JP6533458B2 - コンクリート構造物の異物検査システム、異物検査装置及び異物検査方法 - Google Patents

コンクリート構造物の異物検査システム、異物検査装置及び異物検査方法 Download PDF

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Description

本発明は、コンクリート構造物の異物検査システム、異物検査装置及び異物検査方法に関し、特に、超音波を用いてコンクリート構造物の内部の異物(傷、ジャンカ等を含む)を検査する非破壊検査技術に関する。
従来、コンクリート構造物に内在する異物(傷、ジャンカ等)の非破壊検査の一つとして、コンクリート構造物の表面に一組の超音波探触子を配設し、一方の探触子からコンクリート構造物に超音波を伝播させ、コンクリート構造物に内在する異物からの反射波を他方の探触子で受振することで探傷を行う超音波探傷検査という手法が公知である。この検査においては、超音波は波長が短いほど分解能が向上することが知られている。
通常、超音波は密度変化を使用して伝播する縦波(疎密波)であるため、上記超音波探傷検査においてコンクリート構造物に垂直に縦波のまま入射させると、コンクリート構造物に異物の存在する孔隙が有る場合、孔隙の上面で反射し易いために減衰して底面まで届かず、底面での反射波を得難いという問題がある。孔隙の底面での反射波を得られないと、コンクリート構造物中の異物を十分に検出できず、好ましいことではない。この問題は、波長が短くなるほど顕著である。
一方、横波(せん断波)は一般に孔隙の影響を受け難いという特性を有していることが知られている。そこで、例えばコンクリート構造物に超音波を斜角に入射させることでコンクリート構造物の内部に縦波(疎密波)ではなく横波(せん断波)を伝播させることが考えられている。
また、最近では、海水中で海底に向けて発震した低周波(例えば、10〜300Hz)の音波を海底で横波に変換し、海底の状態に拘わらず地中に良好に横波を伝播させ、地中に埋蔵された海底資源の安定した探査を可能とした海底資源探査技術が知られている(特許文献1)。
特開2014−137320号公報
上記横波(せん断波)を用いた超音波探傷検査において、超音波探触子をコンクリート構造物の表面に設置し超音波を斜角に入射させてコンクリート構造物の内部に横波を生起させようとする場合、コンクリート構造物の表面に凹凸等があると、屈折角度が安定せず超音波の入射強度が低下するなどし、横波をコンクリート構造物の表面に対し垂直に伝播させることが難しいという問題がある。このように横波をコンクリート構造物の表面に対し垂直に伝播させることができないと、反射波を安定して受振することができず、好ましいことではない。
また、上記特許文献1に開示の技術は、海中(水中)で低周波(例えば、10〜300Hz)の音波を発震して海底資源を探査する技術であり、探査する対象も海底資源であってコンクリート構造物に内在する異物とは大きく異なる。
本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、コンクリート構造物の内部の異物を横波(せん断波)を用いて確実に検査可能なコンクリート構造物の異物検査システム、異物検査装置及び異物検査方法を提供することを目的とする。
上記の目的を達成するため、本発明に係るコンクリート構造物の異物検査システムは、コンクリート構造物の表面の一部または全体を浸す液体と、各振動子が前記液体に浸るよう設けられ、前記コンクリート構造物に向けて疎密波からなる超音波を前記各振動子から発震する複数の超音波探触子と、受振部が前記液体に浸るよう設けられ、前記超音波の反射波を受振する受振器と、前記複数の超音波探触子から各々発震される前記超音波の位相をそれぞれ制御する制御装置と、前記受振器からの受振情報を解析し前記コンクリート構造物の内部の異物を認識する解析装置とを備え、前記制御装置は、前記コンクリート構造物の表面でせん断波が生起されて該せん断波が前記コンクリート構造物の内部を伝播するよう、前記複数の超音波探触子から各々発震される前記超音波間に位相差を付与し、前記受振器は、前記コンクリート構造物の内部で反射して前記コンクリート構造物の表面でせん断波から疎密波に変換されて前記液体中を伝播する超音波を反射波として受振する。
好ましくは、前記制御装置は、前記複数の超音波探触子から各々発震される前記超音波間に半周期の位相差を付与するのがよい。
好ましくは、前記複数の超音波探触子は、前記複数の超音波探触子から各々発震される前記超音波同士が前記コンクリート構造物の表面で重なり合うように、前記複数の超音波探触子の前記各振動子間の距離、及び、前記各振動子から前記コンクリート構造物の表面までの距離が設定されるのがよい。
