JP4648559B2 - 耐熱アルミニウムダイカスト品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は耐熱アルミニウムダイカスト品、特にピストン等の内燃機関部品に好適な耐熱アルミニウムダイカスト品に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の耐熱アルミニウム材料は耐摩耗性、耐焼付き性、耐熱強度を得るためにアルミニウムにSi、Cu、Mg,Ni、Tiなどの元素をそれぞれ目的に見合う配合比で加え、構成される。耐熱アルミニウム材料の代表的な用途に内燃機関部品のピストンがある。JIS H 5202(1992)に「アルミニウム合金鋳物」が規格化され、同規格の表1で種類及び記号、表2で化学成分、表3で金型試験片の機械的性質が各々示されている。これらのJISの表1〜表3を抜粋したものを以下の表1〜表3に示す。
【0003】
【表1】
【0004】
表1の右端の用途例に記載の通り、自動車用ピストンにはAC8A、AC8B、AC8Cのアルミニウム合金鋳物が採用される。
【0005】
表の第3コラムに鋳型の区分が「金型」とあるのは、通常の金型鋳造品であることを示す。
【0006】
【表2】
【0007】
表2はAC8A、AC8B、AC8Cの化学成分表であり、AC8Aは、0.8〜1.3%のCuと11.0〜13.0%のSiと0.7〜1.3%のMgと0.8〜1.5%のNiを含むAl−Si−Cu−Ni−Mg系合金であり、AC8Bは、2.0〜4.0%のCuと8.5〜10.5%のSiと0.5〜1.5%のMgと0.1〜1.0%のNiを含むAl−Si−Cu−Ni−Mg系合金であり、AC8Cは、2.0〜4.0%のCuと8.5〜10.5%のSiと0.5〜1.5%のMgを含むAl−Si−Cu−Mg系合金である。
【0008】
表でZnに注目すると、AC8Aは0.15%以下、AC8B及びAC8Cは0.50%以下となっており、何れも以下となっていることから、Znは0であってもよいことになる。すなわち、Znは一定量(0.15%又は0.5%)を超えてはならない。
【0009】
【表3】
【0010】
表3は金型試験片の機械的性質を示す表であり熱処理の有無、熱処理の種類を知ることができる。例えば、AC8Aに付した−Fは鋳造のまま、同−T5は時効硬化処理を施し、同−T6は溶体化処理後時効硬化処理を施すことを意味する。例えば、最下段のAC8C−T6では約510℃で約4時間の溶体化処理を行い、次に約170℃で約10時間の時効硬化処理を施す。表の第3コラムに引張強さが示され、FよりT5が引張強さは増し、このT5よりT6が引張強さは増すことから、強度向上を目的としてT5やT6の処理を実施する。この処理は熱間寸法安定性を向上させる効果もある。
【0011】
【表4】
【0012】
表4は、JIS H 5302(1990)に示されている参考表1を転載したものであり、ADC10、ADC12の成分はJIS H 5302(1990)に明示されているのでここでは省略するが、ともにAl−Si−Cu系合金であって、Mgを含まない。従って、これらは前記AC8A、AC8B、AC8Cとは異なる成分のアルミニウム合金ダイカストである。
成分は異なるが、表の第3コラムに示される、鋳放しのダイカストであるADC10の引張強さである245N/mm2は、前記AC8A−F、AC8B−F、AC8C−Fの170N/mm2以上(表3参照)より遥に大きい。ADC12も同様である。
【0013】
これは、通常の金型鋳造が重力鋳造であるのに対してダイカストは高圧鋳造であること。高圧鋳造であれば組織の緻密化が図れ、この緻密化が強度向上となって現われたからである。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者等は、AC8AをT5処理することで170N/mm2から190N/mm2に引き上げ、又はAC8AをT6処理することで170N/mm2から270N/mm2に引張強さを引き上げることができたのであるから、出発材料をダイカスト品としてこれに熱処理を施すことで、もっと高強度な鋳物を得ることができると考えた。
【0015】
そこで、成分がAC8Aのダイカストを製造し、このダイカスト品にT6(溶体化処理後時効硬化処理)を施す実験を行った。
【0016】
すると、AC8A成分ダイカスト品−T6はブリスターと称する膨らみがダイカスト品に全体的に発生して、使い物のならなくなってしまった。これは、鋳造の際に空気はガスを巻き込み、空気やガスがダイカスト品に気泡となって残り、溶体化処理の為に約510℃まで加熱したことにより前記気泡が膨張し、加熱で軟らかくなったアルミニウム合金を持上げて前記ブリスターを発生したと考える。
