以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
<第1の実施の形態>
図1を参照して、第1の実施の形態に係る制御装置を搭載した車両について説明する。この車両は、FR(Front engine Rear drive)車両である。なお、FR以外の車両であってもよい。
車両は、エンジン1000と、オートマチックトランスミッション2000と、トルクコンバータ2100と、オートマチックトランスミッション2000の一部を構成するプラネタリギヤユニット3000と、オートマチックトランスミッション2000の一部を構成する油圧回路4000と、プロペラシャフト5000と、デファレンシャルギヤ6000と、後輪7000と、ECU(Electronic Control Unit)8000とを含む。
エンジン1000は、インジェクタ(図示せず)から噴射された燃料と空気との混合気を、シリンダの燃焼室内で燃焼させる内燃機関である。燃焼によりシリンダ内のピストンが押し下げられて、クランクシャフトが回転させられる。エンジン1000により、オルタネータおよびエアコンディショナーなどの補機1004が駆動される。エンジン1000の出力トルク(エンジントルクTE)は、電子スロットルバルブ8016の作動量、すなわちスロットル開度などに応じて変化する。なお、エンジン1000の代わりにもしくは加えて、駆動源にモータを用いるようにしてもよい。また、ディーゼルエンジンを用いるようにしてもよい。ディーゼルエンジンにおいては、インジェクタの開弁時間(作動量)、すなわち燃料噴射量に応じて出力トルクが変化する。
ドライブトレーンを構成するオートマチックトランスミッション2000は、トルクコンバータ2100を介してエンジン1000に連結される。オートマチックトランスミッション2000は、所望のギヤ段を形成することにより、クランクシャフトの回転数を所望の回転数に変速する。なお、ギヤ段を形成するオートマチックトランスミッションの代わりに、ギヤ比を無段階に変更するCVT(Continuously Variable Transmission)を搭載するようにしてもよい。さらに、油圧アクチュエータもしくは電動モータにより変速される常時噛合式歯車からなる自動変速機を搭載するようにしてもよい。
オートマチックトランスミッション2000から出力されたトルクは、プロペラシャフト5000およびデファレンシャルギヤ6000を介して、左右の後輪7000に伝達される。
ECU8000には、シフトレバー8004のポジションスイッチ8006と、アクセルペダル8008のアクセル開度センサ8010と、エアフローメータ8012と、電子スロットルバルブ8016のスロットル開度センサ8018と、エンジン回転数センサ8020と、入力軸回転数センサ8022と、出力軸回転数センサ8024と、油温センサ8026と、水温センサ8028とがハーネスなどを介して接続されている。
シフトレバー8004の位置(シフトポジション)は、ポジションスイッチ8006により検出され、検出結果を表す信号がECU8000に送信される。シフトレバー8004の位置に対応して、オートマチックトランスミッション2000のギヤ段が自動で形成される。また、運転者の操作に応じて、運転者が任意のギヤ段を選択できるマニュアルシフトモードを選択できるように構成してもよい。
アクセル開度センサ8010は、アクセルペダル8008の開度を検出し、検出結果を表す信号をECU8000に送信する。エアフローメータ8012は、エンジン1000に吸入される空気量を検出し、検出結果を表す信号をECU8000に送信する。
スロットル開度センサ8018は、アクチュエータにより開度が調整される電子スロットルバルブ8016の開度を検出し、検出結果を表す信号をECU8000に送信する。電子スロットルバルブ8016により、エンジン1000に吸入される空気量が調整される。
なお、電子スロットルバルブ8016の代わりにもしくは加えて、吸気バルブ(図示せず)や排気バルブ(図示せず)のリフト量や開閉する位相を変更する可変バルブリフトシステムにより、エンジン1000に吸入される空気量を調整するようにしてもよい。
エンジン回転数センサ8020は、エンジン1000の出力軸(クランクシャフト)の回転数(以下、エンジン回転数NEとも記載する)を検出し、検出結果を表す信号をECU8000に送信する。入力軸回転数センサ8022は、オートマチックトランスミッション2000の入力軸回転数NI(トルクコンバータ2100のタービン回転数NT)を検出し、検出結果を表す信号をECU8000に送信する。出力軸回転数センサ8024は、オートマチックトランスミッション2000の出力軸回転数NOを検出し、検出結果を表す信号をECU8000に送信する。
油温センサ8026は、オートマチックトランスミッション2000の作動や潤滑に用いられるオイル(ATF:Automatic Transmission Fluid)の温度(油温)を検出し、検出結果を表す信号をECU8000に送信する。
水温センサ8028は、エンジン1000の冷却水の温度(水温)を検出し、検出結果を表わす信号をECU8000に送信する。
ECU8000は、ポジションスイッチ8006、アクセル開度センサ8010、エアフローメータ8012、スロットル開度センサ8018、エンジン回転数センサ8020、入力軸回転数センサ8022、出力軸回転数センサ8024、油温センサ8026、水温センサ8028などから送られてきた信号、ROM(Read Only Memory)8002に記憶されたマップおよびプログラムに基づいて、車両が所望の走行状態となるように、機器類を制御する。なおECU8000により実行されるプログラムをCD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)などの記録媒体に記録して市場に流通させてもよい。また、ECU8000を複数のECUに分割するようにしてもよい。
本実施の形態において、ECU8000は、シフトレバー8004がD(ドライブ)ポジションであることにより、オートマチックトランスミッション2000のシフトレンジにD(ドライブ)レンジが選択された場合、前進1速〜8速ギヤ段のうちのいずれかのギヤ段が形成されるように、オートマチックトランスミッション2000を制御する。オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とを連結するように、後述する摩擦係合要素(クラッチおよびブレーキ)が予め定められた組合せで係合されることにより、ギヤ段が形成される。前進1速〜8速ギヤ段のうちのいずれかのギヤ段が形成されると、後輪7000にトルクが伝達され得る。なおDレンジにおいて、8速ギヤ段よりも高速のギヤ段を形成可能であるようにしてもよい。形成するギヤ段は、車速とアクセル開度とをパラメータとして実験等により予め作成された変速線図に基づいて決定される。
