JP5073470B2 - ポリウレタンエマルジョンとその硬化物 - Google Patents

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Description

本発明は、主として硬度、被膜強度、接着性に優るコーティング剤、接着剤、塗料用組成物などに有用なポリウレタンエマルジョン及び、該ポリウレタンエマルジョンを、たとえばコーティング剤や接着剤や塗料等に使用してこれを硬化してなる硬化物に関する。
ポリウレタンは、2液を混合して硬化させる2液性のものと、1液性のものがある。2液性のポリウレタンは、A液とB液を混合して一定の時間後に硬化するので、製造工程に時間の制約がある。1液性のポリウレタンはこのような弊害がなく、便利に使用できる。1液性のポリウレタンとして、湿気硬化タイプと溶媒タイプと水性タイプとがある。湿気硬化タイプと溶媒タイプの1液性ポリウレタンは、耐摩耗性、接着性、非粘着性、ゴム弾性を有する塗膜を与えることから、床用、壁用、自動車用等に用いられる塗料、あるいは塩化ビニル、ABS、プラスチック、金属、ガラス、木材等に用いる接着剤、さらには人工皮革、合成皮革等に用いるコーティング剤として多く用いられている。ただ、溶媒タイプのポリウレタンエマルジョンは、溶媒が気化して作業環境を悪くする欠点がある。
水性タイプの1液性ポリウレタン、すなわちポリウレタンエマルジョンは、溶媒を使用しないので作業環境にやさしい優れた特長がある。このポリウレタンエマルジョンは、下記のA化合物と、B1化合物及びB2化合物と延長剤から生成されてなる中間生成物を水中に自己乳化して得られる反応生成物を有する。
A化合物………有機ジイソシアネート(単位質量当たりの官能基数2.0)
B1化合物……単位質量当たりの官能基数2.0を有するポリオール混合物
B2化合物……1個の親水性中心と少なくとも2個の活性水素基とを有する化合物
このポリウレタンエマルジョンを塗布して硬化させた硬化物は、A液とB液を混合して硬化させる2液混合型ポリウレタンや、溶剤系のポリウレタン樹脂から得られる特性と比較すると、以下の(A)ないし(E)の点でかなり劣るものである。
(A) 被膜硬度
(B) 被膜強度
(C) 耐水性
(D) 耐温水性
(E) 耐アルコール性
以上の特性を改善するために開発されたポリウレタンエマルジョンが特許文献1の公報に記載される。このポリウレタンエマルジョンは、硬化状態における引張破断強度が170kg/cm2とされる。ただ、前述のB、C、D、Eの特性、すなわち耐水性、耐温性、耐アルコール性、硬度の特性に欠ける欠点がある。さらに、このポリウレタンエマルジョンは、フィルム状に硬化させてなる成膜フイルムにおいては耐加水分解性が不良であり、エマルジョンの貯蔵中の分子量低下といった問題もある。
特開平9−31413号公報
また、ポリエーテルポリオールを用いたポリウレタンエマルジョンも開発されているが、このポリウレタンエマルジョンは、一般に前述のA、B、C、D、Eの特性、すなわち被膜強度、耐水性、耐温性、耐アルコール性、硬度の特性に欠ける欠点がある。特に被膜強度と耐熱性が不足して満足する物性が得られないといった問題があり、これらの改良が長い間望まれていた。
さらに最近になって、ポリカーボネートジオールのポリウレタンエマルジョンが出現した。このポリウレタンエマルジョンの硬化物は、耐加水分解性、耐熱性、といった物性の向上が図られ、また、耐水性と耐温性も改善は認められるもののまだ不十分であり、さらなる改良が要求されている。また、このポリウレタンエマルジョンを使用しても、引張破断強度を300kg/cm2以上として、硬度を3H以上とする、2液混合型ポリウレタンに匹敵する特性は実現されない。
本発明は、従来のポリウレタンエマルジョンが有するこれ等の欠点を解決することを目的として開発されたもので、本発明の大切な目的は、硬化状態において被膜強度と、耐水性と、耐温水性と、耐アルコール性と、硬度に優れたポリウレタンエマルジョンと、このポリウレタンエマルジョンを硬化させてなる、たとえばコーティング剤、接着剤、塗料等の硬化物を提供することにある。
本発明者等は、上記の従来技術の問題点を克服し、たとえばコーティング剤、接着剤、塗料原料に使用されて、良好な被膜強度、耐水性、耐温水性、耐アルコール性、硬度に優るポリウレタンエマルジョンとその硬化物を提供することを目的として鋭意検討した結果、従来品を卓越するポリウレタンエマルジョンとその硬化物を開発することに成功した。
