JP6307299B2 - 摺動機械および摺動部材 - Google Patents

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Description

本発明は、大幅な摩擦低減を図れる摺動面を有する摺動部材およびその摺動部材を備えた摺動機械に関する。
自動車に搭載される内燃機関などは、多くの摺動部材(例えばカムとカムフォロア、シリンダーとピストン、種々の軸と軸受け)からなる。このような摺動部材を備える機械(摺動機械)では、各摺動部における摩擦係数を減少させ、摩擦損失の低減等を図ることが強く要求されている。
これを実現するために、例えば、摩擦係数の低減を図れるダイヤモンドライクカーボン膜と呼ばれる非晶質炭素膜(適宜「DLC膜」という。)を摺動面に形成することが提案されている。これに関連する記載が下記の特許文献1〜3にある。
特開2011−32429号公報 特開2011−26591号公報 特開2007−99949号公報
特許文献1〜3は、ホウ素(B)を含有した非晶質硬質炭素膜(適宜「B−DLC膜」という。)を摺動面に形成した低摩擦摺動部材を潤滑油中で用いることを提案している。しかし、これらの特許文献で提案されているB−DLC膜は、水素(H)含有量が少ない硬質な被膜である。このような硬質なB−DLC膜からなる摺動面の摩擦係数を低減するには、予めその表面粗さ(Ra)を0.1より小さくしておく必要がある。
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、B−DLC膜の初期表面粗さにかかわらず、従来よりも摺動面における摩擦係数をさらに低減できる摺動部材と、その摺動部材を備えた摺動機械を提案することを目的とする。
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、従来とは異なる新たな組成からなるB−DLC膜が、潤滑油が存在する湿式条件下において非常に低い摩擦係数を発現することを新たに見い出した。これらの成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
《摺動機械》
(1)本発明の摺動機械は、相対移動し得る対向した摺動面を有する一対の摺動部材と、
該対向する摺動面間に介在し得る潤滑油と、を備えた摺動機械であって、前記摺動面の少なくとも一方は、全体を100原子%としたときに23〜3原子%のホウ素(B)と26〜33原子%の水素(H)と残部である炭素(C)および不可避不純物とからなるホウ素含有非晶質炭素膜(以下、「B−DLC膜」という。)により最表面の少なくとも一部が被覆された特定摺動面であることを特徴とする。
(2)本発明に係る特定摺動面は、少なくとも一部がBおよびHを比較的多く含むB−DLC膜により被覆されており、潤滑油の存在する湿式条件下で摺動機械が運転される際に、優れた低摩擦性を発現する。このため本発明の摺動機械は、運転時に必要な駆動力や摩擦損失等を大幅に低減することが可能となり、ひいては摺動機械の性能向上や省エネルギー化が図られる。
(3)本発明に係る特定摺動面が著しい低摩擦性を発揮し得る理由は必ずしも定かではないが、現状では次のように考えられる。本発明に係るB−DLC膜は、BおよびHの含有量が多いため(特にH量が多いため)、相対的にC量(特にsp混成軌道となるC量)が少なく、従来のB−DLCよりも摩耗し易い。このB−DLC膜は、摺動機械の運転開始後(つまり摺動後)の初期から徐々に摩耗を生じ、それに応じて特定摺動面の表面粗さは自ずと小さく(良好に)する。つまり、摺動機械の運転に伴い、特定摺動面を平滑化する。これにより、本発明に係る摺動面間では、介在する潤滑油による流体潤滑が安定的に生じるようになって、混合潤滑や境界潤滑等に伴う固体接触が殆ど生じなくなる。こうしてB−DLC膜で被覆された特定摺動面は、湿式条件下で著しい低摩擦性を発揮するようになったと考えられる。
