JP6409619B2 - 遷移金属複合水酸化物粒子とその製造方法、非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、および、非水系電解質二次電池 - Google Patents

遷移金属複合水酸化物粒子とその製造方法、非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、および、非水系電解質二次電池 Download PDF

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Description

本発明は、遷移金属複合水酸化物粒子とその製造方法、この遷移金属複合水酸化物粒子を前駆体とする非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、および、非水系電解質二次電池に関する。
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギ密度を有する小型で軽量な非水系電解質二次電池の開発が強く望まれている。また、モータ駆動用電源、特に輸送機器用電源の電池として高出力の二次電池の開発が強く望まれている。これらの要求を満たす二次電池として、非水系電解質二次電池の一種であるリチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池は、負極、正極、電解液などにより構成され、負極および正極の材料として、リチウムを脱離および挿入することが可能な活物質が用いられている。
非水系電解質二次電池については、現在、研究開発が盛んに行われており、特に、層状またはスピネル型のリチウム遷移金属複合酸化物粒子を正極活物質として用いた非水系電解質二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギ密度を有する電池として実用化が進んでいる。
このような非水系電解質二次電池の正極材料として、現在、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)粒子、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2)粒子、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/32)粒子、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn24)粒子、リチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNi0.5Mn0.52)粒子などのリチウム遷移金属複合酸化物粒子が提案されている。
ところで、これらのリチウム遷移金属複合酸化物粒子を用いた二次電池を自動車などのモータ駆動用電源に適用する場合には、出力特性をさらに改善すること、すなわち、二次電池の正極抵抗(インピーダンス)を改善することが必要となる。この課題を解決するための方法の一つとして、リチウム遷移金属複合酸化物粒子に異種元素を添加することが検討されている。
たとえば、特開2012−79464号公報には、正極活物質の低抵抗化には、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)およびレニウム(Re)などの高価数をとることができる遷移金属が有用である旨が記載されている。特に、この文献では、高容量かつ高出力が得られる正極活物質として、一般式LiNi1-x-yCo(ただし、0.10≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.97≦z≦1.20、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表される一次粒子および前記一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるリチウム金属複合酸化物であって、このリチウム金属複合酸化物を構成する一次粒子の表面に、タングステンおよびリチウムを含む微粒子を存在させたことを特徴とする正極活物質が提案されている。しかしながら、タングステンやモリブデンなどは比較的希少で高価であるため、この文献に記載の技術では、製造コストの上昇は免れない。
これに対して、特開2006−54159号公報や特開2006−127955号公報では、一般式:LixNi1-p-q-rCopAlqArO2-y(ただし、式中のx、p、q、r、yの値の範囲は、0.8≦x≦1.3、0<p≦0.2、0<q≦0.1、0<r≦0.1、−0.3<y<0.1であり、式中のAは、Ti、In、Cr、Fe、Sn、Cu、Zn、Mn、Mg、Ga、Ni、Co、Zr、Bi、Ge、Nb、Ta、Be、Ca、Sr、Ba、Scからなる群から選択された少なくとも一種の元素を示す)で表され、単結晶で平均粒子径が2μm〜8μmである一次粒子、あるいは、1μm〜3μmの一次粒子が凝集または焼結した平均粒子径5μm〜20μmの球状または楕円球状の二次粒子からなる正極活物質が提案されている。このような正極活物質は、電解液との反応性が低く、かつ、内部の電気抵抗も低いため、二次電池として用いた場合に出力特性とサイクル特性を同時に向上させることができる。なお、この文献によれば、この正極活物質は、コバルトおよびアルミニウムを含有するニッケル化合物またはアルミニウム化合物によって被覆されたコバルト含有ニッケル化合物に、一次粒子の粒成長を促進することを目的に、無機塩化物または無機塩化酸化物を加えて焙焼した後、さらにリチウム化合物を加えて焼成することにより得られる。
しかしながら、このような正極活物質であっても、短時間に高出力が要求される、自動車などのモータ駆動用電源に適用することを前提とした場合には、出力特性が十分であるとはいえない。あるいは、出力特性の改善に伴い、放電容量が大幅に低下するといった問題がある。
特開2012−79464号公報 特開2006−54159号公報 特開2006−127955号公報
本発明は、タングステンやモリブデンなどの比較的希少で高価な金属を添加せずとも、出力特性と放電容量を同時に改善可能な正極活物質とその製造方法、および、この正極活物質の前駆体である遷移金属複合水酸化物粒子とその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、この正極活物質を用いた非水系電解質二次電池を提供することを目的とする。
本発明の遷移金属複合水酸化物粒子は、一般式:Ni1-x-yCoxyCuzClw(OH)2(ただし、0.10≦x≦0.35、0<y≦0.35、0<z≦0.0002、0<w≦0.0005、Mは、Mn、Al、Mg、CaおよびNaの群から選ばれる少なくとも1種の添加元素)で表され、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなる遷移金属複合水酸物粒子であって、前記二次粒子の平均粒径は4μm〜6μmの範囲にあり、かつ、前記二次粒子の中心領域における、ニッケルの質量パーセント濃度に対する銅の質量パーセント濃度の比を[Cu/Ni]c0、該二次粒子の表面領域における、ニッケルの質量パーセント濃度に対する銅の質量パーセント濃度を[Cu/Ni]s0とした場合において、[Cu/Ni]c0に対する[Cu/Ni]s0の比が0.95〜1.05の範囲にあることを特徴とする。
前記二次粒子の中心領域における、ニッケルの質量パーセント濃度に対する塩素の質量パーセント濃度の比を[Cl/Ni]c0、該二次粒子の表面領域における、ニッケルの質量パーセント濃度に対する塩素の質量パーセント濃度を[Cl/Ni]s0とした場合において、[Cl/Ni]c0に対する[Cl/Ni]s0の比が0.95〜1.05の範囲にあることが好ましい。
本発明の遷移金属複合水酸化物粒子の製造方法は、一般式:Ni1-x-yCoxyCuzClw(OH)2(ただし、0.10≦x≦0.35、0<y≦0.35、0<z≦0.0002、0<w≦0.0005、Mは、Mn、Al、Mg、CaおよびNaの群から選ばれる少なくとも1種の添加元素)で表され、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなる遷移金属複合水酸化物粒子の製造方法であって、少なくともニッケル、コバルト、添加元素M、銅および塩化物イオンを含み、該コバルトに対する塩化物イオンのモル比が1.8〜2.2の範囲にある混合水溶液を、温度が40℃〜60℃の範囲に、かつ、25℃基準におけるpH値が10.5を超えて12.0未満の範囲に維持された反応槽内に供給する、晶析工程を備えることを特徴とする。
前記晶析工程で得られた遷移金属複合水酸化物粒子をろ過した後、水洗する、水洗工程をさらに備えることが好ましい。
前記晶析工程で得られた遷移金属複合水酸化物粒子を、100℃〜200℃に加熱して乾燥させる、乾燥工程をさらに備えることが好ましい。
