JP5899044B2 - ガスバリア性フィルム - Google Patents

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Description

本発明はガスバリア性フィルムに関し、更に詳しくは、基材上に、塗膜層及び蒸着法により形成された無機層を有するガスバリア性フィルムに関する。
ガスバリア性フィルムは、主に、内容物の品質を変化させる原因となる酸素や水蒸気等の影響を防ぐために、食品や医薬品等の包装材料として用いられたり、液晶表示パネルやEL表示パネル等に形成されている素子が、水蒸気に触れて性能劣化するのを避けるために、電子デバイス等のパッケージ材料として用いられたりしている。また、近年においては、従来ガラス等を用いていた部分にフレキシブル性や耐衝撃性を持たせる等の理由から、ガスバリア性フィルムが用いられる場合もある。
このようなガスバリア性フィルムとしては、プラスチックフィルムを基材として、その片面又は両面に化学蒸着法(CVD法)、物理蒸着法(PVD法)等の方法で酸化珪素蒸着膜や酸化アルミニウム蒸着膜を形成したものが知られている。しかしながら、ガスバリア性を向上させるために蒸着膜を厚くすると、残留応力により該蒸着膜にクラックが発生してガスバリア性が低下するという問題があった。
上記のような問題を解決するため、特許文献1には、ポリマーフィルムの少なくとも片面にPVD法やCVD法により透明無機化合物蒸着膜を形成したものに、さらにゾル−ゲル法などで形成された透明無機化合物塗膜を組み合わせた構成を採用した透明ガスバリア性積層体が開示されており、該透明無機化合物塗膜としては、ペルヒドロポリシラザンをセラミック化したSiO2膜が特に好ましいことが記載されている。
特開平9−70917号公報
しかしながら、ペルヒドロポリシラザンがSiO2膜に転化する際にも収縮が起こるため残留応力が発生し、SiO2膜のような完全無機膜は膜としての柔軟性に劣ることから、クラックが発生しやすいという問題がある。その他にも、基材となるプラスチックフィルムあるいは該基材上に積層される他の層との密着性も不十分であるという問題がある。さらに、防汚性を有するガスバリア性フィルムの開発も望まれており、従来のガスバリア性フィルムにおいて防汚性をさらに向上させる必要がある。
本発明が解決しようとする課題は、以上の問題を解決することにあり、クラックが発生しにくく、高いガスバリア性を有し、基材あるいは該基材上に積層される他の層との密着性に優れ、さらには防汚性を有するガスバリア性フィルムを提供することにある。
本発明は、基材の少なくとも一方の面に、主として下記一般式(1)で表されるシラザン構造を分子鎖中に有する有機ポリシラザンを含む塗布液を塗布乾燥してなる塗膜層と、蒸着法により形成された無機層とを有するガスバリア性フィルムであって、前記塗膜層が、X線光電子分光法により結合エネルギーを測定し、Si2P、C1Sに対応するピークの面積から求めた炭素と珪素の元素組成比(C/Si)が0.05以上3.0未満であるガスバリア性フィルムとすることで、前記課題を解決できることを見出したものである。
(式(1)中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、またはこれらの基以外で珪素に直結する基が炭素である基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基、アルコキシ基を表す。但し、R1とR2のいずれか一方は水素原子であり、もう一方は水素原子以外である。)
本発明によれば、クラックが発生しにくく、高いガスバリア性を有し、基材あるいは該基材上に積層される他の層との密着性に優れたガスバリア性フィルムを提供することができる。また、前記塗膜層を最表面とした場合には、防汚性を有するガスバリア性フィルムとすることができる。このようなガスバリア性フィルムは、食品や医薬品等の包装材料や、太陽電池や有機EL、電子ペーパー用の保護材等の部材、電子デバイス等のパッケージ材料として有用である。
[ガスバリア性フィルム]
以下、本発明のガスバリア性フィルムについてさらに詳細に説明する。
本発明のガスバリア性フィルムは、基材の少なくとも一方の面に、主として下記一般式(1)で表されるシラザン構造を分子鎖中に有する有機ポリシラザンを含む塗布液を塗布乾燥してなり、X線光電子分光法(以下「XPS法」ともいう)により結合エネルギーを測定し、Si2P、C1Sに対応するピークの面積から求めた炭素と珪素の元素組成比(C/Si)が0.05以上3.0未満である塗膜層(以下、単に「塗膜層」ともいう)と、蒸着法により形成された無機層(以下、単に「無機層」ともいう)とを有する。
(式(1)中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、またはこれらの基以外で珪素に直結する基が炭素である基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基、アルコキシ基を表す。但し、R1とR2のいずれか一方は水素原子であり、もう一方は水素原子以外である。)
該ガスバリア性フィルムは、基材の少なくとも一方の面に、前記無機層と前記塗膜層とをこの順で有するものでもよく、基材の少なくとも一方の面に、前記塗膜層と前記無機層とをこの順で有するものであってもよい。前記無機層は1層のみでもよく、2層以上が積層されていてもよい。同様に、前記塗膜層は1層のみでもよく、2層以上が積層されていてもよい。
本発明のガスバリア性フィルムの構成としては、例えば下記のような態様が挙げられる。下記で、例えば、A/B/Cの表記は、下から(あるいは上から)A,B,Cの順に積層していることを示す。
(1)基材/無機層/塗膜層
(2)基材/塗膜層/無機層
(3)基材/無機層/塗膜層/無機層
(4)基材/塗膜層/無機層/塗膜層
(5)基材/無機層/無機層/塗膜層
(6)基材/無機層/無機層/無機層/塗膜層
(7)基材/塗膜層/無機層/無機層
(8)基材/塗膜層/無機層/無機層/無機層
(9)基材/無機層/無機層/塗膜層/無機層/無機層
(10)基材/無機層/無機層/無機層/塗膜層/無機層/無機層/無機層
高いガスバリア性を付与する観点から、本発明のガスバリア性フィルムは、基材の少なくとも一方の面に、前記無機層と前記塗膜層とをこの順で有するものであることが好ましく、前記無機層と前記塗膜層とをこの順で有し、かつ、前記塗膜層を最表面に有することがより好ましい。すなわち、上記(1)、(5)及び(6)の態様が好ましい。また、防汚性を付与する観点からは、本発明のガスバリア性フィルムは、前記塗膜層を最表面に有する、上記(1)、(4)、(5)及び(6)の態様が好ましい。
(基材)
本発明に用いられる基材としては、通常の包装材料や電子ペーパー、太陽電池の材料に使用しうる樹脂であれば特に制限なく用いることができるが、プラスチックフィルムが好ましい。該プラスチックフィルムを構成する樹脂としては、具体的には、エチレン、プロピレン、ブテン等の単独重合体又は共重合体などのポリオレフィン;環状ポリオレフィン等の非晶質ポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、共重合ナイロン等のポリアミド;ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体部分加水分解物(EVOH)、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリビニルブチラール、ポリアリレート、フッ素樹脂、アクリル樹脂や、ポリ乳酸等の生分解性樹脂等が挙げられる。これらの中では、フィルム強度、コストなどの点から、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、及び生分解性樹脂が好ましく、さらに、表面平滑性、フィルム強度、耐熱性等の点から、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)等のポリエステルが特に好ましい。
また、上記基材は、公知の添加剤、例えば、帯電防止剤、光線遮断剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、フィラー、着色剤、安定剤、潤滑剤、架橋剤、ブロッキング防止剤、酸化防止剤等を含有することができる。
