JP4537050B2 - 前立腺癌、そのリスク又はその初期罹患の判定方法 - Google Patents

前立腺癌、そのリスク又はその初期罹患の判定方法 Download PDF

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Description

本発明は、前立腺癌、そのリスク又はその初期罹患の判定法及び診断薬に関する。
前立腺癌は男性ホルモンであるアンドロゲンに対して感受性を有する癌であり、一般的に発症年齢が高く、癌の発育速度も比較的穏やかなため、癌の憎悪前に患者が寿命を迎える症例がある反面、発見が遅れると骨髄転移を始め全身に転移し、患者を死に至らしめる疾患でもある。また、高齢者では治療後の尿排泄の障害など、身体的心理的にも生活質(quality of life:QOL)を悪化させている。
欧米では、前立腺癌は発生率・死亡率ともに男性の悪性腫瘍の第1〜3位を占め、米国人男性では最も診断例の多い癌である。また、欧米における癌死亡率の約20%を占めている。一方、わが国での前立腺癌の死亡率は、これまで約3.5%と比較的少ない癌であった。しかし近年、食生活の欧米化及び高年齢化社会を背景に、前立腺癌の発症頻度は急増中である。
前立腺癌の診断方法としては、直腸指診、経直腸的な超音波検査、血液中の前立腺特異抗体(prostatic specific antigen :PSA)の測定の3種の診断方法が用いられ、疾患の疑いが診断された後、生検によって採取した組織の病理診断によって確定診断されるといった方法が用いられていた。
また、前立腺癌はホルモン依存性癌であることから、最も基本的な治療法はとしてはアンドロゲン除去を目的とした去勢術(両側精巣摘除)や下垂体からの黄体形成ホルモン放出ホルモンに対するアゴニスト徐放剤の投与が挙げられる(アンドロゲン除去法)。また現在では、これらアンドロゲン除去法に加え、副腎からの残存アンドロゲン除去を目的としたアンチアンドロゲン剤を併用するmaximum androgen blockade(MAB)療法が積極的に行われている。しかしながら、これらのホルモン療法は男性機能の喪失や、アンドロゲンの除去による副作用等、患者にかける負担が大きい。また、去勢術等の外科療法の手術は、全身麻酔で5〜6時間かかるため、患者はかなりの体力を必要とし、高齢者には負担が大きい。また、癌が前立腺内に限局している場合は、外科療法と放射線治療の局所治療も行われる。
更に、癌細胞の悪性化に伴い、その増殖にアンドロゲンが不要となるため、ホルモン療法が効果を示さなくなるといった弊害があった。このような場合はエチルエストラジオール等のホルモンや、イフォスアミド(Ifosamide,IFO;アルキル化剤)、テガフール・ウラシル(Tegafur uracil,UFT;代謝拮抗剤)、硫酸ペプロマイシン(Peplomycin sulfate,PEP;抗癌抗生物質)、シスプラチン(Cisplatin,CDDP;白金系抗悪性腫瘍剤)などを用いる化学療法が行われるが、副作用が重篤であるだけでなく、効果の続く時間が短く、奏効の期待ができないといった問題が生じている。従って、集団検診等における、前立腺発癌の早期診断・早期発見が重要である。
しかしながら、同じ組織における疾患である前立腺肥大症の診断も、問診による自覚症状の確認や平均尿流量の測定、触診、或いは超音波による前立腺の大きさの測定などを組み合わせて行われており、また近年では、PSA量を前立腺の大きさで割った値、PSA密度を指標とした前立腺肥大症の鑑別も行われている。したがって、従来の前立腺癌の診断方法では、前立腺肥大症も陽性に判定してしまうという問題があった。また偽陽性判定の発生も免れず、前立腺癌罹患の疑いがある場合は、最終的に生検によって採取した組織の病理診断によって確定診断していたが、患者に対する負担が大きいという問題も生じていた。さらに、これらの診断方法では、また組織の肥大を伴わない早期の癌を見逃す恐れがあることも指摘されていた。
このように、前立腺癌および前立腺肥大症患者には男性機能喪失等の身体にかかる負担の大きい治療を強いることになっており、負担の改善のためにも、できるだけ早期の発見が必務となっていた。しかしながら、従来の方法はいずれも前立腺組織がある程度大きくならないと確定診断を下すことは不可能であり、初期段階での診断は不可能であった。
