JP5099693B2 - 非晶質炭素膜及びその成膜方法 - Google Patents

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Description

本発明は、非晶質炭素膜及びその成膜方法に係わり、特に、少なくとも潤滑油中で摩擦特性が優れること、または無潤滑および潤滑油中の両方の環境下で摩擦特性が優れた非晶質炭素膜およびその成膜方法に関する。
現在、地球環境の悪化が叫ばれる中で、大量の化石燃料を消費する自動車エンジンの高効率化は人類の緊急の課題である。その対策の一つとして化学蒸着法(CVD法)や物理蒸着法(PVD法)を用いて作製される非晶質炭素膜を自動車エンジン用部品に被覆することが実用化されつつある(例えば特許文献1〜3参照)。つまり、エンジン部品等に摩擦係数が小さく摩耗しにくい非晶質炭素膜を成膜すれば省エネルギー、省資源に有用である。エンジン、モーター等で使用される機械部品の摺動部は、摩耗や摩擦が小さいほど長寿命で省エネルギー、省資源が図れるので、摩擦係数が小さく耐摩耗性に優れる非晶質炭素膜をエンジン部品に被覆することは効果的な手段の一つである。自動車用エンジンの動作環境は、始動時には無潤滑、回転時には潤滑油中の繰り返しであるので、その両方の環境下で摩擦特性が良好であること、または少なくとも潤滑油中で摩擦特性が良好であることが被覆される皮膜に要求される。
特開2004−169788号公報 特開2006−125254号公報 特開2006−22666号公報
しかしながら、従来の非晶質炭素膜では、無潤滑および潤滑油中で使用される自動車用エンジン部品に被覆した場合、たとえ摩擦特性の優れた非晶質炭素膜であっても、その摩擦係数は省エネルギーの観点から充分に小さな値とは言えない。このため、さらに小さな摩擦係数を有する非晶質炭素膜及びその製造方法が必要となる。
また、従来の非晶質炭素膜の製造方法の一つであるPVD法では、製造装置や成膜コストが非常に高価になるため自動車産業界のコスト削減の要求に充分に対応できていないのが現状である。つまり、アークイオンプレーティング法やスパッタリング法で代表されるPVD法は、蒸発源としてターゲットが必要であり、成膜できる部分がターゲットに面している部分のみしか成膜できないので3次元の対象物であると回転治具等の工夫が必要となり装置が複雑で高価なものとなるのは避けられない。しかし、CVD法では成膜原料はガスで供給され製品全体に均一に成膜できるので、回転治具等も必要とせずにシンプルかつ安価なシステムで高機能な皮膜の成膜が可能となる。
一般に、潤滑油中での摩擦係数は、PVD法で作製される水素フリーの非晶質炭素膜のほうがCVD法で作製される水素を含む非晶質炭素膜よりも小さいと言われている。水素フリー非晶質炭素膜を作製するには、スパッタリング法、アークイオンプレーティング法などのPVD法を用いる必要があるが、CVD法と比較するとコスト面や付き回り性などの理由で応用の範囲は限られているのが現状である。しかし、従来のCVD法で成膜した非晶質炭素膜よりも水素含有量の少ない非晶質炭素膜をCVD法で製造出来れば、コスト面や付き回り性が良いことなどのためにさらに非晶質炭素膜の利用を促進させることが可能である。また、非晶質炭素膜の無潤滑での摩擦摩耗を改善するためには、珪素の添加が有効であるが、珪素添加された非晶質炭素膜では、潤滑油中では逆に摩擦係数が大きくなることが知られている。そこで、無潤滑と潤滑油中の両環境下でも共に摩擦係数が小さい皮膜が開発できれば、省エネルギーの観点から非常に効果的であると考えられる。
本発明は上記のような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、少なくとも潤滑油中で摩擦特性が優れること、または無潤滑および潤滑油中の両方の環境下で摩擦特性が優れた非晶質炭素膜およびその成膜方法を提供することにある。
本願発明は、周波数が50kHzから500kHzの高周波電源を用いたプラズマCVD法を利用して、無潤滑および潤滑油中で摩擦特性が良好な非晶質炭素膜を低コストで製造する方法に関するものであり、次の特徴を有する。
(1)直流電源と高周波電源の長所を兼ね備えた50kHzから500kHzの高周波電源を用いたプラズマCVD法を用いることにより、無潤滑と潤滑油中の両方で摩擦係数が非常に小さい皮膜を成膜することができる。
