約600℃)を用いる場合は、本工程においても熱分解されずに残る場合がある。一方、Ti、Zr、Sn及びAlからなる群より選ばれた少なくとも1種のクエン酸塩、遷移元素(Ni、Co又はMn)の硝酸塩及び/又は分解温度が100℃〜350℃である有機酸塩、分解温度が100℃〜350℃であるリチウムの有機酸塩は本工程により熱分解され、不要な、硝酸(NO)や、有機物(クエン酸、酢酸等)が除かれる。
本工程では、上述の第1工程(噴霧乾燥工程)と同様に、不活性ガス(N等)や低酸素濃度ガス(酸素濃度5体積%以下)雰囲気下で熱分解を行うことが好ましい。熱分解により、有機酸塩(クエン酸塩、酢酸塩等)から有機物(クエン酸、酢酸等)が発生し、発火するのを防ぐためである。
また、本工程では、熱分解時に第1工程で得られた乾燥物(粉末)を流動させながら、熱処理することが好ましい。具体的には、流動焼成炉(ロータリーキルン)等の流動装置を用いて、乾燥物(粉末)を流動させながら熱処理する。このように熱処理することで、粒子(1次粒子、2次粒子)の成長が抑えられるため、得られる正極活物質のBET比表面積を大きくすることができる。
[第3工程(焼成工程)]
第3工程では、上記第2工程で得られた前駆体を焼成することによって、結晶構造が構築・安定化され、正極活物質が得られる。本工程における焼成は、特に限定されるものではないが、焼成温度(熱処理温度)400〜1200℃で、焼成時間1〜48時間の範囲内で行うことが好ましい。また、焼成温度を低い温度から高い温度へと、段階的に、又は、連続的に上げながら焼成を行うことが好ましい。例えば、400〜600℃で1〜24時間仮焼成した後に、700〜1000℃で1〜24時間本焼成することが好ましい。このような焼成工程を経ることで、安定な結晶構造を有する正極活物質を得ることができる。
次に、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施形態で引用する図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
図3は、図3は、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池であって、扁平型(積層型)のリチウムイオン二次電池の外観を示す斜視図である。また、図4は、図3に示した扁平型(積層型)のリチウムイオン二次電池の一実施形態である、双極型でないリチウムイオン二次電池のIII−III線に沿った模式的な断面図である。
図3に示すように、本実施形態のリチウムイオン二次電池1は、正極タブ21及び負極タブ22が取り付けられた電池要素10が電池外装体30によって包まれており、電池外装体30の周囲が熱融着されており、電池要素10が正極21及び負極タブ22を電池外装体30の外部に引き出した状態で電池外装体30の内部に封入されている。そして、正極タブ21及び負極タブ22が、電池外装体30の内部から外部に向かって、反対方向に導出されている。
なお、図示しないが、正極タブ及び負極タブは、例えば、電池外装体の内部から外部に向かって、同じ辺から同一方向に導出されていてもよい。また、図示しないが、正極タブ及び負極タブは、例えば、それぞれを複数に分けて、各辺から導出されていてもよい。さらに、このような正極タブ及び負極タブは、例えば、超音波溶接や抵抗溶接などにより、それぞれ後述する正極集電体及び負極集電体に取り付けることができる。
また、図4に示すように、実際に充放電反応が進行する略矩形の電池要素10は、正極集電体11Aの両方の表面に正極活物質層11Bが形成された正極11と、電解質層13と、負極集電体12Aの両方の表面に負極活物質層12Bが形成された負極12とを複数積層した構成を有している。このとき、一の正極11の正極集電体11Aの片方の表面に形成された正極活物質層11Bと該一の正極11に隣接する負極12の負極集電体12Aの片方の表面に形成された負極活物質層12Bとが電解質層13を介して向き合うように、正極、電解質層、負極の順に複数積層されている。これにより、隣接する正極活物質層11B、電解質層13及び負極活物質層12Bは、1つの単電池層14を構成する。従って、リチウムイオン二次電池1は、単電池層14が複数積層されることにより、電気的に並列接続された構成を有するものとなる。なお、電池要素10の両最外層に位置する最外層負極集電体12A’には、いずれも片面のみに負極活物質層12Bが配置されている。
なお、図示しないが、電池要素の両最外層に位置する最外層負極集電体の両面に負極活物質層が設けられてもよい。すなわち、片面にのみ負極活物質層を設けた最外層専用の負極集電体とするのではなく、両面に負極活物質層がある負極集電体をそのまま最外層の負極集電体として用いてもよい。また、図2とは正極及び負極の配置を逆にすることで、発電要素の両最外層に最外層正極集電体が位置するようにし、該最外層正極集電体の片面又は両面に正極活物質層が配置されているようにしてもよい。
また、図4では、扁平型(積層型)の双極型ではないリチウムイオン二次電池を示したが、集電体の一方の面に配設された正極活物質層と、集電体の反対側の面に配設された負極活物質層とを有する扁平型(積層型)の双極型であるリチウムイオン二次電池としてもよい。なお、この場合、一の集電体が正極集電体及び負極集電体を兼ねることとなる。
