JP4550598B2 - 成形用アルミニウム合金板 - Google Patents

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Description

本発明は、連続鋳造により得られた高Mg含有Al-Mg 系アルミニウム合金板であって、高いプレス成形性を有するアルミニウム合金板を提供するものである。
近年、自動車などの輸送機の車体分野では、近年、排気ガス等による地球環境問題に対して、軽量化による燃費の向上が追求されている。このため、自動車の車体に対し、従来から使用されている鋼材に代わって、圧延板や押出形材など、より軽量なAl合金材適用が増加しつつある。
この内、自動車のフード、フェンダー、ドア、ルーフ、トランクリッドなどの自動車ボディパネル (パネル構造体) の、アウタパネル (外板) やインナパネル( 内板) 等のパネルには、Al-Mg 系のAA乃至JIS 5000系 (以下、単に5000系、あるいはAl-Mg 系と言う) アルミニウム合金板や Al-Mg-Si 系のAA乃至JIS 6000系アルミニウム合金板の使用が検討されている。
前記自動車ボディパネル用のアルミニウム合金板 (以下、アルミニウムをAlとも言う) には、高プレス成形性が要求される。この成形性の点からは、前記Al合金のなかでも、強度・延性バランスに優れたAl-Mg 系Al合金が有利である。
このため、従来から、Al-Mg 系Al合金板に関して、成分系の検討や製造条件の最適化検討が行われている。このAl-Mg 系Al合金としては、例えばJIS A 5052、5182等が代表的な合金成分系である。しかし、このAl-Mg 系Al合金でも冷延鋼板と比較すると延性に劣り、成形性に劣っている。
これに対し、Al-Mg 系Al合金は、Mg含有量を増加させて、8%を超える高Mg化させると、強度延性バランスが向上する。しかし、このような高MgのAl-Mg 系合金は、DC鋳造などで鋳造した鋳塊を均熱処理後に熱間圧延を施す、通常の製造方法では、工業的に製造することは困難である。この理由は、鋳造の際に鋳塊にMgが偏析したり、通常の熱間圧延では、Al-Mg 系合金の延性が著しく低下するために、割れが発生し易くなるからである。
一方、高MgのAl-Mg 系合金を、上記割れの発生する温度域を避けて、低温での熱間圧延を行うことも困難である。このような低温圧延では、高MgのAl-Mg 系合金の材料の変形抵抗が著しく高くなり、現状の圧延機の能力では製造できる製品サイズが極端に限定されるためである。
また、高MgのAl-Mg 系合金のMg含有許容量を増加させるために、FeやSi等の第三元素を添加する方法等も提案されている。しかし、これら第三元素の含有量が増えると、粗大な金属間化合物を形成しやすく、アルミニウム合金板の延性を低下させる。このため、Mg含有許容量の増加には限界があり、Mgが8%を超える量を含有させることは困難であった。
このため、従来から、高MgのAl-Mg 系合金板を、双ロール式などの連続鋳造法で製造することが種々提案されている。双ロール式連続鋳造法は、回転する一対の水冷銅鋳型 (双ロール) 間に、耐火物製の給湯ノズルからアルミニウム合金溶湯を注湯して凝固させ、かつ、この双ロール間において、上記凝固直後に圧下し、かつ急冷して、アルミニウム合金薄板とする方法である。この双ロール式連続鋳造法はハンター法や3C法などが知られている。
双ロール式連続鋳造法の冷却速度は、従来のDC鋳造法やベルト式連続鋳造法に較べて1〜3桁大きい。このため、得られるアルミニウム合金板は非常に微細な組織となり、プレス成形性などの加工性に優れる。また、鋳造によって、アルミニウム合金板の板厚も比較的薄い1〜13mmのものが得られる。このため、従来のDC鋳塊(厚さ200 〜 600mm)のように、熱間粗圧延、熱間仕上げ圧延等の工程が省略できる。さらに鋳塊の均質化処理も省略出来る場合がある。