(2)装置の構造が簡単で維持管理も容易なので、装置および維持管理のコストが安くてすむ。
(3)炭素および珪素の含有量の多い原料ガスを用いたプラズマCVD法により、量産化および皮膜の厚膜化が容易となる。
従来の非晶質炭素膜の摩擦係数は、無潤滑で0.15〜0.20、潤滑油中であっても0.07〜0.1程度でしかないことが明らかとなっている。そこで本発明は、低周波電源を用いた新しいプラズマCVD法にて非晶質炭素膜を作製し、無潤滑と潤滑油中の両方の環境下で超低摩擦を示す皮膜を提供し、これらの問題を効果的に解決しょうとするものである。本発明を実施すれば、簡便な方法でエンジン部品等のような無潤滑と潤滑油中の両方の環境下で用いられる部品の摩擦・摩耗を小さくすることが可能となり、飛躍的に省エネルギー化、省資源化を図ることができる。
通常のエンジン部品等では、始動時には無潤滑、回転時には潤滑油中の環境下で使用されるので、その両方で摩擦特性が良好であることが被覆される皮膜に要求される。そこで本発明では、周波数が50kHzから500kHzの高周波電源を用い、成膜の生産性と摩擦・摩耗特性を向上させるために分子中の炭素が6以上の炭化水素系ガスおよび珪素化合物中の珪素が2以上の珪素化合物を原料ガスとしてプラズマCVD法により非晶質炭素膜を製造する。これにより、無潤滑と潤滑油中の二つの異なる環境下で優れた摩擦特性を有する皮膜を提供することができ、地球環境問題を効果的に解決しょうとするものである。本方法を実施すれば、簡単で低コストな方法でエンジン部品等の摩擦・摩耗が非常に小さくなり、飛躍的に省エネルギー化、省資源化を図ることができる。
前述した課題を解決するため、本発明に係る非晶質炭素膜は、プラズマCVD法を用いて基材上に形成された炭素と水素または炭素と珪素と水素を含有する非晶質炭素膜であって、
組成がC1−a−bSiで、かつ、0≦a≦0.2、0.075≦b<0.25(好ましくは0.1≦b<0.20)であることを特徴とする。
尚、上記本発明に係る非晶質炭素膜は、不可避的不純物が含まれていてもよい。
上記非晶質炭素膜によれば、その組成をC1−a−bSiで、かつ、0≦a≦0.2、0.075≦b<0.25とすることにより、少なくとも潤滑油中で摩擦特性が優れること、または無潤滑および潤滑油中の両方の環境下で摩擦特性が優れることを実現できる。また、0.1≦b<0.20とすることにより、より高品質の非晶質炭素膜を得ることができる。
また、本発明に係る非晶質炭素膜において、前記プラズマCVD法で用いる高周波電源の周波数は50kHz以上500kHz以下であることが好ましい。
また、本発明に係る非晶質炭素膜において、前記プラズマCVD法で用いる圧力は0.5Pa以上20Pa以下であることが好ましい。
また、本発明に係る非晶質炭素膜において、前記プラズマCVD法で用いる成膜プロセス中の温度は150〜400℃であることが好ましい。
また、本発明に係る非晶質炭素膜において、前記プラズマCVD法で用いる原料ガスは、C原子を6個以上含む炭化水素系化合物を有することが好ましい。
また、本発明に係る非晶質炭素膜において、前記原料ガスは、Si原子を2個以上含む珪素化合物がさらに含有されていることが好ましい。
また、本発明に係る非晶質炭素膜において、前記原料ガスは、トルエンガスおよびHMDSガスを有することが好ましい。
本発明に係る非晶質炭素膜の成膜方法は、基材を真空槽内に配置し、
前記真空槽内に原料ガスを供給し、前記真空槽内を0.5Pa以上20Pa以下の圧力とし、
周波数が50kHz以上500kHz以下の高周波電源を用いてプラズマを発生させることにより、前記基材上に非晶質炭素膜を成膜することを特徴とする。
上記非晶質炭素膜の成膜方法によれば、真空槽内を0.5Pa以上20Pa以下の圧力とし、周波数が50kHz以上500kHz以下の高周波電源を用いることにより、少なくとも潤滑油中で摩擦特性が優れること、または無潤滑および潤滑油中の両方の環境下で摩擦特性が優れた非晶質炭素膜を成膜することができる。
また、本発明に係る非晶質炭素膜の成膜方法において、前記非晶質炭素膜を成膜するプロセス中の前記基材の温度は150〜400℃であることが好ましい。
