JP4951853B2 - 色素増感型太陽電池用電極基板及びその製造方法並びに色素増感型太陽電池 - Google Patents

色素増感型太陽電池用電極基板及びその製造方法並びに色素増感型太陽電池 Download PDF

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Description

本発明は、色素増感型太陽電池用電極基板及びその製造方法並びに色素増感型太陽電池に関する。
太陽光発電システムは、化石燃料や核燃料を用いた発電システムに比べて周囲の環境に及ぼす負荷が小さく、また、省資源化を図り易いことから、今日ではその利用が拡大している。
太陽光発電システムに使用される太陽電池は、光エネルギーを電気エネルギーに直接変換することができる光電変換素子であり、この太陽電池には、シリコン太陽電池、化合物半導体太陽電池(ガリウムヒ素太陽電池、インジウムリン太陽電池、CIS(銅インジウムセレン)型太陽電池等)、色素増感型太陽電池等がある。これらの太陽電池のうち、シリコン太陽電池は民生用の太陽電池として既に広く利用されている。また、近年では、シリコン太陽電池に比べても低コスト化が容易な色素増感型太陽電池に対する注目が高まっている。
図6は、代表的な色素増感型太陽電池(グレッツェル・セル)の断面構造を示す概略図である。図示の色素増感型太陽電池150は、I /I レドックス対を含有した電解質溶液105を1対の電極基板120、130で挟持した構造を有する湿式太陽電池である。
電極基板120は、透明ガラス基板111と、その片面に形成された透明導電膜(フッ素ドープ酸化スズ膜)113と、その上に形成された多孔質半導体層(多孔質酸化チタン薄膜)115とを有している。多孔質半導体層115はゾルゲル法によって形成されたものであり、多数のアナターゼ型酸化チタン微粒子の焼結体である。この多孔質半導体層115の表面には、ルテニウム(Ru)錯体の1種からなる色素117が吸着されており、色素117の吸収波長域は、酸化チタンの吸収波長域よりも長波長側にまで及んでいる。色素117を光励起したときの電子のエネルギー準位は、酸化チタンの伝導帯端の位置よりも高い。図6においては、便宜上、色素117を1つの層として描いている。一方、電極基板130は、透明ガラス基板121と、その片面に形成された透明導電膜(フッ素ドープ酸化スズ膜)123と、その上に形成された白金薄膜125とを有している。電極基板120中の透明導電膜113と電極基板130中の透明導電膜123とは、リード線135a、135bによって負荷140に接続されている。
色素増感型太陽電池150に色素117の吸収波長域内の光を照射すると、色素117が励起状態となり、光励起された電子(e )が多孔質半導体層115に注入される。電子(e )を失った色素117は、電解質溶液105中のI /I レドックス対から電子を奪って(I と反応してI を生じて)、元の状態に戻る。一方、多孔質半導体層115に注入された電子(e )は透明導電膜113に移動し、更に、リード線135a、負荷140、及びリード線135bを介して電極基板130に達してI と反応し、I を生じさせる。したがって、上記の光照射によって色素増感型太陽電池150には閉回路が形成される。この閉回路が形成されると、色素増感型太陽電池150は定常的に発電する。色素117を利用することにより、多孔質半導体層115の吸収波長域の光よりも更に長波長の光を利用して発電することが可能になるので、光電変換効率を高めることができる。なお、白金薄膜125は、電極基板130の導電性を上げる役割を果たす他に、I /I レドックス対のI がI に還元される際の触媒としての役割も果たす。
色素増感型太陽電池の研究開発は、主に光電変換効率の向上に主眼をおいてなされてきている。ゾルゲル法により多孔質半導体層を形成し、この多孔質半導体層に特定の色素を担持させると共に特定の電解質を用いることによって、比較的高い光電変換効率を有するものが得られている。
また、例えば特許文献1には、半導体電極の下地となっている透明電極を、多数の孔部を有する金属膜と、この金属膜上に直接又は窒化ケイ素、窒化アルミニウム、ニッケル−クロムメタル等の層を介して形成されて前記の金属薄膜を覆う透明導電層とによって形成することで導電性を高め、これにより光電変換効率を向上させた色素増感型太陽電池が記載されている。更に、特許文献1には、透明ガラス基板に代えて透明樹脂フィルムを用いることも記載されている。
一般に、透明ガラス基板に代えて透明樹脂フィルムを用いることにより、可撓性に富んだ色素増感型太陽電池を得ることができる。色素増感型太陽電池の可撓性が高ければこの太陽電池の設置場所の選択の自由度が高まるので、種々の場所に広範囲に亘って設置することが容易になる。その結果として、色素増感型太陽電池の光電変換効率が仮に比較的低くても、全体としては所望の発電量を確保することが可能になる。また、軽量化されるので、たとえ大面積の太陽電池とした場合でも設置の際の作業性を向上させることが容易である。更に、携帯型電子機器の電源として利用した場合には、携帯型電子機器の携帯性(軽量性)を維持することが容易である。
特開2003−123858号公報(請求項21、第0021〜0045段、第0047段及び第0067段)
しかしながら、電極基板の材料として例えばポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と略記する。)等の安価で比較的耐熱性の低い透明樹脂フィルムを用いると、透明導電膜を形成する際の温度を透明樹脂フィルムの耐熱温度以下にしなければならないことから、緻密な透明導電膜を形成することが困難になる。同様のことが、特許文献1に記載されている上述の窒化ケイ素、窒化アルミニウム、ニッケル−クロムメタル等の層を物理的気相蒸着法又は化学的気相蒸着法によって形成する場合についても当てはまる。
その結果として、耐熱性が比較的低い透明樹脂フィルムを基材として用いた電極基板を利用して作製された色素増感型太陽電池では、電解質が透明導電膜に浸透してその下地層まで達し易い。光電変換効率の高い色素増感型太陽電池を得るうえからは、上述のI /I レドックス対のようなハロゲン系のレドックス対を含有した電解質層を用いることが好ましいが、ハロゲン系のレドックス対は化学的な活性が高く、多くの金属を腐食させる。
特許文献1に記載された色素増感型太陽電池における前述の金属薄膜の材料としては、導電性及び経済性を考慮すると銅(Cu)が最も好ましいと考えられるが、銅はハロゲン系のレドックス対との接触によって比較的容易に腐食する。このため、特許文献1に記載された色素増感型太陽電池では、光電変換効率が高いものを低コストの下に得ようとすると、その性能が経時的に低下し易くなり、その性能が経時的に低下し難いものを得ようとすると、光電変換効率の高いものを得難くなるという問題が生じる。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その第1の目的は、透明樹脂フィルムを基材として用いた色素増感型太陽電池用電極基板であって、光電変換効率が高く、性能の経時的な低下が抑制された色素増感型太陽電池を低コストの下に得ることが容易な色素増感型太陽電池用電極基板を提供することにある。
また、本発明の第2の目的は、透明樹脂フィルムを基材として用いた色素増感型太陽電池用電極基板であって、光電変換効率が高く、性能の経時的な低下が抑制された色素増感型太陽電池を低コストの下に得ることが容易な色素増感型太陽電池用電極基板の製造方法を提供することにある。
そして、本発明の第3の目的は、電極基板の基材として透明樹脂フィルムを用いた色素増感型太陽電池であって、光電変換効率が高く、性能の経時的な低下が抑制されたものを低コストの下に得ることが容易な色素増感型太陽電池を提供することにある。
上述した第1の目的を達成する本発明の色素増感型太陽電池用電極基板は、透明樹脂フィルムと、該透明樹脂フィルムの片面に形成された透明電極と、多数の半導体微粒子を用いて前記透明電極上に形成された多孔質半導体電極と、該多孔質半導体電極を形成している半導体微粒子の表面に担持された色素とを有する色素増感型太陽電池用電極基板であって、前記透明電極が、多数の細線を組み合わせた形状を呈する金属製の第1導電層と、電気めっき、無電解めっき、又は化成処理によって形成されて少なくとも前記第1導電層の外表面を覆う腐食防止層と、前記腐食防止層を覆う金属酸化物製の第2導電層とを含み、前記腐食防止層が色素増感型太陽電池用の電解質に対して耐食性を有していることを特徴とする(以下、この色素増感型太陽電池用電極基板を「電極基板I」ということがある。)。
この電極基板Iでは、金属酸化物製の第2導電層の他に金属製の第1導電層が形成されているので、電極基板I全体の導電性を比較的容易に高めることができる。また、第1導電層の外表面を覆う腐食防止層として、電気めっき、無電解めっき、又は化成処理によって形成されたものを用いているので、基材である透明樹脂フィルムの耐熱性が比較的低くても、腐食防止層の緻密化を図り易い。更に、この腐食防止層は色素増感型太陽電池用の電解質に対して耐食性を有している。
