JP4963668B2 - 画像観察装置 - Google Patents

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Description

本発明は、回折光学素子を用いた、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)等の画像観察装置に関する。
光学系の色収差を補正する方法として、屈折面と逆の色収差特性を持つ回折光学素子を用いる方法が知られている(特許文献1参照)。さらに、回折光学素子は、その格子の周期を適切に設定することで非球面としての効果を持つため、色収差以外の収差の補正にも利用される。
このような回折光学素子を用いる場合、回折光学素子から特定の回折次数(以下、設計回折次数という)を有する回折光のみが回折し、他の回折次数については回折が生じないように設計することが望ましい。
ただし、実際には、例えば単層の回折光学素子でのスカラー近似における回折効率を求めると、特定の波長(以下、設計波長という)が特定の入射角で回折光学素子に入射する場合にのみ設計回折次数光の100%の回折効率を達成することができる。このため、入射光の波長又は入射角が設計波長及び特定入射角から外れると、設計回折次数光の回折効率は10%単位で低下する。そして、設計回折次数光の回折効率が低下すると、他の回折次数の回折光が増加し、光学系の性能を著しく低下させる(図1参照)。
これに対し、特許文献2,3には、広い波長範囲で高い回折効率を実現する回折光学素子が開示されている。これらの回折光学素子は、互いに分散が異なる材料により形成された回折格子部を近接設置し、それぞれの回折格子部において回折次数や格子高さを調整することで、可視光域で不要光を低減している。これらの回折格子部に分散の差が大きい材料を用いると、可視光全域にわたって100%に近いスカラー回折効率を実現することも可能である。
しかし、特許文献2,3に開示された回折光学素子であっても、十分に不要光を低減できない場合がある。
図2に示すように、回折格子部に形成された各格子が格子面1と格子側面2を有するいわゆるブレーズ構造である場合、格子側面2に対して角度を持って入射した光は、その格子側面2で反射又は屈折し、回折を生じずに回折格子部を通過する。このような非回折光は、本来の設計回折次数の回折光とは異なる方向に進行し、光学系における不要光となる。
このような現象に対し、格子側面で発生する不要光を低減する回折光学素子が特許文献4〜7に開示されている。
特許文献4にて開示された回折光学素子では、格子側面に入射光が入射し難いように、複数の格子溝の包絡面の曲率と格子側面の角度とを最適化している。また、特許文献5〜7にて開示された各回折光学素子では、入射光又は射出光の角度と格子側面の角度を同等にして、格子側面で発生する不要光を低減する。
米国特許5044706号明細書 特開平9−127322号公報 特開平10−133149号公報 米国特許5801889号明細書 特開平10−268115号公報 特開2003−294924号公報 特開2005−292571号公報
しかしながら、特許文献4〜7にて開示された回折光学素子であっても、格子ピッチが数十μmと非常に小さい場合には、十分に不要光を除去できない場合がある。特に、複数の回折格子部を組み合わせた回折光学素子では、それら各格子の高さが、単層回折光学素子に比べて数倍〜十倍と高くなる。このため、格子ピッチに対する格子高さの比率が大きくなる。このことは、正常に回折される光線に対して格子側面でけられる光線の比率が高くなることを示している。
図3Aに示す形状を有する回折光学素子に光線が入射する場合を考える。図3Aの左図は回折光学素子の中心付近(光軸付近)を、右図は該回折光学素子の周辺部分を示している。簡単のために、複数の格子の頂部(格子先端)を通る包絡面3を光軸に垂直な平面とし、格子側面2を光軸に平行な面としている。
この回折光学素子に光線が光軸に平行に入射すると、格子側面2でのけられはほとんどなく、設計回折次数において高い回折効率を得ることができる。
これに対し、光線が光軸に対して角度を持って入射するときには、その角度が大きくなるほど格子面1に入射せずに格子側面2に入射する光線の割合が大きくなる。このような場合は、図3Bに示すように、格子側面2を光線の入射角に等しい角度に傾けることで、格子側面2に入射する光線の比率を低減することが可能となる。
また、図4には、広い波長域で高い回折効率を得るために、異なる分散を有する2つの回折格子部を、空気を挟んで(間隔をあけて)対向設置した2層(積層)型回折光学素子を示す。図4の回折格子の設計回折次数をMとし、入射側の回折格子部を第1の回折格子部、回折側(射出側)の回折格子部を第2の回折格子部とする。第1の回折格子部は正のパワーを、第2の回折格子部は負のパワーを有する。第1の回折格子部の入射側媒質の屈折率をnとし、第2の回折格子部の回折側材質の屈折率をnとする。
また、図5Aに示すように、第1の回折格子部への入射角をθとし、第1の回折格子部による設計回折次数での回折角をθとする。θは第2の回折格子部への入射角でもある。また、第2の回折格子部による設計回折次数での回折角をθとする。これら2つの回折格子部を含む回折光学素子全体としての設計回折次数はM次であるため、θとθの関係は、
θ(k) =sin−1[{n・sinθ(k) −M・λ/P(k)}/n
である。kは最も内側の格子の番号を1としたときの各格子の番号である。Pはk番目の格子ピッチ(k番目及びk−1番目の格子間のピッチ)である。λは設計波長である。
広い波長域で高い回折効率を得るためには、第1及び第2の回折格子部での最適な回折次数を求める必要がある。これにより、各回折格子部での格子高さが決まり、θも決まる。このとき、第1及び第2の回折格子部での設計回折次数をそれぞれm,mとするとき、Mは固定値であるので、
M=m+m
を満たす必要がある。
θは各回折光学素子の設定回折次数に依存するが、その値によってθ〜θの関係が、図5A及び図6Aに示すように、
θ≧θ、θ≦θ…(11)又は、
θ≦θ、θ≧θ …(12)
となる場合がある。
式(11)の関係が生ずる場合、図5Bに示すように、入射角θで第1の回折格子部の格子面11,21に入射した光線101,201は、第1の回折格子部で回折され、θの方向に進行する。この際、第1の回折格子部の格子側面が入射角θに等しい角度で傾けられているとすると、格子面11のうち格子溝近傍に入射した光線101は、格子側面13から離れる方向に進行して格子側面13には入射しない。また、格子面21のうち格子溝近傍に入射した光線201は、格子側面13に平行に進み、格子側面13に入射することなく正しく回折される。この場合、第1の回折格子部の格子側面13で発生する不要光は低減されている。
一方、第2の回折格子部において格子側面14が入射角θに等しい角度で傾けられているとすると、格子面12における格子溝近傍に入射角θで入射した光線102は、回折角θで回折されて格子側面14に向い、格子側面14に入射する。一方、格子面22における格子溝近傍に入射した光202は、格子側面14に平行に進行し、格子側面14に入射することなく正しく回折される。
式(12)の関係が生ずる場合でも、図6Bに示すように、第2の回折格子部で格子側面14に入射する光線は低減される。ただし、第1の回折格子部では、格子面11のうち格子溝近傍に入射角θで入射した光線101が、回折角θで回折されて格子側面13に向い、格子側面13に入射する。
これらは、何れも回折角が入射角よりも大きくなったときに発生する問題である。上記のように回折光が格子側面に向かわないように、格子側面の傾き角を入射角ではなく回折角に等しくした場合、格子側面と回折光線とが平行になり、格子側面に入射する回折光を少なくすることはできる。ただし、この場合は、図7に示すように、回折前の光線が格子側面13に入射するので、不要光を十分に除去することができない。
格子ピッチPが格子高さdに比べて十分に大きいとき、例えば、P=200μm、d=10μmであれば、その比率d/Pが0.05と小さいので、格子面で正しく設計回折次数の方向に回折した光に対する不要光の割合(強度)が小さくなるため、許容できる。しかし、例えば、P=20μm、d=8μmになると、d/Pが0.4となり、不要光の割合が無視できないレベルとなる。
本発明は、格子ピッチが小さく、光線の入射角が大きい場合でも、格子側面への入射光線を減少させることができるようにした回折光学素子を用い、フレア等の不要光を低減できるようにした画像観察装置を提供する。
本発明の一側面としての画像観察装置は、原画を形成する画像形成素子と、画像形成素子からの光を射出瞳に導く光学系と、画像形成素子と光学系との間又は光学系と射出瞳との間に配置された回折光学素子とを有する。回折光学素子は、互いに異なる材料により形成され、互い間隔をあけて配置された複数の回折格子部を有する。各回折格子部には、それぞれ格子面と格子側面を有する複数の格子輪帯が形成されている。各格子輪帯において、格子側面は、複数の格子輪帯の頂部を通る包絡面の法線に対して格子面とは反対側に傾いている。回折光学素子は、複数の回折格子部のうちj番目の回折格子部における複数の格子輪帯のうちk番目の格子輪帯に関し、少なくともk=kにおいて、以下の条件を満足することを特徴とする。
θ(j,k)
=sin−1[{n・sinθ(j,k)−m(j,k)・λ/P(j,k)}/n
≦θ(j,k)

M(k)=Σ{m(j,k)}=const.