シフトレバー8004がN(ニュートラル)ポジションもしくはP(パーキング)ポジションであることにより、オートマチックトランスミッション2000のシフトレンジにN(ニュートラル)レンジもしくはP(パーキング)レンジが選択された場合、摩擦係合要素が解放され、オートマチックトランスミッション2000はニュートラル状態になる。ニュートラル状態では、オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とが遮断される。
図2を参照して、プラネタリギヤユニット3000について説明する。プラネタリギヤユニット3000は、クランクシャフトに連結された入力軸2102を有するトルクコンバータ2100に接続されている。
プラネタリギヤユニット3000は、フロントプラネタリ3100と、リアプラネタリ3200と、C1クラッチ3301と、C2クラッチ3302と、C3クラッチ3303と、C4クラッチ3304と、B1ブレーキ3311と、B2ブレーキ3312と、ワンウェイクラッチ(F)3320とを含む。
フロントプラネタリ3100は、ダブルピニオン型の遊星歯車機構である。フロントプラネタリ3100は、第1サンギヤ(S1)3102と、1対の第1ピニオンギヤ(P1)3104と、キャリア(CA)3106と、リングギヤ(R)3108とを含む。
第1ピニオンギヤ(P1)3104は、第1サンギヤ(S1)3102および第1リングギヤ(R)3108と噛合っている。第1キャリア(CA)3106は、第1ピニオンギヤ(P1)3104が公転および自転可能であるように支持している。
第1サンギヤ(S1)3102は、回転不能であるようにギヤケース3400に固定される。第1キャリア(CA)3106は、プラネタリギヤユニット3000の入力軸3002に連結される。
リアプラネタリ3200は、ラビニヨ型の遊星歯車機構である。リアプラネタリ3200は、第2サンギヤ(S2)3202と、第2ピニオンギヤ(P2)3204と、リアキャリア(RCA)3206と、リアリングギヤ(RR)3208と、第3サンギヤ(S3)3210と、第3ピニオンギヤ(P3)3212とを含む。
第2ピニオンギヤ(P2)3204は、第2サンギヤ(S2)3202、リアリングギヤ(RR)3208および第3ピニオンギヤ(P3)3212と噛合っている。第3ピニオンギヤ(P3)3212は、第2ピニオンギヤ(P2)3204に加えて、第3サンギヤ(S3)3210と噛合っている。
リアキャリア(RCA)3206は、第2ピニオンギヤ(P2)3204および第3ピニオンギヤ(P3)3212が公転および自転可能であるように支持している。リアキャリア(RCA)3206は、ワンウェイクラッチ(F)3320に連結される。リアキャリア(RCA)3206は、1速ギヤ段の駆動時(エンジン1000から出力された駆動力を用いた走行時)に回転不能となる。リアリングギヤ(RR)3208は、プラネタリギヤユニット3000の出力軸3004に連結される。
ワンウェイクラッチ(F)3320は、B2ブレーキ3312と並列に設けられる。すなわち、ワンウェイクラッチ(F)3320のアウターレースはギヤケース3400に固定され、インナーレースはリアキャリア(RCA)3206に連結される。
図3に、各変速ギヤ段と、各クラッチおよび各ブレーキの作動状態との関係を表した作動表を示す。この作動表に示された組み合わせで各ブレーキおよび各クラッチを作動させることにより、前進1速〜8速のギヤ段と、後進1速および2速のギヤ段が形成される。
図4を参照して、油圧回路4000の要部について説明する。なお、油圧回路4000は、以下に説明するものに限られない。
油圧回路4000は、オイルポンプ4004と、プライマリレギュレータバルブ4006と、マニュアルバルブ4100と、ソレノイドモジュレータバルブ4200と、SL1リニアソレノイド(以下、SL(1)と記載する)4210と、SL2リニアソレノイド(以下、SL(2)と記載する)4220と、SL3リニアソレノイド(以下、SL(3)と記載する)4230と、SL4リニアソレノイド(以下、SL(4)と記載する)4240と、SL5リニアソレノイド(以下、SL(5)と記載する)4250と、SLTリニアソレノイド(以下、SLTと記載する)4300と、B2コントロールバルブ4500とを含む。
オイルポンプ4004は、エンジン1000のクランクシャフトに連結されている。クランクシャフトが回転することにより、オイルポンプ4004が駆動し、油圧を発生する。オイルポンプ4004で発生した油圧は、プライマリレギュレータバルブ4006により調圧され、ライン圧が生成される。
プライマリレギュレータバルブ4006は、SLT4300により調圧されたスロットル圧をパイロット圧として作動する。ライン圧は、ライン圧油路4010を介してマニュアルバルブ4100に供給される。
マニュアルバルブ4100は、ドレンポート4105を含む。ドレンポート4105から、Dレンジ圧油路4102およびRレンジ圧油路4104の油圧が排出される。マニュアルバルブ4100のスプールがDポジションにある場合、ライン圧油路4010とDレンジ圧油路4102とが連通させられ、Dレンジ圧油路4102に油圧が供給される。このとき、Rレンジ圧油路4104とドレンポート4105とが連通させられ、Rレンジ圧油路4104のRレンジ圧がドレンポート4105から排出される。
マニュアルバルブ4100のスプールがRポジションにある場合、ライン圧油路4010とRレンジ圧油路4104とが連通させられ、Rレンジ圧油路4104に油圧が供給される。このとき、Dレンジ圧油路4102とドレンポート4105とが連通させられ、Dレンジ圧油路4102のDレンジ圧がドレンポート4105から排出される。
マニュアルバルブ4100のスプールがNポジションもしくはPポジションにある場合、Dレンジ圧油路4102およびRレンジ圧油路4104の両方と、ドレンポート4105とが連通させられ、Dレンジ圧油路4102のDレンジ圧およびRレンジ圧油路4104のRレンジ圧がドレンポート4105から排出される。
Dレンジ圧油路4102に供給された油圧は、最終的には、C1クラッチ3301、C2クラッチ3302およびC3クラッチ3303に供給される。Rレンジ圧油路4104に供給された油圧は、最終的には、B2ブレーキ3312に供給される。
ソレノイドモジュレータバルブ4200は、ライン圧を元圧とし、SLT4300に供給する油圧(ソレノイドモジュレータ圧)を一定の圧力に調圧する。
SL(1)4210は、C1クラッチ3301に供給される油圧を調圧する。SL(2)4220は、C2クラッチ3302に供給される油圧を調圧する。SL(3)4230は、C3クラッチ3303に供給される油圧を調圧する。SL(4)4240は、C4クラッチ3304に供給される油圧を調圧する。SL(5)4250は、B1ブレーキ3311に供給される油圧を調圧する。