好ましくは、前記複数の超音波探触子は、一対の超音波探触子であるのがよい。
また、本発明に係るコンクリート構造物の異物検査装置は、コンクリート構造物の表面上に載置され、該表面上に液体を溜める枠状の液槽部と、各振動子が前記コンクリート構造物の表面に臨んで前記液槽部に溜めた前記液体に浸るよう並列に設けられ、前記コンクリート構造物に向けて超音波を前記各振動子から発震する一対の発震用超音波探触子と、受振部が前記液体に浸るよう設けられ、前記超音波の反射波を受振する受振用超音波探触子と、前記一対の発震用超音波探触子及び前記受振用超音波探触子を前記コンクリート構造物の表面に沿い移動可能に支持する支持部材と、前記一対の発震用超音波探触子から各々発震される超音波の位相をそれぞれ制御する制御部と、前記受振用超音波探触子からの受振情報を解析し前記コンクリート構造物の内部の異物を認識する解析部とを備える。
好ましくは、前記受振用超音波探触子は、前記受振部を一つ有し、前記一対の発震用超音波探触子とは独立して移動可能に前記支持部材に支持されてなるのがよい。
好ましくは、前記液槽部は、前記コンクリート構造物の表面と密接する底部を有して構成されるのがよい。
また、本発明に係るコンクリート構造物の異物検査方法では、複数の超音波探触子から各々発震される超音波の位相をそれぞれ制御する制御工程と、各振動子がコンクリート構造物の表面の一部または全体を浸す液体に浸るよう設けられた前記複数の超音波探触子の前記各振動子から、前記コンクリート構造物に向けて、前記位相の制御された疎密波からなる超音波を発震する発震工程と、受振部が前記液体に浸るよう設けられた受振器で前記超音波の反射波を受振する受振工程と、前記受振器からの受振情報を解析し前記コンクリート構造物の内部の異物を認識する解析工程とを有し、前記制御工程では、前記コンクリート構造物の表面でせん断波が生起されて該せん断波が前記コンクリート構造物の内部を伝播するよう、前記超音波間に位相差を付与し、前記受振工程では、前記コンクリート構造物の内部で反射して前記コンクリート構造物の表面でせん断波から疎密波に変換されて前記液体中を伝播する超音波を反射波として受振する。
本発明のコンクリート構造物の異物検査システム、異物検査装置及び異物検査方法によれば、コンクリート構造物の内部にせん断波を伝播させることで、疎密波では検査し難かった異物の下面をも確認することができ、コンクリート構造物の内部に存在する異物の位置や大きさを良好に認識することができる。
特に、コンクリート構造物の表面を浸す液体中で複数の超音波探触子の各振動子からコンクリート構造物に向けて位相差を有した疎密波からなる超音波を発震し、コンクリート構造物の表面においてせん断波を生起させるようにしているので、従来問題とされた超音波自体の屈折角度を考慮することなく、即ちコンクリート構造物の表面の凹凸等の影響を受けることなく、コンクリート構造物の表面に対し垂直なせん断波をコンクリート構造物の内部に確実に伝播させることができ、受振器により分散の無い安定した反射波を受振でき、コンクリート構造物の内部に存在する異物の位置や大きさを精度良く認識することができる。
本発明に係るコンクリート構造物の異物検査システムの一実施形態としての異物検査装置の全体構成図である。 一対の発震用超音波探触子の各振動子の中心間距離である距離Lと各振動子からコンクリート構造物までの距離Xを示す図である。 一対の発震用超音波探触子から発震する各超音波のコンクリート構造物の表面への相対入射角度θ(a)及び相対入射角度θと横波の振幅との関係(b)を示す図である。 一対の発震用超音波探触子から発震した超音波のコンクリート構造物の表面での縦波から横波への変換状況(a)及びその詳細(b)を示す図である。 コンクリート構造物の内部で反射した反射波の受振用超音波探触子での受振状況(a)及びその詳細(b)を示す図である。 異物検査装置の変形例を示す図である。 異物検査装置を用いた実施例の実施状況を示す図である。 実施例における検査の流れを示す図である。 実施例における検査結果を画像で示す図である。 縦波を用いた比較例における検査結果を画像で示す図である。
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
図1は、本発明に係るコンクリート構造物の異物検査システムの一実施形態としての異物検査装置の全体構成図である。