上記基材としてのプラスチックフィルムは、上記の原料を用いて成形してなるものであるが、基材として用いる際は、未延伸であってもよいし延伸したものであってもよい。また、単層又は多層のいずれでもよい。かかる基材は、従来公知の方法により製造することができ、例えば、原料樹脂を押出機により溶融し、環状ダイやTダイにより押出して、急冷することにより実質的に無定型で配向していない未延伸フィルムを製造することができる。この未延伸フィルムを一軸延伸、テンター式逐次二軸延伸、テンター式同時二軸延伸、チューブラー式同時二軸延伸などの公知の方法により、フィルムの流れ(縦軸)方向又はフィルムの流れ方向及びそれに直角な(横軸)方向に延伸することにより、一軸方向又は二軸方向に延伸したフィルムを製造することができる。
上記基材の厚さは、基材としての機械強度、可撓性、透明性等の点から、その用途に応じ、通常5〜500μm、好ましくは10〜200μmの範囲で選択され、厚さが大きいシート状のものも含む。また、上記基材の幅や長さについては特に制限はなく、適宜用途に応じて選択することができる。
〔アンカーコート層〕
上記基材には、必要に応じ、該基材とその上に形成される層との密着性を向上させるため、基材上にアンカーコート層を設けることが好ましい。アンカーコート層に含まれる樹脂としては、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、エチレンビニルアルコール系樹脂、ビニルエステル系樹脂、イソシアネート基含有樹脂、カルボジイミド系樹脂、アルコキシル基含有樹脂、エポキシ系樹脂、オキサゾリン基含有樹脂、スチレン系樹脂、ポリパラキシリレン系樹脂等が挙げられ、これらを単独であるいは2種以上組み合わせて用いてもよい。
基材上に設けられるアンカーコート層は、ガスバリア性フィルムとした際のガスバリア性や密着性の点から、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、シリコーン系樹脂及びイソシアネート基含有樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含むことが好ましい。なかでも、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂及びイソシアネート基含有樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含むことがより好ましく、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂及びアクリル系樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含むことが更に好ましい。
上記樹脂を構成するポリマーの分子量は、ガスバリア性、密着性の点から、数平均分子量で、3,000〜50,000が好ましく、より好ましくは4,000〜40,000であり、更に好ましくは5,000〜30,000である。
また、アンカーコート層には、硬化剤を配合し、架橋を導入することが好ましい。該硬化剤としては、イソシアネート系化合物等が挙げられる。
上記イソシアネート系化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネートや、キシレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート等が挙げられる。ガスバリア性、密着性の点から、イソシアネート基を2つ以上有するポリイソシアネートが好ましく、より好ましくはイソシアネート基を3つ以上有するポリイソシアネートである。
アンカーコート層には、その他、公知の各種添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、水性エポキシ樹脂、アルキルチタネート、酸化防止剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、顔料、染料、抗菌剤、滑剤、無機充填剤、ブロッキング防止剤等を挙げることができる。
基材上に設けられるアンカーコート層の厚さは、通常0.1〜5000nm、好ましくは1〜2000nm、より好ましくは1〜1000nmである。上記範囲内であれば、滑り性が良好であり、アンカーコート層自体の内部応力による基材からの剥離もほとんどなく、また、均一な厚さを保つことができ、更に層間の密着性においても優れている。
また、基材へのアンカーコート剤の塗布性、接着性を改良するため、アンカーコート層形成用のアンカーコート剤の塗布前に、基材に通常の化学処理、放電処理などの表面処理を施してもよい。
(塗膜層)
本発明のガスバリア性フィルムは、上記基材の少なくとも一方の面に、主として前記一般式(1)で表されるシラザン構造を分子鎖中に有する有機ポリシラザンを含む塗布液を塗布乾燥してなり、XPS法により結合エネルギーを測定し、Si2P、C1Sに対応するピークの面積から求めた炭素と珪素の元素組成比(C/Si)が0.05以上3.0未満である塗膜層を有する。
上記塗膜層中の炭素と珪素の元素組成比(C/Si)は、具体的には実施例に記載の方法で測定することができる。
クラックの発生を抑制し、高いガスバリア性、密着性及び防汚性を付与する観点から、上記塗膜層は、上記のようにして求められた炭素と珪素の元素組成比(C/Si)が、0.05以上3.0未満であり、好ましくは0.10以上2.0未満、より好ましくは0.20以上1.0未満である。本発明のガスバリア性フィルムは、上記塗膜層を有することにより、クラックが発生しにくく、高いガスバリア性及び密着性を有し、該塗膜層を最表面に有する場合には、防汚性をも有するものとなる。
上記塗膜層の厚さは、ガスバリア性、クラック発生の抑制、密着性及び防汚性の観点から、1〜5000nmであることが好ましく、5〜4000nmであることがより好ましく、10〜3000nmであることが更に好ましく、50〜3000nmであることが特に好ましい。該厚さは断面TEM装置を用いて測定することができ、具体的には後述の方法で測定することができる。
〔有機ポリシラザン〕
上記塗膜層を形成するための塗布液に含まれる有機ポリシラザンは、主として下記一般式(1)で表されるシラザン構造を分子鎖中に有する。
(式(1)中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、またはこれらの基以外で珪素に直結する基が炭素である基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基、アルコキシ基を表す。但し、R1とR2のいずれか一方は水素原子であり、もう一方は水素原子以外である。)
本発明に用いられる有機ポリシラザンは、主として前記一般式(1)で表されるシラザン構造を分子鎖中に有しているものであればよく、鎖状、環状、あるいは架橋構造を有するもの、あるいは分子内にこれら複数の構造を同時に有するものであってもよい。これらは単独でもあるいは混合物でも利用できる。
上記有機ポリシラザンの分子鎖中における前記一般式(1)で表されるシラザン構造の割合は、好ましくは50質量%以上である。
前記一般式(1)において、R1、R2及びR3はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、又はこれらの基以外で珪素に直結する基が炭素である基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基、アルコキシ基を表す。但し、R1とR2のいずれか一方は水素原子であり、もう一方は水素原子以外である。これらの炭化水素基類における炭素数は特に制約されないが、通常は20以下、好ましくは10以下である。
1とR2のうち水素原子以外の置換基は、アルキル基又はアルキルアミノ基であることが好ましく、炭素数1〜6のアルキル基又はアルキルアミノ基であることがより好ましく、炭素数1〜2のアルキル基又はアルキルアミノ基であることが更に好ましい。
以下、本発明に用いることができる有機ポリシラザンの例を挙げる。
例えば、前記一般式(1)において、R1に水素原子、R2、R3に前述した水素原子以外の置換基を有する有機ポリシラザンが挙げられる。該有機ポリシラザンは−(R12SiNR3)−を繰り返し単位として、主に重合度が3〜5の環状構造を有している。
また、主として前記一般式(1)で表されるシラザン構造を分子鎖中に有する有機ポリシラザンの中には、D.SeyferthらCommunication of Am.Cer.Soc.C−132,July 1984.に報告されているような、分子内に架橋構造を有するものもある。下記一般式(2)にその一例を示す。
また、本発明に用いられる有機ポリシラザンとして、特開昭49−69717号公報に報告されているようなR1SiX3(X:ハロゲン)のアンモニア分解によって得られる架橋構造を有する有機ポリシラザンR1Si(NH)x、あるいはR1SiX3及びR2 2SiX2の共アンモニア分解によって得られる下記一般式(3)で示される構造を有する有機ポリシラザンも用いることができる。