SLT4300は、アクセル開度センサ8010により検出されたアクセル開度に基づいたECU8000からの制御信号に応じて、ソレノイドモジュレータ圧を調圧し、スロットル圧を生成する。スロットル圧は、SLT油路4302を介して、プライマリレギュレータバルブ4006に供給される。スロットル圧は、プライマリレギュレータバルブ4006のパイロット圧として利用される。
SL(1)4210、SL(2)4220、SL(3)4230、SL(4)4240、SL(5)4250およびSLT4300は、ECU8000から送信される制御信号により制御される。
B2コントロールバルブ4500は、Dレンジ圧油路4102およびRレンジ圧油路4104のいずれか一方からの油圧を選択的に、B2ブレーキ3312に供給する。B2コントロールバルブ4500に、Dレンジ圧油路4102およびRレンジ圧油路4104が接続されている。B2コントロールバルブ4500は、SLUソレノイドバルブ(図示せず)から供給された油圧とスプリングの付勢力とにより制御される。
SLUソレノイドバルブがオンの場合、B2コントロールバルブ4500は、図4において左側の状態となる。この場合、B2ブレーキ3312には、SLUソレノイドバルブから供給された油圧をパイロット圧として、Dレンジ圧を調圧した油圧が供給される。
SLUソレノイドバルブがオフの場合、B2コントロールバルブ4500は、図4において右側の状態となる。この場合、B2ブレーキ3312には、Rレンジ圧が供給される。
図5を参照して、ECU8000についてさらに説明する。図5中の「F」は駆動力を、「TE」はエンジントルクを、「N」は回転数を示す。なお、以下に説明するECU8000の各機能は、ハードウエアにより実現するようにしてもよく、ソフトウエアにより実現するようにしてもよい。
図5に示すように、ECU8000には、エンジン制御部9000と、パワートレーンマネージャ(PTM: Power Train Manager)9100と、ECT(Electronic Controlled Transmission)部9200と、パワートレーンドライバモデル(PDRM: Power train Driver
Model)9300とが実装されている。
エンジン制御部9000は、パワートレーンマネージャ9100から入力された目標エンジントルクを実現するように、電子スロットルバルブ8016、点火時期、EGR(Exhaust Gas Recirculation)バルブなど、エンジン1000の出力トルク(エンジントルク)を制御するためにエンジン1000に設けられた機器を制御する。
パワートレーンマネージャ9100は、ドライバの操作、車両の挙動およびECT部9200からの要求などに基づいてエンジン1000の目標エンジントルクを設定する。より具体的には、設定部9102において、車両の目標駆動力を考慮して設定される第1目標エンジントルクと、目標エンジン回転数NETを考慮して設定される第2目標エンジントルクとのうちの小さい方の目標エンジントルクを、エンジン制御部9000に対して出力する最終的な目標エンジントルクとして設定する。なお、大きい方の目標エンジントルクを最終的な目標エンジントルクとして設定するようにしてもよい。
パワートレーンマネージャ9100は、車両の目標駆動力を考慮した第1目標エンジントルクを設定するために、パワートレーンドライバモデル9300により設定された目標駆動力と、VDIM(Vehicle Dynamics Integrated Management)、制振制御、最高車速制限制御などにより設定された目標駆動力とを駆動力調停部9110において調停する。たとえば、駆動力調停部9110において、最も小さい目標駆動力もしくは最も大きい目標駆動力が選択される。
VDIMは、VSC(Vehicle Stability Control)、TRC(TRaction Control)、ABS(Anti lock Brake System)、EPS(Electric Power Steering)などを統合するシステムであって、アクセル、ステアリング、ブレーキの操作量によるドライバの走行イメージと、各種センサ情報による車両挙動との差を算出し、その差を縮めるように車両の駆動力、ブレーキ油圧などを制御する。
VSCは、前後輪が横滑りしそうな状態をセンサが検出して場合において、各輪のブレーキ油圧および車両の目標駆動力などを自動的に設定し、車両の安定性を確保する制御である。
TRCは、滑りやすい路面での発進時および加速時に、駆動輪の空転をセンサが感知すると、各輪のブレーキ油圧および車両の目標駆動力などを自動的に設定し、最適な駆動力を確保する制御である。
ABSは、ブレーキ油圧の最適値を自動的に設定し、車輪のロックを防止する制御システムである。EPSは、電動モータの力によってステアリングホイールの操舵をアシストする制御システムである。
制振制御は、車両の実際の駆動力などから、車両モデルを用いて算出される車両のピッチングおよびバウンシングを抑制するための目標駆動力を設定する制御である。車両のピッチングおよびバウンシングを抑制するための駆動力を設定する方法については、従来の技術を利用すればよいため、ここではその詳細な説明は繰り返さない。
最高車速制限制御は、車速を予め定められた最高車速以下に制限するための目標駆動力を、たとえば現在の加速度および車速などに応じて設定する制御である。
駆動力調停部9110において調停された目標駆動力は、トルク変換部9112において目標エンジントルクに変換される。たとえば、後輪7000の半径、デファレンシャルギヤ6000のギヤ比、オートマチックトランスミッション2000の現在のギヤ比およびトルクコンバータ2100のトルク比などを用いて、駆動力がトルクに変換される。なお、駆動力をトルクに変換する方法は周知の一般的な技術を利用すればよいため、ここではその詳細な説明は繰り返さない。
目標駆動力から変換された目標エンジントルクおよびECT部9200により設定された目標エンジントルクとのうちのいずれか一方が、第1目標エンジントルクとしてトルク調停部9114において設定される。どちらのエンジントルクが第1目標エンジントルクとして設定されるかは、車両の運転状態およびオートマチックトランスミッション2000の変速状態などに応じて決定される。
パワートレーンマネージャ9100は、目標エンジン回転数NETを考慮した第2目標エンジントルクを設定するため、回転数調停部9120において、パワートレーンドライバモデル9300により設定された目標エンジン回転数NETと、ECT部9200により設定された目標エンジン回転数NETとを調停する。どちらの目標エンジントルクが選択されるかは、車両の運転状態などに応じて決定される。回転数調停部9120において調停された目標エンジン回転数NETは、コントローラ9130に入力される。