さらに、積層型のリチウムイオン二次電池は、巻回型のリチウムイオン二次電池のような正極に適度な圧迫がかかることで、膨潤の抑制効果が期待されるリチウムイオン二次電池と比べて、正極への圧迫がかかりづらいという利点がある。
以下、各構成について、さらに詳細に説明する。
[正極]
正極11は、正極集電体11Aと、正極集電体11Aの表面に形成された正極活物質層11Bとを有するものである。
(正極集電体)
正極集電体としては、特に限定されるものではないが、例えば、金属や導電性高分子、非導電性高分子材料に導電性フィラーが添加された導電性を有する樹脂を適用することができる。
金属としては、例えば、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス鋼(SUS)、チタン、銅などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材、さらには、これらの金属の組み合わせのめっき材などを好適例として挙げることができる。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。中でも、導電性や電池作動電位の観点からは、アルミニウム、ステンレス鋼(SUS)、銅を用いることが好ましい。
また、導電性高分子材料としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアクリロニトリル、ポリオキサジアゾールなどが挙げられる。このような導電性高分子材料は、導電性フィラーを添加しなくても十分な導電性を有するため、製造工程の容易化又は正極集電体の軽量化の点において有利である。
さらに、非導電性高分子材料としては、例えば、ポリエチレン(PE;高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE))、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリスチレン(PS)などが挙げられる。このような非導電性高分子材料は、優れた耐電位性又は耐溶媒性を有する。
上記の導電性高分子材料又は非導電性高分子材料には、必要に応じて導電性フィラーを添加することができる。特に、正極集電体の基材となる樹脂が非導電性高分子のみからなる場合は、樹脂に導電性を付与するために導電性フィラーが必須となる。導電性フィラーは、導電性を有する物質であれば、特に限定されるものではなく、例えば、導電性、耐電位性、又はリチウムイオン遮断性に優れた材料として、金属、導電性カーボンなどが挙げられる。金属としては、特に限定されるものではないが、Ni、Ti、Al、Cu、Pt、Fe、Cr、Sn、Zn、In、Sb及びKからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属若しくはこれらの金属を含む合金又は金属酸化物を含むことが好ましい。また、導電性カーボンとしては、特に限定されるものではないが、アセチレンブラック、バルカン、ブラックパール、カーボンナノファイバー、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノバルーン及びフラーレンからなる群より選ばれた少なくとも1種を含むことが好ましい。導電性フィラーの添加量は、正極集電体に十分な導電性を付与できる量であれば特に限定されるものではなく、一般的には、5〜35質量%程度である。
正極集電体の大きさは、電池の使用用途に応じて適宜決定される。例えば、高エネルギー密度が要求される大型の電池に用いられるのであれば、面積の大きな正極集電体が用いられる。正極集電体の厚さについても、特に限定されるものではない。正極集電体の厚さは、通常は1〜100μm程度である。
(正極活物質層)
正極活物質層は、上述した組成式(1)で表される正極活物質を必須成分として含み、必要に応じて、導電助剤、バインダなどを含んでもよい。なお、組成式(1)で表される正極活物質は上記説明したので、説明を省略する。
(導電助剤)
導電助剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アセチレンブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック、グラファイトなどのカーボン粉末や、気相成長炭素繊維などの炭素繊維などの炭素材料が挙げられる。正極活物質層が導電助剤を含むと、正極活物質層の内部における電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性を向上させることができる。
(バインダ)
バインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミドを挙げることができる。しかしながら、これらに限定されるものではなく、リチウムイオン二次電池に用いられる従来公知のものを適用することができる。また、これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
[負極]
負極12は、負極集電体12Aと、負極集電体12Aの表面に形成された負極活物質層12Bとを有するものである。なお、負極集電体は、正極において説明したものと同様のものを適宜選択して用いることができるため、説明を省略する。
(負極活物質層)