本発明のポリウレタンエマルジョンは、有機ジイソシアネートであるA化合物と、ポリオール混合物からなるB1化合物と、ジメチロールプロピオン酸とジメチロールブタン酸とジアミノカルボン酸類のいずれかからなる1個の親水性中心と少なくとも2個の活性水素基とを有する化合物であるB2化合物とから生成される。とくに、本発明のポリウレタンエマルジョンは、B1化合物として、少なくとも2.05より大きい単位質量当たりの官能基数を有するポリオール混合物を用いた架橋性ポリウレタンエマルジョンにより、極めて良好な物性を実現することに成功したものである。また該ポリウレタンエマルジョンを硬化させた硬化物である被膜は、上記物性に極めて優れたものとなる。
すなわち、本発明のポリウレタンエマルジョンは、有機ジイソシアネートからなるA化合物と、少なくとも2.05より大きい単位質量当たりの官能基数を有するポリオール混合物からなるB1化合物と、ジメチロールプロピオン酸とジメチロールブタン酸とジアミノカルボン酸類のいずれかであるB2化合物から生成される中間生成物を、水中に乳化して分散させて得られる反応生成物を含むものである。
単位質量当たりの官能基数を2.05以上とするポリオール混合物であるB1化合物は、2官能基ポリオールと3官能基以上のポリオールのポリオール混合物で生成される。このB1化合物は、好ましくは、2官能基ポリオールと3官能基ポリオールのポリオール混合物で、単位質量当たりの官能基数が2.05〜2.6である。単位質量当たりの官能基数が2.05よりも小さいと硬化物の物性が低下して優れた特性を実現できなくなり、反対に単位質量当たりの官能基数が2.6よりも大きくなると、好ましい状態で乳化分散できなくなる。さらに、2官能基ポリオールと3官能基ポリオールのポリオール混合物であるB1化合物は、好ましくは、3官能基ポリオールの分子量を、2官能基ポリオールの分子量よりも少ないものとし、2官能基ポリオールの分子量を700〜3000とする。3官能基ポリオールに分子量を小さいものを使用するのは、好ましい状態で水に分散して乳化させるためである。とくに、本発明のポリウレタンエマルジョンは、このポリオール混合物に、3官能基以上のポリオールとしてε−カプロラクトン系ポリオールを使用する。
さらに、本発明のポリウレタンエマルジョンは、顔料を添加することができる。顔料は、好ましくはB1化合物であるポリオール混合物に混合される。さらに、B1化合物であるポリオール混合物に混合される顔料は、好ましくは有機顔料を使用する。この顔料には、カーボンブラックを使用することができる。ただし、ポリウレタンエマルジョンには無機顔料を添加することもでき、またポリオール混合物ではなくて反応生成物を水に乳化させているポリウレタンエマルジョンに添加して混合することもできる。
さらに、本発明のポリウレタンエマルジョンは、A化合物1当量に対する、B1化合物及びB2化合物の添加量を、好ましくは0.45〜1.02当量、さらに好ましくは0.50〜0.95当量、最適には0.70〜0.93とする。A化合物1当量に対するB1化合物とB2化合物の添加量が少ないと、反応した状態での分子量が小さくて硬化物の物性が低下し、反対に多いと反応生成物を好ましい状態で乳化、分散できなくなる。
本発明のポリウレタンエマルジョンの硬化物は、以上のポリウレタンエマルジョンを硬化させたものである。この硬化物は、コーティング剤、塗料、接着剤等に使用される。この硬化物は、引張破断強度が800kg/cm2以上であって、鉛筆硬度2H以上の被膜にできる。硬化物の引張破断強度と硬度は、A化合物とB1化合物とB2化合物の原料組成を調整し、あるいはこれ等の混合量を調整して引張破断強度を800〜1500kg/cm2、鉛筆硬度を3H〜5Hとすることができる。
硬化物は、ポリウレタンエマルジョンにチキソ材を添加して塗布することができる。ポリウレタンエマルジョンはチキソ材との相性がよい。チキソ材を添加しているポリウレタンエマルジョンは、振動させる等の応力を加えると液状となる。応力を加えて塗布し、塗布された後は応力を加えない状態として被塗布物から垂れないようにできる特長がある。チキソ材には微粉合成シリカを使用する。ただし、ポリウレタンエマルジョンに添加するチキソ材には微粉合成シリカ以外のものも使用できるのは言うまでもない。ポリウレタンエマルジョンのチキソ材含有量は、好ましくはポリウレタンエマルジョンに含まれる水分を除く成分100重量部に対して、3〜20重量部とする。
さらに、ポリウレタンエマルジョンの硬化物は、カーボンブラック顔料を添加して塗布し、塗布された被膜にレーザー光を照射してカーボンブラックを昇華、変色して、文字、図形、記号などを表示することができる。