コントローラ9130は、目標エンジン回転数NETを第2目標エンジントルクに変換する。本実施の形態においては、コントローラ9130は、オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とが遮断された状態、すなわちニュートラル状態である場合に適した第2目標エンジントルクを設定する。これは、コントローラ9130の機能が、特にオートマチックトランスミッション2000のニュートラル状態において、目標エンジン回転数NETに基づいてエンジン1000を制御するものであるからである。
図6を参照して、コントローラ9130が目標エンジン回転数NETを目標エンジントルクに変換する方法について説明する。コントローラ9130は、フィードフォワード制御部9132と、フィードバック制御部9134とを含む。
フィードフォワード制御部9132は、エンジン回転数NEを維持するために要するエンジントルクに、エンジン回転数NEが目標エンジン回転数NETまで変化するために要するエンジントルクを加算することにより、目標エンジン回転数NETを第2目標エンジントルクに変換する。
本実施の形態においては、エンジン1000自体の摩擦抵抗およびオイルポンプ4004の負荷により損失するエンジントルクと、トルクコンバータ2100の入力軸の回転数を維持するために要するエンジントルクとの和が、エンジン回転数NEを維持するために要するエンジントルクとして算出される。なお、エンジン回転数NEを維持するために要するエンジントルクはこれに限らない。
エンジン1000自体の摩擦抵抗およびオイルポンプ4004の負荷により損失するエンジントルクは、たとえば、エンジン回転数NEをパラメータに有し、実験などにより予め作成されたマップに従って算出される。
トルクコンバータ2100の入力軸の回転数を維持するために要するエンジントルクは、たとえば、トルクコンバータ2100の速度比e(タービン回転数NT/エンジン回転数NE)によって定まるトルク容量τ(入力軸の回転数維持に要するエンジントルク/エンジン回転数NE2)と、エンジン回転数NEとを用いて算出される。
エンジン回転数NEが目標エンジン回転数NETまで変化するために要するエンジントルクは、イナーシャおよび目標エンジン回転数NETの変化率(角加速度)を用いて算出される。イナーシャと目標エンジン回転数NETの変化率との積が、エンジン回転数NEの変化に要するエンジントルクとして算出される。
イナーシャには、エンジン1000からオートマチックトランスミッション2000の入力軸までのイナーシャが用いられる。より具体的には、エンジン1000、ドライブプレート、トルクコンバータ2100およびオートマチックトランスミッション2000において、トルクの伝達経路上、フォワードクラッチ(特にC1クラッチ3301)よりもエンジン1000側に位置する部材のイナーシャである。すなわち、オートマチックトランスミッション2000がニュートラル状態(入力軸と出力軸とが遮断された状態)である場合のイナーシャが用いられる。イナーシャは、予めデータとして記憶される。
フィードバック制御部9134は、目標エンジン回転数NETと実際のエンジン回転数NEとを用いてフィードバック制御を実行し、第2目標エンジントルクを補正する。より具体的には、目標エンジン回転数NETと実際のエンジン回転数NEとの差に対して、PID(Proportion Integration Differential)制御が実行され、目標エンジン回転数NETと実際のエンジン回転数NEとの差が小さくなるように、エンジントルクの補正量が算出される。算出された補正量は、予め定められた下限値以上であって、予め定められた上限値以下になるように制限される。
フィードバック制御は、目標エンジン回転数NETから変換された第2目標エンジントルクが最終的な目標エンジントルクとして設定(選択)された場合に限り実行される。フィードバック制御が開始される際のトルクの補正量の初期値は、たとえば零である。
目標エンジン回転数NETと実際のエンジン回転数NEとの差がしきい値以上である場合は、PID制御の積分器は作動されない。すなわち、比例制御および微分制御のみが行なわれる。これは、目標エンジン回転数NETと実際のエンジン回転数NEとの差がしきい値以上である場合は、オートマチックトランスミッション2000がニュートラル状態でない可能性が大きく、目標エンジン回転数NETに基づいてエンジン1000を制御すべき状態にないからである。
前述したように、コントローラ9130は、オートマチックトランスミッション2000がニュートラル状態である場合に適した第2目標エンジントルクを算出する。したがって、コントローラ9130により算出される第2目標エンジントルクは、オートマチックトランスミッション2000がニュートラル状態であるとき、変速中であるとき、ニュートラル制御を実行中であるときなどにおいて好適である。
一方、コントローラ9130により算出される第2目標エンジントルクは、オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とがクラッチもしくはブレーキを介して連結され、トルクが後輪7000に伝達可能な状態にあるときなどには不適切である。
ところが、車両の目標駆動力を考慮して設定される第1目標エンジントルクがコントローラ9130により算出される第2目標エンジントルクより小さければ、第1目標エンジントルクが最終的な目標エンジントルクとして設定されるため、エンジン1000の制御は乱れない。
仮に第2目標エンジントルクが最終的な目標エンジントルクとして設定された場合であっても、より小さい目標エンジントルクが設定されるので、実際のエンジントルクが過剰になることはない。
シフトレンジが実際にはドライブレンジであるにもかかわらず誤ってニュートラルレンジと認識された場合にも、エンジントルク(駆動力)が過剰にならない。
図5に戻って、ECT部9200は、オートマチックトランスミッション2000の変速制御を行なうとともに、オートマチックトランスミッション2000の状態を制御するために要求するエンジン1000の目標エンジントルクおよび目標エンジン回転数NETを設定する。
ECT部9200により設定される目標エンジントルクは、たとえば、変速ショックを低減するためのトルクダウンもしくはトルクアップを実現し得るように設定される。また、ECT部9200は、オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とが遮断されているか連結しているかに応じて目標エンジン回転数NETを設定する。
ECT部9200は、オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸との状態を、図7および図8に示す表のように、制御上の状態と実際の状態とを区別して判定する。図7および図8に示すように、ECT部9200は、オートマチックトランスミッション2000の入力軸回転数NI、出力軸回転数NOおよびシフトレンジに基づいて、オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とが遮断された状態であるか、連結された状態であるかを判定する。
