JP6116000B2 - 白金コアシェル触媒の製造方法及びそれを用いた燃料電池 - Google Patents

白金コアシェル触媒の製造方法及びそれを用いた燃料電池 Download PDF

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Description

本発明は、燃料電池において酸素還元反応の触媒として用いるのに適した、白金コアシェル触媒の製造方法、及び当該触媒を用いた燃料電池に関する。
固体高分子形燃料電池(PEFC)は、アノード側で水素の酸化反応を、カソード側で酸素の還元反応を起こすことにより、水のみを生成するクリーンエネルギーデバイスであって、カソード側の触媒として、白金(Pt)を使用するものが知られている。貴金属である白金を用いる触媒は触媒活性や電気伝導性が高く、また、周辺環境の状態や周辺環境に存在する物質による腐食や被毒を受けにくいという利点を有する。
一方で、白金は資源量が少なく価格が高いという問題があり、その利用効率や耐久性を向上させて使用量を低減するために種々の検討が進められている。検討の一つとして、異種金属上に白金を被覆してなる白金コアシェル触媒が注目されている。白金コアシェル触媒は、触媒活性を発揮する白金原子は触媒粒子の最外層に露出した白金原子のみであることに着目して考案されたもので、白金原子層(シェル)で被覆された異種金属微粒子(コア)が、カーボン等の担体に高分散担持された構成を有する。
特許文献1(特開2012-41581号)には、白金の使用量を低減し、触媒活性を向上させるコアシェル型微粒子として、面心立方結晶構造を有するルテニウムからなるコア粒子と、当該コア粒子の表面に形成された、面心立方結晶構造を有する白金からなるシェルとを有するコアシェル微粒子が開示されている。この発明は、触媒微粒子表面の白金原子の面密度を向上させることによって白金の触媒効率を上げ、使用量を削減することが主旨であり、シェルの白金原子の面密度が最大となる面心立方結晶構造を用いることを見出したものである。
また、白金シェルに対するコア金属の一つとして、パラジウム(Pd)が知られている。非特許文献1(J. Zhang et al., J. Phys. Chem. B, 108,10955 (2004))と非特許文献2(J. Zhang et al., Angew. Chem., Int. Ed., 44, 2132 (2005))には、コア金属としてPdを使用した場合、PEFCでの酸素還元反応(Oxygen Reduction Reaction: ORR)活性が高まることが記されている。Pdの格子定数(0.38898 nm)はPt(0.39231 nm)よりも小さいため、Pdコア上に設けたPtシェルには僅かな圧縮応力が発生する。この圧縮応力によってPtシェル表面でORRが進行しやすい状況が実現され、ORR活性が高まると考えられている。
Pdをコア金属として使用したコアシェル触媒では、上述したようにORR活性が向上するが、Pdの標準酸化還元電位(0.92 V vs. NHE)がPt(1.19 V vs. NHE)に比べて低いため、その耐久性に問題がある。非特許文献3(K. Sasaki et al., Angew. Chem. Int. Ed., 49, 8602 (2010))では、カーボン担持Pdコア/Ptシェル触媒(以後、Pt/Pd/C触媒と記述する)をカソードに使用したPEFCにおいて、発電によりPdコアの一部が酸化溶解し、固体高分子電解質膜中に金属Pdが再析出し、Pdバンドが現れることが報告されている。
特開2012-41581号公報
J. Zhang et al., J. Phys. Chem. B, 108, 10955 (2004) J. Zhang et al., Angew. Chem., Int. Ed., 44, 2132 (2005) K. Sasaki et al., Angew. Chem. Int. Ed., 49, 8602 (2010)
本発明は、コア金属としてPdを用いた白金コアシェル触媒において、ORR活性と耐久性がさらに優れたPt/Pd/C触媒、及び、かかる触媒を得るための製造方法を提供することを目的とする。