なお、本発明に係る特定摺動面の平滑化は、相手材と摺動するB−DLC膜が摩耗して生じるため、特定摺動面が形成される下地面の表面粗さの影響はあまり受けない。例えば、下地面の表面粗さが算術平均粗さ(Ra/JIS B0601:’01)で0.1超、0.15以上さらには0.2以上であっても、運転後の摺動面(特定摺動面)の表面粗さはRaで0.05以下さらには0.04以下という超平滑面となり得る。従って、本発明の場合、摺動面の基材表面を必ずしも鏡面加工までする必要はなく、通常の研削加工(研磨加工または切削加工)さらには地肌のままとすることも可能である。但し、B−DLC膜の摩耗抑制を図る観点から、その下地面の表面粗さは、Raで0.01〜0.6さらには0.05〜0.3であると好ましい。ちなみに、本明細書でいう下地面は、基材自体の表面でも、その表面にさらに別の硬質膜等が形成された表面でもよい。
(4)本発明に係る特定摺動面の平滑化は、相手材の形状(主に外径)に応じてB−DLC膜が摩耗することにより生じるため、少なくとも摺動開始前のB−DLC膜は、相応の膜厚(例えば、1μm以上さらには3μm以上)を有すると好適である。膜厚の上限値は問わないが、厚いB−DLC膜は形成コストの増大と共に摺動面間のクリアランス増大を招き得るため好ましくない。そこでB−DLC膜の膜厚は、20μm以下さらには10μm以下であると好ましい。
《摺動部材および摺動膜》
本発明は摺動機械としてのみならず、その構成要素である摺動部材としても把握される。すなわち本発明は、上述した摺動機械に用いられ、少なくとも一部がB−DLC膜で被覆された特定摺動面を備えることを特徴とする摺動部材でもよい。さらに本発明は、その特定摺動面を構成する摺動膜(B−DLC膜)としても把握できる。
《その他》
(1)本発明に係るB−DLC膜は、C、H、Bなどの他に、特性改善に有効な元素を適宜含み得る。なお、当然ながら、原料中に含まれる不純物や成膜時等に混入する不純物など、コスト的または技術的な理由により除去困難な「不可避不純物」も本発明に係るB−DLC膜中に含有され得る。
本発明に係る特定摺動面は、平滑化による低摩擦性が発現される限り、必ずしも連続したB−DLC膜によって被覆された状態でなくてもよい。例えば、本発明に係る特定摺動面は、摺動開始前にB−DLC膜により連続的に被覆された状態となっていても、摺動開始後に最表面の一部に下地層または基材表面が部分的に出現した状態となってもよい。
(2)本発明に係る特定摺動面は、その具体的な平滑度(表面粗さ等)、摩擦係数、耐摩耗性等を問わない。それらは、摺動条件(摺動面間に作用する荷重、相手材の材質や形状、用いる潤滑油の種類等)により変化するためである。
(3)特に断らない限り本明細書でいう「x〜y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を、新たな下限値または上限値として「a〜b」のような数値範囲を新設し得る。
成膜装置を示す模式図である。 リング・オン・ブロック摩擦試験の様子を示す説明図である。 各試料の摺動面における摩擦係数を示す棒グラフである。 各試料の摺動面に形成されたB−DLC膜のホウ素含有量と水素含有量の関係と摩擦係数を示す分散図である。 各試料の摺動面に形成された被膜の摩耗深さと膜厚を示す棒グラフである。 試料1の摩擦試験後の摺動面を示す図である。 試料2の摩擦試験後の摺動面を示す図である。 試料C3の摩擦試験後の摺動面を示す図である。 試料C6の摩擦試験後の摺動面を示す図である。
発明の実施形態を挙げて本発明をより詳しく説明する。上述した本発明の構成に本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成を付加し得る。本明細書で説明する内容は、本発明に係る摺動機械のみならず、摺動部材さらには摺動面を構成する摺動膜(B−DLC膜)にも適用され得る。製造方法に関する構成は、プロダクトバイプロセスとして理解すれば物に関する構成ともなり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
《B−DLC膜》
(1)本発明に係る特定摺動面の少なくとも一部を構成するB−DLC膜は、従来のB含有DLCよりも、BおよびHを比較的多く含有する。具体的にいうと、Bは、23〜50%、26〜35%さらには27〜32%であると好ましい。またHは、26〜50%、27〜40%さらには28〜35%であると好ましい。B、HはB−DLC膜(膜)の硬さひいては摩耗性に影響し、それらが過少ではB−DLC膜の硬さが過大となり、過多ではB−DLC膜の硬さが過小となり、いずれにしても特定摺動面の安定した平滑化が妨げられる。
