JP5871085B2 - 冷間鍛造性および結晶粒粗大化抑制能に優れた肌焼鋼 - Google Patents

冷間鍛造性および結晶粒粗大化抑制能に優れた肌焼鋼 Download PDF

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Description

本発明は、建産機や自動車の分野で用いられる機械構造用材料に供する、冷間鍛造性に優れ、かつ浸炭処理を行った場合でも結晶粒の粗大化が抑制される、すなわち加工性に優れ、かつ高い結晶粒粗大化抑制能を有する肌焼鋼と、その製造方法に関するものである。
棒鋼を冷間成形して製造される、例えば自動車部品等の素材には、高い冷間鍛造性が要求される。そのため、軟化焼鈍を施して炭化物を球状化し、冷間鍛造性を高めることが行われている。また、鋼の成分組成の観点からは、変形抵抗に大きく影響するSiを低減するなどの提案もなされている。更に、Bの焼入れ性を有効利用した鋼の提案もある。
例えば、特許文献1には、Bの焼入れ性向上の効果分だけ他の合金元素を減量することによって、焼ならし工程から硬さを低くし、従来鋼に対して歯切り性を飛躍的に向上させた、浸炭歯車用鋼が提案されている。
また、特許文献2では、固溶強化元素であるSiおよびMnを低減して焼入れ性をBで確保する成分系と、製造条件との組み合わせにより、冷間加工性を確保する肌焼鋼が提案されている。
一方で、近年になって、建産機や自動車分野で用いられる部品の製造コストの低減が強く望まれており、鍛造・切削等の機械加工にかかるコストを低減する取り組みがなされている。例えば、切削加工から鍛造加工への変更や、鍛造でも熱間鍛造に代えて、寸法精度が高く、鍛造後の切削コストを低減できる冷間鍛造が指向されている。
しかしながら、冷間鍛造後の部品は浸炭処理工程において高温で処理されるため、オーステナイト粒(γ粒)の粗大化が起こりやすいという問題がある。その結果、焼入れ後に熱歪が生じ、部品寸法が変化するため、仕上げ加工や研磨等の余分な工程が必要となり、生産性が著しく阻害され、コスト上昇を招くことになる。
このような事情から、冷間鍛造に適し、しかも浸炭処理において結晶粒粗大化を防止可能な肌焼鋼の提供が強く求められている。このため、浸炭時における肌焼鋼の結晶粒粗大化防止の技術は様々提案されており、Al, Nb, Ti等の元素を添加することによって、AlN, NbC, TiC等の析出物を微細に分散させる技術が汎用されている。
例えば、特許文献3には、結晶粒の粗大化防止のためにN量を増加させて析出Al窒化物量を増加させることが提案されているが、Bを活用するにはNを低減する必要があり、B添加鋼では適用できない手法である。
また、特許文献4では、Al, Nb, Ti等の窒化物、炭化物、炭窒化物形成元素の含有量と、各析出物の大きさ、分布密度、ベイナイト組織分率、フェライトバンド評点および圧延条件とを制御することによって、上記した問題の解決を図ることが提案されているが、種々の寸法形状の鋼材を圧延により製造する実操業では、これら多数のパラメーターを制御することは事実上不可能であった。
特許第3551573号 特許第3764586号 特公平3−7744号 特許第3725666号
本発明は、上記の実情に鑑み開発されたものであり、冷間鍛造を行っても良好な鍛造性を示すと共に、浸炭処理のための加熱による結晶粒の粗大化を効果的に抑制することのできる肌焼鋼を、その有利な製造方法に併せて提案することを目的とする。
発明者らは、上記の目的を達成すべく、鋼組成や析出物の分布形態などについて鋭意研究を重ねた結果、鋼の成分組成を特定した上で、フェライトとパーライトの組織分率が80%以上の組織とし、さらにNbを含む直径50nm未満の析出物数とNbを含む直径50nm以上の析出物数とを所定の関係の下に規制することによって、優れた冷間鍛造性および結晶粒粗大化抑制能を兼ね備えた肌焼鋼が得られることを見出した。本発明は、上記の知見に立脚するものである。