発明者らは、Pt/Pd/C触媒について、ハーフセルを用いた電位サイクル試験(60 ℃、0.1 M HClO4、Ar雰囲気、0.6 V vs. RHE 3秒/1.0 V vs. RHE 3秒、10,000サイクル)を行い、Pt/Pd/C触媒の変化を調べた。蛍光X線(以後、XRFと記述する)を用いた電位サイクル試験前後のPt/Pd/C触媒の組成分析から、Pdコアが約30-40%酸化溶出していることがわかった。また、電位サイクル試験前後の電子顕微鏡(以後TEMと記述する)を用いたPt/Pd/C触媒の観察から、電位サイクル試験後に触媒粒径が減少し、触媒の粒子形態が電位サイクル試験後に丸みを帯びた形態に変化していることもわかった。さらに、電位サイクル試験前後のORR活性を測定した結果、電位サイクル試験によってPt/Pd/C触媒のORR活性が高まることがわかった。
Pt/Pd/C触媒において、Pdコアの低い酸化還元電位により、電位サイクル試験に伴ってPdコアが酸化溶出することは、触媒の耐久性の観点からは大きな問題である。しかしながら発明者らは、このPdの酸化溶出により、前述したようなPt/Pd/C触媒の粒径と形態変化によってORR活性が高まることは、Pt/Pd/C触媒の高活性化に対する一つの指針であると考えた。
しかし、一般に、触媒の電位サイクル試験はグラシカーボン(以後、GCと記述する)電極上に塗布した重量僅か数十μgの触媒に対して行われるため、量産化に対して大きな障壁となる。そこで発明者らは、GC電極上での電位サイクル試験を模擬し、かつ、大量の触媒を処理できる方法を創出することによって、ORR活性と耐久性に優れた白金コアシェル触媒の製造方法を提供できると考えた。
上記の思想に基づいて、発明者らは、GC電極上の電位サイクル試験を模擬でき、かつ、大量のコアシェル触媒を処理できる方法について鋭意検討を進めてきた。その結果、低電位側にCuの酸化還元電位である下式(1)、高電位側に酸素の酸化還元電位である下式(2)を使用することにより、GC電極上での電位サイクル試験を模擬し、かつ大量の白金コアシェル触媒を処理できることを見出した。
[化学反応式]
すなわち本発明は、パラジウムを含有するコア粒子と、当該コア粒子の表面に形成された白金シェルとを有する燃料電池用の白金コアシェル触媒の製造方法であって、(A)プロトンを含む酸性水溶液中に前記白金コアシェル触媒を分散し、酸化還元電位が当該白金コアシェル触媒の白金の酸化物生成開始電位よりも低い金属を共存させながら、酸素供給下に撹拌する工程を含む、製造方法に関する。
式(1)と式(2)の電位をコアシェル触媒に与えるための前記工程(A)の具体的方法は、例えば硫酸酸性水溶液中に白金コアシェル触媒を分散し、この水溶液内に金属銅(Cu)を共存させ、空気(すなわち酸素を含む気体)を吹き込みながら水溶液を攪拌することにより実現される。この状態で白金コアシェル触媒を攪拌することにより、白金コアシェル触媒は金属Cuと酸素ガスに繰り返して接触し、上記式(1)および(2)の酸化還元電位が白金コアシェル触媒に与えられ、GC電極上での電位サイクル試験が模擬される。
GC電極上の電位サイクル試験では、低電位側で0.6 V、高電位側で1.0 Vが印加される。Pdの酸化還元電位は0.92 Vであるため、Pdの酸化溶出反応が進行する。一方、GC電極上でPt/Pd/C触媒を電位サイクル試験すると、前記したようにその粒子形状が丸みを帯びた形態に変化する。電位サイクル試験前後のPt/Pd/C触媒についてTEMを使用したライン組成分析から、Pt/Pd/C触媒は電位サイクル試験後においてもコアシェル型構造を維持していることが示されている。したがって、電位サイクル試験後の丸みを帯びた形状は、Pdコアの酸化溶出によって粒子径が減少し、これに伴ってPt/Pd/C触媒全体の粒子径が減少すると同時に、Pt/Pd/Cコアシェル触媒表面近傍のPt原子が酸化と還元を繰り返し、安定な構造に再配列した結果と考えられる。
