JP5741966B2 - 交流電動機の制御装置 - Google Patents
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Description
相電流に高次成分が重畳すると、例えば電流フィードバック制御の結果による各相の指令デューティにも高次成分が重畳し、それに伴うインバータのスイッチングノイズ等の騒音成分にも高次成分が含まれるようになる。そのため、静粛性の面で好ましくない。特に過変調領域では、PWMパルスに高次成分が含まれるため、相電流に高次成分が重畳しやすく、騒音が大きくなるという課題がある。
なお、相電流オフセットとは、機器の立ち上げ時の相電流に基づいて学習した0[A]の基準に対し、電流振幅の中心値がオフセットすることをいう。この主要因は電流センサの出力信号を受信する回路の温度特性にあり、運転の継続に伴って徐々にオフセット量が大きくなる傾向にある。
また、制御手段は、相電流検出値を電気角の関数としてフーリエ級数展開した一次成分を抽出し、当該相の一次電流演算値を演算する一次電流演算部を有する。
この一次電流演算部は、電気角k周期(kは自然数)をN個(Nは自然数)に分割して設定した積算角において、当該積算角における相電流検出値に基づく算出値を当該電気角k周期にわたって積算することによりフーリエ係数を演算し、当該フーリエ係数を基に当該相の一次電流演算値を算出する。
制御手段は、算出された一次電流演算値をdq変換してdq軸電流算出値を算出して、dq軸電流指令値に対してフィードバックし、又は、当該dq軸電流算出値に基づいて推定したトルク推定値をトルク指令値に対してフィードバックすることを特徴とする。
1相のみに電流センサを備える構成では、制御手段の一次電流演算部は、1相の相電流検出値についてフーリエ級数展開した一次成分を抽出し、当該1相の一次電流演算値を演算する。また、制御手段は、当該1相の一次電流演算値に係るフーリエ係数を共通とし、当該1相の一次電流演算値に対し電気角を(1/3)周期ずらすことで、他相の一次電流推定値を推定する他相一次電流推定部をさらに有する。
一方、位相差φqが0の場合、又は電気角k周期に位相差φqが変化しない場合には、位相角(θ+φq)における位相差φqを0とみなし、電気角k周期にてN個に分割された電気角θを積算角としてもよい。
さらに、矩形波制御モードにおいて6次成分を除去するためにローパスフィルタを用いて電流ベクトルをスムージングしないので、ローゲイン化によるトルク応答性の低下の問題を回避することができる。
電流センサのサンプルタイミングが積算タイミングに同期している場合には、積算タイミング毎に相電流検出値を取得し、当該相電流検出値に基づく算出値を積算することができる。
最初に、複数の実施形態に共通の構成について、図1、図2を参照して説明する。この実施形態による「交流電動機の制御装置」としての電動機制御装置10は、ハイブリッド自動車を駆動する電動機駆動システムに適用される。
図1に示すように、電動機駆動システム1は、交流電動機2、直流電源8、及び電動機制御装置10等を備える。
交流電動機2は、例えば電動車両の駆動輪6を駆動するためのトルクを発生する電動機である。本実施形態の交流電動機2は、永久磁石式同期型の三相交流電動機である。
直流電源8は、例えばニッケル水素またはリチウムイオン等の二次電池や電気二重層キャパシタ等、充放電可能な蓄電装置である。直流電源8は、電動機制御装置10のインバータ12(図2参照)と接続され、インバータ12を介して交流電動機2と電力の授受可能に構成されている
インバータ12には、直流電源電圧若しくは図示しない昇圧コンバータによる直流電源の昇圧電圧がシステム電圧VHとして入力される。インバータ12は、ブリッジ接続される図示しない6つのスイッチング素子を有する。スイッチング素子には、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタ、バイポーラトランジスタ等を用いることができる。
ここで、キルヒホッフの法則により3相の電流の和は常にゼロであるから、3相のうち2相の電流値がわかれば、残り1相(この場合U相)の電流値は計算で求められる。したがって、電流フィードバック制御におけるdq変換等の演算は、少なくとも2相の相電流検出値に基づいて可能である。