負極活物質層は、負極活物質を必須成分として含み、必要に応じて、導電助剤、バインダなどを含んでもよい。なお、導電助剤やバインダは、正極において説明したものと同様のものを適宜選択して用いることができるため、説明を省略する。
(負極活物質)
負極活物質は、放電時にリチウムイオンを放出し、充電時にリチウムイオンを吸蔵できるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、SiやSnなどの金属、又はTiO、Ti、TiO、若しくはSiO、SiO、SnOなどの金属酸化物、Li4/3Ti5/3若しくはLiMnNなどのリチウムと遷移金属との複合酸化物、Li−Pb系合金、Li−Al系合金、Li、又は炭素粉末、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー、コークス、ソフトカーボン、若しくはハードカーボンなどの炭素材料などが挙げられる。このような負極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。またこのような負極活物質のうち、リチウムと合金化する元素を用いることにより、従来の炭素系材料に比べて高いエネルギー密度を有する、高容量、かつ、優れた出力特性を有する電池を得ることが可能となる。また、リチウムと合金化する元素としては、特に限定されるものではないが、例えば、Si、Ge、Sn、Pb、Al、In、Zn、H、Ca、Sr、Ba、Ru、Rh、Ir、Pd、Pt、Ag、Au、Cd、Hg、Ga、Tl、C、N、Sb、Bi、O、S、Se、Te、Clを挙げることができる。
また、負極活物質のうち、炭素材料、並びに/又はSi、Ge、Sn、Pb、Al、In及びZnからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含むことが好ましく、炭素材料、Si又はSnの元素を含むことがより好ましく、炭素材料を用いることが特に好ましい。
炭素材料としては、リチウム対比放電電位が低い炭素質粒子が好ましく、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、天然黒鉛と人造黒鉛とのブレンド、天然黒鉛に非晶質をコートした材料、ソフトカーボン、ハードカーボンなどを好適例として挙げることができる。炭素質粒子の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、塊状、球状、繊維状等のいずれの形状であってもよいが、鱗片状ではないことが好ましく、球状、塊状であることが好ましい。鱗片状でないものは、性能及び耐久性の観点から好ましい。
また、炭素質粒子は、その表面を非晶質炭素で被覆したものが好ましい。その際、非晶質炭素は、炭素質粒子の全表面を被覆していることがより好ましいが、一部の表面のみの被覆であってもよい。炭素質粒子の表面が非晶質炭素で被覆されていることにより、電池の充放電時に、黒鉛と電解液とが反応することを防止できる。黒鉛粒子の表面に非晶質炭素を被覆する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、非晶質炭素を溶媒に溶解、又は分散させた混合溶液に核となる炭素質粒子(粉末)を分散・混合した後、溶媒を除去する湿式方式が挙げられる。他にも、炭素質粒子と非晶質炭素を固体同士で混合し、その混合物に力学エネルギーを加え非晶質炭素を被覆する乾式方式、CVD法などの気相法などが挙げられる。炭素質粒子が非晶質炭素で被覆されていることは、レーザー分光法などの方法により確認することができる。
[非水電解質層]
非水電解質層13は、正極11と負極12との間の空間的な隔壁(スペーサ)として機能する。また、これと併せて、充放電時における正負極間でのリチウムイオンの移動媒体である電解質を保持する機能をも有する。非水電解質層を構成する電解質に特に制限はなく、液体電解質、並びに高分子ゲル電解質及び高分子固体電解質などのポリマー電解質を適宜用いることができる。本実施形態においては、液体電解質を適用することが好ましい。
液体電解質は、有機溶媒にリチウム塩が溶解した形態を有する。有機溶媒としては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、含フッ素環状カーボネート(フルオロエチレンカーボネート(FEC)等)、含フッ素鎖状カーボネート、含フッ素鎖状エーテル、含フッ素鎖状エステルを挙げることができる。これらは1種を単独でも用いてもよく、2種以上を適宜混合して用いてもよい。
また、リチウム塩としては、少なくともLiPFを使用することが好ましい。これ以外に、LiN(SO、LiN(SOCF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiSOCFなどを用いることができる。リチウム塩濃度としては、0.1〜5mol/Lが好ましく、0.1〜2mol/Lがより好ましい。
さらに、液体電解質の場合は、添加剤として、有機スルホン系化合物、有機ジスルホン系化合物、ビニレンカーボネート誘導体、エチレンカーボネート誘導体、エステル誘導体、2価フェノール誘導体、テルフェニル誘導体、ホスフェート誘導体及びフルオロリン酸リチウム誘導体からなる群より選ばれた少なくとも1種を含むことが好ましい。このうち、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウムなどのフルオロリン酸リチウム誘導体がより好ましい。これらの添加剤の使用は、性能及び寿命特性の観点から好ましい。添加剤は、電解液中に0.1〜5質量%含まれることが好ましく、0.5〜3.5質量%含まれることがより好ましい。