GC電極上の電位サイクル試験後、Pt/Pd/Cコアシェル触媒の形状が丸みを帯びた形態に変化するには、上述したように触媒表面近傍のPt原子が電位サイクル試験によって酸化と還元を繰り返すことが重要と考えられ、電位サイクル試験で印加される電位窓(低電位側0.6 V、高電位側1.0 V)が鍵となる。図1に、0.1 Mの HClO4水溶液中で測定したカーボン担持Pt触媒(以後、Pt/Cと記述する)のサイクリックボクタモグラム(以後、CVと記述する)を示す。Ptの酸化物は0.75 V付近の電位から生成し、生成したPt酸化物は0.9 V付近の電位から還元されることがわかる。したがって、GC電極上での電位サイクル試験で印加される電位窓(0.6-1.0 V、図1に示した)は、Ptの酸化物生成開始電位とPtの酸化物還元開始電位を含んだ電位窓であり、Ptの酸化と還元が生じている。
本発明による金属Cuと酸素ガスとが存在する酸性溶液中でPt/Pd/Cコアシェル触媒を攪拌する方法においても、Pt/Pd/Cコアシェル触媒が金属Cuと酸素ガスに接触した際に印加される電位は、式(1)と式(2)に示したようにPtの酸化物生成開始電位(0.75 V)とPt酸化物の還元開始電位(0.9 V)を含んでおり(図1参照)、GC電極上での電位サイクル試験と同様にPt/Pd/Cコアシェル触媒表面近傍のPt原子が酸化と還元を繰り返す環境が与えられると考えられる。
本発明はまた、(1)Pt/Pd/Cコアシェル触媒を硫酸酸性の水溶液に分散する工程、(2)分散液に金属Cuを存在させる工程、(3)前記分散液に酸素を含有する気体を供給しながら攪拌する工程を有することが特徴である。
工程(1)において、コアシェル触媒の分散方法は超音波分散あるいは機械攪拌が適切である。工程(1)において、使用する酸は硫酸が好ましい。硝酸では、硝酸の酸化作用によりカーボン担体が酸化するため、カーボン担体の耐久性の面から問題がある。また塩酸を使用した場合、塩素イオンの錯化作用により、Pdコアに加えPtシェルも酸化溶解が促進するため、使用する酸としては硫酸がより好ましい。ただし、塩素イオン、臭素イオン及びヨウ素イオン等のハロゲンイオン種の添加によりコアシェル触媒の溶出が促進されるため、処理時間短縮の点から、本発明においてハロゲンイオン種の添加は禁止されるものではない。式(2)に示した酸素の還元反応から、この反応はプロトンを消費する反応である。このため、使用する硫酸の濃度を適宜制御することが好ましい。硫酸水溶液中のプロトンが消費されて溶液のpHが上昇すると、式(1)の反応によって生成したCu2+イオンが水酸化銅(Cu(OH)2)を生成して沈殿を生じる。このため、初期硫酸濃度としては1〜10 Mに設定することが好ましい。また、反応の過程で溶液のpHを測定し、pHが上昇した時点で硫酸を添加しても良い。
工程(2)において、硫酸水溶液中に加える金属Cuとしては、純度99.9 %より高い純度の金属Cuを使用することが好ましい。不純物の存在はコアシェル触媒を汚染させる。また、不純物として鉄が存在すると、PEFC作動中に固体高分子電解質膜を劣化させる触媒となるため、Feの不純物には注意が必要である。また、加える金属Cuの形状は、板状、粒状その他のいずれの形状であっても良く、さらには、触媒分散溶液を入れる容器に金属Cu製の容器を使用しても良い。
工程(3)において、酸素を含有する気体としては空気を用いることもでき、また、純酸素ガスと不活性ガスとして例えば窒素ガスやアルゴンガスを用い、両者を混合したガスを使用することもできる。混合ガスを使用する場合、酸素分圧を制御できる点で好ましい。酸素を含む気体の供給方法としては、通常のエアーポンプを用いた吹き込みでもよいし、他の公知の方法でもよい。
また工程(3)において、溶液の攪拌にはマグネティックスターラー、機械攪拌等、通常の攪拌法を使用することができる。また、容器の形状によっては、容器自体を振動あるいは回転させても良い。