このような双ロール式連続鋳造法を用いて製造した高MgのAl-Mg 系合金板の、成形性向上を意図して組織を規定した例は、従来においても提案されている。例えば、6 〜10% の高MgであるAl-Mg 系合金板の、Al-Mg 系の金属間化合物の平均サイズを10μm 以下とした、機械的性質に優れた自動車用アルミニウム合金板が提案されている (特許文献1参照) 。また、10μm 以上のAl-Mg 系金属間化合物の個数を300 個/mm2以下とし、平均結晶粒径が10〜70μm とした自動車ボディーシート用アルミニウム合金板なども提案されている (特許文献2参照) 。
特開平7 −252571号公報 (特許請求の範囲、1 〜2 頁) 特開平8 −165538号公報 (特許請求の範囲、1 〜2 頁)
これら特許文献1 、2 の通り、鋳造の際に晶出するAl-Mg 系金属間化合物は、プレス成形の際に破壊の起点となりやすい。したがって、双ロール式連続鋳造法を用いて製造した高MgのAl-Mg 系合金板のプレス成形性を向上させるためには、これらAl-Mg 系金属間化合物(Al-Mg 系化合物とも言う)を、特許文献1 、2 の通り、微細化させる、あるいは粗大なものを少なくすることが有効である。また、板の結晶粒を微細化させることもプレス成形性向上に有効である。
しかし、これらAl-Mg 系金属間化合物を微細化させる、あるいは粗大なものを少なくするだけでは、結晶粒を微細化させても、自動車パネルへの適用が難しくなっている。自動車用パネルの中でも、特に、前記した自動車ボディパネルのアウタパネルやインナパネルなどへの適用が難しい。これらのアウタパネルやインナパネルは、自動車の設計上、より大型化や、より複雑形状化する傾向にあり、成形がより難しくなっているからである。
したがって、双ロール式連続鋳造法を用いて製造した高MgのAl-Mg 系合金板の上記実際のアウタパネルやインナパネルへのプレス成形性を向上させるためには、前記特許文献1 、2 のような、結晶粒を微細化させる、更には、Al-Mg 系金属間化合物を微細化させる、あるいは粗大なものを少なくすることだけでは不十分である。このため、より高いプレス成形性を持つ高MgのAl-Mg 系合金板が求められている。
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、連続鋳造により得られた高Mg含有Al-Mg 系アルミニウム合金板であって、より高いプレス成形性を有するアルミニウム合金板を提供することである。
この目的を達成するために、本発明成形用アルミニウム合金板の要旨は、双ロール式連続鋳造法により、双ロール表面に潤滑剤を用いることなく、前記双ロールの冷却速度を200 ℃/s以上として、連続的に板厚1 〜13mmの範囲に鋳造され、最終の冷間圧延における冷延率を60%以下として冷間圧延された板厚0.5 〜3mm のAl-Mg 系アルミニウム合金板であって、質量% で、Mg:8% を超え14% 以下、Fe:1.0% 以下、Si:0.5% 以下を含み、残部Alおよび不可避的不純物からなり、この板の集合組織の内、Cube方位、回転Cube方位、Goss方位、Brass方位、S方位、Cu方位、PP方位の各集合組織の方位成分の平均面積率の総和、[Cube]+[回転Cube]+[Goss]+[Brass]+[S]+[Cu]+[PP]が35%以下であることとする。
但し、上記各集合組織の面積率は、各理想方位からのずれが±15゜以内の方位領域の面積率とする。
本発明では、上記8%を超える高MgのAl-Mg 系合金板において、集合組織を制御し、板の異方性を低減して、プレス成形性を向上させる。
双ロール式連続鋳造法により鋳造および冷間圧延された高MgのAl-Mg 系合金板の異方性は、通常のDC鋳造−均熱−熱延−冷延により製造されたAl-Mg 系アルミニウム合金板よりも小さい。しかし、それでも、プレス成形性を向上させるためには、より板の異方性を低減する必要があることを知見した。