一方、ポリマー電解質は、電解液を含むゲル電解質と、電解液を含まない高分子固体電解質に分類される。
ゲル電解質は、リチウムイオン伝導性を有するマトリックスポリマーに、上記の液体電解質が注入されてなる構成を有する。リチウムイオン伝導性を有するマトリックスポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、これらの共重合体などが挙げられる。このようなマトリックスポリマーは、リチウム塩などの電解質塩を溶解させやすい。
なお、電解質層が液体電解質やゲル電解質から構成される場合には、電解質層にセパレータを用いてもよい。セパレータの具体的な形態としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンといったポリオレフィンやポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン(PVdF−HFP)等の炭化水素、ガラス繊維などからなる微多孔膜が挙げられる。
高分子固体電解質は、上記のマトリックスポリマーにリチウム塩が溶解してなる構成を有し、有機溶媒を含まない。したがって、電解質層が高分子固体電解質から構成される場合には電池からの液漏れの心配がなく、電池の信頼性が向上させることができる。
高分子ゲル電解質や高分子固体電解質のマトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発揮させることができる。架橋構造を形成させるには、適当な重合開始剤を用いて、高分子電解質形成用の重合性ポリマー(例えば、PEOやPPO)に対して熱重合、紫外線重合、放射線重合、電子線重合などの重合処理を施せばよい。なお、上記電解質は、電極の活物質層中に含まれていてもよい。
(正極タブ及び負極タブ)
正極タブ21及び負極タブ22を構成する材料は、特に限定されるものではなく、リチウムイオン二次電池用の正極タブ及び負極タブとして従来用いられている公知の高導電性材料を用いることができる。正極タブ及び負極タブの構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極タブ21と負極タブ22とにおいては、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。
(電池外装体)
電池外装体30としては、特に限定されるものではないが、例えば、発電要素を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルムを用いた袋状のケースを用いることが好適である。このような形態は、例えば、軽量化を図るという観点から好適である。このようなラミネートフィルムには、具体例としては、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルムを挙げることができる。高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、ラミネートフィルムが好ましい。また、外部から掛かる発電要素への群圧を容易に調整することができ、所望の電解質層厚みへと調整容易であることから、外装体はアルミネートラミネートがより好ましい。
(組電池)
リチウムイオン二次電池は、複数個接続して構成した組電池としてもよい。詳しくは複数のリチウムイオン二次電池を用いて、直列化若しくは並列化又はその両方で構成される組電池とすることができる。直列化や並列化することにより、容量や電圧を自由に調節することが可能になる。
リチウムイオン二次電池が複数、直列に又は並列に接続して装脱着可能な小型の組電池を形成することもできる。そして、この装脱着可能な小型の組電池をさらに複数、直列に又は並列に接続して、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に適した大容量、大出力を持つ組電池を形成することもできる。何個のリチウムイオン二次電池を接続して組電池を作製するか、また、何段の小型組電池を積層して大容量の組電池を作製するかは、搭載される車両(電気自動車)の電池容量や出力に応じて決めればよい。
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
参考例1
<組成式(1)で表される正極活物質の調製>
(チタンクエン酸錯体水溶液の調製)
無水クエン酸(分子量:192.12g/mol)155g(0.8mol)をエタノール1000mlに加え、これを60℃に加温して、溶解させた。次いで、得られた溶液に、チタンテトライソプロポキシド(分子量:284.22g/mol、純度95%)120g(0.4mol)を加え、これを約10分間攪拌した。さらに、得られた溶液に、純水(500ml)と5.6%アンモニア水(約100ml)をゆっくり加えた。さらに、得られた溶液を沸騰させ、水分とエタノール/イソプロパノールを除去し、500mlになるまで濃縮した後、室温まで降温させた。さらに、得られた濃縮液に、5.6%アンモニア水(約50ml)をゆっくり加えて、pH=6に調整した。さらに、得られた溶液をろ紙でろ過して、不溶物を除去した。さらに、得られたろ液の一部を蒸発皿に入れて、100℃で24時間乾燥させた。しかる後、得られた乾燥物(粉末)を600℃で12時間焼成分解して、TiOとして定量した。Ti濃度は、TiO(分子量:79.87g/mol)として6.0質量%であった。