硫酸中にPt/Pd/C触媒を分散させ、金属Cuを共存させて空気を吹き込み、攪拌する操作温度は常温以上で行うことが好ましい。反応速度を高めるため、50〜100 ℃、より好ましくは80〜100 ℃で行うことが好ましい。50 ℃未満ではCuの酸化反応と酸素の還元反応の進行が遅く、また、PEFCの作動温度が80 ℃付近であるため50 ℃以上の操作温度が好ましく、80 ℃以上がより好ましい。100 ℃より高い操作温度は、本発明の溶媒が水であるため、実質的に100 ℃より高い温度にすることは困難である。
前記工程による触媒活性の向上は、前記工程の前及び後における白金コアシェル触媒のORR質量活性の比を指標として表すことができる。ORR質量活性は白金単位重量当たりの酸素還元活性であり、公知の方法で測定される。測定方法の一例が後述の実施例に述べられる。本発明では、前記工程(A)を経た後の白金コアシェル触媒のORR質量活性が、前記工程(A)前の白金コアシェル触媒のORR活性に対して、1.5〜5.0倍であることが好ましい。
以上説明したように、本発明のPt/Pd/Cコアシェル触媒の処理工程によれば、硫酸中に分散させたPt/Pd/Cコアシェルを金属Cuの存在下、酸素を含有する気体を供給しながら攪拌することにより、0.337 Vと1.229 Vの電位窓でPt/Pd/Cコアシェル触媒を連続的に処理することが可能になる。この操作により、GC電極上での電位サイクル試験と同様、Pdが酸化溶出する電位が存在し、さらに、Ptの酸化物生成開始電位とPtの酸化物還元開始電位を含み、GC電極上の操作と比較して桁違いに多量のPt/Pd/C触媒を処理することが可能になる。本発明の操作により、Pt/Pd/C触媒のORR活性を高めることができる。
0.1 M HClO4水溶液中でのPt/C触媒のCVを示す図である。 回転リングディスク電極の模式図である。 作製直後及び実施例1と比較例1で処理したPt/Pd/C触媒のTEM像示す図である。 作製直後のPt/Pd/C触媒、Pt/C触媒及び実施例1と比較例1で処理したPt/Pd/C触媒のORR活性を示す図である。 Pt/Pd/C触媒の耐久性試験結果を表す図である。
本発明のPt/Pd/Cコアシェル触媒のコアはPdを含有するナノ粒子コアであって、公知のPdナノ粒子を用いること、公知のPdナノ粒子の製造方法で製造することが可能である。Pdコア粒子にはPd以外の他種元素、例えば銀、銅、ニッケル等の金属を含んでいてもよい。また、本発明の効果に影響を与えない範囲で他の物質を含んでいてもよく、製造の過程で使用される添加剤(還元剤、微粒子化剤等)の残渣或いは一部を含んでいてもよい。
Pdコア粒子の大きさは2.0 nm〜5.0 nmである。粒径2.0 nm未満のPdコア粒子の合成は実質的に困難であり、粒径が5.0 nmを超えるとPtシェルを形成するためのPt原子数が増加し、また、単位面積を得るためのPd使用量も増加するため、触媒コストが上昇する問題がある。粒径を5.0 nm以下とすると特に、触媒単位重量当たりで大きな表面積を得ることができ、触媒単位面積当たりに必要なPdおよびPt使用量を削減することができ、コスト面で有利になる。
なお、本明細書中でPdコア粒子の粒径とは、TEM像から求めた平均粒径、或いはPdの(220)面のX線回折ピークにシェラー式を適用して算出した値を意味している。
Pt/Pd/Cコアシェル触媒のPtシェルの平均的厚みは、単原子層〜三原子層(0.3 nm〜0.9 nm程度)であることが好ましく、単原子層〜二原子層(0.3 nm〜0.6 nm程度)がより好ましい。酸素還元触媒として活性を発揮するPt原子は、シェルの最外層(最表面)に位置するPt原子のみであるので、シェルの厚みを増すことには特段の利点がない。
Ptシェルは、コア表面を均一に被覆していることが好ましい。しかしながらまた、本発明の特徴である工程によれば、コアのPdが酸化溶出するとともにシェルのPt原子が酸化還元を繰り返しながら再配列されると考えられている。ゆえに、本発明の処理工程に供する前のPt/Pd/Cコアシェル触媒は、必ずしも均一なPtシェルでなくてもよい。例えば、触媒粒子表面にPdとPtが混在していてもよいし、Pt-Pd合金粒子でも良い。それら以外の異種金属との合金であってもよい。異種金属としては、白金よりも酸化還元電位が低い金属が好ましく、例えば銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)が挙げられる。