また、本発明に係る非晶質炭素膜の成膜方法において、前記原料ガスは、C原子を6個以上含む炭化水素系化合物を有することが好ましい。
また、本発明に係る非晶質炭素膜の成膜方法において、前記原料ガスは、Si原子を2個以上含む珪素化合物がさらに含有されていることも可能である。
また、本発明に係る非晶質炭素膜の成膜方法において、前記原料ガスは、トルエンガスおよびHMDSガスを有することが好ましい。
また、本発明に係る非晶質炭素膜の成膜方法において、前記非晶質炭素膜の組成がC1−a−bSiで、かつ、0≦a≦0.2、0.075≦b<0.25(より好ましくは0.1≦b<0.20)であることが好ましい。
また、本発明に係る非晶質炭素膜の成膜方法において、前記真空槽内を0.5Pa以上20Pa以下の圧力とする際に用いられる真空排気手段は、ロータリーポンプ、ロータリーポンプとメカニカルブースターポンプの組、ドライポンプ、ドライポンプとメカニカルブースターポンプの組からなる群から選択された一又は一組のポンプであることも可能である。
以上説明したように本発明によれば、少なくとも潤滑油中で摩擦特性が優れること、または無潤滑および潤滑油中の両方の環境下で摩擦特性が優れた非晶質炭素膜およびその成膜方法を提供することができる。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施の形態によるプラズマCVD装置を概略的に示す構成図である。
このプラズマCVD装置は真空槽(チャンバー)1を有しており、この真空槽1内にはワーク(基板)2を保持するワークホルダー3が配置されている。このワークホルダー3には基板バイアス電源系4が電気的に接続されており、この基板バイアス電源系4は基板整合器および50〜500kHzの高周波電源(RF電源)を有している。ワークホルダー3はRF電極としても作用する。基板バイアス電源系4は、ワークホルダー3を介してワーク2に高周波電力を印加するものである。つまり、このプラズマCVD装置は、基板バイアス電源系4によって、50〜500kHzの高周波電流をワークホルダー3に供給して、ワーク2の近傍に原料ガスのプラズマを発生させるようになっている。
尚、本実施の形態では、周波数50〜500kHzの高周波電源を用いているが、周波数300kHz以下の高周波電源を用いることがより好ましく、周波数が250kHz以下の高周波電源を用いることがさらに好ましい。300kHz以下の高周波電源を用いた場合、マッチングトランスなどを用いた低価格な整合器でマッチングをとることができる利点がある。また、高周波電源の周波数が50kHzより低くなると、基材に誘導加熱が生じるという問題が発生する。また、高周波電源の周波数が500kHzを超えると、基材に加えられるバイアスが低下し、硬質膜が成膜されにくいといった問題が発生する。
また、ワークホルダー3の周囲にはヒーター(図示せず)が配置されており、このヒーターによって基材2が加熱されるようになっている。なお、基材2は、種々の材質及び種々の形状のものを用いることが可能である。
真空槽1には、ヘキサメチルジシラザン又はヘキサメチルジシロキサン(以下、これらを総称してHMDSともいう)、トルエンなどの原料ガスおよびアルゴンを導入するガス系5が接続されている。このガス系5は、真空槽1内に原料ガスを導入するガス導入経路を有しており、ガス導入経路はガス配管を有している。ガス配管には、ガス流量を計測する流量計及びガス流量を制御するガスフローコントローラーが設けられている。流量計により適量のアルゴンガス、HMDS、トルエンがガス導入口より真空槽1内に供給されるようになっている。また、真空槽1には、その内部を真空排気する排気系6が接続されている。排気系6は真空ポンプを有しており、この真空ポンプは、高価でメンテナンスの煩雑なターボ分子ポンプや拡散ポンプを用いず、安価でメンテナンスの簡単なメカニカルブースターポンプと油回転ポンプで構成されている。このような簡単な構成のポンプでは0.5〜1Pa程度の真空度しか得られないが、本発明による方法では、このような低真空でも高品質の皮膜を製造することが可能である。詳細には、本発明による方法では、20Pa以下の真空度であれば皮膜を成膜できる。20Pa以下とする理由は、真空度が20Paより高いと皮膜の硬度及び密度が低下してしまうからである。