【0017】
熱処理のうちで、T5で規定する時効硬化処理では加熱温度は200℃前後である。しかし、AC8A成分ダイカスト品−T5であっても軽度なブリスターが発生する。この現象を回避するためにJISではADCの成分をACの成分と異ならせたということを確認したことになる。
【0018】
【課題を解決するための手段】
しかし本発明者等は、ACの成分を工夫することにより、AC成分ダイカスト品にT5を施すことが可能になると考え、種々の研究開発を続け、T5処理を施すことが可能なAC成分ダイカスト品を見出すことに成功した。
【0019】
具体的には請求項1は、12.5〜14.0%のSiと、3.0〜4.5%のCuと、1.4〜2.0%のMgと、(0.8〜1.2)×MgのZnと、残部のAlとからなることを特徴とする。
【0020】
請求項2では、12.5〜14.0%のSiと、3.0〜4.5%のCuと、1.6%のMgと、1.7%のZnと、残部のAlとからなることを特徴とする。
請求項3では、ダイカスト後に時効硬化処理を施したことを特徴とする。
請求項4では、請求項1、請求項2又は請求項3記載の耐熱アルミニウムダイカスト品は、内燃機関のピストンであることを特徴とする。
【0021】
上記成分にすることによりダイカスト品は時効硬化処理が可能となり、機械的強度及び耐焼付き性を飛躍的に高めることができた。なお、Znの成分割合を1.12%未満にするとダイカスト品に熱間割れが発生しやすくなる。またZnの成分割合を2.4%超にすると靱性が低下するという不都合が発生する。従って、Znの成分割合は1.12〜2.4%にする。
【0022】
適量のMgとZnを、Al−Si−Cu系合金に添加することで熱処理が可能なダイカスト品を得ることができたが、このような合金が何故実用化されていかなったかの原因は、ダイカスト実用合金の重要な要素である熱間割れの感受性が高過ぎることにあった。
【0023】
例えばJIS H 5302(1990)「アルミニウム合金ダイカスト」合金のADC14(Si:16.0〜18.0%、Cu:4.0〜5.0%、Mg:0.45〜0.65%)で鋳造した製品肉厚変化の大きな形状では、鋳造後に製品形状に微少クラックが発生することが多く見られる。
【0024】
また、組成がSi:14.0%、Cu:3.3%、Mg:1.4%の合金においても同様に製品形状に微少クラックが発生する。
【0025】
その原因としてはCu量とMg量のバランスにより3元共晶温度が536℃まで低下する。鋳造後、金型中で製品形状の溶湯が凝固、収縮する際に、3元共晶温度が低下することにより熱間時の材料強度が十分に出る前に、厚肉部と薄肉部の継ぎ部近傍に収縮応力が集中的に発生するため、熱間割れが発生すると考えられる。
【0026】
この微少クラックの発生を防止するために、Znの添加を試みた。この結果、Mgと同量のZn及び他の合金元素をアルミニウムに添加すると3元共晶温度が547〜554℃まで高めることができ、熱間割れの発生を抑えることができることが確認できた。さらに、詳しく研究したところZnは(0.8〜1.2)×Mgであれば同様の作用効果が判明した。
【0027】
【実施例】
本発明に係る実施例を次に説明する。なお、本発明は実施例に限定するものではない。
【0028】
【表5】
【0029】
3.3%のCuと14.0%のSiを含むアルミニウム合金に、Mg及びZnを添加することで、表4に示すAC成分ダイカスト品を造り、これらのAC成分ダイカスト品のロックウェル硬さ(Bスケール)(これを一般にHRBと表記する。)を調べた。時効硬化処理は250℃で約20分の条件で実施した。
【0030】
比較例1は、Mgが0.8%、Znが0.8%であり、鋳放しでの硬さ(HRB)は40、時効硬化処理後の硬さ(HRB)は50であった。
比較例2は、Mgが1.4%、Znが0.8%であり、鋳放しでの硬さ(HRB)は62、時効硬化処理後の硬さ(HRB)は70であり、Mg増量の効果が硬さの増加に繋がったことが分かる。
【0031】
実施例1は、Mgが1.6%、Znが1.7%であり、鋳放しでの硬さ(HRB)は70、時効硬化処理後の硬さ(HRB)は80であり、Mg並びにZn増量の効果が硬さの増加に繋がったことが分かる。
【0032】
各例における時効硬化特性を考察すると次の通りである。
比較例1の合金では時効硬化特性に寄与する主金属間化合物はCuAl2で、従はMg2Siである。
比較例2の合金では時効硬化特性に寄与する主金属間化合物はCuAl2とMg2Siの2つであって、これらの相乗効果による。