本実施形態では、V相及びW相の2相に電流センサ17、18を設けているが、他の実施形態では、U相とV相、又はU相とW相の2相に電流センサを設けてもよい。或いは、キルヒホッフの法則を用いず、3相に電流センサを設けてもよい。
制御部15の詳細については、実施形態毎に後述する。
<1.正転力行> 回転数Nrが正でトルク指令値trq*が正のとき、電力消費。
<2.正転回生> 回転数Nrが正でトルク指令値trq*が負のとき、発電。
<3.逆転力行> 回転数Nrが負でトルク指令値trq*が負のとき、電力消費。
<4.逆転回生> 回転数Nrが負でトルク指令値trq*が正のとき、発電。
一方、回転数Nr>0(正転)で、トルク指令値trq*<0である場合、または、回転数Nr<0(逆転)でトルク指令値trq*>0である場合、インバータ12は、スイッチング素子のスイッチング動作により、交流電動機2が発電した交流電力を直流電力に変換し、直流電源8側へ供給することにより、回生動作する。
正弦波PWM制御モードは、各相の上下アームのスイッチング素子のオン/オフを、正弦波状の電圧指令と、三角波に代表される搬送波との電圧比較に従って制御する。この結果、上アームのスイッチング素子のオン期間に対応するハイレベル期間と、下アームのスイッチング素子のオン期間に対応するローレベル期間との集合について、一定期間内でその基本波成分が正弦波となるようにデューティが制御される。
正弦波PWM制御モードでは、正弦波状の電圧指令の振幅が搬送波振幅以下の範囲に制限される。そのため、正弦波PWM制御モードでは、交流電動機2に印加される線間電圧が正弦波となる。
正弦波PWM制御モード及び過変調PWM制御モードでは、出力電流のフィードバックによって交流電動機2に印加される交流電圧の振幅及び位相を制御する「電流フィードバック制御」が実行される。
矩形波制御モードでは、交流電動機2への印加電圧の振幅が固定されるため、トルク推定値とトルク指令値との偏差に基づく矩形波電圧パルスの位相制御によって「トルクフィードバック制御」が実行される。
交流電動機2では、回転数や出力トルクが増加すると誘起電圧が高くなるため、モータ駆動に必要なモータ必要電圧が高くなる。そこで、昇圧コンバータによって昇圧されインバータ12に入力されるシステム電圧VHをモータ必要電圧よりも高く設定する必要がある。そして、好ましくはシステム電圧VHの最大値において、制御モードを正弦波PWM制御モードから過変調PWM制御モードに、さらに過変調PWM制御モードから矩形波制御モードに切替えることで、変調度を向上させる。
本発明では過変調PWM制御モードに特有の特徴はないため、以下の説明では、過変調PWM制御モードについての言及を省略する。
以下、制御部15の構成及び作用効果を実施形態毎に説明する。第1〜第6実施形態は、「電流センサを2相に設ける構成」に該当し、第7、第8実施形態は、「電流センサを1相のみに設ける構成」に該当する。以下の実施形態の制御ブロック図等の説明では、第1実施形態と実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
まず、電流センサを2相に設ける第1〜第6実施形態において、第1〜第4実施形態の制御部151(図5)、及び第5実施形態の制御部152(図14)は、電流フィードバック制御方式に対応し、第6実施形態の制御部153(図17)は、トルクフィードバック制御方式の矩形波制御モードに対応する。
電流フィードバック制御方式に対応する制御部151の構成について、全体の制御ブロック図である図5、及び、rφ変換部27の詳細図である図6を参照して説明する。
電流指令演算部21は、車両制御回路9から取得したトルク指令値trq*に基づき、交流電動機2の回転座標系(dq座標系)におけるd軸電流指令Id*、及びq軸電流指令Iq*を演算する。以下、「d軸電流及びq軸電流」を「dq軸電流」のように表す。
本実施形態では、予め記憶されているマップを参照することでdq軸電流指令Id*、Iq*を演算するが、他の実施形態では、数式等から演算するように構成してもよい。