上記プラズマCVD装置における50〜500kHzの高周波電源は、直流電源と高周波電源の長所を兼ね備えており、50〜500kHzという工業的にも取り扱いやすい周波数を用いているという利点があり、また低真空でも生産性に優れるという利点がある。また、50〜500kHzの高周波電源の場合、従来の13.56MHzの高周波電源に比べてワークへのバイアス効果を高めるという利点があり、それによってプロセスの低真空化及び高速化を実現できる利点がある。この利点は低コスト化につながるものである。
次に、図1のプラズマCVD装置を用いてワーク表面に非晶質炭素膜を成膜する方法について説明する。このプラズマCVD装置では、例えば周波数250kHzの高周波電源を用い、トルエンガスを原料ガスとして用いる。
まず、ワーク(被コーティング材)2としてオーステナイト系ステンレス鋼(例えばSUS304、サイズ;60mm×100mm×1.5mm)を用意し、このワーク2をアセトン中にて30分間の超音波洗浄を行った後、ワークホルダー3上に装着する。
次いで、ワーク2をヒーターによって150℃に加熱し、排気系6によって真空槽1内を0.6Pa以下まで排気し、その後、真空槽1内にアルゴンガスを導入する。次いで、300Wの出力で高周波電源を用いてワークホルダー3に250kHzの高周波電流を供給することにより、ワーク2の近傍にアルゴンプラズマを形成し、ワーク2の表面清浄化のため30分間イオンボンバードする。これにより、ワーク2の表面が強力なイオンの作用によりイオンエッチングされ、ワーク2の表面の酸化物層が除去される。
一般に、ステンレスの最表面はクロムの酸化物を主体とした酸化物層に覆われている。この酸化物層を除去するためには、活性水素ガスにより還元除去する方法や濃硝酸による酸洗いによる除去法が行われている。これらの除去法は取り扱いが危険であったり後処理が必要である。また、従来の周波数13.56MHzの高周波電源を用いたイオンボンバードでは、ステンレスの酸化物(酸化皮膜)を除去することができない。これに対し、本実施の形態では、50〜500kHzの高周波電源を用いた強力なイオンボンバードであるため、ステンレス基材表面の酸化皮膜を安全で後処理も不要な方法により除去することが可能となる。
この後、ヒーターによってワーク2の温度を150℃に維持し、排気系6によって真空槽1内の圧力を0.6Pa以下に維持し、炭化水素ガスからなる原料ガス、例えばトルエンを5cc/分の流量で真空槽1内に導入する。次いで、300Wの出力で高周波電源を用いてワークホルダー3に250kHzの高周波電流を供給することにより、ワーク2の表面上に非晶質炭素膜が形成される。なお、本実施の形態では、原料ガスとして炭化水素ガスを用いているが、原料ガスとして炭化水素ガスおよびSiを含有するガス、例えばHMDSガスを用いることも可能であり、この場合は珪素が含有された非晶質炭素膜を形成することができる。
上述したように50〜500kHzまたは250kHzの高周波電源を用いたプラズマCVD法により非晶質炭素膜を成膜すると、従来の周波数13.56MHzの高周波電源を用いたプラズマCVD法により成膜した非晶質炭素膜に比べて高硬度な非晶質炭素膜を得ることができる。詳細には、従来のプラズマCVD法により成膜した非晶質炭素膜の硬度がHK1500以下であるのに対し、本発明の50〜500kHzの高周波電源を用いたプラズマCVD法により成膜した非晶質炭素膜の硬度はHK2000以上である。
上記実施の形態によれば、50〜500kHzの高周波電源を用いたプラズマCVD法により非晶質炭素膜を成膜することにより、少なくとも潤滑油中で摩擦特性が優れた非晶質炭素膜、または無潤滑および潤滑油中の両方の環境下で摩擦特性が優れた非晶質炭素膜を得ることができる。
また、本発明の非晶質炭素膜を成膜している際には50〜500kHzの高周波電源によるプラズマによってワーク2が加熱されるため、成膜プロセス中のワーク2の温度は150〜400℃となっている。ここでいう成膜プロセスとは、アルゴンイオンボンバードから非晶質炭素膜の成膜までのプロセスをいう。ワーク2の温度を150〜400℃とすることも、潤滑油中または無潤滑および潤滑油中の両方の環境下で摩擦特性が優れた非晶質炭素膜が得られる原因の一つであると考えられる。ワーク2の温度を150〜400℃とする理由は、150℃以下であると非晶質炭素膜の密度が下がってしまい、400℃以上であると非晶質炭素膜の表面があれてしまうからである。