すなわち、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
(1)C:0.10〜0.35質量%、
Si:0.01〜0.50質量%、
Mn:0.30〜1.50質量%、
P:0.02質量%以下、
S:0.03質量%以下、
Al:0.04〜0.10質量%、
Cr:0.5〜2.5質量%、
B:0.0005〜0.0050質量%、
Nb:0.015〜0.10質量%、
Ti:0.003質量%以下、
Mo:0.01質量%以下および
N:0.0080質量%未満
を含有し、残部はFe及び不可避不純物からなる成分組成を有し、フェライトおよびパーライトの分率が80%以上の組織を有し、Nbを含む直径50nm未満の析出物が30個/μm2以上および、Nbを含む直径50nm以上100nm以下の析出物が3個/μm2以下であり、かつNbを含む直径50nm未満の析出物数nAおよびNbを含む直径50nm以上100nm以下の析出物数nBが、
A−5nB>30
の関係を満たすことを特徴とする冷間鍛造性および結晶粒粗大化抑制能に優れた肌焼鋼。
(2)前記成分組成は、更に、
Cu:1.0質量%以下、
Ni:0.50質量%以下および
V:0.50質量%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する前記(1)に記載の冷間鍛造性および結晶粒粗大化抑制能に優れた肌焼鋼。
(3)前記組織はフェライトの分率が70%以上である前記(1)または(2)に記載の冷間鍛造性および結晶粒粗大化抑制能に優れた肌焼鋼。
本発明によれば、冷間鍛造性に優れる、しかも浸炭処理のための加熱による結晶粒の粗大化を効果的に抑制した肌焼鋼を提供することができるため、工業上非常に有用である。
粗粒化温度とフェライト+パーライトの組織分率、nAおよびnBとの関係を示すグラフである。
以下、本発明の肌焼鋼について具体的に説明する。
まず、本発明において、鋼の成分組成を上記の範囲に限定した理由について、成分毎に詳しく説明する。
C:0.10〜0.35質量%
浸炭熱処理後の焼入れにより中心部の硬度を高めるために、0.10質量%以上のCを必要とするが、含有量が0.35質量%を超えると、鋼素材芯部の靭性が低下するため、C量は0.10〜0.35質量%の範囲に限定した。好ましくは、0.3質量%以下の範囲である。
Si:0.01〜0.50質量%
Siは、脱酸剤として必要であり、少なくとも0.01質量%以上の添加が必要である。しかしながら、Siは浸炭表層で優先的に酸化し、粒界酸化を促進する元素である。また、フェライトを固溶強化するため、変形抵抗を高めて冷間鍛造性を劣化させることから、上限を0.50質量%とする。好ましくは0.03〜0.35質量%である。
Mn:0.30〜1.50質量%
Mnは、焼入性の向上に有効な元素であり、少なくとも0.30質量%の添加を必要とする。しかし、Mnは粒界酸化を引き起こしやすく、また過剰な添加は残留オーステナイトを増加させ、表面硬さの低下を招くことから、上限を1.50質量%とした。好ましくは0.60〜1.40質量%の範囲である。
P:0.02質量%以下
Pは、結晶粒界に偏析し、靭性を低下させるため、その混入は低いほど望ましいが、0.02質量%までは許容される。好ましくは、0.018質量%以下である。
S:0.03質量%以下
Sは、硫化物系介在物として存在し、被削性の向上に有効な元素であり、0.005質量%以上で添加することが好ましい。しかしながら、過剰な添加は疲労強度や靱性の低下を招くため、上限を0.03質量%とした。好ましくは、0.025質量%以下である。
Al:0.04〜0.10質量%
Alは、鋼中のNをAlNとして固定することによって、Bの焼入れ性効果を得るための重要な元素である。この効果を得るためには、少なくとも0.04質量%の添加が必要である。しかしながら、含有量が0.10質量%を超えると、疲労強度に対して有害なA1203介在物の生成を助長するため、Al量は0.04〜0.10質量%の範囲に限定した。好ましくは0.045〜0.09質量%である。