式(3)中、R1、R2は前記と同じである。m,nは正の整数である。
本発明に用いられる有機ポリシラザンは、主として前記一般式(1)で表されるシラザン構造を分子鎖中に有するが、前記一般式(1)で表されるシラザン構造単位は環状化することがあり、その場合にはその環状部分が末端基となり、このような環状化がされない場合には、その末端はR1、R2、R3と同様の基であることができる。
また、本発明に用いられる有機ポリシラザンとして、例えば下記一般式(4)で示される、金属原子を含むポリメタロシラザンも用いることができる。
式(4)中、R1、R2は前記と同じである。Mは金属原子であり、m,nは正の整数である。また、側鎖の金属原子Mは架橋をなしていてもよい。
また、本発明に用いられる有機ポリシラザンとして、特開平05−238827号公報に記載されている、珪素アルコキシド付加型の有機変性ポリシラザンも用いることができる。この有機変性ポリシラザンは、主として前記一般式(1)で表されるシラザン構造を分子鎖中に有する有機ポリシラザン、あるいはペルヒドロポリシラザンと、下記一般式(5):
Si(OR44 (5)
(式(5)中、R4は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、炭素原子数1〜20個を有するアルキル基又はアリール基を表し、少なくとも1個のR4は上記アルキル基又はアリール基である)
で表される珪素アルコキシドを加熱反応させて得られる、アルコキシド由来珪素/ポリシラザン由来珪素原子比が0.001〜3の範囲内、かつ数平均分子量が約200〜50万の珪素アルコキシド付加ポリシラザンである。該有機変性ポリシラザンは、低温セラミックス化が可能である。
本発明に用いられる、主として前記一般式(1)で表されるシラザン構造を分子鎖中に有する有機ポリシラザンの数平均分子量は、後述する塗布液に用いられる溶媒への溶解性、塗膜層の膜物性、無機層の上に塗布する場合における無機層のピンホールやクラックの目止めの効果等の観点から、100〜50,000であることが好ましく、300〜5,000であることがより好ましい。
本発明のガスバリア性フィルムが上記塗膜層を有することで、クラックを発生しにくく、基材、無機層あるいは他の層との密着性が良好になる理由は以下のように考えられる。
一般に、ポリシラザンは、加熱条件下であるいは室温で大気中の水分等と反応してシリカに転化する際に、体積収縮が起こる。このため、ポリシラザンを含む塗布液を塗布乾燥してシリカ膜を形成すると、該シリカ膜中には体積収縮に伴う残留応力が発生する。特に、一般式 −(SiH2NH)− で示されるペルヒドロポリシラザンを塗布乾燥してなるシリカ膜は完全無機系であるため柔軟性に劣り、塗布膜厚を厚くしていくと、発生した残留応力によりクラックが発生しやすくなる。またシリカ膜を形成した後のハンドリングにおいても、僅かな屈曲によってクラックが発生しやすい。
一方、本発明における上記塗膜層は、前記有機ポリシラザンを含む塗布液を塗布乾燥してなることから、有機成分を含むシリカ膜に転化する。このシリカ膜は、完全無機系のシリカ膜と比較して柔軟性が高いため、塗布乾燥工程やその後のハンドリング時のクラック発生が少なくなると考えられる。また、前記有機ポリシラザンは、シリカへの転化後も(水素原子よりも体積の大きい)珪素原子と結合した有機置換基が残るため、シリカ膜に転化する際の体積収縮が少ないと考えられ、この結果、塗布乾燥工程におけるクラック発生が抑制されると推察される。
密着性に関しても、上記塗膜層は膜中に有機成分を含むため、基材や、樹脂成分からなるアンカーコート層などの他の有機層に対しても密着性が良好になると考えられる。また前述のように、前記有機ポリシラザンはシリカへの転化時の体積収縮が少ないと考えられ、このため塗布乾燥後に下側の層との界面に発生する剪断応力も小さくなり、このことも密着性が良好になる一因と推察される。更には、本発明のガスバリア性フィルムが上記塗膜層を最表面に有する場合において、他の基材と接着剤などを用いてラミネートして積層体を構成する際にも、一般に有機成分からなる接着剤層と上記塗膜層の密着性は良好であり、かつ、上記塗膜層の柔軟性が高いため、該積層体の密着性が良好になる。
さらに驚くべきことに、上記塗膜層を構成する、前記有機成分を含むシリカ膜は、ペルヒドロポリシラザンを塗布乾燥してなる完全無機系のシリカ膜よりもガスバリア性に優れ、かつ防汚性をも有することが本発明者らにより見出された。
まず、本発明のガスバリア性フィルムのガスバリア性が優れる理由は以下のように考えられる。本発明のガスバリア性フィルムが基材、塗膜層、無機層をこの順で有する場合は、塗膜層が基材の凹凸を平坦化し、また基材がプラスチックフィルムである場合には、該基材中に含まれるオリゴマーの析出を抑制し、その上に蒸着法により緻密な無機層を形成できるため、ガスバリア性が優れると考えられる。
本発明のガスバリア性フィルムが基材、無機層、塗膜層をこの順で有する場合は、塗膜層が無機層中に生じたピンホールやクラックなどを目止めすることにより、ガスバリア性が優れたものになる。
一方、前記有機成分を含むシリカ膜の方が、ペルヒドロポリシラザンからなる完全無機系のシリカ膜よりもガスバリア性に優れる理由としては以下のように考えられる。一般的には、完全無機系のシリカ膜の方が膜の緻密性は高くなるため、ガスバリア性は良好になると考えられる。しかし、該完全無機系のシリカ膜は、前述のようにシリカへの転化時の体積収縮が大きく、膜厚を厚くしていくとクラックが生じやすくなり所定のガスバリア性を発揮できなくなる。また、無機層の上に塗膜層を形成する場合は、残留応力が下側の無機層にまで及び、無機層にもクラックを生じさせやすくなりガスバリア性が低下したと考えられる。
これに対し、有機成分を含むシリカ膜は、シリカへの転化時の体積収縮が少なく、膜の柔軟性も高いため、上記のようなガスバリア性を低下させる要因が少なく、結果として、完全無機系のシリカ膜よりもガスバリア性に優れたものとなったと推測される。
さらに、上記塗膜層を構成する、有機成分を含むシリカ膜が、完全無機系のシリカ膜より防汚性に優れる理由としては以下のように考えられる。完全無機系のシリカ膜は、その表面は非常に極性が高く親水性のため、有機系成分のような極性の低いものは表面に付着しにくいが、極性の高い成分は付きやすくなるのに対し、有機成分を含むシリカ膜はその表面の極性が適度に調整されて、結果として極性の高い成分も低い成分も付着しにくくなっていると推測される。
〔塗膜層の形成方法〕
上記塗膜層は、前記有機ポリシラザンを含む塗布液を、基材上あるいは無機層上に塗布乾燥して形成することができる。
前記塗膜層を形成するための塗布液は、主として前記一般式(1)で表されるシラザン構造を分子鎖中に有する有機ポリシラザンを含んでいればよいが、塗膜層の柔軟性等の膜物性を調整する観点から、上記有機ポリシラザン及びペルヒドロポリシラザンを含むことが好ましい。ペルヒドロポリシラザンは、一般式 −(SiH2NH)− で示される無機化合物である。
上記塗布液に用いられる溶媒としては、80〜200℃程度の温度での乾燥が可能で、前記有機ポリシラザン及びペルヒドロポリシラザンを安定して溶解しうる有機溶媒が好ましく用いられる。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼン等の芳香族炭化水素;シクロヘキサン、シクロヘキセン、デカヒドロナフタレン、エチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、p−メンタン、ジペンテン(リモネン)等の脂環式炭化水素;n−ペンタン、イソペンタン、n−ヘキサン、イソヘキサン、n−ヘプタン、イソヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、n−ノナン、n−デカン等の飽和炭化水素、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル等が挙げられる。
塗布液中の前記有機ポリシラザン及びペルヒドロポリシラザンの合計の濃度は、該ポリシラザンの溶媒溶解性、及び塗布性等の観点から、好ましくは0.1〜30質量%、より好ましくは0.5〜20質量%である。また、前記有機ポリシラザンとペルヒドロポリシラザンの含有比率は、有機ポリシラザン/ペルヒドロポリシラザン=5/95〜100/0(質量比)であるのが好ましい。