異物検査装置10は、コンクリート構造物1の表面上に水(液体)28を溜めるための水槽部(液槽部)20と、水槽部20の外壁22の上端23にコンクリート構造物1の表面に沿って渡されたレール(支持部材)30と、レール30に沿い並列にレール30に懸垂(支持)されるとともにレール30に沿い移動可能な一対の発震用超音波探触子(超音波探触子)40、42と、同様にレール30に懸垂されてレール30に沿い移動可能な受振用超音波探触子(受振器)50と、制御ユニット60とから構成されている。
なお、コンクリート構造物には、アスファルトやモルタル等も含む。
水槽部20は、例えば樹脂製にして枠状の外壁22をコンクリート構造物1の表面上に載置するようにして構成されている。外壁22の下端周縁はコンクリート構造物1の表面と密接可能に例えば軟質の樹脂或いは軟質のラバー材等を一体或いは別体に備えて構成されており、これによりコンクリート構造物1の表面に凹凸があっても水槽部20に溜められた水の外部への漏洩が防止される。なお、軟質の樹脂或いは軟質のラバー材等に代えて、外壁22の下端周縁とコンクリート構造物1の表面との間に接着剤等のシール材を充填するようにしてもよい。
水槽部20は、検査したいコンクリート構造物1の大きさや範囲に応じて底面積が決定され、発震用超音波探触子40、42と受振用超音波探触子50の大きさや発震する超音波の特性や後述する設置条件等に応じて必要な水嵩が定まり、外壁22の高さH(図2参照)が決定されている。そして、異物検査時には、水28が水槽部20に上記必要な水嵩位置まで溜められる。
レール30は、コンクリート構造物1の検査したい場所に応じて水槽部20の外壁22の上端23上を自在に移動させることが可能に構成されている。
一対の発震用超音波探触子40、42は、超音波を発震する探触子であり、それぞれコンクリート構造物1の表面に向けて超音波を発震するよう各下面にコンクリート構造物1の表面に臨んで振動子41、43を有している。ここに、発震用超音波探触子40、42から発震する超音波の周波数は、数十kHzから数百kHzであり、検査したいコンクリート構造物1に応じて適宜設定される。そして、発震用超音波探触子40、42は、各振動子41、43の中心間距離が予め距離L(図2参照)に設定された状態でスライドブラケット32を介してレール30に一体に懸垂されており、レール30に沿い距離Lを保持した状態で一体的に移動可能に構成されている。異物検査時には、発震用超音波探触子40、42は、少なくとも各振動子41、43を水槽部20に溜められた水28に浸した状態とされる。
図2を参照すると、コンクリート構造物1に対する発震用超音波探触子40、42の設置条件、具体的には上記距離Lと発震用超音波探触子40、42の各振動子41、43からコンクリート構造物1までの距離X、ひいては水槽部20の外壁22の上端23、即ちレール30までの高さHとが示されており、設置条件である距離Lと距離Xについて説明する。
異物検査装置10では、水中で発震用超音波探触子40、42の各振動子41、43から発震した一対の縦波(疎密波)の超音波をコンクリート構造物1の表面で重ね合わせることでコンクリート構造物1の内部にコンクリート構造物1の表面に対し垂直な横波(せん断波)を伝播させる。このため、図2に示すように、一対の縦波の超音波同士がコンクリート構造物1の表面で確実に重なることが上記設置条件を定めるための要件とされる。
発震用超音波探触子40、42から発震する超音波は指向性を有しており、探触子の仕様に応じてその指向角φが超音波の特性等に基づき、次式(1)により設定されている。
φ=70×λ/D ・・・(1)
ここに、λは超音波の波長であり、Dは各振動子41、43の直径である。
ところで、コンクリート構造物1の内部に発生させる横波(せん断波)は振幅が大きいほど良好な異物検査が可能である。
図3を参照すると、発震用超音波探触子40、42から発震する各超音波のコンクリート構造物1の表面への相対入射角度θ(a)が模式的に示され、相対入射角度θと横波の振幅との関係(b)が実測値として示されている。
図3(b)に示すように、横波の振幅は発震用超音波探触子40、42から発震した一対の縦波の超音波同士のコンクリート構造物1の表面での相対入射角度θに依存し、相対入射角度θが90°に近いほど横波の振幅は大きくなり、良好な異物検査が可能である。
発震用超音波探触子40、42から同じ特性の超音波を発震する場合、この相対入射角度θの半分のθ/2は、即ち指向角φである。従って、好ましくは、発震用超音波探触子40、42から発震する超音波の指向角φはθ/2である45°に近いことが望ましい。
そして、一対の縦波の超音波をコンクリート構造物1の表面で重ね合わせるためには、図2に発震用超音波探触子40、42から発震する超音波の指向性の範囲を示すように、コンクリート構造物1の表面において各超音波同士が指向角φを有した指向性の範囲内で互いに重なり合う必要があり、この要件を満たすべく、次式(2)に基づき距離Lと距離Xとが適宜設定される。