発明者等は既に、初期段階の罹患を発見する診断方法、又は罹患リスクを診断方法として、HPC2/ELAC2遺伝子の遺伝子多型の同定により罹患リスクを診断する方法を報告しているが(特願2002−334941)、当該診断方法もまた、前立腺肥大症を陽性判定してしまい、前立腺癌を特異的に診断する方法としては十分ではなかった。したがって、集団検診等でも実施可能で、前立腺癌に特異性が高く、また早期発見に有用な診断法が求められていた。
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、前立腺癌患者に特異性が高く、前立腺肥大症患者には特異性の低いDNAのメチル化領域を見出した。また、該DNAのメチル化頻度を測定することで、発病前に前立腺癌の罹患リスクが診断できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、生体から分離した試料中の遺伝子における、配列番号1(以下、「MFPC3」と称することもある)、配列番号2(以下、MFPC68と称することもある)及び配列番号3(以下、MFPC138と称することもある)で示される塩基配列から選ばれる1又は2以上の塩基配列中のメチル化頻度又は当該メチル化頻度に相関関係がある指標値を測定することを特徴とする前立腺癌、そのリスク又はその初期罹患の判定方法を提供するものである。
また、本発明は、配列番号1、配列番号2及び配列番号3で示される塩基配列から選ばれる1又は2以上の塩基配列中のメチル化頻度を検討し得るプライマーを含有することを特徴とする前立腺癌、そのリスク又はその初期罹患の診断薬を提供するものである。
本発明の配列番号1〜3のメチル化は癌において見つかっておらず、そのメチル化状態は前立腺肥大症とは全く異なっていたことから前立腺癌特異的な遺伝子修飾である。したがって、本発明の配列番号1〜3のメチル化解析を用いることにより、既知の方法では診断できなかった、前立腺肥大症を含まない前立腺癌、その罹患リスク及びその初期罹患を簡便に診断することが出来る。
哺乳動物では、遺伝子(ゲノムDNA)を構成する4種類の塩基のうち、シトシンのみがメチル化されるという現象がある。そして、DNAのメチル化修飾は、5'-CG-3'で示される塩基配列(Cはシトシンを表し、Gはグアニンを表す。以下、当該塩基配列をCpGと記すこともある。)中のシトシンに限られる。シトシンにおいてメチル化される部位は、その5位である。細胞分裂に先立つDNA複製に際して、複製直後は鋳型鎖のCpG中のシトシンのみがメチル化された状態となるが、メチル基転移酵素の働きにより即座に新生鎖のCpG中のシトシンもメチル化される。従って、DNAのメチル化の状態は、DNA複製後も、新しい2組のDNAにそのまま引き継がれることになる。
本発明で用いた試料中の遺伝子における、配列番号1、配列番号2又は配列番号3で示される塩基配列中のメチル化頻度が高い場合、その遺伝子を有する対象者は前立腺癌患者発症リスクを有する患者又は初期罹患患者であると判定できる。当該メチル化頻度の高発現は、前立腺肥大症患者では認められない。
本発明の判定方法は、これらの塩基配列の内、一つ以上の5'-CG-3'で示される塩基配列中のシトシンのメチル化頻度を指標として行なうことができ、特にメチル化したシトシンが密集する領域(CpGアイランド)におけるシトシンのメチル化頻度を指標として行なうことが好ましい。このようなCpGアイランドは、配列番号1内の塩基番号3173〜3844、配列番号2内の塩基番号36768〜37234、配列番号3内の塩基番号109344〜109768で示される。
メチル化頻度は、調査対象となるCpG中のシトシンのメチル化の有無を複数のハプロイドについて調べたときの、当該シトシンがメチル化されているハプロイドの割合で表される。また、メチル化頻度に相関関係がある指標値とは、例えば、配列番号1〜3で示される塩基配列の遺伝子の発現産物の量、より具体的には、当該遺伝子の転写産物の量や、当該遺伝子の翻訳産物の量等を挙げることができる。このような発現産物の量の場合には、上記メチル化頻度が高くなればそれに伴い減少するような負の相関関係が存在する。