(原料混合溶液の調製)
次に、純水2500mlに、上記チタンクエン酸錯体水溶液(Ti濃度:TiO(分子量:79.87g/mol)として6.0質量%)66.6g、酢酸ニッケル・4水和物(分子量:248.84g/mol)186.6g、酢酸コバルト・4水和物(分子量:249.08g/mol)24.9g、酢酸マンガン・4水和物(分子量:245.09g/mol)24.5g、酢酸リチウム・2水和物(分子量:102.02g/mol)103.0gを順に加え、溶解させた。しかる後、得られた溶液に、5.6%アンモニア水をゆっくり加え、pH=6に調整して、原料混合溶液を得た。
(第1工程(乾燥工程))
上記原料混合溶液を、不活性ガス(N)を用いたスプレー装置により、熱風温度250℃〜300℃で噴霧乾燥し、水分を除去して、原料の混合物である乾燥物(粉末)を得た。
(第2工程(熱分解工程))
次に、上記乾燥物(粉末)を、流動焼成炉により、5体積%−O/Nバランスガス流通下、300℃〜400℃で4時間焼成し、有機酸塩を熱分解して、前駆体を得た。
(第3工程(焼成工程))
しかる後、上記前駆体を、酸素雰囲気下、600℃で12時間仮焼成し、続いて900℃で12時間本焼成して、本例の正極活物質を得た。
(組成の定量分析:ICP)
上記正極活物質の試料を酸に溶解し、溶液中に含まれるニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)及びリチウム(Li)を誘導結合プラズマ発光分光分析法により定量した。なお、測定には、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製の誘導結合プラズマ発光分光分析装置SPS−3520型を使用した。その結果、本例の正極活物質の組成は、以下の通りであった。
組成式:Li1.01Ni0.75Co0.10Mn0.10Ti0.05
これは、組成式(1)において、XがTiであり、x=1.01、1−a−b−c=0.75、a=0.10、b=0.10、c=0.05、Ti/(Mn+Ti)=0.33、(Mn+Ti)/Co=1.5、Ti/Mn=0.50である。
(X線回折測定)
上記正極活物質について、X線回折により結晶構造及び結晶性の評価をした。X線源にはCu−Kα線を用い、測定条件は管電圧40KV、管電流20mA、走査速度2°/分、発散スリット幅0.5°、受光スリット幅0.15°で行った。
(BET比表面積)
上記正極活物質について、BET比表面積測定装置(日本ベル製、BELSORP−miniIIでBET)を使用して、BET比表面積を測定した。その結果、BET比表面積は0.5m/gであった。
<正極集電体の片面に正極活物質層を形成した正極の作製>
まず、下記組成の正極用スラリーを調製した。
(正極用スラリーの組成)
正極活物質:上記正極活物質(9.2重量部)
導電助剤:燐片状黒鉛(0.2重量部)、アセチレンブラック(0.2重量部)
バインダ:ポリフッ化ビニリデン(PVDF)(0.4重量部)
溶媒:N−メチル−2−ピロリドン(NMP)(8.2重量部)
具体的には、次のようにして、上記組成の正極用スラリーを調製した。まず、50mlのディスポカップに、導電助剤0.4重量部と、正極活物質9.2重量部と、溶媒(NMP)4.0重量部を加え、撹拌脱泡機(自転公転ミキサー:あわとり錬太郎AR−100)で1分間撹拌した。次いで、得られた混合物に、溶媒(NMP)にバインダを溶解した10%バインダ溶液4.0重量部と、溶媒(NMP)0.6重量部とを加えた。しかる後、これを撹拌脱泡機で3分間撹拌して、正極スラリー(固形分濃度:55質量%)を得た。
(正極用スラリーの塗布)
次に、20μm厚のアルミニウム集電箔の片面に、得られた正極用スラリーを自動塗工装置(テスター産業製ドクターブレード:PI−1210自動塗工装置)により、所望の量を塗布した。
(正極用スラリーの乾燥)
さらに、この正極用スラリーを塗布した集電箔を、ホットプレートにて乾燥(乾燥温度:100〜110℃、乾燥時間:30分間)させ、正極活物質層に残留するNMP量を0.02質量%以下としたシート状正極を得た。片面の正極活物質層の重量は約15.0mg/cmであった。
(正極のプレス)
さらに、得られたシート状正極を、片面の正極活物質層の密度が2.5〜2.7g/cmとなるようにローラープレスをかけて圧縮成形し、セル作製用に切断した。
(正極の乾燥)
しかる後、この切断されたシート状正極を真空乾燥炉にて乾燥させた。具体的には、次のようにして、シート状正極を乾燥させた。まず、切断されたシート状正極を、シート状正極がガラス板に挟まれた状態で、乾燥炉内部に設置した。次いで、室温(25℃)にて減圧(100mmHg(1.33×10Pa))し、乾燥炉内部の空気を除去した。続いて、窒素ガスを流通(100cm/分)しながら、10℃/分で120℃まで昇温し、120℃で再度減圧して乾燥炉内部の窒素を排気したまま12時間保持した。しかる後、室温まで降温し、正極表面の水分を除去して、本例の正極を得た。