腐食防止層が緻密で、かつ、この腐食防止層が色素増感型太陽電池用の電解質に対して耐食性を有していれば、電極基板Iを用いて色素増感型太陽電池を作製したときに、第1導電層への電解質の浸透が抑制される。したがって、たとえ色素増感型太陽電池の電解質にハロゲン系のレドックス対が含有されていたとしても、また、たとえ第1導電層の材料がハロゲン系のレドックス対によって腐食され易いものであったとしても、このレドックス対によって第1導電層が腐食されることに起因する電極基板Iの導電性の低下を抑制することができる。第1導電層の材料として安価で導電性の高い銅等を使用した場合でも、電極基板Iの導電性の低下を抑制することができる。
これらの理由から、本発明の電極基板Iによれば、光電変換効率が高く、性能の経時的な低下が抑制された色素増感型太陽電池を低コストの下に容易に得ることが可能になる。
本発明の電極基板Iにおいては、(1)前記透明電極が、前記透明樹脂フィルムの片面に形成された接着剤層を更に含み、該接着剤層によって前記第1導電層が前記透明樹脂フィルムに接合されている(以下、この色素増感型太陽電池用電極基板を「電極基板II」ということがある。)こと、(2)前記腐食防止層が、前記第1導電層の外表面の他に該第1導電層の下地層表面のうちで前記第1導電層によって覆われていない領域も覆っている(以下、この色素増感型太陽電池用電極基板を「電極基板III」 ということがある。)こと、又は(3)前記透明電極が、前記腐食防止層をクロメート処理することによって形成された表面処理層を更に含み、該表面処理層が前記腐食防止層と前記第2導電層との間に介在している(以下、この色素増感型太陽電池用電極基板を「電極基板IV」ということがある。)こと、が好ましい。
上記の(1)に記載の電極基板IIによれば、第1導電層の材料として例えば圧延によって形成された金属箔を利用することが可能になるので、製造コストを抑え易い。上記の(2)に記載の電極基板III によれば、第1導電層とその下地層との界面に電解質が浸透することに起因する第1導電層の腐食や、下地層が腐食もしくは溶解することに起因する第1導電層の腐食を抑制することが可能になるので、色素増感型太陽電池の性能の経時的な低下を更に抑え易い。そして、上記の(3)に記載の電極基板IVによれば、ハロゲン系のレドックス対に対する耐食性が高い腐食防止層を形成し易い。
本発明の電極基板I〜IVのいずれにおいても、(4)前記第1導電層が銅薄膜、ニッケル薄膜、又はステンレス薄膜によって形成されている(以下、この色素増感型太陽電池用電極基板を「電極基板V」ということがある。)こと、とすることができる。
この電極基板Vによれば、第1導電層の導電率が高いことから、当該電極基板V全体の導電性を高め易い。
前述した第2の目的を達成する本発明の色素増感型太陽電池用電極基板の製造方法は、透明樹脂フィルムと、該透明樹脂フィルムの片面に形成された透明電極と、多数の半導体微粒子を用いて前記透明電極上に形成された多孔質半導体電極と、該多孔質半導体電極を形成している半導体微粒子の表面に担持された色素とを有する色素増感型太陽電池用電極基板の製造方法であって、多数の細線を組み合わせた形状を呈する金属製の第1導電層が片面に形成された透明樹脂フィルムを用意する準備工程と、前記透明樹脂フィルム上に、少なくとも前記第1導電層の外表面を覆うようにして、色素増感型太陽電池用の電解質に対して耐食性を有する腐食防止層を電気めっき、無電解めっき、又は化成処理により形成する腐食防止層形成工程と、前記腐食防止層を覆う金属酸化物製の第2導電層を形成する第2導電層形成工程と、前記第2導電層上に、多数の半導体微粒子を用いて前記多孔質半導体電極を形成する多孔質半導体電極形成工程と、前記多孔質半導体電極を形成している半導体微粒子の表面に色素を担持させる色素担持工程と、を含むことを特徴する。
本発明の色素増感型太陽電池用電極基板の製造方法によれば、前述した技術的効果を奏する本発明の電極基板Iを製造することができる。
本発明の色素増感型太陽電池用電極基板の製造方法においては、(A)前記準備工程が、接着剤によって片面に金属箔が接合された透明樹脂フィルムを用意する第1サブ工程と、前記金属箔をパターニングして前記第1導電層を得る第2サブ工程とを含むこと、(B)前記腐食防止層形成工程で、前記第1導電層の外表面の他に該第1導電層の下地層表面のうちで前記第1導電層によって覆われていない領域も覆うようにして前記腐食防止層を形成すること、又は(C)前記腐食防止層にクロメート処理を施す表面処理工程を更に含み、該表面処理工程を前記第2導電層形成工程の前に行うこと、が好ましい。
上記の(A)に記載の製造方法によれば、第1導電層の材料として例えば圧延によって形成された金属箔を利用することが可能になるので、製造コストを抑え易い。上記の(B)に記載の製造方法によれば、第1導電層の外表面のみならず、第1導電層とその下地層との界面、及び、下地層表面のうちで前記第1導電層によって覆われていない領域も腐食防止層によって覆われるので、第1導電層とその下地層との界面に電解質が浸透することに起因する第1導電層の腐食や、下地層が腐食もしくは溶解することに起因する第1導電層の腐食までも抑制される。その結果として、電解液による第1導電層の腐食が更に起こり難い電極基板Iを得ることができる。そして、上記の(C)に製造方法によれば、ハロゲン系のレドックス対に対する耐食性が高い腐食防止層を形成し易い。
本発明の色素増感型太陽電池用電極基板の製造方法のいずれにおいても、(D)前記第1導電層が銅薄膜、ニッケル薄膜、又はステンレス薄膜によって形成されていること、とすることができる。
この製造方法に製造方法によれば、第1導電層の導電率が高いことから、導電性が高い電極基板Iを易い。
前述した第3の目的を達成する本発明の色素増感型太陽電池は、色素が担持された半導体電極を有する第1の電極基板と、該第1の電極基板に対向して配置された第2の電極基板と、前記第1の電極基板と前記第2の電極基板との間に介在する電解質層とを備えた色素増感型太陽電池であって、前記第1の電極基板が上述した本発明の電極基板I〜Vのいずれかであることを特徴とする(以下、この色素増感型太陽電池を「色素増感型太陽電池I」ということがある。)。
第2の電極基板は、半導体電極を有していない電極基板であり、色素増感型太陽電池での対極として利用される。第2の電極基板の内側面(色素増感型太陽電池に使用したときの内側面)には、多くの場合、白金薄膜が形成されている。白金はハロゲン系のレドックス対によっても腐食しにくいので、基材として透明樹脂フィルムを用いた場合でも、第2の電極基板では白金薄膜以外に腐食防止層を形成する必要性に欠ける。
本発明の色素増感型太陽電池Iによれば、第1の電極基板として上述した本発明の電極基板I〜Vのいずれかを用いているので、光電変換効率が高く、性能の経時的低下が抑制されたものを低コストの下に得ることが容易である。
本発明の色素増感型太陽電池Iにおいては、前記第1の電極基板が前述した本発明の電極基板Vであること、とすることができる。
本発明の色素増感型太陽電池用電極基板によれば、可撓性及び光電変換効率が高く、性能の経時的な低下が抑制された色素増感型太陽電池を低コストの下に得ることが容易になるので、実用的な色素増感型太陽電池を得ることも容易になる。
また、本発明の色素増感型太陽電池用電極基板の製造方法によれば、上述した本発明の色素増感型太陽電池用電極基板を得ることができる。
そして、本発明の色素増感型太陽電池によれば、半導体電極を有する第1の電極基板として、上述した本発明の色素増感型太陽電池用電極基板を用いているので、可撓性及び光電変換効率が高いものを低コストの下に提供すること可能になる。
以下、本発明の色素増感型太陽電池用電極基板及びその製造方法、並びに色素増感型太陽電池それぞれの形態について、図面を参照しつつ順次説明する。
<色素増感型太陽電池用電極基板(第1形態)及びその製造方法>
図1は、本発明の色素増感型太陽電池用電極基板の基本的な断面構造の一例を示す概略図である。図示の色素増感型太陽電池用電極基板20(以下、「電極基板20」と称する。)では、透明樹脂フィルム1の片面に、第1導電層6と腐食防止層7と第2導電層8とを含む透明電極10が形成され、この透明電極10上に多孔質半導体電極15が形成されている。多孔質半導体電極15は多数の半導体微粒子15aにより形成されており、半導体微粒子15aの表面には色素17が担持されている。なお、図1においては、便宜上、色素17を1つの層として描いている。以下、電極基板20及びその製造方法について詳述する。
(1)透明樹脂フィルム
透明樹脂フィルム1は、その膜厚が125μmであるときに、紫外域から赤外域に亘る波長域中の所望の波長域の光を平均値で概ね85%以上透過させ、かつ、所望の耐光性及び耐候性を有するものであればよく、任意の樹脂材料を用いて、また必要に応じて各種の添加剤を併用して、種々の方法により形成することができる。上記「所望の波長域」は、多孔質半導体電極15及び色素17それぞれの吸収波長域を考慮して、適宜選定可能である。
この透明樹脂フィルム1としては、例えば、二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体フィルム、ポリエーテルサルフォン(PES)フィルム、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)フィルム、ポリエーテルイミド(PEI)フィルム、ポリイミド(PI)フィルム、ポリエステルナフタレート(PEN)フィルム、ポリカーボネート(PC)フィルム、環状ポリオレフィンフィルム等を用いることができる。電極基板20の製造コストを抑えるという観点からは、エンジニアリングプラスチックのような比較的高価な樹脂材料によって形成されたものよりも、比較的安価な樹脂材料によって形成されたものの方が好ましい。