本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質は、一般式:LiuNi1-x-yCoxyCuzClw2(ただし、0.97≦u≦1.10、0.10≦x≦0.35、0<y≦0.35、0<z≦0.0002、0<w≦0.0005、Mは、Mn、Al、Mg、CaおよびNaの群から選ばれる少なくとも1種の添加元素)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物粒子からなる正極活物質であって、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなり、前記二次粒子の平均粒径は4μm〜6μmの範囲にあり、かつ、前記二次粒子の中心領域における、ニッケルの質量パーセント濃度に対する銅の質量パーセント濃度の比を[Cu/Ni]c1、該二次粒子の表面領域における、ニッケルの質量パーセント濃度に対する銅の質量パーセント濃度を[Cu/Ni]s1とした場合において、[Cu/Ni]c1に対する[Cu/Ni]s1の比が0.95〜1.05の範囲にあることを特徴とする。
前記二次粒子の中心領域における、ニッケルの質量パーセント濃度に対する塩素の質量パーセント濃度の比を[Cl/Ni]c1、該二次粒子の表面領域における、ニッケルの質量パーセント濃度に対する塩素の質量パーセント濃度を[Cl/Ni]s1とした場合において、[Cl/Ni]c1に対する[Cl/Ni]s1の比が0.95〜1.05の範囲にあることが好ましい。
前記焼成工程における焼成温度を850℃〜950℃とする、請求項8に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法は、前記遷移金属複合水酸化物粒子とリチウム化合物とを、ニッケル、コバルトおよび添加元素Mの原子数の合計に対するリチウムの原子数が0.97〜1.10となるように混合して、リチウム混合物を得る、混合工程と、前記リチウム混合物を、酸化性雰囲気下で、好ましくは850℃〜950で焼成する、焼成工程と、を備えることを特徴とする。
本発明の非水系電解質二次電池は、正極と、負極と、セパレータと、非水系電解質とを備え、前記正極の正極材料として、前記非水系電解質二次電池用正極活物質が用いられていることを特徴とする。
本発明によれば、タングステンやモリブデンなどの比較的希少で高価な金属を添加せずとも、出力特性と放電容量を同時に改善可能な正極活物質とその製造方法、および、この正極活物質の前駆体である遷移金属複合水酸化物粒子とその製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、この正極活物質を用いた非水系電解質二次電池を提供することができる。したがって、本発明によれば、高出力で高容量の非水系電解質二次電池を低コストで量産可能となるため、その工業的意義はきわめて大きい。
図1は、実施例1で得られた正極活物質を示すSEM像(10000倍)である。 図2は、電池評価に使用した2032型コイン型電池の概略断面図である。 図3は、インピーダンス評価の測定例と解析に使用した等価回路の概略説明図である。
本発明者らは、タングステンやモリブデンなどの比較的希少で高価な金属を添加せずに、リチウム遷移金属複合酸化物粒子(以下、「リチウム複合酸化物粒子」という)からなる正極活物質を用いた二次電池の出力特性や放電容量をさらに改善するために、鋭意研究を重ねた。この結果、ニッケルおよびリチウムを含有するリチウム複合酸化物粒子に、微量の銅および塩素を添加し、かつ、銅、好ましくは銅および塩素を均一に分散させることにより、二次電池の出力特性および放電容量を同時に向上させることができるとの知見を得た。本発明は、この知見に基づき完成されたものである。
1.複合水酸化物粒子とその製造方法
1−1.複合水酸化物粒子
本発明の遷移金属複合水酸化物粒子(以下、「複合水酸化物粒子」という)は、一般式:Ni1-x-yCoxyCuzClw(OH)2(ただし、0.10≦x≦0.35、0<y≦0.35、0<z≦0.0002、0<w≦0.0005、Mは、Mn、Al、Mg、CaおよびNaの群から選ばれる少なくとも1種の添加元素)で表され、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなることを特徴とする。また、この複合水酸化物粒子は、二次粒子の平均粒径は4μm〜6μmの範囲にあり、かつ、二次粒子の中心領域における、ニッケルの質量パーセント濃度に対する銅の質量パーセント濃度の比を[Cu/Ni]c0、二次粒子の表面領域における、ニッケルの質量パーセント濃度に対する銅の質量パーセント濃度を[Cu/Ni]s0とした場合において、[Cu/Ni]c0に対する[Cu/Ni]s0の比が0.95〜1.05の範囲にあることを特徴とする。
(1)組成
本発明の複合水酸化物粒子は、一般式:Ni1-x-yCoxyCuzClw(OH)2(ただし、0.10≦x≦0.35、0<y≦0.35、0<z≦0.0002、0<w≦0.0005、Mは、Mn、Al、Mg、CaおよびNaの群から選ばれる少なくとも1種の添加元素)で表される。なお、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、添加元素M、銅(Cu)および塩素(Cl)の含有量およびその臨界的意義については、後述する正極活物質の場合と同様であるため、ここでの説明は省略する。
(2)粒子構造および平均粒径
本発明の複合水酸化物粒子は、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子により構成される。この二次粒子は、略球状であることが好ましい。ここで、略球状の二次粒子とは、球状または楕円球状など、丸みを帯びた塊状の二次粒子を意味し、その表面に微細な凹凸を有する二次粒子も含まれる。
二次粒子の平均粒径は、4μm〜6μm、好ましくは4.3μm〜5.7μm、より好ましくは4.6μm〜5.4μmの範囲にあることが必要となる。平均粒径をこのような範囲に制御することにより、後述する正極活物質の平均粒径を適切な範囲に制御することが可能となる。これに対して、平均粒径が4μm未満では、ろ過に長時間を要するばかりでなく、乾燥後の複合水酸化物粒子が飛散しやすくなる。一方、平均粒径が6μmを超えると、この複合水酸化物粒子を前駆体とする正極活物質の粗大化を招くこととなる。
なお、複合水酸化物粒子の粒子構造は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた観察により確認することができる。また、本発明において、平均粒径とは、体積基準平均粒径(MV)を意味し、たとえば、レーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。
(3)銅および塩素の分布
本発明の複合水酸化物粒子は、結晶構造中に、銅が均一に分散していることを特徴とする。具体的には、二次粒子の中心領域における、ニッケルの質量パーセント濃度に対する銅の質量パーセント濃度の比を[Cu/Ni]c0、二次粒子の表面領域における、ニッケルの質量パーセント濃度に対する銅の質量パーセント濃度を[Cu/Ni]s0とした場合において、[Cu/Ni]c0に対する[Cu/Ni]s0の比([Cu/Ni]s0/[Cu/Ni]c0)が0.95〜1.05、好ましくは0.97〜1.02、より好ましくは0.98〜1.01の範囲にあることを特徴とする。
また、複合水酸化物粒子に含まれる塩素についても、同様に、結晶構造中に均一に分散していることが好ましい。具体的には、二次粒子の中心領域における、ニッケルの質量パーセント濃度に対する塩素の質量パーセント濃度の比を[Cl/Ni]c0、二次粒子の表面領域における、ニッケルの質量パーセント濃度に対する塩素の質量パーセント濃度を[Cl/Ni]s0とした場合において、[Cl/Ni]c0に対する[Cl/Ni]s0の比([Cl/Ni]s0/[Cl/Ni]c0)が、好ましくは0.95〜1.05、より好ましくは0.97〜1.02、さらに好ましくは0.98〜1.01の範囲にある。
このように、複合水酸化物粒子中に銅、好ましくは銅および塩素を均一に分散させることによって、これを前駆体とする正極活物質においても、銅、好ましくは銅および塩素を均一に分散させることが可能となる。
なお、[Cu/Ni]s0/[Cu/Ni]c0および[Cl/Ni]s0/[Cl/Ni]c0の臨界的意義、二次粒子の中心領域におけるニッケル、銅および塩素の質量パーセント濃度、ならびに、二次粒子の表面領域におけるニッケル、銅および塩素の質量パーセント濃度の算出方法については、後述する正極活物質の場合と同様であるため、ここでの説明は省略する。
1−2.複合水酸化物粒子の製造方法
本発明の複合水酸化物粒子の製造方法は、一般式:Ni1-x-yCoxyCuzClw(OH)2(ただし、0.10≦x≦0.35、0<y≦0.35、0<z≦0.0002、0<w≦0.0005、Mは、Mn、Al、Mg、CaおよびNaの群から選ばれる少なくとも1種の添加元素)で表され、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなる遷移金属複合水酸化物粒子の製造方法であって、少なくともニッケル、コバルト、添加元素M、銅および塩化物イオンを含み、該コバルトに対する塩化物イオンのモル比が1.8〜2.2の範囲にある混合水溶液を、温度が40℃〜60℃の範囲に、かつ、25℃基準におけるpH値が10.5を超えて12.0未満の範囲に維持された反応槽内に供給する、晶析工程を備えることを特徴とする。