<負極集電体の片面に負極活物質層を形成した負極の作製>
まず、下記組成の負極用スラリーを調製した。
(負極用スラリーの組成)
負極活物質:天然グラファイト(9.3重量部)
導電助剤:アセチレンブラック(0.1重量部)
バインダ:ポリフッ化ビニリデン(PVDF)(0.6重量部)
溶媒:N−メチル−2−ピロリドン(NMP)(10.0重量部)
具体的には、次のようにして、上記組成の負極用スラリーを調製した。まず。50mlのディスポカップに、導電助剤0.1重量部と、負極活物質9.3重量部と、溶媒(NMP)4.0重量部を加え、撹拌脱泡機(自転公転ミキサー:あわとり錬太郎AR−100)で1分間撹拌した。次いで、得られた混合物に、溶媒(NMP)にバインダを溶解した10%バインダ溶液6.0重量部と、溶媒(NMP)0.6重量部とを加えた。しかる後、これを撹拌脱泡機で3分間撹拌して、負極スラリー(固形分濃度:50質量%)を得た。
(負極用スラリー塗布)
次に、10μm厚の銅集電箔の片面に、得られた負極用スラリーを自動塗工装置(テスター産業製ドクターブレード:PI−1210自動塗工装置)により、所望の量を塗布した。
(負極用スラリー乾燥)
さらに、この負極用スラリーを塗布した集電箔を、ホットプレートにて乾燥(乾燥温度:100〜110℃、乾燥時間:30分間)させ、負極活物質層に残留するNMP量を0.02質量%以下としたシート状負極を得た。片面の負極活物質層の重量は約9.0mg/cmであった。
(負極のプレス)
さらに、得られたシート状負極を、片面の負極活物質層の密度が1.4〜1.6g/cmとなるようにローラープレスをかけて圧縮成形し、セル作製用に切断した。
(負極の乾燥)
しかる後、この切断されたシート状負極を真空乾燥炉にて乾燥させた。具体的には、次のようにして、シート状負極を乾燥させた。まず、切断されたシート状負極を、シート状負極がガラス板に挟まれた状態で、乾燥炉内部に設置した。次いで、室温(25℃)にて減圧(100mmHg(1.33×10Pa))し、乾燥炉内部の空気を除去した。続いて、窒素ガスを流通(100cm/分)しながら、10℃/分で130℃まで昇温し、130℃で再度減圧して乾燥炉内部の窒素を排気したまま12時間保持した。しかる後、室温まで降温し、負極表面の水分を除去して、本例の負極を得た。
<パウチセルの作製>
正極集電体部分にアルミニウムタブを超音波溶接した上記正極(塗工部面積2.4cm×4.0cm)と、負極集電体部分にニッケルタブを超音波溶接した上記負極(塗工部面積2.6cm×4.4cm)とをセパレータ(3.5cm×5.0cm、セルガード社製、セルガード2400)を介して対向させた後、アルミラミネートフィルムからなる外装体(5.0cm×6.5cm)で積層体の両面を挟み込み、外装体の3辺を熱圧着封止して積層体を収納した。エチレンカーボネート(EC)30体積%とジエチルカーボネート(DEC)70体積%の混合溶媒に、1.0mol/LのLiPF(電解質)を溶解した電解液0.3cm/セルを注入した後、残りの1辺を熱圧着で封止し、電池(パウチセル)を作製した。電解液を電極細孔内に十分に浸透させるため、面圧0.5MPaで加圧しながら、室温にて24時間保持し、本例の電池を完成させた。
参考例2参考例4
組成式(1)で表される正極活物質の調製において、コバルト、マンガン、チタンのうちの2種の含有割合を変えたこと以外は、参考例1と同様の操作を繰り返して、本例の正極活物質、正極及び電池を得た。
参考例5
上記チタンクエン酸錯体水溶液(Ti濃度:TiO(分子量:79.87g/mol)として6.0質量%)66.6gに代えて、オキシ硝酸ジルコニウム・2水和物(分子量:267.26g/mol)13.3gを用いたこと以外は、参考例1と同様の操作を繰り返して、本例の正極活物質、正極及び電池を得た。なお、本例の正極活物質の組成は、以下の通りであった。
組成式:Li1.01Ni0.75Co0.10Mn0.10Zr0.05
これは、組成式(1)において、XがZrであり、x=1.01、1−a−b−c=0.75、a=0.10、b=0.10、c=0.05、Zr/(Mn+Zr)=0.33、(Mn+Zr)/Co=1.5、Zr/Mn=0.50である。
参考例6
上記チタンクエン酸錯体水溶液(Ti濃度:TiO(分子量:79.87g/mol)として6.0質量%)66.6gに代えて、スズクエン酸錯体水溶液(Sn濃度:SnO(分子量:134.71g/mol)として6.0重量%)112.2gを用いたこと以外は、参考例1と同様の操作を繰り返して、本例の正極活物質、正極及び電池を得た。なお、本例の正極活物質の組成は、以下の通りであった。
組成式:Li1.01Ni0.75Co0.10Mn0.10Sn0.05
これは、組成式(1)において、XがSnであり、x=1.01、1−a−b−c=0.75、a=0.10、b=0.10、c=0.05、Sn/(Mn+Sn)=0.33、(Mn+Sn)/Co=1.5、Sn/Mn=0.50である。
参考例7
上記チタンクエン酸錯体水溶液(Ti濃度:TiO(分子量:79.87g/mol)として6.0質量%)66.6gに代えて、硝酸アルミニウム・9水和物(分子量375.13g/mol)18.7gを用いたこと以外は、参考例1と同様の操作を繰り返して、本例の正極活物質、正極及び電池を得た。なお、本例の正極活物質の組成は、以下の通りであった。
組成式:Li1.01Ni0.75Co0.10Mn0.10Al0.05