j=1
θ(j,k)≦θ≦θ(j,k)
ただし、λは、回折光学素子の設計波長、
θ(j,k)は、j番目の回折格子部においてk番目の格子と射出瞳を通る光線の包絡面の法線に対してなす角度であり、|θ(j,k)|は光学系の最大画角よりも小さい、
θ(j,k)は、j番目の回折格子部におけるk番目の格子輪帯での設計回折次光の回折角、
m(j,k)は、j番目の回折格子部におけるk番目の格子輪帯の設計回折次数、
P(j,k)は、k番目とk−1番目の格子輪帯間のピッチ、
は、格子輪帯のピッチが最小となる又はθ(j,k)が最大となる格子輪帯の番号、
M(k)は、回折光学素子の回折次数、
及びnはそれぞれ、j番目の回折格子部における入射側媒質と回折側媒質の屈折率、
sは、j番目の回折格子部における複数の格子の総数、
θは、格子側面が包絡面の法線に対してなす角度、
である。
また、本発明の他の一側面としての画像観察装置は、原画を形成する画像形成素子と、画像形成素子からの光を射出瞳に導く光学系と、画像形成素子と光学系との間又は接眼光学系と射出瞳との間に配置された回折光学素子とを有する。回折光学素子は、互いに異なる材料により形成され、互いに間隔をあけて配置された複数の回折格子部を有する。各回折格子部には、それぞれ格子面と格子側面を有する複数の格子輪帯が形成されている。各格子輪帯において、格子側面は、複数の格子輪帯の頂部を通る包絡面の法線に対して格子面と同じ側に傾いている。回折光学素子は、複数の回折格子部のうちj番目の回折格子部における複数の格子のうちk番目の格子輪帯に関し、少なくともk=kにおいて、以下の条件を満足することを特徴とする。
θ(j,k)
=sin−1[{n・sinθ(j,k)−m(j,k)・λ/P(j,k)}/n
≧θ(j,k)

M(k)=Σ{m(j,k)}=const.
j=1
θ (j,k)≦θ≦θ(j,k)
ただし、λは、回折光学素子の設計波長、
θ(j,k)は、j番目の回折格子部においてk番目の格子輪帯と射出瞳を通る光線の包絡面の法線に対してなす角度であり、|θ(j,k)|は光学系の最大画角よりも小さい、
θ(j,k)は、j番目の回折格子部におけるk番目の格子輪帯での設計回折次光の回折角、
m(j,k)は、j番目の回折格子部におけるk番目の格子輪帯の設計回折次数、
P(j,k)は、k番目とk−1番目の格子輪帯間のピッチ、
は、格子のピッチが最小となる又はθ(j,k)が最大となる格子輪帯の番号、
M(k)は、回折光学素子の回折次数、
及びnはそれぞれ、j番目の回折格子部における入射側媒質と回折側媒質の屈折率、
sは、j番目の回折格子部における複数の格子の総数、
θは、格子側面が包絡面の法線に対してなす角度、
である。
本発明によれば、格子輪帯のピッチが小さく、格子高さの格子ピッチに対する比が大きい回折光学素子を画角が大きい画像観察装置に採用する場合でも、不要光を抑えて、良好な画像観察を可能とすることができる。
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
まず、実施例の画像観察装置に用いられる回折光学素子について説明する。回折光学素子は、互いに異なる材料により形成され、間隔をあけて(近接して)配置された複数の回折格子部を有する。回折格子部は、回折格子面と言い換えることもできる。
各回折格子部には、それぞれ格子面と格子側面を有する複数の格子輪帯が形成されている。回折光学素子は、複数の回折格子部のうち光入射側からj番目の回折格子部における複数の格子輪帯のうち輪帯中心側からk番目の格子輪帯に関し、少なくともk=kにおいて、以下の条件を満足する。言い換えれば、j番目の回折格子部における複数の格子輪帯の頂部(以下、格子先端という)を通る包絡面(以下、先端包絡面という)の法線に対して、k番目の格子輪帯の格子側面がなす角度θが、以下の条件を満足する。
1.格子側面が、先端包絡面の法線(各格子先端位置における法線)に対して格子面とは反対側に傾いている場合。すなわち、格子側面が、該法線に平行なときよりも格子面となす角度(格子頂角)が大きくなる側に傾いている場合。
θ(j,k)
=sin−1[{n・sinθ(j,k)−m(j,k)・λ/P(j,k)}/n
≦θ(j,k) …(1)



M(k)=Σ{m(j,k)}=const. …(2)
j=1
θ(j,k)≦θ≦θ(j,k) …(3)。
ここで、λは、回折光学素子の設計波長であり、回折光学素子に入射する光の波長(使 用波長ともいう)である。
θ(j,k)は、j番目の回折格子部においてk番目の格子輪帯と後述する接眼光学系の射出瞳を通る光線の先端包絡面の法線に対してなす角度である。|θ(j,k)|は、接眼光学系の最大画角よりも小さい。
θ(j,k)は、j番目の回折格子部におけるk番目の格子輪帯での設計回折次光の回折角である。
m(j,k)は、j番目の回折格子部におけるk番目の格子輪帯の設計回折次数である。
P(j,k)は、k番目とk−1番目の格子輪帯間のピッチであり、以下、k番目の格子輪帯のピッチという。
は、格子輪帯のピッチが最小となる又はθ(j,k)が最大となる格子輪帯の番号である。
M(k)は、回折光学素子の回折次数であり、複数の回折格子部の回折次数の和である。
及びnはそれぞれ、j番目の回折格子部における入射側媒質と回折側媒質の屈折率である。
sはj番目の回折格子部における複数の格子輪帯の総数である。
互いに異なる材料により形成された複数の回折格子部(回折格子面)を近接して配置した回折光学素子(積層型回折光学素子)では、それぞれの回折格子部に対して適当な設計回折次数を設定することにより、広い波長域において高い回折効率が得られる。このような積層型回折光学素子は、特許文献2,3に開示されている。
図8には、従来の2層(積層)型回折光学素子の波長に対するスカラー回折効率の例を示している。この例では、第1(j=1)の回折格子部に、屈折率N=1.52415、分散ν=51.57の紫外線硬化樹脂材を使用している。また、第2(j=2)の回折格子部に、屈折率N=1.63554、分散ν=22.75の紫外線硬化樹脂材を使用している。第1の回折格子部と第2の回折格子部との間には、中間層としての空気層が設けられている。また、回折光学素子への光線の入射角は20°である。
このとき、波長430〜650nm域において回折効率は98%以上であり、良好な性能を示している。
ただし、スカラー回折効率は光路差のみを考慮した理想的な近似計算により得られる値であり、格子の微細な構造の影響までは考慮されていない。厳密な回折効率計算を行うには、光を電磁波として取り扱う解析計算を行う必要がある。
j番目の回折格子部におけるk番目の格子輪帯への入射角θ(j,k)と、設計回折次光の回折角θ(j,k)は、設計回折次数m(j,k)に対して、上記式(1)のように表される。