透明樹脂フィルム1の膜厚は、電極基板20を用いて作製される色素増感型太陽電池の用途等に応じて、概ね15〜500μmの範囲内で適宜選定可能である。なお、後述するように透明電極10及び多孔質半導体電極15を形成する際には熱処理を施す必要があるので、透明樹脂フィルム1の材質及び膜厚を選定するにあたっては、その耐熱性をも考慮することが好ましい。
(2)透明電極
透明電極10は、電極基板20を用いて作製された色素増感型太陽電池に所望の波長域の光が照射されたときに、多孔質半導体電極15からキャリア(電子)を受け取るもの、又は、多孔質半導体電極15にキャリア(正孔)を伝えるものであり、この透明電極10は、上記の「所望波長域」の光を概ね80%以上透過させるものであることが好ましい。
図示の透明電極10は、透明樹脂フィルム1の片面全体に形成された接着剤層5と、接着剤層5によって透明樹脂フィルム1に接合された第1導電層6と、第1導電層6の外表面及び接着剤層3の露出面を覆う腐食防止層7と、腐食防止層7を覆う第2導電層8とを含んでいる。
接着剤層5は、主に金属箔(圧延金属箔や電解金属箔等)をパターニングして第1導電層6を形成する際に使用されるものである。例えば金属蒸着膜をパターニングして第1導電層6を得る場合や、蒸着によって第1導電層6を直接形成する場合には、接着剤層5を省略することができる。
この接着剤層5は、(i)透明電極10の光透過率が所望の値となる光透過性を有していること、(ii)金属箔と透明樹脂フィルムを接着剤により貼り合せた後に前記の金属箔をエッチングにより所望形状にパターニングして第1導電層6を形成する場合には、耐エッチング性を有していること、(iii) 色素増感型太陽電池の製造過程で多孔質半導体電極に色素を担持させる際に使用される色素溶液に対して耐溶剤性を有していること、(iv)色素増感型太陽電池に使用される電解質に対して耐性(耐電解質性)を有していること、が好ましい。
このような要件を満たす接着剤層5の材料の具体例としては、アクリル系、エステル系、ウレタン系、フッ素系、ポリイミド系、エポキシ系、ポリウレタンエステル系、アクリルウレタン系等の接着剤が挙げられる。これらの接着剤は、紫外線硬化型であってもよいし、熱硬化型であってもよい。透明樹脂フィルム1と前述の金属箔との接合は、上述した接着剤を用いて、ドライラミネーション法、ウェットラミネーション法等の方法により行うことができる。
第1導電層6は、透明電極10の導電性を高めるためのものであり、多数の細線を組み合わせた形状を呈する金属製の導電層である。ここで、本発明でいう「金属製の導電層」とは、単体金属によって形成された導電層を含む他に、合金によって形成された導電層をも含むものとする。
第1導電層6の平面視上の形状は、透明電極10の光透過率が所望の値となる範囲内で、例えば図2に示すような格子状の他、網目状、平行ストライプ状等、適宜選定可能である。
導電性の高い透明電極10を得るという観点から、第1導電層6の材料としては、銅(Cu)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、金(Au)、銀(Ag)、チタン(Ti)、ステンレス等の金属又は合金を用いることが好ましく、これらの中でも、導電性の高い材料である銅、ニッケル、チタン、ステンレス等を用いることが好ましい。また、電極基板20の製造コストを抑えるという観点からは、安価な金属である銅、ニッケル、ステンレスを用いることが好ましい。第1導電層6の膜厚は、その材質及び形状に応じて、透明電極10の光透過率及びシート抵抗が所望の値となる範囲内で適宜選定でき、概ね5〜50μmである。
第1導電層6の材料として銅薄膜を用いる場合には、電磁波シールドフィルムの材料として使用される導電性フィルム、すなわち、透明樹脂フィルムの片面に接着剤によって銅箔が接合されているフィルム、あるいは、電磁波シールドフィルムそのものを転用することができるので、電極基板20の製造コストを抑えるうえで有利である。上記の導電性フィルム又は電磁波シールドフィルムを転用した場合には、その基材である透明樹脂フィルをそのまま電極基板20の透明樹脂フィル1として利用することができる。
腐食防止層7は、電極基板20を用いて色素増感型太陽電池を作製したときに、電解質が第1導電層6にまで浸透するのを防止するためのものであり、電気めっき、無電解めっき、又は化成処理によって形成される。また、この腐食防止層は、色素増感型太陽電池用の電解質に対して耐食性を有している材料によって形成される。
第2導電層8は、色素増感型太陽電池に所定の波長域の光が照射されたときに、多孔質半導体電極15からキャリア(電子)を受け取るもの、又は、多孔質半導体電極15にキャリア(正孔)を供給するものであり、種々の導電性金属酸化物を用いて形成することが可能である。第1導電層6が開口部を有する場合、第2導電層8は、第1導電層6をその開口部も含めて平面視上覆うように形成することが好ましい。
この第2導電層8は、光透過性及び導電性を考慮すると、酸化インジウムスズ(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ、酸化スズ、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化亜鉛(ZnO)等によって形成することが好ましく、これらの中でも、導電性及び光透過性の両方に優れた材料であるフッ素ドープ酸化スズ又はITOによって形成することが好ましい。第2導電層8の膜厚は概ね0.1nm〜500nmの範囲内で適宜選定可能であり、そのシート抵抗は概ね15Ω/□以下のできるだけ低い値であることが好ましい。
電極基板20を製造するにあたっては、まず、第1導電層6が片面に形成された透明樹脂フィルム1を用意する準備工程、少なくとも第1導電層6の外表面を覆うようにして腐食防止層7を形成する腐食防止層形成工程、及び腐食防止層7を覆う金属酸化物製の第2導電層8を形成する第2導電層形成工程を順次行って、透明樹脂フィルム1上に透明電極10を形成する。
準備工程で用意する透明樹脂フィルム1、すなわち、第1導電層6が片面に形成された透明樹脂フィルム1は、自ら製造してもよいし、他で製造されたものを購入してもよい。
第1導電層6を自ら形成する場合、この第1導電層6は、その元となる金属箔又は金属蒸着膜を、例えばフォトリソグラフィーを利用して所望のパターン形状にエッチングすることにより、形成することができる。フォトリソグラフィーを利用して第1導電層6を形成するにあたっては、例えば、レジスト塗布、プリベーク、露光(密着露光)処理、現像処理、及びポストベークを順次行ってレジストパターン(エッチングマスク)を形成し、このレジストパターン(エッチングマスク)を用いて酸化鉄や塩化第二鉄溶液等のエッチング液によるエッチングを行った後に、レジストパターン(マスク)の剥離、及びリンス処理をこの順番で行う。上記の金属蒸着膜は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理気相成長法(PVD法)や、プラズマCVD等の化学気相成長法(CVD法)等によって形成することができる。
金属蒸着膜を成膜するにあたって、形成したい第1導電層6の形状に対応したパターンの開口部を有するマスクを利用すれば、金属蒸着膜の成膜だけで直接第1導電層6を形成することができる。
前述した準備工程に引き続き行われる腐食防止層形成工程では、電気めっき、無電解めっき、又は化成処理によって前述した腐食防止層7を形成する。電気めっき、無電解めっき、又は化成処理によれば、透明樹脂フィル1の耐熱性が低くても、比較的緻密な腐食防止層7を容易に形成することができる。このときのめっき条件、化成処理条件は、透明樹脂フィルム1の耐熱性や形成しようとする腐食防止層7の組成等に応じて、適宜選定される。
例えば電気めっきによれば、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、金(Au)、白金(Pt)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、カドミウム(Cd)、タングステン(W)、スズ(Sn)、コバルト(Co)、及び鉄(Fe)等の金属、又は前記の金属同士の合金を含み、色素増感型太陽電池用の電解質に対して耐食性を有する腐食防止層7を形成することができる。電気めっきの際のめっき浴としては、例えば上述の金属のイオンを含有した通常のめっき浴(シアン浴、硼弗化浴、ピロリン酸浴、及びジンケート浴や、次亜リン酸又は水素化硼素塩を添加しためっき浴等)を用いることができる。
無電解めっきによれば、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、金(Au)、白金(Pt)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、カドミウム(Cd)、タングステン(W)、スズ(Sn)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、及びジルコニウム(Zr)等の金属、又は前記の金属同士の合金を含み、色素増感型太陽電池用の電解質に対して耐食性を有する腐食防止層7を形成することができる。無電解めっきの際のめっき浴としては、例えば上述の金属のイオンを含有した通常のめっき浴(アルカリ浴等)を用いることができる。無電解めっきによれば、対象物全体をめっき溶中に浸漬させることにより、対象物全体に腐食防止層を形成することができる。