これは、組成式(1)において、XがAlであり、x=1.01、1−a−b−c=0.75、a=0.10、b=0.10、c=0.05、Al/(Mn+Al)=0.33、(Mn+Al)/Co=1.5、Al/Mn=0.50である。
[実施例8〜実施例13]
正極活物質の調製において、リチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、チタンの含有割合を変えたこと以外は、参考例1と同様の操作を繰り返して、本例の正極活物質、正極及び電池を得た。
[比較例1]
組成式(1)で表される正極活物質の調製において、酢酸ニッケル・4水和物(分子量:248.84g/mol)186.6g、酢酸コバルト・4水和物(分子量:249.08g/mol)24.9g、酢酸マンガン・4水和物(分子量:245.09g/mol)36.8g、酢酸リチウム・2水和物(分子量:102.02g/mol)103.0gのみを用いたこと以外は、参考例1と同様の操作を繰り返して、本例の正極活物質、正極及び電池を得た。
[比較例2〜比較例4]
正極活物質の調製において、リチウム、ニッケル、コバルト、マンガンの含有割合を変えたこと以外は、参考例1と同様の操作を繰り返して、本例の正極活物質、正極及び電池を得た。
[比較例5]
正極活物質の調製において、酢酸マンガン・4水和物(分子量:245.09g/mol)36.8gに代えて、チタンクエン酸錯体水溶液(Ti濃度:TiO(分子量:79.87g/mol)として6.0質量%)199.7gを用いたこと以外は、比較例1と同様の操作を繰り返して、本例の正極活物質、正極及び電池を得た。各例の仕様の一部を表1に示す。
Figure 0006570923
[性能評価]
上記各例のパウチセルを用いて、以下の各種性能を室温(25℃)下で評価した。
[0.1C容量評価]
0.1Cレートにて最高電圧が4.35Vとなるまで定電流充電法により充電した。次いで、約0.5時間保持(休止)した。しかる後、電池の最低電圧が2.5Vとなるまで0.1Cレートで定電流放電法により放電した。このときの0.1Cレートでの放電容量を「0.1C放電容量(mAh/g)」とした。得られた結果を表1に併記する。
[レート特性評価]
1.0Cレートにて最高電圧が4.35Vとなるまで定電流定電圧充電法により充電した。次いで、約0.5時間保持(休止)した。しかる後、電池の最低電圧が2.5Vとなるまで0.2Cレートで定電流放電法により放電した。このときの0.2Cレートでの放電容量を「0.2C放電容量(mAh/g)」とした。
また、1.0Cレートにて最高電圧が4.35Vとなるまで定電流定電圧充電法により充電した。次いで、約0.5時間保持(休止)した。しかる後、電池の最低電圧が2.5Vとなるまで2.0Cレートで定電流放電法により放電した。このときの2.0Cレートでの放電容量を「2.0C放電容量(mAh/g)」とした。
0.2C放電容量に対する2.0C放電容量の割合を「2.0C/0.2C容量維持率(%)」とした(数式(1)参照。)。得られた結果を表1に併記する。
Figure 0006570923
[サイクル耐久性評価]
電池のサイクル耐久性試験は、1.0Cでの定電流充放電を、25℃で100サイクルを繰り返した。サイクル耐久性試験における電池の性能評価は、充電は、活物質重量当たりの充電容量が180mAh/gとなるように制御する定電流充電法とし、放電は、電池の最低電圧が2.0Vとなるまで1.0Cレートで放電する定電流放電法で行った。1サイクル後の放電容量に対する100サイクル後の放電容量の割合を「100サイクル後容量維持率(%)」(数式(2)参照。)とした。得られた結果を表1に併記する。
Figure 0006570923
表1から、本発明の範囲に属する実施例8〜実施例13は、本発明外の比較例1〜比較例5と比較して、放電容量とレート特性が維持できており、サイクル耐久性が優れていることが分かる。これは、組成式(1)で表される正極活物質を用いたためと考えられる。
参考例1〜参考例7、実施例8〜実施例13の正極活物質のX線回折(XRD)測定においては、層状岩塩型(α−NaFeO)構造を示す、18−20°(003)、36−37°(101)、37−38°(006)、38−39°(012)、44−45°(104)及び64−65(108)/65−66(110)の位置に観察される回折ピークが、Ti、Zr、Sn又はAlが含まれることにより、低角度側へシフトした位置に観察された。また、このX線回折(XRD)測定においては、例えば不純物等に由来する他の回折ピークが実質的に観察されなかった。このような結果から、参考例1〜参考例7、実施例8〜実施例13において、放電容量及びレート特性を維持しつつ、高いサイクル耐久性を実現できたのは、上述のような回折パターンを有するためとも考えられる。
そして、組成式(1)において、例えば、1−a−b−cが0.75以上0.80未満の場合、X/(Mn+X)は0.50以上であることが好ましく、また、X/Mnは1.0以上であることが好ましい。
また、組成式(1)において、例えば、1−a−b−cが0.80以上0.85未満の場合、X/(Mn+X)は0.33以下であることが好ましく、また、X/Mnは0.5以下であることが好ましい。