Cr:0.5〜2.5質量%
Crは、焼入性のみならず、焼戻し軟化抵抗の向上に寄与し、さらには炭化物の球状化促進にも有用な元素であるが、含有量が0.5質量%に満たないと、その添加効果に乏しく、一方、2.5質量%を超えると、浸炭部での残留オーステナイトの生成を促進し、疲労強度に悪影響を与える場合がある。よって、Cr量は0.5〜2.5質量%の範囲に限定した。好ましくは0.6〜2.0質量%の範囲である。
B:0.0005〜0.0050質量%
Bは、本発明において最も重要な元素である。Bは、焼入れ熱処理時にオーステナイト粒界に偏析することにより焼入れ性を高め、素材の硬度上昇に寄与する。この効果により、他の強化元素を削減でき、その結果、変形抵抗の低下による冷間鍛造性の向上が得られる。この効果を発揮するためには、少なくとも0.0005質量%以上の添加が必要である。一方、過剰な添加は、靭性や鍛造性などの低下を招くことから、上限を0.0050質量%とした。好ましいB含有量の上限は、0.0030質量%である。
Nb:0.015〜0.10質量%
Nbは、鋼中でNbCを形成し、浸炭熱処理時のオーステナイト粒径の粗粒化をピン止め効果により抑制する。この効果を十分に得るためには、少なくとも0.015質量%以上の添加が必要である。一方、0.10質量%を超えて添加すると、粗大なNbCの析出による粗粒化抑制能の低下や疲労強度の劣化を招く、おそれがあるため、0.10質量%以下とする。好ましくは、0.022〜0.060質量%である。
Ti:0.003質量%以下
Tiは、鋼中への混入を極力回避することが好ましい成分である。Tiは、Nと結合し、粗大なTiNを形成しやすく、かように形成されたTiNは(Nb,Ti)(C,N)として複合析出し、粗粒化抑制に有効な微細NbCを減少させるため、上限を0.003質量%とする。
Mo:0.01質量%以下
Moは、フェライトを固溶強化し冷間鍛造時の変形抵抗を高めてしまうため、混入を極力回避することが好ましい。そこで、上限を0.01質量%とする。
N:0.008質量%未満
Nは、鋼中への混入を極力回避することが好ましい成分である。従って、Nは、Bの焼入れ性を確保することと、TiNの形成を抑制するために、0.008質量%未満とした。好まし6質量%以下である。
また、本発明では、焼入性を高めるために上記成分に、更に、Cu:1.0質量%以下、Ni:0.50質量%以下およびV:0.50質量%以下のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することができる。
Cuは、焼き入れ性の向上に有効な元素であり、好ましくは0.1質量%以上で添加するが、多量の添加は鋼材の表面性状の劣化や合金コストの増加を招くため、上限を1.0質量%とした。好ましくは0.6質量%以下である。
NiおよびVは、焼入れ性や靭性の向上に有効な元素であり、好ましくはそれぞれ0.1質量%以上および0.02質量%以上であるが、高価であることから上限をそれぞれ0.50質量%とした。
以上、本発明の成分組成範囲について説明したが、本発明は、成分組成を上記の範囲に調整し、さらに鋼組織を制御するとともに、析出物の分布形態を規定することが重要である。具体的には、
(i)鋼組織の80%以上がフェライト+パーライトの組織であること、
(ii)Nbを含む直径50nm未満の析出物が30個/μm2以上、Nbを含む直径50nm以上100nm以下の析出物が3個/μm2以下であること、そして
(iii)Nbを含む直径50nm未満の析出物数nAおよびNbを含む直径50nm以上の析出物数nBがnA−5nB>30の関係を満たすこと、を同時に満足することが肝要である。