化成処理方法による腐食防止層7の形成は、例えばリン酸金属塩を含有した化成処理剤(以下、「リン酸金属塩化成処理剤」という。)を、第1導電層6まで形成した透明樹脂フィルム1に第1導電層6側から塗布することによって、あるいは、第1導電層6まで形成した透明樹脂フィルム1をリン酸金属塩化成処理剤に浸漬することによって、行うことができる。リン酸金属塩化成処理剤を塗布する場合、塗布方法としては公知の手法を用いることができる。
上記のリン酸金属塩の具体例としては、例えばリン酸クロム(III)塩、リン酸クロム(VI)塩、リン酸ジルコニウム塩、リン酸チタン塩、リン酸リチウム塩、リン酸マンガン塩、リン酸亜鉛塩、リン酸コバルト塩、リン酸スズ塩、リン酸ニッケル塩、リン酸タングステン塩、リン酸モリブデン塩等が挙げられる。これらのリン酸金属塩は、1種単独で、又は2種以上を混合して使用される
なお、腐食防止層7を形成するにあたっては、前処理として予め脱脂処理をしておくことが好ましい。脱脂処理の方法としては、例えばアルカリ浸漬法、電解洗浄法、酸洗浄法、電解酸洗浄法、酸活性化法等の公知の方法を用いることができる。予め脱脂処理を行うことにより、より緻密な腐食防止層7を形成することができる。
腐食防止層7は、少なくとも第1導電層6の外表面(上面及び各側面)を覆っていればよいが、図示のように、第1導電層6の外表面の他に、第1導電層6の下地層(図示の例では接着剤層5)表面のうちで第1導電層6によって覆われていない領域も覆っていることが好ましい。このような腐食防止層7を形成することにより、電極基板20を用いて色素増感型太陽電池を作製したときに、第1導電層6とその下地層との界面に電解質が浸透することに起因する第1導電層6の腐食や、下地層が腐食もしくは溶解することに起因する第1導電層6の腐食を抑制することが可能になる。
必要に応じて、腐食防止層7をクロメート処理することもできる。このクロメート処理は、腐食防止層7の主成分が亜鉛であるときに特に好適である。クロメート処理を施すことにより、電極基板20を用いて色素増感型太陽電池を作製したときに電解質が第1導電層6に浸透するのを更に抑制することが可能になる。クロメート処理を行う際の条件は、透明樹脂フィル1の耐熱性や腐食防止層7の組成等に応じて、適宜選定される。腐食防止層7をクロメート処理した場合には、クロメート処理によって形成された表面処理層(図示せず。)が、腐食防止層7と第2導電層8との間に介在することになる。
上記の表面処理層は、例えば、クロムを含む金属、銅クロム合金等からなるクロム合金、又は酸化クロムからなる被膜である。クロメート処理は、亜鉛めっき又は亜鉛合金めっきによって形成した腐食防止層7に施すことが特に好ましい。クロメート処理の対象物が亜鉛めっき層又は亜鉛合金めっき層である場合には、表面処理層(クロメート処理層)とめっき層(腐食防止層7)との密着性をより高めることができる。
上述のようにして腐食防止層を形成する腐食防止層形成工程を行った後、腐食防止層7を覆う金属酸化物製の第2導電層8を形成する第2導電層形成工程を行うことにより、透明電極10を得ることができる。
第2導電層8の形成は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理気相成長等により行うことができ、製造コストを抑えるという観点からはイオンプレーティング法、スパッタリング法により行うことが好ましい。
(3)多孔質半導体電極
多孔質半導体電極15は、光励起された色素17からキャリア(電子)を受け取ることができるもの、又は、光励起された色素17にキャリア(正孔)を伝えることができるものであればよい。この多孔質半導体電極15は、単一成分の層とすることもできるし、混合物の層とすることもできる。更には、複数の多孔質半導体膜の積層物とすることもできる。多孔質半導体電極15の導電型は、通常、N型である。
多孔質半導体電極15の材料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウムスズ、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化セシウム、酸化ビスマス、酸化マンガン、酸化イットリウム、酸化タングステン、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化ランタン等の金属酸化物半導体を用いることができる。これらの金属酸化物半導体は多孔質半導体層を形成するのに適しており、色素増感型太陽電池のエネルギー変換効率の向上、コストの削減を図ることができるため好ましい。電極基板20を用いた色素増感型太陽電池の耐久性や、電極基板20を製造する際の安全性及び経済性等を考慮すると、多孔質半導体電極15の材料としては酸化チタンが好ましく、特に、アナターゼ型の酸化チタンが好ましい。なお、本発明でいう「半導体微粒子」は、微粒子形状の半導体を含む他に、不定形の微小半導体や微粉末状の半導体をも含むものとする。
上記の金属酸化物半導体微粒子の平均粒子径は概ね10〜250nmの範囲内であることが好ましく、特に、量子サイズ効果が発現する大きさであることが好ましい。また、多孔質半導体層7の膜厚は、概ね5〜30μmの範囲内で適宜選定可能である。
電極基板20を製造するにあたっては、前述した第2導電層形成工程に引き続き、多数の半導体微粒子を用いて第2導電層8上に多孔質半導体電極15を形成する多孔質半導体電極形成工程を行う。電極基板20を用いた色素増感型太陽電池の光電変換効率を高めるという観点からは、色素9を多孔質半導体電極15に単分子膜状に、かつ、できるだけ多量に担持させることが好ましく、そのためには、多孔質半導体電極15の比表面積をできるだけ大きくすることが好ましい。また、同様の観点から、多孔質半導体電極15は、量子サイズ効果が発現するメソスコピックな多孔質体にすることが特に好ましい。
多孔質半導体電極15は、例えばゾルゲル法によって形成することもできるが、ゾルゲル法によって形成する場合には比較的高温での焼結処理が必要となることから、透明樹脂フィルム1の耐熱性が低い場合には不向きである。多孔質半導体電極15を比較的低温で形成するうえからは、所望の金属酸化物半導体微粒子が分散した塗布液を調製し、この塗布液を第2導電層8上に塗布した後に乾燥させることが好ましい。
必要に応じて、上記の塗布液には、多孔質半導体電極15において光散乱中心(図示せず。)として機能する微粒子を含有させることができる。多孔質半導体電極15にこの微粒子を組み込むことにより、色素17の光励起に寄与する光量を増大させることができ、結果として、色素増感型太陽電池の光電変換効率を向上させることができる。光散乱中心として機能する微粒子の具体例としては、例えば粒子径が概ね50〜200nmの酸化チタン微粒子を挙げることができる。
多孔質半導体電極15を形成するための塗布液は、例えば、(i)所定の溶媒中で半導体微粒子を結晶化微粒子として析出させてゾル液とする方法、又は(ii)半導体微粒子をボールミル、サンドミル、ロールミル等で適当な分散媒と混合し、混練機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー等の公知の分散機により分散媒中に分散させて分散液とする方法、によって調製することができる。上記(ii)の方法によって塗布液を調製するにあたって、使用する半導体微粒子が凝集していた場合には、分散液を得るまでの工程の適当な時期、例えば分散媒と混合する前や、分散媒と混合する過程で、あるいは分散媒と混合した後に、凝集している半導体微粒子をほぐすことが好ましい。上記(i)のゾル液と上記(ii)の分散液とを混合して塗布液を調製することもできる。
上記の分散媒としては、例えば、(a)クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン等の塩素系分散媒、(b)テトラヒドロフラン等のエーテル系分散媒、(c)トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系分散媒、(d)アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系分散媒、(e)酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート等のエステル系分散媒、(f)イソプロピルアルコール(IPA)、エタノール、メタノール、ブチルアルコール等のアルコール系分散媒、(g)その他(N−メチル−2−ピロリドン、純水等)、を用いることができる。塗布液に後述の結着剤を含有させる場合には、この結着剤を溶解させることが可能な分散媒を用いる。