また、ECT部9200は、図9に示す表のように、オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸との制御上の状態と実際の状態とに応じて目標エンジン回転数NETを設定する。
なお、図9において、無効値とは、第1目標エンジントルクおよび第2目標エンジントルクのうちの一方が、他方よりも必ず大きくなるように定められた値を意味する。したがって、無効値が目標駆動力として設定された場合、第1目標エンジントルクは第2目標エンジントルクよりも大きくなる。同様に、無効値が目標エンジン回転数NETとして設定された場合、第2目標エンジントルクは第1目標エンジントルクよりも大きくなる。
図9に示すように、オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とが連結するように制御されており(いずれかのギヤ段が形成されるように制御されており)、かつ、実際に連結している場合、無効値が目標エンジン回転数NETとして設定される。
オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とが連結するように制御されており、かつ実際には遮断されている場合、オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とが実際に連結した場合において好適になるように定められた値が目標エンジン回転数として設定される。このときの目標エンジン回転数NETは、オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とが連結している状態を前提としているため、実際のエンジン回転数NEが過大にならないような値である。
これにより、入力軸と出力軸とが実際に結合されていれば、第1目標エンジントルクが最終的な目標エンジントルクとして設定されて、入力軸と出力軸とが実際に連結された状態において好適な制御が可能である。制御に反して入力軸と出力軸とが実際には遮断されている場合には、第2目標エンジントルクが最終的な目標エンジントルクとして設定されて、実際のエンジン回転数NEが過剰にならないようにエンジン1000を制御することができる。
また、図9に示すように、オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とが遮断されるように制御されている場合は、オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とが実際に遮断された場合において好適になるように定められた値が目標エンジン回転数として設定される。
なお、オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とが実際に連結している場合には好適ではない値が目標エンジン回転数として設定され得るものの、コントローラ9130のフィードバック制御部9134において目標エンジントルクの補正量が制限されるため、制御は破綻しない。
その他、ECT部9200は、目標エンジントルクもしくは目標エンジン回転数を設定すべき運転状態でない場合に、無効値を目標エンジントルクもしくは目標エンジン回転数として設定する。したがって、ECT部9200は、目標エンジントルクもしくは目標エンジン回転数を常時設定し、出力する。
図5に戻って、パワートレーンドライバモデル9300は、ドライバの操作に基づいて、車両の目標駆動力および目標エンジン回転数NETを設定するために用いられるモデル(関数)である。
本実施の形態においては、図10に示すように、実験およびシミュレーションの結果などに基づいて予め定められたマップに従って、アクセル開度から目標駆動力が設定される。
さらに、アクセル開度から最終目標エンジン回転数NELが算出(設定)され、最終目標エンジン回転数NELから現在の目標エンジン回転数NETが算出される。より具体的には、図11に示すように、パワートレーンドライバモデル9300の目標出力パワー算出モデル9310において、最終目標エンジン回転数NELからエンジン1000の目標出力パワーが算出され、目標エンジン回転数算出モデル9320において、目標出力パワーから現在の目標エンジン回転数NETが算出される。
図12に示すように、最終目標エンジン回転数NELは、最終的に到達すべき将来の目標エンジン回転数NETを示す。最終目標エンジン回転数NELは、たとえばアクセル開度をパラメータに有するマップに従って算出される。
図12に示すように、現在の目標エンジン回転数NETは、エンジン回転数NEが最終目標エンジン回転数NELに到達するまでの過渡の目標エンジン回転数NETを示す。現在の(過渡の)目標エンジン回転数NETは、現在の(実際の)エンジン回転数NE毎に定められる。現在の目標エンジン回転数NETは、エンジン1000の目標出力パワーから算出される。なお、「パワー」とは、「トルク」と「エンジン回転数」の積として算出される物理量であり、本実施の形態においては「W(ワット)」が単位として用いられる。「トルク」の単位には「N・m(ニュートン・メートル)」が用いられる。
目標出力パワーは、アクセル開度から算出される最終目標エンジン回転数NELとエンジン1000の現在の図示トルクとの積として算出される。エンジン1000の現在の図示トルクは、吸入空気量および現在のエンジン回転数NEなどに基づいて算出される。
なお、図示トルクを算出する方法については周知の一般的な方法を利用すればよいため、ここではその詳細な説明は繰り返さない。また、予め作成されたマップに従って、アクセル開度から直接的に目標出力パワーを算出するようにしてもよい。
ここで、エンジン1000の図示パワーならびにエンジン回転数NEに関しては、物理則より下記の式が得られる。なお、下記の式では、「PW[t]」はエンジン1000の図示パワーを、「ne[t]」はエンジン回転数NEを、「tq[t]」はエンジンの軸トルク(正味トルク)を、「tqloss(ne)」は、エンジン回転数を維持するために必要なトルクを、「tqfrc(ne)」はエンジン1000の図示トルクと補機負荷との和を、「I」はエンジン1000からオートマチックトランスミッション2000の入力軸までの(エンジン1000とトルクコンバータ2100の)イナーシャを示す。
「数2」は以下の「数3」のように近似することができる。
これらの式に基づき、本実施の形態では、目標出力パワーを現在のエンジン回転数NEで除算することにより、目標エンジントルクが算出される。目標エンジントルクをイナーシャで除算することにより、目標エンジン回転数NETの変化率、すなわち目標エンジン回転数NETの変化量が算出される。
さらに、目標エンジン回転数NETの変化量に応じて変化するように、現在の目標エンジン回転数NETが設定される。たとえば、目標エンジン回転数NETの変化量を、現在のエンジン回転数NEもしくは前回の目標エンジン回転数NETに加算することにより、目標エンジン回転数NETの変化量だけ変化するように現在の目標エンジン回転数NETが算出される。