本発明で用いる試料としては、生体から分離した試料であって、DNAを含む試料であればよく、例えば、前立腺癌細胞等の癌細胞若しくはそれを含む組織、及び、前立腺癌細胞等の癌細胞由来のDNAが含まれる可能性のある、細胞、それを含む組織(ここでの組織とは、血液、血漿、血清、リンパ液等の体液、リンパ節等を含む広義の意味である。)若しくは体分泌物(尿や乳汁等)等の生体試料を挙げることができる。これらの生体試料はそのまま検体として用いてもよく、また、かかる生体試料から分離、分画、固定化等の種々の操作により調製されたDNA含有画分を試料として用いてもよい。試料が血液である場合には、定期健康診断や簡便な検査等での本発明判定方法の利用が期待できるが、この場合において偽判定率を低く抑えながら有効に利用するには55歳未満のヒト由来の血液であることが好ましい。
これらの試料から、例えば、市販のDNA抽出用キット等を用いてDNAを抽出する。因みに、血液を検体として用いる場合には、血液から通常の方法に準じて血漿又は血清を調製し、調製された血漿又は血清を検体としてその中に含まれる遊離DNA(前立腺癌細胞由来のDNAが含まれる)を分析すると、血球由来のDNAを避けて前立腺癌細胞由来のDNAを解析することができ、癌細胞、それを含む組織等を検出でき、感度を向上させることができる。次いで、抽出されたDNAを、非メチル化シトシンを修飾する試薬と接触させた後、配列番号1〜3で示される塩基配列のプロモーター領域又はコーディング領域の塩基配列中に存在する一つ以上のCpGで示される塩基配列中のシトシンを含むDNAを、解析対象とするシトシンのメチル化の有無を識別可能なプライマーを用いてポリメラーゼチェイン反応(以下、PCRと記す)で増幅し、得られる増幅産物の量を調べる。ここで、配列番号1〜3で示される塩基配列のプロモーター領域又はコーディング領域の塩基配列中に存在する一つ以上のCpGで示される塩基配列としては、例えば、配列番号1〜3で示される塩基配列のエクソン領域と、その5'上流に位置するプロモーター領域とが含まれるゲノムDNAの塩基配列を挙げることができ、特に、配列番号1内の塩基番号3173〜3844、配列番号2内の塩基番号36768〜37234、配列番号3内の塩基番号109344〜109768が挙げられる。これらのCpGが密に存在する領域中に存在するCpG中のシトシンは、癌細胞において高いメチル化頻度(即ち、高メチル化状態(hypermethylation))を示す。
非メチル化シトシンを修飾する試薬としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム等の重亜硫酸塩(bisulfite)等を用いることができる。
非メチル化シトシンを修飾する試薬に抽出されたDNAを接触させるには、例えば、まず当該DNAをアルカリ溶液(pH9〜14)中で亜硫酸水素ナトリウム等の重亜硫酸塩(bisulfite)(溶液中の濃度:例えば、終濃度3M)等で約10〜16時間程度、55℃で処理する。この場合、メチル化されていないシトシンはウラシルに変換され、一方、メチル化されているシトシンはウラシルに変換されず、シトシンのままである。次いで、重亜硫酸塩等で処理されたDNAを鋳型とし、かつ、メチル化されたシトシンが含まれる場合の塩基配列[メチル化される位置のシトシン(CpG中のシトシン)はシトシンのままであり、メチル化されていないシトシン(CpGに含まれないシトシン)はウラシルとなった塩基配列]とかかる塩基配列に対して相補的な塩基配列からそれぞれ選ばれる一対のメチル化特異的プライマーを用いるPCR(以下、メチル化特異的PCRとも記すこともある。)と、重亜硫酸塩等で処理されたDNAを鋳型とし、かつ、シトシンがメチル化されていない場合の塩基配列(全てのシトシンがウラシルとなった塩基配列)とかかる塩基配列に対して相補的な塩基配列からそれぞれ選ばれる一対の非メチル化特異的プライマーを用いるPCR(以下、非メチル化特異的PCRとも記すこともある。)とを行う。上記PCRにおいて、メチル化特異的プライマーを用いるPCRの場合(前者)には、解析対象とするシトシンがメチル化されているDNAが増幅され、一方、非メチル化特異的プライマーを用いるPCRの場合(後者)には、解析対象とするシトシンがメチル化されていないDNAが増幅される。これらの増幅産物の量を比較することにより、対象となるシトシンのメチル化の有無を調べる。このようにしてメチル化頻度を測定することができる。