本発明のポリウレタンエマルジョンとその硬化物は、硬化状態における被膜強度、耐水性、耐温水性、耐アルコール性、硬度の全ての物性において極めて優れた特性を示し、コーティング剤、接着剤、塗料等の種々の用途において、1液性のポリウレタンエマルジョンとして正に理想的な物性を示す。
以下、本発明の実施例を説明する。ただし、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するための具体例を示するものであって、本発明はポリウレタンエマルジョンとその硬化物を以下に特定しない。
ポリウレタンエマルジョンは、以下の(1)〜(3)からなる中間生成物を水中に自己乳化して分散させて得られる反応生成物からなる。
(1) A化合物……有機ジイソシアネートからなるA化合物
(2) B1化合物……少なくとも2.05より大きい単位質量当たりの官能基数を有するポリオール混合物
(3) B2化合物……1個の親水性中心と少なくとも2個の活性水素基とを有する化合物
B1化合物のポリオール混合物は、2官能基ポリオールに、2〜4官能基ポリオールを混合する。好ましくは、2官能基ポリオールに3官能基ポリオールを混合する。単位質量当たりの官能基数を2.05以上とするポリオール混合物は、2官能基ポリオールに3以上の単位質量当たりの官能基数のポリオールを混合して得られる。ここでB1化合物のポリオール混合物の単位質量当たりの官能基数を2.05以上とするのは、単位質量当たりの官能基数がこれより小さいと、ポリウレタンエマルジョンの反応生成物を十分に高分子化できず、これを硬化された硬化物の被膜は未硬化となり、あるいは被膜が得られても被膜硬度、被膜強度、耐水性、耐温水性、耐アルコール性の特性が不十分で、耐熱性も悪く、被膜表面に粘性があったりして好ましくないからである。
2官能基ポリオールに3官能基ポリオールを混合するポリオール混合物の単位質量当たりの官能基数は、2官能基ポリオールの混合部数をx部、3官能基ポリオールの混合部数をy部とすると、
単位質量当たりの官能基数=(2x+3y)/(x+y)
となる。
2官能基ポリオールと3官能基ポリオールからなるB1化合物は、2官能基ポリオールの分子量を500〜4000、好ましくは700〜2000、より好ましくは800から1500とする。2官能基ポリオールの分子量が500以下であると、中間生成物の粘度が高くなり、エマルジョン化が困難となる。2官能基ポリオールの分子量が4000以上であると、他成分との相溶性、特にB2化合物との相溶性が悪くなり支障がある。また、被膜強度と被膜硬度が悪くなり、耐熱性も悪くなって支障がある。
本発明は、B1化合物に使用する2官能基ポリオールを限定するものではないが、2官能基ポリオールとして、例えば公知の以下のもの、及びこれら2種以上の混合物を使用できる。中でも、(イ)、(ハ)が、他成分との相溶性、合成系の粘度上昇の抑制、易エマルジョン化性、耐加水分解性等より好ましい。
(イ) ポリオキシポリアルキレンジオール
これは、短分子ジオールにアルキレンオキサイドの付加重合によって得ることができる。
(ロ) ポリエステル系ジオール
これは、ジカルボン酸とジオールの縮合重合によって得ることができる。
(ハ) ポリオキシテトラメチレンポリオール
これは、短分子ジオールとフランの開環重合よって得ることができる。
(ニ) カーボネート系ポリオール
これは、短分子ジオールとジアルキルカーボネートとの縮合重合によって得ることができる。
(ホ) ラクトン系ポリオール
これは、短分子ジオールにラクトンの開環重合によって得ることができる。
(ヘ) ひまし油系ポリオール
これは、ひまし油もしくはひまし油のエステル交換誘導物として得ることができる。
(ト) 液状ゴム系ポリオール
これは、ブタジエンゴムに過酸化水素の反応によって末端ヒドロキシル化によって得ることができる。
ここで、ポリオキシポリアルキレンジオールを得る短分子ジオールとしては、例えば、水、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール等を挙げることができる。
2官能基ポリオールに添加される官能基を3以上とするポリオールとしては、限定はしないが、例えば公知の以下のものが使用できる。
(チ) ラクトン系ポリオール
これは、短分子ポリオールにラクトンの開環付加重合によって得ることができる。
(リ) 及びラクトン系ポリオールとポリオキシポリアルキレンポリオールの混合物を挙げる。
中でも、(チ)が他成分との相溶性、易エマルジョン化性等より好ましい。
ポリオキシポリアルキレンポリオールは、短分子ポリオールにアルキレンオキサイドの付加重合によって得ることができる。