【0033】
実施例1の合金では時効硬化特性に寄与する主金属間化合物はCuAl2とMg2SiとMgZn2の3つであって、これらの相乗効果による。従って、ZnをMgとほぼ同様添加した実施例1で十分に高い硬度が得られたと言える。
【0034】
ところで、内燃機関のピストンは、高速でシリンダ内を往復することから、シリンダに焼付かぬことが求められる。そこで、チップ・オン・ディスクタイプの摩擦摩耗試験機を用いて、以下の要領で焼付き限界性能試験を実施した。
試験条件は、回転ディスクを16m/sの周速度で回し、この回転ディスクへオイルを240cm3/minの割合で滴下し、この様な回転ディスクに試験片(AC成分ダイカスト品)を摺接させつつ、任意の負荷で3分間の慣らし運転を行う。次に、オイルの供給を止め、16m/sで回転する回転ディスクに面圧Pの条件で試験片を押付け、焼付けに至るまでの時間を測定する。評価は面圧P(kgf/mm2)と周速度V(m/sec)の積であるPV値(kgf/mm2×m/sec)で整理する。
【0035】
【表6】
【0036】
表6の左半分に限界性能試験を行った実施例2,3及び比較例3の成分を示す。なお、すべてT5(時効硬化処理)を施したものを試験対象にする。
【0037】
図1は本発明に係るダイカスト品における焼付け限界値を示すグラフであり、実施例2の成分のダイカスト品で限界性能試験を行い、焼付いた時間とその時のPV値とをプロットし、多数のプロットを結んだものが図に示す曲線「実施例2」である。同様に、実施例3、比較例3についても曲線を引いた。横軸で1200sec(20分)のところに縦線を引き、PV値を評価すれば、実施例2は10、実施例3は5、比較例3は3であった。
【0038】
これら10、5、3を前記表6の右端に記載した。この表から分かるようにMgが0.8%でZnが0.6%である比較例3より、Mgが1.4%でZnが1.6%である実施例3の方が焼付け特性に優れ、Mgが2.0%でZnが1.8%である実施例2が更に焼付け特性に優れていることが確認できた。
従って、適量のMg並びにZnを加えることにより、焼付け特性を高めることができる。
【0039】
次に本発明のダイカスト品の高温特性を調べる。
【0040】
【表7】
【0041】
本発明の特徴はAC成分ダイカスト品に熱処理を施せることである。そこで、実施例3では表に示す成分のダイカスト品にT5(時効硬化処理)を施し、それの硬さを調べた。
比較例4はAC8B(成分は前記表2参照)にT7(溶体化処理後安定化処理)を施し、それの硬さを調べた。
【0042】
図2(a),(b)は温度と硬さの劣化の関係を示すグラフであり、横軸は時間、縦軸はロックウェル硬さ(HRB)を示す。
(a)は温度範囲を220℃に設定したときの実施例3と比較例4の硬さの変化を示し、T7処理を施した比較例4よりに、実施例3の方が硬さは常に大きいことが分かる。
【0043】
(b)は温度範囲を240℃に設定したときの実施例3と比較例4の硬さの変化を示し、比較例4の劣化は実施例3より遥に大きいことが分かる。すなわち、実施例4は耐熱特性に優れいることがわかる。そこで、表7の右端に240℃での硬さの劣化の欄を設け、実施例3は小、比較例4は大と明示した。
【0044】
【表8】
【0045】
表8は前記表7に示した実施例3の物性値と、比較のため比較例5(AC8A−T7)とを対比させた表である。引張強さ、0.2%耐力、及び高温疲労強度ともに実施例4が比較例5と同等若しくは優れていることが分かる。すなわち、AC8Aはピストン等に広く使用される優れたアルミニウム合金鋳物であり、これにT7(515℃×4hrの溶体化処理後、230℃×5hrの安定化処理)を施したものに、実施例3(ダイカスト品にT5(時効硬化処理)を施したもの)は耐熱特性などで遜色ないことが確認できた。
【0046】
次に、本発明に係るAC成分ダイカスト品で製作したピストンをエンジンに組込み、焼付き性を評価する。
試験は、エンジンオイル定量が580cm3であるエンジンを用い、開始時のオイル量を380cm3にしておきエンジンを始動し、定格運転を続け、10分経過毎にエンジンオイルを10又は20cm3/1回の割りで抜く。エンジンオイルが定量より大幅に少ない若しくはゼロに近づけば必然的にエンジンが焼付く。ただし、ピストンの焼付け特性が優れていれば、焼付きまでの時間を稼げるはずである。これをエンジンが焼付きによって停止したときのオイルの残量で評価することにする。
【0047】
【表9】
【0048】