上記通常のDC鋳造などの工程で製造されたAl-Mg 系アルミニウム合金板の分野では、集合組織を制御してプレス成形性を向上させる技術思想は、従来からある。しかし、双ロール式連続鋳造法による高MgのAl-Mg 系合金薄板の分野では、本発明のように、集合組織を制御してプレス成形性を向上させる考え方は、これまで殆ど無い。
本発明では、上記8%を超える高MgのAl-Mg 系合金板において、集合組織を制御し、板の異方性を低減することによって、張出成形、絞り成形、曲げ加工、あるいはこれら成形加工の組み合わせなどで、優れたプレス成形性を得ることが可能となる。
(集合組織)
図1に、アルミニウム合金板の集合組織の内で主要な、Cube方位、回転Cube方位、Goss方位、Brass方位、S方位、Cu方位、PP方位の各集合組織の方位成分の、各々の平均面積率測定結果を示す。
図1の黒丸が本発明の10.5% MgのAl-Mg 系合金板(後述する実施例における発明例2 )、黒三角が本発明の12.0% MgのAl-Mg 系合金板(後述する実施例における発明例3 )である。また、白四角が、比較例である10.5% MgのAl-Mg 系合金板(後述する実施例における比較例15)、および白三角が比較例である12.0% MgのAl-Mg 系合金板(後述する実施例における比較例16)である。上記同じ組成同士の発明例と比較例との比較において、発明例と比較例とは異方性の程度が相違し、発明例の方が比較例に比して異方性が小さい。
図1の各発明例は、板の集合組織の内、Cube方位、回転Cube方位、Goss方位、Brass方位、S方位、Cu方位、PP方位の各集合組織の方位成分の平均面積率の総和、[Cube]+[回転Cube]+[Goss]+[Brass]+[S]+[Cu]+[PP]が35%以下である。一方、図1の各比較例は、この各集合組織の方位成分の平均面積率の総和が35%を超える。そして、後述する実施例の通り、図1の各発明例はプレス成形性が良く、これら各発明例に比して、図1の各比較例はプレス成形性に劣る。
即ち、プレス成形性を向上させるためには、最終焼鈍後の板の集合組織の内、Cube方位、回転Cube方位、Goss方位、Brass方位、S方位、Cu方位、PP方位の各集合組織の方位成分の平均面積率の総和、[Cube]+[回転Cube]+[Goss]+[Brass]+[S]+[Cu]+[PP]を35%以下として、板の異方性を低減する必要がある。
一方、この各集合組織の方位成分の平均面積率の総和が35%を超えると、プレス成形性を低下させるだけ、板の異方性が大きくなる。本発明における集合組織の制御は、後述する冷間圧延における冷延率を制御して行なう。
なお、本発明で規定している各集合組織の主要方位成分自体の定義や測定方法は、通常の前記DC鋳造によるAl-Mg 系合金板とほぼ同じである。即ち、
Cube方位:{001}<100>
回転Cube方位:{001}<110>(Cube方位が板面回転した方位:RW方位とも言う)
Goss方位:{011}<100>
Brass方位:{011}<211>
S方位:{123}<634>
Cu方位:{112}<111>
(若しくは、D方位:{4411}<11118>
PP方位:{011}<122>等である。
本発明における集合組織分布の測定箇所は板幅方向の直角断面とし、合金板の板厚方向1/4部で測定することが望ましい。即ち、最終焼鈍後の板表面の中心(板長方向の1/2、板幅方向の1/2の交点)を通り、板表面に直交し、且つ圧延方向に平行な面について、SEM−EBSP(ElectronBackScatteringPattern)を用いて測定する。但し、上記各集合組織の面積率は、各理想方位からのずれが±15゜以内の方位領域の面積率とする。