格子側面が、上記法線に対して格子面とは反対側に、例えば入射光の入射角と同じ角度だけ傾けたとしても、θ> θとなる条件では、格子側面に角度を持って入射して反射したり透過したりする成分が残る(図6B参照)。格子輪帯のピッチが大きい場合にはこの成分を無視することは可能である。
しかし、格子輪帯のピッチが小さくなり、(格子高さd)/(格子輪帯ピッチP)の値が大きくなると、実際の設計次数の回折効率は図8に示した値よりも低下して不要光が増加し、この回折光学素子を用いた光学系の性能に対する影響が無視できなくなる。
単層型回折光学素子の場合には、光学系全体の設計においては、単層型回折光学素子に持たせる光学的なパワーが決まれば、入射角と設計回折次数光の回折角との関係は一義的に決まる。このため、θ> θとなる光線が発生したとしても、これを変更することはできない。これを変更すれば、回折光学素子の光学パワーも変わってしまうためである。
ただし、複数(第1〜第s)の回折格子部を有する積層型回折光学素子では、最も入射側(第1)の回折格子部への入射角と最も射出側(第s)の回折格子部からの射出角(回折角)が決められた光学パワーに相当する関係を維持していればよい。このため、第1の回折格子部での回折角から第(s−1)の回折格子部における回折角を任意に決めることが可能である。したがって、j(=1〜s)番目の回折格子部について、θ(j,k) ≦ θ(j,k)を満足するように回折次数m(j,k)を設定すれば、格子側面に入射する光線の発生を抑えることができ、不要な回折光を低減することが可能になる。
このとき、m(j,k)は、式(2)の条件を満足することが求められる。例えば、回折光学素子全体での設計回折次数M(k)が−1である場合、設計波長λにおいて、

M(k)=Σ{m(j,k)}=−1
j=1
とする必要がある。したがって、式(1)及び(2)の条件を満足した上で、回折光学素子全体での設計回折次数Mに対する回折効率が広波長域にわたって確保できるように、それぞれの回折格子部のm(j,k)を設定する。
このとき、式(1)の条件を満足せずに高い回折効率が得られる波長域が最も広くなるように各回折格子部のm(j,k)を決めた場合に比べると、式(1)の条件を満足することで短波長側と長波長側とで設計回折次数のスカラー回折効率は低下する。しかし、式(1)の条件を満足しないと、d/Pが0.2を超える程度に大きい場合に上述したような格子構造の影響を大きく受けるため、実際の不要回折次光はスカラー近似計算で求まるよりも大きくなる。したがって、式(1)の条件を満足する方が良好な性能を得ることができる。
なお、式(1)の条件を全ての格子輪帯で満足することは実際には困難である。格子輪帯ピッチが大きい領域、一般にはkの小さい領域で式(1)の条件を満たそうとすると、特に短波長側の領域での回折効率が低下するためである。
格子輪帯ピッチが大きい場合には、d/Pが小さいために上述した影響は小さくなり、式(1)の条件を満足する必要はない。
本実施例では、格子輪帯ピッチが小さくてd/Pが大きい場合、又は入射角が大きい場合に対して有効であることを想定しているので、これに該当する領域、k番目の格子輪帯において式(1)の条件を満足していればよい。もちろん、k番目以外の格子輪帯において式(1)の条件を満足していることが好ましい。このことは、後述する式(2),(3)及び式(7),(8)についても同じである。
番目の格子輪帯とは、全格子輪帯の中で最も格子輪帯ピッチが小さいか、又はその格子輪帯に入射する光線の入射角が最も大きくなるような格子輪帯である。式(1)の条件を満足したときの光線の進み方を図9に示す。
図9では、θ=21.60[°]、θ=19.83[°]、θ=19.32[°]であり、θ≦θ、θ≦θ の関係を満足している。
また、式(1)及び(2)の条件を満足した上で、各回折格子部での格子側面の傾け方も併せて考慮する必要がある。本実施例では、図21に示すように、j番目の回折格子部のk番目の格子輪帯において、その格子先端位置における先端包絡面3の法線に対する格子側面2の傾き角度θは、式(3)を満たす。すなわち、格子側面2の傾き角度θが、その格子輪帯での光線の入射角θ(j,k)以下で、回折角θ(j,k)以上であれば、格子側面2に角度を持って入射する光線がほとんどなくなる。したがって、不要光の発生を低く抑えるができる。
さらに、格子輪帯の高さ(格子高さ)d(j,k)が、以下の条件を満足することがより好ましい。
d(j,k)
≦ m(j,k)・λ/{n・cosθ(j,k)−n・cosθ(j,k)} …(4)
図10に示すように、格子高さd(j,k)は、各格子先端4の位置における先端包絡面3の法線に沿った方向での格子先端4と格子溝部5における最下点との間の距離(高さ)である。格子溝部は、k番目の格子輪帯の格子側面2とk+1番目の格子輪帯の格子面1とにより形成される溝部である。
格子側面が先端包絡面の法線に対して平行である場合に、j番目の回折格子面において、広波長域にわたってスカラー回折効率が高くなるように、k番目の格子について設計 次数m(j,k)を決めると、格子高さd(j,k)は、以下のようになる。
(j,k)
= m(j,k)・λ/{n・cosθ(j,k)−n・cosθ(j,k)} …(5)
これに対し、本実施例では、入射光線が光軸から離れる方向に向かって進む場合を想定しており、格子側面2は、光線の入射角と同じ角度(厳密に同じ角度だけでなく同じとみなせる角度も含む)だけ該法線に対して格子面1とは反対側に傾けられている。つまり、格子側面2は、格子面1とのなす角度(格子頂角)が、格子側面2を傾けない場合に比べて大きくなるように設定されている。この場合、格子溝部5の最下点は、格子側面2を傾けない場合に比べて格子先端4に近くなる。このため、格子先端4と格子溝部5の最下点の間の距離d(j,k)は、各格子先端位置での先端包絡面3の法線に沿った方向においてd(j,k)よりも小さくなる。
格子輪帯の格子面は、位相関数とd(j,k)とによって定められるので、格子輪帯の中心を含む断面における各格子輪帯の格子溝部の最下点は、この格子面と傾けた格子側面との交点として求まる。実施例では、格子頂角が、格子側面を傾けない場合に比べて大きくなるように設定されているため、d(j,k)の値は式(4)の条件を満足する。
2.格子側面が、先端包絡面の法線(各格子先端位置における法線)に対して格子面と同じ側に傾いている場合。すなわち、格子側面が、該法線に平行なときよりも格子面となす角度(格子頂角)が小さくなる側に傾いている場合。
θ(j,k)
=sin−1[{n・sinθ(j,k)−m(j,k)・λ/P(j,k)}/n
≧θ(j,k) …(6)

M(k)=Σ{m(j,k)}=const. …(2)