(1)晶析工程
晶析工程は、少なくともニッケル、コバルト、添加元素M、銅および塩化物イオンを含み、コバルトに対する塩化物イオンのモル比が1.8〜2.2の範囲にある混合水溶液を、温度を40℃〜60℃に、25℃基準におけるpH値を10.5を超えて12.0未満に調整した反応槽内に供給し、複合水酸化物粒子を晶析させる工程である。なお、晶析工程では、複合水酸化物粒子はスラリー状で得られるため、晶析工程後に、ろ過などによって固液分離することが必要となる。
a)供給水溶液
a−1)混合水溶液
本発明の複合水酸化物粒子の製造方法は、複合水酸化物粒子の原料となる混合水溶液として、少なくともニッケル、コバルト、添加元素M、銅および塩化物イオンを含み、コバルト(Co)に対する塩化物イオン(Cl-)のモル比(Cl-/Co)が1.8〜2.2の範囲にあるものを使用することを特徴とする。
なお、上述したように、本発明の複合水酸化物粒子では、銅、好ましくは銅および塩素が結晶構造中に均一に分散した状態にあることが必要とされる。したがって、混合水溶液の作製段階において、銅、好ましくは銅および塩化物イオンを均一に分散させることが必要となる。このため、複合水酸化物粒子の原料となるニッケル、コバルト、添加元素Mおよび銅の金属化合物の一部を、これらの金属の塩化物または塩化酸化物の形態で水に溶解し、混合することが好ましい。
[コバルトに対する塩化物イオンのモル比]
従来、晶析反応によって、正極活物質の前駆体である複合水酸化物粒子を作製する場合、各金属元素の供給源としては、ハロゲンの混入を防止し、かつ、廃液コストを抑制する観点から、硫酸塩を用いることが一般的である。したがって、混合水溶液を反応槽に供給し、pH値やアンモニウムイオン濃度を調製することにより形成される反応水溶液中には、各金属元素のイオンと硫酸イオン(SO4 2-)が共存することとなる。このため、陰イオンである硫酸イオンは、陽イオンである各金属元素のイオンに対して相互作用を及ぼし、得られる複合水酸化物粒子に立体障害が生じる。
これに対して、本発明の複合水酸化物粒子の製造方法では、晶析反応の際、陰イオンとして一定量の塩化物イオン(Cl-)を存在させ、その一部を塩素が固溶した形態で結晶構造中に取り込ませることにより、立体障害を緩和している。このような効果が得られる理由としては、塩化物イオンは、単原子からなる1価の陰イオンであるため、5原子からなる2価の陰イオンである硫酸イオンに比べて、陽イオンに及ぼす相互作用が小さいからと考えられる。
なお、塩化物イオンには、コバルトイオンに作用し、反応水溶液を安定化させる作用がある。このため、反応水溶液を過度に安定化させ、晶析反応を停滞させないように、反応水溶液中におけるコバルトに対する塩素の比率が適切となるように制御することが制御することが必要となる。
具体的には、混合水溶液に含まれるコバルト(Co)に対する塩素(Cl)のモル比(Cl/Co)を1.8〜2.2、好ましくは1.85〜2.20、より好ましくは1.87〜2.18の範囲に制御することが必要となる。Cl/Coが1.8未満では、粒子中に固溶する塩素の量が少なすぎるため、立体障害を緩和する効果を十分に得ることができない。一方、Cl/Coが2.2を超えると、晶析反応が停滞するばかりでなく、粒子形状が悪化するため、出力特性や放電容量が低下してしまう。
[金属元素および塩化物イオンの供給源]
金属元素(ニッケル、コバルト、添加元素Mおよび銅)の供給原としては、水溶性の金属化合物、具体的には、硝酸塩、硫酸塩および塩化物などを用いることができる。ただし、上述したように、本発明の複合水酸化物粒子の製造方法では、混合水溶液中に一定量の塩化物イオンを存在させることが必要となるため、これらの金属化合物の一部として塩化物または塩化酸化物を用いることが好ましい。なお、金属元素の供給原として、硝酸塩や硫酸塩などの塩素を含まない金属化合物のみを用いる場合には、別途、塩素の供給源を用意する必要がある。この場合、塩素の供給原としては、不純物の混入を防止する観点から、塩酸や塩化ナトリウムなどを用いることが好ましい。
[混合水溶液の濃度]
混合水溶液中の金属元素の組成比は、目的とする複合水酸化物粒子の組成に応じて調整することが必要となるが、金属元素の供給原として用いる金属化合物の合計で、好ましくは1.0mol/L〜2.2mol/L、より好ましくは1.5mol/L〜2.0mol/Lの範囲とする。混合水溶液の濃度が1.0mol/L未満では、反応槽当たりの晶析物量が少なくなるため、生産性が低下する。一方、混合水溶液の濃度が2.2mol/Lを超えると、反応温度が低下した際に、飽和濃度を超え、各金属化合物の結晶が再析出して、配管などを詰まらせるおそれがある。
[供給方法]
上述した金属化合物は、必ずしも混合水溶液として反応槽に供給しなくてもよい。たとえば、混合すると反応して目的とする化合物以外の化合物が生成されてしまう金属化合物を用いて晶析反応を行う場合、全金属化合物水溶液の合計の濃度が上記範囲となるように、個別に金属化合物水溶液を調製して、個々の金属化合物の水溶液として、所定の割合で反応槽内に供給してもよい。
a−2)アルカリ水溶液
反応水溶液中のpH値を調整するアルカリ水溶液は、特に制限されることはなく、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの一般的なアルカリ金属水酸化物水溶液を用いることができる。なお、アルカリ金属水酸化物を、直接、反応水溶液に添加することもできるが、pH制御の容易さから、水溶液として添加することが好ましい。この場合、アルカリ金属水酸化物水溶液の濃度を、好ましくは20質量%〜50質量%、より好ましくは20質量%〜30質量%の範囲とする。アルカリ金属水溶液の濃度をこのような範囲に規制することにより、反応系に供給する溶媒量(水量)を抑制しつつ、添加位置で局所的にpH値が高くなることを防止することができるため、粒度分布の狭い複合水酸化物粒子を効率的に得ることができる。
なお、アルカリ水溶液の供給方法は、反応水溶液のpH値が局所的に高くならず、かつ、所定の範囲に維持される限り、特に制限されることはなく、たとえば、反応水溶液を十分に撹拌しながら、定量ポンプなどの流量制御が可能なポンプにより供給すればよい。
a−3)アンモニウムイオン供給体を含む水溶液
アンモニウムイオン供給体を含む水溶液は、反応水溶液中の金属イオンの溶解度を調整するために、任意的に添加されるものである。このようなアンモニウムイオン供給体を含む水溶液についても、特に制限されることはなく、たとえば、アンモニア水、または、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウムもしくはフッ化アンモニウムなどの水溶液を使用することができる。
アンモニウムイオン供給体として、アンモニア水を使用する場合、その濃度は、好ましくは20質量%〜30質量%、より好ましくは22質量%〜28質量%の範囲とする。アンモニア水の濃度をこのような範囲に規制することにより、揮発などによるアンモニアの損失を最小限に抑制することができるため、生産効率の向上を図ることができる。
なお、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液の供給方法も、アルカリ水溶液と同様に、流量制御が可能なポンプにより供給することができる。
b)反応条件
[反応温度]
反応水溶液の温度(反応温度)は、40℃〜60℃、好ましくは45℃〜55℃の範囲に制御することが必要となる。反応温度が40℃未満では、複合水酸化物粒子が粗大化し、放電容量や出力特性の低下を招く。一方、反応温度が60℃を超えると、アンモニアの揮発量が増加し、反応水溶液中のアンモニウムイオンを一定範囲に制御するために供給するアンモニウムイオン供給体を含む水溶液の量が増加するため、生産コストが増加してしまう。また、複合水酸化物粒子が過度に微細化するため、後工程における取扱いや二次電池の作製が困難になる。
[pH値]
反応水溶液のpH値は、液温25℃基準で、10.5を超えて12.0未満、好ましくは10.8〜11.8、より好ましくは11.1〜11.5の範囲に制御することが必要となる。pH値が10.5以下では、複合水酸化物粒子が粗大化し、放電容量や出力特性の低下を招く。一方、pH値が12.0以上では、複合水酸化物粒子が過度に微細化するため、後工程における取扱いや二次電池の作製が困難となる。
[アンモニウムイオン濃度]
反応水溶液中のアンモニウムイオン濃度は、好ましくは3g/L〜25g/L、より好ましくは5g/L〜25g/L、さらに好ましくは5g/L〜15g/Lの範囲内で一定値に保持する。