q軸電流減算器222は、3相2相変換部45からフィードバックされたq軸電流算出値Iqとq軸電流指令値Iq*との差であるq軸電流偏差ΔIqを算出する。
q軸PI演算部232は、q軸電流偏差ΔIqが0に収束するように、q軸電圧指令のフィードバック項Vq_fbをPI演算により算出する。
一方、フィードフォワード項演算部24で演算されたdq軸電圧指令のフィードフォワード項Vd_ff、Vq_ffがフィードバック項Vd_fb、Vq_fbに加算され、dq軸電圧指令Vd*、Vq*が算出される。
電圧デューティ変換部26は、電気角θ、rφ変換部27が算出した位相差φq、及び乗算器28から得られた変調度mに基づき、式(2.1)〜(2.3)により、各相の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*を指令デューティDu、Dv、Dwに変換する。
Du=0.5+0.5×m・cos(θ+φq+90°) ・・・(2.1)
Dv=0.5+0.5×m・cos(θ+φq−30°) ・・・(2.2)
Dw=0.5+0.5×m・cos(θ+φq+210°) ・・・(2.3)
乗算器28は、システム電圧VH、及び、rφ変換部27が算出した電圧ベクトルの大きさVrに基づき、上記式(1)によりインバータ12の変調度mを算出する。
3相2相変換部45は、回転角センサ14から取得される電気角θに基づき、入力された2相の「相電流を反映した電流値」をdq電流算出値Id、Iqにdq変換する。この「相電流を反映した電流値」とは、後述するように、一次電流値又は相電流検出値のいずれかである。ここでは2相の電流値に基づくdq変換について説明する。まず、dq変換の一般式を以下の式(3.1)に示す。
なお、相電流オフセットの主要因は電流センサ17、18の出力信号を受信する回路の温度特性にあり、運転の継続に伴って徐々にオフセット量が大きくなる傾向にある。
以下、一次電流演算部411、412によるV相一次電流演算値Iv1s及びW相一次電流演算値Iw1sの演算処理について説明する。V相とW相との演算処理は同様であるので、電流センサ17及び一次電流演算部411が関与するV相について説明し、電流センサ18及び一次電流演算部412が関与するW相についての説明を省略する。
まず、フーリエ級数展開の一般式を式(4.1)〜(4.3)に示す。なお、式(4.1)〜(4.3)中の文字「k」、「n」は、これらの式だけで独立して用いるものとし、他の箇所で用いる「k」、「n」とは異なるものとする。
以下、文字「n」は、電気角1周期にN個設定された積算角のn番目の意味で用いる。また、時間軸上で積算角θ[n]に対応する時点を「積算タイミングt[n]」という。
(A)分割された電気角θを積算角θ[n]とするか、分割された位相角(θ+φq)を積算角(θ+φq)[n]とするか
(B)連続する積算角の間隔は不定であるか、一定であるか、言い換えれば、電気角1周期の分割において不等分割の場合を含むか、等分割に限定するか
(C)電流センサ17のサンプルタイミングは、積算タイミングと同期するか、非同期であるか
ここで、積算角θ[n−1]と積算角θ[n]との角度差Δn、及び、積算角θ[n]と積算角θ[n+1]との角度差Δn+1は等しくない。これに対応して、積算タイミングt[n−1]、t[n]、t[n+1]の間隔も不等間隔となっている。
電流センサ17のサンプルタイミングは積算タイミングと同期するため、電流センサ17によりサンプルされたV相電流検出値Iv_snsが積算タイミング毎に一次電流演算部411に入力される。一次電流演算部411は、積算角θ[0]から積算角θ[N]までの電気角1周期にわたって、V相電流Iv(θ)及び電気角θに基づき、式(6.1)〜(6.3)を用いて、V相一次電流演算値Iv1sを演算する。
式(6.2)中の「Iv(θ[n])・cos(θ[n])・(θ[n]−θ[n−1])」、及び「Iv(θ[n])・sin(θ[n])・(θ[n]−θ[n−1])」は、特許請求の範囲に記載の「相電流検出値に基づく算出値」に相当する。
a1=Σ(A1)[N]/180° ・・・(6.2’)
b1=Σ(B1)[N]/180° ・・・(6.3’)