ここで、メチル化特異的プライマーは、メチル化を受けていないシトシンがウラシルに変換され、かつ、メチル化を受けているシトシンはウラシルに変換されないことを考慮して、メチル化を受けているシトシンを含む塩基配列に特異的なPCRプライマー(メチル化特異的プライマー)を設計し、また、メチル化を受けていないシトシンを含む塩基配列に特異的なPCRプライマー(非メチル化特異的プライマー)を設計する。重亜硫酸塩処理により化学的に変換され相補的ではなくなったDNA鎖を基に設計することから、元来二本鎖であったDNAのそれぞれの鎖を基に、それぞれからメチル化特異的プライマーと非メチル化特異的プライマーとを作製することもできる。かかるプライマーは、メチル、非メチルの特異性を高めるために、プライマーの3'末端近傍にCpG中のシトシンを含むように設計することが好ましい。また、解析を容易にするために、プライマーの一方を標識してもよい。
かかるプライマーのうち、非メチル化特異的プライマーの例を表1に示す。
Figure 0004537050
メチル化特異的プライマーの例としては、後記表3記載のプライマーにおいて、YがC又はRがGである場合のプライマーが挙げられる。
メチル化特異的PCRにおける反応液としては、例えば、鋳型とするDNAを20ngと、30pmol/μlの各プライマー溶液を各1μlと、2mM dNTPを3μlと、10×緩衝液(100mM Tris-HCl pH8.3、500mM KCl、20mM MgCl2 )を3μlと、耐熱性DNAポリメラーゼ5U/μlを0.2μlとを混合し、これに滅菌超純水を加えて液量を30μlとした反応液をあげることができる。反応条件としては、例えば、前記のような反応液を、94℃にて10分間保温した後、94℃にて30秒間次いで55〜65℃にて60秒間さらに72℃にて45秒間を1サイクルとする保温を40サイクル行う条件があげられる。かかるPCRを行った後、得られた増幅産物の量を比較する。例えば、メチル化特異的プライマーを用いたPCRと非メチル化特異的プライマーを用いたPCRで得られた各々の増幅産物の量を比較することができる分析方法(変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動やアガロースゲル電気泳動)である場合には、電気泳動後のゲルをDNA染色して増幅産物のバンドを検出し、検出されたバンドの濃度を比較する。ここでDNA染色の代わりに予め標識されたプライマーを使用してその標識を指標としてバンドの濃度を比較することもできる。
このような方法は、一般にメチル化特異的PCRとも呼ばれ、Herman等(Herman et al.,Proc.Natl.Acad.Sci USA,93,9821-9826,1996)等により報告されている方法であって、シトシンと5-メチルシトシンとの化学的性質の違いを利用する方法である。
一方、異常、正常を問わず、まずPCRで増幅し、その後増幅された配列を制限酵素で切断し、電気泳動により得られるバンドが1本のままか、2本に分かれるかにより診断することもできる。メチル化シトシンがある場合は、2本に分かれる。この方法の場合には、非メチル化特異的プライマーとメチル化特異プライマー及び/又は表3のうちYがT、RがAのプライマーとを混ぜてPCRを行えばよい。全ての遺伝子を増幅した後、増幅物を制限酵素で切断して、バンドの位置を確認すればよい。
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1 DNAの調製
DNAの抽出源としては、血清や前立腺組織より剥離して尿中へ混在する前立腺細胞あるいは生検組織または外科適切除組織などが用いられる。即ち、採取した細胞または組織片にプロテイナーゼKを最終濃度500μg/ml、硫酸ドデシルナトリウム(SDS)を0.5%になるよう添加し、54℃で撹拌放置した。24時間ごとに同量のプロテイナーゼKを添加し、組織片が完全に消化され液の混濁がなくなるまで消化を行った。得られた消化液に等量のフェノールを加え撹拌の後、15,000rpmで5分間遠心処理した。遠心後、3層に分離した最上層を除去し、残りの消化液に等量のフェノール・クロロホルム(1:1)混合液を加え、同様の操作を行った。遠心後、同様に最上層を除去し、残りの消化液に等量のクロロホルムを加え同様の操作を行った。遠心後、同様に最上層を除去した後、残りの消化液に2.2倍量の100%エタノールと0.1倍量の3Mの酢酸ナトリウム(pH5.2)を加えた。混合液を穏やかに撹拌し、-20℃下で2時間以上放置した後、4℃、15,000rpmで20分間遠心処理をした。遠心後上清を廃棄し、残存エタノールを除去しながら風乾して、DNAを得た。
実施例2 メチル化されたCpG部位の同定