ここに、上記した肌焼鋼の組織並びに析出物の形態に関して、浸炭処理時に粗粒化が発生する温度を調査した結果について、図1に示す。すなわち、フェライトおよびパーライトの組織分率、nAおよびnBを種々に変化して肌焼鋼を作製し、後述する実施例における浸炭シュミレーションに従って加熱、冷却し、旧オーステナイト粒径を観察し、該粒径が粒度番号5以上となる加熱温度を粗粒化温度として求めた。得られた粗粒化温度と、フェライト+パーライトの組織分率、nAおよびnBとの関係に整理して図1に示す。
図1に示すように、上記した条件(i)、(ii)および(iii)を共に満足して初めて粗粒化温度960℃以上とすることができる。
なお、粗粒化温度の評価において960℃を境界としたのは、一般的な浸炭温度が930〜960℃程度であり、結晶粒粗大化抑制能を厳しく評価するためである。
以下に、上記した条件(i)、(ii)および(iii)につき、その限定理由を述べる。
(i)フェライトおよびパーライトの組織分率が80%以上
冷間鍛造に供する肌焼鋼の組織は、ベイナイトやマルテンサイトを多く含んでいる場合、冷間鍛造時の変形抵抗が増すことや、その後の浸炭時に結晶粒の粗粒化を生じやすくなることから、フェライトおよびパーライトからなる組織を主体とする必要がある。このため、フェライトおよびパーライトの組織分率を80%以上とする。フェライトおよびパーライトの組織分率が100%であってもよい。さらに好ましくは、冷間鍛造時の変形抵抗をより減少させるため、フェライトの組織分率を70%以上とする。
尚、ここでの組織分率は、面積分率である。
(ii)Nbを含む直径50nm未満の析出物が30個/μm2以上、Nbを含む直径50nm以上100nm以下の析出物が3個/μm2以下
Nbを含む析出物は、微細なものほど結晶粒の粗大化を抑制するピンニング効果が強い。しかしながら、NとAlが結合したAlNを核として析出するAlN・Nb(C,N)は粗大であり、結晶粒の成長を抑制する効果はない。このような析出物のうち、粗大な析出物は鋼材の加工性を低下させるため、できるだけ微細なNbCを生成させることが好ましい。そこで、
(iii)Nbを含む析出物で直径50nm未満のものの個数nAを、単位面積μm2当たり30個以上、Nbを含む析出物で直径50nm以上100nm以下のものの個数nBを、単位面積μm2当たり3個以下と規定し、さらにnA−5nB>30を満たすことが重要である。
なお、Nbを含み結晶粒の成長抑制に効果の高い析出物はNbCであり、NbCを上記したように微細に分散させるためには、製造工程中、第1段の熱間加工である鋼片圧延時の加熱、第2段の熱間加工である棒鋼圧延時の加熱、同棒鋼の加工完了温度が重要であり、これらの工程における処理条件を以下のとおりにすることが必要になる。
すなわち、以下に、本発明に従う肌焼鋼の具体的な製造方法について説明する。
本発明に係る肌焼鋼は、まず、1160℃以上の温度に加熱して第1段の熱間加工を施し、次いで1000℃以下に加熱して行う第2段の熱間加工を、900℃以下の温度にて終了し、その後0.1〜1.0℃/sの速度にて冷却する。
より好ましくは、上述した成分組成になる溶鋼から鋳片を作製し、該鋳片を、一旦、1160℃以上の温度に10分以上加熱して1160℃〜850℃の温度範囲にて減面率40%以上の圧延を行い、750℃以上の温度範囲にて圧延を終了(ここまでの圧延工程を鋼片圧延)し、次いで950℃〜800℃の温度範囲に加熱後、950℃〜800℃の温度範囲にて減面率40%以上の圧延を行い、820℃〜720℃の温度以上の温度範囲にて圧延を終了(ここまでの圧延工程を棒鋼圧延)し、その後0.1〜1.0℃/sの速度にて冷却する。
ここで、減面率とは、上記した指定の温度域において1パス以上の圧延を行った際の、累積減面率を意味する。
以下、各処理条件を上記のように限定した理由について説明する。
第1段の熱間加工(鋼片圧延)における加熱温度:1160℃以上
本発明では鋼片圧延に際し、析出物を十分に固溶させ、熱間加工時およびその後の冷却過程で微細に分散させる。その際、加熱温度が1160℃未満では、析出物を十分に固溶させることができない。すると、熱間加工後に粗大な析出物が残存または生成し、浸炭時にγ粒の粗大化を抑制することができなくなる。そのため、鋼片圧延加熱温度は1160℃以上に規定した。