より具体的には、上記部位から複数サンプリングした板断面試料表面に機械研磨およびバフ研磨を行なった後、更に電解研磨する。次に、SEM−EBSPによって、厚さ方向500μm圧延方向1000μmの長方形に占める集合組織組成を複数箇所測定して、各方位の平均面積率を算出する。測定は、板表面から板厚中心部にかけて、例えばステップ間隔3μm以下で行なう。SEM装置としては、例えば、日本電子社製SEM(JEOLJSM5410)または、Philips社製FE−SEM(電解放出型走査電子顕微鏡,FieldEmissionScanningElectronMicroscopy)(XL30S−FEG)などを使用する。また、EBSP測定・解析システムは、例えば、TSL社製EBSP(OIM)を用いる。
(平均結晶粒径)
Al合金板表面の平均結晶粒径は100 μm 以下に微細化させることが成形性を向上させる前提条件として好ましい。結晶粒径をこの範囲に細かく乃至小さくすることによって、プレス成形性が確保乃至向上される。結晶粒径が100 μm を越えて粗大化した場合、プレス成形性が著しく低下し、成形時の割れや肌荒れなどの不良が生じ易くなる。一方、平均結晶粒径があまり細か過ぎても、5000系Al合金板に特有の、SS (ストレッチャーストレイン) マークがプレス成形時に発生するので、この観点からは、平均結晶粒径は20μm 以上とすることが好ましい。
本発明で言う結晶粒径とは板の長手(L) 方向の結晶粒の最大径である。この結晶粒径は、Al合金板を0.05〜0.1mm 機械研磨した後電解エッチングした表面を、100 倍の光学顕微鏡を用いて観察し、前記L 方向にラインインターセプト法で測定する。1 測定ライン長さは0.95mmとし、1 視野当たり各3 本で合計5 視野を観察することにより、全測定ライン長さを0.95×15mmとする。
(化学成分組成)
本発明Al合金板における化学成分組成の、各合金元素の意義及びその限定理由について以下に説明する。本発明Al合金板は、基本的には、質量% で、Mg:8% を超え14% 以下、Fe:1.0% 以下、Si:0.5% 以下を含み、残部がAlおよび不可避的な不純物からなる化学成分組成とする。
(Mg:8%を超え14% 以下)
MgはAl合金板の強度、延性を高める重要合金元素である。Mgが8%以下の含有量では、強度、延性が不足して、高MgのAl-Mg 系Al合金の特徴が出ず、特に本発明が意図する自動車用パネルへのプレス成形性が不足する。一方、Mgを14% を越えて含有すると、連続鋳造の際の冷却速度を高めたり、焼鈍後の冷却速度を高めるなどの製造方法や条件の制御を行なっても、Al-Mg 系化合物の晶析出が多くなる。この結果プレス成形性が著しく低下する。また、加工硬化量が大きくなり、冷間圧延性も低下させる。したがって、Mgは8%を超え14% 以下の範囲とする。
(Fe:1.0%以下、Si:0.5% 以下)
FeとSiは、できるだけ少ない量に規制すべき不純物である。FeとSiは、Al-Mg-(Fe 、Si) などから成るAl-Mg 系化合物量や、Al-Fe 、Al-Si 系などのAl-Mg 系以外の化合物量となって多く生成する。Feの含有量が1.0%、Siの含有量が0.5%、を各々超えた場合には、これらの化合物量が過大となって、破壊靱性や成形性を大きく阻害する。この結果プレス成形性が著しく低下する。したがって、Feは1.0%以下、好ましくは0.5%以下、Siは0.5%以下、好ましくは0.3%以下に各々規制する。
この他、Mn、Cu、Cr、Zr、Zn、V 、Ti、B なども不純物元素であり、含有量は少ない方が良い。しかし、例えば、Mn、Cr、Zr、V には圧延板組織の微細化効果、Ti、B には鋳造板 (鋳塊) 組織の微細化効果などの効果もある。また、Cu、Znには、強度を向上させる効果もある。このため、これら効果を狙って、敢えて含有させる場合もあり、本発明板の特性である成形性を阻害しない範囲で、これら元素を一種または二種以上含有させることは許容される。これらの許容量は、各々、質量% で、Mn:0.3% 以下、Cr:0.3% 以下、Zr:0.3% 以下、V:0.3%以下、Ti:0.1% 以下、B:0.05% 以下、Cu:1.0% 以下、Zn:1.0% 以下、である。
(製造方法)
以下に、本発明におけるAl-Mg 系Al合金板の製造方法につき説明する。