(実施例1)
図1に示すプラズマCVD装置において50kHzから500kHzの高周波電源(以下、低周波電源という)を用いて非晶質炭素膜を成膜した例について説明する。このプラズマCVD装置は、前述したように、真空槽1、排気系6、ガス系5および基板バイアス電源系4によって構成されている。
排気系6は高真空用のターボ分子ポンプや拡散ポンプを用いない油回転ポンプ(ロータリーポンプ)及びメカニカルブースターポンプのみで構成された低コストなシステムである。用いた低周波電源の周波数は250kHzおよび100kHzで、さらに比較のために従来のプラズマCVD法で用いられている13.56MHzの高周波電源についても実験した。被コーティング材(ワーク)2としてオーステナイト系ステンレス鋼SUS304(60mm×100mm×1.5mm)を30分間、アセトン中にて超音波洗浄後、電源基板(ワークホルダー)3上に装着する。ヒーターで基板(ワーク)2を150℃に加熱しチャンバー(真空槽)1内を排気系6にて0.6Pa以下まで排気した後、アルゴンガスを導入して低周波電源を用い出力300Wでアルゴンプラズマを形成し、被コーティング材2の表面清浄化のため30分間イオンボンバードする。
このように本発明の特徴は、ターボ分子ポンプ等のように高価で維持管理の難しい高真空域ポンプは使用せず、低真空域ですべての処理を行う点にある。尚、本発明で用いることができる排気系6としては、ロータリーポンプのみであっても良いし、ドライポンプのみであっても良いし、ドライポンプとメカニカルブースターポンプの組み合わせであっても良い。また、ヒーターによる加熱は、低周波電源でのイオンボンバードにより試料を加熱することができるので特に必要としないが、チャンバー内の脱水分のため150℃程度の加熱ヒーターがあった方がよい。
イオンボンバード処理の後、非晶質炭素膜の密着強度を向上させるために、ワークの表面上に中間層をヘキサメチルジシラザン(HMDS)ガスを用い出力200Wで形成させる。適切な膜厚の中間層を成膜した後、真空槽1内にトルエンガスを供給し、出力300Wにて中間層上に非晶質炭素膜を形成させる。なお、イオンボンバード処理中のワークの温度を測定したところ350℃程度であった。
このような条件で作製した非晶質炭素膜の無潤滑および潤滑油中(SM 5W-30)での摩擦係数をボールオンディスク型摩擦・摩耗試験機にて測定した。主な条件は、測定荷重5N、ボールSUJ2直径6mm、回転速度100mm/秒にて測定した。この測定結果を図2(A)に示す。
図2(A)に示すように、無潤滑の場合はいずれの方法においても、摩擦係数は約0.17であった。図2(A)より潤滑油中で測定した非晶質炭素膜の摩擦係数は、13.56MHzでは0.064、250kHzでは約0.035、100kHzでは約0.032であった。このことから、潤滑油中では、本発明の低周波プラズマ中で作製した皮膜のほうが低摩擦係数を示すことが分かる。
摩擦・摩耗試験を行った膜中の水素濃度分布をグロー放電発光分析装置(GDS)を用いて測定し比較した結果を図2(B)に示す。
図2(B)に示すように、低周波プラズマで作製した非晶質炭素膜中の水素の発光スペクトル強度は従来法の13.56MHzで作製した値よりも約半分以下になっていることが分かる。一般に従来のCVD法で作製される非晶質炭素膜の水素濃度は15〜50at%と言われている。従って、GDSの結果より、本発明で作製した非晶質炭素膜中の水素濃度は7.5〜25at%であろうと考えられる。このように非晶質炭素膜中の水素濃度を低くしたことが、潤滑油中での摩擦係数を低くできた原因の一つであると考えられる。
上述した本発明の非晶質炭素膜の組成は、C1―bで、かつ、0.075≦b<0.25(好ましくは0.1≦b<0.20)である。
(実施例2)
実施例1とほぼ同条件で中間層までを作製した後、真空槽1内にトルエンガス5ccmおよびHMDSガス4ccmを供給し、出力300Wにて中間層上に珪素を含有した非晶質炭素膜を成膜した。そして、同様に摩擦・摩耗試験を行った。この試験結果を図3(A)に示す。
