以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。
(マニピュレータ)
図1は本発明に係るマニピュレータを使用したシステムの構成図である。図1において、マニピュレータシステム10は、顕微鏡観察下で細胞等の微小な対象物である試料に人工操作を実施するためのシステムとして、顕微鏡ユニット12と、マニピュレータ14と、マニピュレータ16と、を備えており、顕微鏡ユニット12の両側にマニピュレータ14、16が分かれて配置されている。
顕微鏡ユニット12は、撮像素子としてのカメラ18、顕微鏡20、試料台を備え、試料台の上にシャーレ22が配置されている。このシャーレ22の直上に顕微鏡20が配置される構造となっている。なお、顕微鏡20とカメラ18とは一体構造となっており、図示は省略したが、シャーレ22に向けて光を照射する光源を備えている。
シャーレ22内には例えば試料(図示せず)を含む溶液が収容される。この状態で、シャーレ22内の試料に顕微鏡20から光が照射され、シャーレ22内の試料(例えば、細胞や卵)で反射した光が顕微鏡20に入射すると、細胞や卵に関する光学像は、顕微鏡20で拡大されたあとカメラ18で撮像されるようになっており、カメラ18の撮像による画像を基に試料を観察することができる。
マニピュレータ14は、図1に示すように、X軸‐Y軸‐Z軸の直交3軸構成のマニピュレータとして、ピペット24、X‐Y軸テーブル26、Z軸テーブル28、X‐Y軸テーブル26を駆動する駆動装置30、Z軸テーブルを駆動する駆動装置32を備えて構成されている。ピペット24の先端には、毛細管チップであるキャピラリ25が取り付けられている。
ピペット24は、Z軸テーブル28に連結され、Z軸テーブル28は、X‐Y軸テーブル26上に上下動自在に配置され、駆動装置30、32はコントローラ43に接続されている。
X‐Y軸テーブル26は、駆動装置30の駆動により、X軸またはY軸に沿って移動するように構成され、Z軸テーブル28は、駆動装置32の駆動により、Z軸に沿って(鉛直軸方向に沿って)移動するように構成されている。Z軸テーブル28に連結されたピペット24は、X‐Y軸テーブル26とZ軸テーブル28の移動にしたがって3次元空間を移動領域として移動し、シャーレ22内の細胞などをキャピラリ25を介する等して保持するように構成されている。
マニピュレータ16は、直交3軸構成のマニピュレータとして、ピペット(インジェクションピペット)保持部材34と、X‐Y軸テーブル36と、Z軸テーブル38と、X‐Y軸テーブル36を駆動する駆動装置40と、Z軸テーブル38を駆動する駆動装置42を備え、ピペット保持部材34は、Z軸テーブル38に連結され、Z軸テーブル38は、X‐Y軸テーブル36上に上下動自在に配置され、駆動装置40、42は、コントローラ43に接続されている。ピペット保持部材34の先端にはガラス製のキャピラリ35が取り付けられている。
X‐Y軸テーブル36は、駆動装置40の駆動により、X軸またはY軸に沿って移動するように構成され、Z軸テーブル38は、駆動装置42の駆動により、Z軸に沿って(鉛直軸方向に沿って)移動するように構成されている。Z軸テーブル38に連結されたピペット保持部材34は、X‐Y軸テーブル36とZ軸テーブル38の移動にしたがって3次元空間を移動領域として移動し、シャーレ22内の試料にキャピラリ35等を介して人工操作を行うように構成されている。
このように、マニピュレータ14、16はほぼ同一構成であり、以下、ピペット保持部材34が連結されたマニピュレータ16を例に挙げて説明する。
X‐Y軸テーブル36は、駆動装置40の駆動(モータ)により、X軸またはY軸に沿って移動するように構成され、Z軸テーブル38は、駆動装置42の駆動(モータ)により、Z軸に沿って(鉛直軸方向に沿って)移動するように構成されている。また、Z軸テーブル38は、シャーレ22内の細胞や卵を挿入対象とするキャピラリ35を保持するピペット保持部材34を連結している。
すなわち、シャーレ22内の細胞などを含む3次元空間を移動領域として、X‐Y軸テーブル36とZ軸テーブル38は、駆動装置40、42の駆動により移動する。そして、X‐Y軸テーブル36とZ軸テーブル38は、例えば、ピペット保持部材34の先端側からシャーレ22内の細胞(試料)に対して、キャピラリ35を挿入するための挿入位置までピペット保持部材34を粗動する。X‐Y軸テーブル36とZ軸テーブル38は、このような粗動機構(3次元軸移動テーブル)として構成されている。
また、Z軸テーブル38とピペット保持部材34との連結部は、ナノポジショナとしての機能を備えている。ナノポジショナは、ピペット保持部材34を設置している方向(長手方向)へ自在に移動可能に支持するとともに、さらに、ピペット保持部材34をその長手方向(軸線方向)に沿って微動駆動するように構成されている。
具体的には、Z軸テーブル38とピペット保持部材34との連結部には、ナノポジショナとして、微動機構44を備えている。次にこの微動機構について説明する。
(微動機構)
微動機構44は、図2に示すように、ピペット保持部材34を備える圧電アクチュエータ44aからなる。圧電アクチュエータ44aはその本体を構成するハウジング48を備えており、内周が筒状に形成されたハウジング48内には、外周にねじ加工を施されたピペット保持部材34が挿通されている。ピペット保持部材34は、その先端側(図2の左側、以下同様)にはキャピラリ35が取り付け固定され、その後端側(図2の右側、以下同様)には卵や細胞等へのインジェクションのための溶液を送る不図示のチューブが接続されている。また、このチューブの他端には、流量調整用のポンプが接続されている。