本発明のPt/Pd/Cコアシェル触媒は、炭素質材料からなる担体の表面に分散されて担持されていることが好ましく、このような炭素質材料としてはカーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ等が挙げられる。また、炭素質材料担体の酸化劣化の観点から、耐酸化性の高い酸化錫(SnOx)や酸化チタン(TiOx)などの金属酸化物担体を使用してもよく、炭素質材料担体と金属酸化物担体とを混合して使用してもよい。担体は、比表面積が10〜1000 m2/g程度であることが好ましい。Pt/Pd/Cコアシェル触媒は、主に静電的相互作用によって担体の表面に担持されていると考えられるが、より強固に担持させて担体表面からの触媒の脱落を低減するためには、Pt/Pd/Cコアシェル触媒と担体との間に化学的結合を形成して担持することもできる。
炭素質担体に担持されたPdコア粒子は公知の合成法によって合成することが可能である。一例として、塩化パラジウム(PdCl2)、硝酸パラジウム(Pd(NO3)2)、酢酸パラジウム(Pd(CH3COO)2)、塩化パラジウム(II)ナトリウム・三水和物(Na2[PdCl4]・3H2O)、ジニトロジアンミンパラジウム(II)([Pd(NH3)2(NO2)2])等の水溶液、有機溶液、又はそれらの混合溶液中にカーボン担体を共存させ、パラジウムイオンを還元してカーボン担持Pdナノ粒子コア(以後Pd/Cと記述する)を得る方法がある。
Ptシェルの形成には、外部電源を使用した精密な電位制御と対極や参照極を必要としない改良型Cu-UPD法を用いることが好ましい。改良型Cu-UPD法とは、Pd/Cコアを、Cuからなる固体が浸漬されたCu2+イオンを含有する酸性水溶液中に投入し、アルゴンや窒素等の不活性ガス雰囲気中で撹拌することで、Pdコア表面にCuからなる単原子膜を形成させる方法である。Cu単原子膜は必ずしも膜の全面が単原子膜からなる均一膜でなく、部分的に二原子或いはそれ以上の重複が生じているものも含む。
改良型Cu-UPD法に用いられるCuからなる固体としては、少なくとも表面がCuで構成されており、Pdナノ粒子と接触した際にイオン化してCu2+イオンを生じる物体であれば制限されないが、例えば、Cuメッシュ、Cuワイヤ、Cu粒、Cu板、Cu塊等が挙げられる。
Cuイオンを含有する酸性水溶液に用いられるCu2+イオンを与える物質としては、硫酸銅(CuSO4)、塩化銅(CuCl2)、酢酸銅(Cu(CH3COO)2)、硝酸銅(Cu(NO3)2)等が挙げられ、これらのCu塩を水溶液とすることによってCu2+イオンが解離する。Cu2+イオン濃度は特に制限されるものではないが、例えば0.1 mM〜100 mMとすることができ、反応速度と反応溶液の安定性等の観点からは1 mM〜50 mM程度とすることが好ましい。
酸性溶液を与える酸としては、Cuを溶解可能であれば特に制限されないが、例えば、硝酸、硫酸、塩酸、過塩素酸等が挙げられ、濃度は10 mM〜1 Mとすることができ、反応速度とCu固体の電位制御の観点からは20 mM〜0.5 M程度とすることができる。
上記Cu固体を浸漬した上記のCuイオンを含む酸性溶液に、Pd/Cコアを投入し、例えば、室温付近(15〜45 ℃)において1〜50時間、不活性ガス通気下で撹拌を行うことによって、Pdコア粒子表面にCuの単原子膜が形成される。
続いて、得られたPdコア粒子表面のCuをPtと置換する。このステップは公知のUPD法等で用いられている置換めっき法で行うことができる。Ptイオンを与える物質としては、白金酸塩(K2PtCl4、K2PtBr4)、硝酸テトラアンミン白金(II)(Pt(NH3)4(NO3)2)、水酸化テトラアンミン白金(II)(Pt(NH3)4(OH)2)、テトラアンミン白金(II)クロリド(Pt(NH3)4Cl2)、ビス(エチレンジアミン)白金(II)クロリド([Pt(NH2CH2CH2NH2)2]Cl2)、ジニトロジアンミン白金(II)(Pt(NH3)2(NO2)2)等が挙げられる。