これにより、図13に示すように、どのように変化するかが定められた目標エンジン回転数NETを得ることができる。そのため、たとえば、オートマチックトランスミッション2000がニュートラル状態である場合において、目標出力パワーに応じて定められた態様でエンジン回転数NEが変化するようにエンジン1000を制御することができる。その結果、エンジン回転数NEが、最終目標エンジン回転数NELに到達するまでの過渡特性を定めることができる。
ここで、エンジン1000の図示パワーが吸入空気量に比例するとともに、アクセル開度に対して一意に設定できると仮定する。吸入空気量には応答遅れがあるため、アクセル開度に対する一次遅れを考慮すると、下記の式が得られる。なお、下記の式において、「T」は時定数を示す。
この式に基づき、本実施の形態においては、アクセル開度の変化に対して、エンジン1000の出力パワーの目標値が遅れて変化するように算出される。
計算を簡単にするため、「tqloss(ne)」が一定であるとする。また、時定数Tを下記のように規定する。
エンジン1000の図示パワーならびにエンジン回転数NEが収束する状態を考慮すると、下記の式が得られる。
「数5」中の「netgt」がアクセル開度毎に一意に設定されると仮定すると、下記の式が得られる。
数4〜数7の式をまとめると、下記の式が得られる。
これらの式に基づいて、本実施の形態では、エンジン1000の応答遅れを考慮して、エンジン1000の目標出力パワーから、現在の目標エンジン回転数NETが算出される。
なお、ISC(Idle Speed Control)制御との干渉を防止するため、エンジン1000のアイドル時には、無効値が目標エンジン回転数NETとして設定される。アイドル時以外において、目標エンジン回転数NETは、ISC制御の実行時における目標アイドル回転数より低くならないように設定される。
さらに、オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とが連結している状態、より具体的には、連結しているとドライバが認識している状態では、アクセル開度に応じて目標駆動力が設定されるとともに、無効値が目標エンジン回転数NETとして設定される。したがって、ニュートラル制御中、変速中、タービン回転数NTが過剰である状態では、実際には入力軸と出力軸とは連結していないが、アクセル開度に応じて目標駆動力が設定されるとともに、無効値が目標エンジン回転数NETとして設定される。
オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とが遮断されている状態、より具体的には、遮断されているとドライバが認識している状態では、無効値が目標駆動力として設定されるとともに、アクセル開度に応じて目標エンジン回転数NETが設定される。
たとえば、シフトレンジにニュートラルレンジもしくはパーキングレンジが選択されていない場合(ドライブレンジなどの走行レンジが選択されている場合)、オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とが連結している状態(連結しているとドライバが認識している状態)であると判定される。
シフトレンジにニュートラルレンジもしくはパーキングレンジが選択されている場合、オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とが遮断されている状態(遮断されているとドライバが認識している状態)であると判定される。
なお、オートマチックトランスミッション2000の入力軸回転数NIおよび出力軸回転数NOに基づいて、オートマチックトランスミッション2000の入力軸と出力軸とが遮断された状態であるか、連結された状態であるかを判定するようにしてもよい。
その他、パワートレーンドライバモデル9300は、目標駆動力もしくは目標エンジン回転数を設定すべき運転状態でない場合に、無効値を目標駆動力もしくは目標エンジン回転数として設定する。したがって、パワートレーンドライバモデル9300は、目標駆動力もしくは目標エンジン回転数を常時設定し、出力する。
以上のように、本実施の形態に係る制御装置によれば、目標出力パワーを現在のエンジン回転数NEで除算することにより、目標エンジントルクが算出される。これにより、エンジン回転数NEの変化に応じて変化する目標エンジントルクを得ることができる。目標エンジントルクをイナーシャで除算することにより、目標エンジン回転数NETの変化率、すなわち目標エンジン回転数NETの変化量が算出される。これにより、目標出力パワーから、目標エンジン回転数NEの変化量を、すなわちエンジン回転数NEがどのように変化するかをエンジン回転数NE毎に定めることができる。さらに、目標エンジン回転数NETの変化量に応じて変化するように現在の目標エンジン回転数NETが設定される。これにより、目標出力パワーに応じて定められた態様でエンジン回転数NEが変化するようにエンジン1000を制御することができる。その結果、エンジン回転数NEの過渡特性を定めることができる。
なお、目標エンジン回転数NETの代わりに目標タービン回転数NTTを算出するようにしてもよい。すなわち、エンジン回転数NEの代わりに、タービン回転数NT(オートマチックトランスミッション2000の入力軸回転数NI)を用いるようにしてもよい。この場合、エンジン回転数NEとタービン回転数NTとが同じであると仮定するようにしてもよい。
さらに、目標エンジン回転数および目標エンジントルクの代わりに、目標タービン回転数および目標タービントルクを設定するようにしてもよい。すなわち、エンジンとトルクコンバータとにより駆動源が構成されるとみなしてもよい。
また、駆動力をトルクに変換せずにエンジン1000を制御するようにしてもよい。
<第2の実施の形態>
以下、第2の実施の形態について説明する。本実施の形態は、エンジン回転数NEが最終目標エンジン回転数NEL以上であって、かつ現在の目標エンジン回転数NET以下である場合、ならびにエンジン回転数NEが最終目標エンジン回転数NEL以下であって、かつ現在の目標エンジン回転数NET以上である場合、現在のエンジン回転数NEを現在の目標エンジン回転数NETとして算出(設定)する点で前述の実施の形態と相違する。
図14に示すように、時間T1〜T2までの期間において、実際のエンジン回転数NEが最終目標エンジン回転数NEL以上であっても、実際のエンジン回転数NEが現在の目標エンジン回転数NET以下であると、エンジン回転数NEが上昇し得る。
逆に、時間T3〜T4までの期間において、実際のエンジン回転数NEが最終目標エンジン回転数NEL以下であっても、実際のエンジン回転数NEが現在の目標エンジン回転数NET以上であると、エンジン回転数NEが低下し得る。