反応水溶液中においてアンモニウムイオンは錯化剤として機能するため、アンモニウムイオン濃度が3g/L未満では、金属イオンの溶解度を一定に保持することができず、また、反応水溶液がゲル化しやすくなり、形状や粒径の整った複合水酸化物粒子を得ることが困難となる。一方、アンモニウムイオン濃度が25g/Lを超えると、金属イオンの溶解度が大きくなりすぎるため、反応水溶液中に残存する金属イオン量が増加し、組成ずれなどの原因となる。
[反応雰囲気]
晶析工程における反応槽内の雰囲気(反応雰囲気)は、特に制限されることはないが、還元性雰囲気とすることが好ましい。特に、反応雰囲気中の酸素濃度を1体積%〜0.1体積%とすることが好ましく、0.7体積%〜0.4体積%とすることがより好ましい。
(2)水洗工程
水洗工程は、晶析工程で得られた複合水酸化物粒子を含むスラリーをろ過した後、水洗し、残留する不純物を除去する工程である。反応水溶液中の硫酸イオンや塩化物イオンは晶析工程終了後も大部分がイオンとして溶存しており、水洗によって水酸化物と分離される。
水洗方法は、特に制限されることはなく、公知の方法を利用することができる。ただし、水洗条件(洗浄水の量や洗浄時間など)は、水洗方法や水洗する複合水酸化物粒子の組成や量などに応じて異なるため、予備的に複合水酸化物粒子およびこれを前駆体とする正極活物質を作製し、これらに含まれる塩素や不純物の量を確認した上で、適宜選択することが好ましい。これにより、正極活物質の組成および不純物量を、より適切な範囲に制御することが可能となる。なお、水洗は、一回の操作で行うよりも、複数回に分けて行うことが好ましく、2回〜5回の操作に分けて行うことがより好ましい。
(3)乾燥工程
乾燥工程は、晶析工程後または水洗工程後の複合水酸化物粒子を加熱し、残留水分を除去する工程である。乾燥工程を行うことによって、混合工程において、複合水酸化物粒子とリチウム化合物とを均一に混合しやすくなる。
乾燥工程における加熱温度(乾燥温度)は、特に制限されることはないが、100℃〜200℃とすることが好ましい。乾燥温度が100℃未満では、残留水分の除去に長時間を要するため、生産性の悪化を招く。一方、200℃を超えてもそれ以上の効果を得ることができないばかりか、生産コストの増大を招く。
2.非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法
2−1.非水系電解質二次電池用正極活物質
本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質は、一般式:LiuNi1-x-yCoxyCuzClw2(ただし、0.97≦u≦1.10、0.10≦x≦0.35、0<y≦0.35、0<z≦0.0002、0<w≦0.0005、Mは、Mn、Al、Mg、CaおよびNaの群から選ばれる少なくとも1種の添加元素)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物粒子からなることを特徴とする。また、この正極活物質は、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなり、この二次粒子の平均粒径は4μm〜6μmの範囲にあり、かつ、二次粒子の中心領域における、ニッケルの質量パーセント濃度に対する銅の質量パーセント濃度の比を[Cu/Ni]c1、二次粒子の表面領域における、ニッケルの質量パーセント濃度に対する銅の質量パーセント濃度を[Cu/Ni]s1とした場合において、[Cu/Ni]c1に対する[Cu/Ni]s1の比が0.95〜1.05の範囲にあることを特徴とする。
(1)組成
本発明の正極活物質は、一般式:LiuNi1-x-yCoxyCuzClw2(ただし、0.97≦u≦1.10、0.10≦x≦0.35、0<y≦0.35、0<z≦0.0002、0<w≦0.0005、Mは、Mn、Al、Mg、CaおよびNaの群から選ばれる少なくとも1種の添加元素)で表される。なお、正極活物質の組成は、複合水酸化物粒子の場合と同様に、ICP発光分光分析法などによって求めることができる。
a)リチウム、ニッケル、コバルトおよび添加元素M
リチウム(Li)の含有量を示すuの値は、0.97以上1.10以下、好ましくは1.00以上1.07以下、より好ましくは1.03以上1.06以下の範囲とする。uの値が0.97未満では、正極活物質の合成時におけるリチウム量が不足し、リチウム遷移金属複合酸化物粒子以外の金属酸化物粒子が生成するため、この正極活物質を用いた二次電池の放電容量が低下する。一方、uの値が1.10を超えると、正極活物質を構成する二次粒子同士の焼結が過剰に進行して比表面積が低下するため、同様に放電容量が低下する。
ニッケル(Ni)は、二次電池の高電位化および高容量化に寄与する元素である。ニッケルの含有量を示す(1−x−y)の値は、0.30以上0.90未満、好ましくは0.31以上0.89以下、より好ましくは0.32以上0.88以下、さらに好ましくは0.32以上0.35以下の範囲とする。(1−x−y)の値が0.30未満では、この正極活物質を用いた二次電池の放電容量を向上させることができない。一方、(1−x−y)の値が0.90以上では、コバルトおよび添加元素Mの含有量が減少し、その添加効果を十分に得ることができなくなる。
コバルト(Co)は、充放電サイクル特性の向上に寄与する元素である。コバルトの含有量を示すxの値は、0.10以上0.35以下、好ましくは0.11以上0.34以下、より好ましくは0.12以上0.33以下の範囲とする。xの値が0.10未満では、この正極活物質の結晶構造が不安定になる。一方、xの値が0.35を超えると、二次電池の放電容量が低下してしまう。
本発明の正極活物質では、熱安定性やサイクル特性などを改善することを目的として、特定の添加元素Mを含有させることが必要となる。このような添加元素Mとしては、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)およびナトリウム(Na)の群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
添加元素Mの含有量を示すyの値は、0を超えて0.35以下、好ましくは0.01以上0.35以下、より好ましくは0.02以上0.35以下の範囲とすることが必要となる。yの値が0.35を超えると、Redox反応に貢献する金属元素が減少するため、放電容量が低下する。
b)銅および塩素
本発明の正極活物質は、上述したニッケル、コバルトおよび添加元素Mに加えて、微量の銅(Cu)と塩素(Cl)を含有し、かつ、銅、好ましくは銅および塩素が、正極活物質内に均一に分散していることを特徴とする。より具体的には、ニッケル、コバルトおよび添加元素Mによって構成される結晶構造中に銅および塩素が固溶しており、かつ、銅、好ましくは銅および塩素の固溶状態が粒子全体にわたって均一であることを特徴とする。このような構成によって、タングステンやモリブデンなどの高価な金属を添加せずに、二次電池の出力特性と放電容量を同時に改善することができる。この理由としては、結晶構造中に異なる金属種である銅が存在することによって、リチウムイオン(Li+)の固液(粒子表面−電解液)界面の移動に伴う抵抗が低減するからと考えられる。また、塩素が存在することによって、粒子表面の立体障害が緩和されるからと考えられる。さらに、銅および塩素の存在によって正極活物質と電解液の接触面積が増加し、電池反応に寄与する正極活物質の割合が高くなるためと考えられる。
銅の含有量を示すzの値は、0を超えて0.0002以下、好ましくは0.00005以上0.0002以下、より好ましくは0.00005以上0.00015以下の範囲に制御することが必要となる。また、塩素の含有量を示すwの値は、0を超えて0.0005以下、好ましくは0.00005以上0.0004以下、より好ましくは0.0001以上0.00035以下の範囲に制御することが必要となる。zの値が0.0002を超える場合、または、wの値が0.0005を超えると場合には、他の構成元素との関係で、この正極活物質を用いた二次電池の放電容量が低下することとなる。
(2)粒子構造および平均粒径
本発明の正極活物質は、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子により構成される。この二次粒子は、略球状であることが好ましい。これにより、正極活物質の充填性が向上し、放電容量を一層向上させることができる。
このような二次粒子の平均粒径は、4μm〜6μm、好ましくは4.3μm〜5.7μm、より好ましくは4.6μm〜5.4μmの範囲にあることが必要となる。平均粒径が4μm未満では、正極活物質の充填性が低下するため、放電容量を十分に改善することができない。一方、平粒粒径が6μmを超えると、比表面積が低下し、出力特性を十分に改善することができなくなる。
なお、正極活物質の粒子構造は、複合水酸化物粒子の場合と同様に、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた観察により確認することができる。また、平均粒径についても、複合水酸化物粒子の場合と同様に、レーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。