塗布液の塗布方法としては、従来公知の方法を用いることができ、好ましくは基材を搬送しながら塗布を行う。例えば、リバースロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、ロッドコーター、エアドクタコーター、スプレーあるいは刷毛を用いたコーティング方法等の方法が挙げられ、リバースロールコーターやグラビアコーターを用いた方法が好ましい。塗布後は、室温に放置して乾燥させてもよいが、加熱乾燥することが好ましく、80〜200℃程度の温度での熱風乾燥、熱ロール乾燥などの加熱乾燥や、赤外線乾燥などの公知の乾燥方法を用いて乾燥させることができる。また、ポリシラザン成分を速やかにシリカに転化させる観点から、前記塗膜層を塗布乾燥した後に、50〜200℃程度の温度下で水蒸気雰囲気にさらす事が好ましい。
(蒸着法により形成された無機層)
本発明のガスバリア性フィルムはまた、上記基材の少なくとも一方の面に、蒸着法により形成された無機層を有する。該蒸着法としては、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリングなどの物理蒸着法(以下「PVD法」ともいう)、化学蒸着法(以下「CVD法」ともいう)等の公知の蒸着法を用いることができる。無機層の厚さは、一般に0.1〜1000nm程度である。前記範囲内であれば、十分なガスバリア性が得られ、また、無機層に亀裂や剥離を発生させることなく、透明性にも優れている。蒸着法により形成された無機層は1層のみでもよく、2層以上を積層したものであってもよい。
本発明においては、ガスバリア性の観点から、蒸着法により形成された無機層は、複数の種類の無機層で多層化したものが好ましく、前記物理蒸着法により形成された無機層と、前記CVD法により形成された無機層とを組み合わせてなる多層膜がより好ましい。無機層が単層の場合、膜形成過程で該膜中にクラック等が生じ、それが残存してガスバリア性低下の原因になりやすいのに対し、複数の種類の無機層を順次形成し多層化する場合は、無機層が切り替わる際にそれまでに生成したクラックの成長が停止し、そこから新たに膜が成長することにより、膜全体を貫通するクラックが発生しにくくなるためと考えられる。
無機層が多層膜である場合は、多層膜全体で上記厚さを有していればよい。
本発明のガスバリア性フィルムにおいて、前記蒸着法により形成された無機層は、高いガスバリア性を示し、かつ構成層間の優れた密着強度を有し、カールの発生のないガスバリア性フィルムを高い生産性で得る観点から、PVDにより形成された無機層(以下、「PVD無機層(1)」ということがある)、CVDにより形成された無機層(以下、「CVD無機層」ということがある)及びPVDにより形成された無機層(以下、「PVD無機層(2)」ということがある)をこの順で有するものであることが好ましい。以下、本発明において好適に用いられる上記無機層について説明する。
〔物理蒸着法(PVD)により形成された無機層〕
上記PVD無機層(1)及び(2)の各々の形成には、ガスバリア性の高い均一な薄膜が得られるという点で、物理蒸着法のうちの真空蒸着法が用いられることが好ましい。
CVD無機層の上下層に設けられる、PVD無機層(1)及び(2)の各々を構成する無機物質としては、珪素、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、錫、ニッケル、チタン、炭素等、あるいはこれらの酸化物、炭化物、窒化物又はそれらの混合物が挙げられるが、ガスバリア性の点から、好ましくは酸化珪素、窒化珪素、酸化窒化珪素、酸化炭化珪素、酸化炭化窒化珪素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、酸化炭化アルミニウム、ダイヤモンドライクカーボン等である。特に、酸化珪素、窒化珪素、酸化窒化珪素、酸化炭化珪素、酸化炭化窒化珪素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム及び酸化炭化アルミニウムは、高いガスバリア性が安定に維持できる点で好ましい。PVD無機層は上記無機物質を1種単独で含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
PVD無機層(1)及び(2)の各々の厚さは、一般に0.1〜500nmであるが、ガスバリア性、フィルムの生産性の点から、好ましくは0.5〜100nm、より好ましくは1〜50nmである。PVD無機層の厚さは蛍光X線を用いて測定することができ、具体的には後述の方法で行うことができる。
〔化学蒸着法(CVD)により形成された無機層〕
CVD無機層は、前記PVD無機層(1)上に形成される。該CVD無機層により、前記PVD無機層に生じた欠陥等の目止めが行われ、ガスバリア性や層間の密着性が向上するものと考えられる。
CVD無機膜を構成する無機物質としては、珪素、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、錫、ニッケル、チタン、ダイヤモンドライクカーボン等、あるいはこれらの酸化物、炭化物、窒化物又はそれらの混合物等が挙げられるが、ガスバリア性、密着性の点から、好ましくは酸化珪素、窒化珪素、酸化窒化珪素、酸化炭化珪素、酸化炭化窒化珪素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、酸化炭化アルミニウム、酸化チタン、ダイヤモンドライクカーボンである。なかでも、酸化珪素、窒化珪素、酸化窒化珪素、酸化炭化窒化珪素及び酸化アルミニウムは、高いガスバリア性が安定に維持できる点でより好ましい。CVD無機層は上記無機物質を1種単独で含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
酸化珪素膜等のCVD無機膜形成のための原料としては、例えば、珪素化合物が挙げられる。また、酸化チタン等からなるCVD無機層形成のための原料としては、チタン化合物が挙げられる。珪素化合物やチタン化合物等の化合物であれば、常温常圧下で気体、液体、固体いずれの状態であっても使用できる。気体の場合にはそのまま放電空間に導入できるが、液体、固体の場合は、加熱、バブリング、減圧、超音波照射等の手段により気化させて使用する。又、溶媒によって希釈して使用してもよく、溶媒は、メタノール、エタノール、n−ヘキサンなどの有機溶媒及びこれらの混合溶媒を使用することができる。
上記珪素化合物としては、シラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトラt−ブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン、ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ジメチルアミノ)メチルビニルシラン、ビス(エチルアミノ)ジメチルシラン、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、ビス(トリメチルシリル)カルボジイミド、ジエチルアミノトリメチルシラン、ジメチルアミノジメチルシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン、ヘプタメチルジシラザン、ノナメチルトリシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン、テトラキスジメチルアミノシラン、テトライソシアナートシラン、テトラメチルジシラザン、トリス(ジメチルアミノ)シラン、トリエトキシフルオロシラン、アリルジメチルシラン、アリルトリメチルシラン、ベンジルトリメチルシラン、ビス(トリメチルシリル)アセチレン、1,4−ビストリメチルシリル−1,3−ブタジイン、ジ−t−ブチルシラン、1,3−ジシラブタン、ビス(トリメチルシリル)メタン、シクロペンタジエニルトリメチルシラン、フェニルジメチルシラン、フェニルトリメチルシラン、プロパルギルトリメチルシラン、テトラメチルシラン、トリメチルシリルアセチレン、1−(トリメチルシリル)−1−プロピン、トリス(トリメチルシリル)メタン、トリス(トリメチルシリル)シラン、ビニルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサメチルシクロテトラシロキサン、Mシリケート51等が挙げられる。
チタン化合物としては酸化チタン、塩化チタンなどがある。チタン有機化合物としては、チタンテトラブトキシド、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、テトラメチルチタネートなどのチタンアルコキシド類やチタンラクテート、チタンアセチルアセトナート、チタンテトラアセチルアセトナート、ポリチタンアセチルアセトナート、チタンオクチレングリコレート、チタンエチルアセトアセテート、チタントリエタノールアミネートなどのチタンキレート類等が挙げられる。