より好ましくは、結晶粒を微細化し、後述の第2段の熱間加工(棒鋼圧延)後のフェライト分率を上げるため、1160℃以上にて10分以上加熱し、1160℃〜850℃の温度範囲にて減面率40%以上の圧延を行い、γ域にて加工することによってフェライトの核生成サイトを増加させた上で、加工組織が残らないように750℃以上の温度範囲にて圧延を終了することである。
第2段の熱間加工(棒鋼圧延)における加熱温度:1000℃以下
上記の加熱により固溶したNbCを微細に析出させ、浸炭時の粗粒化抑制効果を向上させるために、1000℃以下の温度範囲に加熱することが肝要である。なお、加熱温度は、後述する仕上げ温度を900℃以下にできる温度以上とすればよい。
また、本発明では、圧延後の組織とNbCの状態を制御するために、熱間加工の仕上げ温度を900℃以下とする。すなわち、仕上げ温度が900℃より高いと、冷間鍛造時の変形抵抗が増すことや、NbCの成長による結晶粒の粗大化等が生じてしまう。フェライトの分率を上げて冷間鍛造時の変形抵抗を減少させるために、第2段の熱間加工(棒鋼圧延)につき、950℃〜800℃の温度範囲に加熱後、950℃〜800℃の温度範囲にて減面率40%以上の圧延を行い、820℃〜720℃の温度範囲にて圧延を終了することが、より好ましい。このことにより、組織を微細化して圧延後のフェライト分率を増加させることができる。
冷却速度:0.1〜1.0℃/s
鋼組織は、熱間加工(圧延)終了後の冷却速度に依存して変化する。冷却速度が大き過ぎる場合に生成される、ベイナイトやマルテンサイトといった組織は、冷間加工(鍛造)時の変形抵抗を著しく増大させ、また、これらの組織が鋼中に多く存在すると浸炭時に結晶粒を粗大化させてしまう。このため、棒鋼圧延終了後の冷却速度は0.1〜1.0℃/sとする。
以下、実施例に従って、本発明の構成および作用効果をより具体的に説明する。しかし、本発明は下記の実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲内にて適宜変更することも可能であり、これらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
表1に示す成分組成の鋼を溶製し、これを加熱(鋼片加熱)して170mm角断面の中間素材へ熱間圧延して室温まで空冷し、さらに再加熱(棒鋼圧延時加熱)した後、熱間圧延後空冷して直径50mmの棒鋼とした。一部の鋼種には強制冷却を施した。表2には、鋼片圧延時加熱温度、同1160℃〜850℃における減面率、棒鋼圧延時加熱温度、同950℃〜800℃における減面率、同仕上げ温度、冷却速度、フェライトの組織分率、フェライトおよびパーライトの組織分率、Nbを含有する析出物の数密度および機械的特性を示す。得られた棒鋼について鋼組織を光学顕微鏡にて400倍の倍率で鋼毎に10視野観察しフェライトとパーライトが占める面積分率を組織分率として求めた。その後、冷間鍛造性試験片を作製した。
Figure 0005871085
Figure 0005871085
ここで、冷間鍛造性は、限界据え込み率および変形抵抗の2項目にて評価した。 すなわち、棒鋼の表面から直径の1/4の深さ位置(1/4D位置)から、直径:10mmおよび高さ:15mmの試験片を採取し、300tプレス機を用いて、60%据え込み時の圧縮荷重を測定し、日本塑性加工学会が提唱している端面拘束圧縮による変形抵抗測定方法を用いて変形抵抗を求めた。
限界据え込み率は、変形抵抗を測定した方法で圧縮加工を行い、端部に割れが入ったときの据え込み率を限界据え込み率とした。変形抵抗値が899MPa以下および限界据え込み率が74%以上であれば、冷間鍛造性は良好であるといえる。