j=1
θ(j,k) ≦θ≦θ(j,k) …(7)
ただし、θ (j,k),θ(j,k),θ等のパラメータの意味は、上記1の場合と同じである。
この場合は、上記1の場合とは逆に、図11Aに示すように、格子側面2を格子頂角が小さくなる方向に、例えば入射角と同じ角度だけ傾けたとしても、θ< θとなる条件では、格子側面に角度を持って入射して反射したり透過したりする成分が残る。この場合は、少なくともk番目の格子輪帯において、式(6)の条件を満足するようにそれぞれの回折格子部での回折次数m(j,k)を設定すれば、格子側面に入射する光線を抑えることができ、不要回折光を低減することが可能になる。
また、式(6)の条件を満足した上で、各回折格子部での格子側面の傾け方も併せて考慮する必要がある。本実施例では、図22に示すように、j番目の回折格子部のk番目の格子輪帯において、その格子先端位置における先端包絡面3の法線に対する格子側面2の傾き角度θは式(7)の条件を満足する。すなわち、傾き角度θが、その格子輪帯での光線の入射角θ(j,k)以上で、回折角θ(j,k)以下であれば、格子側面2に角度を持って入射する光線がほとんどなくなる。したがって、不要光の発生を低く抑えることができる。
さらに、この場合は、j番目の回折格子部での格子高さd(j,k)が、
d(j,k)
≧ m(j,k)・λ/{n・cosθ(j,k)−n・cosθ(j,k)}…(8)
であることが好ましい。
本実施例では、図11Bに示すように、入射光線が光軸から離れる方向に向かって進む場合を想定しており、格子側面2は、光線の入射角と同じ角度(厳密に同じ角度だけでなく同じとみなせる角度も含む)だけ該法線に対して格子面1と同じ側に傾けられている。つまり、格子側面2は、格子面1とのなす角度(格子頂角)が、格子側面2を傾けない場合に比べて小さくなるように設定されている。この場合、格子溝部5の最下点は、格子側面2を傾けない場合に比べて格子先端4から遠くなる。このため、格子先端4と格子溝部5の最下点の間の距離d(j,k)は、各格子先端位置での先端包絡面3の法線に沿った方向において、格子側面2を傾けない場合の格子高さd(j,k)よりも大きくなる。したがって、格子高さd(j,k)の値は、式(8)の条件を満足する。
上記1及び2の場合に共通して、本実施例でいう入射角θ(j,k)は、k番目の格子輪帯に入射する有効光線束の入射角分布の重心角度又は平均角度と定義されてもよい。
後述する接眼光学系又は画像形成素子から各回折格子部に入射する有効光線束は、画角に応じた一定の幅を持つ。j番目の回折格子部におけるk番目の格子輪帯での回折効率は、入射光線として特定の入射角(設計入射角)を持った光線を選んで求められる。設計入射角としては、それ以外の入射角を持つ他の光線との入射角差ができるだけ小さい角度を選ぶか、全有効入射角分布の中でできるだけ比率の高い入射角を選ぶことが好ましい。
このように全有効光線束の入射角分布の重心値又は平均値に相当する角度を設計入射角として採用することにより、設計入射角及びそれに近い入射角を持った光線の比率を高く(設計入射角との差が大きい入射角を持った光線の比率を小さく)する。これにより、回折効率の低下を抑えることが可能となる。
また、本実施例では、j=1以外の回折格子部の全てのk番目の格子輪帯において、入射角θ(j,k)がθ(j,k)≠0である場合に特に有効である。
図12Aに示すように、回折光学素子7を含む光学系(18は回折光学素子7以外の光学素子を示す)において、該光学系の瞳(入射瞳又は射出瞳)6が大きく、回折光学素子7からの距離が近い場合には、前述した設計入射角が0となる領域が広くなることがある。
そして、格子輪帯ピッチが小さくなっても、入射角θ(j,k)が0であると、θ(j,k)の符号は入射角とは逆になり、各回折格子部からの回折光線は、格子側面から離れる方向に進行する。このため、式(1)又は(6)の条件を満たす必要はない。したがって、前述したようにθ(j,k)≠0であるような場合に、最も前述した効果が得られることになる。
さらに、本実施例において、入射角θ(j,k)が、k番目の格子輪帯と該回折光学素子が用いられる光学系の瞳(入射瞳又は射出瞳)の中心点とを通る光線の先端包絡面の法線に対する角度として定義されてもよい。または、入射角θ(j,k)が、k番目の格子輪帯を通り、該回折光学素子が用いられる光学系の最大画角をなす光線の入射角として定義されてもよい。
上述したように、設計入射角θ(j,k)は、k番目の格子輪帯を通る有効光線束の入射角分布を考慮して決めるのが望ましい。しかし、図12Bに示すように、光学系の画角が大きく、その瞳と回折光学素子間に光学パワーを持つ面がなく、瞳と回折光学素子とが離れている場合には、瞳6の中心と各格子輪帯を通る光線の入射角が上述した入射角分布の重心値や平均値とほぼ同じとなる。
この場合、一般には瞳の中心を通る最大画角光線の回折光学素子上での光線高は、回折光学素子上の有効領域の全てをカバーできない。このため、瞳の中心を通る最大画角光線が入射する格子輪帯よりも外側の領域に関しては、光学系の最大画角を設計入射角とするとよい。
以上のように構成された回折光学素子は、原画を形成する液晶パネルや自発光素子等の画像形成素子と、該画像形成素子からの光を観察者の眼が配置される射出瞳に導く接眼光学系とを有する画像観察装置に用いられる。接眼光学系は、原画の像を拡大して観察者の眼に提示する。
ここで、回折光学素子は、画像形成素子と接眼光学系との間、又は接眼光学系と観察者の眼(射出瞳)との間に配置される。
例えば、観察者の頭部に装着されるヘッドマウントディスプレイ(HMD)は、広い画角を確保しつつ、できるだけコンパクトな構成で軽量な装置であることが求められる。そしてこれを実現するために、特許第2911750号公報には、3つの自由曲面(非回転対称面)を有するプリズム素子が接眼光学系として用いられた例が開示されている。この例では、樹脂製の単一のプリズム素子を用いているため、その分散によって発生する倍率色収差を補正することが難しい。光学系にガラスレンズを加えることで色消しを行うことは可能であるが、装置の体積や重さが増大し、自由曲面プリズム素子を用いる利点が薄れる。
このような場合に、色消しのために薄い回折光学素子を用いることは、装置の体積や重さの増加を抑えることができる点で極めて有効である。自由曲面上に回折格子を形成することも可能であるが、自由曲面の偏心形状によって格子輪帯も軸対称な同心円形状ではない複雑な形状となる。また、複雑な形状の自由曲面上に回折格子を形成すること自体も容易ではない。さらに、広い波長域で高い回折効率を確保するためには、互いに異なる材料によって形成された複数の回折格子面を近接設置することが必要であるが、複雑な形状の自由曲面同士をミクロンレベルで精度良く近接させることは非常に困難である。