ピペット保持部材34は、転がり軸受80、82を介してハウジング48に支持されている。転がり軸受80、82は、それぞれ内輪80a、82aと、外輪80b、82bと、内輪80a、82aと外輪80b、82b間に挿入されたボール80c、82cを備え、各内輪80a、82aが中空部材84を介してピペット保持部材34の外周面に嵌合され、各外輪80b、82bがハウジング48の内周面に嵌合され、ピペット保持部材34を回転自在に支持するようになっている。
内輪80a、82aは、中空部材84を介してピペット保持部材34に嵌合している。これにより、内輪80a、82aの内周面にねじ加工を施す必要がなく、ねじ加工を施したピペット保持部材34の外周面と嵌合することができる。また、転がり軸受80、82のピペット保持部材34への取り付けが簡単になる。
また、中空部材84は、その軸方向略中央部に径方向外方に突出するフランジ部84a(内輪間座)を有している。このフランジ部84aの軸方向両側に転がり軸受80、82の内輪80a、82aを配置する。その後、内輪80aの先端側、及び内輪82aの後端側からロックナット86、86をピペット保持部材34に螺合し、転がり軸受80、82の軸方向位置を固定する。なお、中空部材84の軸方向寸法は、転がり軸受80、82の内輪80a、82aの軸方向寸法と、中空部材84のフランジ部84aの軸方向寸法との合計より小さい。このため、内輪80aの軸方向先端側及び内輪82aの軸方向後端側は中空部材84よりも軸方向に突出する。この結果、内輪80a、82aが直接ロックナット86、86により軸方向に固定されるので、内輪80a、82aの軸方向移動を規制できる。
転がり軸受80、82と同軸に配置され、ハウジング48の内周面に正の隙間を持って嵌合する円環状のスペーサ90が、外輪82bの軸方向後端側に配置される。スペーサ90の軸方向後端側には、円環状の圧電素子92がスペーサ90と略同軸に配置され、さらにその軸方向後端側にはハウジングの蓋88が配置される。蓋88は、圧電素子92を軸方向に固定するためのもので、ピペット保持部材34が挿通する孔部を有する。この蓋88は、ハウジング48の側面に不図示のボルトにより締結されている。なお、蓋88は、ハウジング48の軸方向後端側の内周面及び蓋88の外周面にねじ加工を施して、両者を螺合することにより固定しても良いが、圧電素子92にねじりモーメントが生じる可能性がある。このため、蓋88はボルト等により締結固定されることが好ましい。
転がり軸受80、82、圧電素子92は、スペーサ90の長さを調節し、蓋88をしめることにより、予圧が付与される。具体的には、スペーサ90の長さを調整し、蓋88を閉めると、その位置に応じた締結力が転がり軸受82の外輪82bと転がり軸受80の外輪80bに、軸方向に沿った押圧力として予圧が付与されるとともに、同時に圧電素子92にも予圧が付与される。これにより、転がり軸受80、82および圧電素子92に所定の予圧が付与され、転がり軸受80、82の外輪80b、82b間に軸方向間の距離としての間隙94が形成される。
このように、高剛性のばね要素である転がり軸受80、82で予圧を負荷できるため、圧電素子92の予圧調整を容易に行うことができるとともに、高い応答性を達成できる。
また、圧電素子92はスペーサ90を介して転がり軸受82と接しているので、外輪82bと同じ径の圧電素子や、所定の予圧を付与可能な寸法の圧電素子といった、特別な形状の圧電素子を用いる必要がない。すなわち、図2の例では円環状とした圧電素子92を、棒状または角柱状としてスペーサ90の周方向に略等配となるように並べても良く、ピペット保持部材34を挿通する孔部を有した角筒としても良い。また、スペーサ90の形状を高精度とすれば、ハウジング48の内周面は転がり軸受80、82と嵌合する程度の精度で形成されているので、圧電素子92の個体差がある場合にも、転がり軸受82を均等に押圧することが可能となる。なお、以下で「圧電素子が(略)同軸である」とは、単に円環状の圧電素子がある軸と中心軸を共有する場合のみを示すのではなく、圧電素子がある軸を中心とした円周上に等配に並んでいる場合や、ある軸が角筒の圧電素子の中心を通る場合を含む。
圧電素子92は、リード線(図示せず)を介して制御回路としてのコントローラ43に接続されており、コントローラ43からの電圧に応じてピペット保持部材34の長手方向(軸方向)に沿って伸縮する圧電アクチュエータの一要素として構成されている。すなわち、圧電素子92は、コントローラ43からの印加電圧に応答して、ピペット保持部材34の軸方向に沿って伸縮し、ピペット保持部材34をその軸方向に沿って微動させるようになっている。ピペット保持部材34が軸方向に沿って微動すると、この微動がキャピラリ35に伝達され、キャピラリ35の位置が微調整されることになる。
圧電素子92に印加する電圧の電圧波形としては、正弦波、矩形波、三角波などを用いることができる。また圧電素子92に電圧を印加する方法としては、操作者がボタン43Bを押している間、信号波形を連続して出力して駆動してもよいし、バースト波形を使用してもよい。
本実施形態においては、転がり軸受80、82のうち転がり軸受80の内輪80aと外輪80bの変位量であって、圧電素子92の伸縮量の半分がキャピラリ35の変位量に設定されているため、圧電素子92には微動変位量の2倍の変位を与えるための制御電圧と初期設定電圧とを加算した微動用電圧を印加することになる。