2×X×tan(70×λ/D)>L−D ・・・(2)
実際には、発震用超音波探触子40、42は各筐体がそれぞれ一定の幅寸法を有していることから、距離Lは、当該発震用超音波探触子40、42の各筐体の幅寸法に応じて最小値が決定され、この最小値以上に設定される。そして、この距離Lの値に基づき距離Xが設定される。
なお、上述したように、発震用超音波探触子40、42から発震する各超音波のコンクリート構造物1の表面への相対入射角度θが90°に近いほど、即ち発震用超音波探触子40、42から発震する超音波の指向角φが45°に近いほど良好な異物検査が可能である。実際には、指向角φは45°未満であることが多く、指向角φが45°未満であるような場合には、相対入射角度θが90°に近くなるよう、発震用超音波探触子40、42の各振動子41、43の中心軸が互いに交差するように発震用超音波探触子40、42を傾けて設置するようにしてもよい。
このようにすれば、超音波の指向角φが45°未満と小さく、発震用超音波探触子40、42の筐体が比較的大きく距離Lを小さくすることが難しいような場合であっても、発震用超音波探触子40、42の各振動子41、43からコンクリート構造物1までの距離Xひいては水槽部20の外壁22の上端23までの高さHを小さく抑えつつ横波の振幅を大きくすることができる。外壁22の上端23までの高さHを抑えることができると、水槽部20を小さくでき、全体として異物検査装置10をコンパクトに構成しながら良好な異物検査を行うことが可能である。
相対入射角度θが90°となるように発震用超音波探触子40、42を傾けて設置する場合には、上記式(1)においてφ=70×λ/D=45°と仮定し、上記式(2)においてtan(70×λ/D)=tan45°=1とすることができ、次式(3)を得る。
2×X>L−D ・・・(3)
受振用超音波探触子50は、発震用超音波探触子40、42からコンクリート構造物1に向けて発震され、コンクリート構造物1の内部で反射した超音波の反射波を受振する探触子であり、下面に受振部51を有している。そして、受振用超音波探触子50は、スライドブラケット34を介してレール30に懸垂されており、レール30に沿い発震用超音波探触子40、42とは独立して移動可能に構成されている。異物検査時には、受振用超音波探触子50についても、少なくとも受振部51を水槽部20に溜められた水28に浸した状態とされる。発震用超音波探触子40、42については各振動子41、43からコンクリート構造物1までを距離Xとしたが、受振用超音波探触子50については、受振部51からコンクリート構造物1までの距離を上記距離Xとしてもよく、距離Xに限られず任意でよい。例えば、受振用超音波探触子50をコンクリート構造物1の表面に接触させるようにしてもよい。
なお、図中、発震用超音波探触子40、42に付された「T」は送信を意味し、受振用超音波探触子50に付された「R」は受振を意味する。また、発震用超音波探触子40、42や受振用超音波探触子50は防水処理の施された公知のものであり、それらの構成の詳細については説明を省略する。
制御ユニット60は、発震用超音波探触子40、42に発震信号を出力するとともに受振用超音波探触子50からの受振信号の入力を受けるパルサーレシーバ62と、発震信号及び受振信号をデジタル信号とアナログ信号間で変換するADボード64と、発震信号の位相制御や周波数制御を含む発震波形制御を行う発震波形制御部(制御装置、制御部)72及び受振信号の信号処理を行い受振信号の解析を実施して異物の認識を行う受振信号処理部(解析装置、解析部)74を有する制御用PC(パーソナルコンピュータ)70と、発震信号及び受振信号を監視したり信号処理したデータを画像として表示したりするためのモニタ80とを備えて構成されている。
以下、このように構成された異物検査装置10の作用について説明する。
図4を参照すると、発震用超音波探触子40、42から発震した超音波のコンクリート構造物1の表面での縦波から横波への変換状況(a)及びその詳細(b)が模式的に示され、図5を参照すると、コンクリート構造物1の内部で反射した反射波の受振用超音波探触子50での受振状況(a)及びその詳細(b)が模式的に示されている。
発震用超音波探触子40、42からは、それぞれ同一周波数且つ同一強度の同一特性を有した超音波が発震される。このとき、図4(a)に実線(+)と破線(−)で模式的に示すように、発震用超音波探触子40と発震用超音波探触子42とで位相の異なる超音波が発震される。