本発明の高MgのAl-Mg 系Al合金板は、前記した通り、DC鋳造などで鋳造した鋳塊を均熱処理後に熱間圧延を施す、通常の製造方法では、工業的に製造することは困難である。したがって、本発明の高MgのAl-Mg 系Al合金板は、双ロール式などの連続鋳造と、熱間圧延を省略した、冷間圧延、焼鈍とを組み合わせて製造する。
(双ロール式連続鋳造)
Al合金薄板の連続鋳造方法としては、双ロール式の他に、ベルトキャスター式、プロペルチ式、ブロックキャスター式などがあるが、後述する鋳造の際の冷却速度を高くするためには、双ロール式とする。
この双ロール式連続鋳造は、前記した通り、回転する一対の水冷銅鋳型などの双ロール間に、耐火物製の給湯ノズルから、上記成分組成のAl合金溶湯を注湯して凝固させ、かつ、この双ロール間において、上記凝固直後に圧下し、かつ急冷して、Al合金薄板とする。
(ロール潤滑)
この際、双ロールとしては、潤滑剤によって表面が潤滑されていないロールを用いる。従来では、溶湯がロール表面に接触および急冷されて、双ロール表面に造形される凝固殻の割れを防止するために、酸化物粉末 (アルミナ粉、酸化亜鉛粉等) 、SiC 粉末、グラファイト粉末、油、溶融ガラスなどの潤滑剤 (離型剤) を、双ロール表面に塗布あるいは流下させて用いることが一般的であった
しかしながら、これら潤滑剤を用いた場合、双ロール表面において、潤滑剤の濃度や厚みの不均一によって、冷却のムラが生じやすく、板の部位によっては凝固速度が不十分となりやすい。このため、Mg含有量が高くなるほど、マクロ偏析やミクロ偏析が大きくなり、Al-Mg 系合金板の成形性を均一にすることが困難となる可能性が高くなる。
因みに、特開平1-202345号公報でも、3.5%以上のMgを含むAl-Mg 系合金板の双ロール式連続鋳造において、潤滑剤によって表面が潤滑されていないロールを用いて、冷却ムラによる、シミ欠陥 (表面偏析) を防止して、表面品質を向上させることが開示されている。しかし、その実施例で開示されているのは、5%までのMg量であり、本発明のようなMgが8%を超える高Mg量のAl-Mg 系合金板の開示は無い。即ち、本発明のようなMgが8%を超える高Mg量のAl-Mg 系合金板の領域での双ロール式連続鋳造において、潤滑剤を使用した方が良いのか、悪いのかは、その効果を含めて、全く不明であり、前記した通り、潤滑剤を使用する方が一般的であった。
(冷却速度)
例えば、鋳造する板厚が1 〜13mmの比較的薄板の範囲であっても、高MgのAl-Mg 系合金板の平均結晶粒径を微細化するためには、この双ロールによる鋳造の冷却速度は100 ℃/s以上のできるだけ速い速度が必要である。上記潤滑剤を用いた場合、理論計算上は冷却速度が速くても、実質的な、あるいは実際における冷却速度が実質的に100 ℃/s未満となりやすい。このため、8%を超える高MgのAl-Mg 系合金板の平均結晶粒径を微細化できず、プレス成形性が著しく低下する。
なお、この冷却速度は、直接の計測は難しいので、鋳造された板 (鋳塊) のデンドライトアームスペーシング (デンドライト二次枝間隔、:DAS) から公知の方法(例えば、軽金属学会、昭和63年8.20発行、「アルミニウムデンドライトアームスペーシングと冷却速度の測定方法」などに記載)により求める。即ち、鋳造された板の鋳造組織における、互いに隣接するデンドライト二次アーム (二次枝) の平均間隔d を交線法を用いて計測し (視野数3 以上、交点数は10以上) 、このd を用いて次式、d = 62×C -0.337 (但し、d:デンドライト二次アーム間隔mm、C : 冷却速度℃/s) から求める。
(鋳造板厚)
双ロールにより連続鋳造する薄板の板厚は1 〜13mmの範囲とする。そして、好ましくは、1mm 以上、5mm 未満の薄い板厚とする。板厚1mm 未満の連続鋳造は、双ロール間への注湯や、双ロール間のロールギャップ制御などの鋳造限界から、困難である。他方、板厚が13mm、より厳しくは板厚が5mm を超えて厚くなった場合、鋳造の冷却速度が著しく遅くなり、Al-Mg 系などの金属間化合物全般が粗大化したり、多量に晶出する傾向がある。この結果プレス成形性が著しく低下する可能性が高くなる。