Cuからなる単原子膜を、Pt置換するステップは、前述のCu固体を浸漬した上記のCuイオンを含む酸性溶液から、Cu固体を除いた後、前記のPtを含む化合物を水溶液に添加し、撹拌することで行うことができる。Pt化合物の添加は、Cu固体を取り除いた後、可能な限り時間をあけずに行うことが好ましい。操作の過程で大気中の酸素が溶液中に侵入すると、Pdコア上に生成したCu単原子膜が酸化溶解するため、Cu固体を取り除いた後、直ちに白金化合物を添加することが好ましい。反応時間、温度は適宜選択することができるが、例えば、0 ℃〜50 ℃において1分〜50時間、より好ましくは1分〜1時間であり、不活性ガス通気下、撹拌しながら行うことが好ましい。
前記の方法によって得られたPt/Pd/Cコアシェル触媒は、必要に応じて、公知の方法によって洗浄、乾燥等を行う。前述のステップの他、必要に応じて分離、精製、洗浄工程等を含むこともできる。続いて、得られたPt/Pd/Cコアシェル触媒を、本発明の特徴である触媒活性及び耐久性を向上させる処理工程に供する。
すなわち、Pt/Pd/Cコアシェル触媒を硫酸水溶液中に分散し、金属Cuの共存下、空気(酸素ガス)を吹き込むことによって処理を行うことができる。低電位側にCuの酸化還元電位である式(1)、高電位側に酸素の酸化還元電位である式(2)を使用することにより、GC電極上での電位サイクル試験を模擬し、かつ大量の白金コアシェル触媒を処理できる。
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
[実施例1]カーボン担持Pdコアの作製
(i)Pd/Cコアの作製
1.4×10-3モルのPd(NO3)2を純水300 mlに溶解させた。この水溶液にカーボン担体(Ketjen Black EC 300J, 比表面積800 m2/g)0.35 gを超音波分散させた後、ホットスタラーで水分を蒸発させた。次に、カーボン担体にPd(NO3)2を担持させた試料を、水素ガスを用いて350 ℃で1時間還元した。水素還元処理後、Pd粒子内に吸蔵した水素を除去するため、窒素雰囲気中、300 ℃で1時間処理してカーボン担持Pdコアを得た。
(ii)Pd/Cコアの分析
作製したPd/CコアをTEM(日本電子株式会社製、JEM2100F)で観察した結果、カーボン担体に担持されたPd微粒子が確認された。TEM像中の200個のPdコア粒子の直径を測定した結果、平均粒径は4.2 nmであった。また、金属Pdの担持率を熱重量分析(リガク製、Thermo Plus TG-8120)で調べた結果、29.6 wt.%であった。
(iii)Pd/Cコア上へのPtシェルの形成
担持率29.6 wt.%、粒径4.2 nmのPd/Cコア100 mgを、濃度50 mMのH2SO4と濃度10 mMのCuSO4を含む300 mlの水溶液中に分散させた。Arを500 ml/min.の流量で流し、Cuメッシュを水溶液中に共存させた後、30 ℃で20時間撹拌してPdコア粒子表面にCuシェルを形成した。その後、Cuメッシュを水溶液から除去し、予めArバブリングして溶存酸素を除去したK2PtCl4水溶液を2 mMの濃度となるよう直ちに加え、Cuシェル層をPtシェル層に置換してPt/Pd/C コアシェル触媒を得た。生成したPt/Pd/C コアシェル触媒を濾別し、純水300 ml中に再分散して30分間撹拌した後、濾別した。この操作を3回繰り返してPt/Pd/C コアシェル触媒を洗浄した。その後、大気中60 ℃のオーブンで6時間乾燥した。
(iv)Pt/Pd/C触媒の分析
得られたPt/Pd/C触媒の組成を、XRF(SII社製、SEA1200VX)で分析した結果、Pt:Pd=45.2:54.8 (at.%)であった。Pd/Cコア粒子径(4.2 nm)とXRF組成分析値から算出したPtシェル層厚は、約2原子層であった。また、(220)のXRDピークにシェラー式を適用して算出したPt/Pd/C触媒の粒径は5.6 nmであった。
[試験電極の作製とORR活性評価]