図3(A)に示すように、無潤滑ではいずれの方法でも摩擦係数は約0.045、潤滑油中で測定した摩擦係数は、13.56MHzでは0.083、250kHzでは0.058、100kHzでは0.032であった。このように無潤滑では、珪素を添加すると実施例1で示した添加しない膜の摩擦係数よりも小さくなる。潤滑油中では、実施例1と同じように低周波で成膜した膜が低い摩擦係数を示すことが分かる。
実施例1と同様のGDSを用いて非晶質炭素膜中の水素濃度を測定し比較した結果を図3(B)に示す。
図3(B)に示すように、低周波プラズマで作製した非晶質炭素膜中の水素の発光スペクトル強度は従来法で作製した値よりも約半分以下になっており、実施例1と同様の結果となった。一般に従来のCVD法で作製される非晶質炭素膜の水素濃度は15〜50at%と言われている。従って、GDSの結果より、本発明で作製した非晶質炭素膜中の水素濃度は7.5〜25at%であろうと考えられる。このように非晶質炭素膜中の水素濃度を低くしたことが、潤滑油中での摩擦係数を低くできた原因の一つであると考えられる。
上述した本発明の非晶質炭素膜の組成は、C1−a−bSiで、かつ、0≦a≦0.2、0.075≦b<0.25(好ましくは0.1≦b<0.20)である。
(実施例3)
非晶質炭素膜の珪素含有量と摩擦係数との関係を調べるために、実施例1と同条件で中間層までを作製した後、トルエンガスの流量4ccmに対しHMDSガスを0,1,3および5ccmとし、出力300Wにて中間層上に非晶質炭素膜を作製した。それらの非晶質炭素膜の無潤滑および潤滑油中での摩擦特性を図4に示す。
図4に示すように、無潤滑では珪素を含まない皮膜の摩擦係数が最も大きく、HMDS流量が1ccmでは摩擦係数は急激に小さくなり約0.04を示すが、HMDS流量が5ccmになると摩擦係数は0.06とやや増加する。これは無潤滑での摩擦係数低減のためには適切な珪素量があることを示している。これらのことから、無潤滑と潤滑油中の両方で摩擦係数が小さくなるのはHMDSガスが1ccmから3ccmの範囲であることが分かる。
(実施例4)
実施例1に示した条件とほぼ同条件で、100kHzの低周波電源を用い、原料ガスとしてアセチレンまたはトルエンを用いて非晶質炭素膜を成膜した場合の成膜速度を比較した実施例を図5に示す。なおガス流量はアセチレン25ccm、トルエン5ccmで成膜した。
図5に示すように、トルエンはガス流量がアセチレンの5分の1にもかかわらず、成膜速度は約3倍と非常に高速な成膜が可能であることが分かる。また、トルエンで作製した非晶質炭素膜の方が硬いのでトルエンのほうが有利である。潤滑油中での摩擦係数も、低周波電源で成膜した場合、アセチレンでは約0.05であるのに対して、トルエンの場合は約0.03と低い値を示す。従って、生産性および摩擦係数を考慮すると原料ガスはトルエンのような炭素量を多く含む炭化水素が有利であることが明らかとなった。
尚、本発明は上記実施の形態及び上記実施例に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能である。
本発明の実施の形態によるプラズマCVD装置を概略的に示す構成図である。 (A)は実施例1及び比較例(従来法)による非晶質炭素膜の無潤滑および潤滑油中での摩擦特性を示す図であり、(B)は実施例1及び比較例(従来法)による非晶質炭素膜中の水素と周波数との関係を示す図である。 (A)は実施例2及び比較例(従来法)による珪素含有非晶質炭素膜の無潤滑および潤滑油中での摩擦特性を示す図であり、(B)は実施例2及び比較例(従来法)による珪素含有非晶質炭素膜中の水素と周波数との関係を示す図である。 非晶質炭素膜中への珪素添加量と無潤滑および潤滑油中の摩擦特性を示す図である。 アセチレンとトルエンを原料ガスとした成膜速度を比較した図である。
符号の説明
1…真空槽
2…ワーク(基材)
3…ワークホルダー
4…基板バイアス電源系
5…ガス系
6…排気系

Claims (17)

  1. プラズマCVD法を用いて基材上に形成された炭素と水素または炭素と珪素と水素を含有する非晶質炭素膜であって、
    組成がC1−a−bSiで、かつ、0≦a≦0.2、0.075≦b<0.25であり、