S14では、電気角θが「積算角θ[n]をまたいだ」か否か、言い換えれば、時間軸上で積算タイミングt[n]に達したか否か判断する。電気角θが積算角θ[n]をまたいだとき(S14:YES)、S15に移行する。
S15では、V相電流検出値Iv_snsをV相電流Iv(θ[n])とする。
S16では、k番目の積算角θ[k]における、V相電流Iv(θ[k])、cos成分cos(θ[k])」、積算角の差(θ[k]−θ[k−1])の3つの積を、k=1からNまでについて積算し、Σ(A1)[N]を算出する。同様に、k番目の積算角θ[k]における、V相電流Iv(θ[k])、sin成分sin(θ[k])、積算角の差(θ[k]−θ[k−1])の3つの積を、k=1からNまでについて積算し、Σ(B1)[N]を算出する。
ここで、交流電動機2の駆動中の電気角1周期は、その前の電気角1周期と連続しているため、積算角θ[n]での積算を実行する度に、前の周期の(n+1)番目から今の周期のn番目まで計N回の累積値Σ(A1)[N]、Σ(B1)[N]が得られることとなる。したがって、S14でYESと判断される度に、続けてS15〜S18が実行される。
以上で、一次電流演算部411によるV相一次電流演算処理のルーチンを終了する。
このように、一次電流演算部411、412が相電流検出値Iv_sns、Iw_snsをフーリエ級数展開し、一次成分である一次電流Iv1s、Iw1sを抽出するため、二次以上の高次成分、及び0次の直流成分はフィードバックされない。よって、これらの高次成分や0次成分に起因する不具合を防止することができる。
電流切替部421、422は、V相、W相の各相について、電流選択部44の指令に基づき、一次電流演算部411、412による一次電流演算値Iv1s、Iw1s、又は、一次電流演算部411、412を経由しない相電流検出値Iv_sns、Iw_snsを「3相2相変換部45へ出力する電流値」として切り替える。
電流切替部421、422が一次電流演算値Iv1s、Iw1s側に切り替わったときフーリエ級数展開モードとなり、電流切替部421、422が相電流検出値Iv_sns、Iw_sns側に切り替わったとき通常モードとなる。
図9の状態遷移図、及び、図10の回転数−トルク領域図に示すように、電流選択部44は、「回転数Nrが上側回転数閾値Nrth_hiを上回り、且つ、変調度mが上側変調度閾値mth_hiを上回ったとき」、通常モードからフーリエ級数展開モードへ切り替える。また、電流選択部44は、「回転数Nrが下側回転数閾値Nrth_loを下回り、又は、変調度mが下側変調度閾値mth_loを下回ったとき」、フーリエ級数展開モードから通常モードへ切り替える。
(1)一次電流演算部411、412は、電流センサ17、18が検出したV相及びW相の電流検出値Iv_sns、Iw_snsをフーリエ級数展開し、一次成分である一次電流Iv1s、Iw1sを抽出して3相2相変換部45に出力する。3相2相変換部45にて一次電流演算値Iv1s、Iw1sをdq変換して得られたdq軸電流算出値Id、Iqがフィードバックされるため、フィードバック制御の結果生成される各相の指令デューティDu、Dv、Dwに高次成分が重畳しない。よって、インバータ12のスイッチングノイズ等による騒音を低減することができる。特に過変調領域では、騒音低減の効果が顕著となる。また、0次成分である直流成分を除去することで、相電流のオフセットを補正し、交流電動機2のトルク変動やパワー変動を抑制することができる。
図11に示す第2実施形態は、第1実施形態に対し条件(B)が異なり、連続する積算角の間隔を一定としている。言い換えれば、積算角θ[n]は電気角1周期をN等分割して設定される。連続する積算角の間隔は、Δ=360[°]/Nで一定となる。
図11に示すように、積算角θ[n−1]と積算角θ[n]との角度差Δ、及び、積算角θ[n]と積算角θ[n+1]との角度差Δは等しい。これに対応して、積算タイミングt[n−1]、t[n]、t[n+1]の間隔も等間隔となっている。
図12に示す第3実施形態は、第1実施形態に対し条件(A)が異なり、分割された位相角(θ+φq)を積算角(θ+φq)[n]とする。指令電圧ベクトル(図6参照)にてd軸電圧Vd*が0でなく、積算を実行する電気角1周期に位相差φqが変化する場合には、分割された位相角(θ+φq)を積算角(θ+φq)[n]として設定する。