これらのようなエンジン回転数NEの不自然な挙動を防止するため、本実施の形態において、パワートレーンドライバモデル9300は、エンジン回転数NEが最終目標エンジン回転数NEL以上であって、かつ現在の目標エンジン回転数NET以下である場合、図15の時間T5ならびにT7において示すように、目標出力パワーから算出される変化量に応じて変化するように現在の目標エンジン回転数NETを算出する代わりに、実際のエンジン回転数NEを現在の目標エンジン回転数NETとして算出する。これにより、最終目標エンジン回転数NELが現在のエンジン回転数NEよりも低い状態においてエンジン回転数NEが増大するということがないようにすることができる。
また、パワートレーンドライバモデル9300は、エンジン回転数NEが最終目標エンジン回転数NEL以下であって、かつ現在の目標エンジン回転数NET以上である場合、図15の時間T6において示すように、目標出力パワーから算出される変化量に応じて変化するように現在の目標エンジン回転数NETを算出する代わりに、実際のエンジン回転数NEを現在の目標エンジン回転数NETとして算出する。これにより、最終目標エンジン回転数NELが現在のエンジン回転数NEよりも高い状態においてエンジン回転数NEが低下するということがないようにすることができる。
ところで、実際のエンジン回転数NEを現在の目標エンジン回転数NETとして算出すると、コントローラ9130のフィードバック制御部9134が実行するPID制御の微分項が急変し得る。
そこで、フィードバック制御部9134は、目標出力パワーから算出される変化量に応じて変化するように現在の目標エンジン回転数NETが算出される代わりに、現在のエンジン回転数NEが現在の目標エンジン回転数NETとして算出される場合、PID制御の微分項を小さくして、D制御(微分制御)による補正量を小さくする。好ましくは、微分項が零にされて、D制御による補正量が零にされる。これにより、D制御による悪影響を小さくすることができる。
なお、PID制御の微分項を小さくする(零にする)代わりに、D制御において現在の目標エンジン回転数NETに代えて実際のエンジン回転数NEを用いて第2目標エンジントルクを補正するようにしてもよい。
より具体的は、D制御において用いられる、現在の目標エンジン回転数NETの前回値以前の値の代わりに、実際のエンジン回転数NEの前回値以前の値を用いるようにしてもよい。このようにしても、D制御による補正量を小さくすることができる。そのため、D制御による悪影響を小さくすることができる。
<第3の実施の形態>
以下、第3の実施の形態について説明する。本実施の形態は、最終目標エンジン回転数NELと現在の目標エンジン回転数NETと差に応じて、エンジン1000の目標出力パワーを補正する点で、前述の第1の実施の形態および第2の実施の形態と相違する。
図16に示すように、本実施の形態において、パワートレーンドライバモデル9300は、フィードバック制御部9330を含む。フィードバック制御部9330は、最終目標エンジン回転数NELと現在の目標エンジン回転数NETとの差(NEL−NET)を用いてフィードバック制御を実行し、エンジン1000の目標出力パワーを補正する。
より具体的には、最終目標エンジン回転数NELと現在の目標エンジン回転数NETとの差に対して、PD(Proportion Differential)制御が実行され、最終目標エンジン回転数NELと現在の目標エンジン回転数NETとの差が小さくなるように、目標出力パワーの補正量が算出される。
たとえば、最終目標エンジン回転数NELと現在の目標エンジン回転数NETとの差が大きいほど、目標出力パワーがより大きくなるように補正される。これにより、目標出力パワーから算出される、目標エンジン回転数NEの変化量、すなわちエンジン回転数NEがどのように変化するかを、最終目標エンジン回転数NELと現在の目標エンジン回転数NETとの差に応じて定めることができる。そのため、エンジン回転数NEの過渡特性をより明確に特徴付けることができる。
ところで、最終目標エンジン回転数NELと現在の目標エンジン回転数NETとの間には、定常的な差が生じ得ない。そのため、仮にI制御(積分制御)を用いて目標出力パワーを補正したとすると、目標出力パワーを誤って補正し得る。したがって、目標出力パワーの補正において、I制御(積分制御)は用いられない。これにより、目標出力パワーを誤って補正することがないようできる。そのため、出力パワーの目標値を精度よく補正することができる。
<第4の実施の形態>
以下、第4の実施の形態について説明する。本実施の形態は、エンジン制御部9000に対して出力された最終的な目標エンジントルクが第1しきい値以下である状態において、アクセル開度が第2しきい値以下であるとエンジン1000での燃料噴射の停止(以下、フューエルカットとも記載する)が実行され、アクセル開度が第2しきい値より大きいと燃料噴射が継続される点で、前述の第1〜3の実施の形態と相違する。
図17を参照して、エンジン制御部9000は、燃料噴射制御部9010を含む。燃料噴射制御部9010は、エンジン制御部9000に対して出力された最終的な目標エンジントルクが第1しきい値以下である状態において、アクセル開度が第2しきい値以下であるとフューエルカットを実行する(許可する)。
一方、エンジン制御部9000に対して出力された最終的な目標エンジントルクが第1しきい値以下であっても、アクセル開度が第2しきい値より大きいとフューエルカットを実行せずに(禁止して)、燃料噴射を継続する。
これにより、アクセル開度が第2しきい値以下である場合にのみ、フューエルカットを許可することができる。そのため、アクセル開度が大きい場合にフューエルカットが不必要に実行されてエンジントルクが不連続になることを防止することができる。
<第5の実施の形態>
以下、第5の実施の形態について説明する。本実施の形態は、エンジン制御部9000に対して出力された最終的な目標エンジントルクが第1しきい値以下であるとフューエルカットが実行(許可)される点、ならびに、アクセル開度が第2しきい値以下である場合は、第2しきい値より大きい場合に比べて、現在の目標エンジン回転数NETを小さくする点で、前述の第4の実施の形態と相違する。
図18を参照して、本実施の形態におけるエンジン制御部9000の燃料噴射制御部9011は、エンジン制御部9000に対して出力された最終的な目標エンジントルクが第1しきい値以下である状態において、フューエルカットを実行する(許可する)。
図19を参照して、パワートレーンドライバモデル9300は、補正部9340を含む。補正部9340は、アクセル開度が第2しきい値以下である場合は、第2しきい値より大きい場合に比べて、現在の目標エンジン回転数NETが小さくなるようにする。
たとえば、目標出力パワーから算出された目標エンジン回転数NETに対して1より小さい係数を乗算したり、目標エンジン回転数NETから定数を減算したりすることにより、現在の目標エンジン回転数NETが小さくなるようにされる。好ましくは、現在の目標エンジン回転数NETから変換することにより得られる第2目標エンジントルクが第1しきい値以下になるように、現在の目標エンジン回転数NETが補正される。なお、現在の目標エンジン回転数NETが小さくなるようにする方法はこれに限らない。