    前記プラズマCVD法で用いる高周波電源の周波数は50kHz以上500kHz以下であり、
    前記プラズマCVD法で用いる圧力は0.5Pa以上20Pa以下であり、
    前記基材は機械部品の摺動部であることを特徴とする非晶質炭素膜。
  2. 請求項1において、前記プラズマCVD法で用いる原料ガスは、C原子を6個以上含む炭化水素系化合物を有することを特徴とする非晶質炭素膜。
  3. 請求項において、前記原料ガスは、Si原子を2個以上含む珪素化合物がさらに含有され、前記非晶質炭素膜は珪素を含有することを特徴とする非晶質炭素膜。
  4. 請求項1において、前記プラズマCVD法で用いる原料ガスは、Si原子を2個以上含む珪素化合物がさらに含有されていることを特徴とする非晶質炭素膜。
  5. 請求項1乃至のいずれか一項において、前記プラズマCVD法で用いる成膜プロセス中の温度は150〜400℃であることを特徴とする非晶質炭素膜。
  6. 請求項において、前記原料ガスは、トルエンガスおよびHMDSガスを有することを特徴とする非晶質炭素膜。
  7. 請求項1乃至6のいずれか一項において、
    前記基材はステンレス基材であり、
    前記ステンレス基材は、0.6Pa以下の圧力、アルゴンガス雰囲気、周波数が50kHz以上500kHz以下の高周波を用いてイオンボンバードされ、前記ステンレス基材の表面の酸化物層が除去されていることを特徴とする非晶質炭素膜。
  8. 請求項7において、
    前記ステンレス基材をイオンボンバードする際の温度は150〜400℃であることを特徴とする非晶質炭素膜
  9. 基材を真空槽内に配置し、
    前記真空槽内に原料ガスを供給し、前記真空槽内を0.5Pa以上20Pa以下の圧力とし、
    周波数が50kHz以上500kHz以下の高周波電源を用いてプラズマを発生させることにより、前記基材上に炭素と水素または炭素と珪素と水素を含有する非晶質炭素膜を成膜し、
    前記非晶質炭素膜の組成は、C 1−a−b Si で、かつ、0≦a≦0.2、0.075≦b<0.25であり、
    前記基材は機械部品の摺動部であることを特徴とする非晶質炭素膜の成膜方法。
  10. 請求項において、前記原料ガスは、C原子を6個以上含む炭化水素系化合物を有することを特徴とする非晶質炭素膜の成膜方法。
  11. 請求項10において、前記原料ガスは、Si原子を2個以上含む珪素化合物を有することにより、珪素を含有する非晶質炭素膜を成膜することを特徴とする非晶質炭素膜の成膜方法。
  12. 請求項において、前記原料ガスは、Si原子を2個以上含む珪素化合物がさらに含有されていることを特徴とする非晶質炭素膜の成膜方法。
  13. 請求項9乃至12のいずれか一項において、前記非晶質炭素膜を成膜するプロセス中の前記基材の温度は150〜400℃であることを特徴とする非晶質炭素膜の成膜方法。
  14. 請求項11において、前記原料ガスは、トルエンガスおよびHMDSガスを有することを特徴とする非晶質炭素膜の成膜方法。
  15. 請求項9乃至14のいずれか一項において、
    前記基材はステンレス基材であり、
    前記ステンレス基材を真空槽内に配置した後で、且つ前記ステンレス基材上に非晶質炭素膜を成膜する前に、前記真空槽内を0.6Pa以下の圧力とし、前記真空槽内にアルゴンガスを導入し、周波数が50kHz以上500kHz以下の高周波電源を用いて前記ステンレス基材をイオンボンバードすることにより、前記ステンレス基材の表面の酸化物層を除去することを特徴とする非晶質炭素膜の成膜方法。
  16. 請求項15において、
    前記ステンレス基材をイオンボンバードする際の温度は150〜400℃であることを特徴とする非晶質炭素膜の成膜方法
  17. 請求項乃至16のいずれか一項において、前記真空槽内を0.5Pa以上20Pa以下の圧力とする際に用いられる真空排気手段は、ロータリーポンプ、ロータリーポンプとメカニカルブースターポンプの組、ドライポンプ、ドライポンプとメカニカルブースターポンプの組からなる群から選択された一又は一組のポンプであることを特徴とする非晶質炭素膜の成膜方法。
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