例えば、圧電素子92に2xの伸びが生じたときには、この伸びによる押圧力は微動制御を行う前の予圧荷重に加えて転がり軸受82の外輪82bを押圧し、転がり軸受80の外輪80bを軸方向に移動させ、転がり軸受80、82の各外輪間の間隙94が2x分更に狭くなって圧電素子92の軸方向の伸びを吸収する。
この間隙94の変位は、弾性変形に伴って軸受80、82がそれぞれ軸方向にxずつ変位し、軸受80の外輪80bが軸方向に合わせて2x変位することにより生じる。
逆に、圧電素子92が2x縮むと、押圧力が減少し、転がり軸受80、82の弾性変形がそれぞれxずつ減少し、間隙94が広がる方向に、転がり軸受80の外輪80bが軸方向に合わせて2x変位することになり、圧電素子92の縮む分を吸収する。
このように、間隙94の変位xを転がり軸受80、82がxずつ分けて吸収するので、転がり軸受80、82を互いに押圧する力がバランスしたときに、転がり軸受80、82の内輪80a、80bがピペット保持部材34と共に軸方向にx変位する。つまり、圧電素子92の伸縮量2xの半分がキャピラリ35の微動変位量となってキャピラリ35が挿入位置に挿入される。キャピラリ35が挿入位置に位置決めされたあと、圧電素子92にインジェクション用電圧を印加すると、キャピラリ35がインジェクション動作を行うことになる。
上述の構成によれば、キャピラリ35と圧電素子92とが同軸上に配置されるので、圧電素子92の駆動時に、余分な振動、即ちピペット保持部材34の軸方向以外の方向に生じる振動を軽減することができる。
また、図2の圧電アクチュエータ44aはマニピュレータ16直接固定され、ピペット保持部材34は圧電アクチュエータ44aに直接固定される。このため、マニピュレータ16、ピペット保持部材34への固定のための部品数を低減できる。部品数低減による組立性の向上とコスト低減を実現できる。さらに、圧電アクチュエータ44aとピペット保持部材34を直接固定するため、圧電素子92とキャピラリ35との距離を短くすることが可能となり、圧電素子92による高精度な穿孔を実現できる。
次に、このような圧電アクチュエータ44aの組み立て方法は、まず、ピペット保持部材34の先端側からロックナット86、転がり軸受80、中空部材84、転がり軸受82、ロックナット86の順でピペット保持部材34の外周面と嵌合させる。このとき、中空部材の外周面に、転がり軸受80、82を、その間にフランジ部84aを挟むように嵌合させる。その後、ロックナット86、86を締めることにより、転がり軸受80、82とピペット保持部材34との相対位置を固定する。そして、転がり軸受82の外輪82bと突き当たるようにスペーサ90をピペット保持部材34の後端側に配置し、圧電素子92をスペーサ90と突き当たるように配置する。最後に、ハウジング48を上記の組み立てたものを図2の配置となるよう位置決めし、蓋88とハウジング48とを、ボルト等で固定する。このような方法で、圧電アクチュエータ44aを簡単に組み立てることができる。
図3は微動機構の変形例を示す断面図である。本例の微動機構144では、ピペット保持部材134の外周に中空部材135を設け、中空部材135を圧電アクチュエータ144aと一体にしたので、ピペット保持部材134と圧電アクチュエータ144aとを別体にすることが可能である。図3において、図2と同等の部分は同一符号を付し、その詳細説明は省略する。
ピペット保持部材134は、その先端側(図3の左側、以下同様)にはキャピラリ35が取り付け固定される。また、その後端側(図3の右側、以下同様)には卵や細胞等へのインジェクションのための溶液を送る不図示のチューブが接続されるためのノズルが、螺合等により固定されている。このチューブの他端には、流量調整用のポンプが接続されている。次に、ピペット保持部材134に取り付けられる圧電アクチュエータ144aについて説明する。
圧電アクチュエータ144aの中心軸を為す中空部材135の外周面には、転がり軸受80、82が嵌合される。この転がり軸受80の内輪80aは、中空部材135の外周面に形成された突き当り面135bに当接することにより位置決めされている。転がり軸受80、82の内輪80a、82aの間には、内輪間座184が備えられる。内輪間座184は中空部材135の外周面に嵌合している。転がり軸受80、82(内輪80a、82a)は、内輪82aの後端側から中空部材135にロックナット86を螺合することにより、軸方向に固定される。
圧電アクチュエータ144aのその他の部分は、図2と同様である。すなわち、転がり軸受80、82には、図2と同様に、その外輪80b、82bの外周面にハウジングが嵌合される。外輪82bの軸方向後端側にスペーサ90、圧電素子92の順にハウジング内周面に配置され、蓋88を締めることによりこれらが固定される。このようにして、中空部材135と一体となった圧電アクチュエータ144aが構成される。
圧電アクチュエータ144aにピペット保持部材134を固定するため、中空部材135を、ピペット保持部材134の外周面に嵌合固定する。ピペット保持部材134の外周面は一部拡径し段差部134aが設けられている。中空部材135はこの段差部134aに対応する段差部135aを内径側に備え、両者を対向させることにより、軸方向に位置決めされる。軸方向に位置決めされた中空部材135は、止めねじ(不図示)によりピペット保持部材134に固定される。より詳細には、中空部材135の軸方向先端部(図3左側)のうち、ハウジング48から軸方向に突出した突出部135cには、径方向に貫通するねじ孔(不図示)が複数設けられている。この複数のねじ孔に複数の止めねじ(不図示)を螺合させ、ピペット保持部材134に接触させる。これにより、ピペット保持部材134は固定される。