即ち、制御ユニット60の制御用PC70の発震波形制御部72において、発震用超音波探触子40からの超音波と発震用超音波探触子42からの超音波との間に位相差を付与し(制御工程)、発震用超音波探触子40から発震した超音波に対し、発震用超音波探触子42からは位相をずらして超音波が発震される(発震工程)。実際には、ここでは、発震用超音波探触子40からの超音波(+で示す)に対し発震用超音波探触子42からは半周期だけ位相をずらして、即ち逆位相の超音波(−で示す)が発震される。
このように発震用超音波探触子40、42からそれぞれ位相をずらして発震された超音波は、水中ではそれぞれ縦波(疎密波)として伝播し、相対入射角度θをもってコンクリート構造物1の表面で重なり合う。図4(a)の時点では、コンクリート構造物1の表面において、図4(b)に詳細を示すように、位相差により、図4(a)に実線(+)で示した発震用超音波探触子40からの超音波についてはコンクリート構造物1の表面を図面の右方向に押すようなせん断成分が生じ(実線矢印)、破線(−)で示した発震用超音波探触子42からの超音波についてはコンクリート構造物1の表面を図面の右方向に引っ張るようなせん断成分(破線矢印)が生じる。つまり、超音波の位相差により、縦波である超音波の進行方向における疎密の濃度が異なるため、一方が進行波で他方が後退波となり、コンクリート構造物1の表面には同一方向の増幅されたせん断成分が生じる(白抜き矢印)。
このようにコンクリート構造物1の表面で重なり合う超音波によって生じるせん断成分は、次第に図面の左方向に変化し、時間の経過につれて右方向と左方向とで振動が繰り返され、一定の振幅の横波(せん断波)が生起される。そして、この横波はコンクリート構造物1の内部を伝播する。発震用超音波探触子40、42からは、それぞれ同一周波数且つ同一強度の超音波が発震されることから、超音波がコンクリート構造物1の表面で生じるせん断成分は左右方向で均等であり、故に、この横波は、コンクリート構造物1の内部をコンクリート構造物1の表面に対し垂直方向に伝播する。
このように生起され、コンクリート構造物1の内部をコンクリート構造物1の表面に対し垂直方向に伝播する超音波の横波は、コンクリート構造物1の内部に異物等の反射源があると、図5(a)に示すように、そのまま垂直方向に反射波として反射してコンクリート構造物1の表面に戻る。このとき、反射波も横波であることから、コンクリート構造物1の表面が左右に振動し、水28を左右に振動させる。しかしながら、水中では横波は伝播しないことから、水中においては、コンクリート構造物1の表面に対し斜め方向に向けた縦波(疎密波)が生起される(実線矢印)。より詳しくは、図5(b)に示すように、コンクリート構造物1の内部からの反射波は、コンクリート構造物1の表面から左右斜め方向に向けて、コンクリート構造物1の表面に沿う方向で最大、垂直方向で最小となるような縦波(実線矢印)を水28に生じさせる。
そして、縦波に変換されたコンクリート構造物1の内部からの反射波が、受振用超音波探触子50によって受振される(受振工程)。なお、図5(a)では、上記図1の場合とは異なり、コンクリート構造物1の表面に沿う方向に複数の受振部51を配列し、各受振部51でそれぞれ受振強度の異なる反射波を一度に受振する受振用超音波探触子50を例示している。上記図1に示す単一の受振部51を有した受振用超音波探触子50の場合には、受振用超音波探触子50をレール30に沿い一定間隔P(図8参照)で順次移動させながら複数の地点で反射波を受振すればよい。ここに、一定間隔Pはコンクリート構造物1の厚さ等に応じて適宜設定される。なお、図1に示す単一の受振部51を有した受振用超音波探触子50で異物検査装置10を構成することで、安価にシステムを構成することが可能である。
コンクリート構造物1の一箇所での検査が終わると、発震用超音波探触子40、42はレール30に沿い移動させられ、順次検査が行われる。
受振用超音波探触子50によって受振された反射波は、制御ユニット60の制御用PC70の受振信号処理部74において信号処理されて解析され(解析工程)、例えば信号処理したデータが例えばコンクリート構造物1の深さ方向の画像としてモニタ80に表示される。これにより、モニタ80に表示された画像に基づき、コンクリート構造物1の内部に存在する異物の深さ方向の位置や大きさを解析することができる。
そして、上記一連の検査が、レール30を移動させることで繰り返し行われる。これにより、コンクリート構造物1の内部に存在する異物の平面方向の位置や大きさをも解析することができる。