ここで、ポリオキシポリアルキレンポリオールを得るための短分子ポリオールとしては、例えばグリセリン、トリメタノールプロパン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジグリセリン等を挙げることができる。とくに、グリセリン、トリメタノールプロパンが好ましい。短分子ポリオールの分子量は、300〜1000、好ましくは500〜800のものである。300以下では、中間生成物の粘度が高くなり、エマルジョン化が困難となる。また、1000以上では架橋効果が小さくなり、被膜特性の被膜強度、耐温水性、耐アルコール性、硬度に支障がある。
さらに、本発明に用いるA化合物である有機ジイソシアネートは、例えば2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネートおよびその混合物(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート(NDI)、3,3−ジメチル−4,4−ビフェニレンジイソシアネート(TODI)、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、フェニレンジイソシアネート等の芳香脂環族ジイソシアネート、さらには、4,4’−メチレンビスシクロヘキシルジイソシアネート(水添MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソフォロンジイソシアネート(IPDI)、ジメチルシクロヘキサンジイソシアネート(水添XDI)等の脂肪族ジイソシアネートが挙げられる。
これらの2種以上の混合物も使用できる。
中でも、中間生成物を水と混合する時、エマルジョンが安定化するまで、急激な水との反応を避けるのが好ましいため、低活性ポリイソシアネートが好ましく、XDI、水添MDI、HDI、IPDI、水添XDIがよく、HDI、IPDIがより好ましい。また、常温蒸気密度が低くIPDIが非結晶性でさらに好ましい。
また、B2化合物としては、例えば2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸等が挙げられる。また、ジアミノカルボン酸類、例えばリシン、シスチンおよび3,5−ジアミノカルボン酸等が挙げられる。
とくに、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸が好ましく、他成分との相溶性から2,2−ジメチロールブタン酸がより好ましい。これらを実際に用いる場合には、中和剤で中和して用い、ポリウレタンポリマーに導入されたカルボン酸と塩を形成する。
中和剤としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−メチルモルホリン等の3級アミン類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等のアルカリ類が挙げられるが、乾燥後の耐候性や耐水性を向上させるためには、揮発性の高いものがよく、トリメチルアミン、トリエチルアミンが好ましい。また、これ等は単独で、あるいは2種以上を混合して用いられる。中和剤の使用量は、B2化合物1モルに対して、中和剤を1〜0.3モルとする。中和剤0.3モル以下のとき、エマルジョン化が困難となる。
B2化合物の添加量は、A化合物である有機ジイソシアネート1当量に対して、0.1〜0.4当量、好ましくは0.2〜0.3当量とする。有機ジイソシアネート1当量に対してB2化合物が0.1当量以下であると、エマルジョン化が困難となり、また0.4当量以上であると、硬化物の被膜特性、耐温水性、耐アルコール性が悪くなる。
ポリウレタンエマルジョンには、必ずしも鎖延長剤を添加する必要はないが、必要に応じて、物性を損なわない範囲において、中間生成物の合成工程での著しい粘度上昇等がない限り使用してもよい。
鎖延長剤は、中間生成物に添加してもよく、中でもジアミンは水中に入れてエマルジョン化を行ってもよい。鎖延長剤としては、前述した短分子ジオールの他に、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ジフェニルジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノシクロヘキシルメタン、ピペラジン、2−メチルピペラジン、イソフォロンジアミン等の各種ジアミン類、さらにモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン等のアルコールアミン類および水等が挙げられる。