微動機構144をこのような構成にすることにより、ピペット保持部材134と圧電アクチュエータ144aとを別体にすることが可能となる。この結果、微動機構144のメンテナンス性を向上することができる。また、中空部材135を止めねじで固定したので、中空部材135とピペット保持部材134との同軸度や相対位置を微調整することが可能となる。このような止めねじを中空部材135の突出部135cに設けたので、止めねじの取付、取外しが容易となるため、微動機構144のメンテナンス性を更に向上することができる。
また、図2の微動機構44の場合、ピペット保持部材34の先端から後端まで、広範囲のねじ加工を施す必要があるため、ピペット保持部材34が変形する可能性がある。これに対し、図3の微動機構144では、ピペット保持部材34にねじ加工をする必要はない。このため、ピペット保持部材134と中空部材135の加工による変形を抑制することが可能となる。
なお、上述の例では、中空部材135とピペット保持部材134とを止めねじにより固定するとしたが、これに限定されず、接着固定、圧入固定、螺合固定を用いても良い。但し、上述した効果を考慮すると、止めねじによる固定が好ましい。また、上述の例では、段差により軸方向の位置決めをするとしたが、これに限定されず、段差部を設けずに、止めねじのみで軸方向位置を決めても良く、マーカーにより、大体の位置を示す構成としても良い。さらに、上述の例では、圧電アクチュエータ144aを組み立てた後、圧電アクチュエータ144aの一部をなす中空部材135とピペット保持部材134とを嵌合固定することとしたが、これに限定されない。すなわち、ピペット保持部材134に中空部材135を嵌合固定した後に、圧電アクチュエータ144aの他の構成要素を組み付けても良く、上述の効果は組立て手順によらない。しかしながら、組立て性を考慮した場合には、圧電アクチュエータ144aを組み立てた後、中空部材135とピペット保持部材134とを固定することが好ましい。
その他の構成及び作用効果は、図2の微動機構と同様である。
次に、図2、3に示す微動機構の先端にキャピラリを固定する方法について説明する。
(キャピラリの固定方法)
図4は、キャピラリ35の固定方法を示す断面図である。
図4に示す通り、ピペット保持部材34(134、以下同じ)の先端に、キャピラリ35を挿入するための拡径部34aが形成される。拡径部34aの内径は、キャピラリ35の外径よりも大きく設定されている。ピペット保持部材34の先端部の外周には、断面矢印状かつ内径側が円筒型に中空となっている保持部材136が嵌合している。キャピラリ35の後端側は、保持部材136とピペット保持部材34の拡径部34aに内包される。
保持部材136の内周面は、先端側の小径部136aと後端側の大径部136bとからなる。小径部136aはキャピラリ35の外径よりも僅かに大きい内径を有する。この小径部136aは、キャピラリ35を固定する際、径方向において、キャピラリ35を固定する大まかな位置にキャピラリ35を案内する。大径部136bはピペット保持部材34の外周面より僅かに大きい内径を有する。大径部136bの内周面は、二組の支持部材130を介して、キャピラリ35を支持している。この支持部材130は、二つのOリング138と、これを挟む二つのワッシャ137で構成される。この支持部材130を、キャピラリ35の外周面(大径部136bの内周面)上の軸方向に離れた二箇所に配置し、その間にスペーサ139を配置している。保持部材136の外周面のうち先端側は、後端側から先端側へ徐々に縮径するテーパ形状となっている。これにより、例えば、圧電アクチュエータ44a(144a)作動時、シャーレ22にと保持部材とが接触し難くなる。また、保持部材136の外周面のうち後端側には雄ねじ加工がされている。
ピペット保持部材34の外周面における保持部材136の後端側には、円筒状のナット部材139が取り付けられている。ナット部材139の先端側内周面には雌ねじ加工がされており、保持部材136の雄ねじと螺合するようになっている。また、ナット部材139の後端側には縮径部139aが設けられる。この縮径部139aの内径は、ピペット保持部材34よりわずかに大きくなっている。ピペット保持部材34には、周方向溝が設けられ、この周方向溝に止め輪140が嵌め込まれている。縮径部139aの先端側端面は、この止め輪140と当接して抜け止めされている。この止め輪140の別例としてピペット保持部材34と一体の凸条が挙げられる。この場合、圧電アクチュエータ44a(144a)にピペット保持部材を組み付ける前に、ナット部材139をピペット保持部材34の後端側から挿入しておく。