上記CVD無機層の厚さは、断面TEM法により測定した値が20nm未満であることが好ましい。上記範囲であることにより、PVD無機層同士の分子間力が有効に作用することで、密着性がより向上する。また同時に化学蒸着法による生産速度を真空蒸着法と同等程度に高めることができるため、生産効率が向上すると共に製造設備も小型化、簡素化できるため、安価なバリアフィルムを製造することができる。上記観点から、CVD無機層の厚さは、10nm未満であることがより好ましく、5nm未満であることが更に好ましく、3nm未満であることが特に好ましい。
また、CVD無機層の厚さの下限値は、PVD無機層への目止め効果が発現するための最低限の膜厚として、0.1nm以上であるのが好ましく、0.5nm以上であるのがより好ましい。厚さの下限値が上記範囲内であれば、密着性、ガスバリア性などが良好であり好ましい。CVD無機層の厚みを0.1nm以上とすることで、上記した下層のPVD無機層の開放空孔の目止め効果が発現すると同時に表面が滑らかになり、上層のPVD無機層を蒸着した際に、蒸着粒子の表面拡散が良好となり、粒子同士がより密に堆積するため、ガスバリア性がさらに向上する。
上記観点から、CVD無機層の厚さは、0.1nm以上20nm未満であることが好ましく、0.1nm以上10nm未満であることがより好ましく、0.1nm以上5nm未満であることが更に好ましく、0.1nm以上3nm未満であることが特に好ましい。
上記CVD無機層の厚さの断面TEM法による測定は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて行い、具体的には、後述の方法により行うことができる。
更に、隣接するCVD無機層とPVD無機層において、その厚さの比(CVD無機層厚さ/PVD無機層厚さ)が0.0001〜0.2、更に0.0005〜0.1、特に0.001〜0.1であるのが好ましい。PVD無機層厚さに比してCVD無機層厚さが上記範囲より薄すぎる場合、全体の無機層に対するCVD無機層の割合が極めて小さくなり、ほぼPVD無機層のみの特性と変わらなくなり、CVD無機層による目止め効果、応力緩和等の効果が殆ど得られなくなる恐れがある。また、PVD無機層厚さに比してCVD無機層厚さが上記範囲より厚すぎる場合、CVD法の成膜レートはPVD法に比べ極めて低く、Roll to RollプロセスにてPVD無機層とCVD無機層を連続して成膜するためには、基材の搬送速度を成膜レートの低いCVD無機層に合わせて大きく低下させる必要があり、生産性が低下する恐れがある。
PVD無機層の表面粗さ(AFMにより測定)は概ね5nm以下とすることが、蒸着粒子が密に堆積するため、バリア性発現のためには好ましい。この際にCVD無機層の厚みを上記値未満とすることで、蒸着粒子間の谷間の部分に存在する開放空孔を埋めながらも蒸着粒子の山の部分は極めて薄くしか被覆しない(もしくは部分的に露呈する)ため、PVD無機層間の密着性をさらに高めることが出来る。
上記CVD無機層は、PVD無機層への目止め効果を確実とするために、2層以上で構成してもよく、この場合2〜5層から構成されることが好ましい。
CVD無機層は、XPS法により測定された炭素含有量が好ましくは20at.%未満、より好ましくは10at.%未満、更に好ましくは5at.%未満である。炭素含有量をこのような値とすることにより、該無機層の表面エネルギーが大きくなり、無機層同士の間の密着性を妨げることがなくなる。そのためバリアフィルムの耐折曲げ性、耐剥離性が向上する。
また、CVD無機層の炭素含有量は0.5at.%以上であることが好ましく、1at.%以上であることがより好ましく、2at.%以上であることが更に好ましい。中間層に炭素が僅かながら含まれることで、応力の緩和が効率よくなされ、ガスバリア性フィルムのカールが低減される。
以上の点から、上記CVD無機層における炭素含有量は、好ましくは0.5at.%以上20at.%未満の範囲にあり、より好ましくは1at.%以上10at.%未満の範囲にあり、更に好ましくは2at.%以上5at.%未満の範囲にある。ここで、「at.%」とは、原子組成百分率(atomic%)を示す。
上記XPS法により測定された炭素含有量を達成する方法としては、特に制限はなく、例えば、CVDにおける原料を選択することにより達成する方法、原料や反応ガス(酸素、窒素等)の流量や比率によって調整する方法、成膜時の圧力や投入電力によって調整する方法等が挙げられる。
XPS法による炭素含有量の具体的な測定方法は後述の通りである。
PVDにより形成された無機層、CVDにより形成された無機層及びPVDにより形成された無機層をこの順で有する無機層は、以上の観点から、PVD法により形成された無機層の膜厚が0.5〜100nmであり、CVD法により形成された無機層の炭素含有量が2at.%以上5at.%未満であり、かつCVD法により形成された無機層の膜厚が0.1nm以上5nm未満であることが特に好ましい。
本発明のガスバリア性フィルムは、蒸着法により形成された無機層を、PVD無機層(1)、CVD無機層及びPVD無機層(2)の順で積層構造とすることにより、CVD無機層自体はガスバリア性に直接殆ど寄与しないが、PVD無機層に対しては、下層には目止め効果及び上層にはアンカー効果を発揮するため、単にPVD無機層を厚く成膜した場合やPVD無機層同士あるいはCVD無機層同士を積層した場合と比較して、飛躍的にガスバリア性が向上する。
〔ガスバリア性フィルムの製造方法〕
上述した本発明のガスバリア性フィルムの製造方法には特に制限はないが、蒸着法により形成された無機層が、PVD無機層(1)、CVD無機層及びPVD無機層(2)をこの順で有する無機層である場合には、PVD無機層(1)及び(2)の形成を1×10-7〜1Paの減圧下で行い、CVD無機層の形成を10Pa以下の減圧下で行い、かつCVDによる蒸着を、前記基材の搬送速度が100m/分以上の条件で行うことが好ましい。
上記PVD無機層(1)及び(2)の各々の形成は、緻密な薄膜を形成するため1×10-7〜1Paの減圧下で、好ましくは基材を搬送しながら行う。PVD無機層(1)及び(2)の各々を形成する際の圧力は、真空排気能力とバリア性の観点から、好ましくは1×10-6〜1×10-1Paの範囲、より好ましくは1×10-4〜1×10-2Paの範囲である。上記範囲内であれば、十分なガスバリア性が得られ、また、PVD無機層に亀裂や剥離を発生させることない。
また、CVD無機層の形成は、10Pa以下の減圧下、かつ基材の搬送速度が100m/分以上の条件でなされるのが好ましい。
すなわち、化学蒸着法(CVD)により無機層を形成する際の圧力は、緻密な無機層を形成するため10Pa以下の減圧下で行われるのが好ましく、成膜速度とバリア性の観点から、より好ましくは1×10-2〜10Paの範囲、更に好ましくは1×10-1〜1Paの範囲である。このCVD無機層には、耐水性、耐久性を高めるために、電子線照射による架橋処理を行うこともできる。
基材の搬送速度は、生産性向上の観点から、100m/分以上であるのが好ましく、より好ましくは200m/分以上である。上限は特にないが、フィルム搬送の安定性の観点から1000m/分以下が好ましい。
上記CVD無機層を形成する化学蒸着法としては、プラズマを利用したプラズマCVD、熱CVD、光CVD、MOCVD、加熱触媒体を用いて材料ガスを接触熱分解する触媒化学気相成長法(Cat−CVD)等が挙げられる。中でもCVD無機層の形成方法としては、成膜速度を高くして高生産性を実現することや、基材への熱的ダメージを回避する必要があることから、プラズマCVDやCat−CVDが好ましい。
プラズマCVDによるCVD無機層の形成は、前述した原料を蒸発させ、原料ガスとして真空装置に導入し、直流(DC)プラズマ装置、低周波プラズマ装置、高周波(RF)プラズマ装置、パルス波プラズマ装置、3極構造プラズマ装置、マイクロ波プラズマ装置、ダウンストリームプラズマ装置、カラムナープラズマ装置及びプラズマアシスッテドエピタキシー等の低温プラズマ発生装置を用いてプラズマ化することにより行うことができる。プラズマの安定性の点から高周波(RF)プラズマ装置を用いるのがより好ましい。
PVD無機層及びCVD無機層は、真空下で連続して形成することが好ましい。すなわち、本発明においては、例えば、PVD無機層の形成終了後に、蒸着槽内の圧力を大気圧近傍にまで戻して、再度真空にして後工程を行うものではなく、真空状態のまま連続的に成膜を行うことが好ましい。そのようにPVD無機層及びCVD無機層を形成することにより、極めて良好なガスバリア性を発現することができる。