したがって、本実施例では、図13A及び図13Bに示すように、平面状の回折光学素子7をプリズム素子8と射出瞳6との間、又は画像形成素子9とプリズム素子(接眼光学 系)8との間に配置する。
特に、図13Aに示すように回折光学素子7をプリズム素子8と射出瞳6との間に配置する場合には、複数の格子輪帯を軸対称な同心円状に形成することが可能になるため、製造がより容易になる。また、図13Aに示す場合には、図13Bに示す場合に比べて、回折光学素子7に入射する光線の入射角が、画角の大きい領域でより大きくなり、格子側面による影響も大きくなり易い。したがって、上述したように、格子側面を光線入射角と同じ角度に傾け、かつ回折光線が格子側面に向かわないように回折次数を設定することで、不要光の発生をより有効に回避することができる。
なお、入射角θ(j,k)は、k番目の格子輪帯と、該回折光学素子と接眼光学系を含む観察光学系の射出瞳よりも回折光学素子から離れた位置における光軸上の点を通る光線の入射角としてもよい。
図14A及び図14Bには、観察者の眼球10と、眼球側から見た光学系の最前面との距離(アイレリーフ)をできるだけ長くとるため、光学系の射出瞳6の位置に眼球10の瞳孔が配置されるように光学設計された例を示す。光学設計は、後述する逆光線トレース において、射出瞳6の位置から射出した所定の画角を持つ各光線について行われる。射出瞳6は、回折光学素子7と前述した接眼光学系とを含む観察光学系(光学全系)の射出瞳である。
回折光学素子7の位相関数を決める場合も同様である。回折光学素子7の各格子輪帯の具体的な形状は、位相関数に基づいて決められる。
以下の説明において、画像形成素子(図示せず)から射出瞳6に向かう光線をその進行方向にトレースする場合を順光線トレースといい、該光線を射出瞳6側から逆方向にトレースして説明する場合を逆光線トレースという。
図14A及び図14Bに示す構成は、逆光線トレースにおいて、射出瞳6の中心Oから回折光学素子7上のある点Aに入射する光線の入射角をθとして、回折効率が最大になるように格子高さdを設定した例である。この構成では、眼球10(観察者の視線)が光軸AXLの方向(画像の中心方向)を向いているときには、順光線トレースにおいて瞳孔を通って網膜に到達する設計回折次数光の回折効率が最大になり、不要回折次数光の回折効率が最小に抑えられる。
ただし、観察者は画像の周辺部を観察する場合には、図14Bに示すように、その方向に眼球10を回転させる。このときの瞳孔の中心を通る光線は、射出瞳6の中心を通る光線ではなく、眼球10の回転中心B又はその近傍を通る光線である。そして、この光線が逆光線トレースにおいて回折光学素子7上の点Aに入射するとき、入射角は図14Aの場合とは異なるθ′となる。点Aでの格子高さdは、入射角θに対して最適化されており、入射角θ′に対しては最適化されていない。このため、眼球10を回転させて画像の周辺部を観察する場合には、観察される不要回折光の強度が高くなる。
図14Aのように眼球10が光軸方向を向いているときには、順光線トレースにおいて、点Aから瞳孔の中心を通る光線は、網膜の中で最も高い感度と空間的分解能を持つ中心窩10aと呼ばれる部分の外側の部分に到達する。このため、仮に僅かに不要光が残っている場合でも、視認度は低い。
これに対し、図14Bに示すように、眼球10が光軸AXLの方向(以下、単に光軸方向という)を向いた状態から回転して点Aの方向を向くと、点Aからの光線は中心窩10aに到達するため、僅かな不要光も視認され易くなり、この結果、
画像欠陥が生じる。
そこで、本実施例においては、回折光学素子7上のある格子輪帯の格子高さを決めるための入射角及び回折角は、その格子輪帯上の点と、光学系の光軸上において射出瞳6よりも回折光学素子7から遠い位置の特定点とを結ぶ光線の入射角及び回折角としてもよい。そして、この特定点を通る光線について設計回折次数での回折効率が最大になるように格子高さを設定する。
これにより、眼球10が光軸方向を向いた状態から回転したときの不要回折光が抑えられ、該不要回折光が中心窩10aに入射しても視認されにくくなる。逆に眼球10が光軸方向を向いた状態で、瞳孔(射出瞳)の中心に角度を持って入射する不要回折光が僅かに発生しても、網膜上の中心窩10aから外れた視感度の低い部分に到達するため、不快なフレア光として視認されにくくなる。また、実際には、設計回折次数光以外の光は網膜上でデフォーカスしているため、さらに視認度は低くなる。
眼球10において、瞳孔から回転中心Oまでの距離は、一般に10mm前後と言われており、上記特定点を、射出瞳6からそれに相当する距離だけ射出瞳6から回折光学素子7から遠い位置に設定することが最も望ましい。ただし、光学系における眼球側から見たときの最前面から射出瞳6までの距離(アイレリーフ)をLとし、光軸上の特定点までの距離をL’としたときに、L’>Lを満足すれば、ある程度上述した効果を得ることができる。
以上のような格子高さの設定と前述した格子側面及び回折次数の設定とを組み合わせれば、それぞれを単独で採用する場合に比べて、より高い不要光の抑制効果を得ることができる。
以下、本発明の実施例として、具体的な数値例を示す。
図15には、実施例1の回折光学素子7の概略構成を示す。回折光学素子7は、互いに異なる材料としての2つの紫外線硬化樹脂により形成された第1の回折素子層31及び第2の回折素子層32が、それらの回折格子部31a,32aの間に間隔があくように配置されて構成されている。各回折格子部における先端包絡面3は平面である。なお、実際には、各格子輪帯の格子側面34は、各格子先端にて立てた先端包絡面3の法線に対して格子面33とは反対側に傾いているが、図15ではこれを簡略化して該法線に平行に示している。
実施例1では、回折格子部31a,32a間(先端包絡面3間)の間隔Gは1.5μmである。回折光学素子7の設計波長はλ=587.56nmである。第1の回折素子層31の材料の屈折率はn(λ)=1.52415で、分散はν=51.57である。また、第2の回折素子層32の材料の屈折率はn(λ)=1.63554であり、分散はν=22.75である。各回折素子層の厚みは50μmである。
第1の回折素子層31に形成された第1(j=1)の回折格子部31aは正の光学的パワーを、第2の回折素子層32に形成された第2(j=2)の回折格子部32aは負の光学的パワーを持つ。
光線逆トレースにおいて、回折光学素子7上のある格子輪帯に入射する光線35の入射角は、この回折光学素子が用いられる光学系における全有効光線束の入射角分布の平均角度である。また、該光線35の進行方向は、光学系の光軸(図中に一点鎖線で示す)から離れていく方向である。