(注湯温度)
Al合金溶湯を双ロールに注湯する際の注湯温度は、液相線温度+30℃以下とすることが好ましい。注湯温度が液相線温度+30℃を超えた場合、後述する鋳造冷却速度が小さくなり、Al-Mg 系などの金属間化合物全般が粗大化したり、多量に晶出する可能性がある。この結果、強度伸びバランスが低下し、プレス成形性が著しく低下する可能性がある。また、双ロールに圧下効果が小さくなり、中心欠陥が多くなって、Al合金板としての基本的の機械的性質自体が低下する可能性がある。
(双ロール周速)
回転する一対の双ロールの周速は1m /min 以上とすることが好ましい。双ロールの周速が1m /min 未満では、溶湯と鋳型 (双ロール) との接触時間が長くなり、鋳造薄板の表面品質が低下する可能性がある。この点、双ロールの周速は速いほど良く、好ましい周速は30m/min 以上である。
(冷間圧延)
このように鋳造されたAl合金板は、オンラインでもオフラインでも熱間圧延せずに、自動車パネル用の製品板の板厚0.5 〜3mm に冷間圧延されて、鋳造組織が加工組織化される。本発明における集合組織の制御は、この冷間圧延における冷延率(加工率)を制御して行なう。前記板の各集合組織の方位成分の平均面積率の総和、[Cube]+[回転Cube]+[Goss]+[Brass]+[S]+[Cu]+[PP]を35%以下とするためには、最終の冷間圧延における冷延率を60%以下とする。最終の冷間圧延における冷延率が60%を超えた場合には、前記板の各集合組織の方位成分の平均面積率の総和が35%を超えて、異方性が大きくなる可能性が高い。
この点、双ロールにより連続鋳造する薄板の板厚が上限の13mm側に厚い場合には、冷延途中に中間焼鈍を入れて、最終の冷間圧延における冷延率を60%以下とすることが好ましい。なお、冷間圧延における加工組織化の程度は冷間圧延の冷延率にもより、上記集合組織制御のために、鋳造組織が残留する場合もあるが、プレス成形性や機械的な特性を阻害しない範囲で許容される。
(最終焼鈍)
Al合金冷延板は、400 ℃〜液相線温度で最終焼鈍することが好ましい。焼鈍温度が400 ℃未満では、溶体化効果が得られない可能性が高い。また、この最終焼鈍後には、500 〜300 ℃の温度範囲を5 ℃/s以上の、できるだけ速い平均冷却速度で冷却する必要がある。最終焼鈍後の平均冷却速度が遅く、5 ℃/s未満であれば、冷却過程で、Al-Mg 系などの金属間化合物全般が多量に析出する。この結果、強度伸びバランスが低下し、プレス成形性が著しく低下する可能性が高い。
以下に本発明の実施例を説明する。表1 に示す種々の化学成分組成のAl-Mg 系Al合金溶湯(発明例A〜M、比較例N〜X)を、前記した双ロール連続鋳造法により、表2 に示す条件で各板厚(3〜10mm) に鋳造した。そして、これら各Al合金鋳造薄板を板厚1.5mm まで、表2 に示すように、中間焼鈍の有無を含めて、最終冷延率を種々変えて、冷間圧延した。中間焼鈍を入れる場合は、焼鈍条件は共通して400 ℃×5 時間とした。
また、これら各冷延板を、表2 に示す条件で、連続焼鈍炉で最終焼鈍および冷却を行った。これら発明例、比較例とも、比較例14を除き、得られたAl合金板表面の平均結晶粒径は30〜60μm の範囲であった。
ここにおいて、双ロール連続鋳造の際の、双ロールの周速は70m /min、Al合金溶湯を双ロールに注湯する際の注湯温度は、液相線温度+20℃と、各例とも一定とした。SiC およびアルミナの粉末を水に懸濁させた潤滑剤による双ロール表面の潤滑は、表2 の比較例14のみ行い、他の例は全て双ロール表面の潤滑無し(無潤滑)で、連続鋳造した。