また、PVD無機層(1)を形成した後に、CVD無機層及びPVD無機層(2)の形成を行うが、このCVD無機層及びPVD無機層の形成は、更に1回以上繰り返して行ってもよい。すなわち、品質安定性の点からPVD無機層(1)、CVD無機層及びPVD無機層(2)の上に、更にCVD無機層及びPVD無機層からなる構成単位を1あるいは複数有することが好ましく、1〜3単位有することがより好ましく、また、1又は2単位有することが更に好ましい。
なお、上記各無機層の形成を繰り返す場合も、真空下で連続して行うことが好ましい。
〔保護層〕
また、本発明のガスバリア性フィルムは、上記各層を形成した側の最上層に保護層を有していてもよい。
該保護層を形成する樹脂としては、具体的には、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂系、アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂やエチレンビニルアルコール系樹脂等のビニルアルコール系樹脂、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体、ビニルエステル系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、シリコーン系樹脂、スチレン系樹脂、エポキシ系樹脂、イソシアネート基含有樹脂、オキサゾリン基含有樹脂、カルボジイミド基含有樹脂、アルコキシル基含有樹脂等を単独であるいは2種以上組み併せて使用することができる。
なかでも無機層のガスバリア性向上の点から上記のうち水溶性樹脂の樹脂層が好ましく、さらに該水溶性樹脂としては、ポリビニルアルコール系樹脂、エチレンビニルアルコール系樹脂及びエチレン−不飽和カルボン酸共重合体から選択される少なくとも1種が好ましい。
また、保護層には、ガスバリア性、耐摩耗性、滑り性向上のため、シリカゾル、アルミナゾル等の無機酸化物ゾル等や、粒子状無機フィラー及び層状無機フィラーから選ばれる1種以上の無機粒子を配合することができる。
保護層の厚さについては、印刷性、加工性の点から、好ましくは0.05〜10μm,更に好ましくは0.1〜3μmである。その形成方法としては、公知のコーティング方法が適宜採択される。例えば、リバースロールコーター、グラビアコーター、ロッドコーター、エアドクタコーター、スプレー等を用いたコーティング方法等の方法がいずれも使用できる。また、蒸着フィルムを保護層用樹脂液に浸漬して行ってもよい。塗布後は、80〜200℃程度の温度での熱風乾燥、熱ロール乾燥などの加熱乾燥や、赤外線乾燥などの公知の乾燥方法を用いて溶媒を蒸発させることができる。これにより、均一な保護層が得られる。
本発明においては、必要に応じ更に追加の構成層を積層した各種ガスバリア性フィルムが用途に応じて使用できる。
通常の実施態様としては、上記無機層、塗膜層あるいは保護層の上にプラスチックフィルムを設けたガスバリア性フィルムが各種用途に使用される。上記プラスチックフィルムの厚さは、積層構造体の基材としての機械強度、可撓性、透明性等の点から、通常5〜500μm、好ましくは10〜200μmの範囲で用途に応じて選択される。また、フィルムの幅や長さは特に制限はなく、適宜用途に応じて選択することができるが、バリアフィルムを用いて工業製品を製造する上では、長尺の製品を製造可能であること、一度のプロセスで多数の製品を製造可能であることなど、生産性、コスト優位性の点から、フィルムの幅、長さは長い方が望ましい。フィルム幅は0.6m以上が好ましく、さらに好ましくは0.8m以上、より好ましくは1.0m以上、フィルムの長さは1000m以上が好ましく、さらに好ましくは3000m以上、より好ましくは5000m以上である。また、例えば、無機層、塗膜層あるいは保護層の面上にヒートシールが可能な樹脂を使用することにより、ヒートシールが可能となり、種々の容器として使用できる。ヒートシールが可能な樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、アクリル系樹脂、生分解性樹脂等の公知の樹脂が例示される。
また、別のガスバリア性積層フィルムの実施態様としては、無機層、塗膜層あるいは保護層の塗布面上に印刷層を形成し、更にその上にヒートシール層を積層するものが挙げられる。印刷層を形成する印刷インクとしては、水性及び溶媒系の樹脂含有印刷インクが使用できる。ここで、印刷インクに使用される樹脂としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル共重合樹脂又はこれらの混合物が例示される。更に、印刷インクには、帯電防止剤、光線遮光剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、フィラー、着色剤、安定剤、潤滑剤、消泡剤、架橋剤、耐ブロッキング剤、酸化防止剤等の公知の添加剤を添加してもよい。
印刷層を設けるための印刷方法としては特に限定されないが、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法等の公知の印刷方法が使用できる。印刷後の溶媒の乾燥には、熱風乾燥、熱ロール乾燥、赤外線乾燥等の公知の乾燥方法が使用できる。
また、印刷層とヒートシール層との間に紙又はプラスチックフィルムを少なくとも1層積層することが可能である。プラスチックフィルムとしては、本発明のガスバリア性積層フィルムに用いられる基材としての熱可塑性高分子フィルムと同様のものが使用できる。中でも、十分な積層体の剛性及び強度を得る観点から、紙、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂又は生分解性樹脂が好ましい。
[太陽電池用保護材、太陽電池モジュール、有機EL用部材ならびに有機EL]
本発明はまた、上述した本発明のガスバリア性フィルムを有する太陽電池用保護材、該太陽電池用保護材を有する太陽電池モジュール、上述した本発明のガスバリア性フィルムを有する有機EL用部材、ならびに該有機EL用部材を有する有機ELも提供する。太陽電池用素子、及び有機EL用素子は、いずれも水分の混入を嫌うため、高いガスバリア性を有する本発明のガスバリア性フィルムは、それらの素子を保護する保護材として好適に用いられる。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。なお、以下の実施例における評価方法は、次の通りである。
<水蒸気透過率>
厚さ60μmの無軸延伸ポリプロピレン(CPP)フィルム(東洋紡績(株)製「P1146」)の表面に、ウレタン系接着剤(東洋モートン(株)製AD900とCAT−RT85を10:1.5の割合で配合したもの)を塗布、乾燥し、厚さ約3μmの接着剤層を形成した。この接着剤層上にガスバリア性フィルムの無機層(塗膜層)面側をラミネートし、ガスバリア性積層フィルムを得た。
上記ガスバリア性積層フィルムを、水蒸気透過率測定装置 DELTAPERM(Technolox社製)に、ガスバリア性フィルムが検出器側(すなわちCPPフィルムが水蒸気暴露側)になる向きにセットし、温度40℃、相対湿度90%RHの条件で水蒸気透過率(g/m2・day)を測定した。
<ラミネート強度>
上記と同様の方法で得られたガスバリア性積層フィルムを幅15mmの短冊状に切り出し、レトルト(温度:125℃、時間:30分)処理を行い、その後、端部を一部剥離し、引っ張り試験機((株)オリエンテック製「STA−1150」)を用いて、300mm/minの速度でCPPフィルムを180°剥離することにより、レトルト後のラミネート強度(g/15mm)を測定した。
なお、ラミネート強度の値が大きいほど、塗膜層とその下層との密着性が良好であることを示す。
<剥離強度>
実施例及び比較例で得られたガスバリア性フィルムの最表面に、粘着テープ(ニチバン製「セロテープ(登録商標) CT405AP−15」)を貼付し、その後、端部を一部剥離し、引っ張り試験機((株)オリエンテック製 STA−1150)を用いて、300mm/minの速度で粘着テープを180°剥離することにより、剥離強度(g/15mm)を測定した。評価基準は下記の通りである。
○:300g/15mm以上
△:100g/15mm以上300g/15mm未満
×:100g/15mm未満
<耐クラック性>
実施例及び比較例で得られたガスバリア性フィルムを室温、大気下で保管し、1ヶ月後の外観を目視観察して、下記の基準により評価した。
○:クラックなし
△:僅かにクラック発生
×:クラック多数発生
<防汚性>
実施例及び比較例で得られたガスバリア性フィルムの最表面に、油性マジックで書いたときのはじき性を目視観察し、下記の基準により評価した。
○:はじき顕著
△:ややはじく
×:はじかない
<PVD無機層の膜厚>