得られたPt/Pd/C触媒をn-ヘキサノール中に超音波分散して懸濁液を調製した。その後、回転リングディスク電極のグラッシーカーボンディスク電極(直径6 mm)上に、Ptが14.1 μg/cm2になるよう塗布し、作用電極を作製した。図2に、回転リングディスク電極の構造を示す。ディスク電極部分が触媒塗布電極であり、この作用電極を回転させることにより電解液中に一定の対流を発生させて物質移動を制御し、Pt/Pd/C触媒の初期ORR活性を評価した。
[触媒活性向上処理]
作製したPt/Pd/C触媒0.1 gを濃度2 Mの硫酸水溶液500 mlを含むセパラブルフラスコ中で超音波分散し、その後、厚さ500 μmのCu板(純度99.9 %, 8 cm×21 cm)を円柱状に丸めて触媒分散液に配置した。その後、セパラブルフラスコを恒温槽に移し、空気を市販のエアーポンプ(β-120, 株式会社マルカン製)を用いて触媒の硫酸分散液中にバブリングさせた。触媒分散液の温度が80 ℃になるよう、恒温槽の温度を調整した。分散液の温度が80 ℃に達した後、24時間マグネティックスターラーを使用して分散液を撹拌した。攪拌終了後、Pt/Pd/C触媒を濾別し、超純水300 mlに再分散して30分攪拌した。濾別後、処理後のPt/Pd/C触媒中に微量に存在する金属Cuを除去するため、処理したPt/Pd/C触媒を濃度1 Mの硫酸水溶液500 mlを含むセパラブルフラスコ中に超音波分散し、大気中で12時間撹拌した。攪拌終了後、Pt/Pd/C触媒を濾別し、超純水300 mlに再分散して30分攪拌した。この操作を3回繰り返してPt/Pd/C触媒を洗浄した。その後、大気中60 ℃のオーブンでPt/Pd/C触媒を乾燥した。
[触媒活性向上処理後のPt/Pd/C触媒評価]
触媒活性向上処理後のPt/Pd/C触媒について、前述したTEM観察とXRF組成分析を行った。また、触媒活性向上処理後のPt/Pd/C触媒のORR活性を前述した方法で評価した。
[比較例1]Pd/CコアとPt/Pd/Cコアシェル触媒を、触媒活性向上処理を行わないこと以外は実施例1と同じ方法で作製した。
[試験電極の作製とORR活性評価]
ORR活性評価用の作用電極を実施例1と同様の方法で作製し、その初期ORR活性を実施例1と同様の方法で評価した。
[電位サイクル試験]
作製した電極について、アルゴンガス飽和した、60 ℃、濃度0.1 MのHClO4水溶液を用い、可逆水素電極(RHE)に対して0.6 V (3 s) - 1.0 V (3 s)の電位幅で10,000回の矩形波電位サイクル試験を行った。
[電位サイクル試験後のPt/Pd/C触媒の評価]
電位サイクル試験後の作用極を用い、前述したTEM観察とXRF組成分析を行った。また、実施例1と同様の方法でORR活性を評価した。
[試験結果]
表1に、作製直後のPt/Pd/C触媒(すなわち触媒活性向上処理前のもの)、実施例1(触媒活性向上処理したもの)、及び、比較例1(触媒活性向上処理をせず、電位サイクル試験を行ったもの)のPt/Pd/C触媒について、XRFで分析した触媒中のPtとPdの組成を示す。触媒活性向上処理を行った実施例1では、Pdコアが24 %が酸化溶出しており、電位サイクル試験を行った比較例1と同様にPdの酸化溶出が進行したことがわかる。
図3に、作製直後のPt/Pd/C触媒(触媒活性向上処理前のもの)、実施例1(触媒活性向上処理したもの)、及び、比較例1(触媒活性向上処理をせず、電位サイクル試験を行ったもの)のPt/Pd/C触媒のTEM像を示す。触媒活性向上処理をした実施例1では、作製直後に観察された角ばった触媒粒子形態が、丸みを帯びた形状に変化していることがわかる。この変化は、比較例1の通常の電位サイクル試験後のPt/Pd/C触媒の形状変化と同じである。
図4に、作製直後のPt/Pd/C触媒(触媒活性向上処理前のもの)、実施例1(触媒活性向上処理したもの)、及び、比較例1(触媒活性向上処理をせず、電位サイクル試験を行ったもの)のPt/Pd/C触媒のORR活性をまとめた。作製直後のPt/Pd/C触媒のORR活性と比較して、触媒活性向上処理を行った実施例1では、ORR質量活性(上図)とORR面積比活性(下図)とが共に2倍以上に向上していることがわかる。この変化は、比較例1における通常の電位サイクル試験後のPt/Pd/C触媒と同じである。