多孔質半導体電極15と透明電極10との密着性や多孔質半導体電極15自身の機械的強度を向上させるために、上述の塗布液には、高分子材料からなる結着剤を溶解させることができる。例えば、セルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、フッ素系樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂や、ポリエチレングリコールのような多価アルコール類を結着剤として使用することができる。塗布液中への結着剤の添加量は極力少ない方が好ましい。具体的には、塗布液中の全固形分に対する結着剤の割合を0.5質量%以下とすることが好ましく、0.2質量%以下とすることが更に好ましい。
塗布液には、上述の結着剤の他に、その塗工適性を向上させるために各種の添加剤を含有させることができる。この添加剤としては、例えば、界面活性剤、粘度調整剤、分散助剤、pH調整剤等が挙げられる。例えば、pH調整剤としては、硝酸、塩酸、酢酸、ジメチルホルムアミド、アンモニア等を用いることができる。
塗布液の塗工方法としては、ダイコート、グラビアコート、グラビアリバースコート、ロールコート、リバースロールコート、バーコート、ブレードコート、ナイフコート、エアナイフコート、スロットダイコート、スライドダイコート、ディップコート、マイクロバーコート、マイクロバーリバースコート、スクリーン印刷(ロータリー方式)、インクジェット、スプレーコート等、種々の方法を適用することができる。このような塗工方法により単数回又は複数回、塗布液の塗布及び乾燥を繰り返して、所望の膜厚の多孔質半導体電極15を形成する。塗膜の乾燥は、透明樹脂フィルム1の耐熱温度以下で行う必要がある。具体的には、概ね100℃以上、透明樹脂フィルム1の耐熱温度以下の温度範囲内で加熱乾燥することが好ましい。
(4)色素
色素17は、多孔質半導体電極15を増感させるためのものである。この色素17としては、(A)その吸収波長域が、多孔質半導体電極15の吸収波長域よりも長波長側にまで及んでいるもの、(B)多孔質半導体電極15がN型半導体である場合には、光励起されたときの電子のエネルギー準位が多孔質半導体電極15の伝導帯端の位置よりも高いもの、(C)多孔質半導体電極15がN型半導体である場合には、多孔質半導体電極15へキャリアを注入するのに要する時間が、多孔質半導体電極15からキャリアを再捕獲するのに要する時間に比べて短いもの、が好ましい。
例えば多孔質半導体電極15がアナターゼ型の酸化チタンによって形成されている場合、色素17としては、下式(I)によって表されるルテニウム錯体を用いることが好ましい。
Figure 0004951853
電極基板20を用いて光電変換効率の高い色素増感型太陽電池を得るうえからは、上記の式(I)で示されるルテニウム錯体の中でも、XがNCS(チオシアネート)である(シス−ジ(チオシアネート)−N、N’−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸)ルテニウム(II)を用いることが特に好ましい。
勿論、上述したルテニウム錯体以外の金属錯体色素や、有機色素を使用することもできる。有機色素の具体例としては、例えば、アクリジン系、アゾ系、インジゴ系、キノン系、クマリン系、メロシアニン系、フェニルキサンテン系の色素が挙げられる。これらの有機色素の中でも、クマリン系の色素が好ましい。
電極基板20を製造するにあたっては、前述した多孔質半導体電極形成工程に引き続き、多孔質半導体電極15に色素を担持させる色素担持工程を行う。この工程で、色素17は、多孔質半導体電極15を形成している半導体微粒子15aの表面に担持される。光電変換効率の高い色素増感型太陽電池を得るという観点からは、できるだけ多くの半導体微粒子15aに色素17を担持させることが好ましく、特に、多孔質半導体電極15を形成している半導体微粒子15aそれぞれの表面に色素17を担持させることが好ましい。
そのためには、多孔質半導体電極15の細孔内表面にまで色素17を吸着させることが可能な方法によって、多孔質半導体電極15に色素17を担持させることが好ましい。例えば、色素の溶液(以下、「色素担持用塗工液」という。)を調製し、この色素担持用塗工液に多孔質半導体電極15まで形成した電極基板を浸漬し、その後に乾燥するという方法、あるいは、色素担持用塗工液を多孔質半導体電極15に塗布し、浸透させた後に乾燥するという方法等によれば、多孔質半導体電極15の細孔内表面にまで色素9を吸着させることができ、半導体微粒子15aそれぞれの表面に色素17を担持させることも可能である。色素担持用塗工液は、用いる色素の種類に応じて水系溶媒及び有機系溶媒のいずれかを適宜選択して、調製する。
光電変換効率の高い色素増感型太陽電池を得るという観点からは、色素17を単分子膜の状態で多孔質半導体電極15に担持させることが好ましく、そのためには、多孔質半導体電極15に担持された余分な色素を、色素担持用塗工液の調製に使用し得る溶媒等によって洗浄、除去することが好ましい。
多孔質半導体電極15に予め表面処理を施しておくことにより、多孔質半導体電極15がN型半導体のときには色素17から多孔質半導体電極15へのキャリアの移動速度を高めることが可能である。多孔質半導体電極15に色素17を担持させた後にこれら多孔質半導体電極15及び色素17に所定の処理、例えば、多孔質半導体電極15が酸化チタンによって形成され、色素17が上述したルテニウム錯体である場合には、t−ブチルピリジン等の塩基による処理を施すことにより、電極基板20を用いた色素増感型太陽電池の光電変換効率を向上させることが可能である。
(5)任意部材
必要に応じて、電極基板20にはガスバリア層やパターニング層等を形成することができる。以下、これらの任意部材について説明する。
(a)ガスバリア層
ガスバリア層は、電極基板20を用いて色素増感型太陽電池を作製したときに、電極基板20を通して酸素や水分が色素増感型太陽電池内に侵入すること、及び、色素増感型太陽電池で使用される電解質が電極基板20を通して外部に揮散すること、を防止するためのものであり、透明樹脂フィルム1と透明電極10との間又は透明樹脂フィルム1の背面(透明電極10が形成されている面とは反対側の面を意味する。)に設けることができる。
このガスバリア層の酸素透過率は概ね1cc/m /day・atm(約10ml/m /day/MPa)以下であることが好ましく、その水蒸気透過率は概ね1g/m /day以下であることが好ましい。このようなガスバリア層は、所望の有機材料の蒸着膜(物理気相成長法又は化学気相成長法によって形成された膜を意味する。以下同じ。)又はフィルムによって、あるいは、所望の無機材料の蒸着膜によって、形成することができる。
色素増感型太陽電池内への酸素の侵入を防止することにより、色素17や電解質の劣化が抑制されるので、色素増感型太陽電池の性能の経時的な低下を抑制することができる。また、水分の侵入を抑制することにより、例えば第2導電層8をITOのように比較的水分によって劣化し易い材料によって形成した場合でもその性能の経時的低下が抑制されるので、色素増感型太陽電池の性能の経時的低下を抑制することができる。
(b)パターニング層
本明細書でいう「パターニング層」とは、光照射によって表面の濡れ性を変化させることができる層を意味する。このパターニング層の具体例としては、(i)疎水性バインダー中に光触媒(光半導体の微粒子)が分散した構造を有する光触媒含有層、(ii)クロロシランやアルコキシシラン等を加水分解、重縮合して得られるオルガノポリシロキサンの層、(iii) 撥水牲や撥油性に優れた反応性シリコーンが架橋したオルガノポリシロキサンの層、(iv)フルオロアルキルシラン等を用いた撥水性を示す自己組織化膜、等を挙げることができる。
上記(i)の光触媒含有層は、この光触媒含有層に含まれている光触媒の吸収波長を含む波長域の光でその表面を選択的に露光することにより、露光された領域の濡れ性を変化させてここを親水化することができる。このような光触媒含有層は、例えば、疎水性バインダー中に光触媒が分散した塗工液を調製し、この塗工液を所望箇所に塗布して塗膜を形成した後、この塗膜を乾燥することにより形成することができる。
また、上記(ii)〜(iv)の各層は、例えば紫外光によってその表面を選択的に露光することにより、露光された領域の濡れ性を変化させてここを親水化することができる。上記(ii)〜(iv)の各層の表面を選択的に露光するにあたっては、必要に応じて、フォトマスク(紫外線マスク)における被露光物側の表面に光触媒含有層を設けることができる。この光触媒含有層をフォトマスクに設けることにより、より長波長の紫外光によっても所望の親水化処理を施すことが可能になる。
パターニング層は透明電極10上に設けられて、多孔質半導体電極15の下地層として使用される。パターニング層の表面のうちで多孔質半導体電極15を形成しようとする領域が上述のようにして親水化される。この状態のパターニング層上に多孔質半導体層15の材料となる前述の塗布液を塗工すると、実質的に上記の親水化された領域上にのみ塗膜、ひいては多孔質半導体電極15を形成することができる。
例えば動作電圧又は動作電流の大きい色素増感型太陽電池を得るうえからは、この色素増感型太陽電池の構造を、比較的小型のセルが複数個、電気的に並列又は直列に接続された構造にすることが好ましい。この場合、1つの電極基板20には、1つの透明電極10が形成されてその上に複数の多孔質半導体電極15が形成されるか、又は、複数の透明電極10が形成されて個々の透明電極10上に多孔質半導体電極15が1つずつ形成されることになる。パターニング層は、複数の多孔質半導体電極15を所望箇所に形成するうえで有用である。