試験に用いるDNAは実施例1で調製したものを用い、DNA中のCpG部位をMCA/RDA(methylated CpG island amplification-representational difference analysis)法を用いて同定した。MCA‐RDA法は既報(Toyota M, et al. Cancer Res., 59. 2307(1999))に従って実施した。即ち、5μgのDNAを100 unitのSmaIと20 unitのXmaI(各制限酵素は共にNew England Biolabsより購入)の順番で消化した。処理後、メチル化DNA部位は突出末端(sticky end)となる。制限酵素処理されたDNA断片にRMCA アダプター(ユニバーサルなアダプター)をT4 DNA リガーゼ(New England Biolabs)を用いて結合させ、そのアダプターに対応するプライマーにてPCRを行った(PCR条件:3μLのRMCA アダプター結合物を100μLの反応液(10 mM Tris-HCl (pH8.3), 1.5 mM MgCl2, 50 mM KCl, 0.5 M ベタイン, 2% DMSO, 200 μM 各dNTP混合物, 100 pmol のRMCA , 24 mer プライマー,15 units の Taq ポリメラーゼ)中にてPCRを行った(PCRサイクル:72℃、5分の次に95℃、3分続いて95℃,1分。更に95℃、1分の次に77℃、3分を25サイクル実施し、最後に77℃,10分反応))。表2に、前立腺癌細胞株DU145由来のMCA増幅配列をRDA(表出される差異の解析)をテスターとして、独立した3症例の前立腺肥大症由来のMCA(メチル化CpGアイランド増幅物)全PCR産物(アンプリコンと呼ぶ)をRDAのドライバーとして使用した際のMCA-RDA解析の結果を示した。
Figure 0004537050
表2に記載のように、合計8クローンが単離・同定された。CpGアイランド(密集したCpG部位)の確定判定の基準(長さ,>200bp;GC含量,>50%;CpGスコア;>0.6,Gradiner GM, and Frommer M. J. Mol. Biol., 196,261-282(1987))に基づき、単離されたCpG部位のうち、MFPC3、Flamingo1、MFPC68、MFPC138における領域をCpGアイランドと同定した。これらのMCAアンプリコンを用いて、JMCA、NMCA、JMCAアダプターの順番で更に3回、RDAを実施した。増幅されたRDA産物はpBluescriptIIプラスミドベクター(Stratagene)へクローン化した。クローン化されたDNA断片は常法にて配列決定し、BLASTデータベースを用いて、ゲノム上の位置を同定した(図1)。図1には、表2で同定されたMFPC3、MFPC68、MFPC138のCpG配列を縦棒で、MCA-RDA解析にて単離された領域と、以降の解析で配列解析した領域を矢印で示した。
実施例3 同定されたCpGアイランドの前立腺組織におけるDNAメチル化状態の解析(1:ビスルファイト シークエンス法)
一本鎖DNAを重亜硫酸(亜硫酸水素ナトリウム, bisulfite)処理すると、スルホン化・加水脱アミノ化反応が起こる。引き続き、脱スルホン化すると、シトシンはウラシルに変換される。一方、メチル化シトシンでは、スルホン化の反応速度が非常に遅いため、ウラシルは変換されずにメチル化シトシンのままであるが、非メチル化シトシンはチミンに置換される(Frommer M, et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 891827-1831, (1992). Clark SJ, et al. Nucleic Acids Res., 22, 2990 (1994))。この配列の違い(CとT)を利用してメチル化状態が解析でき、この方法をビスルファイト処理法と呼ぶ。ビスルファイト処理を利用した、より具体的な実験法にはビスルファイト シークエンス法(Clark SJ, et al. Nucleic Acids Res., 22, 2990 (1994))やcombined bisulfite restriction analysis(COBRA)法(Xiong Z & Laird PW. COBRA: A sensitive and quantitative DNA methylation assay.Nucleic Acids Res., 25, 2532 (1997))を初めてとして複数の実験法があり、解析目的に適応した実験法の選択が可能である。