第3実施形態のうち、位相角(θ+φq)における位相差φqを0とみなす特別な形態が上記第1実施形態に相当する。
本実施形態では、第1実施形態の式(6.1)〜(6.3)に対し、電気角θを位相角(θ+φq)に置き換えた式(8.1)〜(8.3)を用いる。
第3実施形態では、分割された位相角(θ+φq)を積算角(θ+φq)[n]とし、電流センサ17、18のサンプルタイミングは、積算角(θ+φq)[n]に対応する積算タイミングと同期している。この場合も、一次電流演算部411、412による積算期間を電気角1周期に一致させることができるため、演算誤差を小さくすることができる。
図13に示す第4実施形態は、電流フィードバック制御方式のPWM制御モード等に適用され、分割された位相角(θ+φq)を積算角(θ+φq)[n]とする第3実施形態に対し、条件(C)が異なる。
一般にPWM制御モードでは、一定周期のPWM搬送波に同期したタイミングで電流をサンプルし、制御演算する。例えば図13に示すように、搬送波としての三角波の山、谷のタイミングをサンプルタイミングとした場合、サンプルタイミングはデューティ位相角(θ+φq)に同期しない。したがって、電流センサ17のサンプルタイミングは、デューティ位相角(θ+φq)を分割して設定した積算タイミングと非同期となる。
なお、PWM制御モードにおいても、デューティ位相角(θ+φq)に同期して電流をサンプルすることは可能である。
図13のV相電流補間値Iv((θ+φq)[n−1])は、式(9)で算出される。
次に、本発明の第5実施形態の電動機制御装置について図14〜図16を参照して説明する。図14に示すように、第5実施形態の制御部152は、第1実施形態に対し、変調度mに代えてトルク指令値trq*が電流選択部44に入力される点が異なる。これにより、電流選択部44は、回転数Nr及びトルク指令値trq*に応じて、フーリエ級数展開モードと通常モードとを切り替える。
本発明の第6実施形態の電動機制御装置について図17、図18を参照して説明する。
第1〜第5実施形態の制御部151、152が電流フィードバック制御方式によりインバータ12を駆動するのに対し、図17に示す第6実施形態の制御部153は、トルクフィードバック制御方式の矩形波制御モードでインバータ12を駆動する。
図3、図4を参照して上述したように、矩形波制御モードは、高回転、高トルクが要求される領域で有効に利用することができ、電流指令値Id*、Iq*を用いず、電圧位相指令φqに基づいて矩形波を生成するモードである。
PI演算部33は、トルク推定値trq_estをトルク指令値trq*に追従させるべく、トルク偏差Δtrqが0に収束するように、電圧位相指令φqをPI演算により算出する。
信号発生器36は、U相電圧指令Vu*、V相電圧指令Vv*、及びW相電圧指令Vw*に基づき、インバータ12のスイッチング素子のオン/オフの切替えに係る電圧指令信号UU、UL、VU、VL、WU、WLを生成し、インバータ12に出力する。
電圧信号UU、UL、VU、VL、WU、WLに基づいてインバータ12のスイッチング素子のオン/オフが制御されることより、3相交流電圧Vu、Vv、Vwが生成され、この3相交流電圧Vu、Vv、Vwが交流電動機2に印加されることにより、トルク指令値trq*に応じたトルクが出力されるように、交流電動機2の駆動が制御される。
トルク推定部46は、dq軸電流算出値Id、Iqに基づいて、トルク推定値trq_estをマップ又は数式等により推定し、トルク減算器32にフィードバックする。
ここで、電流選択部44は、上記第5実施形態に準じ、回転数Nr及びトルク指令値trq*に応じて、フーリエ級数展開モードと通常モードとを切り替えてもよい。
3相交流電動機の矩形波制御モードでは、電気角1周期で各相が1回ずつオンオフし、計6回スイッチングするため、スイッチングに同期した6次成分が重畳する。この6次成分をローパスフィルタで除去しようとすると、電流ベクトルが過度にスムージングされ、認識に支障が生じるおそれがある。そこで、トルクフィードバックをローゲイン化せざるを得ず、トルク応答性が低下することとなる。