(3)銅および塩素の分布
本発明の正極活物質は、結晶構造中に、銅が均一に分散していることを特徴とする。具体的には、二次粒子の中心領域における、ニッケルの質量パーセント濃度に対する銅の質量パーセント濃度の比を[Cu/Ni]c1、二次粒子の表面領域における、ニッケルの質量パーセント濃度に対する銅の質量パーセント濃度を[Cu/Ni]s1とした場合において、[Cu/Ni]c1に対する[Cu/Ni]s1の比([Cu/Ni]s1/[Cu/Ni]c1)が0.95〜1.05、好ましくは0.97〜1.02、より好ましくは0.98〜1.01の範囲にあることを特徴とする。[Cu/Ni]s1/[Cu/Ni]c1が0.95未満または1.05を超える場合には、二次粒子内で銅が偏析しており、この正極活物質を用いた二次電池において、内部短絡が生じる可能性が著しく高くなる。
また、正極活物質に含まれる塩素についても、同様に、結晶構造中に均一に分散していることが好ましい。具体的には、二次粒子の中心領域における、ニッケルの質量パーセント濃度に対する塩素の質量パーセント濃度の比を[Cl/Ni]c1、二次粒子の表面領域における、ニッケルの質量パーセント濃度に対する塩素の質量パーセント濃度を[Cl/Ni]s1とした場合において、[Cl/Ni]c1に対する[Cl/Ni]s1の比([Cl/Ni]s1/[Cl/Ni]c1)が、好ましくは0.95〜1.05、より好ましくは0.97〜1.02、さらに好ましくは0.98〜1.01の範囲にある。[Cl/Ni]s1/[Cl/Ni]c1が0.95未満または1.05を超える場合には、局所的に立体障害が大きな部分が形成され、出力特性を十分に改善することができないおそれがある。
ここで、二次粒子の中心領域におけるニッケル、銅および塩素の質量パーセント濃度ならびに二次粒子の表面領域におけるニッケル、銅および塩素の質量パーセント濃度は、エネルギ分散型蛍光X線回折分析装置を備えた走査型電子顕微鏡によって測定(SEM−EDX測定)することによって求めることができる。具体的には、二次粒子を樹脂などに埋め込み、クロスセクションポリッシャ加工などにより断面観察可能な状態とした上で、二次粒子の外周面から径方向内側に1μmまでの領域(表面領域)の複数箇所(5箇所以上)の位置と、二次粒子の中心から径方向外側に1μmまでの領域(中心領域)の複数箇所(5箇所以上)の位置について、ニッケル、銅および塩素の質量パーセント濃度を測定し、それぞれについて平均値を算出することで、二次粒子の表面領域および中心領域におけるニッケル、銅および塩素の質量パーセント濃度を求めることができる。
2−2.非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法
本発明の正極活物質の製造方法は、上述した複合水酸化物粒子とリチウム化合物とを、特定の比率で混合して、リチウム混合物を得る工程(混合工程)と、このリチウム混合物を酸化性雰囲気下で焼成する工程(焼成工程)とを備えることを特徴とする。なお、必要に応じて、以下で説明する仮焼工程や解砕工程などを追加してもよい。
(1)混合工程
混合工程は、上述した複合水酸化物粒子に、リチウム化合物を混合して、リチウム混合物を得る工程である。
混合工程では、リチウム混合物中のリチウム以外の金属原子、具体的には、ニッケル、コバルトおよび添加元素Mとの原子数の総和(Me)に対する、リチウムの原子数(Li)の比率(Li/Me)が、0.97〜1.10、好ましくは1.00〜1.07、より好ましくは1.03〜1.06の範囲となるように、複合水酸化物粒子とリチウムを含有する物質を混合することが必要となる。すなわち、焼成工程の前後ではLi/Meはほとんど変化しないので、混合工程におけるLi/Meが、概ね、目的とする正極活物質のLi/Meとなるように、複合水酸化物粒子とリチウムを含有する物質を混合することが必要となる。
混合工程で使用するリチウム化合物は、特に制限されることはないが、入手の容易性から、水酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウムまたはこれらの混合物を用いることが好ましい。特に、取り扱いの容易さや品質の安定性を考慮すると、水酸化リチウムまたは炭酸リチウムを用いることが好ましい。
また、複合水酸化物粒子とリチウム化合物は、微粉が生じない程度に十分に混合することが好ましい。混合が不十分であると、個々の粒子間でLi/Meにばらつきが生じ、十分な電池特性を得ることができない場合がある。なお、混合には、一般的な混合機を使用することができる。たとえば、シェーカーミキサ、レーディゲミキサ、ジュリアミキサ、Vブレンダなどを用いることができる。
(2)仮焼工程
リチウム化合物として、水酸化リチウムや炭酸リチウムを使用する場合には、混合工程後、焼成工程の前に、リチウム混合物を、後述する焼成温度よりも低温、かつ、350℃〜800℃、好ましくは450℃〜780℃で、すなわち、水酸化リチウムまたは炭酸リチウムと複合水酸化物粒子または熱処理粒子との反応温度で仮焼する、仮焼工程を行ってもよい。これにより、複合水酸化物粒子または熱処理粒子中に、リチウムを十分に拡散させることができ、より均一なリチウム複合酸化物粒子を得ることができる。
上記温度での保持時間は、1時間〜10時間とすることが好ましく、3時間〜6時間とすることが好ましい。また、仮焼工程における雰囲気は、後述する焼成工程と同様に、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18容量%〜100容量%の雰囲気とすることがより好ましい。
(3)焼成工程
焼成工程は、混合工程で得られたリチウム混合物を所定の条件で焼成し、複合酸化物粒子中にリチウムを拡散させて、リチウム複合酸化物粒子(正極活物質)を合成する工程である。なお、焼成工程で用いる炉は、大気ないしは酸素気流中でリチウム混合物を焼成することができる限り、特に制限されることはなく、バッチ式または連続式の炉のいずれも用いることができる。
a)焼成温度
リチウム混合物の焼成温度は、目的とする正極活物質の組成によっても異なるが、概ね、850℃〜950℃とすることが好ましく、880℃〜920℃とすることがより好ましい。焼成温度が850℃未満では、複合水酸化物粒子中にリチウムが十分に拡散せず、余剰のリチウムや未反応の複合水酸化物粒子が残存したり、得られるリチウム複合酸化物粒子の結晶性が不十分なものとなったりする場合がある。一方、焼成温度が950℃を超えると、リチウム複合酸化物粒子同士が激しく焼結し、異常粒成長が引き起こされる場合がある。この結果、不定形な粗大粒子の割合が増大し、比表面積が減少することによって、正極抵抗の減少や放電容量の低下といった問題が生じる。
なお、複合水酸化物粒子とリチウム化合物との反応を均一に進行させる観点から、少なくとも500℃から焼成温度までの昇温速度を3℃/分〜10℃/分とすることが好ましく、5℃/分〜8℃/分とすることがより好ましい。また、リチウム化合物の融点付近の温度で、好ましくは1時間〜5時間、より好ましくは3時間〜5時間保持することで、複合水酸化物粒子とリチウム化合物との反応を一層均一に進行させることができる。
b)焼成時間
焼成時間のうち、上述した焼成時間での保持時間は、3時間以上とすることが好ましく、6時間〜24時間とすることがより好ましい。保持時間が3時間未満では、正極活物質の合成が十分に進行しないおそれがある。
なお、焼成温度での保持時間経過後、焼成温度から少なくとも200℃までの冷却速度を2℃/分〜10℃/分とすることが好ましく、5℃/分〜10℃/分とすることがより好ましい。これにより、生産性を確保しつつ、匣鉢などの設備が、急冷により破損することを防止することができる。
c)焼成雰囲気
焼成時の雰囲気は、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18容量%〜100容量%の雰囲気とすることがより好ましく、上記酸素濃度の酸素と不活性ガスの混合雰囲気とすることが特に好ましい。すなわち、焼成は、大気ないしは酸素気流中で行うことが好ましく、電池特性を考慮すると、酸素気流中で行うことがより好ましい。酸素濃度が18容量%未満では、正極活物質の結晶性が不十分なものとなるおそれがある。
(4)解砕工程
焼成工程によって得られたリチウム複合酸化物粒子は、凝集または軽度の焼結が生じている場合がある。このような場合、リチウム複合酸化物粒子の凝集体または焼結体を解砕することが好ましい。これによって、得られる正極活物質の平均粒径や粒度分布を好適な範囲に調整することができる。なお、解砕とは、焼成時に二次粒子間の焼結ネッキングなどにより生じた複数の二次粒子からなる凝集体に、機械的エネルギを投入して、二次粒子自体をほとんど破壊することなく分離させて、凝集体をほぐす操作を意味する。
解砕の方法としては、公知の手段を用いることができ、たとえば、ピンミルやハンマーミルなどを使用することができる。この際、二次粒子を破壊しないように解砕力を適切な範囲に調整することが好ましい。
3.非水系電解質二次電池