B1化合物の添加量は、A化合物である有機ジイソシアネート1当量に対して、たとえば0.3〜0.7当量とする。ただし、A化合物である有機ジイソシアネートのイソシアネート基に対する、B1化合物及びB2化合物の活性水素基との比率、すなわちイソシアネート基に対する活性水素基の当量比は、1当量のイソシアネート基に対して、活性水素基が0.45〜1.02当量、好ましくは0.5〜0.95当量となるように、B1化合物とB2化合物のトータル量を調整する。1当量のイソシアネート基に対して、活性水素基の当量が0.45以下であると、ポリウレタンエマルジョンの分子量が小さくなって、被膜特性と被膜強度が悪くなり、1.02以上であると、過剰量の活性水素基で意味がなく、反応系内に添加速度が速いと、ポリウレタンエマルジョン分子量の低下を起こすのでよくない。
1当量のイソシアネート基に対する活性水素基の当量が0.95に近づくと、中間生成物の粘度は急上昇するが、ゲル化を抑えることができる。これは粘度の著しい増加に伴い、ポリマー末端の活性反応基の反応進行が抑制されるからである。この反応は、水と相溶する有機溶剤中で反応させた後、水を添加して、その後有機溶剤を取り除くこともできる。得られた反応生成物は、強制的に直接水に分散させてポリウレタンエマルジョンを得てもよい。
中間生成物を乳化させる水は、反応生成物100重量部に対して、100重量部以上、好ましくは130〜300重量部、さらに好ましくは150〜250重量部とする。100重量部以下では、ゲル化して好ましい乳化状態のポリウレタンエマルジョンが得られない。このようにして得たポリウレタンエマルジョンは、常温下で12時間以上に放置して安定化させる。この状態でポリウレタンエマルジョンが放置されると、残存イソシアネート基の反応が完了すると共に、副生成物の炭酸ガスが放散される。したがって、所定の時間放置されたポリウレタンエマルジョンは、硬化物に泡が混入せず、理想的な塗膜にできる。溶剤を使用したポリウレタンエマルジョンは、真空下で脱溶剤することができる。
以上のようにして得られるポリウレタンエマルジョンは、樹脂分濃度を40%以下とし、23℃における液粘度を800cps以下とするものである。より樹脂分高濃度のポリウレタンエマルジョンを必要とする場合は、さらに真空下で脱水して樹脂分濃度、液粘度を上げて使用しても支障はない。
ポリウレタンエマルジョンに使用される有機溶剤は、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンのケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルのエステル系溶剤、あるいはトルエン、キシレンの芳香族溶剤、あるいはまた、メチレンクロライドのクロル系溶剤、その他、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、テトラヒドロフラン等のイソシアネートに対して不活性な有機溶媒を用いることができる。ポリウレタンエマルジョンは、溶剤を使用しないに越したことはないが、使用する場合は、ケトン系溶剤が水溶性でかつ真空下での脱溶剤がしやすく好ましい。
さらに、本発明のポリウレタンエマルジョンは、ウレタン化触媒を使用することができる。このウレタン化触媒には、公知のもの、具体的には、ジブチルチンジラウレート、オクチル酸鉛等の有機金属化合物、あるいはトリエチレンジアミン、N,N’−テトラメチルブタンジアミン等の有機ジアミン類を使用する。ウレタン化の反応温度は、10〜120℃、好ましくは30〜80℃とする。
さらに、本発明のポリウレタンエマルジョンは、必要に応じて公知の添加剤及び助剤を添加することができる。例えば、顔料、可塑剤、難燃剤、有機及び無機充填剤、補強剤、ゲル化防止剤、増粘剤、粘度調整剤、帯電防止剤、界面活性剤(レベリング剤、消泡剤、分散安定剤、ブロッキング防止剤)、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤等を添加することができる。
また、本発明のポリウレタンエマルジョンは、他樹脂系のエマルジョンをブレンドして使用できる。例えば、ポリウレタンエマルジョンには、アクリルエマルジョン、ポリエステルエマルジョン、ポリオレフィンエマルジョン、ラテックス等をブレンドできる。
これら添加剤及び助剤は、原料成分のB1化合物であるポリオール混合物に混合して使用でき、染料、他樹脂系のエマルジョン等の水溶性のものはポリウレタンエマルジョンに混合してよい。これらの混合は、ボールミル、サンドグラインドミル等を用いて得られる。