本発明のダイカスト品にT5の熱処理を施した実施例4では、オイルの残量は58cm3であり、エンジンを分解してピストンの表面を調べたところ焼付き痕は小さかった。一方、AC8A−T7に相当する比較例6では、オイルの残量は70cm3であり、エンジンを分解してピストンの表面を調べたところ焼付き痕は大きかった。
【0049】
従って、AC成分ダイカスト品にT5の熱処理を施したピストンは、従来のAC8A−T7よるピストンより焼付け性に優れていることが確認できた。
【0050】
ところで、徐冷方式の重力金型鋳造によるAC8AのSiは、JISにおける下限値が11.0%である(表2参照)。同種の合金をダイカストすると、ダイカスト法の急冷凝固により凝固組織中の初晶及び共晶Siの分布分散量がAC8A(徐冷方式、重力金型鋳造)より1.5%程低くなる。すなわち、ダイカスト法に切換えたことにより、見掛け上1.5%程度のSiが消失したことになる。
そこで、本発明ではSiの下限値を(11.0+1.5)%に相当する12.5%に設定した。しかし、Siが過剰であると靱性の低下を招くので、14.0%を上限とした。この結果、本発明ではSiは、12.5〜14.0%の範囲に定めた。
【0051】
Cuの成分割合を3.0%未満にするとダイカスト急冷凝固時に初期硬さが維持できず、更に時効硬化処理の効果が出にくい。また、Cuの成分割合を4.5%超にすると靱性が低下し機械加工に支承を来す。そこで、Cuの成分割合は3.0〜4.5%とする。
【0052】
Mgの成分割合を1.4%未満にするとCuと同様に時効硬化処理の効果が出にくい。また、Mgの成分割合を2.0%超にすると靱性が低下し機械加工に支承を来す。そこで、Mgの成分割合は1.4〜2.0%とする。
【0053】
Znの成分割合を1.12%未満にするとダイカスト品に熱間割れが発生しやすくなる。また、Znの成分割合を2.4%超にすると靱性が低下するという不都合が発生する。従って、Znの成分割合は1.12〜2.4%にする。
【0054】
従って、本発明の耐熱アルミニウムダイカスト品は、12.5〜14.0%のSiと、3.0〜4.5%のCuと、1.4〜2.0%のMgと、(0.8〜1.2)×MgのZnと、残部のAlとからなることを特徴とする。
【0055】
尚、本発明のアルミニウムダイカスト品にFe、Mn、Niその他の不可避的成分を微量含むことは差支えない。
また、本発明の耐熱アルミニウムダイカスト品は、ピストンに好適であるが、用途を格別に限定するものではなく、軽量、耐熱性、耐久性、耐摩耗性を要求される部位に使用する部品に広く適用できる。
【0056】
【発明の効果】
本発明は上記構成により次の効果を発揮する。
請求項1は、12.5〜14.0%のSiと、3.0〜4.5%のCuと、1.4〜2.0%のMgと、(0.8〜1.2)×MgのZnと、残部のAlとからなることを特徴とする。
請求項2は、12.5〜14.0%のSiと、3.0〜4.5%のCuと、1.6%のMgと、1.7%のZnと、残部のAlとからなることを特徴とする。
すなわち、上記成分にすることによりダイカスト品は時効硬化処理が可能となり、機械的強度及び耐焼付き性を飛躍的に高めることができた。
【0057】
請求項3は、ダイカスト後に時効硬化処理を施したことを特徴とする。
請求項4では、請求項1、請求項2又は請求項3記載の耐熱アルミニウムダイカスト品は、内燃機関のピストンであることを特徴とする。
ダイカスト品に時効硬化処理を施すことで機械的強度及び耐焼付き性を飛躍的に高めることができた。従って、本発明のダイカスト品を内燃機関のピストンに適用すれば、エンジン焼付き特性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るダイカスト品における焼付け限界値を示すグラフ
【図2】温度と硬さの劣化の関係を示すグラフ
Claims (4)
- 12.5〜14.0%のSiと、3.0〜4.5%のCuと、1.4〜2.0%のMgと、(0.8〜1.2)×MgのZnと、残部のAlとからなることを特徴とする耐熱アルミニウムダイカスト品。
- 12.5〜14.0%のSiと、3.0〜4.5%のCuと、1.6%のMgと、1.7%のZnと、残部のAlとからなることを特徴とする耐熱アルミニウムダイカスト品。
- ダイカスト後に時効硬化処理を施したことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の耐熱アルミニウムダイカスト品。
- 請求項1、請求項2又は請求項3記載の耐熱アルミニウムダイカスト品は、内燃機関のピストンであることを特徴とする耐熱アルミニウムダイカスト品。
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