本発明の非水系電解質二次電池は、正極、負極、セパレータ、非水系電解液などの、一般の非水系電解質二次電池と同様の構成要素を備える。なお、以下に説明する実施形態は例示にすぎず、本発明の非水系電解質二次電池は、本明細書に記載されている実施形態を基づいて、種々の変更、改良を施した形態に適用することも可能である。
(1)構成部材
a)正極
本発明により得られた非水系電解質二次電池用正極活物質を用いて、たとえば、以下のようにして非水系電解質二次電池の正極を作製する。
まず、本発明により得られた粉末状の正極活物質に、導電材および結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整などの溶剤を添加し、これらを混練して正極合材ペーストを作製する。その際、正極合材ペースト中のそれぞれの混合比も、非水系電解質二次電池の性能を決定する重要な要素となる。たとえば、溶剤を除いた正極合材の固形分を100質量部とした場合、一般の非水系電解質二次電池の正極と同様、正極活物質の含有量を60質量部〜95質量部とし、導電材の含有量を1質量部〜20質量部とし、結着剤の含有量を1質量部〜20質量部とすることができる。
得られた正極合材ペーストを、たとえば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させる。必要に応じて、電極密度を高めるべく、ロールプレスなどにより加圧してもよい。このようにして、シート状の正極を作製することができる。この正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断して、電池の作製に供することができる。ただし、正極の作製方法は、上述した例示のものに限られることはなく、他の方法を利用してもよい。
導電材は、電極に適当な導電性を与えるために添加されるものである。導電材としては、たとえば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料を用いることができる。
結着剤は、正極活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、たとえば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸などを用いることができる。
また、必要に応じて、正極活物質、導電材および活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加することができる。溶剤としては、具体的には、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することもできる。
b)負極
負極には、金属リチウムやリチウム合金など、あるいは、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅などの金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用する。
負極活物質としては、たとえば、金属リチウムやリチウム合金などのリチウムを含有する物質、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる天然黒鉛、人造黒鉛およびフェノール樹脂などの有機化合物焼成体ならびにコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
c)セパレータ
セパレータは、正極と負極との間に挟み込んで配置されるものであり、正極と負極とを分離し、電解質を保持する機能を有する。このようなセパレータとしては、たとえば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微細な孔を多数有する膜を用いることができるが、上記機能を有するものであれば、特に制限されることはない。
d)非水系電解液
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートおよびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランおよびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiN(CF3SO22、およびこれらの複合塩などを用いることができる。
さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
(2)非水系電解質二次電池
以上の正極、負極、セパレータおよび非水系電解液で構成される本発明の非水系電解質二次電池は、円筒形や積層形など、種々の形状にすることができる。
いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層することにより電極体とし、これを非水系電解液に含浸し、正極集電体と外部に通じる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通じる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続した後、電池ケースに密閉して、非水系電解質二次電池を完成させる。
(3)非水系電解質二次電池の特性
本発明の非水系電解質二次電池は、上述したように、本発明の正極活物質を正極材料として用いているため、充放電容量およびサイクル特性に優れていると評価することができる。たとえば、本発明の正極活物質を用いて、図1に示すような2032型コイン電池を構成した場合、160mAh/g以上、好ましくは162mAh/g以上の初期放電容量と、1.4Ω未満、好ましくは1.3Ω以下のインピーダンスを同時に達成することができる。
(4)用途
本発明の非水系電解質二次電池は、上述のように、高容量かつ高出力であり、かつ、安全性にも優れるため、小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話端末など)の電源に好適である。また、このような本発明の非水系電解質二次電池は、小型化が可能であり、かつ、高価な保護回路を簡略化することもできるため、搭載スペースに制約を受ける輸送用機器の電源としても好適に用いることができる。
以下、実施例および比較例を用いて、本発明をより詳細に説明する。
(実施例1)
a)複合水酸化物粒子の作製
はじめに、硫酸ニッケル、塩化コバルト、硫酸マンガンおよび硫酸銅を精製水に溶解するとともに、硫酸および塩酸を加えて、0.66mоl/Lのニッケルと、0.66mоl/Lのコバルトと、0.66mоl/Lのマンガンと、0.0002mоl/Lの銅と、1.38mоl/Lの塩化物イオンと、1.32mol/Lの硫酸イオンが均一に分散した混合水溶液3.1をL調製した。なお、この混合水溶液中のコバルトに対する塩素のモル比Cl/Coは2.09mоl/Lだった。一方、反応容器に0.9Lの精製水を供給し、この状態で恒温槽に浸すことで、その温度を50℃に調整した。
次に、反応容器内に、精製水を撹拌しながら混合水溶液を一定速度で供給した。この際、反応槽内のアンモニウムイオン濃度が0.7mol/Lに、pH値が、液温25℃基準で11.1に維持されるように、28質量%のアンモニア水と、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液を適時供給した。
このようにして得られた複合水酸化物粒子を含むスラリーをろ過した後、6質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いて水洗した。さらに、120℃で12時間加熱して乾燥することにより、粉末状の複合水酸化物粒子を得た。
b)複合水酸化物粒子の評価
ICP発光分光分析装置(株式会社島津製作所製、ICP−9000)による分析の結果、この複合水酸化物粒子は、一般式:Ni0.32Co0.33Mn0.35Cu0.0001Cl0.0001(OH)2で表されるものであることが確認された。
また、SEM(日本電子株式会社製、JSM−6360LA)観察およびレーザ光回折散乱式粒度分析計(日機装株式会社製、マイクロトラック)による測定の結果、この複合水酸化物粒子は、複数の一次粒子が凝集して形成された略球状の二次粒子からなり、平均粒径は5.0μmであることが確認された。
さらに、SEM−EDX測定(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、S−4700)の結果、銅および塩素は結晶構造中に固溶しており、[Cu/Ni]s0/[Cu/Ni]c0は1.01であり、[Cl/Ni]s0/[Cl/Ni]c0は1.00であることが確認された。これらの結果を表2に示す。
c)正極活物質の作製
この複合水酸化物粒子と炭酸リチウムとを、Li/Meが1.06となるように混合機(Turbula製、T2C)により混合し。このようにして得られたリチウム混合物を、空気気流中で、900℃まで昇温し、この温度で10時間保持することで焼成した後、室温まで炉冷することにより、正極活物質を得た。
d)正極活物質の評価