その点、本実施形態では6次成分を除去するためにローパスフィルタを用いないため、ローゲイン化によるトルク応答性の低下の問題を回避することができる。
次に、電流センサを1相のみに設ける構成の第7、第8実施形態について、図19、図20を参照して説明する。第7実施形態の制御部154(図19)は、電流フィードバック制御方式に対応し、第8実施形態の制御部155(図20)は、トルクフィードバック制御方式の矩形波制御モードに対応する。
第7実施形態の制御部154及び第8実施形態の制御部155の構成について、それぞれ、第1実施形態の制御部151(図5)及び第6実施形態の制御部153(図17)の構成と異なる点を中心に説明する。
つまり本実施形態では、他相の電流推定方法として電流指令値を用いる演算や微分演算を行うことなく、1相の電流検出値から演算したフーリエ係数に基づいて推定する。
なお、フーリエ級数展開モードと通常モードとの切り替えは、上記第5実施形態のように、回転数Nr及びトルク指令値trq*に応じて切り替えるようにしてもよい。
なお、第8実施形態において、トルクフィードバック制御方式の矩形波制御モードでは一般に電流指令値を用いないが、電流推定のために電流指令値を生成してもかまわない。したがって、第8実施形態の他相電流推定部52が(i)〜(iii)の方法を採用することを妨げるものではない。
センサ相をU相とすると、U相電流センサ値(Iu)を「dq軸電流指令から得られる電流指令位相角と電気角から生成したU相電流基準角(θ’)」で除して電流振幅(Ia)を算出し、この電流振幅を、U相電流基準角から±120[°]ずらした電気角におけるsin値に乗じて他相の電流推定値Iv、Iwを算出する(式12.1〜12.3)。
Ia=Iu/[√(1/3)×({−sin(θ’)}] ・・・(12.1)
Iv=√(1/3)×Ia×{−sin(θ’+120[°])}・・・(12.2)
Iw=√(1/3)×Ia×{−sin(θ’+240[°])}・・・(12.3)
d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を逆dq変換して得られる3相電流指令値のうちセンサ相以外の2相の相電流指令値を電流推定値として扱う。
(i)又は(ii)の技術は、特にサンプリング間隔における電気角移動量及び電流変化量が減少する低回転領域において、電流検出値を反映した情報が乏しくなり、制御が不安定になるという問題がある。
センサ相をW相とすると、W相電流検出値iw_sns、U相電流指令値iu*及びV相電流指令値iv*の少なくとも一方、及び電気角θeを用い、センサ相に一致するα軸方向のα軸電流iα、及びセンサ相に直交するβ軸方向のβ軸電流iβを演算する。そして、式(13)によりセンサ相基準電流位相θxを算出する。
θx=tan-1(iβ/iα) ・・・(13)
(iii)に対し、電流指令値を用いずにβ軸電流iβを演算する点が異なる。
α軸電流iαとβ軸電流iβが「sin波とcos波」の関係にあり、α軸電流iαとβ軸電流iβとの位相差が90[°]であることに着目し、α軸電流微分値Δiαに基づいてβ軸電流推定値iβ_estを演算する。
ここで、制御部における演算が離散系である場合、α軸電流微分値Δiαは、実際のβ軸電流iβに対し、電気角移動量Δθeの半分だけ遅れる。この点を考慮し、α軸電流iαの前回値と今回値との平均値に電気角移動量Δθeの半分(Δθe/2)を乗じた補正量Hにて補正したβ軸電流推定値iβ_estとすることが好ましい。
そして、α軸電流iαおよびβ軸電流推定値iβ_estを用いてセンサ相基準電流位相θxを演算する。以降の演算は(iii)と同様である。
センサ相をW相とすると、dq座標上でW相軸が相対的に回転することを利用し、W相推定誤差Δiw_estを積算してdq軸電流推定値をdq軸実電流値に漸近させる。
前回のdq軸電流推定値id_est、iq_est、及び今回の電気角θeに基づき、センサ相成分であるW相電流基準値iw_bfを演算し、W相電流基準値iw_bfとW相電流検出値iw_snsとの差であるW相推定誤差Δiw_estを算出する。