次に、上記棒鋼から、8mmφ×12mmの据え込み試験片を作製し、圧下率70%の据え込み加工を行った後、浸炭シミュレーションを行った。浸炭シミュレーションの条件は、930〜980℃の種々の温度に3時間加熱後、水冷する条件である。その後、試験片を、軸を含む面で軸方向に切断後、切断面を研磨・エッチングし、旧オーステナイト粒径を観察して粗粒が発生する温度(粗粒化温度)を求めた。浸炭処理は通常、900〜970℃の温度域で行われるため、粗粒化温度が960℃未満のものは、結晶粒の粗大化抑止効果に劣ると判定した。なお、粒度番号5より大きい粗粒があった場合に、粗大化したと判定した。
さらに、上記棒鋼について、圧延方向と平行に、10mm角×55mm長さ、10R2mmUノッチ衝撃試験片を作製した。この試験片について930℃、7時間、カーボンポテンシャル1.1質量%の条件で浸炭を実施後、60℃で油冷し、170℃、2時間の焼戻し処理を施した後、JISZ 2242で規定されるシャルピー衝撃試験を試験回数6回にて行い、6回中における最小の吸収エネルギーを評価した。
また、回転曲げ疲労試験は、930℃、7時間、カーボンポテンシャル1.1質量%の条件で浸炭したサンプルを用い回転数3500rpmで実施し、107回の耐疲労強度にて評価した。
ここで、Nb析出物の観察は、圧延したままの棒鋼からサンプル採取し、透過型電子顕微鏡(TEM)およびエネルギー分散型X線分析(EDX)によって行った。直径:50nm未満のNb含有析出物の数密度は、抽出レプリカ法により試料を作製し、10万倍の倍率で、鋼毎に20視野観察し、EDXにてNb含有析出物と検出されたものについて画像処理により円相当径ならびにその密度を算出することで求めた。この際、直径が5nm未満の析出物は正確に計測するのが困難なため、直径5〜50nmの析出物を計測した。
また、直径:50〜100nmのNb析出物の数密度は抽出レプリカ法により試料を作製し、10万倍の倍率で、鋼毎に20視野観察し、EDXにてNb含有析出物と検出されたものについて画像処理により円相当径ならびにその密度を算出することで求めた。
表2に示したとおり、本発明に従う発明例はいずれも、結晶粒粗大化抑制能についてはいうまでもなく、冷間鍛造性並びにその他の機械的性質も良好であることが分かる。

Claims (3)

  1. C:0.10〜0.35質量%、
    Si:0.01〜0.50質量%、
    Mn:0.30〜1.50質量%、
    P:0.02質量%以下、
    S:0.03質量%以下、
    Al:0.04〜0.10質量%、
    Cr:0.5〜2.5質量%、
    B:0.0005〜0.0050質量%、
    Nb:0.015〜0.10質量%、
    Ti:0.003質量%以下、
    Mo:0.01質量%以下および
    N:0.0080質量%未満
    を含有し、残部はFe及び不可避不純物からなる成分組成を有し、フェライトおよびパーライトの分率が80%以上の組織を有し、Nbを含む直径50nm未満の析出物が30個/μm2以上および、Nbを含む直径50nm以上100nm以下の析出物が3個/μm2以下であり、かつNbを含む直径50nm未満の析出物数nAおよびNbを含む直径50nm以上100nm以下の析出物数nBが、
    A−5nB>30
    の関係を満たすことを特徴とする冷間鍛造性および結晶粒粗大化抑制能に優れた肌焼鋼。
  2. 前記成分組成は、更に、
    Cu:1.0質量%以下、
    Ni:0.50質量%以下および
    V:0.50質量%以下
    のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する請求項1に記載の冷間鍛造性および結晶粒粗大化抑制能に優れた肌焼鋼。
  3. 前記組織はフェライトの分率が70%以上である請求項1または2に記載の冷間鍛造性および結晶粒粗大化抑制能に優れた肌焼鋼。
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