かくして、得られたポリウレタンエマルジョンは、機械コーティング、ディッピング等で塗布され、また刷毛、ローラー、スプレー等でも塗布される。
以上のようにして得られるポリウレタンエマルジョン(樹脂分濃度40%)をPETフィルム上に150μm厚みでコーティングし、室温下で12時間乾燥後、さらに80℃で3時間乾燥して、約60μm厚みの淡黄色透明フィルム状の硬化物が得られる。このフィルム状の硬化物は、鉛筆硬度2H以上と硬く、しかも引張破断強度800kg/cm2以上と強靭であり、しかも耐水性、耐温水性、耐アルコール性に優れたものとなる。
次に、本発明の実施例及び比較例について詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。本明細書において、とくにことわりのない限り、実施例中の「部」及び「%」はそれぞれ「重量部」及び「重量%」を意味する。
以下の実施例は、表1に示す量のA化合物、B1化合物、B2化合物とその他のものを使用して、ポリウレタンエマルジョンを製作する。
ただし、表1において、A化合物の有機ジイソシアネートであるIPDIと、B1化合物のポリオール混合物であるポリオール(1)、(2)、(3)、(4)、(5)と、B2化合物であるDMPA、DMBAは以下のものである。
A化合物の有機ジイソシアネートであるIPDIは、イソホロンジイソシアネート、
ポリオール(1)は、分子量1000、官能基数2のポリオキシポリプロピレンポリオール、
ポリオール(2)は、分子量1000、官能基数2のポリオキシテトラメチレンポリオール、
ポリオール(3)は、トリメチロールプロパンのε−カプロラクトン開環重合から得られる分子量305、官能基数3のポリオール、
ポリオール(4)は、ブタンジオールとアジピン酸の縮合重合から得られる分子量1000、官能基数2のポリオール、
ポリオール(5)は、ヘキサンジオールとジエチルカーボネートから得られる、分子量1000、官能基数2のカーボネート系ポリオールである。
B2化合物であるDMPAは、ジメチロールプロピオン酸、
DMBAは、ジメチロールブタン酸である。
さらに、以下の実施例と比較例は、以下の触媒、中和剤、溶剤、鎖延長剤等を必要に応じて添加している。ただし、
触媒であるDBTLは、ジブチルチンジラウレート
中和剤であるTEAは、トリエチルアミン、
溶剤であるMEKは、メチルエチルケトン、
鎖延長剤であるIPDAは、イソホロンジアミンである。
[実施例1]
撹拌機、温度計、窒素シール管、冷却機のついた4口フラスコに、溶剤であるMEXを150部、B1化合物のポリオール混合物としてポリオール(1)を126部、ポリオール(3)を8.3部仕込み、その後、A化合物の有機ジイソシアネートであるIPDIを100部、触媒であるDBTLを0.1部仕込み、80℃で3時間反応させ、あらかじめ溶剤であるMEKが50部、B2化合物であるDMPAが18部、中和剤であるTEAが18部からなるカルボン酸塩溶液を仕込んで、さらに80℃で2時間反応させて、液状生成物溶液を得る。
この液状生成物溶液に、あらかじめ溶剤であるMEKが50部、鎖延長剤であるIPDAが15.3部からなるアミン液を滴下したのち、1時間鎖延長反応させる。反応終了後、水を496部仕込んで転相させ、その状態のまま室温で12時間放置して、残存イソシアネート基とセル内に浸透する過剰量の水との反応により反応を終了させる。
その後、ロータリーエバポレーターにて溶剤のMEKを除去して、中間生成物を水中に自己乳化して分散させてなるポリウレタンエマルジョンPE−1を得る。得られるPE−1の固形分は35.1%、25℃における粘度600cpsとなる。
実施例2、比較例1、2、3は、表1に示す配合で、実施例1と同様にしてPE−2、PE−6、7、8を合成する。その合成結果は表1に示している。
[実施例3]
撹拌機、温度計、窒素シール管、冷却機のついた4口フラスコに、B1化合物であるポリオール混合物としてポリオール(2)を113部、ポリオール(3)を16.5部仕込み、その後、A化合物の有機ジイソシアネートであるIPDIを100部、触媒であるDBTLを0.1部仕込み、80℃で3時間反応させ、あらかじめ溶剤であるMEKが36部、B2化合物であるDMPAが18部、中和剤であるTEAが13.5部からなるカルボン酸塩溶液を仕込んで、さらに80℃で2時間反応させて、液状生成物溶液を得る。
反応終了後、水を446部仕込んで転相させ、その状態のまま室温で12時間放置して、残存イソシアネート基とセル内に浸透する過剰量の水との反応により反応を終了させる。