ICP発光分光分析装置による分析の結果、この正極活物質は、一般式:Li1.06Ni0.32Co0.33Mn0.35Cu0.0001Cl0.00012で表されるものであることが確認された。
また、SEM観察およびレーザ光回折散乱式粒度分析計による測定の結果、この正極活物質は、複数の一次粒子が凝集して形成された略球状の二次粒子からなり、平均粒径は5.0μmであることが確認された。
さらに、SEM−EDX測定の結果、銅および塩素は結晶構造中に固溶しており、[Cu/Ni]s1/[Cu/Ni]c1は1.00であり、[Cl/Ni]s1/[Cl/Ni]c1は1.01であることが確認された。これらの結果を表3に示す。
e)二次電池の作製
この正極活物質を用いて、図3に示すような2032型コイン電池1を作製した。この2032型コイン電池1は、ケース2と、ケース2内に収容された電極3とから構成される。
ケース2は、中空かつ一端が開口された正極缶2aと、この正極缶2aの開口部に配置される負極缶2bとを有しており、負極缶2bを正極缶2aの開口部に配置すると、負極缶2bと正極缶2aとの間に電極3を収容する空間が形成されるように構成されている。
電極3は、正極3a、セパレータ3cおよび負極3bとからなり、この順で並ぶように積層されており、正極3aが正極缶2aの内面に接触し、負極3bが負極缶2bの内面に接触するようにケース2に収容されている。
なお、ケース2は、ガスケット2cを備えており、このガスケット2cによって、正極缶2aと負極缶2bとの間が電気的に絶縁状態を維持するように固定されている。また、ガスケット2cは、正極缶2aと負極缶2bとの隙間を密封して、ケース2内と外部との間を気密かつ液密に遮断する機能も有している。
この2032型コイン電池1を、以下のようにして作製した。はじめに、上述の正極活物質を85質量%、アセチレンブラックを10質量%、PVDFを5質量%ずつ秤量し、これらを混合した後、これにNMP(n−メチルピロリドン)を適量加えてペースト状にした。この正極合材ペーストを、アルミニウム箔上に、乾燥後の正極活物質の面密度が7mg/cm2となるように塗布し、120℃で真空乾燥した後、直径が13mmの円板状に打ち抜くことで、正極3aを作製した。なお、負極3bにはリチウム金属を、電解液には、1MのLiClO4を支持塩とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液を使用し、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で、2032型コイン電池1を組み立てた。
f)二次電池の評価
得られた2032型コイン電池1について、a)初期放電容量と、b)インピーダンスの評価を行った。
[初期放電容量]
2032型コイン電池を作製してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm2として、カットオフ電圧が4.3Vとなるまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧が3.0Vになるまで放電したときの放電容量を測定する充放電試験を行い、初期放電容量を求めた。この際、初期放電容量の測定には、マルチチャンネル電圧/電流発生器(株式会社アドバンテスト製、R6741A)を用いた。この結果、初期放電容量は163.4mAh/gであることが確認された。
[インピーダンス]
充電電位4.1Vで充電した2032型コイン電池を用いて、交流インピーダンス法により抵抗値を測定した。測定には、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン製)を使用し、図2に示すナイキストプロットを得た。プロットは、溶液抵抗、負極抵抗と容量、および、正極抵抗と容量を示す特性曲線の和として表れているため、等価回路を用いてフィッティング計算し、インピーダンスの値を算出した。この結果、正極抵抗(インピーダンス)は1.28Ωであることが確認された。
(実施例2)
晶析工程において、混合水溶液中の銅濃度を0.0004mоl/L、塩化物イオン濃度を1.25mоl/Lとしたこと、および、混合工程において、Li/Meが1.08となるように炭酸リチウムの量を調整したこと以外は実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子、正極活物質および2032型コイン電池を作製し、その評価を行った。これらの結果を表2および表3に示す。
(実施例3)
晶析工程において、混合水溶液中の銅濃度を0.0001mоl/L、塩化物イオン濃度を1.45mоl/Lとしたこと、および、混合工程において、Li/Meが1.10となるように炭酸リチウムの量を調整したこと以外は実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子、正極活物質および2032型コイン電池を作製し、その評価を行った。これらの結果を表2および表3に示す。
(実施例4)
晶析工程において、混合水溶液中の銅濃度を0.0004mоl/L、塩化物イオン濃度を1.25mоl/Lとしたこと以外は実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子、正極活物質および2032型コイン電池を作製し、その評価を行った。これらの結果を表2および表3に示す。
(実施例5)
晶析工程において、混合水溶液中の塩化物イオン濃度を1.25mоl/Lとしたこと以外は実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子、正極活物質および2032型コイン電池を作製し、その評価を行った。これらの結果を表2および表3に示す。
(実施例6)
晶析工程において、混合水溶液中の塩化物イオン濃度を1.45mоl/Lとしたこと以外は実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子、正極活物質および2032型コイン電池を作製し、その評価を行った。これらの結果を表2および表3に示す。
(実施例7)
晶析工程において、反応水溶液のpH値を、液温25℃基準で10.8に調整し、この値を維持したこと以外は実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子、正極活物質および2032型コイン電池を作製し、その評価を行った。これらの結果を表2および表3に示す。
(実施例8)
晶析工程において、反応水溶液のpH値を、液温25℃基準で11.8に調整し、この値を維持したこと以外は実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子、正極活物質および2032型コイン電池を作製し、その評価を行った。これらの結果を表2および表3に示す。
(実施例9)
晶析工程において、反応水溶液の温度を40℃に調整したこと以外は実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子、正極活物質および2032型コイン電池を作製し、その評価を行った。これらの結果を表2および表3に示す。
(実施例10)
晶析工程において、反応水溶液の温度を60℃に調整したこと以外は実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子、正極活物質および2032型コイン電池を作製し、その評価を行った。これらの結果を表2および表3に示す。
(実施例11)
晶析工程で得られた複合水酸化物粒子を含むスラリーをろ過した後、水洗せずに、120℃で12時間加熱して乾燥したこと以外は実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子、正極活物質および2032型コイン電池を作製し、その評価を行った。これらの結果を表2および表3に示す。
(比較例1)
晶析工程において、硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンを精製水に溶解するとともに、硫酸および塩酸を加えて、ニッケルを0.66mоl/L、コバルトを0.66mоl/L、マンガンを0.66mоl/L、硫酸イオンを2.0mol/L含む混合水溶液を使用した以外は実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子、正極活物質および2032型コイン電池を作製し、その評価を行った。これらの結果を表2および表3に示す。
(比較例2)
晶析工程において、硫酸ニッケル、塩化コバルトおよび硫酸マンガンを精製水に溶解するとともに、塩酸を加えて、ニッケルを0.66mоl/L、コバルトを0.66mоl/L、マンガンを0.66mоl/L、塩化物イオンを1.38mоl/L、硫酸イオンを0.7mol/L含む混合水溶液を使用した以外は実施例3と同様にして、複合水酸化物粒子、正極活物質および2032型コイン電池を作製し、その評価を行った。これらの結果を表2および表3に示す。
(比較例3)