dq軸電流指令Id*、Iq*、及び交流電動機2の機器定数に基づく電圧方程式(14.1)、(14.2)を用いて、dq軸電圧指令Vd*、Vq*を演算するものであり、電流指令値を用いる推定方法による制御が不安定となる低回転領域で有効である。
Vd*=Ra×Id*+Ld×(d/dt)Id*−ω×Lq×Iq*
・・・(14.1)
Vq*=Ra×Iq*+Lq×(d/dt)Iq*+ω×Ld×Id*+ω×ψ
・・・(14.2)
Ra:電機子抵抗
Ld、Lq:d軸自己インダクタンス、q軸自己インダクタンス
ω:電気角速度
ψ:永久磁石の電機子鎖交磁束
Vd*=Ra×Id*・・・(14.3)
Vq*=Ra×Iq*・・・(14.4)
以上で、通常モードにおいて他相電流推定部52が採用可能な電流推定方法についての説明を終わる。
そして、フーリエ級数展開モードにおいて他相一次電推定部51は、電流指令値を用いる演算や微分演算を行うことなく、1相の電流検出値から演算したフーリエ係数に基づいて他相の一次電流推定値を推定する。
よって、電流センサを1相のみに設ける構成の電動機制御装置10において、交流電動機2のトルク変動やパワー変動を抑制することができる。
(ア)上記第1〜第6実施形態ではV相及びW相の2相に電流センサ17、18を設けているが、U相及びV相、又は、U相及びW相の2相に電流センサを設けてもよい。或いは、3相に電流センサを設け、3相の電流検出値についてフーリエ級数展開により抽出した一次電流をdq変換することで、キルヒホッフの法則を使わずにdq軸電流算出値Id、Iqを算出してもよい。また、上記第7、第8実施形態ではV相に電流センサ17を設けているが、U相又はW相に電流センサを設けてもよい。
さらに、制御に用いる電流を検出する制御用電流センサの他に、制御用電流センサの異常を監視するための独立した監視用電流センサを、制御用電流センサと同じ相又は異なる相に設けてもよい。なお、監視用電流センサは、本発明の特許請求の範囲で定義する「電流センサ」からは除外される。
(エ)上記実施形態では、一次電流演算部411、412がフーリエ係数を演算するための積算期間を電気角1周期として説明した。しかし、電気角2周期以上の電気角k周期(kは自然数)にわたって積算を実行してもよい。
(カ)本発明による交流電動機の制御装置は、上記実施形態のようにインバータと交流電動機を一組のみ設けたシステムに限らず、インバータと交流電動機を二組以上設けたシステムに適用してもよい。また、1台のインバータに複数台の交流電動機を並列接続させた電車等のシステムに適用してもよい。
以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
10・・・電動機制御装置(交流電動機の制御装置)、
12・・・インバータ、
151、152、153、154、155・・・制御部(制御手段)、
17、18・・・電流センサ、
411、412・・・一次電流演算部、
44・・・電流選択部(電流選択手段)、
51・・・他相一次電推定部。
Claims (11)
- 3相の交流電動機(2)を駆動するインバータ(12)と、
前記交流電動機の3相うち1相以上に流れる電流を所定のサンプルタイミング毎に検出する電流センサ(17、18)と、
前記電流センサが検出した2相以上の相電流検出値に基づいて、若しくは、1相の相電流検出値及び当該1相の相電流検出値から推定した他相の電流推定値に基づいてdq変換されたdq軸電流算出値をdq軸電流指令値に対してフィードバックし、又は、当該dq軸電流算出値に基づいて推定したトルク推定値をトルク指令値に対してフィードバックすることで、前記インバータを構成する複数のスイッチング素子のオン/オフを切り替え、前記交流電動機の通電を制御する制御手段(151、152、153、154、155)と、
を備え、
前記制御手段は、相電流検出値を電気角の関数としてフーリエ級数展開した一次成分を抽出し、当該相の一次電流演算値を演算する一次電流演算部(411、412)を有し、
前記一次電流演算部は、電気角k周期(kは自然数)をN個(Nは自然数)に分割して設定した積算角において、当該積算角における相電流検出値に基づく算出値を当該電気角k周期にわたって積算することによりフーリエ係数を演算し、当該フーリエ係数を基に当該相の一次電流演算値を算出し、