このような保持部材136、ナット部材139により、キャピラリ35は支持固定される。キャピラリ35の取り付け手順は次ぎの通りである。まず、支持部材130とスペーサ141を組み付けた保持部材136にキャピラリ35を挿通する。この状態で、キャピラリは二組の支持部材130を構成するOリングのみにより径方向に支持されている。一方で、ピペット保持部材34にナット部材139を取り付けた後、ピペット保持部材34に止め輪140を取り付ける。その後、保持部材136の後端側の支持部材130とピペット保持部材34の先端部とを接触させる。この状態で、ナット部材139と保持部材136とを螺合させる。これにより、保持部材136の螺合部において径方向に収縮する力が作用し、後端側の支持部材130のOリング138が径方向に潰れるように変形する。これにより、キャピラリ35は軸方向および径方向に固定され、キャピラリ35の支持固定が完了する。また、保持部材136とナット部材139との螺合により、ピペット保持部材34とキャピラリ35との接続部における気密性を確保することができる。このため、ピペット保持部材34と連結された前述の流量調整用ポンプで、キャピラリ35内の液体の流量調整を行うことが可能となる。
従来、Oリングを用いた支持部材一つのみでキャピラリを支持する構成が用いられている(例えば、「エッペンドルフ マイクロインジェクター FemtoJet(登録商標)express使用説明書」)。このような構成では、キャピラリ35を一箇所でのみ支持しているため、例えば、卵細胞への穿孔の際、圧電アクチュエータの駆動によりキャピラリ35に予期せぬ振動が発生し、細胞を傷つけたり、効率が下がる可能性がある。これに対し、図4に示した構成によれば、Oリング138を備える支持部材130が二つ用いられ、キャピラリ35が二点で支持されているので、圧電アクチュエータ44a、144aの駆動中にキャピラリ35が動くことが抑制される。この結果、細胞操作の際のキャピラリの低振動化を実現でき、穿孔性能・効率を従来と比較して向上することができる。
なお、上述した構成では、支持部材130を二つ用いることとしたが、これに限定されず、三つ以上用いても良い。さらに、一つの支持部材130を構成するOリング138の数は二つに限定されず、一つでもそれ以上でも良く、ワッシャを省略しても良い。また、支持部材130の構成部材もワッシャ137とOリング138に限定されず、キャピラリを支持できる構成であれば適用することができる。
(マニピュレータの制御)
次に、上記のマニピュレータシステム10のコントローラ43による制御について図5〜図7を参照して説明する。図5は図1のコントローラ43による制御系要部を示すブロック図である。図6は図5の表示部45に表示される画面例を示す図である。図7は図1、図5に示すジョイスティックの具体例を示す斜視図である。
図1、図5のコントローラ43は、演算手段としてのCPU(中央演算処理装置)及び記憶手段としてのハードディスク、RAM、ROMなどのハードウエア資源を備え、所定のプログラムに基づいて各種の演算を行い、演算結果に従って各種の制御を行うように駆動指令を出力する。すなわち、コントローラ43は、マニピュレータ14の駆動装置30、32、マニピュレータ16の駆動装置40、42、微動機構44の圧電素子92等を制御し、必要に応じて設けられたドライバやアンプ等を介してそれぞれに駆動指令を出力する。例えば、圧電素子92は、コントローラ43により制御される信号発生器95から信号を発生させアンプ96で増幅された電圧信号により駆動される。
また、コントローラ43には、情報入力手段としてキーボードの他にジョイスティック47、マウス43A、ボタン43B(図1)が接続されており、さらに、CRTや液晶パネルからなる表示部45が接続され、表示部45にはカメラ18で取得した顕微鏡画像や各種制御用画面等が表示されるようになっている。
また、コントローラ43は、マニピュレータ14、16を所定のシーケンスで自動的に駆動するようになっている。かかるシーケンス駆動は、所定のプログラムによるCPUの演算結果に基づいてコントローラ43が順次、それぞれに駆動指令を出力することで行われる。
表示部45には、カメラ18で撮像したキャピラリ25、35の画像を含めて卵等の微小な操作対象物の顕微鏡画像や演算結果に関する情報や各種制御用ボタンなどが表示される。例えば、図6のように、画像表示部45aには、カメラ18による顕微鏡画像が表示され、例えば、微小対象物である卵Dと、卵Dを保持したキャピラリ25と、インジェクション用のキャピラリ35とが表示されるとともに、画像表示部45aの例えば下側にキャピラリ35のセッティングのときの警告ランプ45bが表示され、画像表示部45aの上側に画像表示部45aの顕微鏡画像の倍率を切り替える切り替えボタン45cが表示される。切り替えボタン45cは図5のマウス43Aによりクリックすることで操作可能である。
上述のように、圧電素子92には圧電素子92の駆動のときにアンプ96から信号電圧が印加される一方、圧電素子92で発生する電圧を電圧測定部97で測定し検知し、測定された電圧はコントローラ43に入力するようになっている。
圧電素子は、ピエゾ素子ともいわれ、一般に、電気エネルギーを機械エネルギーに変換する一方、機械エネルギーを電気エネルギーに変換するものである。すなわち、圧電素子は、電圧を加えることで伸縮する一方、圧力を加えることで電圧を発生する。
本実施形態では、圧電素子92は、微動機構44にキャピラリ35の微動駆動のために設けられているが、キャピラリ35が例えばシャーレ等の容器の底面や側面に接触したとき、その接触による外力が図2のピペット保持部材34、転がり軸受80、82、スペーサ90等を介して圧電素子92に加わることにより発生する電圧を電圧測定部97で計測することでコントローラ43上での監視を行う。
すなわち、コントローラ43は、電圧測定部97による測定電圧が例えば所定のレベルや電圧差以上となったとき、図6の表示部45に表示された警告ランプ45bを赤や黄の目立つ色で点滅させて警告を発したり、また、キャピラリ35の駆動を停止するように制御する。また、表示部45の警告ランプ45bとは別にランプ点滅や警告音発生等を行う警告部98を設け、警告部98を作動させるようにしてもよい。