このように得られた、最終焼鈍後の高Mgの Al-Mg系Al合金板から、プレス成形される部位の、長手方向に亙って、互いの間隔を100mm 以上開けた任意の測定箇所、5 箇所における集合組織 (Cube方位、回転Cube方位、Goss方位、Brass方位、S方位、Cu方位、PP方位の各集合組織の方位成分の各々の平均面積率の合計) を、前記した要領にて測定、計算した。表3 に測定結果を示す。
更に、前記集合組織測定箇所から試験片を採取し、各試験片の機械的性質と、強度延性バランス [引張強度(TS:MPa)×全伸び(EL:%)](MPa%) の平均値を求め、また、プレス成形される板部位から、長手方向に亙って、互いの間隔を100mm 以上開けた任意の各試験片を各試験毎に5 枚採取して、成形性などの特性も計測、評価した。これらの結果を表3 に示す。
引張試験はJIS Z 2201にしたがって行うとともに、試験片形状はJIS 5 号試験片で行い、試験片長手方向が圧延方向と一致するように作製した。また、クロスヘッド速度は5mm/分で、試験片が破断するまで一定の速度で行った。
成形性の材料試験評価としては、JIS Z 2247に準拠してエリクセン試験(mm)を行った。
そして、実際の自動車アウタパネルとしての成形性を評価するために、前記得られた高Mgの各 Al-Mg系Al合金板をプレス成形および曲げ加工した。これらの結果も表3 に示す。
プレス成形試験は、前記採取試験片 (一辺が200mm の正方形のブランク)5枚を、中央部に一辺が60mmで、高さが30mmの角筒状の張出部と、この張出部の四周囲に平坦なフランジ部を有するハット型のパネルに、メカプレスにより張出成形した。しわ押さえ力は49kN、潤滑油は一般防錆油、成形速度は20mm/ 分の同じ条件で行った。
そして、5 回(5枚) のプレス成形ともに、前記張出部の四周囲や平坦なフランジ部に割れが生じなかったものを○、5 回のプレス成形ともに割れは無いが、SSマークや肌荒れが生じたものを△、1 回でも前記割れが生じたものを×と評価した。
曲げ加工性は、前記採取試験片を、自動車アウタパネルとして、プレス成形後にフラットヘム加工されることを模擬して、常温にて、試験片に10% のストレッチを行った後、曲げ試験を行い評価した。試験片条件は、前記採取試験片を、JIS Z 2204に規定される3 号試験片 (幅30mm×長さ200mm)を用い、試験片長手方向が圧延方向と一致するように作製した。曲げ試験は、JIS Z 2248に規定されるVブロック法により、フラットヘム加工を模擬して、先端半径0.3mm 、曲げ角度60度の押金具で60度に曲げた後、更に180 度に曲げた。この際、例えば、アウタパネルのヘム加工ではインナパネルが曲げ部内に挟み込まれるが、条件を厳しくするために、このようなのAl合金板を挟み込まないで180 度に曲げた。
そして、曲げ試験後の曲げ部 (湾曲部) の割れの発生状況を観察し、5 回(5枚) の試験共に、曲げ部表面に割れや肌荒れなどの以上が無いものを○、5 回の試験共に割れは無いが肌荒れが生じているものを△、1 回でも割れがあるものを×と評価した。
表1 、2 の通り、表1 のA 〜M の本発明範囲内の組成を有する高MgのAl-Mg 系Al合金板例であって、本発明範囲内の条件で、双ロール連続鋳造、冷延、最終焼鈍された発明例1 〜13は、板の集合組織の内、Cube方位、回転Cube方位、Goss方位、Brass方位、S方位、Cu方位、PP方位の各集合組織の方位成分の平均面積率の総和、[Cube]+[回転Cube]+[Goss]+[Brass]+[S]+[Cu]+[PP]が35%以下である。この結果、強度延性バランスが高く、プレス成形性や曲げ加工性に優れている。
これに対して、比較例14は、表1 のA の本発明範囲内の組成を有する高MgのAl-Mg 系Al合金例ではあるが、双ロールの潤滑を行ない、冷却速度が100 ℃/s未満となった好ましい製造条件の範囲外で製造されている。このため、比較例14は[Cube]+[回転Cube]+[Goss]+[Brass]+[S]+[Cu]+[PP]は35%以内であるものの、得られたAl合金板表面の平均結晶粒径が100 μm を超え、強度延性バランスが低く、曲げ加工性やプレス成形性に劣っている。