ちなみに、Oの含有量が過多になると、B−DLC膜は過度に軟化したり、良好な成膜が困難となり得る。なお、B−DLC膜の組成は、膜厚さ方向に関して、均質的でも多少変化していても、さらには傾斜していてもよい。
(2)本発明に係る特定摺動面は、相手材との摺動によりB−DLC膜が徐々に摩耗して平滑化されるため、摺動開始前の表面粗さ(初期表面粗さ)は特に問わない。従って、特定摺動面の初期表面粗さは、0.1μm以上、0.15μm以上さらには0.2μm以上でもよい。但し、初期表面粗さも小さいほど好ましく、例えば、Raで0.6μm以下さらには0.4μm以下であるとよりよい。なお、B−DLC膜の初期膜厚が1〜10μm程度あれば、特定摺動面の初期表面粗さは、下地面の表面粗さ(基材表面または下地層の表面粗さ)とほぼ同様となる。また特定摺動面の初期表面粗さは比較的粗くても、摺動後に平滑化されると、その表面粗さは、初期表面粗さとは関係なく、Raで0.1μm以下、0.05μm以下さらには0.04μm以下ともなり得る。
自己平滑性を発現するB−DLC膜は、その表面硬さが、例えば25GPa以下、20GPa以下さらには18GPa以下であると好ましい。ちなみに、熱処理された鉄鋼基材の表面硬さは8GPa程度である。
また、自己平滑性と共に靱性を確保する観点から、B−DLC膜の弾性率は、例えば200GPa以下、170GPa以下さらには150GPa以下であると好ましい。もっとも、弾性率が過小になると硬さも低下するため、弾性率は100GPa以上さらには120GPa以上であると好ましい。
《基材》
摺動面が形成される基材はその材質を問わないが、通常、金属材料、特に鉄鋼(炭素鋼または合金鋼)材からなる。基材表面は、適宜、窒化、浸炭等の表面処理がなされていてもよい。その表面粗さは、Raで0.6μm以下、0.2μm以下さらには0.1μm以下であると好ましい。またB−DLC膜の密着性を向上させるため、基材表面にCrやCrC等からなる中間層が一層以上形成されていてもよい。
《B−DLC膜の生成》
本発明に係るB−DLC膜の生成方法は問わないが、例えば、プラズマCVD法、イオンプレーティング法、スパッタリング法(特にアンバランスドマグネトロンスパッタリング法)等により効率的に形成され得る。その際、使用する原料ガスの種類や流量等を適宜変更することによりB−DLC膜の組成制御がなされる。
例えば、直流プラズマCVD法を行う場合、真空容器内に基材を配置して、反応ガスおよびキャリアガスを導入する。そして、放電によりプラズマを生成させ、反応ガス中のプラズマイオン化されたC、CH、B等を被処理面(基材表面または下地表面)に付着させ、B−DLC膜を形成する。この際、(i)処理温度の低温化と、(ii)プラズマ制御とを行うことにより、水素量が多く、摩耗によって平滑化されやすい膜形成が容易となる。具体的にいうと、処理温度の低下により、プラズマ密度が低下し、原料ガス中に含まれる水素を多く取り込んだ高水素含有B−DLC膜となる。また、放電の負グローが互いに重なり合う状態にプラズマを制御することにより、反応ガスとして用いられる炭化水素ガスが分解され易くなり、Hが多く、適切な割合でsp混成軌道となるC(Csp)をもつB−DLC膜が形成され易くなる。
反応ガスには、メタン(CH)、アセチレン(C)、ベンゼン(C)等の炭化水素ガスの他、B源となるTEB(トリエチルホウ素)、TMB(トリメチルホウ素)、B(ジボラン)などを用いることができる。キャリアガスは、アルゴンガスでもよいが、水素ガスを用いれば、生成中のB−DLC膜表面へのイオン衝撃が低減され、Hが多く、適切な割合でCsp をもつB−DLC膜が生成され易い。
《用途》
本発明の摺動機械は、その具体的な形態や用途を問わず、多種多様な機械や装置等へ幅広く適用できる。特に本発明の摺動機械は、摺動面間の摩擦係数が非常に小さくなる超低摩擦特性を発現するため、摺動抵抗の低減や摺動による機械損失の低減が厳しく要求される機械等に好適である。例えば、自動車等に搭載されるエンジンや変速機等の駆動系ユニット等に好適である。
本発明の摺動部材は、具体的にいうと、軸と軸受、ピストンとライナー、噛合する歯車、動弁系を構成するカムとバルブリフタ若しくはフォロワ、バルブとバルブガイド、ロータとロータハウジング等である。
《試料の製造》