図1のマニピュレータシステム10の操作のため、図1、図5、図7のように、コントローラ43に接続されたジョイスティック47を主に用いることができ、マニピュレータ14、16に対し1つずつ用意する。ジョイスティック47は、図7のように、複数のボタン47a〜47gとハンドル47hとを有する。ハンドル47hは、右方向R、左方向Lに傾斜させる(倒す)ことで図1の駆動装置30、40を駆動しマニピュレータ14、16をX軸方向、Y軸方向に駆動でき、回転させる(ひねる)ことで駆動装置32、42を駆動しZ軸方向に駆動できる。また、各ボタン47a〜47gに各機能の操作を割り当てることができ、例えば、ボタン47に図2の圧電アクチュエータ44a(微動機構44)の圧電素子92の操作を割り当てる。
上記構成において、インジェクション用マニピュレータ16を駆動するに際しては、ジョイスティック47のハンドル47hを操作して、XY軸テーブル36とZ軸テーブル38を粗動駆動し、ピペット保持部材34をシャーレ22内の細胞に近づけて位置決めした後、微動機構44を用いてピペット保持部材34を微動駆動することができる。
具体的には、ピペット保持部材34にガラス製のキャピラリ35を装着するに際しては、顕微鏡作業箇所に配置されたシャーレ22からピペット保持部材34を退避させる状態になるように、マニピュレータ14、16を駆動する。これにより、ピペット保持部材34にキャピラリ35を装着する際、十分な作業スペースが得られる。
キャピラリ35をピペット保持部材34に装着した後は、ジョイスティック47の操作等に基づくコントローラ43からの指令により、マニピュレータ14を駆動し、キャピラリ35が装着されたピペット保持部材34を顕微鏡作業箇所であるシャーレ22に向けて移動させる。
キャピラリ35を顕微鏡作業箇所に移動させる際、1回目(初めての)の操作の場合、図6の切り替えボタン45cを操作し、画像表示部45aに表示される画像の顕微鏡視野倍率を低倍にし、マニピュレータ16の駆動装置40、42や微動機構44を駆動することで、顕微鏡20の視野内にキャピラリ35が確認でき次第、駆動装置40、42や微動機構44の駆動を停止する。
このあと、コントローラ43の画像処理を利用し、駆動装置40、42や微動機構44を駆動することで、顕微鏡20の視野内において、キャピラリ35を最適位置へ移動し、駆動装置40、42や微動機構44の駆動を停止する。このとき、1回目の操作の際に駆動した各テーブル36、38や微動機構44による移動量をコントローラ43に記憶させる。なお、上記キャピラリの最適位置への移動は、駆動装置40、42によるXYZの駆動系(X‐Y軸テーブル36、Z軸テーブル38)及び微動機構44の両方または一方を適宜用いる。
次に、マニピュレータ16を操作し、シャーレの交換あるいはキャピラリ35の交換が必要になった場合、駆動装置40、42や微動機構44を駆動し、顕微鏡作業箇所からキャピラリ35を退避させるための操作を行う。その後、ジョイスティック47の操作により、キャピラリ35をセッティングした位置まで駆動する。なお、ボタン43Bを用いて任意の位置まで退避するようにしてもよい。
一方、再度、顕微鏡作業箇所へキャピラリ35を移動する場合、1回目にセッティングした際の位置をコントローラ43が記憶しているため、マニピュレータ16で、容易にキャピラリ35の位置を調整することが可能になる。
キャピラリ35として、その形状が均一なものを使用する場合は、本実施形態に係るマニピュレータ16を用いることで、従来のものよりも効率を向上させることができる。また、キャピラリ35の形状にばらつきがある場合でもピペット保持部材34を圧電アクチュエータ44aの駆動によって直線往復運動させることができるため、キャピラリ35の位置を微細に調整することができる。
また、キャピラリ35が細胞の挿入位置に位置決めされたときには、ジョイスティック47を操作して圧電素子92にインジェクション用の電圧を印加し、微動機構44を微動駆動することで、ピペット保持部材34によるインジェクション動作を行うことができる。この際、高剛性のばね要素である転がり軸受80、82で圧電素子92に予圧を負荷しているため、高い応答性を達成できる。
上述のインジェクション用のキャピラリ35をインジェクション操作前に最適位置へ移動させてセッティングする際の動作について図8、図9を参照してさらに説明する。図8は図1のインジェクション用のキャピラリ35の操作中におけるシャーレ22の底面22aに対する相対位置(a)〜(d)を概略的に示す図である。図9は図8(c)のようにキャピラリ35がシャーレ22の底面22aに接触したときの圧電素子92の電圧値の変化を示す図である。
上述のように、マニピュレータ16により駆動装置40、42や微動機構44を駆動し、インジェクション用のキャピラリ35をジョイスティック47等の操作で最適位置にセッティングする際に、キャピラリ35を例えば、図8(a)のように下向き方向zに移動させたとき、図8(b)のようにキャピラリ35がシャーレ22の底面22aに接近し、図8(c)のように、さらに接近してキャピラリ35の先端が底面22aに接触すると、圧電素子92から電圧が瞬間的に発生する。圧電素子92から発生して図5の電圧測定部97で測定した電圧値を、コントローラ43(または電圧測定部97)は、図9のようにサンプリング時間Δtで集録し、Δtの間の電圧値の差ΔV(圧電素子92に印加されている電圧V0に対する電圧差)を算出し、その電圧差ΔVが所定値以上であれば警告を表示する。