その後、ロータリーエバポレーターにて溶剤であるMEKを除去して、ポリウレタンエマルジョンPE−3を得る。PE−3の固形分は35.6%、25℃における粘度300cpsとなる。
実施例4は、表1に示す配合で、実施例3と同様にしてPE−4を合成する。合成結果は表1に示している。
[実施例5]
撹拌機、温度計、窒素シール管、冷却機のついた4口フラスコに、B1化合物のポリオール混合物としてポリオール(2)を94部、ポリオール(3)を25部仕込み、その後、A化合物の有機ジイソシアネートであるIPDIを100部、触媒であるDBTLを0.1部、B2化合物であるDMBAを9部仕込み、80℃で3時間反応させ、その後中和剤であるTEAを9部を混合して、液状生成物溶液を得る。
反応終了後、水を356部仕込んで転相させ、その状態のまま室温で12時間放置して、残存イソシアネート基とセル内に浸透する過剰量の水との反応により反応を終了させ、ポリウレタンエマルジョンPE−5を得る。PE−5の固形分は39.0%、25℃における粘度650cpsとなる。
表1において、実施例1〜5及び比較例1〜3で得られるポリウレタンエマルジョンをPETフィルム上に150μm厚みでコーティングし、室温下で12時間乾燥後さらに80℃で8時間乾燥して、約60μm厚みの淡黄色透明の乾式フィルム状の硬化物を作成し、各種物性を試験すると、以下のようになる。
表1において、鉛筆硬度は(JIS K5400)で測定し、引張試験特性は(JIS K6301 3号ダンベル)で測定し、引張試験器には島津製作所オートグラフS−500を使用し、引張速度は100mm/minで測定する。
測定結果は表1に示すようになる。
Figure 0005073470
表1から明らかなように、本発明のポリウレタンエマルジョンの硬化物は、引張破断強度が816〜1465kg/cm2と極めて強く、しかも鉛筆硬度は3H〜5Hと極めて優れた物性を示す。さらに耐水性、耐温水性、耐アルコール性も優れた物性を示す。
以上のようにして得られたポリウレタンエマルジョンPT−2を、鉄板、アルミ板、ステンレス板、不飽和エステル系FRPの表面に塗布し、常温で48時間放置してポリウレタンエマルジョンを硬化させ、ポリウレタンエマルジョンの硬化物の表面に、エポキシ樹脂を介して同種の板を接着して、引張せん断試験を測定すると、破断強さと破断場所は、以下のようになる。
(1) 鉄板の破断強さは47.8kg/cm2となり、エポキシと鉄板との界面から剥離する。
(2) アルミ板の破断強さは42.7kg/cm2となり、これもエポキシとアルミ板との界面で剥離する。
(3) ステンレス板の破断強さは47.2kg/cm2となり、これもエポキシとステンレス板との界面から剥離する。
(4) FRPの破断強さは355kg/cm2と極めて強く、エポキシ材自体が破壊する。
以上のように、極めて優れた破断強さを有するので、構造用の接着剤としての用途も使用可能である。
表1、2に示されるように、本発明のポリウレタンエマルジョンは、樹脂成分中のポリオール成分に2.05以上の官能基を導入、即ち架橋性を導入した新規のエマルジョンとその製法で、従来のものでは達成できなかった、極めて硬度が高く、被膜強度が強いものが得られ、優れた接着性、耐水性、特に耐温水性、耐アルコール性に優れた被膜を与えることができる。
したがって、本発明のポリウレタンエマルジョンは、コーティング剤の他、塗料、接着剤、各用途のバインダー用材科としても適している。
さらに、ポリウレタンエマルジョンは、以下のようにして顔料やチキソ材を添加しても極めて優れた物性を示す。
実施例1〜5、および比較例1〜3の製作工程において、B1化合物であるポリオール混合物100重量部に対して、DOP(ジオクチルフタレート)で練った2重量部の顔料(カーボンブラック 御国色素製)を添加する以外、それぞれの実施例、比較例とまったく同じ方法でポリウレタンエマルジョンを合成する。
さらに、得られたポリウレタンエマルジョン100重量部に対して、チキソ材として超微粉合成シリカペースト(アエロジルA3)を16重量部を混合して、ポリウレタンエマルジョンのチキソ状液PT−1〜PT−8を得る。チキソ状液は、静止状態ではゲル状若しくは固体状の外観を示すが、振動等を与える応力下では液体状の外観を示すことが特徴である。
この実施例において、チキソ材として使用する超微粉合成シリカペーストは、超微粉合成シリカ粉(アエロジルA3)40重量部を水100重量部に添加してホモジナイザーで混練したものである。実施例1−T〜5−T、比較例1−T〜3−Tとして表2に示す。