前記制御手段は、算出された一次電流演算値をdq変換してdq軸電流算出値を算出して、dq軸電流指令値に対してフィードバックし、又は、当該dq軸電流算出値に基づいて推定したトルク推定値をトルク指令値に対してフィードバックすることを特徴とする交流電動機の制御装置(10)。 - 2相以上に前記電流センサ(17、18)を備え、
前記制御手段(151、152、153)の前記一次電流演算部(411、412)は、2相以上の相電流検出値についてフーリエ級数展開した一次成分を抽出し、当該相の一次電流演算値を演算することを特徴とする請求項1に記載の交流電動機の制御装置。 - 1相のみに前記電流センサ(17)を備え、
前記制御手段(154、155)の前記一次電流演算部(411)は、1相の相電流検出値についてフーリエ級数展開した一次成分を抽出し、当該1相の一次電流演算値を演算し、
前記制御手段は、当該1相の一次電流演算値に係るフーリエ係数を共通とし、当該1相の一次電流演算値に対し電気角を(1/3)周期ずらすことで、他相の一次電流推定値を推定する他相一次電流推定部(51)をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の交流電動機の制御装置。 - 前記一次電流演算部は、
電気角をθとし指令電圧ベクトルのq軸に対する位相差をφqとすると、(θ+φq)で表される位相角について、電気角k周期にてN個に分割された前記位相角(θ+φq)を前記積算角とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の交流電動機の制御装置。 - 前記一次電流演算部は、
前記位相角(θ+φq)における位相差φqを0とみなし、電気角k周期にてN個に分割された前記電気角θを前記積算角とすることを特徴とする請求項4に記載の交流電動機の制御装置。 - 連続する前記積算角の間隔は一定であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の交流電動機の制御装置。
- 前記電流センサの前記サンプルタイミングは、前記積算角に対応する積算タイミングに同期して設定されており、
前記一次電流演算部は、前記積算タイミング毎に相電流検出値に基づく算出値を積算することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の交流電動機の制御装置。 - 前記電流センサの前記サンプルタイミングは、前記積算角に対応する積算タイミングに非同期に設定されており、
前記一次電流演算部は、前記積算タイミング毎に当該積算タイミングの前後の前記サンプルタイミングの相電流検出値を線形補間して相電流補間値を算出し、当該相電流補間値に基づく算出値を積算することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の交流電動機の制御装置。 - 前記制御手段は、
前記一次電流演算部で相電流検出値のフーリエ級数展開の一次成分として抽出された前記一次電流演算値若しくは当該一次電流演算値に基づく一次電流推定値をdq変換してdq軸電流算出値を算出するフーリエ級数展開モード、又は、相電流検出値若しくは当該相電流検出値に基づく電流推定値を直接dq変換してdq軸電流算出値を算出する通常モードを切り替え可能な電流選択手段(44)を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の交流電動機の制御装置。 - 前記電流選択手段は、前記交流電動機の回転数が所定の回転数閾値を上回り、且つ、前記インバータの変調度が所定の変調度閾値を上回ったとき、前記フーリエ級数展開モードを選択することを特徴とする請求項9に記載の交流電動機の制御装置。
- 前記電流選択手段は、前記交流電動機の回転数が所定の回転数閾値を上回り、且つ、入力されたトルク指令値が所定のトルク閾値を上回ったとき、前記フーリエ級数展開モードを選択することを特徴とする請求項9に記載の交流電動機の制御装置。
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