このようにすれば、アクセル開度が小さい場合には、現在の目標エンジン回転数NETから変換される第2目標エンジントルクを小さくすることができる。そのため、第2目標エンジントルクを第1しきい値以下にし易くすることができる。そのため、アクセル開度が小さい状態では、フューエルカットを実行(許可)し易くすることができる。その結果、アクセル開度が小さい場合に燃料噴射が不必要に実行されてエンジントルクが不連続になることを防止することができる。
<第6の実施の形態>
以下、第6の実施の形態について説明する。本実施の形態は、アクセル開度が第2しきい値以下である場合は、第2しきい値より大きい場合に比べて、現在の目標エンジン回転数NETから変換される第2目標エンジントルクを小さくする点で、前述の第5の実施の形態と相違する。エンジン制御部9000に対して出力された最終的な目標エンジントルクが第1しきい値以下であるとフューエルカットが実行される点は、前述の第5の実施の形態と同じである。
図20を参照して、本実施の形態におけるパワートレーンマネージャ9100のコントローラ9130は、補正部9140を含む。補正部9140は、アクセル開度が第2しきい値以下である場合は、第2しきい値より大きい場合に比べて、現在の目標エンジン回転数NETから変換される第2目標エンジントルクが小さくなるように補正(算出)する。
たとえば、第2目標エンジントルクに対して1より小さい係数を乗算したり、第2目標エンジントルクから定数を減算したりすることにより、第2目標エンジントルクが小さくなるように補正される。好ましくは、第2目標エンジントルクが第1しきい値以下になるように補正される。なお、第2目標エンジントルクを補正する方法はこれに限らない。
このようにすれば、第2目標エンジントルクを第1しきい値以下にし易くすることができる。そのため、アクセル開度が小さい状態では、フューエルカットを実行し易くすることができる。その結果、アクセル開度が小さい場合に燃料噴射が不必要に実行されてエンジントルクが不連続になることを防止することができる。
<第7の実施の形態>
以下、第7の実施の形態について説明する。本実施の形態は、アクセル開度が第2しきい値より大きい場合は、目標エンジン回転数NETの低下量を制限する点で、前述の第5の実施の形態と相違する。エンジン制御部9000に対して出力された最終的な目標エンジントルクが第1しきい値以下であるとフューエルカットが実行される点は、前述の第5の実施の形態と同じである。
図21を参照して、本実施の形態におけるパワートレーンドライバモデル9300は、制限部9342を含む。制限部9342は、アクセル開度が第2しきい値より大きい場合、目標エンジン回転数NETの低下量を制限する。好ましくは、目標エンジン回転数NETから変換することにより得られる第2目標エンジントルクが第1しきい値より大きくなるように、目標エンジン回転数NETの低下量が制限される。なお、現在の目標エンジン回転数NETが小さくなるように算出する方法はこれに限らない。
このようにすれば、アクセル開度が大きい場合には、目標エンジン回転数が低下し難くすることができる。そのため、現在の目標エンジン回転数から変換される第2目標エンジントルクを第1しきい値より大きくし易くすることができる。その結果、アクセル開度が大きい場合にフューエルカットが不必要に実行されてエンジンの出力トルクが不連続になることを防止することができる。
<第8の実施の形態>
以下、第8の実施の形態について説明する。本実施の形態は、アクセル開度が第2しきい値より大きい場合は、現在の目標エンジン回転数NETから変換される第2目標エンジントルクが第1しきい値より大きくなるように制限する点で、前述の第5の実施の形態と相違する。エンジン制御部9000に対して出力された最終的な目標エンジントルクが第1しきい値以下であるとフューエルカットが実行される点は、前述の第5の実施の形態と同じである。
図22を参照して、本実施の形態におけるパワートレーンマネージャ9100のコントローラ9130は、制限部9142を含む。制限部9142は、アクセル開度が第2しきい値より大きい場合は、現在の目標エンジン回転数NETから変換される第2目標エンジントルクが第1しきい値よりも大きくなるように制限する。
これにより、アクセル開度が大きい状態では、フューエルカットが実行されないようにすることができる。そのため、アクセル開度が大きい場合にフューエルカットが不必要に実行されてエンジントルクが不連続になることを防止することができる。
<第9の実施の形態>
以下、第9の実施の形態について説明する。本実施の形態は、フューエルカットを実行した状態から燃料噴射を実行する状態に復帰する際、現在のエンジン回転数NEを現在の目標エンジン回転数NETとして算出(設定)する点で、前述の第4〜8の実施の形態と相違する。
図23を参照して、パワートレーンドライバモデル9300の目標エンジン回転数算出モデル9322は、フューエルカットを実行した状態から燃料噴射を実行する状態に復帰する際、目標出力パワーから算出される変化量に応じて変化するように現在の目標エンジン回転数NETを算出する代わりに、現在のエンジン回転数NEを現在の目標エンジン回転数NETとして算出する。これにより、エンジントルクが急増し得る場合においても、エンジン回転数NEの連続性を保つことができる。
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1000 エンジン、1004 補機、2000 オートマチックトランスミッション、2100 トルクコンバータ、4004 オイルポンプ、5000 プロペラシャフト、6000 デファレンシャルギヤ、7000 後輪、8000 ECU、8002 ROM、8004 シフトレバー、8006 ポジションスイッチ、8008 アクセルペダル、8010 アクセル開度センサ、8012 エアフローメータ、8016 電子スロットルバルブ、8018 スロットル開度センサ、8020 エンジン回転数センサ、8022 入力軸回転数センサ、8024 出力軸回転数センサ、8026 油温センサ、8028 水温センサ、9000 エンジン制御部、9010,9011 燃料噴射制御部、9100 パワートレーンマネージャ、9102 設定部、9110 駆動力調停部、9112 トルク変換部、9114 トルク調停部、9120 回転数調停部、9130 コントローラ、9132 フィードフォワード制御部、9134 フィードバック制御部、9140 補正部、9142 制限部、9200 ECT部、9300 パワートレーンドライバモデル、9310 目標出力パワー算出モデル、9320,9322 目標エンジン回転数算出モデル、9330 フィードバック制御部、9340 補正部、9342 制限部。