このとき、第1の回折格子部31aへの光線の入射角θが16.100[°]で、該光線が入射する格子輪帯のピッチPは31.154[μm]であるとする。この条件のもとで、第1及び第2の回折格子部31a,32aのトータルでの1次(設計回折次数)の回折効率が、広い波長域にわたって高くなるように第1及び第2の回折格子部31a,32aのそれぞれの設計回折次数m、mを以下のように設定する。
=+9.2
=−8.2
少数点を含む次数については、例えばm=+9.2の場合には+9次と+10次が一定の割合ずつで発生していることを意味する。m=+9.2次の回折角は、+9次の回折光と+10次の回折光の強度の比率を考慮したこれら回折光の重心を通る光線の角度である。したがって、格子側面34に向かって回折する一部の回折次数の光線が、少ない比率ではあるが残る。
また、実施例1においては、格子側面34は、入射光線と平行になるように先端包絡面3の法線に対して、該法線に平行な場合に比べて格子頂角が大きくなる方向に傾いている。第1の回折格子部31aにおける格子側面34は光線の入射角θと同じ角度だけ該法線に対して傾いている。また、第2の回折格子部32aにおける格子側面34は、第1の回折格子部31aで回折した光線の回折角、すなわち第2の回折格子部32aへの光線の入射角θと同じ角度だけ該法線に対して傾いている。
実施例1の回折光学素子7の各波長に対するスカラー回折効率を図16に示す。この図から分かるように、実施例1の回折光学素子7は、波長430〜670nmの領域で、98%以上の高い回折効率を実現している。
第1及び第2の回折格子部31a,32aでの回折角θ、θは、以下のようになる。
θ=sin−1[{n・sinθ−m・λ/P}/1
=14.4247[°]
θ=sin−1[{1・sinθ−m・λ/P}/n
=14.2921[°]。
第1の回折格子部31aでのθとθ、及び第2の回折格子部32aでのθとθはともに、(回折角)≦(入射角)の関係を満足している。これにより、入射角と同じに傾けられた格子側面34に入射する回折光の比率を下げることができ、その回折光による不要光の発生を抑えることができる。
なお、第1及び第2の回折格子部31a,32aにおいて格子側面34が先端包絡面3の法線に対して傾けられていない場合の格子高さd10,d20は、以下のようになる。
10=m・λ/{n(λ)・cosθ−1・cosθ
=9.901[μm]
20=m・λ/{1・cosθ−n(λ)・cosθ
=7.331[μm]
しかし、実施例1では、格子側面34が、先端包絡面3の法線に対して格子頂角が大きくなる方向に傾けられているため、格子溝部の最下点は、該法線に対して傾いた格子側面と位相関数で表される格子面33との交点となる。このため、第1及び第2の回折格子部31a,32aの格子高さd,dは、
≦d10
≦d20
となる。
なお、各格子輪帯に入射する光線が光軸に近づいていく方向に進む場合には、格子側面34は、先端包絡面3の法線に対して、該法線に平行な場合に比べて、格子頂角が小さくなる方向に傾けられる。この場合の格子高さd,dは、
≧d10
≧d20
となる。
図17に実施例2を示す。実施例2では、光線の進行方向に沿って、不図示の光源と、透過型液晶パネルにより構成される画像形成素子9と、偏心した自由曲面を有する接眼プリズム素子8と、回折光学素子7とを有する。
回折光学素子7は、2つの回折素子層が、それらの回折格子部の間に間隔があくように配置されて構成されている。各回折格子部における先端包絡面は、図示しないが平面である。各格子輪帯の格子側面は、各格子先端にて立てた先端包絡面3の法線に対して格子面とは反対側に傾いている。
また、回折光学素子7は、光学的パワーを有しており、該回折光学素子7及び接眼プリズム素子8を含む観察光学系において光学的パワーを持つ面の中で最も該観察光学系の射出瞳6に近い位置に配置されている。また、2つの回折格子部はそれぞれ、平板状の基板上に形成されている。
射出瞳6は、2つの回折格子部のうち射出瞳側の回折格子部の基板面から20mmの位置に設定されており、瞳径はφ14mmである。格子輪帯の形状は、光軸に対して回転対称に同心円状に形成されている。位相関数φ(r)は、以下のように求められる。
φ(r)=C・r+C・r+C・r+C・r
=−9.8792・10−4
= 1.5989・10−7
= 2.9680・10−9
= −4.1182・10−12
ただし、rは光軸からの距離を表す。
各格子輪帯の半径は、
φ(R(k))= −k・λ
を満たすR(k)として求められる。
格子輪帯間のピッチは、
(k)=R(k)−R(k−1)
となる。
逆光線トレースにおいて、回折光学素子を構成する2つの回折格子部のうち射出瞳側の回折格子部を第1の回折格子部といい、画像形成素子側の回折格子部を第2の回折格子部とする。このとき、第1の回折格子部は正の光学的パワーを有し、第2の回折格子部は負の光学的パワーを有する。
ここでは、図18に示すように、格子輪帯のピッチが最も小さくなる290番目(k=290)の格子輪帯について、第1及び第2の回折格子部31,32での回折次数m,mを求める。
回折光学素子の設計波長:λ=587.56nm
実施例2における回折光学素子の各パラメータは以下の通りである。
第1の回折格子部の材料の屈折率:n(λ)=1.52415(分散ν=51.57)
第2の回折格子部の材料の屈折率:n(λ)=1.63554(分散ν=22.75)
各回折素子層の厚み:50μm
各基板の材料の屈折率:n(λ)=1.57090(分散ν=33.81)
各基板の厚み:1.0mm
第1及び第2の回折格子部間の距離(間隔)G:1.5μm
この場合、290番目の格子輪帯について、半径R(290)は上記位相関数から13.958[mm]となり、ピッチ(290)は29.667[μm]となる。眼球の回転中心(特定点)が射出瞳の位置から光軸方向に10mmの位置にあるとし、290番目の格子輪帯に入射する光線がこの特定点からの光線とすると、画角は24.4975°となり、入射角θは、θ=15.787[°]となる。
第1及び第2の回折格子部31,32の格子側面33は、各回折格子部への入射角と同じ角度だけ先端包絡面の法線に対して傾けられており、格子面33となす格子頂角は、格子側面33が該法線と平行な場合に比べて大きくなっている。
第1及び第2の回折格子部31,32のトータルの回折次数Mを+1とすると、第2の回折格子部からの射出角(回折角)θは、以下のようになる。
θ=sin−1[{n・sinθ−M・λ/P}/n
=13.9702[°]。
この290番目の格子輪帯でのθは、第1及び第2の回折格子部31,32のそれぞれの回折次数m,mによらず不変でなければならない。すなわち、M=m+m=+1を満足する必要がある。