かくして得られたポリウレタンエマルジョンに振動を与えて液状にしながら、プライマー処理を施したアルミ板の上に、70〜90μm厚みになるようにコーティングを行い、室温下で12時間乾燥後、さらに80℃で3時間乾燥して、コーティングサンプルを作成し、各種物性を試験すると以下の物性を示す。
この試験において、密着性試験は、「JIS K5400」に基づく碁盤目テープ剥離試験とする。測定結果は、例えば56/100と表示する。この表示は、試験前100枡中の試験後56枡が保存して44枡が剥離されたことを示す。したがって、全く剥離しないものは100/100となり、全て剥離されるものは0/100となる。
耐水性試験は、水中に4時間放置した後、取り出したサンプルの外観評価と上記密着性試験である。耐温水性試験は、60℃の温水中に4時間放した後、取り出したサンプルの外観評価と上記密着性試験である。耐アルコール性試験は、エタノールを塗布したガーゼを2つ折りにし、500gの加重にて100回擦ってその外観を評価する。測定結果は表2に示すようになる。
Figure 0005073470
表2は、チキソ材を添加しているポリウレタンエマルジョンの極めて優れた物性を示す。すなわち、密着性、耐水性、耐温水性、耐アルコール性の全ての物性において、比較例の硬化物を卓越する優れた物性を実現する。
さらに、カーボンブラックを顔料として添加しているポリウレタンエマルジョンの硬化物は、レーザー光を照射してカーボンブラックを昇華、変色することにより、文字、図形、記号等を表示できる。たとえば、本発明の硬化物を各種製品の外観部材に用いる場合は、製品の機種名や定格などの情報を表示させることができる。

Claims (13)

  1. 有機ジイソシアネートからなるA化合物と、少なくとも2.05より大きい単位質量当たりの官能基数を有するポリオール混合物からなるB1化合物と、ジメチロールプロピオン酸とジメチロールブタン酸とジアミノカルボン酸類のいずれかであるB2化合物から生成される中間生成物を水中に乳化して分散させて得られる反応生成物を含み、
    かつ、B1化合物が、2官能基ポリオールと3官能基以上のポリオールのポリオール混合物で、なおかつ、3官能基以上のポリオールがε−カプロラクトン系ポリオールであるポリウレタンエマルジョン。
  2. 顔料が混合されてなる請求項1に記載されるポリウレタンエマルジョン。
  3. 顔料がB1化合物であるポリオール混合物に添加されてなる請求項2に記載されるポリウレタンエマルジョン。
  4. 顔料が有機顔料である請求項3に記載されるポリウレタンエマルジョン。
  5. 顔料がカーボンブラックである請求項3に記載されるポリウレタンエマルジョン。
  6. A化合物1当量に対する、B1化合物及びB2化合物の添加量が0.45〜1.02当量である請求項1に記載されるポリウレタンエマルジョン。
  7. 有機ジイソシアネートからなるA化合物と、少なくとも2.05より大きい単位質量当たりの官能基数を有するポリオール混合物からなるB1化合物と、ジメチロールプロピオン酸とジメチロールブタン酸とジアミノカルボン酸類のいずれかであるB2化合物から生成される中間生成物を水中に乳化して分散させて得られる反応生成物を含み、
    かつ、B1化合物が、2官能基ポリオールと3官能基以上のポリオールのポリオール混合物で、なおかつ、3官能基以上のポリオールがε−カプロラクトン系ポリオールであるポリウレタンエマルジョンの乾燥によって硬化されてなるポリウレタンエマルジョンの硬化物。
  8. 硬化物がコーティング剤、塗料、接着剤のいずれかである請求項7に記載されるポリウレタンエマルジョンの硬化物。
  9. 硬化状態での引張破断強度が800kg/cm2以上であって、鉛筆硬度2H以上の被膜である請求項7に記載されるポリウレタンエマルジョンの硬化物。
  10. ポリウレタンエマルジョンがチキソ材を含有する請求項7に記載のポリウレタンエマルジョンの硬化物。
  11. チキソ材が超微粉合成シリカである請求項10に記載のポリウレタンエマルジョンの硬化物。
  12. ポリウレタンエマルジョンに含まれチキソ材の含有量が、ポリウレタンエマルジョンに含まれる水分を除く成分100重量部に対して、3〜20重量部である請求項10又は11に記載されるポリウレタンエマルジョンの硬化物。
  13. ポリウレタンエマルジョンがカーボンブラック顔料を含み、顔料を含むポリウレタンエマルジョンの塗布被膜にレーザー光が照射されてなる請求項7に記載されるポリウレタンエマルジョンの硬化物。
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