このように、異物検査装置10では、発震用超音波探触子40、42から水中で縦波(疎密波)として発震した超音波をコンクリート構造物1の表面で横波(せん断波)に変換させ、この横波をコンクリート構造物1内にコンクリート構造物1の表面に対し垂直方向に伝播させることで異物の存在を解析することを可能としている。これにより、異物の位置や大きさを良好に解析することができる。即ち、上述したように、縦波(疎密波)の超音波の場合には、孔隙の主に上面のみで反射するために孔隙の底面からの反射波を得難く、結果的に孔隙内に存在する異物の上面の位置は解析できても異物の下面の位置を特定できないという問題があったのであるが、横波の場合には、この孔隙の影響を受け難く、故に孔隙の上面のみならず底面からの反射波を得やすく、コンクリート構造物1の内部に存在する異物の位置や大きさを良好に解析することができる。
また、従来、上述したように、発震用超音波探触子をコンクリート構造物の表面に設置し超音波を斜角に入射させてコンクリート構造物の内部に横波を生起させる場合、コンクリート構造物の表面に凹凸等があると、屈折角度が安定せず超音波の入射強度が低下する等し、横波をコンクリート構造物の表面に対し垂直に伝播させることが難しいという問題があった。しかしながら、異物検査装置10では、水中を伝播した一対の縦波(疎密波)の超音波の重ね合わせによりコンクリート構造物1の表面で横波(せん断波)を生起させることが可能であるので、超音波自体の屈折角度を考慮する必要がなく、故に、コンクリート構造物1の表面の凹凸等の影響を受けることなく、コンクリート構造物1の表面に対し垂直な横波をコンクリート構造物1の内部に確実に伝播させることができる。これにより、受振用超音波探触子50により分散の無い安定した反射波を受振でき、コンクリート構造物1の内部に存在する異物の位置や大きさを精度良く解析することができる。
なお、上記実施形態では、発震用超音波探触子40、42及び受振用超音波探触子50をレール30に沿い例えば手動で移動させるように構成しているが、発震用超音波探触子40、42及び受振用超音波探触子50をレール30に沿い自動で移動可能に構成するようにしてもよい。
また、上記実施形態では、発震用超音波探触子40、42及び受振用超音波探触子50をレール30に沿い例えば一方向に1次元で移動可能に構成したが、発震用超音波探触子40、42及び受振用超音波探触子50を2次元で移動可能にレール(支持部材)を構成するようにしてもよい。
また、上記実施形態では、水槽部20の外壁22の下端周縁に例えば軟質の樹脂或いは軟質のラバー材等を備え、水槽部20に溜められた水28の外部への漏洩を防止するようにしたが、必ずしも外壁22の下端周縁に軟質の樹脂或いは軟質のラバー材等を備えなくてもよい。この場合には、水槽部20の水28は外部へ漏洩し易くなるが、発震用超音波探触子40、42の各振動子41、43及び受振用超音波探触子50の受振部51が常に水28に浸された状態となるように、水槽部20へ水28を供給し続けるようにすればよい。
また、上記実施形態では、コンクリート構造物1の表面が上方向を向いている場合を例に、水槽部20に水を溜めるようにしてコンクリート構造物1の内部の異物を検査するようにしたが、コンクリート構造物1の表面が横方向や下方向を向いている場合であっても、例えば海や河川に構築された橋脚等にあっても、異物検査装置10を用いて良好に検査を行うことができる。即ち、海や河川に構築された橋脚等の場合には、周囲が水で満たされているので、水槽部20をコンクリート構造物1の表面に設置するだけで水槽部20の内部を水で満たすようにでき、異物検査装置10を適用することが可能である。
また、上記実施形態では、制御ユニット60により発震用超音波探触子40、42から発震する超音波に位相差を設けるように制御したが、例えばコンクリート構造物1の表面から発震用超音波探触子40の振動子41までの距離とコンクリート構造物1の表面から発震用超音波探触子42の振動子43までの距離とを違えることで超音波に位相差を設けることも可能である。
また、上記実施形態では、水槽部20に水を溜めるようにしたが、水槽部20に溜める液体は水に限られるものではない。
また、上記実施形態では、一対の発震用超音波探触子40、42として2個の発震用超音波探触子を用いて異物検査装置10を構成したが、発震用超音波探触子を3個以上の複数で構成することも可能である。これにより、横波の波形を自在に変化させることが可能である。
図6を参照すると、変形例として異物検査装置10’が示されている。
異物検査装置10’は、上記異物検査装置10と基本構成は同じであるものの、水槽部20’が枠状の外壁22とともに底部26を有して構成されている。即ち、異物検査装置10’は、コンクリート構造物1の表面に水ではなく底部26が接するように水槽部20’が構成されている。
底部26は、コンクリート構造物1の表面と密接するとともにコンクリート構造物1の表面上で滑らないような部材で構成される。ここでは、底部26は、例えばラバー材等で構成される。