膜厚の測定は蛍光X線を用いて行った。この方法は、原子にX線を照射すると、その原子特有の蛍光X線を放射する現象を利用した方法で、放射される蛍光X線強度を測定することにより原子の数(量)を知ることが出来る。具体的には、フィルム上に既知の2種の厚みの膜を形成し、それぞれについて放射される特定の蛍光X線強度を測定し、この情報より検量線を作成する。測定試料について同様に蛍光X線強度を測定し、検量線からその膜厚を測定した。
<CVD無機層の膜厚>
エポキシ樹脂包埋超薄切片法で試料を調整し、日本電子株式会社製の断面TEM装置「JEM−1200EXII」により加速電圧120KVの条件で測定した。なお、10nm以下のCVD無機層の厚みについては、断面TEM法による測定においても正確な値を得ることは難しいため、同様の成膜条件にて成膜した20nm以上の比較的厚いCVD無機層を、断面TEM法により測定して単位搬送速度当たりの成膜レートを算出し、実施例記載の搬送速度で成膜した場合の厚みを算出した値としている。
<CVD無機層の炭素含有量及び塗膜層の炭素と珪素の元素組成比(C/Si)>
サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製のXPS分析装置「K−Alpha」を使用し、X線光電子分光法により結合エネルギーを測定し、Si2P、C1S、N1S、O1S等に対応するピークの面積から換算することによって元素組成(at.%)を算出した。なお、CVD無機層の炭素含有量は、XPSチャートのCVD無機層の部分の値を読み取ることで評価し、塗膜層の炭素と珪素の元素組成比(C/Si)は、XPSチャートの塗膜層の部分の値を読み取ることで評価した。
<塗膜層の膜厚>
エポキシ樹脂包埋超薄切片法で試料を調製し、日本電子株式会社製の断面TEM装置「JEM−1200EXII」により加速電圧120KVの条件で測定した。なお、10nm以下の塗膜層の厚みについては、断面TEM法による測定においても正確な値を得ることは難しいため、同様のポリシラザン成分を10質量%含む塗布液を、規定の号数のワイヤーバーで塗布して形成した塗膜層の厚みを測定して単位濃度あたりの膜厚を算出し、実施例に記載の濃度で塗布した場合の厚みを算出した。
製造例1(ペルヒドロポリシラザンの製造)
内容積1Lの四つ口フラスコにガス吹き込み管、メカニカルスターラー、デュワーコンデンサーを装着した。反応器内部を乾燥窒素で置換した後、四つ口フラスコに乾燥ピリジンを490ml入れ、これを氷冷した。次にジクロロシラン52gを加えると白色固体状の付加体(SiH2Cl2・2C55N)が生成した。反応混合物を氷冷し、撹拌しながら水酸化ナトリウム管及び活性炭管を通して精製したアンモニア51gを吹き込んだ後、100℃で加熱した。反応終了後、反応混合物を遠心分離し、乾燥ピリジンを用いて洗浄した後、更に乾燥窒素雰囲気下で濾過して濾液850mlを得た。エバポレーターを用いてピリジンを留去したところ、17gのペルヒドロポリシラザンを得た。得られたポリマーの数平均分子量は、凝固点降下法で(溶媒:乾燥ベンゼン)により測定したところ、1120であった。そのIR(赤外吸収)スペクトルを測定すると、波数(cm-1)3390、及び1180付近のN−Hに基づく吸収:2170のSi−Hに基づく吸収:1040〜800のSi−N−Siに基づく吸収を示すことが確認された。
製造例2(ポリメチル(ヒドロ)シラザンの製造)
内容積500mlの四つ口フラスコにガス吹き込み管、メカニカルスターラー、デュワーコンデンサーを装着した。反応器内部を脱酸素した乾燥窒素で置換した後、四つ口フラスコにメチルジクロロシラン(CH3SiHCl2、24g,0.22mol)と乾燥ジクロロメタン300mlを入れた。反応混合物を氷冷し、撹拌しながら乾燥アンモニア20g(1.2mol)を窒素ガスと共に吹き込んでアンモニア分解を行った。反応終了後、反応混合物を遠心分離した後、濾過した。濾液から溶媒を減圧除去し、ポリメチル(ヒドロ)シラザンを無色の液体として8.7g得た。生成物の数平均分子量を凝固点降下法で(溶媒:乾燥ベンゼン)により測定したところ、310であった。
次に、内容積100mlの四つ口フラスコにガス導入管、温度計、コンデンサー及び滴下ロートを装着し、反応系内をアルゴンガスで置換した。該四つ口フラスコにテトラヒドロフラン12ml及び水酸化カリウム0.19g(4.7mol)を入れ、磁気撹拌を開始した。滴下ロートに上述のポリメチル(ヒドロ)シラザン5g及び乾燥テトラヒドロフラン50mlを入れ、これを水酸化カリウムに滴下した。室温で1時間反応させた後、滴下ロートにヨウ化メタン1.6g(11mmol)、及び乾燥テトラヒドロフラン1mlを入れ、これを反応溶液に滴下した。室温で3時間反応させた後、反応混合物の溶媒を減圧除去し、乾燥n−ヘキサン40mlを加えて遠心分離し、濾過した。濾液の溶媒を減圧除去すると、ポリメチル(ヒドロ)シラザンが白色粉末として4.8g得られた。生成したポリマーの数平均分子量は1060であった。IR(赤外吸収)スペクトルを測定すると、波数(cm-1)3380、及び1170のN−Hに基づく吸収:2140のSi−Hに基づく吸収:1250のSi−CH3に基づく吸収を示した。
実施例1(ガスバリア性フィルムの製造)
<蒸着法により形成された無機層の形成>
基材として、幅1.2m、長さ12000m、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム(株)製、「Q51C12」)を用い、そのコロナ処理面に、水酸基含有アクリル系樹脂(三菱レイヨン(株)製「ダイヤナールLR209」)に、イソシアネート基含有樹脂(住友バイエルウレタン(株)製「スミジュールN−3200」)を、前記水酸基に対する前記イソシアネート基の当量比が1:1になるように配合した混合物を塗布乾燥して、厚さ100nmのアンカーコート層を形成した。
次いで、真空蒸着装置を使用して2×10-3Paの真空下でSiOを加熱方式で蒸発させ、アンカーコート層上に厚さ40nmのSiOxの真空蒸着膜(PVD膜)を形成した。PVD無機層形成の際の基材の搬送速度は、250m/分であった。次いで、圧力を大気圧に戻すことなく、HMDSN(ヘキサメチルジシラザン)と窒素及びArガスをモル比1:7:7の比率で導入し、0.4Paの真空下でプラズマとし無機層面上にCVD無機層(SiOCN(酸化炭化窒化珪素)を形成した(炭素含有量2at.%、厚さ1nm)。CVD無機層形成の際の基材の搬送速度は、250m/分であった。
次いで、圧力を大気圧に戻すことなく、2×10-3Paの真空下でSiOを加熱方式で蒸発させ、CVD無機層上に厚さ40nmの無機層(SiOx)を形成した。
<塗膜層の形成>
製造例1のペルヒドロポリシラザンと製造例2のポリメチル(ヒドロ)シラザンとを、質量比が10/1となるように混合して乾燥ジブチルエーテルに溶解させ、2質量%のポリシラザン溶液を調製した。次いで、1,3−ジ−4−ピペリジルプロパン(DPP)を、ジブチルエーテルに対し3質量%になるように溶解させた。この液を前記ポリシラザン溶液に、DPPがポリシラザンの総質量に対して5質量%となるように添加し、塗布液を調製した。
前述のようにして形成された無機層上に、上記塗布液を、乾燥後の膜厚が100nmとなるように塗布乾燥して塗膜層を形成し、本発明のガスバリア性フィルムを得た。
得られたガスバリア性フィルムについて、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
実施例2(ガスバリア性フィルムの製造)
実施例1において、CVD無機層形成の際の基材の搬送速度を100m/分とし、かつ成膜時の投入電力を倍にしてCVD無機層の厚みを8nm(SiOCN(酸化炭化窒化珪素、炭素含有量:9at.%)とした以外は、実施例1と同様の方法でガスバリア性フィルムを作製し、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
実施例3(ガスバリア性フィルムの製造)
実施例1の塗膜層の形成において、乾燥後の膜厚を1000nmとした以外は、実施例1と同様の方法でガスバリア性フィルムを作製し、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
実施例4(ガスバリア性フィルムの製造)
実施例3の塗膜層の形成において、ペルヒドロポリシラザンとポリメチル(ヒドロ)シラザンとを質量比(有効分)が5/1となるように混合して調製した塗布液を用いたこと以外は、実施例3と同様の方法でガスバリア性フィルムを作製し、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
実施例5(ガスバリア性フィルムの製造)