はじめに、硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンを精製水に溶解するとともに、塩酸を加えて、ニッケルを0.66mоl/L、コバルトを0.66mоl/L、マンガンを0.66mоl/L、塩化物イオンを1.35mоl/L、硫酸イオンを0.7mol/L含む混合水溶液3.1Lを調製した。なお、この混合水溶液中のコバルトに対する塩素のモル比Cl/Coは2.05mоl/Lだった。同時に、0.9Lの精製水を入れた反応容器を恒温槽に浸し、その温度を50℃に調整した。
次に、反応容器内に、精製水を撹拌しながら混合水溶液を一定速度で供給した。この際、反応槽内のアンモニウムイオン濃度が0.7mol/Lに、pH値が、液温25℃基準で11.1に維持されるように、28質量%のアンモニア水と、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液を適時供給した。
得られた複合水酸化物粒子を含むスラリーをろ過した後、再度反応容器内に投入し、精製水を加えて撹拌しながら、0.4mоl/Lの硫酸銅水溶液100mLを滴下した。この際、反応容器内のpH値が、液温25℃基準で11.1に維持されるように、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液を適時供給した。
このようにして得られた複合水酸化物粒子を含むスラリーを再度ろ過し、洗浄および乾燥することにより、粉末状の複合水酸化物粒子を得るとともに、その評価を行った。この結果を表2に示す。
また、この複合水酸化物粒子を前駆体として、実施例1と同様にして、正極活物質および2032型コイン電池を作製するとともに、その評価を行った。この結果を表3に示す。
(比較例4)
晶析工程において、混合水溶液中の塩化物イオン濃度を1.10mоl/Lとしたこと以外は実施例2と同様にして、複合水酸化物粒子、正極活物質および2032型コイン電池を作製し、その評価を行った。これらの結果を表2および表3に示す。
(比較例5)
晶析工程において、反応水溶液のpH値を、液温25℃基準で10.5に調整し、この値を維持したこと以外は実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子、正極活物質および2032型コイン電池を作製し、その評価を行った。これらの結果を表2および表3に示す。
(比較例6)
晶析工程において、反応水溶液のpH値を、液温25℃基準で12.0に調整し、この値を維持したこと以外は実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子、正極活物質およびを作製し、その評価を行った。これらの結果を表2および表3に示す。
[評価]
表3より、実施例1〜11の正極活物質は、組成、粒子構造および平均粒径が所定の範囲にあり、結晶構造中に微量の銅および塩素が固溶し、かつ、これらが均一に分散していることが確認される。このため、この正極活物質を用いた2032型コイン電池は、いずれも、160mAh/g以上の初期放電容量と、1.4Ω未満のインピーダンスを達成しており、本発明によって、出力特性と放電容量を同時に改善可能であることが確認される。
これに対して、銅および/または塩素を含まない比較例1〜3、晶析工程におけるCl/CoまたはpH値が所定の範囲から外れる比較例4〜6では、銅や塩素が偏析しており、または、平均粒径が所定の範囲から外れるため、出力特性と放電容量を同時に改善することができなかった。
1 コイン型電池
2 ケース
2a 正極缶
2b 負極缶
2c ガスケット
3 電極
3a 正極
3b 負極
3c セパレータ

Claims (8)

  1. 一般式:Ni1-x-yCox Mn yCuzClw(OH)2(ただし、0.10≦x≦0.35、0<y≦0.35、0.00005<z≦0.0002、0.00005<w≦0.0005)で表され、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなる遷移金属複合水酸物粒子であって、
    前記二次粒子のレーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求められる体積基準平均粒径は4μm〜6μmの範囲にあり、かつ、
    前記二次粒子の中心から径方向外側に1μmまでの中心領域の5箇所以上の位置についてSEM−EDX測定した、ニッケルの質量パーセント濃度に対する銅の質量パーセント濃度の比を[Cu/Ni]c0、該二次粒子の外周面から径方向内側に1μmまでの表面領域の5箇所以上の位置についてSEM−EDX測定した、ニッケルの質量パーセント濃度に対する銅の質量パーセント濃度を[Cu/Ni]s0とした場合において、[Cu/Ni]c0に対する[Cu/Ni]s0の比が0.95〜1.05の範囲にあり
    前記二次粒子の中心領域の5箇所以上の位置についてSEM−EDX測定した、ニッケルの質量パーセント濃度に対する塩素の質量パーセント濃度の比を[Cl/Ni] c0 、該二次粒子の表面領域の5箇所以上の位置についてSEM−EDX測定した、ニッケルの質量パーセント濃度に対する塩素の質量パーセント濃度を[Cl/Ni] s0 とした場合において、[Cl/Ni] c0 に対する[Cl/Ni] s0 の比が0.95〜1.05の範囲にある、
    遷移金属複合水酸化物粒子。
  2. 請求項1に記載の遷移金属複合水酸化物粒子の製造方法であって、
    少なくともニッケル、コバルト、マンガン、銅および塩化物イオンを含み、該コバルトに対する塩化物イオンのモル比が1.8〜2.2の範囲にある混合水溶液を、温度が40℃〜60℃の範囲に、かつ、25℃基準におけるpH値が10.5を超えて12.0未満の範囲に維持された反応槽内に供給する、晶析工程を備える、
    遷移金属複合水酸化物粒子の製造方法。
  3. 前記晶析工程で得られた遷移金属複合水酸化物粒子をろ過した後、水洗する、水洗工程をさらに備える、請求項に記載の遷移金属複合水酸化物粒子の製造方法。
  4. 前記晶析工程で得られた遷移金属複合水酸化物粒子を、100℃〜200℃に加熱して乾燥させる、乾燥工程をさらに備える、請求項2または3に記載の遷移金属複合水酸化物粒子の製造方法。
  5. 一般式:LiuNi1-x-yCox Mn yCuzClw2(ただし、0.97≦u≦1.10、0.10≦x≦0.35、0<y≦0.35、0.00005<z≦0.0002、0.00005<w≦0.0005)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物粒子からなる正極活物質であって、
    複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなり、
    前記二次粒子のレーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求められる体積基準平均粒径は4μm〜6μmの範囲にあり、かつ、
    前記二次粒子の中心から径方向外側に1μmまでの中心領域の複数箇所の位置について測定した、ニッケルの質量パーセント濃度に対する銅の質量パーセント濃度の比を[Cu/Ni]c1、該二次粒子の外周面から径方向内側に1μmまでの表面領域の複数箇所の位置について測定した、ニッケルの質量パーセント濃度に対する銅の質量パーセント濃度を[Cu/Ni]s1とした場合において、[Cu/Ni]c1に対する[Cu/Ni]s1の比が0.95〜1.05の範囲にあり
    前記二次粒子の中心領域の複数箇所の位置について測定した、ニッケルの質量パーセント濃度に対する塩素の質量パーセント濃度の比を[Cl/Ni] c1 、該二次粒子の表面領域の複数箇所の位置について測定した、ニッケルの質量パーセント濃度に対する塩素の質量パーセント濃度を[Cl/Ni] s1 とした場合において、[Cl/Ni] c1 に対する[Cl/Ni] s1 の比が0.95〜1.05の範囲にある、
    非水系電解質二次電池用正極活物質。
  6. 請求項1に記載の遷移金属複合水酸化物粒子とリチウム化合物とを、ニッケル、コバルトおよびマンガンの原子数の合計に対するリチウムの原子数が0.97〜1.10となるように混合して、リチウム混合物を得る、混合工程と、
    前記リチウム混合物を、酸化性雰囲気下で焼成する、焼成工程と、
    を備える、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
  7. 前記焼成工程における焼成温度を850℃〜950℃とする、請求項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
  8. 正極と、負極と、セパレータと、非水系電解質とを備え、前記正極の正極材料として、請求項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質が用いられている、非水系電解質二次電池。
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