比較例15、16は、表1 のB の本発明範囲内の組成を有する高MgのAl-Mg 系Al合金例ではあるが、最終冷延率がいずれも高過ぎる。このため、比較例15、16は、[Cube]+[回転Cube]+[Goss]+[Brass]+[S]+[Cu]+[PP]が35%を超え、強度延性バランスが低く、曲げ加工性やプレス成形性に劣っている。
表1 のN 〜X の発明範囲外の組成を有する合金を用いた比較例17〜27は、好ましい条件の範囲内で、双ロール連続鋳造、最終冷延、最終焼鈍されているにもかかわらず、また、[Cube]+[回転Cube]+[Goss]+[Brass]+[S]+[Cu]+[PP]は35%以内であるものの、プレス成形性が、発明例に比して著しく劣っている。
比較例17は、Mg含有量が下限を下回って少な過ぎるN の合金を用いている。
比較例18は、Mg含有量が上限を上回って多過ぎるO の合金を用いている。
比較例19は、Fe含有量が上限を上回って多過ぎるP の合金を用いている。
比較例20は、Si含有量が上限を上回って多過ぎるQ の合金を用いている。
比較例21は、Mn含有量が上限を上回って多過ぎるR の合金を用いている。
比較例22は、Cr含有量が上限を上回って多過ぎるS の合金を用いている。
比較例23は、Zr含有量が上限を上回って多過ぎるT の合金を用いている。
比較例24は、V 含有量が上限を上回って多過ぎるU の合金を用いている。
比較例25は、Ti含有量が上限を上回って多過ぎるV の合金を用いている。
比較例26は、Cu含有量が上限を上回って多過ぎるW の合金を用いている。
比較例27は、Zn含有量が上限を上回って多過ぎるX の合金を用いている。
したがって、これらから、各元素の強度、延性、強度延性バランス、成形性に対する臨界的な意義が分かる。
Figure 0004550598
Figure 0004550598
Figure 0004550598
以上説明したように、本発明によれば、連続鋳造により得られた高Mg含有Al-Mg 系アルミニウム合金板であって、自動車のアウタパネルやインナパネルへの適用が可能な、より高いプレス成形性を有するアルミニウム合金板を提供することができる。この結果、自動車パネルなど、プレス成形用としてのAl-Mg 系アルミニウム合金連続鋳造板の適用を拡大できるものである。
本発明アルミニウム合金板の各集合組織の方位成分の各々の平均面積率測定結果を示す説明図である。

Claims (2)

  1. 双ロール式連続鋳造法により、双ロール表面に潤滑剤を用いることなく、前記双ロールの冷却速度を200 ℃/s以上として、連続的に板厚1 〜13mmの範囲に鋳造され、最終の冷間圧延における冷延率を60%以下として冷間圧延された板厚0.5 〜3mm のAl-Mg 系アルミニウム合金板であって、質量% で、Mg:8% を超え14% 以下、Fe:1.0% 以下、Si:0.5% 以下を含み、残部Alおよび不可避的不純物からなり、この板の集合組織の内、Cube方位、回転Cube方位、Goss方位、Brass方位、S方位、Cu方位、PP方位の各集合組織の方位成分の平均面積率の総和、[Cube]+[回転Cube]+[Goss]+[Brass]+[S]+[Cu]+[PP]が35%以下であることを特徴とする成形用アルミニウム合金板。
    但し、上記各集合組織の面積率は、各理想方位からのずれが±15゜以内の方位領域の面積率とする。
  2. 前記アルミニウム合金板が、更に、質量% で、Mn:0.3% 以下、Cr:0.3% 以下、Zr:0.3% 以下、V:0.3%以下、Ti:0.1% 以下、Cu:1.0% 以下、Zn:1.0% 以下、の一種または二種以上を含む、請求項1に記載の成形用アルミニウム合金板。
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