表1に示す種々の試料(摺動部材)を製造した。各試料は、ブロック試験片(15.7mm×6.5mm×10mm)の摺動面(特定摺動面)となる一面に種々の被膜を形成したものである。但し、試料C1は、基材の研磨面をそのまま摺動面とした。
〈基材〉
試料C1を除き、ブロック試験片の基材には、マルテンサイト系ステンレス鋼(JIS SUS440C)の焼入れ焼戻し材(HRC58)を用いた。試料C1の基材には、浸炭鋼(JIS SCM420)の焼入れ焼戻し材(HV700±50)を用いた。なお、被膜を形成される各基材表面(被処理面)は、研磨により表1に示す表面粗さ(Ra)とした。この点は試料C1の摺動面も同様である。なお、本実施例でいう表面粗さは全て、特に断らない限り、JIS B0601:’01に準拠した算術平均粗さ(Ra)に基づく。
〈成膜〉
(1)試料1〜3、C5およびC6は、各基材表面に組成の異なるB−DLC膜を形成したものである。これらの成膜は、図1に示す成膜装置1を用いて、表1に示す各成膜条件の下で、直流プラズマCVD(PCVD)法により行った。具体的には次の通りである。
成膜装置1は、ステンレス製の容器10と、導電性を有する基台11と、ガス導入管12と、ガス導出管13を備える。ガス導入管12には、バルブ(図略)と質量流量制御器(マスフロー)14を介して、各種のガスボンベ15が接続されている。
またガス導入管12には、バルブ(図略)と質量流量制御器(マスフロー)16を介して、ヒーター17で加熱可能な原料保存容器18が接続されている。ガス導出管13には、バルブ(図略)を介してロータリーポンプ(図略)および拡散ポンプ(図略)が接続されている。
成膜装置1を用いた成膜は次のような手順で行った。成膜装置1の容器10内にある基台11上に基材19を配置する。その後、容器10を密閉し、ガス導出管13に接続されたロータリーポンプおよび拡散ポンプにより、容器10内を真空排気する。この真空排気された容器10内へ、表1に示す所望組成に調整したガスをガス導入管12から導入する。この容器10内へプラズマ電源から電圧を印加する。こうして基材19の周囲にグロー放電環境110が形成される。
成膜手順をより具体的にいうと次の通りである。先ず、放電加熱、イオン窒化およびプレスパッタリングを順に行った(前処理工程)。このときの各処理条件(使用ガスの種類と各ガスの導入量、容器内圧、基材温度、印加電圧を表2に示した。なお、これらの処理は、上述した各試料とも同一条件で行った。
次に、上記の前処理工程後に連続して、B−DLC膜を形成する合成処理工程を行った。この際の処理条件は表1に示した通りである。ちなみに、B−DLC膜の原料ガスとなるTEB(トリエチルホウ素)は、成膜装置1の原料保存容器18に入れ、ヒーター17で加熱し、蒸発させて供給した。なお、各B−DLC膜の組成(BとHの含有量)は、TEBとCH の比率(流量比)および合成温度を表1に示すように調整することにより制御した。
(2)試料C2、C3は、アンバラスドマグネトロンスパッタ装置(株式会社神戸製鋼製)を用いて、ブロック試験片の被処理面に、スパッタリングによりB−DLC膜を合成したものである。具体的にいうと、このB−DLC膜は、ブロック試験片の表面にCr系中間層を形成した後、BCおよびグラファイトターゲットをArガスでスパッタリングすると共にCHガス(炭化水素系ガス)を導入して形成したものである。
(3)試料C4は、ブロック試験片の表面に市販のHフリーDLC膜(日本アイ・ティ・エフ株式会社製ジニアスコートHA)を形成したものである。
(4)試料C7は、ブロック試験片の表面に二硫化モリブデン系被膜(東洋ドライルーブ株式会社製:MK−4190)を形成したものである。
《測定・観察》
表1に示した各試料について、各特性をそれぞれ測定し、その結果を表1に併せて示した。具体的にいうと、表面粗さ(Ra)は、白色干渉法非接触形状測定機(New View 5022,ザイゴ株式会社製)により測定した。膜厚は、精密膜厚測定器(CALOTEST、CSEM社製)により測定した。硬さは,ナノインデンター試験機(TRIBOSCOPE,HYSITRON社製)により測定した。被膜中のB量はEPMA分析(日本電子製、JXA−8200)により測定し、H量はRBS/HFS分析(National Electrostatics Corporation製、Pelletron 3SDH)により測定した。