さらに、組成式(1)において、例えば、1−a−b−cが0.85以上0.90以下の場合、cは0.03〜0.08であることが好ましく、そして、X/(Mn+X)は0.23以上であることが好ましく、また、X/Mnは0.3以上であることが好ましい。
また、参考例1〜参考例7、実施例8〜実施例13において、3.5V程度の高い平均電圧を示したが、XとしてTiを適用した場合には、特に高い平均電圧を示した(下記試験例7参照。)。
図5は、若干の試験例で得られたリチウムイオン二次電池における平均電圧を示すグラフである。図中の試験例6〜試験例10は、それぞれ、上記実施例におけるリチウムイオン二次電池用正極活物質の調製と同様の操作により調製したLiNi0.75Co0.1Mn0.15、LiNi0.75Co0.1Mn0.10Ti0.05、LiNi0.75Co0.1Mn0.05Ti0.10、LiNi0.75Co0.1Ti0.15及びLiNi0.8Co0.05Mn0.15を用いて、所定の電池を作製したものである。なお、試験例7及び試験例8は、本発明の範囲に含まれる。試験例6〜試験例10の電池について、1.0Cレートにて最高電圧が4.35Vとなるまで定電流定電圧充電法により充電し、約0.5時間保持(休止)し、電池の最低電圧が2.5Vとなるまで0.2C、0.5C、1.0C、2.0Cレートで定電流放電法により放電し、平均放電電圧(V)を算出した(数式(3)参照。)。
Figure 0006570923
以上、本発明を若干の実施形態及び実施例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
上記実施形態及び実施例においては、リチウムイオン二次電池として、積層型(但し、実施例においては単層である。)の電池要素をラミネートフィルムからなる外装体で密封した積層型・ラミネート型電池を例示したが、これに限定されるものではない。すなわち、従来公知の形態や構造を有するリチウムイオン二次電池に対しても適用することができ、例えば、積層型又は巻回型の電池要素を角形の金属缶からなる外装体で密封したリチウムイオン二次電池や、巻回型の電池要素を円筒形の金属缶からなる外装体で密封したリチウムイオン二次電池などを挙げることができる。なお、巻回型の電池要素を円筒形の金属缶からなる外装体で密封したリチウムイオン二次電池においては、タブに代えて、例えば、金属缶を利用して端子を形成すればよい。
1 リチウムイオン二次電池
10 電池要素
11 正極
11A 正極集電体
11B 正極活物質層
12 負極
12A 負極集電体
12A’ 最外層負極集電体
12B 負極活物質層
13 非水電解質層
14 単電池層
21 正極タブ
22 負極タブ
30 外装体

Claims (8)

  1. 下記の組成式(1)
    Li 1−a−b−cCoMn・・・(1)
    (組成式(1)中、Xは、Ti、Zr、Sn及びAlからなる群より選ばれた少なくとも1種、zは、原子価を満足する酸素数を示し、xが、1.02≦x≦1.1、1−a−b−cが、0.75≦1−a−b−c≦0.90、aが、0<a≦0.10、bが、0.05≦b≦0.20、cが、0.01≦c≦0.10、X/(Mn+X)が、0.1≦X/(Mn+X)≦0.8の関係を満足する。)で表されることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質。
  2. 上記組成式(1)中、X/(Mn+X)が、0.1≦X/(Mn+X)≦0.62の関係を満足することを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
  3. 上記組成式(1)中、XがTiを示すことを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
  4. 上記組成式(1)中、cが、0.01≦c≦0.08の関係を満足することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
  5. Cu−Kα線を用いたX線回折(XRD)測定において、層状岩塩型(α−NaFeO)構造を示す、18−20°(003)、36−37°(101)、37−38°(006)、38−39°(012)、44−45°(104)及び64−65(108)/65−66(110)の位置に表れる回折ピークが、上記Xが含まれることにより、低角度側へシフトした位置に表れることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
  6. 上記組成式(1)中、X/Mnが、0.05≦X/Mn≦2.0の関係を満足することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
  7. 請求項1〜6のいずれか1つの項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極。
  8. 請求項7に記載のリチウムイオン二次電池用正極と、リチウムイオンを吸蔵及び放出できる負極活物質を含むリチウムイオン二次電池用負極と、該リチウムイオン二次電池用正極と該リチウムイオン二次電池用負極との間に配設された非水電解質層と、を備えたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
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