以上説明した部材によって構成されている電極基板20では、金属酸化物製の第2導電層8の他に金属製の第1導電層6が形成されているので、全体の導電性を比較的容易に高めることができる。また、第1導電層6の外表面を覆う腐食防止層7として、電気めっき、無電解めっき、又は化成処理によって形成されたものが用いられているので、透明樹脂フィルム1の耐熱性が比較的低くても、腐食防止層7の緻密化を図り易い。
更に、この腐食防止層7は色素増感型太陽電池用の電解質に対して耐食性を有している。したがって、たとえ色素増感型太陽電池の電解質にハロゲン系のレドックス対が含有されていたとしても、また、たとえ第1導電層6の材料がハロゲン系のレドックス対によって腐食され易いものであったとしても、このレドックス対によって第1導電層6が腐食されることに起因する電極基板20の導電性の低下を抑制することができる。第1導電層6の材料として安価で導電性の高い銅等を使用した場合でも、電極基板20の導電性の低下を抑制することができる。
これらの理由から、電極基板20によれば、光電変換効率が高く、性能の経時的な低下が抑制された色素増感型太陽電池を低コストの下に容易に得ることが可能になる。
<色素増感型太陽電池用基板(第2形態)>
図3は、本発明の色素増感型太陽電池用電極基板の基本的な断面構造の他の例を示す概略図である。図示の色素増感型太陽電池用電極基板20A(以下、「電極基板20A」と称する。)は、99.3%よりも高純度のアルミニウムによって第1導電層6Aが形成され、かつ、図1に示した第1形態の電極基板20で形成されている腐食防止層7が当該電極基板20Aでは省略されているという点で、第1形態の電極基板20と異なる。
この点を除けば、本形態の電極基板20Aは第1形態の電極基板20と同様の構成を有している。図示のように、第2導電層8は、第1導電層6Aの外表面を覆っていると共に、第1導電層6Aによって覆われることなく露出している接着剤層5の表面を覆っている。図3に示した構成部材のうち、第1導電層6A以外の構成部材は図1に示した電極基板20と共通するので、これらの構成部材については図1で用いた参照符号と同じ参照符号を付してその説明を省略する。
第1導電層6Aは、上述のように高純度のアルミニウムによって形成されたものである。この第1導電層6Aは、例えば、所望膜厚のアルミニウム箔を接着剤層5によって透明樹脂フィルム1上に接合し、その上に所定形状のエッチングマスクを形成してからエッチングを施して所望形状にパターニングすることにより、得ることができる。
第1導電層6Aの材料として用いるアルミニウムの純度は、ヨウ素系のレドックス対を含有した電解液に対する耐食性が高い電極基板20Aを得るという観点から、99.3%よりも高いことが好ましく、99.5%以上であることが更に好ましい。
このように、電極基板20Aは高純度のアルミニウムによって形成された第1導電層6Aを有しているので、電解液にヨウ素系のレドックス対が含有されている色素増感型太陽電池用の電極基板として特に好適である。この電極基板20A5では、第1導電層6Aの耐食性が高いことから、第1形態の電極基板20で使用されている腐食防止層7を省略したとしても、第1導電層6Aが腐食されることに起因する導電性の低下を抑制することができる。したがって、電極基板20Aによれば、光電変換効率が高く、性能の経時的な低下が抑制された色素増感型太陽電池を低コストの下に容易に得ることが可能になる。なお、必要に応じて、第1形態の電極基板20におけるのと同様にして、第1導電層6Aの外表面を覆う腐食防止層を電気めっき、無電解めっき、又は化成処理により形成することもできる。
<色素増感型太陽電池(第1形態)>
図4は、本発明の色素増感型太陽電池の基本的な断面構造の一例を示す概略図である。図示の色素増感型太陽電池50では、上述した第1形態の電極基板20が光電極として用いられており、透明樹脂フィル22の片面に第1導電膜24と第2導電膜26とがこの順番で積層された色素増感型太陽電池用電極基板30(以下、「電極基板30」と称する。)が対極として用いられている。電極基板30に代えて、図1に示した透明電極10が透明樹脂フィルムの片面に形成され、この透明電極10上に図4に示した第2導電膜26に相当する導電膜が形成されている電極基板を用いてもよい。
電極基板20の構成については既に説明したので、ここでは省略する。また、対極として用いられている電極基板30における透明樹脂フィルム22及び第1導電膜24としては、それぞれ、上述した電極基板20での透明樹脂フィルム1又は第2導電層8と同様のものを用いることができるので、これら透明樹脂フィルム22及び第1導電膜24についても、ここではその説明を省略する。
第2導電膜26は、電極基板20の導電性を向上させるためのものである。第2導電膜26は、電極基板30を用いた色素増感型太陽電池で使用される電解質の種類に応じて、この電解質に対して耐食性を有する導電性材料を適宜選択して形成することが好ましい。第2導電膜26の材料としては白金(Pt)が最も好ましいが、カーボン、導電性高分子等によって第2導電膜26を形成することもできる。電極基板30を用いて光電変換効率の高い色素増感型太陽電池を得るという観点からは、色素増感型太陽電池の電解質においてレドックス対を構成する一方のイオン種が光照射時にキャリアと反応して他方のイオン種を生成する際に触媒として機能し得る金属(例えば白金(Pt))によって、第2導電膜26を形成することが好ましい。
この第2導電膜26は、例えば蒸着法、スパッタリング法、CVD法等の方法により形成することができ、その膜厚は概ね1〜500nmの範囲内で適宜選定可能である。電極基板30の製造コストを抑えるという観点からは、スパッタリング法によって第2導電膜26を形成することが好ましい。
光電極である電極基板20と対極である電極基板30とは、電極基板20中の多孔質半導体電極15と電極基板30中の第2導電膜26とが互いに対向するようにして配置されており、これらの電極基板20、30の間には電解質層35が介在している。電極基板20中の透明電極10はリード線40aによって負荷45に接続されており、この負荷45はリード線40bによって電極基板30中の第1導電膜24に接続されている。なお、図示を省略しているが、色素増感型太陽電池50では、電解質層35を形成している電解質が漏出するのを防止するために、電極基板20、30及び電解質層35の周囲を封止剤により封止している。
電極基板20、30の間隔を精度よく所望の間隔に保って短絡を防止するために、電極基板20と電極基板30との間にガラススペーサ、樹脂スペーサ、オレフィン系多孔質膜等のスペーサを配置してもよい。スぺーサーは、電極基板20、30の一方に予め形成しておくこともできるし、色素増感型太陽電池を組み立てる際に電極基板20、30の少なくとも一方に固着させて使用することもできる。また、前記スペーサが封止剤を兼ねることもできる。
電解質層35は、電極基板20と電極基板30との間に位置し、光励起された色素17によって還元される一方で、電極基板30を介して供給されるキャリア(電子)によって酸化されて、電極基板20、リード線40a、負荷45、リード線40b、及び電極基板30を含む閉回路の形成を可能にする。
この電解質層35の材料としては、キャリアの輸送に寄与するレドックス対を少なくとも含有した、色素増感型太陽電池に用いられる種々の電解質を用いることができ、その形態は液体状、固体状、及びゲル状のいずれでもよい。色素増感型太陽電池50の耐久性及び安定性の向上を図るという観点からは、常温溶融塩電解液又はゲル状の電解質を用いることが好ましい。
上記のレドックス対は、電解質に用いられるものであれば特に限定はされるものではなく、その原料の組み合わせとしては、ヨウ素とヨウ化物との組み合わせ、又は、臭素と臭化物との組み合わせが挙げられる。例えば、ヨウ素とヨウ化物との組合せの具体例としては、ヨウ化リチウム(LiI)、ヨウ化ナトリウム(NaI)、ヨウ化カリウム(KI)、ヨウ化カルシウム(CaI )等の金属ヨウ化物とヨウ素(I )との組み合わせを挙げることができる。また、臭素と臭化物との組み合わせの具体例としては、臭化リチウム(LiBr)、臭化ナトリウム(NaBr)、臭化カリウム(KBr)、臭化カルシウム(CaBr )等の金属臭化物と臭素(Br )との組み合わせを挙げることができる。
電解質層35の材料としてゲル状の電解質を用いる場合、この電解質は物理ゲル及び化学ゲルのいずれであってもよい。物理ゲルは物理的な相互作用で室温付近でゲル化しているものであり、化学ゲルは架橋反応等の化学結合でゲルを形成しているものである。物理ゲルは、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリレート等のゲル化剤を用いて作製することができ、化学ゲルは、アクリル酸エステル系、メタクリル酸エステル系のもの等を用いることができる。
また、電解質層35の材料として固体状の電解質を用いる場合、この電解質としてはヨウ化銅(CuI)や、ポリピロール、ポリチオフェン等の正孔輸送性の高い導電性の高分子を用いることが好ましい。
電解質層35の厚さは適宜選定可能であるが、電解質層35の厚さと多孔質半導体電極15の膜厚との合計が2μm〜100μmの範囲内、その中でも、2μm〜50μmの範囲内になるように電解質層35の厚さを選定することが好ましい。上記の範囲よりも電解質層35の厚さが薄いと、多孔質半導体電極15と第2導電膜26とが接触し易くなるため、短絡の原因となる。また、電解質層35の厚さが上記の範囲よりも厚いと、色素増感型太陽電池50の内部抵抗が大きくなり、性能が低下する。