実施例3の塗膜層の形成において、ペルヒドロポリシラザンとポリメチル(ヒドロ)シラザンとを質量比(有効分)が1/1となるように混合して調製した塗布液を用いたこと以外は、実施例3と同様の方法でガスバリア性フィルムを作製し、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
実施例6(ガスバリア性フィルムの製造)
実施例3の塗膜層の形成において、ペルヒドロポリシラザンとポリメチル(ヒドロ)シラザンとを質量比(有効分)が1/5となるように混合して調製した塗布液を用いたこと以外は、実施例3と同様の方法でガスバリア性フィルムを作製し、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
参考例1(ガスバリア性フィルムの製造)
<塗膜層の形成>
製造例1のペルヒドロポリシラザンと製造例2のポリメチル(ヒドロ)シラザンとを質量比が5/1となるように混合して乾燥ジブチルエーテルに溶解させ、2質量%のポリシラザン溶液を調製した。次いで、1,3−ジ−4−ピペリジルプロパン(DPP)を、ジブチルエーテルに対し3質量%になるように溶解させた。この液を前記ポリシラザン溶液に、DPPがポリシラザンの総質量に対して5質量%となるように添加し、塗布液を調製した。
次いで、基材として、幅1.2m、長さ12000m、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム(帝人デュポン製、「Q51C12」)を用い、そのコロナ処理面に、水酸基含有アクリル系樹脂(三菱レイヨン(株)製「ダイヤナールLR209」)に、イソシアネート基含有樹脂(住友バイエルウレタン(株)製「スミジュールN−3200」)を、水酸基に対するイソシアネート基の当量比が1:1になるように配合した混合物を塗布乾燥して厚さ100nmのアンカーコート層を形成した。
このアンカーコート層上に、前記塗布液を、乾燥後の膜厚が100nmとなるように塗布乾燥して塗膜層を形成した。
<蒸着法により形成された無機層の形成>
上記のようにして形成した塗膜層上に、実施例1と同様の方法で無機層を形成し、本発明のガスバリア性フィルムを得た。
得られたガスバリア性フィルムについて、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
比較例1
実施例2の塗膜層の形成において、ペルヒドロポリシラザンのみを含有する塗布液を用いたこと以外は、実施例2と同様の方法でガスバリア性フィルムを作製し、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
比較例2
実施例1において、塗膜層を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法でガスバリア性フィルムを作製し、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
表1に示されるように、本発明のガスバリア性フィルムは、所定の方法で求められる炭素と珪素の元素組成比(C/Si)が特定の範囲にある塗膜層を有することから、高いガスバリア性を有する。また、該塗膜層は、ペルヒドロポリシラザンのみを含有する塗布液を用いた比較例1と比較して、クラックが発生しにくく、基材や無機層との密着性にも優れる。さらに、該塗膜層を最表面としたガスバリア性フィルムは防汚性をも有するものとなる。
本発明のガスバリア性フィルムは、クラックが発生しにくく、高いガスバリア性を有し、基材あるいは該基材上に積層される他の層との密着性に優れるものであり、塗膜層を最表面とした場合には防汚性をも有する。このようなガスバリア性フィルムは、水蒸気や酸素等の各種ガスの遮断を必要とする物品の包装、例えば、食品や医薬品等の包装材料や、太陽電池や有機EL、電子ペーパー用の保護材等の部材、電子デバイス等のパッケージ材料として好適に使用できる。

Claims (18)

  1. 基材の少なくとも一方の面に、蒸着法により形成された無機層と、主として下記一般式(1)で表されるシラザン構造を分子鎖中に有する有機ポリシラザンを含む塗布液乾燥してなる塗膜層とをこの順で有するガスバリア性フィルムであって、
    前記塗膜層が、X線光電子分光法により結合エネルギーを測定し、Si2P、C1Sに対応するピークの面積から求めた炭素と珪素の元素組成比(C/Si)が0.05以上3.0未満である、ガスバリア性フィルム。

    (式(1)中、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、またはこれらの基以外で珪素に直結する基が炭素である基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基、アルコキシ基を表す。但し、RとRのいずれか一方は水素原子であり、もう一方は水素原子以外である。)
  2. 前記塗布液が前記有機ポリシラザン及びペルヒドロポリシラザンを含む、請求項1に記載のガスバリア性フィルム。
  3. 前記炭素と珪素の元素組成比(C/Si)が0.10以上2.0未満である、請求項1又は2に記載のガスバリア性フィルム。
  4. 前記塗膜層の厚さが1〜5000nmである、請求項1〜3のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
  5. 前記蒸着法により形成された無機層が、真空蒸着法により形成された無機層、化学蒸着法により形成された無機層及び真空蒸着法により形成された無機層をこの順で有する無機層である、請求項1〜4のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
  6. 前記化学蒸着法により形成された無機層の炭素含有量が20at.%未満であり、かつ該化学蒸着法により形成された無機層の膜厚が20nm未満である、請求項5に記載のガスバリア性フィルム。
  7. 前記化学蒸着法により形成された無機層の炭素含有量が10at.%未満であり、前記化学蒸着法により形成された無機層の膜厚が10nm未満である、請求項5に記載のガスバリア性フィルム。
  8. 前記化学蒸着法により形成された無機層の炭素含有量が5at.%未満であり、前記化学蒸着法により形成された無機層の膜厚が5nm未満である、請求項5に記載のガスバリア性フィルム。
  9. 前記真空蒸着法により形成された無機層の膜厚が0.5〜100nmであり、前記化学蒸着法により形成された無機層の炭素含有量が2at.%以上5at.%未満であり、かつ前記化学蒸着法により形成された無機層の膜厚が0.1nm以上5nm未満である、請求項5又は6に記載のガスバリア性フィルム。
  10. 前記真空蒸着法により形成された無機層が、酸化珪素、窒化珪素、酸化窒化珪素、酸化炭化珪素、酸化炭化窒化珪素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム及び酸化炭化アルミニウムから選ばれる少なくとも1種の無機化合物からなる、請求項5〜9のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
  11. 前記基材上に、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂及びアクリル系樹脂から選ばれる少なくとも1種を含むアンカーコート層が設けられている、請求項1〜10に記載のガスバリア性フィルム。
  12. 前記アンカーコート層が、イソシアネート系化合物を配合してなる、請求項11に記載のガスバリア性フィルム。
  13. 前記塗膜層を最表面に有する、請求項1〜12のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
  14. 前記真空蒸着法による無機層の形成を1×10−7〜1Paの減圧下で行い、前記化学蒸着法による無機層の形成を10Pa以下の減圧下で行い、かつ前記化学蒸着法による蒸着を、前記基材の搬送速度が100m/分以上の条件で行う、請求項5〜10のいずれかに記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
  15. 請求項1〜13のいずれかに記載のガスバリア性フィルムを有する太陽電池用保護材。
  16. 請求項15に記載の太陽電池用保護材を有する太陽電池モジュール。
  17. 請求項1〜13のいずれかに記載のガスバリア性フィルムを有する有機EL用部材。
  18. 請求項17に記載の有機EL用部材を有する有機EL。
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