例えば、コントローラ43において電圧差ΔVの第1限界値V1を予め設定しておき、測定した電圧差ΔVが図9のように限界値V1以上になったとき、例えば、図6の表示部45で警告ランプ45bが点滅する。この警報により、操作者はキャピラリ35がシャーレ22の底面22aに接触したことを知ることができるので、ジョイスティック47を操作し、図8(d)のように、キャピラリ35を上向き方向z’に移動させ、底面22aから離す。または、マニピュレータ16(駆動装置40、42や微動機構44)の駆動を停止する。これにより、キャピラリ35の位置調整中にキャピラリ35が他部分に当たって折損・破損することを未然に防止できる。
また、コントローラ43において第1限界値V1よりも大きい第2限界値V2を予め設定し、測定した電圧差ΔVが第2限界値V2以上になったとき、例えば、マニピュレータ16(駆動装置40、42や微動機構44)の駆動を自動的に停止し、キャピラリ35の駆動を強制的に止める。これにより、例えばキャピラリ35が底面22aに比較的強く接触して電圧差ΔVがサンプリング時間Δtの間に急激に大きくなった場合等に、キャピラリ35のそれ以上の移動を止めることで、キャピラリ35の位置調整中にキャピラリ35の折損・破損を未然に防止できる。なお、この場合、警告ランプ45bの点滅を続けるようにしてもよい。
また、上述の表示部45における警告ランプ45bの点滅の代わりに、または、警告ランプ45bの点滅とともに、別の警告部98を駆動し、ランプを点滅させたり、ブザー等の警告音を発するようにしてもよい。
なお、キャピラリ35の他部分(キャピラリ25やシャーレ22の底面22aや側面22b等)への接触の状態やタイミング等によって、圧電素子92から図9の破線で示すようにマイナス(−)方向に電圧差が発生する可能性がある場合は、電圧差ΔVの絶対値で限界値V1、V2と比較するように構成してもよく、また、マイナス(−)方向に、別の限界値を予め設定するようにしてもよい。
また、表示部45における警告表示として、ランプの点滅ではなく、例えば、「キャピラリが他部分に接触しています!」等の警告メッセージを例えば図6の画面45aの下側のスペース45dに表示するようにしてもよく、かかる警告メッセージを赤色や黄色の目立つ色で点滅表示するようにしてもよい。
また、上記セッティング操作のとき、ジョイスティック47でマニピュレータ16を駆動する場合は、上述のように警告表示はコントローラ43の表示部45の画面上にするのが好ましいが、ジョイスティック47に振動モータ等の振動部が内蔵している場合、この振動部を駆動することで操作者へ伝え、警告するようにしてもよい。また、手動でマニピュレータ16を駆動してもよいが、この場合は、別の警告部98を駆動することが好ましい。
また、圧電素子92からの電圧信号を測定する際、電圧測定部97にアンプ、フィルタを設置し、ノイズを除去して電圧信号を集録し測定するようにしてもよい。
以上のように、本実施形態によれば、マニピュレータシステム10により細胞や卵にインジェクション等の微細な操作を行う際に、インジェクション用のキャピラリ35を駆動し所定の最適位置にセッティングするとき、マニピュレータ16に備えられた微動駆動のための圧電素子92の電圧を計測できるようにし、圧電素子92からの電圧値をコントローラ43上で監視し、コントローラ43側で検出し、操作者に警告を表示したり、マニピュレータ16の駆動を強制的に停止する。これにより、キャピラリ35の位置調整中にキャピラリ35がキャピラリ25やシャーレ22の底面22aや側面22b等の他部分に接触して折損、破損してしまうことを防止することができる。
このように、キャピラリ35が折損することを防止できるため、キャピラリ35の交換作業も効率化が可能となる。また、キャピラリ35のセッティングのとき、操作に慣れていない操作者でも上述のような警告表示や駆動停止によりキャピラリのセッティング時の操作者による誤動作を防止することができる。
(ピペット保持部材の回り止め機構)
上述のマニピュレータシステム10に用いる圧電アクチュエータ44a(144a)において、ピペット保持部材34(134)は転がり軸受で支持されており、ハウジング48に対して回転方向には拘束されていない。このため、圧電アクチュエータ44aを駆動してピペット保持部材34を振動させる際、または外部からの振動が加わった際、振動の大きさや周期によってはピペット保持部材34が回転する可能性がある。この場合、ピペット保持部材34の回転に伴って、ピペット保持部材34の先端に固定されたキャピラリ35も回転する。
例えば、図8に示すように、キャピラリ35として屈曲したキャピラリを使用する場合、キャピラリ35が回転すると、キャピラリ35先端と操作の対象物との相対位置が変動すると共に、キャピラリ35先端が顕微鏡焦点位置から外れるという問題が生じる虞がある。この結果、微小な対象物の操作が困難となり、操作後の培養特性にも影響を及ぼす可能性がある。
これを防ぐため、ピペット保持部材34が回転する可能性のある条件で使用する場合、またはピペット保持部材34の回転により操作の対象物に影響を及ぼす可能性がある場合、図11〜16に示す回り止め機構を備える圧電アクチュエータを用いることが有効である。
図11〜13は、図2の圧電アクチュエータ44aに回り止め機構の第1例を設けた圧電アクチュエータ244aを示す図である。図11は圧電アクチュエータ244aの軸方向断面図、図12は図11のA方向矢視図、図13は圧電アクチュエータ244aのハウジング248の斜視図である。