この条件の下で、第1及び第2の回折格子部31,32のトータルでの回折効率が、広い波長域にわたって高くなるようにm,mを決める。ここでは、
=+8.7
=−7.7
とする。このときの第1及び第2の回折格子部の格子側面を傾けない場合の格子高さd10,d20はそれぞれ、以下のようになる。
10=m・λ/{n(λ)・cosθ−1・cosθ
=9.589[μm]
20=m・λ/{1・cosθ−n(λ)・cosθ
=7.107[μm]。
た、第1及び第2の回折格子部のトータルでのスカラー回折効率は、
η(h,λ)
=sinc[π・{(m+m)−{Φ(h,λ)+Φ(h,λ)}/λ}]として算出される。ここで、Φ、Φは第1及び第2の回折格子部31,32での光路差であり、実施例2ではh=13.958である。
図19には、実施例2の回折光学素子における波長に対する回折効率を示す。このとき、第1の回折格子部31での設計回折次数(m=+8.7)の回折角θは、以下のようになる。
θ=sin−1[{n・sinθ−m・λ/P}/1
=14.0251[°]。
このため、第1及び第2の回折格子部31,32での回折角は、それぞれへの入射角に対して、以下の関係を有する。
第1の回折格子部:θ=14.0251[°]<θ(=15.787[°])
第2の回折格子部:θ=13.9702[°]<θ(=14.0251[°])。
これらθ,θ,θは、(回折角)≦(入射角)の関係を満足している。これにより、格子側面34に入射する回折光の比率を下げることができ、該回折光による不要光の発生を抑えることができる。
例えば、第1の回折格子部のmとして+8.747より大きい値を用いると、第2の回折格子部について(回折角)>(入射角)となり、格子側面に入射する回折光が発生し、不要光が増加する。
以上、回折光学素子への入射光線が、光軸上において射出瞳よりも回折光学素子から遠い側の特定点、好ましくは眼球回転中心付近の点を通る光線とし、この光線に関する設計回折次数での回折効率が高くなるように格子高さを決定する場合について説明した。すなわち、眼球を画像の周辺部(例えば290番目の格子輪帯の方向)を向くように回転させたときに、その方向での不要回折光が小さくなるように設定した場合について説明した。
射出瞳の中心からの光線に対して設計入射角を決めて画像の周辺部に対応する格子高さを最適化する場合は、眼球が光軸方向、すなわち画像の中心部を向いているときに周辺部から眼球に入射する光を想定することになる。
射出瞳の中心を通り、290番目の格子輪帯に入射する光線を考えると、画角は34.129[°]、第1の回折格子部への入射角θは21.5992[°]となる。このとき、第1及び第2の回折格子部のトータルの回折効率が広い波長域にわたって高くなるように、かつ(回折角)>(入射角)となるようにm,mを決めると、
=+11.2
=−10.2
となる。このとき、第1及び第2の回折格子部の格子側面を傾けない場合の格子高さはそれぞれ、
10=11.663[μm]
20=8.800[μm]
となる。また、波長に対するスカラー回折効率は、図20に示すようになる。
このように回折光学素子が最適化されているとき、眼球を周辺部(例えば、290番の格子輪帯)に向けた場合を考える。この場合、眼球の回転中心付近の点(ここでは、光軸上において射出瞳よりも10mmだけ回折光学素子から遠い側の点)と、290番目の格子輪帯を通る光線について考えることになる。画角は、前述したように24.4975°となり、第1の回折格子部への入射角θは、θ=15.787[°]となる。
この光線についてスカラー回折効率を求めると、1次回折光の回折効率が下がり、不要回折光の回折効率が増加する。これは、画像の中心部を凝視していたときは見えなかった不要回折光が、画像の周辺部を見るために眼球を回転させたときに明確に現れることを意味する。このときは、不要光も網膜上において感度が高い中心窩に入射するため、視認度も高い。
一方、光軸上で射出瞳よりも回折光学素子から遠い位置を通る光線に対して不要回折次光が発生しないように格子高さを最適化すると、眼球を回転させて光軸方向を向いたときに、画像の周辺部(290番目の格子輪帯)から不要回折次光が見えることが懸念される。しかしながら、この場合は、眼球は光軸方向を向いている(凝視している)ため、周辺部からの不要光は網膜の中心窩から外れた領域に達するので、視認度は小さい。
したがって、回折光学素子での入射角(及び回折角)を設定する際は、射出瞳の中心を通る光線ではなく、射出瞳よりも回折光学素子から遠い光軸上の特定点を通る光線に対して最適化することが望ましい。
以上のように、上記実施例によれば、格子輪帯のピッチが小さく、格子高さの格子輪帯のピッチに対する比が大きい回折光学素子が、該回折光学素子への入射角が大きくなる光学系に採用された場合でも、設計回折次光に対する不要光を抑えることが可能である。したがって、そのような回折光学素子を採用した画像観察装置において、高品位の画像観察が可能となる。
以上説明した各実施例は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては、各実施例に対して種々の変形や変更が可能である。
従来の単層及び積層型回折光学素子のスカラー回折効率の波長依存性を示すグラフ。 従来の回折光学素子において光線が斜入射する場合の格子側面でのけられを説明する図。 従来の回折光学素子において光線が垂直に入射する場合と斜入射する場合の格子側面の影響の有無を示す図。 図3Aの回折光学素子において格子側面を傾けた例を示す図。 従来の2層型回折光学素子の概略構成を示す図。 図4の2層型回折光学素子の入射角と回折角を説明する図。 図5Aの2層型回折光学素子の格子側面での不要光の発生を説明する図。 図4の2層型回折光学素子の入射角と回折角を説明する図。 図6Aの2層型回折光学素子の格子側面での不要光の発生を説明する図。 従来の回折光学素子において格子側面を傾けた場合の不要光の発生を説明する図。 従来の2層型回折光学素子の波長に対するスカラー回折効率の例を示すグラフ。 本発明の実施例である回折光学素子において、式(1)の条件を満足したときの光線の進み方を示す概念図。 実施例の回折光学素子において格子側面を傾けた場合の格子高さの定義を示す図。 従来の回折光学素子において格子側面を傾けた場合の不要光の発生を説明する図。 実施例の回折光学素子において格子側面を傾けた場合の格子高さの定義を示す図。 実施例を説明するための回折光学素子を用いる光学系の構成を示す概略図、及び該回折光学素子上での光線高と平均入射角との関係を示すグラフ。 実施例を説明するための回折光学素子を用いる光学系の構成を示す概略図。 実施例の画像観察装置の全体構成を示す図。 実施例の画像観察装置の別の全体構成を示す図。 眼球が光軸方向を向いている場合に画像周辺部から眼球に入射する光線を示す概念図。 眼球が画像周辺部を向いている場合に該画像周辺部から眼球に入射する光線を示す概念図。 実施例1の2層型回折光学素子の構成を示す概略図。 実施例1の2層型回折光学素子のスカラー回折効率を示すグラフ。 実施例2の画像観察装置の全体構成を示す概略図。 実施例2で使用される2層回折光学素子のパラメータを説明する図。 実施例2の2層回折光学素子のスカラー回折効率を示すグラフ。 射出瞳の中心を通ってある格子輪帯に入射する光線に対して最適化された2層型回折光学素子のスカラー回折効率を示すグラフ。 実施例において条件式(3)を説明する図。 実施例において条件式(7)を説明する図。