このように、底部26を有した水槽部20’を備えた異物検査装置10’を用いると、水槽部20’に水を溜めた状態で水槽部20’を移動でき、異物検査装置10’のコンクリート構造物1の表面上への設置が容易となり、異物検査の作業性が向上する。
なお、このように底部26を有した水槽部20’を備えた異物検査装置10’であっても、発震用超音波探触子40、42から発震され水中を伝播する縦波の超音波は底部26の表面或いはコンクリート構造物1の表面にて良好に横波に変換され、横波としてコンクリート構造物1の内部に伝播し、上記同様の効果を得ることができる。
図7に実施状況を示すように、内部に異物としての砂層A、砂層B及び砂層Cが存在する縦2000mm、横2000mm、厚さ1500mmのコンクリート構造物101を上記図1の異物検査装置10を用いて検査した。
砂層A及び砂層Bについては、それぞれ縦500mm、横500mm、厚さ50mmの層であり、それぞれコンクリート構造物101の表面から300mmの位置に500mmの間隔を有し且つコンクリート構造物101の表面に対し平行となるよう存在させた。
砂層Cについては、縦1000mm、横1000mm、厚さ50mmの層であり、一部が上下方向で砂層A及び砂層Bと重なり、中心部がコンクリート構造物101の表面から750mmに位置し、コンクリート構造物101の表面に対し10°傾くように存在させた。
異物検査装置10の構成は上述したとおりであり、発震用超音波探触子40、42の各振動子41、43の直径Dを40mmとし、超音波の周波数を100kHzとし、各振動子41、43の中心間距離である距離Lは上記式(1)、(2)に基づき50mmに設定し、発震用超音波探触子40、42の各振動子41、43からコンクリート構造物1までの距離Xは30mmに設定した。また、受振用超音波探触子50は単一の受振部51を有して構成した。そして、水槽部20に水28を溜め、発震用超音波探触子40、42及び受振用超音波探触子50を完全に水に浸した状態とした。
検査は、発震用超音波探触子40、42から100kHzの超音波を発震し、図8に検査の流れを模式図で示すように、受振用超音波探触子50を6.25mmの一定間隔Pで順次移動させながら64箇所で反射波を受振するという作業を発震用超音波探触子40、42を6.25mmの一定間隔で移動させながら繰り返し行い、さらにこの一連の作業をレール30を移動させて繰り返し行った。この一連の作業における発震用超音波探触子40、42の移動範囲は、図7に示すように、位置S1から位置S2の1250mmの範囲とした。
図9は、上記検査により受振用超音波探触子50によって受振された受振波を制御ユニット60の制御用PC70において信号処理し、その深さ方向のデータをモニタ80に表示した画像である。
図9によれば、コンクリート構造物101の表面から300mm付近の位置に砂層A及び砂層Bの上面を明瞭に確認できるとともに、表面から350mm〜450mm付近の位置に砂層A及び砂層Bの下面を確認できる。また、コンクリート構造物101の表面から650mm〜800mm付近の位置に砂層Cの傾斜した上面を確認できるとともに表面から700mm〜900mm付近の位置に砂層Cの傾斜した下面を確認できる。
図10には、比較例として、上記コンクリート構造物101に対し上記図1の異物検査装置10を用いて例えば発震用超音波探触子40、42から縦波(疎密波)の超音波を横波を生起しないよう同位相でコンクリート構造物101の表面に垂直に発震し、縦波の超音波をコンクリート構造物101の内部に伝播させ、その縦波の反射波を信号処理し、その深さ方向のデータを図9と同様にモニタ80に表示した場合の画像を示す。
図10によれば、縦波の超音波をコンクリート構造物101の内部に伝播させる場合には、コンクリート構造物101の表面から200mm付近の位置に砂層A及び砂層Bの上面を確認できるものの、砂層A及び砂層Bの各下面については不明瞭であり、コンクリート構造物101の表面から450mm〜500mm付近の位置に砂層Cの上面の一部を確認できるものの、砂層Cの下面については不明瞭である。即ち、縦波の超音波をコンクリート構造物101の内部に伝播させた場合には、砂層A及び砂層Bの上面と思われる部分や砂層Cの上面と思われる部分の一部については確認できるものの、それらの位置は不正確であり、砂層A、砂層B及び砂層Cの何れについても下面の位置を確認できない。
このように、異物検査装置10によりコンクリート構造物101の内部に横波を生起させ伝播させた場合には、縦波の超音波をコンクリート構造物101の内部に伝播させた場合と比較し、確実に異物を検出することが可能であることが確認された。
1、101 コンクリート構造物