《摩擦試験》
上述した各試料の被覆面(試料C1を除く)を摺動面として、リング・オン・ブロック型摩擦試験機(LFW−1、FALEX社製)により摩擦試験を行った。この様子の概略を図2に示した。具体的にいうと、各試料に係るブロック試験片21の摺動面21f(15.7mm×6.5mm)を、潤滑油Lが入った浴槽20内で回転するリング試験片22の摺動面22fに押圧しつつ摺接させて、そのときの摩擦係数と試験後の摩耗深さを測定した。リング試験片22には、浸炭材(SAE4620、φ35mm×8.8mm、表面粗さRa0.2±0.1μm)を用いた。潤滑油は、トヨタ自動車株式会社の純正エンジン油(トヨタキャッスル SN 0W−20/ILSAC規格:GF−5、MoDTC非含有)を用いた。また、リング試験片22に対してブロック試験片21を押圧する荷重F:133N、両試験片のすべり速度:0.3m/s、潤滑油の油温:80℃(一定)、試験時間:30分間とした。なお、摩擦係数は、試験終了直前の1分間における平均値とした。また摩耗深さは、白色干渉法非接触形状測定機により得られた形状から、非摺動面から摺動面の最深部までの深さとして算出した。こうして得られた結果を表1に併せて示した。
《評価》
(1)摩擦係数
各試料に係る摩擦係数を図3に示した。図3および表1から明らかなように、試料1〜3の摩擦係数が他の試料よりも群を抜いて小さくなっている。具体的にいうと、試料2、試料3の摩擦係数は0.02以下であり、試料1の摩擦係数は0.01以下さらには0.005以下と、極めて小さくなった。
B−DLC膜が形成された各試料について、その被膜中に含有されるB量とH量の関係および各摩擦係数を図4に示した。図4から明らかなように、B−DLC膜中に23%以上のBと26%以上のHを含む試料1〜3は、上述したように摩擦係数が極端に低くなっている。
(2)摩耗深さと表面粗さ
各試料に係る被膜の摩耗深さを、その膜厚と共に図5に示した。図5および表1から明らかなように、試料C2〜C6の被膜は殆ど摩耗していないが、試料1〜3のB−DLC膜は相応に摩耗した。但し、試料1〜3のB−DLC膜も摩滅することはなかった。なお試料C7の被膜は、摩耗深さが10μmを超えて摩滅した。
B−DLC膜で被覆された摺動面を有する試料1、2、C3およびC6について、摩擦試験前後の摺動面の様子を図6A〜6Dにそれぞれ示した。なお、各図の左側に示した立体図と右側に示した立体図断面における表面粗さ曲線は、白色干渉法非接触形状測定機により測定して描いたものである。
図6Aおよび図6Bから明らかなように、試料1、2に係るB−DLC膜は、摩擦試験前の初期表面粗さが大きくても、摺動相手材の外形状に応じて摩耗し、非常に平滑な摺動面(特定摺動面)を形成して著しい低摩擦性を発揮することがわかる。一方、図6Cおよび図6Dから明らかなように、試料C3、C6に係る被膜は、摩耗による摺動面の平滑化を生じず、初期表面粗さをほぼ維持し、摩擦試験前後で摩擦係数は殆ど低減しないことがわかる。
以上のことから、BおよびHを比較的多く含有した本発明に係るB−DLC膜は、摩耗しつつ摺動面を平滑化させ、それによって潤滑油が存在する湿式条件下で著しい低摩擦性を発揮することが明らかとなった。

Claims (4)

  1. 相対移動し得る対向した摺動面を有する一対の摺動部材と、
    該対向する摺動面間に介在し得る潤滑油と、
    を備えた摺動機械であって、
    前記摺動面の少なくとも一方は、全体を100原子%としたときに23〜32原子%のホウ素(B)と26〜33原子%の水素(H)と残部である炭素(C)および不可避不純物とからなるホウ素含有非晶質炭素膜(以下、「B−DLC膜」という。)により最表面の少なくとも一部が被覆された特定摺動面であることを特徴とする摺動機械。
  2. 前記Bは、26〜32原子%である請求項1に記載の摺動機械。
  3. 前記Hは、27〜33原子%である請求項1または2に記載の摺動機械。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の摺動機械に用いられ、
    少なくとも一部が前記B−DLC膜で被覆された特定摺動面を備えることを特徴とする摺動部材。
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