上述した電解質層35は、その材料に応じて、種々の方法により形成することができる。例えば、電解質層35の形成に用いる電解質層形成用塗工液を多孔質半導体電極15上に塗布し、乾燥させることにより形成する方法(以下、「塗布法」と記載する場合がある。)、又は、多孔質半導体電極15と第2導電層26とが所定の間隔を有するように電極基板20、30を配置し、電極基板20と電極基板30との間隙に電解質層形成用塗工液を注入することにより電解質層35を形成する方法(以下、「注入法」と記載する場合がある。)等を挙げることができる。以下、これらの「塗布法」及び「注入法」について説明する。
(I)塗布法
塗布法は、主に固体状の電解質層を形成するために用いられる方法であり、この塗布法で用いる電解質層形成用塗工液としては、少なくともレドックス対とこのレドックス対を保持する高分子とを含有したものを用いる。他に、架橋剤や光重合開始剤等が添加されていることが好ましい。
電解質層形成用塗工液の塗布は、ダイコート、グラビアコート、グラビアリバースコート、ロールコート、リバースロールコート、バーコート、ブレードコート、ナイフコート、エアナイフコート、スロットダイコート、スライドダイコート、ディップコート、マイクロバーコート、マイクロバーリバースコートや、スクリーン印刷(ロータリー方式)等、種々の方法によって行うことができる。
電解質層形成用塗工液に上述の光重合開始剤が含有されている場合には、この電解質層形成用工液を塗布した後に光重合開始剤を感光させることにより、電解質層35を形成することができる。
(II)注入法
注入法は、液体状、ゲル状又は固体状の電解質層を形成するために用いられる方法であり、この方法で電解質層35を形成する際には、前述したスペーサを利用して、電極基板20と電極基板30とが所望の間隔に保持されたセルを予め形成しておくことが好ましい。電解質層形成用塗工液の注入は、例えば毛細管現象を利用して行うことができる。ゲル状又は固体状の電解質層35を形成する場合には、電解質層形成用塗工液を注入した後に例えば温度調整、紫外線照射、電子線照射等を行って、二次元又は三次元の架橋反応を生じさせる。
以上説明した色素増感型太陽電池50は、前述した第1形態の電極基板20を備えているので、当該電極基板20についての説明の中で述べた理由と同じ理由から、光電変換効率が高く、性能の経時的低下が抑制されたものを低コストの下に得ることが容易なものである。
<色素増感型太陽電池(第2形態)>
図5は、本発明の色素増感型太陽電池の基本的な断面構造の他の例を示す概略図である。図示の色素増感型太陽電池60は、図3に示した第2形態の電極基板20Aが光電極として用いられているという点で、第1形態の色素増感型太陽電池50と異なる。この点を除けば、本形態の色素増感型太陽電池60は第1形態の色素増感型太陽電池50と同様の構成を有しているので、図5に示した構成部材のうちの電極基板20A以外の構成部材については、図4で用いた参照符号と同じ参照符号を付してその説明を省略する。
このような構成を有する色素増感型太陽電池60は、前述した第2形態の電極基板20Aを備えているので、当該電極基板20Aについての説明の中で述べた理由と同じ理由から、光電変換効率が高く、性能の経時的低下が抑制されたものを低コストの下に得ることが容易なものである。
<実施例1>
(準備工程)
まず、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡社製のE5100)と厚さ9μmの銅箔とを、ウレタン系接着剤(Tg;20℃、平均分子量;3万)を用いたドライラミネーション加工により貼り合わせた。
次に、上記の銅箔上にレジストを塗布してレジスト層を形成し、このレジスト層に所定形状のマスクを用いての露光処理、及び現像処理を順次施して所定形状のエッチングマスクを形成してから、前記の銅箔をエッチングし、その後にレジスト除去(エッチングマスクの剥離)を行った。これにより、前記の銅箔が格子状にパターニングされて、第1導電層が得られた。この第1導電層における開口部(格子の目に相当する部分)の大きさは300μm□であり、各部の線幅は10μmである。また、第1導電層の開口率は90%である。第1導電層の各開口部からは、上記のPETフィルムと銅箔とを貼り合わせるために用いた接着剤層が露出している。
(腐食防止層形成工程)
まず、水に塩化ニッケルを300g/l、塩化スズを15g/l、酸性フッ化アンモニウムを56g/l、ホウ酸を30g/lの割合でそれぞれ溶解させて、ニッケル(Ni)−スズ(Sn)合金めっき浴を調製した。
次に、第1導電層が形成された上記のPETフィルムを上述のめっき浴に浸漬し、10分間電気めっきを行った。これにより、第1導電層の外表面にはNi−Sn合金からなる腐食防止層が形成された。なお、腐食防止層の組成は、X線回折により同定した。
(第2導電層形成工程)
腐食防止層まで形成した上記のPETフィルムをイオンプレーティング装置のチャンバー内に配置し、このPETフィルムに成膜圧力1.5×10−1Pa、アルゴンガス流量18sccm、酸素ガス流量28sccm、成膜電流値60Aの条件の下に昇華材料としての酸化インジウムスズ(ITO)を蒸着させて、ITOからなる膜厚150nmの第2導電層を形成した。この第2導電層は、腐食防止層を覆うと共に、接着剤層表面のうちで第1導電層又は腐食防止層によって覆われることなく露出したままとなっていた領域も覆っている。
第2導電層まで形成することにより、前述のPETフィルムの片面には、接着剤層、第1導電層、及び第2導電層によって構成される透明電極が形成された。この透明電極の表面抵抗値は、0.052Ω/□であった。
(耐久性の確認)
上記の透明電極まで形成したPETフィルムのヨウ素電解質に対する耐性を確認するために、まず、メトキシアセトニトリルを溶媒とするヨウ素電解質溶液を調製した。このヨウ素電解質溶液は、ヨウ化リチウムを0.1mol/l、ヨウ素を0.05mol/l、ジメチルプロピルイミダゾリウムアイオダイドを0.3mol/l、ターシャリーブチルピリジンを0.5mol/lの割合でそれぞれ含有している。
次に、透明電極まで形成した前述のPETフィルムを上記のヨウ素電解質溶液に一昼夜浸漬してから、その表面抵抗値を測定した。その結果、ヨウ素電解質溶液に浸漬した後での表面抵抗値は0.051Ω/□であり、浸漬前の抵抗値を維持していた。
(多孔質半導体電極形成工程)
まず、一次粒子径が15nmの酸化チタン(TiO )微粒子(昭和電工社製のF−5)と結着剤としてのポリエステル樹脂とを、水とポリプロピレングリコールモノメチルエーテルとの混液中にホモジナイザーを用いて溶解、分散させて、前記のTiO 微粒子を20.5質量%含有し、前記の結着剤を0.3質量%含有する塗布液(スラリー)を調製した。
次いで、上記のスラリーをドクターブレード法により前述の透明電極上に塗布し、その後に150℃で30分間乾燥して、多数の半導体微粒子(TiO 微粒子)によって形成された膜厚12μmの多孔質半導体電極を得た。
(色素担持工程)
増感色素としてのルテニウム錯体(小島化学株式会社製)をその濃度が3×10−4mol/lとなるようにエタノールに溶解させた色素担持用塗工液を用意し、上述の多孔質半導体電極まで形成したPETフィルムをこの色素担持用塗工液中に浸漬して、液温40℃の条件下で1時間放置した。次いで、前記のPETフィルムを色素担持用塗工液から引き上げ、多孔質半導体電極に付着した色素担持用塗工液を風乾させた。これにより、多孔質半導体電極を形成している半導体微粒子(TiO 微粒子)の表面に上記の色素が坦持された。
この後、平面視したときに前述した多孔質半導体電極が1cm×1cmの正方形となるようにトリミングして、図1に示した電極基板20と同様の構成を有する色素増感型太陽電池用電極基板(以下、「電極基板A」という。)を得た。
<実施例2>
水に塩化ニッケルを35g/l、塩化亜鉛を7g/l、クエン酸ナトリウムを118g/l、次亜リン酸ナトリウムを64g/lの割合でそれぞれ溶解させてめっき浴を調製し、このめっき浴を用いた無電解めっきによって腐食防止層を形成した以外は実施例1と同様にして、色素増感型太陽電池用電極基板(以下、「電極基板B」という。)を得た。
本実施例で形成した腐食防止層は、ニッケル及び亜鉛を含有するものであり、この腐食防止層は、第1導電層の外表面のみならず、第1導電層の下地となっている接着剤層表面のうちで第1導電層によって覆われていない領域をも覆っている。
腐食防止層の形成後に、透明電極の耐久性を実施例1と同条件の下に確認したところ、ヨウ素電解質溶液に浸漬した後での表面抵抗値は0.054Ω/□と確認前の抵抗値を維持していた。
参考例1
リン酸ニッケル塩を主成分とする水溶液(リン酸ニッケル塩の濃度は10質量%)とアミノフェノール系樹脂(平均分子量;5000、アミノ含有量;50mol%)の5質量%水溶液とを混合してリン酸金属塩化成処理剤を調製し、この化成処理剤を用いた化成処理によって腐食防止層を形成した以外は実施例1と同様にして、色素増感型太陽電池用電極基板(以下、「電極基板C」という。)を得た。