ビスルファイト処理は以下の様に行う。即ち、2μgの染色体DNAを0.3 M NaOH中にて37℃、15分間変性させる。続いて、亜硫酸水素ナトリウムを終濃度3.1M、ヒドロキノンを終濃度0.5mMを加える。55℃にて16時間反応させる。反応液はWizard DNA purification (Promega,Medison, Wisconsin)を用いて脱塩する。ビスルファイト処理は0.3 M NaOH中にて37℃、15分間反応で完了する。修飾されたDNAはエタノール沈殿とそれに続く70%エタノールにての洗浄の後、乾燥させ、最後に50μLの蒸留水に溶解させる。
Figure 0004537050
表3にはMFPC3、Flamingo1、MFPC68、MFPC138のメチル化状態をビスルファイト シークエンス法にて解析した際の実験条件を示した。即ち、3種類の前立腺癌細胞株(LNCaP、DU145、PC-3)由来でビスルファイト処理されたDNAの2μLと、表2にて使用した3種類の独立した前立腺肥大症組織由来でビスルファイト処理されたDNAの2μLを、表3に示した条件にてPCR増幅した。PCR産物はTOPO TA クレーニング ベクター(Invitrogen, San Diego, California)にサブクローン化し、各産物につき10クローンをBig Dye terminator 法にて配列決定した。各CpG部位におけるメチル化の平均レベルは5段階に類別された:0-19%, 20-39%, 40-59%, 60-79%, 80-100%(図2及び図3(図3は図2のつづき))。
図2及び図3より、MFPC3には2箇所のCpGアイランドが同定され、総計5箇所のCpGアイランドを解析した。MFPC3は両CpGアイランドともに、全ての前立腺癌細胞株において高メチル化されており、前立腺肥大症組織では低メチル化されていた。MFPC68は全ての前立腺癌細胞株においてメチル化されており、前立腺肥大症組織ではメチル化されていなかった。MFPC138はDU145細胞株でのみメチル化されており、他の前立腺癌細胞株と前立腺肥大症組織ではメチル化されていなかった。Flamingo1は全ての前立腺癌細胞株と全ての前立腺肥大症組織においてメチル化されていた。MFPC3、MFPC68、MFPC138は癌組織特異的にメチル化されていると考えられた。Flamingo1は前立腺癌のみならず前立腺疾患でメチル化される可能性がある。以降、MFPC3、MFPC68、MFPC138を癌特異的なDNA修飾の対象領域とした。
実施例4 同定されたCpGアイランドの前立腺癌組織におけるDNAメチル化状態の解析(2:COBRA法)
前立腺癌組織におけるMFPC3、MFPC68、MFPC138のメチル化状態の解析を、より簡便にDNAメチル化を検出できるCOBRA法を用いて解析した。また、同領域のメチル化状態を前立腺癌細胞株、前立腺肥大症組織と比較した。即ち、ビスルファイト シークエンス法と同じプライマーとPCR条件を用いてビスルファイト処理したDNAをPCR増幅した。PCR産物は以下の制限酵素(New England Biolabs.)と反応条件で消化した:MFPC3とMFPC68はTaqIにて65℃、4時間、MFPC138はRsaIにて37℃、4時間。消化されたDNA断片を4%アガロースゲル(Seakem GTG agarose gels. BMA, Rockland, ME)にて電気泳動の後、エチジウムブロマイド染色した。DNA断片の消化が検出された場合、DNAはメチル化されていたと判定できる(図4)。図4から、DNAメチル化の有無を簡便に可視化でき、また擬陽性なしに容易かつ明確に判定できることがわかった。
図4の結果を表4にまとめた。その結果、MFPC3、MFPC68、MFPC138は、癌組織で特異的にメチル化修飾されていた。前立腺肥大症組織においては、MFPC68とMFPC138ではメチル化は検出されず、MFPC3は1例でのみメチル化が検出された。前立腺癌細胞株においては、MFPC3とMFPC68は全てにおいてメチル化が検出され、MFPC138ではメチル化は1細胞株で検出された。3領域の組み合わせによる検出がより感度を高めることが示された。
Figure 0004537050
実施例5 メチル化により発現していないMFPC3遺伝子の脱メチル化処理による再発現の確認