本例では、図12に示すように、圧電アクチュエータ244aに取り付けられた二つのロックナットのうち、ハウジング248と嵌合する側(ピペット保持部材34の先端側、図11の左側)のロックナット286を、軸方向から見て六角形としている。また、ロックナット286と嵌合しているハウジング248の嵌合孔248aの形状を、図13に示すように、ロックナット286の外周面と微小な隙間を以て嵌合する六角形としている。
このような構成により、ピペット保持部材34に回転方向の力が作用した場合でも、ロックナット286がハウジング248の嵌合孔248aにより回転方向に固定されているので、ピペット保持部材34がハウジング248に対し相対回転することを防止できる。また、ロックナット286と嵌合孔248aとは微小な隙間を以て嵌合しているので、ピペット保持部材34がハウジング248に対し軸方向に相対移動することを妨げることはない。
なお、本例では、ロックナット286及び嵌合孔248aの形状を軸方向視で六角形としたが、これに限定されない。例えば、ロックナット286及び嵌合孔248aを四角形や八角形等の略同一形状の多角形としてもよく、楕円形状としても良い。
また、ロックナットと嵌合孔との嵌合部の形状は略一致している必要はない。双方共に円筒以外であれば良く、且つ、軸方向視において、ロックナット286の外周をなす線上の任意の二点間距離の最大値と、嵌合孔248a内周をなす線上の任意の二点間距離の最大値とが略一致(正確には、嵌合孔248aにおける前記最大値の方がわずかに大きい)していれば良い。
例えば、図14に示すように、軸方向視で、六角形の嵌合孔248aの6辺のうち、対向する2辺と線接触する四角形の外周形状を持つロックナット286Aを用いても良い。この場合、図12と比較して、ロックナットと嵌合孔とが接触した場合にも接触面積が小さくなり、両者の相対移動を妨げ難くなる。
また、図15に示すように、嵌合孔248bの形状を軸方向視で楕円とし、嵌合248bの長軸と略同一の長軸を持ち、嵌合孔248bの短軸よりも短い短軸を有する楕円形の外周形状を持つロックナット248Cを用いても良い。この場合、ロックナットと嵌合孔とが接触しても、接触面積が図14よりも更に小さくなるので、両者の相対移動をより妨げ難くなる。また、図示は省略するが、楕円の嵌合孔と多角形のロックナットとの組合せや、多角形の嵌合孔と楕円のロックナットとの組合せも可能である。
図16は、図2の圧電アクチュエータ44aに回り止め機構の第2例を設けた圧電アクチュエータ344aの軸方向断面図である。
本例では、図16に示すように、圧電アクチュエータ344aに取り付けられた二つのロックナットのうち、ハウジング348と嵌合する側(ピペット保持部材34の先端側、図16の左側)のロックナット386の少なくともピペット保持部材の先端側の外周形状を、ピペット保持部材の先端側に向かって縮径する円錐状のテーパ面386aとしている。そして、このロックナット386と嵌合しているハウジング348の嵌合孔348aの形状を、テーパ面386aと略同等のテーパ形状としている。
この圧電アクチュエータ344aでは、蓋88をハウジング348に固定する際、蓋88に圧電素子92、スペーサ90、転がり軸受82、80と共にロックナット386が軸方向に押圧され、ロックナット386のテーパ面386aが嵌合孔348aに押し付けられる。この結果、テーパ面386aと嵌合孔348aとの間の摩擦により、ピペット保持部材34の回転を防止できる。図11〜図15の第1例では、嵌合孔248aとロックナット286との隙間によるガタ(回転可能な領域)が生じてしまい、ガタの大きさは加工精度に依存する。しかしながら、本例によれば、テーパ面386aと嵌合孔348aとを接触するまで押し付けたので、ガタを生じることはない。
また、この場合、圧電素子92を収縮させることにより、ピペット保持部材34をハウジング348に対し相対移動させることができる。このような構成は、マニピュレータの位置決め時等に、圧電アクチュエータ344aが駆動されず、粗動機構によりピペット保持部材34が粗動する等、ピペット保持部材34の装置全体に対する移動量が大きく回転し易い場合に、特に有効である。
以上、本発明に係る圧電アクチュエータに用いることが可能な回り止め機構について記載したが、この構成は第1例、第2例の形態に限定されない。例えば、ロックナットに突起を、この突起と係合する凹部をハウジングに設けることにより、回り止めを行ってもよく、ロックナットに凹部を、ハウジングに突起を設けてもよい。
また、第1例と第2例とを組合せてもよい。即ち、第2例で円錐状としたテーパ面を角錘状とし、圧電素子の伸縮により回転方向のガタを調整することも可能である。さらに、これらと前述の凹部と突起を備える構成としてもよい。さらに、第1例、第2例のロックナットの外周形状をピペット保持部材に適用し、ハウジングとピペット保持部材との嵌合により回り止めを行う構成としても良い。
また、ピペットの軸方向後端側に配置されたロックナットの形状は、前記第1例、第2例では特に限定されない。しかしながら、この後端側のロックナットの外周形状と、転がり軸受の外輪と連接する(ハウジングの動きと連動する)スペーサの内周形状とを第1例、第2例、または上記した他の例のようにして、回り止め機構を構成することも可能である。若しくは、各ロックナット毎に回り止め機構を構成することも可能である。