符号の説明
1,11,12 格子面
2,13,14 格子側面
3 先端包絡面
4 格子先端
5 格子溝部
6 瞳(射出瞳)
7, 回折光学素子
8 プリズム素子(接眼光学系)
9 画像形成素子
10 眼球
10a 中心窩
31 第1の回折素子層
32 第2の回折素子層
31a 第1の回折格子部
32a 第2の回折格子部
G 空気間隔

Claims (5)

  1. 原画を形成する画像形成素子と、
    前記画像形成素子からの光を射出瞳に導く光学系と、
    前記画像形成素子と前記光学系との間又は前記光学系と前記射出瞳との間に配置された回折光学素子とを有し、
    前記回折光学素子は、互いに異なる材料により形成され、互いに間隔をあけて配置された複数の回折格子部を有し、
    前記各回折格子部には、それぞれ格子面と格子側面を有する複数の格子輪帯が形成され、
    前記各格子輪帯において、前記格子側面は、前記複数の格子輪帯の頂部を通る包絡面の法線に対して前記格子面とは反対側に傾いており、
    前記回折光学素子は、前記複数の回折格子部のうちj番目の回折格子部における前記複数の格子輪帯のうちk番目の格子輪帯に関し、少なくともk=kにおいて、以下の条件を満足することを特徴とする画像観察装置。
    θ(j,k)
    =sin−1[{n・sinθ(j,k)−m(j,k)・λ/P(j,k)}/n
    ≦θ(j,k)

    M(k)=Σ{m(j,k)}=const.
    j=1
    θ(j,k)≦θ≦θ(j,k)
    ただし、λは、前記回折光学素子の設計波長、
    θ(j,k)は、前記j番目の回折格子部において前記k番目の格子輪帯と前記射出瞳を通る光線の前記包絡面の法線に対してなす角度であり、|θ(j,k)|は前記光学系の最大画角よりも小さい、
    θ(j,k)は、前記j番目の回折格子部における前記k番目の格子輪帯での設計回折次光の回折角、
    m(j,k)は、前記j番目の回折格子部における前記k番目の格子輪帯の設計回折次数、
    P(j,k)は、前記k番目とk−1番目の格子輪帯間のピッチ、
    は、前記格子輪帯のピッチが最小となる又はθ(j,k)が最大となる前記格子輪帯の番号、
    M(k)は、前記回折光学素子の回折次数、
    及びnはそれぞれ、前記j番目の回折格子部における入射側媒質と回折側媒質の屈折率、
    sは、前記j番目の回折格子部における前記複数の格子輪帯の総数、
    θは、前記格子側面が前記包絡面の法線に対してなす角度、
    である。
  2. 前記回折光学素子は、さらに以下の条件を満足することを特徴とする請求項1に記載の画像観察装置。
    d(j,k)
    ≦m(j,k)・λ/{n・cosθ(j,k)−n・cosθ(j,k)}
    ただし、d(j,k)は、前記j番目の回折格子部における前記k番目の格子輪帯の前記法線に沿った方向での高さである。
  3. 原画を形成する画像形成素子と、
    前記画像形成素子からの光を射出瞳に導く光学系と、
    前記画像形成素子と前記光学系との間又は前記光学系と前記射出瞳との間に配置された回折光学素子とを有し、
    前記回折光学素子は、互いに異なる材料により形成され、互いに間隔をあけて配置された複数の回折格子部を有し、
    前記各回折格子部には、それぞれ格子面と格子側面を有する複数の格子輪帯が形成され、
    前記各格子輪帯において、前記格子側面は、前記複数の格子輪帯の頂部を通る包絡面の法線に対して前記格子面と同じ側に傾いており、
    前記回折光学素子は、前記複数の回折格子部のうちj番目の回折格子部における前記複数の格子輪帯のうちk番目の格子輪帯に関し、少なくともk=kにおいて、以下の条件を満足することを特徴とする画像観察装置。
    θ(j,k)
    =sin−1[{n・sinθ(j,k)−m(j,k)・λ/P(j,k)}/n
    ≧θ(j,k)

    M(k)=Σ{m(j,k)}=const.
    j=1
    θ (j,k)≦θ≦θ(j,k)
    ただし、λは、前記回折光学素子の設計波長、
    θ(j,k)は、前記j番目の回折格子部において前記k番目の格子輪帯と前記射出瞳を通る光線の前記包絡面の法線に対してなす角度であり、|θ(j,k)|は前記光学系の最大画角よりも小さい、
    θ(j,k)は、前記j番目の回折格子部における前記k番目の格子輪帯での設計回折次光の回折角、
    m(j,k)は、前記j番目の回折格子部における前記k番目の格子輪帯の設計回折次数、
    P(j,k)は、前記k番目とk−1番目の格子輪帯間のピッチ、
    は、前記格子輪帯のピッチが最小となる又はθ(j,k)が最大となる前記格子輪帯の番号、
    M(k)は、前記回折光学素子の回折次数、
    及びnはそれぞれ、前記j番目の回折格子部における入射側媒質と回折側媒質の屈折率、
    sは、前記j番目の回折格子部における前記複数の格子輪帯の総数、
    θは、前記格子側面が前記包絡面の法線に対してなす角度、
    である。
  4. 前記回折光学素子は、さらに以下の条件を満足することを特徴とする請求項に記載の画像観察装置。
    d(j,k)
    ≧m(j,k)・λ/{n・cosθ(j,k)−n・cosθ(j,k)}
    ただし、d(j,k)は、前記j番目の回折格子部における前記k番目の格子輪帯の前記法線に沿った方向での高さである。
  5. θ (j,k)は、該回折光学素子及び前記光学系を含む観察光学系の射出瞳の位置よりも該回折光学素子から遠い位置にある光軸上の特定点を通る光線の前記回折光学素子へ 入射角であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の画像観察装置。
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