上記の化成処理は、リン酸金属塩化成処理剤をワイヤーバーにより第1導電層及びその周囲に塗布した後に、120℃で2分間加熱乾燥することで行った。この化成処理により、第1導電層の外表面にはリン酸ニッケル塩による化成処理皮膜層(腐食防止層)が形成された。
腐食防止層の形成後に、透明電極の耐久性を実施例1と同条件の下に確認したところ、ヨウ素電解質溶液に浸漬した後での表面抵抗値は0.050Ω/□と確認前の抵抗値を維持していた。
参考例2
第1導電層の材料として厚さ12μmのアルミニウム箔(東洋アルミニウム社製、純度99.7%)を用い、腐食防止層を形成しない以外は実施例1と同様にして、PETフィルムの片面に接着剤層、第1導電層、平坦化透明層及び第2導電層からなる色素増感型太陽電池用電極基板(以下、「電極基板D」という。)を形成した。この透明電極の表面抵抗値は、0.009Ω/□であった。
透明電極の耐久性を実施例1と同条件の下に確認したところ、ヨウ素電解質溶液に浸漬した後での表面抵抗値は0.010Ω/□と確認前の抵抗値を維持していた。
<実施例5>
まず、実施例1での第2導電層の形成と同じ条件の下に、膜厚100μmのPETフィルム(東洋紡社製のE5100)の片面に第1導電膜としてのITO膜(膜厚150nm)を形成し、その上に、第2導電膜としての白金薄膜(膜厚50nm)をスパッタリング法によって形成して、図3に示した電極基板30と同様の構成を有する色素増感型太陽電池用電極基板(以下、「電極基板X」という。)を得た。
この電極基板Xと実施例1で作製した電極基板Aとを厚さ20μmの熱融着フィルム(デュポン社製のサーリン(商品名)を用いて貼り合せ、電極基板Xと電極基板Aとの間隙に電解質層形成用塗工液を充填して、図3に示した色素増感型太陽電池50と同様の構成を有する色素増感型太陽電池を得た。
このとき、上記の熱融着フィルムは、電極基板X、電極基板Aそれぞれの内縁部にのみ融着するように、その形状を予め矩形枠状に成形して用いた。また、電解質層形成用塗工液としては、メトキシアセトニトリルを溶媒とし、この溶媒にヨウ化リチウムを0.1mol/l、ヨウ素を0.05mol/l、ジメチルプロピルイミダゾリウムアイオダイドを0.3mol/l、ターシャリーブチルピリジンを0.5mol/lの割合でそれぞれ溶解させたものを用いた。
得られた色素増感型太陽電池の性能を測定するにあたり、擬似太陽光(AM1.5、照射強度100mW/cm )を光源として用いたときの電流電圧特性を、ソースメジャーユニット(ケースレー2400型)により求めた。その結果、電池特性としての変換効率は5.5%、曲線因子は0.62であった。
<実施例6>
電極基板Aに代えて実施例2で作製した電極基板Bを用いた以外は実施例5と同様にして、色素増感型太陽電池を得た。この色素増感型太陽電池の性能を実施例5と同様にして求めたところ、電池特性としての変換効率は5.2%、曲線因子は0.60であった。
参考例3
電極基板Aに代えて参考例1で作製した電極基板Cを用いた以外は実施例5と同様にして、色素増感型太陽電池を得た。この色素増感型太陽電池の性能を実施例5と同様にして求めたところ、電池特性としての変換効率は5.6%、曲線因子は0.63であった。
参考例4
電極基板Aに代えて参考例2で作製した電極基板Dを用いた以外は実施例5と同様にして、色素増感型太陽電池を得た。この色素増感型太陽電池の性能を実施例5と同様にして求めたところ、電池特性としての変換効率は6.2%、曲線因子は0.69であった。
<比較例1>
腐食防止層を形成しない以外は実施例1と同様にして、PETフィルムの片面に接着剤層、第1導電層、及び第2導電層からなる透明電極を形成した。そして、このPETフィルムのヨウ素電解質に対する耐性を実施例1と同条件の下に確認した。その結果、ヨウ素電解質溶液に一昼夜浸漬した後での表面抵抗値は、測定限界(10 Ω/□)を超えていた。
本発明の色素増感型太陽電池用電極基板の基本的な断面構造の一例を示す概略図である。 本発明の色素増感型太陽電池用電極基板を構成する第1導電層の一例を概略的に示す平面図である。 本発明の色素増感型太陽電池用電極基板の基本的な断面構造の他の例を示す概略図である。 本発明の色素増感型太陽電池の基本的な断面構造の一例を示す概略図である。 本発明の色素増感型太陽電池の基本的な断面構造の他の例を示す概略図である。 従来の色素増感型太陽電池の断面構造を示す概略図である。
符号の説明
1 透明樹脂フィルム
5 接着剤層
6、6A 第1導電層
7 腐食防止層
8 第2導電層
10 透明電極
15 多孔質半導体電極
15a 半導体微粒子
17 色素
20、20A 色素増感型太陽電池用電極基板
22 透明樹脂フィルム
24 第1導電膜
26 第2導電膜
30 色素増感型太陽電池用電極基板
35 電解質層
50、60 色素増感型太陽電池

Claims (12)

  1. 透明樹脂フィルムと、該透明樹脂フィルムの片面に形成された透明電極と、多数の半導体微粒子を用いて前記透明電極上に形成された多孔質半導体電極と、該多孔質半導体電極を形成している半導体微粒子の表面に担持された色素とを有する色素増感型太陽電池用電極基板であって、
    前記透明電極が、多数の細線を組み合わせた形状を呈する金属製の第1導電層と、電気めっき、無電解めっき、又は化成処理によって形成されて少なくとも前記第1導電層の外表面を覆う腐食防止層と、前記腐食防止層を覆う金属酸化物製の第2導電層とを含み、前記腐食防止層が色素増感型太陽電池用の電解質に対して耐食性を有していることを特徴とする色素増感型太陽電池用電極基板。
  2. 前記透明電極が、前記透明樹脂フィルムの片面に形成された接着剤層を更に含み、該接着剤層によって前記第1導電層が前記透明樹脂フィルムに接合されていることを特徴とする請求項1に記載の色素増感型太陽電池用電極基板。
  3. 前記腐食防止層が、前記第1導電層の外表面の他に該第1導電層の下地層表面のうちで前記第1導電層によって覆われていない領域も覆っていることを特徴とする請求項1又は2に記載の色素増感型太陽電池用電極基板。
  4. 前記透明電極が、前記腐食防止層をクロメート処理することによって形成された表面処理層を更に含み、該表面処理層が前記腐食防止層と前記第2導電層との間に介在していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の色素増感型太陽電池用電極基板。
  5. 前記第1導電層が銅薄膜、ニッケル薄膜、又はステンレス薄膜によって形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の色素増感型太陽電池用電極基板。
  6. 透明樹脂フィルムと、該透明樹脂フィルムの片面に形成された透明電極と、多数の半導体微粒子を用いて前記透明電極上に形成された多孔質半導体電極と、該多孔質半導体電極を形成している半導体微粒子の表面に担持された色素とを有する色素増感型太陽電池用電極基板の製造方法であって、
    多数の細線を組み合わせた形状を呈する金属製の第1導電層が片面に形成された透明樹脂フィルムを用意する準備工程と、
    前記透明樹脂フィルム上に、少なくとも前記第1導電層の外表面を覆うようにして、色素増感型太陽電池用の電解質に対して耐食性を有する腐食防止層を電気めっき、無電解めっき、又は化成処理により形成する腐食防止層形成工程と、
    前記腐食防止層を覆う金属酸化物製の第2導電層を形成する第2導電層形成工程と、
    前記第2導電層上に、多数の半導体微粒子を用いて前記多孔質半導体電極を形成する多孔質半導体電極形成工程と、
    前記多孔質半導体電極を形成している半導体微粒子の表面に色素を担持させる色素担持工程と、
    を含むことを特徴する色素増感型太陽電池用電極基板の製造方法。
  7. 前記準備工程が、片面に接着剤によって金属箔が接合された透明樹脂フィルムを用意する第1サブ工程と、前記金属箔をパターニングして前記第1導電層を得る第2サブ工程とを含むことを特徴とする請求項に記載の色素増感型太陽電池用電極基板の製造方法。
  8. 前記腐食防止層形成工程で、前記第1導電層の外表面の他に該第1導電層の下地層表面のうちで前記第1導電層によって覆われていない領域も覆うようにして前記腐食防止層を形成することを特徴とする請求項又はに記載の色素増感型太陽電池用電極基板の製造方法。
  9. 前記腐食防止層にクロメート処理を施す表面処理工程を更に含み、該表面処理工程を前記第2導電層形成工程の前に行うことを特徴とする請求項のいずれか1項に記載の色素増感型太陽電池用電極基板の製造方法。
  10. 前記第1導電層が銅薄膜、ニッケル薄膜、又はステンレス薄膜によって形成されていることを特徴とする請求項のいずれか1項に記載の色素増感型太陽電池用電極基板の製造方法。
  11. 色素が担持された半導体電極を有する第1の電極基板と、該第1の電極基板に対向して配置された第2の電極基板と、前記第1の電極基板と前記第2の電極基板との間に介在する電解質層とを備えた色素増感型太陽電池であって、
    前記第1の電極基板が請求項1〜5のいずれか1項に記載の色素増感型太陽電池用電極基板であることを特徴とする色素増感型太陽電池。
  12. 前記第1の電極基板が請求項5に記載の色素増感型太陽電池用電極基板であることを特徴とする請求項1に記載の色素増感型太陽電池。

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