MFPC3遺伝子のサイレンシング(不活化、非発現)が、遺伝子の上流領域のメチル化に依存しているのか否かを、MFPC3遺伝子を発現していない前立腺癌細胞株に対する脱メチル化処理によって検討した。即ち、脱メチル化処理によるMFPC3遺伝子の発現回復を確認した。前立腺癌細胞株(LNCaP、DU145、PC-3)を5-アザ-2'-デオキシシチジン (Sigma Chemical Co., St. Louis, Missouri)単独あるいはトリコスタチン A (Sigma Chemical Co.)併用処理した。Total RNAをイソジェン(Nippon Gene, Tokyo, Japan)にて抽出した。Superscript Reverse transcriptase (GIBCO BRL, Gaithersburg, Maryland)を用いて、1μgのtotal RNAからcDNAを調製した。RT-PCRにてMFPC3遺伝子を増幅した。対照はGAPDH遺伝子とし、PCR条件は以下を用いた:forward primer; AGT CCA GAC ACT CAG GAT TTG TAC, reverse primer, CTC CGT GTG ATT GGT AAC ATG. 増幅条件;95℃30秒、64℃30秒、72℃1分間を30サイクル。PCR産物を2.0%アガロースゲルにて電気泳動しエチジウムブロマイド染色して増幅の有無を確認した(図5)。その結果、脱メチル化処理によって、LNCaP、DU145、におけるMFPC3遺伝子の再発現が確認され、またその程度は5-アザ-2'-デオキシシチジン濃度の上昇に依存して増強した。PC-3におけるMFPC3遺伝子の発現程度は脱メチル化処理により変化しなかった。
RDA産物上のCpGアイランドの地図を示す図である。 ビスルファイト シークエンスの結果を示す図である。 ビスルファイト シークエンスの結果を示す図である(図2のつづき)。 COBRA法の解析結果(アガロースゲル電気泳動像)を示す図である。 MFPC3遺伝子の脱メチル化処理による再発現の確認結果を示す図である。

Claims (4)

  1. 生体から分離した試料中の遺伝子における、配列番号1、配列番号2及び配列番号3で示される塩基配列から選ばれる2以上の塩基配列中のメチル化したシトシンが密集する領域(CpGアイランド)中のシトシンのメチル化頻度を測定し、該メチル化頻度が前立腺肥大症のメチル化頻度に比べて高い場合を前立腺癌、そのリスク又はその初期罹患があると判定する前立腺癌、そのリスク又はその初期罹患の判定方法であって、前記配列番号1のCpGアイランドがアクセッションNo.AF410902領域の塩基番号3173〜3844の領域であり、配列番号2のCpGアイランドがアクセッションNo.AC092315領域の塩基番号36768〜37234の領域であり、配列番号3のCpGアイランドがアクセッションNo.AP003479領域の塩基番号109344〜109768の領域であることを特徴とする判定方法。
  2. メチル化頻度の測定が、配列番号1、配列番号2及び配列番号3で示される全ての塩基配列中のメチル化したシトシンが密集する領域(CpGアイランド)中のシトシンのメチル化頻度を測定するものである請求項1記載の判定方法。
  3. 配列番号1、配列番号2及び配列番号3で示される塩基配列から選ばれる2以上の塩基配列中のメチル化したシトシンが密集する領域(CpGアイランド)中のシトシンのメチル化頻度を検出し得るプライマーを含有することを特徴とする前立腺癌、そのリスク又はその初期罹患の診断薬であって、前記配列番号1のCpGアイランドがアクセッションNo.AF410902領域の塩基番号3173〜3844の領域であり、配列番号2のCpGアイランドがアクセッションNo.AC092315領域の塩基番号36768〜37234の領域であり、配列番号3のCpGアイランドがアクセッションNo.AP003479領域の塩基番号109344〜109768の領域であることを特徴とする診断薬。
  4. プライマーが、配列番号1、配列番号2及び配列番号3で示される全ての塩基配列中のメチル化したシトシンが密集する領域(CpGアイランド)中のシトシンのメチル化頻度を検出し得るプライマーである請求項3記載の診断薬。
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