[Pt/Pd/C触媒の耐久性試験]
実施例1で得たPt/Pd/C触媒の耐久性を電位サイクル試験によって調べた。電位サイクル試験では、前述したと同様な方法で作用電極を作製し、温度60 ℃、濃度0.1 MのHClO4水溶液中で、矩形波電位サイクル(0.6 V 3秒/1.0 V 3秒)を印加した。所定のサイクルごとに、Pt/Pd/C触媒の電気化学的表面積をサイクリックボルタモグラムによって求めた。図5に、実施例1のPt/Pd/C触媒の耐久性を、Pt/C触媒及び作製直後のPt/Pd/C触媒(触媒活性向上処理していない触媒)と共に示す。作製直後のPt/Pd/C触媒では、10,000回の電位サイクル試験によって、その電気化学的表面積が約70 %減少した。一方、実施例1の触媒活性向上処理したPt/Pd/C触媒では、電気化学的表面積の減少度合いはPt/C触媒と同等であり、耐久性試験後の電気化学的表面積の減少率は約30 %に抑えられ、耐久性が向上したことがわかる。
以上述べたように、本発明の触媒活性向上処理工程によれば、通常の電位サイクル試験をした場合と同様に、処理後のPt/Pd/C触媒において、Pdの酸化溶出と丸みを帯びた触媒形態変化が発生し、処理後のORR活性を高めることができる。また、本発明の処理によってPt/Pd/C触媒の耐久性を高めることが可能である。さらに、通常の電位サイクル試験では処理可能な触媒重量がμgオーダーであるのに対し、本発明では桁違いに多量の触媒を処理することが可能である。

Claims (7)

  1. パラジウムを含有するコア粒子と、当該コア粒子の表面に形成された白金シェルとを有する燃料電池用の白金コアシェル触媒の製造方法であって、
    (A)プロトンを含む酸性水溶液中に白金コアシェル触媒を分散し、
    酸化還元電位が当該白金コアシェル触媒の白金の酸化物生成開始電位よりも低い金属を前記溶液中に共存させながら、酸素供給下に撹拌する工程を含む、製造方法。
  2. 前記工程(A)が、
    (1)白金コアシェル触媒を硫酸水溶液中に分散させる工程と、
    (2)前記工程(1)で得られた白金コアシェル触媒分散溶液に金属銅を共存させる工程と、
    (3)前記工程(2)で得られた金属銅を含んだ白金コアシェル触媒分散溶液に、酸素を含有する気体を供給しながら撹拌する工程と
    を含むことを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記撹拌を、50℃〜100℃で行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載の製造方法。
  4. pHを測定及び/又は制御しながら行うことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
  5. 酸素の供給を、空気の吹き込み及び/又は酸素分圧を制御した方法によって行うことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
  6. 前記工程(A)を経た後の白金コアシェル触媒のORR質量活性が、前記工程(A)前の白金コアシェル触媒のORR活性に対して、1.5〜5.0倍であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
  7. パラジウムを含有するコア粒子と、当該コア粒子の表面に形成された白金シェルとを有する燃料電池用の白金コアシェル触媒の活性を向上させる方法であって、
    (1)白金コアシェル触媒を硫酸水溶液中に分散させる工程と、
    (2)前記工程(1)で得られた白金コアシェル触媒分散溶液に金属銅を共存させる工程と、
    (3)前記工程(2)で得られた金属銅を含んだ白金コアシェル触媒分散溶液に、酸素を含有する気体を供給しながら撹拌する工程と、
    を含む方法。
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