10、10’ 異物検査装置
20、20’ 水槽部(液槽部)
22 外壁
26 底部
28 水(液体)
30 レール(支持部材)
40、42 発震用超音波探触子(超音波探触子)
41、43 振動子
50 受振用超音波探触子(受振器)
51 受振部
60 制御ユニット
70 制御用PC
72 発震波形制御部(制御装置、制御部)
74 受振信号処理部(解析装置、解析部)
80 モニタ

Claims (8)

  1. コンクリート構造物の表面の一部または全体を浸す液体と、
    各振動子が前記液体に浸るよう設けられ、前記コンクリート構造物に向けて疎密波からなる超音波を前記各振動子から発震する複数の超音波探触子と、
    受振部が前記液体に浸るよう設けられ、前記超音波の反射波を受振する受振器と、
    前記複数の超音波探触子から各々発震される前記超音波の位相をそれぞれ制御する制御装置と、
    前記受振器からの受振情報を解析し前記コンクリート構造物の内部の異物を認識する解析装置とを備え、
    前記制御装置は、前記コンクリート構造物の表面でせん断波が生起されて該せん断波が前記コンクリート構造物の内部を伝播するよう、前記複数の超音波探触子から各々発震される前記超音波間に位相差を付与し、
    前記受振器は、前記コンクリート構造物の内部で反射して前記コンクリート構造物の表面でせん断波から疎密波に変換されて前記液体中を伝播する超音波を反射波として受振する、コンクリート構造物の異物検査システム。
  2. 前記制御装置は、前記複数の超音波探触子から各々発震される前記超音波間に半周期の位相差を付与する、請求項1に記載のコンクリート構造物の異物検査システム。
  3. 前記複数の超音波探触子は、前記複数の超音波探触子から各々発震される前記超音波同士が前記コンクリート構造物の表面で重なり合うように、前記複数の超音波探触子の前記各振動子間の距離、及び、前記各振動子から前記コンクリート構造物の表面までの距離が設定される、請求項1または2に記載のコンクリート構造物の異物検査システム。
  4. 前記複数の超音波探触子は、一対の超音波探触子である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のコンクリート構造物の異物検査システム。
  5. コンクリート構造物の表面上に載置され、該表面上に液体を溜める枠状の液槽部と、
    各振動子が前記コンクリート構造物の表面に臨んで前記液槽部に溜めた前記液体に浸るよう並列に設けられ、前記コンクリート構造物に向けて超音波を前記各振動子から発震する一対の発震用超音波探触子と、
    受振部が前記液体に浸るよう設けられ、前記超音波の反射波を受振する受振用超音波探触子と、
    前記一対の発震用超音波探触子及び前記受振用超音波探触子を前記コンクリート構造物の表面に沿い移動可能に支持する支持部材と、
    前記一対の発震用超音波探触子から各々発震される超音波の位相をそれぞれ制御する制御部と、
    前記受振用超音波探触子からの受振情報を解析し前記コンクリート構造物の内部の異物を認識する解析部と、
    を備えた、コンクリート構造物の異物検査装置。
  6. 前記受振用超音波探触子は、前記受振部を一つ有し、前記一対の発震用超音波探触子とは独立して移動可能に前記支持部材に支持されてなる、請求項5に記載のコンクリート構造物の異物検査装置。
  7. 前記液槽部は、前記コンクリート構造物の表面と密接する底部を有して構成される、請求項5または6に記載のコンクリート構造物の異物検査装置。
  8. 複数の超音波探触子から各々発震される超音波の位相をそれぞれ制御する制御工程と、
    各振動子がコンクリート構造物の表面の一部または全体を浸す液体に浸るよう設けられた前記複数の超音波探触子の前記各振動子から、前記コンクリート構造物に向けて、前記位相の制御された疎密波からなる超音波を発震する発震工程と、
    受振部が前記液体に浸るよう設けられた受振器で前記超音波の反射波を受振する受振工程と、
    前記受振器からの受振情報を解析し前記コンクリート構造物の内部の異物を認識する解析工程とを有し、
    前記制御工程では、前記コンクリート構造物の表面でせん断波が生起されて該せん断波が前記コンクリート構造物の内部を伝播するよう、前記超音波間に位相差を付与し、
    前記受振工程では、前記コンクリート構造物の内部で反射して前記コンクリート構造物の表面でせん断波から疎密波に変換されて前記液体中を伝播する超音波を反射波として受振する、コンクリート構造物の異物検査方法。
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